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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X43
管理番号 1325038 
審判番号 取消2016-300136 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-02-26 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5243393号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5243393号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5243393号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成19年8月6日に登録出願,第43類「すしを主とする飲食物の提供」を指定役務として,同21年7月3日に設定登録されたものである。
そして,本件審判の請求の登録日は,平成28年3月9日である。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求めると申し立て,その理由を審判請求書,弁駁書及び口頭審理陳述要領書において要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第6号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定役務について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても使用された事実が存しないから,その登録は,商標法第50条第1項により取り消されるべきものである。
2 弁駁の理由
(1)被請求人提出の証拠
ア 「被請求人の会社案内パンフレット」について
被請求人は,乙第1号証として被請求人の会社案内パンフレット(以下「使用パンフレット」という。)を提出しているが,会社の事業を示す重要な役割を果たすパンフレットに,休止した業態を掲載したまま,かつ,新規業態を少なくとも4つ以上は未掲載のまま頒布し続けることはビジネス常識上考えにくく,さらに,使用パンフレットの「沿革」部分には平成20年(2008年)11月までの記載しかないことから,2015(平成27)年7月頃まで使用していたとする被請求人の主張は信憑性がない。
本件商標は図案化された「寿し」,「Q衛門」及び「新鮮直送」の語句からなり,このうち[Q」の文字には目の図形を表記して擬人化し,「新鮮直送」の語句は矩形枠で囲まれ落款風になっている。
一方,使用パンフレットにおける被請求人の業態を写真入りで紹介するページには,「すしQ衛門」の表記と,筆文字状の「すし」の文字に赤字で図案化された「Q」,黒字の「衛門」と落款風の文字「とれたて直送」の語句からなっており,本件商標と使用パンフレットに使用されている商標とは,需要者に強い印象を与える「Q」部分のデザインが大きく異なり,落款部分の語句も異なっている。
以上のことから,本件商標と使用パンフレットに使用される商標とは,商標法第50条第1項にいう社会通念上の同一と認められるものではない。
したがって,使用パンフレットによって,本件商標の使用と認めることはできない。
イ 「『すしQ衛門成田店内装工事』に関する見積書」について
被請求人は,乙第2号証として,「すしQ衛門成田店内装工事」の見積書(以下「すしQ成田店見積書」という。)を提出しているが,該見積書の表紙に,見積りの有効期限,見積内容を特定するために重要な「見積書番号」の記載がない。また,No.1頁の「仮設工事」の欄などに数量が具体的に記載されているにもかかわらず,通常見積書に必須と思われる工事場所の記載が見あたらず,No.2頁に「カウンター及びレーン撤去」と記載される一方で,回転寿司の店舗には必須と思われる「レーン設置工事」及びレーン部分の部材が見あたらない。さらに,No.14頁には「大テーブル 米栂無垢材」等の家具が散見され,この見積書の内容が回転寿司の店舗を完成させるものであるのか疑問であり,加えて,すしQ成田店見積書が,平成27年10月に作られてから8カ月が経過した今日まで施工されていないのも不自然である。
そもそも,見積書等の作成をもって商標の使用とは過去の審決例においても認められていない(審判番号:取消2005-30481,取消2005-30833)。
したがって,すしQ成田店見積書によって,本件商標の使用と認めることはできない。
ウ 「店舗展開に関する事業計画の確認書」について
被請求人が提出した乙第3号証「店舗展開に関する事業計画の確認書」(以下「事業計画の確認書」という。)は,被請求人の意見を述べたものにすぎず,一般的社内事情というべきものであるから,これは商標法第50条第2項における「正当な理由」に該当しない。また,過去の審決においても,将来使用することの計画や準備があったことをもって使用されたということはできず,一般的な社内事情は正当な理由には該当しないものとされている(審判番号:取消2006-30965,取消2000-31142)。
(2)インターネット上の本件商標の使用状況
被請求人の本件商標の使用状況を判断する証拠として,甲第1号証ないし甲第5号証を提出する。
これらは,“WayBack Machine”(http://archive.org/web/:インターネット上の文書や画像などを自動的に取得・複製・保存したインターネットアーカイブで,ホームページが保存された時点の状態を閲覧できるサービスの一種)に保存された被請求人のホームページの「店舗情報」に関する過去のデータを印刷したものである。
2009(平成21)年1月27日時点のホームページ(甲1)では,複数の回転寿司の店舗が表示されていたものの,2010(平成22)年4月19日のホームページ(甲2)では佐倉店のみとなり,その後2010年6月20日のホームページ(甲3)では回転寿司の店舗情報が抹消されている。その後,2013年4月18日のホームページ(甲4),2016年1月16日のホームページ(甲5)でも回転寿司の店舗情報は削除されたままである。
修正,変更に手間がかかる紙媒体である会社案内パンフレットに比べ,ホームページは比較的変更しやすく,また,結果が即反映されるものであるから,甲第1号証ないし甲第5号証によるホームページ上の掲載状況は,本件商標の使用状況をそのまま表しているものといえる。
さらに,甲第6号証は,一般のユーザーによる飲食店の口コミを集めるインターネットサービスの食ベログ(http://tabelog.com/)の2010(平成22)年4月11日の情報を印刷したものである。これによると,すしQ衛門 佐倉店は「4/30をもって閉店いたします」と張り紙がされていたとのユーザーの書き込みがあることから,2010年4月にホームページ(甲2)に掲載されていた最後の回転寿司店である佐倉店は,2010(平成22)年4月30日に閉店したものと推測される。
つまり,甲第1号証ないし甲第6号証によれば,回転寿司の業態に関しては,2010(平成22)年5月1日から現在に至るまで実施されていないことになる。
したがって,本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において,本件商標がその指定役務「すしを主とする飲食物の提供」について使用されていたものと認めることはできない。
(3)まとめ
以上のように,被請求人の主張は商標法にいう商標の使用にあたらず,使用しないことについて正当な理由があると認めることもできない。
よって,本件商標は,商標法第50条第1項により取り消されるべきである。
3 口頭審理陳述要領書における主張
(1)被請求人の主張に対する反論
ア 使用パンフレット中に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標が表示されているといえるかについて
被請求人は,使用パンフレットと本件商標について,「すし」と「寿し」の違いや「とれたて\直送」と「新鮮\直送」の違いはあるが,これらは付随的な構成要素であって,需要者において重きをおいて看取される部分とはなり得ないとして,社会通念上同一と主張している。
しかし,付随的であったとしても商標に使用された語句が異なれば同一ということはできず,さらに本件商標は「Q」の部分に目の図形を加えて擬人化されている一方で使用パンフレットに使用されている商標に目はなく,文字の配置やバランスも本件商標と該パンフレットにみられる商標とは異なっている。
したがって,使用パンフレット中の商標は,本件商標と社会通念上同一と認められない。
イ 使用パンフレットが,本件審判の請求の登録前3年以内(平成25年3月9日?平成28年3月8日,以下「要証期間」という。)に頒布されたといえるかについて
被請求人の提出した使用パンフレットは,被請求人陳述書の主張によっても要証期間に頒布されたものと認めることはできない。
頒布とは,不特定の者の手元に届くことであり,被請求人は,現在においても使用していると主張し,乙第4号証で,使用パンフレットの配布状態を示す写真として,2016(平成28)年10月18日に株式会社寿香の事務室で撮影された写真(以下「頒布写真」という。)を提出しているが,使用パンフレットが,需要者の通行することのない社内の事務室に置かれているにすぎず,頒布した事実は認められない。
また,2016(平成28)年10月18日に撮影された頒布写真は,2015(平成27)年の7月頃までの使用を立証するものではなく,かつ,頒布写真の撮影日は,要証期間内ではないから,取消しを免れ得ることができる使用にも該当しない。
さらに,被請求人が提出した証拠説明書には,使用パンフレットの作成日の記載がなく,要証期間に作成されたものと認めることもできない。
したがって,要証期間において頒布された具体的な事実,方法及び時期を特定できる証拠はなく,要証期間の頒布は立証されていない。
ウ 「使用パンフレット」について
甲第1号証ないし甲第6号証に示すように「すしQ衛門」の店舗自体は,平成22年5月から存在していない。店舗が長きにわたって存在せず,しかも使用パンフレット自体が必要とされることが頻繁でないのであれば,当該パンフレットが業務上の信用の蓄積に寄与していると認めることはできない。
エ 「すしQ成田店見積書」について
すしQ成田店見積書について,被請求人は,現在閉鎖している店舗の再開が遅れている要因として従業員確保の問題を挙げているが,単なる社内事情や経済状況は商標法第50条第2項における正当な理由とは認められない。
また,被請求人のすしQ成田店見積書に関する主張は一貫性がなく,当該見積書は,店舗再開のための有効な証拠とはならない。
(2)まとめ
上述のとおり,被請求人の陳述書では,争点である上記ア及びイとも立証されていない。被請求人の主張は商標法にいう商標の使用にあたらず,使用しないことについて正当な理由があると認めることもできない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,旨の審決を求め,審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書において要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証から乙第4号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標の使用事実
ア 使用パンフレットにおける使用
使用パンフレットは,被請求人が2015年の7月頃まで使用していたものであり,この中には,飲食物の提供に係る役務について,本件商標が使用されている。
すなわち,被請求人は,千葉県及び茨城県を中心として飲食店を展開しており,当該パンフレットの「ごあいさつ」欄にも「当社が事業の柱として展開する本格肉料理業態および本格回転寿司業態は,既存の業態を超える商品並びにサービスの質と豊富な品ぞろえによる差別化を推進し,手頃な価格でより高価な旬の食材をお客様へ提供するオンリーワンの業態を目指しております」と記載しているとおり,本格回転寿司業態である「すしQ衛門」を事業の柱とし,本件商標を自社の事業においても重要なものと位置づけて使用している。
ただし,使用パンフレットには,本格回転寿司の「すしQ衛門」を店舗写真とともに掲載しているが,被請求人は,2015年の7月時点では,この回転寿司の業態を一旦中止していたため,使用パンフレットを頒布する際には,回転寿司「Q衛門」は現在中止しているが,いずれ再開する旨を伝えながら頒布し,使用していた。
すなわち,使用パンフレットを使用していた2015年の7月頃は,実際の店舗としての「Q衛門」は休止していたが,当該パンフレットの提供に際しては,本件商標は,被請求人の業務に係る役務を識別するための標識である事を明示しながら頒布しており,これにより本件商標の本質的機能(自他役務識別機能)は維持されており,実質的に本件商標が使用されていたものである。
被請求人が「Q衛門」の店舗を一旦休止していたのは,近隣における回転寿司店舗の乱立や,その後の震災の影響等によるものであるが,それでも,それまでに獲得した本件商標の信用力や顧客吸引力(グッドウィル)を維持し,かつ,再開して本件商標を実際の店舗名称として使用するために,使用パンフレットに示す様に本件商標が示されている当該パンフレットを使用していたものである。
よって,使用パンフレットから,被請求人が,本件商標を2015年の7月頃まで,本件商標の指定役務に使用している事は明白であるから,本件商標は,取り消されるべきものではない。
なお,使用パンフレットは,2015年の7月頃まで使用していたが,現在は改定作業を進めており,新たに作成するパンフレットでは,新規に展開した店舗「丼&定食どんちゃん」等を掲載すると共に,現在,再開準備を進めている回転寿司「Q衛門」の店舗写真を掲載する予定で作業を進めている。
イ 「すしQ成田店見積書」における使用
すしQ成田店見積書(乙2)は,被請求人が,回転寿司を中心とした飲食店「すしQ衛門」を千葉県成田市に再開するために,その内装工事費用見積りを,平成27年10月に取得したものである。
そして,すしQ成田店見積書には,被請求人が,成田市に再開する店舗名称として「すしQ衛門」を使用していたことが明らかになっており,見積書を作成した千葉市若林区の株式会社北原装備も,本件商標が被請求人の業務にかかる役務(飲食物の提供)を表示するものと認識している事を示している。
よって,すしQ成田店見積書からも,本件商標が,その指定役務について,被請求人によって使用されている事が明らかである。
さらに,すしQ成田店見積書は,使用パンフレットの頒布に際して,被請求人が,本件商標を自己の業務にかかる役務を識別するために使用していたことを示すものであり,本件商標が,実質的に,かつ,商標の本質的機能において使用されていたことを証明している。
してみれば,すしQ成田店見積書は,使用パンフレットと相まって,本件商標の使用の事実を示すものとなっている。
ウ 事業計画の確認書
事業計画の確認書(乙3)は,本件商標の使用を直接的に証明するものではないが,使用パンフレット及びすしQ成田店見積書における本件商標の使用の事実を間接的に証明するものである。
すなわち,被請求人における本件商標の使用実績は,回転寿司「Q衛門」の再開準備の関係もあり,上記使用パンフレット及びすしQ成田店見積書に示す様に,特定の事業者や取引者との間における使用となっている。そこで,被請求人は,この事実に関する疑義を払拭するためにも,本件審判の請求にあたって,過去の事実を証明するために,当該事業計画の確認書を提出する。
(2)使用商標と本件商標との同一性
本件商標は「Q」の文字に目の図形を表記した別掲1のとおりの構成からなるものであり,一方,被請求人における使用商標は,使用パンフレットに示す「すしQ衛門」(以下「使用商標1」という。)及びこれを図案化した別掲2のとおりの構成からなるもの(以下「使用商標2」という。また,「使用商標1」及び「使用商標2」をまとめて「使用商標」という。)並びにすしQ成田店見積書に示す「すしQ衛門」である。
そこで本件商標と上記使用商標とを対比すると,使用パンフレットにおける使用商標2は,その構成中の一部の文字の表記,及び「Q」の文字に目の図形を表記している点において,相違している。
しかしながら,これらの違いは,商標の識別性に影響を与えないから,使用商標は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
よって,使用パンフレット(乙1)及びすしQ成田店見積書(乙2)においては,本件商標が使用されているから,本件審判請求は成り立たない。
(3)最後に
上記のとおり,被請求人は,実際の店舗としての「すしQ衛門」は一旦中止しているものの,いずれ再開するために継続して会社案内において使用しており,さらに再開の準備のための見積書において,本件商標を実際に使用している。
本来,商標法第50条は,「一定期間登録商標の使用をしない場合には保護すべき信用が発生しないか或いは発生した信用も消失してその保護の対象がなくなる」こと,及び「そのような不使用の登録商標に対して排他独占的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し,かつ,その存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなる」ことを立法趣旨とするものである。
被請求人は,現実の店舗における使用は中止していたものの,業務上の信用を維持する状態で本件商標を使用し(乙1),かつ,現実的な準備段階において本件商標を使用している(乙2)ので,商標法が予定する保護すべき信用が存在する。
2 口頭審理陳述要領書における主張
(1)使用パンフレットについて
ア 使用パンフレットの配布の事実について
使用パンフレット(乙1)は,被請求人の会社案内パンフレットであり,被請求人が2015年の7月ごろまで使用していたものである。
現在,被請求人は,この使用パンフレットの改定作業を進めているが,当該パンフレットが未だに残っており,また,新たに作成するパンフレットに取り入れる「すしQ衛門」の再開準備が思うように進んでいないこともあって,新たなパンフレットは未だに完成していない状況であり,記載内容(情報)が古い情報になっているが,今現在においても,使用パンフレットを使用しているのが実情である。
被請求人の業務においては,当該使用パンフレットが頻繁に使用されるものではないという,特殊な実情が存在し,使用パンフレットが必要になるのは,新たに店舗を出店する場合等が考えられるが,近年では使用パンフレットの提出さえも要求される事は少なくなっていることから,最新の情報を反映させた会社案内パンフレットは,未だに完成していないという実情がある。
よって,使用パンフレットに記載している情報は,確かに古い内容ではあるが,当該パンフレットは,使用に十分耐え得るものであることから,新たなパンフレットの作製は準備を進めているものの,急いで完成させることなく,このまま使用していたものである。
なお,使用パンフレットは,未だに使用しているので,乙第4号証に示すとおり,十分な量を確保している。
そして,使用パンフレットの使用状況については,当該パンフレットには,平成20年11月の記録があるので,現在においても使用している事実をもって,要証期間においても頒布されていたことは,客観的にもいえる。
イ 使用パンフレットに記載している商標について
本件商標から生じる称呼は「スシキュウエモン」であり,一方,使用パンフレットの使用商標から生じる称呼も「スシキュウエモン」である。「すし」と「寿し」の違いや「とれたて\直送」と「新鮮\直送」との違いはあるが,これらは付随的な構成要素であって,需要者において重きをおいて看取される部分とはなり得ない。そして,両商標において,請求人も需要者に強い印象を与えると主張するローマ字「Q」を用いて「Q衛門」を表示しているから,両者は社会通念上同一と判断する事ができる。
また,業態の説明に記載している「すしQ衛門」の語句は,本件商標における要部と,書体に変更を加え,平仮名と漢字を変更した同一の文字からなる。
よって,使用パンフレットには,本件商標と社会通念上同一の商標が表示されている。
(2)すしQ成田店見積書について
すしQ成田店見積書について,請求人は「見積書は,その記載内容が回転寿司の店舗を完成させるものであるかが疑問であり,さらに,見積書の作成(平成27年10月)から現在まで施行されていないのも不自然である」旨を主張している。
しかしながら,被請求人は,「Q衛門」の店舗名称で再開する業態を回転寿司とするか,寿司を中心とした飲食店とするかを,市場動向を見ながら進めており,この関係で,見積もり後の着工時期について少し時間を要しており,加えて,人材の確保も,着工を遅らせている原因の1つとなっている。 また,「すしQ衛門」を再開するために,再開する店舗の特定や工事の見積等によって準備を進めているが,経済動向,雇用市場も検討しなければならず,少なからず時間を要するものとなっている。
以上のように「すしQ衛門」の再開には時間を要しているものの,その準備を進める中で,商標「すしQ衛門」が,被請求人の商標として使用されている事実は明らかであり,これは第三者である「株式会社北原装備」が発行しているから,その内容について疑義を生じさせる余地は無いものと思量する。
また,すしQ成田店見積書は,同時に,被請求人が「すしQ衛門」を再開する計画を有していることは明らかにしており,使用パンフレットを実際に使用していたことの補足的な証拠にもなり得るものである。
よって,すしQ成田店見積書により,本件商標が使用されていること,少なくとも使用パンフレットを使用している客観的な事実を証明する事ができる。
(3)事業計画の確認書について
事業計画の確認書は,商標法第50条第2項における「正当な理由」を立証するものではなく,使用パンフレット及びすしQ成田店見積書における本件商標の使用の事実を間接的に証明するものである。
すなわち,使用パンフレットは,現在は休止している「すしQ衛門」について記載してある当該パンフレットを使用していたことを示すものであり,この使用の事実を補足証明するために,事業計画の確認書において,「すしQ衛門」の使用の意思を明確に示しているものである。
同じく,すしQ成田店見積書では,「すしQ衛門」の再開を準備しており,その中で本件商標を使用している事を示しているところ,事業計画の確認書は,この使用の事実を補足証明するために,「すしQ衛門」の使用の意思を明確に示しているものである。
よって,事業計画の確認書は,直接的に本件商標の使用を証明するものではなく,上記使用パンフレット及びすしQ成田店見積書を補足するものである。
(4)請求人の提出にかかる甲第1号証ないし甲第6号証について
請求人は,弁駁書において「被請求人のホームページ(甲1?甲5),及びインターネット情報(甲6)によれば,被請求人は,2010年(平成22年)5月1日から現在に至るまで,本件商標をその指定役務である『すしを主とする飲食物の提供』について使用していたものと認められない」旨を主張している。
しかしながら,請求人が証明しているのは,店舗を閉店した事実であり,この点について被請求人は何ら争うものではないが,被請求人が主張しているのは,本件商標の使用の意思をもって,使用パンフレット及びすしQ成田店見積書において,本件商標を使用している事実である。
よって,甲第1号証ないし甲第6号証は,本件商標の不使用を示すものではない。

第4 当審の判断
1 被請求人の主張及び提出した乙各号証によれば,次のとおりである。
(1)乙第1号証は,被請求人の会社案内パンフレット(使用パンフレット)である。
その4ページ目には,「とれたて新鮮な本格海鮮寿司の『すしQ衛門』(使用商標1)」の記載があり,その右側には,別掲2のとおりの構成からなる「すしQ衛門(「すし」の文字及び「衛門」の文字は筆書き風に黒字で,「Q」の文字は,デザイン化され筆書き風に赤字で大きく表されている。)」の文字及び該「すし」の文字の下部に,やや斜めの赤色の枠内に赤色で2行に縦書きされた「とれたて」,「直送」の文字が配された商標(使用商標2)が表示されている。
また,7ページ目には,沿革として,昭和56年10月から平成20年11月の期間の事業に関する項目が記載されており,「平成19年10月 本格江戸前寿司業態の第1号店として,千葉県成田市に『本格江戸前すしQ衛門』成田本店を開設」及び「同年11月 本格海鮮回転寿司業態の第1号店として,千葉県八千代市に『すしQ衛門』八千代緑が丘店を開設」の記載がある。
そして,裏表紙には,「株式会社寿香」,「千葉県成田市美郷台1-11-2」及び電話番号,FAX番号,インターネットアドレスが記載されている。
(2)乙第2号証は,平成27年10月20日付けで株式会社北原装備が,被請求人宛に作成した「御見積書」であるところ,その工事名には「すしQ衛門成田店内装工事」と記載され,「仮設工事」,「解体撤去工事」等工事ごとにその仕様及び金額等が記載されている。
(3)乙第3号証は,平成28年3月24日付けで,被請求人代表者が作成した「店舗展開に関する事業計画の確認書」であり,2009年頃までは,回転すし店舗である「すしQ衛門」を展開していたが,その後,該店舗の展開を休止していたこと,平成27年夏頃から「すしQ衛門」の営業展開を具体的に計画し,準備を進めている旨が記載され,「使用を予定している商標及び使用する役務」として,「(1)商標登録第5243393号 商標『寿しQ衛門』,使用を予定している役務『すしを主とする飲食物の提供』」と記載されている。
(4)乙第4号証は,乙第1号証の使用パンフレットの配布状態を示すとされる,撮影場所を被請求人事務室,撮影日を2016年(平成28年)10月18日とする写真であり,乙第1号証の使用パンフレットと思しきパンフレットが事務室内に置かれている状態が写っている。
2 判断
(1)使用者について
使用商標が表示された乙第1号証の使用パンフレットの裏表紙に,被請求人の名称及び住所等が記載されていることからすれば,使用商標の使用者は,被請求人といえる。
(2)使用商標の使用時期及び使用に係る役務について
使用パンフレット(乙1)によれば,「沿革」の記載は平成20年11月までしかなく,また,乙第4号証の写真は,当該パンフレットが被請求人の事務所に現在置かれていることはうかがえるとしても,いつ,誰に対して何部頒布したか等,使用パンフレットの頒布の事実を明らかにするものとはいえず,写真の撮影日(平成28年10月18日)も要証期間ではないから,使用パンフレットを要証期間内に頒布したとは認められない。
また,被請求人は,使用パンフレットを2015年(平成27年)7月頃まで使用し,現在においても使用している旨主張しているが,これを認めるに足る証拠の提出はない。
さらに,被請求人は,「すしQ衛門」の文字を使用した店舗を再開する準備を進めている旨主張し,平成27年10月20日付けの「すしQ衛門成田店内装工事」の見積書を提出しているが,その後,該店舗が開店した事実を証する証拠の提出はなく,さらに,2010年(平成22年)5月以降,被請求人が,「すしQ衛門」の文字を使用した店舗を営業していないことに争いはないものである。
してみれば,被請求人は,要証期間内に使用商標を使用した役務の提供を行っていたとは認められないものである。
(3)使用商標について
本件商標は,別掲1のとおり「寿し」の文字を筆書き風に書し,その右側に「Q」の文字を基調としたと思しき図形の上部に目を配し,「Q」の文字を擬人化したような図形及び何らかの文字をデザイン化したものと想起させるものの,直ちに何の文字であるかを理解することができない2つの図形を白抜きで表し(以下「図形部分」という。),該「寿し」の文字の下部に,四角枠内に2行に縦書きされた「新鮮」及び「直送」の文字を配してなるものであり,図形部分からは,特定の称呼及び観念を生じるとはいえないものである。
他方,使用商標1は,「すしQ衛門」の文字からなるものであるから,その構成文字から「スシキュウエモン」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。また,使用商標2は,別掲2のとおり,「すし」の文字及び「衛門」の文字は筆書き風に黒字で,「Q」の文字は,デザイン化され筆書き風に赤字で大きく表された「すしQ衛門」の文字及び該「すし」の文字の下部には,やや斜めの赤色の枠内に赤色で2行に縦書きされた「とれたて」,「直送」の文字を配した構成からなるものであり,「すしQ衛門」の文字部分からは「スシキュウエモン」の称呼を生じ,特定の観念は生じないものである。
そこで,本件商標と使用商標を比較してみれば,両商標は,その構成全体においては明らかな差異を有するものであり,社会通念上同一とはいえないものである。
そして,本件商標の図形部分と使用商標の「Q衛門」の文字部分とを比較してみれば,本件商標の図形部分は,「Q」の文字を基調としたと思しき図形の上部に目を配し,「Q」の文字を擬人化したような図形及び何らかの文字をデザイン化したものと想起させる2つの図形を白抜きで表してなる外観において独特の特徴を有した構成からなるものであり,これより特定の称呼を生じるとはいい難いものであるから,両者は称呼を同一にするものとはいえないものである。
また,仮に本件商標の図形部分をデザイン化した「Q衛門」ととらえ,これより「キュウエモン」の称呼を生じる場合があるとしても,上記のとおり,外観において,独特の特徴を有した構成からなる本件商標の図形部分と使用商標の「Q衛門」の文字部分とはその外観を著しく異にするものであるから,両者は社会通念上同一とはいえないものである。
(4)小括
上記のとおり,要証期間内に,被請求人が使用商標を使用した役務の提供を行っていないことからすれば,使用パンフレット自体は,被請求人の提供に係る「すしを主とする飲食物の提供」の役務の広告に当たるとしても,使用パンフレット中の使用商標の表記は,当該役務に関して付されているとはいえないというべきであるから,仮に,これが要証期間内に頒布されていたとしても,当該パンフレットは,過去に提供していた「すしを主とする飲食物の提供」の役務についての記載が削除されないまま,形式上残存しているというにすぎないものとみるのが相当であり,これをもって,被請求人の上記役務に関する広告に使用商標を付して頒布する行為に該当するとはいえない。
また,使用商標は,本件商標と同一又は社会通念上同一とはいえないものであるから,被請求人が,要証期間内に本件商標を,その指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」に使用していたとは認められないものである。
なお,被請求人は,すしQ成田店見積書(乙2)において,本件商標をその指定役務に使用している旨の主張をしているが,該見積書は,被請求人が作成した書面ではないから,被請求人に係る取引書類とはいえないものであり,かつ,工事名に記載された「すしQ衛門成田店内装工事」の表示は,単に見積りの対象となる物件名が記載されているにすぎないものであるから,これをもって,被請求人が本件商標を被請求人の業務に係る役務に使用した事実を証明したものとは認められない。
その他,被請求人が提出した乙各号証において,本件商標を要証期間内にその指定役務に使用していたことを認め得る証左は見いだせない。
3 まとめ
以上のとおり,被請求人は,要証期間内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件審判の請求に係る指定役務「すしを主とする飲食物の提供」について,本件商標を使用していたことを証明したものと認めることはできない。
また,被請求人は,その指定役務について本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,商標法第50条の規定により,その登録を取り消すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)




別掲2(使用商標2)(色彩については,乙第1号証を参照)




審決日 2016-12-20 
出願番号 商願2007-86242(T2007-86242) 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (X43)
最終処分 成立  
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 中束 としえ
榎本 政実
登録日 2009-07-03 
登録番号 商標登録第5243393号(T5243393) 
商標の称呼 スシキュウエモン、キュウエモン、シンセンチョクソー 
代理人 黒沼 吉行 
代理人 船津 暢宏 

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