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審決分類 審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W43
審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W43
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W43
審判 一部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W43
管理番号 1344048 
審判番号 無効2017-890076 
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-11-15 
確定日 2018-09-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第5626361号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5626361号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1に示すとおりの構成からなり、平成25年5月1日に登録出願、第35類「フランチャイズ事業の指導・助言,経営の診断及び助言,広告,市場調査,商品の販売に関する情報の提供」及び第43類「飲食物の提供」を指定役務として、同年9月19日に登録査定、同年11月1日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
本件審判請求人(以下「請求人」という。)が、本件商標の登録の無効の理由において引用する商標は、以下の2件であり、これらをまとめていうときは「引用商標」という。
1 別掲2に示すとおりの構成からなる商標(以下「引用商標1」という。)は、請求人の業務に係る「油そば」を主とする飲食物の提供、請求人の店舗及び通信販売による中華そばの麺、穀物の加工品、調味料、香辛料、めん類用たれの販売に使用しているとするものである。
2 登録第5142467号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲3に示すとおりの構成からなり、平成19年12月27日に登録出願、第30類「中華麺」を指定商品として、同20年5月9日に登録査定、同年6月20日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標は、指定役務中第43類「飲食物の提供」についての登録を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第49号証を提出した。
1 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第10号該当性について
ア 引用商標1の周知・著名性
引用商標1は、請求人が1997年に開店した中華そばの店舗の名称及び中華麺を使用した料理の名称としてはじめて用いた商標であり、現在まで継続して使用しているものである。詳述すると、請求人は、1996年に、請求人が経営する飲食店の店舗において提供する料理を東京名物にしようとして、「一見ラーメンの様に見えるが、スープがなく、スープの代わりに酢とラー油オリジナルのタレを、モッチリとした歯ごたえのある中太麺と絡ませて食べるちょっと珍しい食べ物」の名称として「油そば」の使用を開始した。当初、請求人は、これを以前経営していたパブで販売したところ爆発的に売れた。
そこで、請求人は、「油そば」の専門店を1997年に開店するにあたり、独自に採択し創作した引用商標1の使用を開始した。引用商標1は、「油」の文字を左部に大きく描き、その右部に少し小さめの文字で「そば」の文字を縦書きし、左部と高さをそろえて配したものである。健康志向の強い現代社会にあって、あえて「油」の文字を強調したこのような構成からなる商標は、時代に逆行するようにも見えるためか、飲食店の名称として、またメニューの名称としても、広く使用されている例はなく、その特異性から需要者に強いインパクトを与え、極めて強い印象を与えるものであった。
そのため、請求人が当該飲食店を開店すると、油そばは、一日150杯から200杯と爆発的な売れ行きを示した。当時、同種の食べ物はほとんど存在していなかったことから、若者を中心に爆発的な人気を博し、株式会社TBSテレビなどのテレビの放送局、朝日新聞をはじめとする全国紙、「hanako」(株式会社マガジンハウス発行)、「東京ウォーカー」(角川書店発行)などの発行部数の多い有名雑誌やらーめん情報雑誌等、あらゆる媒体から取材されて紹介されることとなり、提供される「油そば」のみならず、店外及び店内の写真が公開されることにより、「油そば」及び引用商標1は、出願人(審決注:「請求人」の誤記と思われる。)の役務が提供される店舗及び商品を表示する商標として、広く需要者に瞬く間に知られるようになった。
このように、請求人は、自社で広告することなく、引用商標1及び請求人の経営する飲食店が日本全国の需要者に広く知られるようになったものである(甲6?甲20)。
出願人(審決注:「請求人」の誤記と思われる。)が経営する飲食店及びそこで提供される「油そば」の人気は、開業当初から現在に至るまで衰えることなく続いている。近年においても、TBS、テレビ朝日、日本テレビ、フジテレビ等の全国ネットのテレビ等(例えば、「とんねるずのみなさんのおかげでした」、「嵐にしやがれ」)及び著名な月刊誌「新潮45」、30代の女性雑誌である「姉ageha」、ハイセンスな大人の雑誌「おとなの週末」等の様々な雑誌に掲載されていることは、その人気の高さが健在であることの証左である。また、請求人の提供する「油そば」について、個人のブログにも多数掲載されているが、ブログやツイッターなどで多数の書き込みがあることは、一般的な需要者に知られていることの指標の1つとなるからことからも、請求人の提供する「油そば」が需要者に広く知られていることが明らかである。
さらに、請求人は、独自に店舗で提供している油そばについて通信販売を行っているが、近年は「楽天」にも出店し、引用商標1の知名度は全国津々浦々に及んでおり、今後も販売を継続することにより、さらにその知名度があがっていくことは言うまでもない。(甲21?甲34)。
以上のとおり、引用商標1は、請求人によって本件商標が出願された平成25年(2013年)5月1日よりも16年以上も前に創作され、継続的に使用されることにより、本件商標の出願時において、著名な商標となっており、また、現在に至るまで継続的に使用され続けていることからその周知著名性を維持している。
イ 本件商標と引用商標の類否
本件商標は、上部左側に「油」の文字を大きく描き、その右部に少し小さめの文字で「そば」の文字を縦書きし、左部と高さをそろえて配しており、その下部に小さく「東京油組総本店」を書した上下二段から構成されている。これら全ての文字は、非常に目立つ「赤橙色」に近い色で着色されているが、その全体構成として、上下の一体感は感じられない。
また、上記構成から、本件商標から「アブラソバ」及び「トウキョウアブラグミソウホンテン」の称呼が生じる。さらに、その構成上部から、請求人が提供する「スープのないラーメンの一種」である「油そば」の観念が生じ、その下部からは特定の観念は生じない。
すなわち、本件商標は、外観、称呼及び観念のいずれの観点からも、商標全体としての一体の商標としてとらえるべき要素が見当たらない。本件商標は、その構成の上部と下部で分離して、それぞれ別個に識別力を発揮すると考えられる。特に、本件商標の上段部分の文字「油」及び「そば」の構成は、健康志向が世間でもてはやされる中、「油」というそれとは逆行するような語を大きく表すことにより、需要者に強いインパクトを与えている。また、「油そば」と単に横書きするのではなく、「油」をことさら大きく描くことで、単なる料理の名称としてではない、識別力を発揮している。
これに対し、引用商標1は、本件商標の構成と同様、左側に「油」の文字を左部に大きく描き、その右部に少し小さめの文字で「そば」の文字を縦書きし、左部と高さをそろえて配している。したがって、引用商標1と本件商標とは、構成文字、色彩及び文字の配置も全く同一である。上述したとおり、「油」という文字を最も大きく表し、逆説的に需要者を惹きつける特殊な構成が共通していることにより、その文字のフォントが多少異なっていることは、両者の外観上の同一性を否定する根拠となりえないことは明らかである。よって、本件商標と引用商標1とは、外観上類似である。
また、引用商標1からは「アブラソバ」の称呼が生じ、請求人の提供するメニューに「油そば」を有することは明らかであるから、本件商標とは、その称呼及び観念について同一である。
よって、本件商標は、引用商標1と類似する商標であることは疑いの余地がない。
次に、引用商標2は、上段に引用商標1を配し、その下部に、「東京麺珍亭本舗」の文字が上段の文字に比してかなり小さく記載された構成である。かかる構成の上段と下段を一体的に認識させる特段の事情はないため、引用商標2も、本件商標と同様、上部と下部がそれぞれ識別力を発揮すると考えられる。したがって、それぞれの部分から「アブラソバ」又は「トウキョウメンチンテイホンポ」の称呼が生じ、上部から「油そば」の観念が生じる一方、その下部からは特定の観念は生じない。
したがって、本件商標及び引用商標2は、独自に識別力を発揮する要部の外観が類似し、称呼及び観念が共通するから、全体として類似の商標である。
ウ 被請求人の業務
本件商標は、被請求人が2008年以降に使用を開始したものであり、平成25年(2013年)5月1日に出願されている(甲1)。上述したとおり、請求人は、引用商標1を、1996年から使用を開始し、その直後から需要者に広く知られるに至っているから、引用商標1は、本件商標の出願時においてすでに周知であったことは明らかである。
エ 商標法第4条第1項第10号該当性
本件商標は、その出願時にすでに請求人の飲食店及びそこで販売される商品を表示する商標として需要者の間に広く知られていた引用商標1と類似する商標を、その役務「飲食物の提供」と同一の役務について使用するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
上述のとおり、引用商標1は、本件商標の出願時に著名であったことは明らかであり、本件商標は、引用商標1及び引用商標2と類似する商標である。また、本件商標の指定役務「飲食物の提供」は、引用商標1が使用される役務と同一である。本件商標の役務と、引用商標1の役務は同一であり、それぞれの商標が類似するため、本件商標を「飲食物の提供」に使用した場合には、需要者にその主体が引用商標の業務主体と組織的又は経済的に何らかの関係があるものの業務に係るものと混同を生じさせることは明らかである。
したがって、本件商標は、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であって、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第7号及び同第19号該当性について
本件商標は、その出願時においてすでに請求人の商標として著名であった引用商標1と類似している。また、引用商標1は、他の同業者が使用している商標にはない独創的な特徴を有している点からみても、被請求人が、これと酷似する本件商標を偶然に採択し、創作されたことは絶対にあり得ない。
被請求人のホームページによれば、被請求人について、次のとおり記載されている。「グループに製麺会社を有し、麺業態を中心に成長を続けてきました。現在は、つけ麺業態、油そば業態、ラーメン業態、焼き肉業態など、外食産業の中で様々な業態を展開しております。」そして、創業は、1983年11月とされ、同時にラーメン業態を開始し、その後2002年4月につけ麺業態を開始しているが、「油そば業態開始」は、2008年1月と記載されている。また、飲食店の情報サイトのFOODLABOのサイトによれば、同年10月に赤坂見附に1号店を開店しているので、本件商標の使用の開始は、最も早い場合でも2008年1月以降と推測される(甲35?甲37)。
すなわち、請求人が、引用商標1の使用を開始して、11年後に被請求人が、これと類似する本件商標を出願したことは、正に周知である引用商標1を剽窃したものと断定せざるを得ないのである。互いに需要者が競合する、引用商標1の存在を知りながら、請求人が出願をしていないことに乗じて、出願を行ったものである。
このような被請求人の行為は、請求人の正当な利益を害するものであって、ひいては、公正な競業秩序を害するものであり、本件商標の登録は、著しく社会的相当性を欠くものとして、公序良俗に反することは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
また、被請求人は、上述のとおり、その構成の共通性から、本件商標の使用を開始する2008年1月より前に、請求人が引用商標1を指定商品や使用役務等に使用していた事実を知っていたことは、明らかである点に鑑みれば、請求人の名声にフリーライドする意図があったことは明白であり、「不正の目的」をもって出願されたものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)結論
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第7号及び同第19号に反して登録されたことは明らかであり、商標法第46条第1項第1号により無効にされるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)引用商標の識別性について
被請求人は、三省堂国語辞典を根拠に、「油そば」は、「一種の普通名称」であると主張しているが、その根拠である辞典については証拠として添付されていないため、その真偽は不明である。他方、「広辞苑」には、「油そば」についての記述はない。
したがって、「油そば」が普通名称であるという被請求人の主張は採用されるべきではない。
次に、被請求人は、「油そば」の使用実態について、「拒絶査定不服審判の審決(乙1)も参照されたい。」としているが、当該審決のどの部分をもって、どのような「使用実態」を指摘し、何を主張したいのか不明であることから、請求人はこれに反駁することができない。
また、「漢字一文字の横に平仮名を縦書きにするというものは、普通に採択されるもので、ありふれている」と主張しているが、構成がありふれていることのみをもって、商標の識別力を否定する根拠とはならない。そもそも、構成がありふれていると被請求人が主張する根拠として提出された乙第2号証ないし乙第11号証については、その主張の根拠とすることは明らかに誤りである。
特に、乙第2号証ないし乙第6号証にいたっては、引用商標1に化体した信用にただ乗りしている者が多数存在することの証拠にすらなる。これらには、引用商標1と同様の構成からなる「油そば」の文字が看板に掲げられている写真が掲載されているが、これらはすべて、平成9年に請求人が引用商標1の使用を開始し、需要者に広く知られるに至った平成21年以降に業務を開始したものである(甲39?甲43)。
したがって、これらは、引用商標1と同様の構成を有する商標を使用している他店が存在する事実を表しているにすぎず、本件商標に係る指定役務の分野において、引用商標1の構成がありふれていたことの証拠にはなり得ない。むしろ、請求人による油そばの提供が人気を博していること知り、引用商標1の構成を模倣し、剽窃的に使用していることの証拠となると考えられる。すなわち、「油そば」の店舗であることを表現しようとした場合、例えば、甲第44号証ないし甲第46号証に表されるように、様々な方法で表現することが可能であるのに、同様の構成を有する店舗が複数存在するという事実は、引用商標1の構成が独創的であり、識別力を有することの証左である。
本願商標に接する者は、この外観上の顕著な特徴により、単なる「油そば」の表示とは異なる、一定の出所に係る商品であることを十分に認識できるものであり、この外観上の特徴により自他商品の識別が十分可能である。その証拠として、上述のとおり、引用商標1に化体した信用に便乗し、その商標の態様が模倣されて使用されているのである。
(2)引用商標の周知・著名性について
被請求人は、引用商標2が、「油そば」と「東京麺珍亭本舗」が結合されており、引用商標1のみが使用されていないから、引用商標1は、周知・著名性を獲得していないと主張している。
しかしながら、引用商標2の構成要素のうち、引用商標1が目立つ態様で表されていることは外観上明白であり、引用商標2に接した需要者が、この部分を無視して「東京麺珍亭本舗」のみを識別標識として認識することはあり得ない。
引用商標1は、その特徴的な構成により、出所識別機能を発揮しているがゆえに、他人の模倣を惹起している。さらに、引用商標1と「東京麺珍亭本舗」部分とは、明らかに分離した構成であり、そのフォントも異なるため、引用商標1と「東京麺珍亭本舗」が、外観上、必ず一体として認識されているということはない。すなわち、請求人が引用商標2を使用することにより、各構成要素が別個に識別力を発揮していることに議論の余地はない。
また、被請求人は、「長期間にわたって、全国的に、継続的に使用されていることを確認することができない」として引用商標の周知性を否定しているが、甲第6号証ないし甲第8号証及び甲第12号証等から使用期間、使用地域は明らかなとおり、請求人は、1997年から引用商標を使用して、現在に至るまで継続的に、引用商標を使用して飲食物の提供を行っている。
さらに、広告宣伝の方法や回数が確認できる証拠がないことが指摘されているが、一般的には、商標の周知性を判断するにあたって、これらの情報が1つの目安となることは確かであるが、それはあくまでも1つの目安であり、すべてではない。つまり、広告には多額の費用がかかるため、請求人の業務である油そばの提供などのように、小規模の麺類を提供する店舗では、費用をかけた広告宣伝は一般的ではない。この業界における広告活動としては、例えば、今までにない新しいメニューを提供する、イベントを行うなどにより注目を集め、それをいわゆる口コミで需要者に広げるのが一般的である(甲47)。かかる観点からみると、請求人は、1997年に油そばを提供する店舗を開業したところ、「油そば」というメニューが珍しいものであったことが、まさに広告として機能したことで、瞬く間に需要者に知られるに至ったのである。甲第6号証ないし第21号証に示すとおり、新聞や雑誌に掲載されたことがその証左である。これらの記事について、請求人が広告宣伝費を一切かけたことはなく、記事を書いた人が請求人店舗にわざわざ来店して取材した上で、記事として掲載してくれたものである。2017年時点で、日本には、約32,000軒ものラーメン店が存在している(甲48)。これほど多くの競合が存在する中において、請求人の店舗が全国紙や全国に販売される有名雑誌に掲載されていることは、請求人の業務及び引用商標1が需要者に広く認識されるに至っている明らかな証拠である。
(3)引用商標と本件商標の類否
引用商標1が、識別力を発揮しないことを前提として、引用商標と本件商標が非類似であると主張しているが、上述したとおり、引用商標1は、それ自体特徴的な構成を有し、識別標識として機能しうるものである。したがって、引用商標の認定という商標の類否の前提が誤っている。
また、被請求人は、その主張の根拠として、最高裁判決を2件引用している(最高裁平成19年(行ヒ)第223号及び最高裁平成3年(行ツ)第103号)が、これら判決はそれぞれ個別の事情を考慮した上での判断であり、原則ではない。
本件商標と引用商標2のうち、需要者に強く印象づけられる外観は、目立つように構成されている「油そば」の部分とそれぞれの下部に配された「東京・・・本店」と「東京・・・本舗」で構成されているという点であり、かかる構成全体から認識される外観上の全体的印象が紛らわしいことは一見して明らかである。特に、両商標の上部の「油そば」部分については、その構成が互いに紛らわしいことは議論の余地はない。
本件商標と引用商標のいずれの商標も、分離して観察することが取引上不自然といえるほどの結合はない。したがって、いずれの商標からも「アブラソバ」の称呼が生ずる。さらに、引用商標中「油そば」及び本件商標中「油そば」からは、「油そば」の観念が生じる。
加えて、本件商標を構成する「東京油組総本店」と引用商標2を構成する「東京麺珍亭本舗」は、語頭の「東京」が共通し、その間に3文字を挟んで、語尾は 「本店」と「本舗」で非常に紛らわしい。そのため、上部の「油そば」の印象の強さと下部の文字の共通性から、全体として、その外観について相紛れるおそれがある。
よって、本件商標と引用商標2とは外観、称呼、観念のいずれの観点においても相紛れるおそれのある類似商標である。
また、本件商標と引用商標1についても、本件商標を全体として一体の商標と認定する合理的根拠はないから、これらが外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのある類似商標であることは明らかである。
本件商標は、その出願時にすでに請求人の飲食店及びそこで販売される商品を表示する商標として需要者の間に広く知られていた引用商標と類似する商標を、その役務「飲食物の提供」と同一の役務について使用するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標1は、「油そば」の部分に独創性があり、識別力があり、長年の使用により周知著名な商標となったことは、審判請求書に添付した証拠により十分に証明されている。また、本件商標は、引用商標1及び引用商標2と類似する商標であることは、上述したとおりである。
加えて、請求人が提供する「油そば」を含む麺類を提供する業界においては、のれん分け制度を採用しているところが多く見られる。具体的には、本店において技術を学び、そのノウハウをもって、独立して新規の店舗をオープンすることが行われる。その際、完全に同一の名称を使用する場合のみならず、多少のアレンジを加えた店舗名を使用することがよく行われている。一例を挙げれば、「極上豚骨 麺屋白虎」と「博多豚骨 麺処白虎」のようなアレンジである(甲49)。
このような慣習のある業界において、同様の創作的構成を有する部分と「東京油組総本店」と「東京麺珍亭本舗」といういかにも、のれん分けをしたかのような似通った文字列を組み合わせてなる店舗名が、油そばの提供という同一の業務について、別人により使用されていれば、引用商標の業務主体と組織的又は経済的に何らかの関係があるものの業務に係るものと混同を生じさせることは明らかである。
したがって、本件商標は、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であって、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第7号及び同第19号該当性について
本件商標は、その出願時においてすでに請求人の商標として著名であった引用商標と類似している。
被請求人のホームページによれば、被請求人について、「グループに製麺会社を有し、麺業態を中心に成長を続けてきました。現在は、つけ麺業態、油そば業態、ラーメン業態、焼き肉業態など、外食産業の中で様々な業態を展開しております。」と記載されており、創業は、1983年11月とされ、同時にラーメン業態を開始し、その後2002年4月につけ麺業態を開始している(甲35?甲37)。このように麺業界を中心に業務を拡大してきた被請求人が、1997年には、既に使用を開始していた請求人の存在及び引用商標を知らなかったとは到底考えられない。
引用商標1は、他の同業者が使用している商標にはない独創的な特徴を有している点からみても、被請求人が、引用商標と酷似する本件商標を偶然に採択し、創作されたことは絶対にあり得ない。油そばを提供する店舗であることを表現するには、別の方法で記載することが可能だったはずである。これをあえて、引用商標1と同様の構成で、フォントを違えたのみで表現する必要性は全くない。さらに、その下部に、またあえて「東京・・・本舗」と引用商標2の構成と紛らわしい表示を用いる必然性があるはずもない。
したがって、被請求人が、請求人の提供する油そばが人気であることに目を付け、その人気にただ乗りすることを企図してこれを模倣したことは明らかである。
このような被請求人の行為は、請求人の正当な利益を害するものであって、ひいては、公正な競業秩序を害するものであり、本件商標の登録は、著しく社会的相当性を欠くものとして、公序良俗に反することは明らかである。
なお、引用商標1の構成と同様の漢字一文字の横に平仮名を縦書きにするというものは、普通に採択されるもので、ありふれているとの主張については、その根拠として提出された証拠が、すべて請求人が業務を開始した後に使用が開始されたものであって、不適切であって、失当である。
以上のとおり、被請求人及び上記の模倣盗用者の商標の存在は、長年の使用によって著名性を獲得した商標に化体した信用を破壊するものであって、ひいては需要者の利益も損なうものである。かかる登録商標の存在は、商標法の法目的である健全な競業秩序の維持にも反することになる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
また、被請求人は、上述のとおり、その構成の共通性から、本件商標の使用を開始する2008年1月より前に、請求人が引用商標1を指定商品や使用役務等に使用していた事実を知っていたことは、明らかである点に鑑みれば、請求人の名声にフリーライドする意図があったことは明白であり、「不正の目的」をもって出願されたものである。
なお、「本件商標は、被請求人が店の看板として使用してきたものである」とされているが、店の看板としていつから何処でその使用が開始されたものであるのかの記載がなく、その主張に根拠がない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第14号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号について
(1)引用商標1の識別力について
「油そば」は、「スープのないラーメン。ゆでた中華めん・具と、少量のしょうゆだれ・油が、はいっている。自分でまぜて食べる。」(「三省堂国語辞典第七版」株式会社三省堂)とあるように、ラーメンの一種の普通名称である。
よって、「油そば」の文字自体、これが独立して自他商品・役務の識別標識として需要者に認識されることはない。なお、「油そば」の使用実態については、引用商標1について、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、平成27年2月19日に請求人が行った商標登録出願の、平成29年1月26日確定の拒絶査定不服の審決(乙1)も参照されたい。
この点、請求人は、引用商標1を独自に採択・創作したのであって、その態様は、需要者に強いインパクトを与えるものであるから、同商標が独立して自他商品・役務の識別標識として需要者に認識されるなどと主張する。しかし、これには理由がない。
漢字一文字と平仮名から構成される商標について、店の看板等で使用されるデザインとして、漢字一文字の横に平仮名を縦書きにするというものは、普通に採択されるもので、ありふれている(乙2?乙11)。よって、引用商標1は、特殊な態様とはいえず、需要者に強いインパクトを与えるものでもない。
現に、上記拒絶査定不服の審決(乙1)では、以下のように判断されている。
「本願商標の構成中に大きく表された『油』の文字は、提供する飲食物で使用されている主な料理材料をわかりやすく表示しているにすぎず、本願指定役務に係る業界において、この程度のデザイン化は、店の看板等で普通に採択、使用されるものであり、その構成全体をみても、『油そば』の文字を表現したものとして十分に理解できるものであるから、その構成が決して特殊な態様からなるものということはできないというのが相当である。」
以上より、本件商標の出願時又は登録時において、引用商標1には識別力がなかったことは明らかである。
(2)引用商標1の周知・著名性について
請求人は、1997年より、引用商標1を使用していたと主張する。請求人が提出した証拠によれば、引用商標1は、店の看板、丼ぶり、通信販売用商品のパッケージに認められる。
しかし、これらには全て、「油そば」の文字と併せて「東京麺珍亭本舗」等の文字が表示されて使用されている。すなわち、請求人は、引用商標1と同一の態様のみの商標を使用していない。よって、これらの実情が引用商標1の周知・著名性獲得に寄与し得ないことは明白である。
この点、上記拒絶査定不服の審決(乙1)でも、以下のように判断されている。
「提出された証拠からは、本願商標と同一の構成態様からなる『油そば』の文字のみの使用は見当たらず、『油そば』の文字と併せて『東京麺珍亭本舗』等の文字が表示されて使用されているものであるから、本願商標が、独立して自他役務の識別標識として、需要者に認識されているとする実情を証明しているとはいえないものである。
そうすると、請求人が提出した証拠によっては、本願商標が長期間にわたって、全国的に、継続的に使用されていることを確認することができず、また、これらの証拠のほかに、本願商標の、使用期間、使用地域、営業の規模、売上高並びに広告宣伝の方法及び回数等を確認することができる証拠の提出はない。
そして、上記1で認定した本願商標から生ずる意味合い及び『油そば』の文字の他人による使用状況を鑑みると、本願商標が需要者の間に広く知られているということはできないというのが相当であり、本願商標は、使用された結果、需要者が出願人の業務に係る役務であることを認識するに至っているということができない。」
上述した、引用商標1の態様が、普通に採択され、ありふれたものであり、出所識別標識としての識別力がないことも考慮すると、需要者が引用商標1を請求人の業務に係る商品・役務であることを認識していたはずがなく、また、引用商標1が請求人の業務に係る商品・役務を表示するものとして、本件商標の出願時又は登録時において、周知・著名になっていたはずもない。
(3)引用商標1と本件商標の類否について
請求人は、本件商標について、上段の「油そば」と下段の「東京油組総本店」に一体感は感じられず、「油そば」と「東京油組総本店」はそれぞれ別個に識別力を発揮するということを前提に、引用商標1と本件商標は類似するなどと主張する。
しかし、本件商標は、「油そば」と「東京油組総本店」の上下二段で構成されているが、「油そば」の部分について識別力がないことは、上述した引用商標1と同様である。一方、「東京油組総本店」は、被請求人のいわゆるハウスマークであるから(乙14)、「東京油組総本店」の部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えていることは明らかである。
よって、本件商標は、「油そば」の上段からは出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「油そば」と「東京油組総本店」全体として又は「東京油組総本店」の部分としてのみ称呼、観念が生じる。
そうすると、引用商標1と本件商標の全体又は「東京油組総本店」の部分が類似していないことは自明であるから、請求人の主張に理由がないことは明らかである。
仮に、百歩譲って、引用商標1と本件商標の「油そば」の部分を対比したとしても、これらは類似していない。上述のとおり、「油そば」は普通名称であり、漢字一文字の横に平仮名を縦書きにするというデザインはありふれたものであるから、これらを比較しようとすると、書体に着目する他ない。そこで、書体について見てみると、引用商標1は、「油」の部分がマジックで書いたような書体で、「そば」の部分が勘亭流フォントである。一方、本件商標の「油そば」の「油」は、毛筆で書いたような書体で、「そば」の部分は、手書き風のゴシック体に近い書体である。このように、引用商標1と本件商標の「油そば」の部分は、唯一着目し得る書体において、明確に異なるから、これらが類似しているはずがない。
(4)小括
上述のとおり、引用商標1は、本件商標の出願時又は登録時において、請求人の業務に係る商品・役務を表示する識別標識として需要者に認識されておらず、まして、引用商標1が周知・著名となっていなかったことは明らかであり、また、引用商標1と本件商標は類似しないから、請求人の商標法第4条第1項第10号についての主張は、全く失当である。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標1が本件商標の出願時又は登録時において、著名でなかったこと、及び引用商標1と本件商標が類似しないことは上記1のとおりである。
一方、引用商標2は、第30類「中華麺」を指定商品としたもので、引用商標1と同一の態様の「油そば」と「東京麺珍亭本舗」の上下二段で構成されている。「油そば」の部分について識別力がないことは、上記1のとおりである。また、「東京麺珍亭本舗」は、請求人のいわゆるハウスマークであるから、「東京麺珍亭本舗」の部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えている。
上記を踏まえ、本件商標と引用商標2の類否について検討すると、まず、本件商標と引用商標2は、指定役務・商品が類似していない。また、需要者に対し、出所識別標識として強く支配的な印象を与える、本件商標の「東京油組総本店」と引用商標2の「東京麺珍亭本舗」は、外観・称呼・観念全てが全く異なる。よって、本件商標と引用商標2は、全体的に見ても、また、出所識別標識として強く支配的な印象を与えている部分で見ても、類似していないことは明らかである。
上述したように互いに全く類似していない本件商標を被請求人が自己の業務に使用したとしても、請求人の業務に係る商品(審決注:「役務」の誤記と思われる。)と混同を生ずるはずがない。
よって、請求人の商標法第4条第1項第15号についての主張は失当である。
3 商標法第4条第1項第7号及び同第19号該当性について
引用商標1が本件商標の出願時又は登録時において、著名でなかったことは上記1のとおりである。
請求人は、引用商標1について、他の同業者が使用している商標にはない独創的な特徴を有しており、被請求人が本件商標を偶然に採択し、創作したことは絶対にあり得ないなどと主張するが、失当である。
上記1のとおり、漢字一文字と平仮名から構成される商標について、店の看板等で使用されるデザインとして、漢字一文字の横に平仮名を縦書きにするというものは、普通に採択されるもので、ありふれている。「油」の字の横に「そば」を縦書きしている同業者も多く見られる。油そば専門店春日亭(乙2)は、2009年5月、油そば一二三(乙3)は、2011年8月、油そば専門店はてな(乙4)は、2012年12月、油そば東京煮干屋本舗(乙5)は、2013年4月というように、複数の同業者が本件商標の出願日より前に営業を開始している。
すなわち、本件商標の登録時において、「油」の字の横に「そば」を縦書きするという態様は、何ら独創的なものではなく、ありふれたものになっていたのである。さらに、上記1のとおり、唯一着目し得る書体について見たとしても、引用商標1と本件商標の「油そば」の部分は全く異なり、これらが類似しているとは到底いえない。
また、本件商標は、被請求人が店の看板として使用してきたものである(乙14)。このように現に使用してきた商標を出願し、登録しようとすることは、被請求人の営業努力によって当該商標に化体した信用を守るために、当然、かつ、自然に行うことであって、公序良俗に反するものでないことは明らかである。
一方、請求人は、被請求人に、請求人の名声にフリーライドする意図があったなどと主張するが、そのような意図は、全くないし、あり得ない。
上記1のとおり、引用商標1は、出所識別標識としての識別力がなく、周知・著名にもなっていなかったので、請求人の業務に係る商品・役務であることを需要者が認識していたはずがなく、需要者は、引用商標1から商品・役務の品質・質を理解していたにすぎない。そうすると、引用商標1には、フリーライドし得るような信用がそもそも化体していたはずがない。
また、引用商標2との関係では、上記2のとおり、引用商標2と本件商標は、非類似である。
よって、請求人の商標法第4条第1項第7号及び同第19号についての主張も失当である。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。
1 引用商標について
(1)引用商標の構成
引用商標1は、別掲2に示すとおり、「油」の文字を赤色で大きく表し、その右横に「そば」の文字を赤色でやや小さく縦書きしてなるところ、その構成からは、「油」の文字を強調した「油そば」の文字を表現したものとして無理なく自然に理解できるものである。
また、引用商標2は、別掲3に示すとおり、「油」の文字を大きく表し、その右横に「そば」の文字をやや小さく縦書きしてなり、その下部に「東京麺珍亭本舗」の文字を小さく配した構成からなるものであるところ、その構成中の「油」及び「そば」の文字は、上記と同様に「油」の文字を強調した「油そば」の文字を表現したものとして無理なく自然に理解できるものである。
(2)引用商標の自他商品・役務の識別標識としての機能について
「油そば」の文字は、「中華麺をスープに入れず、醤油だれや食用油・酢などであえた料理。焼き豚・メンマ・ネギなどの具をのせる。昭和30年代に東京の多摩地方のラーメン店が始めた。」(「大辞泉第二版」株式会社小学館)、「スープのないラーメン。ゆでた中華めん・具と、少量のしょうゆだれ・油が、はいっている。自分でまぜて食べる。」(「三省堂国語辞典第七版」株式会社三省堂)等の意味を有する語であり、一般にそのような意味で使用されていること、及び、同業者が引用商標1と同じような「油」の字の横に「そば」を縦書きするという態様で店舗の看板等において普通に採択、使用していることが、以下のとおり確認できる。
ア 1997年4月1日付け「日刊スポーツ」に、「食 汁なしラーメン『油そば』がひそかなブーム カロリーも意外と低い」との見出しの下、「『油そば』がひそかなブームを呼んでいる。ゆがいたメンに油、タレ、ラー油、酢などを混ぜ合わせて食べるもの。簡単にいえば、汁なしラーメン。」、「JR中央線東小金井駅の南口駅前にも『油そば』を食べさせる店『宝華』がある。こちらも、めんの上に、カイワレ、チャーシュー、ネギなどがのっているほかは、汁はほとんどなし。」の記載がある(甲7)。
イ 1997年5月号NO.211「CHECK MATE(チェックメイト)」に、「新東京ラーメンは、スープなしの″油そば″なのだ!」の見出しの下、「東小金井 一平ソバ・・・毎日通う客もいるここの油そばは、こってりとあっさりのバランスが絶妙。」、「東小金井のんき亭・・・さっぱり味で軽めの油そばは、女のコにも大人気。」の記載がある(甲18)。
ウ 1999年2月8日第2刷「ラーメン王」に、「スープの無いラーメン″油そば″。その歴史は意外と古く、昭和34年に武蔵境の『珍々亭」が作ったのが最初と言われている。」の記載がある(甲20)。
エ 「油そば専門店 春日亭」のウェブサイトにおいて、「『渋谷の油そばといったら『春日亭』とゆってもらえるお店」の記載及び「油」の文字を赤色で大きく表し、その右横に「そば」の文字をやや小さく縦書きした看板の写真が掲載されている(乙2)。
オ 「油そば 一二三『ひふみ』」のウェブサイトにおいて、「平成二十三年創業仙台初の油そば専門店」の記載及び「油」の文字を赤色で大きく表し、その右横に「そば」の文字をやや小さく縦書きした看板の写真及び丼の写真が掲載されている(乙3)。
カ 「油そば はてな」のウェブサイトにおいて、「もちもち自家製麺と秘伝のたれで最高の油そばを提供いたします。」の記載及び「油」の文字を赤色で大きく表し、その右横に「そば」の文字をやや小さく縦書きした看板の写真が掲載されている(乙4)。
以上を踏まえると、「油そば」の語は、「自分でまぜて食べるスープのないラーメン」を表したものと一般に理解されるものである。
また、「油」の文字を大きく表し、その右横に「そば」の文字をやや小さく縦書きしてなる構成は、本件商標の指定役務に係る業界等においても、この程度のデザイン化は一般に行われているものであって、店の看板等に普通に採択、使用されるものであり、その構成全体を見ても、「油そば」の文字を表現したものとして十分に理解できるものであるから、特殊な構成からなるものということはできない。
そして、引用商標1と同様の構成からなる「油そば」の文字の使用に関しては、ラーメン業界において、同業者が店舗の看板等において普通に採択、使用している実情があることからすれば、これに接する需要者をして、特定の者の出所を表示する商標として強く印象付けられるものということはできない。
そうすると、請求人が、引用商標1を「油そばを主とする飲食物の提供」、「油そば」を作るための「中華麺」「調味料」「香辛料」「たれ」等に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に提供される料理名や商品の用途を表示したものとして理解するにとどまるものというべきである。
してみると、引用商標1は、「飲食物の提供」の役務及びこれに関する「中華麺」「調味料」「香辛料」「たれ」等の商品との関係において、自他商品・役務の識別標識としての機能を有するとはいい難いものである。
また、引用商標2の構成中の「油そば」の文字部分についても同様に、指定商品「中華麺」との関係においては、その商品の用途を表示したものを理解させるにとどまるものであるから、引用商標2における自他商品の識別標識としての機能を有するのは、「東京麺珍亭本舗」の文字部分であるというのが相当である。
(3)引用商標の周知・著名性について
請求人は、引用商標1について、請求人の経営する店舗やそこで提供している「油そば」が紹介されている新聞記事情報、インターネット情報及び雑誌等の書籍を挙げ(甲6?甲35)、これらの媒体に紹介されることにより、提供している「油そば」や請求人の役務が提供される店舗及び商品を表示する商標として、広く需要者の間に知られるようになった旨主張している。
しかしながら、請求人から提出された証拠は、引用商標1と同一の構成からなる「油そば」の文字のみの使用は極めて少なく、「油そば」の文字と「東京麺珍亭本舗」等の文字が併せて使用されているものがほとんどであるから、引用商標1が、独立して自他商品・役務の識別標識として、需要者に認識されているとする実情を証明しているとはいえない。また、上記1(2)のとおり、引用商標1と似通った表示を使用して油そばの提供を業とする事業者も多数存在する。
そして、引用商標1に関する営業の規模、売上高、市場シェア並びに広告宣伝の方法及び回数等、その周知、著名性を量的に把握することができる証拠の提出もない。
また、引用商標2についても、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間で広く認識され周知になっていたという状況を確認することはできない。
そうすると、請求人が提出した証拠によっては、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして、需要者の間に広く知られていたということはできない。
2 商標法第4条第1項第10号の該当性について
(1)本件商標
本件商標は、別掲1に示すとおり、「油」の文字を赤色で大きく表し、その右横に「そば」の文字を赤色でやや小さく縦書きしてなり、その下部に「東京油組総本店」の文字を赤色で小さく配した構成からなるものであるところ、その構成中の「油」及び「そば」の文字は、引用商標の構成と同様に「油」の文字を強調した「油そば」の文字を表現したものとして無理なく自然に理解できるものである。
そして、本件商標の構成中「油そば」の文字部分については、上記1と同様に、指定役務「飲食物の提供」との関係においては、自他役務の識別標識としての機能を有するものとはいい難く、本件商標において自他役務の識別標識としての機能を果たすのは、「東京油組総本店」の文字部分であるというべきである。
そうすると、本件商標からは、その構成全体から生ずる「アブラソバトーキョーアブラグミソーホンテン」の称呼と共に、自他役務の識別標識としての機能を有する「東京油組総本店」の文字部分に相応して、「トーキョーアブラグミソーホンテン」の称呼が生ずるものである。また、観念については、「東京油組総本店」という店の名称を表したものと理解される場合があるというにとどまるというべきである。
(2)引用商標1
引用商標1は、別掲2に示すとおり、「油」の文字を赤色で大きく表し、その右横に「そば」の文字を赤色でやや小さく縦書きしてなるところ、その使用役務とこれに関する「中華麺」「調味料」「香辛料」「たれ」等の商品との関係においては、役務の提供に供する料理名や商品の用途を表すものと認識されるにすぎず、自他商品・役務の識別標識としての機能を有するものとはいい難いものであるから、引用商標1からは、出所識別標識としての称呼及び観念は生じない。
(3)本件商標と引用商標1の類否
本件商標と引用商標1とは、外観においては、「東京油組総本店」の文字の有無という明確な差異を有するものであり、称呼及び観念においても互いに紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
(4)小括
以上のとおり、引用商標1は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできないものであり、本件商標と引用商標1は非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号の該当性について
(1)本件商標と引用商標の類似性の程度
本件商標は、前記2(3)のとおり、引用商標1と類似しない別異のものである。
また、引用商標2は、別掲3に示すとおり、「油」の文字を大きく表し、その右横に「そば」の文字をやや小さく縦書きしてなり、その下部に「東京麺珍亭本舗」の文字を小さく配した構成からなるものであり、その指定商品との関係において、自他商品の識別標識として機能するのは、「東京麺珍亭本舗」の文字部分であるというべきであって、本件商標と引用商標2とは、その指定商品・役務との関係において、自他商品・役務の識別標識として機能する「東京油組総本店」と「東京麺珍亭本舗」の部分において、明確な差異を有するから、両者は、外観において相違し、称呼及び観念において紛れるおそれのない別異の商標というのが相当である。
(2)引用商標の周知性
引用商標は、前記1(3)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできない。
(3)商品・役務の関連性
本件商標に係る指定役務には、第43類「飲食物の提供」が含まれるものである。
他方、引用商標1に係る使用商品・役務は、「油そばを主とする飲食物の提供」及び「油そば」を作るための「中華麺」「調味料」「香辛料」「たれ」等の商品であって、引用商標2に係る指定商品は、第30類「中華麺」である。
そうすると、本件商標に係る指定役務中の「飲食物の提供」と引用商標1に係る使用役務「油そばを主とする飲食物の提供」は、同一又は類似する役務であり、また、本件商標に係る指定役務と引用商標1に係る使用商品及び引用商標2に係る指定商品とは、「飲食物の提供」と「提供される食材」という関係であり、互いに関連性のある商品・役務といえるものである。
(4)需要者の共通性
本件商標に係る指定役務と引用商標に係る商品・役務は、飲食店の顧客、食材を購入する一般人という観点からすれば、両者に係る需要者は共通性を有するものといえる。
(5)小括
本件商標に係る指定役務と引用商標に係る商品・役務とが互いに関連性を有するものであり、その需要者が共通するとしても、本件商標と引用商標とは、別異の商標であり、かつ、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできないものである。
そうすると、本件商標をその指定役務について使用しても、これに接する取引者、需要者が、引用商標を想起するとはいえず、当該役務が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように誤認し、その出所について混同を生ずるおそれはないというのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号の該当性について
引用商標は、前記1(3)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできず、本件商標は、前記2及び3のとおり、引用商標とは別異のものである。
そして、被請求人が本件商標を、不正の目的をもって使用しているというべき証拠及び事情は認められない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号の該当性について
請求人は、引用商標1が本件商標の出願時においてすでに請求人の商標として著名であったことを前提として、被請求人が本件商標の出願をした行為は、請求人の正当な利益を害するものであって、ひいては、公正な競業秩序を害するものであり、本件商標の登録は、著しく社会的相当性を欠くものとして、公序良俗に反する旨主張するが、引用商標は、前記1(3)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできず、本件商標は、前記2及び3のとおり、引用商標とは別異のものであるから、この主張は、前提を欠くものであり採用することができない。
加えて、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成のものとはいえず、これをその指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものともいえない。また、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものともいえず、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもなく、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような特別の事情があるともいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 請求人の主張について
請求人は、ラーメン業界において、同業者が店舗の看板等に引用商標1と同様の構成からなる「油そば」の文字を使用している例(乙2?乙6)に関して、請求人が、平成9年に引用商標1の使用を開始し、周知となった平成21年以降に業務を開始した者による模倣である旨主張しているが、これを裏付ける具体的な証拠はない。
また、業界における広告活動としては、例えば、今までにない新しいメニューを提供する、イベントを行うなどにより注目を集め、それをいわゆる口コミで需要者に広げるのが一般的であって、請求人の店舗が全国紙や全国に販売される有名雑誌に掲載されていることは、請求人の業務及び引用商標1が需要者に広く認識されるに至っている明らかな証拠である旨主張するも、甲第47号証のみをもって、当該広告活動が一般的であるということはできず、その他に請求人が開催するイベント等により、引用商標が注目を集めたというような事情も認められない。
さらに、請求人は、本件商標と引用商標2は、その構成中の「油そば」部分について、その構成が互いに紛らわしく、本件商標構成中の「東京油組総本店」と引用商標2の構成中の「東京麺珍亭本舗」は、語頭の「東京」が共通し、その間に3文字を挟んで、語尾は「本店」と「本舗」で非常に紛らわしいため、上部の「油そば」の印象の強さと下部の文字の共通性から、全体として、その外観について相紛れるおそれがあるとして、本件商標と引用商標2とは外観、称呼、観念のいずれの観点においても相紛れるおそれのある類似商標である旨主張している。
しかしながら、両商標の構成中の「油そば」の文字部分は、その指定商品及び指定役務との関係においては、自他商品・役務の識別標識としての機能を有するものとはいい難いことは、上述のとおりであり、また、「東京油組総本店」と「東京麺珍亭本舗」とは、明確な差異を有するから、両商標は、外観において相違し、称呼及び観念において紛れるおそれのない別異のものというのが相当である。
加えて、請求人は、業界におけるのれん分け制度の例(甲49)を挙げ、「東京油組総本店」と「東京麺珍亭本舗」とは出所の混同を生じる旨の主張をしているが、挙げられた事例は、のれん分けの一例にすぎず、これを本件にあてはめて判断する理由はない。
したがって、請求人の主張は、いずれも採用することができない。
7 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第第10号、同第15号、同第19号及び同第7号に該当するものではなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1
本件商標(登録第5626361号商標)(色彩については原本参照)



別掲2
引用商標1(色彩については原本参照)



別掲3
引用商標2(登録第5142467号)


審理終結日 2018-07-02 
結審通知日 2018-07-04 
審決日 2018-07-24 
出願番号 商願2013-36455(T2013-36455) 
審決分類 T 1 12・ 271- Y (W43)
T 1 12・ 22- Y (W43)
T 1 12・ 25- Y (W43)
T 1 12・ 222- Y (W43)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小俣 克巳 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 冨澤 美加
鈴木 雅也
登録日 2013-11-01 
登録番号 商標登録第5626361号(T5626361) 
商標の称呼 ソバアブラ、アブラソバ、トーキョーアブラグミソーホンテン、トーキョーアブラグミ、アブラグミソーホンテン、アブラグミ 
代理人 ▲辻▼山 尚志 
代理人 松島 鉄男 
代理人 有原 幸一 
代理人 奥山 尚一 
代理人 小川 護晃 
代理人 五十嵐 里絵 
代理人 亀卦川 巧 
代理人 高橋 菜穂恵 

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