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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない X41
管理番号 1333380 
審判番号 取消2016-300410 
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-06-13 
確定日 2017-10-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第5156824号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5156824号商標(以下「本件商標」という。)は,「マリオカート」の片仮名及び「MARIOKART」の欧文字を上下二段に横書きしてなり,平成20年2月22日に登録出願,第3類,第5類,第12類,第18類,第24類,第29類,第32類及び第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として,同年8月1日に設定登録された。その後,本件商標の指定商品及び指定役務中,第41類「娯楽施設の提供」については,一部取消しの審判により,取り消すべき旨の審決がされ,その確定の登録が平成28年5月19日にされたほか,第12類の全指定商品についても,4回にわたる一部取消しの審判により,いずれも取り消すべき旨の審決がされ,その確定の登録が平成28年5月19日,同月26日,同年6月1日及び同29年4月14日にされた結果,その指定商品及び指定役務は,第3類,第5類,第18類,第24類,第29類及び第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第41類「携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行う画像の提供,業務用テレビゲーム機による通信を用いて行う画像の提供,家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行う画像の提供,その他の通信を用いて行う画像の提供,テレビゲームイベントの企画・運営又は開催,オンラインゲーム大会の企画・運営又は開催,オンラインゲーム大会の企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供,携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供,業務用テレビゲーム機による通信を用いて行うゲームの提供,家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供,その他の通信を用いて行うゲームの提供,家庭用テレビゲームおもちゃ用ゲームの提供,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用ゲームの提供,業務用テレビゲーム機用ゲームの提供,家庭用テレビゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた記録媒体の貸与,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた記録媒体の貸与,業務用テレビゲーム機用のプログラムを記憶させた記録媒体の貸与,家庭用テレビゲームおもちゃ・業務用テレビゲーム機の貸与,携帯用液晶画面ゲームおもちゃの貸与,電気通信回線を通じて行うゲームの提供,通信ネットワークを通じて行うゲームの提供,技芸・スポーツ又は知識の教授,映画の上映・制作又は配給,放送番組の制作」となった。
なお,本件審判の請求の登録日は,平成28年6月27日である。

第2 請求人の主張
請求人は,商標法第50条第1項の規定により,本件商標の指定商品及び指定役務中,第41類「携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供,業務用テレビゲーム機による通信を用いて行うゲームの提供,家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供,その他の通信を用いて行うゲームの提供,家庭用テレビゲームおもちゃ用ゲームの提供,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用ゲームの提供,業務用テレビゲーム機用ゲームの提供,電気通信回線を通じて行うゲームの提供,通信ネットワークを通じて行うゲームの提供」(以下「ゲームの提供」という場合がある。)についての登録を取り消す,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証を提出した。
1 「携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」及び「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」に係る本件商標の使用について
「携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供(マリオカート7)」(乙1,乙28)については,これは第9類のいわゆる「携帯用液晶画面ゲーム機用のプログラムを記憶させた電子回路又はCD-ROM」に相当する商品として小売されているものであるから,本件審判の請求に係る第41類「ゲームの提供」という役務について使用しているものではないことは明らかである。
また,「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供(マリオカート8)」(乙2,乙31)については,これは第9類のいわゆる「家庭用テレビゲームおもちゃのプログラムを記憶させた電子回路又はCD-ROM」や「ダウンロード可能な家庭用テレビゲームおもちゃのプログラム」に相当する商品として小売されているものであるから,本件審判の請求に係る第41類「ゲームの提供」という役務について使用しているものではないことは明らかである。
さらに,商標法上の「役務」とは「他人のために行う労務又は便益であって,独立して商取引の目的たりうべきものをいう。」と解されるところ,通信対戦サービスの提供は消費者にゲームソフトを販売した後も継続的な管理や運営が必要であり,本件商標権者がゲームソフトの販売後も当該サービスの提供を行っているとしても,被請求人は,当該管理や運営が独立した商取引の目的となっていることを証明していない。仮に,そのような管理や運営を伴うとしても,それらは,むしろ,商品であるゲームソフトの販売に伴う付随的なものであり,独立した商取引の目的となっていないものであるから,商標法上の「役務」とは考えられないものといえる。
したがって,「携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供(マリオカート7)」や「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供(マリオカート8)」に関する乙各号証をもって,本件商標を本件審判の請求に係る第41類「ゲームの提供」という役務について使用しているものということはできない。
2 「業務用テレビゲーム機用ゲームの提供」に係る本件商標の使用について
(1)株式会社バンダイナムコエンターテインメントに係る本件商標の使用について
株式会社バンダイナムコエンターテイメント(以下「バンダイナムコ社」という。)はアミューズメント施設に対して業務用テレビゲーム機用ゲームを販売しているのであって,それら機器の調整等は,販売した商品の保守,メンテナンスの一環として行われているとも考えられるから,それをもって,バンダイナムコ社がゲームの提供を行っていることが証明されたということはできない。ゲーム機器の使用の頻度に応じて,メンテナンス等の費用を徴収しても何ら不思議ではない。被請求人は,バンダイナムコ社が提供しているサービスはアミューズメント施設に対してであると主張しているのであるから,顧客にゲームを遊ばせるサービスでないことも明らかである。そして,被請求人が提出した乙各号証は,業務用テレビゲーム機又はそのゲームソフトを商品として販売するための広告等であって,そのゲームで遊ぶ子供等の一般消費者に向けたものが提出されているわけではない。
そうすると,被請求人がこれまで提出した乙各号証をもって,バンダイナムコ社が本件商標を「業務用のゲームの提供」について使用していたということはできない。
また,バンダイナムコ社のウェブサイトの写し(乙34?乙36)は,要するに,ゲーム内容として,いわゆる対戦ゲームができることを表しているにとどまっており,そもそも,商品として販売された業務用ゲーム機器に備えられている機能ではなく,独立した商取引の目的として,「通信」によって「ゲームの提供」という役務が行われていることを証明するものとはなっていないし,被請求人は,バンダイナムコ社がマッチングサーバーの運営を行っているとしてバンダイナムコ社のウェブサイトの写し(乙37)を提出しているが,当該写しは,「ネットワークゲーム障害情報」であって,当該「ネットワーク」自体によって独立した商取引としてゲームの提供がなされたことを証明するものではない。
そうすると,業務用テレビゲーム機における対戦ゲームにおいて,ネットワークが存在していたとしても,少なくとも,ネットワークでサポートするのは,対戦ゲームの主たる機能ではなく,付随的な機能であることも考えられる。そして,被請求人は,「ゲームの提供」が独立した商取引の目的であることまでは証明していない。
(2)「ライセンス契約書」(乙11)について
ア 「ライセンス契約書」(乙11。以下「本件ライセンス契約書」という。)の第1条の(3)(「(3)」等の数字は,本件ライセンス契約書上では丸付き数字で表されている。以下同じ。)には,「『本件許諾商標』とは,甲(審決注:本件商標権者)が商標権を有する『マリオカート』■■■をいう(以下,本件許諾商標と本件許諾著作物とを併せて『本件許諾著作物等』という。)。」と記載されている(■■■の部分はマスキングされている。)ところ,本件商標は「マリオカート」の文字だけで構成されているわけではないし,同条(3)には「マリオカート」の文字を含む登録商標のすべてと規定されているわけでもない。そして,本件商標権者が所有する「マリオカート」の文字を有する登録商標と出願商標は,第9類の商品や第41類の役務を指定しているものが複数あるから(甲1),本件ライセンス契約書をもって,本件商標が使用許諾の対象となっていたことは証明されていない。
加えて,本件ライセンス契約書の第1条(1)には,「『本件許諾製品』とは,乙(審決注:バンダイナムコ社)が,開発する,下記名称の業務用アーケードゲーム機をいう。『マリオカート アーケードグランプリDX』」と,また,(6)には,「『本件事業』とは,乙の取引先が,本件許諾製品を使用して一般消費者向けに行うゲームセンター等の運営事業をいう。」と記載されているが,第2条によれば,商品である本件許諾製品に本件許諾著作物等を使用し,本件許諾製品を販売することについて使用権を許諾しているとしても,ゲームセンター等の本件事業については「使用させ」ることについて「使用権を許諾する」としているだけで,バンダイナムコ社が本件事業に使用することについて「使用権を許諾する」としているわけではない。
さらに,本件ライセンス契約書の第2条には,「本契約の各条項に従うことを条件に」,使用権の許諾をするとしているところ,例えば,本件ライセンス契約書の第8条(許諾範囲)や,第9条(広告・宣伝物),第14条(有効期間)等はマスキングされ,その内容が確認することができないようになっており,各乙号証がこの契約書の各条項に従ったものであることも証明されていない。
イ 本件ライセンス契約書の第2条(使用許諾)においては,「甲は,乙に対し,・・・本件許諾製品および本件カードに本件許諾著作物等を使用し,・・・本件許諾製品を販売し,本件事業に使用させ,本件カードを販売・頒布することのできる非独占的かつ譲渡不能な使用権を許諾する。」とある。そして,第1条の(1)おいては,「本件許諾製品」を「乙が開発する,下記名称の業務用アーケードゲーム機をいう。」とし,その下に「マリオカート アーケードグランプリDX」と定められている。同じく,(6)においては,「本件事業」を「乙の取引先が,本件許諾製品を使用して一般消費者向けに行うゲームセンター等の運営事業をいう。」としている。
すなわち,バンダイナムコ社とアミューズメント施設の間の商取引を前提にするならば,本件商標の使用者,すなわち,商標法が「商標」の定義において定める業として役務の提供をする者は,バンダイナムコ社ということになるが,本件ライセンス契約書においては,バンダイナムコ社の使用に対する許諾は,「本件許諾製品を販売」する行為,すなわち,バンダイナムコ社が開発する業務用アーケードゲーム機の販売という商品の販売に限られている。一方,「ゲームの提供」に関しては,「本件事業に使用させ」とあるとおり,バンダイナムコ社の取引先が,本件許諾製品を使用して一般消費者向けに行うゲームセンター等の運営事業について,取引先に使用させることを許諾しているのみで,自ら使用することは許諾されていない(業務用テレビゲーム機という商品の販売についての商標の使用とみた方がライセンス契約書の上記規定に合致するといえる。)。
したがって,仮に,被請求人の主張するようにバンダイナムコ社からアミューズメント施設に「ゲームの提供」があったことを前提にするならば,本件商標の通常使用権者が本件商標の使用をしたということはできない。
(3)バンダイナムコ社が使用する商標について
バンダイナムコ社が使用する商標(乙3,乙13)は,「MARIOKART」,「ARCADE GP」,「DX」及び「マリオカートアーケードグランプリデラックス」の文字が一体となったものである。当該使用商標は,「KART」(カード)の文字が「ゴーカート」の意味を,また,「GP」(グランプリ)の文字が「オートレース」の意味を有するものであり,片仮名の「マリオカートアーケードグランプリデラックス」の文字が一行に横書きされ,その隣にマリオをはじめとした種々のキャラクターがゴーカートを操ってレースをしている絵が表示されていることともあいまって,両語が関連付けられて「ゴーカートによるオートレース」程度の意味合いを想起させるものとなっているから,「MARIOKART(マリオカート)」の文字部分だけを一つの商標として,両語が分離して把握されるとは考えられない。
そうすると,バンダイナムコ社が使用する商標は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標ということはできない。
(4)小括
したがって,業務用テレビゲーム機に関する乙各号証をもって,本件商標を本件審判の請求に係る第41類「ゲームの提供」という役務について使用しているものということはできない。
3 むすび
以上述べたとおり,被請求人は本件商標と社会通念上同一の商標を,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)に,その請求に係る指定役務のいずれかについて使用していたことを立証するに至っていない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論と同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第47号証を提出した。
1 「携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」及び「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」に係る本件商標の使用について
(1)「携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」に係る本件商標の使用について
乙第1号証は,本件商標権者が販売するニンテンドー3DS用ゲームソフト「MARIOKART/マリオカート 7」(以下「マリオカート7」という。)に関する本件商標権者のウェブサイトの写しであり,遅くとも発売日である2011年12月1日よりも以前から現在に至るまで本件商標権者のウェブサイトにおいて継続して公開されている。
当該写しに見られるとおり,マリオカート7は2011年12月1日に発売が開始され,現在に至るまで販売が継続されている。マリオカート7は,2011年12月1日に販売及び通信対戦サービスの提供が開始され(乙1,乙4?6),2012年1月時点においてガイドブックが発行されていることから販売及び通信対戦サービスの提供が継続しており,その後,2017年2月2日まで,つまり要証期間内に本件商標権者により販売及び通信対戦サービスの提供が継続されていた。具体的には,マリオカート7のガイドブックに,「『インターネット』で世界のライバルと対戦」(乙4)の記載及び「インターネットで世界と対戦」とのタイトルの下,「インターネットを利用すると,世界中のプレイヤーとレースやバトルを楽しめる。」との記載(乙5)があり,これにより「携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」の役務が行われていることが示されている。なお,本件商標権者による当該役務の提供が現在も行われている(乙26)。
(2)「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」に係る本件商標の使用について
乙第2号証は,本件商標権者の販売するWiiU(家庭用テレビゲーム機)用ゲームソフト「MARIOKART/マリオカート 8」(以下「マリオカート8」という。)に関する本件商標権者のウェブサイトであり,遅くとも発売日である2014年5月29日よりも以前から現在に至るまで本件商標権者のウェブサイトにおいて継続して公開されている。
マリオカート8は,2014年5月29日に販売及び通信対戦サービスの提供が開始され(乙2),現在に至るまで販売及び通信対戦サービスの提供が継続されており,要証期間内に本件商標権者である任天堂株式会社によりマリオカート8の販売及び通信対戦サービスの提供が継続されていた。具体的には,マリオカート8のガイドブックに,「ネットワークプレイ」の説明の記載(乙7)及び「ネットワークで遊ぼう」とのタイトルの下,インターネットに接続することで離れたプレイヤーと対戦できることなどが記載(乙8)されており,これにより「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」の役務が行われていることが示されている。なお,本件商標権者による当該役務の提供が現在も行われている(乙27)。
(3)マリオカート7及びマリオカート8の通信機能について
マリオカート7及びマリオカート8の取扱説明書(乙23,乙24)に説明があるとおり,本件商標権者の販売するマリオカート7及びマリオカート8は,インターネット接続をすることで世界中のプレイヤーと対戦することが可能である。
本件商標権者の販売するマリオカートシリーズはいずれもインターネット対戦機能を備え,ユーザーにインターネットを通じてプレイする機能を本件商標権者が管理・運営するサーバーにて提供していることは,「オンラインによるゲームの提供(通信ネットワークを通じて行うゲームの提供)」に該当するといえる。
さらに,オンラインゲームに用いられている技術について説明をした解説書(乙25)における「オンラインゲーム」の定義は,「コンピュータネットワークを介して専用のサーバや他のユーザのクライアントマシン(PC,ゲーム機など)と接続し,オンラインで同時に同じゲーム進行を共有することができるソフトウェアを含むサービスを指す。」としており,コンピュータネットワークを介して同じゲーム進行を共有するごとができる遊びを実現するために,通信ネットワークを通じて行うゲームの提供を行う際には,ゲームのプレイ相手を探す「プレイヤーマッチング」が必要になる。具体的には,プレイヤーがインターネット通信で対戦するに際して,プレイヤーのゲーム機からマッチングサーバーにプレイヤーマッチングの要求がなされ,それに応じてマッチングサーバーが条件に合う別のプレイヤーを探し,マッチング情報をそれぞれのプレイヤーに送信することでプレイヤーマッチングが行われることになる。そして,マリオカートWii等で利用されていたオンラインサービス機能であるWi-Fiコネクションでは,プレイヤーマッチング機能が提供されており,本件商標権者はこのマッチング機能に利用されるサーバーを運営し,もって通信ネットワークを通じて行うゲームの提供を行っていた(乙25)。
マリオカートシリーズにおいては,プレイヤーのゲーム機はインターネットを介して専用のサーバーと接続し,オンラインで同じゲーム進行を共有することができる(乙4,乙5,乙7?9,乙14?16,乙20,乙21,乙23,乙24)。
加えて,当該解説書には,マルチプレイヤー参加型のオンラインゲームの代表例としてマリオカートシリーズがあげられている(乙25)。
そうすると,本件商標権者が提供するマリオカートシリーズの通信対戦サービスはオンラインゲームであることに疑いはない。
よって,本件商標権者が提供するマリオカートシリーズの通信対戦サービスは,本件審判の請求に係る役務「携帯用液晶画面ゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供,家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供,その他の通信を用いて行うゲームの提供,電気通信回線を通じて行うゲームの提供,通信ネットワークを通じて行うゲームの提供」に該当する。
そして,本件商標は,プレイヤーがマリオカート7及びマリオカート8のオンラインによる通信対戦サービスを通じてゲームをプレイしようと思いゲームソフトを起動すると,ゲーム機又はディスプレイ上に「MARIOKART7」又は「MARIOKART8」の起動ロゴ(乙26,乙27)が表れる。これらの起動ロゴを手掛かりとして,プレイヤーは他のオンラインゲームと本件商標権者の提供するオンラインゲームとを識別し,本件商標権者の提供する同一の出所に係るオンラインゲームであること,及び本件商標権者が提供する品質を備えたオンラインゲームであることを確認することができる。つまり,これらの起動ロゴはオンラインゲームの提供との関係で商標の本質的機能としての識別機能,出所表示機能及び品質保証機能を発揮しているといえる。
したがって,本件商標は,その役務の提供に当たり「使用」(電磁的方法…(中略)…により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為:商標法第2条第3項第7号)されている。
2 「業務用テレビゲーム機用ゲームの提供」に係る本件商標の使用について
(1)乙第3号証は,バンダイナムコ社が運営する業務用テレビゲーム機「MARIOKART/ARCADE GP/マリオカートアーケードグランプリデラックス/DX」(以下「マリオカートDX」という。)を紹介したウェブサイトの写である。
マリオカートDXを運営するバンダイナムコ社は,本件商標の通常使用権者である(乙10,乙11)。
また,マリオカートDXは,要証期間内(2014年10月頃)に運営され,通信対戦サービスが提供されていた(乙12,乙13)。
よって,要証期間内に,本件商標の通常使用権者であるバンダイナムコ社によりマリオカートDXの運営及び通信対戦サービスの提供が継続されていた。
(2)本件商標の通常使用権者であるバンダイナムコ社は,業務用テレビゲーム機用ゲームをゲームセンター等のアミューズメント施設に対して販売するとともに,アミューズメント施設から業務用テレビゲーム機用ゲームの稼動量に応じた従量課金収入を得ている(乙11)。バンダイナムコ社がアミューズメント施設との間でこのような従量課金に関する取引を行っているのは,バンダイナムコ社が,マリオカートDXの運営に際して,各種の調整,ゲーム内容の更新といった継続的なサービスをアミューズメント施設に対して提供しているためである(乙13)。また,バンダイナムコ社は,単にマリオカートDXという業務用テレビゲーム機用ゲームをアミューズメント施設に販売しているだけでなく,継続的なサービスをアミューズメント施設に提供することで,この業務用テレビゲーム機用ゲームを長期間にわたって利用可能にし,業務用ゲーム機用ゲームの提供を行っている(乙13)。
(3)マリオカートDXの通信機能について
バンダイナムコ社が運営しているマリオカートDXにおいては,通信ネットワークを通じて行うゲームの対戦サービスである「全国対戦モード」が提供されている。
このような通信ネットワークを通じて行うゲームの提供が可能になっているのは,バンダイナムコ社により,多数のプレイヤーの「走りのクセ」,つまり走行データを記録することで,「ライバルとマッチングし」,「同じレベルのプレイヤーと戦える」ためのマッチング情報と走行データをプレイヤーのゲーム機に送信する機能を有するプレイヤーマッチングサーバーが運営されているためである(乙34,乙35)。
そして,当該マッチングサーバーはバンダイナムコ社により管理・運営されている。このことは,バンダイナムコ社の業務用ゲーム機器を使用したアミューズメント施設の運営を支援するBtoBサイトにおいて,マリオカートDXのサーバーについてのネットワークゲーム障害の発生及びその復旧の情報(乙37)並びにそのアップデートの情報(乙38)が報告されていることにより明らかである。
よって,本件商標の通常使用権者であるバンダイナムコ社は,マリオカートDXに関するマッチングサーバーを管理・運営し,もって業務用テレビゲーム機による通信を用いて行うゲームの提供を行っている。
(4)マリオカートDXが独立した役務として「ゲームの提供」が行われていることについて
バンダイナムコ社は,アミューズメント施設から業務用テレビゲーム機用ゲームの稼動量に応じた「従量課金収入」を得ており,当該「従量課金収入」は「ライセンス契約書」(乙11)の第1条(7)において「本件事業において一般消費者が本件許諾製品を使用する回数に応じて,乙(審決注:バンダイナムコ社)が,乙の取引先から受け取る収益をいう」と規定されている。すなわち,一般消費者がプレイした回数に応じた課金が発生することが規定されていることは明らかであり,当該「従量課金収入」が,ゲーム機のメンテナンス等に対する課金とは解釈されないものである。
「マリオカートアーケードグランプリDX」は,ネットワークに対応したことで,通信ネットワークを通じて行うゲームの提供や「全国対戦モード」といった新モードの追加,定期的なオンラインアップデートにより,バンダイナムコ社において長期的かつ継続的なサービスの提供(マッチングサーバーの管理・運営などを含む)が可能になったため,いったんゲーム機を販売した後でも通信ネットワークを通じて行うゲームの提供等の継続的なサービスの提供を行うことの対価として「従量課金収入」制度を採用した。
(5)以上のとおり,要証期間内に,本件審判の請求に係る指定役務「業務用テレビゲーム機用ゲームの提供」について,通常使用権者によって,本件商標が使用されていたことが示された。
3 まとめ
以上のとおり,要証期間内に日本国内において本件商標権者及びその通常使用権者により,本件審判の請求に係る指定役務のいずれかについて,本件商標が使用されていたことが証明されたと確信する。
したがって,本件商標は,商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきではない。

第4 当審の判断
1 使用の事実について
証拠及び被請求人の主張によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件商標権者のウェブサイト(乙2の1,乙31)には,その右上に「WiiU」(「U」の文字は白色の角丸の四角中に表示されている。)の記載,「MARIOKART8」(欧文字部分は白色の太字で表され,「A」の文字のみ横線が省略されており,「8」の数字は青色で欧文字部分に比べて8倍程の大きさで,欧文字部分の末尾にやや重なるように表されている。以下「本件使用商標」という。)の文字及び「マリオカート TM」(「TM」の文字部分は極小さく表示されている。)の文字の見出しとともに,「2014.5.29発売」及び「パッケージ版 ダウンロード版」の記載がある。なお,「WiiU」は,本件商標権者が製造販売する家庭用テレビゲーム機である。
(2)株式会社KADOKAWAが,2014年(平成26年)5月29日に初版を発行した「マリオカート8 ファイナルパーフェクトガイド」(乙7)の書籍には,その9頁に「インターネット」の見出しの下,「インターネットに接続し,世界中のプレイヤーとレースを楽しめるモード。」の記載及び奥付には「Special Thanks 任天堂株式会社」の記載がある。
(3)株式会社アンビットが,2014年(平成26年)5月31日に第1刷を発行した「MARIOKART8/マリオカート TM 完全攻略本」(乙8)の書籍には,その30頁に「Colums コラム ネットワークで遊ぼう」の見出しの下,「インターネットに接続すれば離れたプレイヤーと対戦したり,お互いのデータを交換したりできるなど,さらなる楽しみ方が用意されている。」の記載及び奥付には「監修 任天堂株式会社」の記載がある。
(4)株式会社KADOKAWAが,2014年(平成26年)6月9日に初版を発行した「マリオカート8/パーフェクトガイト∞」(乙9)の書籍には,その64頁に「MARIOKART8/ネットワークプレイ」の見出しの下,「インターネットを利用し,世界中のプレイヤーと遊べるのも本作の魅力のひとつ。」の記載及び奥付には「Wii Uは任天堂の商標です。」の記載がある。
(5)「マリオカート8」の取扱説明書(乙24)には,「インターネットで」の見出しの下,「インターネット通信対戦の始めかた」及び「大会の遊び方」として,その操作方法等が記載されている。
(6)技術評論社が,2011年(平成23年)4月25日に初版を発行した「オンラインゲームを支える技術」の書籍(乙25)には,その105頁から106頁に「もっと簡単に他のプレイヤーと出会えるようにしたい -プレイヤーマッチング」の見出しの下,「『一緒に遊んでおもしろいプレイヤーとだけ一緒に遊びたい』という要求をどう満たすかが問題になります。そのために,オンラインゲームでは『プレイヤーマッチング』(Player Matching)というしくみを用意します。プレイヤー同士を適切な方法でマッチングさせるというわけです。・・・その方法は,(1)自動選択式,(2)専用ロビー,(3)仮想世界,の3種類に大別することができます。」の記載,「(1)自動選択式」の項には,「自動選択式はWebに近いものです。・・・他のプレイヤーから評価の高いプレイヤー,・・・といった各種の重み付けされた条件に従ってランキングし,最適なプレイヤーを推薦します。・・・任天堂がニンテンドーDS向けに提供しているプレイヤーマッチングサービスであるニンテンドーWi-fiコネクションに対応しているゲーム,たとえば『マリオカートWii』などではこの方法が採用されています。」の記載がある。本件商標権者は,「マリオカート8」のプレイヤーマッチングを実現するために,インターンネットを介して接続されるマッチングサーバーを管理運営している。
(7)「マリオカート8」を起動すると,プログラムのロード画面(初期画面)において,本件使用商標が表示され,次にインターネット対戦モードを選択し,プレイヤーマッチング表示画面及びインターネット対戦開始画面において対戦相手を選択すると,インターネットによる対戦ゲームを行うことができる(乙27)。
2 判断
上記1によれば,以下のとおり判断できる。
(1)本件商標権者は,要証期間内に含まれる平成26年5月29日に,インターネットを介した対戦ゲームができる機能を備えた,家庭用テレビゲーム機(WiiU)用のゲームプログラム「マリオカート8」をパッケージ版ないしダウンロード版として発売し,「マリオカート8」の初期画面において,本件使用商標を表示した。
そして,当該初期画面が表示された後に選択可能となる「マリオカート8」のインターネットを介した対戦ゲームは,世界中のプレイヤーとの対戦を可能にするものであって,当該ゲームプログラムの魅力を増すための主要な機能の一であると認められるところ,当該機能の提供は,本件商標権者が管理運営するマッチングサーバーとの接続を介してのみ実現されるものであるから,本件商標権者は,かかる行為を通じて本件審判の請求に係る指定役務中の「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」を行っているものと認めることができる。
(2)本件商標は,上記第1のとおり,「マリオカート」の片仮名と「MARIOKART」の欧文字とを上下二段に横書きしてなるところ,その構成中,「MARIOKART」の欧文字部分は,辞書類に載録されている既成の語ではないことから,特定の意味合いを生ずることのない一種の造語として理解,認識されるものであり,その文字配列からすれば,英語風に「マリオカート」の称呼を生ずるものである。
そうすると,本件商標を構成する「マリオカート」の片仮名部分と,「MARIOKART」の欧文字部分とは,「マリオカート」の同一の称呼を生じ,観念において相違はないものである。
他方,本件使用商標は,欧文字部分と数字部分により構成され,当該欧文字部分は無理なく「MARIOKART」の欧文字を表したものと看取できるものであって,当該数字部分とは文字の色及び書体の大きさが異なるものである。しかも,当該数字部分はゲーム等の版(バージョン)を表したものと理解されるものであるから,当該欧文字部分が要部と認められる。
そして,本件使用商標の「MARIOKART」の欧文字部分は,本件商標の「MARIOKART」の欧文字部分とつづりを同一にするものであるから,本件使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標と認められる。
(3)以上のとおり,本件商標権者は,日本国内において,要証期間内に含まれる,平成26年5月29日以降販売した,インターネットを介した対戦ゲームができる機能を備えた「マリオカート8」の初期画面に,本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標を表示して,本件審判の請求に係る指定役務中の「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」を行ったものと認められる。
本件商標権者による上記行為は,商標法第2条第3項第7号にいう「電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為」に該当するものである。
(4)請求人の主張について
請求人は,「マリオカート8」は「家庭用テレビゲームおもちゃのプログラムを記憶させた電子回路又はCD-ROM」や「ダウンロード可能な家庭用テレビゲームおもちゃのプログラム」に相当する商品として小売されているものであって,通信対戦サービスの提供は消費者にゲームソフトを販売した後も継続的な管理や運営が必要であり,本件商標権者がゲームソフトの販売後も当該サービスの提供を行っているとしても,商品であるゲームソフトの販売に伴う付随的なものであり,独立した商取引の目的となっていないものであるから,商標法上の「役務」とはいえない旨主張する。
確かに,「マリオカート8」は,商品(パッケージ版ないしダウンロード版)として利用者に販売されているものである。しかしながら,「マリオカート8」に係るインターネット(通信)を介した対戦ゲームは,「マリオカート8」の主要な機能の一であり,利用者(需要者)においても当該機能に興味をひかれて「マリオカート8」を購入する者も少なからずいるであろうから,商品であるゲームソフトの販売に伴う付随的なものとはいえない。見方を変えれば,本件商標権者は,「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」を行うために,自らがマッチングサーバーを管理運営し,ゲームソフトである「マリオカート8」を販売したともいえるから,「マリオカート8」に係るインターネット(通信)を介した対戦ゲームは,本件商標権者によって提供される独立した商取引の目的たり得る役務であると認めることができる。
3 まとめ
以上のとおり,本件商標権者は,要証期間内に日本国内において,本件審判の請求に係る指定役務中「家庭用テレビゲームおもちゃによる通信を用いて行うゲームの提供」について,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示して役務を提供する行為を行ったと認めるのが相当であるから,被請求人は,本件商標を使用していたことを証明したと認め得る。
したがって,本件商標の登録は,本件審判の請求に係る指定役務について,商標法第50条により,取り消すことはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2017-07-21 
結審通知日 2017-07-27 
審決日 2017-08-22 
出願番号 商願2008-12816(T2008-12816) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (X41)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小田 明 
特許庁審判長 田中 亨子
特許庁審判官 早川 文宏
田村 正明
登録日 2008-08-01 
登録番号 商標登録第5156824号(T5156824) 
商標の称呼 マリオカート、マリオ 
代理人 特許業務法人深見特許事務所 

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