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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2019890025 審決 商標
無効2018890072 審決 商標
無効2018890073 審決 商標
無効2019890026 審決 商標
無効2019890027 審決 商標

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審決分類 審判 一部無効 観念類似 無効としない W03
審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W03
審判 一部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W03
審判 一部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない W03
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W03
審判 一部無効 外観類似 無効としない W03
審判 一部無効 称呼類似 無効としない W03
管理番号 1361608 
審判番号 無効2018-890021 
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-04-13 
確定日 2020-02-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5956971号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5956971号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1に示すとおりの構成よりなり、平成28年10月20日に登録出願、第3類「シャンプーその他のせっけん類,ジャスミン油その他の植物性天然香料,じゃ香その他の動物性天然香料,ゲラニオールその他の合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,吸香その他の薫料,クリームおしろいその他のおしろい,一般化粧水その他の化粧水,クレンジングクリームその他のクリーム,口紅その他の紅,ヘアーリンスその他の頭髪用化粧品,香水その他の香水類,アイシャドウ,あぶらとり紙,身体用防臭剤,タルカムパウダー,ネイルエナメル,ネイルエナメル除去液,バスオイル,バスソルト,パック用化粧料,ベビーオイル,ベビーパウダー」及び第44類「美容,理容,あん摩・マッサージ及び指圧,カイロプラクティック,きゅう,はり,柔道整復,医療情報の提供,健康診断,栄養の指導,エステティックサロンにおける美容,美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与,美容の助言,健康の指導」を指定商品及び指定役務として、同29年5月2日に登録査定、同年6月23日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由において引用する商標(標章)は、以下のとおりである。
1 請求人が、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、その登録の無効の理由として引用する登録5752808号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2に示すとおりの構成よりなり、平成26年7月8日に登録出願、第3類「二重まぶた形成用接着テープ,その他の二重まぶたにするためのテープ状化粧品,その他の二重まぶた形成用化粧品,その他のまつ毛用化粧品,マスカラ,アイライナー,マニキュア,ネイル用ベースコート,ネイルエナメル除去液,香水,その他の化粧品,つけまつ毛,つけづめ,ジェルネイル,かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤除去剤,つけまつ毛用接着剤,つけづめ用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,せっけん類,歯磨き,香油,香料」及び第35類「化粧用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,その他の身の回り品(ガーター・靴下止め・ズボンつり・バンド・ベルト・腕止めを除く)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定商品及び指定役務として、同27年3月27日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
2 請求人が、本件商標が商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして、その登録の無効の理由として引用する標章は、請求人がその業務に係る商品「アイラッシュ,つけまつ毛用接着剤(フィクサー),化粧品(アイライナー,マスカラ,二重まぶた形成用テープ,ネイル用化粧品),せっけん」に使用していると主張する「ディーアップ」の片仮名を横書きしてなるものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定商品中、第3類の全指定商品についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第400号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 審判請求書における主張
本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同項第11号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その指定商品中、第3類の全指定商品についての登録を無効にすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第8号該当性について
ア 本件商標及び請求人の名称の略称について
本件商標は、二段書きからなる商標であり、その上段は「髪質改善」と「頭皮改善」の漢字の間に記号「×」を配して横一連に表示し、その下段中央に片仮名で「ディーアップ」を表示した構成からなるものである(甲1)。
請求人の名称は、「株式会社」の文字と片仮名の「ディー」と「アップ」の間に記号「・」(中点)を表示した構成からなるが、請求人の名称の略称としては、単に「株式会社」の文字を除いた「ディー・アップ」と「株式会社」の文字と記号「・」(中点)を除いた「ディーアップ」の双方にて、取引者・需要者に認知されているものである(甲19?甲57)。
さらに、記号「・」(中点)部分からは特段の意味合いが生じるものではなく、また、商標法第4条第1項第8号の趣旨が、名称等が承諾無しに商標に使われることがない人格的利益を保護することにあることからすれば、この記号「・」(中点)の有無が本号の適用に影響しないことは明らかである(甲2)。
イ 請求人の名称の略称の著名性について
請求人は、1992年4月に設立され、現在は化粧道具、まつ毛用化粧品、ネイル用化粧品、せっけんなどの輸出入及び製造販売を行う企業である(甲4)。請求人は、名称の略称及びハウスマークの「ディーアップ」や、その欧文字表記である「DUP」の文字つづりからなる商標なども継続的に使用し(甲5、甲6)、本件商標の登録出願時はもちろんのこと、登録査定時においても「ディーアップ」は請求人を指し示す略称として一般に受け入れられているとともに、請求人の著名商標としても取引者、需要者に広く認識されている。
以下、この主張が正当なものであることを立証すべく、証拠ごとに詳述する。
(ア)甲第7号証は、請求人の主な取扱商品に関する販売期間、累計の出荷数及びその累計の売上高をまとめた一覧表であり、この一覧表に記載されている各商品は、それぞれ甲第8号証ないし甲第15号証のような商品である。
特に、甲第9号証のような「DUPアイラッシュ(つけまつげ)」について、請求人は少なくとも2001年4月1日から2018年3月15日までで、累計24,387,881個を出荷し、その累計の売上高は12,168,332,778円となっている。また、甲第10号証のような「フィクサーEX(つけまつげ用接着剤)」について、請求人は少なくとも2001年4月1日から2018年3月15日までで、累計23,055,775個を出荷し、その累計の売上高は9,049,414,275円となっている。
(イ)甲第16号証は、株式会社富士経済が発刊した資料「美容家電・化粧雑貨マーケティングトレンドデータ 2014?2015」の抜粋であり、アイラッシュ、クルー、リムーバーの3つをアイラッシュ関連品と定義した上で、メーカーシェアやブランドシェアなどのデータをまとめたものである。
当該資料中「2.マーケットスケール推移」及び「3.種類別マーケットスケール推移」によれば、全体的にアイラッシュ関連品市場は減少傾向にあるとされているが、120頁の3には、「『D.U.Pアイラッシュフィクサー』(ディー・アップ)・・・などクルーとして高いブランドカを持つ商品もあり、アイラッシュ愛用者には根強い需要を獲得していることから構成比については拡大傾向となっている。」と記述されており、請求人の商品が非常に高く評価されている事実がうかがえる。
また、当該資料中「4.メーカーシェア」では、請求人は2012年から2014年までの販売実績及びシェア率が業界1位であり、「アイラッシュ関連品のトップメーカーはディー・アップとなっており、3割以上のシェアを有している。」と記載されている。
さらに、当該資料中「5.ブランドシェア」に掲載されている表からは、請求人が他社と比べて数多くの商品を販売している事実、ブランドごとの販売実績及びシェア率はやや劣るものの、請求人の商品はいずれも上位の販売実績及びシェア率を確保している事実が分かる。
これらの記載からも明らかなとおり、請求人はアイラッシュ関連品のトップメーカーであり、この業界の取引者、需要者には、品質の高い人気商品を提供するトップメーカーとして広く認識されているものである。
(ウ)甲第17号証は、株式会社True Dataが集計したものであり、アイラッシュとフィクサーをフェイス用化粧用具と定義した上で、2016年4月ないし2017年3月のメーカー別の購入金額と売上構成比を一覧表にしたものである。
この証拠によれば、請求人は全体の半数近い43%のマーケットシェア率を獲得しており、第2位の企業とは約2倍の差が開いている。
この証拠からも明らかなように、請求人は近年においても同業界1位を維持しており、また、上記(イ)で挙げたシェア率よりも上昇していることから、これに比例して同業界における「ディーアップ」の認知度も年々と上昇しているものである。
(エ)甲第18号証は、2015年4月ないし2017年3月における請求人の商品の取り扱い店舗を一覧表にまとめたものである。これらの店舗で取り扱っている請求人の商品は、化粧道具、まつ毛用化粧品、ネイル用化粧品と多岐にわたり、北海道から沖縄までの日本全国のドラッグストア、雑貨店、スーパーマーケットなど18,411店で販売されている。
さらに、日本全国で展開しているコンビニエンスストアのファミリーマートでは、請求人の商品のつけまつげ用接着剤が約6,000店、マスカラ・アイライナーは約4,000店で販売されている。
(オ)甲第19号証ないし甲第57号証は、請求人の商品が店舗にて実際に陳列されている状況を撮影した写真である。上記(エ)で挙げたドラッグストアやコンビニエンスストアのファミリーマートでの陳列状況を撮影したものであり、目立つように工夫を凝らした店頭ポップに「ディーアップ」を使用している店舗も存在している。
このように、商品パッケージ以外でも「ディーアップ」は需要者の目に付くように表示されており、日本全国の取引者、需要者に認識されるに至っているものである。
なお、これらの写真の撮影日、撮影者及び撮影場所は甲第58号証の一覧表に記載のとおりである。
(カ)甲第59号証ないし甲第65号証は、請求人の商品がインターネット上のオンラインショップで販売されていることを示す販売ページの写しである。
このように、請求人の商品は、楽天やAmazonだけでなく、マツモトキヨシやロフトのオンラインショップなどにおいても販売されている。
(キ)甲第66号証ないし甲第110号証は、請求人の商品が、雑誌、書籍、新聞において紹介されたページを抜粋した写しである。これらの雑誌などで紹介された主な請求人の商品としては、化粧用具の範ちゅうに属する「つけまつ毛(アイラッシュ)」(甲66?甲81)、化粧品に含まれる「二重まぶた形成用テープ、アイライナー、マスカラ、ネイル用化粧品」(甲81?甲107)、「つけまつ毛用接着剤」(甲79、甲108?甲110)である。
このように、請求人の多数の商品がこれらの人気雑誌などで取り上げられており、その記述中に「ディーアップ」の文字が使用されることで、日本全国の取引者、需要者に広く認識されるものである。
(ク)甲第111号証ないし甲第114号証は、請求人が人気雑誌とタイアップして広告宣伝を行ったページを抜粋した写しである。これらの雑誌に請求人のアイラッシュや化粧品(アイライナー、マスカラ)が目立つ態様で大々的に取り上げられたことによって、「ディーアップ」が日本全国の取引者、需要者に広く認識されるものである。
(ケ)甲第115号証及び甲第116号証は、人気タレントを起用して請求人の化粧品(マスカラ)やつけまつ毛用接着剤(フィクサー)を宣伝する動画のプレスリリースの写しである。これらの動画は請求人の公式ホームページやYouTubeだけでなく、バラエティショップやドラッグストアなどの店頭でも見ることができるようにしたものである。
これらの動画の他にも、請求人は人気タレントを起用するなどした動画を通じて広告宣伝活動を行っており(甲117?甲125)、本件商標の登録出願時はもちろんのこと、登録査定時以降も継続して「ディーアップ」の認知度向上に努めているものである。
(コ)甲第126号証ないし甲第133号証は、請求人が主催するイベントのプレスリリース及びそれに関連したニュース記事の写し、メディアでの露出状況をまとめた一覧表である。このイベントは、つけまつ毛の更なる普及とイメージ促進のために開催した表彰式であり、人気タレントが受賞されたことにより数多くのメディアに取り上げられ、「ディーアップ」が日本全国の取引者、需要者に広く認識されるものである。
また、請求人は日本の「カワイイ文化」の象徴的アイテムの1つである「つけまつげ(つけま)」を記念日を通して国内外に発信することを目的に、6月6日を「つけまの日」とすることを日本記念日協会に申請し、これが正式に認定されたことにより、トップメーカーである「ディーアップ」の知名度もさらに向上したものである。
(サ)甲第134号証ないし甲第142号証は、請求人の商品のテレビやWebコマーシャルのプレスリリース、それに関連するニュース記事や広告代理店による報告書の写しである。請求人は本件商標の登録出願時以前から現在まで積極的かつ継続的に広告宣伝活動を行っており、その結果として、「ディーアップ」は日本全国の取引者、需要者に広く認識されるに至っているものである。
このうち、甲第136号証、甲第139号証及び甲第142号証の広告代理店の報告書によれば、各コマーシャルの効果も相まって、SEMにおけるリスティング広告などの表示回数はそれぞれ55,091,213回(審決注:甲136によれば、「3,991,980回」の誤り。)、3,546,280回、9,484,880回となっており、また、インターネット上のバナー広告の表示回数は、甲第136号証の報告書では55,091,213回、甲第142号証の報告書では13,840,158回となっており、非常に多くの数字を獲得している。また、コマーシャル動画の再生回数もそれぞれ836,269回、571,408回、684,113回と非常に多いことから、「ディーアップ」が多くの取引者、需要者に広く認識される契機となったものである。
(シ)甲第143号証及び甲第144号証は、請求人の企業情報を第三者がまとめた調査報告の写しである。特に、2011年3月から2016年3月までの業績は順調に伸びており、2016年度は過去最高の業績を上げている。また、甲第144号証の事業概況の欄に「広告宣伝費により収益面は伸び悩むものの一定の収益性は確保し連続増収を達成。」と記述されていることからも明らかなとおり、請求人は前記したような広告宣伝活動を積極的に行っており、その結果として、多くの取引者、需要者に広く認識されるに至っているものである。
これらの証拠よりすれば、請求人の名称の略称「ディーアップ」は、本件商標の登録出願時において、既に請求人を指し示すものとして一般に受け入れられ、著名となっていたことは明らかであるから、「ディーアップ」は、請求人の名称の「著名な略称」に該当するものである。
ウ 本件商標が請求人の名称の著名な略称を含む商標であること
前記のとおり、本件商標は、二段書きからなる商標であり、その上段は「髪質改善」と「頭皮改善」の漢字の間に記号「×」を配して横一連に表示し、その下段中央には「ディーアップ」の片仮名を表示した構成であって、上段部分と下段部分には特段の繋がりはなく、また、下段の「ディーアップ」は中央付近に配置されることにより、判然と認識できる態様で表示されている。
そうすると、本件商標の下段中央の「ディーアップ」の文字部分は請求人の名称の著名な略称として客観的に把握されるものであるから、当該部分からは請求人を容易に想起、連想させるものであり、請求人の名称の著名な略称が承諾無しに商標に使用されることによる請求人の人格的利益を侵害するものである。
したがって、本件商標は、請求人の名称の著名な略称を含む商標である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標は、その上段に「髪質改善」と「頭皮改善」の漢字の間に記号「×」を配して横一連に表示し、その下段中央に片仮名の「ディーアップ」を表示した構成からなるところ、その構成中、上段部分を構成する記号と文字それぞれは商品の出所識別標識としての機能を果たし得ず(甲147?甲154)、また、それらを単に組み合わせた「髪質改善×頭皮改善」の文字全体も当然ながら商品の出所識別としての機能を果たし得ないものであるから、本件商標の上段部分からは、出所識別としての称呼、観念は生じないものである。
一方、本件商標の下段部分「ディーアップ」の片仮名それ自体からは特定の意味合いが看取されるものではないが、本件商標に係る指定商品と同一又は類似する商品との関係では、後述するように、請求人の著名商標との観念が生じるものである。そして、当該文字部分は本件商標の下段中央に目立つ態様で表示されており、上段部分とは外観上も観念上も何ら繋がりがあるものではない。さらに、本件商標の各構成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは到底いえないものである。
そうすると、本件商標を構成する下段部分「ディーアップ」は、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。
したがって、「髪質改善×頭皮改善」からは出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められ、他方、「ディーアップ」は取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるため、本件商標の構成部分の一部「ディーアップ」だけを請求人が挙げた引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるものである。
イ 引用商標は、デザイン化された青色の欧文字「DUP」の「D」と「U」の間の下方部分に、左下から斜め右上方向にかけて薄灰色、濃灰色、青色と徐々に大きくなる正方形を配した構成からなる商標である。
このうち、「D」と「U」の間の下方部分の3つの正方形そのものからは特段の意味合いが生じるものではないが、欧文字の間の下方部分に小さく表示され、かつ、左下から斜め右上方向にかけて薄灰色、濃灰色、青色と徐々に大きくなるように正方形が配置されていることからすれば、これに接する取引者、需要者は、記号「,」(コンマ)を想起すると考えるのが自然である。そして、この記号「,」(コンマ)は、「横書きの文の句読点の一つ」とされていることから(甲155)、引用商標は外観上、この前後の「D」と「UP」を組み合わせた造語商標と認識されるものである。この場合、「D」は「ディー」と称呼される一般的な欧文字であり、また、「UP」からは「上へ」などの意味を有する英語の「アップ」との呼称が自然と生じるものである。
以上のことからすると、引用商標はその外観上の構成からすれば、「ディーアップ」との称呼が自然と生じるものである。このことは、前記(1)イ(オ)で挙げた請求人の商品の店舗における陳列状況や(甲19?甲57)、前記(1)イ(カ)で挙げたインターネット上のオンラインショップの販売ページにおいて、引用商標と併せて「ディーアップ」の文字が表示されていることからも首肯できるものである(甲59?甲65)。
そして、引用商標を構成する文字等そのものからは特段の意味合いが生じるものではないが、本件商標に係る指定商品と同一又は類似する商品との関係では、後述するように、請求人の著名商標との観念が生じるものである。
ウ また、本件商標に係る指定商品は、引用商標に係る指定商品若しくは指定役務と同一又は類似する商品である。
エ 以上を総合的に勘案すると、両商標からは「ディーアップ」の称呼が生じ、また、観念においては請求人の著名商標の観念が生じるものであるから、称呼及び観念が共通するものである。そして、本件商標の要部である「ディーアップ」を欧文字に変更したときには引用商標と同じ欧文字のつづり「DUP」となることからすれば、外観上の相違点が称呼及び観念の共通点を凌駕するものではない。
したがって、時と場所を異にして、これに接する取引者、需要者が通常有する注意力を基準として判断すれば、本件商標と引用商標は相紛れるおそれの高い類似する商標である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第10号該当性について
ア 請求人が使用する商標の周知性について
請求人は、請求人の名称の略称である「ディーアップ」や、その欧文字表記である「DUP」の文字つづりからなる商標を「D.U.P」や「D-UP」などの表記バリエーションも含みつつ、継続的に現在まで化粧道具、まつ毛用化粧品、ネイル用化粧品など多岐にわたる商品に使用しているものである。
その結果、「ディーアップ」及びその欧文字表記である「DUP」の文字つづりからなる商標は、少なくとも本件商標に係る指定商品と同一又は類似する「アイライナー,マスカラ,二重まぶた整形テープ,ネイル用化粧品,せっけん」との関係では、請求人の出所を表示する著名商標として、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、取引者、需要者の間に広く認識されるに至っているものである。
イ 本件商標と請求人が使用する商標の類否について
本件商標は、その構成などから下段の片仮名「ディーアップ」が要部となるところ、上記アの商品との関係において、請求人の出所を表示する著名商標「ディーアップ」とは、「ディーアップ」の称呼及び請求人の著名商標の観念が共通する。
また、その欧文字表記である「DUP」の文字つづりからなる商標も上記アの商品との関係において請求人の出所を表示する著名商標として取引者、需要者の間に広く認識されており、表記変更を繰り返しているものの、「ディーアップ」の称呼及び請求人の著名商標の観念が生じ、共通するものである。
したがって、本件商標は、請求人の著名商標「ディーアップ」と、その欧文字表記である「DUP」の文字つづりからなる商標と、全体において類似する商標である。
そして、請求人が使用する商標に係る「アイライナー,マスカラ,二重まぶた整形テープ,ネイル用化粧品」は、いずれも第3類「化粧品」に属する商品であるから、本件商標に係る指定商品中の第3類「クリームおしろいその他のおしろい,一般化粧水その他の化粧水,クレンジングクリームその他のクリーム,口紅その他の紅,ヘアーリンスその他の頭髪用化粧品,香水その他の香水類,アイシャドウ,あぶらとり紙,身体用防臭剤,タルカムパウダー,ネイルエナメル,ネイルエナメル除去液,バスオイル,バスソルト,パック用化粧料,ベビーオイル,ベビーパウダー」に類似するものである。
また、請求人の使用する商標に係る「石鹸」等は、いずれも第3類「せっけん類」に属する商品であるから、本件商標に係る指定商品第3類「シャンプーその他のせっけん類」に類似するものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標の要部は「ディーアップ」であり、請求人の商標「ディーアップ」及びその欧文字表記である「DUP」の文字つづりからなる商標と類似するものであって、称呼、観念及び外観における片仮名のつづりの共通性からすれば、その類似性の程度は極めて高いものである。
また、請求人の使用する商標は、「アイラッシュ,つけまつ毛用接着剤(フィクサー),化粧品(アイライナー,マスカラ,二重まぶた形成用テープ,ネイル用化粧品),せっけん」との関係では本件商標の登録出願時及び登録査定時において著名であり(甲4?甲144)、また、本件商標に係る指定商品と請求人の業務に係る商品は同一又は類似する商品である。
なお、本件商標に係る指定商品中、第3類「吸香その他の薫料」について、請求人は、香りによってリラックス効果を得る「アロマネイルオイル」などのネイル用化粧品を販売しており(甲156、甲157)、この商品と「吸香その他の薫料」は芳香を発することを主目的とする点で共通することから、類似性の程度が極めて高い本件商標が「吸香その他の薫料」に使用されれば、請求人の業務に係る商品であると、混同を生ずるおそれが多分に存するものである。
したがって、本件商標は、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第19号該当性について
商標「ディーアップ」及びその欧文字表記である「DUP」の文字つづりからなる商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において請求人の出所を表示する著名商標として日本国内における取引者、需要者の間に広く認識されており(甲4?甲144)、また、これらの商標と本件商標が類似する商標であることは前記のとおりである。
これに加えて、被請求人は不正の目的をもって本件商標をその指定商品に使用するものであると容易に推認することができるものである。
すなわち、前記のとおり、本件商標は、二段書きからなる商標であり、その上段は単に商品の効能を記述的に表したにすぎないものであるのに対して、下段の中央付近にはそれ自体特定の意味合いが生じない造語の「ディーアップ」の片仮名を判然と認識できる態様で表示してなる構成である。また、この「ディーアップ」は指定商品との関係において請求人の著名商標及び請求人の名称の著名な略称と認識されているものである。
そうすると、被請求人は、請求人が長年の歴史、多額の広告宣伝費等により築き上げた著名商標「ディーアップ」に化体した信用、名声、顧客吸引力等にフリーライドする目的、毀損させる目的をもって本件商標を出願したものと合理的に推認できるものであり、本件商標がその指定商品に使用されれば、著名商標「ディーアップ」に化体した信用や名声等を毀損させるおそれが多分に存するものである。
以上のことを総合的に勘案すれば、被請求人は、不正の目的をもって本件商標を係る指定商品に使用するものであると容易に推認されるものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 審判事件弁駁書における主張
(1)請求人の主張、立証は、審判請求書により既に尽くされているものと思料するが、被請求人は審判事件答弁書において乙第2号証を提出し、引用商標について特許情報プラットフォームによる商標検索の資料では「ダップ,デイユウピイ」と称呼する旨が開示されているとして、これを引用商標から「ディーアップ」の称呼が生じないことの根拠としている。
しかしながら、請求人が確認したところ、甲第158号証から明らかなように、特許情報プラットフォーム「商標出願・登録情報」では引用商標の「称呼(参考情報)」として「ダップ,デイユウピイ,デイアップ」と記載されている。
つまり、引用商標については称呼として「ディアップ」が認定されているのであるから、乙第2号証を根拠になされた被請求人の上記主張は明らかに失当である。
(2)請求人及び引用商標の周知、著名性について
請求人は(a)請求人は「ディーアップ」と略称されていること、(b)請求人の略称である「ディーアップ」は二重まぶた形成用化粧品、まつげ用化粧品、ネイル用化粧品等を取り扱う化粧品業界において、本件商標の出願時である平成28年10月20日の時点で既に周知、著名であったこと、(c)引用商標は二重まぶた形成用化粧品、まつげ用化粧品、ネイル用化粧品等の化粧品の商標として取引者、需要者間に広く認識されており、平成28年10月20日の時点で、引用商標を見れば、容易に当社の商品であることを認識することができたこと、(d)引用商標は「ディーアップ」の称呼で取引されていること、の事実を立証するため、化粧品の取引実情について熟知している当業者からの証明書(証明願)を甲第159号証ないし甲第394号証として提出する。
甲第1号証ないし甲第394号証により、引用商標は請求人の周知、著名性と相まって、請求人の略称である「ディーアップ」と同様、当然に「ディーアップ」と称呼されていること、引用商標は本件商標の出願時には既に請求人の商標として広く知られていたことが当業界における第三者により立証されるものである。
さらに、構成中に「ディーアップ」の文字を顕著に表示してなる本件商標と引用商標は相紛れるおそれの高い類似の商標であることは、既に審判請求書において述べたとおりである。
したがって、本件商標と引用商標の類似性の程度、引用商標の周知、著名性の程度、需要者等の共通性等を総合勘案すれば、本件商標権者が本件商標を第3類の指定商品に使用すると、これに接する取引者、需要者は、請求人の周知、著名な引用商標を直ちに想起するものであり、請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、需要者が商品等の出所について混同を生ずるおそれが多分に存するものであることは明らかである。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第11号、同項第15号、同項第19号に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号により、指定商品中、第3類の全指定商品についての登録を無効にすべきものである。
3 上申書における主張
請求人は、上記2のとおり、化粧品の取引実情について熟知している当業者からの証明書(証明願)を甲第159号証ないし甲第394号証として提出したが、更に甲第395号証ないし甲第399号を提出する。
上記甲第395号証ないし甲第399号の証明者は、生活雑貨店など国内に136店舗を所有する、二重まぶた形成用化粧品、まつげ用化粧品、ネイル用化粧品等を取り扱う化粧品業界の取引実情について熟知している当業者である(甲400)。
これらの甲各号証により、引用商標は請求人の略称である「ディーアップ」と同様、当然に「ディーアップ」と称呼されていること、引用商標は本件商標の出願時には既に請求人の商標として広く知られていたことが当業界における第三者により立証されるものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第8号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第8号に該当しないとする点
請求人は自らの略称が著名であり、全国の取引者、需要者に広く認識されていると主張する。
ところで、請求人は、登録第4508406号商標(乙1)及び引用商標を所有するものであり、甲第5号証ないし甲第144号証においても、この2種の商標がアイライナー等の商品に使用されている。
よって、需要者は、請求人が所有する上記2種の商標が使用された商品を他社商品に対して識別力を有して購入するのであり、この事は、競合他社のメーカーが販売する商品も同様の事がいえるものである。
そもそも、本号における「著名」とは、「世間に名前がよく知られていること」(大辞林第三版及びデジタル大辞泉)であり、また、甲第3号証における「一般」とは、「あたりまえ、ありふれていること、普通、行き渡っていること」(大辞林第三版及びデジタル大辞泉)であり、さらに、「認識」とは、「物事を見分け、本質を理解し正しく判断すること」(大辞林第三版及びデジタル大辞泉)である。
したがって、上記2種の商標を付した商品が、甲第5号証ないし甲第144号証により多くの納入実績、販売実績があったとしても、請求人の略称が、「あたりまえ、ありふれていること、普通、行き渡っている様に広く世間に名前が正しく判断されてよく知られている」とは断言できるものではなく、その根拠も確証もない。
特に多くのメーカーが参入している化粧品業界において、日本及び世界にも名称が知れ渡っている各メーカーは何れも数十年からの歴史があるばかりか、その各メーカーさえも各商品には個別の商品名を付して他社との識別をはかっているのみならず、長期にわたりシリーズ化をはかる等の絶え間ない企業努力を惜しまず行っているのは周知の事実であり、さらに、需要者は、商品名(例えば、ケイト、マキアージュ、インテグレート、エスプリーク、コフレドール等の商品名で選択し必ずしも企業の名称に紐付けて購入しているのではない。)で希望の商品を意志決定するのである。
被請求人は、一般社団法人日本美容協会の代表理事として関西を中心に全国の美容サロン、海外(シンガポール、モンゴル等)の美容関連施設等に美容サロン経営に関するコンサルティング活動を展開しつつ(乙3)、乙第4号証のとおり、自らが代表取締役を務める株式会社アップロードで自社開発したオリジナル商品である「髪質改善D3(ディースリー)シリーズ」で「シャンプー、トリートメント、ミスト」を、自らが経営する美容サロン(乙5)のみならず全国の美容サロン、美容ディーラー及びインターネット通販を通じて多くの取引者、需要者に長期にわたり提供しており、さらに、有名タレントが出演するテレビショッピングでも「髪質改善D3(ディースリー)シリーズ」を販売しているものである(乙6)。
今般、被請求人が所有する本件商標は、長期にわたり全国の美容サロン、美容ディーラー及びインターネット通販を通じて多くの取引者、需要者に販売をしていた「髪質改善D3(ディースリー)シリーズ」のバージョンアップである独自開発商品シリーズに付するための商標である(乙7)。
したがって、請求人の略称は、決して「著名な略称」とはいえず、よって「著名」でない限りは、当該他人の承諾を得る必要はないばかりか請求人の人格的利益を侵害するものでないのは明白であり、本件商標は請求人の「著名な略称」を含むものではない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するものではない。
2 商標法第4条第1項第11号に該当しないとする点
請求人は、引用商標から「ディーアップ」との称呼が生じ、請求人の著名商標との観念が生じるものであり、さらに、「ディーアップ」を欧文字に変更したときには引用商標と同じ欧文字のつづり「DUP」になることから、互いに類似する商標であると主張するが、デザイン化された3つの正方形が斜め右上方向にかけて配された「DUP」なる文字のみならず、欧文字のみの「DUP」のそれぞれを「ディーアップ」と称呼することは英文法上のみならず一般常識においても納得できないばかりか不可というものであり、例えば、仮に、「ディーアップ」と称呼するものを欧文字のつづりとした場合には、「D-UP」と表記されなければならない。
また、特許情報プラットホームの商標検索の資料(乙2)によれば、引用商標を「ダップ、デイユウピイ」と称呼する旨が開示されている。
さらに、「DUP」なる文字を「ディーアップ」と称呼することができないとする根拠として、被請求人は乙第1号証を提出する。乙第1号証は、特許情報プラットホームの商標検索の資料であり、請求人の「D.U.P:ディー・ユー・ピー」と称呼する旨の商標が開示され、加えて、乙第8号証は、同じく、請求人の「D-UP:デイアップ」と称呼する旨の商標が開示されており、このことからも請求人は、引用商標を「ディーアップ」と称呼することが出来ない旨を十分に認識した上で、「D-UP:デイアップ」という商標を出願した経緯は明白である。
したがって、本件商標に係る指定商品と、引用商標に係る指定商品又は指定役務とは、指定商品が同一又は類似のものであっても、称呼及び観念が全く異なるものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
3 商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当しないとする点
請求人は、請求人の名称の略称である「ディーアップ」の欧文字表記である「DUP」のつづりからなる商標を多岐にわたる商品に使用すると共に、少なくとも本件商標に係る指定商品と同一又は類似する商品との関係では、請求人の出所を表示する著名商標であると主張する。
しかしながら、乙第2号証によれば、引用商標は「ダップ、デイユウピイ」と称呼する旨が開示され、また、「DUP」なる文字を「ディーアップ」と称呼することができないとする根拠として乙第1号証があり、さらに、引用商標を「ディーアップ」と称呼することができない旨を十分に認識した上で、乙第8号証に掲げる商標を出願した経緯は自明の事実であることに何ら疑いの余地はない。
加えて、英文法上のみならず一般常識においても、欧文字のみの「DUP」を「ディーアップ」と称呼するというには納得できないばかりか不可というものであり、仮に、「ディーアップ」と称呼するものを欧文字のつづりとした場合には、「D-UP」と表記されなければならない。
請求人は、自らの商標「DUP」は「ディーアップ」の欧文字表記であることから、「ディーアップ」も自らの商標であるがごとくの主張をするものであるが、上記でも述べたとおり、何の根拠もない言い分であり、更に、「DUP」は「著名な商標」であり、取引者、需要者の間に広く認識されていると主張し、よって、「ディーアップ」も同様である旨を述べるものであるが、「D.U.P:ディーユーピー」及びデザイン化された「DUP:ダップ、デイユウピイ」を付した商品が、甲第5号証ないし甲第144号証により多くの納入実績、販売実績があったとしても、それはあくまで、商品に付された「D.U.P:ディーユーピー」及びデザイン化された「DUP:ダップ、デイユウピイ」であり、取引者、需要者は、商品名を認識して希望の商品を意志決定するものであり、決して本件商標の構成の一部である「ディーアップ」を認識しているものではない。
被請求人が有する本件商標は、長期にわたり全国の美容サロン、美容ディーラー及びインターネット通販を通じて多くの取引者、需要者に販売をしていた「髪質改善D3(ディースリー)シリーズ」のバージョンアップである独自開発商品シリーズに付するための商標である。
したがって、本件商標の構成の一部は、例え、指定商品が同一又は類似であっても請求人の業務に係る商品を表示する著名商標ではないし、本件商標は、決して不正の目的をもって係る指定商品に使用するものでない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものではない。

第5 当審の判断
1 請求人の主張する著名商標について
請求人は、「ディーアップ」や、その欧文字表記である「DUP」の文字つづりからなる商標(「D.U.P」、「D-UP」など)を化粧道具、まつ毛用化粧品、ネイル用化粧品などの商品に使用し、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の出所を表示する著名商標として、取引者、需要者の間に広く認識されるに至っている旨主張するが、提出された証拠において「D.U.P」及び「D-UP」が使用されたことが確認できる本件商標の登録出願時前の証拠は、「D.U.P」については5件(甲16、甲66、甲67、甲115、甲116)「D-UP」については3件(甲8、甲12、甲96)とわずかである。
そこで、以下においては、「ディーアップ」の片仮名を横書きしてなる標章(以下「使用標章」という。)及び引用商標についての周知性を検討、判断する。
2 使用標章及び引用商標の周知性について
(1)請求人の主張及び提出された証拠によれば以下のとおりである。
ア 請求人は、事業内容を「化粧品・化粧雑貨・ネイル用品の企画・製造・販売(国内・海外)、海外化粧品・ネイル用品ブランドの代理店」とする1992年4月に設立された企業である(甲4)。
イ 2014年11月26日発行の株式会社富士経済による「美容家電・化粧雑貨マーケティングトレンドデータ 2014?2015」の「アイラッシュ関連品」(アイラッシュ、グルー、リムーバー)の項において、2012年から2014年(見込)の期間では、アイラッシュ関連品のトップメーカーは請求人であって、3割以上のシェアを有している旨の記載があり、また、同期間のアイラッシュ関連品のブランドシェアは、「D.U.Pアイラッシュフィクサー」他「D.U.P」シリーズ4商品で全体の約22%のシェアを有している(甲16)。
ウ 株式会社True Dataによる2016年4月から2017年3月の「フェイス用化粧用具(アイラッシュ、フィクサー)」のメーカー別購入金額及び売上構成比は、請求人が第1位である(甲17)。
エ 請求人の主張によれば、2015年4月から2017年3月の期間、「DUP商品取扱い店舗」は日本全国のドラッグストア等18,411店であり、これらの店舗では、「まつ毛用化粧品」等を販売した(甲18)。また、店舗において商品が陳列されている状況を撮影した写真において、「マスカラ,アイライナー,つけまつ毛,二重まぶた形成テープ」とともに引用商標(色彩のみ異なるものを含む。以下同じ。)が表示されていることがうかがえる(甲19?甲57)ものの、これらの撮影日が本件商標の登録出願日前のものは甲第29号証、甲第38号証、甲第39号証のみである(甲58)。
オ 2013年10月から2017年9月発行の雑誌(美的、ニコラ、美ST等)、発行日不明の書籍(ベルサイユのばらぴあ、あなたを変える「薬指」スキンケア等)、2016年10月31日付け新聞(週刊粧業)において引用商標を付した商品「マスカラ,アイライナー,つけまつ毛,二重まぶた形成テープ」が掲載され、又は使用標章が上記商品とともに表示されている(甲66?甲114)。
カ 請求人は、2014年6月(甲115)、同年12月(甲116)、2015年10月(甲137、甲138)及び2017年7月(甲117?甲125)に引用商標を付した商品「マスカラ,つけまつ毛用接着剤(フィクサー),アイライナー,二重まぶた形成テープ」等について、タレントを起用した宣伝動画を自身のウェブサイトやYouTube等で公開したこと、また、2015年5月(甲134)及び2016年2月(甲140、甲141)に引用商標を付した商品「マスカラ」について、タレントを起用したテレビCMを全国で放送したことがうかがえる(甲134?甲142)。
キ 請求人が主催するつけまつげの普及等を目的とするイベント「TSUKEMAクイーン」(第一回は2015年6月6日、第二回は2016年6月6日)のプレスリリース及びそれに関連したニュース記事の写しにおいて、引用商標が表示されている(甲126?甲128、甲130?甲132)。
ク 出力日が2017年8月及び2018年4月の請求人のホームページ又はオンラインショップにおいて、引用商標を付した商品「マスカラ,アイライナー,つけまつ毛,二重まぶた整形テープ」などが掲載され、使用標章が表示されている(甲6、甲8、甲11?甲15、甲59?甲65)。
ケ 本件商標の登録出願時において、請求人が「ディーアップ」の略称をもって使用されていると認められる証左は、上記イ「美容家電・化粧雑貨マーケティングトレンドデータ 2014?2015」の文章及び表における記載、上記オの雑誌における商品の説明欄の記載、上記カのテレビCMのプレスリリースにおける記載及び上記キのイベント「TSUKEMAクイーン」に関連したニュース記事のみである。
コ 甲第159号証ないし甲第399号証は、請求人が作成した表題を「証明願」とする書面であって、「特許庁へ提出する必要がありますので、下記に相違ないことを御証明下さるようお願いいたします。」の記載があり、その下に、「当社商標:」として引用商標の記載、及び請求人が「ディーアップ」と略称されていること、請求人の略称である「ディーアップ」は、化粧品業界において平成28年10月20日の時点で周知、著名であったこと、引用商標は化粧品の商標として平成28年10月20日の時点で取引者、需要者に広く認識されていたこと、引用商標は「ディーアップ」の称呼で取引されていることを証明する旨を内容とした全て同一の文面からなる書面である。
(2)上記(1)によれば、使用標章及び引用商標の周知性については、以下のとおりである。
請求人は、本件商標の登録出願前に我が国において、使用標章及び引用商標を表示したアイラッシュ関連品を販売し、2012年から2014年にはトップメーカーであったこと、2015年から2017年には、日本全国のドラッグストア等で引用商標を表示した「マスカラ、つけまつ毛」等(以下「まつ毛関連商品」という場合がある。)が販売されていることがうかがえること、また、使用標章及び引用商標を表示したまつ毛関連商品が2013年から2017年の女性向けファッション雑誌等に掲載されたこと、さらに、その後も上記商品がオンラインショップなどで販売されていることから、請求人は、遅くとも2012年から使用標章及び引用商標を使用していることが認められ、また、使用標章及び引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品(まつ毛関連商品)を表示するものとして、特に「マスカラ、つけまつ毛」を使用する需要者において、ある程度知られていたということができる。
しかしながら、請求人によるまつ毛関連商品に係る広告宣伝活動等については、幅広い需要者層が目にする機会の多いテレビCMは2015年5月及び2016年2月の放送のみであって、そのテレビCMの回数や期間、広告費などは明らかでないし、請求人が主催するイベントは2015年6月及び2016年6月の2回の開催のみであって、その後継続して行われていることなどを把握できない。また、広告宣伝活動の一つとして、インターネット上で2014年から動画を公開していること及びその動画の再生回数、バナー広告の表示回数などを開示しているが、この再生回数及び表示回数の多寡を具体的に検討するための証拠の提示がないから、その数値について客観的に評価することができない。
さらに、上記(1)コの証拠は、いずれも、表題を「証明願」とする請求人の作成に係る同一文面の証明内容であって、その下部に、「上記に相違ないことを証明いたします。」と印刷され、証明者の欄に署名及び押印又はサインがされるという方式のものであるから、各証明者の独自の知見から引用商標の周知性を証明したものとはいい難いし、その証明内容の裏付けとなるような各証明者による客観的な証拠も提出されていない。
そうすると、これらの証明書をもって、「ディーアップ」の文字が請求人の著名な略称であること又は使用標章及び引用商標の周知性を基礎づける根拠とすることはできない。
以上のとおり、使用標章及び引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、まつ毛関連商品の取引者、需要者において、ある程度知られていたということができるものの、その商品以外の取引者、需要者にまで相当程度知られていたとまでいうことはできない。
さらに、外国において周知、著名であることを裏付ける証拠を見いだすことはできない。
したがって、提出された甲各号証によっては、使用標章及び引用商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、また、「ディーアップ」の文字が請求人の著名な略称として、いずれも本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の取引者、需要者の間で広く認識されていたと認めることはできないというべきである。
3 商標法第4条第1項第8号該当性について
請求人は、「本件商標の登録出願時はもちろんのこと、登録査定時においても『ディーアップ』は請求人を指し示す略称として一般に受け入れられているとともに、請求人の著名商標としても取引者、需要者に広く認識されている」旨主張している。
ところで、商標法第4条第1項第8号の「他人の著名な略称を含む商標」に関しては、「8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。(中略)そうすると,人の名称等の略称が8号にいう『著名な略称』に該当するか否かを判断するについても,常に,問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる。」(最高裁判所第二小法廷 平成16年8月31日判決 平成16年(行ヒ)第343号)と判示されている。
これを本件についてみるに、「ディーアップ」の文字が、まつ毛関連商品について請求人の略称として使用されたことがうかがえ、当該商品の取引者、需要者において、ある程度知られていたとしても、その範囲を超えて広く知られているとは、提出された証拠によっては認められないから、「ディーアップ」の文字が、請求人を指し示す略称として一般に受け入れられているとはいえないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、「髪質改善×頭皮改善」の文字と「ディーアップ」の文字を上下に配置した構成からなり、外観上「髪質改善×頭皮改善」の文字部分と「ディーアップ」の文字部分が分離して看取されるものであって、両文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえないものである。
そして、本件商標の構成文字全体から生じる「カミシツカイゼントウヒカイゼンディーアップ」の称呼が20音と冗長であること、及び「髪質改善×頭皮改善」の文字部分と「ディーアップ」の文字部分との間に観念的なつながりがあるものとはいえないことから、本件商標は、その構成中「ディーアップ」の文字部分が独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るというのが相当である。
そうすると、本件商標は、その構成中「ディーアップ」の文字に相応して「ディーアップ」の称呼を生じる。
そして、「ディーアップ」の文字は、辞書類に載録されている語ではなく、特定の意味合いを有しない語であるから、特定の観念を生じないものといえる。
(2)引用商標
引用商標は、別掲2のとおり、青色で「DUP」(「D」の文字と「U」の文字との間に「D」の文字の右下端から右斜め上向きに小中大の四角形が3つ配置されている。)の欧文字を横書きしてなるところ、「DUP」の文字は、辞書類に載録されている語ではなく、特定の意味合いを有しない語であるから、その構成文字に相応して「ディーユーピー」又は「ディーアップ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標との類否
本件商標において独立して自他商品識別標識として機能し得る「ディーアップ」の文字と引用商標とを比較すると、外観においては、構成文字における片仮名と欧文字という明らかな差異があるから、判然と区別し得るものである。
次に、称呼においては、本件商標の構成中の「ディーアップ」の文字から生じる称呼と引用商標から生じる称呼とは、「ディーアップ」の称呼を共通にする。
そして、観念においては、本件商標の構成中の「ディーアップ」の文字及び引用商標は、共に特定の観念を生じないものであるから、比較することはできない。
以上からすれば、本件商標の構成中の「ディーアップ」の文字と引用商標とは、称呼を共通にする場合があり、観念については比較することができないとしても、全体の外観が著しく相違し、その印象が大きく異なるものであり、相紛れるおそれはないものであるから、これらが需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は、相紛れることのない非類似の商標である。
(4)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との類否
本件商標の指定商品及び指定役務中の第3類「シャンプーその他のせっけん類,ジャスミン油その他の植物性天然香料,じゃ香その他の動物性天然香料,ゲラニオールその他の合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,クリームおしろいその他のおしろい,一般化粧水その他の化粧水,クレンジングクリームその他のクリーム,口紅その他の紅,ヘアーリンスその他の頭髪用化粧品,香水その他の香水類,アイシャドウ,あぶらとり紙,身体用防臭剤,タルカムパウダー,ネイルエナメル,ネイルエナメル除去液,バスオイル,バスソルト,パック用化粧料,ベビーオイル,ベビーパウダー」と引用商標の指定商品及び指定役務中の第3類「二重まぶた形成用接着テープ,その他の二重まぶたにするためのテープ状化粧品,その他の二重まぶた形成用化粧品,その他のまつ毛用化粧品,マスカラ,アイライナー,マニキュア,ネイル用ベースコート,ネイルエナメル除去液,香水,その他の化粧品,ジェルネイル,つけまつ毛用接着剤除去剤,せっけん類,香油,香料」及び第35類「化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とは、同一又は類似のものである。
(5)小括
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるから、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品及び指定役務とが同一又は類似のものであるとしても、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)本件商標と使用標章との類否について
本件商標は、上記4(1)のとおり、「髪質改善×頭皮改善」の文字と「ディーアップ」の文字を上下に配置した構成からなるところ、その構成中「ディーアップ」の文字部分が独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るというのが相当であるから、本件商標は、その構成中「ディーアップ」の文字に相応して「ディーアップ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
使用標章は、「ディーアップ」の文字からなり、「ディーアップ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
そこで、本件商標の構成中の「ディーアップ」の文字部分と使用標章「ディーアップ」とを比較すると、両者は観念については比較することができないとしても、外観及び称呼を共通にするものであるから、両者は相紛れるおそれのあるものと判断するのが相当である。
そうすると、本件商標と使用標章とは、類似の商標といわなければならない。
しかしながら、使用標章は、上記2のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
してみれば、本件商標に係る指定商品と使用標章に係る商品が同一又は類似するものであるとしても、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(2)本件商標と引用商標との類否について
引用商標は、上記2のとおり、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く認識されていたものとは認められないものであり、また、本件商標と引用商標とは、上記4のとおり、相紛れるおそれのない非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標と引用商標とは、上記4のとおり、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、その類似性が高いとはいえないものである。
また、本件商標と使用標章とは、上記5(1)のとおり、類似の商標であるから類似性の程度は高いものといえる。
以上のとおり、本件商標と引用商標との類似性は低く、本件商標と使用標章との類似性は高いとしても、使用標章及び引用商標は、上記2のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表すものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないものであるから、本件商標をその指定商品について使用をしても、取引者、需要者をして使用標章及び引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が、請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
7 商標法第4条第1項第19号該当性について
使用標章及び引用商標は、上記2のとおり、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国における需要者の間に広く認識されていたものということはできないものである。
そして、請求人の提出に係る証拠をみても、本件商標権者が、不正の目的をもって本件商標の使用をするものと認めるに足る具体的な事実を見いだすことはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
8 結び
以上のとおり、本件商標は、本件審判の請求に係る指定商品について、商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 本件商標



別掲2 引用商標(色彩は、原本参照のこと。)



審理終結日 2019-12-20 
結審通知日 2019-12-25 
審決日 2020-01-15 
出願番号 商願2016-122223(T2016-122223) 
審決分類 T 1 12・ 262- Y (W03)
T 1 12・ 261- Y (W03)
T 1 12・ 222- Y (W03)
T 1 12・ 25- Y (W03)
T 1 12・ 271- Y (W03)
T 1 12・ 263- Y (W03)
T 1 12・ 23- Y (W03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白鳥 幹周 
特許庁審判長 金子 尚人
特許庁審判官 中束 としえ
小松 里美
登録日 2017-06-23 
登録番号 商標登録第5956971号(T5956971) 
商標の称呼 カミシツカイゼンカケルトーヒカイゼンディーアップ、カミシツカイゼントーヒカイゼンディーアップ、カミシツカイゼンカケルトーヒカイゼン、カミシツカイゼントーヒカイゼン、カミシツカイゼン、トーヒカイゼン、ディーアップ 
代理人 水野 勝文 
代理人 保崎 明弘 
代理人 和田 光子 
代理人 鈴木 亜美 

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