• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W25
審判 全部無効 外観類似 無効としない W25
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W25
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W25
管理番号 1360617 
審判番号 無効2018-890033 
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-05-07 
確定日 2019-12-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第5924494号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5924494号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成28年8月26日に登録出願、第25類「被服(ただし「和服」は除く。),新生児用被服(ただし「和服」は除く。),サイクリング競技用衣服,防水加工を施した被服(ただし「和服」は除く。),靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),帽子,メリヤス下着,メリヤス靴下,手袋(被服),ネックスカーフ(マフラー),アイマスク」を指定商品として、同29年1月11日に登録査定、同年2月17日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして引用する商標は、以下の登録商標(以下、これらをまとめていうときは「引用商標」(特に断り書きがない限り、引用商標2、4、6及び7については、図形部分に限る。)という。)であって、いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第4701254号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成14年2月27日
設定登録日:平成15年8月15日
指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

2 登録第5033188号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲3のとおり
登録出願日:平成18年9月6日
設定登録日:平成19年3月16日
指定商品:第25類「被服,履物及び帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

3 登録第5119211号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲4のとおり
登録出願日:平成18年9月20日
設定登録日:平成20年3月14日
指定商品:第25類「ラクロス用パッド入りリストバンド」及び第28類「すね当て,あご当て,ひざ当て,ひじ当て,マウスピース,運動用股間プロテクター,ゴールキーパー用グローブ,その他の運動用具」

4 登録第5154481号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:別掲5のとおり
登録出願日:平成19年12月20日
設定登録日:平成20年7月25日
指定商品:第25類「被服,帽子,履物,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

5 登録第5277312号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:別掲6のとおり
登録出願日:平成20年12月9日
優先権主張日:2008年(平成20年)9月17日 アメリカ合衆国
設定登録日:平成21年10月30日
指定役務:「被服・被服用アクセサリー・履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服・被服用アクセサリー・履物のオンラインによる小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服・被服用アクセサリー・履物の移動式店舗による小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動具のオンラインによる小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動具の移動式店舗による小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を含む第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務

6 登録第5294261号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の構成:別掲7のとおり
登録出願日:平成21年7月9日
設定登録日:平成22年1月15日
指定商品:第25類「被服,履物,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

7 登録第5510273号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の構成:別掲8のとおり
登録出願日:平成24年4月13日
優先権主張日:2011年(平成23年)12月12日 アメリカ合衆国
設定登録日:平成24年7月27日
指定商品:第25類「履物,被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」

8 登録第5850268号商標(以下「引用商標8」という。)
商標の構成:別掲9のとおり
登録出願日:平成26年5月12日
優先権主張日:2013年(平成25年)11月12日 アメリカ合衆国
設定登録日:平成28年5月13日
指定商品:「軍事用の防護用履物,事故防護用の被服・帽子・履物」を含む第9類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び第25類「紫外線防止用の被服・ズボン・上衣・シャツ・ショートパンツ・パンツ」

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第58号証を提出した。
1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。

2 本件商標と引用商標との類似性
(1)本件商標について
本件商標は、やや縦長の黒塗りの六角形(以下、「垂直六角形」という。)を、左右に上下二つずつ縦に向けて表し、その中程に、これらの図形よりやや長めの扁平な黒塗りの六角形一つ(以下、「水平六角形」という。)を、横に向け、四つの垂直六角形との間にごく僅かなスペースを設けて表した構成からなり、全体として、五つの構成部分からなる図形である。
(2)引用商標について
引用商標は、半円状の弧線を、黒塗りでやや横長に左右を少しずつ幅広にしながら、両端部を太く表して図案化したもの二つを、一方を上向きに、他方を下向きにして、中央部付近を交差させ、中央部に横長のレンズ状部分を配してなる図形である。かかる図形を、特に、縮小してその商品に付した場合、各先端部分四つと、中央部の横長のレンズ状の部分一つとの、全体として、五つの構成部分からなるものと看取される。
(3)本件商標と引用商標との対比
ア 本件商標と引用商標との共通点
(ア)両商標は、上下左右対称の図形である点
(イ)両商標は、上下の中央には大きな凹状のくぼみを有し、左右の中央には小さな凹状のくぼみを有する点
(ウ)両商標は、先端部分四つと中央部分一つとの、全体として五つの部分からなるように構成されている点
(エ)両商標は、水平方向にやや横長な印象を与える点
(オ)両商標の各先端部分の形状が、平坦ではなく、鋭い尖状である点
(カ)両商標からは、黒塗りの鎧や兜、あるいは角を持ち上げているクワガタムシといった印象を受ける点
(キ)両商標の色彩が黒塗りで統一されている点
イ 本件商標と引用商標との差異点
(ア)本件商標は、上下左右の凹状のくぼみ部分が直線的であるのに対し、引用商標は、やや丸みを帯びた態様で表されている点
(イ)本件商標の水平六角形が、四つの垂直六角形との間にごく僅かなスペースを設けて表されているのに対し、引用商標の各構成部分の間には、スペースが設けられていない点
(ウ)本件商標の四隅の先端部分は、六角形の一つの角を上下垂直に向けて表されているのに対し、引用商標の各先端部分は、やや幅広にして、その内側の角を外側よりも延伸して表されている点
ウ 本件商標及び引用商標の全体的な構図をみた場合、両商標が前記ア(ア)ないし(キ)といった多くの共通点を有することに鑑みれば、本件商標と引用商標とは、その全体的な配置や輪郭等の基本的構成を共通にするものであり、高い類似性を示すものである。
(4)小括
以上考察したとおり、本件商標は、引用商標と類似するか、少なくとも高い類似性を示すものである。

3 引用商標の周知著名性
(1)請求人の事業活動の範囲及び事業規模
請求人は、アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアに本社を置く総合スポーツ用品メーカーであり、設立から10年余りで全米でも指折りの総合スポーツ用品ブランドに成長した企業と評されている(甲10)。また、引用商標は、請求人を示すハウスマークとして、創業後、20年以上にわたり継続して使用されている。
ア 我が国における、請求人の業務に係る商品の2009年度の年間売上高(年間売上数量)は、約79億円(約290万ユニット(数))であり、その後さらに事業規模を拡大した結果、2016年度の年間売上高(年間売上数量)は、約371億円(約1,370万ユニット(数))にまで上っている。8年という短期間で、売上高が約5倍と飛躍的に増大しており、その結果、引用商標に化体した信用は、絶大なものとなっていることがわかる(甲11)。
イ 請求人は、世界の総合スポーツ用品メーカーの中で、今や、1位ナイキ社(Nike,Inc.)、2位アディダス社(Adidas AG)に次ぐ、世界第3位の総合スポーツ用品メーカーに成長しており、売上高増減率(前年比)は、ナイキ社やアディダス社を優に凌ぐ21.8%という驚異的な伸び率を記録している(甲12)。
また、全世界における、2016年度の請求人の総売上高は、約5,600億円(甲12)であり、これは我が国発祥のスポーツ総合用品メーカーのうち、どの企業よりも多いものである(甲13)。
ウ 甲第14号証は、我が国の需要者に対し、請求人のブランドを訴求するための、主要な店舗の外観や内装を示したものである。
エ 甲第15号証は、請求人のブランド商品の日本国内取扱い店舗の一覧表であり、量販店、専門店、直営店等を含めると、その総数は約2,000店舗にも迫るものである。
オ 甲第16号証は、我が国における、請求人の業務に関するイベントや展示会の様子を示したものである。請求人は、様々な地域や幅広い年齢層の需要者に対して、積極的に広報・普及活動を行っている。
カ 甲第17号証は、引用商標が新聞や雑誌等の広告媒体に取り上げられた一例である。
キ 甲第18号証は、我が国における請求人の日本総代理店である、株式会社ドーム(甲19)の契約アスリート等を示すものである。加えて、甲第20号証及び甲第21号証は、請求人が全世界でスポンサーを務めるスポーツ選手の一覧表及びその訳文である。
例えば、我が国のプロ野球チームである読売巨人軍とは、2015年からの5年間で総額50億円ものスポンサー契約を締結しており、テレビ中継や新聞報道等により、我が国の需要者が引用商標を目にする機会は、飛躍的に増えている(甲22、23)。
また、2018年2月に開催された平昌(ピョンチャン)オリンピック/パラリンピックにおいて、カナダの公式フットウェアを提供している(甲24)など、請求人は国境を越えた大規模な販売促進活動を行っている。
ク 請求人は、アメリカ合衆国のメジャーリーグベースボール(MLB)と2014年から2019年までの5年間インターナショナル・ライセンス契約を締結し、我が国を含めた世界9力国で引用商標を付した商品を販売している(甲25)。
さらに、同メジャーリーグベースボール(MLB)とは、2020年から10年間にわたるユニフォームのオフィシャルサプライヤー契約を締結している(甲26)。
ケ 甲第27号証は、請求人が最近新たに開始した、スマートフォン等を活用した被服等のサブスクリプション(定期購買)サービスの内容を示した記事である。
以上から、引用商標を、我が国の需要者が目にする機会は近年急速に増えており、したがって、引用商標は、その指定商品の分野において、周知著名性を獲得しているものといえる。
(2)引用商標の周知性に係る過去の異議の決定
登録異議申立事件(異議2009-900440)の異議の決定によれば、引用商標1は2009年(平成21年)2月6日の時点において既に、我が国において、広く認識されていたものということができる、と認定されている(甲28)。
(3)小括
以上より、引用商標は、請求人の業務に係る商品(役務)を表示するものとして、本件商標の出願時(平成28年8月26日)及び登録時(平成29年2月17日)において、需要者の間に広く認識されていた著名な商標である。

4 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品(指定役務)
本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品又は指定役務と同一又は類似するものであり、また、引用商標がその著名性を獲得している分野である、スポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものである。

5 出所混同のおそれ
(1)出願商標と他人の標章との類似性の程度
前述のとおり、本件商標は、引用商標と高い類似性を示すものである。
見方によれば、本件商標と引用商標とを直接対比した場合の視覚的印象は、別異のものということもできるが、そうとしても、当該商標が他人の商標等に類似するかどうかは、商標法第4条第1項第15号該当性の判断における考慮要素の一つにすぎないものである。各構成部分における差異が存在するとしても、その点については、本件商標の構成において格別の出所識別機能を発揮するものとまではいえず、単に本件商標と引用商標の外観上の類否のみによって、混同を生じるおそれがあるか否かを判断することはできない。
(2)他人の標章の周知度
前述のとおり、引用商標は、本件商標と引用商標に係る指定商品の需要者の間において、周知著名な商標である。
(3)引用商標は、図形からなり、かかる指定商品の分野においてその構成は他に類を見ないものであり(甲30?32)、構成上顕著な特徴を有する。
(4)引用商標は、請求人のハウスマークである。そして、請求人のあらゆる商品に付されており、需要者が頻繁に接するものである。
(5)企業における多角経営の可能性
前述のとおり、請求人は日本のみならず世界中でその事業を展開しており、かつ、その事業活動の範囲及び事業規模が年々拡大を続けていることから、請求人が多角経営を行う可能性は十分高い。
(6)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
前述のとおり、本件商標と引用商標の商品(役務)の範囲は類似しており、それらの関連性は高い。
(7)商品等の需要者の共通性その他取引の実情
ア 商品等の需要者の共通性
被請求人の業務に係る商品は、主にスポーツ関連のものであるのに対して、請求人の業務に係る商品は、スポーツ関連のものを含む、被服、靴、帽子等である(甲34)から、互いの需要者の範囲は共通している。
また、本件商標の指定商品は、日常的に消費される性質の商品が含まれ、スポーツ用品(運動用具)関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要者は、スポーツの愛好家のみならず、広く一般の消費者を含むものということができる。
そして、このような一般の消費者には、必ずしも商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ、商品の購入に際し、メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らず、小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないと考えられる。
イ 取引の実情
(ア)本件商標の使用形態
被請求人の業務に係る商品の多くは、本件商標がいわゆるワンポイントマークとして付され、取引に資されている(甲33、35?38)。
(イ)引用商標の使用形態
引用商標は、スポーツシャツ、スポーツジャージーなどのウェアや靴下、帽子などについて、ワンポイントマークとして付されているものが多い(甲39?44)。
(ウ)ワンポイントマークに対する需要者の視認状況
本件商標や引用商標といったワンポイントマークが、特にスポーツ用品に付される場合は、スポーツの試合会場やテレビ中継、あるいはCM等を通じて需要者に看取されることが多い。それらの場面では、商標が付されたスポーツウェアやスポーツシューズ等が、スポーツ選手の動きに合わせて様々な角度や方向から視認されるため、需要者は、マークの概略的な形(シルエット)の特徴のみをもって認識することが多いといえる。
このように、両商標がワンポイントマークとして表示される場合などを考えると、ワンポイントマークは、比較的小さいものであるから、そもそも、そのような態様で付された商標の各構成部分は視認しづらい場合があるといえる。
また、マーク自体に詳細な図柄を表現することは容易であるとはいえず、スポーツシャツ等に刺繍やプリントなどを施すときは、むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹き、内側における差異が目立だなくなることが十分に考えられる。そして、本件商標は、その全体的な配置や輪郭等の基本的構成が引用商標と共通していることから、ワンポイントマークとして使用された場合などに、本件商標は、引用商標とより類似して認識されるとみるのが相当である。さらに、多数の商品が掲載されたカタログ等や、スポーツの試合観戦の場合などにおいては、その視認状況等を考慮すると、特に、外観において紛れる可能性が高くなるものといえる。
(エ)我が国における関連する裁判例
我が国における最近の知財高裁判決(平成28年(行ケ)第10262号)を踏まえ、具体的に両商標が付された商品の写真を並べて比較してみると(甲46?49)、両商標がその商品に付される位置、大きさ及び範囲は共通しており、商品全体から受ける両商標の印象が非常に似通っていることがわかる。
したがって、本件商標がその指定商品にワンポイントマークとして使用された場合、これに接した需要者(一般消費者)は、それが著名な引用商標と全体的な配置や輪郭等の基本構成が類似する図形であることに着目し、細部の形状などの差異に気付かないおそれが十分ある。
(オ)請求人が有する他のハウスマーク商標
甲第50号証ないし甲第54号証は、引用商標の外観に工夫を加えたハウスマークのバリエーションの一例であり、様々な構成態様にて表現されている。
また、甲第43号証及び甲第44号証などに見られるように、引用商標の縦横比や大きさには、様々なバリエーションが存在する。
以上のように、請求人は、ハウスマークである引用商標とその構成の軌を一つにする様々なバリエーションの商標を有しており、引用商標とその基本的構成を共通にする本件商標が、その一例として看取されることが十分考えられる。
ウ 諸外国における訴訟事件
諸外国において、請求人が提起した商標権侵害に関する訴訟事件では、請求人の有するハウスマークを含む商標と被告の有する商標とは、それらの全体的な構成が類似しており、かつ、使用される商品も同一又は類似していることから、当該訴訟の被告の行為は、請求人の商標権の侵害に該当するとされた(甲55)。
エ 小括
以上のとおり、本件商標をその指定商品に使用する場合、それが請求人の業務に係る商品(役務)であると誤認されるおそれがあるか、または、本件商標を付した商品が、請求人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品(役務)であると誤認されるおそれがあることは明らかである。

6 被請求人の不正の目的
(1)本件商標の採択の意図
主にスポーツウェア用品を製造・販売する被請求人が、本件商標の出願時において、著名な引用商標の存在を認識していなかったとは考えられず、被請求人が、引用商標の存在を知らずに、本件商標を偶然に採択し、使用しているものとは認め難い。
(2)被請求人の事業活動とその実態
本件商標に関する被請求人の事業活動を確認しようとしたところ、少なくとも2017年8月18日にはインターネットを通じてアクセス可能であった被請求人のウェブサイト(甲56)は、既に閉鎖されているかアクセスできない状態になっている(甲57)。
また、被請求人の所在地を確認するため、インターネットを通じて、公開されているアメリカ合衆国の住所を検索したところ、かかる所在地周辺の画像情報からは、事業活動の要となる製造拠点はおろか、会社の事務所用建物等も確認できない(甲58)。
さらに、請求人が、2017年7月に、文書を通じて被請求人への接触を試みたが、現時点で被請求人からの反応はない。
これらの状況に鑑みれば、被請求人の実態やその事業活動は、甚だ不透明であり、真摯に事業活動を営もうとする姿勢が見受けられないと言わざるを得ない。
(3)小括
以上からみるに、本件商標は、引用商標が持つ高い名声と信用力にただ乗り(フリーライド)する不正の目的をもって使用をするものであるといえる。

7 結び
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第10号に該当するものであり、仮に該当しないとしても、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号によりその登録が取り消されるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
1 答弁の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当しない。

2 商標の対比
(1)本件商標
本件商標は、垂直六角形を、左右に上下二つずつ縦に向けて表し、その中程には、水平六角形を、横に向け、垂直六角形との間に僅かなスペースを設けて表した構成からなり、全体として、上記5個の六角形を用いて「H」のローマ字状に図案化したものである。
そして、本件商標は、顕著に図案化したものであっても明らかに「H」であるから称呼は「エイチ」であり、観念は生じない。
(2)引用商標
引用商標は、「U」字状の弧線を、黒塗りでやや横長に左右を少しずつ幅広にしながら両端部を太く表して図案化したもの2つを、一方を上向きに、他方を下向きにして、中央部付近を交差させて横長のレンズ状となるように表してなるものであり、全体として2つの「U」字状の図形を上下対称に組み合わせて図案化したものとの印象を与えるものである。
また、引用商標は、請求人の名称のローマ字表記である「UNDER ARMOUR」の先頭の「U」と「A」を起源とした商標であることが明らかである。
そして、引用商標は、特定の文字を表してなるものとは直ちに認識できないため、称呼及び観念は生じない。
(3)両商標の類否
ア 両商標の外観
両商標の外観を対比すると、黒色の線又は図形で構成されていること、上下左右が対称であること、上下が開放していること、上下中央の左右側部外方に大きな凸状のくぼみがあることが共通しているが、
(ア)本件商標は、5個の六角形を用いて「H」のローマ字状に図案化して表されているのに対し、引用商標は、2つの「U」字状の図形を組み合わせて図案化して表されていること、
(イ)本件商標は、全体として直線を主とした構成となっているのに対し、引用商標は、全体として曲線を主とした構成となっていること、
(ウ)本件商標は、くぼみが直線で表されているのに対し、引用商標は,丸みを帯びた態様で表されていること、
(エ)本件商標は、左右が略同一の長さ(正確には僅かに縦長)に表されているのに対し、引用商標は、明らかに水平方向が長い扁平に表されていること、
(オ)本件商標は、中心部分に空白がないのに対し、引用商標は、上下の「U」字状の図形を交差させることで中心部分にレンズ状の空白が表されていること、
(力)本件商標は、四隅の先端部分が六角形の頂点により表されているのに対し、引用商標は、先端部分を幅広にして、その内側のカクを外側よりも延伸して表されていること、などの点が相違している。
これらの共通点及び相違点から検討すると、本件商標と引用商標は、視覚的印象が別異のものといえるため、対比観察のみならず、時と処を異にして離隔的に観察した場合においても、外観上、相紛れることはありえない。
イ 両商標の称呼
本件商標は、ローマ字の「H」に図案化しているため、「エイチ」という称呼を生じるが、引用商標は、文字を図案化しているものではないため、称呼を生じない。したがって、両者の称呼は比較できない。
ウ 両商標の観念
本件商標及び引用商標は、それぞれ観念を生じないため、観念について比較できない。
エ まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼及び観念については比較できず、外観における視覚的印象は別異のものというべきであるから、両商標は、同一又は類似の商品に使用された場合であっても、その商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれのない、非類似の商標といえる。

3 商標法第4条第1項第11号
前記したように、本件商標と引用商標は、非類似の商標といえるため、商標法第4条第1項第11号には該当しない。

4 商標法第4条第1項第10号
前記したように、本件商標と引用商標は、非類似の商標といえるため、商標法第4条第1項第10号には該当しない。

5 商標法第4条第1項第15号
(1)商標法第4条第1項第15号の判断基準
商標法第4条第1項第15号に該当するかどうかについては、審査基準において、ア 出願商標とその他人の標章との類似性の程度、イ その他人の標章の周知度、ウ その他人の標章が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか、エ その他人の標章がハウスマークであるか、オ 企業における多角経営の可能性、カ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性、キ 商品等の需要者の共通性その他取引の実情を総合勘案して判断すると記載されている。
(2)本件商標の判断基準に対する検討
本件商標と引用商標は、上述したように明らかに非類似であり、類似性も全くないため、前記(1)アの条件は満たさない。
請求人の請求の理由について検討すると、平成28年(行ケ)第10262号審決取消請求事件における内容を引用し、さらに本件商標と引用商標が似通っていると主張している。
しかしながら、当該判例において争われたのは、本件商標のようなローマ字一文字に図案化したような商標ではない。本件商標は、明らかにローマ字の「H」を図案化した商標であり、ぱっと見で誰しもが「H」と判断できる商標であるが、上記判例における商標は、需要者・取引者がぱっと見でどこを商標の特徴として理解するかの判断が難しい商標である。
本件商標は、需要者・取引者がぱっと見で「H」を図案化した商標と判断できるため、たとえ「商品の購入に際し、メーカ名やハウスマークなどについて常に、注意深く確認するとは限らず、小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくない」としても、引用商標と相紛れるおそれは全くない。
また、本件商標と引用商標の相違点から考察すれば、注意深く観察するまでもなく似ていないため、需要者・取引者が混同を生じるおそれはないといえる。
以上より、前記(1)アの条件は満たしていない。
同イ及びエないしカについては、請求人の主張を認める。
同ウについては、本件商標、引用商標のいずれも構成上顕著な特徴を有するといえる。
同キについては、需要者が共通するという点についてのみ請求人の主張を認めるが、本件商標と引用商標が混同を惹起させるといったその他の主張は全て否認する。
以上より、最も重要な前記(1)アの条件を満たしていない以上、需要者・取引者が混同を生じるとは到底考えられないため、商標法第4条第1項第15号には該当しないと判断するのが妥当である。
さらに、請求人は諸外国の裁判事例を証拠として引用しているが、争った商標は本件のような「H」のローマ字状に図案化したものではなく、U字状の図形を引用商標と同様に上下に並べたような商標であり、本件と同列には語れない。本件商標は、「H」を起源として図案化したものであり、諸外国の裁判事例における商標は、「H」を起源として図案化したとはいえない商標だからである。
したがって、諸外国の裁判事例を参照しても、本件商標が商標法第4条第1項第15号には該当しないと判断するのが妥当である。

6 商標法第4条第1項第19号
被請求人は、一切の不正の目的がない。本件商標は、引用商標と顕著な差異のある商標である。
被請求人は、引用商標の存在は当然のことながら認識しているが、本件商標と引用商標が明らかに非類似の商標であり、顕著な差異があることから混同を生じるおそれもまったくないと考えて本件商標を創作し、商標権を取得したものである。本件商標を使用したからといって、明らかに相違する引用商標の信用にフリーライドできるはずもなく、全く不正の目的がない。
ウェブサイトがアクセスできなくなっているという点については、乙第1号証に示すものが被請求人の現在のサイトとなる。そして、乙第2号証に示すように、現在も米国内では販売を行っている。
拠点が確認できない、接触を試みたが被請求人からの反応がない、という点は不知である。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、垂直六角形を、左右に上下二つずつ縦に向けて表し、その中程には、水平六角形を、横に向け、垂直六角形との間に僅かなスペースを設けて表した構成からなり、上記5個の六角形を用いて「H」の欧文字の構成に似た図形の印象を与えるものの、図案化が顕著であるため、これからは特定の称呼及び観念は生じない。
(2)引用商標について
引用商標は、「U」字状の弧線を、黒塗りでやや横長に左右を少しずつ幅広にしながら両端部を太く表して図案化したもの2つを、一方を上向きに、他方を下向きにして、中央部付近を内側に空隙を有する程度に交差させて表してなるものであり、全体として2つの「U」字状の図形を上下対称に組み合わせて図案化したものとの印象を与える。
そして、引用商標は、特定の文字を表してなるものとは直ちに認識できないため、称呼及び観念は生じない。
(3)本件商標と引用商標との類否について
ア 外観について
本件商標と引用商標とは、(ア)本件商標は、5個の六角形を用いて「H」の欧文字の構成に似た図形を図案化して表されているのに対し、引用商標は、2つの「U」字状の図形を組み合わせて図案化して表されていること、(イ)本件商標は、直線よりなる六角形を、直線を基調とする「H」の欧文字となるように配置された、直線を主とした構成態様であるのに対し、引用商標は、曲線を基調とする「U」字状の図形を組み合わせて表された、曲線を主とした構成態様であること、(ウ)本件商標は、略正方形にまとまりよく表されているのに対し、引用商標は、水平方向にやや延伸した横長扁平に表されていること、(エ)本件商標は、上下左右のくぼみ(空白)部分が直線的であるのに対し、引用商標は、丸みを帯びた態様で表されていること、(オ)本件商標の中心部は、水平六角形を用いて横線を表現するかのように、垂直六角形との間にスペースを設けて表され、該中心部が明瞭に看取されるのに対し、引用商標は、上下の「U」字状の図形を交差させ、その中心部が横長の楕円状の空隙を有するように表され、これにより該中心部が他の部分の存在に比してやや弱い印象になっていること、(カ)本件商標の四隅の先端部分は、六角形の一つの角を垂直に上下に向けて表されているのに対し、引用商標は、兜の鍬形様に先端部分を幅広にして、その内側の角を外側よりも延伸して表されていること、などの点において明確に相違するものである。
他方、本件商標と引用商標とは、上下左右に対称となる図形であること、黒一色で表されていること、上下左右の中央にくぼみ(空白)を有する構成であるということが共通するといい得るものの、これらの共通点が、上記相違点から特徴付けられる両商標全体の印象の違いを凌駕するものとはいえない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、その共通点を考慮してもなお、両者の全体としての印象及びそれぞれの構成要素の相違から、その視覚的印象は、別異のものというべきであるから、両商標は、対比観察した場合はもとより、時と処を異にして離隔的に観察した場合においても、外観上、相紛れることはないものである。
イ 称呼及び観念について
本件商標及び引用商標は、それぞれ称呼及び観念を生じないため、称呼及び観念について比較することができない。
ウ まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、共に特定の称呼及び観念を生じるものではなく、外観における視覚的印象は、別異のものというべきであるから、両商標は、同一又は類似の商品又は役務に使用された場合であっても、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれのない、非類似の商標というべきである。
また、本件商標と文字部分を含めた引用商標2、4、6及び7との比較においても、当然に非類似の商標というべきである。
したがって、本件商標の指定商品と引用商標1ないし8の指定商品又は指定役務とが同一又は類似であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

2 商標法第4条第1項第10号該当性について
前記1(3)のとおり、本件商標と引用商標(引用商標2、4、6及び7については、文字部分を含む。)とは非類似の商標である。
したがって、本件商標の指定商品が、引用商標が使用されている商品と同一又は類似であり、仮に引用商標が取引者、需要者の間に広く認識されていたとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。

3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用商標との類似性の程度について
本件商標と引用商標とは、前記1(3)アのとおり、それらの特徴において相違点を有するものである一方、共通点も有するものである。そこで、それらの共通点について検討するに、本件商標と引用商標とは、上下左右に対称となる図形であって、黒一色で表されている点で共通するものの、これらの共通点は、商標を識別する際に前記の相違点に比して強く印象に残る点とはいい難く、商標の構成において一般に採択され得る範囲の要素にすぎないというべきである。また、上下左右の中央にくぼみ(空白)を有する構成であるという点も共通するといい得るものの、これは、両商標の構成要素(5個の六角形又は2つの「U」字状の図形)を組み合わせる中で生じた空白であり、当該構成要素の違いからくぼみ(空白)の形状が異なることも相俟って、その共通点を高く評価することは妥当でない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、上記の共通点を考慮してもなお、両商標の前記1(3)アに挙げた相違点によって生じる両者の全体としての印象の相違及びそれぞれの構成要素の相違から、その視覚的印象は別異のものというべき類似性の程度の低いものである。
また、両商標は、共に特定の称呼及び観念を生じるものではないから、称呼及び観念によって両商標の類似性の程度がより高くなるものでもない。
したがって、両商標は、類似性の程度が低いものである。
(2)引用商標の周知著名性及び独創性の程度について
ア 引用商標の周知著名性について
請求人提出の証拠及び請求人の主張の趣旨によれば以下のとおりである。
(ア)請求人は、1996年設立のアメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアに本社を置く総合スポーツ用品メーカーである(甲10)。
(イ)引用商標は、請求人を示すハウスマークとして、創業後、20年以上にわたり継続して使用されている(請求人の主張の趣旨)。
(ウ)我が国における、請求人の業務に係る商品の2009年度の年間売上高(年間売上数量)は、約79億円(約290万ユニット(数))であり、その後の事業拡大により、2016年度の年間売上高(年間売上数量)は、約371億円(約1,370万ユニット(数))となっている(甲11及び請求人の主張の趣旨)。
(エ)主要スポーツ上場企業の全世界における2016年度の売上高は、1位のナイキが約3兆5千6百億円、2位のアディダスが約2兆3千5百億円であり、これに次いで、請求人が約5千6百億円で3位に位置している。(甲12及び請求人の主張の趣旨)。
(オ)請求人のブランド商品の日本国内取扱店舗は、量販店、専門店、直営店等を含めると、約2,000店舗に迫る。なお、その取扱商品は、店舗によって異なる(甲15及び請求人の主張の趣旨)。
(カ)請求人は、遅くとも2014年以降、スポーツイベント等における広告・宣伝活動やプロ野球チーム等とのスポンサー契約等を通じて、スポーツウェア等に引用商標を使用している(甲16、17、22、25、26及び請求人の主張の趣旨)。
以上(ア)ないし(カ)を総合して検討すると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る「スポーツウェア」等の商品(以下、「請求人商品」という。)を表示する商標として、我が国のスポーツ関連分野の取引者、需要者の間に広く認識されていたといえるものである。
イ 引用商標の独創性について
引用商標は、創作された図形からなるものであるから、一定程度の独創性があるものである。
(3)本件商標の指定商品と請求人商品の関連性の程度並びに取引者及び需要者の共通性その他取引の実情について
ア 請求人商品は、スポーツウェア等であるのに対し、本件商標の指定商品は、「被服(ただし「和服」は除く。)」等であり、これには「ジョギングパンツ,スポーツシャツ」などのスポーツ関連の商品も含まれるものであるから、スポーツ関連という限度において、両者の用途等は関連性を有するものといえ、その取引者及び需要者も共通性を有するものである。
イ ところで、請求人は、本件商標はその全体的な配置や輪郭等の基本的構成が引用商標と共通していることから、比較的小さいワンポイントマークとして使用された場合などに、本件商標は、引用商標とより類似して認識される旨主張している。
しかしながら、本件商標と引用商標とがワンポイントマークとして小さく表示されることがあるとしても、その場合、中心部が他の部分に比して細い線で表現されている引用商標にあっては、中心部の存在がやや弱く印象付けられることにより、中心部が看取され難くなり、その四隅の肉太部分が際立って強く印象付けられるのに対し、本件商標は、中心部が明瞭に看取され、同じ六角形図形の組み合わせによって全体で「H」を描く図形として認識されるものである。
したがって、本件商標と引用商標とが、ワンポイントマークとして小さく表示されたとしても、なお両商標から受ける印象は異なるというべきである。
また、請求人は、その使用に係る商標は引用商標の外観に工夫を加えたバリエーションが様々あるため、本件商標がそのバリエーションの一例と看取されると考えられる旨主張している。
しかしながら、請求人が挙げる証拠(甲50?54)に徴すれば、当該事例における商標は、引用商標における特徴、特に、「U」字状の図形を組み合わせていること、曲線を基調としていること、全体が横長扁平に表されていること、「U」字状の図形の先端部分が幅広に表されていることといった特徴点が失われておらず、これらの点は、前記1(3)アで挙げた本件商標との相違点とも共通するものである。そうすると、引用商標の実際の使用において様々なバリエーションがあったとしても、本件商標に接する者が、本件商標を引用商標と関連付けて看取するとはいい難い。
よって、請求人の主張はいずれも採用することができない。
そして、両商標におけるそれぞれの構成態様における特徴及び看者に与える印象は前記認定のとおりであり、商標の全体構成からみて、外観上明らかに相違する本件商標と引用商標とは、ワンポイントマーク等として表示された場合など、実際の使用場面を想定したとしてもなお、外観上相紛れるおそれはないというべきである。
(4)混同を生ずるおそれについて
以上によれば、引用商標が一定程度の独創性を有し、請求人商品を表示する商標としてスポーツ関連分野の取引者、需要者の間に広く認識されていたこと、スポーツ関連という限度において本件商標の指定商品と請求人商品とが関連性を有し取引者及び需要者も共通性を有することなどを踏まえても、本件商標と引用商標とが前記のとおり視覚的印象が相当程度異なるものであって、その類似性の程度が低いものであるから、本件商標権者が本件商標をその指定商品について使用をした場合、これに接する需要者が、引用商標(引用商標2、4、6及び7については、文字部分を含む。)を連想、想起することはなく、請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

4 商標法第4条第1項第19号該当性について
前記3(2)アのとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人商品を表示する商標として、我が国のスポーツ関連分野の需要者の間において、広く認識されていたものと認められる。
しかしながら、前記1(3)のとおり、本件商標は、引用商標(引用商標2、4、6及び7については、文字部分を含む。)とは、相紛れるおそれのない非類似の商標と認められるものである。
そして、請求人が提出した証拠からは、本件商標が、引用商標(引用商標2、4、6及び7については、文字部分を含む。)が持つ名声と信用力に便乗し、不正の利益を得る目的で使用されていることを具体的に示すものはなく、その他、不正の目的をもって使用をするものというべき事実も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 本件商標(登録第5924494号)


別掲2 引用商標1(登録第4701254号)


別掲3 引用商標2(登録第5033188号)


別掲4 引用商標3(登録第5119211号)


別掲5 引用商標4(登録第5154481号)


別掲6 引用商標5(登録第5277312号)


別掲7 引用商標6(登録第5294261号)


別掲8 引用商標7(登録第5510273号)


別掲9 引用商標8(登録第5850268号)




審理終結日 2019-07-10 
結審通知日 2019-07-12 
審決日 2019-07-24 
出願番号 商願2016-93470(T2016-93470) 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (W25)
T 1 11・ 261- Y (W25)
T 1 11・ 222- Y (W25)
T 1 11・ 271- Y (W25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 泉田 智宏 
特許庁審判長 木村 一弘
特許庁審判官 山田 啓之
板谷 玲子
登録日 2017-02-17 
登録番号 商標登録第5924494号(T5924494) 
商標の称呼 エッチ、エイチ 
代理人 特許業務法人深見特許事務所 
代理人 古岩 信嗣 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ