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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない 012
管理番号 1325042 
審判番号 取消2016-300033 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-01-20 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4140759号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4140759号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成4年6月25日に登録出願、第12類「自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車,自転車並びにそれらの部品及び附属品」を指定商品として、同10年5月1日に設定登録されたものであり、その後、同19年11月27日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
なお、本件審判の請求の登録は、平成28年1月28日である。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定商品中、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、本件審判の請求に係る上記商品について、その審判の請求の登録前3年以内(以下「本件要証期間内」という。)に、日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても、使用されていないから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消すべきものである。
2 弁駁の理由
被請求人は、3年以内に本件商標を使用している証拠として、当時の権利者が顧客宛てに発行している請求書の写しを提出しているが(乙3)、本証拠を見る限り、「ファンベルト」「パワーステアリングベルト」「クーラーベルト」「テールランプバルブ」「ディスクパットキット」等の自動車部品自体には本件商標の使用はなく、自動車部品の卸売業者の屋号として使用されていることは明らかである。本件商標は、「SAP」の文字からなるものであるが、これは当時の商標権者である埼玉オートパーツ株式会社(以下「前商標権者」という。)の略称と認められるものである。
また、例えば、乙第3号証の最初のページにある日付/伝票No.「03/04 088254」では、品名をファンベルトとして品番がMPMF1350とあるものに関して、品番をインターネットで検索すると、三ツ星ベルトロードベルトMPMF1350の商品が表示される(甲2)。したがって、当該商品の出所表示機能は三ツ星ベルトであり、本件商標の使用とはいえないものと思料する。他の製品についても、インターネットWEBサイト等で、本証拠に記載された品番で検索すると、同様に、他社ブランドがわかるに留まるものと評価される。これらの自動車部品に関して、本件商標が当該商標権者の出所表示機能を果たしているとはいえず、商標の使用に該当するものではないと考えられる。
よって、被請求人は、本件商標を「自動車部品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」について使用しているものであり、本件商標を「自動車部品」について使用しているとはいえないものと思料する。
以上の観点から、本件商標は、取り消されるものである。
3 平成28年8月26日付け口頭審理陳述要領書
被請求人の提出した「請求書」及び「合計請求書」は、当該商標を付した商品の取り扱いがあるとは認められない。これらの提出された証拠は、小売業務のサービスマークとして当該商標の使用をしていた事実を立証しようとしているものにすぎない。被請求人の提出した証拠(乙6の4)においても、他のメーカーの登録商標のみが表示され、当該商標の表示はない。
例えば、知財高裁平成21年(行ケ)第10203号(平成21年11月26日)では、「小売等役務商標制度が施行された後においては、商品又は商品の包装に商標を付すことなく専ら小売等役務としてのみしか商品商標を使用していない場合には、商品商標としての使用を行っていないと評価すべき余地もある」と判示されている。被請求人の提出した証拠に表示された日付は、いずれも平成19年4月1日以降の平成26年4月1日?平成27年2月28日までのものであり、小売等役務商標制度の施行された後の日付である。
本来は、このような使用態様であれば、小売商標として、商標登録出願して保護を受けるものであり、十分にその対応する時間があったものであることからも、商品商標としての使用を行っていないと評価すべきものであり、本件商標は、商標の使用の事実はなく取り消されるべきものである。
新たに提出された証拠では、やはり前商標権者のみが発行されたと思われる「合計請求書」が提出されており、異なる主体の証拠として求められている「各自が発行する各取引書類」には該当しないものであり、依然として取引の事実が証明されていない。
ちなみに、新たに提出された証拠の「合計請求書」(乙4の2、乙5の2、乙6の2)では、商品名称の記載の内訳もないので、この証拠自体は当該商標を使用した証拠にはなり得ないものである。被請求人の口頭審理陳述要領書では、「合計請求書」及び「請求書」をお客様に送付したと説明しているが、言い換えれば、これは、「請求書」自体は、「請求書」に記載された各宛先の住所地には送付することはないものと解釈できる。これだけ大量の商品を複数の店舗から電話のみで受注するということは考えにくいことであり、各店舗にも「請求書」を送っていないとすると、どうやって納品の確認を取ることができるのか疑義がある。
また、被請求人の口頭審理陳述要領書では、「お客様に請求書及び合計請求書を送付し」と説明しているが、既に当該商標を使用していた法人は消滅しているので、それらの説明の根拠は利害関係の有する現商標権者の記憶による伝聞にしかすぎず、真に「請求書」及び「合計請求書」を送付していたかは不明である。「請求書」は頒布せず内部資料として取り扱い、「合計請求書」のみをお客様に送付して、その金額が振り込まれたものと解釈することもできる。その場合には、前述したように「合計請求書」は商品名称も無いことから使用証拠にはならないものである。
通常であれば、前商標権者が各メーカーに発注した発注書、各メーカーからの請求書及びその納品書などが存在しているはずであり、また上述したように、前商標権者が株式会社ENEOSネットの各店舗から発注されたという取引書類も示されていない。商品商標としての使用であるか否かの議論は別にしても、取引の事実が証明されておらず、当該商標が使用されたことが示されていない。
したがって、「各自が発行する各取引書類」が示されておらず取引の事実が証明されておらず、且つ、当該商標が表示された「請求書」の頒布された証拠もないことから、当該商標は、商標の使用の事実はなく取り消されるべきものである。
なお、被請求人の提出した証拠は、前商標権者のものと認められるが、既にシンカホールディングス株式会社に合併されて、本来前商標権者の書類等も当該会社に管理権限が移管しているものと考えられ、それらの証拠入手のルートも不明確であり適当なものではない。
4 平成28年10月12日付け上申書
被請求人が提出した証拠の「請求書」「合計請求書」が相手方に頒布された証拠が示されていない。たしかに、請求書には当該ロゴが付されているが、この請求書が相手方に実際に頒布したという証拠は全く示されていない。商標を使用したと言いうるには、相手方に実際に頒布されたことが不可欠であり、その立証がなされていない以上、当該請求書には何らの証拠価値がないものである。当該請求書に記載された品目が相手方に納品されていたとしても、この請求書が相手には渡ったことが立証されていなければ取引時に当該商標が使用されたことにはならない。そもそも、被請求人は、取引は主として口頭(電話)で行われたと述べており、当時この請求書が作成された証拠すら示されていない上、当該証拠は被請求人のコントロールできる範囲だけで作成しうるものであるので、当該期間にこれが相手に表示されたかどうかは全く不明である。
また、本当に当該商標が付された請求書が相手に頒布されて、それに基づいて相手方が送金したのかどうかも不明なのであるから、仮に金額が一致していても銀行通帳の控えについても当該商標の使用を証明する能力は全くない。
ちなみに、本件商標の使用は商品商標としての使用ではないことは、過去の審決において、「取引書類に記載された商品の取引が実際に行われたとしても、直ちに取引された『長袖ブラウス』に本件商標が付されていたと認めることはできない」とした例もあり、このような小売商標の態様では、商品商標としての使用が否定されている。
以上の観点から、本件商標は、取り消されるものであると思料する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標権の帰属について
本件商標は、平成10年5月1日に前商標権者により商標登録されたものである。
本件商標の商標権は、平成27年2月10日付けで、前商標権者から前商標権者の代表取締役であった「稲熊秀雄」(被請求人)に譲渡されたものであり、この本件商標権の譲渡については、平成27年5月26日付けで商標権移転登録申請書(乙1)を提出し、平成27年6月9日に商標登録済通知書(乙2)が作成されている。
(2)前商標権者について
前商標権者は、自動車部品及び自動車用品の販売及び輸入などの事業を目的とし、昭和41年10月25日に設立された会社である(乙1)。
前商標権者の住所については、設立時、埼玉県川口市前川二丁目29番23号であったが、その後、埼玉県川口市大字安行領根岸1061番地に移転し(乙1)、平成13年7月17日を受付日として、登録名義人の表示の変更の登録がされている(甲1)。
なお、前商標権者は、平成27年3月1日に東京都八王子市所在のシンカホールディングス株式会社に合併し解散している(乙1)。
(3)本件商標の使用について
乙第3号証は、前商標権者から顧客である「(株)ENEOSネット・北原台店」宛てに発行された「請求書」の写しである。
該請求書には、中央上部に前商標権者の名称が記載され、それぞれの「次回お支払い予定日」の欄には、2014年4月から2015年3月までの各月の末日の日付が記載されており、該日付は、本件の要証期間内である。
なお、上記したように、本件商標の商標権は、平成27年2月10日付けで「稲熊秀雄」(被請求人)に譲渡されており、譲渡契約成立以降の商標権者は「稲熊秀雄」(被請求人)であるが、「稲熊秀雄」は前商標権者の代表取締役であることから、商標権者である「稲熊秀雄」と前商標権者との間で黙示の使用許諾があったとみることができる。すると、該請求書のうち、本件商標権の譲渡契約成立以降に発行された請求書(処理日が2015年(平成27年)2月28日の請求書)については、通常使用権者が発行したものといえる。
また、該請求書の「品名」の欄には、「ファンベルト」「パワーステアリングベルト」「クーラーベルト」「テールランプバルブ」「ディスクパットキット」等の自動車部品が記載され、それに対応した品番、数量、単価、金額、定価等が各欄に記載されている。
そして、本件商標は「SAP」の欧文字をロゴ化してなるものであるところ、該請求書の中央上部には、本件商標と同一の商標が登録商標であることを示すマルアールとともに記載されている。
以上より、本件要証期間内において、前商標権者及び通常使用権者が、「自動車部品」の請求書に、本件商標と同一の商標を表示していた事実が確認できるものであり、前商標権者及び通常使用権者の上記行為は、商標法第2条第3項第8号に規定する、自己の業務に係る商品「自動車部品」に関する取引書類に標章を付して頒布する行為に該当する。
(4)まとめ
以上のように、本件商標は、本件商標の前商標権者及び通常使用権者である埼玉オートパーツ株式会社によって、本件審判の請求の登録(平成28年1月26日)前3年以内に日本国内において、その指定商品「自動車並びにその部品及び附属品」について継続的に使用されていたことが明らかである。
2 平成28年8月5日付け口頭審理陳述要領書
(1)答弁理由の補足
平成28年7月19日付審理事項通知書で、合議体の暫定的見解として、「通常、商品の取引においては、商品発注、商品納品、代金請求及び代金支払い等の取引当事者による一連の流れによって行われるものであり、各段階に各自が発行する各取引書類を確認することで取引の事実が証明されるところ、被請求人の提出に係る取引書類は、請求書(乙3)のみであり、これのみをもっては、上記一連の商品取引が行われたとまで認めることはできない。」旨の指摘を受けた。
また、乙第3号証に記載されている商品のうち、「サイドマッドガード」、「アルミホイール」、「ルームミラー」、「スノーボードキャリア」については、これらが自動車用の商品であるなら、「自動車並びにその部品及び付属品」に含まれる商品と認められるとされている。
前商標権者による商品取引は、顧客との信頼関係で成り立っており、顧客への請求支払業務を円滑に進めるため、前商標権者が独自に「請求書」、「請求合計書」を開発し、顧客からの注文は電話で受注し、商品渡しをもって完結し、その完結した内容を記載した請求書を作成し、月末に月締めの合計請求書を作成して、顧客に請求書と合計請求書を送付し、顧客が指定銀行に合計請求書に記載されている金額を振り込むことにより、顧客との間の一連の商品取引が完了する。
そこで、被請求人は、乙第3号証に記載されている商品のうち、「サイドマッドガード」が記載されている請求書を乙第4号証の1として、「アルミホイール」、「ルームミラー」が記載されている請求書を乙第5号証の1として、「スノーボードキャリア」が記載されている請求書を乙第6号証の1として追加提出するとともに、乙第4号証の1として提出した請求書に関する月締めの合計請求書を乙第4号証の2として、乙第4号証の2の合計請求書の金額が振り込まれた銀行通帳を乙第4号証の3として、乙第4号証の1として提出した請求書に記載されている「サイドマッドガード」が自動車用の商品であることを立証するカタログを乙第4号証の3として追加提出し、乙第5号証の1として提出した請求書に関する月締めの合計請求書を乙第5号証の2として、乙第5号証の2の合計請求書の金額が振り込まれた銀行通帳を乙第5号証の3として、乙第5号証の1として提出した請求書に記載されている「アルミホイール」、「ルームミラー」が自動車用の商品であることを立証するカタログを乙第5号証の4として追加提出し、乙第6号証の1として提出した請求書に関する月締めの合計請求書を乙第6号証の2として、乙第6号証の2の合計請求書の金額が振り込まれた銀行通帳を乙第6号証の3として、乙第6号証の1として提出した請求書に記載されている「スノーボードキャリア」が自動車用の商品であることを立証するカタログを乙第6号証の4として追加提出し、前商標権者と顧客による一連の商品取引が行われたことを立証する。
(2)証拠の説明
ア 乙第4号証
乙第4号証の1は、乙第3号証((株)ENEOSネット・北原台店宛に発行された請求書)の1枚目、2枚目の請求書であり、品名として「サイドマッドガードLH」と、(株)ENEOSネット・北原台店の次回支払い予定日(2014/04/30)と支払い予定額(55,710)が記載されている。
乙第4号証の2は、(株)ENEOSネット宛の月締めの合計請求書であり、乙第4号証の1として提出した請求書に記載されている支払い予定額(55,710)と、(株)ENEOSネット宛の月締めの合計額が次回支払い予定額 (1,752,423)として記載されている。
乙第4号証の3は、乙第4号証の2の合計請求書の金額が振り込まれた銀行通帳であり、26.04.30付で(株)ENEOSネットから前商標権者に1,752,423円が振り込まれていることが記載されている。
乙第4号証の4は、「サイドマッドガードLH」が記載されている自動車部品のカタログであり、乙第4号証の1に、品名として記載されている「サイドマッドガードLH」は乙第4号証の4に記載されている「サイドマッドガードLH」である。
イ 乙第5号証
乙第5号証の1は、乙第3号証((株)ENEOSネット・北原台店宛に発行された請求書)の8枚目、9枚目の請求書であり、品名として「アルミホイール」、「ルームミラー」と、(株)ENEOSネット・北原台店の次回支払い予定日(2014/09/30)と支払い予定額(50,185)が記載されている。
乙第5号証の2は、(株)ENEOSネット宛の月締めの合計請求書であり、乙第5号証の1として提出した請求書に記載されている支払い予定額(50,185)と、(株)ENEOSネット宛の月締めの合計額が次回支払い予定額 (1,484,723)として記載されている。
乙第5号証の3は、乙第5号証の2の合計請求書の金額が振り込まれた銀行通帳であり、26.09.30付で(株)ENEOSネットから前商標権者に1,484,723円が振り込まれていることが記載されている。
乙第5号証の4は、「アルミホイール」、「ルームミラー」が記載されている自動車部品のカタログであり、乙第5号証の1に、品名として記載されている 「アルミホイール」、「ルームミラー」は乙第5号証の4に記載されている「アルミホイール」、「ルームミラー」である。
ウ 乙第6号証
乙第6号証の1は、乙第3号証((株)ENEOSネット・北原台店宛に発行された請求書)の11枚目、12枚目の請求書であり、品名として「スノーボードキャリア TULIPA」と、(株)ENEOSネット・北原台店の次回支払い予定日(2014/12/31)と支払い予定額(216,892)が記載されている。
乙第6号証の2は、(株)ENEOSネット宛の月締めの合計請求書であり、乙第5号証の1として提出した請求書に記載されている支払い予定額(216,892)と、(株)ENEOSネット宛の月締めの合計額が次回支払い予定額(1,260,385)として記載されている。
乙第6号証の3は、乙第6号証の2の合計請求書の金額が振り込まれた銀行通帳であり、26.12.30付で(株)ENEOSネットから前商標権者に1,322,705円が振り込まれていることが記載されている。この振り込み金額には、別請求の62,320円が含まれている。
乙第6号証の4は、「スノーボードキャリア TULIPA」が記載されている自動車部品のカタログであり、乙第6号証の1に、品名として記載されている「スノーボードキャリア TULIPA」は乙第6号証の4に記載されている「スノーボードキャリア TULIPA」である。
(3)以上により、前商標権者と顧客による一連の商品取引が行われたことは明らかであり、また、乙第4号証の1、乙第5号証の1、乙第6号証の1に記載されている「サイドマッドガード」、「アルミホイール」、「ルームミラー」、「スノーボードキャリア」は、自動車用の商品であり、「自動車並びにその部品及び付属品」に含まれる商品である。
3 平成28年9月28日付け上申書
請求人は、「提出された証拠は、小売業のサービスマークとして当該商標の使用を立証しようとしているものにすぎない。被請求人の提出した証拠(乙6の4)においても、他のメーカーの登録商標のみが表示され、当該商標の表示はない。」とし、知財高裁平成21年(行ケ)第10203号(以下、単に「判例」という。)を例示し、「小売等役務商標制度が施行された後においては、商品又は商品の包装に商標を付することなく専ら小売業役務としてのみしか商品商標を使用していない場合には、商品商標としての使用を行っていないと評価する余地もある。」との判示を根拠として、「本件商標の使用は、商品商標としての使用を行っていないと評価すべきもの」と主張する。
しかし、この主張は到底受け入れられるものではない。
まず、請求人が根拠とする判例では、判示における「評価する余地もある。」は決して断定を意味するものではなく、「基本は、商品商標として使用を行っていると評価する」ことを前提とした表現であり、よって、判決には全く反映されておらず、判決では反対の判断がなされている。したがって、この判例を根拠とする請求人の主張には無理がある。
被請求人は、本件商標の使用は商品商標としての使用に当たり、商標法第2条第3項第8号に規定する「使用」に該当すると確信している。
例えば、取消2012-300454 (以下「審決例1」という。)では、「登録商標の使用は、必ずしも当該商品の製造者が商標権者等でなければならないものではなく、他人が商標を付し、製造した当該商品について流通業者が一般消費者への商品の移転(販売)をする際に限定的に付加して使用する場合も、登録商標が取消請求に係る指定商品について使用されていれば、その使用は、当該流通業者の使用に当たるというべきである。」と判示されている。
審決例1の判示からも、本件商標の使用は、商品商標としての使用に当たることは明白である。
また、請求人は、「このような使用形態であれば、小売商標として、商標登録出願して保護を受けるものであり、十分にその対応する時間があったものであることからも、商品商標としての使用を行っていないと評価すべきものです。」と主張するが、しかし、この主張も到底受け入れられるものではない。
例えば、取消2013-300041(以下「審決例2」という。)では、「小売等役務商標制度が導入されたことにより、商品商標に加え、役務商標としての保護が可能となったとしても、小売業者としての出所を表示する商品商標として使用できるものであるから、小売等役務の制度を設けた趣旨に反するということはできない。」と判示されている。
審決例2の判示は請求人の主張を否定するものといえる。
以上のように、本件商標の使用は、商品商標としての使用に当たり、商標法第2条第3項第8号に規定する「使用」に該当することは明白である。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る乙各号証からは、以下の事実が認められる。
(1)乙第1号証における履歴事項全部証明書によれば、前商標権者である埼玉オートパーツ株式会社は、会社成立を昭和41年10月25日とし、その目的を「自動車部品及び自動車用品の販売及び輸出入」等とする法人であって、被請求人である「稲熊秀雄」は代表取締役であったことが認められる。同社は、平成12年12月12日に本店を埼玉県川口市安行領根岸1061番地に移転、平成27年3月1日にシンカホールディングス株式会社に合併し解散した。
平成27年2月10日付けの譲渡証書によれば、本件商標に係る商標権を前商標権者から被請求人に譲渡したことが認められ、その後、商標権移転登録申請書が被請求人より提出され、平成27年5月27日付けで商標登録原簿に移転の登録がなされている。
(2)乙第4号証の1は、前商標権者が(株)ENEOSネット・北原台店に対して2014年4月1日付けで発行した「請求書」であるところ、上部中央には、横長長方形の枠内に図案化した「SAP」(以下「使用商標」という。)の欧文字と「埼玉オートパーツ株式会社」「川口市安行領根岸1061」の記載があり、その右側には、「次回お支払予定日」として「2014/04/30」、「次回お支払予定額」として「55,710」の記載があり、その内訳として、「日付/伝票No.」の欄の「03/17 094365」の行の上段において、「定価」の欄に「22,200」、「品名」の欄に「サイドマッドガードLH」、「品番」の欄に「76902-44081-A1」の記載がある。
乙第4号証の2は、前商標権者が(株)ENEOSネットに対して2014年4月1日付けで発行した「合計請求書」であるところ、上部中央には、使用商標と「埼玉オートパーツ株式会社」「川口市安行領根岸1061」の記載があり、その右側には、「次回お支払予定日」として「2014/04/30」、「お支払予定額」として「1,752,423」の記載があり、その内訳として、「得意先CD/得意先名」の欄の「09905 (株)ENEOSネット・北原台店」の行には、「合計残高」の欄に「55,710」の記載があり、最後の「99099 (株)ENEOSネット[総括請求]」の行には、「合計残高」の欄に「1,752,423」の記載がある。
乙第4号証の3は、前商標権者の「普通預金通帳」の写しであるところ、「26.04.30」の欄には「摘要」として「振込」「カ)ENEOSネット」、「お預り金額」として「1,752,423」の記載がある。
乙第4号証の4は、自動車部品のカタログの写しであるところ、自動車のフェンダーの下部に付ける部品として「サイドマッドガードLH」「76902-44081-A1」「¥22,200」の記載がある。
(3)乙第5号証の1は、前商標権者が(株)ENEOSネット・北原台店に対して発行した「請求書」であるところ、これは2014年8月31日付けで処理されたものであり、上部中央には、上記(2)と同様に使用商標、前商標権者の会社名及び住所の記載があり、その右側には、「次回お支払予定日」として「2014/09/30」、「次回お支払予定額」として「50,185」の記載があり、その内訳として、「日付/伝票No.」の欄の「08/18 157954」の行において、「定価」の欄に「32,400」、「品名」の欄に「アルミホイール」、「品番」の欄に「42700-SZW-J91」の記載がある。
乙第5号証の2は、前商標権者が(株)ENEOSネットに対して2014年8月31日付けで発行した「合計請求書」であるところ、上部中央には、上記(2)と同様に使用商標、前商標権者の会社名及び住所の記載があり、その右側には、「次回お支払予定日」として「2014/09/30」、「お支払予定額」として「1,484,723」の記載があり、その内訳として、「得意先CD/得意先名」の欄の「09905 (株)ENEOSネット・北原台店」の行には、「合計残高」の欄に「50,185」の記載があり、最後の「99099 (株)ENEOSネット[総括請求]」の行には、「合計残高」の欄に「1,484,723」の記載がある。
乙第5号証の3は、前商標権者の「普通預金通帳」の写しであるところ、「26.09.30」の欄には「摘要」として「振込」「カ)ENEOSネット」、「お預り金額」として「1,484,723」の記載がある。
乙第5号証の4は、自動車部品のカタログの写しであるところ、2枚目には「タイヤ/ホイールディスク」の表題の下、「部品番号」の欄に「42700-SZW-J91」、「部品名称」の欄に「ディスク,アルミホイール」と記載され、自動車のタイヤとホイールの図が描かれている。
(4)乙第6号証の1は、前商標権者が(株)ENEOSネット・北原台店に対して2014年12月3日付けで発行した「請求書」であるところ、上部中央には、上記(2)と同様に使用商標、会社名及び住所の記載があり、その右側には、「次回お支払予定日」として「2014/12/31」、「次回お支払予定額」として「216,892」の記載があり、その内訳として、「日付/伝票No.」の欄の「11/13 195880」の行の二段目において、「品名」の欄に「スノーボードキャリア TULIPA」、「品番」の欄に「SS101ZB」の記載がある。
乙第6号証の2は、前商標権者が(株)ENEOSネットに対して2014年12月3日付けで発行した「合計請求書」であるところ、上部中央には、上記(2)と同様に使用商標、前商標権者の会社名及び住所の記載があり、その右側には、「次回お支払予定日」として「2014/12/31」、「お支払予定額」として「62,320」(1枚目)及び「1,260,385」(2枚目)の記載があり、その内訳として、「得意先CD/得意先名」の欄には、「09905 (株)ENEOSネット・北原台店」の行には、「合計残高」の欄に「216,892」の記載があり、最後の「99099 (株)ENEOSネット・埼玉事業部[総括請求]」の行には、「合計残高」の欄に「1,260,385」の記載がある。
乙第6号証の3は、前商標権者の「普通預金通帳」の写しであるところ、「26.12.30」の欄には「摘要」として「振込」「カ)ENEOSネット」、「お預り金額」として「1,322,705」(乙6の2「次回お支払予定額」の欄にある「62,320」及び「1,260,385」の合計値)の記載がある。
乙第6号証の4は、スキー・スノーボードキャリアのカタログの写しであるところ、「PIAA」「SKI/SNOWBOARD/CARRIER」の表題の下、「専用キャリア」として「TULIPA-Z」、「スキー&スノーボード専用キャリア」と記載され、スキー・スノーボードキャリアの写真とともに「SS101ZB」の記載がある。
2 判断
上記1で認定した事実によれば、以下のとおり判断するのが相当である。
(1)「サイドマッドガード」について
前商標権者は、カタログの品名、品番、定価で特定し得る商品「サイドマッドガード」を取引先である(株)ENEOSネット・北原台店に販売し、本件要証期間内である2014年(平成26年)4月1日付けで、「サイドマッドガード」の代金を含む請求書及び合計請求書を発行し、(株)ENEOSネットは、平成26年4月30日にその代金を前商標権者に支払ったと認められる(乙4の1?3)。
そして、請求書及び合計請求書は取引書類といえることから、前商標権者は取引書類に本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付して発行し、顧客である(株)ENEOSネット・北原台店及び(株)ENEOSネットに頒布したものと認められる。
また、前商標権者の使用に係る商品「サイドマッドガード」は、本件審判の請求に係る指定商品中の「自動車並びにその部品及び附属品」に含まれるものである(乙4の4)。
(2)「アルミホイール」について
前商標権者は、カタログの品名、品番で特定し得る商品「アルミホイール」を取引先である(株)ENEOSネット・北原台店に販売し、本件要証期間内である2014年(平成26年)8月31日付けで、「アルミホイール」の代金を含む請求書及び合計請求書を発行し、(株)ENEOSネットは、平成26年9月30日にその代金を前商標権者に支払ったと認められる(乙5の1?3)。
そして、請求書及び合計請求書は取引書類といえることから、前商標権者は取引書類に本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付して発行し、顧客である(株)ENEOSネット・北原台店及び(株)ENEOSネットに頒布したものと認められる。
また、前商標権者の使用に係る商品「アルミホイール」は、本件審判の請求に係る指定商品中の「自動車並びにその部品及び附属品」に含まれるものである(乙5の4)。
(3)「スノーボードキャリア」について
前商標権者は、カタログの品名、品番で特定し得る商品「スノーボードキャリア」を取引先である(株)ENEOSネット・北原台店に販売し、本件要証期間内である2014年(平成26年)12月3日付けで、「スノーボードキャリア」の代金を含む請求書及び合計請求書を発行し、(株)ENEOSネットは、平成26年12月30日にその代金を前商標権者に支払ったと認められる(乙6の1?3)。
そして、請求書及び合計請求書は取引書類といえることから、前商標権者は取引書類に本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付して発行し、顧客である(株)ENEOSネット・北原台店及び(株)ENEOSネットに頒布したものと認められる。
また、前商標権者の使用に係る商品「スノーボードキャリア」は、本件審判の請求に係る指定商品中の「自動車並びにその部品及び附属品」に含まれるものである(乙6の4)。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標を使用した2014年(平成26年)4月ないし12月当時の商標権者であった「埼玉オートパーツ株式会社」は、本件要証期間内に、本件審判の請求に係る指定商品に含まれる商品「サイドマッドガード」、「アルミホイール」、「スノーボードキャリア」についての取引書類に本件商標と社会通念上同一の商標を付して頒布したということができ、当該行為は、商標法第2条第3項第8号に該当するものである。
3 請求人の主張について
請求人は、「被請求人の提出した『請求書』及び『合計請求書』は、当該商標を付した商品の取り扱いがあるとは認められない。これらの提出された証拠は、小売業務のサービスマークとして当該商標の使用をしていた事実を立証しようとしているものにすぎない。被請求人の提出した証拠(乙6の4)においても、他のメーカーの登録商標のみが表示され、当該商標の表示はない。このような使用態様であれば、小売商標として保護を受けるものであり、商品商標としての使用を行っていない。」旨主張する。
しかしながら、商標の使用とは、商品又は商品の包装に標章を付する行為にのみ限られず、例えば、商品の取引書類(「請求書」等)に商標を付して、需要者、取引先等に頒布する行為も、商品又は役務に関する広告等に標章を付して頒布する行為に含まれる商標の使用と認められるものである。
本件においては、上記2のとおり、前商標権者が、顧客に対して発行した、商品についての「請求書」及び「合計請求書」に対し、顧客よりその代金が支払われているのだから、実際に商品の譲渡を伴う商取引が行われたと認め得るものである。
また、本件商標は、平成19年4月1日に施行された小売等役務商標制度導入前に出願され設定登録されたものであるところ、商品に係る商標の使用は、「業として商品を・・・譲渡する者がその商品について使用をするもの」と定められ(商標法第2条第1項第1号)、その規定は、小売等役務商標制度導入前後において変更はない。そして、本件商標の使用について、小売業務についての使用の側面があるとしても、上記のとおり、商品の譲渡がなされ、その際の取引書類に本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付しているのだから、商品に係る商標の使用にあたらないということはできない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
4 むすび
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標の当時の商標権者が、その請求に係る指定商品中の「サイドマッドガード」、「アルミホイール」、「スノーボードキャリア」について、本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたことを証明したものということができる。
したがって、本件商標は、商標法第50条の規定により、その請求に係る指定商品についての登録を取り消すべきではない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)



審理終結日 2016-12-13 
結審通知日 2016-12-15 
審決日 2016-12-28 
出願番号 商願平4-130355 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (012)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田中 幸一
特許庁審判官 酒井 福造
小松 里美
登録日 1998-05-01 
登録番号 商標登録第4140759号(T4140759) 
商標の称呼 エスエイピイ、サップ 
代理人 大塚 明博 
代理人 新保 斉 

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