ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W20 |
---|---|
管理番号 | 1358826 |
審判番号 | 無効2017-890085 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2017-12-25 |
確定日 | 2020-01-06 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5859747号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5859747号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5859747号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成28年1月22日に登録出願,第20類「家具,ヘッドレスト(家具),ベンチ,腰掛け,安楽椅子,肘掛けいす,金属製腰掛け,長椅子,デッキチェア,幼児用ハイチェアー,ソファー,クッション,事務用家具」を指定商品として,同年6月7日に登録査定,同月17日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が,本件商標の登録の無効の理由において引用する商標は,請求人が商品「家具」(以下「使用商品」という。)について使用しているとする,別掲2のとおりの構成からなる商標(以下「引用商標1」という。),同じく,別掲3のとおりの構成からなる商標(以下「引用商標2」という。),同じく,「Yamasoro」の欧文字を横書きしてなる商標(以下「引用商標3」という。),同じく,「YAMASORO」の欧文字を横書きしてなる商標(以下「引用商標4」という。)である。 以下,引用商標1?4をまとめていうときは,「引用商標」という。 第3 請求人の主張 請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲1?26(枝番号を含む。)を提出した。 1 請求の理由 (1)請求人と引用商標について ア 請求人の歴史と事業の内容 請求人は,山本算盤店(ヤマモトソロバンテン)として昭和3年に兵庫県小野市で創業した。請求人の現在の所在地でもある兵庫県小野市は「播州そろばん」の産地であり,山本算盤店は,地盤産業であるそろばんの製造販売を主な事業内容として長年にわたり営業してきた。 山本算盤店は,昭和38年に法人化して株式会社山本算盤店として営業を続けてきたが,その後,電卓やパソコンの普及によりそろばんの需要が減少してきたことを一つの契機として,事業内容をそろばんの加工技術を活かした珠のれんの製造と販売に展開し,更に木製インテリア家具の製造販売にシフトした。 平成4年12月に社名を現在の「株式会社ヤマソロ」に変更してからは,家具の製造と卸売を中心とした事業展開に注力して現在に至る(以上について甲2の1・2)。 なお,請求人の略称である「ヤマソロ」は,請求人の旧名称「山本算盤店(ヤマモトソロバンテン)」の「ヤマ」と「ソロ」を抽出して繋ぎ合わせた造語であって,請求人が創作したものである。 近年の請求人の売上げは,右肩上がりで順調に伸びており,平成28年度は15億円を超え,家具卸売業界における売上金額は全国で38位,近畿圏(大阪・京都・兵庫・滋賀・奈良・和歌山)で12位,兵庫県では1位である(甲3)。 平成29年8月現在,請求人の販売網は全都道府県をカバーしており,家具小売店を中心とした取引先の数は,2,000店を超えている(甲4)。 イ カタログの作成・頒布と引用商標の使用について 請求人は,社名を「株式会社ヤマソロ」に変更した翌年の平成5年から引用商標2?4を表示した商品カタログ(甲5の1?20)を全国の取引先に頒布している。平成29年には上述した全国で2,000を超える取引先に引用商標1,3を表示したカタログ(甲6の1・2)を相当数頒布した。 また,請求人の商品は,引用商標1,2を表示した包装用段ボール箱(甲7)に梱包されて全国の取引先に納品されている。 ウ 「OCHITSUKI」シリーズの展開 請求人は,そろばん製造で培った技術を活かした家具の開発にも取り組み,平成22年には,そろばんの珠を用いた「ついたて」を販売して好評を得た。 この「ついたて」の製造販売に係る事業の計画は,兵庫県小野市の特産品である「そろばん」を活用した製品として,「地域資源活用促進法」に基づく事業計画として経済産業省近畿経済産業局に認定され(甲8の1?3),「播州伝統の技 家具に」や「そろばん珠で家具づくり」などの見出しの下,新聞でも紹介された(甲9の1・2)。 この「ついたて」は,多種多様なデザインが揃えられ,「OCHITSUKI」のネーミングでシリーズ展開されている。請求人は,このシリーズ商品を紹介したインターネットサイト(甲10の1)及び商品カタログ(甲10の2)にも引用商標1を表示しており,当該カタログは上述の取引先にも頒布されたので,当該シリーズ商品の展開と販促活動は,それら商品の話題性もあいまって,引用商標1の周知著名性の向上に寄与した。 エ 展示会への出展 請求人は,毎年9月初旬に東京ビッグサイトで開催される「東京インターナショナルギフトショー・秋」に出展し,引用商標1を大きく表示したパネルを設置したブースで自社の製品を展示している(甲11の1)。 平成29年9月6日から8日までの3日間,東京ビッグサイトで開催された第84回東京インターナショナルギフトショーで63平米(1区画3m×3mのブースを7区画)という大規模な展示ブースを確保して主力製品を展示し,多数の来訪者と商談を重ねた(甲11の2)。 なお,「東京インターナショナルギフトショー」は,家具を含む各種の生活雑貨や贈答品等のメーカーや小売・卸売業者が出展する我が国で最大級の展示会であって,近年は3日間の日程で開催されている。 出展する企業は国内外の約2,500社であり,会期3日間の総来場者は約20万人を超える(平成29年開催の第84回東京ギフト・ショーの実績。甲12)。 また,請求人は,毎年10月又は11月に東京ビッグサイトで開催される展示会「IFFT/インテリア ライフスタイルリビング」への出展実績もある(甲13の1)。 この展示会には,毎回400?500社ほどの企業が出展し,延べ2万人程度の来場者がある(甲13の2)。 オ 引用商標の周知著名性 以上のとおり,請求人は,平成4年12月に社名を「株式会社ヤマソロ」に変更した翌年の同5年の商品カタログから,引用商標2?4を自己の略称として,かつ,取扱商品のブランドとして使用を開始し,平成23年からは引用商標1も自己の商品ブランド及び略称に加えて,商品カクログ(甲5の1?甲6の2),商品梱包用の箱(甲7),家具や贈答品等の展示会として我が国最大規模の「東京インターナショナルギフトショー」(甲11?13)等で広く使用している。 かかる事実と併せて,請求人の我が国の家具業界の卸売金額が全国で38位,近畿圏(大阪・京都・兵庫・滋賀・奈良・和歌山)で12位,兵庫県では1位であること(甲3),全国で2,000を超える取引先(甲4)に前記カタログを頒布し,新聞で請求人の商品と請求人自身が紹介されていること(甲9の1・2)も考慮すれば,引用商標が請求人の業務に係る商品を表示するものとして我が国の家具業界において周知著名な商標となるに至っていることは明らかである。 さらに,引用商標は,請求人の略称でもあって,当該業界において「yamasoro」又は「ヤマソロ」と言えば請求人が想起されるのであるから,引用商標は,請求人の略称としても周知著名性を獲得しているものである。 (2)被請求人について 被請求人であるリ,ロン氏は,請求人から商品(主に椅子)の製造委託を受けていた中国企業(Sino International Furniture Design & Manufacture Co. , Ltd.(以下「シノファニチャー」という。))の前代表者である(甲14?16)。なお,甲14の名刺は,請求人の輸出入事業の代行事業者である有限会社MUGENクリエイティブファニチャー(以下「MUGENクリェイティブファニチャー」という。)の担当者が平成24年秋頃に中国の広州(広東省の省都)で開催された「中国輸出入商品交易会」において,被請求人から直接入手したものである。 (3)請求人と被請求人との関係について ア 取引の経緯 上述した「中国輸出入商品交易会」においてMUGENクリエイティブファニチャーの担当者と被請求人とが初めて接触した後,請求人は,MUGENクリエイティブファニチャーを通じて被請求人が代表者であったシノファニチャーとの商談を重ね,平成25年3月に最初の商品である椅子をシノファニチャーに発注するに至った(甲17)。 請求人と,被請求人が深く関与するシノファニチャーとの取引は,その後,平成29年7月まで続いた。この取引において請求人が最も腐心したのは,シノファニチャーに生産を委託した商品が日本の家具市場の需要者及び取引者が求める品質を備えるようにすることである。そのために請求人は,シノファニチャーに商品を発注する都度,商品の品質,安全性,仕上がり等を詳細に記載した品質仕様書(一例として甲19の1?6)を発注書に添付してシノファニチャーに提供し,さらに,香港企業(L. C. INDUSTRIAL(HONG KONG)LTD。(以下「L.C.工業」という。))にシノファニチャーが製造した商品の検品を委託して徹底した品質管理を行ってきた。 また,L.C.工業の検品により,シノファニチャーが委託製造した商品が請求人の求める品質を満たしていることが確認された後に速やかに輸出手続を進めることができるよう,請求人は委託製造代金の支払もL.C.工業に委託して迅速な決済を行ってきた。 なお,かかる取引において,請求人がシノファニチャーに商品を発注した回数は77回,取引金額(委託生産商品の代金)の総額は1,577,800米ドルに達する(甲20)。 イ 被請求人による本件商標の無断出願等について 上記アで説明した取引の過程において,被請求人は,請求人が日本の家具卸売業界において上位40社に含まれる規模で事業を展開していること,日本の家具市場において引用商標が請求人の周知著名な商標であること,更に「ヤマソロ」及び「Yamasoro」が請求人の著名な略称でもあることを当然に知り得たはずである。 このような状況の中,被請求人は,平成29年7月6日に請求人の本社を訪問し,日本において本件商標を取得したことを請求人に告げた。 この被請求人の告知を受け,請求人が被請求人に本件商標の譲渡しを求めたところ,被請求人は,この時にはこの要求に応じた。 しかし,その翌日の7月7日,請求人の代表者の山本一郎は被請求人から電子メール(甲21の1?3)を受け取ったところ,当該電子メールにおいて,被請求人は前日(7月6日)の合意事項である「本件商標を直ちに請求人に譲渡すること」を翻し,下記(ア)?(ク)に要約する内容を請求人に一方的に告げた。 (ア)7月6日の面談時に被請求人は本件商標の譲渡に合意した。譲渡の条件は,被請求人等が譲渡後5年間は本件商標を適法に使用することについて譲受人が同意することである。 (イ)被請求人と請求人が,本件商標の使用と本件商標を冠した商品の販売を展開した場合には相当の利益が見込まれるので,請求人とともに本件商標を使用することを提案する。 (ウ)「YAMASORO」は両者の事業の拡大に資するものなので,被請求人は請求人とともに「YAMASORO」ブランドの下で事業を展開したい。 (エ)被請求人は,中国,米国及び欧州においても,「YAMASORO」を商標登録したので,これらの国では被請求人が「YAMASORO」の名称で商品を販売することについて優先的な権利を保有している。 中国,米国及び欧州での「YAMASORO」の商標登録について怒らないでほしい。これらの国で商標登録したのは「YAMASORO」が気に入り,また山本一郎社長を敬愛しているからであって,そこには何らの画策もなく今後何らかの画策を講じることもない。「YAMASORO」の名称に関して被請求人に悪だくみの意図は全くない。 (オ)以上を最優先事項として伝える理由は,以下のとおり。 a 被請求人は2週間以内に日本で販売予定の椅子を保有しており,それらは数日以内に出荷予定であるので時間がない。ところがその椅子は「YAMASORO」ブランドを冠するものである。このような事情で,被請求人の提案で合意できれば,その椅子を請求人の倉庫に直送でき,その売上げを分け合える。 b 昨日,山本一郎社長は,商標「YAMASORO」の新たな権利者(となることについての検討)が最優先かつ重要な事項と考えて苦慮していたので,この点について山本一郎社長に納得してもらえるように説明した。また,今回の被請求人の申し入れについて真剣に考えてほしい。 (カ)ビジネスチャンスは我々の目の前にある。今後の展望もこれ以上ないほど明確である。我々が組めば輝かしい未来が待っている。被請求人は「YAMASORO」の名称を最終的に請求人に返還することを約束する。一方で今後数年間は「YAMASORO」をより価値のあるものにするために協力したい。 (キ)「YAMASORO」を冠した椅子の販売に伴う配当金については必要なら後日詳細を説明する。 (ク)被請求人が日本を離れる前に今後の事業展開について話し合う機会が欲しい。この幸運を今後2?3年維持できれば,我々は日本のオフィス向け椅子の市場で確固たる地位を確保できる。 上記(ア)?(ク)にまとめた被請求人の言い分は,要するに,請求人に無断で出願した本件商標の存在を奇貨として請求人に取引を要求する内容であり,本件商標の出願自体が不正の目的をもってなされたものであることの証左にほかならないものである。 請求人は,当時はまだ被請求人との信頼関係の回復に僅かな期待を持っていたので,その後も本件商標の権利の帰属及び被請求人が日本に出荷しようとしていた椅子の販売などについて電子メールによる交渉を続け,平成29年9月には中国の上海で開催された上海浦東家具展示会の会場での直接の話合いを申し入れるなど,両者の関係の修復のための努力を尽くしてきた。 しかし,被請求人は,これに応じることなく,それどころか,請求人のインターネット通販サイト「A la mode楽天店」(https://www.rakuten.ne. jp/gold/alamode/)の店舗レビューに誹誇中傷の類のコメントを投稿して,請求人のインターネット通販事業の円滑な運営に支障を与えたのである。 (4)商標「YAMASORO」が使用された椅子の販売について 上記(3)イ(オ)aのとおり,被請求人は,商標「YAMASORO」を冠した椅子の日本市場での販売を計画していた。 請求人は,その計画の中止を被請求人に求めたが,被請求人はこれに応じることなく,その計画を実行に移した。 請求人が平成29年7月中旬に確認したところ,インターネットの通販サイト「Amazon」において,商標「YAMASORO」が使用された商品「椅子」が販売されていた(甲22の1・2)。 請求人がそれらを実際に購入して調べたところ,いずれの椅子にも,背もたれの裏側部分に引用商標1をそっくりそのままコピーした商標が表示されていることが確認され,また,これらの椅子の包装用箱には商標「YAMASORO」が大きく表示されていた(甲23の1?4)。 なお,これらの椅子が被請求人又は同人と密接な関係を有する中国企業が製造と販売に関わったことは,以下の事実から容易に推認できる。 すなわち,被請求人は中国企業(Zhejiang Haimanmile Furniture Co. , Ltd.(以下「浙江ハーマンマイル家具」という。))の出資者でもあり(甲24),浙江ハーマンマイル家具が発行した「BEST CHAIR CHOICE 2017」と題する商品カタログ(甲25)の裏表紙の下部には,同社の名称(英語表記)と電子メールアドレス「info@sinochairs.com」が記載されている。 なお,この電子メールアドレスは,当該カタログの各ページ番号の横にも記載されており,そのドメインは,被請求人の名刺(甲14)に明記される同人の連絡先メールアドレスと同じ「@sinochairs.com」である。 当該カタログには,甲23の1?4で確認できる3脚の椅子と同一デザインの椅子がそれぞれ掲載されている。 また,平成29年10月5日現在,インターネットの通販サイト「Amazon」では商標「yamasoro」が使用された椅子が販売されているが(甲26の1・2),これらの商品と同一デザインの椅子が浙江ハーマンマイル家具の商品カタログ(甲25)に掲載されている。 ちなみに,被請求人が出資する浙江ハーマンマイル家具のカタログ(甲25)に掲載されている椅子の一部は,商標「yamasoro」が付されただけで,前記カタログに掲載される参考価格の10倍を超える価格が付けられて日本で販売されている。 すなわち,甲26の1の椅子のAmazonにおける販売価格は189,667円であるが,甲25の28頁に掲載されている同一デザインの椅子(品番:2528)の参考価格は109.50米ドル(平成29年10月5日の為替換算で約12,200円)であり,また甲26の2の椅子の販売価格は181,093円であるが,同カタログにおける参考価格は116.50米ドル(同約13,100円)である。 商標「yamasoro」が我が国において極めて高い信用力と財産的価値を備えているからこそ,前記の椅子(甲26の1・2)は製造メーカーが提示する価格の10倍近い価格で販売されているのであって,かかる事実は,当該各椅子に付された商標「yamasoro」と実質的に同一である引用商標が極めて高い信用力と財産的価値を備えていることの証左にほかならないものである。 以上を要するに,被請求人は,我が国の家具市場において引用商標が,高い信用力と財産的価値を備えた周知著名商標であって,同時に,請求人の著名な略称でもあることも十分に認識しながら,本件商標を第20類の商品「家具,ヘッドレスト(家具),ベンチ,腰掛け,安楽椅子,肘掛けいす,金属製腰掛け,長椅子,デッキチェア,幼児用ハイチェアー,ソファー,クッション,事務用家具」について出願し,本件商標の商標登録を受けたのである。 ゆえに,本件商標は,以下に述べる無効理由を内包する。 (5)商標法4条1項19号該当性について 引用商標は,請求人の旧名称である「株式会社山本算盤店」の略称「山本算盤店(ヤマモトソロバンテン)」に由来する造語商標であり,請求人は,これらを平成4年12月以降から(引用商標1については同23年から)我が国において継続的に広く使用してきた(甲2の1?甲13)。 そして,その使用の結果,引用商標は,我が国の家具業界において,卸売の売上金額が上位40位以内であって関西で有数の(兵庫県では最大手の)家具卸売事業者である請求人(甲3)の業務に係る商品を表示するものとして,家具業界の需要者及び事業者の間において広く知られる商標となるに至った。 そして,「yamasoro」のローマ字を含む本件商標からは,引用商標と同一の称呼「ヤマソロ」が生じ,当該ローマ字部分は請求人の著名な略称でもあるので,この部分より請求人(の業務に係る商品)が想起される。 したがって,本件商標は,引用商標と類似の商標である。 さらに,被請求人は,請求人と取引関係のあった中国企業の前代表者であり,請求人の事業内容や引用商標の周知著名性及びその財産的価値を知り,「yamasoro」を含む商標を請求人に無断で出願して商標登録を得たことについて「どうか怒らないでほしい」と請求人に伝え,さらに本件商標を奇貨として請求人に取引を要求した(甲21の1)。 加えて,被請求人が関与する中国企業は,我が国において,引用商標1をそっくりそのままコピーした商標を表示した椅子の販売した(甲23)。 以上の事実は,被請求人が不正の利益を得る目的で本件商標を使用している証左にほかならないものである。 よって,本件商標は,商標法4条1項19号に該当する。 (6)商標法4条1項10号該当性について 上述のとおり,本件商標は,我が国の家具業界において広く知られた引用商標と類似の商標であり,引用商標が使用される商品「家具」等と同一又は類似の商品について使用するものである。 よって,本件商標は,商標法4条1項10号に該当する。 (7)商標法4条1項7号該当性について 本件商標は,請求人の著名な略称を含むものであるところ,請求人と取引関係にあった中国企業の代表者であった被請求人により出願され,商標登録を受けたものであって,我が国では,被請求人が関係する中国企業が製造した椅子が,引用商標と同一又は類似の商標「yamasoro」が付されただけで,カタログに掲載される参考価格の10倍以上で取引されている(甲26の1・2)。 そして,本件商標は,請求人の周知著名商標であり,かつ,請求人の著名な略称でもある「yamasoro」のローマ字を含むものである。 これより,本件商標は,引用商標の顧客吸引力にただ乗りする目的で出願されたものであって,かかる出願行為は社会一般の道徳に反し公正な取引秩序を乱すものにほかならないものである。 よって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当する。 (8)商標法4条1項8号該当性について 引用商標1,3,4は,請求人の略称としても広く使用され,その結果,我が国の家具業界においては,「yamasoro」といえば請求人が直ちに想起されるようになった。 すなわち,引用商標は,請求人の周知著名な商標であると同時に,請求人の著名な略称でもあるのである。 そして,本件商標は,この著名な略称(yamasoro)を含むものである。 さらに,請求人は,被請求人に対して本件商標の出願など承諾していない。 よって,本件商標は,商標法4条1項8号に該当する。 2 結語 以上のとおり,本件商標の商標登録は,商標法4条1項19号,同項10号,同項7号及び同項8号に違反してされたものであるから,同法46条1項により,その登録を無効とすべきである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は,請求人の主張に対して何ら答弁していない。 第5 当審の判断 1 引用商標の周知性について 証拠及び請求人の主張によれば,以下の事実を認めることができる。 (1)請求人は,昭和3年にそろばんを製造する「山本算盤店」として兵庫県小野市で創業し,昭和38年に法人化して「株式会社山本算盤店」として営業を続けてきたが,その後,平成5年に社名を「株式会社ヤマソロ」に変更し,家具の製造と卸売を中心に事業を進めてきた(甲2の1・2)。 なお,請求人の主張によれば,請求人の略称である「ヤマソロ」は,請求人の旧名称「山本算盤店(ヤマモトソロバンテン)」の「ヤマ」と「ソロ」を抽出して繋ぎ合わせた造語であって,請求人が創作したものである。 (2)請求人の売上高は,平成22年5月期で10億円を超え,その後も売上げを伸ばし,同26年度5月期及び同27年度5月期でいずれも13億円を超え,また,同28年度5月期で15億円を超え,さらに,同29年5月期で17億円を超えている(甲2の1)。同28年1月?12月の決算数字を基にした家具卸売業売上高ランキングにおいて,請求人は,全国で38位,近畿圏(大阪・京都・兵庫・滋賀・奈良・和歌山)で12位,兵庫県では1位であり,前年からの売上伸び率は13%を超えている(甲3)。 そして,平成29年12月5日現在で,請求人の取引先は,全都道府県に存在しており,取引先の数も2,000店を超えている(甲4)。 (3)請求人は,平成5年(1993年)から引用商標2?4を表示した商品カタログ(甲5の1?20)を作成し,全国の取引先に頒布し,同29年(2017年)には全国で2,000を超える取引先(甲4)に引用商標1及び3を表示したカタログ(甲6の1・2)を作成し,頒布した。 また,請求人の商品は,引用商標1,2を表示した包装用段ボール箱(甲7)に梱包されて全国の取引先に納品されていることがうかがえる。 (4)請求人は,平成22年に,そろばんの珠を用いた「ついたて」を販売しており,この「ついたて」の製造販売に係る事業の計画は,兵庫県小野市の特産品である「そろばん」を活用した製品として「地域資源活用促進法」に基づく事業計画として経済産業省近畿経済産業局に認定され(甲8の1?3),また,「播州伝統の技 家具に」や「そろばん珠で家具づくり」などの見出しの下,新聞でも紹介された(甲9の1・2)。 (5)請求人は,遅くとも平成22年(2010年)以降,毎年9月初旬に東京ビッグサイトで開催される「東京インターナショナルギフトショー・秋」に出展し,引用商標1を大きく表示したパネルを設置したブースで自社の製品を展示してきており(甲11の1),同29年(2017年)も9月6日から8日の3日間東京ビッグサイトで開催された第84回東京インターナショナルギフトショーにおいても主力製品を展示した(甲11の2)。 当該「東京インターナショナルギフトショー」は,家具を含む各種の生活雑貨や贈答品等のメーカーや小売・卸売業者が出展する我が国で最大級の展示会であって,3日間の日程で開催されており,会期3日間における全国からの総来場者数(平成28年秋)は延べ約19万人に及ぶ(甲12)。 また,請求人は,毎年10月又は11月に東京ビッグサイトで開催される展示会「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」へも同様のスタイルで出展している(甲13の1)。 この展示会には毎回400?500社ほどの企業が出展し,平成28年11月開催では延べ2万人を超える来場者があった(甲13の2)。 (6)小括 上記(1)?(5)によれば,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,少なくとも兵庫県を中心とする近畿圏において,請求人の業務に係る使用商品についての出所を表す商標として,需要者の間に広く認識されている商標となっていたと認めるのが相当である。 2 本件商標の商標法4条1項10号該当性について (1)本件商標と引用商標の類否 ア 外観について 本件商標は,別掲1のとおり,簡体字風に表された文字と「yamasoro」の欧文字を上下二段に横書きしてなるところ,その外観についてみると,下段の欧文字部分は,その上段の文字部分の読みをローマ字表記したものとは理解できず,両者とも相互に関連を有しない造語からなるものと認識されるとみるのが相当であるから,それぞれが独立して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部に当たるものと判断することができる。 したがって,本件商標は,その要部の一である「yamasoro」の欧文字部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるものである。 他方,引用商標は,デザイン化された欧文字の「YAMASORO」,片仮名の「ヤマソロ」,欧文字の「Yamasoro」又は「YAMASORO」を横書きしてなるものである。 イ 称呼について 本件商標の要部と認められる「yamasoro」の欧文字部分は,その構成文字に相応し「ヤマソロ」の称呼が生じるものである。 他方,引用商標は,「ヤマソロ」,「Yamasoro」又は「YAMASORO」の文字からなるものであるから,いずれも「ヤマソロ」の称呼が生ずるものである。 ウ 観念について 本件商標の「yamasoro」の欧文字部分及び引用商標の「ヤマソロ」,「Yamasoro」又は「YAMASORO」の文字は,我が国で親しまれた成語とはいえないことから,両者からは特定の観念は生じないというべきである。 エ 対比 本件商標の「yamasoro」の欧文字部分は,引用商標1,3及び4とは,そのつづりを共通にするものであるから,近似する外観を呈するということができるが,引用商標2とは外観が相違する。 また,本件商標の「yamasoro」の欧文字部分と引用商標は,共に称呼が「ヤマソロ」で同一であるが,観念については,両者共に特定の観念を生じないものであるから,これを比較することはできない。 そうすると,本件商標の「yamasoro」の欧文字部分と引用商標とは,観念において比較することができないものの,称呼が同一であって,本件商標の欧文字部分と引用商標1,3及び4とは外観も近似するから,互いに類似する商標と認められる。 したがって,本件商標と引用商標とは,互いに類似する商標であるといえる。 (2)商品の類否について 引用商標の取扱商品は「家具」であるから,本件商標の指定商品とは同一又は類似の商品と認められる。 (3)小括 以上によれば,本件商標は,他人の業務に係る商品「家具」を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標と類似する商標であって,その商品と同一又は類似する商品について使用する商標と認めることができる。 したがって,本件商標は,商標法4条1項10号に該当する。 3 むすび 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法4条1項10号に違反してされたものであるから,請求人のその余の主張について判断するまでもなく,同法46条1項1号により無効とすべきである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標)![]() 別掲2(引用商標1) ![]() 別掲3(引用商標2) ![]() |
審理終結日 | 2019-02-26 |
結審通知日 | 2019-02-28 |
審決日 | 2019-03-12 |
出願番号 | 商願2016-6420(T2016-6420) |
審決分類 |
T
1
11・
25-
Z
(W20)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 泉田 智宏 |
特許庁審判長 |
小出 浩子 |
特許庁審判官 |
田村 正明 平澤 芳行 |
登録日 | 2016-06-17 |
登録番号 | 商標登録第5859747号(T5859747) |
商標の称呼 | アバジュー、アマジュー、ヤマソロ |
代理人 | 特許業務法人 有古特許事務所 |