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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W0918
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W0918
管理番号 1366220 
審判番号 無効2017-890070 
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-10-05 
確定日 2020-05-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5862077号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5862077号商標(以下「本件商標」という。)は,「BONAVENTURA」の欧文字を標準文字で表してなり,平成27年11月16日登録出願,第9類「スマートフォン用のケース又はカバー,ノートブック型コンピュータ専用ケース,携帯電話用ストラップ,電気通信機械器具,充電器」及び第18類「かばん類,袋物,財布,名刺入れ,キーケース,ハンドバッグ」を指定商品として,同28年3月8日に登録査定,同年7月1日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第70号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)無効事由
本件商標は,商標法第4条第1項第7号及び同項19号に該当し,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきである。
(2)事件の経緯
ア 人的関係
(ア)請求人は,韓国の企業であるTHESOM社の代表であり,ブランド「BONAVENTURA」及び「SLG DESIGN」の生みの親である。
(イ)株式会社アンワインド(以下「アンワインド社」という。)は,ブランド「BONAVENTURA」の日本での販売会社であり,請求人への事前相談なく本件商標を出願し登録した。代表取締役はU氏(以下「U氏」という。)である。
(ウ)請求人は,株式会社セントリックス(以下「セントリックス社」という。)の代表者であるH氏(以下「H氏」という。)からアンワインド社のU氏を紹介された。
(エ)被請求人は,アンワインド社のグループ会社であり,本件審判の請求時における本件商標の権利者である。共同経営者の一人は,U氏である。
イ 経緯
(ア)本件商標は,アンワインド社が,平成27年11月16日に出願したものである。しかしながら,請求人は,その前に,韓国において,同年5月27日に商標登録出願を行い,同28年1月14日に登録された。本件商標は,請求人の韓国での登録商標とほぼ同じマークである(甲1)。請求人は,革製品を製造している。
(イ)2013年(平成25年)10月に,請求人は,香港の展示会で,セントリックス社のH氏に会った。その後,請求人は,H氏と継続的なコミュニケーションを行った。
(ウ)2014年(平成26年)2月に,請求人は,H氏と,同人から紹介されたアンワインド社のU氏と一緒に第77回「東京GIFTSHOW」に参加した(甲2,甲3)。同年3月に,アンワインド社が韓国を訪問し,請求人と2回の会議を行ったが,アンワインド社から無理な製品のデザイン変更やパッケージ変更を求められたため,請求人は,それらの変更を断ることに決めた。また,アンワインド社から,請求人が代表を務めるTHESOM社のブランド「BONAVENTURA」の日本での総代理店の提案がなされた。同年3月17日に,アンワインド社が,正式に請求人に製品を発注し,取引を開始した(甲4)。
(エ)2015年(平成27年)1月23日に,請求人は,アンワインド社が請求人に事前の相談なく意匠登録出願(審決注:「商標登録出願」の誤りと思われる。以下同じ。)したことを知り,強い懸念をアンワインド社に伝えた(甲5)。請求人は,同年2月に,アンワインド社と一緒に第79回「東京GIFTSHOW」に参加した(甲5,甲6)。同年5月27日に,請求人は,韓国において,商標「BONAVENTURA」(以下「請求人韓国国内商標」という。)の登録出願を行った。上記意匠登録にかかる強い懸念にもかかわらず,同年11月16日に,アンワインド社は,日本において,請求人に事前の相談もなく商標登録出願を行った。
(オ)2016年(平成28年)1月14日に,請求人韓国国内商標は,韓国で登録になった。同年7月,請求人は,アンワインド社が本件商標を出願した事実を認知し,アンワインド社に,当該事実について確認したところ,アンワインド社は,ブランド保護のために登録出願したと回答した。同年7月1日に,本件商標は,アンワインド社の名義で日本において登録された。同年10月に,請求人は日本に訪問し,本件商標の譲渡交渉に臨んだが,同年10月3日に,アンワインド社は,ブランド「BONAVENTURA」の使用を継続すること,請求人に対して日本国内の他社には,直接の販売をしないこと,そして,ブランド価値に相当する価値として3.6億円の支払いを要求した(甲7)。
(カ)2017年(平成29年)2月に,請求人は,日本に訪問し,本件商標の譲渡交渉に再度臨んだところ,アンワインド社から,譲渡意思があることを確認した。同年3月27日にアンワインド社に,本件商標の譲渡について相談したところ,売上を上げたことは,アンワインド社の功績と主張し,本件商標の譲渡を拒否した(甲8)。同年3月30日に,請求人は,アンワインド社との総販売店契約を結んだ(甲9)。同年3月31日に,アンワインド社は,本件商標の譲渡は,日本の商法の存在により不可能であると回答しつつも,本件商標を譲渡すると,顧客の信頼を失うため,譲渡の条件として,300万ドルを要求した(甲10)。同年4月19日及び20日に,アンワインド社と請求人とで本件商標の譲渡交渉に臨んだところ,アンワインド社は,代理店としての資格を失うことを懸念しているため商標登録出願したことを認めたが,本件商標を譲渡もしないが請求人との取引を続けていくことを希望した(甲11)。同月27日に,請求人は,ブランド「BONAVENTURA」の全ての製品のアンワインド社ヘの納品を中止した。同年5月に,アンワインド社が,第三者を介して「BONAVENTURA」の製品を製造する旨とともに,ブランドを保護する法的措置の経験が豊富であることを主張し,法的措置をとる可能性を暗に示した(甲12)。同月25日に,アンワインド社は,「BONAVENTURA」製品の生産委託を終了する通知を請求人に行った(甲13)。同年9月8日に,本件商標がアンワインド社から被請求人に移転登録された。
(3)商標法第4条第1項第7号について
アンワインド社は,2014年(平成26年)3月から,請求人の製品を発注し,日本での代理店として日本国内で販売を続けており,日本総代理店として販売する意思も表していた(甲5)。アンワインド社は,2017年(平成29年)4月まで,3年以上に渡って請求人との取引を続け,同年5月に生産委託を終了する通知をした(甲13)。
一方,請求人は,アンワインド社に,ブランド「BONAVENTURA」の由来等を教えながら(甲14),日本での展示会に参加する費用等を支援するなどして(甲5,甲6,甲15),アンワインド社の日本でのマーケティングをサポートしていた。
請求人は,2013年(平成25年)8月27日に中国深センの展示会から東京,シンガポール,ドバイ等の展示会,シンガポールでの販売,2015年(平成27年)11月までのカタールの販売(甲16?甲31)等の活躍をしながら,世界各国で知名度を広げてきた。
アンワインド社は,請求人に事前に相談することなく請求人の製品について意匠登録出願を行っており,そのことについて,請求人は,強い懸念をアンワインド社に伝えている。しかしながら,2015年(平成27年)11月16日に,請求人に事前の相談もなく,本件商標にかかる商標登録出願が行われた。請求人は,アンワインド社との本件商標の譲渡交渉に臨んだが,アンワインド社は,ブランド保護のため,そして,代理店としての資格を失うことを懸念しているとの理由で,本件商標の譲渡を拒否し(甲11),300万ドル(日本円で約3.6億円)の譲渡金を要求した(甲7)。また,請求人が,正規の代理店契約をする条件を提案しても,本件商標の譲渡を拒否していた。
上述のとおり,請求人は,世界各国で知名度を広げる努力を進めており,この点について,アンワインド社も,「『BONAVENTURA』ブランドは,請求人の商品力に依るところが大変大きい」ことを認めている(甲7)。にもかかわらず,アンワインド社は,ブランド価値の算定の根拠を具体的に示さず,請求人の商品力及び知名度向上活動を考慮せず,単に自社の「昨年度の販売金額及び利益」から3.6億円の譲渡金を要求しており(甲7),さらには法的措置を暗に伝えている(甲12)。
代理店がメーカーから製品の提供が打ち切られる懸念をいい訳として,メーカーに事前に相談することなく,商標登録出願をすることは,信義則に反する行為であり,このような商標が登録になり得るのであれば,代理店の対応次第でメーカーのブランドの使用に支障を来すなど重大な営業上の不利益を受けるおそれが生じることになる。もし、代理店としての資格を失うことを懸念しているのであれば,代理店は,メーカーと正規な代理店・販売店契約を締結すればよく,事実,請求人は,アンワインド社とそのような契約を結ぶ意思も表し,そして,実際に,請求人は,アンワインド社と総販売店契約を行った(甲9)。
すなわち,アンワインド社は,総販売店契約を結んだ時点で,契約違反とならない限り上記資格を失うことはなく,上記懸念が払拭されたことは明白であった。
請求人とアンワインド社との間の総販売店契約(甲9)をもって,アンワインド社は,「BONAVENTURA」ブランドを用いた営業活動に支障を来す懸念は払拭されたといえ,これまでの請求人とアンワインド社との2014年(平成26年)から2017年(平成29年)までの取引の実績(甲33?甲36)に基づけば,本件商標が請求人に譲渡されたとしても問題なく請求人との取引を継続できることは明白であったといえる。それにも関わらず,「『BONAVENTURA』の商標を売って,お金がほしいわけではありません」と主張しつつも(甲8),請求人との信頼関係を毀損してでも不合理な算定による高額な金銭を条件として提示しつづけた(甲10)ことからすれば,アンワインド社による本件商標にかかる登録出願は,「BONAVENTURA」ブランドの剽窃目的での出願であったことは明白であり,仮にそうでないとすれば,不合理な算定による高額な譲渡金の要求から考えて,金銭を目的とした商標登録であったといえる。
以上より,アンワインド社による本件商標にかかる登録出願は,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為であり,公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当であって,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的に反するものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号について
ア 請求人韓国国内商標
請求人は,韓国において,上段に「BONAVENTURA」,下段に「milano」の文字からなる請求人韓国国内商標の権利者である。
イ 請求人韓国国内商標の同一又は類似性
本件商標は,請求人韓国国内商標に係る商品若しくは役務と同一又は類似の商品について使用するものである。
ウ 請求人韓国国内商標の周知性
請求人は,日本を含む諸外国での展示会への参加,シンガポールのデパートでの販売,日本KDDIへ製品納品(甲2,甲3,甲6,甲15?甲32)等をしながら,韓国,日本を始めとした世界各国で販売しており,請求人のホームページ(https://bonaventura.co.kr/)などによる宣伝広告活動によって,韓国及び他の国において知名度を広げており,消費者に広く知られているブランドである。
不正の目的
アンワインド社は,請求人の日本代理店として製品を販売していたものの,請求人への事前の相談もなく本件商標に係る登録出願をした。アンワインド社は,ブランドを保護するため,そして,請求人が製品を納品しなくなることを懸念して本件商標にかかる登録出願を行ったと主張するも,総販売店契約を結んだ時点で,アンワインド社の懸念は払拭されたとものといえる。しかしながら,その後の譲渡交渉において,高額な譲渡金を要求し続け,法的措置をとる可能性を暗に示した。
上記の事情により,本件商標は,商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」をもって,登録出願したものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 答弁に対する弁駁
(1)「アンワインド社と請求人との接触」について
ア 請求人及びTHESON社が米国ラスベガスの国際的イベントCESに参加したのは,2014年(平成26年)1月であり,2013年(平成25年)1月時点では,H氏及びU氏と知り合う前である。したがって,アンワインド社の主張は,事実とは全く異なる。請求人は,2013年(平成25年)10月の香港の展示会でH氏と知り合いとなった。2014年(平成26年)1月の米国ラスベガスでのCESにおいて,THESOM社としての展示会の目的は,THESOM自社のマーケティングと自社ブランドの販売代理店を探すことにあり,THESOM社ブースの訪問するすべての会社に製品紹介をしたものであり,特に,H氏及びU氏を特別な対象と考えて営業していたと理解しているのは,アンワインド社側の錯覚であるので,アンワインド社の主張は,事実と異なる根拠のない主張である。
イ H氏は,THESOM社に対して電子メールで,日本でのTHESOM社の商品のプロモーションを行う目的で商品価格リストの送付を要求したり(甲37),THESOM社にSLGブースの訪問を尋ねるメールを送ったり(甲38)していることから,THESOM社との取引を積極的に提案したのは,THESOM社ではなく,H氏であることが明らかであり,アンワインド社が主張している「SLG Design」の商品を取り扱う意向が全くなかったとの主張は事実と異なる。商品を取り扱う意向がなければ,THESOM社のブースを積極的に訪問する等のことは,通常考えられないので,被請求人の主張は矛盾する。また,2014年(平成26年)1月時点で,THESOM社としては,THESOM社の自社ブランドを展開する段階であって,自社ブランドのマーケティングや代理店誘致のために費用や労力をかけて海外の展示会に参加し,OEM製造をする必要がなかったため,セントリックス社の提案をお断りした。
ウ THESOM社は,香港グロバールソーシングフェアにおいて,名刺交換を行った来訪者に会社のプロファイルを添付して感謝メールを送った(甲39)が,H氏は,日本でTHESOM社の商品をマーケティングすることを提案しながら価格リストを要請し(甲37),韓国訪問を提案したものである。さらに,韓国の訪問において,THESOM社の商品を確認して日本に帰国した後に,H氏は,商品を高く評価し,取引の意思を強く示した(甲40)。
(2)「THESOM社の事業活動及びアンワインド社のその後のやりとり」について
ア アンワインド社は,U氏が,2014年(平成26年)1月に,米国ラスベガスにおける国際的イベントCESに赴いた際に,請求人から,THESOM社の「SLG Design」ブランド製品の日本の代理販売店となることを提案していたと主張しているが,展示会の目的は,THESOM自社のマーケティングと自社ブランドの販売代理店を探すことにあり,THESOM社ブースを訪問するすべての会社に製品紹介をしたものであり,特に,アンワインド社を特別な対象としていると理解しているのは,アンワインド社の錯覚である。
イ 請求人から訪問の誘いを行ったのではなく,セントリックス社のH氏がTHESOM社への訪問を求めて2014年(平成26年)2月14日の会議が実現した。この会議において,セントリックス社のH氏から失礼な発言があり,THESOM社は,総合的に考えてセントリックス社がTHESOM社の日本代理販売店として条件が合わないと判断し,セントリックス社との取引を拒否したので,会議は決裂した(甲43)。
(3)「2014年(平成26年)2月23日の打ち合わせ及びその後の電話での打ち合わせ」について
ア 答弁書で述べられている「2014年2月14日の会議」の後から「2014年2月19日付けのメール」までの出来事を補足する。
韓国での会議が決裂した後,THESOM社は,H氏及びU氏とのコミュニケーションに問題があると思い,H氏及びU氏にメールを送った(甲43)。それに対して,U氏は,H氏が失礼な発言をしたことに謝り,アンワインド社としては,THESOM社と取引をしたい旨を示し,発注の意思を示した(甲44)。その後の2月18日に,具体的な発注の意思として,U氏が,THESOM社のN氏に,THESOM社の商品をアマゾンやLOFT及び東急ハンズヘ納品したいと提案したが(甲45),THESOM社はアンワインド社ではなく他社との取引を決定したため,アンワインド社のマーケティング活動を中止する意思を伝達するとともに,セントリックス社が関与しない前提で,アンワインド社がデザインした商品をアンワインド社のブランドとして新しく作るか,THESOM社が新しいブランドを作ってアンワインド社に提供する提案をした(甲46)。この提案をU氏は快諾をし,具体的な商品提案の打ち合わせを求めてきた(甲47)。
イ 「U氏は,THESOM社と取引することに気がすすまなかった」か否かについて
アンワインド社は,2014年(平成26年)2月19日付けのメール(甲46)でのTHESOM社の提案について「U氏は,THESOM社と取引することに気がすすまなかった」ため,「これに対しては,お断りの連絡をいれていた」と主張しているが,アンワインド社の主張は,上記補足から明らかなとおり,事実と矛盾する主張である。即ち,「もしアンワインドでOEMか新しいオリジナル商品を単独取引していただけるならすごく嬉しいです。(セントリックスは通しません)」及び「出来たら,具体的な商品提案の打ち合わせをさせてください」との内容から,アンワインド社は,THESOM社との取引について気が進まないどころか,むしろ前向きであったといえる。また,当然のことであるが,THESOM社は,「断りの連絡」を受け取っていない。
ウ アンワインド社がブランド「BONAVENTURA」の日本総代理店であることをU氏は認識していた。
アンワインド社は,「BONAVENTURA」がアンワインド社のオリジナルブランドであることの経緯を述べて,その正当性を主張している。
2014年(平成26年)2月24日のU氏がTHESOM社のN氏に送ったメールを見ると,U氏は,N氏に「D6,D7のダイアリーケース,BONAVENTURAの商品は,Rさんがやらないということで,アンワインド社でパッケージなど変えて販売させて頂けるという認識で良かったでしょうか?」と,R社が販売することを弊戒しながら,「BONAVENTURA」商品の販売可能性を確認した(甲48)。仮に,被請求人が主張するように,「BONAVENTURA」がアンワインド社のオリジナルブランドであるという認識であれば,このように質問をすることは通常考えられない。さらに,2015年(平成27年)1月23日のメールにおいて,U氏は,「BONAVENTURAの日本総代理店として弊社1社で販売するということを前提にお手伝いをさせていただきたいです」と代理店としての地位を自認し(甲49),THESOM社の製品を取り扱いたいとの意思を強く示し,OEM生産の注文に関することについては一切言及されていない(甲50)ことから,アンワインド社のオリジナルブランドを提案されたとのアンワインド社の主張は,事実と矛盾する。
(4)「BONAVENTURA」がサンプル品に試作段階として使用していたとの主張について
アンワインド社は,2014年(平成26年)2月の電話打ち合わせ後で,N氏から,サンプル品に試作段階として使用していた「BONAVENTURA」を,アンワインド社のオリジナルブランドとすることができる等の提案を受けたと主張していが,2014年(平成26年)1月に,THESOM社は,米国ラスベガスのCES展示会で,「BONAVENTURA」として携帯電話のケース等を宣伝していたことから,「BONAVENTURA」は,試作段階ではなく,すでに完成していた(甲20,甲21)。
(5)2014年(平成26年)2月の打ち合わせ後と本件商標の出願について
ア アンワインド社は,電話の打ち合わせで,「BONAVENTURA」の商標登録出願について,「U氏のオリジナルブランドだからアンワインド社で商標登録すればよい」との回答があったと主張しているが,この主張には,証拠の添付がないため,いつ,どこで商標登録出願の了承を得たのか確認することができず,根拠のない主張であるといわざるを得ない。
イ アンワインド社は,2014年(平成26年)3月13日,U氏からTHESOM社のN氏に,「BONAVENTURA」の商標登録出願に関して連絡をし,N氏から,「商標の件了解しました。取れましたらご連絡いただきたいです。」と,アンワインド社名義で「BONAVENTURA」の商標登録出願をしてもよいとの回答があったと主張しているが,THESOM社がアンワインド社の名義での商標登録出願を同意した証拠はどこにもない。したがって,アンワインド社が主張している商標登録出願がTHESOM社からの了承を得た出願であるとの主張は,その根拠を見つけることができない。また,電子メールで商標登録出願を確認したとの主張をしているものの,請求人はこの電子メールを見つけることができなかった。ここで,2014年(平成26年)2月24日ないし同年3月21日までのメール記録を添付する(甲51)が,アンワインド社ヘN氏から送付されたメールには,緑文字である「international Sales & Marketing Department」の下に正方形の「会社のロゴ画像」(ただし,リンクエラーとなっている)が表示されているが,被請求人から提出された証拠資料である乙第13号証だけには,リンクエラーの表示も含めてその正方形の画像表示を見つけることができず,メールの解像度も他の証拠資料に比べて異常に低く,その証拠力は非常に低いものといわざるを得ない。
なお,請求人は,被請求人が提出した乙第13号証の電子メールを見つけることができなかった。
仮に,そのメールが存在するとしても,乙第13号証には,U氏がN氏に商標登録出願の件について連絡しているものの,商標登録出願人を,アンワインド社又はU氏にするとのことについては,言及していない。THESOM社の職員であるN氏としては,商標登録出願人は,当然THESOM社にすることであると思い,「商標出願の件,了解しました」との回答をしたものである。これは,アンワインド社の名義で商標登録出願を認めたとのことではなく,THESOM社の名義での商標登録出願をすることに対する承諾である。乙第13号証には,アンワインド社を名義人にしてもよいとの証拠はどこにも書かれていない。
さらに,被請求人が提出した乙第13号証には,U氏がTHESOM社のN氏に商標登録出願をするとのメールを送った時間が,2014年(平成26年)3月13日の午前11時07分になっており,N氏がU氏に返信した時間が同月14日の午前10時53分になっているが,同月11日に,N氏が,U氏にサンプル発送の連絡をし(甲52),同月14日には,「BONAVENTURA」の名前の由来について説明をする連絡をしていた(甲53)ことから,アンワインド社が主張している商標の話が突然話題になることも,極めて不自然である。
ウ アンワインド社が,2014年(平成26年)7月25日に本件商標の手続きを行おうとしたが,特許庁の窓口での受付時間に間に合わなかったため,出願をすることができなかったと主張し,その証拠として乙第14号証を提出しているものの,通常,4年前に出願に失敗した書類を今まで残すことは考えられない。
エ 乙第14号証の商標登録願には,「提出日」が「平成26年7月25日」と記載されており,また,「識別番号」として「514297604」が記載されているものの,特許庁の出願課,申請人等登録担当に電話で確認したところ,識別番号「514297604」は,2014年(平成26年)11月に付与された旨の回答を得た。したがって,乙第14号証の商標登録願の提出の段階では識別番号「514297604」が「株式会社アンワインド」に付与されているはずはなく,乙第14号証が捏造されたものである蓋然性が極めて高いといえる。
オ アンワインド社は,2015年(平成27年)2月20日に,改めて商標出願をしたと主張しているが,アンワインド社は,2015年(平成27年)1月23日に,THESOM社のK氏に,突然「BONAVENTURAの日本の意匠登録も弊社でしております。」(ここでの「意匠」は,「商標」の誤記)との連絡をした。この事後報告的な行為に対し,同日,THESOM社のK氏は,「最後は意匠登録(ここでの,「意匠」は,「商標」の誤記)の件ですが,それは無理があると思います。もしボナは貴社のブランドで弊社がOEM生産する場合当然問題がならないと思いますが,ボナは弊社の一つのラインとして貴社が日本総代理店なので,貴社の名前で登録されるのは不自然だと思います。それは弊社ではなくても他の取引会社でも認められないと思います。U様のご心配は十分承知いたしますが,この件はもう一度慎重的にご検討いただけませんでしょうか?」とアンワインド社による商標登録出願を明確に断った(甲54)。
以上から,アンワインド社が,「BONAVENTURA」商標出願は,THESOM社の事前了承を得たとの主張は,根拠のない主張である。
(5)アンワインド社による「BONAVENTURA」ブランド事業の展開について
アンワインド社は,顧客からのクレームに対して自社の費用負担で無償の商品交換をする等を行ったと主張しているものの,この主張は,事実と全く異なる。実際に,不良商品が発生したら,アンワインド社から連絡を受け,不良商品の交換は,THESOM社がアンワインド社に交換商品を送り,無料で対応したものである(甲55,甲56)。したがって,アンワインド社の主張は,根拠のない主張である。
また,アンワインド社は,多大な営業努力のもとにおいて,高い売り上げをあげるに至り,本件商標に化体した信用,その生み出す収益は極めて高いものとなるに至ったものと,主張しているが,代理店としての通常の業務範囲であり,かかる貢献にはTHESOM社も多大な労力を払っており,アンワインド社のみの成果でないことはいうまでもない。
(6)請求人からの本件商標の引き渡し要請について
ア 被請求人は,請求人が,2016年(平成28年)6月23日に,登録商標を引き渡すよう求めてきたと主張しているものの,請求人は,2015年(平成27年)1月23日に,U氏の商標登録出願について明確に拒否する(甲54)など,継続してアンワインド社に対して,代理店であるアンワインド社がその名義で商標登録出願をするべきでない旨を伝え,登録後には商標権を返還するように伝えた。
イ アンワインド社が商標権の譲渡に応じる理由がないことから,請求人からの要請を明確に拒否し続けたと主張しているものの,この主張は,事実と異なる。U氏は,自分で判断できないとし(甲57),商標権の譲渡を明確に拒否せず時間を遅延させる一方,THESOM社の取引関係を維持しながら,THESOM社以外の新しい取引先工場を探していた。
(7)「Letter of Authorzation」について
アンワインド社は,U氏が,商品の出荷を優先せざる得ないことから,甲第9号証の「Letter of Authorzation」にサインをしたと主張しているものの,THESOM社は,商標権譲渡の問題で論争が継続されている間にも,「BONAVENTURA」のブランド信用を優先にし,誠実に商品を出荷し,商品の出荷を中止するようなことはしなかった(甲58)。
(8)アンワインド社と請求人と交渉と取引関係の終了について
ア アンワインド社が,代理店としての資格を失うことを懸念しているため商標権を戻さないとのことを否認しているが,甲第11号証には,U氏が,アンワインド社が代理店としての資格を失うことを懸念して商標権を戻さないとの発言をしていることが記録されているので,アンワインド社の主張は,依然として事実と矛盾する。
イ アンワインド社としては商標権を譲渡する意向は全くないと主張しているものの,甲第11号証には,U氏が,アンワインド社を日本総代理店としての契約を結ぶ前提で商標権を譲渡すると発言していることから,アンワインド社の主張は,U氏と発言と矛盾する。
ウ アンワインド社は,U氏が話し合いを早く終わらせたい一心で,商標譲渡に応じる可能性がある旨を述べたと主張しているが,甲第11号証には,アンワインド社は,請求人のものであると承認し,請求人が作った「BONAVENTURA」を元に戻したいとの気持ちが分かって商標を戻したい意向があると述べていた。
(9)「BONAVENTURA」の誕生
イタリアントゴ革のアイフォーンのケースは,2013年(平成25年)3月13日のCEBIT展示会THESOM社ブースで初めてローンチした。2012年秋,香港展示会以後,請求人及び韓国の企業であるTHESOM社は,心血を傾け,多くの時間をかけてデザインし,多様なカラーのトゴ革を開発した。その製品は,ヨーロッパの多数のバイヤーが深い関心を持ち,デザイン及びカラーが優れていると評価されている。展示会以後である同年9月に,新製品開発と共に,その後に「BONAVENTURA」の中国総販売業者になった中国のChengdu JIUDING Telecommunication Co.,Ltdに製品を供給し始めた(甲62,甲70)。Chengdu JIUDING Telecommunication Co.,Ltdは,販売マーケティングに役に立てる製品の関連資料を請求人に要請した。「BONAVENTURA」は,実際に「富の象徴」であるイタリアのクラシック豪華ヨットの名前を由来とするものであり,請求人が高級ブランドの名前を探していたところ,「BONAVENTURA」が革小道具に似合う名前であると考え,「BONAVENTURA」を選択することになった(甲63,甲64)。
(10)小括
以上のとおり,アンワインド社は,請求人又はTHESOM社の了承を得ず,勝手に商標出願したものであり,「BONAVENTURA」を自己のブランドとした,その売上を向上させた等の主張をしているが,上記したように,U氏は,「BONAVENTURA」は,アンワインド社がデザインしたオリジナルブランドではないことを承認し(甲67),日本の「BONAVENTURA」の代理店としての地位を自認し(甲49),ブランド商品の売上を向上させたことは,商標権と全く関連性のない話である。また,請求人は,「BONAVENTURA」の知名度が低く,売上が低かった2015年(平成27年)1月から,商標権の譲渡を交渉してきたが,U氏は,何回も商標権の譲渡は,弁護士と相談したうえで決めると回答しながら,時間を遅延させて自分の利益を得ていた。さらに,商標譲渡の件において,曖昧模糊な態度で,明確な拒否意思を示しておらず,THESOM社に商標譲渡の意思があると信じさせ,取引中止に至るまでも,商標権の明確な拒絶意思を示していなかった(甲57,甲59,甲60)。また,THESOM社が,2017年(平成29年)4月27日のメールにおいて,商品提供を中止し,アンワインド社に対する法的措置を行うとの意思を表明したにもかかわらず,約1ヶ月後の2017年(平成29年)5月24日に,オーダーをキャンセルしたいとの連絡をしてした(甲61)。U氏のこのような行為に,請求人は,何回も電話やメール,日本訪問などのコミュニケーションを通じて解決しようとし,アンワインド社に2年以上の時間をかけて商標権を譲渡してもらおうとしたが,アンワインド社は,「BONAVENTURA」の代理店としての地位を自認しながらも,商標権を返還せず,本件の審判請求に至った。
(11)商標法第4条第1項第7号に該当すること
被請求人は,いわゆる「CONMAR」事件(知財高判平成20年6月26日・判時2038号97頁)を引用し,本件について商標法第4条第1項第7号に含めることができないと主張している。
しかしながら,上記(4)のとおり,2014年(平成26)の時点において,請求人がアンワインド社の商標登録出願を承諾した事実はなく,そして,2015年(平成27年)1月23日に請求人は,アンワインド社による商標登録出願を明確に断っている(甲54)。それにもかかわらず,アンワインド社は,2015年(平成27年)2月20日(本件商標の出願日は,2015年(平成27年)11月26日)に商標登録出願を行っている。
そして,ア 甲第49号証のとおり,2015年(平成27年)1月23日のメールで,U氏(アンワインド社)は,「BONAVENTURAの日本総代理店として弊社1社で販売するということを前提にお手伝いをさせていただきたいです」と代理店としての地位を自認し,イ 甲第54号証のとおり,同日(2015年(平成27年)1月23日,即ち,商標登録出願を明確に断った日)のメールで,請求人は,「まず,BONAVENTURAの日本総代理店として貴社1社で販売するということは確かです。これまで一度もそうではないと考えたこともございません」とU氏(アンワインド社)に伝えていることから,少なくとも2015年(平成27年)1月23日の時点,つまり,本件商標が出願される前の時点において,U氏(アンワインド社)は,日本総代理店(ライセンシー)であることを明確に自認しており,請求人も,アンワインド社が日本総代理店(ライセンシー)であることを明確に認めており,さらには,少なくとも2015年(平成27年)1月23日から本件商標の出願日(2015年11月26日)までの間,アンワインド社がライセンシーであることを否定する事実は存在していない。
よって,請求人は,ライセンシーであるアンワインド社に商標登録出願をしないことを明確に伝えていたにもかかわらず,無断で本件商標を出願していることから,上記「特段の事情がある例外的な場合」に該当するものであり,本件は,商標法4条第1項第7号が適用されるべき事案である。
(12)商標法第4条第1項第19号に該当すること
上記のとおり,被請求人の主張は,いずれも失当であることは,明らかであり,本件は,商標法4条第1項第19号が適用されるべき事案である。
3 結論
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を答弁書において,要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第51号証(枝番を含む。)を提出した。
1 本件の事実経緯
アンワインド社は,請求人からの提案を受け,請求人と協議のうえ,本件商標をアンワインド社自らのブランドとして展開することとし,アンワインド社において商品の企画等を行い,THESOM社にその商品の製造を行わせ,アンワインド社において,その販路を開拓等するなどして事業展開をしたものである。また,アンワインド社は,本件商標について,事前に請求人ないしTHESOM社から了承も得たうえで登録出願したものである。
(1)アンワインド社とその事業活動について
アンワインド社は,2007年(平成19年)8月に,U氏により設立された株式会社であるが(乙1),2013年(平成25年)4月頃から,スマートフォンケースの商品企画,デザイン及び販売等の事業を行うようになった。
そして,アンワインド社は,「BONAVENTURA」のほか他の自社ブランドを展開しており(乙2),本件商標のほか他の商標登録(乙3?乙6)を保有し又はその登録出願中であるほか,一部のブランドについて意匠登録(乙7,乙8)を保有するなどしている。
これらの各ブランドは,いずれも,U氏が,商品の企画を行い,商品デザインについてもU氏が創作等している(乙7,乙8)。そして,アンワインド社は,「日本人独特の美的感覚や機能性に対するきめ細やかな気配り,それらを長く使っていただくための高い品質を兼ね備えた製品を世界へ発信」することをうたっている(乙2)ところであって,全て自社ブランドとして,自ら企画,デザインした商品について,海外工場に製造委託をした上で販売をしているものであり,外国の会社の代理店としての商品販売を行うことなど一切していない。
(2)アンワインド社と請求人との接触
アンワインド社は,セントリックス社との間において,従前からセントリックス社の販売するスマートフォンアクセサリーのデザインの監修を行う等の取引関係があり,2013年(平成25年)10月ころ,香港で開催された展示会「グローバルソーシングフェア」において,スマートフォンアクセサリーの製造・販売を行っているTHESOM社の代表である請求人からH氏が話しかけられたことが,U氏と請求人との初めての接触である。
2013年(平成25年)1月に開催された米国ラスベガスにおける国際的イベントCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)において,請求人がH氏に対し,THESOM社の「SLG Design」ブランドのスマートフォンアクセサリーを日本において販売できないかと持ち掛けたことがあったことから,H氏と請求人とは面識があった。もっとも,THESOM社は,メルセデスペンツやBMWの革小物のOEM等の事業を行っているとのことであり(乙9),「SLG Design」は日本で全くブランドカがない一方で,価格が高額であったから,H氏は,「SLG Design」の商品を取り扱う意向は全くないが,セントリックス社のOEM先としてであれば取引は可能であると,請求人に説明をしていた。そして,グローバルソーシングフェアにおいても,請求人はH氏及びU氏に対して「SLG Design」の商品の紹介をするなどしてきたが,H氏もU氏も「SLG Design」を取り扱う意向は全くないと改めて説明した。
(3)THESOM社の事業活動及びアンワインド社と同社とのその後のやりとりについて
アンワインド社がTHESOM社と知り合った2013年(平成25年)10月当時,THESOM社は,自社ブランドとして「SLG Design」というブランド名で,スマートフォンケースを製造し,韓国において販売するとともに,「SLG Design」の日本への売り込みをもくろんでおり,2014年(平成26年)1月,請求人は,アンワインド社がTHESOM社の「SLG Design」ブランド製品の日本の販売代理店となることを提案してきた。
しかしながら,アンワインド社は,自社デザインの自社ブランド商品を販売するビジネスモデルである旨を改めて説明して,そのような提案には応じることはできず,アンワインド社としては,あくまでもOEM先を探していること等を伝えた。
また,THESOM社は,2014年(平成26年)2月2日から7日まで東京において開催された生活雑貨の国際見本市である「東京インターナショナル・ギフト・ショー」にも参加したが,THESOM社が日本語の話せるスタッフが1名しかいないとして支援を求めてきたために,アンワインド社はこれを支援した。もともと,THESOM社が上記ギフトショ一に参加したのも,日本での事業展開をしたいのならば,日本の展示会に出品すればよいとU氏が請求人に勧めたことがきっかけであったため,善意からTHESOM社を支援したものである。もっとも,本革製のスマートフォンケースのOEM先を探していたU氏にとって,上記のとおり,メルセデスベンツやBMWの革小物のOEMをしており,高い製造技術を有するTHESOM社は,OEM先候補として魅力的ではあったため,THESOM社を支援して関係性を継続させることは,アンワインド社にとっても一定の意義があったところである。
(4)2014年(平成26年)2月の会合
ア 上記東京インターナショナル・ギフト・ショーの後,請求人から,THESOM社の工場見学に来てほしいとの誘いがあったことから,2014年(平成26年)2月14日,H氏とU氏は,韓国旅行のついでというくらいの気持ちで,THESOM社の工場と事務所を訪問した。THESOM社の事務所において,請求人から,再度,H氏及びU氏に対し,THESOM社の「SLG Design」ブランドの日本での代理店とならないか,という話をしてきたことから,H氏とU氏は,セントリックス社もアンワインド社も代理店としてビジネスをすることはないことから,請求人からの提案を改めて拒絶し,アンワインド社のオリジナルブランドとしてであれば取引が可能であること,その場合でも「SLG Design」というブランド名は日本では売れないことからそのようなブランド名は扱わないこと等を伝えたところ,請求人は不快感を示し,会議は決裂した(乙10)。
イ 2014年(平成26年)2月19日,U氏は,THESOM社従業員のN氏から,セントリックス社の関与なく,アンワインド社の独自ブランドをTHESOM社がOEM生産するか,あるいは,アンワインド社のためにTHESOM社が新たなブランドを立ち上げ,アンワインド社が当該商品の販売をするか,といういずれかの方法により,アンワインド社と取引をすることができないか,との提案を受けた(乙11)。
そして,請求人から,「SLG Design」ではなく,「U氏オリジナルブランド」,すなわちアンワインド社の自社ブランドを新たに立ち上げる形で商売がしたいと改めて提案を受けた。U氏は,もともとTHESOM社の革製品の製造技術を高く買っていたこともあり,請求人からの強い提案を受け,アンワインド社の自社ブランドを新たに立ち上げるとの請求人からの提案を前向きに検討してみようと考えた。そこで,U氏は,アンワインド社の自社ブランド商品の企画案として,耐久性のあるドイツ製トゴレザーを使った高級スマートフォンケースを提案し,当時発売されておらず,商品名も付されていなかったTHESOM社のサンプル商品「D6」,「D7」をベースとすること,ヨーロッパ風のブランド名をつけること等が話し合われた。
上記の打ち合わせの後,請求人及び従業員のN氏とU氏との間で,電話で打ち合わせがもたれた。そこで,請求人及び従業員のN氏から,サンプル品に試作段階として使用していた「BONAVENTURA」であれば,パッケージの在庫もあることから,これをアンワインド社のオリジナルブランドとすることができる,アンワインド社のためにすでにその製造を開始するよう指示している等との提案があった。U氏は,自社ブランドの名称を自らが決めるつもりでいたため驚いたものの,U氏自身も,上記の打合せを経て,アンワインド社の新たな自社ブランドを早急に立ち上げたいという気持ちが先行し,請求人の提案を受け入れ,自社ブランドとして「BONAVENTURA」を使用することとした。
(5)2014年(平成26年)2月の打合せ後と本件商標の出願について
上記の電話での打ち合わせにおいて,U氏は請求人に対し,「BONAVENTURA」について商標登録をする必要がある旨確認したところ,請求人からも,「U氏のオリジナルブランドだからアンワインド社で商標登録をすればよい」との回答があった。そこで,U氏はアンワインド社の従業員であるK氏に対し,請求人との協議の結果,「BONAVENTURA」についてはアンワインド社が商標登録をすることになったため,出願手続きを進めるようにとの指示をした(乙12)。
このように,U氏が請求人に対して確認をして請求人ないしTHESOM社の了承を得たうえでアンワインド社が「BONAVENTURA」の商標登録をすることとなった点については,電子メール上でも相互に確認されている。すなわち,2014年(平成26年)3月13日,U氏からTHESOM社のN氏に対し,「『BONAVENTURA』は日本で商標登録可能であることを確認しました。前回のミーティングでもトニー〔注:請求人〕に伝えましたが,日本では商標登録をしなければ百貨店や量販店へ販売することはできません。トニーからはアンワインドのオリジナルブランドだから弊社が登録すればいいといわれてましたので,こちらで商標登録を進めます。トニーにもお伝えください。」とメールで連絡をしたところ,N氏から,「商標の件了解しました。取れましたらご連絡いただきたいです。」と,アンワインド社名義で「BONAVENTURA」について商標登録をすることにつき了解した旨の返答がなされている(乙13)。
このように,請求人からの明確な了解に基づいて,アンワインド社が「BONAVENTURA」について商標登録をすることとなった。
なお,本件商標の出願日は2015年(平成27年)11月26日であるが,アンワインド社は,2014年(平成26年)7月25日に本件商標について出願手続を行おうとしたが(乙14),特許庁の窓口での受付時間である17時までに間に合わなかったため,同日には出願がかなわなかった。
その後,2015年(平成27年)2月20日に改めて商標出願をし,登録査定まで受けたものの,登録料の納付期限を勘違いして,期限を徒過してしまい,登録料の不払いにより登録には至らなかった(乙15?乙17)。本件商標の出願・登録の時期が遅くなったのはかかる事情によるものである。
(6)アンワインド社によるBONAVENTURAブランド事業の展開
アンワインド社は,2014年(平成26年)3月13日に「BONAVENTURA」のブランド名でスマートフォンケースの販売を開始して以降,精力的にプロモーション・営業活動を行って,「BONAVENTURA」の販路を拡大していった。まず,「BONAVENTURA」は日本において全く知名度のないブランドであったことから,高級な革製品を好む需要者層における認知度を高めるために,「Oggi」,「GOETHE」,「おとこのブランドHEROS」,「MonoMania」,「Brands Mall」等の有名ファッション雑誌において「BONAVENTURA」の紹介記事を掲載したり(乙18?乙36),星玲奈,丹羽仁希等の有名モデルやインフルエンザ一に依頼して,Instagram等のSNSにおいて「BONAVENTURA」を紹介してもらう(乙37の1?乙37の47)等の地道なプロモーション活動を行い,「BONAVENTURA」の知名度を徐々に高めていった。また,販路拡大のため,大手百貨店及び著名なセレクトショップ等に対し,精力的な営業活動を行い,2014年(平成26年)4月には,HAUNT(乙38),同年9月にはHYPER MARKET(KDDIの運営するモバイルアクセサリーを中心としたセレクトショップ:乙39,乙40),同年10月には,そごう・西武(乙41),同年11月には,湘南T-SITE(カルチュア・コンビニエンス・クラブの運営する複合商業施設:乙42),2015年(平成27年)4月には,三越伊勢丹(乙43),2016年(平成28年)9月には東急ハンズ(乙44),2017年(平成29年)3月10日には,BEAMS(乙45)に出品し,徐々にその販路も拡大していった。さらに,こうした販路の拡大や知名度の向上は,アンワインド社自身による手厚いカスタマーサポートがあったからにほかならない。すなわち,THESOM社の製造するスマートフォンケースは,革部分の品質は良かったものの,肝心のケース部分に加え裏地に問題があり数ヶ月の使用で使えなくなるなどの問題があったため,アンワインド社は,商品の品質に関して,顧客からたびたびクレームを受けた(乙46?乙49)が,アンワインド社は,ブランドイメージを守るために,顧客からのクレームに対して,自社の費用負担で無償の商品交換をする等の対応を行った。かかるアンワインド社白身による地道なプロモーション活動,営業活動,手厚いカスタマーサポートにより,スマートフォンケースの高級ブランドとしての「BONAVENTURA」の知名度と売上高は向上していった。
(7)請求人からの本件商標の引き渡し要請
以上のように,アンワインド社の地道な企業努力により,「BONAVENTURA」の知名度・売上高も向上し,これからスマートフォンケースの高級ブランドとしての「BONAVENTURA」の地位をより確立していこうという最中の2016年(平成28年)6月23日に,請求人は,アンワインド社において本件商標の商標登録を取得したことについて謝意を示すとともに,登録と移転の手数料は支払うので,その商標登録を引き渡すよう求めてきた(乙50)。
しかしながら,上述の経緯から明らかなように,BONAVENTURAブランドは,請求人ないしTHESOM社の了承のもとに,アンワインド社が,アンワインド社自らのブランドとして育み,商標登録を取得し,その多大な営業努力のもとにおいて,高い売り上げをあげるに至り,本件商標に化体した信用,その生み出す収益は極めて高いものとなるに至ったものである。
したがって,仮にアンワインド社としては,かかる本件商標をTHESOM社に譲渡するとすれば,その譲渡価格としては,例えば2016年(平成28年)6月期の決算内容と事業計画をもとにしたBONAVENTURAの事業価値に基づく財産価値となるところ,その試算によれば4億円近い金額となったことから,本件商標のTHESOM社への譲り渡しは現実的でない旨を回答した。その後,2017年(平成29年)2月8日,U氏は,THESOM社からの誘いを受け,東京ギフトショーに出展していた同社のブースの様子を見に行った。その際にも,請求人から本件商標を譲渡してほしいとの要請を受けたが,U氏は,それには応じられないと明確に回答した。なお,請求人は,2017年(平成29年)2月にU氏から本件商標を譲渡する旨の意向があることを確認した等と述べるが,そのような事実は存在しない。
以上のように,アンワインド社は,請求人から,本件商標を譲渡するよう何度も要請されていた。しかしながら,そもそも本件商標はアンワインド社のブランドにかかる商標であり,かつ,請求人ないしTHESOM社からの明確な了承も踏まえて出願された商標であるばかりか,アンワインド社による多大な営業努力によって高い顧客吸引力を獲得するに至っていたものである。そこで,アンワインド社としては,譲渡の要請に応じる理由がないことから,請求人からの要請を明確に拒否し続けていたのである。
(8)Letter of Authorization(甲9)
2017年(平成29年)3月頃,THESOM社から,アンワインド社に対して,唐突に,「Letter of Authorization」(甲9)と本件商標の譲渡に同意する旨が規定された契約書の2通の契約書にサインをしなければ,スマートフォンケースの出荷を中止するとの連絡があった。
既に多数の取引先への納品日も決まっていたことから,THESOM社からの出荷がなく,取引先に商品を納品できなくなってしまえば,これまでの多大な企業努力によって培った取引先との信頼関係を喪失してしまうことを懸念し,知人の弁護士にも相談の上,「Letter of Authorization」であれば,何ら契約上の義務は規定されておらず,このような書面にサインをしてもアンワインド社に不利益はないとのアドバイスを受けたことから,U氏は,商品の出荷を優先せざるを得ないことから,「Letter of Authorization」にのみサインをした。なお,本件商標の譲渡に同意する旨が規定された契約書にはサインをしていない。
(9)アンワインド社と請求人と交渉と取引関係の終了
請求人からは,本件商標の譲渡に関して対面で話し合いがしたいと何度も要請があった。U氏としては,本件商標を譲渡する理由がなく,また,商品の出荷停止等というあたかも脅迫まがいの行為をされたこともあり,請求人からの話し合いの要請を断っていた。しかしながら,請求人からの度重なる強い要請に,ついに断り切れず,2017年(平成29年)4月19日及び翌20日にアンワインド社の事務所で話し合いが行われることとなった。
この話し合いにおいて,請求人は,U氏に対して,本件商標の譲渡を迫り,譲渡に応じなければアンワインド社に対して損害賠償請求をせざるを得ないなどと根拠が明らかでない主張をし,また,応じなければ既にアンワインド社から受注している商品の出荷を行わないと述べたりし,極めて高圧的な態度で臨み,かつこれが長時間かつ2日間にも及んだ。
以上のとおり,アンワインド社としては本件商標を譲渡する意向は全くなく,また,請求人から高圧的な態度をとられたこともあり,信頼関係が完全に破壊され,もはやアンワインド社としては,THESOM社と取引を継続することができないと考えざるを得ない状況に至った。
そこで,アンワインド社は,やむを得ず,2017年(平成29年)5月25日付け「ご通知」と題する書面により,THESOM社への製造の委託を中止し,THESOM社との取引を終了することとした(甲13)。
2 商標法第4条第1項第7号に当たらないこと
(1)「BONAVENTURA」は,請求人ないしTHESOM社の了承のもと,アンワインド社のブランドとしてアンワインド社が使用しているものであり,かつ,本件商標を登録出願することについても,請求人ないしTHESOM社から明確な了承を得ていたことが明らかであるから,請求人の主張は,全く事実と異なるものである。
また,2017年(平成29年)3月30日付けの総代理店契約(甲9)は,そもそも本件商標の登録出願から相当経った時点の契約であるほか,THESOM社から商品の販売停止をほのめかされたことからやむを得ずサインしたものであり,いずれにせよ,当該契約によって代理店の資格を失うことがなくなったなどという関係にあるものでもない。
さらに,提示した金額(甲7)は,アンワインド社の2016年(平成28年)6月期の決算内容と事業計画をもとに,「BONAVENTURA」の事業価値に基づいて,本件商標の財産価値により算定したものであって,譲り渡すとすればこれほどの価値があるということである。
仮にアンワインド社が高額の対価を要求することを目的として本件商標を出願していたのならば,請求人から本件商標の譲渡を要求される前に,アンワインド社自ら,THESOM社あるいは請求人に対して本件商標の買取を要請していたはずであるが,そのような事実は全くないのであり,そもそもアンワインド社にはTHESOM社あるいは請求人に本件商標を譲渡する意向自体がないのである。
以上のとおり,請求人の主張は,いずれも何ら理由のないものであることが明らかである。少なくとも,アンワインド社が事前に,請求人ないしTHESOM社の了承を得て,本件商標の登録出願を行ったことは客観的な証拠から明らかに裏付けられている(乙13)。かかる事実からも「BONAVENTURA」が,請求人ないしTHESOM社会から,アンワインド社のブランドとして展開していくことが初めから了承されていたことも明らかなのである。
(2)小括
以上のとおり,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するという請求人の主張には理由がない。
むしろ,請求人は,自ら譲り渡したブランドについて,アンワインド社がグッドウィルを獲得したことを奇貨として,これにただ乗りしようとアンワインド社に本件商標の譲渡を迫り,それがかなわないと知るや本件審判の請求に臨んだものであり,かかる請求人こそが信義に反するものである。
3 商標法第4条第1項第19号に当たらないこと
(1)請求人韓国国内商標の周知性について
請求人が提出した展示会・デパートの売り場の写真(甲16,甲18,甲20,甲23,甲25,甲27,甲30)はいずれも,いつ,どこで,だれが撮影したものであるのかが全く不明である。加えて,商標「BONAVENTURA」が使用されていることを確認できない写真も多数あり,これらの写真は「BONAVENTURA」の周知性の根拠とならない。
また,展示会での発表資料(甲17)についても,その記載内容,これが,いつ,だれが作成したものか全く不明であるし,どのように使用されたのか,そもそも実際に使用された資料であるかすら全く不明である。
さらに,展示会の「invoice(甲15,甲19,甲22,甲24,甲28,甲32)」については,甲第22号証を除き,「BONAVENTURA」の記載が全くなく,かかる「invoice」が,商標「BONAVENTURA」の周知性についての根拠となるのか不明であるし,「各invoice」と上記の各展示会の写真との関係性も明らかでない。
加えて,シンガポールのデパートとの取引に係る「invoice」(甲26)については,買主側のサインがなく,当該「invoice」によっては,シンガポールのデパートと実際に取引があったことすら不明である。また,KDDIとの取引に係る写真(甲29)が提出されているが,そもそもかかる写真は誰が,いつ,どこで撮影したものであり,なぜかかる写真によってKDDIとTHESOM社や請求人との間で取引があったといえるのか,どのような取引があったのか等全く不明である。
以上のとおり,請求人の主張は,その裏付けを欠くものであって,失当である。
(2)不正の目的について
アンワインド社は,自己のブランドとして商標「BONAVENTURA」を使用していたのであり,請求人の日本代理店として商品を販売していたという事実は存在しない。そして,アンワインド社は,請求人ないしTHESOM社の了承のもとに本件商標を登録出願した。さらに,請求人は,アンワインド社は,代理店としての資格を失うことを懸念しているため登録出願した旨を主張しているようであるが,アンワインド社は代理店ではない。
また,総代理店契約(甲9)は,上記2(2)のとおり,当該契約によって代理店の資格を失うことがなくなったというような関係にあるものではない。
以上のとおり,請求人の主張には理由がないことは明らかであり,アンワインド社に不正の目的があったなどとはいえない。
(3)小括
以上のとおり,商標法第4条第1項第19号に関する請求人の主張には理由がないこと明らかである。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)証拠及び当事者の主張によれば,次の事実が認められる。
ア 当事者について
(ア)請求人について
請求人は,韓国で革製品を製造しているTHESOM社の代表者である。
(イ)THESOM社について
THESOM社は,当初,メルセデス・ベンツ,BMW等の国際的な高級ブランドのギフトコレクションの製造メーカーとして設立されたものである(乙9)。
(ウ)被請求人について
被請求人は,平成29年(2017年)8月9日受付の特定承継による本権の移転申請により,アンワインド社から本件商標権を承継し,本件商標権者として登録されたものである。
(エ)アンワインド社について
アンワインド社は,平成19年(2007年)8月16日に設立された会社であり,代表取締役はU氏であり,事業内容は,「スマートフォンアクセサリーの企画,デザイン,マーケティング,製造,販売」等を行っている(乙1,乙2)。
イ THESOM社とアンワインド社の商標「BONAVENTURA」に係る経緯について
(ア)THESOM社とアンワインド社による商品取引について
a 甲第33号証ないし甲第36号証は,THESOM社とアンワインド社間の商品取引に係る「Packing List(梱包明細書)」及び「Commercial Invoice(商業送り状)」であって,当該書類には,2014年(平成26年)2月24日から2017年(平成29年)3月31日まで,商標「BONAVENTURA」に係るものを含む商品「スマートフォンケース」がTHESOM社からアンワインド社に輸出されたとする記載がある。
b 乙第39号証ないし乙第45号証は,アンワインド社が,2014年(平成24年)9月1日から2017年(平成29年)3月10日までに,「HYPER MARKET 株式会社ウェルカム」,「FOX株式会社」及び「株式会社そごう・西武」等に宛てた「納品書」であって,当該納品書には,アンワインド社が商標「BONAVENTURA」に係るものを含む商品「スマートフォンケース」が上記各社に納品されたとする記載がある。
c 以上よりすると,平成26年2月24日から平成29年3月31日まで,商標「BONAVENTURA」に係る商品「スマートフォンケース」が,THESOM社からアンワインド社に輸出されたと認められる。
(イ)アンワインド社による商標「BONAVENTURA」の商品「スマートフォンケース」に係る広告について
アンワインド社は,2014年(平成24年)7月16日の発行の雑誌「ブランドBargain」(同年9月号,発行者:海王社),「おとこのブランドHEROES」(同年9月号,同年12月号,2015年(平成27年)4月号,同年5月号,同年8月号)」,「ブランドBargain」(2014年(平成24年)10月号,同年11月号,同年12月号,2015年(平成27年)2月号,同年4月号),「BrandsMall」(2014年(平成24年)12月号),「おとこの腕時計HEROES」(2015年(平成27年)8月号)」及び「LEON」(2018年(平成30年)2月号,同年3月号)等に,「BONAVENTURA」の文字とスマートフォンケースの画像を掲載した(乙18,乙19,乙21,乙22,乙24?乙27,乙29?乙32,乙35,乙36)。
(ウ)アンワインド社による商標「BONAVENTURA」の我が国への商標出願について
a THESOM社からアンワインド社に宛てた2015年(平成27年)1月23日付けの電子メール(甲5)には,「最後は,意匠登録の件ですが,それは無理があると思います。もしボナは貴社のブランドで弊社がOEM生産する場合当然問題がならないと思いますが,・・・貴社の名前で登録されるのは不自然だと思います。」(審決注:原文ママ。なお,本文中の「意匠登録」は,「商標登録」の誤りであると認められる。)との記載があることからすると,THESOM社は,平成27年1月23日の時点で,アンワインド社が商標「BONAVENTURA」を我が国で商標出願について検討していることを認識していたと認められる。
b アンワインド社は,「BONAVENTURA」の文字からなる商標を,指定商品,第9類「スマートフォン用のケース又はカバー」等について,平成27年2月20日付けで登録出願し,同年5月28日付けの登録査定を受けたが,当該出願は,登録料の納付がなかったことから同年10月26日に出願却下の処分がなされた(乙15?乙17)。
c アンワインド社は,上記第1のとおり,本件商標を指定商品,第9類「スマートフォン用のケース又はカバー」等について,平成27年11月16日付けで登録出願し,同28年7月1日に商標権を得た(職権調査)。
(エ)請求人韓国国内商標について
THESOM社は,韓国において,上段に「BONAVENTURA」,下段中央に「milano」の欧文字からなる請求人韓国国内商標を平成27年(2015年)5月27日に第18類の商品について登録出願し,同28年1月14日に登録され,請求人韓国国内商標の権利者となった(甲1)。
(オ)THESOM社とアンワインド社による本件商標の譲渡に係るやり取りについて
被請求人は,アンワインド社はTHESOM社から平成28年6月23日の電子メールによりに,登録と移転の手数料は支払うので,本件商標を引き渡すように求められ(乙50),本件商標の事業価値に基づく財産価値が,試算によれば4億円近い金額となったことから,本件商標のTHESOM社への譲り渡しは現実的でない旨回答したと主張している。
そして,甲第7号証は,2016年(平成28年)10月3日に,アンワインド社からTHESOM社に宛てた電子メールであって,当該メールには,本件商標の譲渡は難しい結論に至ったこと,その譲渡が困難な理由としては,本件商標のブランド価値が3.6億円に及び,本件商標権の譲渡は現実的でない旨の記載がある。
以上よりすると,THESOM社は,平成28年10月3日に,アンワインド社より,本件商標権の譲渡は現実的でないものの,譲渡するとすれば,当該価格が3.6億円に及ぶ旨の回答を受けたと認められる。
(カ)THESOM社とアンワインド社との代理店契約について
2017年(平成29年)3月30日に,THESOM社とアンワインド社との間で「Letter of Authorization」(総販売店契約)を交わした。当該契約書には「BONAVENTURA,all models」の記載があるものの,本件商標の譲渡等に関することは,何も記載されていない(甲9)。
(キ)製造委託契約終了について
2017年(平成29年)5月25日付けで,アンワインド社及び被請求人は,「THESOM社」及び請求人に,「ご通知」と題する書面を送り,その内容は,「これまで,貴社に対し,日本国内における販売目的として,『BONAVENTURA』ブランドのiPhoneケースの製造を委託していましたが,本書の到達をもって,かかる製造委託を終了いたしたく,本書をもってその旨をご通知申し上げます。」の記載がある(甲13)。
(2)判断
ア 商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないとしているところ,同号は,商標自体の性質に着目したものとなっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については,同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。
そして,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。
また,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(平成14年(行ケ)第616号,平成19年(行ケ)第10391号)。
イ アンワインド社による商標「BONAVENTURA」の登録出願について
上記1の認定事実によれば,(a)THESOM社とアンワインド社による商品取引は,遅くとも平成26年2月24日に開始されたこと,(b)請求人又はTHESOM社は,平成27年1月23日の時点で,アンワインド社が商標「BONAVENTURA」を我が国で商標出願について検討していることを認識していたと認められること,(c)その後,請求人が代表者を努めるTHESOM社は,平成27年(2015年)5月27日に第18類の商品について請求人韓国国内商標を韓国において登録したものの,請求人韓国国内商標の指定商品は第18類(審決注:当該類は商品「旅行かばん,傘」等が含まれる)であり,商品「スマートフォン用のケース又はカバー」は第9類に含まれること(商品・サービス国際分類表)から,請求人韓国国内商標の権利範囲には商品「スマートフォン用のケース又はカバー」は含まれないことからすると,そもそも,請求人又はTHESOM社は,韓国国内においても,商標「BONAVENTURA」を商品「スマートフォン用のケース又はカバー」に付いて権利化することについて積極的でなかったといえ,しかも,請求人又はTHESOM社は,アンワインド社との商品取引を開始した平成26年2月24日以降,我が国に自らすみやかに商標登録出願することが可能あり,遅くともアンワインド社が商標「BONAVENTURA」を我が国で商標出願について検討していることを認識した平成27年1月23日の時点で,商標登録出願することが可能であったといえるから,当該出願を怠っていたといえる。
ウ THESOM社とアンワインド社との代理店契約について
上記(1)イ(カ)とおり,THESOM社とアンワインド社は,平成29年3月30日に代理店契約を締結した。
しかしながら,当該契約日は,上記(1)イ(ウ)のとおり,THESOM社とアンワインド社の本件商標の譲渡に関する問題が顕在化した平成27年1月23日以降に締結されたものであって,しかも,当該契約には,本件商標の譲渡等に関することは何も記載されていない。
そうすると,本件商標の譲渡に関する問題が顕在化した後においても,THESOM社とアンワインド社との間には,本件商標の譲渡等に関する取決めはないから,両者の商品取引が開始された時点(平成26年2月24日)においても,両者のうちどちらかが,我が国における本件商標を所有することについて,明確な取決めがなかったといわざるを得ない。
したがって,請求人又はTHESOM社は,契約等によって他者(アンワインド社)からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたといわざるを得ない。
(3)小括
以上よりすると,請求人又はTHESOM社の商標「BONAVENTURA」を商品「スマートフォン用のケース又はカバー」に関する我が国における対応は,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合,及び契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合に該当するから,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。
したがって,本件商標は,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当するものとはいえないから,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)本号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
(2)THESOM社の使用する標章の周知性について
ア 証拠及び当事者の主張によれば,次の事実が認められる。
(ア)THESOM社による我が国における商標「BONAVENTURA」の使用について
(イ)甲第2号証は,東京ギフト・ショーを主催する株式会社ビジネスガイド社がTHESOM社に宛てた,2014年(平成24年)1月17日付けの第77回の当該ショーに向けた「Official Certificate of Participation(参加公式証明書)」であって,当該証明書に記載のブース番号「東3009-10」と請求人が展開会の様子を撮影したとする画像の壁には「東3009-10」の文字及び商品「スマートフォンケース」とともに,壁に「ABOUT」及び「BONAVENTURA」の文字が掲示されていることからすると,THESOM社は,第77回東京ギフト・ショー(2014年(平成26年)2月5日?7日)に参加し,商標「BONAVENTURA」とともに,商品「スマートフォンケース」を展示したと認められる。
(ウ)THESOM社は,海外の展示会(中国,アメリカ,シンガポール,ドバイ)の資料及びその展示風景を写した画像等を提出している。
これらの画像は,展示ブースに「THESOM CO.Ltd」,「THESOM」及び「BONAVENTURA」の文字が表示された看板や展示ショーケースに並べられたスマートフォンケースに「BONAVENTURA」の文字が付されたものがあるが,これらの画像は,どの展示会で撮影されたのか不明で,また,撮影日の表示がない(甲16,甲18,甲20,甲23,甲27)。
さらに,THESOM社が,これらに関係する展示会に参加するために請求人が支払ったことを証明する資料や展示会で使用した資料等を提出しているが,上記各展示会開催時の画像と展示会に関する資料との関係が不明である(甲17,甲19,甲21,甲22,甲24,甲28)。
(エ)THESOM社は,シンガポールのデパート及びカタールでの商品を販売する風景を写した画像及びその販売の取引実績を示す資料を提出している。
これらの画像は,陳列ケース内に置かれているスマートフォンケースの画像や棚に置かれているスマートフォンケースの画像及び商品の陳列風景の画像であるが,これらの画像は,どこで撮影されたのか不明で,また,撮影日の表示がない(甲25,甲30)。
また,THESOM社とシンガポールの「C.K.Tang Limited」の取引実績を示す資料(甲26)には,スマートフォンケース,ウォレット等が合計22個,5,184ドルの記載があり,THESOM社とカタールの「Ali Bin Ali Group」の取引実績を示す資料(甲31)には,スマートフォンケース及びストラップの合計984個,134,766ドルの記載があるが,これらの資料には,商標「BONAVENTURA」の記載はない。
(オ)THESOM社は,日本KDDIへ商品を納品した画像を提出しているが,パッケージの画像とスマートフォンケースの画像は,それぞれ別々に写っており,実際にスマートフォンケースがパッケージに包装されて納品されたか不明で,かつ,撮影日の表示がない(甲29)。
イ 判断
以上のことからすれば,請求人提出の証拠をみると,各展示会に参加した書類(甲19,甲21,甲22,甲24,甲28)からは,本件商標の登録出願時前に外国において開催された展示会に参加していることが認められるものの,各展示会開催時の画像(甲16,甲18,甲20,甲23,甲27)からは,展示会に参加した書類との関係における開催日,及び撮影された日付が不明であるから,これらをもって外国の需要者に商標「BONAVENTURA」が広く知られていたとはいえない。
また,シンガポールのデパート及びカタールでの商品を販売する風景の画像にも日付の表示もなく,いつの取引か確認できないし,日本KDDIへ商品を納品したとする画像にも,日付の表示はなく,いつの取引か確認できない(甲25,甲29,甲30)。
さらに,商標「BONAVENTURA」は,シンガポールのデパートとの取引実績を示す書類(甲26)には,合計として,5,184ドルの記載があり,また,カタールの「Ali Bin Ali Group」との取引実績を示す書類(甲31)には,合計として,134,766ドルの記載があるものの,これらの金額はさほど多い金額ともいえず,この取引実績をもって,外国において請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く知られているとはいえない。
加えて,商標「BONAVENTURA」は,我が国における広告宣伝,市場シェア等についても提出された証拠の確認はできないから,THESOM社の業務に係る商品であることを表示するものとして,我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
したがって,商標「BONAVENTURA」は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国又は外国において広く認識されているものではない。
(3)小括
上記のとおり,商標「BONAVENTURA」は,いずれも,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国又は外国の需要者の間で,請求人の業務に係る商品を表すものとして,広く認識されていたとは認められないものであるから,本件商標と類似する商標であるとしても,商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
3 請求人の主張について
請求人は,アンワインド社が,請求人との信頼関係を毀損してでも不合理な算定による高額な金銭を条件として提示しつづけたことからすれば,アンワインド社による本件商標にかかる登録出願は,「BONAVENTURA」ブランドの剽窃目的での出願であったことは明白であり,仮にそうでないとすれば,不合理な算定による高額な譲渡金の要求から考えて,金銭を目的とした商標登録であったといえる旨を主張している。
確かに,上記1(1)イ(オ)によれば,THESOM社は,平成28年10月3日に,アンワインド社より,本件商標権の譲渡は現実的でないものの,譲渡するとすれば,当該価格が3.6億円に及ぶ旨の回答を受けたと認められる。
しかしながら,上記1のとおり,本件商標の譲渡の価格が3.6億円が適当であるか否かは置くとしても,THESOM社とアンワインド社間における商標「BONAVENTURA」に係る商品「スマートフォンケース」の取引は,遅くとも平成26年2月24日に開始された。
そして,アンワインド社は,上記回答をした平成28年10月3日時点においても,我が国国内の雑誌等に相当数の広告を掲載し,国内各社に販売していることからすると,本件商標の譲渡の要求に対して,一定程度の金額を明示することは,本件商標の登録が直ちに金銭を目的としたものであったということはできない。
しかも,アンワインド社は,当該価格の要求に際して,本件商標権の譲渡は現実的でない旨述べるとともに,その後も製造委託契約が終了する前,平成29年3月31日までは,THESOM社との間において,商標「BONAVENTURA」に係る商品「スマートフォンケース」の取引を行っていたのである。
してみれば,当該金額の明示が不正の目的に該当するものということはできない。
したがって,請求人の主張は,採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1第7号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものではないから,その登録は,同法第43条の3第4項の規定により,維持すべきである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲
審理終結日 2019-04-25 
結審通知日 2019-05-08 
審決日 2019-06-03 
出願番号 商願2015-116871(T2015-116871) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (W0918)
T 1 11・ 22- Y (W0918)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 駿也海老名 友子 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 榎本 政実
大森 友子
登録日 2016-07-01 
登録番号 商標登録第5862077号(T5862077) 
商標の称呼 ボナベンチュラ、ボナベンテュラ、ボンアベンチュラ、ボンアベンテュラ 
代理人 佐藤 力哉 
代理人 石田 昌彦 
代理人 SK特許業務法人 
代理人 栗林 知広 
代理人 中山 惇子 
代理人 龍華国際特許業務法人 
代理人 林 美和 

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