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審決分類 |
審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない W3536 |
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管理番号 | 1337135 |
審判番号 | 取消2016-300860 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2016-12-08 |
確定日 | 2018-01-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5686472号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5686472号商標(以下「本件商標」という。)は、「Dan-sha-Ri」の文字を標準文字で表してなり、平成26年2月24日に登録出願、第35類「広告業,商品の販売に関する情報の提供,織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,たばこ及び喫煙用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,貴金属の小売又は卸売の業務において行なわれる顧客に対する便益の提供,宝飾品の小売又は卸売の業務において行なわれる顧客に対する便益の提供,キーホルダーの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,衣服用アクセサリーの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,時計の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,布製身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,うちわ及びせんすの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,バンド及びベルトの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かつらの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ボタン類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,傘の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ステッキ及びつえの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び第36類「古物営業法に係る金券類の売買,古物の評価,骨董品の評価,美術品の評価,古銭の評価,古本の評価,切手の評価,中古時計の買取価格の評価,被服の買取価格の評価,履物の買取価格の評価,かばん類及び袋物の買取価格の評価,貴金属の買取価格の評価,宝玉の評価,宝石の評価」を指定役務として、同年7月18日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が本件審判の請求において引用する商標は、請求人の代表者である山下英子氏が提唱する「断捨離」の文字からなる商標(以下「引用商標」という。)である。 第3 商標権者による使用商標 請求人が本件審判の請求において、商標権者が指定役務について使用していると主張する商標は、甲第2号証に表示された「Dan-Sha-Ri」の文字からなる商標(以下「使用商標1」という。)、甲第5号証に表示された「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」の文字からなる商標(以下「使用商標2」という。)及び甲第6号証に表示された「Dan-sha-ri(断捨離)」の文字からなる商標(以下「使用商標3」という。)である。 第4 請求人の主張 請求人は、商標法第51条により、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書及び審判事件弁駁書において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第28号証を提出した。 なお、請求人は、第2答弁書に対する弁駁をしていない。 1 取消原因 (1)商標権者について 商標登録第5686472号に係る商標公報(甲1)によると、本件商標の商標権者は、「株式会社VALS NEXT」(以下「商標権者」という。)であり、甲第2号証によると、「ブランド買取Dan-Sha-Ri ?GINZA?」なるウェブページの会社概要において、「株式会社VALS NEXT」が表記されている。 つまり、商標権者は、インターネット上に「ブランド買取Dan-Sha-Ri ?GINZA?」なるウェブページを用いて業務を行っている。 (2)使用商標及びその使用に係る役務について 本件商標は、「Dan-sha-Ri」であるが、「ブランド買取Dan-Sha-Ri ?GINZA?」なるウェブページにおいて、使用商標1「Dan-Sha-Ri」を使用し(甲2、甲3)、さらに使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」を使用している(甲4?甲7)。 また、「ブランド買取Dan-Sha-Ri ?GINZA?」なるウェブページにおいて、例えば、カテゴリー一覧、ブランド一覧、及び貴金属一覧から、バッグ、財布、ケース、時計、貴金属、宝石、ブランドジュエリー、アクセサリー、アパレル、骨董品、美術品、ブランド食器等、の買取や買取価格の評価に関する業務を行っていることが明らかであり(甲8?甲10)、これらは、本件商標の指定役務である第36類「古物の評価,骨董品の評価,美術品の評価,中古時計の買取価格の評価,被服の買取価格の評価,履物の買取価格の評価,かばん類及び袋物の買取価格の評価,貴金属の買取価格の評価,宝玉の評価,宝石の評価」と実質的に同一の役務である。 (3)禁止権の範囲を使用していること 本件商標「Dan-sha-Ri」と、使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」とについて、称呼は、「ダンシャリ」で同一称呼を生じ、外観も使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」は、その一部に括弧書きで「ダンシャリ」及び「断捨離」が付記されているものの、登録商標「Dan-sha-Ri」そのものが含まれており、アルファベットの大文字小文字の違いはあるが、著しく相違するものではない。観念については、通常、「Dan-sha-Ri」のみからでは特定の観念が生じ難いものの、「ブランド買取Dan-Sha-Ri ?GINZA?」なるウェブページにおいて、「今日から始められる断捨離!」「断捨離のヒントが満載!」「断捨離のススメ!」をはじめ、あらゆる箇所に漢字「断捨離」を使用していること(甲2?甲12)、及び後述するように山下英子氏が提唱する「断捨離」が全国的に著名であることからすると、当該ウェブページにおいて使用している登録商標「Dan-sha-Ri」、使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」及び使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」から、山下英子氏が提唱する「断捨離」の観念が生じる蓋然性は高い。特に、「断捨離」は、元々その語として一義的な意味はないが、山下英子氏がヨガの行法哲学である「断行・捨行・離行」を基に提唱する、通常の片付け術とは異なる「モノヘの執着を捨てることを最大のコンセプトとする」独自の新しい片付け術(考え方)であって、漢字「断」と「捨」と「離」とを組み合わせてなる造語であることもその要因であると思料する(甲13)。 したがって、登録商標「Dan-sha-Ri」と、使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」とは、称呼同一、外観類似、観念同一であり、さらに使用実情に基づくと、類似する商標である。 以上により、商標権者は、登録商標「Dan-sha-Ri」に類似する使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」を、「古物の評価,骨董品の評価,美術品の評価,中古時計の買取価格の評価,被服の買取価格の評価,履物の買取価格の評価,かばん類及び袋物の買取価格の評価,貴金属の買取価格の評価,宝玉の評価,宝石の評価」について使用しており、これは、いわゆる禁止権の範囲での使用に該当する。 (4)故意及び他人の業務に係る商品(役務)との出所の誤認混同を生じさせていること ア 「断捨離」の著名性 山下英子氏は、ヨガの行法哲学である「断行・捨行・離行」を基に、通常の片付け術とは異なる「モノヘの執着を捨てることを最大のコンセプトとする」独自の新しい片付け術(考え方)として「断捨離」を提唱し、2001年頃から「断捨離セミナー」を全国各地で展開していた。 そして、山下英子氏が提唱する「断捨離」は、全国的に広まり、2010年には、ユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたことから(甲14)、少なくとも2010年において、「断捨離」は、山下英子氏が深くかかわった「ことば」として全国的に著名であったといえる。 また、山下英子氏は、現在に至るまで継続的に「断捨離」に関する複数の著書を出版しており、「断捨離」は、その提唱者である山下英子氏の子供のようなものとして、全国津々浦々浸透している。 その他、山下英子氏はメディアにも数多く出演し、やましたひでこ(断捨離提唱者)の「断捨離」として紹介されている(甲17?甲20)。 以上のように、少なくともユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた2010年頃から現在に至るまで継続的に、「断捨離」は山下英子氏が提唱するものとして全国的に著名であるといえる。 当然に、商標権者も山下英子氏の「断捨離」を認識していたと考えられる。 イ 山下英子氏による「断捨離」の使用について 山下英子氏は、商標「断捨離」(商標登録第5582468号、同第5412928号、同第4787094号)の商標権者である(甲21?甲23)。 そして、山下英子氏は、「断捨離 やましたひでこ公式サイト」なるウェブページにおいて、商標「断捨離」は自身の登録商標であることを明記した上で、使用している(甲24、甲25)。山下英子氏は、業として、メールマガジンの配信やコンテンツの配信を介して知識の教授を行っており、特に、ヨガの行法哲学である「断行・捨行・離行」を基に、通常の片付け術とは異なる「モノヘの執着を捨てることを最大のコンセプトとする」独自の新しい片付け術(考え方)である「断捨離」に関する知識の教授に注力し、2016年4月末には、断捨離公式メルマガの読者は8万2000人となっている。 また、著書等の出版、メディアヘの出演、さらには、各地でセミナー等を行うことにより、業として幅広く、山下英子氏自身が提唱した「断捨離」に関する知識の教授を行っている。 ウ 「ブランド買取Dan-Sha-Ri ?GINZA?」なるウェブページ 商標権者が業務に用いている「ブランド買取Dan-Sha-Ri ?GINZA?」なるウェブページにおいて、商標権者は、登録商標は「Dan-sha-Ri」であるにもかかわらず、使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」も使用している(甲4?甲7)。さらには、ウェブページのあらゆる箇所に漢字「断捨離」を使用しており、本来の登録商標「Dan-sha-Ri」とは異なる「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」を数多く使用したり、目立つ場所に「Dan-sha-ri(断捨離)」を使用したり、大きく漢字「断捨離」を使用したりもしている(甲2?甲12)。特に、登録商標「Dan-sha-Ri」や「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」の近傍に目立つように漢字「断捨離」を使用することによって、アルファベットの登録商標「Dan-sha-Ri」から漢字「断捨離」を想起させようとする強い意図があると推察できる(甲5?甲7、甲11、甲12)。 そして、当該ウェブページにある漢字「断捨離」に関して、山下英子氏が提唱する「断捨離」の説明と酷似する説明がなされている。例えば、【A】山下英子氏のウェブページ「断捨離というと新しい片づけ術かと思うかもしれませんが、そうではありません。断捨離とは、モノヘの執着を捨てることが最大のコンセプトです。モノヘの執着を捨てて、身の周りをキレイにするだけでなく、心もストレスから解放されてスッキリする。これが断捨離の目的です。」(甲25)に対して、当該ウェブページ「今の私たちに必要なのは、物への執着を捨て、自分にとって本当に必要かどうかを判断し、不要なものは整理し、処分することです。思い切ってモノを手放すことで、時間的、空間的、エネルギー的な余裕を取り戻せます。」、「『いる』と判断したものはキチンと整理。『いらない』と判断したモノは捨てるモノと売るモノに分けます。ポイントは『未練』『執着』を一切捨てることです。」(甲11)、【B】山下英子氏のウェブページ「断捨離のすすめヨガ道場『断行』『捨行』『離行』」(甲26)に対して、当該ウェブページ「ヨガの行法『断行』『捨行』『離行』という考え方がベースになっています。」(甲11)、【C】山下英子氏のウェブページ「あなたは、家にモノがたくさんあって邪魔だと思っていませんか?必要かもと思ってなかなか捨てられないものとか?人に部屋を見せられないとか?」(甲25)に対して、当該ウェブページ「部屋の片づけが一大イベントとなってしまうのは、本当は不要なモノが多く、整理されていないから。整理しながら『いる、いらない』の判断を厳しくしてみましょう。」(甲11)、等が挙げられ、明らかに「断捨離」の提唱者として著名な山下英子氏が解説する「断捨離」を意識して、当該ウェブページに「断捨離」を掲載している。 エ まとめ 上記アの山下英子氏が提唱する「断捨離」の著名性、及び上記ウの当該ウェブページに掲載されている「断捨離」に関して、「断捨離」の提唱者である山下英子氏が解説する内容と酷似した内容であることから、商標権者は山下英子氏の著名な「断捨離」を認識した上で、使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」を使用している。さらには、商標権者の登録商標はあくまでアルファベットで構成された「Dan-sha-Ri」であるにもかかわらず、当該ウェブページのあらゆる箇所に漢字「断捨離」を使用しながら、使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」を使用している。つまり、商標権者は、当該ウェブページのあらゆる箇所に漢字「断捨離」を使用しながら、自身のアルファベットで構成された登録商標「Dan-sha-Ri」の禁止権の範囲である使用商標2「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び使用商標3「Dan-sha-ri(断捨離)」を使用することによって、「断捨離」の提唱者で著名な山下英子氏の業務と何かしら関連があるかのように示そうとするものであって、故意に山下英子氏の業務に係る商品・役務と混同を生じさせようとするものである。 当該ウェブページを見た需要者は、ウェブページのあらゆる箇所に表記されている漢字「断捨離」を認識し、商標権者は「断捨離」の提唱者である山下英子氏と何かしら関連があると理解してしまう。現に、2015年頃から、山下英子氏のクライアント、山下英子氏の著書やメールマガジンの購読者、メディア関係者らから、山下英子氏本人及び同人の「断捨離」関連商品を管理する株式会社経営科学出版に対して、直接及びメールやブログ等を介して、商標権者との関連性の有無についての複数の問い合わせがあり、混同が生じている実情がある(甲27)。 2 弁駁書における主張 (1)「Dan-sha-Ri」と「ダンシャリ」とについて 被請求人は、「請求人は、『Dan-sha-Ri』と『ダンシャリ』は、称呼同一、外観類似、観念同一であり、類似の商標であると主張する。」と述べているが、請求人は、審判請求書において、そのようなことは主張していない。 請求人は、審判請求書において、「Dan-sha-Ri」と「Dan-sha-Ri(ダンシャリ)」とは、称呼同一、外観類似、観念同一であり、さらに使用実情に基づいて、類似する商標であると述べている。請求人の当該主張に対して、被請求人が「Dan-sha-Ri」と「ダンシャリ」との類否に関する見解を述べる意図が理解できない。 (2)「Dan-sha-Ri」と「断捨離」とについて 被請求人は、「請求人は、『Dan-sha-Ri』と『断捨離』は、称呼同一、外観類似、観念同一であり、類似の商標であると主張する。」と述べているが、請求人は、審判請求書において、そのようなことは主張していない。 請求人は、審判請求書において、「Dan-sha-Ri」と「Dan-sha-ri(断捨離)」とは、称呼同一、外観類似、観念同一であり、さらに使用実情に基づいて、類似する商標であると述べている。請求人の当該主張に対して、被請求人が「Dan-sha-Ri」と「断捨離」との類否に関する見解を述べる意図が理解できない。 (3)商標法第51条第1項に規定される「混同」について 被請求人は、答弁書において、「『出所の混同』とは、『具体的な出所の混同』であり、請求人においても被請求人と同一・類似の役務の提供を行っていることが条件となる。」と述べているが、被請求人が引用している「網野誠『商標第6版』(株式会社有斐閣、2002年)」にも、東京高判昭54.10.16・昭和52(行ケ)158にも、そのような記載はない。 商標法第51条第1項に規定される「『混同』には商品(役務)の出所が同一であると誤信させる混同(いわゆる狭義の混同)ばかりでなく、両者間に人的又は資本的に何らかの関係があるかのように需要者、取引者に誤信させる混同(いわゆる広義の混同)も含まれる。したがって、商品・役務間の類否は問わない。」と解釈すべきものである(甲28)。 したがって、被請求人が、何をもって「『出所の混同』とは、『具体的な出所の混同』であり、請求人においても被請求人と同一・類似の役務の提供を行っていることが条件となる。」という解釈に至ったか、理解できないところであり、被請求人の独自の解釈で答弁書において述べられている見解は、失当である。 (4)「故意」について 答弁書において、被請求人は、「断捨離」は全国的に著名であり、自身も認識していたことを認めている。 その上で、被請求人は、登録商標が「Dan-sha-Ri」であるにもかかわらず、「Dan-sha-Ri(ダンシャリ)」及び「Dan-sha-ri(断捨離)」と使用し、さらには、ウェブページのあらゆる箇所に目立つように「断捨離」を使用している。つまり、アルファベットの登録商標「Dan-sha-Ri」から、山下英子氏の著名な漢字「断捨離」を想起させようとする強い意図があると推察できる。 さらに、請求人が審判請求書で述べたとおり、山下英子氏は、「断捨離 やましたひでこ公式サイト」なるウェブページにおいて、商標「断捨離」は自身の登録商標であることを明記した上で、使用している(甲24、甲25)。山下英子氏は、業として、メールマガジンの配信やコンテンツの配信を介して知識の教授を行っており、特に、ヨガの行法哲学である「断行・捨行・離行」を基に、通常の片付け術とは異なる「モノヘの執着を捨てることを最大のコンセプトとする」独自の新しい片付け術(考え方)である「断捨離」に関する知識の教授に注力し、2016年4月末には、断捨離公式メルマガの読者は8万2000人となっている。 答弁書において、被請求人は、乙第5号証により、当該やましたひでこ公式サイトの存在を認識し、「断捨離(○の中にR)」と記載されていることも認識している。その認識の上で、被請求人は、山下英子氏のウェブページで提唱されている「断捨離」の説明と酷似する説明を、自身が運営するウェブページで行っている。 以上により、被請求人は、登録商標が「Dan-sha-Ri」であるにもかかわらず、明らかに、「断捨離」の提唱者で著名な山下英子氏の業務と何かしら関連があるかのように示そうとしており、故意に山下英子氏の業務に係る商品・役務と混同を生じさせようとするものであることは明白である。 (5)甲第27号証について 答弁書において、被請求人は、請求人が「金、銀、プラチナ等貴金属及び時計、ブランド品の買取」及び「買取った商品の販売」業務を行っていないから、混同は生じない旨を主張するが、上述したように、被請求人の「混同」の解釈は失当である。「『混同』には商品(役務)の出所が同一であると誤信させる混同(いわゆる狭義の混同)ばかりでなく、両者間に人的又は資本的に何らかの関係があるかのように需要者、取引者に誤信させる混同(いわゆる広義の混同)も含まれる。したがって、商品・役務間の類否は問わない。」ものであり、甲第27号証の内容からすると、当該混同が生じていることは明らかである。 (6)まとめ 被請求人は、登録商標「Dan-sha-Ri」の禁止権の範囲を使用することによって、「断捨離」の提唱者で著名な山下英子氏の業務と何かしら関連があるかのように示そうとするものであって、故意に山下英子氏の業務に係る商品・役務と混同を生じさせようとするものである。 したがって、商標法第51条第1項の規定により、本件商標の登録は取り消されるべきものである。 第5 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。 1 第1答弁書(平成29年2月20日付け) (1)片仮名表記「ダンシャリ」及び漢字表記「断捨離」の使用について ア 「商標権者」の使用について 請求人が主張するとおり、「ブランド買い取りDan-sha-Ri -GINZA-」は被請求人が管理・運営するインターネットサイトであり、本件商標の商標権者である。 したがって、請求人が主張する片仮名表記「ダンシャリ」及び漢字表記「断捨離」は、被請求人が使用するものである。 イ 「禁止権の範囲の使用」について (ア)「Dan-sha-Ri」と「ダンシャリ」の類似性について 請求人は、「Dan-sha-Ri」と「ダンシャリ」は、称呼同一、外観類似、観念同一であり、類似の商標であると主張する。 しかし、「Dan-sha-Ri」と「ダンシャリ」は社会通念上同一の商標であり、請求人の主張は失当である。 商標法は、登録商標の使用と認める範囲を「社会通念上同一と認められる商標を含む。」と明記している(商標法第50条第1項)。 ここで、社会通念上同一の商標とは「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」と規定している。 現在日本で一般的に採用されているローマ字のつづり方である訓令式ローマ字にて本件商標を読んだ場合、本件商標「Dan-sha-Ri」からは、「ダンシャリ」との称呼が生ずることからすれば、「ダンシャリ」は、本件商標「Dan-sha-Ri」を片仮名表記に変換させたものであり、同一の称呼及び観念(特に観念は生じない)を生ずる商標と認められる。 確かに「Dan-sha-Ri」と「ダンシャリ」では、文字間のハイフンの有無に相違が認められるが、登録商標の使用の判断にあたっては、比較される商標の単なる物理的同一にこだわらず、取引社会の通念に照らしてその同一性が判断されるべきものであるところ、両者からは、それぞれより生ずる称呼「ダンシャリ」を同じくするものであり、アルファベット表記の読み方を単に括弧書等にて、片仮名表記する取引の実情も少なからずあることも考慮すれば、「Dan-sha-Ri」と「ダンシャリ」とは、それぞれより生ずる称呼、観念を同じくする、他に、出所識別標識としての機能を異にするとの理由を見いだすことのできない社会通念上同一の商標と認められる。 (イ)「Dan-sha-Ri」と「断捨離」の類似性について 請求人は、「Dan-sha-Ri」と「断捨離」は、称呼同一、外観類似、観念同一であり、類似の商標であると主張する。 しかし、以下の理由により、「Dan-sha-Ri」と「断捨離」は非類似の商標であり、請求人の主張は失当である。 「断捨離」は、3文字の漢字のみで構成されているのに対し、「Dan-sha-Ri」は、8文字のアルファベットと2つの「-」(ハイフン)とによって合計10文字で構成されている。このように、文字種が異なり、文字数も大きく異なっていることから、外観については、両商標に共通する部分はなく、著しく相違しており、需要者が混同することはない。 また、「断捨離」は、「不要な物を減らし、生活に調和をもたらそうとする思想」を表す言葉として一般的に使用されている。一方、「Dan-sha-Ri」からは特定の観念は生じない。 以上の点を考慮すれば、仮に称呼が類似であると認識されたとしても、外観が著しく異なること、同一・類似の観念が生じ得ないことを含め総合判断した場合には、非類似の商標というのが相当である。 上記の主張は、請求人の代表である山下英子氏が行った商標登録出願(商願2016-62046)についての拒絶理由通知に対する反論として提出された意見書内にて主張されていることであり、被請求人としてもこれを支持するものである(乙1)。 (ウ)使用役務について 被請求人が行っている役務は、本件商標に係る指定役務である第36類「古物の評価,骨董品の評価,美術品の評価,古銭の評価,古本の評価,切手の評価,中古時計の買取価格の評価,被服の買取価格の評価,履物の買取価格の評価,かばん類及び袋物の買取価格の評価,貴金属の買取価格の評価,宝玉の評価,宝石の評価」と実質的に同一の役務である。 (エ)被請求人の「ダンシャリ」の使用について 以上より、披請求人の片仮名表記「ダンシャリ」の使用は、本件商標と社会通念上同一、すなわち本件商標と同一の商標を、指定役務と同一の役務に対して使用しているものと評価できる。 よって、請求人の被請求人が禁止権の範囲である商標の使用をしているとの主張は失当である。 (オ)被請求人の「断捨離」の使用について 前記の主張のとおり、「Dan-sha-Ri」と「断捨離」が非類似の商標と認められれば、そもそも商標法第51条が関知するものでないことは明らかである。 一方、仮に「Dan-sha-Ri」と「断捨離」が類似の商標と判断されたとしても、被請求人が使用する「断捨離」は、商標的な使用ではない。 ここで、甲第13号証にあるように「断捨離」という言葉は、「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語」の意味として、辞書等にも掲載されている一般的な言葉である。 そして、請求人が主張する甲第11号証や、甲第12号証は、まさに「断捨離」という言葉を「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語」、すなわち単に言葉としているにすぎない。 具体的に甲第11号証では「断捨離のススメ!」の見出しのもと、断捨離という言葉の一般的な説明がなされ、甲第12号証では「3つの断捨離のコツ」の見出しのもと、断捨離の効果的なやり方の説明を行っている。 すなわち、被請求人は、「断捨離」を商標として使用しているのではなく、「断捨離の精神をもって物を捨てて整理しましょう。そして、物を捨てるぐらいなら被請求人に売ってください。」といったこと表すために「断捨離」という言葉を使用しているにすぎない。 そしてこのような「断捨離」を単に言葉として使用している例は、挙げれば枚挙に逞がない(乙2?乙4)。 このような状況下において、被請求人の漢字表記「断捨離」の使用が商標として使用しているものでないと需要者・取引者であれば判断・認識できるものである。 以上より、被請求人は、漢字表記「断捨離」を商標法第51条第1項に規定される「商標の使用」をしているとはいえないことから、請求人の主張は失当であり、被請求人の漢字表記「断捨離」の使用は、登録商標と非類似の商標を、指定役務と同一の役務に対して使用しているものである。 よって、被請求人が禁止権の範囲について使用しているとの請求人の主張は失当である。 また、仮に「Dan-sha-Ri」と「断捨離」が類似の商標と判断されたとしても、被請求人は漢字表記「断捨離」を商標として使用しているものでなく、そもそも商標法第51条第1項に規定される「使用」をしているといえない。 よって、いずれにしても、請求人の被請求人が禁止権の範囲である商標の使用をしているとの主張は失当である。 ウ 「商品の品質若しくは役務の質の誤認」について この点に関しては、特に請求人も主張していないとおり、被請求人の行為が商品の品質や役務の質の誤認を生じさせるものでないことは明らかである。 エ 「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」について 商標法第51条第1項に規定される「混同」とは、「誤認・混同の事実が現に発生していなくても、商標使用の行為が客観的に誤認・混同を生ずるものであることが明らかにされれば、51条の適用があるものと解される。ただし、他人の業務に係る商品が現実に市場に流通していることを要する(東京高判昭54.10.16・昭和52(行ケ)158、網野 誠「商標第6版」(株式会社有斐閣、2002年))。 上記判断は、「商品」に限ったものではなく、「役務」についても共通していえるものであると思料する。すなわち、商標法第51条第1項における「出所の混同」とは、「具体的な出所の混同」であり、請求人においても被請求人と同一・類似の役務の提供を行っていることが条件となる。 この点、被請求人が行っている業務は、「金、銀、プラチナ等貴金属及び時計、ブランド品の買取」及び「買取った商品の販売」であり、請求人が行っている事業とは明らかに異なる。また、請求人はこの点において何ら主張していない。 さらに、請求人は、片仮名表記「ダンシャリ」を使用していない。 以上より、被請求人の本件行為が請求人の業務に係る役務と混同を生ずるとの、請求人の主張は失当である。 また、仮に「出所の混同」を広く解釈し、被請求人の業務に準ずる商品・役務まで「出所の混同」の解釈を広げたとしても、被請求人が行っている業務は、都道府県公安委員会から古物営業を行う許可を得なければ行うことができない、いわゆる「古物商」である。 このような被請求人が行っている特殊な業務と、請求人が行っている業務に出所の混同が生じる可能性はない。 よって、いずれにしても被請求人の本件行為が請求人の業務に係る役務と混同を生ずるとの、請求人の主張は失当である。 また、請求人は、混同が生じている実情があることの根拠として甲第27号証を提出している。 甲第27号証は、「断捨離使われていますが許可取られているのでしょうか?」とのお問合せ内容の写しである。 この匿名のお問合せの内容は、特に主語等明確に記載されていないが、自然に認識できる程度補足するに「”株式会社VALS NEXT”が断捨離を使用していますが、”山下英子氏”の許可を取られているのでしょうか?」という質問になる。 すなわち、この問い合わせを行った者は、被請求人が行っている事業と山下英子氏は別としっかり認識していたからこそ、このような問い合わせをしたということである。 つまり、被請求人の行為は、請求人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生じていないということである。 これは、上記のとおり、被請求人が行っている業務「金、銀、プラチナ等貴金属及び時計、ブランド品の買取」及び「買取った商品の販売」という請求人が行っている事業と何ら関係のない業務であることに起因するものである。 また、このような問い合わせがある原因の1つは、やましたひでこ公式サイトのプロフィールページにある”「断捨離(○の中にR)」及び「クラターコンサルタント(○の中にR)」は、やましたひでこの登録商標です。”との記載にある(乙5)。 この表記からは、山下英子氏がどの商品・役務の範囲について商標「断捨離」について権利を取得しているのか必ずしも明確ではなく、すべての商品・役務の範囲にて商標「断捨離」について商標権を取得していると誤解を需要者に与えている可能性がある。その結果、被請求人が行う役務の範囲についても商標権を取得していると誤解をした需要者が本問い合わせをしたものである。 さらに、請求人の代表である山下英子氏が行った商標登録出願(商願2016-62046)についての拒絶理由通知に対する反論として提出された意見書内にて「Dan-sha-Ri」と「断捨離」は商品(役務)の出所について、誤認、混同を生ずるおそれがない旨主張されている(乙1)。 以上より、仮に「Dan-sha-Ri」と「断捨離」が類似の商標と判断されたとしても、被請求人の行為が請求人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生じさせていなことは明らかであり、請求人の主張は失当である。 オ 「故意」について 商標法第51条第1項に規定される「故意」とは、出所混同を生ずるであろう商標の存在を知っていれば、誤認・混同を生じさせる意思がなくとも、「故意」が認められると考えられる。 この点、甲第13号証にあるように「断捨離」という言葉は、辞書等にも掲載されている言葉であり、「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語」として広く一般に普及しているという実情が見受けられる。 実際に被請求人は、「断捨離」を一般的な「ことば」と認識して使用している。 加えて、請求人及び請求人の代表である山下英子氏は、現在に至るまでいわゆる「古物商」に対して、「ダンシャリ」の使用を行っている事実は見受けられず、商標であると認識する機会もなかった。 すなわち、被請求人は「断捨離」という「ことば」は知っていたが、請求人又は山下英子氏と「出所混同を生ずるであろう”商標”」として知っていたわけではない。 以上より、そもそも被請求人が片仮名表記「ダンシャリ」及び漢字表記「断捨離」を使用した行為は、請求人の業務と混同を生じさせる等の「故意」をもって行ったものではない。 カ 小括 以上より、被請求人の片仮名表記「ダンシャリ」の使用は、本件商標と社会通念上同一、すなわち本件商標と同一の商標を、指定役務と同一の役務に対して使用しているものであり、漢字表記「断捨離」の使用は、本件商標と非類似の商標を、指定役務と同一の役務に対して使用しているものである。 仮に片仮名表記「ダンシャリ」が、本件商標に類似の範囲と判断されたとしても、上記のとおり、請求人及び請求人の代表である山下英子氏は、片仮名表記「ダンシャリ」をいわゆる「古物商」に対して使用している事実はなく、被請求人の「ダンシャリ」の使用が請求人の業務と具体的な出所の混同を生ずることはない。 また、仮に、「断捨離」が、本件商標に類似する商標と判断されたとしても、上記のとおり、被請求人は、漢字表記「断捨離」を商標として使用しているのではなく、単なる言葉として使用しているものである。 さらに、仮に被請求人の漢字表記「断捨離」が、本件商標に類似の範囲と判断され、商標的に使用していると判断されたとしても、請求人及び請求人の代表である山下英子氏は、漢字表記「断捨離」をいわゆる「古物商」に対して使用している事実はなく、被請求人の「断捨離」の使用が請求人の業務と具体的な出所の混同を生ずることはない。 そして、そもそも被請求人が片仮名表記「ダンシャリ」及び漢字表記「断捨離」を使用した行為は、請求人の業務と混同を生じさせる等の「故意」をもって行ったものではない。 よって、被請求人は、商標法第51条第1項に該当する行為を行っていない。 (2)その他 商標法第51条の趣旨は「商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課す」ものである。 上記のとおり、被請求人は本件商標を不当に使用しているといえないことは明らかである。 本件審判の請求は、請求人の代表者である山下英子氏が行った商標登録出願(商願2016-62046)に係る商標が、被請求人の登録商標と類似すると判断され、被請求人が正当に取得した商標権を何等かの理由で取り消そうという意図のもとなされたと思料する。その結果、本審判請求書では、「Dan-sha-Ri」と「断捨離」は、混同を生ずるおそれのある類似の商標と主張し、一方で、商願2016-62046に係る意見書では、「Dan-sha-Ri」と「断捨離」は、混同をすることはない非類似の商標であると、まさに相反する主張を行っている。 このような事情において、商標法第51条のような制裁規定を適用され、本件商標登録が取り消されるべきものではない。 2 第2答弁書(平成29年7月25日付け) (1)弁駁書7.理由7-1(1)について 請求人は、「Dan-sha-Ri」と「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」が類似する商標の使用と指摘するが、被請求人は、「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」を一つの商標として使用しているわけではない。被請求人は、登録商標と社会通念上同一である「Dan-Sha-Ri」を使用し、これとは別に分離可能な括弧書きを用いて「ダンシャリ」の文字を使用しているのであり、「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」を一体不可分として判断する必要はない。 したがって、本件について「Dan-Sha-Ri」部分と「ダンシャリ」の使用は切り離して考えられるべきである。 その結果、「Dan-sha-Ri」と「ダンシャリ」が社会通念上同一の商標の使用であることは、先に主張したとおりである。 確かに、登録商標の後ろに何らかの文字を付加し、付加した部分もあわせて全体として、登録商標と類似するか否かの判断を行うこともあり得るが、仮に、請求人の主張するとおり、「Dan-sha-Ri」と「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」を比較するのであれば、「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」全体から生ずる称呼・外観・観念を「Dan-sha-Ri」から生ずる称呼・外観・観念と比較すべきであり、そのような場合、称呼・外観・観念のいずれにおいても著しく異なることは明らかである。 よって、請求人の主張は失当である。 (2)弁駁書7.理由7-1(2)について 請求人は、「Dan-sha-Ri」と「Dan-sha-ri(断捨離)」が類似する商標の使用と指摘するが、被請求人は、「Dan-sha-ri(断捨離)」を一つの商標として使用しているわけではない。被請求人は、登録商標と社会通念上同一である「Dan-sha-ri」を使用し、これとは別に分離可能な括弧書きを用いて「断捨離」の文字を使用しているのであり、「Dan-sha-ri(断捨離)」を一体不可分として判断する必要はない。 したがって、本件について「Dan-sha-ri」部分と「断捨離」の使用は切り離して考えられるべきである。 その結果、「Dan-sha-Ri」と「断捨離」が非類似の商標の使用であることは、先に主張したとおりである。 確かに、登録商標の後ろに何らかの文字を付加し、付加した部分もあわせて全体として、登録商標と類似するか否かの判断を行うこともあり得るが、仮に、請求人の主張するとおり、「Dan-sha-Ri」と「Dan-sha-ri(断捨離)」を比較するのであれば、「Dan-sha-ri(断捨離)」全体から生ずる称呼・外観・観念を「Dan-sha-Ri」から生ずる称呼・外観・観念と比較すべきであり、そのような場合、称呼・外観・観念のいずれにおいても著しく異なることは明らかである。 よって、請求人の主張は失当である。 (3)弁駁書7.理由7-1(3)(5)について 確かに、請求人が主張するように、商標法第51条1項にいう「混同」には、両者間に人的又は資本的に何らかの関係があるかのように需要者、取引者に誤認させる混同も含まれるという解釈もあり得る。 しかしながら、同法第53条第1項でいう「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」とは、具体的な人の業務に係る具体的な商品と混同を生ずるものをしたときをいうものであることは、その文言自体から明らかである(乙6)。このことは、同法第51条においても同様と判断されるべきと考えられ、商品・役務にかかわりなく判断されるべきものである。 すなわち、請求人が主張するとおり、請求人が被請求人と同一・類似の役務の提供を行っていない状態において同法第51条第1項に規定される「混同」が発生する場合があったとしても、この混同は具体的なものでなくてはならないということである。 この点請求人は、具体的に請求人のどのような商品・役務に対して、披請求人のどのような役務が混同を生じたのか主張しておらず、同法第51条第1項にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをした」ということはできない。 以上より、極めて曖昧に混同が生じたとのみ主張する請求人の主張は失当である。 なお、被請求人が行っている特殊な業務と、請求人が行っている業務に具体的な混同が生ずる可能性がないことは先に主張したとおりである。 (4)弁駁書7.理由7-1(4)について 被請求人は、「断捨離」が全国的に著名とは主張していない。あくまで、「断捨離」という言葉が一般的な言葉として周知されていると認識している。 また、請求人は、被請求人がやましたひでこ公式サイトの存在を認識し、「断捨離(○の中にR)」と記載されていることを認識していた旨主張されるが、これはあくまで、答弁書作成時に、確認した事実を記載しているだけである。 なお、いずれにしても先に主張したとおり、被請求人は「断捨離」という言葉を、単なる一般的な言葉として認識し、使用していたにすぎず、請求人の業務と混同を生じさせようという「故意」は全くなかった。 第6 当審の判断 1 本件商標と商標権者の使用商標及び使用役務について (1)本件商標 本件商標は、前記第1のとおり、「Dan-sha-Ri」の文字からなるものである。 (2)商標権者の使用商標 本件取消審判において、請求人が本件商標の不正な使用に該当すると主張している被請求人(商標権者)の使用に係る商標は、「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」の文字からなる商標(使用商標2)及び「Dan-sha-ri(断捨離)」の文字からなる商標(使用商標3)である(甲5、甲6)。以下、使用商標2及び使用商標3をまとめて「本件使用商標」という場合がある。 (3)商標権者の使用役務 請求人が主張する、被請求人(商標権者)の使用役務は、「ブランド買取Dan-Sha-Ri ?GINZA?」なるウェブページの記載からすれば、バッグ、財布、ケース、時計、貴金属、宝石、ブランドジュエリー、アクセサリー、アパレル、骨董品、美術品、ブランド食器等、の買取や買取価格の評価に関する業務であると認められ(甲8?甲10)、これらは、本件商標の指定役務である第36類「古物の評価,骨董品の評価,美術品の評価,中古時計の買取価格の評価,被服の買取価格の評価,履物の買取価格の評価,かばん類及び袋物の買取価格の評価,貴金属の買取価格の評価,宝玉の評価,宝石の評価」と実質的に同一の役務である。 (4)本件商標と本件使用商標の関係について 一般的に、特定の語に括弧書きを付記するのは、その語の読み方や、説明的内容を付記する場合によくみられる表示方法であることからすれば、本件使用商標における括弧書き部分は、欧文字の片仮名表記(ダンシャリ)と漢字表記(断捨離)を付記しているものとみるのが相当であり、本件使用商標における要部は、「Dan-Sha-Ri」又は「Dan-sha-ri」の欧文字部分であるといえる。 そして、本件使用商標の欧文字部分は、一部大文字と小文字の違いがあるものの、本件商標と同一のつづり字の構成からなるものであって、同一称呼「ダンシャリ」を生じるものであるから、被請求人のウェブサイト(甲5、甲6)において表示された本件使用商標は、付記的な部分も含めて、本件商標と社会通念上同一の商標とみることができる 2 請求人の引用商標及び使用役務について 請求人は、「断捨離」の文字からなる商標(引用商標)をメールマガジンの配信、コンテンツの配信、著書の出版、メディアへの出演及び各地で行うセミナー等を通じて、山下英子氏が提唱する「断捨離」に関する「知識の教授」について使用している(甲16、甲19、甲24?甲26)。 3 商標権者による本件使用商標の使用が「故意」に請求人の業務に係る役務と混同させようとしたものであるか否かについて (1)本件使用商標と引用商標との類否について 本件使用商標は、前記1(2)のとおり、「Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)」及び「Dan-sha-ri(断捨離)」の文字からなるものであり、引用商標は「断捨離」の文字からなるものである。 してみれば、両商標は、「ダンシャリ」の称呼を共通にし、また、付記的部分において、一部「断捨離」の文字を共通にするものの、その外観において、「Dan-Sha-Ri」及び「Dan-sha-ri」の欧文字の有無という顕著な差異があり、互いに紛れるおそれはなく、非類似の商標と認められる。 (2)請求人の使用役務と被請求人の使用役務について 請求人の使用役務は、前記3のとおり、山下英子氏が提唱する「断捨離」に関する「知識の教授」であり、被請求人の使用役務は、前記1(3)のとおり、バッグ、財布、ケース、時計、貴金属、宝石、ブランドジュエリー、アクセサリー、アパレル、骨董品、美術品、ブランド食器等、の買取や買取価格の評価に関する業務であって、両役務は、全く関連性のない業務分野における別異の役務である。 (3)請求人の引用商標「断捨離」の著名性について 請求人は、引用商標の著名性について、「山下英子氏は、ヨガの行法哲学である『断行・捨行・離行』を基に、通常の片付け術とは異なる『モノヘの執着を捨てることを最大のコンセプトとする』独自の新しい片付け術(考え方)として『断捨離』を提唱し、2001年頃から『断捨離セミナー』を全国各地で展開していた。 そして、山下英子氏が提唱する『断捨離』は、全国的に広まり、2010年には、ユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた。・・・少なくとも2010年において、『断捨離』は、山下英子氏が深くかかわった『ことば』として全国的に著名であったといえる。 また、山下英子氏は、現在に至るまで継続的に『断捨離』に関する複数の著書を出版しており、・・・メディアにも数多く出演し、やましたひでこ(断捨離提唱者)の『断捨離』として紹介されている。 以上のように、少なくともユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた2010年頃から現在に至るまで継続的に、『断捨離』は山下英子氏が提唱するものとして全国的に著名であるといえる。」などと主張している。 しかしながら、「断捨離」の語が、最初は、山下英子氏が提唱するものであったとしても、2010年にユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた後には、「断捨離」の語は、「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語。断つ、捨てる、離れる。」ほどの意味合い(実用日本語表現辞典:乙13)を表すものとして、新語・流行語として社会に定着し、一般的に通用する語として使用されているといえるものである。 また、山下英子氏が複数の著書を出版しているとしても、該書籍の作成部数、販売部数及び販売地域等の販売実績に関する立証がない上、本のタイトル(題号)として使用されており、商標的使用ともいい難いものであるから、該書籍の出版の事実のみをもって、「断捨離」の語が、山下英子氏を直ちに想起させるものとして著名であると認めることはできない。 さらに、メディアにも出演していると主張するが、その放送内容は必ずしも明らかでなく、その全ての内容が、「断捨離」の語と山下英子氏との関係を視聴者に知らしめる内容であるか否かも判らない。 その他、山下英子氏が提唱する語としての「断捨離」の著名性を認めるに足りる証拠の提出はない。 (4)商標権者による「断捨離」の使用状況について 「断捨離」の語は、2010年にユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされていた事実からすれば、その当時から、「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語。断つ、捨てる、離れる。」ほどの意味合いを表す語として、一般的に通用する語として使用されているとみるのが相当であり、商標権者は、そのウェブページにおいて、「ブランド買取銀座店Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)で断捨離中のカルティエを高価買取!」(甲5)、「ここで断捨離ができますよ。」(甲6)、「要チェック!次の項目に一つでも該当したら今すぐ断捨離しましょう!」(甲11)等と記載しており、その文脈からして、「断捨離」の文字を「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語。断つ、捨てる、離れる。」という一般的に認識されている意味を表す語として使用しているのは明らかであり、記載中の「断捨離」の文字が、自他役務識別標識(何人かの業務に係る役務を表示する商標)として使用されている若しくは認識されるとはいえない。 加えて、商標権者が使用する「断捨離」の文字から請求人若しくは山下英子氏との関連性を想起させるとみるべき理由も見当たらない。 (5)出所の混同の有無について 商標権者の使用役務と請求人の使用役務は、前記(2)のとおり、何ら関連性が見いだせない別異の役務であり、請求人の提出する証拠からは、両役務間で混同を生じているとみるべき事情は見いだせない。 また、前記(1)のとおり、被請求人が使用する本件使用商標は、請求人の引用商標とは非類似の商標である。 そして、前記(3)のとおり、引用商標は、「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語。断つ、捨てる、離れる。」の意味合いを表す語として一般に知られているとしても、山下英子氏が提唱する語としての著名性を有しているとまでは認められない。 してみれば、請求人及び被請求人それぞれの使用役務は何ら関連性がない別異の役務であって、本件使用商標に接する需要者が引用商標を想起するとしても、それは、「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語。断つ、捨てる、離れる。」の意味を表す語としての認識を超えて、請求人の業務に係る役務を表示する商標として引用商標を想起することはないというべきであるから、商標権者がその使用役務に本件使用商標を使用しても、出所の混同が生ずるおそれはないとみるのが相当である。 (6)商標権者の「故意」について 上記のとおり、商標権者による本件使用商標の使用によって、請求人との関係において、出所の混同のおそれはないものであり、また、請求人に対し、何らかの損害等の発生を認識しているというようなことを容認していたという証拠もないのであるから、ただ知っていたことのみをもって、商標権者が「故意」に請求人の業務に係る役務と混同を生じさせようとしたものであるということはできない。 (7)小括 以上を総合すれば、商標権者は、本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標を、本件商標の指定役務に使用しているものであって、その使用は、商標権の専用使用権の範ちゅうにおけるものであり、また、商標権者による本件使用商標の使用が「故意」に請求人の業務に係る役務と混同させようとしたものであるとは認められない。 4 請求人の主張について 請求人は、登録商標が「Dan-sha-Ri」であるにもかかわらず、商標権者は、「Dan-sha-Ri(ダンシャリ)」及び「Dan-sha-ri(断捨離)」と使用し、さらには、ウェブページのあらゆる箇所に目立つように「断捨離」を使用している。つまり、アルファベットの登録商標「Dan-sha-Ri」から、山下英子氏の著名な漢字「断捨離」を想起させようとする強い意図があると推察できる旨を主張している。 しかしながら、前記4(3)のとおり、「断捨離」の語が山下英子氏の提唱するものとしての著名性は認められないものであり、「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語。断つ、捨てる、離れる。」ほどの意味合いを表す語として知られているものであって、「断捨離」の文字から直ちに「山下英子氏が提唱する『断捨離』」を想起することはないというべきである。 その他、請求人が提出した、被請求人(商標権者)の使用に係る証拠には、山下英子氏との関係を記述したものはない。 してみれば、被請求人(商標権者)が、山下英子氏の著名な漢字「断捨離」を想起させようとして「断捨離」を使用したとみることはできない。 また、請求人は、甲第27号証の内容からすると、混同が生じていることは明らかである旨を主張している。 しかしながら、同号証は、「問い合わせメール」であり、発信者は匿名であって、かつ、その内容も曖昧で、この一通のメールにより、商標権者が本件使用商標の使用をしていることで出所混同が生じているとみることはできない。 よって、上記請求人の主張は、いずれも採用することができない。 5 むすび 以上のとおり、商標権者による本件使用商標の使用は、本件商標と社会通念上同一の商標をその指定役務について使用をするものであって、その使用により、故意に他人の業務に係る役務と混同を生ずるものをしたということはできないから、商標法第51条第1項の要件に該当しないものである。 したがって、本件商標の登録は、商標法第51条の規定により、取り消すことはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-11-08 |
結審通知日 | 2017-11-10 |
審決日 | 2017-11-28 |
出願番号 | 商願2014-13612(T2014-13612) |
審決分類 |
T
1
31・
3-
Y
(W3536)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 榎本 政実 |
特許庁審判長 |
井出 英一郎 |
特許庁審判官 |
山田 正樹 中束 としえ |
登録日 | 2014-07-18 |
登録番号 | 商標登録第5686472号(T5686472) |
商標の称呼 | ダンシャリ、ダン、デイエイエヌ、シャ、シイエイチエイ、シイエッチエイ |
代理人 | 辻田 朋子 |
代理人 | 谷 昌樹 |
代理人 | 赤松 俊治 |
代理人 | 下田 一徳 |
代理人 | 永田 貴久 |
代理人 | 久野 恭兵 |