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審決分類 審判 一部取消  無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W36
管理番号 1338294 
審判番号 取消2016-300820 
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-11-21 
確定日 2018-02-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第5568263号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5568263号商標の指定役務中、第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定着物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,信用購入あっせん」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5568263号商標(以下「本件商標」という。)は、「HAYABUSA」の欧文字を標準文字で表してなり、平成24年6月7日に登録出願、第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定着物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,信用購入あっせん」を含む,第35類,第36類及び第45類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として、同25年3月22日に設定登録されたものである。
そして、本件審判の請求の登録日は、平成28年12月2日である。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を審判請求書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書等において要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、継続して3年以上日本全国において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが、その指定役務中、第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定着物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,信用購入あっせん」(以下「取消請求役務」という場合がある。)についての登録商標の使用をしていないものであるから、その登録は商標法第50条の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁(平成29年3月17日付け弁駁書)
(1)乙第4号証は成立を認めない
被請求人は、取り消しにかかる指定役務中、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」について、本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)に日本国内で使用していたことの証拠として、乙第4号証の「預り証」の写しを提出している。ところが、この「預り証」には、極めて不自然な箇所があり、真正に成立する証拠とは認めることができない。
乙第4号証の「預り証」の写しには、日付の記載があり、印刷で「28年8月」とあるが、日の前には具体的な日の記載がない。また、通常存在する28の前の「平成」の文字も存在していない。「預り証」は、1つの帳票であり、日付の日の部分の日数を入れないように、特に28年8月までの月で記載を止めることは、常識では考えられない記入の仕方である。これは後から作為的に作成したものであるために、日付まで入れると何等かの不都合が生じるために敢えて記載していないと推測する。
もう1つ着目すべき点は実印、銀行印などの預かりものに対して数量の欄があり、明らかに手書きで数量の書き込みがなされている点である。すなわち、印刷された「預り証」が存在していた段階で、手書きで数量の入力がなされており、もし本当に28年8月に作成されていたのなら、手書きで8月の後の何日の日数も入れることができる筈であり、その記入がないことから、数量について手書した者は「預り証」という書類に対して日付を無視したと言わざるを得ない。顧客の重要な物品を預かる業務について、日付を無視すること自体極めて不自然であり、専門家たる税理士法人ではなおさらである。
乙第4号証の「預り証」の写しについては、後日曖昧な記憶に基づき作成されたものと憶測され、真正に成立する証拠とは認めることができない。
(2)仮に通帳を預かる業務をしていたとしても、銀行法の預かり業務ではない
乙第7号証にも記載されているとおり、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」は、銀行法でいう保護預かりである。この役務については、銀行法第10条第2項第10号に「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」との記載があり、銀行業に付随する業務として挙げられているものであって、その主体は銀行である。
一般に、銀行などの金融機関は認可制であり、単なる税理士法人である被請求人が金融機関としての業務に付随する業務を行っていると主張することはできない筈であり、甲第1号証として提出する金融庁の銀行代理業者許可一覧にも被請求人の名称は存在していない。
銀行法は、銀行等の金融機関に対する法令であり、金融機関でない税理士法人及び従業員持株会等の会社内組織はその役務を提供できないことは明らかであり、金融機関でない税理士法人及び従業員持株会等の会社内組織が行っている「有価証券・貴金属その他の物品の預かり保管」は、「銀行法でいう保管預かり」の範躊に属するものという被請求人の思料は失当である。
(3)仮に通帳を預かる業務をしていたとしても、納税業務の一部にすぎない
請求人の提出した乙第3号証には、16番銀行印の保管及び捺印、17番納税及び大口振込の代行と記載され、その記載部分には赤色での枠が記入されているが、これらの左端には明らかに「納税業務」との文字が記載されている。
すなわち、税理士法人として顧客の口座からの納税処理や、納税引き落としの管理、消費税、地方税の納税、還付金などのチェックなどを行っていると推測され、そのために銀行印とその通帳等を預かっているにすぎない。
これは金融機関が貸金庫などの設備を以って貴重品等の預かりをする役務とは全く異質のものであり、通常の税理士が顧客へのサービスとして提供している納税業務・経理事務の域を出ない。
(4)通帳を預かる業務について、「HAYABUSA」の商標を使用していない
被請求人は「HAYABUSA」と「International」を2段書きで含む商標を社会通念上の同一として取消対象の商標「HAYABUSA」の代わりに使用していると主張して、名刺、パンフレット、ウェブサイトの画面複写物などを証拠として挙げているが、いずれも税理士法人、会計法人等の国際ネットワークについて商標を使用しているだけであり、具体的に「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務について商標「HAYABUSA」を使用している証拠を見出すことはできない。
税理士法人、会計法人等の国際ネットワークは、会計処理や税務についてのサービスを行っているとの記載は見受けられるが、銀行法の「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」、平たくいえば貸金庫業務を行っているとの文言は全く存在しておらず、それを示唆する文字も見受けられない。被請求人は契約書があり名刺に商標があれば、総合勘案により、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」に使用している旨主張しているが、乙第12号証の内容や客観的に観て、「HAYABUSA」と「International」を2段書きで含む商標を国際ネットワークの名前として使用しているにとどまり、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」に使用している証拠はない。
もし、商標「HAYABUSA」を「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務に本当に使用しているならば、商標権者の代表社員が陳述書にそのように陳述する筈であるが、提出された陳述書(乙12)は国際ネットワークの名称であると主張するにすぎない。「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」についてのパンフレット等はそもそも存在しておらず、請求人はその証拠の成立を否定しているが乙第4号証の預り証の写しにも勿論商標「HAYABUSA」の文字の使用はない。
(5)取消2007-300159は、持株会の「有価証券の信託の引受け」を認めたのであり、「有価証券の保護預かり」を認めたものではない
被請求人は、取消2007-300159を挙げて、保護預かりについて銀行に限らず認められた先例と主張するが、この過去の先例で、持ち株会の役務として認められたのは、有価証券の信託の引き受け業務であり、それを以って、有価証券の保護預かりについて銀行以外に認めたとすることはできない。
銀行法は、銀行等の金融機関に対する法令であり、金融機関でない税理士法人はその役務を提供できないことは明らかである。
(6)まとめ
上述のように、本件商標については、要証期間内にその指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」について不使用であることは明らかである。
3 口頭審理陳述要領書(平成29年9月20日差出)について
被請求人は税理士法人として「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」を業務として行っていると繰り返し主張しているが、提出された証拠を客観的に精査すると、乙第3号証に、明らかに納税業務の一環として、銀行印の保管があり、経理事務として通帳の保管をしていると記載されている。
請求人が主張したい点は、これらの証拠からは税理士法人の業務として、通帳や銀行印を保管しているにすぎず、第36類の金融サービスの「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」を行っているとの証拠とはならない点である。
被請求人は、銀行法の付帯業務の主体については、銀行法上、限定されていないことを根拠に、税理士法人もできるとしていると主張し、自分が行っている役務を「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の文言に当てはめて主張しているにすぎない。税理士法人も(可能性として)できるということと、銀行法の付随業務である第36類の「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」を実際に行うことの間には、かなりの差があることは説明するまでもなく、金融機関並みの設備や人員を備えて第36類の「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」を行っていると証明できる証拠は1つとして挙げておらず、法人の代表も普通に税理士法人としての業務をしていると主張するにすぎないものである。
税理士法人が顧客のために通帳、銀行印を預かっている業務は、乙3号証に記載されるように税理士法人が行う役務としての単なる「物品の預かり」であり、銀行法の付随業務である第36類の「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」ではない。
誰でもが参入できる役務なので、通帳を預かれば金融機関と同等な「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」役務になるというのは、短絡的な論理であり、税理士法人が行う役務としての単なる「物品の保護預かり」を銀行法の付随業務である第36類の「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」に置き換えることはできないものである。
4 上申書(平成29年10月30日付け)について
(1)被請求人の提出した証拠は、いずれも税理士法人の業務に関するものであり、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」を役務とする商標の使用についての証拠が見当たらない。
商標法第2条第3項第8号は、「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を商標の使用と定義している。ここで被請求人の提出した証拠を精査すれば、名刺(乙9)とパンフレット(乙10の1及び2)、ウェブサイト(乙11)に「HAYABUSA」の文字が存在するが、いずれも税理士法人若しくは税理士法人を主体とする国際ネットワークがその税理士業務用に使用しているものにすぎず、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」については全く記載されておらず、貴重品等の保護預かりについての当該標章を付した広告、価格表若しくは取引書類は、全く提出されていない。
すなわち、保護預かりについては、被請求人は、通帳を税務の依頼者から預かっているとは主張しているものの、その保護預かり業務に関して「HAYABUSA」の商標を使用している証拠は全く存在しない。
(2)被請求人は税理士法人がその業務範囲として行っている通帳や印鑑を保管する業務(納税業務)を「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務と主張するが、商標法上は「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務は基本的に金融機関などが行う役務である。
先にも主張したように、税理士法人が顧客のために通帳、印鑑を預かる業務は本人が提出した乙第3号証に記載されるように税理士法人が行う役務としての単なる「物品の預かり」であり、銀行法の付随業務である第36類の「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」ではない。
例えば税理士法人が訪問した顧客に応接室でお茶を出すことは商標法上の「飲食物の提供」ではなく、あくまで税務会計業務の一環であることと同じ論理であり、通帳を預かれば金融機関と同等な「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」役務になるというのは、極めて短絡的な論理であって商標法の予定するところではない。商標法にいう「役務」とは、他人のためにする労務又は便益であって、付随的でなく独立して市場において取引の対象となり得るものをいうと解するのが相当である。(例えば、平成11年(行ケ)第390号 審決取消請求事件 シャディ事件(乙17)、平成12年(行ケ)第105号 審決取消請求事件 ESPRIT事件)。被請求人が顧客のために通帳、印鑑を預かる業務は税理法人が行う税務・納税業務に付随しており、独立して市場において取引の対象となり得るものではなく、独立した実績も要証期間に存在していないことは先日の口頭審理でも確認されたとおりである。さらに、上申書に添付された陳述書(乙20?乙23)も被請求人に税理士顧問を依頼しており、その業務の中で納税作業等を依頼していると主張するだけである。また、被請求人は第2答弁書で「独立した取引としての対価の支払いが行われているか否か」を役務の独立性の重要事項としているが、その「独立した取引としての対価の支払い」についての証拠は結局出されておらず、独立した取引についての可能性を主張しただけであり、保護預かりに関する請求書、領収書などは全く証拠として出されていない。
すなわち、被請求人が顧客のために通帳、印鑑を預かる業務は、税務役務の提供に伴い付随的に行われる労務又は便益にすぎず、商標法にいう「役務」に該当しない。
(3)税理士法人は税理士法で特別に設立が認められた特別法人であることから、その業務範囲は税理士法が定めた範囲に限定され、銀行法の付随業務である第36類の「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」はその業務範囲外である。
税理士法が定めた業務範囲については、国税庁のウェブサイトに、「税理士法第2条第2項に規定する業務並びに財務省令で定める業務(財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行、その他財務に関する事務)とされ、個人の税理士が税理士資格によらずに行い得る、例えば保険代理店業務や不動産貸付業といった業務については、税理士法人が行うことは認められない。」と記載されている。税理士法人がその業務範囲を越えているかどうかは商標法上の問題ではなく、勿論本審判廷の関与する事項ではないが、税理士法人の代表社員の田中氏の主張は、被請求人は税理士法で認められた範囲で業務を行っているにすぎず、その業務範囲内の納税業務で生じる通帳、銀行印を預かっているだけとの主張であることは明らかであり、ここで証拠として提示された通帳などの保護預かり業務は税理士業務とは独立して取引の対象とはならない業務にすぎない。仮に被請求人が税理士業務とは独立して有価証券・貴金属その他の物品の保護預かりを行っているとすれば、その行為は税理士法による懲戒等の対象となると思われるのであり(税理士法第48条の5)、本件で提出された証拠は被請求人が行う税理士業務を第3者が勝手に銀行法の付随業務である「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」と誤認してくれることを願って提出されているものである。すなわち、違法な業務をしているとは少なくとも公的に誰もが主張できないことはいうまでもなく、上申書の内容も被請求人が要証期間に行った行為が税理士業務からは逸脱しないと主張しているにすぎないものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、その理由を答弁書及び口頭審理陳述要領書等において要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第24号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)請求人の主張に対する反論
本件商標は、その指定役務中、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」について、要証期間内に日本国内において、被請求人等により使用されている。
ア 本件商標の使用権者について
本件商標は、HAYABUSA International合同会社(以下「HAYABUSA合同会社」という場合がある。本店所在地:東京都港区北青山三丁目5番8号)とその社員が、その役務の出所を示すために使用しているものである。
HAYABUSA合同会社は、日系会計事務所の国際ネットワーク「HAYABUSA International」の本部組織として、2012年に設立された(乙1)。現在、当該ネットワークには、国内外の14事務所(そのうち、5事務所は海外(タイ、インドネシア、シンガポール、ベトナム、インド)に、9事務所は国内(東京、新潟、大宮、浜松、名古屋、徳島)に所在している。)が加盟しており、その顧客数はあわせて約1,700社、売上高は約19億円、従業員数は約600名に及ぶ(乙2)。
本件商標「HAYABUSA」は、HAYABUSA合同会社とその社員たる加盟事務所が、前記国際ネットワークに加盟し、その役務を提供していることを明示するために使用されている。
本件商標権者は、HAYABUSA合同会社の業務執行社員として、前記国際ネットワークの加盟事務所を代表して、本件商標を登録し、自らもその国際ネットワークの加盟事務所として本件商標を使用するとともに、HAYABUSA合同会社並びに前記国際ネットワークの加盟事務所に、本件商標を使用させている。
イ 指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」について
乙第3号証は、商標権者がその顧客と締結した、委任契約の契約書の一部の写しである。第2条によると、顧客は、委任業務の範囲として、通帳や銀行印の保管業務を個別に、他の業務から独立して委任できる。また、第3条によると、通帳や銀行員の保管業務についての対価は、他の業務とは独立して、個別に設定されている。
乙第4号証は、商標権者が通帳等の保管業務を受任した際、顧客に対して発効する預り証の写しである。乙第5号証は、商標権者が、顧客から預かり、保管している物品を管理するために作成している一覧表の写しである。
乙第6号証は、前記国際ネットワークに加盟している事務所の一つである、表参道税理士法人がその顧客と締結した、業務委任契約の契約書の一部の写しである。第2条において、その業務範囲の一部として、「支払及び預金通帳管理業務」が独立して記載されている。
以上のとおり、商標権者並びに前記国際ネットワークの加盟事務所は、銀行印、通帳等の預かり・保管を、独立した業務として行っている。このような物品の預かり・保管は、指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」に該当するものである。
なお、特許庁商標課編「商品及び役務の区分解説〔国際分類第10版対応〕」(発明推進協会 2012年、173頁:乙7)によると、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」は、「銀行法でいう保護預かりである。」とされている。前述の銀行印や通帳等は、有価証券・貴金属と並ぶ貴重品であるから、当該役務記載中の「その他の物品」に含まれると解される。また、銀行法上、「保護預かり」は付随業務であって、当該役務を提供するのは、銀行に限られない(この点は、会社内組織である従業員持株会によって、登録商標が役務「有価証券の保護預かり」について使用されていたことを認めた過去の先例(取消2007-300159:乙8)からも明らかである。)。
したがって、商標権者並びに前記国際ネットワークの加盟事務所が業として行っている、銀行印や通帳等の預かり・保管は、指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の範ちゅうに属するものである。
ウ 商標の使用態様について
商標権者、HAYABUSA合同会社、前記国際ネットワークの加盟事務所は、それぞれ、本件商標を使用し、その役務を提供している。
例えば、商標権者は、その名刺に本件商標と社会通念上同一と思料される商標を使用している(乙9)。また、商標権者が頒布しているパンフレット(乙10)やウェブサイト(乙11)においても、前記国際ネットワークについて言及するとともに、本件商標と社会通念上同一と思料される商標を使用している。その他、商標権者は、顧客に対して自らを紹介する際には、前記国際ネットワークについて説明するとともに、その一員として役務を提供していることを明らかにしている(乙12)。
以上のとおり、商標権者の顧客をはじめ、その需要者にとって、商標権者が前記国際ネットワークの一員としてその役務を提供していることは明らかである。
同様に、前記国際ネットワークに加盟している事務所の一つである、表参道税理士法人は、そのウェブサイト上において、前記国際ネットワークに加盟していることを明記しており(乙13)、その一員として役務を提供していることを明らかにしている。
なお、乙第9号証及び乙第10号証は、要証期間内に作成・頒布されたものである。商標権者は、平成26年(2014年)8月に、その事務所の所在地を、「東京都千代田区平河町二丁目2番1号」から、現在の「東京都千代田区麹町3-3 丸増麹町ビル6階」へ移転しているが(乙14)、乙第9号証及び乙第10号証のいずれにも、現在の住所が記載されていることから、これらが2014年8月以降に作成され、頒布されているものであることは明らかである。
また、本件商標は、標準文字商標「HAYABUSA」であるところ、乙第2号証、乙第9号証ないし乙第11号証には、欧文字で書かれた「Hayabusa International」と図形が組み合わされた商標(別掲:以下「使用商標」という。)が使用されている。
欧文字「Hayabusa」と欧文字「International」は二段で構成されており、「Hayabusa」の部分は太字の斜体で書かれている一方、「International」の部分は、通常のブロック体で、「Hayabusa」よりも小さく書かれている。また、「Hayabusa」と「International」の間は、赤色のラインで区切られている。
さらに、欧文字「Hayabusa International」の横には、図形が付されているものの、当該図形と文字部分は、外観上、区別することが可能である。
よって、乙第2号証、乙第9号証ないし乙第11号証に使用されている商標からは、「Hayabusa」の部分が容易に看取される。また、欧文字で単語を表記する際には、頭文字のみを大文字で書し、その他の文字を小文字で書することは、ごく当たり前に行われる変更である。したがって、乙第2号証、乙第9号証ないし乙第11号証で使用される商標は、登録商標「HAYABUSA」と社会通念上同一である。
エ 本件商標の指定役務についての使用について
乙第9号証ないし乙第12号証から明らかなとおり、商標権者は取引するに当たって、本件商標と社会通念上同一と思料される商標を明示した名刺、パンフレットを提示し、また、顧客に対して、自らが前記国際ネットワークの加盟事務所であることを説明するとともに、顧客は同様の内容について、ウェブサイトを通じて、容易に確認できる。すなわち、需要者は、商標権者と乙第3号証のような契約を締結し、通帳等の保護預かりの業務を委任する際には、乙第9号証ないし乙第12号証のような名刺、パンフレット、ウェブサイト、商標権者の説明によって、本件商標と社会通念上同一の商標に接しており、その商標の下に、役務が提供されていると認識しているものと考えられる。
以上から、契約書と名刺、パンフレット、ウェブサイト、商標権者による説明を総合的に勘案すれば、商標権者は、本件商標と社会通念上同一と思料される商標を、指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」について使用していると認められるものである。
このような認定は、過去の先例に照らしても妥当であると考えられる。例えば、取消2007-300774(乙15)によると、その「契約書等に本件商標の表示が使用されていないとしても、これらの契約を締結するに際し使用されていたと推認し得る封筒、及び顧客との取引の際に提示したと推認し得る名刺には、本件商標と社会通念上同一と認められる商標が表示されていたことは、前記2(2)認定のとおりであり、したがって、契約書等並びに封筒及び名刺とを総合勘案すれば、」登録商標と同一の商標が使用されていたと認めることができる、と認定している。
なお、上記のとおり、乙号各証を総合的に勘案すれば、商標権者が本件商標を指定役務に使用していることは明らかであると思料されるが、近時の会計業界における取引の実情からしても、商標権者等の税理士法人がその業務を行う際には、需要者からは、本件商標を使用して、指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の提供が行われていると認識されることは明らかである。
商標権者や本件商標の使用権者を含む税理士法人は、従来、会計業務を提供してきたが、近年は、顧客ニーズに対応して、支払代行業務等の、会計に関連する業務全般のアウトソーシングを請け負う事例が多数見られる。特に、通帳等の保護預かり業務は、支払代行業務に関連している上、税理士法人の主な顧客層でもある中小企業や個人事業主等にとっては、会社の重要品の紛失を避けることにも繋がることから、税理士法人によって提供される役務として、ごく自然なものである。
また、近年、会計業界においては、会計業務の国際化や、顧客の海外進出による各国会計実務への対応のために、国際ネットワーク形成する事例が多数見られる。このような国際ネットワークの加盟事務所は、自らの事務所名称とともに、国際ネットワークの名称を併せて使用し、その役務を提供するのが通常である。特に、我が国の場合には、税理士法第52条によって、税理士又は税理士法人でない者が税理士業務を行ってはならないと規定されているため、日本法上の税理士・税理士法人でないこともある国際ネットワークそのもの(現に、本件における前記国際ネットワークも、合同会社である。)は、直接には、税理士業務を行えず、したがって、その加盟事務所は、通常、国際ネットワークの名称も使用して顧客を獲得しつつ、実際の役務提供の際には、自らの事務所名等を使用せざるを得ないという事情も存在する。
以上のような事情を背景とすると、需要者たる顧客は、商標権者や使用権者が税理士法人として提供する役務の内容には、当然に「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」が含まれていると認識するものと考えられる。
そして、乙第9号証ないし乙第13号証のとおり、商標権者や本件商標の使用権者は、前記国際ネットワークの一員としてその役務を提供していることを明らかにしている。
したがって、需要者たる顧客は、乙第4号証及び乙第6号証のように、各税理士法人と業務委任契約を締結しているが、当然に、国際ネットワークへ加盟している各事務所へ依頼していると認識していると思料され、すなわち、本件商標と社会通念上同一と思料される国際ネットワークの名称の下にその指定役務が提供されていると認識しているものと考える。
(2)まとめ
以上より、本件審判請求の予告登録前3年以内に、本件商標が、その指定役務中、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」について使用されていることは明らかである。
2 第2答弁書(平成29年6月29日付け)について
(1)「銀行法上の保護預かり」の解釈について
ア 請求人の主張
請求人は、指定役務中、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」は、銀行法上の「保護預かり」であることから、当該役務は、認可を受けた銀行や金融機関によってのみ、提供されるものであって、被請求人がそのような認可を受けた法人ではないとして、その提供する役務が銀行法上の保護預かりに該当しない旨、主張している。また関連して、取消2007-300159(乙8)についても、当該事件における通常使用権者たる持株会の役務として認められたのは、有価証券の信託の引き受け業務であって、銀行以外について有価証券の保護預かりを認めた先例ではないと主張している。
しかしながら、請求人による銀行法の解釈、特許庁における先例の理解は、請求人独自のものであって、適切とはいえない。
イ 銀行法で規定される「業務の範囲」について
銀行法は、第10条ないし第12条において、銀行の業務範囲を規定している。これら銀行の業務は、講学上、「固有業務」と「付随業務」に分けられると解されている。「固有業務」は第10条第1項に規定される業務であって、「銀行業」を構成する(「銀行業」の定義につき、銀行法第2条第2項を参照。)ことから、免許を受けた者以外が営むことはできない(営業の免許につき、銀行法第4条を参照。違反時の罰則について同法第61条を参照。)。
他方で、「付随業務」については、銀行法第10条第2項に例示されているが、これらは、あくまで「銀行業」に「付随する業務」であることから、「銀行業」そのものではなく、したがって、営業の免許を受けなくても営むことができるものである。
以上の解釈は、「銀行業」の定義規定(銀行法第2条第2項)、業務範囲に関する規定(特に、同法第10条第1項及び第2項)、営業の免許に関する規定(同法第4条)、罰則規定(同法第61条)の構造上、明らかである。
また、我が国の銀行法の解釈において、最も信頼のおける体系書である、小山嘉昭『詳解 銀行法〔全訂版〕』(金融財政事情研究会 2012年、114頁・115頁:乙16)においても、同様に解説されている。
以上から、指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」は、銀行法上の「付随業務」(銀行法第10条第2項第10号)に該当することから、銀行業の免許を受けた者「以外」にも営むことができる。すなわち、甲第1号証に掲載された銀行代理業者「以外」の者でも、当該指定役務を提供することはできるのであって、当該一覧に被請求人が掲載されていないことを以って、被請求人が指定役務を提供することができず、したがって、本件商標を当該指定役務について使用していないとする主張は、銀行法の誤った解釈を前提とするものであって、失当である。
また関連して、請求人は、取消2007-300159の理解も誤っている。
同審決では、審決公報5頁「4 当審の判断」において、通常使用権者たる持株会が、「従業員という需要者の信託を受け、購入した株式を管理している」と認定した上で、商標を「有価証券の保護預かり,有価証券の信託の引受け」について使用していたと判断された。当該審決文からは、このうち、「有価証券の保護預かり」について商標が使用されていたとの認定を排除するような記述は存在せず、請求人のように、「有価証券の信託の引受け」についての商標の使用のみが認められたと理解するのは困難であるといわざるを得ない。
よって、当該審決が、「有価証券の保護預かり」と「有価証券の信託の引受け」の両方の役務について、商標の使用を認めたことは明らかである。
以上のとおり、弁駁書における請求人の主張は、銀行法の誤った解釈を前提としているものであって、失当である。
(2)通帳・銀行印の保管業務の独立性
ア 請求人の主張
請求人は、被請求人が乙第3号証として提出した契約書の体裁から、通帳の預かり業務が「納税業務・経理事務の域を出ない。」と主張している。
イ 商標法上の「役務」該当性
一般に、商標法上の役務とは、「他人のためにする労務又は便益であって、付随的でなく独立して市場において取引の対象となり得るものをいうと解するのが相当である」(東京高判平成13年1月31日判時1744号120頁(平成12年(行ヶ)第105号):乙17)とされている。さらに同判決は、あてはめにおいて、「付随的でなく独立して市場において取引の対象となり得る」か否かを判断する際には、「独立した取引としての対価の支払が行われている」か否かを検討している。
この観点から本件を検討すると、乙第3号証の契約書中、第2条の体裁からは、明らかに、通帳や銀行印の保管業務は、一般的な経理事務や納税の代行といった他の委任業務から独立して、別個に契約することが可能である。また、第3条によると、その対価も、他の委任業務からは独立して設定されている。
すなわち、被請求人による通帳や銀行印の保管業務は、他の委任業務から「独立した取引としての対価の支払いが行われている」ということができ、したがって、「付随的でなく独立して市場において取引の対象となり得る」と解される。
また、請求人は、「金融機関が貸金庫などの設備を以って貴重品等の預かりをする役務とは全く異質のもの」とするが、これはおそらく、上述(1)アの「保護預かり業務」の主体が認可を受けた金融機関でしかあり得ない、との銀行法の誤った解釈を前提にしているものと推察される。
上述(1)イのとおり、「保護預かり」の業務は、銀行法上の付随業務であって、銀行業の免許を得た主体「以外」でも、業として行うことが可能であって、当該業務を行うに際しては、銀行と同等の貸金庫等の設備が必須、との法的根拠は存在しないものである。
以上のとおり、請求人の主張は失当である。
(3)通帳・銀行印の保管業務についての商標の使用
ア 請求人の主張
請求人は、被請求人の提出した証拠について、「平たく言えば貸金庫業務を行っているとの文言は全く存在して」おらず、本件商標は「国際ネットワークの名前として使用」されているにとどまり、指定役務について使用されているものではないと主張している。
イ 指定役務についての登録商標の使用
被請求人が答弁書において主張したとおり、乙第15号証として提出した取消2007-300774によると、役務を提供する際の契約書等に登録商標が使用されていなかったとしても、当該契約を締結するに際し使用されたと推認される封筒、名刺等に表示されていれば、契約書、封筒、名刺を総合勘案し、指定役務について登録商標が使用されていたと認められる、とされている。
これを本件についてあてはめると、指定役務たる通帳・銀行印の保管業務の委任に関する契約を締結するに際して交付された、本件商標が付された被請求人の代表者の名刺(乙9)、パンフレット(乙10)、口頭での説明(以上につき、乙12)、被請求人の顧客が参照したであろうウェブサイト(乙11)に本件商標が付されている。したがって、これらの契約締結時の事情を総合勘案すれば、指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」を含む、被請求人の役務全般が、本件商標の下に提供されていたことは明らかである。
また、請求人が「平たく言えば貸金庫業務を行っているとの文言は全く存在して」いない、と主張している点については、そもそも、請求人による銀行法の理解に誤りがあること、また、銀行法上の「保護預かり」業務の態様についても、「貸金庫」を利用した方式には限られない点から、その主張は失当である。
さらには、請求人によるこのような主張の前提には、「指定役務について登録商標を使用している場合とは、指定役務の内容が摘示され、その近傍で登録商標を使用しているような場合を指す」といったような理解があるとも考えられるが、このような理解が特許庁の先例における理解とは異なることは、明らかである。
なお、会計業界における国際ネットワークの形成や、国際ネットワークの下における商標の使用についての取引の実情については、被請求人が答弁書において主張したとおりであって、請求人の主張はそれらを完全に無視したものである。
以上のとおり、請求人の主張は失当である。
(4)乙第4号証の真贋について
ア 請求人の主張
請求人は、乙第4号証について、後日、曖昧な記憶に基づき作成されたものであると主張し、その成立を認めないとしている。
イ 預り証の記入過程について
乙第4号証は、実際に被請求人の顧客との契約に基づいて作成されたものである。
被請求人としては、マスキングを施す前の乙第4号証とともに、通帳や銀行印の保管業務を行っていることの証拠として、実際に通帳・銀行印の保管を行っている金庫を撮影した写真を、審判合議体に直接見せることを希望している。いずれも被請求人が負っている守秘義務の観点から、証拠として提出することができないため、審判合議体にのみ開示することを希望するものである。
また、請求人が主張する内容のうち、「数量」の欄が手書きである点については、次のとおりである。
被請求人は、通帳や銀行印の保管の依頼を受けた場合には、顧客にとって重要な物品を預かるというその業務の性質上、事前に印刷した「預り証」を用意し、顧客と対面で、被請求人と顧客の双方で、数量を確認しながら記入している。したがって、数量が手書きであることは不自然ではない。
3 口頭審理陳述要領書(平成29年8月29日付け)について
(1)「合議体の暫定的な見解」について
審理事項通知書によると、審判合議体は、商標権者及び通常使用権者が提出した乙各号証は、本件商標を指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」について使用している証拠としては不十分である、との見解を示している。
(2)被請求人の意見
商標の使用が肯定されるためには、商品・役務「について」商標が使用されることが必要であるところ、一般的に、必ずしも商品・役務そのものに付されて使用されていることは必要とされず、商品・役務との関係において使用されていれば足りると解されている。
特に「役務」は、「商品」が有体物であるのに対して、いわば「無形の商品」ともいうべき性質を有するものである。よって、「商品」とは異なり、役務そのものに商標が直接付されるということは通常あり得ず、役務についての商標の使用の判断においては、役務の提供に関係するものに商標が使用されているか否かが問われる。
乙第15号証として審決公報を提出した取消2007-300774も、同様の理解を前提にしたものと解される。すなわち、同審決は、役務の提供に関係するものである、契約を締結するに際して使用されたと推認される封筒、名刺等に商標が表示されていれば、契約書、封筒、名刺を総合勘案し、指定役務について登録商標が使用されていたと認められる、としている。
また、商標権者等の税理士法人は、主に会計業務を提供しているが、近年は、顧客のニーズに応じて、それに関連する業務全般のアウトソーシングをも受託する傾向にあり、会計業務の他にも、非常に多岐に渡る役務を提供するように変化してきている。その中でも通帳や銀行印は会計業務に非常に密接に関連するものであることから、特に、会社の貴重品の紛失を避けたい中小企業や個人事業主等にとっては、日常的にそれらを使用する業務(会計業務)を依頼している税理士法人が、それらの保護預かり業務を別途提供することは顧客ニーズに沿ったものであり、よって、税理士法人が提供する役務としても、今日、認識されつつあるものと考えられる。
こうした背景を受け、乙第3号証ないし乙第6号証にあるとおり、税理士法人卜ラスト及び表参道税理士法人においては、現に、指定役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」を顧客に対して提供している。
加えて、近年の会計業界では、会計業務の国際化や、顧客の海外進出による各国会計実務への対応のために、国際ネットワーク形成し、その加盟事務所は、自らの事務所名称とともに、国際ネットワークの名称を併せて使用して、役務を提供する。ただし、我が国の場合には、税理士法第52条によって、税理士又は税理士法人でない者が税理士業務を行ってはならないと規定されているため、日本法上の税理士・税理士法人ではない国際ネットワークそのものは、直接には、税理士業務を行えず、したがって、その加盟事務所は、国際ネットワークの名称もあわせて使用して顧客を獲得するが、実際の役務提供の際には、自らの名称を使用する。
このような会計分野における取引の実情に鑑みると、需要者たる顧客は、通常、たとえウェブサイトや名刺、パンフレット等に明記されていないとしても、商標権者や使用権者が税理士法人として提供する役務の内容には、当然に「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」が含まれていると認識し得る。
また、乙第9号証ないし乙第12号証のとおり、商標権者や本件商標の使用権者は、国際ネットワーク「HAYABUSA International」の一員としてその役務を提供していることを明らかにしている。
したがって、需要者たる顧客は、通常、たとえ契約書そのものに本件商標が表示されていないとしても、当然に、国際ネットワークへ加盟している各事務所へ依頼していると認識し、国際ネットワークの名称の下にその指定役務が提供されていると認識し得る。
以上からは、乙第9号証ないし乙第12号証から明らかなとおり、商標権者は取引するに当たって、本件商標と社会通念上同一と思料される商標を明示した名刺、パンフレットを提示し、また、顧客に対して、自らが前記国際ネットワークの加盟事務所であることを説明するとともに、顧客は同様の内容について、ウェブサイトを通じて、容易に確認できる。
すなわち、需要者は、商標権者と乙第3号証のような契約を締結し、通帳等の保護預かりの業務を委任する際には、乙第9号証ないし乙第12号証のような名刺、パンフレット、ウェブサイト、商標権者の説明によって、本件商標と社会通念上同一の商標に接しており、その商標の下に、役務が提供されていると認識しているものと考えられる。
これらの事情を総合的に考慮すると、本件商標が、その指定役務中、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」について使用されていることは明らかである。
4 上申書(平成29年10月17日付け)について
(1)被請求人による「物品の保護預かり」業務について
被請求人は、第二答弁書で言及した、実際に銀行印の保管を行っている金庫を撮影した写真を提出する(乙18、乙19)。また、被請求人の顧客から提出された陳述書(乙20?乙23)の内容からも明らかなとおり、被請求人は、その顧客から、代表者印等の貴重品を有償で預かり、保管している。
なお、被請求人の代表者の陳述書(乙24)によると、一般の税理士業務とは別個に、代表者印等の保護預かり業務のみを単独で受任した実例はないとのことである。
請求人は、その口頭審理陳述要領書によると、主張の趣旨は、銀行法上の「保護預り」に該当するには、「単なる“物品の預かり”」を行っているのでは足りず、「金融機関並みの設備や人員を備えて第36類の『有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり』を行っている」必要がある、ということのようである。口頭審理において、請求人代理人が、被請求人に対して、「いわゆる『貸金庫業』を行っているのか」という趣旨の質問をされたのも、同様の趣旨であると推察される。
しかしながら、乙第7号証が、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」を「銀行法でいう保護預かりである。」と解説しているところ、銀行法上の「保護預り」は、「被封預り」、「封せん預り」、「貸金庫」の大きく3種に分類されている。すなわち、銀行法の解釈上、いわゆる「貸金庫業」のみが「保護預り」に該当する訳ではない。また、銀行法上は、「保護預り」を具体的に定義する規定が見受けられないところ、請求人が主張するような、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」が「金融機関並みの設備や人員を備えて」行われる必要がある、との解釈には根拠がない。現に、乙第8号証として提出した取消2007-300159の審決においても、登録商標が「有価証券の保護預かり」について使用されていた旨を認定するに際して、「有価証券の保護預かり」のための設備・人員等、提供される役務の規模については、特に言及がなされていない。
よって、請求人による銀行法上の「保護預り」の解釈の理解には、誤りが存在するものといわざるを得ない。
(2)本件商標「HAYABUSA」の使用について
被請求人の顧客から提出された陳述書(乙22、乙23)の内容から明らかなとおり、被請求人の顧客は、被請求人に業務の依頼をする際に、本件商標と社会通念上同一の商標が記載された名刺(乙9)、被請求人のパンフレット(乙10の1)、国際ネットワーク「HAYABUSA International」のパンフレット(乙10の2)を受け取り、被請求人が「HAYABUSA International」に加盟する一法人であって、「HAYABUSA International」との名称の下、ひいては本件商標「HAYABUSA」の下、その役務を提供するものであるとの説明を受けている。すなわち、被請求人が、役務「物品の保護預かり」を提供するにあたって、本件商標が付された名刺及びパンフレットを使用したことは明らかである。その結果、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」業務のみではないが、実際に有償で当該業務を、納税業務・税理事務と共に被請求人に依頼する顧客が存在している。
このように、その性質上、陳述書からも明らかなように、役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」に関する被請求人の業務を宣伝広告し、該役務の提供に関する契約を締結するに際して顧客に展示し、頒布して使用されたことが明白である本件商標が付されている名刺及びパンフレットに鑑みれば、被請求人は、本件商標を役務「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」について、特に該役務についての広告、取引書類に使用していたと認められる(乙15)。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出した乙各号証及び同人の主張によれば、次のとおりである。
(1)乙第1号証は、「HAYABUSA International合同会社」の商業登記簿の写しである。
これには、「業務執行社員」として「税理士法人トラスト」の記載がある。
そして、「目的」の欄には、「1.著作権、特許権、商標権等の知的財産権の保守、保全および管理」、「2.国家資格者および専門家によるサービスのブランドの育成および価値向上ならびに協力関係を増進するための情報の提供」、「3.前各号に附帯または関連する一切の業務」の記載がある。
(2)乙第2号証は、HAYABUSA合同会社による「HAYABUSA International」のウェブページの写しである。
これには、ページの左上に、別掲のとおりの構成態様からなる使用商標が表示されている。
また、「Hayabusa Internationalは、日本に本部を置く、日系会計事務所の国際ネットワークです。・・・」の記載があり、その下に、「組織概要」として「本部組織 Hayabusa International LLC./本部所在地 日本(東京)」等の記載がある。
なお、このウェブページの写しは、平成29年2月3日に作成されたものである。
(3)乙第3号証は、平成28(2016)年8月28日に、商標権者がその顧客と締結した「契約書」の一部の写しである。
これには、「委任者及び受任者は、会計及び税務の業務に関して下記の通り契約を締結した。」の記載のほか、第2条の委任業務の範囲において、「通帳の保管及び記帳」及び「銀行印の保管及び捺印」を含む経理事務や納税業務などが記載されている。
(4)乙第4号証は、平成28年8月(日付けは空欄)に、商標権者が顧客(株式会社に続く部分がマスキングされている。)に対して発行している「預り証」の写しである。
これには、「御預りもの」欄に、「実印、銀行印、代表印、通帳、印鑑カード」の項目があり、銀行印ないし印鑑カードの数量としてそれぞれ「1」が記載されている。
(5)乙第5号証は、商標権者が預り物を管理するために作成している「預り物リスト」(2016/06/14更新)の写しである。
これには、通帳や会社銀行印等についての項目欄があるものの、「クライアント名」の欄がマスキングされている。
(6)乙第6号証は、本件商標の使用権者とされる「表参道税理士法人」が、その顧客(マスキングされている。)と締結した契約日不明の「業務委任契約書」の一部の写しである。
これには、第2条の「委任する業務の範囲」において、「確定申告書作成業務、法定調書作成業務、償却資産税申告書作成業務」等のほか、「支払及び預金通帳管理業務」の記載がある。
(7)乙第9号証は、商標権者の代表社員である「田中雄一郎」氏の名刺の写しである。
これには、別掲のとおりの構成態様からなる使用商標が表示されている。
(8)乙第10号証は、商標権者に係る「パンフレット」(抜粋)の写しである。これには、税理士法人トラストの「事業内容」として、「税務コンサルティング業務」の記載がある。
そして、「Tax Consulting」のページには、「企業税務」として「税務指導・相談(税務顧問)/税務申告書作成/税務調査立会」、「連結納税」として「連結納税シミュレーション/連結税務申告書作成」、「M&A税務」として「税務デューデリジェンス/組織再編税制(法人合併・分割、株式交換・移転)/持株会社移行コンサルティング」、「国際税務」として「税務指導・相談(税務顧問)/タックスプランニング」等の記載がある。
さらに、「日系会計事務所の国際ネットワーク」のページには、その右上に、別掲のとおりの構成態様からなる使用商標が表示されている。そして、「組織について」の項において、「Hayabusa Internationalは、日本に本部を置く日系会計事務所の国際ネットワークです。・・・」の記載、及び「本部組織 Hayabusa International LLC./本部所在地 日本(東京)」等の記載がある。
また、「グローバルネットワーク」のページには、「表参道税理士法人」について、「多岐にわたる業種・規模のクライアントに対し、税務コンサルティング・原価計算支援業務・・・などを実施。会計・税務コンサルティングを主要領域としながらも・・・サービスを提供している。」の記載がある。
(9)乙第11号証は、商標権者である「税理士法人トラスト」のウェブページの写しである。
これには、ページの右上方に、「国際税務」の文字が記載され、その下に、「国際ネットワーク/-HAYABUSA-/日本企業の海外展開を、強力に支援いたします。」の記載、及び別掲のとおりの構成態様からなる使用商標が表示されている。
なお、このウェブページの写しは、平成29年2月8日に作成されたものである。
(10)乙第12号証は、平成29年2月10日付けの商標権者の代表社員である田中雄一郎氏の「陳述書」である。
これには、「3.本件商標の使用状況について」において、「乙号各証でお示しした通り、私の名刺に本件商標と社会通念上同一と思われる商標を使用することによって、弊所が国際ネットワーク『HAYABUSA International』の加盟事務所であることを明らかにしております。また、お客様にお配りしているパンフレット一式にも、・・・国際税務・会計業務にも対応可能であることをご説明しています。」の記載がある。
(11)乙第13号証は、「表参道税理士法人」の「会社案内」のウェブページの写しである。
これには、加盟ネットワークとして、「Hayabusa International」の記載があり、また、「サービス一覧」において、「相続税シミュレーション、起業・会社設立をお考えの方へ、税理士変更をお考えの方へ、特殊業務実績」の記載がある。
なお、このウェブページの写しは、平成29年2月3日に作成されたものである。
(12)乙第14号証は、商標権者である「税理士法人トラスト」の商業登記簿の写しである。
これには、「目的等」の欄に、「1.他人の求めに応じ、租税に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。税理士法第2条第1項に定める税務代理・税務書類の作成及び税務相談」、「2.前号の業務のほか、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行、その他財務に関する事務」、「3.前2号の業務のほか財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行う業務」、「4.租税に関する事項について、裁判所において補佐人として、弁護士とともに出頭して陳述する税理士法人の社員又は使用人である税理士が行う事務の委託を受ける事業」、「5.第1号の業務に付随して行う社会保険労務士業務」の記載がある。
また、代表社員として「田中雄一郎」の記載がある。
(13)乙第18号証及び乙第19号証は、被請求人の事業所内に設置された金庫とその保管物の銀行印を撮影(撮影日:平成29年6月28日)したとされる写真である。
(14)乙第20号証ないし乙第23号証は、平成29年10月12日及び平成29年10月17日付けの顧客4名による「陳述書」である。
これらには、「1.作成者について」、「2.税理士法人トラストとの関係について」及び「3.税理士法人トラストの名刺及びパンフレットについて」の項目があり、そこには2通りの形式でほぼ同じ内容の記載がある。
また、乙第24号証は、平成29年10月17日付けの商標権者の代表社員である田中雄一郎氏の「陳述書」である。
これには、「2.弊所における『物品の保護預かり』について」において、「弊所におきましては、他の税理士業務一般とは別個に独立して、銀行印等の保護預り業務のみを受任したことはございません。」の記載がある。
2 判断
(1)被請求人の提供する役務について
被請求人の主張によれば、商標権者、HAYABUSA合同会社及びその加盟事務所(以下「商標権者等」という。)は、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務を提供している旨を述べているところ、これを裏付ける証拠としているのは、主に、顧客と締結した「契約書」(乙3)、顧客に対して発行した「預り証」(乙4)、顧客の預り物を管理するための「預り物リスト」(乙5)、「表参道税理士法人」が顧客と締結した「業務委任契約書」(乙6)、被請求人の事業所内に設置された金庫とその保管物の銀行印の写真(乙18、乙19)、顧客4名による「陳述書」(乙20?乙23)である。
確かに、上記1によれば、これらの証拠のうち、顧客と締結した「契約書」(乙3)には、「委任者及び受任者は、会計及び税務の業務に関して下記の通り契約を締結した。」の記載のほか、第2条の委任業務の範囲において、「通帳の保管及び記帳」及び「銀行印の保管及び捺印」の記載があり、また、「表参道税理士法人」が顧客と締結した「業務委任契約書」(乙6)には、「確定申告書作成業務、法定調書作成業務、償却資産税申告書作成業務」等のほか、「支払及び預金通帳管理業務」の記載があり、さらに、被請求人の事業所内に設置された金庫とその保管物の銀行印の写真(乙18、乙19)を参酌すれば、商標権者等は、「銀行印の保管」等を行っているとみることができる。
しかしながら、「HAYABUSA合同会社」は、日本に本部を置く、日系会計事務所の国際ネットワークであり、そのネットワークの1つである「表参道税理士法人」は、「会計・税務コンサルティング業務」を行っており、「税理士法人トラスト」も、会計及び税務等の業務を行っていることが認められ(乙10)、かつ、被請求人の事業所内に設置された金庫とその保管物の銀行印の写真(乙18、乙19)からは、普通の事務所に設置され得る小型の金庫に複数の顧客の印鑑がまとめて保管されていることが窺えるものであり、また、上記2件の契約書(乙3、乙6)は、会計及び税務の業務に関しての内容であることからすると、その「通帳の保管及び記帳」及び「銀行印の保管及び捺印」等の業務は、会計及び税務の業務に関して、その一環として行われる業務として行われているものであって、その通帳及び銀行印は、その業務のために必要不可欠なものとして預けられ、預かっているものとみるのが相当である。
そして、乙第24号証の「陳述書」には、商標権者の代表社員によって、「弊所におきましては、他の税理士業務一般とは別個に独立して、銀行印等の保護預り業務のみを受任したことはございません。」と記載がされていることからしても、会計及び税務の業務に関して、その一環として行われる業務として、通帳及び銀行印等を預かっているものであることが理解される。
そうすると、商標権者等による「通帳の保管及び記帳」及び「銀行印の保管及び捺印」等に係る業務は、会計及び税務の業務に関して、その一環として行われる業務として、顧客の通帳及び銀行印を預かっているものにすぎず、銀行などが貸金庫等によって顧客毎に個別に提供する「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務と同様にそれ自体が独立して提供される役務であるとは評価されないものとみるのが相当である。
したがって、商標権者等による「通帳の保管及び記帳」及び「銀行印の保管及び捺印」に係る業務は、独立して商取引の対象となり得る商標法上の役務とみることができない。
(2)本件商標の使用について
被請求人の主張によれば、商標権者等は、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務について、本件商標を使用している旨を述べているところ、これを裏付ける証拠としているのは、主に、HAYABUSA合同会社による「HAYABUSA International」のウェブページ(乙2)、商標権者の代表社員の名刺(乙9)、商標権者に係る「パンフレット」(乙10)、商標権者である「税理士法人トラスト」のウェブページ(乙11)、商標権者の代表社員の「陳述書」(乙12、乙24)、顧客4名による「陳述書」(乙20?乙23)である。
そして、これらの、「HAYABUSA International」のウェブページ(乙2)、商標権者の代表社員の名刺(乙9)、商標権者に係る「パンフレット」(乙10)、及び商標権者である「税理士法人トラスト」のウェブページ(乙11)において、別掲のとおりの構成からなる使用商標を使用していることが認められる。
そこで、本件商標と使用商標とを比較してみるに、本件商標は、「HAYABUSA」の文字を書してなるものであるのに対し、使用商標は、その構成中に大きく太字で表された「Hayabusa」の文字を含むものであって、該文字部分が強く印象付けられるものであるから、この部分が要部として理解されるものである。
そうすると、両者の「HAYABUSA」と「Hayabusa」とは、その綴りが共通であることからすると、大文字と小文字の表記に違いがあるとしても、使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標といえるものである。
しかしながら、使用商標が表示されている上記証拠においては、会計及び税務等の業務を行っていることが理解できる記載が見受けられるとしても、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務を提供している旨の記載は、どこにも見あたらないものである。
してみれば、使用商標が表示されている証拠においては、会計及び税務等の業務を行っていることが理解できる記載が見受けられるとしても、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務を提供している旨の記載は、どこにも見あたらないものであるから、本件商標を該役務について使用していることにはならないものである。
(3)小括
以上によれば、被請求人が提出した証拠によっては、上記(1)のとおり、商標権者等が行っている銀行印等の保管に係る業務は、会計及び税務の業務に関して、その一環として行われる業務として必要不可欠なものとして預けられ、預かっているものにすぎないのであって、銀行などが貸金庫等によって提供する「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務と同様の役務であるとは評価されないものとみるのが相当である。
そして、仮に、商標権者等が行っている銀行印等の保管に係る業務が「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務であったとしても、上記(2)のとおり、使用商標が表示されている証拠においては、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務を提供していることが把握できる記載が見あたらないから、本件商標を該役務について使用しているものとは認められない。
さらに、上記役務以外の取消請求役務について、本件商標を使用していたことを認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、被請求人が提出した証拠によっては、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによって、本件商標が要証期間内に「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」を含む取消請求役務について使用されていた事実を認めることができないものである。
3 被請求人の主張について
(1)被請求人は、「乙第9号証ないし乙第12号証から明らかなとおり、商標権者は取引するに当たって、本件商標と社会通念上同一と思料される商標を明示した名刺、パンフレットを提示し、また、顧客に対して、自らが前記国際ネットワークの加盟事務所であることを説明するとともに、顧客は同様の内容について、ウェブサイトを通じて、容易に確認できる。すなわち、需要者は、商標権者と契約を締結し、通帳等の保護預かりの業務を委任する際には、名刺、パンフレット、ウェブサイト、商標権者の説明によって、本件商標と社会通念上同一の商標に接しており、その商標の下に、役務が提供されていると認識しているものと考えられる。以上から、契約書と名刺、パンフレット、ウェブサイト、商標権者による説明を総合的に勘案すれば、商標権者は、本件商標と社会通念上同一と思料される商標を、指定役務『有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり』について使用していると認められるものである。このような認定は、過去の先例に照らしても妥当であると考えられる。例えば、取消2007-300774(乙15)によると、その『契約書等に本件商標の表示が使用されていないとしても、これらの契約を締結するに際し使用されていたと推認し得る封筒、及び顧客との取引の際に提示したと推認し得る名刺には、本件商標と社会通念上同一と認められる商標が表示されていたことは、・・・認定のとおりであり、したがって、契約書等並びに封筒及び名刺とを総合勘案すれば、』登録商標と同一の商標が使用されていたと認めることができる、と認定している。」旨を主張している。
しかしながら、被請求人が主張する事例においては、契約書等の証拠から当該役務に係る業務が行われていたことが認められ、その業務の遂行の過程で名刺の使用が推認されるとされるものであるのに対し、本件においては、被請求人による役務の提供が同人の業務である「会計及び税務の業務」において通常提供される役務としてみられるものであって、通帳や銀行印等の保管に係る業務は、会計及び税務の業務に関して、その一環として行われる業務にすぎないものであり、商標権者等の業務において、銀行などが貸金庫等によって顧客毎に個別に提供する「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務と同様にそれ自体が独立して提供される役務であるとは評価されないものとみるのが相当であるから、商標権者等による「通帳の保管及び記帳」及び「銀行印の保管及び捺印」等に係る業務は、商標法上の役務とみることができないものというべきであり、直ちに、その事例が本件に当てはまるものとはいい難い。
(2)被請求人は、「乙各号証を総合的に勘案すれば、商標権者が本件商標を指定役務に使用していることは明らかであると思料されるが、近時の会計業界における取引の実情からしても、商標権者等の税理士法人がその業務を行う際には、需要者からは、本件商標を使用して、指定役務『有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり』の提供が行われていると認識されることは明らかである。商標権者や本件商標の使用権者を含む税理士法人は、従来、会計業務を提供してきたが、近年は、顧客ニーズに対応して、支払代行業務等の、会計に関連する業務全般のアウトソーシングを請け負う事例が多数見られる。特に、通帳等の保護預かり業務は、支払代行業務に関連している上、税理士法人の主な顧客層でもある中小企業や個人事業主等にとっては、会社の重要品の紛失を避けることにも繋がることから、税理士法人によって提供される役務として、ごく自然なものである。」旨を主張している。
しかしながら、税理士法人が、会計及び税務に関する役務を提供していることは、一般的に知られており、パンフレットやウェブサイトの記載内容からも該事実を認識することができるとしても、同人が、独立した役務として、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務を提供しているとの認識は、一般的なものとはいえないばかりか、パンフレット、ウェブサイトにもその旨の記載はなく、そのように認識することを認めるに足りる証拠はないものであるから、「『有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり』の提供が行われていると認識されることは明らかである。」との主張は失当といわざるを得ない。
また、たとえ、顧客に対する業務の説明等に、本件商標と社会通念上同一の商標が表示された名刺を提示していたとしても、顧客は、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務と関連付けて、該商標を認識することはないというべきであるから、該名刺に表示された商標の提示をもって、「有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり」の役務について、本件商標の使用をしたとは認められない。
よって、被請求人の主張は、いずれも妥当でないから、採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る取消請求役務について、本件商標を使用していたことを証明したということができない。
また、被請求人は、その取消請求役務について本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定着物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,信用購入あっせん」について、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(使用商標:乙2、乙9?乙11 色彩については原本参照)




審理終結日 2017-12-15 
結審通知日 2017-12-21 
審決日 2018-01-12 
出願番号 商願2012-46118(T2012-46118) 
審決分類 T 1 32・ 01- Z (W36)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大森 健司小出 浩子 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 井出 英一郎
中束 としえ
登録日 2013-03-22 
登録番号 商標登録第5568263号(T5568263) 
商標の称呼 ハヤブサ 
復代理人 藤本 一 
代理人 佐藤 勝 
代理人 杉村 憲司 
代理人 中山 健一 

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