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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W09
管理番号 1343135 
審判番号 無効2017-890082 
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-12-20 
確定日 2018-07-23 
事件の表示 上記当事者間の登録第5918363号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5918363号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第5918363号商標(以下「本件商標」という。)は,「GNS」の欧文字を標準文字で表してなり,平成28年6月16日に登録出願,第9類「GPS受信機,電気通信機械器具,ナビゲーション装置,位置情報探知機,測定機械器具,アンテナ,電子応用機械器具及びその部品」を指定商品として,同年12月8日に登録査定,同29年2月3日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第30号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)無効原因
ア 請求人について
(ア)請求人は,請求人と同住所にかかるGNS Global Navigation Systems GmbH(以下「旧GNS社」という。なお,「Global Navigation Systems GNS GmbH」の誤りと認める。)から商標権を含む財産を譲り受けた法人である。売買契約により,旧GNS社の商標権を含む財産は,請求人を含むジー・エヌ・エス ゲー・エム・ベー・ハー企業連合(GNS GmbH I.G.)に対して譲渡された(甲3)。
(イ)旧GNS社は,1998年(平成10年)にドイツ連邦共和国のビュルセレンにおいて設立され,2016年(平成28年)11月に請求人に商標権を含む財産を譲渡するまでの間,全地球測位システム(GPS)やトラフィック・メッセージ・チャンネル(TMC),また,GPSアンテナモジュールやGPSレシーバーを含む電子応用機械器具を製造し,販売していた会社である(甲3,甲4)。旧GNS社は,2002年(平成14年)2月に,ドイツ連邦共和国において文字「GNS」からなる商標につき,「テレマティックスシステム装置,ナビゲーションシステム装置」を含む商品及び役務を指定商品及び指定役務として商標登録を受けた(甲5)。なお,このドイツにおける商標登録は,旧GNS社により2011年(平成23年)9月に更新登録が行われている。
(ウ)旧GNS社は,商標「GNS」が使用されている上記製品を我が国を含む中国,台湾などの国々に輸出していた。旧GNS社及び請求人は,我が国における複数の小規模輸入業者から,旧GNS社及び請求人の製品(以下,「GNS製品」という)の購入申込を受け付けると,これら小規模輸入業者に対して直接GNS製品を販売するとともにこれを輸出していた。
(エ)2014年(平成26年)頃,旧GNS社は,一般消費者を対象とするGPSレシーバー「GNS2000」を製造し(甲6),我が国への輸出を開始した。「GNS2000」には旧GNS社が所有していた登録商標「GNS」が使用されており(甲7),「GNS2000」の我が国への輸出量は,2015年(平成27年)が約630個,2016年(平成28年)が1700個,2017年(平成29年)が650個である。そして,我が国における小規模輸入業者らは,インターネット上において運営されている販売サイトを通じて,GNS製品を販売していた(甲8)。
(オ)2016年(平成28年)11月に,旧GNS社から請求人を含むジー・エヌ・エス ゲー・エム・ベー・ハー企業連合に対して,上記ドイツ連邦共和国における商標権を含む財産が譲渡された(甲3)。
請求人は,「GNS2000」の後継機である「GNS2000Plus」を開発し,その製造を開始すると共に,我が国への輸出を開始し,現在に至るまでこれを継続し,「GNS2000Plus」は,我が国における複数の小規模輸入業者により,現在に至るまで販売されている(甲9)。
イ 被請求人について
(ア)被請求人は,2015年(平成27年)11月11日に設立され,「電気製品,日用品,衣料,化粧品,医薬部外品等の輸出入及び販売」等を目的とする会社である(甲10)。
(イ)被請求人の代表取締役である黒田氏(以下「被請求人代表者」という。)は,2015年(平成27年)1月8日に旧GNS社にメールを送信し,「GNS2000」の購入したい旨を申し入れた(甲11)。
そして,2015年(平成27年)1月12日に「GNS2000」を旧GNS社より30個購入し(甲11),同日,旧GNS社は「GNS2000」を被請求人代表者に発送した(甲12)。
(ウ)その後,被請求人代表者は,2015年(平成27年)4月17日に「GNS2000」を60個購入し(甲13),さらに2016年(平成28年)6月30日に100個(甲14),同年8月2日に110個(甲15),同年8月5日に210個(甲16),同年9月14日に210個(甲17)それぞれ購入している。同年9月14日以降,旧GNS社及び請求人と被請求人代表者との間におけるGNS製品の売買事実はない。
(エ)旧GNS社が発行した「GNS2000」に関するインボイスは,被請求人代表者の住所に送付されている。被請求人代表者の住所は,被請求人の登記簿における上記本店住所と同一である(甲10)。
ウ 被請求人等の行為(時系列)について
(ア)被請求人代表者は2015年(平成27年)1月より旧GNS社から「GNS2000」の購入を開始し(甲11,甲12),2016年(平成28年)9月までの間,断続的に同製品を購入していた(甲11?甲17)。
(イ)被請求人代表者は,旧GNS社と取引関係にあった2016年(平成28年)6月15日付けで,請求人が所有する商標「GNS」と同一の文字からなる商標につき,GNS製品を含む商品を指定商品として,被請求人名義の商標登録出願を行い,同年6月16日付けで特許庁に提出された(甲18)。
被請求人代表者は,上記商標登録出願を行うことについて,事前に旧GNS社に知らせず,旧GNS社の同意を得ることなく商標登録出願を行い,出願を行った後も旧GNS社に対して秘匿し続けた。
上記商標登録出願から比較的近い2016年(平成28年)7月7日,7月22日及び7月25日に,被請求人代表者は旧GNS社の担当者宛てに「GNS2000」に関するメールを送信している(甲19)が,上記商標登録出願を行ったことに関して一切言及していない。
(ウ)上記商標登録出願は,平成28年12月8日付け登録査定を受け(甲20),同29年2月3日付け登録された(甲1)。
被請求人代表者は,本件商標登録を受けた後においても,本件商標登録につき秘匿し続けた。
(エ)他方,請求人は,2016年(平成28年)11月3日付けで旧GNS社の商標権を含む財産の譲渡を受け,GNS製品の製造及び販売を行うようになった(甲3)。
ところで,旧GNS社が行っていた外国への製品輸出においては,小規模輸入業者との間で直接に取引を行うため,同社は各小規模輸入業者の購入量に応じて少量の製品を個別に輸送しなければならず,輸送コストがかさんでいた。
そこで,2017年(平成29年)中旬頃から,請求人は,旧GNS社が行っていた上記手法を改め,輸出国において総代理店を設け,請求人は該総代理店からの購入申し入れのみに応じてGNS製品を販売することとした。 これにより請求人は,総代理店に対してのみ購入量に応じたGNS製品を発送することで足りるようになった。
そして,この手法によると,当該国の小規模輸入業者は,総代理店に対してGNS製品の購入申し入れを行い,該総代理店からGNS製品を購入することになる。請求人は,和歌山県橋本市に本社を有する合同会社リベルタジャパンを我が国における総代理店とした(甲21)。
(オ)被請求人代表者は,2017年(平成29年)8月に請求人の代表者に対して,「GNS2000」210個の購入申込をメールにて行った(甲22)。
請求人の担当者は,輸送コストを抑えるために,請求人の輸出の手法が従前のものから変更されたことを被請求人代表者に伝えた(甲23)。また,我が国における総代理店である合同会社リベルタジャパンの代表社員に関する情報を伝え,該者を通じて「GNS2000」の後継機である「GNS2000Plus」を購入可能である旨,被請求人代表者に提案した(甲23)。
(カ)請求人からの提案に対して,被請求人代表者は反発し,同提案を受け入れられない旨,請求人代表者に対してメールにて述べた(甲23)。請求人担当者から再度の説明が行われたが,被請求人代表者は依然として請求人の上記提案を受け入れず,縷々自己の主張を述べた(甲23)。
(キ)かかるやり取りが行われた後,被請求人代表者は,請求人の輸出手法の変更が確定的であり,請求人から直接に「GNS2000」を購入することが困難であることが分かると,2017年(平成29年)10月11日付けのメールにて,請求人担当者及び請求人代表者に対して,自分の会社が本件商標登録を有することを明かした。
そして,「日本の商標法はたいへん厳格である。残念ながら,自分は日本における貴社の代理店に対して商標権を行使するつもりであり,それにより貴社の代理店は貴社製品を販売することができなくなるであろう。」と同日付けメールにて述べた(甲23)。
(ク)さらに,被請求人代表者は,請求人の我が国における総代理店である合同会社リベルタジャパンに対して,2017年(平成29年)10月24日付けのメールにて,本件商標登録を有することを理由に,「GNS2000Plus」の販売を直ちに中止することを要求したのである(甲24)。
エ 商標法第4条第1項第7号の該当性について
(ア)本件において,被請求人代表者は,本件商標登録出願より以前から,旧GNS社の製品「GNS2000」を輸入し,我が国において販売していた。そのため,被請求人は,旧GNS社がGNS製品に対して同社所有の商標「GNS」を継続的に使用していることを知悉していた。
その上で,被請求人代表者は,旧GNS社に対して本件商標について何ら言及することなく,旧GNS社の所有に係る商標「GNS」が我が国において商標登録されていないことを奇貨として,旧GNS社に無断で,被請求人名義にて本件商標登録出願を行い,登録を受けたのである。
また,本件商標登録出願を行った後も,被請求人代表者は,旧GNS社及び請求人と連絡を取り合っていたにもかかわらず,本件商標の出願及び登録の事実を秘匿し続けた。
(イ)すなわち,被請求人代表者は,旧GNS社からGNS製品を購入する我が国における複数の小規模輸入業者のうちの一人にすぎず,旧GNS社所有の登録商標「GNS」に関し,我が国において商標登録出願を行うべき立場にはない。
にもかかわらず,旧GNS社から何ら事前の承認を受けることなく,無断で本件商標登録出願を行い,出願後も旧GNS社及び請求人に対してこれを秘匿し続けたのである。
(ウ)かかる被請求人代表者の行為からすると,被請求人は,本件商標登録出願時において,本件商標の出願及び登録を行う正当な理由が無いにもかかわらず,専ら旧GNS社及び請求人との交渉における自己に有利な交渉材料とする目的で,本件商標登録出願を行ったと見ざるを得ない。
(エ)現に,被請求人は,請求人から「GNS2000」の購入申し入れを拒絶されると,本件商標を根拠として,請求人の代理店が我が国においてGNS製品を販売できなくなることを示唆し,請求人に対して圧力をかけた。さらには,被請求人は,請求人の我が国における総代理店である合同会社リベルタジャパンに対して,本件商標に基づく商標権の侵害を理由に,「GNS2000Plus」の販売中止を要求した。
かかる被請求人の一連の行為は,登録主義を採用する我が国商標法の仕組みを悪用し,商標法の予定する秩序を著しく害する極めて悪質な行為である。
(オ)したがって,本件商標登録は,登録に至る出願の経緯において著しく社会的相当性を欠いており,商標法の予定する秩序に反することは明らかである。
(2)結論
したがって,被請求人による本件商標の登録出願は,先願登録主義を採用し,また,現に使用していることを登録要件としていない我が国商標法を前提としても,その登録出願の経緯において我が国商標制度の本来的利用を逸脱するとともに社会的相当性を欠いており,これを登録することは公正な商標秩序を乱すものであって,商標法第4条1項第7号に違反するものである。

3 被請求人の答弁
被請求人は,請求人の主張に対し何ら答弁していない。

4 当審の判断
(1)本件審判の請求の利益について
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては,当事者間に争いがなく,また,請求人の提出に係る証拠を総合すれば,請求人は本件審判について請求人適格を有するものと認められる。
よって,以下,本案に入って審理する。
(2)商標法第4条第1項第7号の意義
商標法第4条第1項第7号の意義として,「商標法4条1項7号は,『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』は商標登録を受けることができない旨規定する。ところで,同号は商標自体の性質に着目した規定となっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法4条1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。」(知財高裁平成17年(行ケ)第10324号)と判示されている。
また,商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は,商標登録を受けることができないと規定しているところ,これに該当する商標には,「(a)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(c)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合等が含まれるというべきである。」(知財高裁平成22年7月15日判決平成21年(行ケ)第10173号)と解されている。
本件では,(a)ないし(d)は問題とならず,専ら(e)の当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合が問題となる。
(3)本件商標の登録出願に関連する当事者の事実関係
請求人の主張及び提出に係る証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 請求人について
請求人は,旧GNS社から,2016(平成28)年11月に,商標権を含む財産を譲り受けた法人(請求人を含むジー・エヌ・エス ゲー・エム・ベー・ハー企業連合に対して譲渡)であり(甲3),ドイツ連邦共和国における上記商標登録を所有すると共に,GNS製品を製造し,我が国を含む複数の国に輸出する者である。
旧GNS社は,1998(平成10)年にドイツ連邦共和国のビュルセレンにおいて設立され,2016(平成28)年11月に請求人に商標権を含む財産を譲渡するまでの間,全地球測位システム(GPS)やトラフィック・メッセージ・チャンネル(TMC),また,GPSアンテナモジュールやGPSレシーバーを含む電子応用機械器具を製造,販売し(甲3,甲4),2002(平成14)年2月に,ドイツ連邦共和国において文字「GNS」からなる商標につき,「テレマティックスシステム装置,ナビゲーションシステム装置」を含む商品及び役務を指定商品及び指定役務として商標登録を受け,2011(平成23)年9月に更新登録が行われている(甲5)。
旧GNS社は,商標「GNS」が使用されている上記製品(以下「GNS製品」という。)を我が国を含む中国,台湾などの国々に輸出していた。
2014(平成26)年頃,旧GNS社は,一般消費者を対象とするGPSレシーバー「GNS2000」を製造し(甲6),我が国への輸出を開始し,「GNS2000」には,旧GNS社が所有していた登録商標「GNS」が使用され(甲7),「GNS2000」の我が国への輸出量は,2015(平成27)年が約630個,2016(平成28)年が1700個,2017(平成29)年が650個であって,我が国における小規模輸入業者らは,インターネット上において運営されている販売サイトを通じて,GNS製品を販売していた(甲8)。
旧GNS社及び請求人は,我が国における複数の小規模輸入業者からGNS製品の購入申込を受け付けると,これら小規模輸入業者に対して直接GNS製品を販売するとともにこれを輸出する手続をとり,各小規模輸入業者に各々の購入量に応じた当該製品を配送していたが,2017(平成29)年中旬頃に輸出手続を改定し,外国への製品輸出における直接取引を改め,日本において総代理店を設け,請求人は該総代理店からの購入申し入れのみに応じてGNS製品を販売することとし,合同会社リベルタジャパンを日本における総代理店とした(以下,合同会社リベルタジャパンを「日本総代理店」という。甲21)。
請求人は,「GNS2000」の後継機である「GNS2000Plus」を開発し,その製造を開始すると共に,我が国への輸出を開始し,現在に至るまでこれを継続し,我が国における複数の小規模輸入業者により,現在に至るまで販売され(甲9),GNS製品には,請求人所有の登録商標「GNS」が使用されている。
イ 被請求人について
被請求人(被請求人代表者を含む。以下同じ。)は,2015(平成27)年11月11日設立の「電気製品,日用品,衣料,化粧品,医薬部外品等の輸出入及び販売」等を目的とする会社であり(甲10),2015(平成27)年1月8日を始めとして旧GNS社と「GNS2000」の取引関係にあった(甲11)。
被請求人は,2015(平成27)年1月12日に30個,同年4月17日に60個,2016(平成28)年6月30日に100個,同年8月2日に110個,同年8月5日に210個,同年9月14日に旧GNS社よりGNS製品を210個購入している。
そして,2016(平成28)年9月14日以降,旧GNS社及び請求人と被請求人との間におけるGNS製品の売買事実はない(甲11?甲17)。
ウ 被請求人による商標登録出願及び登録の経緯
本件商標の出願及び登録の経緯は,上記1のとおりであるところ,被請求人は,本件の登録出願を行うにあたり,請求人(旧GNS社を含む。以下同じ。)に対し,事前にその事実を告知しておらず,また,事後(登録後)においてもその事実を進んで告知することはなかった。
被請求人は,請求人より,製品の購入に際し,従前の直接取引は出来ないこと及び日本総代理店を通して購入することを提案された後の2017年(平成29年)10月11日付けのメールにおいて,請求人に対して,被請求人が本件商標を有することを明かした(甲23)。
さらに,被請求人は,2017年(平成29年)10月24日付けのメールにおいて,日本総代理店に対して,本件商標の登録権者であるすることを理由に,「GNS2000Plus」の販売を直ちに中止することを要求した(甲24)。
エ 本件出願当時の請求人と被請求人の関係
前記のとおり,本件出願が行われた,平成28年6月16日当時,被請求人は,請求人から「GNS2000」を輸入していた者であり,2015(平成27)年1月8日から2016(平成28)年9月14日迄は取引関係にあった。
そして,「GNS2000」には,請求人がドイツで登録していた「GNS」の商標が付されており,被請求人は,そのことを知悉していたものと認められる。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 被請求人が本件出願をおこなった目的について
(ア)本件出願における被請求人の悪意について
本件出願が行われた平成28年6月16日当時,被請求人は,請求人の製造,販売する「GNS2000」を輸入し,我が国で販売する輸入業者として取引関係にあった。そして,「GNS2000」には,請求人がドイツで登録していた「GNS」の商標が付されており,被請求人は,そのことを知悉していたものと認められから,被請求人は,請求人が使用する「GNS2000」の名称や「GNS」の商標に係る権利を尊重し,請求人による当該権利の保有及び管理を妨げてはならない信義則上の義務を負っていたものということができる。
しかるところ,被請求人による本件出願は,請求人商標「GNS」と同一の「GNS」の標準文字からなる商標について,請求人の業務に係る「GPS受信機,電気通信機械器具,ナビゲーション装置,位置情報探知機,測定機械器具,アンテナ,電子応用機械器具及びその部品」を指定商品として商標登録出願するものであり,これに基づく商標登録が認められることになると,請求人が使用するための法的な裏付けとなる商標権を請求人の一輸入業者である被請求人が保有することとなり,請求人にとっては,被請求人の対応次第で請求人商標の使用に支障を来すなど重大な営業上の不利益を受けるおそれが生じることになるといえるから,このような本件出願を被請求人が行うことは,上記信義則上の義務に反する行為といわざるを得ない。
加えて,被請求人は,本件出願を請求人と取引関係があるときに行ったものであり,しかも,本件出願の事実を事前に請求人に告知せず,また,登録後の事後においても,2017年(平成29年)10月11日付けのメールまで,請求人に告知することなく秘匿し続けた。
以上のとおり,被請求人が本件出願を行った目的については,次のような不正な目的によるものであることが強く疑われるというべきである。
特に,本件出願が行われた,平成28年6月16日ころの時期においては,旧GNS社から請求人を含むジー・エヌ・エス ゲー・エム・ベー・ハー企業連合に対する譲渡問題や,請求人による「GNS2000」の後継機である「GNS2000Plus」の開発,販売等が行われていたことからすれば,被請求人が請求人との取引における交渉を想定し,自己に有利な交渉材料とする目的で本件出願を行うことも,十分考え得ることといえる。
そして,本件商標の事実が請求人に発覚した後に行われた,請求人との交渉における被請求人の言動をみると,被請求人が本件商標の事実を自己に有利な交渉材料として利用しようしていることが明らかである。
すなわち,被請求人は,2017(平成29)年8月頃,請求人に対し,「GNS2000」及び「GNS2000」の後継機である「GNS2000Plus」の購入を申し入れ,請求人から直接に「GNS2000Plus」を販売しないこと,日本総代理店から当該製品を購入することの提案に対して,この提案を拒否すると共に,本件商標を有していることを明かした。
そして,被請求人は,請求人に対し,被請求人が本件商標に基づく権利を行使することによって,日本総代理店が「GNS2000Plus」を販売できなくなるであろうと述べ,その直後に,日本総代理店に対して,本件商標の登録を根拠として「GNS2000Plus」の販売を直ちに中止するよう要求するメールを送信したことからすれば,被請求人は,請求人の製造,販売する製品の我が国における販売を独占しようとしているというべきである。
以上のとおり,被請求人は,請求人との交渉の中で,本件商標の事実を,自己に有利な結果を得るための交渉材料として現に利用しているのであり,このような被請求人の言動は,前記(3)ウのような本件出願に係る経緯と相まって,被請求人による本件出願の目的が,そもそも本件出願又はこれに基づく商標登録の事実を請求人との交渉を有利に進めるための材料として利用し不当な利益を得ることにあったことを推認させるものといえる。
(イ)被請求人の本件出願の目的について
被請求人が,本件出願を行った目的について,2017(平成29)年10月11日付けメール(甲23)において,「当社は,昨年,中国からの並行輸入と侵害品を排除するため,日本においてGNSの商標権を取得しました。商標登録番号は5918363号で,日本国政府により登録されました。」と主張していることが伺える。
しかしながら,仮に,被請求人が主張するような事態が危惧されるのであれば,そのような事態にならないよう請求人に対し,「GNS」の商標権の登録出願手続をするように注意喚起すれば足りるはずであるし,請求人の一輸入業者であった当時の被請求人の立場からすれば,そうするのが当然であり,かつ自然な行動ということができる。
しかも,本件出願が行われる直前には,請求人と被請求人の間で,取引関係が行われていたのであるから,そのような機会に,被請求人から請求人に対し上記のような指摘等を行うことは容易であったはずである。
ところが,実際には,被請求人は,そのような行動はとらず,かえって本件出願を行うことを請求人に秘匿したまま,本件出願を行っているのである。
そして,被請求人は,2017(平成29)年8月頃の取引の交渉おいて,請求人から直接に「GNS2000Plus」を販売しないこと,日本総代理店から当該製品を購入することの提案を求められているにもかかわらず,これに応じようとはせず,かえって上記のとおり本件商標の登録の事実をもって,日本総代理店の販売を中止させようとする,自己に有利な交渉材料として利用する行動をとっているのである。
以上によれば,本件出願を行った目的が上記2017(平成29)年10月11日付けメールにおける,「中国からの並行輸入と侵害品を排除するため。」であったとする被請求人の説明は,被請求人の実際の言動と明らかに矛盾しており,不自然・不合理なものというべきである。
(ウ)小括
以上の諸事情を総合考慮すれば,被請求人による本件出願の目的が,被請求人が主張するような第三者による請求人商標に係る商標登録の取得を防止するためなどではなく,請求人との交渉において本件出願又はこれに基づく商標登録の事実を自己に有利な交渉材料として利用し不当な利益を得ることにあったことは,優にこれを認定することができる。
公序良俗違反の有無について
以上のとおり,被請求人による本件出願は,一輸入業者として,請求人に係る商標権を尊重し,請求人による当該商標権の保有・管理を妨げてはならない信義則上の義務を負う立場にある被請求人は,本件商標の登録出願前から,請求人商標「GNS」が請求人によって,GNS製品に使用されていたことを十分知っていながら,請求人商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として,これと同一といえる本件商標を請求人に承諾を得ずに登録出願をし,請求人に係る商標権を自ら取得し,登録を得たものであって,剽窃したものといわざるを得ない。かつ,その事実を利用して請求人との交渉を自己に有利に進めることによって不当な利益を得ることを目的として行われたものということができる。
そして,このような本件出願の目的及び経緯に鑑みれば,被請求人による本件出願は,請求人との間の契約上の義務違反となるのみならず,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであり,これに基づいて被請求人を権利者とする商標登録を認めることは,公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当であって,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法第1条)にも反するというべきである。
してみると,本件出願に係る本件商標は,本件出願の目的及び経緯に照らし,商標法第4条第1項第7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するものといえる。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
(5)むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項第1号により無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2018-05-30 
結審通知日 2018-06-01 
審決日 2018-06-12 
出願番号 商願2016-71051(T2016-71051) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (W09)
最終処分 成立  
前審関与審査官 矢澤 一幸 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 大森 友子
薩摩 純一
登録日 2017-02-03 
登録番号 商標登録第5918363号(T5918363) 
商標の称呼 ジイエヌエス 
代理人 宮▲崎▼ 浩充 

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