ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部無効 商3条1項2号 慣用されているもの 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W44 審判 全部無効 商3条1項1号 普通名称 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W44 審判 全部無効 商3条2項 使用による自他商品の識別力 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W44 審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W44 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W44 |
---|---|
管理番号 | 1364096 |
審判番号 | 無効2018-890014 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2018-03-02 |
確定日 | 2020-06-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5665842号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5665842号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5665842号商標(以下「本件商標」という。)は,「MMPI」の欧文字を標準文字で表してなり,平成25年7月18日に登録出願,第44類「心理検査」を指定役務として,同26年3月20日に登録査定され,同年4月25日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第22号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 請求の理由 本件商標は,商標法第3条第1項第3号,同第1号,同第2号及び同第6号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号により,その登録は無効にするべきものである。 2 無効事由 (1)商標法第3条第1項第3号について 本件商標は,「MMPI」の欧文字を標準文字で表したものであるところ,「MMPI」とは,「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」の略称であり,「ミネソタ多面人格目録」あるいは「ミネソタ多面的人格目録」を意味する語であって,1940年代頃までに米国ミネソタ大学において開発され,その後も改訂を経ながら,世界90か国以上で使用されている質問紙法に基づいて性格傾向を把握する心理検査の名称である(甲3,甲5)。 このように「MMPI」が特定の検査の名称そのものであることは,被請求人(本件商標権者)自らも,別件訴訟事件における訴状(甲4,2頁下から5行目以降)において自認しているとおりである。「MMPI」という語が,世界的に普及している心理検査の一手法として,その役務の質,その他の特徴を指して普通に用いられる言葉であることは明らかである。 実際にも,MMPIに言及する書籍,論文等は多数に及ぶ。 南山堂医学大辞典等のほか,培風館「心理臨床大事典」1992年版(甲6)等の事典や,国内の多数の大学における心理学,精神保健学等における論文(甲7?甲10)等があり,我が国で検索可能なものだけでも600点以上に及ぶ論文数がある(甲11)。これらはいずれも上記の心理検査の一手法を指して「MMPI」の語を使用している。なお,MMPIに言及する論文には,請求人の商品である「MMPIハンドブック」(甲3)の著者である村上宣寛・村上千恵子の手による翻訳を引用しているものが多く,同氏らによる翻訳は学会においても高く評価されている(甲7?甲9)。 このように,「MMPI」は,世界的に普及している心理検査の一手法として,その役務の質その他の特徴を指して普通に用いられる語であるから,この語を,指定役務「第44類 心理検査」について,普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。 (2)商標法第3条第1項第1号又は同第2号について 上記のとおり,「MMPI」という語は,心理検査の一手法を指す普通名称又は慣用商標にすぎない。 よって,本件商標は,商標法第3条第1項第1号又は同第2号に該当する。 (3)商標法第3条第1項第6号について 上記のとおり,「MMPI」という語は,心理検査の一手法を意味する役務の質表示であるとともに,普通名称又は慣用商標であるから,これを指定役務「第44類 心理検査」において使用しても自他商品役務識別力を有しない。 よって,本件商標は,心理検査の需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができないものであるから,商標法第3条第1項第6号にも該当する。 (4)上申書(令和元年8月8日付け)における主張 ア 商標法第3条第1項第3号にかかる被請求人独自の解釈について 被請求人は,令和元年5月31日付け上申書において,商標法第3条第1項第3号にいう商品,役務の品質とは,「特定の出所にかかる商品・役務の個別的・限定的な品質ではなく,その商品・役務に共通する一般・普遍的な商品・役務の質を意味する」との独自の解釈を示した上で,本件商標である「MMPI」は特定の出所と結びついているから,同号の適用はないなどと,被請求人独自の解釈を展開する。 商標法第3条第1項第3号は,「商品の産地,販売地,原材料,効能,用途,数量,形状,生産若しくは使用の方法,若しくは時期その他の特徴・(中略)・役務の提供の場所・・・(以下略)」等々の諸要素を,「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」と規定しているところ,ここで列挙されている「産地」や「販売地」,「原材料」,「効能」,「用途」,「数量」等々の諸要素は,当然のことながら,ある種の商品又は役務に当然に共通することが想定されるものではなく,逆に本来的に個々の商品ないし役務ごとに異なるものであることが前提の事項ばかりであることは自明である。 つまり,これらの要素は,その性質からして本来的に,その商品・役務に「一般的,普遍的に共通する」要素などではあり得ない。 それにもかかわらず,「品質」の項目についてのみ,「その商品・役務に一般的,普遍的に共通する品質」であることが必要である,などとする解釈は不合理である。 商標法第3条第1項第3号にいうところの「商品・・の品質」とは,当然「特定の商品・役務」についての品質も含まれるものであり,本件商標の「MMPI」の語は,「ミネソタ多面的人格目録」という心理検査の普通名称又は心理検査の質その他の特徴を表す語として普通に用いられる方法で表示したものであるから,商標法第3条第1項第3号に該当する。 イ 被請求人の心理検査の「独自性」が,「MMPI」の普通名称性を失わせるものでないこと 被請求人は,同人が提供するという心理検査の内容につき,質問項目の言語,質問項目の数,配列,採点基準,実施方式,等の点をもって,「原版と異なり,全体として独自の手法による心理検査となっている」と主張し,このことをもって,「MMPI」は我が国においては被請求人の提供する心理検査役務を示すものであると主張するが,被請求人が指摘する上記の相違点は,いずれも外国語で作成された心理検査を自国内において利用できるようにするためには不可避の要素にすぎず,被請求人の独自性を示すものなどではあり得ない。 被請求人が「独自性」などと縷々述べたところで,被請求人の出版物に付された「MMPI」の語は,国際的に広く認知されている「ミネソタ大学が考案した『ミネソタ多面的人格目録』という心理検査の日本語版である」,ということを示す意味に他ならない。 米国原版との相違,被請求人版の独自性を強調しながらも,他方で「MMPI」の語をミネソタ大学から許諾を受けたなどと主張している被請求人の主張は,論理的に破綻しているといわざるを得ない。 本件商標において使用されている「MMPI」の語が,結局ミネソタ大学が考案した「ミネソタ多面的人格目録」という役務の質又は普通名称ないし慣用名称を指すものとして使用されていることは明らかである。 ウ ミネソタ大学の許諾の有無は,本無効審判において無関係であること 被請求人は,ミネソタ大学が米国において「MMPI」の商標を登録していることをもって,MMPIが「ミネソタ大学及びその許諾を受けた者の開発・提供する特定の出所にかかる心理検査を表示するものである」などと主張する。 しかしながら,そもそも国ごとの登録制度を前提とする商標権について,日本国内において商標権を有しない「ミネソタ大学の許諾」なるものが,日本国内における登録商標の有効性が問題となっている本件事案において問題となる余地はない。 被請求人が主張するところの「ミネソタ大学の許諾」は,著作物としてのMMPIを,日本国内において「翻訳出版」する場合に,著作権との関係で問題となることはあり得ても,商標登録の無効審判である本件においては関係ない。 エ 「長期にわたる独占使用状態」なるものが存在しないこと。 被請求人は,本件商標を,1963年以降現在に至るまで,約55年にわたり被請求人がほぼ独占的に使用してきたなどと主張し,さらには,「本件商標に接する需要者,取引者は,被請求人の業務に係る役務であることを直ちに認識できるに至っていた」などと主張する。 しかしながら,「MMPI」の語は,「ミネソタ大学開発にかかる心理検査の一手法」である「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」の「略称」として,世界的に,そして日本国内においても広く認知されてきたものであることは,被請求人提出に係る各資料からも明らかであり(乙79?乙95),この「MMPI」の語が「被請求人の業務に係る役務を表すもの」として認知されてきたなどという事実は存在しない。 被請求人は,同人の心理検査が,全国の医療機関,保健センター,大学,自治体,警察等において採用され,実施されていると主張するが,これらの心理検査の実施主体はいずれも,「『MMPI』とはミネソタ大学で開発された『ミネソタ多面的人格目録』」を指すものであると認識し,その信用のもとにこれを採用し,実施しているのであって,「株式会社三京房(被請求人)が提供する心理検査」であることを認識して採用,実施しているわけではない。 同様に,多くの書籍,論文等(乙79?85)で言及されるところの「MMPI」の語は,いずれもミネソタ大学の開発に係る「ミネソタ多面的人格目録」を意味する語として使用され,言及されているのであって,これを,「むしろ被請求人商標の周知著名性を示すものである」などと結論づける被請求人の主張は暴論の極みといわざるを得ない。 このように,上記被請求人提出に係る各資料の著者,及びこれら資料を読んだ「心理検査」の取引者,需要者らは,いずれも「MMPI」の語を,ミネソタ大学の開発に係る「ミネソタ多面的人格目録」を意味する語として認識してきたのであり,その意味で,「MMPI」の語は被請求人に「独占」などされることなく,国際的にも日本国内においても,広く普通名称,ミネソタ大学で開発された「ミネソタ多面的人格目録」という心理検査の内容や品質の表示として普通に使用されてきた。 また,被請求人が55年間にわたり,ほぼ独占的にこの心理検査役務を開発,提供してきたとの点や,我が国において本件心理検査(審決注:「MMPI」に係る心理検査)の質をコントロールしてきたのは被請求人である,との点も事実とは異なる。 被請求人提供に係る「MMPI」の翻訳に問題があったからこそ,前記村上氏らは村上版を出版するに至ったのであり,係る経緯については,村上版書籍中(甲18,25頁?33頁)においても詳述されているとおりである。 村上版は1992年より出版が開始され,出版当時から,学会誌において頻繁に宣伝広告が行われてきた(甲16)。 つまり,日本国内において「MMPI」の宣伝広告活動を行ってきたのは被請求人だけではなく,したがって「MMPI」イコール被請求人を指すものとしての認識が,日本国内において形成されているとの事実は存在しない。 オ 「MMPI」が造語ではないこと 被請求人は,令和元年5月17日付け上申書において,突如,「MMPI」は「造語」であるから,生来的に品質表示ではあり得ない,などという主張を追加した。 しかしながら,「MMPI」の語は,造語ではない。「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」の語が,「全体として品質表示に該当する」ことは,被請求人自らも認めているとおりであるところ(令和元年5月17日付け上申書),「MMPI」の語は,この「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」を構成する4つの単語の各頭文字「M」「M」「P」「I」をそのまま並べて表示した「略称」にすぎない。 このことは,被請求人自身も,上記新たな主張を追加した令和元年5月17日付け上申書以前において認めていたとおりである。 実際に,「MMPI」に関する多くの文献が,「MMPI」の語と「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」の語を併記し,又は「MMPI」が「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」の略称である旨を明記していることからしても,「MMPI」の語が,「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」の略称であることは明白である。 カ 「MMPI」の語が,被請求人の出所と当然に結びつくものではないこと 被請求人は,心理検査の名称が一般的に特定の開発,提供に係る業務を表示するものである,と主張し,TG性格検査,ロールシャッハテスト,内田クレペリン検査等を指摘する(平成31年1月31日上申書9頁以下)。 しかしながら,商標登録の可否はあくまでも登録申請時点における個別具体的判断に基づくものであるから,他の心理検査について商標登録されているとの事実は,被請求人主張の根拠とはならないし,「MMPI」の語が普通名称,品質表示である事実と何ら矛盾するものでもない。 また,心理検査がその開発提供元である出版社と一対一で結びつき,その名称は特定の出所とその出所に係る特定の役務の質を表している,との点についても,そもそもこのような理屈が一般論として通用するかについては争うところであるが,仮に,この被請求人の理屈を本件に当てはめるとすれば,「MMPI」という心理検査は,ミネソタ大学(のハザウェイとマッキンリー)と結びついて国際的に認知され,普通名称,品質表示,慣用商標,となっているのであって,被請求人を出所として表示する機能など有していない。 キ 被請求人は,同人が本件商標を50年以上独占的に使用してきたことを根拠として,普通名称ないし慣用商標であるはずがないなどと主張する(平成31年12月27日付け上申書)。 しかしながら,係る被請求人の主張も,およそ合理的理由になっていない。被請求人は「独占的に使用」と主張するが,「MMPI」の語は,ミネソタ大学が考案した「ミネソタ多面的人格目録」を指す語として世界的に広く慣用的に使用されてきたものであって,被請求人が「独占的に」使用してきたなどという事実はない。 上記のとおり,「MMPI」の語は,「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」を構成する4つの単語の各頭文字「M」「M」「P」「I」をそのまま並べて表示した「略称」にすぎないところ,商標法第3条第1項第1号にいう「普通名称」には,「略称」も含まれる(甲17)。 したがって,「MMPI」の語は普通名称,ないしは慣用商標に該当する。 ク 「MMPI」の語は,心理検査の一手法を意味する役務の質表示であると共に,普通名称又は慣用商標であるから,これを指定役務「第44類 心理検査」において使用しても自他商品役務識別力を有しない。 よって,本件商標は,心理検査の需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができないものであるから,商標法第3条第1項第6号に該当する。 ケ 特別顕著性がないこと (ア)被請求人は心理検査を実施していないこと 被請求人は,仮に,MMPIが,商標法第3条第1項第3号ないし同第1号,同第2号に該当する場合であっても,被請求人による長年の本件商標の使用により特別顕著性を有しているから,商標法第3条第2項により商標登録が認められると主張する。 しかしながら,そもそも被請求人は心理検査を自ら実施しておらず,「心理検査」について本件商標を使用していない。よって,被請求人が縷々主張するその他の事情を検討するまでもなく,特別顕著性を獲得する余地はない。 被請求人は,本件商標を心理検査について長年にわたり使用してきたと主張しているが,実際に被請求人が「心理検査」という役務を実施した実績については何ら主張立証されていない。 いかに本件商標を宣伝広告等に掲載したとしても,実際に,前提となる役務の提供,すなわち心理検査を実施し,その心理検査において本件商標を使用した実績がなければ特別顕著性など獲得し得るはずもない。 (イ)被請求人の商標としての使用がないこと また,被請求人が指定役務と同一又は類似する役務について本件商標を付していたと仮定しても,商標法第3条第2項によって特別顕著性を取得するためには,同法第3条第1項第3号から同第5号に該当する標章を「使用」し,その「使用の結果」として需要者が何人かの業務にかかる商品又は役務であることを認識することができる状態となることが必要であるところ,ここでいう標章の「使用」がいわゆる商標的使用,すなわち,「役務の提供にあたり,その出所を表示するために当該商標を使用すること」を意味することはいうまでもない。 そして,被請求人が発行する書籍を含め,我が国,あるいは世界中において,「MMPI」の語は,「ミネソタ大学のハザウェイとマッキンリーによって開発されたミネソタ多面的人格目録」という心理検査の質を表す語として表記されているのであって,被請求人という出所を表す機能を有しない。 よって,被請求人が仮に指定役務に「MMPI」の語を表記していたとしても,それは被請求人がその出所であることを表示する機能を有しないから,商標的使用に当たらず,したがって被請求人が特別顕著性を獲得することはいかなる観点から考えてもあり得ない。 コ MMPIは,本来的に550項目からなる心理検査であること さらに,被請求人は上記のとおり,被請求人版MMPIの特徴として550の質問項目をあげ,その上で,被請求人提出にかかる文献が,MMPIにつき,その質問項目を550個として紹介していることをもって,これらはいずれも被請求人版MMPIにつき言及しているものであるなどと主張するが,これもまた暴論である。 そもそも「MMPI」,すなわち「ミネソタ多面的人格目録」なる心理検査は,550項目である(甲3)。 この「550」という質問項目の数は,被請求人版に限らず,開発段階のミネソタ大学のオリジナル版,また日本国内で他の研究者らが翻訳した金沢大版,同志社版等においても共通するものである。 請求人書籍(村上版)及びミネソタ大学のオリジナル版において質問項目が566項目となっているのは,550項目中の16項目を重複させているからにすぎない。この16項目は,再検査指標,すなわちTR尺度と呼ばれるものであり,受検者の回答の一貫性を測定するために,敢えて16項目の重複する質問項目を含めたものである(甲3)。請求人書籍(村上版)やオリジナル版は,このTR尺度を採用しているにすぎないから,この場合であっても,内容に着目して質問項目の数を表現するとすれば,この重複する質問項目数(16個)を除外した550項目,ということとなる。 つまり,質問項目数の「550」/「566」という表記の差は,実際の重複項目を含めて表記するか,重複項目を除外して表記するかの差にすぎない。 このことは,ミネソタ大学版のMMPIについて解説する諸論文においても,その質問項目数を「550項目」として表現していることからも明らかである(甲20-1,2,甲21-1,2)。 以上のとおり,そもそもいわゆる「MMPI」,すなわちミネソタ大学が開発した「ミネソタ多面的人格目録」は本来的に550の質問項目を有するものであるから,「550の質問項目」は,被請求人の提供する心理検査の独自性を特段に裏付けるものでもなければ,「550の質問項目」イコール被請求人の提供する心理検査,という識別機能を裏付けるものでもない。 サ 以上のとおり,本件商標は,普通名称,慣用名称,役務の質表示に該当し,特別顕著性も獲得していない。 「MMPI」の語は,世界的に普及している心理検査の名称であり,本件商標の指定役務である心理検査の質その他の特徴を表す語である。 本件商標は,これを「MMPI」と普通に用いられる方法で表示する商標のみからなる商標であるから,「役務の質表示」として商標法第3条第1項第3号に該当する。 第3 被請求人の答弁 被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第173号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 被請求人について 被請求人は,肩書地に本店を置く出版社であり,1956年創業以来,心理検査を専門に出版を手がけ国内において高く評価されている株式会社であり,被請求人が出版している各種心理検査は,内外の大学研究者,研究機関等とタイアップして作成しており,例えば「SDSうつ性自己評価尺度」,「CMI健康調査表」,「ベントン視覚記銘検査」等々信頼できる心理検査として,臨床の場でも診断用にも多くの利用の実績を有している。 2 商標法第3条第1項第3号該当性について (1)「MMPI」について 「MMPI」は,心理検査との関係では,題号又は一般名称ではなく,単に役務の質を表示するものではない。加えて,本件商標の登録査定時である2014年3月20日において,「MMPI」は被請求人が提供する心理検査を表すものとして心理検査の需要者・取引者の間で周知著名となっていたものである。 (2)「MMPI」が一般的な役務の質を表示するものではない点について 「MMPI」は,「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」の略称であるところ,「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」は,ミネソタ大学のHathawayとMcKinleyによって開発された多数の質問項目からなる心理検査の著作物の題号である。我が国では,ミネソタ大学側と代理店を通じて契約を結んだA氏により翻訳及び標準化が行われ,A氏から許諾された被請求人が出版するとともに,「MMPI」の商標の下で,心理検査役務を提供している(乙32)。 被請求人が「MMPI」の商標の下で提供する心理検査役務は,需要者・取引者の用途・目的・属性等に合わせて,適切に検査が実施できるように,複数のパターン,質問票,回答用紙,採点盤,採点プログラム等が用意され(乙33?乙36),さらにコンピュータ採点サービスとからなり,「MMPI」はそれら全体の心理検査役務の提供を表示するものとして使用されている。 これらの各心理検査は,ミネソタ大学が開発した英語版の質問項目に由来・関連するものではあるが,被請求人による標準化が加えられ精選された質問票,回答用紙,自動診断システム,解析サービスとからなる,全体として独自の手法による心理検査役務というべきものである。 以上のように,「MMPI」は,現実に心理検査役務の出所識別標識として機能を発揮しており,心理検査役務との関係では,題号又は一般名称ではなく,単に役務の質を表示するものではない。 また,「MMPI」は,ミネソタ大学及びその許諾を受けた者が,標準化,臨床・研究を通じて普段に改良を加え,質を担保・コントロールしており,ミネソタ大学及びその許諾を受けた者に係る特定の心理検査を表示するものであるから,一般的な商品・役務の品質・質の内容を表示するものではない。 したがって,本件商標は,本来的な識別力を有するものであり,商標法第3条第1項第3号に該当しない。 3 商標法第3条第2項該当性について 被請求人は,1963年に「MMPI」の商標を使用して心理検査役務の提供を開始し(乙28?乙30),現在に至るまで,55年という長期にわたり,本件商標を継続して使用してきた。その結果,本件商標は,50年を超える極めて長期間にわたる使用の結果,本件商標の登録査定時において,心理検査役務の需要者・取引者の間において,被請求人の業務に係る心理検査役務を表示するものとして周知著名となっていた。 多数の精神医学・心理学に関する書籍において,「MMPI」が紹介されているが(乙79?乙95),いずれも被請求人に係る心理検査の特徴に基づいて解説されており,被請求人の心理検査について記述しているものである。また,被請求人以外の出版社に言及されている記述は一切見当たらない。このことは,我が国において,「MMPI」は,各々書籍の執筆時において,被請求人の提供に係る特定の心理検査を内容とし,被請求人の出所に係るものであると認識・理解されていたことを示している。 さらに,被請求人は,1966年から現在に至るまで,精神医学,心身医学,臨床心理学,神経心理学,教育心理学など様々な専門分野の学会誌,学術的専門誌に「MMPI」を使用した心理検査役務を提供している旨を表す広告を掲載してきた(乙49?乙54,乙96?乙141)。これらの広告により,被請求人は1966年から現在に至るまで「MMPI」を使用した心理検査役務を提供している旨を,延べ会員数70,000人を越える専門家に対して毎年継続的に周知し続けてきた。毎年度のカタログの郵送(乙48)並びにこれらの広告活動により,心理検査を取り扱う専門家の間で,「MMPI」は被請求人の業務に係る役務であることが認知されていたことは明らかである。 また,学術誌・大会プログラムには,製薬会社,医療機器メーカーの広告に加えて,日本の代表的な心理学関係の専門出版社の広告が多数掲載されているが,いずれの心理学関係の出版社においても,被請求人に関するもの以外,「MMPI」という用語すら一切使用されておらず,このことから心理検査を取り扱う専門家の間で,被請求人のみが「MMPI」を独占的に使用しており,これに係る役務を提供していることが認知されていたといえる。 よって,本件商標は,登録査定時において,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができ,商標法第3条第1項第3号にかかわらず,同第2項により商標登録を受けることができたものである。 ちなみに,被請求人は,出版を開始した1960年代から,全国の医療機関,保険センター,心理学を専攻する全国の大学,自治体,警察等に対して毎年約6万部のカタログを郵送し,さらにメールにより送信しており,被請求人の心理検査は,全国の医療機関,保険センター,心理学を専攻する全国の大学,自治体,警察等において,毎年のように採用され,実施されている(乙55?乙66)。 4 商標法第3条第1項第1号及び同第2号該当性について 本件商標は,50年以上にわたり,被請求人がほぼ独占的に使用してきたのであり,被請求人の提供する心理検査を表すものとして,その需要者・取引者の間で周知著名となっていた。 請求人は,「普通名称」には,「略称」も含まれるとされているところ,「MMPI」の語は,「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」を構成する4つの単語の各頭文字「M」「M」「P」「I」をそのまま並べて表示した「略称」にすぎず,いわゆる「造語」などではないと主張している。 しかし,造語とは,既存の語を組み合わせるなどして作られた新語であり,既存の単語の各頭文字を並べて表示したものも,造語に該当する。さらに,元の各単語が普通名称であるとしても,その頭文字を並べて表示した略称が直ちに普通名称になるわけではない。また,「普通名称」には,「略称」も含まれるが,それは当該「略称」自体が,多数の取引者によって,ある商品又は役務について使用された結果,取引界においてその名称が特定の業務を営む者から流出した商品又は役務を指称するのではなく,その商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているものをいうのである。 ちなみに,一般需要者である被験者は,「MMPI」が「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」の頭韻からなる略称であると想像することすらできず,欧文字4文字が羅列された完全な造語としか認識しない。 よって,「MMPI」は完全な造語であり,したがって,一般的な役務の種類,属性といった質を表示するものではなく,被請求人の業務に係る個別・具体的な質を表示するものである。 したがって,本件商標は,普通名称又は慣用商標ではなく,商標法第3条第1項第1号又は同第2号に該当しない。 5 商標法第3条第1項第6号該当性について 上記のとおり,本件商標は,本来的な識別力を有し,被請求人の心理検査役務として周知著名であるから,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものである。 したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第6号に該当しない。 第4 当審の判断 請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては,当事者間に争いがないので,本案について判断する。 1 請求人及び被請求人提出の各号証によれば,次のとおりである。 (1)被請求人について 被請求人は,京都市東山区に本店を置く出版社であり,1956年創業以来,心理検査を専門に出版を手がけ,「新日本版 MMPIマニュアル」等,MMPIに関連する印刷物を出版している。 (2)「MMPI」について ア 2001年1月1日発行の「国際的質問紙法心理テスト MMPI-2とMMPI-Aの研究」(非売品)には,「はじめに」の項に,「質問紙法心理テストとして国際的に認められたものにMinnesota Multiphasic Personality Inventory(MMPIと略称)があります。」の記載,3ページの「第2章 MMPIの発展およびMMPI-2の作成経過」の「I MMPI-1からMMPI-2へ」の項に「MMPI(略)は1939年,北アメリカの心理学者,Hathaway SR.と精神科医,McKinley JC.によって考案された質問紙法人格検査で,世界各国の精神医療,産業,教育,司法など様々な分野で利用されている。」の記載がある(甲10)。 イ 発行日は不明であるが,「培風館」発行と推認できる「心理臨床大事典」の499ページには,「[26]MMPI(ミネソタ多面的人格目録)」の「1.はじめに」の項に,「MMPIは,Minnesota Multiphasic Personality Inventoryの略称で,1942年にミネソタ大学のハザウェイHathaway,S.R.とマッキンリーMckinley,J.C.によって作成された心理テストである。」の記載がある(甲6)。 ウ 平成25年3月10日,丸善出版株式会社発行の「臨床心理アセスメント 新訂版」には,「第6章 人格検査」の「6.3 質問紙法」に,「(2)ミネソタ多面的人格目録(MMPI)」の項があり,そこには「1)名称:ミネソタ多面的人格目録」,「2)著者名:原著:Hathaway,S.R.・McKinley,J.C. 日本版:MMPI新日本研究会」,「3)出版社:三京房」「6)発行年:原著:1943年 日本版:1993年」の記載がある。 また,「7)検査内容と方法」に「テスト内容」として「MMPIはミネソタ大学のハサウェイ(Hathaway,S.R.)とマッキンリー(McKinley,J.C.)によって作成された質問紙法による性格検査である.1930年代後半から開発が進められ,1943年に最初の手引きが刊行された.以来,今日に至るまで研究面でも臨床面でも世界中で多く用いられ,使用頻度の最も多い性格検査の一つとして知られている.」の記載がある(乙1)。 エ 2016年1月28日発行の「精神科臨床評価マニュアル[2016年版]」(臨床精神医学第44巻増刊号(2015))の166ページには,「4 MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory・ミネソタ多面人格目録)」の「1.概要」の項に「この検査は,1943年にミネソタ大学の心理学者HathawaySRと,精神医学者McKinley JCによって開発された人格目録であり,・・・被検者のpersonalityを叙述するための臨床査定の一手段として用いられるようになった。現在,米国をはじめ,世界的に見ても使用頻度・研究文献数ともに多い検査法である。」の記載がある(乙15)。 オ 我が国において,MMPIに係る論文等が1956年ないし2015年に多数発表されていることがうかがえる(甲7?甲9,甲11)。 (3)被請求人による「MMPI」の文字の使用例 ア マニュアル 題号として,「新日本版 MMPIマニュアル」の表示がある(乙27,乙73)。 イ 心理テストカタログ (ア)「’68 心理テストカタログ」の題号の下,「MMPI」に続いて「カード式,冊子式,非行性,MAS」の表示があり,2葉目以降の各ページの上端には黒塗り長方形内に「MMPI」の白抜き文字が表示されている(乙33)。 (イ)「’73 心理テストカタログ」の題号の下,「MMPI」に続いて「カード式,冊子式,非行性,MAS」の表示があり,2葉目以降の各ページの上端には黒塗り長方形内に「MMPI」の白抜き文字が表示されている(乙34)。 (ウ)「’93 心理テストカタログ」の題号の下,「MMPI」に続いて「カード式,冊子式」の表示があり,2葉目以降の各ページの上端には黒塗り長方形内に「MMPI」の白抜き文字が表示されている(乙35)。 (エ)「’18 心理テストカタログ」の題号,2葉目以降の各ページの上端には黒塗り長方形内に「MMPI」の白抜き文字が表示されている(乙36)。 (オ)「’19 心理検査カタログ」の題号,2葉目の上端には黒塗り長方形内に「MMPI」の白抜き文字が表示されている(乙150)。 ウ 質問票 (ア)題号として,「日本版 MMPI 質問票」の表示がある(乙37)。 (イ)表紙に,「Minnesota/Multiphasic/Personality/Inventory」(各単語を縦4段に表示),「S.R.HATHAWAY,PH.D and J.C.McKINLEY,M.D.」,「タイプ S 質問票」,「MMPI 新日本版研究会編」の表示がある(乙38)。 (ウ)表紙に,「Minnesota/Multiphasic/Personality/Inventory」(各単語を縦4段に表示),「S.R.HATHAWAY,PH.D and J.C.McKINLEY,M.D.」,「タイプ S 質問票 II」,「MMPI 新日本版研究会編」の表示がある(乙39)。 (エ)表紙に,「Minnesota/Multiphasic/Personality/Inventory」(各単語を縦4段に表示),「S.R.HATHAWAY,PH.D and J.C.McKINLEY,M.D.」,「タイプ B 質問票」,「MMPI 新日本版研究会編」の表示がある(乙40)。 (オ)表紙に,「Minnesota/Multiphasic/Personality/Inventory」(各単語を縦4段に表示),「S.R.HATHAWAY,PH.D and J.C.McKINLEY,M.D.」,「タイプ T 質問票」,「MMPI 新日本版研究会編」の表示がある(乙41)。 (カ)表紙に,「Minnesota/Multiphasic/Personality/Inventory」(各単語を縦4段に表示),「S.R.HATHAWAY,PH.D and J.C.McKINLEY,M.D.」,「タイプ A 質問票」,「MMPIタイプA質問票」,「MMPI 新日本版研究会編」の表示がある(乙70)。 エ 回答用紙 (ア)タイトル行に「MMPI III型 回答用紙(電子計算機用)」の表示がある(乙42)。 (イ)タイトル行に「MMPI S型 回答用紙(電子計算機用)」の表示がある(乙43)。 (ウ)タイトル行に「MMPI S型 回答用紙(電子計算機用)II」の表示がある(乙44)。 (エ)タイトル行に「MMPI T型 回答用紙」の表示がある(乙45)。 (オ)タイトル行に「MMPI 新版 冊子式 I型回答用紙」の表示がある(乙46)。 (カ)タイトル行に「MMPI回答用紙(II型)」の表示がある(乙47)。 (キ)タイトル行に「MMPI C型回答用紙」の表示がある(乙71)。 (4)被請求人による「MMPI」の宣伝広告 ア 学会や講演会等の案内に続いて,被請求人の出版物一覧のページの中に,「MMPI ミネソタ多面的人格目録」の記載がある(乙49?乙54)。 イ 心理学や精神医学等に係る雑誌の表紙に続いて,被請求人の出版物として「日本版 MMPI ミネソタ多面人格目録」,「新刊 MMPIマニュアル」,「MMPI(ミネソタ多面的人格目録)」等が記載されたページがある(乙96?乙141)。 2 上記1によれば,次のとおり認めることができる。 (1)被請求人は,京都市在の出版社であり,1993年に「新日本版 MMPIマニュアル」という印刷物を出版し(上記1(1)),そのほかに,被請求人が提供する心理検査に係る心理テストカタログ,質問票及び回答用紙に「MMPI」の文字を使用している。 そして,上記「新日本版 MMPIマニュアル」には,「第1章 MMPIの概要」に「MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory)は,ミネソタ大学の心理学者 Hathaway,S.R.と精神医学者 McKinley,J.C.(1943)が精神医学的診断に客観的な手段を提供する目的で作成した,質問紙法人格検査(人格目録)である。」との記載があり(乙73),さらに,心理テストカタログには,「MMPIは Minnesota Multiphasic Personality Inventory の略で米国ミネソタ大学 Hathaway(臨床心理学)McKinley(精神医学)両教授によって1940年初めて発表された人格目録テストである。」との記載がある(乙33?乙35)。 (2)「MMPI」は,「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(ミネソタ多面(的)人格目録)の略称であって,1940年頃にミネソタ大学の学者ハサウェイ氏(Hathaway,S.R.)とマッキンリー氏(McKinley,J.C.)によって作成され,1950年代に我が国に導入された心理検査(以下「本件心理検査」という場合がある。)の一つであって,今日に至るまで世界中で用いられ,使用頻度の多い検査法である(上記1(2))。 (3)そうすると,「MMPI」は,本件商標の登録査定時(平成26年3月20日)はもとより登録出願前から,本件商標の指定役務に係る学者や当該役務を提供する者の間に,本件心理検査を表す略称として知られているものであり,被請求人の使用に係る「MMPI」の文字も,本件心理検査の略称を表すものとみるのが相当である。 3 商標法第3条第1項第3号について (1)商標法第3条第1項第3号の趣旨 本号が,その役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格又は提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について商標登録の要件を欠くと規定しているのは,このような商標は,指定役務との関係で,その役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他役務の識別力を欠くものであることによるものと解される。 (2)商標法第3条第1項第3号の該当性 本件商標は,上記第1のとおり「MMPI」の欧文字を標準文字で表してなるものである。 そして,「MMPI」は,上記2(3)のとおり,本件商標の登録査定時はもとより登録出願前から,本件商標の指定役務に係る学者や当該役務を提供する者の間に,本件心理検査の略称として知られているものであり,同心理検査は,世界90か国以上で使用されていることがうかがえる。 そうすると,本件商標「MMPI」は,その登録査定時において,これをその指定役務について使用するときは,その役務が「MMPI」という本件心理検査であるという役務の質を表示,記述する標章であって,役務の提供に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,自他役務の識別力を欠くものであると判断するのが相当である。 したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。 4 商標法第3条第1項第1号及び同第2号について 本件商標を構成する「MMPI」の文字は,本件心理検査の略称であるから,本件商標の指定役務である「心理検査」を意味する普通名称又は慣用商標ということはできない。 したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第1号及び同第2号に該当しない。 5 商標法第3条第1項第6号について 商標法第3条第1項第6号は,「前各号に掲げるもののほか,・・・」と規定されているところ,本件商標は,前記のとおり,同第3号に該当するものであるから,これに重ねて,同第6号に該当するということはできない。 6 被請求人の主張について 被請求人は,「MMPI」は,一般的な商品・役務の品質・質の内容を表示するものではなく,本来的な識別力を有するものであり,長期間にわたる使用の結果,心理検査役務の需要者・取引者の間において,被請求人の業務に係る心理検査役務を表示するものとして周知著名となっていた。よって,本件商標は,登録査定時において,使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができ,商標法第3条第1項第3号にかかわらず,同第2項により商標登録を受けることができたものであると主張する。 しかしながら,「MMPI」は,ミネソタ大学の学者ハサウェイ氏(Hathaway,S.R.)とマッキンリー氏(McKinley,J.C.)によって開発された多数の質問項目からなる心理検査「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(本件心理検査)の略称であり,この事実は被請求人も認めている。 また,被請求人による「MMPI」の使用については,マニュアルの題号として「新日本版 MMPIマニュアル1993」の表示,心理テストカタログに「MMPI」の表示,心理検査の質問票のタイトルに「日本版 MMPI 質問票」,「Minnesota/Multiphasic/Personality/Inventory」(各単語を縦4段に表示),「S.R.HATHAWAY,PH.D and J.C.McKINLEY,M.D.」,「MMPI 新日本版研究会編」の表示及び心理検査の回答用紙に「MMPI S型 回答用紙」のように表示している事実が認められるところ,これらの表示中における「MMPI」の文字部分は,上記のとおり,本件心理検査の略称とみるのが相当であり,心理テストカタログ中には「MMPIは Minnesota Multiphasic Personality Inventory の略で米国ミネソタ大学 Hathaway(臨床心理学)McKinley(精神医学)両教授によって1940年初めて発表された人格目録テストである。」との記載もされており,質問票の表紙には本件心理検査の開発者の名称も表示されている。 さらに,専門誌,学会誌への広告においても,被請求人の出版物の題号として「MMPI ミネソタ多面的人格目録/S.R.Hathaway J.C.McKinley」,「ハサウェイ.マッキンレイ/MMPI(ミネソタ多面的人格目録)」と表示されており,本件心理検査の開発者の名称とともに表示された「MMPI」の文字は,本件心理検査の略称を表示したものとみるのが相当である。 以上のとおり,被請求人の使用に係るマニュアル,心理テストカタログ,質問票,回答用紙及び広告中における「MMPI」の文字は,いずれも心理検査の種類・方法としての本件心理検査を表示するものにすぎず,被請求人の出版物である「新日本版 MMPIマニュアル」や,質問票及び回答用紙が,被請求人独自のものであるとしても,これらに表示された「MMPI」の文字を,被請求人が提供する独自の心理検査役務を表すものとみることはできない上,被請求人の提出に係る全証拠をもってしても,本件商標に接する取引者,需要者が,「MMPI」の文字を,被請求人の提供する役務を表示するものと認識している事実を認めることはできない。 そうすると,被請求人が長期間にわたり「MMPI」の文字を使用して独占的に心理検査役務を提供してきたとしても,それをもって,本件商標が,被請求人の提供する役務を表示するものとして取引者,需要者間に広く認識されている商標とみることはできないから、本件商標は,被請求人の使用により識別力を獲得したものと認めることはできない。 したがって,被請求人の主張は,採用できない。 7 まとめ 以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当するものであって,同条第2項の要件を具備するものではなく,同条に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-03-26 |
結審通知日 | 2020-03-31 |
審決日 | 2020-04-23 |
出願番号 | 商願2013-59731(T2013-59731) |
審決分類 |
T
1
11・
17-
Z
(W44)
T 1 11・ 11- Z (W44) T 1 11・ 13- Z (W44) T 1 11・ 16- Z (W44) T 1 11・ 12- Z (W44) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
冨澤 美加 |
特許庁審判官 |
山田 正樹 小田 昌子 |
登録日 | 2014-04-25 |
登録番号 | 商標登録第5665842号(T5665842) |
商標の称呼 | エムエムピイアイ |
代理人 | 亀井 弘泰 |
代理人 | 近藤 美智子 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 誠 |