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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない W091641
審判 全部無効 外観類似 無効としない W091641
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない W091641
審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効としない W091641
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W091641
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W091641
審判 全部無効 観念類似 無効としない W091641
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W091641
審判 全部無効 商15条1項2号条約違反など 無効としない W091641
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W091641
管理番号 1323628 
審判番号 無効2016-890002 
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-01-04 
確定日 2016-12-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第5597437号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5597437号商標(以下「本件商標」という。)は,「空飛ぶ犬」の文字と「そらとぶいぬ」の文字を上下二段に書してなり,平成25年2月13日に登録出願,第9類「インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,映写フィルム,スライドフィルム,電子出版物」,第16類「紙類,文房具類,印刷物,写真」及び第41類「セミナーの企画・運営又は開催,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,写真の撮影」を指定商品及び指定役務として,同25年6月4日に登録査定,同年7月12日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が,本件商標の無効の理由に引用する登録商標は,以下の3件であり,いずれも現に有効に存続しているものである。なお,これらをまとめて「引用商標」という場合がある。
1 登録第5226999号商標(以下「引用商標1」という。)は,「飛行犬」の文字を横書きしてなり,平成19年12月13日に登録出願,第41類「写真の撮影及び写真の撮影に関する情報の提供,写真撮影会の企画・運営又は開催,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術品の展示,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),写真撮影用・音響用又は映像用のスタジオの提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,図書の貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,デジタル画像データーを記憶させた記録媒体の貸与,写真撮影用機器の貸与」を指定役務として,同21年5月1日に設定登録されたものである。
2 登録第5410417号商標(以下「引用商標2」という。)は,「飛行犬」の文字を横書きしてなり,平成22年5月12日に登録出願,第16類「紙類,文房具類,印刷物,写真」を含む第16類及び第24類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として,同23年5月13日に設定登録されたものである。
3 登録第5429537号商標(以下「引用商標3」という。)は,「飛行犬」の文字を横書きしてなり,平成23年2月3日に登録出願,第9類「家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」を指定商品として,同23年8月5日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第67号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求人について
請求人は,平成16年(2004年)12月に設立された会社であり,平成17年(2005年)4月に,兵庫県南あわじ市にドッグラン場を開設し,同年秋に,「空を飛んでいるかのような犬」の写真撮影に成功し,当該写真サービスを開始しており,撮影した犬は,前後の足が地面から離れて空中を飛んでいるように見えることから,元祖飛行犬写真家の「的場信幸」が「飛行犬」と命名したものである(甲1)。
そして,請求人は,「南あわじドッグラン・飛行犬撮影所」の名称を使用して営業しているものであり(甲2),平成23年3月末において,あわじ支部に,「的場信幸」,「沼田浩孝」が配属し,東京支部に,「栗林範幸」,「江西伸之」が配属し,伊豆支部,神戸支部,岡山支部,福岡支部が存在する(甲3)。
一方,被請求人は,平成23年3月より,請求人の「飛行犬撮影所」の本部と東京支部に関わりを持つようになり,平成24年(2012年)6月に正式に本部兼東京支部に属しており,遅くとも平成24年4月23日には,請求人の「飛行犬撮影所」の本部兼東京支部に属して活動していた(甲5)。
さらに,被請求人は,請求人の「飛行犬撮影所」から退会する直前に,遅くとも平成25年(2013年)3月12日に,ホームページ「スタジオ そら飛ぶ」で,「空を飛んでいるかのような犬の写真の撮影,写真,印刷物,電子出版物等」を需要者,取引者に提供している(甲6)。
2 商標法第46条第1項第3号について
請求人は,平成23年頃に,「空を飛んでいるかのような犬」の写真集の出版を企画し,全国で撮影した写真を編集し,管理し,平成24年1月21日に,タイトルを「そら飛ぶいぬ」とし,出版社を「宝島社」として,「ひこうけん写真集」を出版し,インターネット上の楽天ブックスで,発行日を平成24年2月として,日本全国販売した(甲7)。さらに,インターネット上のAmazonでも,出版日を平成24年1月21日として,日本全国販売した(甲8)。
タイトルが「そら飛ぶいぬ」である「ひこうけん写真集」では,STAFFの撮影の欄に,元祖飛行犬写真家の「的場信幸」の他に,カメラマンの「江西伸之」が記載され,編集の欄に,「雨宮由佳」(雨プロ)が記載されており,「空を飛んでいるかのような犬」の写真のそばに,「そら飛ぶいぬ」と大きく記載され,「ひこうけん写真集」と小さく記載され,「空を飛んでいるかのような犬」の写真が,「そら飛ぶいぬ」及び「飛行犬」であることを示しており,平成24年2月4日を第一刷発行としている(甲9)。
この「そら飛ぶいぬ」の「ひこうけん写真集」の出版に当たり,メールのやり取りでは,平成23年12月8日において,被請求人が,総合企画として携わっており,請求人と「雨宮由佳」との仲介役として関係していた(甲10)。
また,「そら飛ぶいぬ」の「ひこうけん写真集」の出版に当たり,平成24年3月25日には,「『そら飛ぶいぬを撮影するには?』ライブレポート:僕はスーパーワン(マン!?)今話題の『そら飛ぶいぬ』誕生秘話(12.3/25開催)」というイベントを開催しており(甲11),そこには,「的場信幸」,「江西伸之」カメラマンが参加し,「そら飛ぶいぬ」と「飛行犬」が同義で取り扱われている。
一方,請求人と被請求人は,平成25年1月30日において,「飛行犬」の撮影会に関する著作権や商標使用,著作権管理について,衝突している(甲12)。そして,被請求人は,突如,平成25年2月28日に退会すると申し出たため,請求人は,遅くとも平成25年3月1日に,請求人の飛行犬商標管理者から,本件商標の出願日の後である平成25年2月28日に,飛行犬ブランドの使用についての契約期間を満了することを被請求人に通告し,被請求人は,その通告を受けた(甲13)。
ところが,被請求人は,契約期間満了前の平成25年2月13日に,「ひこうけん写真集」のタイトル「そら飛ぶいぬ」と同等又は類似する本件商標を出願している(甲4)。
請求人は,被請求人に対して,その商標登録出願の際に,所有する登録商標の「飛行犬」及びこれに類似する商標の出願,使用を当然に許可していない。
そうすると,「ひこうけん写真集」のタイトル「そら飛ぶいぬ」と同等又は類似する本件商標の商標登録出願により生じた権利を有する者は,本来,「ひこうけん写真集」の企画から,出版,販売までを手掛けた請求人であって,被請求人は,その商標登録出願により生じた権利を承継しない者であるのは,明らかである。
したがって,本件商標は,「その商標登録がその商標登録出願により生じた権利を承継しない者の商標登録出願に対してされたとき」に該当し,商標法第46条第1項第3号に該当する。
3 商標法第3条第1項第3号,同項第6号及び同法第4条第1項第16号について
(1)「空飛ぶ犬」及び「そらとぶいぬ」について
以下の事実から,被請求人の「栗林範幸」が「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」の本の出版に深く関与しており,本件商標が,本のタイトルの「そら飛ぶいぬ」の構成を,単に「空飛ぶ犬」と「そらとぶいぬ」とに変換し,これらを上下二段併記で横書きしたものであり,本件商標の全体として文字以外の特段の特徴が見られないことから,本件商標は,被請求人により創作されたものでないことは明らかである。
ア 「空飛ぶ犬」及び「そらとぶいぬ」とは,「空を飛んでいるかのような犬」であることを端的に表すために使用される略称である。
「空飛ぶ犬」及び「そらとぶいぬ」が普通名称として一般に使用されるようになったのは,請求人が,「空を飛んでいるかのような犬」の写真撮影に成功し,当該写真サービスを開始してからであり,平成25年,各種マスメディアに取り上げられたり,「空を飛んでいるかのような犬」の写真集を出版したりすることで,「空を飛んでいるかのような犬」の写真撮影のジャンルが形成され,一般消費者に普及された(甲14)。
イ NHKニュースウオッチ9では,請求人の飛行犬撮影所が,平成22年(2010年)10月18日に全国放送され,その紹介映像には,「人気!“空飛ぶ犬”その秘密とは・・・」及び「飛行犬」の文字と,「空を飛んでいるかのような犬」の写真が掲載されている(甲15)。
ウ 神戸新聞には,請求人の飛行犬撮影所が,平成23年5月10日に,昨年1年間で撮影した2000匹以上の犬を掲載した写真集の紹介記事が示され,その紹介記事には,「“空飛ぶ”犬の写真集」の見出しの下,「犬が滑空しているような躍動感あふれる写真」などと記載されている(甲2)。
エ インターネット上の楽天ブックス,Amazonには,タイトルが「そら飛ぶいぬ」の「ひこうけん写真集」が掲載され(甲7,甲8),この写真集の表紙には,「空を飛んでいるかのような犬」の写真が大きく掲載されている。このタイトルが「そら飛ぶいぬ」の「ひこうけん写真集」は,全国各地の書店及びインターネットを通じて全国販売されており,平成24年6月4日において,初版部数(第一刷発行)が15000冊である(甲16)。
オ 請求人の「的場信幸」は,平成17年(2005年)から平成23年(2011年)までの6年間で12000頭の「空を飛んでいるかのような犬」の写真を撮影し,一般消費者に提供している(甲17)。
カ インターネットの検索サイトGoogleで,「空飛ぶ犬2011」をキーワードとして検索すると,「空を飛んでいるかのような犬」の写真画像や「空飛ぶ犬」,「飛行犬」の文字が表示される(甲18)。また,インターネットの検索サイトGoogleで,「そらとぶいぬ 2011」をキーワードとして検索すると,「空を飛んでいるかのような犬」の写真画像や「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」,「空飛ぶ犬」,「飛行犬」の文字が表示される(甲19)。
キ 2008年4月26日,27日に,京セラドームでペット・イベント「みんな大好き!ペット王国2008」が開催され,「空を飛んでいるかのような犬」の写真が掲載され,飛行犬撮影コーナーが開設され,「みんな大好き!ペット王国2008」の前売チケットは,サークルK・サンクスで販売されていた(甲43の1)。
2008年5月1日に,第三者の「リオと夢ミル」さんのブログに,「みんな大好き!ペット王国2008」のイベントの様子が掲載され,そこには,「うちの犬(コ)が飛ぶ!飛行犬撮影会」の横断幕が設置されていた(甲43の2)。
2009年5月2日,3日,4日に,京セラドームでペット・イベント「みんな大好き!ペット王国2009」が開催され,「空を飛んでいるかのような犬」の写真が掲載され,飛行犬撮影コーナーが開設され,「みんな大好き!ペット王国2009」の前売チケットは,電子チケットぴあ,ローソンチケット,イープラス,CNプレイガイド等で販売されていた(甲43の3)。
「みんな大好き!ペット王国2008」の入場者数は38347名であり,「みんな大好き!ペット王国2009」の入場者数は47026名であった(甲43の4)。
ク MESA 犬の総合施設 MESA風太郎のHPには,掲載日が2008年3月19日において,MESA風太郎最大級イベント「飛行犬撮影会!!?with南あわじドッグラン?」,「みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?あの『空飛ぶ犬』で有名な淡路にある飛行犬撮影所とMESA風太郎の海辺がコラボ致します」と記載されている(甲44)。
ケ 2008年4月16日(水)ドッグランフィールドin大阪,2008年4月19日(土)六甲山飛行犬撮影,2008年5月6日(火)ホワイトロートス,2008年5月8日(木)ドッグラン&カフェ「Casa de Perro」,2008年5月16日(金),17日(土),18日(日)ディニーズガーデン,2008年5月24日(土)六甲山カンツリーハウス,2008年5月25日(日)ひょうごアニマルサークル,2008年8月9日(土)?17日(日)DOG Vacation,2008年8月23日(土),24日(日)Field Dogs Garden,2009年7月19日(日),20日(日)DOGRUN CAFE ひなたぼっこ,2010年4月3日(土),4日(日)のチラシには,「うちの犬(コ)が飛ぶ!飛行犬撮影会」と「空を飛んでいるかのような犬」の写真画像が記載されている(甲45)。
コ 2011年11月4日,2012年3月12日,2012年10月2日の愛犬の友が発信する犬の総合情報サイトでは,「『飛行犬』というワンちゃんがまるで空を飛んでいるかのように見える写真」と「空を飛んでいるかのような犬」の写真画像が記載されている(甲46の1)。
そして,2012年11月14日のanimal doctorのペットニュースでは,「わんちゃんが空を飛ぶ!スーパー飛行犬撮影会in東京夢の島マリーナ」と「『飛行犬』というワンちゃんがまるで空を飛んでいるかのように見える写真」と「空を飛んでいるかのような犬」の写真画像が記載されている(甲46の2)。
さらに,飛行犬撮影会 IN P2久山典DOG RUNのサイトでは,2010年4月,2010年10月,2011年4月で行われた「空を飛ぶ犬!飛行犬撮影会」と記載されている(甲46の3)。
サ 2011年2月号,台湾日本語学校の教科書に,「飛行犬」と「空飛ぶ犬」が同義で紹介されている(甲47)。
シ 2012年9月19日の毎日新聞に,「東北のワンちゃんたち」として,「空を飛んでいるような犬の写真」あるいは「空を飛ぶ犬の写真」が紹介され,これらの写真は,2012年6月17日に東日本大震災の被災地・仙台市青葉区のドッグランで撮影したものであり,そのときの地方新聞でも,「飛行犬」,「空飛ぶ犬」等が紹介されている(甲48)。
ス 2013年2月26日に,読売新聞社の読売ライフへの掲載について取材協力の依頼があり,この発行部数は,本版,京滋版,兵庫版,中国版,四国版の合計約181万部である(甲49の1)。
2013年6月号の読売新聞の読売ライフには,元祖飛行犬写真家「的場信幸」と,「空を飛ぶ犬の写真」と,「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」の紹介が掲載され,2013年8月号には,元祖飛行犬写真家「的場信幸」と,「空を飛ぶ犬の写真」が紹介されている(甲49の2)。
セ 2013年6月25日のmsn産経ニュースのトップページに,「可愛すぎ!“空飛ぶ犬”が大人気」というタイトルで「飛行犬」,「空飛ぶ犬」等が紹介され「約8年前に誕生し,インターネットで『飛行犬』と検索すれば,700万件以上ヒットする。」と記載されている(甲50)。
ソ 2011年11月2日に,「的場信幸」が,株式会社宝島社(以下「宝島社」という。)の園部氏と,ポメラニアンの俊介くんの話で,アポを取り,2011年11月17日に,宝島社で飛行犬の写真集の出版の決定がなされた。その際には,被請求人が,宝島社への「飛行犬」の写真の用意に携わっており,その後,請求人と宝島社との仲介役として関与している。被請求人の「栗林範幸」の立場は,株式会社総合企画の社員及び飛行犬撮影所本部の人員(後に,東京支部長)であり,メールで頻繁にやり取りしている。そして,本のタイトルは,「そら飛ぶいぬ」と決定され,2012年1月16日で,本が完成し,2012年1月21日に出版されている。そして,チラシには,「そら飛ぶいぬ」,「宝島社刊 全国の書店&ネット書店で絶賛発売中」との記載があった(甲51)。
(2)本件商標について
ア 本件商標は,「空飛ぶ犬」と「そらとぶいぬ」を上下二段併記で横書きしてなるものであり,「空を飛ぶ犬」あるいは「空を飛んでいるかのような犬」の意味合いで容易に認識されるが,現実に「空を飛ぶ犬」は存在しないことから,「空を飛んでいるかのような犬」の意味合いで容易に認識,理解され,それ以外の意味で,これが理解されることはあり得ない。
イ 本件商標は,本件商標の指定商品あるいは指定役務中,「空を飛んでいるかのような犬の(以下「同」と簡略する。)画像ファイル,同映写フィルム,同電子出版物,同印刷物,同写真,同セミナーの企画・運営又は開催,同動物の供覧,同電子出版物の提供,同図書及び記録の供覧,同図書の貸与,同書籍の制作,同写真の撮影」等に使用するときは,その品質あるいは質を表示するに止まり,自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。
ウ 本件商標は,「空を飛んでいるような犬の写真」あるいは「空を飛ぶ犬の写真」等の指定商品又は指定役務以外の指定商品又は指定役務に使用した場合,例えば,「空を飛んでいるかのような猫の写真」あるいは「空を飛ぶ猫の写真」等に使用した場合は,当然に,商品の品質等の誤認を生ずるおそれがある。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に該当する。
エ 本件商標の構成文字中の「空飛ぶ犬」と「そらとぶいぬ」は,「空を飛んでいるかのような犬」の写真撮影のジャンルが形成され,一般消費者に普及されたため,比較的親しまれている語といえるものであり,本件商標に接する需要者・取引者は,全体として,「空を飛ぶ犬」あるいは「空を飛んでいるかのような犬」の意味合いを表したものとして理解するに止まるから,本件商標は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第6号に該当する。
オ 以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項第3号,同項第6号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものである。
4 商標法第4条第1項第10号について
(1)「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の周知性について
ア 請求人は,未登録商標「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」を用いて,平成17年から,遅くとも平成23年までの6年間で12000頭の「空を飛んでいるかのような犬」の写真を撮影し,一般消費者に提供し,各種,メディアに紹介され,タイトルが「そら飛ぶいぬ」の「ひこうけん写真集」を少なくとも15000冊,出版し,全国販売している(甲2,甲7ないし甲9,甲11,甲14ないし甲19)。
これに対し,被請求人は,インターネット上の掲載の意味,販売部数の不明さ等を主張するが,「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」の現実の販売部数は不明であるものの,「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」が全国の書店で販売されたのは事実であり,全国書店に並ぶ最小限の部数の15000部は印刷され,それに近い数の販売数はある。また,「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」のインターネット上の販売は,一例である。
また,被請求人は,請求人における写真家「的場信幸」が,2016年6月に,宝島社の当時の担当責任者の「園部」氏と電話で話したところ,本のタイトルが「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」になった経緯について,宝島社の本の販売戦略の一環として,「飛行犬写真集」というタイトルには硬いイメージがあり,また,請求人は,既に1年間の飛行犬撮影会に参加した飛行犬の写真集を出版していることから,軟らかいイメージの「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」にタイトルを決定したのであるが,宝島社は,請求人が飛行犬撮影の時に「飛行犬」という言葉の補助的な言葉として使用していた「そら飛ぶいぬ」を参考にして決定したものとのことである(甲52)。
イ 請求人は,平成20年から現在まで,日本各地で,「飛行犬撮影会」を開催し,「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物等」を需要者,取引者に提供している(甲20ないし甲24)。この「飛行犬撮影会」に関するチラシは,16300枚程,需要者,取引者に配布している(甲25)。
ウ 「飛行犬」は,「あたかも空を飛んでいるような犬の写真」とともに,「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」として説明される(甲11,甲15)。
つまり,請求人は,本件商標の登録出願時よりも前に,「飛行犬」についての写真集出版,撮影会の開催を継続して実施し,多数のメディアから紹介され,「飛行犬」及び「あたかも空を飛んでいるような犬の写真」の内容を端的に示す未登録商標「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」を,「空を飛んでいるかのような犬の写真の撮影,写真,印刷物,電子出版物等」の商品,役務に継続して使用している。
これに対し,被請求人は,「飛行犬撮影会」の1回当たりの参加者数が少なく,規模が小さく,広告も限られた範囲での実施と主張するが,大規模での「飛行犬撮影会」が行われた実績はあり(甲43),その結果,「みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?あの『空飛ぶ犬』で有名な淡路にある飛行犬撮影所とMESA風太郎の海辺がコラボ致します♪」(甲44)と第三者が,「空飛ぶ犬」及び「飛行犬」の周知性を認めている。
エ そのため,非常に多くの需要者,取引者に,「飛行犬」,「空飛ぶ犬」,「そら飛ぶいぬ」,「あたかも空を飛んでいるような犬の写真」は広く知られており,未登録商標「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の文字は,本件商標の登録出願時及び査定時に,我が国において,請求人が取扱う「空を飛んでいるかのような犬の写真の撮影,写真,印刷物,電子出版物等」の商品,役務であることを表示する商標として一地方又は全国的に周知となっていた。
(2)本件商標と未登録周知商標との関係について
本件商標は,「空飛ぶ犬」と「そらとぶいぬ」を上下二段併記で横書きしてなるものであるのに対し,未登録周知商標は,「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」を書してなるものである。
そのため,本件商標と未登録周知商標の外観は全部又は一部で共通し,「ソラトブイヌ」の称呼と,「空を飛ぶ犬」の観念とは,いずれも全部で一致している。
したがって,本件商標と未登録周知商標の外観,称呼,観念は,全体として同一又は類似しているから,両商標は,同一又は類似するというべきである。
(3)指定商品あるいは指定役務が同一又は類似であること
未登録周知商標は,請求人の「空を飛んでいるかのような犬の写真の撮影,写真,印刷物,電子出版物等」の商品,役務に使用されていることから,本件商標の指定商品及び指定役務と共通している。
したがって,本件商標の指定商品及び指定役務は,未登録周知商標の商品及び役務と同一又は類似である。
そうすると,本件商標は,全指定商品について,請求人の業務に係る商品あるいは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品又はこれらに類似する商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。
5 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用商標の類似について
本件商標は,「空飛ぶ犬」と「そらとぶいぬ」を上下二段併記で横書きしてなるものであり,「ソラトブイヌ」の称呼を生じ,その観念は,「空を飛ぶ犬」を想起させるものである。
これに対し,引用商標は,「飛行犬」の文字を書してなるところ,この文字は,「飛行」と「犬」との組み合わせたものと容易に理解させるものであり,「ヒコウケン」の称呼を生じ,その観念は,「飛行する犬」,「空を飛ぶ犬」を想起させるものである。
本件商標と引用商標との類否について,外観では,「飛」,「犬」の文字を共通して有している。また,称呼では,異なるものの,観念においては,「空を飛ぶ犬」と共通した観念が生じる。
そうすると,本件商標と引用商標とは,共に「飛」,「犬」の外観を共通にし,「空を飛ぶ犬」の観念を共通にするものであるため,本件商標は引用商標と類似する。
(2)取引の実情について
被請求人は,平成25年2月5日に,HP「スタジオ そら飛ぶ」を運営し(甲29),その指定役務について,平成25年2月4日に,「飛行犬撮影所東京支部として活動後,平成25年2月に飛行犬撮影所を脱退・独立し,「スタジオ そら飛ぶ」を設立した。
「撮影会では,お客様の愛犬が元気に走る姿を高速連写し飛んでいるような写真など,なかなか撮る事ができない様な写真を高画質で撮影します。」等の「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物」等を需要者,取引者に提供していた(甲30)。
さらに,被請求人は,平成25年3月28日において,平成25年4月15日に,自身が「飛行犬撮影会東京支部」で活動していた平成24年頃に撮影した「あたかも空を飛んでいるような犬の写真」を纏めた「空飛ぶ犬たち写真集 2013」を全国一斉販売した(甲31)。
そして,平成27年12月15日,継続して,HP「スタジオ そら飛ぶ」を運営し(甲32),HP「スタジオ そら飛ぶSTORE」で,「あたかも空を飛んでいるような犬の写真」の写真集「空飛ぶ犬たち2015」,ポスターカレンダー,写真,パネル,データ等を販売している(甲33)。
これに対し,請求人は,引用商標の「飛行犬」を「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物等」に,平成16年12月から現在まで継続して使用している。
そして,被請求人の提供している「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物」は,請求人の提供している「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物」とほぼ同等である(甲29ないし甲33)。
そうすると,本件商標と引用商標のそれぞれの指定商品,指定役務について,需要者の範囲が共通し,本件商標と引用商標の取引の実情は,同一又は類似している。
してみれば,本件商標と引用商標は,少なくとも観念を共通にし,一部,外観を共通にするとともに,それぞれの指定商品,指定役務も共通し,取引の実情も同一又は類似していることから,本件商標と引用商標は,類似する。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。
6 商標法第4条第1項第15号について
(1)本件商標と未登録周知商標及び引用商標との関係
本件商標は,「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字と類似であり,「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字は,上述のように,請求人の業務に係る商品及び役務を表すものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において,広く認識されている。
また,本件商標と引用商標とは,類似しており,引用商標は,請求人の業務に係る商品及び役務を表すものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において,広く認識されている。
そうすると,商標権者が本件商標をその指定商品及び指定役務について使用すると,これに接する取引者,需要者が,請求人の未登録周知商標又は引用商標を連想,想起するものであり,本件商標は,請求人又はこれと何等かの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのごとく,商品及び役務の出所について混同を生じさせるおそれがある。
(2)出所混同のおそれ
出所混同があった事実(甲37ないし甲41,甲55の1ないし5)は,需要者,取引者が,明らかに,「飛行犬撮影会」と「そら飛ぶ撮影会」との間に緊密な営業上の関係にある営業主の業務に係る役務等であると誤信しており,本件商標は,請求人又はこれと何等かの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのごとく,商品及び役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるといえる。
そうすると,本件商標は,他人の業務に係る商品及び役務と出所の混同を生じさせるおそれがあり,他人の周知商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招来する商標であるから,商標法第4条第1項第15号に該当する。
7 商標法第4条第1項第19号について
(1)本件商標と未登録周知商標及び引用商標との関係
引用商標並びに「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字は,請求人の業務に係る商品及び役務を表示する商標として,我が国の需要者の間に広く知られていたと認めることができ,本件商標と引用商標とは,類似の商標と認められる。
(2)不正の目的
ア 被請求人は,現在,「スタジオ そら飛ぶ」を運営し,「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物等」を需要者,取引者に提供している。
ここで,平成24年4月27日では,被請求人は,請求人の運営する「飛行犬撮影所」の本部兼東京支部として所属し,平成24年4月29日?30日に「すいらんグリーンパーク」で「すいらんグリーンパーク撮影会」を「飛行犬撮影会」として開催し,「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物等」を需要者,取引者に提供している(甲42)。
一方,飛行犬ブランドの使用についての契約期間満了日(平成25年2月28日まで)の後の平成25年3月12日では,被請求人は,甲6号証に示すように,「スタジオ そら飛ぶ」のHPで,平成25年4月28日?29日,5月3日?6日に「すいらんグリーンパーク」で「撮影会inすいらんグリーンパ-ク」を開催し,「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物等」を需要者,取引者に提供している。
つまり,「飛行犬撮影会」の開催場所「すいらんグリーンパーク」と「スタジオ そら飛ぶ」の撮影会の開催場所が同一である。
イ さらに,被請求人は,「飛行犬撮影所」のカメラマン「江西伸之」を請求人から引き抜き,「スタジオ そら飛ぶ」の専属カメラマンとしている。
すると,需要者,取引者にとって,被請求人と,請求人とは,形式的には別人であるものの,「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物等」の提供者として,実質的には同じ主催者であるか又は極めて密接な関係にある者と認識されるものである。
ウ さらに,被請求人と請求人とは,いずれも「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物等」の提供を事業目的とし,それらを取り扱っていることから,被請求人は,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,請求人の未登録周知商標,引用商標に関連する事情に精通し,未登録周知商標及び引用商標又は請求人の存在を熟知していたものと推認される。
特に,被請求人は,「スタジオ そら飛ぶ」のHPで,「飛行犬撮影所東京支部として活動後,2013年2月に飛行犬撮影所を脱退・独立し,『スタジオ そら飛ぶ』を設立。」等を掲載しているものの,被請求人が「飛行犬撮影所」の本部兼東京支部として活動し,「飛行犬撮影会」を開催した同一の場所で,時を異にして「あたかも空を飛んでいるような犬の写真の撮影,写真,電子出版物等」を提供する撮影会を開催していることを考慮すると,被請求人が,「飛行犬撮影所」の本部兼東京支部における需要者,取引者を自身の顧客として取り込んでいると推認される。特に,淡路から東京を管理することは,地理的に非常に困難である。
エ 被請求人のHPを確認すると,2013年2月1日に「リンク」,3日に「よくある質問」を掲載しており,契約期間中であるにもかかわらず,請求人の事業コンセプトの実行を準備していた(甲60)。このような行為は,正に,請求人及び飛行犬撮影所の各支部に対する裏切り行為である。
さらに,被請求人は,請求人から,2013年5月10日に,「空飛ぶ犬たち」という書籍の販売について,著作権侵害とし,少なくとも通知日の2013年6月7日まで,「飛行犬撮影」という表現を使用し,被請求人主催の撮影会のチラシを,飛行犬撮影所の東京支部が用いていたものと全く同じデザインで用いていることについて,不正競争防止法第2条第1項第13号の誤認表示を指摘されている(甲62)。
このような事実から,被請求人が,請求人からの指摘により,やむなく,現在の表示に変更したのであって,被請求人が,積極的に,請求人と無関係であることを強調したものではない。
オ 2016年6月19日において,被請求人の「スタジオ空飛ぶ」のfacebookのトップページに,二匹の犬の飛行犬の写真が掲載されているが(甲64),この写真は,「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」の31頁に掲載されている写真と同じ日に撮影されたもので,二匹の犬の客体が同一である(甲65)。また,この二匹の犬の飛行犬の写真は,請求人が著者のEAST JAPAN EDITION 2012 飛行犬写真集に掲載されているものでもある。この飛行犬写真集には,飛行犬の定義として,「ワンちゃんが全力疾走する際,四本足全てが地面から離れ,宙に浮いてあたかも空を飛んでいるように見える写真のこと。」と記載され,この撮影に「江西伸之」と編集に被請求人の「栗林範幸」が掲載されている(甲66)。つまり,被請求人は,二匹の犬の飛行犬の写真について,請求人に何ら許可を得ずに,無断に使用している。
カ そうすると,被請求人は,請求人の未登録周知商標の「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」,引用商標の「飛行犬」と酷似した本件商標を選択し,さらには,本件商標を,未登録周知商標,引用商標に近づけるように変更して,未登録周知商標,引用商標と同様の方法で使用しているものというべきであり,結局,未登録周知商標,引用商標に蓄積された名声,信用,顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)し,不正の利益を得る目的,請求人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を使用するものと推認される。
したがって,本件商標は,他人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている他人の未登録周知商標,引用商標と類似のものであり,それを不正の目的をもって使用するものであるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。
1 商標法第46条第1項第3号について
商標法第46条第1項第3号は,「その商標登録が第5条第5項に規定する要件を満たしていない商標登録出願に対してされたとき。」と規定されているところ,本件商標登録は,明らかに商標法第5条第5項に規定する要件を満たしていない商標登録出願に対してされたものではないため,請求人の当該主張は失当である。
なお,請求人は,請求の理由について商標法第46条第1項第4号と誤認しているものと思われる。
しかし,本件商標登録は,被請求人の出願により生じた権利に基づいているものであることから,仮に商標法第46条第1項第4号であると仮定した場合であっても,請求人の当該主張は失当である。
よって,本件商標登録は,商標法第46条第1項第3号又は同法第46条第1項第4号の規定により無効とされるものではない。
2 商標法第3条第1項第3号,同項第6号及び同法第4条第1項第16号について
(1)本件商標は識別力が認められること
本件商標は,「空飛ぶ犬」及び「そらとぶいぬ」の文字列からからなるところ,「空」「そら」,「飛ぶ」「とぶ」及び「犬」「いぬ」は,一般的な名詞又は動詞であるから,これからは「空を飛ぶ犬」との具体的,直接的な観念が生ずるところ,仮にこれが「現実に存在しない」ものであっても,語句の観念は現実に存在するか否かとは別に生じるものである。
そして,「現実に存在しない」ものであるからこそ,需要者等が本件商標に接した場合に,現実には存在しない「空を飛ぶ犬」を想像することにより,不思議な印象深いイメージを受けるものであって,本件商標は,自他商品・役務の識別力を十分に発揮するものである。
そもそも,本件商標からは,「空を飛ぶ犬」との具体的,直接的な観念が生ずるにも関わらず,ここに唐突に「?かのような」という新たな観念を強いて混入させ,「空を飛んでいるかのような犬」と同義に解釈する点は合理的な根拠を欠く。
以上より,本件商標からは,「空を飛ぶ犬」との具体的,直接的な観念が生じ,自他商品・役務の識別力を十分に発揮するものであるといえる。
(2)本件商標が本件商標の指定商品及び指定役務を取り扱う業界において,一定の意味をもって取引上,一般に使用されていないこと
ア 証拠として採用できないもの
請求人が提出した証拠のうち,「産経新聞 島友むすび」(平成25年6月12日)から「グッドモーニング」(11月26日テレビ朝日)(甲14)までに係る証拠は,本件商標の登録査定時である平成25年6月4日以降のものであり,本件商標が登録査定時に一般に使用されていたことを支持する証拠として採用することができない。
イ その他の証拠について
まず,請求人が提出した「楽天ブックス及びAmazonでの写真集の販売」(甲16)については,請求人自らの商品に係る使用であって,本件商標が一般に使用されていることを示す証拠とはなり得ない。
また,「的場信幸」のプロフィール(甲17)は,あくまで写真家「的場信幸」のプロフィール情報を記載しているものであり,本件商標が一般に使用されていることを示す証拠とはなり得ない。
さらに,請求人が提出した「Googleでのキーワード検索結果」(甲18,甲19)についても,請求人又は被請求人による使用が大半を占めていることから,本件商標が一般に使用されていることを示す証拠とはなり得ない。
その他,請求人は「NHKニュースウオッチ9の映像」(甲15)及び「神戸新聞記事」(甲2)について証拠を提出しているが,僅か1回のテレビ放送及び地方紙における掲載により本件商標が一般に使用されていることの証拠とはなり得ない。なお,「神戸新聞記事」については,「“空飛ぶ”犬の写真集」との記載があるが,本件商標が一体として表されていないことからも,本件商標が一般に使用されていることの証拠とはなり得ない。
(3)総括
以上より,本件商標は,「空を飛ぶ犬」との具体的,直接的な観念が生じる一方で,現実にそのようなものは存在しないことから,指定商品・役務の品質あるいは質を直接的かつ具体的に明示するものではなく,さらに,本願商標の指定商品及び指定役務を取り扱う業界において,一定の意味をもって取引上,一般に使用されている事実を発見することはできないことから,これをその指定商品及び指定役務に使用するときは,自他商品及び役務の識別標識としての機能を果たすものというべきである。
また,上述したように本件商標は,指定商品・役務の特定の品質あるいは質を明示するものではないことから,商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標ということもできない。
よって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号,同項第6号及び同法第4条第1項第16号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第10号について
(1)「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の周知性は認められないこと
ア 証拠として採用できないもの
請求人が提出した,甲14号証は,本件商標の商標登録出願時である平成25年2月13日以降のものであり,証拠として採用することができない。
イ タイトルが「そら飛ぶいぬ」の「ひこうけん写真集」(以下「ひこうけん写真集」という。)について
請求人は,「ひこうけん写真集」を少なくとも15000冊出版,全国販売していることの情報を提示し,「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の周知性を主張する(甲7ないし甲9,甲15及び甲16)。
この点,情報化社会が進んだ現代において企業等における商品販売がインターネットにて全国規模で行われること,及び,その販売情報がインターネット上に掲載されることは通常であって,これにより直ちに周知性を獲得したとすることはできない。
また,甲16号証において,初刷部数が15000部であることがわかるが,実際に本件商標の商標登録出願時である平成25年2月13日時点において,何部販売されているのか不明であることから周知性を肯定するための証拠とはなり得ない。
さらに,当該写真集が出版された平成24年におけるオリコン株式会社による「オリコン2012年年間“本”ランキング」では,平成23年12月5日から平成24年11月26日までを集計期間とし期間内推定売上部数を発表しているところ,当該写真集は写真集の分野におけるランキングにおいて,ランキング入りを果たしていないことがわかる(乙1)。当該ランキングは,国内における主要書店の協力の下,作成されているものであるため,信憑性の高いデータである(乙2)。
また,当該ランキング12位に位置している「のせ猫 かご猫シロと3匹の仲間たち」(乙1)は,「ひこうけん写真集」の販売日である平成24年1月21日よりも遅い,平成24年2月16日に,同じ出版社である「宝島社」から発売されている(乙3)。つまり,「ひこうけん写真集」に遅れた時期に同じ出版社から発売された動物写真集という同ジャンルの本と比較しても,その販売部数が少ないことがわかる。
加えて,「のせ猫 かご猫シロと3匹の仲間たち」が販売されているインターネット上のAmazonでは,本件商標の登録出願時におけるカスタマーレビューが11件(乙4),楽天ブックスでは,みんなのレビューが27件(乙5)あることが分かる,一方,「ひこうけん写真集」についてこの点比較すると,Amazonでは,本件商標の登録出願時におけるカスタマーレビューが0件(乙6),楽天ブックスでは,みんなのレビューが1件(乙7)と,需要者等における注目度の低さが歴然であるといわざるを得ない。
なお,「ひこうけん写真集」のタイトルである「そら飛ぶいぬ」は,出版元である宝島社が,本の販売戦略の一環として付けた名前であり,請求人も自らの商標として特段自覚し使用していたものではない。
ウ 「飛行犬撮影会」に関するチラシについて
請求人の証拠からは,提出されたチラシを除き,「飛行犬撮影会」において「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の文字が使用されていたことは確認できない。
また,提出されたチラシであっても,甲第20号証ないし甲第24号証のうち,「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の表示がされているものは,甲第24号証2葉目,4葉目,7葉目,10葉目,13葉目,14葉目及び19葉目の僅か7回分のみである。また,甲第20号証ないし甲第24号証によれば,1日あたり多くても50組程度の参加者であり,その「飛行犬撮影会」の規模の小ささがうかがえ,さらに,チラシによる広告も,開催施設の周辺の限られた範囲で行われているとみるのが自然である。
加えて,甲第25号証は,あくまでチラシの注文数の履歴であって,実際に配布した数ではないため,当該証拠をもってチラシの配布数を根拠とした周知性を認定することはできない。
エ その他の証拠について
請求人は,「神戸新聞記事」(甲2),「トークイベントの開催」(甲11)及び「NHKニュースウオッチ9の映像」(甲15),について証拠を提出しているが,これらは,僅か1回限りのテレビ放送,イベント及び地方紙における掲載である。このように僅か1回限りの放送等で「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の文字が請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標ということはできない。なお,「神戸新聞記事」については,「“空飛ぶ”犬の写真集」との記載があるが,「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」が一体として表されていないことからも,当該文字の周知性を認定する証拠とはなり得ない。
オ 小括
以上の事実より,「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の文字が請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標ということはできない。
(2)請求人の「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の文字の使用態様について
上述した写真集,テレビ放送,チラシ等には,空を飛んでいる犬の写真(場面)と共に,「空飛ぶ犬」,「そら飛ぶいぬ」と表示されていることからすると,それらの表示は,商標としての使用というより,その犬の様子を表したものと認識される場合も少なくないものであり,また,甲第2号証の新聞記事においては,空を飛んでいる犬であることを端的に表すために見出しに使用されているものである。
よって,請求人の「空飛ぶ犬」又は「そら飛ぶいぬ」の文字の使用は,商標としての使用態様ではなく,これにより,当該文字が,請求人の業務にかかる商品及び役務を表すものとして,需要者の間に広く認識されている商標とはなりえないものである。
(3)総括
「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字は,上述のとおり,請求人の業務に係る商品及び役務を表すものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において,取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないだけでなく,そもそも商標としての使用がなされていないことからも,本件商標の登録出願時及び査定時において,取引者,需要者の間に広く認識されていた商標とは認めることができない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用商標との類否について検討するに,本件商標は,「空飛ぶ犬」及び「そらとぶいぬ」の-文字を上下二段に書してなるものであり,引用商標は,「飛行犬」の文字を書してなるものである。
そうすると,外観においては,その構成態様に照らし,明らかな差異を有するものであるから,両者は,外観上,明確に区別できるものである。
次に,称呼においては,本件商標から生ずる「ソラトブイヌ」の称呼と,引用商標から生ずる「ヒコウケン」の称呼とは,その構成音,構成音数において明らかな差異を有するものであるから,両者は,判然と聴別できるものである。
また,観念においては,本件商標からは,「空を飛ぶ犬」の観念が生じ,引用商標からは,「飛行する犬」程の観念を生ずるものであるところ,「飛ぶ」と「飛行」とでは,使い分けがされるものであり,その観念も厳密には異なるものである。つまり,「飛行」の語句は,「空中を航空機などかなり大仕掛けな乗り物,もしくは,それに乗った者が移動すること。」を意味することから,引用商標からは,「空中を移動する航空機などかなり大仕掛けな乗り物に乗った犬」程の意味が生じるところ,本件商標には,その様な意味に限定されず,広い意味での「空を飛ぶ犬」の意味が生じるためである(乙8)。
このことから,需要者等がこれらの商標に接した場合に異なる印象を受けるものであるといえる。
そうとすれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念において相紛れるおそれはない非類似の商標というのが相当である。
よって,両商標が,空を飛んでいるような犬に関する「写真撮影,写真,電子出版物」等について使用されている取引の実情を考慮したとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の周知性は認められないこと
ア 証拠として採用できないもの
請求人が提出した,甲第14号証は,本件商標の登録出願時である平成25年2月13日以降のものであり,証拠として採用することができない。
イ 「ひこうけん写真集」について
前記のとおり,「ひこうけん写真集」の販売部数が明らかでないだけでなく,本件商標の登録出願時に遅れた時期に同じ出版社から発売された動物写真集という同ジャンルの本と比較しても,その販売部数が少ないことが明らかであり,さらに,そのレビュー数の比較による「ひこうけん写真集」への需要者等の注目度の低さからも,当該写真集の出版行為により引用商標が請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標ということはできない。
ウ 「飛行犬撮影会」及び「飛行犬撮影会」に関するチラシについて
甲第20号証ないし甲第24号証によれば,1日当たり多くても50組程度の参加者による「飛行犬撮影会」が,平成20年には11回(甲20の10葉目及び11葉目は同一の撮影会のものである),同21年には4回,同22年には5回,同23年には15回,同24年には21回開催されたものであり,大阪府,群馬県,静岡県,熊本県,福岡県等の各地にあるドッグラン場などの施設とタイアップするなどして行われた。
そして,これらのチラシには,「飛行犬」,「飛行犬撮影会」,「飛行犬撮影所」等と記載されていることが認められる。
しかしながら,請求人が開催する犬の写真撮影会は,その1回当たりの参加はそれほど多いものではなく,チラシによる広告も,開催施設の周辺の限られた範囲で行われているとみるのが自然である。
さらに,甲第25号証は,あくまでチラシの発注数であって,実際に配布した数ではないため,当該証拠をもって周知性を認定することはできない。
以上より,引用商標である「飛行犬」の文字は,請求人の業務に係る「犬の写真撮影,写真,電子出版物等」を表すものとして,この種の役務の需要者,取引者の間で広く認識されているとまではいうことができない。
エ その他の証拠について
前記3(1)エのとおり,引用商標が請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標ということはできない。
オ 小括
以上の事実より,引用商標が,本件商標の登録出願時及び査定時において,請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標ということはできない。
(2)出所混同があった事実について
請求人が主張する「既に,出所混同があった事実」については,これらはいずれも本件商標の商標登録出願時である平成25年2月13日以降のものであり,出願時における出所混同のおそれの存在の証拠として採用することができない。よって,請求人の当該主張は失当である。
なお,いずれの証拠からも,取引者,需要者が,本件商標に基づいて請求人又は請求人と何等かの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのごとく,商品及び役務の出所について混同が生じている事実は確認できない。
(3)総括
本件商標は,「空飛ぶ犬」の文字と「そらとぶいぬ」の文字を上下二段に書してなり,請求人の使用する「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字と類似であるとしても,「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字は,請求人の業務に係る商品及び役務を表すものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において,広く認識されているものと認めることができないものである。
また,本件商標と引用商標とは,非類似の別異の商標であって,かつ,引用商標は,請求人の業務に係る商品及び役務を表すものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において,取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないものである。
そうすると,商標権者が本件商標をその指定商品及び指定役務について使用しても,これに接する取引者,需要者が,請求人の引用商標及び「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字を連想,想起するものではなく,本件商標は,請求人又は請求人と何等かの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのごとく,商品及び役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものである。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第19号について
「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字並びに引用商標は,請求人の業務に係る商品及び役務を表示する商標として,我が国の需要者の間に広く知られていたと認めることができず,かつ,本件商標と引用商標とは,非類似の商標と認められるものである。
また,請求人の提出した証拠から,請求人と被請求人との「飛行犬ブランド」の使用についての契約期間が満了した後に,被請求人が,契約期間中に請求人名により「飛行犬撮影会」を開催した施設と同じ施設において「あたかも空を飛んでいるような犬の写真」の撮影会を開催したこと(甲6及び甲42)が認められるとしても,同様のコンセプトの事業を行うことは自由経済上当然に認められることであり,かかる事実をもって,被請求人が,請求人に係る商標に蓄積された名声,信用,顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)し,不正の利益を得る目的をもって本件商標の登録を受けたものとはいえないものであるから,本件商標は,不正の目的をもって使用するものということができない。
むしろ,被請求人は,請求人の引用商標とは判然と区別できる異なる商標の下,事業を行っており,さらに,「スタジオ そら飛ぶ」のHPで,飛行犬撮影所東京支部として活動後,2013年2月に飛行犬FCを脱退・独立し,「スタジオ そら飛ぶ」を設立。「※現在,飛行犬撮影所との提携関係はございません」(乙9)と請求人と無関係であることを強調していることからも,請求人に係る商標に蓄積された名声,信用,顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)し,不正の利益を得る目的をもって本件商標の登録を受けたものとはいえないことは明らかである。
さらに,請求人は,あたかも被請求人について,不正の目的があったかのように,通告文を証拠として提出している(甲13)が,これは何らの根拠もなく一方的に被請求人に送られてきたものであり,「飛行犬商標管理者」と記載されているのみで,作成者も不明である。加えて,被請求人は通告文に記載されている内容について合意していない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。

第5 当審の判断
1 請求人について
請求人は,平成16年(2004年)12月に設立された会社であり,平成17年(2005年)4月に兵庫県南あわじ市にドッグラン場を開設し,同年秋に,「空を飛んでいるかのような犬」の写真撮影に成功し,当該写真サービスを開始し,撮影した犬が,前後の足が地面から離れて空中を飛んでいるように見えることから,「飛行犬」と命名したものである(甲1)。
そして,請求人は,「南あわじドッグラン・飛行犬撮影所」の名称を使用して営業しているものであり(甲2),平成23年(2011年)3月末において,あわじ支部,東京支部,伊豆支部,神戸支部,岡山支部,福岡支部が存在する(甲3)。
2 引用商標並びに「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字の周知性について
(1)引用商標の周知性について,請求人が提出した証拠及び請求人の主張によれば,以下の事実が認められる。
ア 甲第20号証ないし甲第24号証,甲45号証は,平成20年ないし同24年に開催された「飛行犬撮影所」に係る写真撮影会のパンフレットであり,これらによれば,請求人は,1日当たり多くても30組?70組(審決注:1頭の犬と参加者で1組と認められる。)限定の参加者による「飛行犬撮影会」を,平成20年には12回,同21年には4回,同22年には6回,同23年には15回,同24年には21回開催し,これらの開催場所は,大阪府,群馬県,静岡県,熊本県,兵庫県,福岡県等の各地にあるドッグラン場などの施設とタイアップするなどして行われた。
そして,これらのパンフレットには,プロのカメラマンが,犬が飛行する瞬間を撮影する旨の説明がなされ,また,掲載された写真には,「飛行犬」と記載されており,他に,料金,写真撮影の方法として「飛行犬撮影」と表示している。
また,甲第2号証は,平成23年(2011年)5月10日付けの神戸新聞であり,請求人が,飛行犬撮影所が撮影した犬の写真を掲載した「飛行犬」の写真集(3000冊)を平成22年(2010年)に発行したことが掲載されている。
インターネット上の「楽天ブックス」(甲7)には,請求人が,飛行犬撮影所編集の「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」を,宝島社から,2012(平成24)年2月に発売したことの記載がある。Amazonのウェブサイト(甲8)には,請求人が,同写真集を平成24年(2012年)年1月21日に発売したことの記載がある。
イ 上記アによれば,請求人は,平成20年ないし同24年に「飛行犬撮影会」,「飛行犬撮影所」及び「飛行犬撮影」の文字を使用して,各県にあるドッグラン場などの施設とタイアップして飛行する瞬間の犬の写真撮影会を開催しているものであり,当該写真撮影会については,パンフレットなどにより広告を行い,また,平成22年(2010年)に犬の写真を撮影した「飛行犬」の写真集を3000冊発売したことが認められる。
ウ 判断
請求人が飛行する瞬間の犬の写真撮影会に使用した,「飛行犬撮影会」,「飛行犬撮影所」及び「飛行犬撮影」の文字は,その構成中の「撮影会」,「撮影所」及び「撮影」の文字部分が,写真撮影会の開催の役務との関係において役務の質を表すものであるから,「飛行犬」の文字が独立して出所識別標識としての機能を果たすものと認められる。
そして,請求人が開催する犬の写真撮影会は,その1回あたりの参加は30組?70組限定(最小催行人員10組)であって,参加者が少なく,また,犬の写真を撮影した写真集の販売数も少ないことからすると,引用商標である「飛行犬」の文字は,請求人の業務に係る「犬の写真撮影」を表すものとして,犬の写真撮影の需要者,取引者の間で一定程度知られていたことがうかがわれるものの,本件商標の登録出願時及び査定時において,引用商標が請求人の商品及び役務を表示するものとして,一般の需要者の間に広く認識されているとまではいうことができない。
(2)「空飛ぶ犬」及び「そら飛ぶいぬ」の文字(以下「引用使用商標」という。)の周知性について,請求人が提出した証拠及び請求人の主張によれば,以下の事実が認められる。
ア 請求人の飛行犬撮影所がNHKニュースウオッチ9で平成22年(2010年)10月18日に全国放送されたことを示すウェブページ(写し)及びその紹介映像の一部を示すウェブページ(写し)において,その紹介映像には,「人気!“空飛ぶ犬” その秘密とは・・・」及び「飛行犬」の文字が記載され,飛んでいるかのような犬の写真が掲載されている(甲15)。
イ 甲第7号証は,インターネット上の「楽天ブックス」に,甲第8号証は,Amazonのウェブサイトに掲載された「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」であるところ,該写真集の表紙には,空を飛んでいるかのような犬の写真が大きく表示されている。
なお,甲第24号証の2葉目,4葉目,7葉目,10葉目,13葉目,14葉目及び19葉目の飛行犬撮影会のパンフレットには,「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」の販売について記載されている。
ウ 甲第2号証の神戸新聞に掲載された写真集を紹介する記事には,「“空飛ぶ”犬の写真集」の見出しの下,「犬が滑空しているような躍動感あふれる写真」「3千冊を作った。」などと記載されている。
エ 判断
テレビ放送や地方紙における新聞記事において,「空飛ぶ犬」の文字が使用されているとしても,1回限りであり,「そら飛ぶいぬ」が表示された写真集については,販売数が少ないものである。
そうすると,提出された証拠からは,本件商標の登録出願時及び査定時において,引用使用商標が請求人の商品及び役務を表示するものとして,一般の需要者の間に広く認識されているとまではいうことができない。
(3)小括
前記のとおり,請求人が提出した証拠からは,引用商標及び引用使用商標が,本件商標の登録出願時及び査定時に,我が国において,請求人の業務に係る商品及び役務を表すものとして広く認識されているものと認めることができない。
3 商標法第46条第1項第3号該当性について
請求人は,本件商標が同法第46条第1項第3号に該当する旨主張しているが,請求人の主張よれば,その請求の根拠とする条項は,同法第46条第1項第4号の誤りと認められるから,以下,同条項として審理する。
(なお,同法第46条第1項第3号は,平成26年の法律改正により,同項第3号が追加されたことに伴い,同項第4号へと改正されたものである。)
商標法第46条第1項第4号の趣旨は,その商標登録が,登録出願により生じた権利を承継しない者の登録出願に対して,誤って登録がされたときにはそのままにしておくのは不当あることから,そのような商標登録を無効にするものと解される。
これを,本件についてみると,当審における職権調査によれば,被請求人が本件商標を登録出願し,同人が商標登録を受けているもので,この間,登録出願によって生じた権利の承継はなかったものと認められることから,本件商標の登録は,その登録出願により生じた権利を承継しない者の登録出願に対して,誤って登録がされたということはできないものである。
したがって,本件商標の登録は,商標法第46条第1項第4号に違反してされたものではない。
4 商標法第3条第1項第3号,同項第6号,同法第4条第1項第16号該当性について
(1)本件商標は,「空飛ぶ犬」の文字と「そらとぶいぬ」の文字を上下二段に書してなるところ,下段の「そらとぶいぬ」の平仮名は,上段の文字の読みを表したものと認められる。
そして,その構成中の「空」,「飛ぶ」,「犬」の各語の意味合いからみれば,「空飛ぶ犬」の語は,「空を飛ぶ犬」程の意味合いが理解,認識されるものの,その構成全体をもって,本件商標の指定商品及び指定役務について,具体的な商品の品質や役務の質を表示するものとして直ちに認識されるものとはいえない。
(2)請求人は,本件商標から「空を飛んでいるかのような犬」という写真又は写真撮影のジャンルが認識される旨主張して,甲第2号証,甲第7号証,甲第8号証,甲第14号証,甲第15号証,甲第18号証,甲第19号証を提出しているところ,2013年マスコミ取材一覧(甲14)には,「空を飛んでいるかのような犬」の写真と「飛行犬」の記載,平成22年(2010年)10月18日放送の「NHKニュースウオッチ9」(甲15)の紹介映像には,「人気!“空飛ぶ犬” その秘密とは・・・」及び「飛行犬」の文字と,「空を飛んでいるかのような犬」の写真が掲載,神戸新聞(甲2)の紹介記事には,「“空飛ぶ”犬の写真集」の見出しの下,「犬が滑空しているような躍動感あふれる写真」,インターネット上の楽天ブックス及びAmazon(甲7,甲8)には,タイトルが「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」が掲載され,この写真集の表紙には,「空を飛んでいるかのような犬」の写真が掲載,インターネットの検索サイトGoogle(甲18,甲19)で,「空飛ぶ犬2011」をキーワードとして検索すると,「空を飛んでいるかのような犬」の写真画像や「そら飛ぶいぬ ひこうけん写真集」,「空飛ぶ犬」,「飛行犬」の文字が検索される,ことがそれぞれ認められる。
そこで,上記甲各号証の記事の記載について判断するに,これらの記事は,紹介する用語又は紹介する記事,検索結果として「空飛ぶ犬」等の用語,犬の写真が使用されているにすぎないものであって,該語が写真又は写真撮影における「空を飛んでいるかのような犬」という,商品又は役務の一つのジャンルを表すものとなっていることを需要者に認識させるような内容とはいえない。
そうすると,本件商標の構成中,「空飛ぶ犬」の文字が,新聞,マスコミ,出版等の分野において使用されている事実が認められるものの,本件商標の指定商品及び指定役務のいずれについても,取引上商品の品質や役務の質等を表示するものとして,普通に使用されている事実は見いだせない。
(3)してみれば,本件商標は,特定の商品の品質や役務の質等を具体的に表示するものとして直ちに理解され認識されるとはいえないものであり,自他商品及び自他役務の識別標識として機能を果たし得るものといわなければならない。
また,本件商標は,その指定商品及び指定役務との関係において,上記のとおり,商品の品質及び役務の質を表示するものとして認識し得ないものであって,自他商品及び自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものであるから,需要者が何人かの業務に係る商品及び役務であることを認識することができない商標とはいえないものである。
そして,本件商標は,上記のとおり,商品の品質及び役務の質を表示するものとして認識し得ないものであるから,その指定商品及び指定役務との関係において,商品の品質及び役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標とはいえないものである。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号,同項第6号,同法第4条第1項第16号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は,前記第1のとおり,「空飛ぶ犬」の文字と「そらとぶいぬ」の文字を上下二段に書してなるところ,下段の「そらとぶいぬ」の文字は,上段の文字の読みを特定したものと看取,把握されるものであるから,本件商標は,その構成文字に相応して「ソラトブイヌ」の称呼を生じ,「空を飛ぶ犬」の観念を生じるものである。
(2)引用商標について
引用商標は,前記第2のとおり,「飛行犬」の文字を書してなるところ,該文字は,「飛行」の文字と「犬」の文字とを組み合わせたものと容易に理解させるものであるから,引用商標からは,「ヒコーケン」の称呼を生じ,「飛行する犬」程の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標との類否について検討するに,外観においては,それぞれ前記のとおりであり,その構成態様に照らし,明らかな差異を有するものであるから,両者は,外観上,明確に区別できるものである。
次に,称呼においては,本件商標から生じる「ソラトブイヌ」の称呼と,引用商標から生じる「ヒコーケン」の称呼とは,その構成音,構成音数において明らかな差異を有するものであるから,両者は,明瞭に聴別し得るものである。
また,観念においては,本件商標からは,「空を飛ぶ犬」の観念が生じ,引用商標からは,「飛行する犬」程の観念を生じるものであるから,両者は,やや近似した意味合いを想起させるものであるが,観念上類似するものとはいえないものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,観念において近似した意味合いを想起させるとしても,観念上類似するものとはいえず,外観において,明確に区別できるものであり,また,称呼において明瞭に聴別し得るものである。
以上のとおり,本件商標と引用商標とは,相紛れるおそれはない非類似の商標というのが相当であるから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)商標法第4条第1項第10号は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」と規定している。
(2)引用商標及び引用使用商標は,前記2のとおり,請求人の業務に係る商品及び役務を表すものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において,我が国の取引者,需要者の間で広く認識されているとはいえないものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
7 商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標及び引用使用商標は,前記2のとおり,請求人の業務に係る商品及び役務を表すものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において,広く認識されているものと認めることができないものである。
そうすると,商標権者が本件商標をその指定商品及び指定役務について使用しても,これに接する取引者,需要者が,請求人の引用商標及び引用使用商標を連想,想起するものではなく,本件商標は,請求人又は請求人と何等かの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのごとく,商品及び役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
8 商標法第4条第1項第19号該当性について
引用商標及び引用使用商標は,請求人の業務に係る商品及び役務を表示する商標として,我が国の需要者の間に広く知られていたと認めることができないものである。
また,請求人の提出した証拠から,飛行犬商標管理者と称する者から被請求人に対して,「飛行犬ブランド」の使用についての契約期間が満了したことを通告(甲13)した後に,被請求人が,契約期間中に請求人名により「飛行犬撮影会」を開催した施設と,同じ施設において「あたかも空を飛んでいるような犬の写真」の撮影会を開催したこと(甲6),契約期間中に撮影した犬の写真を用いて,「空飛ぶ犬たち写真集 2013」のタイトルの写真集を,契約期間の満了後である2013年4月に発売したこと(甲31)が認められるとしても,かかる事実をもって,被請求人が,請求人に係る商標に蓄積された名声,信用,顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)し,不正の利益を得る目的をもって本件商標の登録を受けたものとはいえないものであるから,本件商標は,不正の目的をもって使用するものということができない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
9 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第46条第1項第4号,同法第3条第1項第3号,同項第6号,同法第4条第1項第16号,同項第10号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものではないから,同法第46条第1項により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり決定する。
審理終結日 2016-10-25 
結審通知日 2016-10-27 
審決日 2016-11-09 
出願番号 商願2013-9187(T2013-9187) 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (W091641)
T 1 11・ 261- Y (W091641)
T 1 11・ 222- Y (W091641)
T 1 11・ 272- Y (W091641)
T 1 11・ 262- Y (W091641)
T 1 11・ 271- Y (W091641)
T 1 11・ 6- Y (W091641)
T 1 11・ 16- Y (W091641)
T 1 11・ 13- Y (W091641)
T 1 11・ 263- Y (W091641)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 光 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 平澤 芳行
中束 としえ
登録日 2013-07-12 
登録番号 商標登録第5597437号(T5597437) 
商標の称呼 ソラトブイヌ 
代理人 下田 一徳 
代理人 福島 一 
代理人 久野 恭兵 
代理人 辻田 朋子 

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