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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
管理番号 1364176 
審判番号 無効2019-890060 
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-09-27 
確定日 2020-07-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第5987055号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5987055号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5987055号商標(以下「本件商標」という。)は,「オウザンのキューブラスク」の文字を標準文字により表してなり,平成29年1月27日に登録出願,第30類「ラスク」を指定商品として,同年8月14日に登録査定,同年10月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標等
請求人が,本件商標の無効の理由に引用する商標は,以下のとおりであり,引用商標1及び引用商標2は,いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第5511786号商標(以下「引用商標1」という。)は,「オウザンのクロワッサン・ラスク」の文字を標準文字により表してなり,平成24年1月30日に登録出願,第30類「クロワッサン,ラスク」を指定商品として,同年8月3日に「株式会社櫻山」を権利者として設定登録されたものであるが,同29年1月18日受付で特定承継による本件商標権の移転登録がされ,武富雅一(被請求人)が権利者となった。その後,令和元年5月16日受付で判決による特定承継による本件商標権の移転登録の抹消がされ,同日受付で一般承継による本件商標権の移転登録がされて請求人が権利者となった。
2 登録第5511808号商標(以下「引用商標2」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成24年2月6日に登録出願,第30類「クロワッサン,ラスク」を指定商品として,同年8月3日に「株式会社櫻山」を権利者として設定登録されたものであるが,同28年11月21日受付で特定承継による本件商標権の移転登録がされ,武富雅一(被請求人)が権利者となった。その後,令和元年5月16日受付で判決による特定承継による本件商標権の移転登録の抹消がされ,同日受付で一般承継による本件商標権の移転登録がされて請求人が権利者となった。
3 商願2017-128916(以下「引用商標3」という。)は,別掲2のとおりの構成からなり,平成29年9月27日に登録出願,第30類及び第43類に属する願書記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務とするものである。
4 商願2017-156857(以下「引用商標4」という。)は,「オウザン」の文字を標準文字により表してなり,平成29年11月28日に登録出願,第30類及び第43類に属する願書記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務とするものである。
5 商願2017-156858(以下「引用商標5」という。)は,「OHZAN」の文字を標準文字により表してなり,平成29年11月28日に登録出願,第30類及び第43類に属する願書記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務とするものである。
6 商願2017-156859(以下「引用商標6」という。)は,「櫻山」の文字を標準文字により表してなり,平成29年11月28日に登録出願,第30類及び第43類に属する願書記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務とするものである。
なお,引用商標1及び引用商標2をまとめて「引用商標」という場合があり,また,引用商標3ないし引用商標6は,請求人が「ラスク」に使用し,請求人の商標を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとするものであり,引用商標3ないし引用商標6をまとめて「使用商標」という場合がある。

第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第37号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第10号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に該当するから,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである。
2 無効原因
(1)請求人について
請求人は,ラスクの製造・販売を業とする株式会社である。
請求人は,平成29年12月1日に,株式会社珠屋小林商店に,引用商標1及び引用商標2の当初の権利者である株式会社櫻山(以下「旧櫻山」という。)及び株式会社クライマックスコーヒーが合併して誕生した株式会社である(甲8)。
現在は,請求人が旧櫻山の権利義務を包括的に承継している。
(2)被請求人について
被請求人は,過去に旧櫻山の支配人を名乗るとともに,旧櫻山の元代表者であったEと婚姻し,その後離婚した者である。
なお,Eは,旧櫻山の元代表者であり,平成27年12月25日,現在の請求人の親会社である株式会社ホクショー(以下「ホクショー」という。)との間で株式譲渡契約を締結して,旧櫻山の経営権を同社に譲渡したものの,その後前記株式譲渡を受けたホクショーとの経営権の対立から,平成29年1月15日に旧櫻山の代表取締役及び取締役を退任した者である。
なお,これらは後述の訴訟(商標権移転登録抹消登録請求事件,甲9)において,その事実が認定されている。
(3)引用商標1及び引用商標2並びにこれらに係る被請求人の行為について
引用商標1及び引用商標2は,旧櫻山による出願及び登録以来,一貫して請求人の商標権であるところ,前述のとおり,過去に被請求人への移転が登録され,その後,当該移転登録が判決により抹消されている(甲2の2,甲3の2)。
当該移転登録の経緯(被請求人の行為)及びこれに対する請求人の対応について以下述べる。
ア 引用商標1について
引用商標1は,「オウザンのクロワッサン・ラスク」の文字を標準文字により書してなる構成である。また,その指定商品は,第30類「クロワッサン,ラスク」である。
引用商標1は平成24年1月30日に旧櫻山によって出願され,平成24年8月3日に登録を受けたものである。
しかし,平成29年1月18日に,移転登録申請書が提出され,引用商標1に係る商標権は,被請求人に移転登録がなされた。
この移転登録申請書には,登録権利者を被請求人,登録義務者を代表者がEである「株式会社櫻山」として記載されていた。
しかし,Eは,上記のとおり平成29年1月15日付けで旧櫻山の代表取締役を退任しているため,平成29年1月18日付け商標権移転登録申請書を特許庁に提出した時点で,Eは旧櫻山の代表者ではなかった。
そのため,同移転登録申請書は,被請求人,E又はその意を受けた者によって偽造されたものであった。
加えて,同移転登録申請書に捺印されている旧櫻山の印は偽造された印章によるものであった。
また,引用商標1は,旧櫻山にとって,旧櫻山の商号が含まれた極めて重要な知的財産であった。旧櫻山は,引用商標1の移転登録がなされる前から変わることなく引用商標3や「CAFEOHZAN(カフェ・オウザン)」の文字を付した広告や包装を用いて,ラスクを販売しており,このような状況で,引用商標1を,旧櫻山から離れ,対立関係にある被請求人に譲渡する理由は一切無かったし,実際に,旧櫻山が被請求人に譲渡した事実はそもそも存在しなかった。
イ 引用商標2について
引用商標2は,桜の花びらが円で囲まれた図形と,その下に「OHZAN」の文字,「クロワッサン・デコラスク」の文字とを二段に配置した構成からなる。また,その指定商品は,第30類「クロワッサン,ラスク」である。
引用商標2は,平成24年2月6日に旧櫻山によって出願され,平成24年8月3日に登録を受けたものである。
しかし,平成28年11月21日に,移転登録申請書が提出され,引用商標2に係る商標権は,被誚求人に移転登録がなされた。
この商標権移転登録申請に関し,引用商標2を被請求人に譲渡した時点で,Eは旧標山の代表取締役たる地位にあったが,同譲渡について当時の他の取締役2名の承認を得ていなかった(会社法348条2項)。
また,引用商標2も,旧櫻山にとって,旧櫻山の商号が含まれた極めて重要な知的財産であった。旧櫻山は,引用商標2の移転登録がなされる前から変わることなく引用商標3や「CAFEOHZAN(カフェ・オウザン)」の文字を付した広告や包装を用いて,ラスクを販売しており,このような状況で,引用商標2を,旧櫻山から離れ,対立関係にある被請求人に譲渡する理由は一切無かった,実際に,旧櫻山が被請求人に譲渡した事実はそもそも存在しなかった。
ウ 訴訟による移転登録の抹消
このような経緯から,請求人は,旧櫻山から被請求人への引用商標1及び引用商標2に係る商標権の移転登録は無効であると考え,引用商標1及び引用商標2に係る商標権の名義を被請求人から請求人に戻すため,平成30年9月28日に,引用商標1及び引用商標2に係る商標権の移転登録の抹消登録手続を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(平成30年(ワ)第30804号)。
当該訴訟において,被請求人(被告)は,期日に出頭せず,また,答弁書その他の準備書面の提出もしなかった。そのため,請求原因事実について自白したものとみなされ,引用商標1及び引用商標2に係る商標権の前記移転登録の抹消登録を命じる判決が下され,その判決が確定した(甲9)。
請求人は,この判決を基に,引用商標1及び引用商標2に係る商標権について,令和元年5月16日に,前記移転登録の抹消登録申請書を特許庁に提出し,同月30日にその登録がなされた。
したがって,引用商標1及び引用商標2は,旧櫻山による出願及び登録以来,一貫して請求人の商標権であったことが確認され,商標原簿上もその事実が明確になった。
エ 刑事告訴
また,被請求人及びEは,上記引用商標1及び引用商標2に係る商標権の移転登録申請に際して,印鑑証明書が必要となったことから,請求人の役員であるKに対して,ものづくり補助金の手続において印鑑証明書が必要となった旨の嘘の電子メールを送信し,羽後町役場の職員までも利用して,印鑑証明書を取得した。当該行為は,詐欺罪に該当する行為である。
さらに,引用商標2に関し,当時旧櫻山の代表取締役の地位にいたEは,被請求人と共謀し,請求人に損害を加える目的で,請求人の財産である引用商標2に係る商標権を被請求人に移転した。当該行為は,特別背任罪に該当する行為である。
これらの他,被請求人は,請求人のラスクエ場において使用されていた固定電話回線及びインターネット回線を勝手に解約する等の偽計業務妨害罪に該当する行為を行った。
そこで,平成30年10月9日,請求人は,秋田県の湯沢警察署長に対して,これらの被請求人の行為について,告訴状を提出した(甲10)。
オ 刑事告発
加えて,被請求人及びEによる上記引用商標1及び引用商標2に係る商標権の移転登録申請は,請求人名義の印章が偽造され,偽の申請書が作成されて,その一連の手続が行われていた。
これらの行為は,有印私文書偽造罪や同行使罪,偽造私印使用罪に該当する行為である。
そこで,平成30年10月9日,請求人は,秋田県の湯沢警察署長に対して,これらの被請求人の行為について,告発状を提出した(甲11)。
(4)引用商標3について
引用商標3は,花柄の額のような図形中に,「CAFE」及び「OHZAN」の文字を中央に二段に書してなり,当該文字の上下には,フランス語で複数の説明書きがなされている態様からなるものである。
上述のとおり,請求人は,ラスクの製造・販売を業とする株式会社である。そして,菓子のブランド「CAFEOHZAN(カフェ・オウザン)」を運営している(甲12)。
この菓子ブランド「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」では,主に“クロワッサンラスク”や“スティックラスク”といった「ラスク」を製造販売している(甲13の1・2)。
ここで,請求人は,ラスクを販売する際,引用商標3が付された包装用箱にこれを梱包し(甲14の1・2),引用商標3や「CAFE OHZAN」と記載したリーフレットを添えて販売している(甲15)。
また,請求人は,引用商標3及び「CAFE OHZAN」を記載した紙袋(甲16の1・2)や,引用商標3を付したビニール袋にラスクを入れて販売している(甲17の1・2)。さらに,請求人は,SNS「instagram」において,公式アカウントを設け,当該公式アカウントのページに引用商標3を付して,ラスクに係る情報を提供している(甲18の1・2)。
そして,請求人は,本件商標の登録出願前から現在に至るまで,ラスクを,東京都内にある有名百貨店の銀座三越店や日本橋三越店等で店舗販売しており(甲19の1・2),またオンラインショップで全国販売している(甲13の1・2)。
このように,有名百貨店での店舗販売やオンラインショップによる全国販売を展開していく中で,「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」が製造販売するラスクの見た目の可愛らしさが注目され,「MORE」や「Sweet」,「CUTiE」,「週刊女性」,「anan」,「Hanako」等の多数の有名雑誌や書籍・ウェブサイト記事等で,請求人が運営する菓子ブランド「CAFEOHZAN(カフェ・オウザン)」のラスクが多く紹介されるに至った(甲20?甲37)。
このような販促活動やメディアへの掲載が奏功し,引用商標3を使用した請求人の「ラスク」の売上高は,直近約8年間で30億円以上にも上る。
期間 平成23年9月?平成24年8月 売上高 2億1039万円
期間 平成24年9月?平成25年8月 売上高 2億2001万円
期間 平成25年9月?平成26年8月 売上高 3億8148万円
期間 平成26年9月?平成27年8月 売上高 4億3960万円
期間 平成27年9月?平成28年8月 売上高 4億4093万円
期間 平成28年9月?平成29年8月 売上高 4億2172万円
期間 平成29年9月?平成30年8月 売上高 4億1966万円
期間 平成30年9月?令和元年7月 売上高 5億2689万円
合計 30億6070万円
したがって,引用商標3やその文字部分「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」は,請求人の商品「ラスク」を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものといえる。
(5)引用商標4及び引用商標5について
引用商標4は「オウザン」の文字からなり,引用商標5は「OHZAN」の文字からなる。
ところで,請求人の周知・著名な菓子ブランド「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」は,その構成中に「CAFE(カフェ)」の語を有しており,当該「CAFE(カフェ)」の文字部分は「飲食店,喫茶店」を意味するから,食品の分野において自他商品識別力が比較的弱い語である。また,引用商標3の態様において,「CAFE」の文字は,比較的小さく書されている。これに対し,「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」を構成する「OHZAN(オウザン)」の文字部分は,請求人の名称に含まれる「櫻山」の文字を欧文字又は片仮名で表記したものであり,食品の分野において,自他商品識別力を顕著に有するものである。また,引用商標3の態様において,「OHZAN」の文字は,中央に大きく書されている。
そうすると,取引者・需要者が引用商標3や「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」の文字に接した場合,これらのうち「OHZAN(オウザン)」の文字部分が自他商品役務の識別標識として認識され取引に資されると考えるのが自然である。
そうであれば,引用商標3や「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」が,請求人の商品「ラスク」を表示するものとして需要者の間に広く認識されている状況においては,引用商標4「オウザン」や引用商標5「OHZAN」についても,請求人の商品「ラスク」を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものといえる。
(6)引用商標6について
また,引用商標6は「櫻山」の文字からなるところ,「櫻山」は,旧櫻山(株式会社櫻山)の略称であり,現在も請求人の社名の一部に採用されている文字である。
そして,取引者・需要者が引用商標3や「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」に接した場合,これらのうち「OHZAN(オウザン)」の部分が自他商品役務の識別標識として認識され取引に資される状況においては,即座に,請求人の社名が想起され,「櫻山」との表記に思い至るものであるから,引用商標6「櫻山」についても,請求人の商品「ラスク」を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものといえる。
(7)無効理由の根拠法条への該当性
ア 商標法第4条第1項第7号について
(ア)請求人による商標の使用及び商標登録
請求人が,本件商標の出願前から,引用商標3や「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」の名称を使用して,商品「ラスク」を販売していることは上記のとおりである。そして,これに関連して,引用商標1「オウザンのクロワッサン・ラスク」や引用商標2「OHZAN/クロワッサン・デコラスク」について商標登録を受けている。
(イ)被請求人らの行為
被請求人とEとは,上記(2)のとおりの者であり,上記(3)のとおり,引用商標1及び引用商標2について,請求人から被請求人への商標権の移転登録申請を行ったところ,これらの移転登録申請による移転登録は,判決により,抹消登録を命じられた(甲9)。
また,上記(3)エのとおり,被請求人は,Eが旧櫻山の代表取締役及び取締役を退任する数ヶ月前から今日に至るまで,請求人に損害を加える行為を行っている。
(ウ)請求人の商標と本件商標の類似性
本件商標は,「オウザンのキューブラスク」の文字からなる商標である。そして,本件商標に含まれる「オウザン」の文字部分は,請求人が現に使用する引用商標3や「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」のうち,自他商品識別力を顕著に有する部分「OHZAN(オウザン)」の片仮名表記と完全に一致する。一方,本件商標に含まれる「キューブラスク」の文字部分は,本件商標の指定商品「ラスク」との関係においては,“立方体状のラスクを暗示し,「オウザン」と比較すると,自他商品識別力が弱いものである。
そうすると,本件商標と,請求人が現に使用する引用商標3や「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」とは,その自他商品識別力を顕著に有する部分の表記や称呼が共通するといわざるを得ない。
また,本件商標と引用商標1とは,ともに「オウザンの」の文字に,商品の形態を暗示し,かつ「ラスク」の文字を語尾に有する言葉を付加した構成からなるもので,その構成の軌を一とするものである。
そのため,請求人の上記商標と,本件商標とは,その類似性が極めて高いといわざるを得ず,このような類似性が高い本件商標を,被請求人が商標として偶然に採用したとは考え難い。
(エ)本件商標の指定商品と請求人の商品との関連性
本件商標の指定商品は「ラスク」であり,請求人の商品と完全に一致する。
(オ)検討
一般に,ある会社の退任取締役は,当該会社との間で競業避止義務を無条件に負うものではないが,それは,当然ながら公正な取引秩序の下において許されるものである。そして,退任取締役が,退任した会社の商品と同種の商品に,退任した会社が使用していた商標と誤認混同を生じるような商標を使用する行為は,当該退任した会社の信用たる資産を冒用して,当該退任した会社の信用にただ乗りする行為であって,公正な取引秩序に反し,競業避止義務を負わない場合においても許容されるものではない。
これを本件についてみるに,本件商標は,請求人が現に使用し自他商品識別力を顕著に有する「OHZAN(オウザン)」の片仮名表記「オウザン」を含む商標であって,請求人の上記商標と類似性が極めて高いものである。また,本件商標の指定商品は,請求人の商品「ラスク」と同じ商品を指定商品とするものである。そうすると,旧櫻山の代表取締役及び取締役であったEやその近親者である被請求人が,請求人とは無関係に本件商標を指定商品に使用する行為は,請求人の商品と同一の商品に,請求人が現に使用している商標と誤認混同を生じさせる商標を使用する行為であることは明らかである。そして,当該行為は,請求人がその前身である旧櫻山の頃から培ってきた信用たる資産を冒用し,信用にただ乗りする行為であって,その結果,商品の出所混同を生じせしめることは明らかである。そのため,当該行為は,公正な取引秩序に反し,許容されるものではない。
そうすると,被請求人による本件商標に係る商標登録出願は,引用商標1及び引用商標2に係る商標権の移転登録申請の企てと同様に,取引者・需要者をして商品の出所混同を生じさせ,また,請求人による引用商標3や「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」,「OHZAN」,「オウザン」等の文字の使用継続を阻止し,ひいては請求人による事業の継続を困難にする目的を有していたといわざるを得ない。
現に,請求人の引用商標3ないし引用商標6に係る商標登録出願は,本件商標を引用して拒絶理由通知を受けており,請求人は,その事業活動において被請求人から妨害を受け被害を被っている。
よって,当該目的を有する本件商標に係る商標登録出願は,その経緯において社会的相当性を欠く。
さらに,後述のとおり,本件商標は,本来,商標法第4条第1項第11号に該当し,登録できないものであったが,被請求人及びEが共謀して引用商標1及び引用商標2に係る商標権の移転登録を行うことにより,引用商標1及び引用商標2を理由とする拒絶を免れ,登録されたものである。
よって,本件商標は不法な方法で登録されたものといえ,その出願経緯において社会的相当性を欠く。
そのため,本件商標は,公序良俗違反となる商標の類型のうち,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形ではないものの,商標登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当するというべきである。
よって,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものである。
イ 商標法第4条第1項第11号について
(ア)本件商標
本件商標は「オウザンのキューブラスク」の文字を標準文字により書してなる構成である。また,その指定商品は,第30類「ラスク」である。
ここで,本件商標に含まれる「オウザン」の文字は,その構成自体からは特定の意味合いを有さない一種の造語であると認識されるものであって,自他商品識別力を十分に有する。
一方,「キューブラスク」の文字部分は,本件商標の指定商品寸ラスク」との関係においては,“立方体状のラスク”を暗示し,「オウザン」と比較すると,自他商品識別力が弱いものである。
そのため,本件商標は,「オウザンノキューブラスク」の称呼のほか,「オウザン」の称呼も生じるというべきである。
(イ)引用商標1
一方,引用商標1は,「オウザンのクロワッサン・ラスク」の文字を標準文字により書してなる構成である。また,その指定商品は,第30類「クロワッサン,ラスク」である。
ここで,引用商標1に含まれる「オウザン」の文字は,その構成自体からは特定の意味合いを有さない一種の造語であると認識されるものであって,自他商品識別力を十分に有する。
一方,「クロワッサン・ラスク」の文字部分は,引用商標1の指定商品「クロワッサン,ラスク」との関係においては,“クロワッサン状のラスク”を暗示し,「オウザン」と比較すると,自他商品識別力が弱いものである。
そのため,引用商標1は,「オウザンノクロワッサンラスク」の称呼のほか,「オウザン」の称呼も生じるというべきである。
(ウ)引用商標2
引用商標2は,桜の花びらが円で囲まれた図形と,その下に「OHZAN」の文字と「クロワッサン・デコラスク」の文字とを二段に配置した構成からなる。また,その指定商品は,第30類「クロワッサン,ラスク」である。
ここで,引用商標2の構成においては「OHZAN」の文字部分が顕著に大きく記載されていることから,引用商標2は,「オウザングクロワッサンデコラスク」の称呼のほか,「オウザン」の称呼も生じるというべきである。
(エ)検討
以上のとおり,本件商標と引用商標1及び引用商標2とは,「オウザン」の称呼において共通する。また,本件商標と引用商標1とは,ともに「オウザンの」の文字に,商品の形態を暗示し,かつ「ラスク」の文字を語尾に有する言葉を付加した構成からなるもので,その構成の軌を一にするものである。
そのため,本件商標と引用商標1及び引用商標2とは,少なくとも称呼を共通にし,特に引用商標1との関係においては,その外観においても極めて近似するといえ,これらが類似の商標であるのは明らかである。
また,本件商標の指定商品と引用商標1及び引用商標2の指定商品とは,第30類「ラスク」において同一である。
したがって,本件商標は,「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」に該当する。
なお,本件商標は,その出願時の審査において,引用商標1及び引用商標2を引用されることなく登録が認められたが,これは,前述のとおり,被請求人及びEが,共謀して,引用商標1及び同2に係る商標権の移転登録をしたことにより,他人の登録商標に該当しないと判断されたためである。
前述の訴訟において,当該移転登録の根拠となった譲渡行為の不存在が確認され,移転登録が抹消されたのであるから,当然に,出願時(査定時)において,引用商標1及び引用商標2が,本件商標に係る商標出願との関係において,他人の登録商標に該当していたことは明らかである。
ウ 商標法第4条第1項第10号について
(ア)本件商標について
本件商標は「オウザンのキューブラスク」の文字を標準文字で書してなる構成である。また,その指定商品は,第30類「ラスク」である。
ここで,本件商標から「オウザンノキューブラスク」の称呼のほか,「オウザン」の称呼も生じる点は,前述のとおりである。
(イ)引用商標について
(4)に述べたように,引用商標3は,請求人の商品「ラスク」を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものである。
そして,前述のとおり,引用商標3は「OHZAN」の文字部分が自他商品役務の識別標識として認識され取引に資されると考えるのが自然である。そうすると,引用商標3は,「オウザン」の称呼が生じる。
また,(5)及び(6)に述べたように,引用商標4ないし引用商標6は,請求人の商品「ラスク」を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものである。
そうすると,引用商標4ないし引用商標6は,いずれも,その構成に応じて「オウザン」の称呼が生じる。
(ウ)検討
以上のとおり,本件商標と引用商標3ないし引用商標6とは,「オウザン」の称呼において共通する類似の商標である。
また,本件商標の指定商品と,請求人の業務に係る引用商標3ないし引用商標6を使用している商品とは,「ラスク」において同一である。
したがって,本件商標は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」に該当する。
エ 商標法第4条第1項第15号について
上述のとおり,引用商標3ないし引用商標6は,請求人の商品「ラスク」を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている。
また,本件商標と,引用商標3ないし引用商標6は類似の商標である。そして,このような本件商標を商品「ラスク」に使用した場合,請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある。
そのため,本件商標が,商品「ラスク」について請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
オ 商標法第4条第1項第19号について
上述のとおり,引用商標3ないし引用商標6は,請求人の商品「ラスク」を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている。
そして,被請求人は,引用商標3ないし引用商標6と類似する商標である本件商標について,請求人の周知商標と同一又は類似する商標を不正の目的をもって使用するものであることは明らかである。
(8)結語
以上に説明したとおり,本件商標は商標法第4条第1項第7号,同項第11号,同項第10号,同項第15号及び同第19号に該当するものであって,本件商標登録に係る商標登録は同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである

第4 被請求人の答弁
被請求人は,請求人の主張に対し何ら答弁していない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき,利害関係について争いがないから,本案について判断する。
1 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は,上記第1のとおり,平成29年1月27日に登録出願,「オウザンのキューブラスク」の文字を標準文字で表してなるものであり,職権調査によれば,商標法第15条の2の規定に基づく拒絶理由の通知をされることなく,同年10月13日に設定登録されたものである。
(2)引用商標について
引用商標1は,上記第2の1のとおり,「オウザンのクロワッサン・ラスク」の文字を標準文字により表してなり,平成24年1月30日に登録出願,「株式会社櫻山」を権利者として同年8月3日に設定登録されたものであるが,同29年1月18日受付で特定承継による本件商標権の移転登録がされ,被請求人が権利者となった後,令和元年5月16日受付で判決による特定承継による本件商標権の移転登録の抹消がされ,同日受付で一般承継による本件商標権の移転登録がされて請求人が権利者となったものである。
また,引用商標2は,別掲1のとおりの構成からなり,平成24年2月6日に登録出願,「株式会社櫻山」を権利者として同年8月3日に設定登録されたものであるが,同28年11月21日受付で特定承継による本件商標権の移転登録がされ,被請求人が権利者となった後,令和元年5月16日受付で判決による特定承継による本件商標権の移転登録の抹消がされ,同日受付で一般承継による本件商標権の移転登録がされて請求人が権利者となったものである。
なお,上記判決(平成30年(ワ)第30804号 商標権移転登録抹消登録請求事件)の訴状(甲9)において,原告(審決注:請求人)は,引用商標1の移転登録申請書は,被告(審決注:被請求人),訴外Eまたはその意を受けた者によって偽造されたものであること,また,引用商標1及び引用商標2は,旧櫻山が債務者(審決注:被請求人)に譲渡した事実はそもそも存在しないから,引用商標1及び引用商標2に関する上記譲渡は無効である旨主張したのに対し,被告は,口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面の提出もしなかったため,請求原因事実について自白したものとみなされ,平成31年3月20日,引用商標1及び引用商標2に係る商標権の前記移転登録の抹消登録を命じる判決がなされたものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
ア 本件商標について
本件商標は,上記第1のとおり,平成29年1月27日に登録出願,「オウザンのキューブラスク」の文字を標準文字で表してなるところ,その構成は「オウザン」の文字と「キューブラスク」の文字を格助詞「の」で結合した商標であると容易に理解されるものである。
そして,本件商標の構成中「オウザン」の文字部分は,辞書に掲載されていない文字であって,特定の意味合いを有しない造語といえるものであるから,特定の観念を生じるものではない。また,「キューブラスク」の文字部分は,指定商品である「ラスク」との関係においては,「立方体状のラスク」を看取させるものであるから,自他商品の識別標識としての機能を有しないか又は極めて弱いといえるものである。
したがって,本件商標の文字部分においては,「オウザン」の文字が,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,同部分を本件商標の要部として抽出し,引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるというべきである。
以上によれば,本件商標は,その要部である「オウザン」の文字部分に相応して「オウザン」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。
イ 引用商標について
(ア)引用商標1について
引用商標1は,上記第2の1のとおり,「オウザンのクロワッサン・ラスク」の文字を標準文字により表してなるところ,その構成は「オウザン」の文字と「クロワッサン・ラスク」の文字を格助詞「の」で結合した商標であると容易に理解されるものである。
そして,引用商標1の構成中「オウザン」の文字部分は,辞書に掲載されていない文字であって,特定の意味合いを有しない造語といえるものであるから,特定の観念を生じるものではない。また,「クロワッサン・ラスク」の文字部分は,指定商品との関係においては,「クロワッサン,ラスク」を理解させ,商品の普通名称であるから,自他商品の識別標識としての機能を有しないか又は極めて弱いといえるものである。
したがって,引用商標1は,その要部である「オウザン」の文字部分に相応して「オウザン」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。
(イ)引用商標2について
引用商標2は,別掲1のとおり,円形内に5弁の花びらと山が描かれた図形(以下「図形部分」という。)と,その下部に大きく「OHZAN」の欧文字と小さく「クロワッサン・デコラスク」の片仮名(以下「文字部分」という。)を2段書きで横書きしてなるものである。
そして,図形部分は抽象的な図形であり,また,文字部分中の「OHZAN」の文字は,辞書等に掲載された語ではなく「クロワッサン・デコラスク」の片仮名と結合した文字部分全体としても特定の観念は生じないものであるから,図形部分と文字部分は,観念上のつながりがあるということはできない。
そうすると,引用商標2は,その構成における図形部分及び文字部分のそれぞれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえず,図形部分と文字部分は,それぞれ,自他商品の識別標識としての機能を有するものと認められる。
さらに,引用商標2の文字部分のうち,大きく顕著に表された「OHZAN」の文字部分が,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,同部分を引用商標2の要部として更に抽出し,本件商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるというべきである。
したがって,引用商標2は,その要部である「OHZAN」の文字部分に相応して「オウザン」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
(ア)本件商標と引用商標1との類否について
本件商標の要部である「オウザン」の文字部分と引用商標1の要部である「オウザン」の文字部分とを比較すると,両者はその構成文字を同じくするものであるから,外観については類似するといえる。また,両者の称呼は,「オウザン」であって同一である。さらに,両者は,いずれも特定の観念を生じないものであるから,観念については比較することができない。
そうすると,本件商標の要部である「オウザン」と引用商標1の要部である「オウザン」とは,観念において比較することができないとしても,外観において類似し,称呼が同一であるから類似の商標と認められる。
したがって,本件商標と引用商標1とは,互いに類似する商標であるといえる。
(イ)本件商標と引用商標2との類否について
本件商標の要部である「オウザン」の文字部分と引用商標2の要部である「OHZAN」の文字部分とを比較すると,外観においては,両者は,片仮名と欧文字という文字種を異にするものの,両者は共に態様上の特徴が認められない普通に用いられる方法で表されていることに加え,商標の使用においては,商標の構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で文字種を相互に変換して表記したり,デザイン化したりすることが一般的に行われている取引の実情があることに鑑みれば,両者における文字種の相違が,看者に対し,出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとまではいえない。また,両者の称呼は,「オウザン」であって同一である。さらに,両者は,いずれも特定の観念を生じないものであるから,観念については比較することができない。
そうすると,本件商標の要部である「オウザン」と引用商標2の要部である「OHZAN」とは,観念において比較することができないとしても,称呼において「オウザン」の称呼を同一にし,外観における差異についても,称呼の同一性を凌駕するほどの顕著な差異とはいえないことから,これらの外観,称呼及び観念によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合勘案すれば,両者は,相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。
したがって,本件商標と引用商標2とは,互いに類似する商標であるといえる。
(4)引用商標3ないし引用商標6は,本件商標を引用して商標法第4条第1項第11号該当する旨の拒絶理由の通知を受けている(職権調査)。
(5)上記(1)ないし(4)によれば,a 被請求人は,引用商標1について,平成29年1月18日受付で,引用商標2について,同28年11月21日受付で,それぞれ特定承継による本件商標権の移転登録により,旧櫻山からの譲渡により権利者となったこと,b 被請求人は,引用商標1の移転登録から9日後,引用商標2の移転登録後から2か月後に引用商標1及び引用商標2と類似する本件商標の登録出願を平成29年1月27日に行ったところ,査定時において引用商標1及び引用商標2の商標権者は被請求人であったため,拒絶理由の通知を受けることなく,同年10月13日にその商標登録を受けたこと,c 引用商標3ないし引用商標6は,本件商標を引用して商標法第4条第1項第11号該当する旨の拒絶理由の通知を受けていること,d 被請求人は,商標権移転登録抹消登録請求事件(平成30年(ワ)第30804号)において,引用商標1及び引用商標2に係る商標権の前記移転登録を請求人に無断で行ったと自白したものとみなされて,前記移転登録の抹消がされたこと,が認められる。
そうすると,被請求人は,本件商標の登録出願前に引用商標1及び引用商標2について,請求人に無断で移転登録を行い,商標法第4条第1項第11号の規定に該当することなく登録を受けた本件商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くというべきであり,また,その後,引用商標3ないし引用商標6は,本件商標を引用して商標法第4条第1項第11号該当する旨の拒絶理由の通知を受けていることも鑑みれば,被請求人は,本件商標について,請求人がその業務に係る商品について使用する標章であると知った上で,同商標が商標登録されていないことを奇貨として,何らかの不正な目的をもって登録出願したものというべきである。
以上からすれば,本件商標は,その出願の経緯,目的に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容できない場合に当たるものとして,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
商標法第4条第1項第11号は,「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するもの」について,登録を受けることができないと規定され,その判断時期は査定時である。
本件商標は,上記第1のとおり,平成29年1月27日に登録出願されたものであるのに対し,引用商標1は,上記第2の1のとおり,平成24年1月30日に登録出願,引用商標2は,上記第2の2のとおり,平成24年2月6日に登録出願されたものでる。
そして,本件商標の商標登録出願人は,「武富雅一」であり,他方,上記第2の1及び2のとおり本件商標の査定時には,引用商標1及び引用商標2の権利者は「武富雅一」に移転されており,いずれも同一の者であったといわざるを得ない。
そうすると,引用商標1及び引用商標2は,本件商標の査定時には,商標法第4条第1項第11号で規定する「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標」に該当しないというべきである。
したがって,本件商標は,その査定時において,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 使用商標の周知性について
請求人の提出した証拠及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
(1)請求人は,東京都中央区に所在する,菓子・コーヒー豆の製造販売を事業内容とする会社(甲12)であって,自社オンラインショップに引用商標3を掲載し,引用商標3を商品「ラスク」の包装箱に付して販売している(甲13)が,当該オンラインショップの印刷日は,本件商標の登録出願後のものである。
(2)商品「ラスク」の包装箱には,引用商標3(色彩が相違するものを含む。)が付された写真が掲載されている(甲14)。請求人は甲第14号証の1は,平成29年(2017年)8月17日に,甲第14号証の2は,令和元年(2019年)9月16日に,それぞれ撮影したと説明するが,いずれの撮影日も本件商標の登録査定後の日付けである。
(3)請求人のリーフレット(甲15)に,引用商標3が掲載され,請求人の取扱いに係る商品「ラスク」(スティックタイプ,クロワッサン型)は,銀座三越店,日本橋三越点,伊勢丹新宿店等の百貨店で販売されているが,当該リーフレットの作成日は不明である。
(4)請求人のSNS「instagram」における公式アカウントページ(甲18)に,引用商標3が掲載され,請求人の取扱いに係る商品「ラスク」が紹介されているが,当該SNSが投稿された日時は不明である。
(5)本件商標の登録査定日前に発行された雑誌「MORE 2014年3月号」,「NYLON JAPAN 2014年3月号」,「Sweet 2014年2月号」,「CUTiE 2014年2月号」,「週刊女性 2014年2月11日号」,「anan 2014年1月29日号」(甲20?甲25)に,請求人の取扱いに係る商品「ラスク」(スティックタイプ,クロワッサン型)が掲載されているが,当該雑誌の発行時期は平成26年(2014年)1月ないし3月である。
なお,当該雑誌には,引用商標4の「オウザン」,引用商標5の「OHZAN」,引用商標6の「櫻山」がそれぞれ単独で使用された証拠は見当たらない。
(6)請求人は,引用商標3を使用した商品「ラスク」の売上高は,平成23年9月ないし令和1年7月の8年間で30億円以上にも上ることから,引用商標3やその文字部分「CAFE OHZAN(カフェ・オウザン)」は,請求人の商品「ラスク」を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものといえる旨主張するが,これらの売上高,販売数,市場シェアなど販売実績を裏付ける証拠は提出されていない。
(7)上記(1)ないし(6)からすると,請求人は遅くとも平成26年(2014年)1月頃からスティックタイプ,クロワッサン型のラスクを販売し,百貨店に出店していることは認められるものの,自社オンラインショップ(甲13)の印刷日は,本件商標の登録出願後であること,請求人のリーフレット(甲15)の作成日は不明であること,請求人のSNS「instagram」の投稿日は不明であること,請求人の取扱いに係る商品「ラスク」が掲載された雑誌の発行時期は平成26年(2014年)のわずか3月といった短期間であること,請求人の取扱いに係る商品「ラスク」の販売実績を客観的に示す証拠は見いだせないことから,使用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品「ラスク」を表示するものとして我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
4 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号該当性について
使用商標は,上記3のとおり,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,我が国の需要者の間において広く認識されていると認めることはできないから,本件商標は,これに接する取引者,需要者が,使用商標を連想又は想起するものということはできない。
してみれば,本件商標は,商標権者がこれをその指定商品について使用しても,取引者,需要者をして使用商標を連想又は想起させることはなく,その商品が請求人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他,本件商標が出所の混同を生ずるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
上記1のとおり,本件商標は,不正の目的をもって登録出願したものというべきであるが,上記3のとおり,使用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものと認められないものである。
また,上記4のとおり,本件商標は使用商標を連想又は想起させるものではない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
6 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第11号,同項第15号又は同項第19号に違反してされたものということはできないものの,同項第7号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項の規定により,その登録は無効とすべきである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 引用商標2


別掲2 引用商標3(色彩は原本参照。)


審理終結日 2020-04-02 
結審通知日 2020-04-06 
審決日 2020-05-25 
出願番号 商願2017-7336(T2017-7336) 
審決分類 T 1 11・ 261- Z (W30)
T 1 11・ 263- Z (W30)
T 1 11・ 262- Z (W30)
T 1 11・ 22- Z (W30)
T 1 11・ 222- Z (W30)
T 1 11・ 271- Z (W30)
T 1 11・ 25- Z (W30)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上山 達也守屋 友宏 
特許庁審判長 岩崎 安子
特許庁審判官 大森 友子
平澤 芳行
登録日 2017-10-13 
登録番号 商標登録第5987055号(T5987055) 
商標の称呼 オウザンノキューブラスク、オウザン、オーザン、キューブラスク、キューブ 
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所 

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