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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X21
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X21
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X21
管理番号 1340246 
審判番号 無効2015-890080 
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-10-13 
確定日 2018-04-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第5478514号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5478514号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1の構成からなり,平成23年10月19日に登録出願,第21類「携帯用アイスボックス,米びつ,食品保存用ガラス瓶,水筒,魔法瓶,ステンレス製魔法瓶,食器類,きゅうす,コップ,杯,皿,サラダボール,重箱,茶わん,ディッシュカバー,デカンター,徳利,鉢,ビールジョッキ,べんとう箱,水差し,湯飲み,わん,菓子缶,たる,茶缶,つぼ,パン入れ,なべ類,コーヒー沸かし(電気式のものを除く。),鉄瓶,やかん,アイスペール,泡立て器,こし器,こしょう入れ,砂糖入れ,塩振り出し容器,卵立て,ナプキンホルダー,ナプキンリング,盆,ようじ入れ,ざる,シェーカー,しゃもじ,手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき,じょうご,すりこぎ,すりばち,ぜん,栓抜,大根卸し,タルト取り分け用へら,なべ敷き,はし,はし箱,ひしゃく,ふるい,まな板,麺棒,焼き網,ようじ,レモン絞り器,ワッフル焼き型(電気式のものを除く。),清掃用具及び洗濯用具」を指定商品として,同24年2月20日に登録査定,同年3月16日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。

第2 引用商標
請求人が,本件商標が後記第3に掲げる無効事由に該当することの根拠として引用する商標は,以下のとおりである。
1 登録第1868004号
登録第1868004号商標(以下「引用登録商標」という。)は,別掲2の構成からなり,昭和58年1月21日に登録出願,第17類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同61年6月27日に設定登録され,その後,平成18年4月5日に指定商品について,第5類「失禁用おしめ」,第9類「事故防護用手袋,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服」,第10類「医療用手袋」,第16類「紙製幼児用おしめ」,第17類「絶縁手袋」,第21類「家事用手袋」,第24類「布製身の回り品」,第25類「被服」とする指定商品の書換登録がされ,現に有効に存続しているものである(甲3,甲4)。
なお,引用登録商標の権利者の一人であるXは,請求人の代表取締役社長である。
2 請求人の使用商標
請求人は,「OTAFUKU」の文字を図案化した別掲3の商標(以下,「引用使用商標」という。)を永年継続して使用している。
なお,以下,引用登録商標と引用使用商標をまとめて述べるときは,「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第109号証を提出した。
1 本件商標が無効とされるべき理由
本件商標は,商標法第4条第1項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号に基づき,その登録は無効とされるべきである。
2 審判請求書における主張
(1)請求人について及び引用商標の周知著名性について
請求人は,大正15年9月1日の創業以来,作業用手袋並びに関連商品(約7000種類)の製造販売を行っている(甲5)。社名「おたふく手袋」に表されるとおり,「手袋」は請求人の中核となる主力商品であり,請求人の総合カタログに掲載される自社製品の7割近くを手袋が占めている(甲6)。請求人は,主力となる手袋製造の分野で,その名を広く知られており,請求人が長い歴史を誇り,今なお,手袋製造の分野でトップクラス(1位?2位)の売り上げを維持している(甲7?甲11)。
請求人は,引用商標を手袋に対して長年使用し続けており,引用商標は,手袋との関係において周知著名性を獲得している。証拠方法として,カタログ等の広告における使用(甲12?甲18),商品への使用(甲19?甲39),展示会等での使用(甲40?甲56),看板での使用(甲57?甲71)を提出する。
引用商標が創業以来,長年にわたって広く,かつ目立つ態様で使用され続けた結果,引用商標が,手袋製造業者としての請求人の手袋の出所標識として,広く認識されていることは明らかである。殊に,看る者の記憶に残る態様の引用登録商標は,請求人のシンボルマークとして,遅くとも,昭和40年から目立つ態様で使用され続けている。よって,引用登録商標は,請求人のシンボルマークとしても広く認識されているといえる。
したがって,本件商標の出願日である平成23年10月19日時点で,引用商標が手袋との関係において,周知著名性を備えていることは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性
本件商標を構成する「おたふく図形」と引用登録商標は,完全に同一といえる程に酷似している。
本件商標中の「OTAFUKU」のロゴと引用使用商標は,完全に同一といえる程に酷似している。
以上より,本件商標と引用商標とは,全体として完全に同一といえる程に酷似している。
また,本件商標の指定商品も請求人の手袋も,日用品という同じカテゴリーに属する商品であり,請求人が製造する手袋の中には,調理時に使用される手袋が含まれており,本件商標の指定商品に含まれる食器類,調理器具と同時に使用される可能性が非常に高い。更に,清掃時に使用される手袋もあり,本件商標の指定商品に含まれる清掃用具と一緒に使用されることが一般的である。したがって,本件指定商品と請求人の手袋は,使用状況,需要者(一般消費者),販売場所(スーパーマーケットやホームセンター)において両商品は一致している。
以上より,両商品は非常に高い関連性を有しているといえる。
上記のとおり,引用商標は周知著名性を獲得しており,本件商標と引用商標は,完全に同一といえる程に酷似し,商品の属するカテゴリー,商品の使用状況,需要者,販売者の多数の点において非常に高い関連性を有している。
したがって,本件商標を指定商品に使用した場合,その商品が,請求人が営む業務又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じさせるおそれが非常に高いことは明白である。
以上より,本件商標の指定商品への使用が混同を生ぜしめることは明らかである。よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するといえる。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性
引用商標が,本件商標の出願日以前より日本で広く認識され周知性を獲得していたこと及び本件商標と引用商標が類似することは,上記で述べたとおりである。
本件商標のおたふく図形と引用登録商標とは,完全に同一といえるほどに酷似している。これは偶然にも似た商標が採択されたというレベルの話ではなく,被請求人が引用登録商標及び引用使用商標を既知とし,両商標を組み合わせたと考えることが極めて自然である。
請求人は,中国において,別掲4の商標登録(登録番号:1994802,出願日:2001年5月11日,類似群コード:2112)及び別掲5の商標登録(登録番号:1994781,出願日:2001年5月11日,類似群コード:2112)を所有している(甲72,甲73)。
一方,被請求人は,中国において,別掲6の商標登録(登録番号:9713400,出願日:2011年7月13日,類似群コード:2101,2102,2103,2105,2106,2111)を所有している(甲74)。
引用登録商標と引用使用商標の結合商標である上記商標を,偶然にも第三者である被請求人が選択し,偶然にも類似群コード2112に該当する商品を含まずに出願したという様に,偶然が重なることは非常に不自然である。むしろ,被請求人が引用登録商標と引用使用商標を既知として結合させ,請求人の先行商標と競合しないよう,類似群コード2112に該当する商品をあえて避けたと考えるのが自然である。とすれば,被請求人は,2011年7月13日よりも前に,引用商標を知っていたことになる。よって,本件商標(平成23年(2011年)10月19日に出願)についても,中国商標出願に引き続き,引用商標の存在を十分に知ったうえで,出願を行ったといえる。
被請求人の所有会社「五福源仕株式会社」(甲75)のウェブサイトの「おたふくブランド使用の流れ」(甲76)の内容の,ほぼ全体が偽りといわざるを得ず,会社設立の経緯,目的全体が非常に疑わしい存在である会社の所有者である被請求人が,引用商標とほぼ同一の本件商標を,偶然選択したとは考え難い。引用商標が広く認識されていることを考慮すると,むしろ,被請求人が,引用商標を知り,引用商標が長年積み上げた信用力,名声等にフリーライドする目的で,あえて本件商標を選択したと考えることが自然である。
以上を総合すると,被請求人が,不正の目的をもって本件商標を使用していることは明らかである。
以上より,本件商標は,周知性を獲得している引用商標と,完全に同一といえる程に酷似しており,不正の目的をもって使用されている。よって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性
引用商標とほぼ同一の本件商標を使用し,被請求人が所有する五福源仕株式会社は,ホームページの内容に虚偽記載が見当たることから,会社設立の経緯及び目的が,非常に疑わしい会社といえる。更に,被請求人が引用登録商標及び引用使用商標とほぼ同一の商標を偶然作成したとは考え難い。設立の経緯そのものが疑わしい会社に本件商標の登録を認め,本件商標が請求人の商品と関連性を有する商品に使用される場合,請求人のブランドイメージが大きく損なわれる可能性がある。
したがって,本件商標は,出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,本件商標の登録を認めることが,社会的秩序に反することは明らかである。
引用登録商標に係る「おたふく図形」は,請求人が遅くとも昭和40年から長年にわたって継続して使用している著作物であり,被請求人は,何ら許諾を得ることなく,当該著作物とほぼ同一の「おたふく図形」を使用した本件商標を登録及び使用し,著作権を侵害していることになるが,このような著作権侵害に当たる商標の登録及び使用を認めることが,社会的秩序を乱すことは明らかである(甲79,昭和58年審判第19123号)。
以上より,本件商標は,採用の経緯及び著作権侵害にあたる点において,社会的相当性を欠くことは明らかである。よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
(5)結論
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号,同項第19号又は同項第7号に違反して登録されたものであり,同法第46条第1項第1号に基づき,その登録は無効とされるべきものである。
3 弁駁書(平成28年6月21日)における主張
(1)請求人適格について
会社の代表者と会社本体が実質的に同一主体であることは,非常に自然なことである。また,引用商標を実際に永年使用しているのは請求人である。したがって,請求人が利害関係を有することは明らかである。
(2)引用商標の周知著名性と商標法第4条第1項第15号該当性
引用商標が周知著名性を獲得している事実を立証するために,更なる資料を提出する。すなわち,全国で1400店舗を有するデイリーヤマザキで引用商標を使用した商品が販売されている(甲80,甲81),セブンイレブンの約50%の店舗で請求人の商品が販売されている,2000年から2004年の「信用情報」では,「手袋卸」において請求人の売上高は全国2位(甲82?甲86)である,「センイ・ジヤァナル」に長年にわたって広告している(甲87?甲95),カタログでの引用商標の使用(甲96?甲99)などである。
2015年3月に12,005名を対象にしたインターネット調査「屋外広告に関するアンケート調査」(甲100)の結果によると,屋外広告を意識して見る,興味を引かれる広告があれば見る,暇つぶし程度になんとなく見る,と回答した人は68.6%と見ない人の2倍を超える。また,屋外広告物でよく見かけるものについて,「建物・ビルの屋上・壁などの屋外看板広告」と回答した人が最も多い。したがって,請求人の屋外広告は人の目に触れ記憶に残ったことは明らかである。
また,甲第101号証は,請求人の屋外広告近くの阪神高速1号線環状線のストリートビューの写しである。請求人の屋外広告は,付近の屋外広告が文字広告である中,大きな図形を取り入れていることもあってひときわ目立っている。
以上より,引用商標が周知性を獲得していることは疑う余地なく明らかである。
本件商標の指定商品は「鍋・食器類,清掃用具及び洗濯用具」であり,請求人の商品は「手袋」である。これらの商品は,いわゆる「日用品」と呼ばれる同じカテゴリーに属する商品であり,したがって,スーパーマーケット等で販売される場合,必然的に同じ棚や,近い位置に並べられることになる。また,「イオンネットスーパー」では,スポンジ,たわしといった清掃用具と,ゴム手袋が「キッチンスポンジ・たわし・家事用手ぶくろ」として同じカテゴリーの商品として販売されている(甲103)。更に「軍手」は清掃時に一般的に使用される商品である(甲104,甲105)。
本件商標の指定商品と,請求人の商品「手袋」は,同時に使用されることが多いが,例えば,家庭で「ゴム手袋」をつけて「食器」を洗ったり,「清掃用具」で掃除したりする場面において,これらの商品すべてにほぼ同一の商標が付されていれば,需要者は,これらの商品はすべて同一の製造主の商品であると誤認混同すると考えるのが極めて自然である。
請求人(審決注:「被請求人」の誤記と解される。)は,「おたふくの図形」と「おたふく」の文字から構成される商標が市場において併存していると述べるに留まる。オタフクソース株式会社が使用する商標を含め,乙第10号証ないし乙第23号証に係る商標と請求人及び被請求人が使用する商標は全く異なる外観を有しており,複数併存していたとしても,出所混同が生じないことは当然といえる。
本件商標が,商標法第4条第1項第15号に該当することは明らかである。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性
引用商標が日本国内で広く認識されている商標であることは,既に述べたとおりである。
被請求人は,本件商標はデザイナーが提案したものであるとして,デザイナーが提示したデザイン案(乙52)を提出しているが,その表紙には,「2012.6」と表示されている。本件商標の出願日は2011年10月19日であるから,本件商標をデザイン案から採択したという被請求人の主張は,全く信憑性を欠く。
仮に,被請求人が,ハニーファイバー株式会社(以下「ハニーファイバー社」という。)の登録商標に依ることを把握してデザイン案から選択し,著作権上の問題までをも検討したうえで使用しているとすれば,被請求人は商標の選択に非常に注意を払っていたといえるが,一方で,被請求人の商品と緊密な関係性を有する商品について長年使用されている引用商標についてはこれを全く知らず,偶然引用商標を使用したとの主張は明らかに合理性を欠く。
ここで,中国のデザイン事務所が,デザインを制作するために,なぜわざわざ日本国内で古くから使われている商標を採択したのか,どの様に日本国内で古くから使われている商標について情報を入手したのか,その理由及び制作の過程が何ら示されていない。
被請求人が,請求人の「おたふくの図形」とほぼ同一の図形と,請求人がデザイン委託制作した「OTAFUKU(ロゴ)」とほぼ同一の「OTAFUKU(ロゴ)」を組み合わせたことは,明らかに偶然とはいい難い。
以上を総合すると,被請求人が,不正の目的をもって本件商標を使用していることは明らかである。
なお,WIPOのデータベースで確認したところ,基礎登録番号11137398に該当する国際登録は存在しない(甲106)ので,そもそも被請求人が国際登録出願を行ったのかどうかさえ疑わしい。
被請求人が,引用商標を知り,引用商標が長年積み上げた信用力,名声等にフリーライドする目的で,あえて本件商標を選択したと考えることが自然であり,被請求人が,不正の目的をもって本件商標を使用していることは明らかである。よって,本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当することは,明らかである。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性
被請求人は,引用登録商標はハニーファイバー社の登録商標の「おたふくの図形」(乙1,別掲7(登録第396238号))に係るものと述べているが,両商品が関連性のないものであることや当時の情報入手手段の状況に鑑みれば,請求人がハニーファイバー社の登録商標を知らなかったことは当然であり,被請求人の主張は根拠のない言いがかりにすぎない。
引用使用商標は,1981年頃に,Yが請求人の依頼を受けて制作した商標である(甲107)。このような手書きの1点制作である引用使用商標を,被請求人が偶然選択し,更に引用登録商標とほぼ同一のおたふく図形を組み合わせることは偶然というには余りに不自然である。被請求人が商標の選択の裏付けとして提出したデザイナー案の日付けが主張と矛盾する等極めて疑わしい点が非常に多い。
以上を総合すると,本件商標は,出願の経緯に社会的相当性を欠くものであり,その登録を認めることは,社会的秩序・取引秩序に反するものであるから,商標法第4条第1項第7号に該当することは,明らかである。
4 第2弁駁書(平成29年8月17日)における主張
被請求人の主張は,根拠を備えておらず,妥当性を欠くものである。その理由は以下のとおりである。
(1)追加で提出する証拠資料について
引用商標を使用する「手袋」は,37県で販売されており(甲108),使用実績も広く認知されている。
被請求人は,数多のコンビニエンスストアのごくわずかな店舗を訪れた結果をもって,請求人の主張を否定している。しかしながら,商品の品切れの場合や,請求人の商品を扱っていない店舗が一部あることは当然である。
平成21年7月22日に,引用登録商標の権利者であるX及びZ両氏とハニーファイバー社は,商標の使用についての合意書を締結している(甲109)。当該合意書の存在より,両者が友好的な関係にあること,請求人及び請求人の代表者がハニーファイバー社の「おたふく図形」を模倣したものでないことは明らかであり,引用登録商標が過誤登録されたとの被請求人の主張に理由がないことは明らかである。
(2)商品の関連性について
「ゴム手袋,軍手」と「鍋・食器類,清掃用具及び洗濯用具」とが,同じ場所で同時期に使用される非常に緊密な関連性を有する商品であることは,平成28年6月21日付け弁駁書にて主張したとおりである。特に,このことは,例えば,家庭で「ゴム手袋」をつけて「食器」を洗ったり,「清掃用具」で掃除したりする場面を想像すれば容易に理解できる。
(3)デザイン採択の経緯について
被請求人は,ハニーファイバー社の「おたふく図形」を採択したことについては説明の中で言及していない。被請求人がハニーファイバー社の沿革について調査・研究していたとの主張についても不可解である。
以上より,被請求人のデザイン採択の経緯については,十分な説明がなされておらず,非常に不自然,かつ,不可解である。
(4)まとめ
以上より,周知性を備えた引用商標と完全同一といえる程に酷似する本件商標を,引用商標の使用商品と関連性のある商品に使用する場合,混同を生じるおそれがあることは明らかであり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
また,本件商標の選択の過程は明らかに不可解であり,請求人(審決注:「被請求人」の誤記と解する。)が引用商標の名声にフリーライドする目的を有していることも明らかであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
さらに,上述のとおり商標選択の過程が不自然かつ不可解な本件商標の登録を認めることが,社会的秩序・取引秩序に反することは明らかであり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当することはいうまでもない。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第72号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁書(平成28年1月15日)における答弁
(1)被請求人と商標使用者との関係
被請求人である南京旭展国際貿易有限公司(以下「南京旭展」という。)と商標使用者(南京五福源仕厨具有限公司(以下「五福源仕」という。))とは,ともに代表者をAとする関連会社であり(乙47,乙48),南京旭展は,貿易事業を営む商標権者であり,五福源仕は,その厨房・台所機器を取り扱う関連会社となっている。
おたふくに関連する商標を付した商品を販売しているのは,五福源仕である。五福源仕の会社登記簿(乙47)に記載されている経営範囲について日本語訳すると,「厨房器具,衣服,帽子・靴,ニット繊維,労災用品,日用百貨,お土産,工芸品,オフィス用品,電子製品販売および実業投資(法律により許可が必要な項目については,事前に関連部門において許可を得てから初めて経営活動を行うことができる)」と広い範囲になっている。これら多種類の取扱可能な商品のうちの,鍋類,食器類等を指定商品とし,本件商標を登録したものである(甲1,乙47)。なお,おたふくの図形は,五福源仕のウェブサイトの鍋類に,現に使用されている(乙50)。
日本で製造した鍋,食器等を中国に輸入販売する際に,第三者から取引行為の妨害を受けないようにする必要があり,中国でライセンスの登記(対外貿易経営者各案登記表,乙49)を済ませていた南京旭展が,日本からの輸入を担当し,五福源仕の代わりに商標登録出願人となり,日中間の商取引行為の安全を確保する必要があった(甲1)。
この商標は,被請求人が取り扱う鍋,食器類について日本国内で登録されていなかったため,登録出願したものであり,善良な事業者として,取引の安全を確保するために,当然に行うべき法律行為であったにすぎない。
(2)おたふくに関連する商標の出願経緯
ア おたふくに関連する商標に関する時系列は,以下のとおりである。
(ア)1948年(昭和23年) おたふく産業株式会社(現ハニーファイバー社)が,「おたふくの図形」に「おたふくわた」を併記して出願(商願昭23-15473)
(イ)1950年(昭和25年) 商願昭23-15473についての公告公報発行(乙1)
(ウ)1952年(昭和27年) Xが,「おたふく」の文字について出願(商願昭27-1313)
(エ)1959年(昭和34年) Xが,引用商標とは異なる図形に「ツー・おたふく」を併記して出願(商願昭34-36533)
(オ)1960年(昭和35年) Xが,「多福」の文字について出願(商願昭35-3704)
(カ)1983年(昭和58年) Xが,引用登録商標について出願(商願昭58-4786)
(キ)1986年(昭和61年) 引用登録商標が商標登録される(甲3)
(ク)1995年(平成7年) おたふく産業株式会社が,「おたふくの図形」と「おたふく」の文字を併記して出願(商願平7-20196)
(ケ)2000年(平成12年) 商願昭23-15473の公告公報から50年が経過
(コ)2011年(平成23年) 南京旭展が,本件商標を出願(甲1)
イ 昭和23年に,請求人とは何ら関係のないと思料されるハニーファイバー社(当時「おたふく産業株式会社」。)から,「おたふくの図形」に「おたふくわた」等の文字を併記した商標の登録出願がされ,同25年8月18日に公告公報が発行され,同26年1月29日に商標登録第396238号を受けている。
上記時系列に鑑みるに,当該出願の公告公報発行(乙1)の直後から,「おたふく」に関する一連の商標について,(Xは,)自らが代表を務める会社(請求人)ではなく,当該出願の指定商品とは異なる商品について,あえて個人名で登録を受けているのは,ハニーファイバー社の商標登録を知って,別の指定商品区分で出願をしたものと推定できる。
(3)請求人の主体適格の欠如
引用登録商標の商標権者は請求人ではなく,あくまで個人のXである(甲3)。
上記(2)のように不自然な状況にある中で,使用許諾されているという権原も示されておらず,実質的に同一とはいえない。したがって,審判請求にあたり請求人に利害関係があるということはできず,主体適格を欠如しているということもできる。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標に係る「おたふくの図形」は,ハニーファイバー社を名義として,昭和25年に公告公報が発行されており(乙1),その著作権の保護期間は,商標登録第396238号の公告公報の発行から起算して50年後の2000年(平成12年)12月31日までであるから,当該著作権は,本件商標が出願された2011年(平成23年)よりも前に,既に消滅している。
また,本件商標の文字部分である「OTAFUKU」は,一般的に使用されている欧文字書体を,需要者が容易に読める程度に改変を加えてロゴ化したものであるから,請求人が使用しているロゴ自体に著作権が発生することはない。
以上からすると,本件商標が請求人の著作権を侵害し,商標法第4条第1項第7号に該当するとの請求人の主張は理由を欠いている。
(5)引用商標の周知著名性と商標法第4条第1項第15号該当性について
請求人が提出した証拠資料は,被請求人の出願後における,「おたふくの図形」及び「OTAFUKU」のロゴを,請求人が自己の販売する商品に使用している状況を示すものが大半であり,出願時の証拠適格を欠いており,本件商標の出願時点の出所混同の可能性を示す証拠とはなりえない。
会社自体や商品のカタログは,手袋専業者等の取引先に限定して頒布されるものであり,それだけで広く一般に知られていることを示す根拠とはなりえない(甲5,甲13?甲18)。
請求人は,被請求人の商標が出所の混同を生じさせると主張しているが,それを立証するアンケートや証言等の証拠を提示しておらず,テレビ・ラジオなどのマスメディアへの広告宣伝費用なども示していない。請求人の示す証拠資料は,本件商標の出願後において,請求人が商品に使用している状況だけである。
請求人は,ここ数年の売上高や使用状況を示している。周知性を主張するのであれば,「広く全国的に販売されているか」が重要であるが,それにも拘わらず販売地域や,自社製品を取り扱っている店舗の分布等については何ら明らかにしていない。
請求人は,信用情報(甲7)により,請求人が手袋製造分野において過去5年間にわたって売上高1位,2位を争っていると主張するものの,当該情報には掲載されていないショーワグローブ株式会社の売上には同時期の請求人の売上高は遠く及んでいない(甲11,乙7)。請求人の主張は,あくまで信用情報に売上情報を掲載している会社に限定されている。
また,軍手等の作業用手袋は,衣類の中でも使用の機会が稀であり,使用する人も,使用する場面も限定され,多くの人に馴染みがある商品ではない。そのような手袋に限定された分野において,特定の年度で売上が上位だとしても,マスメディア等による積極的な広告活動が行われていない限り,非類似の商品についてまで,「経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等と需要者に出所の混同を生じさせる」商標の使用状況にあるということはできない。
請求人は,本件商標の指定商品である「鍋・食器類等」と,請求人の「手袋」とがいわゆる日用品に属する商品であるため,商品が同じ又は類似商品に属すると主張しているが,「手袋」と,「鍋・食器類」の生産部門,販売部門,原材料・品質,用途,需要者は,いずれも一致するはずもなく,また,完成品と部品の関係にもないから,請求人の販売する商品と,本件商標の指定商品とは類似商品であるということはできない。
一方,「おたふくの図形」と「おたふく」の文字を併記した商標が,商品・役務を異にして多数登録されているという事実がある(乙10?乙23)。
市場では,おたふく手袋株式会社(資本金9,800万円)と同規模の会社(ハニーファイバー社,オタフクソース株式会社等)が,同一又は類似の商標を,異なる商品に付して使用しており(乙24,乙25),これらは商品を異にする請求人等の商標と平穏無事に併存している現状がある。これらに鑑みるに,いずれの商標においても,「おたふく」の文字と観念は,商品と結び付けられて,初めて商標の自他商品識別機能,出所表示機能を発揮し,一般消費者に識別されているといえる。すなわち,いずれも「図形単体」では自他商品識別機能,出所表示機能が発揮される程の周知著名性を獲得しているということはできない。
以上のとおり,請求人の商標は,手袋とは非類似である商品にまで出所混同が生じるような周知性を有しておらず,これにより,非類似の商品に使用される被請求人の本件商標が,請求人の商標と出所混同を生じることはなく,商標法第4条第1項第15号に該当する,との請求人の主張は理由を欠いている。
(6)商標法第4条第1項第19号該当性について
上記(5)のとおり,請求人の商品の販売地域は限定されており,引用登録商標は,日本国内において全国的に知られている商標には該当しない。そうすると,商標法第4条第1項第19号の「不正の目的」の要件(商標審査基準)を満たすことはない。
本件商標の「おたふくの図形」は,ハニーファイバー社の登録商標の「おたふくの図形」と同一のデザインである。当該図形は,本件商標を出願した2011年よりも10年以上前に著作権の保護期間が経過したものであり,被請求人の行為は,万人共有の財産である著作物を商標として採択したにすぎない。請求人は,偶然にも似た商標を採択することは不自然であると主張しているが,引用登録商標(甲3)の商標権者が個人名で,ハニーファイバー社の「おたふくの図形」を知って,同一の「おたふくの図形」を商標登録出願していたからこそ,本件商標と引用登録商標とが一致することになったにすぎない。
被請求人は,27件の中国商標登録出願を行っているところ(乙27),「おたふくの図形」が含まれる出願の類似群コード(乙28?乙32)と「おたふく」に何ら関係のない出願の類似群コード(乙33?乙36)とは同一となっている。自らが主として取り扱わない商品まで権利化を望まないことは当然のことであり,被請求人が請求人の中国登録を知って,あえて手袋の類似群コードを避けているとの請求人の主張は的外れな主張であり,何ら根拠がない。このことを以って,日本での商標登録に不正の目的がある,との請求人の主張は理由を欠いている。
請求人が主張するように,五福源仕の日本語ウェブサイトの「おたふくブランド使用の流れ」の記載には,誤解を招くおそれのある記載がされていた(甲76)。これは,ウェブデザイン会社にホームページ作成を依頼した際に,ウェブデザイナーとの意思疎通の齟齬により,他社の使用の歴史が,五福源仕の沿革のようにも受け取れるような記載となり,ウェブサイトにそのまま残っていたものである。日本語を正確に理解できず,自社による詳細なチェックが困難であり,「日本におけるおたふくブランドの使用」を説明しようとする意図が,自社の使用であるかの誤解を招くおそれにつながったものであり,不正の目的があったものではない。なお,現在の五福源仕の日本語ウェブサイトについては,誤解を招くおそれのある記載は削除され,自社の沿革のみが記載されたものに訂正されている(乙38)。
被請求人は,2015年10月13日に本件審判請求がされるよりも前の9月3日に,中国国内の特許事務所に各国での商標調査依頼をし(乙40),9月30日には,類似商標の調査結果を受け取っている(乙41)。その後の10月8日に国際登録出願の出願依頼を行っている(乙42)。更に,本件審判請求書の副本が発送された2015年11月13日よりも前の10月30日時点で,現に国際登録出願手続を行っており,その翌日には,商標大楼(中国商標局)に出願書類が送達されている(乙44)。この国際出願の指定国は,日本,韓国,シンガポール,オーストラリア,アメリカ,ニュージーランド,インド,ベトナム,ロシアの9力国である(乙45)。
被請求人が本件商標を採択した理由であるが,中国富裕層の間では,日本製の高品質な商品が求められている。そこで,被請求人の代表者は,中国需要者に,直感的に日本製であると伝わる商標を求めていた。中国においては「福」は,幸運,健康,裕福といった,いい意味で使われており,縁起のよい言葉として古くから親しまれている。更に,中国では,ふくよかな女性の顔も「福」を意味し,縁起のよいものとされている。そこで,被請求人は,「福」と「ふくよかな女性」のイメージに合うデザインであり,「日本」を暗示する商標として,日本で古くから親しまれている「おたふく」を採択することにした。そして,中国の商標デザイナーに,キッチン用品に使用するための商標を製作させるにあたり,「おたふくの図形」を含んだ商標の製作を依頼した。
商標デザイナーは,日本国内で古くから使われている商標の中から,図形として中国の消費者に訴求力のある商標を,本件商標の図形として採択したものである(甲1)。また,本件商標の「OTAFUKU」文字部分については,デザイナーから提示された種々の文字デザイン案の中から,消費者が容易に読める程度の書体を選択したものである(乙52)。
以上のとおり,被請求人の商標登録出願は,善良な事業者として取引の安全を確保するためにすべき法律行為であり,何ら図利加害目的はなく,商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」に該当することはない。更に,請求人の商標は,商標法第4条第1項第19号にいう日本国内で全国的に知られている商標に該当することもない。
以上のとおり,本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当する,との請求人の主張は理由を欠いている。
(7)結論
本件商標は,他人の著作権を侵害するものではなく,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
また,引用登録商標には,非類似商品にまで及ぶ程の周知性は認められず,本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない。
さらに,本件商標は不正の目的に該当することもなく,引用登録商標にも周知性が認められることもなく,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
そうすると,本件商標は,商標法第46条第1項第1号に該当せず,登録が維持されるべきものである。
2 第2答弁書(平成28年12月8日)における答弁
(1)請求人適格について
請求人は,なぜに「おたふく」の登録商標だけを会社でなく代表者個人が出願し登録されたのかを示さず,請求人適格に疑義が残ったままとなっている。中国の商標権については申請人変更の手続きを経て,請求人が商標権者となっている(甲72,乙53)。
(2)引用登録商標の周知性について
本件商標の出願時に引用登録商標の周知性を主張するのであれば,その出願がされた2011年から過去10年程度に行われていた広告宣伝活動の証拠を提示すべきであるが,請求人が提出した証拠資料は,出願日を遡ること23年から31年前の業界紙「センイ・ジヤァナル」の年賀広告等である。そのような証拠しか提出できないことに鑑みるに,20年以上の間にほとんど広告が行われていなければ,人々の記憶から薄れるのが当然であり,これをもって現在も周知性があるとは到底いえない。
請求人は,平成28年6月21日付け弁駁書において,コンビニエンスストア最大手のセブンイレブンにおいて,半数の店舗で販売されていると主張しているが,客観的な証拠,納品伝票等は提出されておらず,店舗名(18軒)を例示するに留まる。そして,被請求人が実店舗を巡って販売の事実を確認したところ,引用登録商標の「おたふくの図形」が付されていなかった(乙58,乙59)。すなわち,請求人は,事実に反して,不正な証拠を提出して虚偽の主張しているにすぎない。
デイリーヤマザキの証拠も,請求人の所在地からはるか遠方の千葉県の一店舗の販売態様を示す証拠をもって,デイリーヤマザキの全店舗で販売されていると評価することはできない。なお,デイリーヤマザキの店舗数は全国で1,400余とはいえ,コンビニ大手3社の合計と比較するとわずかに3%にすぎない。
請求人は,本件商標の出願日の7年から11年前の信用情報を提出している(甲82?甲86)が,信用情報に掲載された自社の売上高が5,805,649円程度で周知性が獲得されるはずがない(審決注:上記証拠によれば,正確には「5,805,649千円」である。甲82参照。)。また,請求人は,自社と比べて数倍の売上高があり,国内シェア1位のショーワグローブ株式会社を除外して順位付けしている上に,信用情報の掲載情報ですら,売上げ順位について虚偽の主張をしている(甲9,甲84?甲86)。信用情報の掲載情報には偏りがあり,売上げによる企業規模を判断する資料としては不適当である。
「センイ・ジヤァナル」は,2010年には廃刊された業界紙であり,発行部数も示されていない。
請求人は,数年おきに発行されているカタログ・パンフレット(甲96?甲99)の頒布数を明らかにしていない。
請求人が提出した甲第100号証のアンケート調査からは,屋外広告を意識して見ると積極的に回答した者は3.9%と極めて少なく,屋外広告をしていることだけにより,周知性が獲得されているとは到底評価できない。
結論として,請求人は,路上広告を掲示しているだけで,本件商標の出願日を遡る10年以内の広告活動の実績を全く示せず,多くの商品にも引用登録商標に係る「おたふくの図形」を表示していないで販売している。このような事情から,商標の周知性を主張することは論理性を欠いている。
(3)引用登録商標の過誤登録について
請求人の代表者が所有する商標(甲3,甲4)に含まれる「おたふくの図形」は,何ら独創性がなく,請求人とは関係のないハニーファイバー社の商標(乙1)に含まれる「おたふくの図形」と完全に一致する。
「おたふくの図形」の著作権者であるハニーファイバー社と同じ繊維業界に属する請求人が「おたふくの図形」を使用し始めたと主張する時期と,同社が朝日新聞に広告を掲載する(乙24,乙62)等広告宣伝に力を入れていた時期とは,いずれも昭和40年前後で一致している。
請求人の代表者が引用登録商標(甲3)を出願した日は,昭和58年1月21日である。
これらに鑑みるに,請求人の代表者が,ハニーファイバー社の「おたふくの図形」を知りながら,自社のシンボルマークとして位置づけて使用を開始し,ほとぼりが冷めた後になってから「おたふくの図形」について商標登録出願を行ったと解するのが自然である。
請求人は,自らが使用する「OTAFUKU」の文字については,製作者の証言まで提出している(甲107)が,「おたふくの図形」については,自らが創作した根拠を示していない。
引用登録商標(甲3,甲4)が,ハニーファイバー社の「おたふくの図形」を模倣して作られ,過誤登録により登録されたものが存続し続けていることが明らかである。したがって,引用登録商標の「おたふくの図形」は,除斥期間の適用のない商標法第4条第1項第7号に抵触するものであり,これを根拠として第三者に権利主張することはできない。
(4)商標法第4条第1項第15号該当性について
上記(2)のとおり,引用登録商標に周知性はない。また,上記(3)のとおり,引用登録商標には独創性もない。
請求人は,ゴム手袋と食器,清掃用具が日用品と呼ばれる同じカテゴリーに属する商品と主張しているが,「日用品」とは非常に広範にわたる概念であり,「日用品」といった区分は審査基準にも存在せず,請求人の主張は商品・役務の類似実態を無視した身勝手な主張であり,論理性がない。
請求人は,「同じ場所で同時に使用される状況が多々ある商品」と主張し証拠を提出しているが(甲103),同じ系列の他の店舗で確認したところ(乙66),これら商品のカテゴリーは,店舗ごとに取扱いが異なり統一性のないものであるといえる。請求人の主張は単なるこじつけであり,何ら論理性のない主張にすぎない。
請求人は,同時に使用される商品同士に,完全に同一といえる程に酷似した商標が使用される場合,商品の取引者及び需要者は,同じ製造主が商品を製造していると考えることが極めて自然であると主張しているが,この主張は,商標が広く知られている場合にはあり得る主張である。しかし,請求人が出願日から過去10年間の間の広告活動の実績を示せない状況からすると,取引者及び需要者が「おたふくの図形」に係る引用登録商標を広く知るはずもなく,いかなる商品に使用したとしても混同を生ずるおそれ等あろうはずがない。
以上のとおり,本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する,との請求人の主張は理由を欠いている。
(5)商標法第4条第1項第19号該当性について
乙第52号証は,国際登録に向けてのデザイン案である。同号証は,「OTAFUKU」の文字部分の選択のプロセスを示すために,同様にして行われた日本国出願日(2011年10月19日)よりも後の国際登録出願用のデザイン案(2012年6月)を示したものにすぎない。このデザイン案の日が日本出願日よりも後になっているのは当然のことである。
本件商標に含まれる「OTAFUKU」から強いて特徴のある文字を抽出すると,「O」,「A」であるが,これらの変形手法は,ごくありふれたものにすぎない(乙67?乙70)。
また,本件商標と引用登録商標の「おたふくの図形」が同一になるのは,請求人がハニーファイバー社の著作物を模倣した図柄を商標とし,被請求人がハニーファイバー社の著作権が消滅した後の図柄を登録商標に採択していることから,同一の図柄になるのは当然のことである。
被請求人が国際登録出願を行ったことについては,2016年10月28日時点のWIPOのデータベースに開示されている(乙55,乙55の2)。また,本国官庁である中国特許庁のデータベースにおいても開示されている(乙54,乙54の2)。請求人は,WIPOのデータベースのみの調査に基づき「被請求人が国際登録出願をしていたか疑わしい」といった誤った主張をしている。
上述のように,被請求人には何ら不正の目的はない。更に,請求人は引用登録商標を販売している商品に使用する努力を怠っている(乙58,乙59)状況からして,信用力が化体されていないことは明らかであり,信用力・名声のない商標にフリーライドできようはずもない。
以上のとおり,本件商標が,商標法第4条第1項第19号に該当する,との請求人の主張は理由を欠いている。
(6)商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は,著作権の消滅後の図柄を商標として採択したものであり,商標法第4条第1項第7号に該当することはない。請求人の代表者が保有する引用登録商標(甲3,甲4)に含まれる「おたふくの図形」は,ハニーファイバー社の著作物である同図形を模倣したものであることを否定する証拠もない。
また,請求人が使用する「OTAFUKU」の文字部分は,一般的に使用されている欧文字書体を,需要者が容易に読める程度に改変を加えてロゴ化したものにすぎない。したがって,当該文字部分だけを評価しても,被請求人の本件商標(甲1,甲2)が,他人の著作権を侵害することはありえない。
以上のとおり,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する,との請求人の主張は理由を欠いている。

第5 当審の判断
1 請求人適格(利害関係の存否)について
請求人は,本件商標が,請求人が手袋において長年使用し周知著名性を有する引用商標に酷似し,出所の混同を生じるおそれがあること等を理由として本件審判請求をしたこと,引用登録商標の商標権者の一人であるXは,請求人の代表取締役であるから,引用登録商標については,請求人が商標権者から黙示の使用許諾を得て長年使用してきたと推認されることを併せ考慮すれば,請求人は,本件商標の登録に関し直接かつ具体的に影響を受ける可能性を有するものであるから,本件商標の登録を無効にすることについて法律上の利害関係を有するものである。
2 引用商標の周知著名性について
(1)請求人が提出した証拠及び主張によれば,以下の事実が認められる。
ア 請求人について
請求人は,大正15年9月に創業し,以来,作業手袋,作業靴下等の製造販売を業とし,平成27年9月においては,作業用手袋及びその関連商品(カジュアル靴下・インナーシャツ・タイツ,安全靴・スニーカー,ワークグッズ関連商品など)約7,000種類の製造販売を行っている(甲5)。株式会社信用交換所発行の「信用情報」によれば,平成11年から同15年の各決算期の売上げにおいて,同紙に掲載された手袋卸の業種で第2位を維持し(甲82?甲86),同じく,平成22年3月決算期は約56億円,同23年3月決算期は約61億円,同24年3月決算期は約65億円の売上げであった(甲7?甲9)。
特に,手袋については,革手袋,軍手,軽作業手袋,縫製手袋,コーティング手袋及び特殊手袋を取り扱っており(甲6),これら手袋が請求人の主力商品となっている。
イ 引用商標の使用について
請求人は,昭和40年頃,同人の業務用車両のドア部に引用登録商標を付して大阪市内を運行していた(甲12)。
昭和60年印刷の会社案内の表紙や主要商品案内の頁には,引用商標がそれぞれ付されている(甲13)。以降,同人の記念セールのカタログ等において,引用商標が表紙等に付されている(甲16?甲18,甲96?甲98等)。
請求人は,以下のイベント,展示会に参加し,それぞれ,引用商標を以下のように使用した。
(ア)平成25年から平成27年まで,京セラドームで開催された関西コレクションに,パートナーシップ企業として参加し,イベントパンフレット中や会場入口パネルに引用登録商標が記載されている。平成25年のイベントの来場者数は27,000人であった(甲40?甲44)。
(イ)平成26年10月14日から幕張メッセで三日間開催の国際道工具・作業用品展EXPO(通称:ツールジャパン,幕張メッセ)の自社ブースに,本件商標を付したパネルやバルーンを展示した。同イベントの来場者数は,38,820人であった(甲45?甲50)。
(ウ)平成25年9月4日から東京ビッグサイトで三日間開催の第76回東京インターナショナル・ギフト・ショーの自社ブースの入口で,引用登録商標を付した看板を展示した。総入場者数は190,104人であった(甲53?甲56)。
請求人は,昭和47年9月頃から東海道本線,東海道新幹線及び京都線沿線の高槻市近郊に,引用登録商標と「おたふく手袋」の文字を表示した看板を設置している(甲58)。該看板がいつまで設置されていたかを示す証拠はない。また,請求人は,平成15年11月から,大阪市内の阪神高速1号環状線沿いに位置する本町橋西ビルの屋上に,引用登録商標と「おたふく手袋」の文字を表示した看板を設置している(甲61)。
(2)以上によれば,請求人は,平成10年代より,手袋卸の業種においては,(「信用情報」には掲載されていない業界大手企業が他に存在すること(乙7)を考慮しても,)国内で有数の売上げを有する企業であったこと及び昭和40年頃から引用登録商標を業務用自動車や看板での広告として使用を開始し,昭和60年からは引用使用商標も含め引用商標を商品カタログ,各種手袋の包装に使用をしてきたことから,引用商標は,国内の手袋の需要者において,一定程度知られていたということは推認できるものである。
しかしながら,上記(1)に関して提出された証拠では,(ア)引用商標が付された商品(手袋等)が,本件商標の登録出願時及び登録査定時より前において,どれくらいの期間,どの地域範囲において,どの程度製造・販売されたかについては明らかではないこと,(イ)商品カタログ等については,上記期間における頒布範囲や頒布数などが不明であること,(ウ)鉄道沿線や高速道路近接の看板は,これらに接する者が期間的にも地域的にもほぼ一定の範囲に限定される上に,必ずしも看板の表示内容を認識・記憶するとはいえないこと,加えて,(エ)インターネット通販や国内の商品展示会に関する証拠は,本件商標の登録査定時よりも後の事実を示すものであることなどを併せ考慮すると,これらの証拠をもってしては,引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,手袋の需要者において広く認識されていたということはできない。
(3)引用商標の周知性に関する請求人のその他の主張,立証について
ア 請求人は,阪神高速道路の看板について,交通量実績の高い道路であること(甲64?甲66),高速利用者はもとより歩行者にも認識される位置,大きさであること(甲61?甲63,甲67,甲101),屋外広告は多くの人に意識されるものであり(甲100及び甲101),ブログでも取り上げられるほど印象に残るものであること(甲68?甲71)などを挙げて,引用登録商標が広く認識されていることを主張するが,当該看板に接し,かつ,これを商標として認識する者が限定的であることにかわりなく,かかる主張は採用できない。
イ 請求人は,軍手,革手袋,品質管理手袋等又はその包装に引用商標が目立つ態様で多数販売されている証拠として甲第19号証から甲第26号証,甲第29号証から甲第36号証を提出しているが,これらはいずれも,写真撮影日が不明である上に,これらの商品が,いつ,どのような地域範囲において,どの程度製造・販売されたかを示す証拠の提出はない。
ウ 請求人は,インターネット通販サイトにおいて,引用商標を付した請求人の手袋が広告されている証拠(甲37?甲40)を提出しているが,掲載日は本件商標の登録査定時よりも後のものである。
エ 請求人は,全国で1,400以上の店舗を構えるコンビニエンスストアのデイリーヤマザキで,引用商標が包装袋に付されたドライブ・作業用の手袋が店頭に置かれていること(甲80,甲81)及び引用商標を付した手袋は37県で販売されていること(甲108)やセブンイレブンの9,000近くの店舗などにおいても請求人の製品が販売されている旨主張している。
しかしながら,甲第80号証及び甲第81号証における写真の撮影日が不明であること,主張に係るコンビニエンスストアにおいて,どの期間に,引用商標を付した商品がどの程度販売されているかの証左がない上に,被請求人が提出した証拠によれば,店頭におかれた請求人の商品には必ずしも全てに引用商標が付されているものではないこと(乙58,乙59)を考慮するに,請求人の主張をただちに採用することはできない。
3 本件商標と引用商標との類似性について
本件商標は別掲1,引用登録商標は別掲2,引用使用商標は別掲3のとおりの構成からなるものであるところ,本件商標の図形部分と引用登録商標,本件商標の文字部分と引用使用商標とは,それぞれ,構成が全く同一といえるほど酷似しているものである。
そして,本件商標と引用登録商標,及び本件商標と引用使用商標とは,それぞれ,彼此相紛らわしい類似の商標というべきである。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生じるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号 同12年7月11日第三小法廷判決)。
(2)商標の類似性の程度について
上記3のとおり,本件商標の図形部分と引用登録商標,本件商標の文字部分と引用使用商標とは,それぞれ,構成が全く同一といえるほど酷似しているものである。
そして,本件商標と引用登録商標,及び本件商標と引用使用商標とは,それぞれ,彼此相紛らわしい類似の商標というべきである。
(3)引用商標の周知著名性及び独創性の程度
上記2のとおり,引用商標は,国内の手袋の需要者において,一定程度知られていたということは推認できるものの,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,手袋の需要者において広く認識されていたということはできないものである。
また,引用登録商標は,別掲2のとおり,おたふくの図形からなるものであるところ,これは,ハニーファイバー社の保有する登録第396238号商標(別掲7)のおたふく図形部分と酷似するものである。
そして,被請求人はこの酷似性について,Xがハニーファイバー社の上記登録商標を知って,別の指定区分で出願したものであると主張しているのに対し,請求人は,両商標に係る商品が関連性のないものであることや当時の情報入手手段の状況に鑑みれば,請求人がハニーファイバー社の上記登録商標を知らなかったことは当然と述べる一方,引用登録商標の商標権者である請求人代表者とハニーファイバー社の間で両商標の使用について,平成21年7月22日に合意書を結んでいる(甲109)。
以上の事情に加えて,おたふくの図形は,我が国内においては一般に,「ふくぶくしさ」や「多幸」をイメージさせることもあり,事業者において比較的多く採択されていること(乙10,乙11,乙13,乙15?乙18,乙21?乙23)に鑑みれば,引用登録商標が,ハニーファイバー社の登録商標を基に採択されたものである場合はもとより,偶然にハニーファイバー社の登録商標と酷似のものとなったとしても,引用登録商標の独創性はさほど高いものとはいえない。
また,引用使用商標の「OTAFUKU」のロゴについては,請求人の主張によれば,昭和56年頃に請求人の依頼に基づき,デザイナーのYが半年以上かけて制作したものである(甲107)。
引用使用商標の構成態様は,「OTAFUKU」の文字を同じ書体,同じ大きさで横一列に書してなり,「O」の文字の右上部分が切り欠かれ,「A」の文字の横棒部分が斜めに変形されているところに特徴を有するものである。「O」及び「A」の各文字のデザインについては,比較的採用される変形の範囲を出るものとはいえない(乙67?乙70)ものの,「OTAFUKU」の文字全体におけるデザインとしてはある程度の独創性はあるものというべきである。
(4)商品の関連性その他取引の実情
本件指定商品は,前記第1のとおり,第21類に属する,いわゆる台所用品並びに清掃用具及び洗濯用具であり,引用商標が主として使用される商品は手袋類である。
手袋類の原材料は繊維,合成ゴム等であり,金属類,プラスチック,木材等を主な原材料とする台所商品並びに清掃用具及び洗濯用具とは,製造部門や流通部門を全く異にするものである。事実,「信用情報」の掲載内容においても,「手袋卸,手袋製造」業者は,「洋品雑貨類製造・卸」の類型に属し,請求人も含め手袋製造・卸の事業者の多くは,手袋を主たる商品として,他の商品に事業を展開する等の事情は見当たらない(甲7?甲10,乙7)。
なお,請求人は,手袋も日用品という同じカテゴリーに属する商品であり,請求人が製造する手袋の中には調理時に使用される手袋や清掃時に使用される手袋もあり,本件指定商品と請求人の手袋は,使用状況(家庭で同時期に使用される),需要者(一般消費者),販売場所(スーパーマーケットやホームセンター)が一致する旨主張する。
確かに,調理・洗濯用手袋や作業用の軍手は,日常の家事において用いられることも多い商品であり,スーパーマーケットやホームセンターで販売されることがあるとしても,通常の手袋は,上記のとおり「洋品雑貨類製造・卸」の類型に属する商品として,いわゆる台所用品並びに清掃用具及び洗濯用具などとの陳列場所などについては異にすることも多いというべきである。
(5)小活
以上のとおり,本件商標の図形部分及び文字部分は,引用商標のいずれとも酷似するものであって,いわば引用の両商標を二段に結合させたものということができるものであること,引用使用商標の「OTAFUKU」のロゴには一定程度の独創性があること,本件指定商品と引用商標が使用されている手袋類とは,限定的に日用品のカテゴリーのものとして需要者や販売店を共通にする場合もあることが認められる。一方,引用商標が日用品はもとより,手袋類の分野においても,需要者に広く認識されているとはいい難く,上記商品間での関連については,原材料,製造部門,流通部門において大きく異なることや請求人を含め手袋類を製造・販売する事業者が他の日用品等を取り扱うなどの事情は見当たらない。これらを併せ考慮すれば,本件商標が引用商標に類似するものであるとはいえ,本件商標を本件指定商品に使用しても,これに接する需要者が,これがあたかも請求人の業務に係る商品であるかのごとく商品の出所について混同を生ずるおそれがあるということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号には該当しない。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)引用商標の周知著名性について
上記2のとおり,引用商標は,国内の手袋の需要者において,一定程度知られていたということは推認できるものの,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,手袋の需要者において広く認識されていたということはできないものである。また,引用商標が中国において請求人に商標登録されているとはいうものの,当該国を含め外国において広く認識されていることを示す証左はないから,外国において知られていたということもできない。
(2)不正の目的について
本件商標及び引用商標等の商標登録出願に関する経緯は,前記第1,第2の1及び第4の1(2)のとおりであり,被請求人による本件商標の日本での登録出願は,平成23年10月19日であり,これに先立つ昭和61年6月27日には,請求人の代表者の一人であるXの引用登録商標が設定登録され,また,平成13年5月11日には,中国において請求人の商標(別掲4,別掲5)が,それぞれ登録出願され,後に登録されている。そして,平成23年7月13日には,中国において被請求人の商標(別掲6)が登録出願されている。また,これら商標より以前には,昭和26年1月29日に,現在ハニーファイバー社を商標権者とする登録第396238号(別掲7)が設定登録されている。
被請求人は,同人が本件商標を採択した理由について,「福」と「ふくよかな女性」のイメージに合うデザインであり,中国需要者に「日本」を暗示することもできることから,日本で古くから親しまれている「おたふく」を採択することにした。中国の商標デザイナーに,キッチン用品に使用するための商標を製作させるにあたり,「おたふくの図形」を含んだ商標の製作を依頼した。商標デザイナーは,日本国内で古くから使われている商標の中から,図形として中国の消費者に訴求力のある商標を,本件商標の図形として採択した。また,本件商標の「OTAFUKU」文字部分については,デザイナーから提示された種々の文字デザイン案の中から,消費者が容易に読める程度の書体を選択したものである,と主張している。
上記の商標登録出願に関する事実関係も踏まえると,自己の商標採択においてデザイナーに制作発注をするなどの手続を踏んだ被請求人が,商品の分野が異なるとはいえ,自国である中国における請求人の商標登録出願(別掲4,別掲5)又は登録の事実について,全く承知していなかったとはいい難い上に,本件商標と引用商標との酷似性に鑑みれば,むしろ,被請求人は,請求人の引用商標について知悉し,これを自己の商標に採択したものとみるのが相当ともいえる。
しかしながら,引用商標が国内においても外国においても,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者に広く認識されていたとはいえないことは,前記2のとおりであるから,被請求人が,引用商標の著名性に便乗して不当な利益を得るために本件商標を出願したとも,引用商標の出所表示機能を稀釈化させ又はその名声を毀損させる目的をもって本件商標を出願したものともいえない。
請求人は,被請求人の本件商標の採択の経緯について十分に説明がされておらず,その選択の過程は明らかに不可解であり,被請求人が引用商標の名声にフリーライドする目的を有していることも明らかである旨主張する。
しかしながら,商標採択の経緯や理由が明確でないことをもってその出願に不正の目的があったということはできず,また,両当事者の主張,証拠を検討する限りにおいて,被請求人の本件商標採択や登録に係る行為が,信義則に反する不正の目的をもってしたものというべき事情も見当たらない。
(3)小括
以上のとおりであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第19号には該当しない。
6 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号の趣旨
商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,ア その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,イ 当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,ウ 他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,エ 特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,オ 当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(平成18年9月20日知的財産高等裁判所判決,平成17年(行ケ)第10349号参照)。
本件商標の構成態様は,前記第1のとおりであり,その構成自体が非道徳的というものではなく,他の法律によってその使用が禁止されているものでもなく,国際信義に反するものともいえない。また,これを本件指定商品に使用することが社会公共の利益に反するというべき事情も見当たらない。
請求人は,引用登録商標に係る「おたふく図形」は,請求人が遅くとも昭和40年から長年に亘って継続して使用している著作物であり,被請求人は,何ら許諾を得ることなく,当該著作物とほぼ同一の「おたふく図形」を使用した本件商標を登録及び使用し,著作権を侵害していることになるが,このような著作権侵害に当たる商標の登録及び使用を認めることが,社会的秩序を乱すことは明らかであるから,本件商標は,採用の経緯及び著作権侵害にあたる点において,社会的相当性を欠くと主張する。
しかし,本件商標及び引用登録商標に係る「おたふく図形」の著作権という点については,そもそも,時系列的にみれば,両商標は,昭和25年に出願公告され現在はハニーファイバー社の所有に係る登録第396238号商標(別掲7)に依拠するものといえるのであり,これに当初著作権があったとしても,本件商標の登録出願時である平成23年においては,もはや権利失効しているというべきであるから,請求人の主張は採用できない。
また,請求人は,商標選択の過程が不自然かつ不可解な本件商標の登録を認めることは,社会秩序・取引秩序に反することは明らかである旨主張する。
しかし,商標選択の過程に不自然かつ不可解な点があるものが登録されることによって,いかに社会秩序や取引秩序に反することとなるかについての主張,立証はされておらず,かかる事情のみをもって,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないようなものであるということはできない。
(3)小括
以上のとおりであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第7号には該当しない。
7 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号,同項第19号及び同項第7号に違反して登録されたものではないから,同法第46条第1項により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。


別掲1 本件商標(登録第5478514号)




別掲2 引用登録商標(登録第1868004号)




別掲3 引用使用商標




別掲4 請求人中国商標(中国登録番号1994802)




別掲5 請求人中国商標 (中国登録番号1994781)






別掲6 被請求人中国商標(中国登録番号9713400)




別掲7 ハニーファイバー社の登録商標(登録第396238号)

審理終結日 2017-12-26 
結審通知日 2017-12-28 
審決日 2018-03-06 
出願番号 商願2011-74744(T2011-74744) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (X21)
T 1 11・ 22- Y (X21)
T 1 11・ 222- Y (X21)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 斎 
特許庁審判長 半田 正人
特許庁審判官 金子 尚人
小松 里美
登録日 2012-03-16 
登録番号 商標登録第5478514号(T5478514) 
商標の称呼 オタフク 
代理人 青山 秀夫 
代理人 特許業務法人R&C 
代理人 高木 将晴 

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