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審決分類 審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 登録しない W25
審判 査定不服 商3条2項 使用による自他商品の識別力 登録しない W25
管理番号 1324978 
審判番号 不服2015-14749 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-06 
確定日 2017-01-18 
事件の表示 商願2014-79258拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。
理由 1 本願商標
本願商標は,願書記載のとおりの構成よりなり,第25類「履物」を指定商品とし,平成26年9月19日に立体商標として登録出願されたものである。その後,原審における同27年3月6日付けの手続補正書により,商標登録を受けようとする商標及び指定商品が補正され,それぞれ,別掲1のとおりの構成よりなる立体商標及び第25類「スニーカー」となった。

2 原査定の理由
原査定においては,本願商標はスニーカーの形状の一形態を表したものを認識させる立体的形状よりなることから,これをその指定商品「スニーカー」に使用しても,単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示するにすぎず,自他商品識別標識としての機能を果たし得ないことから,商標法第3条第1項第3号に該当するものであって,かつ,出願人が提出した証拠によっては,同法第3条第2項の要件を具備するものとも認められない旨認定,判断し,本願を拒絶したものである。

3 当審においてした証拠調べ
当審において,本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かについて,職権に基づく証拠調べをした結果,本願商標の外形的特徴と一定の共通性を有する商品の請求人以外の者による使用事実(別掲2?21)を発見したので,同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項に基づき,請求人に対して,平成28年8月30日付け証拠調べ通知によってこれを開示し,期間を指定して,これに対する意見を述べる機会を与えた。

4 証拠調べに対する請求人の意見の要点
(1)ハイカットスニーカーの原型としてのコンバース・オールスター
既に審判請求書において詳述したとおり,本願商標と立体的形状の基本的構成態様を共通とする「コンバース」ブランドの「オールスター」モデルのハイカットタイプのスニーカー(以下「コンバース・オールスター」という。)は,約100年前にその基本的な立体的形状が完成しており,今日に至るまでその基本的な立体的形状を大きく変えることなく一貫して踏襲し続けてきた。そのため,コンバース・オールスターは,スニーカーの「代名詞」「永遠の定番」「歴史的名品」「元祖的モデル」等として需要者の間で広く認識されるに至っている。
したがって,キャンバス地のアッパー(甲部)とラバー製のソール(底部)を備えたハイカットタイプのスニーカーについては,コンバース・オールスターこそが,その原型ともいえる。
(2)証拠調べ通知書における証拠について
上述のとおり,コンバース・オールスターの立体的形状は,ハイカットタイプのスニーカーの原型として長い歴史を有する定番の形状として需要者の間に認識されている。
証拠調べ通知で示された他者の製品には,コンバース・オールスターの立体的形状の特徴とあまりに共通する点が多いことから,コンバース・オールスターの形状に依拠又は模倣したものであるといえ,このような使用によって本願商標の立体的形状の特性は希釈されず,むしろその形状の識別性や顕著性の高さを示している。また,それら以外の製品については,具体的に見れば,本願商標が有する特徴の一部のみにおいて共通するだけで,実際には立体的形状が全体として需要者に与える印象は大きく異なっており,そもそも本願商標とは類似しないと考えられ,本件商標の識別性及び顕著性の判断において,何ら影響を与えない。

5 当審の判断
(1)商標法第3条第1項第3号について
立体商標における商品等の形状について
(ア)商品,商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下,これらを併せて「商品等」という。)の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。
(イ)また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。しかし,同種の商品等について,機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として,同号に該当するものというべきである。
けだし,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである。
(ウ)さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである。
けだし,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美感の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば,その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,商品等の形状について,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。
(知的財産高等裁判所 平成19年(行ケ)第10215号判決)
イ 本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性
(ア)本願商標の立体的形状
本願商標は,別掲1のとおり,靴紐を編み込んだハイカットタイプのスニーカーの立体的形状よりなるものであって,アッパー部が一体的に成形され,ソール部もフラットな形状で,つま先の先端部分を保護するように部材が張られ,アッパーのつま先部分には半円状の覆いがあり,アッパー部の側面には2つの鳩目が配され,黒色のライン状の装飾がソール部側面に長さの異なる2本のラインを描くように配されているものの,全体として装飾的要素が少なく非常にシンプルなデザインよりなるものである。
(イ)事実認定
証拠(別掲2?21)によれば,本願の指定商品「スニーカー」,とりわけハイカットタイプのスニーカーの形状に一般的に採用される特徴としては,以下のとおり認められる。
a アッパー部がハイカット形状であり,靴紐を編み込む形式であること(別掲2?21)。
b アッパー部がソール部との境からくるぶしにかけて一体的に成形されていること(別掲2?21)。
c ソール部がフラットな形状であること(別掲2?21)。
d ソール部にはつま先部分をカバーするように部材が張られていること(別掲2?14,16,19?21)
e アッパーのつま先部分をカバーするような半円状の部材が張られていること(別掲2?10,12?14,16,18?21)。
f アッパーの側面に,靴紐を通すものとは別に,鳩目又は鳩目状の装飾が配されていること(別掲5,6,8,13,18,21)。
g ソールの側面に1本又は2本のライン状の装飾が配されていること(別掲2?21)。
(ウ)判断
本願商標は,上記(イ)aからgに掲げるような形状及び装飾的な特徴をも有しているところ,上記(イ)aからeのような特徴は,ハイカットタイプのスニーカーの形状としては一般的に採択される特徴であり,客観的に見て,スニーカーとして期待される機能やデザイン上の美感を確保する目的で採用されているものである。そして,上記f及びgのような鳩目やライン状の装飾は,全体としてシンプルなデザインよりなるスニーカーの中では特に,デザイン上のアクセントを与えるために一般的に採用されていることが伺え,客観的に見ても,商品の機能や美感に資することを目的とするものということができるし,需要者にとっても,商品の美感を確保するために採用されたものと十分予測し得る範囲内のものというべきである。また,本願商標に係る立体的形状及び装飾は,スニーカーにおいて通常採用されている範囲を大きく超えるものとは認められない。
そうすると,本願商標は,客観的に見て,商品等の機能又は美感に資することを目的のために採用されると認められる形状であり,その装飾的要素を含めても,需要者にとって,商品の美感を確保するために採用されたものと予測し得る範囲内のものというべきであるから,商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法第3条第1項第3号に該当する。
(エ)請求人の主張
請求人は,本願商標の立体的形状の特徴は,(a)フラットなソールの白い側面中央に,顕著な線条が略水平に施されていること,(b)アッパーとソールとの繋ぎ目に,外周を縁取る顕著な線条が略水平に施されていること,(c)トゥ(つま先部)のアッパー側が略半円状の白いラバー部材で形成されていること,(d)ソール側面の先端側約3分の1に,テープ状の白いラバー部材が貼り付けられていること,(e)ソールの踵部側面に,略長方形状の白いラバー部材が貼り付けられていること,(f)アッパーの片側下方中央に二つの金属製のアイレット(鳩目)が施されていること,(g)アッパーがトゥのラバー部材を境にして左右に分かれており,タン(ベロ)がトゥから上方に長く伸びる形状であること,(h)アッパーが足首まで保護するハイカットの形状であり,長いタンに沿ってシューレース(靴紐)を編み上げる形状であること,(i)アッパーがキャンバス地で形成されていることであり,これら特徴的な要素がすべて組み合わされることにより,本願商標の立体的形状が,他の同種の商品とは明確に異なる独特な印象を需要者に与え,とりわけ(a)と(b)の線条があいまって2本の平行な縞模様を形成しており,需要者にとって強く印象に残るため,自他商品識別標識としての機能を有する旨,そして本願はこれら特徴を全体として備える立体的形状という狭い範囲についての登録を求めるにすぎないため,出願人に独占を認めても公益上妥当性を欠くことはない旨主張している。
しかし,上記(ウ)で述べたとおり,出願人がとりわけ特徴的と主張する(a)と(b)の特徴を組み合わせたソール側面の2本の長さの異なるライン状の模様を含めても,同様のライン状のデザインをスニーカーのソール側面に付することが一般的に行われていることよりすれば,需要者をして,単にその商品の機能又は美感上の理由による形状の選択の範囲内のものと理解されるというのが相当である。
請求人は,例として別掲17を挙げて,第三者の製品形状は,ラバー部材の形状の相違や模様,ハイカットの形状の相違,その他部分的に形状や模様が相違し,需要者に与える印象が大きく異なるため,識別性の判断に影響を与えるべきではない旨主張する。
しかし,それらの部分的な相違は,単に商品形状やデザインのバリエーションをつけるために通常採択される程度の相違であり,全体の印象も殊更本願商標の立体的形状とは別異のものと認識させるほどではないため,別掲17を含む第三者の製品形状を,需要者における認識の程度を認定するにあたって参照することが認められないものとはいえない。
また,請求人は,例として別掲3,5ないし7を挙げて,ソールパターンを含めてコンバース・オールスターの形状と過度に共通にすることから,コンバース・オールスターの立体的形状に依拠又は模倣するものであるため,識別性の判断に影響を与えるべきではない旨主張する。
しかし,請求人が例として挙示した製品を排除するために何らかの措置を講じてきたものと認めるに足りる証拠はなく,またそのような第三者の使用を排除するための主張を正当化する根拠も確かなものとはされていない。そのため,これら第三者の商品の製造,販売の事実を,本件における商標法第3条第1項第3号の適用の可否の検討において考慮しないとすることは適切ではないため,その主張は採用の限りではない。
(2)商標法第3条第2項の適用について
立体商標における使用による自他商品識別力の獲得
商標法第3条第2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条第1項第3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している(商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法第4条第1項第18号)。
立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
イ 本願商標の商標法第3条第2項該当性
(ア)本願商標の使用実績
後掲の証拠(以下,請求人提出に係る証拠は,甲号証として挙示する。)及び請求人の主張によれば,以下の事実が認められる。
a コンバース・オールスターは,1917年にアメリカ合衆国に所在したコンバース社により,バスケットボール専用シューズとして開発され,その基本的な形状を一貫して踏襲したロングセラー商品であり,2001年1月のコンバース社の倒産に伴い,2002年4月以降は,請求人の子会社であるコンバースジャパン株式会社を通じて製造販売されている。コンバース・オールスターの創業から2005年までの全世界での累計販売数は約8億足を超えている(甲76)。1981年以降は月星化成株式会社とコンバース社との業務提携により国内生産品としても販売されるようになり(甲78),その出荷実績は,限定品やシーズン品等を含まない最も基本的な定番商品である定番カラー6色だけで,7年3月(2008年4月?2015年6月)で約520万足である。
b コンバース・オールスターは,雑誌や新聞,インターネット記事において,2013年以降のものだけでも,多数回にわたり,その製品の形状を示す写真とともに紹介されている(甲8?69,81?262)。掲載媒体が確認できるものだけでも全国紙(「読売新聞」),雑誌(「男の定番モノ辞典2013」,「GetNavi」,「SEDA」,「MEN’S FASHION RULE BOOK」,「MENS NON-NO」,「GRIND」,「Lightning」,「LaLaBegin」,「ナチュリラ別冊 スニーカー女子のスタイルブック」,「FUDGE特別編集 スニーカースタイルBOOK」,「BAILA」,「Marisol」,「MEN’S FUDGE」,「LEE」,「Begin」,「CANVAS」,「FINEBOYS靴」,「FUDGE」,「Ollie」,「SHOES MASTER 2014」,「2nd」,「anan」,「andGIRL」,「CLASSY」,「UOMO」,「Fine」,「GISELe」,「Lips」,「mono」,「RUDO」,「Safari」,「SNEAKER FANBOOK」,「STREET JACK」,「VERY」,「Warp」,「Hug Mug」,「ニナーズ」,「Men’s JOKER」,「Seventeen」,「Daytona」,「Free&Easy」,「SPUR」,「OCEANS」,「smart」,「RollingStone」及び「LEGENDS」),インターネット記事(「exciteニュース」,「AllAbout」及び「デジタル大辞泉プラス」)など多岐にわたる。
記事の中でも,コンバース・オールスターについて,その長期にわたり変わらないデザイン面(立体的形状)の特徴につき言及しながら紹介する記述が多数みられる。主な記事の中では,「90年以上に渡って愛され続ける永遠の定番」(甲10),「約100年前に完成していた私たちのオールスター(中略)今もなお定番スニーカーとして愛されています。」(甲11),「スニーカーのアイコン的存在であるオールスター。」(甲12),「誰もが一度は履くといわれる永久定番スニーカーの足跡」(甲14),「スニーカーの代名詞ともいえる永遠の定番」(甲18),「数多く存在するスニーカーの中でもまさに“永久定番”の名にふさわしいスニーカー」(甲68),「永遠の定番オールスターはハイカットが◎」(甲81),「1917年に生産されて以来,数多く存在するスニーカーの中でも“永久定番”といえるモデル」(甲93),「初登場から100年近くを経ても,衰え知らずの人気を誇る定番中の定番」(甲94),「数多く存在するスニーカーの中でも永久定番の名にふさわしいキングオブスニーカー」(甲102),「スニーカーの定番中の定番,オールスター」(甲113),「新時代を築いたカラフルスニーカー 『コンバース』の代表作はなんといっても『オールスター』だ。(中略)キャンバス オールスターが日本でブレイクしたのは1970年代。(中略)ファッションスニーカーという稀有なジャンルを切り開いた歴史的名品と言えよう。」(甲120),「スタンダードスニーカーの代表選手“オールスター”。」(甲123),「『永遠の定番』と聞いて真っ先に思い浮かぶのが,このコンバース オールスター。」(甲127),「ローテク界の永久定番はやはり強し!ローテク界の大御所であるオールスターにもやはり安定して票が集まった。」(甲143),「100年近く変わらないスニーカー界のレジェンドが(中略)キャンバス地にラバー製トウキャップを備えたシンプルデザインが,1917年の誕生以来ほぼ変わっていないというのも驚きです。」(甲144),「スニーカーの代名詞ともいえる永遠の定番(中略)数多くあるスニーカーの中でも永久定番の名にふさわしいロングライフデザイン」(甲147),「ベーシックなデザインで幅広い層から愛される永久定番のオールスターなど,スニーカー史上に名を残す名作揃いのコンバース。」(甲150),「今またアツい鉄板クラシックモデル スニーカーの元祖的モデルとして,バンドマンやスケーターを中心に愛されてきたコンバースの名作。」(甲177),「代表的なハイカットスニーカーと言えば,〈コンバース〉のALL STAR HI」(甲181),「1917年に生産がスタートして以来,定番アイテムとして履き続けられてきたマスターピース」(甲183),「世界中で支持されるキング・オブ・スニーカー」(甲245),「1917年の登場以来、現在まで履かれる永遠の定番。カジュアルシーンの必須モデル。」(甲259),「スニーカー界で永久定番の称号を与えるなら,オールスターを置いて他にはない」(甲260),「バスケットボールシューズの大成功から世界が夢中になった定番スニーカーへ(中略)100年近くほとんど同じデザインのままファッショナブルなカジュアルフットウェアへと進化してきたオールスターは,ライフスタイルの変遷とともに,アメリカのポップカルチャーを象徴する存在へと変化を遂げてきた」(甲261)等の記述がコンバース・オールスターの商品写真(下記の(イ)に記載のとおり,多くは「CONVERSE」及び「ALL STAR」の文字も表示している。)とともに掲載されている。
(イ)本願商標の立体的形状とコンバース・オールスターの商品形状との同一性
コンバース・オールスターは,定番カラー6色のほかにも,限定品,シーズン品などではバラエティ豊かな色彩が採用されており,アッパー部を無地とせず模様が施されたり,キャラクター図案が描かれていたりするものもある(甲77,79)。また,ソール横の2本のラインの色彩も,黒ではなく他の色が付されているものもある(甲17,18,20,21)。そして,スニーカーの側面に,5つの頂点を持つ星を円で囲んだ図形を顕著に表示しているものや,その円内に「CONVERSE」や,「ALL STAR」,「Chuck Taylor」などの文字を書してなることまで確認できるもの(甲8?15,17?27),ヒール部分のソールに「ALL」と「STAR」の文字の間に星の図形を書してなるものもある(甲26,118,146)。
しかし,上記のような色彩や模様及び標章の有無などの違いを除けば,コンバース・オールスターとして紹介される商品の基本的な形状は,撮影角度によっては必ずしも本願商標の立体的形状のすべての特徴を示すものではないが,基本的に本願商標の立体的形状と同一のものと認められる。
(ウ)アンケート調査
請求人は,2015年5月,マーケティングサービスの専門会社に依頼して,本願商標の立体的形状と同一のスニーカーの認識度に関するアンケート調査を実施した。これは同社のアンケートサイトの登録モニターに対して,インターネット調査として実施されたものであり,15歳から29歳,30歳から49歳,50歳から69歳,70歳以上の年齢層別に,東京都,愛知県,大阪市から125名ずつ,計1500名を対象とし,そのうち性別の内訳は,男性は60.1%,女性は39.9%であった。調査の具体的方法は,本願商標と同じ立体的形状からなるスニーカーの画像を見せて,思い浮かぶブランド又はメーカーがあるかを質問し(質問1),あると回答した場合にはそのブランド名又はメーカー名を自由回答(質問2)させる調査である(甲71?75)。
調査結果は,本願商標と同じ立体的形状からなるスニーカーの画像を見せて,思い浮かぶブランド又はメーカーがあると回答した者は,調査対象者全体の48.9%であり,そのうちの82.7%がそのブランドを「コンバース」「CONVERSE」「オールスター」のようなコンバース製品と関連づける回答をした。15歳から49歳までの対象者に絞ると,質問1で思い浮かぶブランド又はメーカーがあると回答した者は,調査対象者の66.1%であり,質問2でコンバース製品と関連づける回答をしたのは,そのうち92.1%であった。
(エ)類似形状の第三者による使用
請求人の製品と同様の特徴を備えたスニーカーは,「GU」,「ハイカットキャンバスシューズ」,「キャンバスハイカット8」,「ミドルカットキャンバススニーカー」,「and it」,「キャンバス地スニーカー」,「DRAGON BEAR」,「リーバイス」,「アディダス」,「エンポリオ アルマーニ」,「PF-FL YEARS」,「ハイカットスニーカー」,「ラルフローレン」,「ヴァンズ」,「プーマ」,「ナイキ」,「ムーンスター」,「Lee」,「セダークレスト」,「ディーゼル」のブランドや商品名において,請求人以外の第三者により製造,販売されている(別掲2?21)。
(オ)判断
a 上記認定した事実を総合すると,次の点を指摘することができる。
(a)本願商標の立体的形状を備えたコンバース・オールスターは,アメリカ合衆国のコンバース社により1917年に発売されて以来,材質や色彩にバリエーションはあるものの,その形状の特徴的部分において変更を加えることなく,継続的に販売されてきた。日本国内においては,1981年(昭和56年)以降に,本格的に日本国内において製造,販売されることになり,コンバース・オールスターの国内出荷実績は,2008年4月から2015年6月において,少なくとも約520万足である。また,コンバース・オールスターは,新聞や雑誌において継続的に紹介され,ハイカットタイプのスニーカーとして定番といえるようなシンプルなデザイン(立体的形状)を含めて,そのコンバース・オールスターの名称とともに,日本国内において広く認知されているものといえる。しかしながら,その立体的形状のみをもって日本国内で周知といえるかどうかは,新聞や雑誌の記事の記述からは必ずしも明らかではない。
(b)そこで,更に検討するに,請求人の実施したアンケート調査は,その調査対象者や質問設定に特段の偏向や恣意的な誘導は確認できないことから,一般需要者の認識を客観的に測るために有効な指標となり得る。当該アンケート調査によれば,本願商標と同じ立体的形状からなるスニーカーの画像から,調査対象者の48.9%は思い浮かぶブランド又はメーカーがあると回答し,そのうち,82.7%がコンバース製品と関連付ける回答をした。ところがその反面,調査対象者の過半数は,その立体的形状から思い浮かぶブランド又はメーカーがないと回答しており,加えて,思い浮かぶブランド又はメーカーがあると回答した者の中にも,請求人以外の製品との関連を回答する者も少なからずいた。そうすると,過半数を超える一般需要者は,本願商標の立体的形状とコンバース・オールスターとの関連を想起できないということになる。
なお,請求人は,アンケート調査の検討に際して,スニーカーの主たる需要者層である10代から40代に限定した上で,本願商標の立体的形状とコンバース・オールスターを結びつける割合が高いことを強調するが,その場合であっても,コンバース製品と関連付ける回答をした調査対象者は6割程度にとどまる。
(c)また,コンバース・オールスターに近似した形状のスニーカーが,「GU」,「リーバイス」,「アディダス」,「エンポリオ アルマーニ」,「ラルフローレン」,「ヴァンズ」,「プーマ」,「ナイキ」,「ムーンスター」,「Lee」,「ディーゼル」を含む,請求人以外の多数の者によって製造,販売されている。このような実態からは,約100年前にコンバース社が開発したハイカットタイプのスニーカーが,コンバース・オールスターのデザインの起源であったとしても,既に当業者はそれを単にスニーカーの定番デザインの一つとして認識するようになり,同様のデザインを採用した製品が,多数の取引者によって製造,販売されるに至ったと理解するのが相当である。このような取引の実情が認められる現段階においては,仮に請求人がその定番デザインを始めた者より営業を承継する者であっても,その立体的形状につき独占的使用を認めることは,既に形成された取引秩序を乱すことにつながり,公益上の観点から適切とはいえない。
(d)請求人は,第三者の製品形状は,本願商標の立体的形状とは類似しない,またはコンバース・オールスターの形状に依拠又は模倣するものである旨主張する。
しかし,シンプルなデザインよりなるハイカットタイプのスニーカーの市場が既に多数の取引者により形成されている中では,本願商標の立体的形状と第三者の製品形状との微細な相違は単にデザインのバリエーションの相違にすぎないとの印象を与えるにすぎない。また,第三者の使用がコンバース・オールスターに依拠又は模倣しているという主張にしても,請求人がそのような製品を排除するために何らかの措置を講じてきたものと認めるに足りる証拠はなく,そのような第三者の使用を排除するための主張を正当化する根拠も確かなものとはされていない。
このように,第三者による製品形状としての使用を,本件における商標法第3条第2項の適用の可否において考慮することを妨げる合理的根拠は見当たらないため,その主張は採用の限りではない。
b 以上を踏まえて総合考慮すると,コンバース・オールスターは,定番とされるデザインを持つスニーカーとして,そのコンバース・オールスターの名称とともに,我が国において広く知られていたとしても,需要者の過半数以上はその立体的形状のみから製品の出所を認識することができず,また多くの靴の製造,販売に関わる当業者がその立体的形状を単にハイカットタイプのスニーカーのデザインの一つと認識しているような取引の実情が伺える中では,本願商標が使用された結果,本件審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとは認めることができない。
(3)まとめ
以上のとおり,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当するものであって,かつ,同法第3条第2項の要件を具備するものではないから,これを登録することはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 本願商標(立体商標。色彩については原本を参照。)


別掲2 「wear.jp」のウェブサイトに掲載されている「GU」ブランドの「キャンバスシューズ(ハイカット)A」(http://wear.jp/item/5139935/)


別掲3 「Fuzhou Zhuoyuan Trade Co.,Ltd.」のウェブサイトに掲載されている「ハイカットキャンバスシューズ」(http://ja.aliexpress.com/store/product/2014-plain-color-platform-women-s-shoes-school-casual-shoes-4-colors-lace-up-high-cut/917574_1889884075.html)


別掲4 「:DeNA SHOPPING」のウェブサイトに掲載されている「キャンバスハイカット8(eight)」(http://www.dena-ec.com/item/241747752?l=true%26e%3DllA%26e2%3Dlisting_flpro)


別掲5 「ブランクチュール」のウェブサイトに掲載されている「Middle cut canvus sneakers」(ミドルカットキャンバススニーカー)(http://store.shopping.yahoo.co.jp/brandcouture/c-6192.html?sc_e=slga_pla)


別掲6 「SHOPLIST.com by CROOZ」のウェブサイトに掲載されている「and it」ブランドの「ミドルカットキャンバススニーカー」(http://shop-list.com/women/andit/k10342060/)


別掲7 「ディスカウント通販のヒラキ」のウェブサイトに掲載されている「キャンバス地スニーカー」(https://www.hiraki.co.jp/ec/srDispCategoryTreeLink/doSearchCategory/110F0P00000/04-05/3/1)


別掲8 「wear.jp」のウェブサイトに掲載されている「DRAGON BEARD」ブランドの「ハイカットキャンバススニーカー」(http://wear.jp/item/12655723/)


別掲9 「マルイ」のウェブサイトに掲載されている「リーバイス」ブランドの「キャンバススニーカーハイカット」(http://voi.0101.co.jp/voi/wsg/wrt-5_mcd-TO901_cpg-013_pno-82_ino-01.html)


別掲10 「MERY」のウェブサイトに掲載されている「アディダス」ブランドの「SHOOTING STAR HI NIGO」(https://market.mery.jp/products/174633?image_id=1742129)


別掲11 「楽天市場」のウェブサイトに掲載されている「エンポリオ アルマーニ」ブランドの「EMPORIO ARMANI EA7(スニーカー キャンバス ハイカット 白)」(http://item.rakuten.co.jp/importbrand-jp/ea-278037/)


別掲12 「SHOP CHANNEL」のウェブサイトに掲載されている「PF-FLYERS」ブランドの「キャンバス ハイカットスニーカー」(http://www.shopch.jp/ProdDetailShow.do?reqprno=505133)


別掲13 「ブランクチュール」のウェブサイトに掲載されている「ハイカットスニーカー」(http://www.brandcouture.com/product_info.php/products_id/2993?osCsid=a422a05c207d47e3059c1b3093be5e75)


別掲14 「ポンパレモール」のウェブサイトに掲載されている「ラルフローレン」ブランドの「CARSON HI」(http://store.ponparemall.com/syusen/goods/ri99-carsonhi/)


別掲15 「YAHOO! JAPAN ショッピング」のウェブサイトに掲載されている「ヴァンズ」ブランドの「VANS HI SKOOL」(http://store.shopping.yahoo.co.jp/abc-martnet/5314980001014.html)


別掲16 「楽天市場」のウェブサイトに掲載されている「プーマ」ブランドの「STREETBALLER MID」(http://item.rakuten.co.jp/osharemarket/sh0234/)


別掲17 「BUYMA」のウェブサイトに掲載されている「ナイキ」ブランドの「A.P.C×NIKE コラボ ハイカットスニーカー」(http://www.buyma.com/item/12341771/)




別掲18 「:DeNA SHOPPING」のウェブサイトに掲載されている「ムーンスター」ブランドの「ハイカットスニーカー」(http://www.dena-ec.com/item/221228075?aff_id=kwm)


別掲19 「wear.jp」のウェブサイトに掲載されている「Lee(リー)」ブランドの「ハイカットキャンバススニーカー 2111」(http://wear.jp/item/9915957/)


別掲20 「SHOE・PLAZA」のウェブサイトに掲載されている「セダークレスト」ブランドの「ハイカットキャンバススニーカー CC-9145W」(http://www.locondo.jp/shop/commodity/SCYD0498D/CE1843BW00093)


別掲21 「YAHOO! JAPAN ショッピング」のウェブサイトに掲載されている「ディーゼル」ブランドの「エクスポージャー ハイカットスニーカー」(http://store.shopping.yahoo.co.jp/z-craft/1316-0041.html)


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審理終結日 2016-11-15 
結審通知日 2016-11-21 
審決日 2016-12-02 
出願番号 商願2014-79258(T2014-79258) 
審決分類 T 1 8・ 17- Z (W25)
T 1 8・ 13- Z (W25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 彩紀子 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 田村 正明
阿曾 裕樹
代理人 特許業務法人深見特許事務所 

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