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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W35
審判 全部申立て  登録を維持 W35
管理番号 1363298 
異議申立番号 異議2019-900260 
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-11 
確定日 2020-06-05 
異議申立件数
事件の表示 登録第6155147号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6155147号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6155147商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成30年11月19日に登録出願、第35類「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、令和元年6月7日に登録査定、同月21日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は次のとおりであり、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(1)登録第1558196号(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:太字で表された「ESPRIT」の欧文字
指定商品(書換後):第24類及び第25類に属する商標登録原簿記載の商品
登録出願日:昭和53年12月11日
設定登録日:昭和57年12月24日
書換登録日:平成17年1月5日
最新更新登録日:平成24年12月4日
(2)登録第4749666号(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:「ESPRIT」の欧文字
指定商品:第3類及び第18類に属する商標登録原簿記載の商品
登録出願日:平成11年11月22日
設定登録日:平成16年2月20日
最新更新登録日:平成26年2月18日
(3)登録第2097119号(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
指定商品(書換後):第16類、第17類、第20類、第21類、第22類、第24類及び第25類に属する商標登録原簿記載の商品
登録出願日:昭和61年8月8日
設定登録日:昭和63年11月30日
書換登録日:平成21年3月25日
最新更新登録日:平成30年9月4日
(4)登録第2187153号(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
指定商品(書換後):第14類、第18類、第21類、第25類及び第26類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
登録出願日:昭和61年8月8日
設定登録日:平成元年11月28日
書換登録日:平成23年1月5日
最新更新登録日:令和元年7月30日
(5)登録第2710215号(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:「ESPRIT」の欧文字と「エスプリ」の片仮名を上下二段に書した構成
指定商品(書換後):第9類及び第14類に属する商標登録原簿記載の商品
登録出願日:平成元年2月21日
設定登録日:平成7年10月31日
書換登録日:平成18年8月9日
最新更新登録日:平成27年10月27日
以下、引用商標1、引用商標2及び引用商標5をまとめて「引用商標A」といい、引用商標3及び引用商標4をまとめて「引用商標B」といい、引用商標Aと引用商標Bをまとめて「引用商標」という。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第15号及び同第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第86号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第15号について
ア 引用商標の著名性について
(ア)申立人は、米国で設立された法人であり、親会社(ホールディングカンパニー)である「Esprit Holdings Limited」を組織の頂点とし、申立人を含むエスプリグループ(以下「申立人グループ」という。)は、1968年(昭和43年)に米国で創業し、現在は、香港とドイツに本社を置き、40か国以上で事業を展開し(甲7?甲9)、カジュアルウェア、衣料小物、バッグ、靴等のブランド名に「ESPRIT」(引用商標1及び引用商標2)、ブランドロゴとして語頭の「E」を図案化した「ESPRIT」(別掲2)(引用商標3及び引用商標4)(以下、引用商標1ないし引用商標4をまとめて「申立人ブランド」という。)を長年にわたり使用しており、片仮名表記の「エスプリ」は、我が国において申立人グループや申立人ブランドを指称するものとして、数多くのメディアや需要者らによって使用されている。
(イ)2018年(平成30年)6月末時点の申立人グループの店舗数は、直営店が586、フランチャイズ等を含む卸売り小売販売箇所が5,482、オンラインショップ数が20にものぼる(甲7)。また、申立人グループの近年(2014年度(平成26年度)ないし2018年度(平成30年度))の各年間総収入は、15,000,000,000香港ドルを下らない(甲10)。
(ウ)申立人グループの取扱商品は、カジュアルウェアを中心とする洋服類、衣料小物、袋物類、靴、時計、サングラス、傘など多岐に渡り、雑貨、リビング用品、香水類等(以下、申立人グループの取扱商品をまとめて「申立人商品」という。)も展開している(甲11、甲12)。
(エ)申立人グループは、香港株式市場に上場するアパレル大手として注目を集めており、その動向は、数々の雑誌、新聞、インターネットニュース記事において継続的に紹介されており、当該記事において、申立人グループは、「衣料大手」や「アパレル大手」として紹介され、常に「エスプリ」と略称されている。また、当該記事中に、引用商標Bが表示された店舗やパネルの写真が掲載されている(甲13?甲29)。これらの事実は、申立人グループ及び申立人ブランドの我が国における注目度を裏付けている。
(オ)申立人グループは、過去に、我が国において直営店舗を通じて事業を行っていた時期があり、近時も、他ブランドとのコラボレーションアイテムが我が国で販売された実績がある(甲30)。
(カ)申立人グループは、近時、欧州・アジア諸国において、数多くの直営店を展開しており、アジア諸国の店舗数は、2018年6月末時点で、中国145、台湾52、マレーシア29、シンガポール19、香港9、マカオ5店舗にのぼる(甲7)。
また、アジアの直営店がある国に関しては、日本人向けの観光情報として、申立人グループの店舗が多くのウェブサイトにおいて紹介されており、当該記事では、申立人ブランドは、常に「エスプリ」又は「ESPRIT」と表示され、その多くに引用商標Bが表示された店舗写真が掲載されている(甲32?甲41)。
さらに、申立人グループは、日系企業が運営するショッピングセンター、空港、百貨店等にも直営店を出店しており(甲42?甲50)、旅行用ガイドブック(シンガポール)の「主要ブランドショップリスト」の欄に、申立人グループの店舗が掲載されている(甲51、甲52)。
(キ)申立人グループの欧州の直営店舗数は、2018年6月末時点で、ドイツ140、スイス36、フランス11店舗にのぼる(甲7)。
特に、ドイツでは、ドイツのマーケティング調査会社の衣料品ブランドの認知度の調査の結果、申立人ブランドは上位に位置し、ドイツに関する情報を紹介するウェブサイトでも有名ブランドとして紹介されており(甲54?甲60)、また、フランスに関する情報を掲載したウェブサイトでも、申立人ブランドが紹介されている(甲61)。さらに、欧州の空港内に申立人グループの店舗が出店しており、これらの地域への日本人渡航者が申立人グループの商品に接する機会は少なくない(甲62?甲65)。
(ケ)以上のとおり、申立人グループは、日本からの渡航者が多いアジア諸国や、欧州地域では多くの店舗を展開しており、その情報も我が国において数多く出回っていることから、引用商標は、旅行者や海外ファッションに興味のある者を始めとする多くの日本人が接する機会があるといえる。
よって、引用商標は相当程度認知され、我が国においても高い名声、評価、信用を獲得するに至っている。
イ 本件商標との類否について
本件商標の構成中「エスプリ」及び「ESPRIT」の語は、「機知、才気」を意味する外来語及びフランス語であり、上記アのとおり、申立人ブランドを指称するものとして広く認識されているものである(甲68)。
これに対し、「SELECTION」の語は、「選ぶこと、特選品」等を意味する一般的な語であり、本件商標の指定役務を取り扱う業界においては、特別に選んだ贈答品等を提供することを表す語として一般に使用されている(甲69?甲74)から、本件商標の構成中、当該文字部分は、自他商品の識別標識としての機能が生じないか、極めて弱い語であるといえる。
そうすると、本件商標はその構成中「ESPRIT」の文字部分が自他商品の識別標識として看者に強く支配的な印象を与えることから、本件商標が称呼される場合には、欧文字の構成全体より「エスプリセレクション」の称呼が生じる他、強く印象付けられる「ESPRIT」の文字部分より「エスプリ」の称呼が生じ、引用商標は、いずれも「エスプリ」の称呼が生じることから、両商標は、「エスプリ」の称呼において共通する。
また、本件商標の要部である「ESPRIT」の文字部分からは「機知、才気」及び「申立人グループの取り扱いに係る著名な申立人ブランド」の観念が生じる。
他方、引用商標は、その構成文字より「機知、才気」及び「申立人グループの取り扱いに係る著名な申立人ブランド」の観念が生じる。
よって、本件商標と引用商標は観念においても共通する。
さらに、本件商標と引用商標は、欧文字「ESPRIT」の構成文字を共通にするため、本件商標と引用商標は外観上も近似した印象を与える。
ウ 出所の混同について
本件商標は、申立人ブランドを表示するものとして著名であり、かつ、申立人グループ自身を指称するハウスマークでもある「ESPRIT」をその構成中に含むから、「ESPRIT」の文字からなる引用商標Aと明らかに類似する。
また、本件商標の構成中「ESPRIT」の文字部分と申立人グループの著名なブランドロゴである引用商標Bは、その称呼及び観念が一致することから、類似性の程度が高いといえる。
そして、申立人グループが取り扱う商品が多分野、多種類に及び(甲11、甲12)、その小売の役務も提供していること、需要者・取引者及び事業の提供者が共通すること(甲78?甲80)、本件商標の指定役務の事業者と服飾ブランドとが提携し商品を開発・提供している実情(甲81?甲84)があるから、申立人グループが取り扱う商品と本件商標の指定役務は密接な関連性がある。
エ 小括
以上を総合すると、引用商標に類似する本件商標を使用した場合、取引者、需要者は、申立人又は申立人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であると混同するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第19号について
ア 申立人ブランドは、申立人グループが長年にわたり使用している世界的に著名なブランドであることにかんがみれば、1946年(昭和21年)に創業し、様々なギフト商品を提供してきた本件商標の商標権者が、「ESPRIT」が申立人ブランドであることを知らないはずはない(甲86)。
イ 本件商標は、引用商標と同一の構成文字「ESPRIT」を中央部に目立つように表してなるところ、本件商標と引用商標とは称呼及び観念を共通にし、互いに類似するものであり、また、商標権者による実際の使用商標は、「ESPRIT」の文字部分がより強く印象付けられるものであるから(甲85)、商標権者は、申立人グループの著名な申立人ブランドにより一層似せた態様で、本件商標を使用しているといえる。
ウ 小括
上記を総合すると、本件商標は、引用商標と偶然にその要部が一致したとは考え難く、申立人ブランドの持つ顧客吸引力を利用し、不当に利益を上げることを目的として出願され、使用されている商標であることが容易に推認できる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人は、引用商標が申立人グループの業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている旨主張しているところ、申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(ア)申立人グループは、1968年(昭和43年)に米国で設立された(甲9)。
(イ)申立人グループは、現在は、香港とドイツに本社を置き、2018年(平成30年)6月末時点で、アジア・欧州諸国を含む40か国以上で事業を展開し、586の直営店、5,482の卸売り小売販売箇所、20のオンラインショップを有している(甲7)。
また、申立人グループの近年の各年間総収入は、2014年度(平成26年度)から2018年度(平成30年度)にかけて、約24,000,000香港ドルから約15,000,000,000香港ドルを下らない旨主張している。
(ウ)申立人商品(洋服類、衣料小物、袋物類、靴、時計、サングラス、傘、キッチンウェア、キャンドル、フォトフレーム、リビング用品等)を展開しているとするウェブサイトには、引用商標Bが表示されている(甲11)。
(エ)2013年(平成25年)ないし2018年(平成30年)までの我が国の雑誌、新聞、インターネット記事において、申立人グループがアパレル大手である旨が記載され、申立人グループや申立人ブランドは、「エスプリ」と略称されており、また、当該記事の一部には、引用商標Bが表示された店舗やパネルの写真が掲載されている(甲13?甲29)。
(オ)我が国において、2016年(平成28年)から2017年(平成29年)にかけて、申立人グループと他ブランドとのコラボレーションアイテムが販売されており、申立人グループや申立人ブランドを表すものとして「エスプリ」「ESPRIT」の文字が使用されている(甲30)。
(カ)申立人グループは、近時、欧州・アジア諸国において、数多くの直営店を展開しており、アジア諸国の店舗数は、2018年(平成30年)6月末時点で、中国145、台湾52、マレーシア29、シンガポール19、香港9、マカオ5であり(甲7)、申立人グループの直営店がある国に関しては、日本人向けの観光情報として、申立人グループの店舗(香港、台湾、シンガポール等)の情報がウェブサイトにおいて紹介され、当該紹介記事中の一部の店舗写真に引用商標Bが表示されている(甲32?甲41)。
また、アジア諸国で日系企業が運営するショッピングセンター、空港、百貨店等にも直営店を出店しており(甲42?甲50)、日本人向けの旅行ガイドブックに申立人グループの店舗の情報が紹介されている(甲51、甲52)。
さらに、欧州の店舗数は、2018年(平成30年)6月末時点で、ドイツ140、スイス36、フランス11店舗にのぼり(甲7)、日本人向けのウェブサイトにおいて、申立人グループのドイツやフランスにおける直営店の情報が掲載されており、一部の店舗の写真に引用商標Bが表示されている(甲55?甲61)。
イ 上記アにおいて認定した事実によれば、申立人グループは、1968年(昭和43年)に米国で設立され、香港とドイツに本社を置き、アジア・欧州諸国を含む40か国以上で事業を展開していること、我が国において、申立人グループや申立人ブランドを指称するものとして「エスプリ」及び「ESPRIT」の文字が使用されていること、申立人グループの業務に係る申立人商品に引用商標Bが使用され、2013年(平成25年)ないし2018年(平成30年)までの我が国の雑誌、新聞、インターネットの記事中に、引用商標Bが表示された店舗写真が掲載されていること、申立人グループが運営するアジア・欧州諸国の直営店の店舗の一部に引用商標Bが表示されていることなどを認めることができる(甲7、甲9、甲11、甲12、甲13?甲30、甲32?甲41、甲55?甲61)。
しかしながら、引用商標Aについて、「エスプリ」及び「ESPRIT」が申立人グループ又は申立人ブランドを指称する語として、ある程度知られているとしても、引用商標Aの使用開始時期及び使用期間、申立人商品の我が国における販売実績、広告宣伝の期間、地域及び規模等の広告実績や市場シェア等を数量的に確認できる客観的な資料は提出されていない。
そのほかに、提出された証拠において、引用商標Aが、申立人グループの業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く知られていたといい得る証左を見いだすことができないから、引用商標Aが本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人グループの業務に係る商品を表示するものとして周知であったいうことはできない。
また、引用商標Bについて、申立人グループの業務に係る商品に引用商標Bが使用されていること、申立人グループに係る我が国の雑誌、新聞、インターネットの記事中に、引用商標Bが表示された店舗写真が掲載されていることはうかがえるものの、当該記事は、申立人グループの事業内容の紹介が主であり、引用商標Bの使用開始時期及び使用期間、申立人商品の我が国における販売実績、広告宣伝の期間、地域及び規模等の広告実績や市場シェア等を数量的に確認できる客観的な資料は提出されていない。
そのほかに、引用商標Bが、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、申立人グループの業務に係る商品を表示するものとして、周知性を獲得していると認めるに足りる証左は見いだせないことから、引用商標Bが、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人グループの業務に係る商品を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く知られていたと認めることはできない。
そして、引用商標Bの外国における周知性についても、アジア・欧州諸国に直営店舗が存在し、それらの店舗に引用商標Bが表示されていることから、アジア・欧州諸国の需要者、取引者の間である程度知られているといい得るとしても、外国における申立人商品の販売実績、広告実績等に係る主張はなく、その証左も見いだせないから、引用商標Bは、アジア・欧州諸国など外国における需要者の間で広く認識されているとまでは認めることはできない。
したがって、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人(申立人グループ)の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
なお、申立人は、過去に我が国において、申立人グループが直営店舗を通じて事業を行っていた時期があったと主張するが、現在は、我が国に申立人グループの直営店舗はなく、事業を行っていた具体的な時期などを確認できる証左は見いだせないから、当該主張のみをもって、引用商標が我が国の需要者の間で広く認識されているものと認めることはできない。
また、申立人は、2014年度(平成26年度)から2018年度(平成30年度)の販売実績や店舗数について、申立人グループの2018年(平成30年)6月30日付けの「ANNUAL REPORT」とされる証拠から抽出した表(甲10)を提出しているが、当該表は、英語表記のみで翻訳文もない上、当該表に記載された金額の根拠となる証左も見いだせないことから、客観性を有するものとはいい難く、かかる販売実績を直ちに採用することはできない。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標の周知性について
上記(1)イの認定のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人(申立人グループ)の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されているものと認められないものである。
イ 本件商標と引用商標の類似性について
(ア)本件商標
本件商標は、中央に大きく表された「ESPRIT」の欧文字の下に文字幅を合わせて「SELECTION」の欧文字を小さく表し、「ESPRIT」の欧文字の「E」の文字の上に小さく「エスプリ」の片仮名を付記的に配してなるものであるところ、それぞれの文字は外観上まとまりよく一体的に表されており、その構成中、「エスプリ」の片仮名は、その構成態様からみて、中央の「ESPRIT」の欧文字の読みを特定したものと無理なく理解させるものであり、また、その構成文字全体に相応して生じる「エスプリセレクション」の称呼も淀みなく一連に称呼し得るものである。
そして、本件商標の構成中の「SELECTION」の文字は、「選ばれた物」(「ベーシックジーニアス英和辞典」大修館書店発行)を意味する語であるとしても、本件申立てに係る指定役務の分野において、役務の質等を表していると認めるべき事情はなく、同構成中の「ESPRIT」の文字が、大きく表示されているとしても、「ESPRIT(エスプリ)」の文字部分と「SELECTION」の文字部分のいずれかの文字部分が独立して強く印象に残るとか、役務の出所識別標識としての機能に著しい差異がある等の事情も見いだせず、「SELECTION」の文字を無視して「ESPRIT」の文字のみにより、本件商標を認識するとはいえない。
そして、本件商標の構成中の「ESPRIT」の文字部分は、「機知、才気」を意味する外来語及びフランス語である(甲68)としても、本件商標を構成する「ESPRIT SELECTION」の文字全体は、辞書等に載録されておらず、特定の観念を生じない一種の造語とみるのが相当である。
なお、本件商標の構成中、「エスプリ」の片仮名は、上記のとおり、その構成態様からみて、中央の「ESPRIT」の欧文字の称呼を特定するために付記的に書されたものと理解されるものであり、かかる構成においては、本件商標から「エスプリ」の文字部分を自他役務の識別標識としての要部として、分離、抽出し、この部分から「エスプリ」の称呼が生じると認めることはできない。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「エスプリセレクション」のみの称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(イ)引用商標A
引用商標1及び引用商標2は、それぞれ「ESPRIT」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字に相応して「エスプリ」の称呼を生じるものであり、引用商標5は、「ESPRIT」の欧文字と「エスプリ」の片仮名を上下二段に横書きしてなるところ、下段の「エスプリ」の片仮名が上段の「ESPRIT」の欧文字の読みを特定したものと無理なく理解できるから、「エスプリ」の称呼を生じるものである。
また、「ESPRIT」の文字は、上記(ア)のとおり、「機知、才気」を意味する語であるから、引用商標Aは、「機知、才気」の観念を生じるものである。
(ウ)引用商標B
引用商標Bは、別掲2に示すとおりの構成からなるところ、全体構成からみて「ESPRIT」の文字をデザイン化したものと看取し得るものであるから、「エスプリ」の称呼を生じるものである。
また、「ESPRIT」の文字は、上記(ア)のとおり、「機知、才気」を意味する語であるから、引用商標Bは、「機知、才気」の観念を生じるものである。
(エ)本件商標と引用商標Aとの類否
本件商標と引用商標Aとの類否について検討すると、外観においては、「SELECTION」の欧文字の有無という顕著な差異を有するものであるから、両者は、外観上、明確に区別し得るものである。
次に、本件商標から生じる「エスプリセレクション」の称呼と引用商標Aから生じる「エスプリ」の称呼を比較すると、両者は、その音構成及び音数に明らかな差異が認められるものであるから、両者は、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。
さらに、観念においては、本件商標は、特定の観念を生じないのに対し、引用商標Aは、「機知、才気」の観念を生じるものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれのないものである。
そうすると、本件商標と引用商標Aは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれはないものであるから、両者は、商品の出所の混同を生ずるおそれのない、互いに非類似の商標というのが相当である。
その他、本件商標と引用商標Aが類似するというべき事情は見いだせない。
(オ)本件商標と引用商標Bとの類否
本件商標と引用商標Bとの類否について検討すると、外観においては、両者は、「SELECTION」の欧文字の有無及び「ESPRIT」の欧文字のデザイン化の有無という顕著な差異を有するものであるから、両者は、外観上、明確に区別し得るものである。
次に、本件商標から生じる「エスプリセレクション」の称呼と引用商標Bから生じる「エスプリ」の称呼を比較すると、両者は、その音構成及び音数に明らかな差異が認められるものであるから、両者は、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。
さらに、観念においては、本件商標は、特定の観念を生じないのに対し、引用商標Bは、「機知、才気」の観念を生じるものであるから、両者は、相紛れるおそれのないものである。
そうすると、本件商標と引用商標Bは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれはないものであるから、両者は、商品の出所の混同を生ずるおそれのない、互いに非類似の商標というのが相当である。
その他、本件商標と引用商標Bが類似するというべき事情は見いだせない。
(カ)本件商標と引用商標の類似性の程度
本件商標と引用商標とは、上記(エ)及び(オ)のとおり、非類似の商標であり、類似性の程度は低いというべきである。
ウ 小括
上記(1)イのとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人グループの業務に係る商品を表示するものとして我が国及び外国における需要者の間に広く認識されているものとは認められないものであり、上記(2)イのとおり、本件商標と引用商標の類似性の程度は低いものである。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定役務について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その役務が他人(申立人グループ)あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない
(3)商標法第4条第1項第19号該当性について
本号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前号各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そして、上記(1)イのとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人グループの業務に係る商品を表示するものとして我が国及び外国における需要者の間に広く認識されていたものと認められないものであり、上記(2)イのとおり、本件商標と引用商標は、非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
また、申立人が提出した証拠からは、商標権者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他の不正の目的をもって、剽窃的に本件商標を出願し、登録を受けたと認めるに足りる具体的事実を見いだすこともできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第19号のいずれにも該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
別掲1
本件商標


別掲2
引用商標B



異議決定日 2020-05-21 
出願番号 商願2018-142921(T2018-142921) 
審決分類 T 1 651・ 222- Y (W35)
T 1 651・ 271- Y (W35)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤藤 ことは 
特許庁審判長 冨澤 美加
特許庁審判官 小田 昌子
山田 正樹
登録日 2019-06-21 
登録番号 商標登録第6155147号(T6155147) 
権利者 株式会社ハーモニック
商標の称呼 エスプリセレクション、エスプリットセレクション、エスプリ、エスプリット、セレクション 
代理人 横川 聡子 
代理人 北口 貴大 
代理人 松浦 康次 
代理人 城山 康文 
代理人 岩瀬 吉和 

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