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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない Z30
管理番号 1324958 
審判番号 取消2015-300316 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2015-04-28 
確定日 2017-01-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第4478511号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4478511(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成12年5月18日に登録出願、第30類「ぎょうざ」を指定商品として、同13年4月4日に登録査定、同年6月1日に設定登録され、その後、同23年5月10日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
そして、本件審判は、商標法第51条第1項の規定により、本件商標の商標登録の取消しを請求するものであり、平成27年4月28日に請求され、その登録が同年5月22日にされているものである。

第2 引用商標
請求人が本件審判の請求において引用する登録第4546706号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、平成12年5月17日にされた通常の商標登録出願(商願2000-053565)に係る商標法第11条第2項(当時施行されていたもの)の規定による団体商標の登録出願として、平成13年8月2日に登録出願、第30類「ぎょうざ」及び第42類「ぎょうざの提供」を指定商品及び指定役務として、商標法第3条第2項が適用され、同14年1月24日に登録査定、同年2月22日に設定登録され、その後、同24年2月28日に商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続しているものである。

第3 商標権者による使用商標
請求人が本件審判の請求において、商標権者が指定商品について使用する登録商標に類似する商標として掲示している商標は、甲第18号証の1ないし3に表示されたとおり、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字からなる商標(請求人は、これら商標を本件使用商標1ないし本件使用商標43としているところ、審決においても、以下、これらを「本件使用商標1」ないし「本件使用商標43」といい、これらを総称する場合は「本件使用商標」という。)であって、そのうちの本件使用商標1は別掲3、本件使用商標2は別掲4、本件使用商標6は別掲5、本件使用商標8は別掲6、本件使用商標10は別掲7、本件使用商標14は別掲8、本件使用商標18は別掲9、本件使用商標19は別掲10、本件使用商標23は別掲11、本件使用商標39は別掲12のとおりである(そのほかの本件使用商標については、甲第18号証の1ないし3を参照されたい。)。

第4 請求人の主張
請求人は、商標法第51条により、本件商標の登録を取消す、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、審判請求書及び審判事件回答書において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第28号証(枝番号を含む。)を提出した(以下、枝番号のすべてを引用するときは枝番号の記載を省略する。)。
1 請求の原因
(1)引用商標の著名性
引用商標は、請求人の前身である宇都宮餃子会が発足した平成5年7月頃から、請求人及びその組合員の業務に係る「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」に係る標章として使用されてきたものであり、第30類の「ぎょうざ」及び第42類の「ぎょうざの提供」について使用するものとして取引者及び需要者の間に広く認識されているとの判断のもと、商標法第3条第2項の適用を受けて、商標登録を受けるに至ったものである(甲2)。
宇都宮市が餃子による町おこしの取り組みを開始したのは平成2年頃であり、平成5年7月に請求人の前身である「宇都宮餃子会」が設立されると、餃子による町おこしの推進役が行政から事業団体へ移譲された。そして、餃子による町おこしが大きく前進することになったのは、全国ネットで放送された「おまかせ!山田商会」の番組の中で、「宇都宮餃子大作戦」とする企画が放送されたことによるのであり、宇都宮市内の公園での大規模なイベントや、「餃子像」の除幕、餃子弁当や、PRソングの発表等が行われ、「宇都宮餃子」の知名度を大きく前進させる上で、極めて大きな成果をもたらした。さらに、請求人は、直営店の「来らっせ」の運営、「宇都宮餃子祭り」等のイベント運営、宇都宮観光コンベンション協会及び宇都宮商工会議所との協同による「宇都宮餃子マップ」発行等の広報活動、組合員の研修及び福利厚生事業等に注力し、餃子による町おこしをさらに推進し、引用商標の普通名称化の防止や需要者の信用維持のために引用商標の管理を徹底し、「宇都宮餃子」のブランドの管理にも積極的な姿勢を示している(甲3)。
「宇都宮餃子」は、請求人による熱心な宣伝・広告活動やブランド管理努力等が奏功して、「宇都宮餃子会」の発足から20年以上を経た今日においても、全国規模で刊行されている新聞、雑誌等で頻繁に取り上げられ、現在に至るまで、全国の需要者及び取引者の間で広く認識され、周知著名なものとなっている(甲4ないし甲12)。
(2)被請求人による本件商標の使用行為
ア 被請求人が「商標権者」であること
被請求人のウェブサイトにおける「会社沿革」(甲20)によれば、被請求人は、昭和48年に栃木県宇都宮市内で業務を開始し、昭和63年8月に、本店所在地を本件商標の設定登録時の住所と実質的に同一の所在地に変更するとともに、現在の「株式会社ギフトセンター三樹」に商号を変更、平成11年には、「自社ブランド『宇都宮餃子元祖宇味家』の餃子販売開始」とあるところ、「ぎょうざ」は本件商標の指定商品であり(甲1)、被請求人は、現在も、ぎょうざの製造・販売を業として行っている。平成12年5月18日に本件商標を登録出願し(甲1)、これが登録査定され、本件商標は、商標権として現に有効に存続している。
したがって、被請求人は、本件商標の「商標権者」である。
イ 被請求人が「指定商品についての登録商標に類似する商標の使用」をしていること
被請求人は、本件使用商標を、被請求人が運営する店舗の看板や階段、べンチやバスの側面広告、商品パッケージ等、に付して大々的に使用している(甲18)。
本件使用商標は、手書き風の毛筆書体で「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の各語が右から左へ3列に縦書きされた本件商標とは異なり、構成文字の書体を縁取りされた江戸文字風にデザインしたものであり、外観が大きく異なっている。また、「宇都宮餃子」の文字を、他の表示部分である「元祖 宇味家」の文字と色彩や大きさを変えたり、「宇都宮餃子」と「元祖 宇味家」を上下に併記したり、あるいは「宇都宮餃子」と「元祖 宇味家」の間に図形や写真を挿入するなどして、「宇都宮餃子」が「元祖 宇味家」から分離した構成で使用されているものが大半であり(甲18の1)、本件商標の構成を改変したことが認められる。被請求人は、「宇都宮餃子」と「元祖 宇味家」が分離した本件使用商標を、自己のウェブサイトの最初に視認されるヘッダー部分にも大きく表示して使用している(甲18の2)。被請求人は、本件商標を意図的に変更して使用していることは明らかであり、本件使用商標は、本件商標に類似する商標である。
そして、被請求人は、本件指定商品である、「ぎょうざ」の製造や販売を行っており、これに関連して本件使用商標を使用している。
したがって、被請求人は、「指定商品についての登録商標に類似する商標の使用」をしている、というべきである。
ウ 本件使用商標が「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生じさせるおそれがある」ものであること
引用商標は、団体商標に係る商標権であって、登録商標を指定商品(役務)について、その構成員(組合員)に使用させるために登録を認められたものであるが、被請求人は、請求人加盟する組合員ではない。また、請求人は、被請求人に対して、引用商標「宇都宮餃子」の使用を許諾したことはないから、被請求人には、引用商標「宇都宮餃子」をその指定商品(役務)について使用する権限はない。
引用商標は、請求人及びその加盟店(組合員)のみが使用することができる団体商標であり、その使用条件が厳格に定められているものである。請求人は、その加入基準や商標使用基準等(甲13及び甲14)を定め、組合へ加入できる者を、原則として宇都宮で餃子を製造・販売する者に限定した上(甲13の1の第2条第3条及び甲第13の2の第8条)、加入にあたっては衛生面等に関わる多数の書類(営業許可証や細菌検査証明書等)のほか、組合員による推薦書を提出させ、また、申込書に餃子の製造や販売に関する詳細な事実関係を記載させるなど、請求人組合への加入手続を厳格に定めている(甲14の1ないし3)。さらに、需要者の誤認等を防ぐために、組合員に対し、自らが宇都宮餃子を代表するかのような表現や、元祖・本家・本舗などの表示を禁止し(甲14の4の第7条(2))、そのことについて誓約書を提出させている(甲14の5及び6)。引用商標は、こうした請求人の活動や品質管理等が団体商標の登録要件として審査において考慮された結果、登録が認められたものである。
しかるに、被請求人の本件使用商標は、その構成中に原則として加盟店(構成員)以外による使用を禁止している「宇都宮餃子」の文字を含むだけでなく、構成員に対しても使用を禁じている、自らが宇都宮餃子を代表するかのような表現に該当する「元祖」の文字を含んでいる。また、被請求人のウェブサイトは、そのタグの部分に「宇都宮餃子なら元祖 宇味家(うまいや)」と表示し、まさしく自らが宇都宮餃子を代表するかのような表示をしている(甲18の2)。請求人は、自らが宇都宮餃子の代表であると誤認される屋号の使用を組合員に禁じているのであり、使用を認めている「宇都宮餃子」も、それを単体で使用することは認められておらず、「宇都宮餃子」は屋号を修飾する、いわば一定の基準を満たした店舗にのみ認められる加盟店であるという安心感を需要者に与える補完的な役割を担うものと位置付けている(甲15)。
被請求人は、被請求人の製造・販売しているぎょうざについて、あたかもそのぎょうざが請求人に所属する加盟店(組合員)の業務に係る「宇都宮餃子」であるかのごとく、需要者に誤解を与えるような方法で本件使用商標を使用している。被請求人が使用している本件使用商標は、「宇都宮餃子」の部分のみ、色彩や文字の大きさが変更されていたり、他の表示部分から視覚上分離した位置に配置されるなど、「宇都宮餃子」を強調するように本件商標を改変したものである。また、本件使用商標を構成する「宇都宮餃子」の部分は、本件商標の手書き風の毛筆書体とは異なる書体でデザインされたものであり、本件商標と外観が大きく異なっているだけでなく、引用商標の「宇都宮餃子」と、非常によく似た印象を与えるものである。本件使用商標を使用したぎょうざに接した需要者が、そのぎょうざが、請求人に所属する加盟店(組合員)が製造・販売するぎょうざではないかと錯覚し、出所の混同について誤認をするおそれは極めて高い。
インターネット上で検索しても、あたかも被請求人が請求人に加盟している店舗であるのごとき説明をしている餃子に関するウェブサイトがヒットする(甲16)。
被請求人による本件使用商標の使用継続を認めることは、被請求人によるぎょうざが、あたかも請求人によって認められた「宇都宮餃子」であるかのごとく市場で流通し、需要者の間に混乱を生じさせるだけでなく、「宇都宮餃子」に対して寄せられている需要者の期待や信用が裏切られ、請求人及びその構成員が永年にわたって培い築き上げてきた努力の結晶ともいうべき「宇都宮餃子」のブランド価値が損なわれることとなる。
したがって、本件使用商標は、「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生じさせるおそれがある」ものに該当する。
エ 被請求人による本件使用商標の使用が「故意」によるものであること
請求人は、従前から、何度も被請求人に対し、本件使用商標は需要者に対し請求人の商品である「宇都宮餃子」との混同を生じさせるおそれがあることを説明した上で、「元祖」の文字を取り除いた上で請求人組合に加入するか、本件使用商標の使用を中止するよう申し入れをしてきた。
それにもかかわらず、被請求人は一向に本件使用商標の使用の中止に応じなかった。また、近年、組合員に対する「宇都宮餃子」の商標の使用に関する規律が厳格化している状況にも鑑み、請求人は代理人を通じ、被請求人に対して平成26年10月29日付けで本件使用商標の使用の中止を求める旨の通知書を送付した(甲17)。そして、平成26年11月28日付けで請求人の代理人と被請求人の代理人が面談をすることとなり、同面談において、請求人は被請求人に対し、あらためて本件使用商標の使用の中止を求めた。被請求人は、「宇都宮餃子」、「元祖宇味家」及び図形からなる本件使用商標については、本件商標と社会通念上同一性を有する使用ではないことを認めて、これを変更する意思があることを示したが、従前より使用している「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」が一体的に表記されている本件使用商標(看板)については、本件商標と社会通念上同一性を有する使用であると考えているため変更する予定はないと回答した。
その後、被請求人は、平成27年1月28日付けで、一部の看板等の文字の配色の塗り替えをしたとして4枚の写真を請求人に対して送付してきた(甲19)が、これらは、数ある本件使用商標のほんの一部にすぎない上、色彩が異なっていた「宇都宮餃子」の部分を「元祖 宇味家」部分の色と統一させたという程度の変更であり、文字の大きさや配置は変更されておらず、依然として「宇都宮餃子」の文字は分離した態様で表されたままであり、請求人が組合員に使用を禁止している「元祖」の文字もそのまま使用されているものであって、いずれも全く請求人の満足できる修正ではなかった。被請求人は、宇味家の元祖であることを訴求しているだけで、宇都宮餃子の元祖であることを強調しているのではない、商標権者として本件商標を所有している以上、「宇都宮餃子」、「元祖」、「宇味家」の3つの単語は今後も使い続けたいと考えており、その点は譲れないところであると述べ、頑なに「宇都宮餃子」、「元祖」、「宇味家」の各語からなる本件使用商標の使用の中止を拒否している。
請求人からの申し入れに応じて何らかの措置を講じたということは、被請求人自身が、本件使用商標の使用が他人の業務に係る商品との混同を生じさせていることを自認していることの証左であるといえる。もとより、商標法第51条第1項にいう「故意」については、他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り、必ずしも他人の登録商標に近似させたいとの意図をもって使用していたことまでは必要としないものとされている(最高裁第三小法廷昭和56年2月24日判決(最高裁昭和55年(行ツ)第139号、甲21))が、このように、被請求人は、請求人からの度重なる申し入れを受けており、請求人に所属する加盟店(組合員)の業務に係る商品(「宇都宮餃子」)であるとの混同を生じさせるおそれがあることを十分に認識したうえで、現在も本件使用商標の使用を継続している。
したがって、被請求人は、本件使用商標を「故意」に使用していることは明らかである。
(3)過去の裁判例及び審決
甲第22号証ないし甲第24号証(枝番号を含む。)の裁判例や審決は、文字構成が同一であっても、登録商標の一部を改変した商標を使用することによって、他人の周知著名な商標に近づく場合には、当該他人の業務に係る商品(役務)と出所の混同を生ずるおそれがあるとして、登録商標の不正使用にあたるものと判断されている。
こうした先例が示した判断は、いずれも非常に示唆に富むものといえる。
2 回答書における主張
請求人は、平成27年10月30日付けをもってした後記第6の審尋における当審の暫定的見解に対し、要旨以下のとおり主張した。
(1)商標法第51条第1項の趣旨の見解について
審尋においては「請求人の構成員の使用によって周知となった引用商標の使用態様に、被請求人が故意に近似させた態様で『宇都宮餃子』の文字を使用したといえるのかを考察する必要がある。」とのことであるが、最高裁昭和55年(行ツ)第139号の最高裁第三小法廷昭和56年2月24日判決(甲21)は、商標権者の「故意」について、商標権者が、結果として誤認を生ずる認識を有していれば足りることを明確に示しているのであるから、審尋の暫定的見解は、上告理由と同様の見解であり、その前提において誤りである。上掲最高裁第三小法廷判決からすれば、登録商標の類似範囲での使用によって、商標権者が結果として誤認を生ずる認識を有していれば足りるのであるから、商標を構成する文字の書体といった請求人の構成員の具体的使用態様を問題にすべき根拠は希薄である。
また、請求人が引用商標の周知性を立証するために提出した証拠は、引用商標が、全国的な周知著名性を獲得し商標法第3条第2項の適用を受けて商標登録を受けたものであり、その周知著名性は、現在でも継続している事実を示す趣旨で提出したものである。請求人は、構成員(組合員)に対し、「宇都宮餃子」のみの独立した使用を禁止しており、その理由は、「宇都宮餃子」が、各店舗が切磋琢磨して独自の特徴を謳った餃子を提供し、一定の基準を満たした店舗にのみ認められる加盟店であるという安心感を需要者に与える補完的な役割を担うものという位置付けのもと、引用商標の識別力の稀釈化防止とともに、自らが宇都宮餃子を代表するかのような表現や、元祖・本家・本舗などの抜け駆け的な表示禁止(甲14の第7条(2))にある。請求人は、構成員(組合員)に対して、自己の屋号と併記する場合には「宇都宮餃子」の使用を認めており(甲15)、その際には、引用商標と同一の書体以外の書体の「宇都宮餃子」の使用を禁止しているわけではない。審尋が指摘する「第三者が刊行した情報等」の中でも、引用商標とは異なる文字構成の「宇都宮餃子」の表記もみられるが、周知著名性を獲得した「宇都宮餃子」を指していることはいうまでもない。
引用商標は、書体にこだわるべき商標でなく、引用商標と同一書体の「宇都宮餃子」にとどまらず、これ以外の書体や態様で使用された場合にも自他商品等識別力を有するようになっているというべきであり、「宇都宮餃子」という文字からなるひとつのブランドとしての地位を獲得するに至っているものである。そもそも、上掲最高裁第三小法廷判決からすれば、登録商標の類似範囲での使用によって、商標権者が結果として誤認を生ずる認識を有していれば足りるのであるから、商標の構成や文字の書体を問題にすべき根拠は希薄である。
なお、知的財産高等裁判所の判決(甲25)は、第三者の報道等によっても周知著名性を獲得することを認めている。
しかして、引用商標は、書体の如何にかかわらず、請求人とその構成員の出所表示として、周知著名性を有しているものと考える。
(2)「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」及び「故意」の見解について
審尋によると、「元祖」の文字は引用商標に含まれておらず、引用商標との関係において本件使用商標が出所の混同を生ずるものであるか否かに関係するものとは考え難い、本件商標から「元祖」の文字を除いて使用することは、本件商標の使用ではなくなり、本件商標の専用権の範囲を逸脱するおそれがあるとしている。
しかしながら、請求人は、本件商標から「元祖」の文字を除いて使用することを求めているのではない。被請求人が「宇都宮餃子」を強調する際に、「元祖」という文字も使用していることから、単に、請求人に所属する加盟店(組合員)が製造・販売する餃子であると誤認混同させるだけでなく、加盟店の中でも元祖のものであるという誤認まで生じさせようとしている、被請求人の悪質性を明らかにするために「元祖」の点を指摘しているのである。
被請求人以外に「宇味家」なる屋号を使用しているぎょうざ店など存在しないであろうから、被請求人には、常に「元祖」を使用しなければならない必然性はない。請求人は、従前から、「元祖」の文字を使用しないのであれば、請求人組合に加入し「宇都宮餃子」を使用することは可能である旨説明してきたが、被請求人は頑なに「元祖」の使用を継続してきた。この背景には、「元祖宇味家」(審決注:回答書においては、「元祖宇都宮」と記載されているが、「元祖宇味家」の誤記と思われる。)と表記しながらも、「宇都宮餃子」を併せ表記することで、「宇都宮餃子」の「元祖」であるとの誤認を生じさせようという被請求人の意図があることは明らかである。
また、本件商標が「宇都宮餃子」や「元祖」の文字を含む態様において専用権の範囲を構成するとしても、被請求人には、常にこれらの文字を含めて本件商標を一体にのみ使用しなればならないとする合理的な理由は必ずしも存しない。すなわち、「宇都宮餃子」や「元祖」の商標法第50条第1項の規定による不使用取消審判によって、商標登録取り消しとなる事態も想定されるが、そうした事態は、すべてにおいて「宇都宮餃子」や「元祖」の文字を含む本件商標の使用をしていなくとも、審判請求の登録日前3年以内に、日本国内のいずれかの場所において、指定商品又は指定役務について「元祖」の文字を含む本件商標の使用を証明すれば回避できるはずである(なお、請求人としては、本件商標をそのまま使用する場合であっても、「宇都宮餃子」が含まれている以上、請求人に属しない者による当該使用を容認しているものではないことを念のために付言する。)。
したがって、「元祖」の文字は引用商標に含まれていないこと、「宇都宮餃子」や「元祖」の文字を除いて使用することは、本件商標の使用ではなくなり、本件商標の専用権の範囲を逸脱するおそれがあるとの暫定的見解は、根拠が希薄である。
ところで、本件商標は平成12年5月18日に出願されたもの(甲1)であるのに対し、引用商標の先願日は平成12年5月17日(甲2。引用商標は、通常の商標出願から団体商標の商標出願への出願変更により、先願日が遡及している。)であるから、少なくとも引用商標のほうが先願である。このように同時期に出願された先願商標(先願後登録)たる「宇都宮餃子」商標が請求人とその加盟店の周知な出所表示として存在する以上、被請求人としては、本件商標を使用するとしても、最低限、誤認混同がなるべく生じないよう、「宇都宮餃子」部分を強調することなく、本件商標をそのまま使用する等の配慮をすべきである。それにもかかわず、手書き風の毛筆書体で縦書きに書したロゴを改変し、引用商標に近づけた書体で「宇都宮餃子」を表した本件使用商標には、被請求人による他人の先願商標に対する配慮などは感じられない。被請求人は、本件商標と引用商標の外観上の相違を強調するが、文字の書体の種類として、勘亭流や隷書体といったものが存在していることや、両者の相違が、「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」の需要者である一般消費者に理解されているとは到底考えられず、むしろ、通常の一般消費者の注意力や観察力からすれば、どちらも中華風の書体としか受け取られない。引用商標が商標法第3条第2項の適用を受けて登録が認められたことを前提とすれば、引用商標は、普通に用いられる方法で表示した域を出ない態様(商標法第3条第1項第3号)と貴庁が認定したことになるから、本件使用商標の書体が一般的というのであれば、被請求人は、故意に引用商標に近づけて本件商標を使用していることにもなる。
審判請求書で述べたとおり、被請求人は、請求人との一連の交渉において、従前より使用している「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」が一体的に表記されている本件使用商標(看板)については、本件商標と社会通念上同一性を有する使用であると考えているため、変更する予定はないと回答し、頑なに「宇都宮行餃子」、「元祖」及び「宇味家」の各語からなる本件使用商標の使用の中止を拒否している。被請求人は、請求人からの度重なる申し入れを受けているにもかかわらず、現在も本件商標の使用を継続しているのであるから、引用商標に係る請求人及びその構成員(組合員)の業務に係るぎょうざと混同を生じさせることを認識したうえで、本件使用商標の使用をしているものというよりほかはなく、被請求人による本件使用商標は、本件商標を引用商標に近づけて悪用したものといわざるを得ないから、請求人の「故意」は明らかである。
(3)被請求人の商標の使用態様について
審尋によると、本件商標は、看者をして「宇都宮餃子」の文字も明確に認識し得るものであり、被請求人による本件使用商標は、本件商標と比べても、また、本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまでいうことができないとしている。
しかしながら、文字構成として「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の各文字が共通するとしても、例えば、本件使用商標2及び3の看板(写真)にあっては、「宇都宮餃子」の文字と「元祖」及び「宇味家」の文字が、「餃匠」の文字が顕著に表された図形(以下「餃匠図形」という。)の上下に大きく離れて表されており、「宇都宮餃子」の文字と「元祖」及び「宇味家」の文字は異なる色彩で表されているうえ、餃匠図形にはマルアールの記号が付されており、これが単独で自他商品識別力を有することを被請求人自身がアピールしているのであるから、「宇都宮餃子」が、外観上、明らかに分離した態様で使用されている。仮に本件使用商標2及び3の看板(写真)における商標の使用を一体不可分と考えても、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字に、餃匠図形と「こだわりの餃子」の文字が付加結合された構成であるから、少なくともこれらは、本件商標の専用権の範囲(商標法第25条)における使用ということはできない。
同様に、本件使用商標1、15及び16は、被請求人の店舗の出入口と思われる階段を撮影した写真であるが、「元祖/宇味家」と「宇都宮餃子」の文字が、段の異なるけこみ板に表示されているうえ、「こだわりの逸品」の文字で上下に分断されているから、「宇都宮餃子」のみが、外観上、明らかに分離した態様で使用されている。そうであれば、「元祖」及び「宇味家」の文字に「こだわりの逸品」の文字が付加結合された構成であるから、これらも本件商標の専用権の範囲(商標法第25条)における使用ということはできない。
このように、本件使用商標には、「宇都宮餃子」の部分が明らかに他の部分から分離した態様で使用されているものが含まれている。その他、「宇都宮餃子」と「元祖」「宇味家」の文字の色彩等を違えて表示している本件使用商標についても、看者が最初に目にする場所に配置されているのであるから、請求人としては、これらが「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様である。
(4)その他考慮すべき特別な事情
ア 本件使用商標は、被請求人の店舗の看板や店舗内の写真が大半を占めているが、被請求人が、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字からなる本件商標を店舗名として、餃子の提供及び餃子の製造販売を現在も行っていると答弁書において明確に述べており、被請求人は、本件使用商標を、本件指定商品である「ぎょうざ」にも、また「ぎょうざの提供」にも使用していることが優に推認される。被請求人が営んでいる店舗におけるぎょうざの提供は、指定役務の「ぎょうざの提供」に該当することはいうまでもなく、上記指定役務に「宇都宮餃子」の文字を商標として使用する行為は、引用商標に係る商標権の侵害行為に明らかに該当する。
また、周知著名性を獲得した引用商標と酷似する本件使用商標を使用する行為は、引用商標の顧客吸引力及び社会的信用並びに広告宣伝機能を不当に利用して、これらの成果にただ乗りするものであるばかりか、引用商標の識別力等を希釈化し、引用商標の信用を損なうおそれが高い行為であり、不正競争防止法第2条第1項第2号の不正競争行為にも該当する。加えて、一般消費者をして、請求人の構成員(組合員)が餃子を提供しているかのような誤認混同を与えるおそれが高いことから、かかる行為は、不正競争防止法第2条第1項第1号の不正競争行為に該当する。
イ 被請求人は、「宇都宮餃子」は本件使用商標中の品質等表示であって識別力がないものと認識していたとか、本件使用商標中の「宇都宮餃子」の部分は地名及び普通名称であり、「宇味家」など他の商標の一部となっているものであって、かつ、一般的な勘亭流の書体にて表示されているものであることから、商標権の効力が及ばない範囲(商標法第26条第1項第2号)での使用といえるなどと主張するが、「宇都宮餃子」を分離した態様で商標として使用している以上、被請求人は、本件商標に基づく登録商標使用の抗弁はできない。
ウ 被請求人が「被請求人の営む『宇都宮餃子/元祖/宇味家』とその餃子は、『餃子のまち』として知られるようになった宇都宮を代表する餃子専門店・餃子の一つとして、全国的な知名度を有している」)などと述べるのも、請求人の「宇都宮餃子」とは別の周知著名性を獲得しているといわなければ、引用商標の周知著名性にフリーライドしているとのそしりを免れないことによると思われるが、自ら「宇都宮餃子」の事業者であることを標榜しておきながら、請求人の引用商標とは別の、又はそれ以上の周知著名性など認められるわけもなく、「宇都宮餃子」の文字を除く「元祖/宇味家」の文字のみでどれほどの実績が得られたかは不明であるから、それは所詮極めて不自然かつ無理のある試みである。
さらに、答弁書によると、本件使用商標が被請求人の故意によるものであるとの請求人の主張について、「構成に『宇都宮餃子』を含む本件商標が設定登録されたことで、誰にも妨害されることなく『宇都宮餃子』を含んだ態様で本件登録商標の使用が可能であると認識していた」とか、「引用商標が登録される以前に、既に本件使用商標のロゴ態様を使用していたことから、後から登録になった引用商標との間で侵害や類似、混同の問題は生じないものと認識していた」)などとあるが、過去の経緯にかかわらず、現在において、誤認混同を生じるおそれのある使用をしているか否かが問題となるのが商標法第51条第1項に規定する取消審判である。また、引用商標のほうが本件商標よりも先願である事実は、商標掲載公報や商標登録原簿で容易に確認できたはずであるが、答弁書によると、平成13年には(本件使用商標の)勘流体の書体を使用していたとあることから、こうした本件使用商標の使用に至る経緯において、被請求人が、引用商標の存在を意識していたとは思われないため、「後から登録になった引用商標との間で侵害や類似、混同の問題は生じないものと認識していた」などは、後付けの理由としか思われない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標権者が故意にその指定商品についての登録商標に類似する商標の使用であって、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたものであるから、商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきである。

第5 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第26号証(枝番号を含む。)を提出した(以下、枝番号のすべてを引用するときは枝番号の記載を省略する。)。
1 はじめに
(1)被請求人の事業等
ア 被請求人について
被請求人は、昭和56年4月に設立された(株)ファミリー健商を前身として、昭和63年7月に商号変更により誕生した。
平成11年には、自社ブランドを「宇都宮餃子/元祖/宇味家」とする商品「餃子」の販売を開始する(なお、本書面では「宇都宮餃子/元祖/宇味家」の語を、同名称を使用して提供される商品、該商品の提供主体、該商品の提供の場所(施設)を指して用いることがある。)。
翌平成12年5月に、本件商標について商標登録出願を行い、平成13年6月に設定登録を受けている。
平成14年には、自社製造工場による餃子製造を本格的に開始。そして平成15年7月には「宇都宮餃子/元祖/宇味家」1号店(宇都宮駅前店)をオープンし、以来、被請求人は、「宇都宮餃子/元祖/宇味家」の名称を使用して店舗における餃子の提供及び餃子の製造・販売等の事業を営んでおり、その店舗数は、平成27年現在、宇都宮市内の6店及びJR小山駅構内店を合わせて、合計7店となっている(甲18の2、甲20)。
(ア)店舗展開並びに使用ロゴ
「宇都宮餃子/元祖/宇味家」の名称は、被請求人が、平成11年から土産品や宅配・贈答品用の商品「餃子」の商標として使用を開始したものであり、その後、店舗内における餃子の提供及び餃子の販売を行う餃子専門店として平成15年に宇都宮駅前に出店した店舗屋号としても使用を開始したものである。
「宇都宮餃子/元祖/宇味家」のロゴは、土産品や宅配・贈答品用の商品「餃子」の商標として使用していた当初の頃は、本件商標のとおり手書き風の毛筆書体で縦書きに書したロゴを採用していたが、その後間もなくして勘亭流の書体を使用するようになり(乙1及び乙2参照;遅くとも平成13年には勘亭流の書体を使用していたことが判る。)、平成15年の1号店出店に際しても、乙第6号証に添付表示された店舗写真(1号店の店舗写真)のロゴ態様、即ち勘亭流の書体によるロゴ態様を採用している。その後の店舗展開やパッケージ等においても当該ロゴ態様を踏襲し、甲第18号証の1ないし3に示すような各ロゴ態様を採用しており、現在、この名称とロゴは、「宇都宮餃子/元祖/宇味家」の店舗看板、ちらし、商品パッケージなどに一貫して使用されている。
被請求人は、現在、「宇都宮餃子/元祖/宇味家」の看板(屋号)で、7店舗を展開している。
(イ)カタログ通販、宅配、ウェブサイト、インターネット通販、新聞、雑誌等
被請求人は、カタログ通販、宅配、ウェブサイト、インターネット通販、オンラインショップ、新聞、雑誌(乙3ないし乙14)を通じて多数の広告宣伝、餃子の宅配、通信販売を行い、「宇都宮餃子/元祖/宇味家」の名称とその名称で販売される餃子は、全国に広く知られるようになっている。
以上のとおり、被請求人の営む「宇都宮餃子/元祖/宇味家」とその餃子は、「餃子のまち」として知られるようになった宇都宮を代表する餃子専門店・餃子の一つとして、全国的な知名度を有しているのである。
イ 請求人(宇都宮餃子会)との関係
(ア)本件審判の請求人である宇都宮餃子会は、「餃子の消費量が日本一」とされた宇都宮を「餃子の街」として振興すること等を目的として平成5年7月に設立された。
宇都宮餃子会の構成員は、今でこそ80件(2013年6月現在の店舗数)と増えているが、平成5年7月の発足時は5店(5店主)であり、その後会員が増えても、比較的大手の「みんみん」、「正嗣(まさし)」などを除けばいずれも小規模な飲食店の集まりであったことに変わりはなく、財政的にも組織的にも、会として独自のPR活動を行うなどの力はなかった(この頃の宇都宮餃子会は、未だ協同組合ではなく、餃子を提供する飲食店が集まった任意団体であった。)。
なお、宇都宮餃子会が1口1万円、160口の出資を得て、加盟店35店の協同組合として成立したのは、発足から8年を経過した平成13年1月のことである(乙22)。
(イ)請求人は、宇都宮を「餃子の街」として有名にし「宇都宮餃子」の名を広く知らしめたのは請求人であり、「宇都宮餃子」は請求人とその構成員の業務を指す標章として知られているかのようにいうが、これは事実と異なる。
例えば、宇都宮市では、平成7年頃から「ぎょうざマップ」が作成されるようになったが、これを推進し財政的に支えたのは市の観光協会と商工会議所であった。また、平成11年に、各地の餃子を集める餃子の祭典として宇都宮市で開催された第1回目の餃子祭りは、乙第23号証の写真に示されるように、「うつのみや餃子まつり」と表示され、宇都宮地域から参加した各店舗は「宇都宮の餃子」として自店の餃子を提供しており、「宇都宮餃子」なる標章は使用されていない。これとは別に、宇都宮市商工会議所は、平成10年に、国の補助を受けて、「おいしい餃子とふるさと情報館:来らっせ」と称する実験店舗(アンテナショップ:種々の餃子店の餃子を1ヵ所で味わえる施設)を開設した。これからは、少なくとも平成10年当時、「宇都宮餃子」の名は、「餃子の街 宇都宮」の餃子を指すという程度の意味合いでしか知られておらず、宇都宮餃子会のシンボルというにはほど遠いものであったことが分かる(この時点でも「来らっせ」に「宇都宮餃子」の標章は使用されていない。)。なお、請求人は、協同組合化した後の平成13年に、商工会議所から「来らっせ」の飲食部門の運営を移管されたが、請求人が運営主体となって平成14年に開設した池袋のナンジャタウン「来らっせ」は、請求人の指導・管理能力の不足から、営業不振となって閉店している。
このとおり、請求人は、請求人の活動によって「宇都宮餃子」が全国的に周知となり、請求人(及びその構成員)の業務を指すものとして知られているという請求人の主張は、誇張であって事実を正確に述べたものではない。
(ウ)被請求人は、過去に宇都宮餃子会への加盟を検討したこともあり、また、宇都宮餃子会から加盟の要請を受けたこともあった。しかしながら、宇都宮餃子会の会則規定等の一部に、被請求人の加盟を阻害する事項があったため、加盟を見送った経緯がある。すなわち、阻害事項の具体例としては、協同組合加入に関する誓約書(甲14の5)にあるように、「『元祖』の文字の使用禁止」(要旨)などである。
請求人は、被請求人が宇都宮餃子会に加盟せず、かつ、「元祖」の文字を削除する意思もないことが判るや否や、被請求人に対し本件使用商標の使用中止の申し入れを通知してきた(甲17)。
請求人は、「本件使用商標については、本件商標と社会通念上同一性を有する使用でないことを認めて」と述べているが、被請求人において、そのようなことを認めた事実は一切ない。それどころか、社会通念上同一性を有すると考えていたからこそ、請求人からの使用中止の申し入れを受けてもなお「宇都宮餃子/元祖/宇味家」の使用継続の意思を示し、現に本件使用商標の使用を継続しているのである。また、被請求人が一部の看板について変更を行ったのは事実であるが、これは社会通念上同一性を有する使用でないことを認めたからではなく、請求人との無用の紛争を避けるべくその意思表示を示す思いで行ったものであり、被請求人にとって本来的に不本意な変更であったことも付言しておく。
(2)本件商標並びに引用商標について
ア 引用商標の周知性について
引用商標は、商標法第3条第2項の適用を受けて設定登録されている。
しかしながら、請求人が引用商標の周知性を示すものとして引用する多数の新聞記事等(甲4ないし甲12)のうち、引用商標の登録出願又は登録査定頃の引用商標の認知度を示すものは、甲第4号証の1のみである。これには、「宇都宮市」が「ギョーザのまち」として知られるようになったことが示されるのみで、「宇都宮餃子」との文言記載もなく、「団体(協同組合宇都宮餃子会)又はその組合員の業務に係る役務を表示する標章」として知られたことを示すものではない。この点については、団体商標よりも周知性の要件が緩いとされる地域団体商標(平成17年改正法第7条の2)においてすら、周知といえるためには、「当該商標が特定の組合又はその構成員の業務に係る商品・役務を表示するものとして、隣接県に及ぶ程度の需要者(及び取引者)に広く認識されていること」が必要であり、その地域ブランド名自体はよく知られているものであるとしても、特定の組合又はその構成員の業務に係る商品・役務との認識が希薄である場合には、周知性の要件を充たさないと解されていること(平成22年11月15日知財高裁判決 乙15)が留意されるべきである。
さらに、請求人がそのほかに挙げる平成14年以降の記事等からは、「宇都宮市」が「ギョーザのまち」として知られるようになったことが示されているものが殆どであって、「宇都宮餃子」との文言すら出ていない記事が多く存在し、「宇都宮餃子」の文言記載があってもそれが宇都宮の地に関連づけられた「ぎょーざ」一般を表す名称という程度の意味合いで新聞雑誌等で使用され、かつ、そのようなものとして需要者に受け取られていたことが窺われるにすぎない。ましてや、「宇都宮餃子」が「ブランド名」として知られ、しかも、それが特定の団体ないしその構成員の業務に係る商品・役務を表示する標章であると観念されていたことまで示しているものはない。
イ 本件商標と引用商標との関係
本件商標は、漢字で表された「宇都宮餃子」、「元祖」、「宇味家」の3つの構成要素から成り、このうち「宇都宮餃子」の部分は「地名+普通名称」であるため識別力が無く、「元祖」の部分は商品の品質や生産若しくは使用の時期等を表示するいわゆる「品質等表示」であるため識別力がないことから、本件商標の要部は識別力を有する「宇味家」であり、これら3要素からなる商標全体として識別力を発揮し得る商標として登録されたものと思料する。
換言すれば、本件商標のうち「宇都宮餃子」と「元祖」の部分は、識別力のない付記的表示にすぎないということが示唆されていると考えるのが妥当である。
また、本件商標は、引用商標の出願前の平成13年6月1日に設定登録を受けている。仮に本件商標の構成中「宇都宮餃子」の部分が識別力の有る要部として分離可能であった場合、引用商標は本件商標を引例として商標法第4条第1項第11号該当の拒絶理由により拒絶されていたはずであるが、引用商標は審査段階において当該拒絶理由を受けることなく登録されている。
以上を総合的に勘案すると、本件商標と引用商標との間で類似性が問題となるようなことはなく、混同のおそれなど全く問題にならないと判断していたことを示すものである。
さらに言えば、「宇都宮餃子/元祖/宇味家」は、既述したとおり、引用商標の出願・登録より前から一貫して被請求人の営業を示す標章として使用され、その餃子提供に係る業務及び取扱い商品を表すものとして需要者に広く知られるところとなっていた。このように長年継続して使用され、全国的な知名度を有するに至った本件商標を、登録から14年近くを経過しようとするときに請求された取消審判請求によって、取り消すべき理由はまったく存在しない。
2 取消理由(商標法第51条第1項該当性)について
商標法第51条第1項では、商標権者が自己の登録商標のいわゆる禁止権(第37条第1号)の範囲内で商標を使用して故意に需要者に誤認・混同を生じさせた場合に、その商標登録を取り消す旨が規定されている。
以下、本件商標が同規定に該当するか否かについて、各要件ごとに詳述する。
(1)本件商標の商標権者
甲第1号証の2にあるとおり、被請求人が本件商標の商標権者であることに間違いはない。
(2)本件使用商標と本件商標の同一性
ア 本件使用商標の構成態様
本件使用商標は、甲第18号証の1ないし3及び甲第19号証で示すように、全てが同一使用態様ではないが、概ね次の構成態様を採る。
すなわち、本件使用商標は、勘亭流の書体による漢字で表された「宇都宮餃子」、「元祖」、「宇味家」の3つの構成要素からなり、縦書きや横書き、それらを組み合せた表示態様が存在し、「宇都宮餃子」と「元祖」と「宇味家」を夫々異なる列に配置したり、何れかを同列に配置した表示態様が存在するが、何れも「宇味家」が「宇都宮餃子」及び「元祖」より明らかに大きく表示されることで、店舗屋号としての「宇味家」が目立つ態様となっている。
なお、甲第18号証の1にある本件使用商標のうち、「宇都宮餃子」と「「元祖/宇味家」の間に別の登録商標(登録第5558788号)が表記されていたり、「宇都宮餃子」の下段に「こだわりの餃子」と表記されていたものについては、「宇都宮餃子」、「元祖」、「字味家」の3つの構成要素の一体感が阻害されていると解されるおそれがあるため、甲第19号証に示す構成態様に変更した。
イ 本件商標と本件使用商標の対比
本件商標と本件使用商標とは、文字構成が同一であるため称呼及び観念が同一であって、書体の相違や縦書き・横書きの相違、配列の相違から外観が類似するものであり、総じて両者は同一商標ではなく類似商標の関係にあるため、本件使用商標の使用は本件商標の禁止権の範囲内での使用であるようにも解され得る。
しかしながら、実際の商取引において、登録商標をそのままの態様で使用しているとは限らないのが現実であり、使用商標が登録商標の構成部分に変更を加えてある場合、その変更が商標の識別性に影響を及ぼさず、かつ、商標の同一性を損なわない場合には、両者を社会通念上同一の商標であると見るべきであって、両者が社会通念上同一と認められる商標であれば、類似商標ではなく同一商標として両者を扱うべきである。
このことは、平成21年3月26日知財高裁判決(乙16)からも明らかである。すなわち同裁判は、何れも商標権者による不正使用ではなく、商標権者から許諾を受けた使用権者による不正使用取消審判の審決に対する審決取消訴訟の例であるが、同審判を規定する商標法第53条第1項は、条文上、登録商標と同一の商標を使用して混同を生じさせた場合も取消の対象となっている。それにもかかわらず、判決は敢えて登録商標と使用商標の社会通念上の同一性について判断していることからして、不正使用取消審判において、使用商標が登録商標と社会通念上同一と認められる商標であれば、両者を同一商標として扱うべきことを示唆しているものと思料する。
社会通念上同一と認められる商標とは、商標法第50条第1項に明記されるように、多くの審決が書体変更について同一性を認めている(乙17ないし乙20)。
以上を総合的に勘案すると、本件商標と本件使用商標とは、書体や配列、縦書き・横書きの相違が存するものの、同一の称呼及び観念を生じ、かつ、外観においても自他商品識別標識としての実質的な差異がないことは明らかである。
したがって、本件使用商標の使用は、本件商標と社会通念上同一と認められる範囲内での商標の使用であって、両者は同一商標として扱うべきであり、よって本件使用商標について、本件商標のいわゆる禁止権の範囲内での使用ではないものとして判断すべきである。
(3)本件使用商標による商品の品質誤認が生じるか否か
被請求人は、宇都宮市に本拠を有する会社であって、市内に現状で日産8万個の生産能力を有する餃子専用の加工工場を保有している。したがって、宇都宮の地に無関係の者が「宇都宮の餃子」を名乗るという産地誤装の問題は生じる余地がない。
(4)本件使用商標と引用商標の混同性
ア 本件商標と引用商標との関係性
本件商標と引用商標とが併存して登録が認められたということは、即ち両者間で類似性が問題となるようなことはなく、混同のおそれなど全く問題にならないとが判断していたことを示すものである。
したがって、本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標についても、引用商標と混同を生ずるおそれは全くない。
イ 本件使用商標の構成態様
(ア)本件使用商標の表示形態
本件使用商標は、いずれも「宇味家」が「宇都宮餃子」及び「元祖」より明らかに大きく表示された表示形態を採用する。
つまり、商標全体の中で「宇味家」を他より明らかに大きく表示することによって、看者にとって真っ先に注意を惹く部分が「宇味家」となるような表示形態を採っている。逆に、「宇都宮餃子」の部分は全体の中でも一番小さく表示されており、目立たない付記的な表示となるような形態を採っている。
本件使用商標に接した需要者・取引者が、直ちに引用商標を想起、連想することはありえない。
この点、請求人は、「『宇都宮餃子』を強調するように本件商標を改変したもの」と主張するが、上記のとおり本件使用商標中「宇都宮餃子」の部分は全体の中で一番小さく表示されていることからして、「宇都宮餃子」が強調されているようなことは決してありえない。
(イ)本件使用商標の書体
本件使用商標は、上述のとおり、「宇都宮餃子」、「元祖」、「宇味家」の3つの構成要素いずれも勘亭流の書体が使用されているのに対し、引用商標は隷書体を用いる。
よって、本件使用商標が引用商標に類似する書体を用いたとの主張は、請求人の願望や思い込み、独断的解釈以外のなにものでもなく、明らかに失当である。
(ウ)過去の裁判例、審決例
請求人は、審判請求書において、不正使用による取消が認められた過去の裁判例や審決例を複数列挙しているが、これらはいずれも他人の周知著名な商標に近づけるべく登録商標の一部を改変して使用した場合の裁判例及び審決例である。
本件使用商標の場合、引用商標に該当する「宇都宮餃子」の部分を他より大きく表示したり、隷書体で表示するような改変は一切行っておらず、逆に本件商標における「宇味家」を大きく他を小さく表示する表示形態を本件使用商標でもそのまま採用することで、「宇味家」に看者が着目し、かつ、「宇都宮餃子」が単なる付記的な表示となるよう徹しているのであって、本件使用商標が引用商標に類似する方向へ改変したものでないことは明らかである。
以上から明らかなように、本件使用商標は、その構成態様からも引用商標とは明らかに識別し得るものであって、混同を生ずるおそれは全くない。
ウ 本件使用商標の周知性
引用商標「宇都宮餃子」が特定主体の業務に係る商品や役務を表すものとして周知であるとは考えられないことは述べたとおりであるが、その点を一応措くとしても、使用による自他識別力の存在を前提に引用商標と本件使用商標の混同性を問題にするのであれば、本件使用商標についても同様に、その使用に関わる事情、すなわち、「宇都宮餃子/元祖/宇味家」が長年にわたって使用され、需要者の間で広く知られる状態となっていたことを考慮すべきである。
本件使用商標は、被請求人の業務を表すものとして全国的な知名度を獲得しているものであり、本件使用商標に接する需要者・取引者は、直ちに被請求人の業務並びに商品を表示するものとして看受することとなって、本来的に識別力のない引用商標との混同を生ずることは決してありえない。
団体商標の性質
引用商標が団体商標であって複数の構成員による使用を予定しているということは、その商標の下では個別の営業主体を識別できないことを意味しているところ、「宇都宮餃子/元祖/宇味家」は特定の営業主体を識別させる商標であるから、「宇都宮餃子/元祖/宇味家」と単なる「宇都宮餃子」との間で出所混同が生ずるおそれが存在しないことは明らかである。
(5)不正使用についての故意の有無
被請求人は、そもそも本件使用商標の使用行為が不正使用であるとは考えておらず、請求人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたものでもない。
本件使用商標の使用行為についての被請求人の認識等は、以下のとおりである。
ア 構成に「宇都宮餃子」を含む本件商標が設定登録されたことで、誰にも妨害されることなく「宇都宮餃子」を含んだ態様で本件商標の使用が可能であると認識していた(商標権者であれば当然の認識である。)。
イ 本件商標の設定登録後に引用商標が登録されたことから、両者が類似するものでもなければ混同を生じることもないと認識していた。
ウ 本件使用商標が本件商標と社会通念上同一であって、本件使用商標を使用することは本件商標を使用する正当な行為であると認識していた。
エ 引用商標が登録される以前に、既に本件使用商標のロゴ態様を使用していたことから、後から登録になった引用商標との間で侵害や類似、混同の問題は生じないものと認識していた(甲1及び甲2)。
オ 本件使用商標の構成中の「宇都宮餃子」や「元祖」の部分は、品質等表示であるため識別力がなく、識別力を発揮し得るのは「宇味家」の部分であると認識していた。
カ 本件使用商標の構成中の「宇都宮餃子」は、品質等表示であるため、普通に用いられる方法であれば何人も使用可能であると認識していた。
キ 引用商標は隷書体の独特で特徴的な書体を使用しているため、本件使用商標の構成中の一般的な勘亭流の書体による「宇都宮餃子」とは明確に識別されるものと認識していた。
ク 本件使用商標の構成中の「宇都宮餃子」を他より小さくすることで付記的な表示とし、逆に大きく表示した「宇味家」に看者が着目するよう徹してきた。
以上のような認識等を被請求人は持っていたのであって、だからこそ10年以上の間、本件使用商標を継続して使用し続けてきたのである。故に、被請求人は、そもそも本件使用商標の使用行為が不正使用であるとは考えておらず、請求人の業務に係る商品と混同を生じさせることについて認識していなかったことは明らかであり、ましてや、そのような意図を持って本件使用商標を使用したり、改変を行ったことは一切ない。
よって、被請求人に故意がないことは明白である。
(6)その他
ア 商標権の効力が及ばない範囲での使用
本件使用商標中「宇都宮餃子」の部分は地名及び普通名称であり、また、「宇味家」など他の商標の一部となっているものであって、かつ、一般的な勘亭流の書体にて表示されているものであることから、商標法第26条第1項第2号に規定する商標権の効力が及ばない範囲での使用といえる。
以上から、被請求人による本件使用商標中に「宇都宮餃子」を使用する行為は、商標権の効力が及ばない範囲での使用であって、正当な使用行為である。
イ 本件商標を取り消すことは、商標本来の目的に反すること
本件商標が取り消されることによって商標権が失われれば、被請求人は、本件商標と類似の商標を使用する者に対して、排他権を行使することができなくなる。これは、被請求人が「宇都宮餃子/元祖/宇味家」ブランドの確立のために行ってきた投資、営業努力、そしてこれによって形成されてきた信用を大きく損なうことになる。
本件審判において本件商標が取り消されるようなことがあれば、商標法の目的からしても本末転倒であるといわざるを得ず、個々の企業が営々と築き上げてきた営業努力の成果を否定することに等しいものである。
ましてや、本件審判が、引用商標の登録後直ぐに請求されたのではなく、本件使用商標の使用を開始した平成15年から約12年の期間を経過した後に請求されたものであってみれば、尚更である。
(7)小括
以上、述べたとおりであるから、本件商標は、商標法第51条第1項規定の取消事由に該当しないことは明らかである。
3 結び
「宇都宮餃子」なる商標が団体商標として登録されたことによって、宇都宮餃子会は、「宇都宮餃子」なる商標について排他権を専有することとなった。
しかし、元を正せば、「宇都宮餃子」は宇都宮地域で生産、消費される餃子を表す一般名称であったのであり、餃子による町おこしを宇都宮市等が観光事業の一環として支援することにより、「ぎょうざの街宇都宮」の餃子として広く知られるようになったのである。
宇都宮地域の飲食店で提供される餃子が「宇都宮餃子」の名で知られるようになったことについては、被請求人の「宇都宮餃子/元祖/宇味家」が全国的な知名度を獲得していることも、少なからず貢献しているといえる。「宇都宮餃子/元祖/宇味家」は、宇都宮餃子会の加盟店ではないが、率先して広告・宣伝を行い、多くの販促用のチラシやカタログに掲載し、有名デパートとも提携し、駅前など多数の店舗を展開し、団体客の集客に努めるなどして、自らの「宇都宮餃子/元祖/宇味家」の餃子とともに、「宇都宮餃子」の名を自ずと普及させ、地域振興に多大な貢献をしてきた。宇都宮は「ギョーザ激戦区」と評されるとおり、宇都宮で餃子を提供する各店舗の間では、今も激しい競争が続いている。
このような中にあって、請求人が、長年にわたる使用により営業上の信用と地位を築いてきた被請求人の本件商標「宇都宮餃子/元祖/宇味家」の取消審判を請求するというのは、被請求人の貢献度を無視した所業であり、全くもって不当というはかない。
本件商標が取り消されるならば、被請求人は「宇都宮餃子/元祖/宇味家」に類似する商標を使用しようとする者に対して、「宇都宮餃子/元祖/宇味家」標章の使用を排除する権利を失うことになる。
引用商標は、「宇都宮」という地域名を「餃子」の語に冠しただけの、通常であれば、自他識別力のない商標であるが、それが団体商標として出願された(当初は通常の商標として出願されたものが、拒絶理由を受けて団体商標に出願変更された)ことにより、いわば、地域団体商標制度を先取りする形で、登録に至ったものである。
産地等と商品・役務に係る一般名称を結合しただけの標章について、周知性要件と主体要件を備えることを条件に商標登録を認めて独占権を与えることについては、種々の弊害が生じうることが問題点として指摘されており、(例えば「地域ブランドの保護」に関する産業構造審議会・商標制度小委員会報告書案に対して日本弁護士連合会が提出したパブリックコメント 乙21)、運用を一歩誤れば、団体商標権を有する団体が一部の者にとっての利権の巣となりかねない危険性すら存在する。とりわけ本件の引用商標は、商標法第7条第1項の適用を受ける団体商標であって、同法第32条の2の緩和された先使用権は適用されないと解されるから、弊害の危険性は地域団体商標の場合よりも遙かに大きいのである。

第6 当審における審尋の要旨
当審においては、平成27年10月30日をもって、要旨以下のとおりの暫定的見解を提示し、請求人に意見を求めるとともに、新たな証拠があれば、その提出と説明を求めたところである。
1 商標法第51条第1項の審判の趣旨について
商標法第51条第1項は、「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定しているのであって、登録異議申立てや無効審判請求のように、本件商標が登録要件を満たしていたか否か、不登録事由に該当していなかったか否かを審理するものではない。
そして、商標権者は、商標法第25条の規定により、指定商品について本件商標の使用をする権利を専有しており、その専用権の範囲には、同法第70条第1項の規定により、登録商標に類似する商標であって、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標も含まれる。
したがって、商標権者の商標の使用が商標法第51条第1項の要件を満たしているか否かは、当該商標権者が、その専用権の範囲を超えて、登録商標と類似の商標を使用したことによって、故意に商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるおそれがあるものをしたといえるか否かによって判断すべきと解される。
2 本件取消審判に関する当審の暫定的見解
請求人及び被請求人双方の主張及び提出された証拠によれば、以下の理由により、請求人が「指定商品についての登録商標に類似する商標の使用」であるとして、審判請求書において提示した本件使用商標(甲18)をもって、商標権者が故意に指定商品についての登録商標に類似する商標の使用であって、他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたと認めることはできない。
(1)引用商標の周知性と請求人の構成員による引用商標の使用態様について
本件商標は、別掲1のとおり、その構成中に「宇都宮餃子」の文字を含んでなるものであるから、上記1の商標法第51条第1項の趣旨を勘案するならば、同項に規定する要件に該当するか否かは、被請求人が単に「宇都宮餃子」の文字を使用したことによって混同を生じるものをしたというのではなく、請求人の構成員の使用によって周知となった引用商標の態様に、被請求人が故意に近似させた態様で「宇都宮餃子」の文字を使用したといえるのかを考察する必要がある。
しかしながら、請求人が引用商標の周知性を立証するために提出した証拠は、新聞や雑誌を始めとした第三者が刊行した情報等であって、請求人の構成員が具体的に如何なる態様で使用されているのか、さらに、如何なる態様のものが請求人の構成員の団体商標として周知となっているといえるのかが明らかにされていない。
したがって、請求人は、この点について明らかにしていないのであるから、被請求人による本件商標の使用が商標法第51条第1項の要件を満たしていることを証明したということはできない。
(2)本件商標と被請求人の商標の使用態様について
ア 本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の漢字が3列に縦書きしてなるものであり、その構成中の「元祖」及び「宇味家」の漢字部分が「宇都宮餃子」の文字部分に比べ、やや大きく太めの文字であるとしても、いずれかの文字が特に目立つように顕著に表されているとか、いずれかの文字が他に比べ目立たない態様で表されているとまではいうことができないものであって、概ね該各文字が3列に記載されているといえるものであり、看者をして「宇都宮餃子」の文字も明確に認識し得るものといえる。
イ 被請求人の商標の使用態様
請求人は、商標法第51条第1項に該当する被請求人の商標の使用として本件使用商標を提示しているが、その使用態様は、以下のとおり、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができないものである。
(ア)本件使用商標1、15及び16は、「元祖」及び「宇味家」の文字部分と「宇都宮餃子」の文字部分とが文字周囲の縁取りの色彩が僅かに異なり、両者の文字が離れて表示されている(本件使用商標1及び15には、その下段に「餃子の街、宇都宮から」及び「元祖宇味家の餃子お届!!」との文字も表示されている。)ところ、色彩が異なるといっても、同系の色で、その違いもほとんど気づかない程度のものであり、しかも、両者の文字が離れて表示されているとしても、「こだわりの逸品」の文字が入った階段の一段分にすぎないものであり、一方のみが認識されるというよりも、両者は一緒に認識されるというのが普通といえる態様のものである。
したがって、本件使用商標1、15及び16の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(イ)本件使用商標2及び3は、「元祖」及び「宇味家」の文字部分と「宇都宮餃子」の文字部分とは色彩が異なり、両者の文字が離れて表示されてはいるものの、「宇都宮餃子」の文字部分は、該本件使用商標の構成中の他の文字よりも小さく表されているものである。
したがって、本件使用商標2及び3の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(ウ)本件使用商標4ないし7は、「宇都宮餃子」の文字部分が「元祖」及び「宇味家」の文字部分よりも小さく表されており、商標全体として同書体であるといえるものである。
したがって、本件使用商標4ないし7の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(エ)本件使用商標8は、「宇都宮餃子」の文字部分が「元祖宇味家餃子」の文字部分とは書体が異なり、小さく表されているといえるものである。
したがって、本件使用商標8の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(オ)本件使用商標9ないし13、17、20、21、26ないし28、30ないし38及び40ないし43は、「宇都宮餃子」の文字部分が「元祖」及び「宇味家」の文字部分とは色彩が異なるものの、「宇都宮餃子」の文字部分が「元祖」及び「宇味家」の文字部分よりも小さく表されており、その書体は同じものである。
したがって、本件使用商標9ないし13、17、20、21、26ないし28、30ないし38及び40ないし43の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(カ)本件使用商標14は、「元祖」及び「宇味家」の文字部分と「宇都宮餃子」の文字部分とは色彩が異なり、両者の文字が離れて表示されてはいるものの、一緒に認識し得る程度の間隔であり、しかも、「宇都宮餃子」の文字部分と「宇味家」の文字部分は、ほぼ同じ大きさで、かつ、同じ書体で表されているものである。
したがって、本件使用商標14の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(キ)本件使用商標18は、「元祖」及び「宇味家」の文字部分と「宇都宮餃子」の文字部分とは色彩が異なるものの、「宇都宮餃子」の文字部分が「宇味家」の文字部分よりも小さく表されており、書体も同じくするものである。
したがって、本件使用商標18の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(ク)本件使用商標19は、「元祖」及び「宇味家」の文字部分と「宇都宮餃子」の文字部分とは色彩及び書体が異なるものの、「宇都宮餃子」の文字部分が「宇味家」の文字部分よりもやや小さく表されており、上部に「餃子」の文字を有する縦長の一体の看板として設置されているものである。
したがって、本件使用商標19の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(ケ)本件使用商標22、25及び39は、「宇都宮餃子」の文字部分が「宇味家」の文字部分よりも小さく表されており、しかも、その書体及び色彩も同じくするものである。
したがって、本件使用商標22、25及び39の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(コ)本件使用商標23、24及び29は、「宇都宮餃子」の文字が小さく表されており、「元祖」及び「宇味家」の文字とは書体を同じくするものである。
したがって、本件使用商標23、24及び29の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができない。
(3)「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に関する請求人の主張について
請求人は、本件使用商標が「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に該当するとの理由について、請求人は構成員に対し、引用商標の使用の条件を厳格に定めており、その中でも、需要者の誤認を防ぐため、自らが宇都宮餃子を代表するかのような表現や、元祖、本家、本舗などの表示を禁止しているにもかかわらず、被請求人の本件使用商標は、「宇都宮餃子」の文字を含むばかりでなく、自らが宇都宮餃子を代表するかのような表現に該当する「元祖」の文字を含んでいると主張している。
しかしながら、「元祖」の文字は引用商標に含まれておらず、引用商標との関係において本件使用商標が出所の混同を生ずるものであるか否かに関係するものとは考え難いものである。他方、被請求人にとっては、本件商標が登録商標であることを前提にするならば、本件商標に「元祖」の文字が含まれ、商標法第25条により、その本件商標の使用をする権利を専有しているのであって、かえって、「元祖」の文字を除いて使用することは、本件商標の使用ではなくなり、本件商標の専用権の範囲を逸脱するおそれがあるものといえる。
また、請求人は、甲第16号証を示して、「あたかも被請求人が請求人に加盟している店舗であるのごとき説明をしている餃子に関するウェブサイトが」存在すると主張しているが、このサイトは、作成者が不詳のものであって、被請求人のサイトのものではないから、この事実のみをもって、被請求人が「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをした」とすることはできないといわなければならない。
したがって、上記請求人の主張は、直ちに採用することはできない。
(4)「故意」に関する請求人の主張について
請求人は、被請求人が本件使用商標を使用し、「故意」に他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとする理由について、請求人が本件使用商標の使用の中止を申し入れたが中止されていないと主張している。
しかしながら、本件商標は、別掲1のとおり、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の漢字が3列に縦書きしてなるものであり、それが登録商標であることを前提にするならば、商標法第25条により、その本件商標の使用をする権利を専有しているのであって、かえって、請求人が要求する「宇都宮餃子」や、「元祖」の文字を除いて使用することは、本件商標の使用ではなくなり、本件商標の専用権の範囲を逸脱するおそれがあるものといえる。
しかも、上記(2)のとおり、本件使用商標の使用態様は、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるとまではいうことができないものである。
したがって、上記請求人の主張は、直ちに採用することはできない。

第7 当審の判断
1 商標権者による本件使用商標の使用が「故意」に請求人又は請求人の構成員の業務に係る商品と混同させようとしたものであるか否かについて
(1)本件商標の登録と被請求人による商標の使用の経緯等について
ア 被請求人による商標の使用について
被請求人は、「『宇都宮餃子/元祖/宇味家』の名称は、被請求人が、平成11年から土産品や宅配・贈答品用の商品『餃子』の商標として使用を開始した」旨、さらに、「『宇都宮餃子/元祖/宇味家』のロゴは、土産品や宅配・贈答品用の商品『餃子』の商標として使用していた当初の頃は、本件商標のとおり手書き風の毛筆書体で縦書きに書したロゴを採用していたが、その後間もなくして勘亭流の書体を使用するようになり、その後の店舗展開やパッケージ等においても当該ロゴ態様を踏襲し、現在、この名称とロゴは、『宇都宮餃子/元祖/宇味家』の店舗看板、ちらし、商品パッケージなどに一貫して使用されている」旨主張している。
そして、その被請求人の主張についてみると、甲第20号証の被請求人のウェブサイトにおける会社概要に「平成11年 自社ブランド『宇都宮餃子元祖宇味家』のぎょうざ販売開始」と記載されていること、並びに乙第2号証ないし乙第4号証、乙第7号証、乙第9号証、乙第11号証、乙第14号証の4及び10のちらし、カタログや広告には「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字を勘亭流と思しき太字で表した商標が表示されており、その中の乙第3号証の1のカタログには、「お申し込み期間:平成13年4月1日?平成14年3月31日」の記載があることからすれば、被請求人は、平成11年から「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字からなる商標の使用を開始し、遅くとも、平成13年4月1日には、該文字を勘亭流と思しき太字で表した商標の使用を開始し、継続して使用しいることが認められる。
一方、引用商標は、上記第2のとおり、商標法第11条第2項(当時施行されていたもの)の規定による団体商標の登録出願として登録出願されたのは平成13年8月2日であるが、その登録出願はもとの商標登録出願の出願日である同12年5月17日(以下「遡及出願日」という。)に登録出願したものとみなされ、同14年1月24日に登録査定、同14年2月22日に設定登録されたものである。
そうすると、被請求人は、引用商標の遡及出願日より前から、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字からなる商標の使用を開始したものであり、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字を勘亭流と思しき太字で表した商標についても、団体商標の登録出願をした平成13年8月2日よりも前から(当然ながら、商標法第3条第2項の適用によって登録査定されるより前であり、請求人が引用商標の商標権を取得するより前である。)、使用してきたものと認められる。
そして、少なくとも、請求人提出の甲各号証をもってしても、被請求人がこれら「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字からなる商標の使用を開始した当時には、宇都宮市の名物として消費量日本一を知らせる新聞等に「宇都宮餃子」の文字が使用されているとしても、「宇都宮餃子」の文字は、請求人又は請求人の構成員を表すものとして広く認識されていたとまではいうことができない。
イ 本件商標の登録について
本件商標は、上記第1のとおり、平成12年5月18日に登録出願、同13年4月4日に登録査定、同年6月1日に設定登録されたものである。一方、引用商標は、上記のとおりである。
そうすると、本件商標は、引用商標の遡及出願日に1日遅れて登録出願されたものであるが、引用商標より約9か月早く設定登録されたものであり、請求人が引用商標を商標登録する前から、被請求人は、本件商標をその指定商品である「ぎょうざ」について使用をする権利を専有していたといえる。
そして、商標権は、「商標登録の無効、取消等がない限り過誤登録等によって重複して併存しても制限されることはない」(「特許庁編工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第18版〕」の商標法第25条の項)ものであり、その専用権の範囲については、「企業が登録商標を使用するにあたっては、登録商標の構成に多少の変更を加えて使用することがごく普通に行われており、・・・登録商標の同一の範囲を厳格に解釈することは、取引社会の実情からみて妥当でなく、また商標権者に専用権を与えて商標を保護することとした商標法の趣旨に反することも明らかである。したがって、登録商標の同一の範囲というのは、登録商標と物理的に同一のもの及びそれと相似形のものを意味すると限定的に解釈すべきではなく、取引社会の通念に基づいて解釈するのが妥当である。」(「注解商標法〔新版〕株式会社青林書院」の商標法第25条の項。なお、「特許庁編工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第18版〕」の商標法第50条の項にも「登録商標の使用であるかどうかは、自他商品(役務)の識別をその本質的機能としている商標の性格上、単なる物理的同一にこだわらず、取引社会の通念に照らして判断される必要があるとの考え方から、従来より審決例や判決例でも、社会通念上同一と認識し得る商標の使用については登録商標の使用と認めてきていた」として同趣旨の記載がある。)と解される。
ウ 本件使用商標の態様について
請求人は、商標法第51条第1項に該当する被請求人の商標の使用として本件使用商標を提示しているところ、本件使用商標と引用商標は、ともに「宇都宮餃子」の文字を含むものである。
ところで、本件商標は、別掲1のとおり、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の漢字が3列に縦書きしてなるものであり、その構成中の「元祖」及び「宇味家」の漢字部分が「宇都宮餃子」の文字部分に比べ、やや大きく太めの文字ではあっても、他の文字に比べ特に目立つように顕著に表されているとはいえないものであって、概ね該各文字が3列に記載されているといえるものであり、看者をして「宇都宮餃子」の文字は明確に認識し得るものといえる。
一方、本件使用商標も、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の漢字からなり、本件商標の構成文字と共通のものであり、その勘亭流と思しき太字も特異な文字とはいうことができない一般的なものといえるから、たとえ、各文字の太さや配置、縦書きか横書きかなどにおいて異なるところがあるとしても、自他商品の識別という本質的機能の観点からは、社会通念上、本件商標と異なるところはないといえる。
しかも、本件使用商標の態様は、上記第6の2(2)のとおり、本件商標と比べても、また、該本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるということはできないものであり、むしろ、「宇都宮餃子」の文字部分は「宇味家」の文字部分より小さな文字で表され、看者に強い印象を与えるのは大きな文字で表された「宇味家」の文字部分といえる。
そして、これらの点は、上記(1)で述べた乙第2号証ないし乙第4号証、乙第7号証、乙第9号証、乙第11号証、乙第14号証の4及び10のちらし、カタログや広告に表示された「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字を勘亭流と思しき太字で表した商標についても同様である。
そうすると、本件使用商標及び上述の乙第2号証ないし乙第4号証、乙第7号証、乙第9号証、乙第11号証、乙第14号証の4及び10のちらし、カタログや広告に表示された商標は、少なくとも、自他商品の識別という本質的機能の観点からは、社会通念上、本件商標と異なるところがないものであり、しかも、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるということはできないものである。
(2)小括
ア 被請求人は、引用商標の登録出願より前から「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字からなる商標の使用を開始したのであり、それらの文字を勘亭流と思しき太字で表した商標も団体商標として変更の登録出願をした平成13年8月2日よりも前(当然ながら、商標法第3条第2項の適用によって登録査定されるより前である。)から使用を開始したのであって、被請求人がこれら商標の使用を開始した当時は、宇都宮市の名物として消費量日本一等を知らせる新聞等に「宇都宮餃子」の文字が使用されているとしても、「宇都宮餃子」の文字は、請求人又は請求人の構成員を表すものとして広く認識されていたということもできない。そして、「宇都宮餃子」の文字は、後記2(1)のとおり、本来、商品の産地、販売地又は品質を表示するものであるから、何人も使用を欲するものといえる。
イ また、被請求人は、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字からなる商標の使用を開始後、ほどなく、本件商標の登録出願をし、商標登録を得ており、商標登録後においては、商標権者である被請求人は、本件商標をその指定商品である「ぎょうざ」について使用をする権利を専有している。そして、本件使用商標も、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の漢字からなり、本件商標の構成文字と共通するものであり、その勘亭流と思しき太字も特異な文字とはいうことができない一般的なものである。加えて、本件使用商標の使用態様をみても、「宇都宮餃子」の文字部分は「宇味家」の文字部分より、むしろ、小さな文字で表されており、本件商標と比べても、また、本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べても、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様ということもできないから、たとえ、各文字の太さや配置、縦書きか横書きかなどにおいて異なるところがあるとしても、自他商品の識別という本質的機能の観点からは、社会通念上、本件商標と異なるところがないから、必ずしも、専用権の範囲を逸脱したものということはできない。
ウ そうすると、少なくとも、被請求人が「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字からなる商標の使用(勘亭流と思しき太字で表した商標の使用を含む。以下同じ。)を開始し、本件商標の登録後に本件使用商標の使用をしているのは、故意に請求人又は請求人の構成員の業務に係る商品と混同させようとしたものということはできない。
2 商標権者は「他人の業務に係る商品と混同を生ずるもの」をしたか否かについて
(1)「宇都宮餃子」の文字について
本件商標、本件使用商標及び引用商標の構成中には「宇都宮餃子」の文字が含まれているところ、そのうちの「宇都宮」の文字が「栃木県中央部の市。県庁所在地。」を意味し(「広辞苑第六版」株式会社岩波書店)、また、「餃子」の文字が本件商標及び引用商標の指定商品並びに本件使用商標の使用に係る商品の普通名称である。そして、請求人の主張にもあるとおり、宇都宮市が餃子の町として知られている土地柄であることから、本来、「宇都宮餃子」の文字は、「宇都宮の餃子」程度の意味合いを認識させるものであり、本件使用商標の使用に係る商品である「ぎょうざ」との関係では、商品の産地、販売地又は品質を表すものといえるから、「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であることを前提にするならば、商標法第3条第1項第3号に該当し、商標登録を受けることができないものといえる。
なお、引用商標は、同号等の例外である同条第2項の適用によって商標登録されたものであり、そのことは、甲第2号証の1の引用商標の商標公報に「商標法第3条第2項適用」とあることからも裏付けられる。そして、請求人も、回答書(8頁)において、「引用商標が商標法第3条第2項の適用を受けて登録が認められたことを前提とすれば、引用商標は商標法第3条第1項第3号に該当すると貴庁が認定したことになる」旨述べている。
(2)商標法第26条第1項第2号の趣旨
商標法第26条第1項第2号によれば、商品の産地、販売地又は品質を普通に用いられる方法で表示する商標には、他の商標の一部になっている場合を含め、商標権の効力が及ばない旨規定されており、同法第3条第2項の適用によって商標登録された登録商標の商標権を除外するような規定も存在しないから、同項の適用によって商標登録された商標の商標権であっても、商品の産地、販売地又は品質を普通に用いられる方法で表示する商標には商標権の効力は及ばない。
(3)本件使用商標が出所の混同を生じさせるかについて
本件使用商標をみると、その構成中の「宇都宮餃子」の文字部分は、上述のとおり、「宇都宮の餃子」程度の意味合いを認識させ、商品の産地、販売地又は品質を表すものであり、その勘亭流と思しき太字も特異な文字とはいうことができない一般的なものといえる。
また、その使用態様をみても、上記1(1)ウのとおり、「宇都宮餃子」の文字部分は、本件使用商標の構成中の他の文字部分と比べて、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるということはできないものであり、むしろ、「宇味家」の文字部分が大きな文字で表され、看者に強い印象を与えるのは「宇味家」の文字部分といえる。
しかも、その「宇味家」の文字部分は、その構成中の「家」の文字が「○○家」のように他の文字を前に置いて屋号を意味するもの(「広辞苑第六版」株式会社岩波書店)であるから、その商品を販売する事業者の屋号を表すものとして認識されるものといえる。
そうすると、本件使用商標は、かかる態様の下では、看者の注意が大きく表された「宇味家」の文字部分に集まり、その商品の販売等をする事業者を表示する標章として認識されるとみるのが自然であり、一方の「宇都宮餃子」の文字部分は、その商品の出所を表示するというよりも、むしろ、「宇都宮の餃子」程度の意味を表すものとして、商品の産地、販売地又は品質を表すものと認識されるとみるのが自然といえるから、引用商標が商標法第3条第2項の適用によって商標登録されたものであることを勘案しても、本件使用商標に「宇都宮餃子」の文字が含まれていることをもって、需要者が請求人や請求人の構成員である旨を連想、想起するとはいうことができない。
したがって、本件使用商標は、出所の混同を生じさせるおそれがある商標ということができないから、商標権者が本件使用商標の使用によって「他人の業務に係る商品と混同を生ずるもの」をしたということはできない。
3 請求人の主張について
(1)本件商標の商標権に対する主張について
ア 請求人は、「引用商標は、団体商標に係る商標権であって、登録商標を指定商品(役務)について、その構成員(組合員)に使用させるために登録を認められたものであるが、被請求人は、請求人加盟する組合員ではない。また、請求人は、被請求人に対して、引用商標「宇都宮餃子」の使用を許諾したことはないから、被請求人には、引用商標「宇都宮餃子」をその指定商品(役務)について使用する権限はない。」旨(審判請求書23頁)主張している。
しかしながら、本件商標は、上記第1のとおり、その構成中に「宇都宮餃子」の文字を含み、被請求人を商標権者として、平成12年5月18日に登録出願、第30類「ぎょうざ」を指定商品として、同13年4月4日に登録査定、同年6月1日に設定登録されており、商標法第25条により、商標権者は、指定商品について登録商標の使用をする権利を専有しているのであって、商標権は、商標法上記1(1)イのとおり、商標登録の無効、取消等がない限り過誤登録等によって重複して併存しても制限されることはないものである。
そして、上記第6の1のとおり、商標法第51条第1項は、「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定しているのであって、登録異議申立てや無効審判請求のように、本件商標が登録要件を満たしていたか否か、不登録事由に該当していなかったか否かを審理するものではない。
したがって、商標権者である被請求人は、本件商標の商標登録の無効、取消等がない限り、指定商品である「ぎょうざ」について本件商標の使用をする権利を専有しているものであるから、請求人の上記主張は、採用することができない。
イ また、請求人は、「本件商標は平成12年5月18日に出願されたものであるのに対し、引用商標の先願日は平成12年5月17日であるから、少なくとも引用商標のほうが先願である。このように同時期に出願された先願商標(先願後登録)たる『宇都宮餃子』商標が請求人とその加盟店の周知な出所表示として存在する以上、被請求人としては、本件商標を使用するとしても、最低限、誤認混同がなるべく生じないよう、『宇都宮餃子』部分を強調することなく、本件商標をそのまま使用する等の配慮をすべきである。」旨(審判事件回答書7頁)及び「引用商標のほうが本件商標よりも先願である事実は、商標掲載公報や商標登録原簿で容易に確認できたはずである」旨(審判事件回答書14頁)も主張している。
しかしながら、上記1(1)イのとおり、引用商標は、わずか1日違いで本件商標より先願ではあるが、本件商標は引用商標より約9か月早く設定登録されたものであり、しかも、上記2(1)のとおり、「宇都宮餃子」の文字が、本来、「宇都宮の餃子」程度の意味合いを認識させるものであり、「ぎょうざ」との関係では、商品の産地、販売地又は品質を表すものであるから、たとえ、引用商標が商標法第3条第2項の適用によって商標登録されたものであっても、本件商標の登録出願時及び登録査定時、さらには、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の文字を勘亭流と思しき太字で表した商標の使用を開始した平成13年4月の時点においては、引用商標は未登録であり、商標掲載公報や商標登録原簿も発行されておらず、何人かの業務に係る商品であることを認識されるに至っていたかも明らかでないのであるから、引用商標が本件商標より先願であることをもって、直ちに商標権者に「故意」があったということができない。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
(2)本件使用商標の態様に関する主張について
ア 請求人は、「被請求人が使用している本件使用商標は、『宇都宮餃子』の部分のみ、色彩や文字の大きさが変更されていたり、他の表示部分から視覚上分離した位置に配置されるなど、『宇都宮餃子』を強調するように本件商標を改変したものである。また、本件使用商標を構成する『宇都宮餃子』の部分は、本件商標の手書き風の毛筆書体とは異なる書体でデザインされたものであり、本件商標と外観が大きく異なっているだけでなく、引用商標の『宇都宮餃子』と、非常によく似た印象を与えるものである。本件使用商標を使用したぎょうざに接した需要者が、そのぎょうざが、請求人に所属する加盟店(組合員)が製造・販売するぎょうざではないかと錯覚し、出所について誤認をするおそれは極めて高い。」旨(審判請求書25頁)主張し、さらに、「文字構成として『宇都宮餃子』、『元祖』及び『宇味家』の各文字が共通するとしても、例えば、本件使用商標2及び3にあっては、餃匠図形と『こだわりの餃子』の文字が、また、本件使用商標1、15及び16にあっては『こだわりの逸品』の文字がそれぞれ『元祖』及び『宇味家』の文字に付加結合された構成であるから、本件商標の専用権の範囲における使用ということはできない。その他、『宇都宮餃子』と『元祖』、『宇味家』の文字の色彩等を違えて表示している本件使用商標も、『宇都宮餃子』の文字部分を強調するような態様である。」旨(審判事件回答書9ないし11頁)主張している。
しかしながら、本件使用商標の態様は、上記第6の2(2)イ及び上記1(1)のとおり、少なくとも、自他商品の識別という本質的機能の観点からは、社会通念上、本件商標と異なるところがないものであり、しかも、「宇都宮餃子」の文字部分を強調するような態様であるということはできないものである。
特に、請求人は、本件使用商標のうちのいくつかについて、餃匠図形や「こだわりの逸品」の文字が付加されている旨を主張するが、そもそも、本件商標は、別掲1のとおり、「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の漢字が3列に縦書きしてなるものであり、各文字が分離した態様で構成されているものであって、請求人が指摘するこれらの本件使用商標においても、餃匠図形や「こだわりの逸品」の文字が付加されているとしても、それが「宇都宮餃子」、「元祖」及び「宇味家」の各文字と一体のものとして結合しているものでなく、それぞれが分離した態様で構成されているものとして把握、認識されるものであるから、少なくとも、自他商品の識別という本質的機能の観点からは、社会通念上、本件商標と異なるところはなく、しかも、餃匠図形や「こだわりの逸品」の文字が付加されたことをもって、「宇都宮餃子」の文字部分が強調されて需要者に認識されるということもできない。加えて、本件使用商標の「宇都宮餃子」の文字部分は、上記2(3)のとおり、商品の産地、販売地又は品質を表すものと認識されるとみるのが自然なものである。
したがって、商品の出所について誤認をするおそれが極めて高いとの請求人の主張は、採用することができない。
イ 請求人は、上記アのとおり、「本件使用商標を構成する『宇都宮餃子』の部分は、引用商標の『宇都宮餃子』と非常によく似た印象を与えるものである。」として、出所について誤認をするおそれは極めて高いと主張しているところ、商標法第51条において引用し得る商標が登録商標に限定されない趣旨を踏まえれば、引用商標も登録した態様でなく、引用商標の使用態様とを比較する必要がある一方で、引用商標について、その周知性を証するための証拠の多くが新聞や雑誌等の第三者が刊行した情報等であって、団体商標でありながら、請求人の構成員の使用態様が明らかになっていないため、当審においては、審尋によってその旨を指摘して、請求人の構成員の使用態様を明らかにすることを求めたが、請求人は、一転して「引用商標は、書体にこだわるべき商標でなく、引用商標と同一書体の『宇都宮餃子』にとどまらず、これ以外の書体や態様で使用された場合にも自他商品等識別力を有するようになっているというべきであり、最高裁の判例(最高裁昭和55年(行ツ)第139号(甲21))からすれば、商標の構成や文字の書体を問題にすべき根拠は希薄である。」旨主張し、引用商標の使用態様を明らかにするところがなかった。
したがって、本件使用商標と引用商標の使用態様は比較することができないから、上記請求人の主張は、かかる観点からも、採用することができない。
(3)「元祖」に関する主張について
請求人は、本件使用商標が出所の混同を生じさせる理由において、請求人の悪質性を明らかにするとして、「本件使用商標について、請求人が構成員に対しても使用を禁じている『元祖』の文字を含んでおり、自らが宇都宮餃子を代表するかのような表示をしている。」旨(審判請求書24頁)さらには、「『宇都宮餃子』の『元祖』であるとの誤認を生じさせようという被請求人の意図があることは明らかである。」旨(審判事件回答書6頁)主張している。
しかしながら、上記第6の2(3)のとおり、「元祖」の文字は引用商標に含まれておらず、引用商標との関係において本件使用商標が出所の混同を生ずるものであるか否かに関係するものとは考え難い。他方、被請求人にとっては、本件商標が登録商標であることを前提にするならば、本件商標に「元祖」の文字が含まれ、商標法第25条により、その本件商標の使用をする権利を専有しているのであって、かえって、「元祖」の文字を除いて使用することは、本件商標の使用ではなくなり、本件商標の専用権の範囲を逸脱するおそれがあるものといえる。しかも、請求人が主張する甲第16号証のウェブサイトも、作成者が不詳のものであって、被請求人のサイトのものではない。
また、本件使用商標においては、「元祖」の文字は「宇味家」の文字の近くに配置されたり、「宇味家」の文字と同じ色合いで表されており、「宇都宮餃子」の文字と関連付けて表示されているというよりも、「宇味家」の文字と関連付けて表示されていると看取されるものであり、被請求人が「宇都宮餃子」の「元祖」であるとの誤認を生じさせようとしているとの請求人の主張は、直ちに受け容れることはできない。
そうすると、請求人の主張は、直ちに受け容れることはできないものであり、その主張をもって、被請求人が「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをした」とすることはできない。
4 むすび
以上のとおり、商標権者による本件使用商標の使用は、故意に他人の業務に係る商品と混同を生じるものであるとはいうことができないから、商標法第51条第1項の要件に該当しないものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第51条により、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 本件商標


別掲2 引用商標



別掲3 本件使用商標1(色彩は審判請求書の原本参照)



別掲4 本件使用商標2(色彩は審判請求書の原本参照)



別掲5 本件使用商標6(色彩は審判請求書の原本参照)



別掲6 本件使用商標8(色彩は審判請求書の原本参照)



別掲7 本件使用商標10(色彩は審判請求書の原本参照)



別掲8 本件使用商標14(色彩は審判請求書の原本参照)



別掲9 本件使用商標18(色彩は審判請求書の原本参照)



別掲10 本件使用商標19(色彩は審判請求書の原本参照)



別掲11 本件使用商標23(色彩は審判請求書の原本参照)



別掲12 本件使用商標39(色彩は審判請求書の原本参照)


審理終結日 2016-03-04 
結審通知日 2016-03-10 
審決日 2016-03-25 
出願番号 商願2000-54092(T2000-54092) 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (Z30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩本 和雄 
特許庁審判長 大森 健司
特許庁審判官 林 栄二
中束 としえ
登録日 2001-06-01 
登録番号 商標登録第4478511号(T4478511) 
商標の称呼 ウツノミヤギョーザガンソウミヤ、ガンソウミヤ、ウミヤ、ウミ、ウツノミヤギョーザ 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 大村 麻美子 
代理人 阪田 至彦 
代理人 田中 克郎 
代理人 西口 徹 
代理人 福田 信雄 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 中村 勝彦 
代理人 岩崎 泰一 

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