• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2018890005 審決 商標
無効2020890039 審決 商標
不服202017242 審決 商標
無効2015890035 審決 商標
異議2016900226 審決 商標

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W162541
審判 一部無効 外観類似 無効としない W162541
審判 一部無効 称呼類似 無効としない W162541
審判 一部無効 観念類似 無効としない W162541
審判 一部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W162541
審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W162541
管理番号 1360661 
審判番号 無効2017-890011 
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-02-23 
確定日 2020-03-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第5712040号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5712040号商標(以下「本件商標」という。)は,「コナミスポーツクラブマスターズ」の片仮名を標準文字により表してなり,平成26年5月30日に登録出願,第16類「紙製包装用容器,紙製のぼり,紙製旗,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,紙類,文房具類,トレーディングカード,ポスター,カレンダー,マニュアル,テキスト,その他の印刷物,写真,写真立て」,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,トレーニングパンツ,トレーニングシャツ,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,Tシャツ,シャツ,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,帽子,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),ユニフォーム,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」及び第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,書籍の制作,電子計算機端末又は移動体電話による通信を用いて行う画像・映像の提供,映画の上映・制作又は配給,オンラインによる画像・映像の提供,演劇の演出又は上演,演芸の上演,音楽の演奏,電子計算機端末又は移動体電話による通信を用いて行う音楽・音声の提供,オンラインによる音声・音楽の提供,放送番組の制作」を指定商品及び指定役務として,同年10月2日に登録査定,同月24日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録の無効の理由として引用する登録商標は,以下の4件であり,いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第1325831号商標(以下「引用商標1」という。)は,「MASTERS」の欧文字を横書きしてなり,昭和47年5月26日に登録出願,第17類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同53年3月9日に設定登録,その後,平成20年4月9日に,指定商品を第24類「布製身の回り品」及び第25類「被服」とする指定商品の書換登録がされたものである。
2 登録第2198446号商標(以下「引用商標2」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,昭和53年4月7日に登録出願,第17類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,平成元年12月25日に設定登録,その後,同21年10月14日に,指定商品を第22類「衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿」,第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「被服」とする指定商品の書換登録がされたものである。
3 登録第1934194号商標(以下「引用商標3」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,昭和53年4月7日に登録出願,第24類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,昭和62年2月25日に設定登録,その後,平成19年1月17日に,指定商品を第9類「家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,スロットマシン,ウェイトベルト,ウェットスーツ,浮袋,運動用保護ヘルメット,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,メトロノーム,レコード」,第25類「仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」及び第28類「おもちゃ,人形,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具」とする指定商品の書換登録がされたものである。
4 登録第2715796号商標(以下「引用商標4」という。)は,別掲2のとおりの構成からなり,昭和62年9月18日に登録出願,第24類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,平成8年3月7日に登録審決,同年8月30日に設定登録,その後,同18年5月31日に,指定商品を第28類「ゴルフ用具」とする指定商品の書換登録がされたものである。
なお,引用商標1ないし引用商標4をまとめて,以下「引用商標」という場合がある。

第2 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は,本件商標の指定商品及び指定役務中,第16類「ゴルフ用スコアカード,ゴルフ用スコアカード記入用鉛筆,ゴルフに特化した文房具類,ゴルフに関するポスター,ゴルフに特化したカレンダー,ゴルフに特化したテキスト,ゴルフに特化した書籍,ゴルフに特化した雑誌及び新聞,ゴルフに特化した印刷物,ゴルフに特化した写真」,第25類「ゴルフジャケット,ゴルフ用ズボン,ゴルフ用半ズボン,ゴルフ用スカート,ゴルフ用ジャンバー,ゴルフ用トレーニングパンツ,ゴルフ用洋服,ゴルフ用コート,ゴルフ用セーター類,ゴルフ用シャツ,ゴルフ用トレーニングシャツ,ゴルフ用下着,ゴルフ用靴下,ゴルフ用耳覆い,ゴルフ用帽子,ゴルフ用サンバイザー,ゴルフ靴,ゴルフ靴用スパイク」,第41類「ゴルフの教授,ゴルフに関するセミナーの企画・運営又は開催,ゴルフに関する電子出版物の提供,ゴルフに関する図書及び記録の供覧,ゴルフに関する書籍の制作,電子計算機端末又は移動体電話による通信を用いて行うゴルフに関する画像・映像の提供,ゴルフに関する映画の上映・制作又は配給,オンラインによるゴルフに関する画像・映像の提供,ゴルフに関する放送番組の制作」(以下「本件請求商品役務」という。)についてその登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第96号証(枝番を含む。)を提出した。
2 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当し,同法第46条第1項1号の規定により,無効にすべきものである。
3 無効原因
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 請求人は,アメリカ合衆国ジョージア州オーガスタに所在し,同所に所在するオーガスタ ナショネル ゴルフ クラブ(Augusta National Golf Club)を経営する米国法人である。請求人の経営するオーガスタ ナショネル ゴルフ クラブ(Augusta National Golf Club)は,いわゆる世界の4大メジャーゴルフトーナメントの一つである「マスターズトーナメント(Masters Tournament)」が開催されるゴルフクラブとして世界中に知れ渡っている(甲3)
イ 「Masters」「マスターズ」の著名性について
請求人の,オーガスタ ナショナル ゴルフ クラブ(Augusta National Golf Club)は,今日のゴルフの人気,及びマスターズ・トーナメントの著名性とも相まって,今日では,特にゴルフ愛好者の間において誰もが知るゴルフクラブの名称として著名なものであることは疑いない。
「オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ」は,球聖ボビージョーンズにより設計されて作られたゴルフコースで,1933年に開場され,1934年にここで,「オーガスタ・ナショナル・インビテーション」としてトーナメントが発足された。そして,第6回目の大会である1939年から現在の正式名称である「The Masters Tournament」と呼ばれるようになり,今日に至っている。
「マスターズトーナメント」は,男子プロゴルフ競技で格の高い世界4大メジャー大会の一つであるが,同じ場所,すなわち「オーガスタ ナショナル ゴルフ クラブ/Augusta National Golf Club」で開催されるのは「マスターズトーナメント」のみである。この大会は,招待資格を有する限られた選手しか出場できない大会として「ゴルフの祭典」と呼ばれ,このトーナメントに出場を許されることは世界中の男子プロゴルフ・プレイヤーにとって夢であり,憧れとなっている。その結果,「Masters」「マスターズ」は,4大メジャー大会の中でも特に注目度が高く,日本でも最も評判の高いゴルフイベントである。
したがって,請求人が,運営する「マスターズトーナメント」が世界屈指の著名なゴルフトーナメントであることは周知の事実であり,これが単に「Masters」「マスターズ」の略称で古くから親しまれている(甲5の1?甲5の80,甲12の1?甲21の9,甲25?甲56)。
ウ 「マスターズトーナメント」は,アメリカ合衆国ジョージア州オーガスタに所在する「オーガスタ ナショナル ゴルフ クラブ/Augusta National Golf Club」が毎年主催してそのコースで行われることは,ゴルフに関心を持つ人々の間で知らない者がいないほどである。
さらに,「オーガスタ」も「オーガスタ ナショナル ゴルフ クラブ」の略称として,多種の雑誌その他のメディアで広く用いられているので,その結果,「オーガスタ」もゴルフに関心を持つ人々の間で知らない者がいないほどに周知性・著名性を得ている。
その結果,時には,「オーガスタ」と「マスターズ」はしばしば同義語として雑誌その他のメディアで用いられている事実が存在するほどまでに,「マスターズ」と「オーガスタ ナショナル ゴルフ クラブ」は極めて深く強い結びつきをもっている(甲12の1?甲23)。
よって,「マスターズ」といった場合,特にゴルフに関心を持つ人々は,常に請求人との関係で認識する,ということができる。
エ 本件商標との類似性について
(ア)称呼上の類似性について
本件商標は,片仮名の「コナミスポーツクラブマスターズ」からなるところ,合計で15文字と商標としては極めて多くの文字からなるものであるから,これを称呼した場合には15音という極めて冗長な構成音数からなるもので,全体を一息で称呼するには困難な構成音数であるから,本件商標はいずれかの部分で分離されて称呼される。
したがって,本件商標の構成文字数及び発音方法からして,本件商標は「コナミスポーツクラブ」という部分と「マスターズ」とを結合した商標であり,本件商標から「マスターズ」という称呼,観念も「コナミスポーツクラブ」という称呼観念とともに生じると考えるのがきわめて常識的である。
被請求人は,「娯楽」と「健康」の分野で,デジタルエンタテイメント事業,健康サービス事業,ゲーミング&システム事業,遊技機事業を展開している企業である。また,本件商標中前半の「コナミスポーツクラブ」が,被請求人が展開しているスポーツクラブの名称である「コナミスポーツクラブ」を示すことは明らかである(甲76)。
これに対し,「マスターズ」は,請求人が開催する著名な「マスターズトーナメント」の略称として認識されることは明らかであり,「コナミスポーツクラブ」と「マスターズ」には何ら意味上の関連はない。
よって,本件商標に接する者は,本件商標を全体で一個の商標として認識するのではなく,被請求人が運営するスポーツクラブの名称である「コナミスポーツクラブ」に「マスターズ」を付してなる商標であると認識することは疑いない。
さらに,ゴルフの分野においての「マスターズ」の著名度は,前半の「コナミスポーツクラブ」とは比較にならないほど圧倒的なものであるから,本件商標に接する者は「マスターズ」の部分に特に印象付けられることは疑いない。
したがって,本件商標中「マスターズ」は,本件商標の支配的な識別部分として認識されることは明らかである。
しかして,上記の事情に鑑みれば,本件商標が,本件請求商品役務中,ゴルフに関係する商品について使用され,本件商標が称呼される場合には,「コナミスポーツクラブ」と「マスターズ」が別個の商標として認識されるから,本件商標からは,「コナミスポーツクラブマスターズ」の他に,「コナミスポーツクラブ」及び「マスターズ」の称呼が生じる,というべきである。
これに対し引用商標から,「マスターズ」の称呼が生じることは明らかである。
したがって,本件商標から生じる称呼「マスターズ」と引用商標から生じる称呼「マスターズ」は同一である。よって,本件商標と請求人の著名な商標「Masters」「マスターズ」とは称呼上類似することは明らかである。
(イ)観念上の類似性について
本件商標は,被請求人が運営するスポーツクラブの名称である「コナミスポーツクラブ」に「マスターズ」を付してなる商標であり,両者の間には意味上の関連性は全くない。
しかして,本件商標の主要部「マスターズ」は,請求人の開催する「マスターズ トーナメント」を意味する言葉であり,その意味で広く一般に知られた言葉であることは明らかであり,特にゴルフに関係した分野においては,「マスターズ」の著名度は「コナミスポーツクラブ」と比べて圧倒的なものである。よって,本件商標が,請求人が無効を請求しているゴルフに関係する商品に使用された場合,本件商標に接する者は「マスターズ」に印象づけられることは明らかであるから,本件商標を「マスターズトーナメント」と観念上関連付けて認識する,というべきである。これに対し引用商標の「MASTERS」からも「マスターズトーナメント」の観念が生じることは明らかである。
したがって,本件商標と引用商標は,観念上類似する商標である。
(ウ)「MASTERS」「マスターズ」の著名性に基づく考察
「マスターズ」は,請求人が主催している「マスターズトーナメント」の略称として我が国一般公衆の間に広く認識され,周知,著名となっており,特にゴルフに関係する分野においてのその周知度,著名度は圧倒的なものであるから,これが本件請求商品役務中,ゴルフに関係する商品に使用された場合,誰もが「マスターズトーナメント」の略称として認識することは疑いの余地がない。本件商標は,「コナミスポーツクラブ」と請求人の著名な引用商標1ないし4に含まれる「MASTERS」の片仮名表記である「マスターズ」が結合した商標であることは明らかであるから,本件商標は引用商標と類似する商標である。
オ 本件請求商品役務中,引用商標と抵触する商品は,第25類に属する商品である。すなわち,これら商品は全てゴルフに特化したものであって,ゴルフ用具専門店,スポーツ店のゴルフ用品売場,ゴルフ倶楽部内のプロショップ等で販売されるものであるから,これら商品の取引者は,ゴルフをする者及びゴルフ愛好者である。
カ 本件商標は,本件請求商品役務中,第25類の商品については,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 出所の混同について
本件商標は請求人の著名な「マスターズ」をその構成中に含むから,請求人の「Masters」「マスターズ」と類似する商標である。
さらに,前述したとおり,本件商標中前半の「コナミスポーツクラブ」が,被請求人が展開しているスポーツクラブの名称である「コナミスポーツクラブ」を示すことは明らかである。これに対し,「マスターズ」は前述したとおり,請求人が開催する著名な「マスターズトーナメント」の略称として認識されることは明らかであり,「コナミスポーツクラブ」と「マスターズ」には何ら意味上の関連はない。よって,本件商標に接する者は,本件商標を全体で一個の商標として認識するのではなく,被請求人が運営するスポーツグラブの名称である「コナミスポーツクラブ」に「マスターズ」を付してなる商標であると認識することは疑いない。
イ 本件商標の指定商品・指定役務と請求人の商品・役務との間における商品・役務の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品・役務の取引者及び需要者の共通性そのた取引の実情に基づく考察
本件請求商品役務は全てゴルフに関係したものであり,それ故,これらの商品の需要者,提供者は,ゴルフに関係した者であり,需要者,受益者は全てゴルフをする者及びゴルフの愛好者である。したがって,本件請求商品役務は,請求人が販売する商品及び請求人が提供する役務と完全に一致するものである。よって,「マスターズ」は請求人が主催する「マスターズトーナメント」を表示するものとして,特にゴルフ関係者,ゴルフをする者及びゴルフ愛好者の間では,圧倒的に著名な表示であるから,請求人が登録の無効を求めているゴルフに関係した指定商品や指定役務に「マスターズ」の語が使用された場合,これらの商品の取引者,需要者,役務に接する受益者は,これを請求人の「マスターズ」を示すものと認識することは疑いない。
ウ さらに,「Masters」「マスターズ」が世界4大メジャーゴルフトーナメントのうちでも格別に世界的に著名なゴルフトーナメントとなったのは,当然ながら,該トーナメントが常に「Augusta National Golf Club」で開催され,該ゴルフクラブが,ボビージョーンズの設計の理念に基づいた,そのコースの美しさ,コースの攻略の難しさがトーナメントに参加するプレイヤーや,及びこれを観戦する者全てを魅了するからであり,これは,さらに,コースコンディション作り,その他環境の整備等などトーナメントを開催するにあたり,すべてにおいて,最高のトーナメントを提供するという請求人による長年にわたる不断の努力の賜物である。
したがって,本件商標の登録が維持され,請求人と何ら関係の無い者により,「マスターズ」をその構成中に含む本件商標が本件指定商品・指定役務中のゴルフに関係した商品・役務について自由に使用されると,請求人が長年の努力により培ってきた「Masters」の名称に化体された業務上の信用が毀損されることは明らかであり,請求人が受ける損害は計り知れない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号について
請求人が開催する「Masters」「マスターズ」は世界4大メジャーゴルフトーナメントのうちでも格別に世界的に著名なゴルフトーナメントである。
しかして,被請求人はスポーツクラブを運営する企業であり,被請求人が経営する「コナミスポーツクラブ」は,「ジュニア・ゴルフ・アカデミー」「ゴルフ・アカデミー」と称する青少年向け及び成人向けゴルフ講習会を経常的に設けており,さらにこのような活動が新聞等により報道されている(甲78?甲84)。このように,事業の一部としてゴルフの競技会を企画し,運営を行っている,被請求人が「Masters」「マスターズ」が世界的に著名なゴルフトーナメントの略称であることを知らないはずはない。被請求人は,スポーツに関係した商品・役務について使用する商標として,無数にある言葉の中から「マスターズ」を採択し,自らが運営するスポーツクラブの名称にこれを付したである。これは明らかに,「マスターズ」のもつ顧客吸引力を利用し,不当に利益を上げることを目的として採用したに他ならない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号について
請求人が開催する「Masters」「マスターズ」が世界4大メジャーゴルフトーナメントのうちでも格別に世界的に著名なゴルフトーナメントである。
しかして,被請求人は実際にスポーツクラブを運営する企業であるから,被請求人が「Masters」「マスターズ」が世界的に著名なゴルフトーナメントの略称であることを知らないはずはない。被請求人は本件商標の採択にあたり,「マスターズ」の名声や顧客吸引力に便乗するものであることは明らかであり,更に商標登録することは,その名声や顧客吸引力の希釈化を進めるおそれがある。
したがって,本件商標の登録は,公正な取引秩序を乱し,公の秩序を害するおそれがあるものである。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
4 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 被請求人は,「コナミスポーツクラブマスターズ」との構成の本件商標から,「マスターズ」のみを抽出して,他の商標との類否を判断することは許されないと主張している。
しかしながら,本件商標は,被請求人の傘下にあり,そのホームページでは日本最大級というほどのスポーツクラブの名称である「コナミスポーツクラブ」と,前述のとおり請求人の主催する「Masters Tournament」「マスターズトーナメント」の略称として極めて著名で,引用商標の称呼である「マスターズ」を結合してなる商標である。そして,本件商標の「マスターズ」部分は,需要者等が「マスターズ」から請求人の主催する「Masters Tournament」「マスターズトーナメント」の略称を当然に認識するところ,請求人が無効を求めているゴルフに関係した商品・役務について使用された場合には,結合部分の一部を分離抽出して把握することができるとされる「その部分が強く支配的な印象を与えると認められる場合」に該当するものである。
イ 商標の類否についての被請求人の主張について
(ア)本件商標の外観及び称呼
a 被請求人は,本件商標「コナミスポーツクラブマスターズ」を続けて一連に称呼することは何ら困難な点は見いだせず,息継ぎせずには発音できないとする請求人の主張は失当である,と主張する。
本件商標から生じる称呼は15音の構成音数からなるから,この構成音数は一般的に言って冗長であることは間違いない。このような冗長な構成音数からなる称呼は,観念上一体的に認識されるものを除いては,いずれかの部分で分離されて称呼される。
被請求人は,本件商標よりも長い称呼を生じる商標が一連に称呼し得ると判断された審決例を挙げているが,これらは本件商標と異なり,観念上一体的に認識され得るものであり,本件商標のように著名商標を含む2つの商標からなるものと認識されるものではない。
本件商標中の「コナミスポーツクラブ」は被請求人が運営するスポーツクラブの名称として知られているものであり,「マスターズ」は請求人の主催する著名な「Masters Tournament」「マスターズトーナメント」の略称と当然に認識されるから,別個に観念され,これらの間に一体に認識されるべき観念上の関連性は何らなく,被請求人の主張には理由がない。
b よって,本件商標に接する無効の請求にかかるゴルフに関する商品・役務の取引者,需要者,受益者は,本件商標を,「コナミスポーツクラブ」と請求人のゴルフトーナメントである「マスターズ」が結合した商標で,「コナミスポーツクラブ」と分離して,「マスターズ」を認識することは明らかである。
したがって,本件商標から,「コナミスポーツクラブマスターズ」の他に引用商標の「マスターズ」との称呼が生じる。
(イ)観念について
a 被請求人は,本件商標中「コナミスポーツクラブ」が著名であることを主張し,多くの証拠を提出しているが,およそ趣旨不明である。
b 請求人も「コナミスポーツクラブ」が被請求人が経営するフィットネスクラブの名称として広く知られていることを否定はしない。しかし,このことはむしろ,本件商標においては,被請求人が経営するフィットネスクラブを示す「コナミスポーツクラブ」が独立して認識される根拠にしかなり得ない。すなわち,本件商標からは「マスターズ」が分離して認識されるのであり,被請求人の主張するところは,本件商標から引用商標の称呼である「マスターズ」が認識されることを基礎づけるのである。
(ウ)「マスターズ」の語の意味について
a 広辞苑等の辞書における説明によれば,「マスターズ」が辞書に真っ先に記載されていることは,ゴルフ関係者以外の人々にも「マスターズトーナメント」の意味で一般的に知られていることを示すものである。これに対し,「マスターズ」の語義として,請求人の「マスターズトーナメント」が記載されている(甲25,甲28,甲31?甲33,甲36)のみであり,「中高年のための大会の総称」といった語義は記載されていない。すなわちこれは,「マスターズ」は「中高年のための大会の総称」の意味ではそれほど知られていないことを示すものにほかならない。
よって,「マスターズ」と言った場合には,まず,請求人の「マスターズトーナメント」の意味で認識される。
しかも,本件請求商品役務の取引者,需要者,受益者はゴルフに関係する業務を行っている者,ゴルフをする者,ゴルフ愛好者等である。したがって,「マスターズ」が請求人の「マスターズトーナメント」の意味で広く一般に知られているにもかかわらず,ゴルフに関する本件請求商品役務について「マスターズ」が使用された場合に,ゴルフに関係した者が,「マスターズ」を他の意味で理解するようなことはあり得ない。
b これに関し,被請求人は,辞書や審決例(乙21の1?乙22の2)を提出しているが,これらは本件とは事案が全く異なるので,何ら理由にならない。
c したがって,これらの審決例が存在するからといって,本件商標中「マスターズ」が「マスターズトーナメント」の略称として認識されることの理由にならない,との被請求人の主張には何ら合理的理由はない。
(エ)本件商標中「マスターズ」の文字から生じる観念について
a この点の被請求人の議論についても,「マスターズ」との称呼が生ずることを否定していないのであり,商標法4条1項11号の議論としては無意味である。
b 被請求人は,「マスターズ」の語は一般に,他の語と結合してスポーツ競技について使用される場合は,「中高年のための競技会の総称」の語義で理解されることが多く,ゴルフ競技についても例外でない,と主張し,トーナメントの名称中に「マスターズ」を含むものが存在し,これらが中高年以上の者を対象とするものであることを指摘する(乙23?乙40)。
c まず,被請求人は,「マスターズ」を「年齢が一定以上の中高年向けの大会の総称」の語義で理解されることが多いとするが,この「年齢が一定以上の」とは何を意味するか不明である。「マスターズ」の語義の一つとして「中高年向けの大会の総称」はあるが,「年齢が一定以上の中高年向けの大会の総称」と説明している辞書はない。
「マスターズ」は請求人の主催する「Masters Tournament」「マスターズトーナメント」の略称として極めて著名であることは明らかであり,これは,すでに特許庁による審決及び審査における拒絶査定においても認められている(甲6,甲7,甲23)。しかも,本件請求商品は全てゴルフに関係したものであるから,その商品・役務の取引者,需要者,受益者は全てゴルフに関係した事業者,ゴルフをする者やゴルフ愛好者である。そして,その商品・役務の需要者であるゴルフ人口は550万もいると言われ,これら550万人の全ての人達に請求人の「マスターズ」は知られているといっても過言でない。
したがって,これらゴルフ関係の商品・役務の事業者,ゴルフをする者やゴルフ愛好者が「マスターズ」の語に接した場合に,これを請求人の「Masters Tournament」「マスターズトーナメント」と関連付けないというようなことはあり得ない。よって,本件商標に接する取引者,需要者,受益者は,本件商標を「コナミスポーツクラブ」と請求人の「マスターズ」からなる商標として把握・認識するから,「マスターズ」の部分が「Masters Tournament」「マスターズトーナメント」の観念が生じるというべきである。
d これに対し,被請求人は,「ワールドマスターズゲームズ」,「日本スポーツマスターズ」,「全日本エイジシューターマスターズ」,「和歌山マスターズクラブ」,「福井県スポーツマスターズ」等(乙23?乙40)を挙げ,「マスターズ」が「中高年のための競技会の総称」として一般に使用されていると主張する。
しかしながら,まず,「ワールドマスターズゲームス」(乙23)及び「日本スポーツマスターズ」(乙24)は,大会の競技の種目にゴルフが含まれているとはしても,これらの大会の名称はゴルフ大会の名称ではなく,様々な競技を含む大会の名称である。よって,これを理由に「マスターズ」がゴルフの「中高年のための競技会の総称」として一般に使用されていることの理由にはならない。さらに,ゴルフの大会の名称である,「全日本エイジシューターマスターズ」,「和歌山マスターズクラブ」,「OTV杯マスターズゴルフ選手権大会」を始めとするその他のゴルフ大会については,被請求人提出の証拠に記載されたこれらの大会の参加資格をみると,参加者の年齢がエイジシュート達成を目指すもの,すなわち,高齢者で,ゴルフの上級者,学生選手権の優勝者及び上位の成績を獲得した者,ハンディキャップが少ない上級者,学生以外の者等であるから,単に「中高年のための競技会」は存在しない(乙26?乙34)。よって,これらの大会において「マスターズ」は,「中高年のための競技会」の意味では使用されていない。
さらに,「パテントマスターズ」(乙35の1及び2)は,その大会の参加資格は,弁理士である。したがって,ここでは「マスターズ」を「中高年のための競技会」の意味では使用していない。おそらく,「マスターズ」を,請求人の「マスターズ」の名声にあやかって使用しているのであろう。また,当該コンペティションの参加人数はわずか100名という,極めて少ない人数であり,弁理士のうちでゴルフ好きが集まって行うコンペティションである。なお,これは,業として行っているのではないが,請求人の「マスターズ」の名声を希釈化させる可能性があり,法律上問題がある。
以上のとおり,被請求人が提出した証拠によれば,ゴルフの大会名に「マスターズ」が使用されたものがあるが,これらにおいて,「マスターズ」がゴルフについて一般に「中高年のための競技会」の意味で一般的に使用されていることを証明するものではない。
そもそも,ゴルフ人口の大半は中高年である。野球,サッカー,テニスなどのスポーツは,子供,少年・少女,学生,青年,中高年といった幅広い年齢層の人によって行われる。これらのスポーツにおいては,中高年以外の年齢層も多く存在するから,「中高年のため競技会」というものが存在するかもしれない。しかしながら,その人口のうち大半が中高年であるゴルフにおいて「中高年のための競技会」なるものが存在するとは考えられない。かかるゴルフ人口の年齢構成からしても,「マスターズ」が一般に「中高年のための競技会」の意味で使用されてはいないというべきである。
上記各証拠における大会は,ハイレベルな大会が多いことを考えると,これらの大会の主催者は,世界のプロゴルファーのうちでも特に選ばれた者だけが出場できる請求人の「マスターズ」の名声や,ゴルフの祭典と言われる華やかな「マスターズ」のイメージにあやかって大会の名称中に「マスターズ」を採用し,使用していることは容易に想像できる。
e 我が国のゴルフ人口は550万人おり,これらのほとんど全ての者が請求人の「マスターズ」を知っていることは疑いのない事実である。
一方,被請求人の提出する証拠にかかる「マスターズ」を大会の名称中に使用しているゴルフ大会に参加する者及びその大会名を知る者は,数百人からせいぜい,2千人か3千人といったところであり,請求人の主催するゴルフトーナメントの略称である「マスターズ」を知る人の数とは比べものにならない程,少数である。仮に,これらのゴルフ大会に接する者で,「マスターズ」を,誤って,単に「中高年のための競技会」の意味で認識する者がいたとしてもその数は,極めて少数である。
f 被請求人は,ゴルフ以外の各種競技においても「マスターズ」が「中高年のための競技会」の意味で使用されていることを示す証拠として乙第36号証ないし乙第40号証を提出しているが,だからと言って「マスターズ」がゴルフの大会名として「中高年のための競技会」の意味で一般に使用されているということができないことは明白である。しかも,以下に述べるとおり,これらの大会も「中高年のための競技会」ではない。
「マスターズ甲子園」(乙36)は,元高校球児による野球大会である。この大会の参加者に中高年が含まれるかもしれないが,元高校球児には高校を卒業した者からが含まれるから中高年以外の者も参加できる。すなわち,「マスターズ」は「中高年のための競技会」の意味で使用されていない。
「プロ野球マスターズリーグ」(乙37)は,元プロ野球選手によって行われる野球の興行である。参加者は,プロ野球OBであるから,「マスターズ」は「中高年のための競技会」の意味で使用されていない。
「マスターズ 陸上大会」(乙38)は,陸上大会の名称中に「マスターズ」が使用されているが,この大会は陸上の大会であるから,これをもって,ゴルフの大会名において「マスターズ」が「中高年のための競技会」の意味で使用されていることを証明することにはならない。
「マスターズ水泳」(乙39)は,被請求人が主催している水泳大会である。当該証拠によれば,参加資格は18歳以上と記載されているから,被請求人が主催している水泳大会においても「マスターズ」が「中高年のための競技会」の意味では使用されていない。
さらに,商標「マスターズ水泳/マスターズスイミング/MASTERSSWIMMING」については,一般社団法人日本マスターズ水泳協会名義で商標登録されており,その指定役務は「第41類 水泳大会の企画・運営又は開催,水泳に関するスポーツ又は知識の教授」等である(甲86)。したがって,これからも「マスターズ」が「中高年のための競技会」の意味で一般に認識されていないことを示すものである。
「マスターズ柔道」(乙40)は,柔道の大会の名称中に「マスターズ」が使用されている。この大会の参加資格は30歳以上とのことであり,また,これは柔道の大会である。よって,これをもって,ゴルフ大会名において「マスターズ」が「中高年のための競技会」の意味で使用されていることを証明することにはならない。
以上のとおり,被請求人が提出した証拠において,まず,ゴルフについて,「マスターズ」が単に「中高年のための競技会」の意味で使用されているゴルフトーナメントの名称は一つもなく,前述したようにこれらにおいては,むしろ,大会主催者は「マスターズ」をプロゴルファーの中でも特に選ばれた者だけが出場できる請求人の「マスターズ」の名声やゴルフの祭典と言われる華やかな「マスターズ」のイメージにあやかって採用したことが容易に想像できる。
g 以上述べたとおり,被請求人が提出した証拠からしても,「マスターズ」が単に「中高年のための競技会」の意味で定着しているとは到底いうことはできない。特にゴルフの大会名に一般的に使用されている事実は存在しない。我が国には550万人というゴルフ人口があり,このすべての者が請求人が無効を求めている商品・役務の需要者,取引者であり,これらのうちで,請求人の「マスターズ」を知らない者はいない,といっても過言でない。よって,「マスターズ」を構成中に含む本件商標がゴルフに関係する本件商品・役務について使用された場合に,当該商品・役務の取引者,需要者,受益者は,本件商標中「マスターズ」を「中高年のための競技会」の意味で理解するようなことはありえず,これを請求人の「Masters Tournament」「マスターズトーナメント」の意味で理解することは疑う余地がない。よって,本件商標からは請求人の「マスターズトーナメント」の観念が生じる,ことは明らかである。
(オ)取引の実情について
a 被請求人は,無効を求められている商品の取引の実情に基づけば,本件商標が使用されても商品の出所について混同を生じないと主張している。
しかし,そもそも本件商標が,引用商標と類似し,指定商品が同一ないし類似する以上,商標法第4条第1項第11号に該当するのであり,被請求人の述べるところには理由がない。
b 本件商標は被請求人の運営する「コナミスポーツクラブ」と請求人の運営する「マスターズトーナメント」の著名な略称である「マスターズ」からなる商標として認識されるものである。特にゴルフに関係した商品や役務に本件商標が使用された場合,取引者,需要者,受益者が,本件商標中の「マスターズ」の部分にも注意を惹かれないようなことはあり得ない。
よって,被請求人の主張するような取引の実情があったとしても,本件商標が指定商品・役務について使用された場合,これに接する取引者,需要者,受益者は,本件商標中「マスターズ」の文字にも注意を惹かれることは明らかであるから,請求人との間で出所の混同を生じることは明らかである。
したがって,引用商標は,本件商標とは外観が異なるとはいえ,これらの商標から「マスターズ」の称呼及び「マスターズトーナメント」の観念が生じることは明らかであるから,本件商標と称呼及び観念において類似する商標である。
c 被請求人の主張について
(a)被請求人は乙第42号証の1ないし乙43号証の2により,「Masters」の語を含むプロゴルフトーナメントの英文名称が付された帽子が実際に販売されており,引用商標と出所の混同が生じている事実はないと主張するが,これらの商品の販売,広告は明らかに請求人との間で出所の混同が生じる可能性がある行為であり,引用商標権の侵害として然るべき対応を検討せざるを得ないと考えている。
(b)被請求人はまた,「ゴルフ靴用スパイク,ゴルフ靴」は,高額で,商品の出所について注意を払って購入することが多いから,出所の混同は生じないと主張する。
しかし,被請求人は「KONAMI」のロゴが入ったポロシャツ,ジャンバー等を販売しており,「コナミスポーツクラブ」に思いあたっても,さらに,本件商標からは,「マスターズ」の称呼及び「マスターズトーナメント」の観念が生じものであるから,需要者は同スポーツクラブが請求人ないし請求人のゴルフトーナメントと関係して販売されている商品であると想起するだけである。
(c)さらに被請求人は,第25類に「Masters」を含む商標が他にも登録されていることを指摘する。
しかし,これらの商標登録との類似性はともかく,本件商標は明らかにスポーツに関連する被請求人の「コナミスポーツクラブ」と,請求人の主催するゴルフトーナメントの略称として著名な「マスターズ」からなることが明確に把握・認識されるのであり,ゴルフ関連で使用する場合には明らかに出所の混同を生ずるものである以上,本件商標と引用商標の類似性は明白である。
d 以上述べた理由により,本件商標と引用商標は,称呼及び観念において類似する商標である。
ウ よって,本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 本件請求商品役務の取引者,需要者,受益者はゴルフに関係する商品を取り扱っている者,ゴルフに関連の業務を行っている者,ゴルフをする者,ゴルフ愛好者などである。これまで述べてきた理由により,本件商標に接する者は本件商標を「コナミスポーツクラブ」と請求人の「マスターズトーナメント」が結合してなる商標として認識することは明らかである。これに関し被請求人は,本件請求商品役務について本件商標が使用された場合,出所の混同は生じないと主張する。しかしながら,以下に述べるとおり,本件指定商品・役務について本件商標が使用された場合,特に需要者,受益者は役務の出所について混同を生じるというべきである。
イ 被請求人の主張について
(ア)第16類「ゴルフ用スコアカード,ゴルフ用スコアカード記入用鉛筆」について,ゴルフ場に1000枚,1000本のロットで販売される以上,請求人の主催するゴルフトーナメントの著名な略称である「マスターズ」を含む本件商標が付されていれば,請求人ないしそのゴルフトーナメントと何らかの関係が存するものとの混同が生ずることは明らかである。
(イ)その他,第16類に属するゴルフに特化した文房具類,ゴルフに関するポスター,その他のゴルフに特化した商品については,請求人が実際にボールペンやカレンダー等を販売しているから(甲74,甲87),出所の混同は現実的である。
(ウ)被請求人はその他の商品について請求人の販売実績は確認できないと主張するが,これらの商品の取引者・需要者にとって「マスターズ」は,請求人の「マスターズトーナメント」を示すものとして直ちに認識されるから,本件商標が「マスターズ」を含む以上,それが付された商品が請求人との関係で認識されることは明らかである。したがって,請求人がこれらの商品を実際に販売しているか否かは,商品の出所の混同の有無とは関係がない。
(エ)なお,ゴルフに特化した文房具に属するものとして,ゴルフボール専用マーカー,ゴルフコンペの景品用のステッカー等がある(甲88)。これらの商品は通常ゴルフ用具店で販売されるものであり,これらの商品の需要者は,一般のゴルフをする者,ゴルフ愛好者である。これらの商品については,商品自体やパッケージなどに商標が印刷されて表示される。また,これらの商品は,スコアカードホルダー,ドライビングコンテスト及びニアピンコンテスト用の旗,等のゴルフ用の小物類と一緒に,陳列棚に置かれ,あるいはぶら下げられて販売される。したがって,これらの商品に本件商標「コナミスポーツクラブマスターズ」が使用された場合,これに接するゴルフ愛好者は,当該商標を「コナミスポーツクラブマスターズ」として認識するばかりでなく,「コナミスポーツクラブ」と「マスターズ」をそれぞれ別個のものとして認識するというべきである。特に,毎年,3月下旬から4月の上旬の「マスターズトーナメント」が開催される時期になると「マスターズトーナメント」の広告が特にTBSテレビはじめ,その他ゴルフ用具売り場でも頻繁になされる。したがって,本件商標に接するゴルフをする者,ゴルフ愛好者が,本件商標中の「マスターズ」に注意を惹かれないということはあり得ない。
(オ)ところで,被請求人も文房具を販売しているから,ゴルフに関する出所の表示としても,自然に認識,把握しうる,と述べている。しかし,被請求人が文房具を販売しているとしても,需要者が本件商標を「マスターズ」と関連付けないとの理由にはならない。
(カ)第25類の「ゴルフウェア,ゴルフ靴やゴルフ靴用スパイク」などについて,現に販売実績の存することは既に述べたとおりであるが,出所の混同の有無は,商品の取引者,需要者が請求人の「マスターズ」と被請求人の販売にかかる当該商品と現にどれだけ出所の混同を来すか否かであるということであり,そのおそれが現実であるか否かということである。
前述したとおり,我が国には550万人というゴルフをする者,ゴルフ愛好者がおり,これらの者のほとんど全て,さらに,ゴルフをしない一般の人においても,「マスターズ」を請求人の主催するゴルフトーナメントの略称と認識するのであり,請求人による商品の販売実績にはかかわらず,ゴルフに関連する商品に関して,「マスターズ」を含む本件商標が使用されれば,請求人ないしその主催するゴルフトーナメントと関連するものと認識されることは明白である。なお,販売実績については既に提出した証拠で十分と解するが,請求人はキャディーバッグ,ゴルフボール,DVD等も販売している(甲89?甲91)。
(キ)被請求人も体操着や水着を販売しており,「コナミスポーツクラブ」は著名な商標であるから,本件商標の後半の「マスターズ」のみを抽出し請求人商標又は請求人を連想するとは考え難いと主張するが趣旨不明である。
請求人が登録の無効を求めている商品は,体操着や水着ではなく,「ゴルフジャケット,ゴルフ用ズボン,ゴルフ靴」等のゴルフ用のものであり,混同は明らかである。
(ク)第41類「ゴルフの教授,ゴルフに関するセミナーの企画・運営または開催」について,被請求人はこれらの役務を全国で行っており,他方請求人は日本で上記役務を行っていないから,本件商標が使用された場合,請求人との間で出所の混同は生じないと主張する。
しかしながら,本件においては,請求人が実際にその役務を日本で行っていないことは出所混同と関係ない。請求人による我が国における上記役務の提供の有無にかかわらず,「ゴルフの教授,ゴルフに関するセミナーの企画・運営または開催」の役務の受益者は「マスターズ」を請求人の主催するゴルフトーナメントの略称と認識するのであり,「マスターズ」を含む本件商標が上記役務に使用された場合,例えば,上記役務が請求人と被請求人が提携して行われているものであるかのごとく誤認することは疑いない。
(ケ)「ゴルフに関する電子出版物の提供」「ゴルフに関する書籍の制作」「電子計算機端末又は移動体電話による通信を用いて行うゴルフに関する画像・映像の提供」についても,被請求人は,請求人はこれらの役務を請求人が日本で提供していることは疑わざるを得ないなどと述べているが,およそ根拠のないことは前述のとおりである。
「ゴルフに関する電子出版物の提供」の受益者は,ゴルフをする者,ゴルフ愛好者である。「ゴルフに関する書籍の制作」の受益者は,フルフスクール,ゴルフの書籍の販売社等である。その他,請求に係る「電子計算機端末又は移動体電話による通信を用いて行うゴルフに関する画像・映像の提供」等の受益者も,ゴルフをする者やゴルフ愛好者であるから,これらの役務について本件商標が使用された場合,本件商標中「マスターズ」は請求人との関係で認識されることは疑いない。本件商標中「マスターズ」を請求人の「マスターズトーナメント」の意味で認識するのであり,当該役務が請求人と被請求人との提携関係によって提供されているかのごとく誤認することは明らかである。
(コ)被請求人は,「マスターズ」の語は,複数の語義を有する既成語であり,ゴルフの競技会については請求人の開催する「マスターズトーナメント」以外の語義で「マスターズ」の語が使用されていると主張する。
しかし,「マスターズ」は請求人の主催する著名なゴルフトーナメントの略称として直ちに認識されるものであり,ゴルフに関連して「マスターズ を含む本件商標が使用されれば,請求人ないしその主催する著名なゴルフトーナメントと関連するものとして,出所の混同を生じさせる可能性の存することは明白である。
被請求人が挙げたゴルフトーナメントの主催者等は,請求人の「マスターズ」の名声にあやかってゴルフトーナメントの名称に「マスターズ」を採用したということが容易に想像できる。これらの者に対して法的措置をとろか否かは請求人がその表現態様などを調査して対応をしていくところであるが,それは別として,これらの者による「マスターズ」の使用は不正競争行為に該当するものと考えられる。
ウ 以上述べたとおり,「マスターズ」は,ゴルフに関する商品・役務の取引者,需要者,受益者にとって極めて著名な請求人が主催する「マスターズトーナメント」を直ちに想起させるから,本件商標が,請求人が登録の無効を求めているゴルフに関係する商品・役務について使用された場合,当該商品の取引者,需要者,受益者は,請求人ないしその著名な「マスターズトーナメント」に関連するものとして認識することは疑いない。その結果,当該商品・役務の取引者,需要者,受益者は,当該商品・役務が請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者により提供されているかのごとく商品・役務について,出所の混同を生じることは明らかである。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号について
ア 本件商標と被請求人商標の類否について
本件商標に接する取引者,需要者,受益者は,本件商標は,「コナミスポーツクラブ」と請求人の「マスターズトーナメント」を示す「マスターズ」が結合してなる商標として把握・認識することは明らかである。したがって,本件商標は請求人商標「Masters」「マスターズ」と称呼及び観念において類似するものであることは明らかである。
不正の目的について
被請求人は,「コナミスポーツクラブマスターズ水泳競技会」を,2006年以降毎年開催していることに起因し,本件商標を採択し出願したと主張する。
しかしながら,「マスターズ水泳」についての商標権者は一般社団法人マスターズ水泳協会であり,被請求人ではない。また,水泳競技について「マスターズ」を使用してきたからといって,請求人の著名な商標を構成中に含む商標を請求人と出所の混同が生じるゴルフに関する商品・役務について登録を取得することを正当化する理由にはならない。
上記したとおり,「マスターズ」は「年齢が一定以上の中高年を対象とした競技会」の意味で,ゴルフ大会の名称としては一般的に使用されていないものである。
ウ よって,本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号について
ア 本件商標に接する取引者,受益者は,本件商標が請求人の「マスターズトーナメント」を示す「マスターズ」を含むものと認識することは明らかである。したがって,本件商標は請求人商標「Masters」「マスターズ」と称呼及び観念において類似するものであることは明らかである。
被請求人は再三,「マスターズ」は「年齢が一定以上の中高年を対象とした競技会」の総称として一般に定着していると述べているが,上記したとおり,「マスターズ」は「年齢が一定以上の中高年を対象とした競技会」の意味でゴルフ大会の名称としては一般的に使用されていないものであり,仮にあったとしても,その意味で理解している人の数は,請求人の「マスターズ」を知る550万人のゴルフ人口のうち,極わずかな人たちである。さらに,「マスターズ水泳/マスターズスイミング/MASTERSSWIMMING」は登録商標であり,「水泳大会の企画・運営又は開催」等を指定役務とし,「年齢が一定以上の中高年を対象とした水泳大会の・・・・」のように,大会の参加者に年齢による制限はなく登録されている。しかも,被請求人が自ら開催している上記「マスターズ水泳競技会」も18歳以上を参加資格としているのであり(乙39),被請求人は「マスターズ」を「年齢が一定以上の中高年を対象とした競技会」の意味で使用していない。
本件商標は,その構成中被請求人の「コナミスポーツクラブ」を含むものであるとは言っても,ゴルフに関係した商品・役務を指定商品,指定役務とするものであるから,本件商標に接する取引者,需要者,受益者は,本件商標中「マスターズ」を世界的に著名な請求人の「マスターズトーナメント」のとして認識するというべきである。
イ よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当するものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第66号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用商標の類否
ア 本件商標の外観及び称呼について
本件商標は,「コナミスポーツクラブマスターズ」の文字を標準文字で横書きしてなるものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであり,「マスターズ」の文字部分だけが独立して見る者の注意を引くように構成されているものではない。「コナミスポーツクラブマスターズ」の文字が全体としてまとまりよく一体的に看取される本件商標と,「MASTERS」の文字からなる引用商標1及び引用商標4は外観において明らかに相違する。本件商標と引用商標2及び引用商標3は,構成文字の相違に加え,図形の有無という明らかな差異を有するものであるから,外観上非類似である。
また,まとまりよく一体に表された本件商標からは,その構成に対応して,「コナミスポーツクラブマスターズ」の称呼が生ずる。「コナミスポーツクラブマスターズ」の称呼は,短い音構成とはいえないとしても,一息によどみなく称呼し得るものであり,称呼において,本件商標を特定の部位で分離すべき理由はない。本件商標と同一の文字構成からなる登録第5707700号商標に対し請求された無効審判事件の審決においても,「『コナミスポーツクラブマスターズ』の称呼が,やや冗長であるとしても,一連に称呼し得るものである」と判断されている(乙1)。
なお,請求人が主張するように,本件商標のような15音を称呼するのに2回や3回もの息継ぎを要するはずがない。息継ぎとは,息を吸い込むことをいうのであり,「コナミ・スポーツ・クラブ・マスターズ」と,こまめに息を吸い込んで称呼するなどということは,常識的に考えてあり得ることではなく,請求人はその理由を何ら説明も立証もしていない。
そもそも,本件商標を構成する「コナミ」,「スポーツクラブ」(又は「スポーツ」「クラブ」)及び「マスターズ」の語は極めて平易な語であり,これらの平易な語を結合した「コナミスポーツクラブマスターズ」を続けて一連に称呼することに何ら困難な点は見出せず,息継ぎせずには発音できないとする請求人の主張は失当といわざるを得ない。
特許庁における審決例(乙2?乙7)からも,本件商標は一連に称呼し得るものといえ,その構成に対応して,「コナミスポーツクラブマスターズ」の称呼が生ずる。
他方,引用商標からはその文字部分の構成に対応して「マスターズ」の称呼が生ずる。
本件商標から生ずる「コナミスポーツクラブマスターズ」と引用商標から生ずる「マスターズ」の称呼は,「コナミスポーツクラブ」の音の有無という音構成上の明らかな差異を有するものであるから,その音構成及び音数の差異により十分に区別できるものである。
イ 観念について
(ア)本件商標中「コナミスポーツクラブ」の文字部分は,被請求人が運営するスポーツ施設として著名な「コナミスポーツクラブ」を表すものであり,被請求人の固有の商標である。これに対し「マスターズ」の語は,「達人,名人」ほどの意味を有する既成語である「MASTER」の複数形「MASTERS」を片仮名で書したものであり,複数の語義を有する。一般に「マスターズ」の語が他の語と結合してスポーツに関し使用される場合は,ゴルフ競技も含め,「年齢が一定以上の中高年向けの競技会の総称」として使用されることが多い。よって本件商標は,その構成全体より「コナミスポーツクラブが運営する年齢が一定以上の中高年向けの競技会」程の観念を生ずるものである。
(イ)「コナミスポーツクラブ」の著名性について
a 店舗について
被請求人は持株会社であり,スポーツクラブの運営を主とする健康サービス事業は,完全子会社である株式会社コナミスポーツクラブ(以下「被請求人会社」という。)が事業を行っている。被請求人会社は,2016年9月末時点で北海道から沖縄まで全国に直営施設を183施設運営しており,会員数は50万人を超える。そのうち「コナミスポーツクラブ」の名称で運営するクラブは177施設ある(乙8の1?3)。またフランチャイズ及び受託施設も含めると,施設数は399にも及ぶ(乙8の1)。各店舗の建物には,外壁や外壁に取り付けられた看板に「コナミスポーツクラブ」や「KONAMI SPORTS CLUB」が表示されている。また被請求人は特色ある鮮やかな赤色をコーポレートカラーとして使用しており,赤色に白抜きした文字を配した看板は人目につきやすく,なおかつ店舗数が多いため,「コナミスポーツクラブ」の看板は日常的に相当数の人目に触れているといえる(乙8の4)。
また,スポーツクラブの多くは,集客や,継続的な利用を促すために,アクセスがよく,人が集まる場所で店舗を運営するものであり,いずれの店舗においても,より多くの人に当該店舗を認知してもらう目的で,駅前や大通り等人目のある場所,人通りの多い場所に正対するように,施設建物の壁に大きな看板が掲出されている(乙8の4)。以上より,ゴルフを含めスポーツに関心のある者を含む,相当数の人が,被請求人会社の店舗及び「コナミスポーツクラブ」の看板を,日常的に目にしているといえる。
b 売上について
「日本のクラブ業界のトレンド2014年版」(乙9)からも明らかなとおり,被請求人会社の運営するスポーツクラブの売上規模は遅くとも2002年以降業界において常に首位を保っており,2013年の売上高は約765億円に上る。また,世界的にみても,被請求人会社のスポーツクラブの売上規模は世界第5位に位置するのであり,世界を代表するフィットネスクラブの一つであるといえる(乙10)。被請求人会社はスポーツクラブ・フィットネス業界におけるリーディングカンパニーであり,被請求人会社が運営する「コナミスポーツクラブ」は,スポーツクラブ・フィットネスクラブの業界にとどまらず,スポーツに関連する業界全般において,その存在が広く知られている。
c 事業内容について
被請求人会社が運営するコナミスポーツクラブでは,フィットネスマシンやスイミングプールなどフィットネスに関する設備の提供や,プール,エアロビクスやヨガといったフィットネスに関するプログラムの提供のみならず,スイミングスクール,体操スクール,ダンススクール,サッカースクール,テニススクール,チアダンススクール,空手スクール等の役務を提供している(乙11)。
ゴルフに関しては,被請求人会社は子供向け及び大人向けのゴルフスクールを,主に被請求人会社のスポーツクラブ内で運営しており,ゴルフシミュレータなどの練習設備を提供している。ゴルフスクールの施設は,北海道から九州にかけて,全52施設を展開している(乙12の1及び2)。被請求人会社の運営するスポーツクラブの立地条件を生かし,通いやすい場所で,ゴルフシミュレータ,スイング解析システムやスイング診断機等の設備を提供するなど,被請求人会社はゴルフに関し特色あるサービスを提供しており(乙12の3),またゴルフのスイングについては,「コナミスポーツクラブ」におけるゴルフ事業のマネージャーやインストラクターらが解説した記事が,ゴルフ雑誌に掲載されるなどしている(乙12の4)。
また,子供向けには,ゴルフスクールに加え,小学生を対象としたゴルフの競技会として,「コナミスポーツクラブキッズゴルファーチャレンジカップ」を毎年開催している(乙12の5)。被請求人会社が運営・開催する子供向けのゴルフ競技会やゴルフスクールは,広告や紹介記事がゴルフ雑誌やビジネス雑誌,地域のタウン誌等に掲載されており(乙12の6?9),被請求人会社が提供する,キッズやジュニアのゴルフ選手育成に関する役務も,高く評価されている。
また,被請求人会社は様々な分野においてスポーツ大会を主催している。
水泳においては,公益財団法人日本水泳連盟公認大会である「KONAMI OPEN」を毎年主催している(乙13の1?3)。また,年齢が一定以上の一般の水泳競技者を対象とするマスターズ水泳について,一般社団法人日本マスターズ水泳協会の公認大会である「コナミスポーツクラブマスターズ水泳競技会」を2006年から継続的に主催している(乙14の1?15)。そして,コナミスポーツクラブの会員向けに,前記のゴルフにおける子供向けの「コナミスポーツクラブキッズゴルファーチャレンジカップ」に加え,「ダンシングスターズコンテスト」,「コナミスポーツクラブジュニアテニス選手権大会」,「アクションサッカー選手権」などを毎年開催している(乙15の1?3)。
すなわち,被請求人会社は,トップレベルの選手が出場する大会から一般の競技者が参加できる大会まで,様々なジャンルのスポーツ大会を開催している。
また,被請求人会社は,数々のオリンピック選手が所属し,所属選手らの活動をサポートすることでも広く知られている(乙16の1?7)。
リオデジャネイロオリンピックについては,金メダルを獲得した体操男子団体総合の日本選手5人中4人が被請求人会社の所属であったことは周知のことであり(乙16の8?10),被請求人会社を表す商標である「コナミスポーツクラブ」を,世間一般に広く知らしめているといえる。
以上より,「コナミスポーツクラブ」は,被請求人会社及び被請求人会社が運営するスポーツクラブを表すブランドとして,スポーツクラブの運営,スポーツの競技会の開催,オリンピック選手を始めとするアスリートの支援といった事業活動を通じて広く宣伝広告された結果,ゴルフファン・愛好家を含む広くスポーツに関心のある者の間で相当程度認識され,その結果,相当の知名度,著名性を獲得したといえる。
よって,本件商標の構成中の「コナミスポーツクラブ」の文字部分は,被請求人会社及び被請求人会社の運営する「コナミスポーツクラブ」を直感させ,強い出所識別力を有する。
フィットネス業界においても,40歳代以上の年齢層は主要な需要者層であるといえ,ゴルフに関心のある需要者の年齢層と,フィットネスクラブに関心のある需要者の年齢層とは重複する。そうだとすると,フィットネスクラブに関心が高い中高年層の間では,日本全国で店舗を運営し,フィットネス業界のリーディングカンパニーとして長年にわたりトップのシェアを誇る被請求人会社の「コナミスポーツクラブ」が特に周知されているといえる。しからば,同じく中高年に比較的多く認められるゴルフに関心のある者が一連一体に表された本件商標に接した場合に,本件商標の特定の部分にのみ着目し,請求人が開催する「マスターズトーナメント」の略称としての「マスターズ」のみを想起し,被請求人会社及び被請求人会社の運営するスポーツクラブを表すブランドである「コナミスポーツクラブ」には全く思い至らないといった状況が生ずる可能性は,極めて低いと考えられる。
すなわち,被請求人会社及び被請求人会社の運営するスポーツクラブを表す周知・著名商標「コナミスポーツクラブ」は,ゴルフに関心のある者,特に中高年層の間でも十分周知されているのであり,本件商標の語頭に位置する「コナミスポーツクラブ」の文字部分は,本件審判請求にかかる商品について使用した場合,強い識別力を有する語といえる。よって,本件商標に接する者が,商標の識別上重要な語頭部分の「コナミスポーツクラブ」を捨象し,後半部分の「マスターズ」の文字部分のみに特に印象づけられ,「マスターズ」の文字部分のみに着目して取引にあたるとは到底考えられない。
(ウ)「マスターズ」の語の意味について
本件商標中「マスターズ」の文字部分については,請求人の「マスターズトーナメント」の略称としての語義の他に,男子は35歳,女子は30歳以上,5歳刻みの年齢別で行われる中高年のための国際スポーツ大会である「ワールドマスターズゲームズ(世界マスターズ大会)」や,「中高年のための競技会の総称」の語義が広く知られている。
「ワールドマスターズゲームズ(世界マスターズ大会)」については,「日本国語大辞典・第二版」(甲25),「広辞苑」第五版(甲26),「広辞苑」第六版(甲27),「大辞林」第二版(甲29),「大辞林」第三版(甲30)に掲載され,また「中高年のための国際スポーツ大会」としての語義が「旺文社国語辞典」第十版(甲38),「旺文社国語辞典」第十一版(甲39)にも掲載されているため,中高年のための国際スポーツ大会として語義が,社会的に定着している語であるといえる。
また,「中高年のための競技会の総称」としての語義も,「広辞苑」第五版(甲26),「広辞苑」第六版(甲27),「大辞林」第二版(甲29),「大辞林」第三版(甲30),「旺文社国語辞典」第十版(甲38),「旺文社国語辞典」第十一版(甲39)に掲載されている。また「三省堂国語辞典」第六版(甲34)及び同第七版(甲35)には,「中高年でおこなう<競技会/リーグ戦>。」との記載がある。このように,中型の辞書のみならず,小型辞書にも掲載されているのであるから,中高年のための競技会の総称の意味での「マスターズ」も,使用頻度が高く,また社会的に定着しているといえる。
請求人は,「マスターズ」は,誰もが「マスターズトーナメント」の略称として認識することは疑いの余地がない旨を主張するが,上述のとおり,「マスターズ」の語は複数の語義を有するのであり,そうである以上,使用される態様や取引事情に応じて,辞書に掲載された2つ目以降の語義が生ずることは当然のことであり,請求人の主張は不合理である。
(エ)本件商標中「マスターズ」の文字部分から生じる観念について
上述のとおり,複数の語義を持つ語を,他の語と結合させて使用する場合,いずれの語義が生ずるかは,結合する語同士の関係や,その他の取引実情によって判断されるものである。「マスターズ」は一般に,他の語と結合してスポーツ競技について使用される場合は,「中高年のための競技会の総称」という語義を以って解されることが多く,ゴルフ競技についても例外ではない。
行政庁や公益財団法人,企業,地方自治体など多数の法人や団体が,ゴルフに関する競技会について「マスターズ」の語を「年齢が一定以上の中高年向けの競技会」の語義で用いており(乙23?乙35),これらの名称が単に「マスターズ」と略称されている事実は認められない。また,請求人の開催する「マスターズトーナメント」の略称としての「マスターズ」と上記競技会で使用される「マスターズ」を含む商標(ゴルフ大会名)との間で,出所の混同が生じたという事実は存在せず,また,それを示す証拠は一切存在しない。
そして,多くの法人等が「日本スポーツマスターズ」,「OTV杯マスターズ」,「中部日本ゴルフマスターズ」「産業新聞鉄鋼マスターズ」「北陸マスターズ」「パテントマスターズ」のように,他の語を前半部分,「マスターズ」の語を後半部分に配した「○○マスターズ」との結合標章をゴルフの競技会について使用している実情に加え,被請求人会社は,一般社団法人日本マスターズ水泳協会の公認大会である「コナミスポーツクラブマスターズ水泳競技会」を始めとし,様々なスポーツ競技の大会・競技会を主催していることから,本件商標中の「マスターズ」の語は,競技会の一形態(参加基準)である「年齢が一定以上の中高年向けの競技会」の語義をもって認識されるのであり,本件商標は,その構成全体より,「コナミスポーツクラブが運営する年齢が一定以上の中高年向けの競技会」程の観念が生ずるといえる。
なお,「マスターズ」の語は,ゴルフ以外の各種競技においても「年齢が一定以上の中高年のための競技会の総称」として使用されており,当該語義は日本において広く定着している(乙36?乙40)。
(オ)小括
以上のとおり,各種のスポーツにおいて「マスターズ」の語は中高年又は所定の年齢を超えた競技者を対象とした競技会の総称,すなわち競技会の一形態を表す語として,特にスポーツに関心のある者の間では広く定着しておりゴルフ競技も例外ではない。また,「マスターズ」の語を中高年又は所定の年齢を超えた競技者のための競技会の総称として用いる際は,「日本スポーツマスターズ」,「全日本エイジシューターマスターズ選手権」,「OTV杯マスターズゴルフ選手権大会」など,「マスターズ」の語が語尾または語中に位置されることが多い。また一般にゴルフの大会名称は,商標の識別において重要な語頭に,主催する企業のブランド名が配され,それに続く語には「オープン」や「カップ」,「トーナメント」,「選手権」,「チャンピオンシップ」など,競技会の形態を指す語が使用されることが多い(乙41)。よって,本件商標が「企業のブランド名」と「マスターズ」の語を組み合わせた構成である点に着目した場合も,「マスターズ」の文字部分は「年齢が一定以上の中高年向けの競技会」の意味合いを容易に看取し,本件商標は全体として「コナミスポーツクラブが運営する年齢が一定以上の中高年向けの競技会」ほどの,一体的な観念が生ずるといえる。
よって,本件商標から,請求人が開催する「マスターズトーナメント」との観念が生ずることは一切なく,本件商標と引用商標とは,観念上も非類似である。
(2)その他の取引の実情について
本件商標の指定商品中「洋服」に関しては,「被服」の取引において,「取引者,需要者は,店頭販売,通信販売及びインターネットを介した販売において,商品の外観を見て購入するのが通常であり,その際に,商品,値札,カタログ,商品情報等に付された商標の外観や製造販売元を見て商品の出所について相応の注意を払って購入することが多いと考えられ」ると判断されている(平成26年(行ケ)第10264号審決取消請求事件平成27年6月11日)。本件審判請求にかかる商品についてみると,まず「ゴルフジャケット」は多くのゴルフ場でマナーとして着用が求められる重要な商品であり,また「ゴルフ用ズボン,ゴルフ用半ズボン,ゴルフ用スカート,ゴルフ用ジャンパー,ゴルフ用洋服,ゴルフ用下着」等はゴルフのプレー中に着用するものであり,機能性や着心地がパフォーマンスに影響するものであるから,当該商品の取引についても,取引者,需要者は商品の出所について相応の注意を払って購入するといえる。よって,本件商標と,文字構成が大きく異なる引用商標1及び引用商標4並びに文字構成の相違に加えて図形の有無も相違する引用商標2及び引用商標3とは,上記商品に使用されたとしても,その出所について混同を生ずるおそれはない。
また,「ゴルフ用帽子」や「ゴルフ用サンバイザー」は,ゴルフの競技会名が商標として付される場合は,一般に大会記念品として販売されることが多い。競技会名については,主催者やスポンサーが広告の目的で通常語頭にハウスマークや当該企業のブランド名を付すのであるから,語頭に配された被請求人会社の著名なブランドである「コナミスポーツクラブ」の文字部分を,取引者や需要者が捨象して取引にあたることは到底ありえない。また,女子のプロゴルフツアーの大会である「MASTERS GC LADIES」や男子プロゴルフツアーの大会である「Mitsui Sumitomo VISA Taiheiyo Masters」など,「Masters」の語を含むプロゴルフトーナメントの英文名称が付された帽子が実際に販売されており,引用商標と出所の混同が生じている事実はない。よって,本件商標中「マスターズ」の文字部分は強く支配的な印象を与えるものと認めるべき理由はなく,本件商標と引用商標とがゴルフ用の帽子やサンバイザーに使用されたとしても,取引者や需要者において,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれはないといえる(乙42の1?3)。
「ゴルフ靴用スパイク,ゴルフ靴」は,価格帯が1万円代後半以上のものも多く高額であり,商品の出所について相応の注意を払って購入することが多いといえる。よって,被請求人会社及び被請求人会社の運営するスポーツクラブを表すブランドとして周知著名な「コナミスポーツクラブ」の文字部分の有無という顕著な差異を有する本件商標と引用商標とは,「ゴルフ靴用スパイク,ゴルフ靴」に使用されたとしても,その出所について混同を生ずるおそれはない(乙43の1及び2)。
また,本件商標の指定商品である第25類の商品に関する被請求人の業務についてみると,スポーツクラブ・フィットネスクラブ業界の首位に立ち日本全国でスポーツクラブを運営する被請求人会社は,日本全国で運営するスポーツクラブ内のショップ及びオンラインショップにおいて,体操着や水着を始めとする被服,靴,かばん,運動用具などを販売している(乙44の1?5)。被請求人会社が「KONAMI SPORTS CLUB」のブランド名で製造販売する体操着は,年間約8400枚?11000枚強売上げ,2010年から2014年までの5年間の売上は計1億円を超える。水着に関しては,年間1億円?1億2000万円強の売上を毎年計上している(乙45の1及び2)。
また,被請求人会社が運営するスポーツクラブ施設でスタッフが着用する,「KONAMI SPORTS CLUB」のロゴが入ったユニフォームシャツやジャンパーは,全国に50万を超える被請求人のスポーツクラブ会員がクラブの利用時に日常的に目にするのであり,被請求人会社が主催する各種イベントや競技会においても,スタッフらがブルゾンやポロシャツを着用している(乙46の1)。また多くのオリンピック選手が所属する被請求人会社は,所属選手や被請求人会社が各種メディアで紹介されることが多く,その際には,所属選手やスタッフらは常に「KONAMI」のロゴが入ったシャツやポロシャツ,ジャンパー等を着用し,またそれらの被服は常にコーポレートカラーである鮮やかな「コナミレッド」を彩色したものに統一されているため,強く印象に残る(乙16の1,乙46の2?5)。
すなわち,被請求人会社を表す「KONAMI SPORTS CLUB」や「KONAMI」が出所の表示として付された被服は,日頃より多くの人,特にスポーツに関心のある者の目に触れる機会が非常に多い。上述のとおり,被請求人会社はスポーツに関心のある者の間で特に周知されており,また「KONAMI SPORTS CLUB」又は「KONAMI」の商標を付したスポーツ用の被服を目にする機会も多いのであるから,スポーツに関心のある者が本件商標の登録にかかる第25類の指定商品に付された本件商標に接した場合は,「コナミスポーツクラブ」の文字部分より,直ちに被請求人又は被請求人会社の運営するスポーツクラブを想起する。また,上述のとおり,ゴルフに関心のある年齢層とフィットネスクラブに関心のある年齢層は重複しているのであり,ゴルフに関心のある者が,ゴルフに関する洋服等に付された本件商標に接した場合に,被請求人会社及び被請求人会社が運営するスポーツクラブを表すブランドである「コナミスポーツクラブ」に全く思い当たらないと判断すべき合理的理由はない。よって,本件審判請求に係る第25類の指定商品の需要者,取引者であっても,本件商標中「コナミスポーツクラブ」の文字部分より直ちに被請求人又は被請求人会社の運営するスポーツクラブを想起するといえ,「コナミスポーツクラブ」の文字部分を捨象し,後半部分の「マスターズ」の文字部分のみを抽出し,該文字部分より生じる観念又は称呼をもって取引に資することはない。
(3)中括
以上のとおり,商標の識別上重要な語頭に配された「コナミスポーツクラブ」は被請求人会社及び被請求人会社の運営するスポーツクラブを表す周知著名商標であるから,本件商標中後半部分の「マスターズ」の文字部分は商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。よって,本件商標中「マスターズ」の語のみを抽出し商標の類否を判断することは許されるべきではない。その構成全体から一連に「コナミスポーツクラブマスターズ」の称呼及び「コナミスポーツクラブが運営する年齢が一定以上の中高年向けの競技会」ほどの観念を生ずる本件商標と,「マスターズ」の称呼及び「マスターズトーナメント」の観念を生ずる引用商標とは外観,称呼及び観念がいずれも非類似の商標であって,これら引用商標によっては,本件商標は,商標法第4条第1項第11号の規定に該当するものでないことは明白である。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)出所の混同について
本件商標は,まとまりよく一体に表され,語頭に位置する「コナミスポーツクラブ」が強い識別力を有し,また構成全体より「コナミスポーツクラブが運営する年齢が一定以上の中高年向けの競技会」ほどの観念が生ずるものであって,構成中の「マスターズ」の文字部分が商品及び役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとは到底いえないため,「マスターズ」の文字部分だけを抽出して,請求人の商標と比較し,商標そのものの類否を判断することは許されない。よって,本件商標から「マスターズ」の称呼が生ずる余地はなく,本件商標と請求人商標は互いに非類似の商標である。
また,本件商標中「コナミスポーツクラブ」の語は被請求人会社の固有の商標であるのに対し,「マスターズ」の語は複数の語義を有する既成語であって,年齢が一定以上の中高年向けの競技会の総称としての語義が,ゴルフを含むスポーツに関心のある者の間で定着していることから,本件商標中の「マスターズ」の文字部分から直ちに,一義的に請求人の「マスターズトーナメント」の略称としての「マスターズ」を想起することはなく,本件請求商品役務に使用しても,需要者や取引者が,請求人又は請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように,その出所について混同するおそれはない。
(2)本件商標の指定商品・指定役務と請求人の商品・役務との間における商品・役務の性質,用途又は目的における関連性の程度ならびに商品・役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情に基づく考察について
ア 第16類について
本件請求商品役務中,第16類「ゴルフ用スコアカード,ゴルフ用スコアカード記入用鉛筆」は,通常ゴルフ場において無償で提供されるものであり,一般的には,ゴルフの愛好者が自ら購入し,ゴルフ場などに持参して使用するものではないし,またスコアカードも鉛筆も,1000枚,1000本などのロットで販売されるものである(乙59?乙61)。ゴルフ場経営者がゴルフ場の利用者に対し無償で提供するのであるからゴルフ愛好者は商取引の当事者ではなく,またスコアカードのメーカーの公式サイトに「貴コースのロゴマークやゴルフ場の名入れができます」とあるように,当該商品の需要者は主にゴルフ場の経営者であるといえる(乙61)。ゴルフ場の経営者がこれらを発注する際に本件商標に接した場合,スコアカード記入用の鉛筆のような10cmほどの小さな製品に付された商標について,15文字中10文字を占める語頭部分の「コナミスポーツクラブ」を捨象し後半の「マスターズ」の文字部分のみをあえて抽出し,米国で開催される「マスターズトーナメント」の略称として認識し,さらに当該商品が米国のゴルフ場経営者である請求人の業務にかかるスコアカードや鉛筆であるか,又は何らかの関係のあるものの業務にかかるスコアカードや鉛筆であるかのごとく,商品出所について誤認混同するなどということは起こりえない。
また,請求人がゴルフ用スコアカードやゴルフ用スコアカード記入用鉛筆に,請求人商標を付して提供している事実を証するものは一切なく,請求人が開催する「マスターズトーナメント」の略称としての「マスターズ」が,ゴルフ用スコアカードやゴルフ用スコアカード記入用鉛筆の出所を表示するブランドとして周知されている事実はない。よって本件商標に接した需要者や取引者が,一連一体に表された本件商標中,語頭に配された被請求人の周知商標である「コナミスポーツクラブ」の文字部分を捨象し,後半の「マスターズ」の文字部分のみを抽出して観察する理由はない。したがって,本件商標と請求人商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない別異の商標であり,被請求人が本件商標を当該商品について使用したとしても,その商品の出所について混同を生じさせるおそれはない。
第16類における,その他のゴルフに特化した文房具,ゴルフに関するポスター,ゴルフに特化したカレンダー,ゴルフに特化したテキスト,ゴルフに特化した書籍,ゴルフに特化した雑誌及び新聞,ゴルフに特化した写真についても,請求人が提出した甲第74号証からはカレンダーと思しきもの2点とボールペンが見られるのみで,その他の商品については請求人による使用の事実が一切確認できない。また,甲第74号証からは,カレンダーについては請求人商標が付されていることは確認できず,ボールペンについては「ゴルフに特化した文房具」に該当するものであるかが不明である上に,これらの販売実績も不明である。よって日本において,請求人商標は,これらの商品の出所の表示として広く認識,把握されているとはいえない。他方,被請求人は,被請求人会社が運営するスポーツクラブにおける子供向けの「運動塾」で使用する各種競技用のノートなどの文房具を継続的に製造・販売しており,2010年から2014年の5年間に8,000万円以上を売り上げている(乙62の1及び2)。また,書籍については,被請求人会社がスクールを開設する競技に関する書籍を被請求人会社が監修し,被請求人の完全子会社である株式会社コナミデジタルエンタテインメントが出版している(乙62の3?6)。
すなわち,被請求人及び被請求人会社は,被請求人会社が運営するスポーツに関するスクールで使用される文房具の販売を継続的に行い,また書籍を出版しているのであり,また上述のとおり被請求人会社は52施設でゴルフスクールを運営しているのであるから,被請求人会社のブランドである「コナミスポーツクラブ」は,ゴルフに関する文房具や書籍の出所の表示としても,自然に認識,把握され得る。
そうとすると,本件商標に接した取引者や需要者が,本件商標中,被請求人会社及び被請求人会社の運営するスポーツクラブを表す周知著名なブランドである「コナミスポーツクラブ」を全く捨象し,後半の「マスターズ」の文字部分のみを抽出し,請求人が主催する「マスターズトーナメント」の略称としての「マスターズ」を示すものとして認識するとは考え難い。よって,本件商標は,請求人の業務にかかる商標と出所の混同を生ずるおそれはない。
イ 第25類について
請求人は,ゴルフシューズやゴルフウェアを長年にわたり販売しており,これらの商品について,「MASTERS」を広く使用してきたと主張し,株式会社フェニックス作成のカタログを提出しているが(甲58?甲69),実際に販売された事実及び販売実績は何ら立証していない。また仮に販売された事実があったとしても,提出されたカタログは最近のものでも2000-2001年版と本件商標の査定時よりも13年も前のものであり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人商標が,本件審判の請求にかかる第25類の商品について周知著名であったとはいえない。また,ミズノ株式会社作成商品カタログ(甲70?甲73)についても,実際に販売された事実及び販売実績は不明であり,また甲第71号証については「試刷」との記載があり需要者に対し配布されたものではない。また仮に上記ミズノ株式会社作成商品カタログ上の商品が販売された事実があったとしても,最近のもので1999年のカタログであって本件商標の査定時よりも15年も前のものである。本件商標の登録出願時及び登録査定時において,第25類のゴルフ靴やゴルフ靴用スパイクについて,請求人商標が周知著名であったことを証する証拠にはなりえない。
他方,被請求人会社は,体操着や水着など,被請求人会社がスクールを開設するスポーツ競技に必要となる被服類に,「KONAMI SPORTS CLUB」の商標を付して継続的に販売している。また被請求人会社の被服は,所属するスポーツ競技選手やスタッフも着用しており各種メディアに露出する機会も多い。さらに,被請求人会社はゴルフスクールを全国に展開していること,「コナミスポーツクラブ」の文字部分は,被請求人会社及び被請求人会社の運営するスポーツクラブを直感させる著名な商標であることを勘案すると,本件商標中,強く支配的な印象を与えるのは,語頭に配された「コナミスポーツクラブ」の文字部分の方であって,本件審判請求にかかる第25類の商品の取引者や需要者が,「コナミスポーツクラブ」の文字部分を全く捨象し,後半の「マスターズ」の文字部分のみを抽出し請求人商標又は請求人を連想又は想起するとは考え難い。よって,その商品が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
ウ 第41類について
第41類における「ゴルフの教授,ゴルフに関するセミナーの企画・運営又は開催」については,被請求人会社はスポーツを教授するスクールを開設するフィットネスクラブの業界において長年首位に立ち,また子供向け及び大人向けのゴルフスクールを,北海道から九州にかけて,全52施設を展開し,またセミナーを開催している(乙12,乙63)。他方,請求人は米国のジョージア州でゴルフ場を一件のみ経営するゴルフ場の経営者であって,日本において「ゴルフの教授,ゴルフに関するセミナーの企画・運営又は開催」の役務を提供していない。よって当該役務の出所表示としてより高い周知性を有するのは,被請求人の周知著名商標である「コナミスポーツクラブ」の文字部分であることは疑いようがない。よって,上記役務の提供を受ける者が,語頭に配された「コナミスポーツクラブ」の文字部分を全く捨象し,後半の「マスターズ」の文字部分のみを抽出し請求人商標又は請求人を連想又は想起するとは考え難く,その役務が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,役務の出所について混同を生ずるおそれは皆無である。
「ゴルフに関する電子出版物の提供,ゴルフに関する書籍の制作,電子計算機端末又は移動体電話による通信を用いて行うゴルフに関する画像・映像の提供,ゴルフに関する映画の上映・制作・又は配給,オンラインによるゴルフに関する画像・映像の提供,ゴルフに関する放送番組の制作」については,一般的に請求人のようなゴルフ場の経営会社は役務の提供の主体として認識されていない。また実際上も,請求人が上記の役務を日本で提供していることは疑わざるを得ない。他方,被請求人は,被請求人会社がスクールを開設する競技に関する書籍を被請求人会社が監修し,また被請求人の完全子会社である株式会社コナミデジタルエンタテインメントが出版しており,また体操について放送番組を制作した実績などがある(乙62の3?6,乙64)。被請求人会社は,ゴルフを教授するスクールを幅広く運営しているのであるから,ゴルフに関しても同様の役務を提供することに何ら不自然な点はなく,上記の役務についても,被請求人会社を表す「コナミスポーツクラブ」の文字は,役務の提供の主体として自然に認識,把握されるものである。よって,本件商標に接する者が,商標の識別上重要な語頭部分に配され,被請求人の固有の商標である「コナミスポーツクラブ」の文字部分を捨象し,後半部分の「マスターズ」の文字部分のみに特に印象づけられ,「マスターズ」の文学部分から請求人商標又は請求人を連想又は想起するとは到底考えられない。以上より,本件商標を用いて本件役務が提供されても,請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の業務にかかる役務であるかのように,当該役務ついて出所の混同は起こり得ないといえる。
エ その他請求人の主張について
本件商標の構成中「コナミスポーツクラブ」の語は被請求人の固有の商標であるのに対し,「マスターズ」の語は,複数の語義を有する既成語であり,ゴルフの競技会については請求人の開催する「マスターズトーナメント」以外の語義で「マスターズ」の語が使用されている例が数多く存在するのであるから,「本件商標に対して請求人が無効を求めている商品・役務はゴルフに関係するものであるから,当該商品・役務の需要者,取引者,受益者はゴルフ愛好者であるから,これらの者が本件商標に接した場合には,直ちに,本件商標中「マスターズ」を請求人の著名な「Masters」「マスターズ」を示すものとして認識することは疑いないとする請求人の主張は不合理である。実際上の取引でも,多くの事業者らがゴルフに関して,「マスターズ」若しくは「Masters」の語と他の語を結合した標章を,請求人が米国ジョージア州で年に1度,限られた招待資格を有する選手のみを対象としてオーガスタナショナルゴルフ クラブで開催する「マスターズトーナメント」とは異なる意味で使用している(乙23,乙24,乙26,乙28?乙35)。
特にゴルフ競技会の名称については「マスターズ」の語が多用されているといえ,またそれぞれの使用者は文部科学省やスポーツ庁といった行政機関,公益性が認定された複数の公益財団法人,知的財産権に精通した弁理士,また用語の使用に関しプロフェッショナルである放送局や新聞社等なのであるから,「マスターズ」の語を請求人の「マスターズトーナメント」の略称として使用しているものではないことは明らかである。よって,被請求人の周知著名商標と「マスターズ」の語を結合した本件商標について,本件審判の請求にかかる商品・役務に接した需要者・取引者は,「直ちに,本件商標中『マスターズ』を請求人の著名な『Masters』『マスターズ』を示すものとして認識することは疑いない」とする請求人の主張には理由がない。
したがって,本件商標は,本件請求商品役務についてみても,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。
3 商標法第4条第1項第19号について
(1)本件商標と請求人商標の類否について
本件商標は,「コナミスポーツクラブマスターズ」の片仮名からなり,請求人商標「Masters」「マスターズ」とは,上記1(1)で述べたとおり,外観,称呼及び観念のいずれからみても,相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(2)不正の目的について
被請求人は,遅くとも2002年から,「マスターズ水泳」の競技会を開催しており,また,一般社団法人日本マスターズ水泳協会の公認大会として「コナミスポーツクラブマスターズ水泳競技会」を,2006年以降毎年開催していることに起因し,本件商標を採択し出願した(乙14,乙65)。また,年齢が一定以上の中高年向けの競技会の総称としての「マスターズ」は,水泳のみならずゴルフや陸上など様々な競技の競技会に使用されている語であること,今後も日本社会の高齢化が見込まれ,スポーツ全般について中高年層向けの「マスターズ」大会に関する需要のさらなる増加が予想されること,また種々のスポーツに関するサービスを提供するスポーツクラブにおいては中高年層が重要な顧客層であること,さらにスポーツの競技会の開催にあたっては,競技会名称を付した印刷物を発行し,ジャンパーや帽子などの各種のグッズを製造・販売し,またスポーツクラブにおいて特定の競技会向けの指導を行うことなどを想定し,本件商標登録に係る商品・役務を指定して被請求人が本件商標を出願したことは正当な行為といえ,不正の目的を推認させる事実は一切ない。その他,出願の経緯において,請求人が主張するような,請求人の「『マスターズ』のもつ顧客吸引力を利用し,不当に利益を上げることを目的として採用した」ことを推認させる事実は一切ない。
なお,請求人は,被請求人がゴルフに関する事業を行っていることから,「『Masters』『マスターズ』が世界的に著名なゴルフトーナメントの略称であることを知らないはずはない」ことを根拠とし,無数にある言葉の中から「マスターズ」の語を,「マスターズ」のもつ顧客吸引力を利用し,不当に利益を上げることを目的として採用したと主張するが,ゴルフを開催競技とする「ワールドマスターズゲームズ(世界マスターズ大会)」は1985年より開催されており,また,「日本スポーツマスターズ」におけるゴルフの競技会は2001年より開催され,さらに,上記で述べたとおり,行政庁や各種の企業・団体がゴルフ競技について「マスターズ」の語を年齢が一定以上の中高年を対象とした競技会について使用している。これらの大会は,生涯スポーツの普及・振興を目的とし,同大会名の一部である「マスターズ」も「中高年のためのスポーツ大会」に由来するものである。同様に,本件商標についても,中高年を対象とする「マスターズ水泳」について「コナミスポーツクラブマスターズ水泳競技会」を開催しており,水泳のみならず他の様々な競技の競技会に使用されている語であること,今後も日本社会の高齢化が見込まれ,スポーツ全般について中高年層向けの「マスターズ」大会に関する需要の更なる増加が予想されること,また種々のスポーツに関するサービスを提供するスポーツクラブにおいては中高年層が重要な顧客層であること等を勘案して,被請求人会社の業務全般に使用する商標として採択したものであり,本件商標の採択は,一切,請求人商標に起因しない。にもかかわらず,請求人は,単に本件商標に係る出願が不正の目的でされたと述べるだけで証拠も一切提出しておらず,請求人の主張は失当である。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号の規定に該当するものでないことは明白である。
4 商標法第4条第1項第7号について
本件商標は,「コナミスポーツクラブマスターズ」の片仮名からなり,請求人商標「Masters」「マスターズ」とは,上記1(1)で述べたとおり,外観,称呼及び観念のいずれからみても,相紛れるおそれのない非類似の商標である。
被請求人会社は,上述のとおり,日本全国でスポーツクラブを運営し,日本人や日本在住者の健康の維持・向上を広くサポートする企業であり,またゴルフを含め各種競技について子供向けの「運動塾」を運営し幼少期からの運動能力向上やスポーツ選手の育成に貢献している(乙66)。さらに,日本のスポーツ界への多大な貢献が認められ2004年よりJOCのオフィシャルパートナーに認定され,平成25年には「トップアスリートサポート賞」を受賞し,また,2011年から所属会社としてサポートを続けてきた内村航平選手がオリンピックで数多くのメダルを取るなどし,被請求人及び被請求人会社は日本のスポーツ業界において高い名声を有する企業である。そのような企業が自らの業務について使用する商標を採択する際に,あえて他人の周知商標の名声や顧客吸引力に便乗し,社会一般の道徳観念に反し,公正な取引秩序を乱すような商標を採択するとは到底考えられないし,またそのような動機があったことを証する証拠も一切提出されていない。
また,上述のとおり,「マスターズ」の語は,「年齢が一定以上の中高年を対象とした競技会の総称」としての語義が社会一般に定着しており,ゴルフ競技についても普通に使用されているのであるから,高い名声を有する「コナミスポーツクラブ」の語に続く「マスターズ」の語は,「年齢が一定以上の中高年を対象とした競技会の総称」としての語義が容易に理解されるため,本件商標が公正な取引秩序を乱し,公の秩序を害するおそれのある商標であると認めるべき理由はない。
なお,請求人は,商願2010-046916を例に挙げ,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当すると主張しているが,当該出願にかかる商標は「Masters」及び「マスターズ」が上下二段に併記されたものであり,被請求人会社及び被請求人会社の運営するスポーツクラブを表す周知・著名商標であり,日本のスポーツ業界において高い名声を有する「コナミスポーツクラブ」と「マスターズ」の語とを結合した本件商標とは,構成が異なるため,明らかに事案を異にするものである。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号の規定に該当するものでないことは明白である。
5 総括
以上のとおり,本件商標はその構成文字に対応し「コナミスポーツクラブマスターズ」の称呼のみを生ずるものであるから,「マスターズ」の称呼を生ずる引用商標及び請求人商標とは非類似の商標であって,出所の混同を生ずるおそれのないものであるから,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当せず,また出願経緯に不正の目的を推認させる事情は一切なく,商標法第4条第1項第19号及び同項第7号にも該当しないものである。

第4 当審の判断
1 「マスターズ」及び「Masters」,「コナミスポーツクラブ」の周知性について
(1)請求人について
ア 請求人は,米国法人であって,請求人が経営する米国ジョージア州オーガスタ所在のオーガスタナショナルゴルフクラブ(Auguata National golf Club)において,世界の4大ゴルフトーナメントの一つである「Masters Tournament(マスターズトーナメント)」(以下「マスターズトーナメント」という。)を,毎年4月の第2週に開催している(甲3?甲5の80)。
イ 請求人の提出した各種辞典等(甲5の2?14,甲25?甲39)には,例えば「マスターズ」の項に,「(Masters Tournament)アメリカのジョージア州オーガスタで毎年四月に行われるゴルフ競技会。1934年,世界の名手の招待競技として発足。」(甲5の2,3),「マスターズ(Masters)」の項に,「ゴルフの世界四大競技会の一つ。招待された世界の有力選手によって,毎年アメリカのオーガスタで行われる。マスターズトーナメント」(甲5の4)と記載があるなど,「マスターズ」及び「Masters」の文字が,「マスターズトーナメント」の意味を有する語として掲載されている。
(2)「マスターズ」及び「Masters」の周知性について
ア 請求人は,我が国において,1980年代から株式会社ミズノを通じて「ゴルフバッグ,ゴルフクラブ,ゴルフシューズ」等のゴルフ用品を,株式会社ダンロップを通じて「ゴルフボール」を,株式会社フェニックスを通じて「ゴルフウェア」を販売しており,これら商品及びそのカタログには「MASTERS」又は「マスターズ」の文字が表示されている(甲58?甲73)。
また,2012年からは,3月から4月末頃までの「マスターズトーナメント」が開催される前後の期間,株式会社TBSテレビで,「ボールペン,カレンダー」等,様々な商品を販売し(甲74),株式会社TBSテレビにより各年に開催された「マスターズトーナメント」を収録したDVDが(甲91),株式会社ゴルフダイジェスト社によりカレンダーが販売されており(甲87),これら商品には「MASTERS」の文字が表示されている。
イ 2009年1月23日から2010年3月17日付けの朝日新聞及び読売新聞(甲5の15?22)において,例えば「17歳石川遼マスターズへ」(甲5の15),「20歳,マスターズで優勝したい」(甲5の16),「遼君 マスターズ招待」(甲5の19),「ウッズ マスターズで復帰」(甲5の22)のように,「マスターズ」の文字が,「マスターズトーナメント」の略称として使用されている。
ウ 2002年から2011年に発行された一般紙及び週刊誌などの「新潮45」,「週刊朝日」,「サンデー毎日」,「週刊文春」,「週刊新潮」,「週刊現代」,「週刊ポスト」,「アサヒ芸能」,「週刊プレイボーイ」,「THEMIS」,「週刊女性」,「女性自身」,「FRIDAY」,「FLASH」,「週刊ダイヤモンド」,「YomiuriWeekly」,「月刊バーサス」及び「週刊東洋経済」(甲5の23?80,甲20の2?11,13,14,16,17)において,「マスターズトーナメント」に出場する選手や当該トーナメントに関する記事等が掲載され,「マスターズ」の文字が,「マスターズトーナメント」の略称として使用されている。
エ マスターズトーナメントは,1972年から我が国においてもテレビで放映されている(甲10?甲11の6)。
オ 1989年から2011年に発行された,ゴルフ専門誌及びスポーツ雑誌である「週刊ゴルフダイジェスト」,「ゴルフダイジェストチョイス」,「月刊ゴルフダイジェスト」,「アルバトロス・ビュー」,「Number」,「SPORTSYeah!」,「スポルティーバ」及び「GolfClassic」(甲12の2?34,37?41,甲15の2,3,5?10,甲17の2?6,甲17の8?14,甲19の4)において,例えば「総力特集マスターズ!」,「マスターズ観戦ガイド」(甲12の12),「マスターズ/渾身レポート3本立て!」(甲12の26)のように,「マスターズ」の文字が「マスターズトーナメント」の略称として使用されている。
カ 上記(1)及び(2)アないしオによれば,「マスターズ」及び「Masters」(以下「請求人商標」という。)は,米国ジョージア州オーガスタで,1934年から請求人が開催するゴルフ競技会で,世界の4大ゴルフトーナメントの一つである「マスターズトーナメント」の略称として,各種事典等,新聞,一般紙及び週刊誌,ゴルフ専門誌及びスポーツ雑誌などにおいて広く使用されて,その競技会は日本においてもテレビ放映もされている。
そのため,請求人商標は,請求人の開催するゴルフ競技会「マスターズトーナメント」の略称として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国のゴルフに関連する商品又は役務の取引者,需要者の間で広く認識されていたということができる。
(3)被請求人子会社が使用する「コナミスポーツクラブ」の周知性について
ア 被請求人子会社は,スポーツクラブの運営を主とする健康サービス事業を行っており,2016年9月末時点で全国に183の直営施設を運営,会員数は50万人を超え,そのうち「コナミスポーツクラブ」の名称で運営するクラブは177施設ある(乙8の1?3)。
イ 被請求人子会社が運営するスポーツクラブの売上規模は,我が国において,フィットネスクラブ売上ランキングで2002年以降首位を保っており,2013年の売上高は約765億円である(乙9)。
ウ 「コナミスポーツクラブ」では,フィットネスに関する設備の提供の他,フィットネスに関するプログラムのみならず,スイミングスクール,体操スクール,ゴルフスクール,サッカースクール,テニススクール等も提供している(乙11)。
エ してみれば,「コナミスポーツクラブ」は,被請求人子会社の運営するスポーツクラブの名称として,我が国において広く知られているということができるものであり,また,当該施設において,様々なスポーツプログラムが提供されていることから,フィットネスの分野のみならず,スポーツに関する役務分野において,広く知られているものと認められる。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は,「コナミスポーツクラブマスターズ」の片仮名を標準文字により表してなるところ,該文字は,同書,同大,等間隔で一体にまとまりよく表してなるものであって,これより生ずる「コナミスポーツクラブマスターズ」の称呼が,やや冗長であるとしても,一連に称呼し得るものである。
また,本件商標の構成中「マスターズ」の文字は,「(Masters Tournament)アメリカのジョージア州オーガスタで毎年4月に行われるゴルフ競技会。1934年,世界の名手の招待競技として発足。」及び「(World Masters Games)中高年のための国際スポーツ大会。女子30歳・男子35歳以上の参加者が5歳きざみの年齢別で競技。世界マスターズ大会。中高年のための競技会の総称。」の意味(いずれも「広辞苑第六版」株式会社岩波書店)を有するものである。
そして,本件商標の構成中「コナミスポーツクラブ」の文字は,上記1(3)のとおり,被請求人の運営するスポーツクラブの名称として,我が国において広く知られているから,当該スポーツクラブの名称を想起させるものである。
(2)我が国における他者による「マスターズ」の使用例について
我が国において,「マスターズ」の文字は,様々な競技会で,他の語と組み合わせた大会名の一部として使用されており,例えば,ゴルフを競技種目に含む「ワールドマスターズゲームズ」には,「原則30歳以上」(乙23),「日本スポーツマスターズ(SPORTS MASTERS JAPAN)」のゴルフ競技には,「55歳以上の男子と50歳以上の女子が技を競う国民体育大会のシニア版」(乙25の1)の記載があり,さらに,ゴルフ競技会において,「2016年/OVT杯/マスターズゴルフ選手権」の「参加資格」には「50歳?64歳部門/65歳以上の部門」(乙28)の記載があり,「第15回福井県マスターズゴルフ大会」(乙29)は,上記「日本スポーツマスターズ」の代表選考会であるから,これらにおいては,「マスターズ」の文字は,「一定の年齢以上の者,中高年のための競技会」といった意味合いで使用されているということができる。
また,「全日本エイジシューターマスターズゴルフ選手権2016」(乙26の1)は,「エイジシューター」が「ゴルフで,6000ヤード(5486メートル)以上の18ホールのコースを自分の年齢と同じか,それ以下のスコアで回った人」(「大辞泉 第二版」株式会社小学館)を意味する語であり,一定程度の年齢以上であるか又は上級者でなければ達成が困難であることからすれば,「マスターズ」の文字は,「中高年の大会」又は「上級者」の意味合いを理解させるものといえ,「第42回 北陸マスターズゴルフ」(乙33)は,「参加資格」に「・・・ハンデキャップ6.0までの者。・・・ハンデキャップ9.1までの者。第39回北陸マスターズプレリュードゴルフ上位30位タイまでの者。・・・ハンデキャップ取得者で大会本部の推薦者」の記載があることからすれば,「マスターズ」の文字は,「上級者の競技会」といった意味合いで使用されているとみるのが相当である。
さらに,その意味合いが明確とはいえないとしても「春のマグナリゾート/マスターズゴルフコンペティション」(乙34),「パテントマスターズ」(乙35の1,2)のように,「マスターズ」の文字を競技会の名称の一部として使用しているものもある。
そうすると,本件商標の構成中「マスターズ」の文字は,上記のとおり複数の語義を有するものであって,我が国において広く知られている「コナミスポーツクラブ」の文字と併記するような構成においては,被請求人子会社の運営するスポーツクラブとの関連を連想させることから,請求人の開催する「マスターズトーナメント」の略称としての意味ではなく,「中高年のための競技会の総称」程の意味合いで用いられていると理解されるものである。
してみれば,本件商標は,その構成文字全体から生じる印象をもって取引に資されるほか,我が国で広く知られている「コナミスポーツクラブ」の文字部分から生じる印象が,取引に際して記憶に残る場合があるとしても,単なる中高年のための競技会の総称と理解される「マスターズ」の文字部分は,記憶に強い印象を残すものではない。
したがって,本件商標は,その構成文字全体及び「コナミスポーツクラブ」の文字に相応して,「コナミスポーツクラブマスターズ」又は「コナミスポーツクラブ」の称呼を生じ,「コナミスポーツクラブが運営する中高年向けの競技会」又は「コナミスポーツクラブ(被請求人の運営するスポーツクラブの名称)」程度の観念が生ずるものというべきであるが,その構成中の「マスターズ」の文字部分から商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を受けるとはいえないから,「マスターズ」の文字部分を本件商標の要部として,引用商標又は請求人商標との類否を判断することは許されないというべきである。
(2)引用商標
ア 引用商標1
引用商標1は,「MASTERS」の欧文字を横書きしてなるところ,上記(1)のとおり,該文字は,「(Masters Tournament)アメリカのジョージア州オーガスタで毎年4月に行われるゴルフ競技会。」及び「(World Masters Games)中高年のための国際スポーツ大会。女子30歳・男子35歳以上の参加者が5歳きざみの年齢別で競技。世界マスターズ大会。中高年のための競技会の総称。」の意味を有するため,その構成文字に相応して「マスターズ」の称呼が生じ,「マスターズトーナメント」又は「中高年のための競技会の総称」の観念が生じる。
イ 引用商標2及び3
引用商標2及び3は,別掲1のとおり,米国の簡略な地図と思しき図形と,その図形内の右下から伸びるように立てられた支柱になびく旗を描いてなるものであって,その支柱に重なるように「MASTERS」の欧文字を横書きしてなるところ,「MASTERS」の文字は,上記のとおり,複数の意味を有するものの,それに重なる図形部分は,米国やゴルフのピンフラッグとの関連を連想,想起させることから,このような構成においては,当該文字は,請求人が米国で開催するゴルフ競技会である「マスターズトーナメント」の意味合いで使用されてなるものと認識,看取できる。
そのため,引用商標2及び3は,その構成文字に相応して,「マスターズ」の称呼が生じ,「マスターズトーナメント」の観念が生じる。
ウ 引用商標4
引用商標4は,ややデザイン化した「MASTERS」の欧文字を横書きしてなるところ,上記(1)のとおり,該文字は,「(Masters Tournament)アメリカのジョージア州オーガスタで毎年4月に行われるゴルフ競技会。」及び「(World Masters Games)中高年のための国際スポーツ大会。女子30歳・男子35歳以上の参加者が5歳きざみの年齢別で競技。世界マスターズ大会。中高年のための競技会の総称。」の意味を有するため,その構成文字に相応して「マスターズ」の称呼が生じ,「マスターズトーナメント」又は「中高年のための競技会の総称」の観念が生じる。
(3)本件商標と引用商標との類否
ア 本件商標と引用商標1及び4との類否
本件商標と引用商標1及び4とを比較すると,その外観においては,「コナミスポーツクラブ」の有無及び文字種(欧文字と片仮名)において,明らかな差異を有するものであるから,外観上,明確に区別できるものである。
次に,称呼については,本件商標から生じる「コナミスポーツクラブマスターズ」の称呼との比較において,「マスターズ」の音が共通するとしても,前半部の音の有無という顕著な差異を有するものであり,本件商標から生じる「コナミスポーツクラブ」の称呼との比較においては,構成音が明らかに相違するから,それぞれを称呼するときは,明瞭に聴別し得るものである。
さらに,観念においては,本件商標から生じる「コナミスポーツクラブが運営する中高年向けの競技会」及び「コナミスポーツクラブ(被請求人の運営するスポーツクラブの名称)」の観念は,引用商標1及び4から生じる「マスターズトーナメント」及び「中高年のための競技会の総称」とは明らかに相違し,観念上,相紛れるおそれはない。
そうすると,本件商標と引用商標1及び4は,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であって,別異の商標というべきものである。
イ 本件商標と引用商標2及び3との類否
本件商標と引用商標2及び3とを比較すると,その外観においては,図形部分の有無並びに「コナミスポーツクラブ」の文字の有無及び文字種(欧文字と片仮名)において明らかな差異を有するものであるから,外観上,明確に区別できるものである。
次に,称呼については,本件商標から生じる「コナミスポーツクラブマスターズ」の称呼との比較において,「マスターズ」の音が共通するとしても,前半部の音の有無という顕著な差異を有するものであり,本件商標から生じる「コナミスポーツクラブ」の称呼との比較においては,構成音が明らかに相違するから,それぞれを称呼するときは,明瞭に聴別し得るものである。
さらに,観念においては,本件商標から生じる「コナミスポーツクラブが運営する中高年向けの競技会」及び「コナミスポーツクラブ(被請求人の運営するスポーツクラブの名称)」の観念は,引用商標2及び3から生じる「マスターズトーナメント」とは,明らかに相違するから,観念上,相紛れるおそれはない。
そうすると,本件商標と引用商標2及び3は,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であって,別異の商標というべきものである。
(4)小括
本件商標は,上記(3)のとおり,引用商標のいずれとも相紛れるおそれのない非類似の商標であるから,本件請求商品役務が引用商標の指定商品と同一又は類似のものであるかを検討するまでもなく,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号における「混同を生ずるおそれ
商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。けだし,同号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ,その趣旨からすれば,企業経営の多角化,同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成,有名ブランドの成立等,企業や市場の変化に応じて,周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには,広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号,平成12年7月11日第三小法廷判決)。
(2)本件商標と請求人商標との混同を生ずるおそれについて
ア 本件商標と請求人商標との類似性の程度
本件商標は,上記2(1)のとおり,「コナミスポーツクラブマスターズ」の片仮名を標準文字により表してなるところ,その構成文字に相応して,「コナミスポーツクラブマスターズ」又は「コナミスポーツクラブ」の称呼を生じ,「コナミスポーツクラブが運営する中高年向けの競技会」又は「コナミスポーツクラブ(被請求人の運営するスポーツクラブの名称)」程度の観念が生ずるものというべきであるが,その構成中の「マスターズ」の文字部分を商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部とはいえない。
そして,請求人商標である「マスターズ」及び「Masters」は,上記1(2)のとおり,請求人の開催するゴルフ競技会である「マスターズトーナメント」の略称として知られているから,その構成文字に相応して「マスターズ」の称呼が生じ,「請求人が開催するマスターズトーナメント」の観念が生じる。
本件商標と請求人商標を比較すると,その構成文字において「マスターズ」の文字を有する点で共通する場合があるとしても,「コナミスポーツクラブ」の文字の有無という明らかな差異を有するもので,その外観及びこれより生じる称呼において明瞭に区別でき,その観念においては,両者は明らかに異なるものを表しているから,観念上,相紛れるおそれもない。
また,本件商標の構成中に,請求人商標である「マスターズ」の片仮名が含まれているとしても,上記2(1)で述べたとおり,本件商標のような構成においては,請求人の開催する「マスターズトーナメント」の略称としての意味ではなく,「中高年のための競技会の総称」程の意味合いで用いられているものであると容易に理解できるものだから,当該文字部分から商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を受けるとはいえず,本件商標の要部として,請求人商標との類否を判断することも適切ではない。
そうすると,本件商標と請求人商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であって,別異の商標というべきものである。
イ 請求商標の周知性について
請求商標は,上記1(2)のとおり,請求人の開催するゴルフ競技会「マスターズトーナメント」を表す語として,我が国のゴルフに関連する商品又は役務の取引者,需要者の間で広く認識されていたということができる。
ウ 「マスターズ」及び「Masters」の独創性について
請求人商標は,「マスターズ」及び「Masters」の文字からなるものであるところ,「マスターズ」の語は,広辞苑第六版(株式会社岩波書店)によれば,「(a)(Masters Tournament)アメリカのジョージア州オーガスタで毎年4月に行われるゴルフ競技会。1934年,世界の名手の招待競技として発足。」,「(b)(World Masters Games)中高年のための国際スポーツ大会。女子30歳・男子35歳以上の参加者が5歳きざみの年齢別で競技。世界マスターズ大会。」及び「(c)中高年のための競技会の総称。」の複数の意味を有する語として掲載されており,また,「Masters」の語は,ジーニアス英和辞典 第5版(株式会社大修館書店)によれば,「(使用人に対する)男主人。(・・・の)名人,達人」等の意味合いを有する語として「master」の語が掲載されていることからすれば,該語は,「master」の英単語の複数形「masters」であるといえるものである。
そして,「マスターズ」及び「Masters」の語は,「マスターズトーナメント」を表す語としても使用されているものであるところ,その名称の由来について,甲第5号証の11及び12には,「当初はオーガスタ・ナショナル・インビテーショナル・トーナメントが大会名だったが,世界の名手たち(マスターズ)が一堂に会した大会ということで,第二回大会からはマスターズが正式名称になった。」,甲第5号証の14には,「マスコミ界ではこの試合を世界の名手たちの競演という意味でマスターズ・トーナメントと表現した。・・・これが正式名になった。」の記載があることからすれば,「マスターズ」及び「Masters」の語は,元々「上級者」ほどの意味合いで使用されていたものといえる。
そうすると,「マスターズ」及び「Masters」の語は,各種事典等に請求人の「マスターズトーナメント」を表す語として掲載されているとしても,そのほかにも,複数の意味を有する語として知られているものであるから,該語は,請求人の造語とは認められないものであり,その独創性は高いとはいえないものである。
エ 請求人の多角経営の可能性について
請求人の提出した証拠によっては,請求人が,米国ジョージア州オーガスタ所在のオーガスタナショナルゴルフクラブ(Auguata National golf Club)を経営し,当該ゴルフクラブで「マスターズトーナメント」の運営,開催を行う以外に,我が国において,ゴルフの教授等,無効を求める役務を提供している事実は認められない。
また,請求人は,我が国において,「マスターズ」及び「MASTERS」の文字を使用して,1980年代から株式会社ミズノ等を通じて,「ゴルフ用品,ゴルフウェア」を販売し,2012年からは,株式会社TBSテレビ等を通じて「ボールペン」,「カレンダー」,「マスターズトーナメント」を収録した「DVD」等を販売していることが認められるが,これら商品の売上高や広告宣伝の詳細は明らかではなく,上記以外に,ゴルフの分野において他の業務を行っている事実又は新たな事業を計画している等多角経営を行っていることや事業拡大の計画があることを認め得る証拠は見いだせない。
オ 本件商標の指定商品又は指定役務と請求人の役務との関連性の程度,並びに取引者及び需要者の共通性その他取引の実情
本件請求商品役務は,請求人の業務に係る「ゴルフトーナメントの企画・運営及び開催」とは,需要者において,ゴルフを行う者,あるいはゴルフに興味を有する者が共通する場合があるとしても,その商品の生産又は販売部門・品質・用途及び流通経路,その役務の提供の手段,目的又は場所等がいずれも異なるものであるから,本件商標の指定商品又は指定役務と請求人の役務の関連性の程度は高いものとはいえない。
カ 取引の実情について
請求人は,我が国において,引用商標2,3及び4が表示されたゴルフウェア,ボールペン,キャップ,サンバイザー,ポロシャツ,傘などを販売していたことはうかがえる(甲58?甲74)が,最新の商品カタログは2000-2001年版(乙69)であり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人商標が,無効を求める第16類及び第25類の商品について周知著名であったとはいえない。その他本件請求商品役務について,我が国において販売又は提供を行っている実情はみられない。
(3)判断
請求人商標は,上記1(2)のとおり,請求人の開催するゴルフ競技会「マスターズトーナメント」の略称として,我が国のゴルフに関連する商品又は役務の取引者,需要者の間で広く認識されており,請求人商標に係る「ゴルフの興行の運営又は開催」と本件請求商品役務とは,需要者を共通にする場合があるとしても,請求人商標を構成する「マスターズ」の文字は,複数の意味合いを有する語として辞書等にも掲載されており,その独創性は高いとはいえず,本件商標と請求人商標は別異のものである。
また,我が国においては,スポーツ競技会において,「マスターズ」の文字を含む大会名称がいくつかあるが,いずれも,請求人と何らかの関係がある大会であるとの証左はなく,該「マスターズ」の文字は,請求人の出所を表示するものとみるよりは,「中高年のための競技会」,「上級者の競技会」ほどの意味合いで使用されているとみるのが自然である。
してみれば,本件商標は,その構成中の「マスターズ」の文字が,請求人の開催するゴルフ競技会「マスターズトーナメント」の略称として,我が国のゴルフに関連する商品又は役務の取引者,需要者の間で周知であるとしても,前半の「コナミスポーツクラブ」の文字が,被請求人子会社に係るスポーツクラブの名称として我が国で広く知られているものであるから,まず,この前半部分に着目して,被請求人子会社のスポーツクラブを想起させ,これに続く後半の「マスターズ」の文字については,該スポーツクラブと関連付けて,「中高年のための競技会,上級者」程の意味合いが認識されるものとみるのが相当であって,殊更,後半の「マスターズ」の文字に着目し,かつ,前半部分から看取される被請求人子会社に係るスポーツクラブとの関連性を排除してまで,「マスターズトーナメント」を想起させるとみるのは妥当ではない。
したがって,被請求人が,本件商標を本件請求商品役務に使用しても,これに接する取引者,需要者が,請求人商標である「マスターズ」及び「Masters」を連想又は想起し,これと関連付けて本件商標を認識することはないというべきであり,その商品又は役務が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように,その商品又は役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものと判断するのが相当である。
(4)小括
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
請求人商標は,上記1(2)のとおり,請求人の開催するゴルフ競技会「マスターズトーナメント」の略称として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国のゴルフに関連する商品又は役務の取引者,需要者の間で広く認識されていたといえる。
また,仮に,請求人商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時に米国を含む外国の取引者,需要者の間において周知であるとしても,本件商標と請求人商標とは,上記3(2)のとおり,その文字構成において大きく異なる別異の商標である以上,本件商標は,商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものである。
さらに,請求人の提出に係る甲各号証を総合してみても,被請求人が,請求人の使用に係る商標の名声と信用にフリーライドする意図など,不正の目的をもって本件商標の使用をするものと認めるに足る具体的事実は見いだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標「コナミスポーツクラブマスターズ」は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょう激又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではなく,これを本件請求商品役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものともいえない。
また,本件商標は,他の法律によって,その商標の使用等が禁止されているものではないし,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反するものでもない。
さらに,請求人の主張及び同人の提出に係る甲各号証を総合してみても,本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当すると認めるに足る具体的事実を見いだすことができない。
その他,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足る証拠もない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 請求人の主張について
(1)請求人は,「我が国には550万人というゴルフ人口があり,このすべての者が請求人が無効を求めている商品・役務の需要者,取引者であり,これらのうちで,請求人の『マスターズ』を知らない者はいない,といっても過言でない。よって,『マスターズ』を構成中に含む本件商標がゴルフに関係する本件商品・役務について使用された場合に,当該商品・役務の取引者,需要者,受益者は,本件商標中『マスターズ』を『中高年のための競技会』の意味で理解するようなことはありえず,これを請求人の『Masters Tournament』『マスターズトーナメント』の意味で理解することは疑う余地がない。よって,本件商標からは請求人の『マスターズトーナメント』の観念が生じる,ことは明らかである。」旨を主張する。
しかしながら,たとえ,請求人商標である「マスターズ」及び「Masters」が,上記1(2)のとおり,請求人の開催するゴルフ競技会「マスターズトーナメント」の略称として,我が国のゴルフに関連する商品又は役務の取引者,需要者の間で広く認識されているとしても,上記2(3)のとおり,本件商標「コナミスポーツクラブマスターズ」においては,後半の「マスターズ」の文字が着目され,該文字部分から独立した称呼及び観念が生じるということはできない。
(2)請求人は,「『マスターズ』は,ゴルフに関する商品・役務の取引者,需要者,受益者にとって,極めて著名な請求人が主催する『マスターズトーナメント』を直ちに想起させるから,本件商標が,請求人が登録の無効を求めているゴルフに関係する商品・役務について使用された場合,当該商品の取引者,需要者,受益者は,請求人ないしその著名な『マスターズトーナメント』に関連するものとして認識することは疑いない。その結果,当該商品・役務の取引者,需要者,受益者は,当該商品・役務が請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者により提供されているかのごとく商品・役務について,出所の混同を生じることは明らかである。」旨を主張する。
しかしながら,「マスターズ」の語は,上記1(2)のとおり,請求人の開催するゴルフ競技会「マスターズトーナメント」の略称として,我が国のゴルフに関連する役務の取引者,需要者の間で広く認識されていると認められるとしても,該語は,上記3(2)ウのとおり,複数の意味合いを有する語であり,我が国においては,他の語と組み合わせて「中高年のための競技会」,「上級者の競技会」といった意味合いで使用されている語といえるものであり,ゴルフに関連した分野においても,上記意味合いで競技会の名称に使用されている実情がある。
そうすると,本件商標の構成中「マスターズ」の文字は,上記2(1)のとおり,本件商標のような構成にあっては,「中高年のための競技の総称」程の意味合いを理解させるというべでき,当該文字部分が分離抽出され,当該文字部分から独立した識別標識としての称呼及び観念が生じるとはいえないから,その主張は採択できない。
(3)請求人は,審査例(甲7)及び審決例(甲6,甲23)を挙げつつ,ゴルフ関係の役務の事業者,ゴルフをする者やゴルフ愛好者が「マスターズ」の語に接した場合に,これを請求人の「Masters Tournament」「マスターズトーナメント」と関連付けないというようなことはあり得ず,本件商標に接する取引者,受益者は,本件商標を「コナミスポーツクラブ」と請求人の「マスターズ」からなる商標として把握・認識するから,「マスターズ」の部分が「Masters Tournament」「マスターズトーナメント」の観念が生じるというべきである旨を主張する。
しかしながら,審査例(甲7)の商標は「Masters」及び「マスターズ」の文字を二段に書した構成からなるものであり,また,審決例は「MASTERS GOLF CLUB」(甲6)及びシルエット風に描かれた樹木の図形を中央に配しその左側に「Master」を右側に「golf」の欧文字を配してなるもの(甲23)であって,「マスターズ」の文字が,独立して自他商品役務の識別標識として機能するものとは認められない本件商標とはその構成を異にするものであり,本件商標と同列に論じることはできないものであるから,これら審査例及び審決例は,本件商標についての上記判断を左右するものではない。
したがって,上記請求人の主張は,いずれも認めることができない。
7 まとめ
以上のとおり,本件商標は,本件請求商品役務について,商標法第4条第1項第11号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に違反して登録されたものとは認められないから,同法第46条第1項の規定によって,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 引用商標2及び引用商標3


別掲2 引用商標4



審理終結日 2018-06-07 
結審通知日 2018-06-12 
審決日 2018-06-25 
出願番号 商願2014-43928(T2014-43928) 
審決分類 T 1 12・ 222- Y (W162541)
T 1 12・ 262- Y (W162541)
T 1 12・ 263- Y (W162541)
T 1 12・ 261- Y (W162541)
T 1 12・ 271- Y (W162541)
T 1 12・ 22- Y (W162541)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 貴博 
特許庁審判長 小出 浩子
特許庁審判官 平澤 芳行
阿曾 裕樹
登録日 2014-10-24 
登録番号 商標登録第5712040号(T5712040) 
商標の称呼 コナミスポーツクラブマスターズ、コナミスポーツクラブ、コナミスポーツ、コナミ、マスターズ 
代理人 北口 貴大 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 中村 稔 
代理人 横川 聡子 
代理人 松尾 和子 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 舩越 輝 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 藤倉 大作 
代理人 永岡 愛 
代理人 辻居 幸一 
代理人 城山 康文 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ