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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2018890085 | 審決 | 商標 |
無効2019890038 | 審決 | 商標 |
無効2020890039 | 審決 | 商標 |
無効2018890038 | 審決 | 商標 |
無効2018890005 | 審決 | 商標 |
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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11 審判 全部無効 商4条1項14号 種苗法による登録名称と同一又は類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11 |
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管理番号 | 1358696 |
審判番号 | 無効2019-890004 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2019-01-25 |
確定日 | 2019-12-20 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5997141号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5997141号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5997141号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成よりなり,平成29年3月21日に登録出願,第11類「使い捨てカイロ,あんか,懐炉,懐炉灰,湯たんぽ,温気暖房装置,電気足温器,電気カーペット,加湿器,ストーブ(暖房装置),電気ストーブ,石油ストーブ,ストーブ類(電気式のものを除く。)」を指定商品として,同年10月26日に登録査定,同年11月17日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が引用する商標は次のとおりであり,いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。以下,これらをまとめて「引用商標」という場合がある。 (1)登録第5540074号商標(以下「引用商標1」という。) ・商標の構成:別掲2のとおり ・登録出願日:平成24年3月28日 ・設定登録日:平成24年11月30日 ・指定商品及び指定役務:第3類ないし第5類,第9類,第11類,第12類,第14類,第18類,第20類,第21類,第24類ないし第33類,第35類,第36類,第39類及び第41類ないし第45類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務 (2)登録第5540075号商標(以下「引用商標2」という。) ・商標の構成:「くまモン」(標準文字) ・登録出願日:平成24年3月28日 ・設定登録日:平成24年11月30日 ・指定商品及び指定役務:第3類ないし第5類,第9類,第11類,第12類,第14類,第18類,第20類,第21類,第24類ないし第33類,第35類,第36類,第39類及び第41類ないし第45類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務 第3 請求人の主張 請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第23号証を提出した。 1 無効理由 本件商標は,商標法第4条第1項第6号,同項第7号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項の規定により無効にすべきものである。 2 前提となる事実関係について (1)引用商標の公益性について 引用商標は,請求人である熊本県が所有し,2011年(平成23年)3月12日の九州新幹線全線開業を記念して創作され,その後も熊本県のシンボル的なマスコットキャラクターとして,様々な分野において使用された結果,熊本県を象徴する,いわゆるご当地キャラクターとしての確固たる地位を獲得している(甲5?甲7)。 引用商標は,請求人の熊本県の地方自治体としての活動を象徴するものであって,公益性が極めて高いといえる。 (2)引用商標の著名性について ア 「くまモン」は,その覚えやすいネーミングと,大きな白目と真っ赤な頬を持つ黒い熊のキャラクターというシンプルなデザインながらも,どこか間の抜けたような愛嬌のある風貌の親しみやすさから,2010年(平成22年)3月の誕生以降,瞬く間に人気となり,2011年11月に開催された,ゆるキャラグランプリで1位を獲得する程,著名となった(甲8)。 イ 「くまモン」の名称及びキャラクターは,熊本県のPRに繋がることから,請求人の許諾を得れば,何人も原則無償で使用することができるよう,そのライセンスを第三者に対して広く開放している。そのため,「くまモン」を使用したグッズは,衣類,食品,化粧品,雑貨と様々な分野で幅広く展開されている。2017年(平成29年)には「くまモン」の名称及びキャラクターを使用した商品(以下「くまモングッズ」という。)は1408億円以上の売上高を記録した(甲9)。くまモングッズは,2011年(平成23年)以降6年連続で右肩上がりにその売上げを伸ばしており,累計売上げ5108億円を誇っていることからも(甲9),「くまモン」が著名であって,顧客吸引力を発揮する状態にあり,「くまモン」を使用することの経済的効果が極めて高いことは明らかである。 ウ 「くまモン」の人気は日本国内のみに留まらず,海外にまで波及している。特に,中国,香港,台湾といった中国語圏の国では,「くまモン」は「熊本熊」の愛称で呼ばれており,かかる「熊本熊」の標章も広く一般に浸透している(甲10?甲14)。 エ 「熊本熊」が「くまモン」の一般的な中国語表記として認識されていることは,日本国内においても多く報じられている(甲15?甲18)。 オ 2016年(平成28年)10月に日本リサーチセンターが実施した全国ご当地キャラクターの認知度及び好感度調査では,「くまモン」が両指標において1位を獲得した(甲23)。 カ 以上よりすると,引用商標は,本件商標の登録出願前から,熊本県を象徴するマスコットキャラクターとして周知著名性を獲得していた。 (3)本件商標と引用商標との類否について ア 上記のとおり,請求人が商標権を保有する熊本県のPR用マスコットキャラクターに係る名称「くまモン」及び引用商標1が日本国内において著名な標章として認識されるに至っていることはもちろん,「熊本熊」なる文字が,当該キャラクターを示す一般的な中国語表記であることについても,相当の程度認知されている事実がある。 そうすると,本件商標中「熊本熊」なる文字から,取引需要者をして「くまモン」と同一又は類似の観念を想起させる。本件商標の構成においても,「熊本熊」の文字部分は,本件商標の約半分の要素を占める大きさで表示されており,かつ,赤字の目立つフォントにて示されていることから,本件商標を看取した取引需要者は,本件商標「熊本熊」と引用商標「くまモン」とが互いに関連性のあるものとして認識するのは当然であり,本件商標は引用商標との関係において,出所の誤認又は混同を生じさせるおそれがある。すなわち,「熊本熊」は著名標章「くまモン」に類似する標章である。 イ 本件商標は,その構成要素に黒色の熊のキャラクターの図を含むところ,かかる図形要素も,請求人が使用する著名な引用商標1と,黒色の熊のキャラクターであって,目と口周りに白色の色彩が施されており,真っ赤な丸い頬を有するという点において著しく共通している。この点も相まって,本件商標を目にした取引需要者が,引用商標と誤認混同する蓋然性が極めて高いといえる。 本件商標に係る熊のキャラクターの図は,その表情とポーズにおいて,引用商標に係るキャラクターの図と差異を有する。しかしながら,一般的にキャラクターとは,その表情やポーズが様々に変化するものである。「くまモン」も,甲第19号証に示すように様々な表情やポーズで表されるが,すべて「くまモン」として認識されている。言い換えると,「くまモン」の際立った特徴は,黒色の熊のキャラクターであって,目とロ周りに白色の色彩が施されており,真っ赤な丸い頬を有するという点であって,この特徴を備えた場合には,たとえ表情やポーズが様々であったとしても,需要者は特定の特徴から「くまモン」の観念を想起するといえる。 そうすると,著名な引用商標「くまモン」の際立った特徴である黒色の熊のキャラクターであって,目と口周りに白色の色彩が施されており,真っ赤な丸い頬を有ずるという点を共にする本件商標に接した取引需要者は,本件商標に係るキャラクターの図形を「くまモン」と認識する。 したがって,本件商標からは,「くまモン」の称呼が生ずるとともに,「くまモン」の観念をも想起させるものであって,本件商標と引用商標は類似する(甲20)。 (4)本件商標の登録出願に係る不正の目的について 本件商標は,著名な引用商標に化体された信用,名声及び顧客吸引力にただ乗りすることを目的として,登録出願されたものである。 被請求人であるユニーク デザイン カンパニーリミテッドは,中央アメリカのベリーズにその所在地を有する会社であり,本件商標を含む多数の商標登録出願を行っている。 被請求人が日本国内において,本件商標を含む登録商標を使用している事実は確認できないが,台湾法人である台湾優生股ふん有限公司が,日本製と謳われた哺乳瓶やカイロに被請求人が所有する本件商標と同一の図形部分を含む登録商標と実質的に同一の標章を付して,台湾等で販売している事実が確認された(甲21,甲22)。 そうすると,引用商標がアジアを中心とする日本国内外において著名であって,「くまモン」を表す中国語として「熊本熊」が一般的に広く浸透している点に鑑みると,被請求人が善意で偶然に本件商標を採択したとは到底考え難く,引用商標に化体した業務上の信用や顧客吸引力にフリーライドすることを目的として,不正の目的をもって,本件商標に係る商標登録出願をしたと判断するべきである。 3 商標法第4条第1項第6号について 引用商標の所有者は我が国の都道府県たる熊本県であるから,商標法第4条第1項第6号に規定の「地方公共団体」に該当する。また,引用商標は熊本県を象徴するご当地キャラクターであって,同県のPR活動のみならず,地方創生イベントへの地方自治体の代表としての参加や災害復興支援等といった公益的な活動において幅広く使用されており,熊本県を想起させるシンボルマークとして十分に機能していることから,引用商標は,商標法第4条第1項第6号に規定の「国若しくは地方公共団体・・を表示する標章」に該当する。さらに,上記2(2)のとおり,引用商標は,全国的に著名であることは明らかであるため,商標法第4条第1項第6号に規定の「著名なもの」に該当する。そして,上記2(3)のとおり,本件商標と引用商標とは類似するものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第6号に該当する。 4 商標法第4条第1項第7号について 上記2(2)のとおり,請求人の所有する引用商標は,熊本県を象徴するマスコットキャラクターとして,幅広い分野で使用された結果,著名となっている。また,本件商標は,その構成中に著名な引用商標「くまモン」の一般的な中国語表記である「熊本熊」を含み,かつ,くまモンのキャラクターの図に似通った黒色の熊のキャラクターの図も含むものであるため,引用商標に類似するものである。さらに,請求人が被請求人に対して,引用商標に係る使用許諾を与えた事実は存在せず,被請求人が請求人に無断で,引用商標の著名性にあやかって,それと類似の商標を取得したといえる。 そうすると,本件商標を,熊本県と何ら関係のない披請求人が自己の登録商標として使用することは,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものと考えるのが妥当である。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。 5 商標法第4条第1項第15号について 上記2(2)のとおり,請求人の所有する引用商標は,熊本県を象徴するマスコットキャラクターとして,本件商標の登録出願前から周知著名性を獲得していた。 そうすると,本件商標をその指定商品に使用するときは,その商品があたかも請求人である熊本県又は同県と組織的若しくは経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれがある。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 6 商標法第4条第1項第19号について (1)上記2(2)のとおり,請求人の所有する引用商標は,熊本県を象徴するマスコットキャラクターとして,本件商標の登録出願前から周知著名性を獲得していた。 (2)上記(1)のとおり,引用商標は日本国内において著名であることから,引用商標には高い業務上の信頼が化体しており,引用商標は顧客吸引力を発揮する状態にあることは明らかである。その信頼及び経済効果にフリーライドし,請求人が利益を得ようとすることは,著名である引用商標の出所表示機能を希釈化させ,その名声を毀損するものであるから,本件商標は不正の目的をもって登録され,使用されるものであると考えるのが相当である。 さらに,引用商標の人気は日本国内にとどまらず,特にアジアを中心とした海外における需要者の間にも広く認識されており,中国,香港,台湾といった中国語圏の国においては,引用商標「くまモン」は「熊本熊」として知られている。 被請求人は,中央アメリカのベリーズにその所在地を有する会社であるところ,上記2(4)のとおり,被請求人が所有する本件商標とは別の登録商標について,台湾法人である台湾優生股ふん有限公司が使用をしている事実(甲21,甲22)が確認されたことに鑑みると,被請求人が中華系の企業と何らかの繋がりを有することは容易に想像できる。 そうすると,被請求人が本件商標を採択するにあたり,偶然に著名な引用商標「くまモン」の一般的な中国語表記である「熊本熊」を選択したとは考え難く,むしろ,本件商標は,引用商標の著名性を利用して不正の利益を得る等の目的をもって使用をするものと推認することが妥当である。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。 7 商標法第4条第1項第11号について 本件商標は,「熊本熊」の文字と黒色の熊のキャラクターの図からなるものであるところ,それぞれの構成要素はほぼ同じ大きさを占めるものであって,分離して観察することが取引上不自然であるとはいい難い。 それぞれの構成要素のうち,「熊本熊」の文字については,上述のとおり,著名な引用商標「くまモン」を表す一般的な中国語表記であることが,日本国内においても相当の程度知られていることから,本件商標を看取した取引需要者が,著名な引用商標と同一又は類似の観念を想起させると考えられる。 両商標は,称呼及び外観における差異点は有するものの,観念同一による印象を凌駕するものではない。 さらに,黒色の熊のキャラクターについては,黒色の熊であって,目と口周りに白色の色彩が施されており,真っ赤な丸い頬を有するという点において,著名な引用商標の際立った特徴をすべて具備していることから,やはり本件商標を看取した取引需要者が,著名な引用商標と同一又は類似の観念を想起する。 そうすると,請求人に係る引用商標1及び引用商標2のいずれか一方若しくは両方との関係において,本件商標を目にした取引需要者が,出所の誤認混同をする蓋然性が極めて高いといえるため,本件商標と引用商標とは類似する。 そして,本件商標の指定商品中の「温気暖房装置,電気足温器,電気カーペット,加湿器,ストーブ(暖房装置),電気ストーブ,石油ストーブ,ストーブ類(電気式のものを除く。)」は,引用商標の指定商品中の第11類「家庭用電熱用品類,ストーブ類(電気式のものを除く。)」及び第35類「電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と同一又は類似の商品である。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。 第4 被請求人の答弁 被請求人は,請求人の主張に対して答弁していない。 第5 当審の判断 当審は,無効理由を検討したところ,商標法第4条第1項第15号のみに理由があると判断する。商標法第4条第1項第15号についての判断の理由は以下のとおりである。 1 請求人の使用に係る標章の周知性及び独創性の程度について (1)請求人の提出に係る証拠(甲1?甲23)及びその主張によれば,次の事実が認められる。 ア 請求人である熊本県は,2011年(平成23年)3月12日の九州新幹線全線開業を記念して,「くまモン」と称する,体全体が黒色で,両ほっぺが丸く赤く,口の周りが白く,耳が丸い熊をモチーフとしたキャラクターを創作し,当該キャラクターを熊本県のマスコットキャラクターとして使用している(以下,請求人が使用する「くまモン」と称する上記特徴を有する熊本県のマスコットキャラクターを表すイラストを「請求人使用標章」という。)(甲2ほか)。 イ 2015年(平成27年)5月31日に行われた「地方創生フォーラム」においては,移住の受入れを行う側である地方自治体を代表して,請求人使用標章からなる着ぐるみが,「熊本県の人気ゆるキャラ『くまモン』」として登場したところ,そのことが,インターネット上のニュース記事(同年6月1日付け)において,石破地方創世担当大臣(当時)と当該「くまモン」とが一緒に写った写真とともに,報道された(甲5)。 ウ 2016年(平成28年)4月に発生した熊本地震の後には,その復興支援のシンボルとして,同年に「くまモン募金箱実行委員会」が設立され,2018年(平成30年)12月14日の時点で,約15万人から5800万円を超える寄付金を集めたところ,当該委員会の活動に係るウェブサイトである「くまモン募金箱」には,「お問い合わせ」や,「くまモン4コママンガ」等の項に,請求人使用標章が顕著に掲載されている(甲6)。 エ 請求人使用標章を使用したキャラクターは,2011年(平成23年)11月に開催された「ゆるキャラグランプリ2011ゆるキャラランキング」で,第1位を獲得した(甲8)。 オ 「くまモン」の名称及び請求人使用標章は,熊本県の許諾を得れば,何人も原則無償で使用することができるよう,熊本県が,そのライセンスを第三者に対して広く開放している(請求人主張)。 そして,「くまモン」の名称及び請求人使用標章を使用した商品は,2011年(平成23年)以降6年連続でその売上げを伸ばしており,2017年(平成29年)には1408億円以上の売上高(前年比10%増)を記録したところ,同年の売上高の内訳は,食品が1195億円(前年比9%増),グッズなどが213億円(前年比15%増)であり,また,2011年(平成23年)から同年までの「くまモン」の名称及び請求人使用標章を使用した商品全体の累計売上高は5108億円である(甲9)。 カ 2016年(平成28年)10月に日本リサーチセンターが,全国の15歳ないし79歳の男女1200名を対象に実施した「第3回NRC全国キャラクター調査【Part1:ご当地キャラクター編】」において,請求人使用標章を使用したキャラクターは,同年のご当地キャラクターの認知度ランキング及び好感度ランキングのいずれにおいても,第1位を獲得し,当該キャラクターの認知度は,2015年(平成27年)及び2016年(平成28年)のいずれにおいても,93%(ランキング第1位)である(甲23)。 キ 中国,香港,台湾といった中国語圏の国では,「熊本熊」の文字が請求人使用標章を使用したキャラクターを指称する中国語表記として使用され,認識されているとされ(甲10,甲11),我が国の新聞記事(「毎日新聞」平成28年5月11日付け東京朝刊)においても,「『熊本熊(くまモン)』描く思い 上海支局・林哲平」,「熊本地震は中国でも大きな関心を呼び,インターネット上には『熊本熊』(くまモンの中国語名)と,そのそばで気遣うパンダのさまざまなイラストがあふれた。」のように報道された(甲15)。 (2)上記(1)アないしカの事実によれば,請求人である熊本県は,2011年(平成23年)3月に請求人使用標章を創作し,熊本県のマスコットキャラクターとして使用しているところ,請求人使用標章は,2011年(平成23年)に開催された「ゆるキャラグランプリ2011ゆるキャラランキング」で,請求人使用標章を使用したキャラクターが,第1位を獲得したこと,2015年(平成27年)に行われた「地方創世フォーラム」において,移住の受入れを行う側である地方自治体を代表したキャラクターとして使用され,2016年(平成28年)の熊本地震の後には,約15万人から寄付金を集めた復興支援事業のシンボル的なキャラクターとしても使用されたこと,同年に実施された全国のご当地キャラクターの調査では,請求人使用標章を使用したキャラクターが,認知度及び好感度のいずれにおいてもランキング第1位を獲得し,その認知度は,2015年(平成27年)及び2016年(平成28年)において,93%という高い割合であったこと,「くまモングッズ」は,請求人使用標章が創作された2011年(平成23年)以降,6年連続でその売上げを伸ばしており,2017年(平成29年)には1408億円以上の売上高(前年比10%増)を記録したこと等から,請求人使用標章は,熊本県のマスコットキャラクターとして,様々なイベント活動や,様々な分野の商品に使用され,我が国の多数の取引者,需要者の目に触れてきたことが認められる。 そうすると,請求人使用標章は,本件商標の登録出願時及び登録査定日の時点において,「くまモン」と称する請求人である熊本県に係る熊をモチーフとしたマスコットキャラクターとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識され,全国的に著名となっていたものと判断するのが相当である。 そして,上記(1)キによれば,「熊本熊」の文字が,中国語圏の国において,請求人使用標章の名称である「くまモン」を表す語として使用され,認識されていることは,我が国の需要者の間においても,ある程度認識されていたということができる。 また,請求人使用標章は,体全体が黒色で,両ほっぺが丸く赤く,口の周りが白く,耳が丸い熊をモチーフとしていることなど特徴的な態様を有するものであるから,独創性の程度は高いといえる。 2 本件商標と請求人使用標章との類似性の程度について (1)本件商標は,別掲1のとおり,赤色の楕円形の上部に白抜きで「熊本熊」の文字を書し,その右側に図形(以下「本件商標図形部分」という。)を配してなるところ,本件商標図形部分は,体全体が黒色で,両ほっぺが丸く赤く,口の周りが白く,赤いマフラーを巻いた耳が丸い熊をモチーフとしたものであって,子細にみると,熊の耳の内側はピンク色で,口から舌を出し,目がやや右上を向いているものである。 そして,本件商標は,その構成上,「熊本熊」の文字部分と本件商標図形部分とは,それぞれが視覚上分離して看取されるものであるから,両者を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く,「熊本熊」の文字部分と本件商標図形部分とが,それぞれ独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るというものであり,本件商標は,本件商標図形部分のみを抽出して請求人使用標章と比較して商標そのものの類似性について判断することも許されるというべきである。 (2)請求人使用標章は,上記1(1)アのとおり,体全体が黒色で,両ほっぺが丸く赤く,口の周りが白く,耳が丸い熊をモチーフとした「くまモン」と称するキャラクターを表すイラストであり,「くまモン」と称する請求人である熊本県のマスコットキャラクターとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されているものであるから,これより「くまモン」の称呼及び「熊本県の熊をモチーフとしたマスコットキャラクター」の観念が生じるものである。 (3)本件商標図形部分と請求人使用標章を比較するに,両者はいずれも,熊又は熊をモチーフとした動物と思しきものを描いており,その特徴については,赤いマフラーの有無のほか,耳の内側の色,口元,目の向きといった細かな点において相違するものの,体全体が黒色で,両ほっぺが丸く赤く,口の周りが白く,耳が丸いという際立った特徴が共通していることから,両者は,外観上,互いに,紛れやすいものというべきである。 しかも,本件商標の構成中の「熊本熊」の文字部分は,その構成文字から「熊本の熊」の意味合いを容易に認識させることに加えて,上記1(2)のとおり,「熊本熊」の文字が,中国語圏の国において,請求人使用標章の「熊本県の熊をモチーフとしたマスコットキャラクター」を指称する語として使用され,認識されていることが,我が国の需要者の間においても,ある程度認識されていたことも踏まえると,著名な請求人使用標章である「熊本県の熊をモチーフとしたマスコットキャラクター」の観念を想起させるものというべきである。 (4)以上を総合すると,本件商標と請求人使用標章とは,本件商標図形部分において,外観上,互いに紛れやすく,本件商標図形部分は,著名な請求人使用標章である「熊本県の熊をモチーフとしたマスコットキャラクター」の観念を想起させるものというべきであり,しかも,本件商標の文字部分においても,著名な請求人使用標章の名称である「熊本県の熊をモチーフとしたマスコットキャラクター」の観念を想起させるものであるから,本件商標と請求人使用標章との類似性の程度は高いものであるということができる。 3 本件商標の指定商品と請求人使用標章の使用に係る商品との関連性並びに商品の取引者及び需要者の共通性について 一般にキャラクタービジネスにおいて,キャラクターはマンガ,アニメ,ゲームなどに登場する人物や動物など,その特徴を通じ,玩具,文房具,Tシャツ,日用雑貨などの生活用品や飲食品といった幅広い分野に展開することが通常であるところ,請求人使用標章は,上記1(1)オのとおり,請求人である熊本県が,そのライセンスを第三者に対して広く開放していることからすると,「くまモン」の名称及び請求人使用標章を使用した商品は,衣類,食品,化粧品,雑貨等を含む様々な分野の商品にも使用されていると優に推認できる。 そうすると,請求人使用標章を使用した商品は,衣類,食品,化粧品,雑貨を含む様々な分野で幅広く使用されているものと推認できるのに対し,本件商標の指定商品は,上記第1のとおり,第11類「使い捨てカイロ,あんか,懐炉,懐炉灰,湯たんぽ,温気暖房装置,電気足温器,電気カーペット,加湿器,ストーブ(暖房装置),電気ストーブ,石油ストーブ,ストーブ類(電気式のものを除く。)」であり,両者に共通する商品も少なくないから,両者の商品の関連性の程度は強く,また,取引者及び需要者を共通にする場合が少なくないものといえる。 4 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について 上記1ないし3を総合すれば,請求人使用標章は,上記1(2)のとおり,請求人である熊本県のマスコットキャラクターを表示するものとして,本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたものであって,その独創性の程度も高いと認められるものである。 また,上記2のとおり,本件商標と請求人使用標章との類似性の程度は高いものといえる。 さらに,上記3のとおり,本件商標の指定商品と請求人使用標章の使用に係る商品とは,関連性の程度は強く,その取引者及び需要者を共通にすることも少なくないといえるものであることを考慮すれば,本件商標をその指定商品について使用した場合には,これに接する取引者,需要者をして,請求人使用標章あるいは請求人を想起,連想させ,その商品が請求人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 5 むすび 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項の規定により,無効とすべきである。 付言するに,当審は,本件商標の登録は,審判請求人が主張する商標法第4条第1項第6号,同項第7号,同項第11号及び同項第19号には該当しないものと判断する。 |
別掲 |
別掲1 本件商標(色彩については,原本を参照。) 別掲2 引用商標1(色彩については,原本を参照。) |
審理終結日 | 2019-07-30 |
結審通知日 | 2019-08-02 |
審決日 | 2019-08-15 |
出願番号 | 商願2017-37841(T2017-37841) |
審決分類 |
T
1
11・
271-
Z
(W11)
T 1 11・ 22- Z (W11) T 1 11・ 222- Z (W11) T 1 11・ 21- Z (W11) T 1 11・ 26- Z (W11) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 森山 啓 |
特許庁審判長 |
早川 文宏 |
特許庁審判官 |
平澤 芳行 渡邉 あおい |
登録日 | 2017-11-17 |
登録番号 | 商標登録第5997141号(T5997141) |
商標の称呼 | クマモトクマ、クマモトグマ、クマ |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |