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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を取消(申立全部取消) W43 |
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管理番号 | 1355085 |
異議申立番号 | 異議2018-900152 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-06-14 |
確定日 | 2019-08-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6030384号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6030384号商標の商標登録を取り消す。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6030384号商標(以下「本件商標」という。)は、「CLUB MOET KYOTO」の欧文字を標準文字で表してなり、平成29年11月14日に登録出願、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、同30年3月12日に登録査定、同月23日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録商標(以下「申立人商標」という。)は、次のとおりであり、いずれも、「MOET(「E」の上部に「トレマ」が付されているものを含む)」、「モエ」の文字からなるもの又は当該文字を構成中に含むものであり、申立人商標の指定商品又は指定役務、登録出願日及び設定登録日はそれぞれの商標登録原簿に記載のとおりである。 また、これらの商標の商標権はいずれも現に有効に存続しているものである。 (1)登録第193711号商標 (2)登録第5111413号商標 (3)登録第2608228号商標 (4)登録第4782051号商標 (5)登録第1452991号商標 (6)登録第1651329号商標 (7)登録第2721955号商標 (8)登録第4596518号商標 (9)登録第5242711号商標 (10)登録第4204360号商標 (11)国際登録第1271942号商標 第3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 商標法第4条第1項第15号該当性について (1)引用商標の周知著名性 ア 「MOET & CHANDON」(「MOET ET CHANDON」、「モエ エ シャンドン」を含む:いずれも「MOET」の「E」の上部にトレマが付されている)の歴史及びその周知著名性 申立人は、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループのシャンパーニュ事業会社として、2009年9月に、「CHAMPAGNE MOET & CHANDON(「MOET」の「E」の上部にトレマが付されている)」、「VEUVE CLICQUOT PONSARDIN」等を合併して設立された会社であり、申立人商標の商標権者である。 申立人の一員である「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は、1743年に「Claude MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」によってシャンパーニュ地方に創業された「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)社」が始まりであり、創業者の孫の「Jean-Remy MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」によって事業が拡大され、現在の「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)社」が誕生したのは、1833年に「Jean-Remy MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」が、娘婿の「Pierre Gabriel CHANDON」と息子の「Victor MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」に家督を譲ったことによる。そして、現在は、LVMHグループの中核をなすシャンパーニュ最大のメゾンとなっている(甲6の19?甲6の25)。 1743年に創業後、「Claude MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」は、シャンパンをごく少数の人々にのみ親しまれるワインから、ヨーロッパの政治家、宮廷人のお気に入りへ昇華させることに尽力し、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」の名は瞬く間に広まり、1748年にはフランス王室の公式シャンパンに認定され、ドイツ、スペイン、ロシアの王室でも人気を博し、華やかな社交界にふさわしいシャンパンという評価を得ていった。 1800年代に入ると、「Jean-Remy MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」から娘婿の「Pierre Gabriel CHANDON」と息子の「Victor MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」に家督を譲られたことにより、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」の誕生となったが、その時代に最も影響力を持つ人々から「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は愛され続け、祝杯に欠かせないシャンパンとなっていた。 さらに、19世紀末までには、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」の輸出は世界中に広まり、1903年には日本にも初上陸を果たした。 加えて、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は、社交界のみならず、世界トップレベルのスポーツシーンでも輝きを放つようになり、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」はF1でも栄光の舞台に欠かせないシャンパンになった。 他にもウェディングの風景で巧みに積み重ねたシャンパングラスのピラミッドの頂点のグラスからシャンパンを一気に注ぎ込むシャンパンタワーも「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」が始めたものである。このような祝いの場面に欠かせない存在となった「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は、「チャンピオンのシャンパン」として揺るぎない地位を確立し、世界で最も信頼されているアルコール飲料の情報提供会社であるIWSRの調査結果によれば、シャンパンのカテゴリー部門において、第1位の売り上げを誇っている(甲4)。 日本においては、MHDモエヘネシーディアジオ株式会社が輸入販売しており(甲4)、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は、最高級クラスのシャンパンとして、毎年のように「世界名酒辞典」(甲6の1?甲6の25)に掲載され、人気ランキングにおいて、発泡系・シャンパン分野において第1位を獲得し(甲7の1)、数々のシャンパン関係のウェブサイトにおいて紹介されている(甲7の2?甲7の6)。 イ 「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」の周知著名性について 「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」の商品は、しばしば、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」あるいは「MOET」(フランス語文法上「E」の上部のトレマは大文字で使用される場合しばしば省略される)と称され、フランス語の読みで「モエ」と称呼されている。 申立人の商品には、そのネックラベルに、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」が顕著な大きさで目立つ態様で表示されており(甲4)、申立人は、「MOET NEWS(「MOET」の「E」の上部にトレマが付されている)」として、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」に関するニュースをホームページにおいて紹介し(甲4)、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」を冠したイベントを長年続けている(甲8の2?甲8の13)。 このように申立人は自ら長年「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」を「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」の略称として使用してきており、その努力の結果、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」の略称としての「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及びその称呼「モエ」もまた、申立人の製造販売するシャンパンを意味するものとして、需要者・取引者らの間で広く知られるに至っているものである。このことは、例えば、申立人がインターネットの検索ページにおいて「MOET」と「シャンパン」をキーワードに検索すると多数のウェブサイトがヒットし、その中の需要者・取引者により紹介されている事実に鑑みても明らかである(甲7の6、甲9の1?甲9の3)。すなわち、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」は、申立人が製造販売する高級シャンパンの「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」ブランドを表す略称として需要者・取引者により積極的に使用されているというべきであり、そのことによっても、需要者・取引者間において「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」は「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」を意味するものとして広く一般に認識されていたというべきである。 以上より、高級シャンパンの「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は、申立人の長年の使用により広く知られるに至っているが、それに伴い、その略称としての「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」もまた、申立人の製造販売するシャンパンを意味するものとして、取引者・需要者において本件商標の登録出願日である2017年11月14日前より申立人の出所表示として広く認識されていたというべきであり、現在もなお出所表示機能を有するものである。 このことは、無効審判の審決取消訴訟事件の判決(平成14年(行ケ)第504号)からも明らかである(甲10)。 ウ 以上のとおり、申立人が製造販売してきた高級シャンパンは、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」又は「モエ」と略称され、日本国を含む世界中で愛飲されているものである。 このように、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」を指標する申立人商標は、本願商標の出願時(平成29年11月14日)及び登録査定時(平成30年3月13日)において、世界的に広く知られた周知著名商標であったことは明白である。 (2)本件商標と申立人商標の類似性の程度 本件商標の商標全体として生じる「クラブモエキョウト」の称呼は、構成音数が8音と長く、その一部を簡略化して称呼されるべき音構成をなしている。 さらに、「KYOTO」は、日本の観光地あるいは販売地として著名な地理的名称である「京都」を欧文字で表すものとして一般に認識されているものであり、また、「CLUB」は、日本語を母国語とする日本国においても広く知られた英語であり、当該「CLUB」の片仮名表記である「クラブ」は、「(会員制の)バー・娯楽場」(広辞苑第6版:甲11の1)といった意味合いを有するものとされていることから、本件商標の指定役務との関係において、「CLUB」は役務の提供場所等を表す形容詞的文字にあたるといえる。また、「CLUB」や「KYOTO」が極めて一般的な語として把握されているのに対して、「MOET」は、既述のとおり、高級シャンパンを表す周知著名な商標であるから、本件商標は、観念上、「MOET」の部分から申立人及びそのグループ会社の業務に係るシャンパンとしての観念が明確に生じる。 したがって、本件商標は、「MOET」の部分を要部とする商標として、引用商標との類似性は極めて高いものである。 (3)申立人商標の独創性の程度 申立人商標を構成する「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」及び「モエ」は、既述のとおり、申立人の創業者の姓に由来するものであり、アルコール飲料の品質を表示するものでないから、造語の一種であることは明らかである。 したがって、申立人商標の独創性は、相当程度高いものである。 (4)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性の程度、取引者・需要者の共通性等 申立人商標が周知著名性を獲得した商品は、シャンパンであるのに対し、本件商標の指定役務は、「飲食物の提供」である。シャンパン等のアルコール飲料は、多くのレストランやナイトクラブ・カクテルラウンジ、バーなどにおいて普通に提供されており、こうした店舗において、飲食業者(取引者)や利用客(需要者)が、アルコール飲料に多く接する機会があることは顕著な事実である。実際、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は、日本全国の多数のレストランやクラブやバーなどで取り扱われている(甲11の2、甲11の3)。 さらに、申立人自身においても、2014年、まったく新しいコンセプトの期間限定の体験型レストラン「LE&(ル・アンド)」を発表した(甲11の4、甲11の5)。 「飲食物の提供」が、アルコール飲料をはじめとする飲食料品一般との関係において、密接な関連性を有するものである点は、審決においても明確に認定されている(甲12の1?甲12の3)。 しかして、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」が申立人の業務に係るシャンパンを表すものとして世界的な周知著名性を獲得している商標であることからすれば、需要者において普通に払われる注意力としては、本件商標に接した需要者は、構成中の「MOET」の文字に着目し、周知著名な「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」を想起連想して、本件商標に係る指定役務「飲食物の提供」が申立人及びその関係会社の業務に係る役務ではないかと誤認して取引にあたるであろうことは容易に想像される。 したがって、本件商標に係る指定役務は、申立人商標が周知著名性を獲得したシャンパンとは、具体的な取引の実情に照らして密接な関連性を有するものであるから、本件商標と申立人商標の取引者・需要者の共通性は極めて高いものである。 (5)判決及び審決 平成12年7月11日最高裁第三小法廷判決(甲3の1)以降、他人の周知著名な商標を一部に含む商標について、当該他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがあるとして、登録拒絶又は登録無効若しくは取消しの判断をした判決や審決は多数存在する(甲13の1?甲13の18)。 (6)小括 以上のとおり、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」が申立人の業務に係る高級シャンパン「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」を表すものとして周知著名な商標になっていること、本件商標は、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」とは「MOET」(モエ)の部分を要部とする商標として高い類似性を有すること、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」に係る「MOET」(モエ)が独創性の高い商標であること、本件商標の指定役務が、申立人商標が周知著名性を獲得したシャンパンとの関連性が高いものであり、需要者の範囲も一致するものであること、過去の裁判例や審決にみられる判断等を総合して考慮すると、本件商標をその指定役務に使用するときは、これに接する取引者・需要者は、申立人のグループ会社の業務に係る高級シャンパン「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」を想起・連想し、あたかも申立人又はグループ会社が取り扱う業務に係る役務であるかのごとく認識して取引にあたると考えられるため、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 2 商標法第4条第1項第19号該当性について (1)商標法第4条第1項第19号の意義 商標法第4条第1項第19号は、主として、外国で周知な商標について外国での所有者に無断で不正の目的をもってなされる出願・登録を排除すること、さらには、全国的に著名な商標について出所の混同のおそれがなくても出所表示機能の稀釈化から保護することを目的とするものである。そして、同号にいう「不正の目的」とは、「図利目的・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的」をいい、その具体的な想定例は、1)外国において周知な他人の商標と同一又は類似の商標について、我が国において登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせたり、外国の権利者の国内参入を阻止したり、国内代理店契約を強制したりする等の目的で、先取り的に出願した場合、2)日本国内で商品・役務の分野を問わず全国的に知られているいわゆる著名商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても出所表示機能を稀釈化させたり、その名声を毀損させる目的をもって出願した場合、3)その他日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願した場合とされている(特許庁編「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 第20版」:甲14)。 本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において、申立人のグループ会社の業務に係る高級シャンパンとして世界的に周知著名な「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている。)」の略称と認識されている「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」に類似する商標であり、商標権者の不正の目的によって出願されたものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。 (2)「不正の目的」 商標法第4条第1項第19号に定める「不正の目的」については、「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 第20版」(甲14)によると、「ここで『不正競争の目的』とせず、『不正の目的』としたのは、取引上の競争関係を有しない者による出願であっても、信義則に反するような不正の目的による出願については商標登録すべきではないからである」とされている。 すなわち、同号にいう「不正の目的」とは、競争関係とは無関係に、公正な取引秩序に違反するような目的をいい、必ずしも取引を巡る対立構造を前提とするものではないと解される。 この点、本件商標の指定役務は、「飲食物の提供」であるところ、これらの役務が(高級)シャンパンとの関連性が強い役務であることは、既述したとおりであり、かつ、顕著な事実である。 また、申立人の創業者の名前に由来する「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」が、日本国において一般的な語として理解されているものでなく、むしろ、特定の観念を生じない造語として把握されるべきものであることからすれば、上記指定役務について使用するものとして本件商標を登録出願した商標権者が、「MOET」の語を含む本件商標を、申立人の業務に係る「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」と無関係に偶然採用したとは到底考えられず、むしろ、その周知著名性に便乗する意思をもって採択したであろうことは、容易に想像されるところである。 実際、被申立人は、過去において、申立人の周知著名商標「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」に酷似する標章「クラブ モエ MOET KYOTO(「E」の上部にトレマが付されている。)」を使用していたため、申立人は、当該標章の使用を中止するよう警告したところ、被申立人は、本件商標「CLUB MOET KYOTO」に変更し、なおも自己の運営する店舗及びウェブサイトを通じて、本件商標と同様の態様からなる標章を店名とした「飲食物の提供」に該当するキャバクラの運営を続ける一方で、本件商標の商標登録出願をしたものである。 ア 平成29年9月27日付警告 申立人は、平成29年9月27日及び同年10月30日付で被申立人宛に警告書を送付し(甲16の1、甲16の2)、被申立人が、被申立人に係るキャバクラの店舗及びウェブサイト上で(甲16の3)申立人の周知著名商標「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」及び「MOET」に極めて類似する標章「クラブ モエ MOET KYOTO(「E」の上部にトレマが付されている)」を使用していたことを指摘し、申立人は、被申立人によるこのような使用に対し、当該使用は不正競争防止法第2条第1項第1号及び第2号に定める不正競争行為に該当する旨主張し、当該店舗及びウェブサイトにおける「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」の使用を中止し、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」及び「モエ」と類似しない名称へ変更することを求めた。 イ 平成29年11月14日付の本件商標の商標登録出願 被申立人は、申立人の警告に対し、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」を「MOET」に変更したにすぎない本件商標につき、平成29年11月14日に商標登録出願した(甲1)。 このように、被申立人は、本件商標を出願し、使用する以前より、申立人の著名な「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」及び「MOET」に極めて近似した標章「クラブ モエ MOET KYOTO(「E」の上部にトレマが付されている。)」を使用していたものであるが、申立人から不正競争防止法に基づき当該標章の使用中止等を求められたことを契機として、本件商標を登録出願したことは明らかであり、その目的は、申立人からの上記請求への抗弁として本件商標の存在を不正に利用しようとしてものであって、「不正の目的」を有していることは明々白々である。 したがって、本件商標は、被申立人の不正の目的によって出願されたものである。 (3)審決 他人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていた商標と同一又は類似性の高い商標を、当該広く知られていることを十分に知りながら出願し登録を受けた商標は、自己の利益を得るために出願した商標は不正の目的に基づくものであると多くの審決が認定している(甲15の1?甲15の9)。 これらの審決(異議決定)のうち、異議2012-900129(甲15の5)は、「(発泡性)ワイン」が「食料品」及び「飲食物の提供」と極めて関連性が高い商品であることを明確に述べており、こうした先例にみられる判断は、本審判事件において、最大限考慮されるべきである。 (4)小括 以上のとおり、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る高級シャンパン「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」として世界的に周知著名な商標となっており、本件商標は、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」、「MOET」及び「モエ」に類似するものであって、申立人が、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」の周知著名性に便乗し、「MOET」の文字を含む本件商標の独占排他的使用を得ようとする不正の目的に基づいて出願し登録されたものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 第4 取消理由の通知 当審において、商標権者に対し、以下の1ないし3の商標(以下「引用商標」という。)を引用し、「本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。」旨の取消理由を平成30年12月28日付けで通知した。 1 申立人が自己の業務に係る「シャンパン」として周知著名性を獲得している「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」の略称として広く知られていると主張する「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」の文字からなるもの(以下「引用商標1」という。) 2 登録第193711号商標 (以下「引用商標2」という。) 商標:別掲のとおり 指定商品:第33類 シャンパーニュ地方産の発泡性ぶどう酒(平成20年4月30日書換登録) 登録出願日:大正14年10月1日 設定登録日:昭和2年10月7日 最新更新登録日:平成29年10月10日 3 登録第5111413号商標(以下「引用商標3」という。) 商標:モエ(標準文字) 指定商品:第33類 果実酒,洋酒,中国酒,薬味酒 登録出願日:平成19年1月31日 設定登録日:平成20年2月15日 最新更新登録日:平成30年1月30日 第5 商標権者の意見 上記第4の取消理由に対し、本件商標権者は、要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。 1 引用商標の周知性について 申立人の「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」が需要者・取引者の間で広く一般に認識されているということは争わない。 また、申立人の「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」が需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称であるということは争わない。 しかしながら、引用商標2及び引用商標3が需要者・取引者の間で広く認識されているとまではいえず、その点は争う。 (1)引用商標2について 引用商標2の「MOET」は「トレマ」がついていない。 「トレマ」とは、「フランス語などで母音が連続したときに後の母音を独立して発音することを示す記号」である(デジタル大辞泉)。 したがって、「MOET」であれば、「OE」は合字になり、カタカナ発音であれば「OE」は、「エ」や「ウ」に近い発音になるから(乙1)、「MOET」は「メ」や「ム」に近い発音となる。 つまり、「モエ」と発音するためにはトレマが必須になる。 したがって、申立人が、トレマが記載されていない「MOET」を使用することは、発音が変わってしまうため、あり得ない。 申立人が提出した証拠においても、第三者の記載では、トレマの記載のない「MOET」と表示されているものはあるが、申立人自身は、トレマの記載のない「MOET」を使用していない。 異議申立書においても「このように申立人は自ら長年『MOET(「E」の上部にトレマが付されている)』を『MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)』の略称として使用してきており、その努力の結果、MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)の略称としての『MOET(「E」の上部にトレマが付されている)』(トレマを除いた『MOET』及びその称呼『モエ』)もまた、申立人の製造販売するシャンパンを意味するものとして、需要者・取引者らの間で広く知られるに至っているものであり、このことは、例えば、申立人がインターネットのYAHOOの検索ページにおいて『MOET』と『シャンパン』をキーワードに検索すると多数のウェブサイトがヒットし、その中のほんの一例だが・・・・と需要者・取引者により紹介されている事実に鑑みても明らかである。」と主張するのみであり、具体的に「MOET」が著名な略称であることの立証はしていない。 また、検索サイトのGoogle(登録商標)で「MOET」というキーワードで検索した結果、「モエ・エ・シャンドン」の表示は多数表示されるが、「MOET」だけが使用されているWebサイトは、ほとんど発見できず、少なくとも検索上位には挙がっていなかった(乙2)。 したがって、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」は需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称といえるが、トレマの記載のない「MOET」は需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称とはいえない。 また、仮に、トレマの記載のない「MOET」と表示されているシャンパンが販売されていれば、需要者・取引者は、そのシャンパンが、申立人の商品であると認識せず、偽物であると認識するものと思われる。 一方、「トレマ」は申立人の商品であるシャンパンを表す上で必須であるところ、引用商標2はトレマが記載されておらず、不使用の商標に該当し、トレマの記載のない「MOET」には申立人の信用が付着していない。 商標権は、商標に化体した業務上の信用を保護するものであるところ(商標法1条)、引用商標2に係るトレマの記載のない「MOET」には業務上の信用が付着していないため、本件商標と出所混同生じることはあり得ない。 したがって、本件商標は、引用商標2とは出所混同は生じず、引用商標2との関係では商標法4条1項15号には該当しない。 (2)引用商標3について 引用商標3の「モエ」は、「モエ・エ・シャンドン」の一部であると思われるが、これに関しても、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」は需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称であるが、「モエ」は需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称とまではいえない。 検索サイトのGoogle(登録商標)で「モエ」というキーワードで検索した結果、「モエ・エ・シャンドン」の表示は多数表示されるが、「モエ」だけが使用されているWebサイトはほとんど発見できず、検索上位にも挙がっていなかった(乙3)。 また、一般的に申立人の商品を「モエシャン」と略称して使用することはあるが、「モエ」だけを略称として使用することは少ないものと思われる。 上記(1)と同様に、異議申立書においても「このように申立人は自ら長年『MOET(「E」の上部にトレマが付されている。)』を『MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている。)』の略称として使用してきており、その努力の結果、MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)の略称としての『MOET(「E」の上部にトレマが付されている)』(トレマを除いた『MOET』及びその称呼『モエ』)もまた、申立人の製造販売するシャンパンを意味するものとして、需要者・取引者らの間で広く知られるに至っているものであり、このことは、例えば、申立人がインターネットのYAHOOの検索ページにおいて『MOET』と『シャンパン』をキーワードに検索すると多数のウェブサイトがヒットし、その中のほんの一例だが・・・・と需要者・取引者により紹介されている事実に鑑みても明らかである。」と主張するのみであり、具体的に「モエ」が著名な略称であることの立証はしていない。 したがって、本件商標は、引用商標3とは出所混同は生じず、引用商標3との関係では商標法4条1項15号には該当しない。 2 本件商標と引用商標の類似性の程度について 「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」は、需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称といえるが、トレマの記載のない「MOET」は、需要者・取引者の間で広く一般に認識されているとはいえない。 そのため、本件商標の「MOET」は要部とはならず、「MOET」部分が強く印象付けられるものではなく、また、「CLUB」及び「KYOTO」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないとはいえない。 本件商標構成中の「CLUB」、「MOET」及び「KYOTO」の文字部分の間には、1文字程度の間隔があるものの、いずれの文字も同一の書体及び大きさで、横一列にまとまりよく表されており、全体として一連一体の語を表してなる印象を与えるものであって、その構成文字に応じて、よどみなく一連に称呼できる「クラブモエキョウト」の称呼が生じるものである。 また、「CLUB MOET KYOTO」の中央部分の「MOET」だけを不自然に抜き出して、引用商標と類否判断を行うべきではない。 申立人は、「『クラブモエキョウト』の称呼は、構成音数が8音と長く、その一部を簡略化して称呼されるべき音構成をなしている。」と主張しているが、8音は決して長いとはいえず、省略して言う必要がない。 仮に、省略して言うとしても「クラブモエ」であって、「CLUB MOET KYOTO」の中央部分の「MOET」だけを不自然に抜き出して「モエ」とは言わないものと思われ、「モエ」と言っても2文字だけであるので、特に口頭では何のことか相手に伝わらないため、使用することは少ないものと思われる。 したがって、「MOET」の部分を要部として分離観察を行うべきでなく、「CLUB MOET KYOTO」全体として観察すべきである。 3 本件商標と引用商標2との比較 (1)外観 本件商標は、標準文字からなる「CLUB MOET KYOTO」であり、引用商標2は、黒の背景に白抜きで記載された図形的要素を含む「MOET」である。 したがって、本件商標と引用商標2の外観は大きく異なる。 (2)称呼 本件商標から生じる称呼は、「クラブモエキョウト」又は「クラブモエットキョウト」であり、引用商標2から生じる称呼は、「モエ」又は「モエット」である。 したがって、「クラブ」及び「キョウト」の6文字以上異なるため、称呼が異なる。 (3)観念 本件商標からは、「京都の娯楽場」という観念が生じ、引用商標2は、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」であればシャンパンという観念が生じるが、引用商標2は、トレマの記載のない「MOET」であるため特定の観念は生じない。 (4)小括 以上のことから、外観・称呼・観念を総合的に考慮しても、本件商標とトレマの記載のない引用商標2とは、非類似である。 4 本件商標と引用商標3との比較 (1)外観 本件商標は、標準文字からなる「CLUB MOET KYOTO」であり、引用商標3は、標準文字からなる「モエ」である。 したがって、本件商標と引用商標3の外観は大きく異なる。 (2)称呼 本件商標から生じる称呼は、「クラブモエキョウト」又は「クラブモエットキョウト」であり、引用商標3から生じる称呼は、「モエ」である。 したがって、「クラブ」及び「キョウト」の6文字以上異なるため、称呼が異なる。 (3)観念 本件商標からは、「京都の娯楽場」という観念が生じ、引用商標3は、片仮名2文字の「モエ」であるため、「萌える」、「萌え」という観念が生じる。 少なくとも片仮名2文字の「モエ」からシャンパンの観念は生じない。 (4)小括 以上のことから、外観・称呼・観念を総合的に考慮しても、本件商標と片仮名2文字からなる引用商標3とは、非類似である。 5 引用商標の独創性の程度について 申立人が主張するように、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」は姓であるため、外国人の姓が「造語の一種である」とか、「独創性の程度が高い」というのは違和感しかなく、むしろ、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」が外国人の姓であるならば、造語でもなく、独創性の程度も低いものと思われる。 ましてや、引用商標2及び3は、トレマの記載のない「MOET」と片仮名2文字の「モエ」であるため、独創性の程度は限りなく低いといわざるを得ない。 6 多角経営の可能性について 申立人が主張する体験型レストランは、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」という表示が使用されておらず、「LE&(ル・アンド)」という名称であり、ましてや、トレマの記載のない「MOET」と片仮名2文字の「モエ」も使用されていない。 また、場所もフランスのエペルネであり、継続的なものではなく、期間限定の体験型レストランである。 現在、申立人が経営するレストランは、フランスをはじめ世界中にまだ1店舗も存在しておらず、日本においても存在していない。 また、申立人は、2014年に体験型レストランを期間限定で行っているが、それからすでに4、5年経過しており、申立人が有する大規模な資本から考えると、申立人の今後のビジョンからレストランの経営は対象外となっていると考えるのが通常である。 したがって、申立人がレストランを経営する可能性は限りなく低いものと思われる。 また、そのような状態の中で、「多角経営の可能性がある」との内容は違和感しかない。 そして、引用商標2及び3は、トレマの記載のない「MOET」と片仮名2文字の「モエ」であり、これらの引用商標と狭義又は広義の混同が生じるおそれがあるということを立証するための、「経営の多角化」という話であるところ、フランスで1店舗だけ体験型レストランが、期間限定で、しかも名称がまったく異なる「LE&(ル・アンド)」という、トレマの記載のない「MOET」や片仮名2文字の「モエ」が全く使用されていないものが行われたからといって、直ちに「狭義又は広義の出所混同が生じる」とはいえない。 7 出所の混同のおそれについて (1)商標権者は、本件商標を用いて約6年ほど、いわゆるキャバクラを経営しているが、利用者から「申立人と何等かの関係がある店と間違って入店した」といった苦情は一切ない。 また、申立人も実際に「シャンパンの購入者から苦情があった。」といった主張はしておらず、申立人に対してもそのような苦情はなかったものと思われる。 さらに、商標権者は、申立人のグループ会社であるMHDモエヘネシーディアジオ株式会社から、約6年前からシャンパンを購入しており(2017年8月10日?2018年8月9日でも約600万円分)、その際に店舗名に関しても、同社に伝えており、申立人も出所混同が生じるという認識はなかったものと思われる。 したがって、事実関係からみても出所混同は生じておらず、また、いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれもなく、狭義の混同だけでなく広義の混同も生じていない、又は生じるおそれがないというべきである。 (2)仮に需要者・取引者が申立人の商標を連想した場合であっても、本件商標が、申立人が行っている役務と認識するとはいえず、商標法4条1項15号は、ただ乗りと評価されるような商標の登録を一般的に禁止する根拠となるものではない(乙6)。 また、本件商標と引用商標2及び3を取引の実情を考慮して外観・証拠・観念を総合的に比較しても類似するとはいえず、本件商標と引用商標2及び3は、出所混同が生じず、また、生じるおそれもないというべきである。 8 第4条第1項第15号該当性に関して 以上のことから、「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」の「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」は、需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称といえるが、トレマの記載のない「MOET」及び「モエ」は、需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称とまではいえない。 また、本件商標は、「MOET」が要部であるとして分離観察すべきでなく、全体として一連一体として認識されるべきである。 そして、本件商標と引用商標2及び3とを外観・証拠・観念を総合的に比較しても、商標(標章)は類似しない。 したがって、本件商標は、引用商標2及び3に基づいて出所混同は生じず、また、実際に出所混同も生じておらず、商標法第4条第1項第15号には該当しない。 第6 当審の判断 1 引用商標の周知性について (1)申立人の提出した証拠及びその主張によれば、以下のとおりである。 ア 申立人は、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループのシャンパーニュ事業会社として、2009年9月に、「CHAMPAGNE MOET & CHANDON(「MOET」の「E」の上部にトレマが付されている)」等を合併して設立された会社であり、申立人商標の商標権者である。 申立人の一員である「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は、1743年にクロード・モエが創業し、現在は、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループの中核をなすシャンパーニュ最大のメゾンとなっている(甲6の19?甲6の25)。 また、アルコール飲料の情報提供会社であるIWSRの調査結果(2016年)によれば、シャンパンカテゴリー部門において第1位の売上を誇っており、1903年、日本に初上陸した「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は、日本においては、MHDモエヘネシーディアジオ株式会社が輸入販売している(甲4)。 イ 「2008年4月19日 東京読売新聞 朝刊」には、「[ブランド研究](5)モエ・エ・シャンドン(連載)」の見出しの下、「◎MOET&CHANDON・・・フランスを代表するシャンパンを造ってきたモエ・エ・シャンドン。・・・2005年末から『Be Fabulous』という世界統一キャンペーンを行っている。・・・このキャンペーンは世界中で大成功を収めている」との記載がある(甲5の1)。 ウ 「世界の名酒事典」(1990年版?2017年版)において、「Moet & Chandon/モエ・エ・シャンドン社」(「e」の上部にトレマが付されている)の項には、「1743年、クロード・モエにより創立。生産量、品質ともに卓越したメーカーとして知られている。」等の紹介文とワインボトルが表示され、そのボトルのネック部分に「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」の文字が付されている(甲6)。 また、「世界酒大事典」(1995年8月1日初版発行)には、「モエ Moet」(「e」の上部にトレマが付されている。以下同じ。)の項に「シャンパンの商標.フランスのエペルネーで1743年からつくられており,正式には,モエ・エ・シャンドン(Moet et Chandon)という.わが国にも古くから輸入されている.」との記載がある(甲8の1)。 エ インターネットの情報(2018年9月4日出力)をみると、楽天市場において、「発泡系・シャンパンランキング」において第1位を獲得し(甲7の1)、「MOET & CHANDON」に関するウェブサイトにおいて、「世界で最も愛されているシャンパーニュ」(甲7の2)、「世界150カ国に輸出される、ベストセラー・シャンパーニュとして君臨しています。」(甲7の3)、「ヨーロッパやアメリカをはじめ世界市場を開拓するなど、常に”シャンパンの盟主”であり続けてきた最高級メゾン。」(甲7の4)、「ワイン専門ショップのみならず、酒販店や量販店で日常的に購入でき、国内外の多くのレストランのシャンパンリストに名を連ねる『モエ・エ・シャンドン』。私たちにとっても親しみ深く、業界で世界シェアNo.1を誇るシャンパンのトップ・ブランドだ。」(甲7の5)、「プレゼント用シャンパンの王道モエ・エ・シャンドンに豊富な種類があることを発見!」(甲7の6)等と紹介されている。 (2)以上からすれば、申立人は、1743年の創業以来、シャンパン「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」の製造販売を行っており、申立人の製造に係る「MOET & CHANDON(「E」の上部にトレマが付されている)」は、業界で世界シェアNo.1を誇るシャンパンのトップ・ブランドとなっており、我が国の酒類に関する事典に紹介され、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」と略称されているといえる。 そうすると、申立人が製造販売するシャンパンの略称である「MOET(「E」の上部にトレマが付されている:引用商標1)」は、申立人の業務に係る商品「シャンパン」(以下「申立人商品」という。)を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されていたものと認めることができる。 なお、この点については、商標権者も、前記第5の1のとおり、認めているものである。 2 本件商標と引用商標1の類似性の程度について 引用商標1は、前記第4の1のとおりの構成よりなるところ、その構成文字に相応して、「モエ」の称呼が生ずるものであり、「(申立人に係る)シャンパンのブランドとしてのモエ」という観念を生じるものである。 一方、本件商標は、前記第1のとおり、「CLUB MOET KYOTO」の欧文字を表してなるところ、構成中の「CLUB」の文字は、その指定役務との関係からして、「バー・娯楽場」(広辞苑第六版)を表したものとして、「KYOTO」の文字は、「京都」を表したものとして、容易に理解されるものといえ、いずれの文字も、自他役務識別標識として機能を有さないか、極めて弱いものというのが相当である。 そして、本件商標構成中の「MOET」の文字部分は、その指定役務である「飲食物の提供」において取り扱われることの多いシャンパンについて、申立人の取扱いに係る商品を表すものとして、本件商標の登録出願時はもとより、登録査定時においても、既に、我が国において、広く認識されている引用商標1と、「E」の上部のトレマの有無を除き、つづりを同じくするものであることからすれば、本件商標の構成において、強く印象付けられるものというのが相当である。 そうすると、本件商標は、その構成中に、「E」の上部のトレマの有無を除き、引用商標1とつづりを同じくする「MOET」の文字を顕著に有してなることから、本件商標と引用商標1の類似性の程度は高いものというべきである。 3 引用商標1の独創性の程度について 引用商標1は、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」の文字からなるところ、当該文字は、辞書等に掲載のないものであって、我が国において親しまれた既成語ではないから、独創性の程度は高いといえる。 4 本件商標の指定役務と申立人商品との関連性及び需要者の共通性について 本件商標は、前記第1のとおり、「飲食物の提供」を指定役務とするものであり、申立人商品は、「シャンパン」である。 そして、申立人商品は、主に食事とともに楽しむ飲み物であって、レストラン等で一般に提供されているものであるから、本件商標の指定役務との関係において、それらの用途及び目的における関連性の程度が極めて高く、商品及び役務の需要者を共通にするものである。 5 多角経営の可能性について 申立人は、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループの中核をなすシャンパーニュ最大のメゾンであって、シャンパンの製造にとどまらず、2014年には、期間限定の体験型レストランをオープンさせている(甲11の5)ことから、「飲食物の提供」の分野における経営の可能性も認められる。 6 出所の混同のおそれについて 以上のとおり、引用商標1は、我が国において、申立人の取扱いに係る商品「シャンパン」を表示するものとして、需要者及び取引者の間に広く認識されていたものと認められ、その独創性の程度は高く、申立人の業務に係る商品と本件商標の指定役務は、関連性が高く、需要者を共通にするものである。 そして、本件商標は、引用商標1と高い類似性を有するものである。 そうすると、本件商標権者が、本件商標をその指定役務に使用した場合、これに接する需要者、取引者は、引用商標1を連想又は想起し、その役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 7 商標権者の主張について (1)類似性の程度について 本件商標権者は、 「『MOET(「E」の上部にトレマが付されている)』は需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称といえるが、トレマの記載のない『MOET』は、需要者・取引者の間で広く一般に認識されているとはいえない。そのため、本件商標の『MOET』は要部とはならず、『MOET』部分が強く印象付けられるものではない」旨主張している。 しかしながら、前記2のとおり、本件商標構成中の「MOET」の文字部分は、その指定役務である「飲食物の提供」において取り扱われることの多いシャンパンについて、申立人の取扱いに係る商品を表すものとして、本件商標の登録出願時はもとより、登録査定時においても、既に、我が国において、広く認識されている引用商標1と、「E」の上部のトレマの有無を除き、つづりを同じくするものであり、他の構成文字である「CLUB」及び「KYOTO」は、自他役務識別標識として機能を有さないか、極めて弱いものであることからすれば、本件商標においては、「MOET」の文字部分が強く印象付けられるものというのが相当である。 してみれば、本件商標に接する取引者、需要者は、構成中の「MOET」の文字部分に着目して本件商標を記憶することも決して少なくなく、そのつづりは引用商標1と同一のものであることからすれば、両者の類似性の程度は高いとみるのが相当である。 (2)独創性の程度について 本件商標権者は、「『MOET(「E」の上部にトレマが付されている)』は外国人の姓であることから、造語でもなく、独創性の程度も低い。」旨主張している。 しかしながら、たとえ、「MOET(「E」の上部にトレマが付されている)」が外国人の姓に由来するものであるとしても、辞書等に掲載のないものであって、我が国において親しまれた既成語でもないことから、我が国における需要者、取引者は、これを外国人の姓と認識するというよりは、むしろ、造語と認識するというのが相当である。 したがって、独創性の程度が低いということはできない。 (3)多角経営の可能性について 本件商標権者は、「申立人は、2014年に体験型レストランを期間限定で行っているが、継続的なものではなく、期間限定の体験型レストランであり、現在、申立人が経営するレストランは、世界中にまだ1店舗も存在していない。また、2014年からすでに4、5年経過しており、申立人がレストランを経営する可能性は限りなく低いから、多角経営の可能性があるとはいえない。」旨主張している。 しかしながら、現在、申立人が経営するレストランが存在していないとしても、2014年に体験型レストランを期間限定で行っている事実からすれば、レストラン経営の可能性が全くないとまではいえない。 (4)出所の混同のおそれについて 本件商標権者は、「(ア)本件商標を用いて約6年ほど、いわゆるキャバクラを経営しているが、利用者から「申立人と何等かの関係がある店と間違って入店した」といった苦情は一切ない。(イ)申立人も実際に「シャンパンの購入者から苦情があった。」といった主張はしておらず、申立人に対してもそのような苦情はなかったものと思われる。(ウ)本件商標権者は、申立人のグループ会社であるMHDモエヘネシーディアジオ株式会社から、シャンパンを購入しており、その際に店舗名に関しても、同社に伝えており、申立人も出所混同が生じるという認識はなかったものと思われる。(エ)事実関係からみても出所混同は生じておらず、また、いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれもなく、狭義の混同だけでなく広義の混同も生じていない、又は生じるおそれがない。」旨主張している。 しかしながら、上記(ア)ないし(ウ)に係る事実を裏付ける証拠の提出はなく、前記1ないし5を総合判断すれば、前記6のとおり、本件商標権者が、本件商標をその指定役務に使用した場合、これに接する需要者、取引者は、引用商標1を連想又は想起し、その役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。 (5)したがって、 本件商標権者の主張は、いずれも採用することができない。 8 まとめ 以上のとおり、本件商標は、他人(申立人)の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当し、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 【別掲】 引用商標2(登録第193711号商標) |
異議決定日 | 2019-07-03 |
出願番号 | 商願2017-149891(T2017-149891) |
審決分類 |
T
1
651・
271-
Z
(W43)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 蛭川 一治 |
特許庁審判長 |
山田 正樹 |
特許庁審判官 |
小俣 克巳 冨澤 美加 |
登録日 | 2018-03-23 |
登録番号 | 商標登録第6030384号(T6030384) |
権利者 | 合同会社ROYAL |
商標の称呼 | クラブモエットキョート、クラブモエキョート、クラブモエット、クラブモエ、モエットキョート、モエキョート、モエット、モエ |
代理人 | 中村 勝彦 |
代理人 | 佐藤 俊司 |
代理人 | 尼口 寛美 |
代理人 | 池田 万美 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 本田 史樹 |