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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない W2535
管理番号 1365032 
審判番号 取消2018-300121 
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2018-02-27 
確定日 2020-07-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第5643699号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5643699号商標(以下「本件商標」という。)は、「BONOBOS」の欧文字を標準文字で表してなり、平成25年4月22日に登録出願、「被服」を含む第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下「小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を「小売等役務」ということがある。)を含む第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定商品及び指定役務として、同26年1月17日に設定登録されたものである。
なお、本件審判の請求の登録日は、平成30年3月12日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、同27年3月12日ないし同30年3月11日(以下「要証期間内」という場合がある。)である。

第2 請求人の主張
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書及び審判事件弁駁書において要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品及び指定役務について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実がないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)乙第1号証は、米国のウォールマートが2017年6月19日に紳士服ブランド「Bonobos」を買収したことを記載するが、日本における本件商標の使用を証するものではない。
(2)乙第2号証は、2017年8月23日におけるウェブサイトの海外発送に関するページにて海外発送可能国として日本が含まれていること、ページ右側の上から三番目のボタンに「BONOBOS FIT GUIDE & SIZE CHARTS」、最後のボタンに「BONOBOS APP & OTHER FAQS」と本件商標が見て取れるものの、本件商標が「被服」又は「被服の小売等役務」について使用されていることを証するものではない。
(3)乙第3号証は、2018年2月22日におけるウェブサイトのオンラインショッピングのページにてシャツ等の被服が販売されていることは見てとれるが、これら商品の発送可能国に日本が含まれるか否かは明らかでない。この点、乙第2号証の日付と乙第3号証の日付との間には約6か月もの差異があり、乙第2号証をもって乙第3号証に表れる商品を日本の消費者が購入可能な状態であったかは明らかではない。
(4)乙第4号証の1ないし乙第4号証の14は、2016年から2018年にかけて発行された「BONOBOS」のカタログの写しであるが、英語で表されたカタログであり、日本の消費者を対象としたものであるかが明らかでなく、また、日本の消費者に頒布されたものであるかも不明である。
(5)乙第5号証ないし乙第7号証は、それぞれBONOBOSが日本在住の個人消費者に被服商品を発送したことは証されるが、実際に日本における通関手続きを経て購入者に配送されたかは不明である。
また、仮に当該商品が実際に配送されたことが事実であるとしても、乙第5号証ないし乙第7号証において証された購入者は3名、かつ、トータルの販売数は計7点であり、これは通常の取引概念に照らせば極めて少数で、反復継続性に欠けるものであり、本件商標の使用として評価するにはあまりにも足らないものである。
(6)被請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標が使用された商品(乙5の1、乙6の1、乙7の1)を、それぞれ日本の3名の個人消費者のオーダーに基づき発送した旨を主張する。
しかしながら、被請求人が上記商品を米国から日本の消費者に対して発送したとしても、これは被請求人による本件商標の使用には該当しない。すなわち、「商標法50条2項本文は、商標の不使用による登録取消しの審判請求があった場合、被請求人は、日本国内における登録商標の使用を証明しなければならないことを規定しているところ、商標法2条3項2号にいう『譲渡』が日本国内において行われたというためには、譲渡行為が日本国内で行われる必要があるというべきであって、日本国外に所在する者が日本国外に所在する商品について日本国内に所在する者との間で譲渡契約を締結し、当該商品を日本国外から日本国内に発送したとしても、それは日本国内に所在する者による『輸入』に該当しても、日本国外に所在する者による日本国内における譲渡に該当するものとはいえない」(知財高裁 平成17年(行ケ)第10817号)。
本件において、日本国内において商品を輸入したのは、被請求人が主張する3名の個人消費者であって、彼らは、被請求人自身ではなく、また被請求人から本件商標につき使用許諾を受けた者ではなく、そもそも「業として」商品の輸入をした者ではない。
したがって、被請求人は、本件商標を付した商品を日本国内において譲渡しておらず、また輸入もしていないので、本件商標を使用した事実はない。
3 当審において、令和元年8月6日付けで、請求人に対し、平成31年3月13日付けで被請求人が提出した回答書についての意見を求めたが、これに対し、請求人は、何ら意見を述べるところがない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第31号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁書における主張
(1)本件商標の商標権者である被請求人とメンズアパレルブランド「BONOBOS」について
被請求人及び本件商標に係る「BONOBOS」は、スタンフォード大学のMBAを持つアンディ・ダン氏とブライアン・スパリー氏によって、2007年にシリコンバレーで創業された会社、そして、同社が運営するオンライン限定の電子商取引専業というユニークな販売方法をとることで知られるメンズアパレルブランド、及び、被請求人の会社名を表すものである。
顧客はウェブサイトを通じてのみ商品を注文することができる。
さらに、ウェブサイトからの注文のみに特化した特徴を生かし、国境を越えたボーダーレスなビジネス展開を行っており、アメリカ在住の顧客のみならず、諸外国の顧客からの注文にも対応し、迅速に商品を届ける体制を整えている。
(2)本件商標の使用事実
ア 使用証拠
(ア)乙第2号証は、被請求人のウェブサイトのスクリーンショットであり、「BONOBOS」商品の国際的な商品発送の仕向地として、「Japan」が含まれており、日本の顧客に対して商品を販売している体制を整えている事実を示すものである。ウェブサイトの左下に「LAST UPDATED?AUG23,2017」の記載があることから、少なくとも、要証期間内である2017年8月23日において、インターネット上でアクセスが可能であったことは明らかである。
(イ)乙第3号証は、被請求人が運営するオンラインショッピングサイト「BONOBOS」(以下「BONOBOSサイト」という。)の、2018年2月22日に保存されたインターネットアーカイブサイトのスクリーンショットであり、被請求人がシャツ、パンツ、ジャケット、スーツなどの被服を中心とした品揃えを行い、BONOBOSサイトから、直接、顧客に対して商品の販売を行っている事実を示すものである。当該サイトの上方には「BONOBOS」の商標が表示されているとともに、販売されている商品の写真の一部において、各商品に縫い付けられているブランドタグには「BONOBOS」の文字が表示されている。
(ウ)乙第4号証は、被請求人が、2016年から2018年にかけて作成し、顧客に対して配布したカタログの写しであり、各カタログの表紙には「BONOBOS」の文字が大きく表示されている(乙4の1?乙4の14)。
(エ)被請求人と日本の顧客との取引事実
乙第5号証は、被請求人が、自らが運営するBONOBOSサイトを通じて、岡山県倉敷市在住のAshida氏に商標「BONOBOS」を付した被服を販売した際の取引資料である。
乙第5号証から、被請求人は「Travel Jeans」なる商品(ジーンズ)を、2017年6月29日に岡山県倉敷市在住のAshida氏に販売し、即日発送された事実が証明される。
同様に、乙第6号証から、被請求人は「Stretch Washed Chinos」なる商品(チノパンツ)を、要証期間内である2016年10月22日に東京都品川区在住のNakamura氏に販売し、即日発送された事実が証明され、乙第7号証から、被請求人は「Classic Pique Polo」なる商品(ポロシャツ)を、要証期間内である2017年3月7日に神奈川県横浜市在住のMatsui氏に販売し、即日発送された事実が証明される。
イ 商標の社会通念上の同一性について
被請求人の提出する乙第4号証ないし乙第10号証に係る証拠には「BONOBOS」の文字が使用されているところ、本件商標は「BONOBOS」の欧文字を横書きした構成よりなるものである。
本件使用商標は、本件商標と同じ「BONOBOS」からなるものであり、書体のみに変更を加えた同一の文字からなるものといえる。
してみれば、本件使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標と認められる。
ウ 本件使用商標の商品と本件商標の指定商品の同一性について
乙第3号証ないし乙第7号証においては、本件使用商標が「シャツ、ポロシャツ、ジーンズ、パンツ、ジャケット、スーツ等」について付され、当該各商品がBONOBOSサイトを通じて販売された事実、さらに、小売等役務が行われるBONOBOSサイトにおいても本件商標が使用されている事実が掲載されている。
本件使用商標の商品・役務は、少なくとも「被服」又は「被服の小売等役務」であることは明らかであり、本件取消審判に係る指定商品・指定役務と同一の商品・役務である。
エ 商標法第2条第3項各号該当性
乙第2号証、乙第3号証、乙第5号証ないし乙第7号証は、商品に関する取引書類に標章を付したものを電磁的方法により提供したウェブサイトを印刷したものであり、乙第4号証は、商品の取引書類であるカタログを示すものである。さらに、乙第4号証においては、商品に縫い付けられたブランドタグに本件商標が表示されている。
よって、少なくとも、商品(被服)に標章を付し、その商品を譲渡した事実とともに、商品に関する取引書類、インターネットを通じた電磁的方法により提供した商品に関する情報に標章を付した事実が証明された。
そして、このような使用態様は、少なくとも商標法第2条第3項第1号、同第2号及び同第8号に規定される商標の使用行為に該当する。
オ 小括
以上より、審判請求の予告登録前3年以内において、商標権者が、本件商標と社会通念上同一の商標を、「被服」又は「被服の小売等役務」について使用していたことは明らかである。
2 口頭審理陳述要領書における主張
(1)審判合議体の暫定的見解について
ア 乙第3号証について
被請求人は、自己が運営する電子商取引ウェブサイトを通じて本件商標を付した商品の販売、小売の業務において行われる便益の提供を継続して行っており、日本は国際市場における主要なターゲットの一つである。
BONOBOSサイトは、創設者Andy Dunnによって米国で発表され、オンライン専売による方法で被服等の販売を開始した最初の小売業者の1つである。被請求人は、自社のウェブサイトを通じて日本を含む世界中の顧客に商品を販売することに成功した、電子商取引専業のアパレル会社として広く知られている。これにより、日本のみならず、全ての販売対象国の市場において英語表記を用いており、価格表示として米ドルを用いている。
「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」(WIPO一般総会において2001年採択、以下「共同勧告」という。:乙8)第2条にも明記されているように、インターネット上における標識の使用を特定国における使用と認めるか否かについては「商業的効果(COMMERCIAL EFFECT)」の有無によって判断すべきものである。そして「商業的効果を有するか否かを決定するに当たっては、権原ある当局はすべての関連する状況を考慮する。」として、同第3条にそのような状況を例示列挙している。
これを本件についてみれば、日本が重要な国際マーケットの一つであって、「BONOBOS」商品の国際的な商品発送の仕向地として、「Japan」が含まれており、日本の需要者等を対象として、商品を販売している体制を整えていること(乙2)は明らかであり、本件は、共同勧告に該当する。
そして、BONOBOSサイトにおいては、1,332名の日本からの需要者等の登録があり、そのうち135名が会員登録を行っており、これらの需要者等は販促用の電子メールなど、一般的なマーケティングのための電子メールを被請求人から受け取っている(乙9)。
その各ページに、日本の特定の需要者等に向けて、被請求人によって送信された通常の販促用電子メールの詳細情報が記載され、各ページの一番下に記載されている連絡先情報は、需要者等の所在地が日本であることを示しており、電子メールの件名、日本で消費者が電子メールを受け取った日時が示されている。リストには「受信された電子メール」と表示され、日本の消費者によって電子メールが受信された事実が証明される。緑色の丸で囲まれた電子メールは、被請求人のマーケティング活動の一環として日本の消費者に定期的に送信される販促用電子メールのサンプルである。販促用電子メールは、BONOBOSサイトが日本の消費者をターゲットにしていることを示す具体的な証拠であり、このような使用は、商標法第2条第3項第8号の使用行為に該当する。
イ 乙第4号証について
乙第4号証に係る商品カタログは、BONOBOSサイトを通じた、インターネットによる電磁的方法で提供されたものであり、乙第4号証として提出したカタログは、インターネットのアーカイブサイトで記録されたものの写しであって、要証期間内に日本の需要者等からアクセスが可能であったものである。
このような使用は、商標法第2条第3項第7号及び同第8号に該当する。
ウ 乙第5号証ないし乙第7号証について
需要者等は、まず、BONOBOSサイトにアクセスし、購入を希望する商品をクリックして、カートに追加する。そして、需要者等は、発送先等の住所等の情報、クレジットカード情報等を入力する。次に、被請求人は、支払い処理や国際配達業者を通じた購入者への商品の配達を手配することを含む、注文処理を行う。
乙第5号証ないし乙第7号証を含む使用証拠として提出した文書は、日本の需要者等との取引の流れにおいて、以下のように配布等されている。
(ア)日本の需要者等は、BONOBOSサイトにアクセスして注文を行う。
(イ)日本の需要者等は、被請求人から送信された、注文の詳細を記載した注文確認用の電子メール(乙5の1、乙6の1、乙7の1)を受信する。
(ウ)被請求人の従業員がアクセス可能なBONOBOSサイトのバックエンドのスクリーンショットには、注文日、完了日、支払い情報、出荷情報、出荷日、完了日などの取引状況の詳細が示されている(乙5の2、乙6の2、乙7の2)。
(エ)日本の需要者等からの支払いが承認された事実を証明するための取引確認書(乙5の3、乙6の3、乙7の3)は、支払い処理業者から被請求人に提供されるものであり、被請求人の従業者によるアクセスが可能なものである。
(オ)乙第5号証の4、乙第6号証の4及び乙第7号証の4は、日本への出荷を行った事実を示す国際配達業者であるDHL社の追跡情報のスクリーンショットであり、トラッキング番号を入力することにより、被請求人及び日本の需要者等がアクセスすることができる。
(カ)出荷完了後、日本の需要者等は、被請求人から送信された、出荷確認用の電子メール(乙11)を受信する。
(キ)発送された荷物には、第三者であるQuiet Logisticから提供されるコマーシャルインボイス(製品を出荷する際に作成する通関用の書類:乙10)が添付される。当該コマーシャルインボイスは、日本の消費者に送られる「BONOBOS」商品全ての注文について発行される。
一般的な国際貨物の発送についての慣例どおり、税関は、日本への発送を許可する前にコマーシャルインボイスを確認する。
以上のとおり、乙第5号証ないし乙第7号証、さらに乙第10号証及び乙第11号証は、商品又は役務に関する取引書類であるとともに、これらの証拠をもって、現実に被服等の商品が、日本の需要者等に対して譲渡された事実を示すものである。
よって、このような使用は、商標法第2条第3項第1号及び同第8号に該当する。
(2)弁駁書(1)(平成30年8月28日差出)について
ア 乙第1号証について
本件書証の立証趣旨は、「被請求人が米国法人ウォルマートに買収されたニュースが我が国で取り上げられた事実」にあるから、請求人の主張は失当である。
そして、現に、紳士服ブランド「BONOBOS」が我が国において「商業的効果(COMMERCIAL EFFECT)」をもって取引に資されていることは明らかである。
したがって、我が国において使用されていた事実があることは明らかである。
イ 乙第2号証について
乙第2号証は、「BONOBOS」の商標が表示されている被請求人が運営するBONOBOSサイトにおいて、国際的な商品発送の仕向地として、「Japan」が含まれており、日本の顧客に対して商品を販売している体制を整えている事実を示す証拠として提出しているものであるから、乙第3号証のほか、他の証拠とともに、被請求人が「被服」「被服の小売等役務」について本件商標が使用されていることを証するものであることは明らかである。
ウ 乙第3号証について
乙第5号証ないし乙第7号証、乙第9号証ないし乙第11号証で証明されているように、BONOBOSサイトが我が国の需要者等からアクセスが可能であった2018年2月22日前後において、被請求人が、日本の需要者や取引者に対して、実際に本件商標を付した商品を販売し、商品を発送した事実がある。
よって、乙第3号証に係る2018年2月22日現在においても、乙第2号証に示されたように、「BONOBOS」商品の国際的な商品発送の仕向地として、「Japan」が含まれており、日本の需要者等が商品を購入することができた事実があることは明らかである。
エ 乙第4号証について
当該商品カタログは、被請求人が運営するBONOBOSサイトを通じた、インターネットによる電磁的方法で提供されたものであり、乙第4号証として提出したカタログは、インターネットのアーカイブサイトで記録されたものの写しであって、要証期間内に日本の需要者等からアクセスが可能であったものである。
また、本件カタログが、インターネットにおける商標の使用行為であること、さらに、英語で記載されたものであるとしても、共同勧告に照らし、日本における使用行為と認めても差し支えないことは、前記で述べたとおりである。
オ 乙第5号証ないし乙第7号証について
現実に商品が日本の需要者等に配達されたかどうかについては、配達後6か月以上経過した今日においては、DHLなどの配達業者からトラッキング情報を得ることは困難であり、そのような情報が取れなければ、商品が販売された事実が証明されないとするのは、行き過ぎである。
また、乙第5号証ないし乙第7号証は、被請求人が日本の顧客との取引事実の中から、一部の取引事例として提出したものであり、要証期間における取引事例の全てではないことは、既に答弁書においても明記しているとおりである。
(3)弁駁書(2)(平成30年9月3日差出)について
請求人は、過去の判例として、知財高裁平成17年(行ケ)第10817号に係る不使用取消審判の審決取消請求事件を引用し、日本国内において商品を「輸入」したのは、被請求人が主張する3名の個人消費者であって、それらは、被請求人(又は通常使用権者)が「輸入」したものではなく、「業として」商品の輸入をしたものでもない旨主張する。
しかしながら、請求人が引用した判決は、対象商品が「薬用油」であって、その当時、薬事法による規制により、日本への正規輸入がされていなかった状況下において、ある個人消費者が、その商品を違法に輸入した事実を、不使用取消審判における使用証拠として認定するか否かが判断された事例であり、本件とは事案を全く異にするものである。
すなわち、共同勧告に照らせば、当該事案においては、日本において合法的に流通させることができないことが明らかであって、「商業的効果(COMMERCIAL EFFECT)」が認められない事案であった事実を無視するべきではない。
さらに、請求人が、購入者名が個人名であるからといって、購入者が「個人消費者」であると断定するべき、合理的根拠は存在しないものである。
現に、我が国有数のインターネット通販サイトである「楽天市場」において、複数の事業者が、「BONOBOS」を取り扱っている事例があり、これらのサイトにおいては、日本語で表示され、日本円で価格表示がされている(乙13)。
当該追加証拠(乙13)は、商標法第2条第3項第2号又は第7号に該当する。
3 回答書における主張
(1)乙第21号証は、被請求人が、BONOBOSサイトを通じて、東京都在住のフォラン氏に商標「BONOBOS」を付した被服を販売した際の、配送業者DHLの配達証明書及び関連書類である。
ア 乙第21号証の1は、追跡番号「1117038462」に関する、配送業者DHLの配達証明書であり、東京都在住のフォラン氏を宛先として発送された荷物Clothing(被服)が、2018年2月16日12時57分に配達された事実が記載されている。
イ 乙第21号証の2は、注文番号「308628240(審決注:乙第21号証の記載に照らし、「308628249」の誤記と思われる。)、追跡番号「1117038462」に関する、オンラインショッピングサイト上における取引情報の詳細を示すデータのスクリーンショットであり、注文番号「308628249」、注文の概要として、商品名・価格「Stretch Washed Chinos,$98.00」、顧客名(省略)、追跡番号「1117038462」、発送日「2018年2月14日」等の記載がある。
ウ 乙第21号証の3は、注文番号「308628249」に関する、被請求人から日本の需要者等に送信される、出荷確認用の電子メールの写しであり、このような書類は乙第11号証としても提出している。
エ 乙第21号証の4は、追跡番号「1117038462」に関する、第三者の通関業者であるQuiet Logisticから提供されるコマーシャルインボイス(製品を出荷する際に作成する通関用の書類)の写しであり、このような書類は乙第10号証としても提出している。
なお、「Stretch Washed Chinos」なる商品(チノパンツ)は、乙第4号証に係るカタログに掲載されている。
してみれば、上記乙第21号証から、被請求人は「Stretch Washed Chinos」なる商品(チノパンツ)を東京都在住のフォラン氏に販売し、2018年2月14日に日本の購入者に配達された事実が証明される。
(2)その他、乙第22号証ないし乙第31号証からも、被請求人が日本の需要者等に対して小売等役務を行うとともに、本件商標を付した商品(被服)を日本の需要者等に販売し、現実に配達された事実が存在することは明らかである。
よって、被請求人が提出した乙第1号証ないし乙第31号証は、本件審判請求の登録前3年以内に本件商標が日本国内において、商標権者によって本件請求に係る指定商品及び指定役務について使用された事実を立証するものである。

第4 当審の判断
1 事実認定
(1)被請求人の提出に係る乙各号証及びその主張によれば、以下のとおりである。
ア 乙第2号証は、商標権者に係るBONOBOSサイトの2017年8月23日時点のスクリーンショットの写しであり、「Internationl-Where do you ship internationally?」の表示の下に、「We currently ship to Canada,Mexico,Australia,New Zealand,Japan,& Peru.」の表示がある。また、左下には、「LAST UPDATED?AUG23,2017 02:50 PM EDT」の記載がある。
イ 乙第3号証は、被請求人が、商標権者に係るBONOBOSサイトの2018年2月22日時に保存されたインターネットアーカイブのスクリーンショットの写しと主張するものであり、1葉目の中央上部には、「BONOBOS」の文字が表示されている。
また、「Casual Shirts」、「Dress Casual Shirts」、「Dress Shirts」、「Chinos」等の商品カテゴリーごとに、各商品の画像が掲載され、その下には、商品価格とおぼしき「$78」、「$58」等の表示がある。
ウ 乙第4号証は、被請求人が、BONOBOSサイトを通じたインターネットによる電磁的方法で提供された商品カタログであると主張するものであり、例えば、乙第4号証の4については、1葉目の下部に「BONOBOS」の表示、その下には、小さく「FEBRUARY 2018 BONOBOS.COM」の表示があり、4葉目には、「STRETCH/WASHED CHINOS」、「$98」等の表示がある。
エ 乙第21号証は、被請求人が、BONOBOSサイトを通じて、東京都在住のフォラン氏に商標「BONOBOS」を付した被服を販売した際の、配送業者DHLの配達証明書及び関連書類と主張するものである。
(ア)乙第21号証の1は、配送業者DHLの配達証明書の写しであり、そこには、右上部にやや図案化された「DHL」の表示、「Your shipment 1117038462 was delivered on 16 February 2018 at 12.57」(抄訳:「あなたの荷物1117038462は、2018年2月16日12時57分に配達されました。」)の表示があり、「Receiver Name」(抄訳:「受取人」)としてマスキングに続けて「FOLAN」(抄訳:「フォラン」)の表示、「Receiver Address」(抄訳:「受取人住所」)としてマスキングの下に「TOKYO」、「JAPAN」の表示(抄訳:「日本国東京都」)、「Contents」(抄訳:「内容物」)として「CLOTHING」(抄訳:「被服」)の表示がある。
(イ)乙第21号証の2は、被請求人が、BONOBOSサイトにおける取引情報の詳細を示すデータのスクリーンショットであると主張するものであり、左上部に「BONOBOS」の表示、その下には、「Order♯ 308628249」(抄訳:「注文番号:30868249」)、「ITEM DESCRIPTION」(抄訳:「商品の詳細」)として「Stretch Washed Chinos」(抄訳:「ストレッチウォッシュドチノ」)の表示、「PRICE」(抄訳:「価格」)として「$98.00」(抄訳:「98ドル」)の表示、「Tracking」(抄訳:「追跡番号」)として「1117038462」の表示、「Shipment date」(抄訳:「発送日」)として「Wed,14 Feb 2018 09:55:10-0500」(抄訳:「2018年2月14日 9時55分」)の表示がある。
(ウ)乙第21号証の3は、被請求人が、商標権者から日本の需要者等に送信される、出荷確認用の電子メールの写しと主張するものであり、1葉目の左上部及び中央上部に「BONOBOS」の表示があり、タイトル行とおぼしき場所には「Bonobos Shipment Notification」(抄訳:「ボノボス発送通知」)の表示がある。
また、左上部には、メールアドレスとおぼしき「ninjas@bonobos.com〈ninjas@bonobos.com〉」の表示、右上部には「Wed,Feb 14,2018 at 10:00 AM」の表示、中央上部の「BONOBOS」の表示の下に、「February 14,2018」(抄訳:「2018年2月14日」)、「Your order has Shipped!」(抄訳:「あなたのご注文の品は発送されました。」)、「♯308628249」(抄訳:「(オーダー番号)308628249」)、「Order Summary」(抄訳:「注文の内容」)の表示があり、左下部には、パンツの画像が表示されている。
そして、2葉目の上部には、「Stretch Washed Chinos」、「$98.00」の表示があり、その左下には、「BILLING」、「Meguro ku,TKY 153-0061」、「Japan」、右下には、「SHIPPING DHL Express:1-5 business days」(抄訳:「DHLエキスプレス便による出荷」)、「folan」、「Minato ku,TKY 107-6338」、「Japan」の表示がある。
(エ)乙第21号証の4は、被請求人が、第三者の通関業者であるQuiet Logisticから提供されるコマーシャルインボイスの写しと主張するものであり、左上部には、「QUIET/LOGISTICS」(抄訳:「クワイエットロジスティックス」)、「COMMERCIAL INVOICE」(抄訳:「コマーシャルインボイス」)、「SHIPPER/EXPORTER」(抄訳:「発送者/輸出者」)として「BONOBOS」「QUIET LOGISTECS」の表示があり、右上部には、「Tracking Number」(抄訳:「追跡番号」)として「1117038462」、「Date」(抄訳:「日付」)として「2/14/2018」、「CONSIGNEE」(抄訳:「荷受人」)として「FOLAN」、「MINATO KU,TKY 107-6338」、「JP」、「Commodity Description」(抄訳:「商品の表示」)として「98% COTTON 2% SPANDEX pant」(抄訳:「綿98%スパンデックス2%のズボン」)等の表示がある。
(2)上記(1)によれば、商標権者は、2018年2月22日には、「BONOBOS」の文字が表記された英語によるBONOBOSサイト(乙3)を運営しており、国際的な商品の仕向地の一つとして「Japan」と記載された当該サイトを通じて、商品カタログ(乙4)を提供し、被服等の商品を販売していたということができる。
また、BONOBOSサイトにおける当該取引情報の詳細を示すデータのスクリーンショット(乙21の2)と出荷確認用の電子メール(乙21の3)における注文番号「♯308628249」、注文商品名とその価格とおぼしき「Stretch Washed Chinos」、「$98.00」の表示は一致しており、DHLの配達証明書(乙21の1)、BONOBOSサイトにおける当該取引情報の詳細を示すデータのスクリーンショット(乙21の2)及びコマーシャルインボイス(乙21の4)における追跡番号「1117038462」も一致していることからすれば、東京都港区のフォラン(FOLAN)氏が、注文番号「308628249」として、カタログ(乙4の4)に掲載されている商品「Stretch Washed Chinos(ストレッチウォッシュドチノ)」を98ドルで注文・購入し、当該商品は、2018年2月14日に、追跡番号「1117038462」として発送され、2018年2月16日に、配送業者DHLによりフォラン氏に配達されたという一連の流れを認めることができる。
そして、その一連の取引の流れにおいて、商標権者から日本のフォラン氏宛に送信した出荷確認用の電子メール(乙21の3)には、同氏の注文した商品の詳細、出荷状況等の情報とともに、「BONOBOS」の文字が表示されている。
2 判断
(1)出荷確認用の電子メール(乙21の3)について
被請求人の提出した証拠及び主張を勘案すれば、商標権者は、BONOBOSサイトを通じて、日本に所在する者に商品を販売したと認められるところ、その取引の課程において、商品の購入者に対し、商品出荷確認用の電子メール(乙21の3)を送信していたものであり、当該電子メールの記載内容は、商品に関する取引書類といい得る情報である。
(2)使用者について
BONOBOSサイト(乙3)及び商品カタログ(乙4)の作成者・管理者が、商標権者であることを疑うべき合理的理由はなく、また、出荷確認用の電子メール(乙21の3)は、メールアドレスとおぼしき記載内容からして、商標権者が送信したものと推認できる。
(3)使用商標について
出荷確認用の電子メール(乙21の3)の1葉目には、「BONOBOS」の文字が記載されているところ、本件商標は、「BONOBOS」の文字よりなるものであって、その構成文字を同じくするものであるから、使用商標は本件商標と社会通念上同一の商標と認められるものである。
(4)使用時期
乙第21号証に係る商標権者から日本のフォラン氏に対する「Stretch Washed Chinos(ストレッチウォッシュドチノ)」に係る一連の取引は、2018年2月14日に商品が出荷され、同月16日にフォラン氏に商品が配達されたといえるところ、商標権者は商品出荷確認用の電子メール(乙21の3)を2018年2月14日に送信しており、それは要証期間内である。
(5)使用商品・使用役務
商品出荷確認用の電子メール(乙21の3)に表示された「Stretch Washed Chinos(ストレッチウォッシュドチノ)」は、「被服」に含まれる商品である。
(6)小括
上記(1)ないし(5)によれば、本件商標の商標権者は、要証期間内にその請求に係る指定商品及び指定役務に含まれる「被服」に関する取引書類を内容とする情報に、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して、これを電磁的方法によって提供したものと認めることができ、これは商標法第2条第3項第8号に該当する商標の使用ということができる。
3 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者がその請求に係る指定商品及び指定役務に含まれる「被服」について本件商標の使用をしていることを証明したといえる。
したがって、本件商標の登録は、その請求に係る指定商品及び指定役務について、商標法第50条の規定により、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲

審理終結日 2020-02-10 
結審通知日 2020-02-13 
審決日 2020-03-10 
出願番号 商願2013-30101(T2013-30101) 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (W2535)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨澤 美加 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 鈴木 雅也
冨澤 美加
登録日 2014-01-17 
登録番号 商標登録第5643699号(T5643699) 
商標の称呼 ボノボス 
代理人 田中 克郎 
代理人 きさらぎ国際特許業務法人 
代理人 右馬埜 大地 
代理人 石田 昌彦 
代理人 稲葉 良幸 

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