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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W30
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W30
管理番号 1362481 
審判番号 無効2019-890020 
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-03-22 
確定日 2020-05-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第6066542号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6066542号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成29年12月8日に登録出願、第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」を指定商品として、同30年7月12日に登録査定、同年7月27日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 無効原因
(1)本件商標の登録出願については、その経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが到底容認し得ない事情がある。
また、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある。
(2)請求人と被請求人の関係
ア 請求人は、被請求人と被請求人の妻A(以下「妻A」という。)の二男である。
妻Aは、平成18年7月1日に被請求人と協議離婚し、平成22年8月に病気により死亡した。
被請求人と妻Aの夫婦(以下「被請求人夫婦」という。)は、富山市八尾町の建物を店舗兼工場として、「林盛堂本店」の屋号で、「おわら玉天」という商標を付した和菓子を中心として、数種類の和菓子の製造販売事業を行っていた。
被請求人は、妻Aに秘して、平成4年頃、「林盛堂本店」「おわら玉天」という商標について、自己名義で商標登録した。
イ 請求人は、被請求人夫婦から、上記アの家業の後継ぎになるよう求められたので、これを承諾し、菓子類の製造に関する知識、技術を習得した後、平成9年頃に家業に参画した。
ウ 被請求人は、上記アの和菓子製造販売事業について、平成12年11月20日に、有限会社林盛堂本店を設立して法人化し、被請求人、妻A及び請求人の3名が取締役に就任し、被請求人が代表取締役となった。
エ 平成16年3月頃、被請求人は、「自分の力を試したい。林盛堂の名から離れたい。」などといい出し、岐阜県高山市内で個人事業を営むことを希望した。当時、妻Aは、病気を患っていたこともあり、請求人やその兄弟は、被請求人の高山行きに反対したが、被請求人は、その反対を押し切って、岐阜県高山市内へ単身で転居し、同市内で個人事業の開業を強行した。
その際、被請求人は、富山市八尾町の店舗兼工場での事業について、請求人と妻A(以下「請求人ら」という場合がある。)に一任したため、妻Aが有限会社林盛堂本店の代表取締役となり、後に請求人が代表取締役となって、経営してきた。
一方、被請求人は、高山市内で、個人事業として、「高山林盛堂」の屋号で、「四季の高山」という名称の和菓子等を製造販売するようになった。
オ 被請求人は、平成18年頃から、請求人らが経営する有限会社林盛堂本店の事業に関し、給料や賃料の支払いを請求するなど、無理難題を突き付けてきたため、被請求人と、請求人らとの間で対立が深まり、妻Aは、平成18年7月1日に被請求人と協議離婚し、これに伴う夫婦共有財産の分与請求や、和菓子製造販売事業の経営権等を巡って、被請求人と、請求人らとの間で種々の訴訟が繰り広げられてきた。
カ 請求人は、平成22年9月に、有限会社林盛堂本店の経営続行は困難であると判断し、これを休眠させ、個人事業として和菓子製造販売事業を開始し、「林盛堂本店」「おわら玉天」の商標を引き続き使用して、事業を行うようになった。
キ 被請求人は、平成27年12月15日に、請求人に対し、富山市八尾町の店舗兼工場の明渡しや、「林盛堂本店」「おわら玉天」という商標の使用差止め等を求めて出訴した(富山地方裁判所平成27年(ワ)第356号)。そして、この訴訟手続において、平成29年7月31日に、それまで訴訟係属していた全ての紛争を終局的に解決する裁判上の和解が成立した(以下「本件和解」という。甲1)。
本件和解では、請求人が、被請求人に対し、平成29年11月30日限り、富山市八尾町の店舗兼工場を明渡し、「林盛堂本店」「おわら玉天」という商標を使用しないこと、以後は、請求人が別の商標を用いて、和菓子の製造販売事業を行うことを前提に、請求人がそれまで使用していた機材を被請求人から買受けること等が合意された。
これに従い、請求人は、新たに別の事業所を賃借し、自分の氏である「林」と名の一字の「昌」を取入れた「菓子司 林昌堂」という屋号を用い、自分の製造する和菓子について「菓子司 林昌堂」「くろみつ玉天」という商標を付して販売することを決め、それに向けて包装紙や看板等を製造し、平成29年12月1日から、これらの新しい商標を用いて、和菓子の製造販売事業を開始した。
こうして、請求人、被請求人間の長きにわたる一連の紛争に終止符が打たれたかにみえたが、被請求人は、請求人が事業を開始して間もない平成29年12月8日に、本件商標について、登録出願していたことが、後になって判明した。
(3)商標登録無効の理由
本件商標の図画(以下「本件図」という。)は、もともと、カステラの包装紙に使用していたもの(以下「原図」という。)の配色を変更したものである。原図に関しては、被請求人は、カステラの売れ行きが悪かったことから、平成14年頃に製造販売を中止し、使用しなくなり、その後、被請求人は、高山市内で個人事業を開業した後も、原図を使用することはなかった(甲4)。
請求人は、平成22年9月以降、個人事業を開始した時に、民芸作家であったY氏に監修を依頼したところ、Y氏は、原図の著作者であったことから、それまで使用されていなかった原図を、商品の買い物袋に用いようと考え、請求人の製造販売する和菓子のイメージに合うように原図の配色を変えて、本件図を作り直し、これ以後、請求人は、現在まで、本件図を商標として使用している(甲2)。
被請求人は、平成22年9月以降、請求人が本件図を商標として用いていることを知っていたが、これまで本件図の使用差し止め等は求めなかったし、現在まで、自らの商標として使用していないにもかかわらず、請求人が新店舗で事業開始するのを見て、本件図を登録出願し、商標登録されるやいなや、請求人やその取引先に対し、本件図を使用した商品を販売しないよう警告文を発してきた(甲3)。
イ このような経緯に鑑みれば、被請求人の本件図の登録出願には、請求人の和菓子製造販売事業を妨害しようという不正な目的があることは明らかであり、公序良俗に反し、また、請求人の商品と誤認混同を招くので、本件商標登録は無効とされるべきである。
(4)関連事情
被請求人は、本件商標以外に、請求人が使用している5件の商標についても、同時期に商標登録出願を行い登録が認められた(商標登録第6071742号、商標登録第6071743号、商標登録第6071744号、商標登録第6071745号、商標登録第6071746号)が、これら商標についても、上記と同様の理由により、登録を無効とすべきであり、請求人は、これら5件についても、商標登録の無効審判を請求している。
(5)まとめ
以上のとおり、請求人は、被請求人から、家業の後継ぎになるよう求められ、それを承諾して、菓子類の製造に関する知識・技術を習得して、家業に携わり、日夜、努力を重ねて品質、売上の向上に努めてきたにもかかわらず、被請求人の翻意により、請求人がそれまで営々と築き上げてきたブランドイメージを手離す形で、新たな商標を用いて事業を開始せざるを得なくなった。
それにもかかわらず、被請求人が、それまで使用しておらず、使用する動機や必要性が全くない商標について、請求人が使用しているのを知った後に商標を登録出願した。被請求人は、上記各商標について商標登録がなされたことを機に、請求人に対し、上記各商標を使用しないよう要求し、請求人の取引先にまで、請求人の名誉を害する内容を記載した書面を送付している。
これらの事情から、被請求人は、請求人の事業の妨害を目的としているとしか考えられず、その経緯には、著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることは、到底、容認し得ない。
また、登録が認められた本件商標が、請求人が現に使用している商標と誤認混同を招くことは容易に認められる。
3 弁駁における主張
(1)被請求人は、本件商標について、原図を創業当時から使用していたと主張するが、否認する。
被請求人は、平成14年頃から原図を商標としていたカステラの製造販売を止め、現在まで原図を使用していない。また、原図については、昭和51年頃に、被請求人がY氏から送られたデザインであって、被請求人の所有に帰属する、と主張するが、この「所有に帰属する」という意味は不明である。請求人は、平成22年9月頃、個人事業を始めた際に、Y氏から、当時使われていなかった原図を有効活用して欲しいと求められ、Y氏がモノトーン調に変更した本件図を使うことを許諾したのであるから、請求人が本件図を商標として使用することに何ら問題はない。
請求人は、平成22年9月以降、本件図を使用し続けてきたが、被請求人は、これまで何ら異議を出さず、また、被請求人は、「おわら玉天」「林盛堂本店」という商標については登録出願をしたにもかかわらず、原図については登録出願をしなかったことは、被請求人が、原図について商標として使用する意思がなかったことを示すものである。
登録商標については、3年以上使用されていなければ、何人もその商標登録を取り消すことができるのであり、商標使用の誠実な意思に基づく商標が権利として保護されるのである。したがって、たとえ過去に被請求人が原図を使用していたとしても、3年以上不使用が継続したのであるから、原図の使用に関して被請求人は保護されるべき地位にないのであり、「被請求人の所有に帰属する」という主張は失当である。
(2)被請求人は、顧客が被請求人の商品と請求人の商品を誤認混同するおそれがある旨を述べているが、そもそも、被請求人は、原図について登録出願をするのが筋であり、請求人が平成22年9月に個人事業を始めた以後に作成された本件図について、被請求人が登録出願をすることは不合理である。
被請求人は、これまで本件図はもちろん原図も使用しておらず、原図は、カステラの商標として使用されていたのに対し、請求人は、「くろみつ玉天」という和菓子や手提げ袋に使用しているので、商標が示す対象が異なるため、顧客は、本件図を請求人の業務に係る商品又は役務を示すものとして認知している。
そうすると、被請求人が、原図ないし本件図を被請求人の商標として使用すれば、誤認混同を招く成りすましになるのであり、被請求人の登録出願は、請求人の業務を妨害することを企図したものとしか考えられない。
(3)したがって、被請求人は、原図又は本件図について、「自己の業務にかかる商品又は役務について使用をする商標」という、当該商標につき現に使用しているか又は将来使用する意思があるという要件を欠くため、本件商標の登録は違法である。
また、登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが到底容認し得ないから、当該商標登録は無効とすべきである。
(4)被請求人が提出した証拠について
ア 富山地方裁判所平成22年11月19日判決及び同24年5月8日判決については、請求人と被請求人との間の紛争の一局面について下されたものである。
請求人の主張は、当該判決の「被告らの主張」に記されたとおりである。
また、平成28年11月25日判決については、被請求人と、同人の意向を受けた被請求人の長男が代表者となった会社との間でなされた訴訟の判決であり、当該訴訟では、最も利害関係を有する請求人には、訴訟係属を知らされることなく、手続に関与する機会が与えられておらず、請求の内容を争う機会なくして進められているので、いわゆる馴れ合い訴訟の判決である。
このように、請求人らは、被請求人に対して数多くの反論をして争い、その経緯を踏まえたうえで、それまでの紛争を終局的に解決する趣旨で、本件和解がなされたのである。
本件和解では、請求人が包装機や蜜煮装置等を引取ることが決められているとおり、請求人がその後も和菓子の製造販売を行うことを当然の前提としていた。また、請求人は、和解に従って、「おわら玉天」「林盛堂本店」と同一又は類似の商標を使用していない。
被請求人による本件商標の登録出願を巡って、請求人と被請求人間の争いが再発したのであるが、その原因は、被請求人の、和解で挙げた商標は「例示的にあげたものであって、未登録の標章は当然被請求人の所有である」という主張に表れているように、商標法の趣旨、理念を逸脱した思考にあり、民事訴訟の訴訟物になっておらず、また和解での取決めの対象にもなっていない標章について、本件和解で権利関係を定めたことにはならない。
被請求人は、請求人が本件商標を使用していることを認識して、自分が使用していないにもかかわらず、防衛のためという名目で登録出願をしたが、これが請求人の事業を妨害するものであり、和解の趣旨に反することは明らかである。
イ 被請求人が証拠として提出した乙第5号証や乙第12号証(審決注:乙第13号証の誤記と思われる。以下同じ。)は、被請求人が作成、編集したものであるが、不正確な事実が記載されており、いかにも請求人が被請求人の商標を模倣したかのような印象を与えかねないものである。
被請求人が乙第5号証や乙第12号証に記載している内容は、本来は何ら問題のないこと、当たり前のことを、まるで請求人が模倣や成りすましをしようとしているかのような印象を与えようとする記載である。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第25号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当しないものであるから、無効とすべき事由はない。
(1)商標法第4条第1項第7号に該当するとの主張について
商標法第4条第1項第7号は、公序良俗違反の登録を指すが、本件商標は社会的妥当性を欠くものでなく、何ら公序良俗に反するものでない。
(2)商標法第4条第1項第15号に該当するとの点について
請求人が登録しようとする標章「黒みつ玉天」、「林昌堂」は、すでに被請求人が商標登録している「おわら玉天」、「林盛堂本店」に類似するものであって、誤認混同を招くものである。既に商標登録している被請求人の商標権を侵害するものである。その他、被請求人がすでに使用していた未登録標章を商標登録したものである。
よって、商標法第4条第1項第15号に何ら該当しないものである。
2 被請求人の所有する商標について
(1)被請求人は、昭和34年ごろから創業して以来、商標登録第3044486号「おわら玉天」(乙3)及び商標登録第3084616号「林盛堂本店」(乙4)の商標権を有するものである。
(2)本件商標(乙8、乙9)、商標登録6071742号(乙11)、商標登録6071743号(乙12)、及び商標登録6071746号(乙10の1、乙10の2)の4件は、被請求人が昭和34年ごろから「林盛堂本店」の商号及び商標を用いて「おわら玉天」を主力商品とする菓子の製造販売をしてきた時から未登録標章として使用してきたものである。
ところが、請求人は平成29年12月頃から、後記の「くろみつ玉天」、「林昌堂」の名称で菓子を製造販売し始めた時に、被請求人が所有する上記未登録標章を使用しようとするので、被請求人は正式に登録申請したのである。
(3)商標登録6071744号(乙6)及び商標登録6071745号(乙7)の2件は、被請求人が所有する商標権「おわら玉天」(商標登録第3044486号)(乙3)、「林盛堂本店」(商標登録第3084616号)(乙4)に類似する標章と思われるので、第三者(請求人を含む)から防衛するため、商標登録したものである。
(4)本件商標ないし上記(1)及び(2)標章の無断使用の経緯について
ア 被請求人は、昭和34年頃から「林盛堂本店」の名称で「おわら玉天」という菓子を主力商品として製造販売をしてきた。
上記(2)の4点の標章と登録商標「おわら玉天」、「林盛堂本店」は、被請求人が創業時以来使用してきたものである。平成12年に法人化して有限会社林盛堂本店を設立し、被請求人は同会社の取締役として参画して上記商標等を使用してきた。
イ 被請求人は、平成16年頃に岐阜県高山市に販路拡大のために出店する計画をしたが、請求人はこれを嫌悪して、被請求人の妻Aと相謀って被請求人を有限会社林盛堂本店から排除する策を講じた。請求人は、有限会社林盛堂本店の株数を被請求人から減じる株主総会をしたり、被請求人を取締役から解任する決議を行う株主総会を開いたりしたため、被請求人は、それぞれ株主総会決議不存在等の裁判をして取締役としての地位を守ってきた(乙20、乙21)。
ところが、請求人は、平成22年9月に株主総会を行い、有限会社林盛堂本店を休眠会社にし、請求人は、個人で「林盛堂本店」を名乗り、被請求人が所有している「林盛堂本店」、「おわら玉天」などの商標権や標章を無断使用するに至った(乙22?乙25)。
ウ 被請求人が「林盛堂本店」として「おわら玉天」を主力商品とする菓子の製造販売をして築き上げてきた実績を請求人は「林盛堂本店」に成りすまして平成22年9月から被請求人に無断で被請求人の商標や標章を使用したのである。
エ 被請求人は、請求人に対して「おわら玉天」や「林盛堂本店」の商標権の使用差止め等を訴えて訴訟を提起し(富山地方裁判所平成27年(ワ)第356号)、平成29年9月に請求人は被請求人が所有する「おわら玉天」、「林盛堂本店」の商標権を今後使用しないとの本件和解が成立した(甲1、乙1)。上記商標は例示的に挙げたものであって、未登録の標章は当然被請求人の所有である。
(5)本件商標登録の経緯
「花束を抱く女の図」(本件商標)は、被請求人が創業当時から使用していたものであって、未登録の標章である。有限会社林盛堂本店においては、被請求人は取締役として商標の使用を容認していたのであり、被請求人は取締役として現在もなお同会社に所属している。
ところが、請求人は平成22年頃から被請求人の許可を得ずに個人として「林盛堂本店」を名乗り、「林盛堂本店」に成りすまして被請求人の未登録標章の「花束を抱く女の図」、「草の詩」、「鄙ぼうろ」、「あまんだら」を無断使用しようとしている。
被請求人は自ら考案して、個人ないし会社として使用してきた未登録標章を守るため、また今後も商品化するために、この機会に未登録であったものを正式に商標登録したものである。
3 請求人の主張に対する反論
(1)被請求人は、高山市において「林盛堂本店」の高山店の意味で「高山林盛堂」の屋号を使い、「おわら玉天」を製造販売してきた。そして、請求人が平成29年9月に富山地方裁判所の裁判上の和解により富山市八尾町の「林盛堂本店」の社屋から退去してから、再び富山市八尾町の「林盛堂本店」において林盛堂本店の商標と「おわら玉天」を主力商品として、本件商標や「草の詩」、「鄙ぼうろ」、「あまんだら」などの標章を用いて菓子を製造販売していくものであり(甲1、乙1)、この機に未登録は商標登録して本格的な製造販売をするものである。
(2)請求人は、被請求人が高山市において、「四季の高山」の名前で菓子を販売していると主張するが、請求人が提出する甲第4号証には「おわら玉天 四季の高山」とパッケージにして販売していることが明らかであり、「四季の高山」のみを取り上げるのは愚劣である。
(3)本件商標は、被請求人が昭和51年頃、長崎カステラを販売する「林盛堂本店」にY氏から贈られたデザインである(乙9)。原図は被請求人に送られたもので、「林盛堂本店」=被請求人の所有に帰属するものであり、その後、有限会社林盛堂本店に引き継がれて使用してきた。
請求人は、当該原図を有限会社林盛堂本店から持ち出して、「林盛堂本店」の名称を外して使用しており(乙5の5枚目、甲2の3)、「花束を抱く女の図」について、被請求人の所有する標章を無断で使用しているのである。
このように、被請求人が権利を有する末登録標章を請求人が使用し始めて顧客に誤認混同を生じさせるおそれがあるので、被請求人としては自ら製造販売する目的で正式に登録出願したものであるから、不正の目的公序良俗に反するものではない。
4 むすび
被請求人は、事業(菓子等の製造販売)を永続的に発展させるために知的 財産権(商標登録)の所有が欠かせない重要な要件であると認識し、平成4年12月から商標の登録出願を行い、無効審判請求された6件を含む10数件の商標登録を受けてきた。
しかし、被請求人としては、未登録標章や類似商標について第三者(請求人を含む)に先に出願登録されるおそれがあったので、請求人を含む第三者による商標登録を防ぐため、被請求人が自ら出願手続を行い、商標権を獲得したのである。
被請求人の本件商標を含む6件の商標登録は何ら違法なことはなく、無効事由はないものである。

第4 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有するものであることについて、当事者間に争いがないから、本案について判断する。
1 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものである(最高裁 平成10年(行ヒ)第85号 同12年7月11日判決参照)と判示されていることからすれば、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するというためには、請求人の使用に係る未登録標章が周知表示又は著名表示であること、すなわち、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、請求人の使用に係る未登録標章が請求人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていることが要件と解される。
そして、請求人は、請求人の使用に係る未登録標章が我が国の需要者の間に広く認識されている旨の主張を何らしておらず、また、同人の主張及び提出に係る証拠によれば、本件商標とほぼ同じ構成からなる図形を請求人が使用したことはうかがえるものの(甲2)、請求人の使用に係る未登録標章が、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていると認めるに足る事実を見いだし得なかった。
そうすると、請求人の使用に係る未登録標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていると認めることはできない。
(2)出所の混同のおそれについて
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとし、その理由として、本件商標が請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがあると主張している。
しかしながら、上記(1)のとおり、請求人の使用に係る未登録標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていると認めることができないものであり、本件商標がその指定商品に使用された場合、これに接する取引者、需要者が、請求人の使用に係る未登録標章を連想、想起し、該商品が請求人又は同人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について、混同を生ずるおそれがあるとはいえないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号該当性の判断については、以下の判示がある。
ア 商標法第4条第1項第7号に規定する、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれると解される(知財高裁 平成17年(行ケ)第10349号同18年9月20日判決参照)。
イ 商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないとしているところ、商標法は、出願人からされた商標登録出願について、当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない要件を、同法第4条第1項各号で個別具体的に定めているから、このことに照らすならば、当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情がない限り、当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。
また、当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた同法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、同法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。
そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの商標登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(知財高裁 平成19年(行ケ)第10391号同20年6月26日判決参照)。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性
上記判示に照らして、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性を判断すると、以下のとおりである。
ア 本件商標は、別掲のとおり、花束を両手で抱えた女性とおぼしき図形からなるものであるところ、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるような文字等からなるものではない。
イ また、本件商標は、これをその指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものともいえず、さらに、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されているものではないし、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
ウ さらに、請求人及び被請求人の主張及び両者の提出に係る証拠によれば、被請求人と請求人らとの間で、平成18年7月1日に被請求人が妻Aと協議離婚後、夫婦共有財産の分与請求や、和菓子製造事業の経営権等を巡って訴訟があり、請求人が富山市八尾町の店舗、工場等を被請求人に明け渡すこと、並びに平成29年12月1日以降「林盛堂本店」(商標登録第3084616号)、「おわら玉天」(商標登録第3044486号)の商標及び「林盛堂本店」の商号を使用しないことなどを内容とする和解が、平成29年7月31日付けで成立していることはうかがえるものの、上記和解内容は、本件商標とは何らの関係もないものであり、また、請求人の提出に係る甲各号証を総合してみても、商標法の先願登録主義を上回るような、本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容し得ないような場合に該当すると認めるに足りる具体的事実を見いだすことができない。
その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足る証拠の提出はない。
(3)請求人の主張について
請求人は、被請求人から、家業の後継ぎになるよう求められ、家業に携わり、努力を重ねて品質、売上の向上に努めてきたにもかかわらず、被請求人の翻意により、請求人がそれまで営々と築き上げてきたブランドイメージを手離す形で、新たな商標を用いて事業を開始せざるを得なくなった。
それにもかかわらず、被請求人が、それまで使用しておらず、使用する動機や必要性がない商標について、請求人が使用しているのを知った後に商標を登録出願し、登録されたことを機に、請求人に対しこれを使用しないよう要求し、請求人の取引先にまで、請求人の名誉を害する内容を記載した書面を送付しており、これらの事情から、被請求人は、請求人の事業の妨害を目的としているとしか考えられず、その経緯には、著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることは、到底、容認し得ない旨主張している。
しかしながら、請求人が被請求人の家業に携わったことなどは、請求人と被請求人との間の問題というしかなく、本件商標に係る上記判断に何ら関係するものではない。
また、被請求人が請求人に対して、自己の所有する商標権に基づき他人に対して警告する行為は、そもそも、それ自体何ら違法なものとはいえないことから、被請求人が本件商標の登録を受け、請求人に対して警告をしたことをもって、被請求人のかかる行為が一般社会の道徳観念に反し、公正な競争秩序を乱すとまではいえない。
さらに、請求人は、平成22年9月以降、個人事業を開始したときに、原図の配色を変え、本件図を作り作り直し、以後、本件図を商標として使用している旨主張しているところ、請求人は、当該商標の使用にあたり、自ら登録出願する機会は十分にあったにもかかわらず、自ら登録出願しなかった責めを商標権者に求めるべき事情を見いだすこともできない。このような場合は、請求人と被請求人である商標権者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解することはできない。
そうすると、請求人の主張は採用することができない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号及び同項第7号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲
(本件商標)


審理終結日 2020-03-10 
結審通知日 2020-03-11 
審決日 2020-03-26 
出願番号 商願2017-161833(T2017-161833) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W30)
T 1 11・ 271- Y (W30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 光三井 敏匡 
特許庁審判長 半田 正人
特許庁審判官 中束 としえ
金子 尚人
登録日 2018-07-27 
登録番号 商標登録第6066542号(T6066542) 
代理人 青山 嵩 
代理人 山本 篤広 
代理人 細川 俊彦 

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