ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W09 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W09 審判 全部無効 観念類似 無効としない W09 審判 全部無効 外観類似 無効としない W09 |
---|---|
管理番号 | 1363221 |
審判番号 | 無効2019-890031 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2019-05-20 |
確定日 | 2020-05-19 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6076644号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6076644号商標(以下「本件商標」という。)は,「pixelAI」の文字を標準文字で表してなり,平成29年8月24日に登録出願,第9類に属する別掲1のとおりの商品,第12類及び第42類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として,同30年7月27日に登録査定され,同年8月31日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が,本件商標の登録の無効の理由において,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するとして引用する商標は,以下の登録商標(以下,これらをまとめていうときは「引用商標」という。)であって,いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。 1 登録第5608545号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の構成:PIXEL(標準文字) 優先権主張:トンガ王国 2012年(平成24年)10月12日 登録出願日:平成25年2月26日 設定登録日:平成25年8月16日 指定商品及び指定役務:第9類「コンピュータソフトウェア,コンピュータオペレーティングソフトウェア,コンピュータブラウジングソフトウェア,インターネットへのアクセスを提供するためのコンピュータソフトウェア,コンピュータハードウェア,電子計算機,デスクトップ型コンピュータ,ラップトップ型コンピュータ,タブレット型コンピュータ,携帯電話,携帯用通信機械器具,携帯情報端末装置,携帯用コンピュータ」,第35類「インターネット並びにその他のコンピュータ及び電子コミュニケーションネットワークを介して提供されるコンピュータソフトウェアの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,携帯用モバイルデジタル電子機器及びその他の家電において使用されるコンピュータソフトウェアの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び第42類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務 2 登録第5964093号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の構成:Pixel 登録出願日:平成28年9月30日 設定登録日:平成29年7月14日 指定商品:第9類「携帯電話機及びスマートフォン用のケース,携帯電話機及びスマートフォン用の保護カバー,スピーカー・ハンズフリー装置・ヘッドセット・ヘッドホン・キーボード・バッテリー及びケーブルを含むコンピュータ周辺機器」 3 登録第5969343号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の構成:別掲2のとおり 登録出願日:平成28年10月3日 設定登録日:平成29年8月4日 指定商品及び指定役務:第9類「携帯電話機及びスマートフォン,携帯電話機及びスマートフォン用のケース及び保護カバー,コンピュータハードウェア,電子計算機,デスクトップ型コンピュータ,ノートブック型コンピュータ,タブレット型コンピュータ,ラップトップ型コンピュータ専用キャリングケース,ノートブック型コンピュータ専用キャリングケース,タブレット型コンピュータ用保護カバー及びケース,ノートブック型コンピュータ及び携帯型メディアプレーヤー,音響・映像再生装置,音声制御方式のアンプ内蔵スピーカー,ホームエンターテインメントシステムの構成部品として販売される無線通信機能を有する家庭用音響・映像再生装置,ホームエンターテインメントシステムの構成部品として販売される無線通信機能を有する音声制御方式のアンプ内蔵スピーカー,スピーカー・ハンズフリー装置・ヘッドセット・ヘッドホン・キーボード・バッテリー及びケーブルを含むコンピュータ周辺機器,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,電線及びケーブル」及び第42類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務 第3 請求人の主張 請求人は,本件商標の指定商品及び指定役務中,第9類「全指定商品」(以下「本件請求商品」という場合がある。)についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を審判請求書,審判事件弁駁書及び上申書において,要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第38号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 請求理由 本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから,同法第46条第1項の規定により,その登録は無効とすべきものである。 (1)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標と引用商標の指定商品の類否 本件商標の第9類の指定商品は,「測定機械器具及びその部品並びに付属品,写真機械器具及びその付属品,映画機械器具,電子部品・半導体素子の電極,電極及びその部品,電気計算機,自動車に係わる各種情報を検出するための測定機械器具」を除き,そのいずれもが引用商標の指定商品及び指定役務と同一又は類似の商品である。 イ 本件商標と引用商標の商標態様及び類否 (ア)本件商標の「pixelAI」の文字は,複数の文字を組み合わせた結合商標であり,外観上も前半の「pixel」が欧文字の小文字,後半の「AI」が大文字のみである点で,文字部分に軽重の差があり,視覚上一体感があるとはいえず,各構成文字がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないものである。 また,本件商標の前半部をなす「pixel」と後半部の「AI」は,その意味内容において,なじまれた熟語的意味合いを有しているなど,観念上も,密接あるいは自然な関連性は全くないものである。 その他,両者を常に一体のものとして把握しなければならない格別の事情も見当たらない。 よって,外観上も,観念上も,両文字部分の結合が強いとは到底いえないものである。 (イ)本件商標の構成中「AI」の文字は,「人工知能(Artificial Intelligence)」を表す語として我が国においても広く知られており,「電気通信機械器具」又は「電子応用機械器具」の範ちゅうに属する商品(以下「電気通信機械器具等商品」という。)との関係では,「人工知能を利用した商品」といった商品の品質を表す文字であって,自他商品識別機能が全く認められないものである(甲3?甲6)。 また,請求人の調査によれば,被請求人自体も,自らの会社ホームページ上で,AIの内容自体には何の追加説明を加えなくとも,読み手がその内容を理解できる一般用語として普通に使用しているところである(甲37)。 (ウ)「pixel」(ピクセル)という文字そのものは,映像データやモニター装置の画素数等を示す単位であり,映像データやモニター装置の解像度,画素数等が,モニター装置を有する機械器具などの品質を評価する一要因であると仮定しても,単に,「pixel」(ピクセル)というだけでは,何らの品質評価をすることができない。これは,「pixel」(ピクセル)の文字が,「○○ピクセル」というように,具体的数値がこれと結びついて,初めて評価基準となりうる筋合のものだからである(甲23,甲24)。 してみると,本件商標の構成中の「pixel」の文字は,それに続く「AI」の文字とは一体的ではなく,かつ「AI」の文字が記述的文字であることを考え併せれば,「pixel」の文字が分離独立して,単独で出所表示機能を発揮する場合も少なくないというべきである。 さらには,請求人の引用商標を付した商品は,仮に我が国において,本件商標の登録出願時において,正規販売が開始されていなかったとしても,本件商標の指定商品を取り扱う,我が国の取引者・需要者の間で,請求人の商品を表示する商標として,相当程度認知されていたというべきであり,この点をとっても出所表示機能がないとは言い得ないものである。 (エ)そうすると,本件商標については,商標の構成部分の一部である「p ixel」の文字を分離抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,許されるというべきである(最高裁平成19年(行ヒ)第223号,同20年9月8日判決)。 してみれば,本件商標からは,「ピクセルエーアイ」の称呼のほかに「ピクセル」の称呼及び観念が分離して生じることは明らかである。 (オ)他方,引用商標は,その構成文字「PIXEL(Pixel)」又は構成中の文字「Pixel」に照応し,「ピクセル」の称呼及び観念が生じる。 (カ)したがって,本件商標と引用商標は,称呼及び観念において共通する類似の商標である。 ウ 「Pixel」や「AI」に係る登録例について (ア)特許庁が併存して登録を認めている商標が,「Pixel(pixel)」及びローマ字1字又は2字との組み合わせに係るものであるとしても,本件商標において組み合わされる「AI」の文字は,単なるローマ字2字という意味を超えて,「人工知能」を表示する一般的な用語として,本件商標の指定商品の分野で,一般的,普遍的に理解,把握され,使用されているものである点において,本件商標とは,事案を全く異にするものである。 (イ)また,「○○AI」及び「AI○○」の構成からなる商標と「○○」商標の併存例は,その組み合わせとなる「○○」の文字部分が「pixel」とは異なる文字に係るものであって,事案を異にするから,全く考慮の必要がないものである。 (ウ)被請求人がアメリカで行った「AI PIXEL」の商標出願に対しては,「AI」の文字部分は自他商品等識別機能を有しておらず,本質的登録性を有しない部分であるからディスクレーム(権利不要求)が求められている(甲25)。 エ 小括 以上のとおり,本件商標は,引用商標と称呼及び観念において共通する類似の商標であって,その指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。 (2)商標法第4条第1項第15号について ア 本件商標と引用商標の類似性の程度について 上記(1)イのとおり,本件商標の各構成文字は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない。また,本件商標の構成中の「AI」の文字は,自他商品識別機能が認められないものである。 さらに,後述するように,本件商標の構成中「pixel」の文字が,請求人の業務に係る商品を示すものとして取引者・需要者の間で広く知られるに至っているものであることに鑑みれば,本件商標に接する取引者・需要者をして,当該文字が強く印象付けられて特に注目される場合も少なくない。 よって,本件商標は「請求人の提供に係るスマートフォン・タブレット」である「Pixel」を想起,連想する点において,観念上も引用商標と類似する。 したがって,本件商標と引用商標の類似性の程度は極めて高いといわなければならない。 イ 引用商標の周知・著名性について (ア)請求人について 請求人は,1998年(平成10年)に米国で設立されたIT企業であって,各種のソフトウェアアプリケーションの提供によるサービスの提供を中心に事業を行ってきた(請求人主張)。 (イ)請求人のブランド「Pixel」について 請求人は,ハードウェアの分野にも進出しているところ,2013年(平成25年)2月発売の自社ブランドのノートブック型コンピュータ「Chromebook Pixel(2013)」に,引用商標に係る「Pixel」の名を用いた(甲7)。その後,2015年(平成27年)3月に「Chromebook Pixel(2015)」を発売,同年9月に初の自社開発タブレット型コンピュータ「Pixel C」を発表,2016年(平成28年)10月に「Pixel C」同様,自社設計の初のスマートフォン「Pixel」及び「Pixel XL」を発表,その後継機である「Pixel 2」及び「Pixel 2 XL」を2017年(平成29年)10月に発売した(甲8?甲15)。 請求人が運営する著名動画サイト「YouTube」に掲載したスマートフォンのプロモーションビデオの再生回数は,「Pixel」及び「Pixel XL」が,1,600万回を超え,また,「Pixel 2」及び「Pixel 2 XL」が600万回を超えた。 (ウ)インターネットメディアによる紹介記事を通じた引用商標の我が国における周知性について スマートフォン「Pixel」及び「Pixel XL」並びにそれらの後継機である「Pixel 2」及び「Pixel 2 XL」については,日本での正規販売は見送られた。 しかしながら,上記イ(イ)の各商品の発表又は発売については,その事実がインターネット記事等のメディア,個人ブログ等を通じて日本国内において紹介されてきた(甲8?甲15,甲26?甲29)。そして,それら各メディア等は,いずれもIT関連のニュース・コラムなどを掲載するインターネットサイトとして人気の高いものであり,月平均約1億ページビューを誇る著名なウェブサイトも含まれることから,引用商標を取り扱う業界における多くの取引者・需要者が閲覧していたと容易に推定されるところである。 また,用語辞典で有名な「知恵蔵」においても,「Google Pixel」が紹介されている(甲30)。 加えて,請求人が,独自に開発し,請求人独自のブランドで販売されたスマートフォンである「Pixel」の商品については,発売されていない我が国においても人気が高く,我が国での正式発売が見送られるたびに,それを残念に思うユーザーの声を反映した記事が掲載されている(甲31?甲34)。 このことからすれば,たとえ,本件商標の登録出願時,登録時の時点では,スマートフォン「Pixel」シリーズが我が国において正式販売が開始されていなかったとしても,スマートフォンを含む電気通信機械器具等商品の取引者・需要者の間において,相当程度認知されていたといっても過言ではない。 次世代スマートフォン「Pixel 3」(甲20,甲21)については,毎日新聞系の大手インターネットニュースメディアである「マイナビニュース」が,「Pixel 3」の発売(2018年(平成30年)11月1日)の直前に行ったインターネットアンケート(調査期間:2018年(平成30年)10月11日?13日,調査数:2000件)の結果,発売前にもかかわらず,40.0パーセントの認知度を叩き出し(甲35),ジャストシステムが行った同様の調査(調査期間:2018年(平成30年)10月25日?29日,調査数:1100件)でも,約3割の人が「Google Pixel 3」について認知しているとの結果が出た(甲36)。 スマートフォンである「Pixel」については,新規機種が発売されるタイミングで各種メディアにおいて話題となっているとともに,請求人が運営する検索サイト「Google Trends」においても検索ワードとして数多く検索されている(甲38)。 (エ)まとめ 以上より,仮に請求人のスマートフォン「Pixel」が本件商標の登録出願時,登録時においては,我が国において正式に発売が開始されていなかったとしても,本件商標の登録出願時において,引用商標に係る「PIXEL(Pixel)」の文字は,スマートフォン,コンピュータ端末(ノートブック型・タブレット型)等の電気通信機械器具等商品との関係で,請求人の業務に係る商品を示すものとして我が国の取引者・需要者の間で広く知られるに至っていたものである。 ウ 引用商標の独創性の程度について 引用商標に係る「PIXEL(Pixel)」の文字は,「画素数」の意味を有する既成語であって,造語商標ほどの独創性があるとまではいえないとしても,請求人の商標として有名であるところから,国語辞書において「2016年に米国グーグル社が発売したモバイル端末のシリーズ名。」などと掲載されているほどである(株式会社小学館「デジタル大辞泉」)。 しかも,引用商標の指定商品及び指定役務との関係で何ら直接的に商品の品質等の内容を示唆するものではなく,このような文字を採択すること自体,高い顕著性を有しているのであり,十分に独創的であるといえる。 エ 本件商標と引用商標の指定商品の関連性の程度について 本件請求商品は,請求人が,引用商標を使用している商品として,世界各国及び日本国内で広く知られるに至っている「スマートフォン,コンピュータ端末(ノートブック型・タブレット型)」と,同一若しくは類似の商品である,又は,商品の性質,機能,提供者及び目的を共通にするなど,いずれも非常に関連性の高い商品である。 オ 取引者・需要者の共通性その他取引の実情について 本件商標及び引用商標に係る取引者・需要者は,「AI」を用いた「半導体」等の電子応用機械器具,それらを部品として用いる電気通信機械器具・電子応用機械器具及びその部品,それらのソフトウェア,又は,それらに関連する研究開発サービスの利用者であり共通する(甲16?甲22)。 カ その他 ハウスマークのほか,多くのペットネームなどの商標登録を行うことは世間一般に行われているところ,ペットネームとハウスマークを同時に使用することも普通に行われていることであり,これがペットネームの希釈化を招くことはあり得ない。 キ 小括 以上の事情を総合的に勘案すれば,本件商標は,これに接する取引者・需要者に対して,引用商標を連想させて,請求人又は請求人と何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく商品の出所について誤認を生ずるおそれがあり,また,その登録を認めた場合には,引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招くという結果を免れない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 第4 被請求人の主張 被請求人は,結論同旨の審決を求めると主張し,その理由を答弁書及び上申書において,要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第32号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 答弁書における主張 (1)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標及び引用商標の構成の対比(総論) 本件商標は,「pixelAI」の標準文字を,同一の大きさかつ同一のフォントで,スペース等を挟むことなく一連に書してなるものであって,我が国で最も親しまれた外国語である英語風の発音に従い,「ピクセルエーアイ」の称呼が生じる。また,本件商標に相当する既成語はなく,一般に知られた意味合いもないため,本件商標からは特定の具体的観念は生じない。 これに対し,引用商標1及び2からは「ピクセル」,引用商標3からは「ピクセル」又は「ジーピクセル」の称呼が生じる。また,「pixel」の文字は「画素」を意味する英語として一般的に知られた語であるから,引用商標からは「画素」の観念が生じる。 したがって,本件商標と引用商標は,外観,称呼及び観念の何れにおいても異なる非類似の商標である。 本件商標は,「pixel」という文字自体が画素を意味する一般用語であって商品識別機能がないという事情,及び「pixel」の文字が取引の様々な場面で出所表示と関係なく広く使用されているという取引の実情に照らせば,商標の特定の部分だけを取り出す分離観察による類否判断が許される事例ではない(最高裁平成19年(行ヒ)第223号,同20年9月8日判決)。 本件商標は,あくまでも一体不可分の「pixelAI」として引用商標と対比されるべきである。 イ 本件商標の一体性 本件商標は,「pixelAI」という標準文字を同一のフォントかつ同一の大きさで,スペース等を挟まないで,等間隔で一連一体に表してなり,合計でわずか7文字よりなる構成であるので,これは一見してひとまとまりに把握するのが,取引上自然な商標であり,また,「ピクセルエーアイ」の称呼も,わずか8音で長音を伴ったリズムを有し,何らの苦もなく一息に発音できることから,その称呼に照らしても,これをひとまとまりに把握するのが,取引上自然な商標である。 また,その観念としても,「pixel」は画素を意味し,「AI」は人工知能をイメージさせ,いずれもそれ自体自他識別機能が強い表示ではないことに照らせば,「pixelAI」全体でひとつの造語を形成し,「pixel」又は「AI」の文字部分だけを分離して把握されるものではない。本件商標にあっては,それ自体は識別力が強いとはいえない「pixel」の文字部分は商標中に埋没し,「AI」の文字も「人工知能」をイメージさせるとしても,直接的,具体的な内容を直観させるとはいえない。 本件商標は,「pixelAI」の全体をもって,「画素」や「人工知能」のイメージが結び付き,例えば,何らかの先進的,近未来的な印象を与えるものとなっており,「pixel」及び「AI」の文字はいずれも不可欠な要素である。 本件商標は,その全体において独自の識別力を発揮するユニークな商標であり,一体不可分な商標としてとらえるのが取引上自然であって,その一部を抽出,除外して,分離観察を行うことはできない。 ウ 本件商標中の「pixel」を分離抽出することの誤り (ア)「pixel」の文字は「画素」を意味する一般用語であること そもそも「pixel」の文字自体は,「画素」を意味して用いられるありふれた一般用語である。「pixel」あるいはこれが日本語化した「ピクセル」という文字は,その意味合いや用いられ方から,本件商標の指定商品の分野において,自他商品識別力を有していないか,仮に有しているとしてもきわめて弱い自他商品識別力しか認められず,他の要素との組合せによってはじめて自他商品識別力を発揮し得る程度のものといってよい(乙1,乙2)。 このように,「pixel」及び「ピクセル」という文字は,画像との関連で用いられる際には,単に画像の構成単位を意味するにすぎず,当該画像についての説明的,記述的な文字と理解されるにすぎない。 そもそも,「pixel」及び「ピクセル」の文字が一般的な用語であることは,今にはじまったことではなく,遅くとも1990年代には,画像を構成する最小単位である「画素」を意味する文字としてよく知られていた(乙3,乙4)。 これら事典等の記載からも,「pixel」及び「ピクセル」の文字は,古くから「画素」を意味する文字として一般的に知られ,また,一般的,記述的に用いられてきたことが分かる。 このように,画像や映像に関して,「pixel」及び「ピクセル」の文字はまさに内容表示にすぎない。 さらに,「pixel」及び「ピクセル」の文字が画像の構成単位に関して用いられてきたことは,画像に直接関係する分野だけに限ったことではない(乙3,乙4)。コンピュータやグラフィックスの分野においては,モニタ,ディスプレイなどを通じて画像・映像が映し出されるのであり,これら分野にあって「pixel」及び「ピクセル」の文字は,製品や技術の内容表示としての性質を多分に有している。 また,広くテクノロジー(科学技術)の分野としても,専門的なコンピュータやグラフィックに限らず,個人用パソコン,プリンタ,スキャナ,スマートフォン,カメラ,テレビなど画像や映像の質,性能,仕様等が問われる商品が多数存在し,そこでは「pixel」,「ピクセル」及び「画素」の文字が一般的に用いられている。 したがって,テクノロジーが重視される本件商標の指定商品のような分野では,その分「pixel」及び「ピクセル」の文字も頻繁に用いられており,当該文字自体が非常にありふれた一般的な用語となっている。 (イ)実際の使用 本件商標の指定商品の分野と重なるパソコンやスマートフォン,ディスプレイやカメラ等の商品分野においては,画像の最小構成単位を表す「pixel」及び「ピクセル」の文字は,当該意味合いで広く一般的に用いられている(乙5?乙17)。 また,「pixel」及び「ピクセル」の文字は,3Dフードプリンタを紹介する記事(乙18)や,デザインの美しさについて比喩的に使用されている例(乙19)及び東京都における法人名の一部(乙20)として使用さている。してみれば,当該文字が一般社会においてありふれて用いられていることが理解される。 ここに掲げた使用例は,2001年(平成13年)ないし2018年(平成30年)の期間におけるわずかな例にすぎないが,これらを見るだけでも,辞書や用語事典に示す意味合いにおいて,「pixel」及び「ピクセル」の文字が実際に市場や取引において用いられていることが分かる。 (ウ)「pixel」及び「ピクセル」の文字自体の自他商品識別力 このように,もはや「pixel」及び「ピクセル」の文字は,画像や映像と密接に関連する商品により構成される本件商標の指定商品分野においては,その意味合いとの関係で,それ自体では商品の内容や品質を表示する語として,自他商品識別力を欠くか,自他商品識別力があっても極めて弱いものである。 したがって,本件商標の構成中「pixel」の部分のみが独立した自他商品の識別標識として機能することはないのであって,商標の類否判断において,「pixelAI」と一連に書してなる本件商標から「pixel」の文字部分のみを分離抽出して対比判断の対象とすることは誤りである。 引用商標についても,その構成中の「PIXEL」及び「Pixel」の文字は,本件商標の指定商品の分野において顕著な表示とはいい難い。引用商標は,単に,これが使用される商品について優れた解像度をうたったり,画素数を誇称したりする表示にすぎないともいえる。 以上のとおり,「pixel」の文字の意味合いや,その一般的理解に照らせば,この部分のみを本件商標より抽出することは誤りであり,その上で引用商標との類否を論じることも誤りである。 エ 本件商標から「AI」の文字部分を除外することの誤り 本件商標中「AI」の文字部分は,本来,本件商標の要部から分離除外されるべきものではない。 すなわち,本件商標中の「AI」の文字は,人工知能の意味合いにも通じるが,そのような意味合いに通じるからといって,本件商標の不可分の構成要素として「AI」の文字が存在することに変わりはなく,「pixelAI」が一体不可分であることにも変わりはない。 この点,先に見た用語事典では,「ピクセル(pixel)」と「AI」の文字は同じ「テクノロジー・コンピュータ」の分野における用語として掲載されている(乙3)。あるいは,「pixel」の文字が「コンピュータ・グラフィックス」の用語として掲載される一方,「AI」の文字もこれと近しい「情報科学(IT)・人工知能」の分野の用語として掲載されている(乙4)。 このように,「pixel」も「AI」の文字も,一般的には同じIT用語,コンピュータ用語のように呼ぶことができ,本件商標の指定商品の分野にあっては,同じIT用語同士,両者は全体として互いに違和感のない組み合わせとなっているから,両者を一体のものとして見ることは,むしろ,極めて自然であるといえる。 しかも,人工知能を意味する「AI」は,近年急速に脚光を浴びるようになったものの,その内容は未だ漠然としたものにすぎないから,そこに何らかの文字が加わった場合には,文字の結合によってより具体的なイメージを取引者・需要者に喚起し,その結合された文字が使用されるサービスや商品の出所を想起させるものとなる。 このように,本件商標は「pixel」と「AI」の文字が結合することで,自他商品識別力のバランスが一部に偏ることなく,全体としてまとまりのよい造語商標を形成しており,その結合によって,ひとまとまりのイメージを生み出すものであるから,商標の類否は,本件商標を一体としてみた全体観察によってこそ判断されるべきものである。 オ 「pixel」及び「AI」の文字に係る登録例 (ア)「pixel」及び「ピクセル」の文字に係る商標の登録例 「pixel」及び「ピクセル」の文字については,これを含む商標が多数採用され,別個の商標としてそれぞれ並存登録されていることから,これのみを分離抽出することが不自然であることが分かる(乙22,乙23)。 これらの並存登録例の存在は,もともと「pixel」及び「ピクセル」の文字が単独では識別力の弱いものであって,他の文字との結合によってそれぞれ別個の商標を構成することの表れである。 (イ)「AI」の文字に係る商標の登録例 「AI」の文字についても,これが他の文字等と結合して商標の一部となっている場合,あえてこれを除外して商標を観察することは不自然である。 そもそも,「AI」の文字が「人工知能」を想起させるとしても,「人工知能(AI)」の内容は漠然としており,通常は人工的に人の知的機能を実現する物や事を思い浮かべるのみである。 したがって,「AI」というだけでは,具体的に商品の内容を直観させるとはいえず,例えば,AI自動運転,AI将棋ロボット,ビッグデータ分析用AIなどといわれてはじめて,その内容がおおよそ理解できるにすぎない。 他方,これが造語商標の一部を構成する場合,仮にここから人工知能が想起されたとしても,これまでにない造語商標にあっては,上記のように一定の具体的内容を理解することは困難で,AIの文字からは漠然とした人工知能のイメージが思い浮かぶのがせいぜいであるから,これを直ちに指定商品の品質等を表すにすぎないものということはできない。 したがって,商標中の「AI」の文字がすべて「人工知能」を意味するとしても,直ちに指定商品の品質等を表すとはいえず,形式的に商標の要部から除外されるものでもない。 むしろ,他の文字が結合した造語商標にあっては,その結合の態様や意味内容により,「AI」の文字を含めた全体としてひとまとまりのイメージを生み,新たな暗示的フレーズとしてその全体が評価されるものとなる。 「AI」の文字との結合商標であっても想起されるイメージが漠然としたものであるがゆえに登録されている事例もある(乙24?乙27)。 さらに,商標中に「AI」の文字があるとしても,これが形式的に商標の類否判断において除外されるものでないことは,実際の登録例が示している(乙28?乙31)。 これらの例から分かることは,「AI」といっても,直ちに指定商品の品質等表示となるものではなく,出所識別標識として機能しないなどとして,商標の要部から除外されるものでもないということである。むしろ,全体的にバランスの取れた本件商標のような造語の構成要素としては,「AI」の文字は全体に融合してひとつのフレーズを形成するのみで,単独で「人工知能」の意味を有するからといって,これが商標から消えて無くなるものでもない。 以上のとおり,本件商標は,その全体において独自の識別力を発揮するユニークな商標であり,一体不可分であるというべきであるから,その一部を抽出,除外して,分離観察を行うことはできない。 カ 本件商標と引用商標との類否 本件商標「pixelAI」は一体不可分の商標であって,その一部のみが強く支配的な印象を与えるとか,逆に一部のみが識別標識としての称呼,観念を生じないといった事情は存在しない。 したがって,本件商標は,「ピクセルエーアイ」の称呼のみを生じ,単に「ピクセル」の称呼を生じる引用商標とは称呼において異なる。また,上記のとおり,全体として曖昧な暗示的イメージを生じるにすぎない本件商標と,「画素」の観念を生じる引用商標とは観念において異なり,外観において両商標が異なることは一目瞭然である。 よって,本件商標は,引用商標とは識別可能な非類似の商標である。 (3)商標法第4条第1項第15号について ア 請求人の主張が本号適用の前提を欠くこと (ア)引用商標使用の事実がないこと 遅くとも,本件商標の登録出願時である2017年(平成29年)8月24日以前に,請求人の業務に係る商品に使用される著名商標が存在することが,本号適用の前提となる。 しかし,請求人が本号に関して主張する請求人の引用商標は,その当時我が国における使用の事実がなく,このような商標が著名であると考える余地はない。したがって,本件商標が請求人の業務に係る商品等との間で混同するおそれも生じようがない。 (イ)引用商標は他国で使用されていたにすぎないこと 請求人が,引用商標の「Pixel」を使用した商品を我が国で発売開始したのは,2018年(平成30年)9月である(甲20?甲21)。 これは,本件商標の出願日(2017年(平成29年)8月24日)に後れるばかりか,同登録査定日である2018年(平成30年)8月3日にも後れる(商標法第4条第3項)。 引用商標に関し,我が国では2018年(平成30年)9月にスマートフォンの「ピクセル3」が発売されたが,我が国ではここではじめて「Pixel 3」として,「Pixel」を含む名称が請求人によってスマートフォンに使用された。それ以前,請求人が「Pixel」を含む名称の商品を販売していたのは,いずれも我が国以外であり(甲8,甲10?甲12,甲14),また,請求人が「Pixel」をはじめて用いた商品は「Chromebook Pixel」であって「Pixel」ではない(甲7)。 また,上記のとおり,「Pixel」の文字の自他商品識別力は乏しく,特に請求人が使用実績として挙げるノートブック型コンピュータやスマートフォンのように画素(ピクセル)を有する電子機器においては,「Pixel」の表示は画素を意味するにすぎないのであって,その自他商品識別力を発揮する余地は極めて小さい。 このことに照らすと,「Chromebook Pixel」という語においては,より顕著な「Chromebook」の表示が目立つものであって,引用商標の使用例と評価することはできない。 さらに,ノートブック型コンピュータである「Pixel C」,次いで「Pixel」及び「Pixel 2」等のスマートフォンも,我が国で販売されたものではない(甲9?甲14)。 (ウ)引用商標が著名性を欠くこと 請求人は,外国における事実のみをもって,我が国における引用商標の著名性を主張するが,そもそも我が国で使用もされていない商標が著名であるなどとは考えられない。 請求人が,引用商標の使用と称し挙げる証拠(甲7?甲14)は,いずれも単なるインターネット上の記事にすぎず,これらがいかなる者を対象とし,とりわけ当該それぞれの記事がどれだけ閲覧されたものか不明であるし,外国で発売されたというだけで,その外国における引用商標の著名性すら,これを使用した商品の販売数量,販売額,シェア,広告宣伝の回数・期間・費用,需要者の認識等いずれも立証がないので,全く不明である。 なお,請求人は,ITメディアやマイナビニュースは月平均約1億ページビューを誇ると主張しているが,その立証もないし,サイト合計でのページビューを論じたところで,請求人製品の記事がどの程度閲覧されたのかを示すものではないので,失当である(甲8,甲12)。 引用商標は,外国における使用実績や著名性が認められる状況になく,それが我が国の需要者の認識にまで浸透した事実はさらに認められないので,やはり引用商標が我が国で著名であるとの事実は存在しない。 (エ)引用商標の著名性を否定した特許庁の異議決定 請求人は,本件以前にも,同様の異議申立てを行ったが,当該異議申立てにおいては,引用商標の著名性は否定されており(乙23),当該事件で述べられている事情は本件においても何ら異なるところはない。 引用商標は,かろうじて外国で販売されたやもしれぬ商品についてさえ,我が国では著名性は認められず,ましてその他の商品については論ずるまでもない。 以上のいずれを検討しても,引用商標は,我が国において著名性を欠くものである。 イ 「Pixel」及び「ピクセル」の文字の一般性 引用商標は,上記のとおり,著名商標とは認められないが,「pixel」及び「ピクセル」の文字自体,IT分野において一般的に用いられる文字であるため,このような文字について,著名性を獲得することは,そもそも困難である。 実際,まず商標としての「pixel」及び「ピクセル」の文字が,これ自体多数採用されるものであり(乙22の1),特にこの文字が商標の一部として採用された場合には,当該商標に融合して全体でひとつの造語を形成しやすいことも,先に述べるとおりである。 このように,「pixel」及び「ピクセル」の文字は,もはや我が国では広く一般に用いられるようになっており,とりわけ,本件商標の指定商品の分野のように,もともと「pixel」及び「ピクセル」の文字がありふれて用いられている分野にあって,このことは明らかで,引用商標も著名性を欠くことは,再三述べるとおりである。 そもそも,2018年(平成30年)9月に我が国で販売を開始したとされる請求人の商品(甲20,甲21)であるが,現在の商品パンフレットには引用商標そのものではなく「Google Pixel 3a」という商標が使用されている(乙32)。 ここではいずれも「Google Pixel 3a」が用いられており,引用商標の「PIXEL」及び「Pixel」については,同人の商標あるいは登録商標である旨の記載もない(乙32拡大部分)。 このことは,請求人自身,識別力の弱い引用商標のみでは,他社商品との識別が難しいと考えていることを示しており,それゆえ,顕著な表示である「Google」の文字を付記しているものといえる。 この請求人の考え方は正しいといえるが,もともと引用商標は本件商標の登録出願及び登録査定の時点で著名とはいえない上,現在においてもこのような引用商標自体の識別力を希釈化させる態様において使用がなされているため,一貫して我が国において引用商標の著名性は認められない。 ウ 本件商標と引用商標の類否等 本件商標と引用商標とは,識別可能な非類似の商標であって,それぞれ別異の商標であるので,本件商標が請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはない。 もともと,「pixel」及び「ピクセル」の文字が広く一般に使用されていることも上記のとおりで,既成語よりなる引用商標は,造語としての顕著性や独創性を欠く。 また,引用商標は一商品名として採用されたものであり,請求人は,引用商標に顕著な請求人のハウスマークである「Google」を付加して使用しており(乙32),このような使用態様により,引用商標の識別力は余計に希釈化されているのであるから,引用商標との間で本件商標が混同を生ずるおそれはない。 なお,請求人は,取引の実情として,自身をAI関連技術のリーダーと位置付けているが,AIについては,請求人も述べるように(甲5),その進化等が毎日のように取り沙汰されておりAIの話題自体珍しいものではない。現在,数多の会社がAIには力を入れて取り組んでおり,請求人がここで特別な存在というわけでもない。そもそも,AIについては,遅くとも1990年代には時事用語として理解されており(乙3,乙4),その頃から一般化しているものであるので,AIに関連するからといって請求人が連想されることはなく,ましてやここから商品の混同に結び付くこともない。 エ 混同のおそれの不存在 引用商標は決して著名なものではない上,これとは別異の商標である本件商標が,請求人の業務に係る商品との間で混同を生ずるおそれはない。 (4)むすび 以上,本件商標は,引用商標とは識別可能な非類似の商標であり,別異の商標であるばかりか,周知・著名性の認められない引用商標との間で,請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれもないものである。 したがって,本件商標は,請求人主張の無効理由(商標法第4条第1項第11号及び同項第15号)に該当するものではない。 第5 当審の判断 1 引用商標の周知性について (1)請求人の提出した証拠及び同人の主張によれば,次の事実を認めることができる。 ア 請求人は,1998年(平成10年)9月に米国で設立されたIT企業である(請求人主張)。 イ 請求人は,米国で2013年(平成25年)2月にノートブック型コンピュータ「Chromebook Pixel(2013)」に初めて引用商標に係る「Pixel」の名を用いた後,2015年(平成27年)3月に「Chromebook Pixel(2015)」を発売した(甲8)。 ウ 請求人は,2015年(平成27年)9月にタブレット型コンピュータ「Pixel C」を発表,2016年(平成28年)10月にスマートフォン「Pixel」及び「Pixel XL」を発表(甲9?甲12),さらに,2017年(平成29年)10月にスマートフォン「Pixel 2」及び「Pixel 2 XL」を発表した(甲14,甲26?甲29)。 エ 上記イ及びウの商品の発売,発表などについては,インターネット記事等を通じて日本国内において紹介された(甲7?甲14,甲26?甲30)。 しかしながら,それらの商品が我が国において販売された事実は確認できないばかりか,それらの商品のうちスマートフォンについては,2018年(平成30年)11月まで我が国で発売されていなかった(甲10?甲12,甲14,甲20,甲21,甲26,甲27,甲29?甲34)。 オ 我が国においてソフトバンク株式会社は,本件商標の登録査定の日後である2018年(平成30年)11月1日に,請求人が開発したスマートフォン「Pixel 3」及び「Pixel 3 XL」を発売した(甲21)。 (2)上記(1)の事実によれば,請求人は,本件商標の登録出願の日前に,「Pixel」の文字を用いたコンピュータ端末(ノートブック型・タブレット型)及びスマートフォン(以下「請求人商品」という。)を,米国など外国で販売したことは認められるものの,我が国で販売した事実は確認できず,また,我が国における広告宣伝の規模等を示す証左は見いだせない。 そうすると,請求人商品の発表や販売が本件商標の登録出願の日前からインターネット記事等を通じて我が国で紹介されていたことを考慮しても,請求人商品は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。 したがって,請求人商品に係る引用商標は,いずれも本件商標の登録出願時及び登録査定時において,他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。 2 商標法第4条第1項第11号について (1)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品及び指定役務との類否について 本件商標の指定商品中,第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,半導体素子,電子回路,液晶ディスプレイ,液晶パネル,有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を用いたディスプレイ,メモリーチップ,メモリーモジュール,半導体メモリー,コンピュータメモリー装置,フラッシュメモリカード,CPUを含む半導体集積回路,画像処理用半導体チップ,プログラム可能な半導体チップ,イメージセンサ用半導体素子,デジタルカメラ及びその部品並びに付属品,デジタルビデオカメラ及びその付属品,CMOSカメラ,CCDカメラ,タッチパネル,車載用液晶表示装置,車載用画像表示装置,車載用有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置,携帯電話機,スマートフォン,テレビジョン受信機,音声再生装置,コンピュータ及びコンピュータ周辺機器,ノートブック型コンピュータ,ラップトップ型コンピュータ,タブレット型コンピュータ,パーソナルコンピュータ,マイクロコンピュータ,その他のコンピュータ,コンピュータ用モニター,コンピュータ用タッチパネル,半導体素子を搭載した電子応用機械器具,その他の電子応用機械器具,電子タグ,ICカード(スマートカード),ICカード又は磁気カード読み取り装置,ICカード又は磁気カード書き込み装置,無線通信用送信機・受信機,デジタルデータ記憶装置,テレビ電話,テレビ会議システム用電気通信機械器具,フラットパネルディスプレイ,ヘッドマウントディスプレイ,ランダムアクセスメモリ(RAM)カード,メモリーカード用読み取り・書き込み装置,コンピュータ記憶装置,データ記憶装置,半導体記憶装置,コンピュータープログラムを記憶させた記録媒体,コンピュータ用データ記憶媒体,電子回路(「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路」を除く。),グラフィックボード,コンピュータ用キーボード,マザーボード,電子回路ボード,コンピュータハードウエア,コンピュータ用ハードディスク,ソリッドステートドライブ,タッチセンサ機能付き液晶ディスプレイ,タッチセンサ機能付き有機ELディスプレイ,ナビゲーション装置,カーナビゲーション用表示装置,腕時計型携帯情報端末,腕時計型モバイルコンピュータ,腕時計型携帯情報端末装置,腕時計型スマートフォン,電子出版物表示用携帯端末,自動車用電子制御装置」は,引用商標の指定商品及び引用商標1の第35類の指定役務と同一又は類似の商品である。 そして,本件商標の指定商品中,上記の商品は,全て電気通信機械器具等商品の範ちゅうに属する商品である。 (2)本件商標 本件商標は,上記第1のとおり「pixelAI」の文字を標準文字で表してなるところ,「pixel」の文字が小文字で「AI」の文字が大文字で表されていることから,視覚上,「pixel」の文字と「AI」の文字との結合商標と認識し得るものである。 しかしながら,その構成文字は,同書,同大でスペースなく,まとまりよく一体的に表され,当該文字から生じる「ピクセルエイアイ」の称呼も,格別冗長というべきものでなく,よどみなく一連に称呼し得るものである。 そして,構成中前半の「pixel」の文字は,「画素(画像を構成している最小単位。ピクセル)」(乙1?乙4,乙6)を意味する語として親しまれている文字であり,当該文字及びその片仮名表記である「ピクセル」の文字は,電気通信機械器具等商品(例えば,ディスプレイ,表示装置,スマートフォン,カメラ,コンピュータのように,画像や映像の質,性能,仕様等が,重要な要素となる商品)の分野において,画像の解像度を表示する際に,例えば,「○○×○○ピクセル(pixel)」(○○は数字)のように広く一般に使用されており(乙5,乙8,乙11?乙17),電気通信機械器具等商品との関係においては,商品の品質(性能)に係る単位を表す語と理解される場合もあることから,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとまでは認めることができない。 また,構成中後半の「AI」の文字は,「人工知能」を意味する「Artificial Intelligence」の略語として一般に親しまれている文字であって(甲4,甲16?甲19,乙4),電気通信機械器具等商品との関係においては,例えば「AIスマホ」及び「AIスピーカー」のように(甲3,甲19),「AIを搭載(利用)した商品」であること,すなわち商品の品質を表示する語として理解される場合もあることから,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとまでは認めることができない。 そうすると,本件商標は,上記のとおり,まとまりよい構成からなるものであること,並びに構成中の「pixel」及び「AI」の各文字は,電気通信機械器具等商品との関係において,いずれかが強く支配的な印象を与えるようなものではないことからすれば,各文字間における軽重の差は無いといえるものであり,係る構成において,本件商標は「pixelAI」の文字が一体不可分のものとして認識,把握されるとみるのが自然であるから,その構成文字全体に相応して,「ピクセルエイアイ」の称呼のみを生じ,特定の観念を生じないものというべきである。 (3)引用商標 引用商標1は,上記第2の1のとおり「PIXEL」の文字からなり,引用商標2は上記第2の2のとおり「Pixel」の文字からなるものであるから,いずれもその構成文字に相応し「ピクセル」の称呼及び「画素(ピクセル)」の観念を生じるものである。 引用商標3は,別掲のとおり「G」の文字をデザイン化した図形(以下「図形部分」という。)とその下に「Pixel」の文字を配置した構成よりなるところ,当該図形部分と文字部分とは,視覚上分離して看取されるばかりでなく,図形部分と文字部分を常に一体不可分なものと認識しなければならないような称呼上の理由及び観念上のつながりは見いだせない。 そうすると,図形部分と「Pixel」の文字部分は,それぞれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認めることはできず,それぞれ要部として,自他商品役務の識別標識としての機能を果たし得るものである。 したがって,引用商標3は,要部の一である「Pixel」の文字部分に相応して「ピクセル」の称呼及び「画素(ピクセル)」の観念が生じるものである。 (4)本件商標と引用商標との類否 ア 本件商標と引用商標1及び2との類否 本件商標と引用商標1及び2との類否について検討すると,両者は外観において,語尾における「AI」の文字の有無という差異を有することから,この差異が7文字と5文字という比較的少ない文字構成からなる両商標の外観全体の視覚的印象に与える影響は小さいものとはいえず,外観上,明確に区別することができる。 次に,称呼においては,本件商標から生じる「ピクセルエイアイ」と引用商標から生じる「ピクセル」の称呼を比較すると,両者は語尾において「エイアイ」の音の有無という差異を有し,全体の構成音数が8音と4音と相違するから,称呼上,明瞭に聴別し得るものである。 さらに,観念においては,本件商標が特定の観念を生じないものであるのに対し,引用商標は,「画素(ピクセル)」の観念を生じるものであるから,観念上,相紛れるおそれのないものである。 そうすると,両商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。 イ 本件商標と引用商標3との類否 本件商標と図形部分及び「Pixel」の文字部分よりなる引用商標3との類否について検討すると,両者は,「AI」の文字部分及び図形部分の有無等から,外観上,明確に区別することができる。 また,引用商標3の構成中,要部の一である「Pixel」の文字部分を抽出して,本件商標と比較しても,上記アと同様の理由により,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれはないというべきである。 そうすると,本件商標と引用商標3とは,相紛れるおそれのない非類似の商標である。 (5)請求人の主張について 請求人は,本件商標の構成中「AI」の文字が,電気通信機械器具等商品との関係において自他商品等識別機能が認められないものであり,また,「pixel」(ピクセル)の文字は,具体的数値と結びついて初めて画像を取り扱う商品の品質評価の一要因となるのであって,「pixel」(ピクセル)の文字そのものは単なる画像を構成する最小単位にすぎず,それだけでは画質,解像度などの品質の具体性を示し得ない。 そうすると「pixel」の文字が分離独立して単独で出所表示機能を発揮する場合も少なくないから,本件商標は「ピクセルエーアイ」の称呼の他に「ピクセル」の称呼及び観念を生じるとして,本件商標と引用商標は類似する旨主張している。 しかしながら,上記2(2)のとおり,電気通信機械器具等商品との関係において,「AI」及び「pixel」の文字はいずれも,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるとまでは認めることができないと判断するのが相当であるから,本件商標は,その構成全体が不可分一体のものとして,取引者・需要者に認識されるとみるのが自然である。 したがって,本件商標は,その構成中の「pixel」の文字部分だけを引用商標と比較して,本件商標と引用商標の類否を判断することは許されないというべきであるから,請求人のかかる主張はその前提において採用することができない。 (6)小括 上記のとおり,本件商標と引用商標は非類似の商標であるから,本件請求商品中に引用商標の指定商品及び引用商標1の第35類の指定役務と同一又は類似の商品が含まれているとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第15号について (1)引用商標の著名性について 上記1のとおり,引用商標は,請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものである。そして引用商標の構成中「PIXEL(Pixel)」の文字は,既成語であるから,独創性は低いものである。 (2)本件商標と引用商標との類似性の程度について 上記2のとおり,本件商標は,引用商標と外観,称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であって,別異の商標というべきものであるから,両商標は、類似性の程度が低いものである。 (3)本件請求商品と請求人商品の関連性の程度及び取引者・需要者の共通性について 請求人商品は,電気通信機械器具等商品であるのに対し,本件請求商品には「スマートフォン,電気通信機械器具,コンピュータ及びコンピュータ周辺機器,電子応用機械器具及びその部品」などの電気通信機械器具等商品が含まれるものであるから,電気通信機械器具等商品において、両者の用途等は関連性を有するものといえ,その取引者・需要者も共通性を有するものである。 (4)混同を生ずるおそれについて 以上によれば,本件請求商品と請求人商品とが関連性を有し,取引者・需要者も共通性を有することなどを踏まえても,引用商標は我が国の取引者・需要者の間に広く認識されていたものではなく,かつ,その独創性の程度も低いものであり,本件商標と引用商標とは別異の商標といえるものであって,その類似性の程度が低いものである。 よって,本件商標は,商標権者がこれを本件請求商品について使用しても,取引者・需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく,その商品が他人(請求人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 その他,本件商標が出所の混同を生ずるおそれがあるというべき事情も見いだせない。 (5)請求人の主張について 請求人は,「毎日新聞系の大手インターネットニュースメディアである『マイナビニュース』が,『Pixel 3』の発売(2018年(平成30年)11月1日)の直前に行ったインターネットアンケート(調査期間:2018年(平成30年)10月11日?13日,調査数:2000件)の結果,発売前にも拘わらず,40.0パーセントの認知度を叩き出し(甲35),ジャストシステムが行った同様の調査(調査期間:2018年(平成30年)10月25日?29日,調査数:1100件)でも,約3割の人が『Google Pixel 3』について認知しているとの結果が出た(甲36)。」ことによって,引用商標が取引者・需要者に認知されていた旨を主張している。 しかしながら,当該アンケートの調査期間は,本件商標の登録査定後であり,かつ,その調査数も1100?2000件であって,我が国の携帯電話のユーザー数に比して僅かな数にすぎないものであるから,これらの結果をもって,引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,取引者・需要者の間に広く認識されているものと認められず,請求人のかかる主張は採用することができない。 (6)小括 以上のとおりであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。 4 むすび 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1 本件商標の第9類の指定商品 第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,半導体素子,電子回路,液晶ディスプレイ,液晶パネル,有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を用いたディスプレイ,メモリーチップ,メモリーモジュール,半導体メモリー,コンピュータメモリー装置,フラッシュメモリカード,CPUを含む半導体集積回路,画像処理用半導体チップ,プログラム可能な半導体チップ,イメージセンサ用半導体素子,デジタルカメラ及びその部品並びに付属品,デジタルビデオカメラ及びその付属品,CMOSカメラ,CCDカメラ,タッチパネル,測定機械器具及びその部品並びに付属品,写真機械器具及びその付属品,映画機械器具,電子部品・半導体素子の電極,電極及びその部品,車載用液晶表示装置,車載用画像表示装置,車載用有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置,携帯電話機,スマートフォン,テレビジョン受信機,音声再生装置,コンピュータ及びコンピュータ周辺機器,ノートブック型コンピュータ,ラップトップ型コンピュータ,タブレット型コンピュータ,パーソナルコンピュータ,マイクロコンピュータ,その他のコンピュータ,コンピュータ用モニター,コンピュータ用タッチパネル,半導体素子を搭載した電子応用機械器具,その他の電子応用機械器具,電子タグ,ICカード(スマートカード),ICカード又は磁気カード読み取り装置,ICカード又は磁気カード書き込み装置,無線通信用送信機・受信機,デジタルデータ記憶装置,光学機械器具,テレビ電話,テレビ会議システム用電気通信機械器具,電気計算機,フラットパネルディスプレイ,ヘッドマウントディスプレイ,ランダムアクセスメモリ(RAM)カード,メモリーカード用読み取り・書き込み装置,コンピュータ記憶装置,データ記憶装置,半導体記憶装置,コンピュータープログラムを記憶させた記録媒体,コンピュータ用データ記憶媒体,電子回路(「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路」を除く。),グラフィックボード,コンピュータ用キーボード,マザーボード,電子回路ボード,コンピュータハードウエア,コンピュータ用ハードディスク,ソリッドステートドライブ,タッチセンサ機能付き液晶ディスプレイ,タッチセンサ機能付き有機ELディスプレイ,ナビゲーション装置,カーナビゲーション用表示装置,腕時計型携帯情報端末,腕時計型モバイルコンピュータ,腕時計型携帯情報端末装置,腕時計型スマートフォン,電子出版物表示用携帯端末,自動車用電子制御装置,自動車に係わる各種情報を検出するための測定機械器具」 別掲2 引用商標3(色彩は原本参照。) ![]() |
審理終結日 | 2019-12-13 |
結審通知日 | 2019-12-18 |
審決日 | 2020-01-10 |
出願番号 | 商願2017-111127(T2017-111127) |
審決分類 |
T
1
11・
263-
Y
(W09)
T 1 11・ 261- Y (W09) T 1 11・ 262- Y (W09) T 1 11・ 271- Y (W09) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 原田 信彦 |
特許庁審判長 |
薩摩 純一 |
特許庁審判官 |
大森 友子 浜岸 愛 |
登録日 | 2018-08-31 |
登録番号 | 商標登録第6076644号(T6076644) |
商標の称呼 | ピクセルアイ、ピクセルエイアイ、ピクセル |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 特許業務法人不二商標綜合事務所 |
代理人 | 古城 春実 |
代理人 | 石田 昌彦 |
代理人 | 平井 佑希 |
代理人 | 右馬埜 大地 |
代理人 | 牧野 知彦 |
代理人 | 稲葉 良幸 |