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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2015890039 審決 商標

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審決分類 審判 一部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない X16
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X16
管理番号 1321327 
審判番号 無効2015-890034 
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-04-21 
確定日 2016-10-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第5397763号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5397763号商標(以下「本件商標」という。)は,「さくら学院」の文字を標準文字で表してなり,平成22年8月23日に登録出願,第16類「事務用又は家庭用ののり及び接着剤,紙製包装用容器,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,紙類,文房具類,印刷物,写真,写真立て」並びに第9類,第14類,第18類,第24類,第25類及び第26類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同23年2月8日に登録査定,同年3月11日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の指定商品中,第16類「事務用又は家庭用ののり及び接着剤,紙製包装用容器,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,紙類,文房具類,印刷物,写真,写真立て」(以下「請求指定商品」という場合がある。)についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証から甲第151号証(枝番号を含む。なお,参考資料1から同9までについては,順に甲第140号証の1から同9までとした。)までを提出した。
1 請求理由の要点
「サクラ」は,請求人を指す著名な略称であり,本件商標は,当該著名な略称「サクラ」(平仮名と片仮名程度の違いは社会通念上同一)を含むものであるから,商標法第4条第1項第8号に該当し,かつ,請求人の業務に係る商品(文房具類,絵の具等)と混同を生じるおそれがあるから,商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 商標法第4条第1項第8号について
(1)請求人の略称「サクラ」の著名性について
ア 新聞等における「サクラ」の表示について
(ア)各種業界紙(「オフイスマガジン」,「旬刊ステイショナー」,「CLIPS」,「関西文具時報」)の記事の見出し及びその本文中並びにぺんてる株式会社のウェブサイトにおいて,「株式会社サクラクレパス」が「サクラ」と略称され,請求人以外の者によって,請求人を指して頻繁に「サクラ」と略称されている(甲1?甲100)。
しかも,新聞は読者に対して様々な情報(ニュース)を提供するものであり,その性質上,情報(ニュース)の内容が読者に伝わらなければならないとの要請があって,この要請の下において,略称「サクラ」を用いていることは,「サクラ」と略称しても,これが請求人を指すということが読者にわかるからである。
(イ)「サクラ」の文字については,「(花木の)桜」の意味も認識され得るが,新聞記事の見出しにおいて「サクラ」と略称されているということは,「サクラ」といえば請求人を指す,ということが読者(看者)に認識されているからに他ならない。
また,ぺんてる株式会社のウェブサイトについても,「株式会社サクラクレパス」を指して「サクラ」と記載されているのは,看者がそのように認識するからに他ならない。
(ウ)以上のとおり,新聞記事の見出しやインターネット等に略称「サクラ」が用いられていることから,読者や閲覧者が,「サクラ」とは請求人を指すと認識していることがわかり,この事実から明確なように,「サクラ」は,請求人の著名な略称である。
イ 請求人のカタログ等における「サクラ」の表示について
(ア)請求人の商品カタログは,文房具類等の取引者等に広く頒布され,該カタログの表紙において,請求人が「サクラ」,「SAKURA」と略称して表示されている(甲101?甲132)。
これを取引者等は目にしており,「サクラ」が請求人の略称であると認識している。
(イ)カタログには多くの文房具類等が掲載されており,その商品や包装に「SAKURA」や「サクラ」の表示があり,これら文房具類等は,実際に多く販売されている(甲130,甲131,甲133?甲140)。
したがって,当該文房具類を購入した一般の消費者も,その商品や包装に表示された「SAKURA」や「サクラ」を目にするので,この一般消費者にも略称「サクラ」が浸透している。
(ウ)カタログ,商品や包装に表示された「サクラ」や「SAKURA」は,遅くとも昭和46年1月10日から使用され,本件商標の登録出願日まで,また,本件商標の登録査定日までの約40年の間,その使用が継続されている(甲101?甲132)。
(エ)このように長期にわたり,「SAKURA」や「サクラ」の表示があるカタログが頒布され,商品が販売されているので,「サクラ」が請求人の略称であることが,取引者,需要者,また,一般消費者に十分認識されている。
(オ)また,請求人は,商品カタログ以外に,様々なリーフレット等を頒布しており,これらには,請求人を示す表示としてローマ字「SAKURA」,片仮名「サクラ」,平仮名「さくら」が示されている(甲148)
(カ)この広告宣伝活動は,略称の著名性を間接的に証明するにすぎないが,直接的に証明するには多額の費用がかかり,負担が過大なものになるので,自ら行う広告宣伝活動によって間接的に取引者,需要者における著名性を示すものである。
ウ 地域について
ぺんてる株式会社は,その販売網が日本全国に及んでおり(甲140の4),同社のウェブページの発信は日本全国に及ぶものであり,新聞「オフイスマガジン」(甲2?甲57)及び「旬刊ステイショナー」(甲58?甲66)の頒布先も日本全国に及ぶものである(甲140の1,5)。
請求人のカタログ(甲130,甲131)から分かるように,請求人の販売網は日本全国に及んでおり,請求人が国内において業界の雄として地位を有し,日本全国において文房具類を多く販売していることが分かる(甲133?甲140)。
したがって,請求人を指す略称「サクラ」は日本全国に知られている。
エ 時期について
証拠のうち,甲第1号証ないし甲第53号証,甲第58号証ないし甲第64号証,甲第67号証ないし甲第73号証,甲第75号証ないし甲第100号証及び甲第101号証ないし甲第132号証は,本件商標が登録出願された平成22年8月23日よりも前に発行された刊行物である。
このうち,甲第1号証ないし甲第53号証,甲第58号証ないし甲第64号証,甲第67号証ないし甲第73号証,甲第75号証ないし甲第100号証は,請求人以外の者が発行する刊行物であり,本件商標の登録出願時において,「サクラ」が請求人を指し示すと認識されている。
また,甲第54号証ないし甲第57号証,甲第65号証,甲第74号証は,本件商標の登録出願後から登録査定(起案日)よりも前に発行された刊行物であり,甲第66号証は当該査定の発送日と同じ日に発行された刊行物であるから,登録査定時においても「サクラ」が請求人を指し示すと認識されている。
したがって,本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても,「サクラ」が請求人を指し示すと認識されている。
オ 本件指定商品の取引者,需要者と略称「サクラ」の関係について
ぺんてる株式会社は,文具事務用品等のメーカーであって,該会社のウェブ記事(甲1)の内容は,筆記具(文房具)に関するものである。また,「オフイスマガジン」や「旬刊ステイショナー」は文房具・事務機器産業での主要な専門新聞(甲140の6),「CLIPS」が紙業・印刷業での主要な専門新聞である(甲140の7)。
そして,請求人の商品カタログは,文房具類等を扱う取引者に頒布され,請求人の文房具類等は,一般消費者に多く購入されている。
したがって,「サクラ」が請求人を指すことが,取引者,需要者において広く認識され,請求人以外の者に「サクラ」と略称されている事実(甲1?甲100)から,少なくとも文房具類の分野において著名な略称であると認識されている。
加えて,請求人の多くの商品(文房具類等)が一般消費者に購入され,その商品や包装に「サクラ」,「SAKURA」が表示され,この購入した一般消費者において,「サクラ」,「SAKURA」の表示が目に留まり,一般消費者にも略称「サクラ」が浸透し,請求人を指し示すものとして受け入れられている。
カ 商標法第4条第1項第8号の「著名な略称」について
(ア)平成16年(行ヒ)第343号の最高裁判決(平成17年7月22日)(甲141)の前提となる事実関係は,問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者が学生等であり,問題の商標はこの学生等の間では広く認識されておらず,教育関係者を始めとする知識人の間でよく知られているということである。
この事実関係の下,判示されたことは,「常に,本件商標の指定役務の需要者である学生等のみを基準とすることは相当でなく,教育関係者を始めとする知識人の間でよく知られているのであるから,本件商標は8号に該当する可能性がある(無効理由を有する可能性がある)」ということである。
つまり,「著名な略称」に該当するか否かの判断に関し,商標の指定商品及び指定役務の取引者,需要者を基準とすることを前提としつつも,仮に当該商標の指定商品及び指定役務の取引者,需要者の間で広く認識されていなくても,当該指定商品及び指定役務の取引者,需要者以外の者において当該略称が特定人を指すとして認識されている場合には,商標法第4条第1項第8号の規定に該当することがありうる,ということである。
(イ)当該判決文の「常に」がかかる語句について,「基準」にかかると捉える読み方と,「相当でなく」にかかると捉える読み方とが考えられる。前者の捉え方を文章で書き替えると,「問題商品需要者のみを常に基準とするということは,相当でなく」となり,後者の捉え方を文章で書き替えると,「問題商品需要者のみを基準とすることは,常に相当でなく」となるが,最高裁判決における原審からの流れから解釈すると,前者と捉えるのが妥当である。
最高裁判決の上記引用箇所は,「全ての出願(商標登録)について画一的に問題商品需要者のみを基準として判断するのではない。必ずしも問題商品需要者に周知でなくても,8号に該当する場合があり得る」と言っていると解釈するのが妥当である。
判決文で「常に」と記載されていることからも,「全出願(全商標登録)について,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準とする」ものではないことが理解できる。
(ウ)商標審査基準〔改訂第8版〕(甲142),商標審査基準〔改訂第10版一部改正〕(甲143),商標審査基準〔改訂第11版〕(甲144)の第4条第1項第8号の解説において,いずれにも「3.本号でいう『著名』の程度の判断については,商品又は役務との関係を考慮するものとする。」とある。
この前提である指定商品・役務の取引者,需要者において,略称が著名かどうかを判断し,著名であれば同号の「著名な略称」に該当することになる。
(エ)文具業界において,「サクラ」が請求人を指し示すと認識されており,すなわち,略称「サクラ」が請求人を指し示すものとして受け入れられている業界(文房具類の取引者,需要者)において当然に,人格的利益を保護すべきであるから,本件の指定商品の「文房具類」の関係において,略称「サクラ」は商標法第4条第1項第8号の「著名な略称」に該当する。
(オ)本件指定商品「事務用又は家庭用ののり及び接着剤」は,文房具店や百貨店等の文房具売り場で販売され,文房具類の分野の商品である。
したがって,本件指定商品の「事務用又は家庭用ののり及び接着剤」の関係においても,略称「サクラ」は商標法第4条第1項第8号の「著名な略称」に該当する。また,前記最高裁判例では,「著名であると受け入れられている業界以外の指定商品(役務)であっても,その商標登録が8号違反になる可能性がある」と判示しており,「文房具類」において略称「サクラ」は著名であることから,「文房具類」や「事務用又は家庭用ののり及び接着剤」だけでなく,本件指定商品の「紙製包装用容器,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,紙類,印刷物,写真,写真立て」についても,商標法第4条第1項第8号の規定に該当する。
キ まとめ
以上のとおり,日本全国において,「サクラ」や「SAKURA」が請求人を指し示すと認識されている。特にアのとおり,請求人以外の者が請求人を指して「サクラ」と略称しており,略称「サクラ」が著名であるとの認識は,文具業界において顕著である。
加えて,略称「サクラ」や「SAKURA」は,前述のように請求人が販売する多くの文房具類等やその包装に,「サクラ」や「SAKURA」の表示があり,請求人の文房具類等は,上記ウのとおり,非常に多く販売されており,これらの文房具類等を買った者は,商品や包装の「サクラ」や「SAKURA」の表示を目にする。しかもこのように「サクラ」や「SAKURA」と表示された商品は,遅くとも昭和46年から販売されており,少なくとも約40年もの長期にわたり,一般消費者は目にしている。
そうとすれば,「サクラ」や「SAKURA」が被請求人を指し示すことは,一般の消費者にも浸透し,受け入れられており,この略称「サクラ」の著名性は,本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても認識されている。
したがって,「サクラ」は,商標法第4条第1項第8号の「著名な略称」に該当する。
(2)本件商標について
ア 本件商標は,「さくら学院」を標準文字で表したものである。そして,本件商標は平仮名で「さくら」であるのに対し,著名な略称「サクラ」は片仮名であるが,平仮名と片仮名程度の違いは社会通念上同一である。
各種業界紙で,請求人を指し「サクラ」と略称表示されている事実から,文具業界において「サクラ」と略称で称呼されていると考えるのが自然である。
したがって,表示としての平仮名と片仮名の差異は,人格権保護の規定である商標法第4条第1項第8号の規定からみて異なっているとはいえず,実質的に同一でる。
さらには,上述のように,「SAKURA」も請求人を指す略称として認識されているから,称呼が同じである「さくら」は,「サクラ」,「SAKURA」と実質的に同一である。
イ 本件商標が,他人の略称等を含む商標に該当するかどうかを判断するに当たっては,その部分が他人の略称等として客観的に把握されることを要すると解される。ここで,本件商標「さくら学院」は,平仮名と漢字で表されたものであり,この平仮名部分と漢字部分とで分断して把握されると解するのが自然であるから,本件商標には「さくら」が含まれていると解される。
ウ 本件商標は,「さくら学院」であり,著名な略称「サクラ」(平仮名と片仮名程度の違いは社会通念上同一)を含むものである。略称「サクラ」には,文具業界,また,一般消費者において,特定人(請求人)を認識させる機能がある。
エ したがって,請求人の人格権を保護すべきであり,殊に略称「サクラ」が請求人を指すと認識されている文具業界における保護の要請は高く,また,一般消費者においても請求人を指すと認識されていると解されるから,本件商標は,指定商品「文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤」において,商標法第4条第1項第8号に該当する。
また,「サクラ」は文具・絵の具業界で著名な略称と認識されているから,本件の指定商品中の「文房具類」や「事務用又は家庭用ののり及び接着剤」だけでなく,これ以外の「紙製包装用容器,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,紙類,印刷物,写真,写真立て」に関しても,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に該当する。
(3)承諾について
本件商標権者は,請求人である株式会社サクラクレパスの承諾を受けていない。
したがって,商標法第4条第1項第8号の括弧書きの適用はない。
(4)小括
以上のとおり,本件商標は,他人(請求人)の著名な略称を含んでおり,請求人を指し示す当該略称「サクラ」は,殊に文房具類の分野において人格的利益の保護要請が高いものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に該当する。
3 商標法第4条第1項第15号について
(1)「サクラ」の著名性について
前述したとおり,日本全国において「サクラ」が請求人を指し示すと認識されており,かつ,これは本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても認識されている。加えて,「サクラ」,「SAKURA」は,請求人のハウスマークである。
また,遅くとも昭和46年から,請求人の商品やその包装に「サクラ」,「SAKURA」の表示がされており,少なくとも本件商標の登録出願時までの約40年の間,さらに現在に至るまでの間も,表示され続けている。
そして,請求人の主たる取扱商品として文房具類があるから,「サクラ」の著名性は殊に文具業界において顕著である。
(2)本件商標と請求人の商品との混同について
ア 文房具類等の商品分野において,「サクラ」は,請求人を指すことが取引者,需要者の間に広く認識されており,しかも「サクラ」,「SAKURA」は,請求人のハウスマークであり,加えて,請求人の商品やその包装において,少なくとも約40年間,「サクラ」,「SAKURA」と表示されている。
したがって,文房具類及びこれらに関連する商品や近しい商品の分野において,「○○サクラ」(○○は任意の文字等の意味。以下同じ)あるいは「サクラ○○」,又は「○○さくら」あるいは「さくら○○」等との商標が付されていると,取引者,需要者は請求人の支店等と考えるか,又は少なくとも請求人の子会社や系列会社等の,何らかの関係のある会社(以下,これら支店等や何らかの関係のある会社のことを「関連会社」と称する場合がある。)であると誤認し,またその商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
イ 請求人は,保育園や幼稚園等に対する特別のカタログを提供し(甲132),絵の具や文房具類だけでなく保育園等の運営等において利用される商品も提供している。また,請求人は,学校向けの通信販売事業を行っているところ(甲140の8),本件商標「さくら学院」は,教育関係を連想させるので,請求人自身の商品であると認識しないまでも,少なくとも請求人の関連会社の商品である,と取引者,需要者に誤認させるおそれがある。
ウ したがって,本件の指定商品のうち,とくに「事務用又は家庭用ののり及び接着剤,文房具類」において,本件商標は,請求人の業務に係る商品と誤認,混同を生ずるおそれがある。加えて,指定商品「紙製包装用容器,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,紙類,印刷物,写真,写真立て」においても,本件商標は,請求人の業務に係る商品と誤認,混同を生ずるおそれがある。
(3)小括
上記のとおり,本件の指定商品中,請求指定商品において,本件商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 むすび
以上のとおり,本件商標は,その請求指定商品について,商標法第4条第1項第8号及び同項第15号に該当するものであるから,その登録について,無効とされるべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第30号証を提出している。
1 商標法第4条第1項第8号について
(1)「サクラ」は,請求人の商号の略称として著名性を有さない。
ア ぺんてる株式会社のウェブサイトの掲載例
現在の「ぺんてる株式会社」のウェブページを見ると,甲第1号証で提出されているページは,存在していない。仮に,甲第1号証で示されたウェブページが真正なものであるとしても,そのウェブページの掲載時期,期間は不明であり,そのページにアクセスして閲覧した者の数も不明であることから,当該ウェブページが過去の一時期に存在していたとしても,「サクラ」の片仮名が,請求人の商号の略称として,需要者の間に広く知られていることを証明するものではない。
ウェブページに掲載された記事は,作成者の主観に基づく記載であって,1つの記事があるからといって「サクラ」の文字が請求人の商号の略称として認識されているとは到底言えないものである。1つしか存在しないとすれば,逆に,請求人の略称としては認識されていないことの証左といえる。
イ 新聞「オフイスマガジン」,新聞「旬刊ステイショナー」,業界紙「CRIPS」,業界紙「関西文具時報」
新聞の見出しは,読者の視線と関心を引き付け,読む気を起させることを主目的に,新聞社が独断で付けるものであって,読者に常に正しく認識,理解されるものでなければ使用しないという約束のもと使用されるものではない。
請求人提出のいずれ新聞記事も,本文中に「(株)サクラクレパス」という表記が記載されており,読者は,その両方の表記によって,会社を特定する体裁になっている。また,請求人提出の新聞は,発行部数が分からず,業界においてどの程度購読されているのか不明であり,いずれも業界紙であることから,その読者は狭い範囲に限定されるものであって,広く一般人が目にするものではない。
さらに毎日新聞,産業新聞,日経新聞といった一般紙をみると,「サクラクレパス」という社名で表記されており,「サクラ」という略称は用いられていない(乙1?乙5)
したがって,いくつかの業界紙の見出しに「サクラ」の略称が使用されているとしても,「サクラ」が請求人を指し示すものとして,一般に受け入れられているとは到底認められない。
ウ 請求人の商品カタログ,展示会における宣伝活動
請求人の発行する商品カタログ及び一部の商品に,「SAKURA」の文字等が使用されているが,その使用例をみると,主に「SAKURA」の欧文字と桜の花弁の図形を組み合わせたハウスマーク(社章)が使用されており,「サクラ」の片仮名単体で使用されている事例は極めて少なく,「さくら」の平仮名については,使用例がほとんどない(甲101?甲131)。
また,宣伝広告については,2010年の「文紙MESSE2010」への請求人の出展のみであり,特に「SAKURA」,「サクラ」,「さくら」の商標について,広く宣伝広告活動を行っているといった事情は見受けられない。
エ 「サクラ」の意味及び識別力の程度
「サクラ」は,請求人が自認するとおり,「花木の桜」を意味するものであり,花木の桜として需要者をして広く認知されているものである。また「サクラ」は,商号としても広く用いられ(乙6),「サクラ」,「さくら」,「SAKURA」の文字を含む商標も多数登録されている(乙7?乙22)。
このように「サクラ」は,日本文化に深く関わり日本人に愛されている花木の「桜」を表す用語であることから,企業名あるいは商品名の一部に頻繁に使用されている。
したがって,「サクラ」の語の識別力は極めて弱いというべきものであり,「サクラ」の片仮名を使用しても,需要者及び取引者は,「花木の桜」を想起するのが通常であり,特定人あるいは特定の商品を想起することは難しいものと思料される。
オ 請求人提出の証拠からは,「サクラ」の片仮名を「文房具」に使用されていることはうかがい知れるが,主に使用されている態様は「SAKURA」の欧文字と桜の花弁の図形を組み合わせたハウスマーク(社章)であること,また特に「サクラ」の片仮名について,広く宣伝広告を行っているような事情は見受けられないこと,さらに「サクラ」は,「花木の桜」を意味するものとして日本人に広く馴染まれた語であり,当該文字から特定人を想起させることは難しいという言葉の性格を考慮すると,「サクラ」の片仮名が,需要者及び取引者をして,請求人の商号の略称として認知されているとは到底認め難いものである。
したがって,本件商標は,「さくら」の文字を含むとしても,「サクラ」の片仮名は,請求人の商号の著名な略称とは認めらないことから,商標法第4条第1項第8号には該当しないものである。
(2)本件商標は請求人の著名な略称を含むものではない
仮に,「サクラ」が請求人の商号の略称として著名であることが認められたとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第8号には該当しないものである。
ア 商標法第4条第1項第8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標はその他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護すること,すなわち,人(法人等の団体を含む)は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護することにあるところ(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号595頁),問題となる商標に他人の略称等が存在すると客観的に把握できず,当該他人を想起,連想できないのであれば,他人の人格的利益が毀損されるおそれはないと考えられる。そうすると,他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては,単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく,その部分が他人の略称等として客観的に把握され,当該他人を想起・連想させるものであることを要すると解すべきである。(平成21年(行ケ)第10074号)
イ 本件商標の構成態様
本件商標は,「さくら学院」を標準文字で書してなるものであり,その外観は,同じ書体,同じ大きさ,同じ間隔で一体的に表示されているものである。また全体の称呼も,「サクラガクイン」と無理なく称呼することができるものである。
さらに,観念については,「学院」の文字は,「学校」の異称として一般に広く知られている語であって,「○○学院」のように,他の語と結合して,全体として学校名を表す語として用いられることから,本件商標は,全体として「桜の学校」といった観念が生じ,全体として学校名の如く認識されるものと思料される。
したがって,本件商標は,その外観,全体の称呼及び観念からすると,その構成文字全体として一体不可分のものとして認識されるとみるのが自然であり,「サクラガクイン」の称呼及び「桜の学校(学校名)」の観念のみが生ずると判断するのが妥当であり,「さくら」の文字部分が,他人の略称として客観的に把握されることはない。
ウ 本件商標の使用
本件商標は,被請求人に所属する女子小中学生で結成された女性アイドルグループの名称であり,そのアイドルグループのグッズの一つとして文房具類にも使用されている(乙23,乙24)。
本件商標を使用した商品の主な需要者は,アイドルグループ「さくら学院」のファンであるが,その需要者は,本件商標が使用された商品について,所属会社である被請求人又は当該アイドルグループが監修あるいはライセンスする商品であると認識するものであって,本件商標から請求人を想起,連想させることは一切ない。
エ 以上のとおり,本件商標は,外観及び観念上,構成全体をもって一体不可分の語と認識されること,また,本件商標の使用態様からすると,需要者及び取引者は,本件商標を使用した商品に関して,所属会社である被請求人又は当該アイドルグループが監修あるいはライセンスする商品であると認識すること,さらに,「サクラ」の文字自体は,識別力が弱く,特定人と関連して認識され難い言葉であることをも考慮すると,仮に「サクラ」が請求人の商号の著名な略称であったとしても,本件商標の「さくら」の部分から,請求人を想起,連想させることはない。
したがって,本件商標をその指定商品に使用しても,請求人の人格権を侵害することはないから,本件商標は,商標法第4条第1項第8号には該当しない。
(3)特許庁における審決例
被請求人の主張が妥当であることは,過去の審決例からも明らかである。請求人は,異議申立(乙25?乙29)において,いずれの商標に対しても商標法第4条第1項第8号に該当すること等主張したが,いずれの事件においても,「サクラ」の片仮名が請求人の略称として取引者,需要者に広く認識されているものとは認められないと認定され,同号には該当しないと判断されている。
したがって,本件商標についても,特段異別の判断をしなければならない事情は見受けられないことから,同様に判断すべきであり,被請求人の主張の妥当性を裏付けるものである。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)「サクラ」の著名性は認められない。
請求人の提出した証拠からでは,「サクラ」の片仮名が,請求人の商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
(2)本件商標は,「サクラ」とは非類似の商標である。
本件商標は,「さくら学院」を標準文字で書してなるものであり,その外観,全体の称呼及び観念からすると,その構成文字全体として一体不可分のものとして認識されるとみるのが自然であり,「サクラガクイン」の称呼及び「桜の学校(学校名)」の観念のみが生ずると判断するのが妥当である。
したがって,本件商標は,請求人の商標「サクラ」とは,「学院」の有無において顕著に相違することから,外観,称呼及び観念のいずれの点においても,本件商標と請求人の商標「サクラ」とは,相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(3)「サクラ」の識別力は弱い。
「サクラ」は,日本文化に深く関わり日本人に愛されている花木の「桜」を表す用語であることから,企業名あるいは商品名の一部に頻繁に使用されており,「サクラ」の片仮名を使用しても,需要者及び取引者は,「花木の桜」を想起するのが通常であり,特定人あるいは特定の商品を想起することは難しいものである。
(4)本件商標の使用態様
本件商標は,被請求人に所属する女子小中学生で結成された女性アイドルグループの名称であって,そのアイドルグループのグッズの一つとして文房具類等に使用されていることから,需要者は,所属会社である被請求人又は当該アイドルグループが監修あるいはライセンスする商品である認識するとみるのが自然である。
(5)小括
上記のとおり,「サクラ」は,請求人の商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されていたとは認められないこと,本件商標と請求人の商標「サクラ」とは,外観,称呼及び観念いずれの観点からも非類似の商標であること,さらに「サクラ」の文字の識別力の弱さ,本件商標の使用実績をも考慮すると,本件商標をその請求指定商品について使用しても,これに接する取引者,需要者は,当該商品が請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように連想,想起するおそれはなく,その出所について混同を生ずるおそれはないものであるから,商標法第4条第1項第15号の規定に該当しない。
3 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第8号及び同項第15号のいずれにも該当しないから,その請求指定商品について無効とされるべきではない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号の判断について
本号における「混同を生ずるおそれ」の有無は,ア)当該商標と他人の表示との類似性の程度,イ)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,ウ)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,エ)並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,オ)当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号 同12年7月11日第三小法廷判決参照)。
(2)「サクラ」及び「SAKURA」の周知性について
ア 請求人が提出した証拠によれば,請求人は,大正10年に創業した描画材料や文房具類の製造・販売を行うメーカーであり,請求人のグループ売上高は,2008年度,277億円(甲131)であること,大阪,東京,札幌,仙台,名古屋,広島,九州に事業所及び大阪工場を有するほか,関連会社は15社である(甲130,甲131)。
イ 本件商標の登録出願前に発行された,文房具・事務用品の業界紙である「オフイスマガジン」,「旬刊ステイショナー」,「CLIPS」,「関西文具時報」の新聞の記事の見出しには,請求人を表す「(株)サクラクレパス」,「サクラクレパス」等の記載とともに,「サクラ」の片仮名が使用されており(甲2?甲100),また,ぺんてる株式会社のウェブサイト(甲1)には,「サクラ社のクーピーペンシル・・・」との記載がある。
ウ 本件商標の登録出願前に発行された文房具類を掲載した請求人の製品カタログ「サクラ製品のごあんない」(昭和46年(1971年),甲101),「サクラ製品のご案内」(1974年?1983年,甲102?甲105),「サクラ総合カタログ」(1984年?1993年,甲106?甲115),「COLLECTION」(1995年?2008年,甲116?甲129),「幼保用品総合カタログ」(2010年,甲132)には,その表紙,裏表紙及び背表紙に,桜の花がモチーフであるものとして看取し得る図形とその下に「SAKURA」の欧文字からなる請求人の社章(以下「請求人社章」という。)が表示され,その背表紙には,請求人社章及び「サクラ」の片仮名が表示され(甲101?甲132),また,製品カタログに掲載された各種の文房具類には,「SAKURA」の欧文字又は「サクラ」の片仮名(以下「引用商標」という。)が表示されている(甲101,甲102,甲130及び甲131)。
エ 請求人の商品のリーフレットにおいては,請求人社章,引用商標が表示されている(甲148)。
オ しかしながら,文房具や事務用品に関連する複数の業界紙において,請求人を示す「(株)サクラクレパス」,「サクラクレパス」の記載とともに,「サクラ」の片仮名がその略称として用いられていることを認めることができるところ,これらの業界紙は,その内容からすれば,文房具類の取引者向けの新聞等であるから,広く一般に購読される新聞ということはできないものである。
また,カタログやリーフレットにおいて,カタログ中の商品に引用商標が表示されているとしても,その発行部数,頒布先は明らかにされておらず,請求人が提出した証拠においては,それぞれの商品の譲渡の数量・売上高,上記カタログ及びリーフレット以外の広告宣伝の方法,回数及び内容等を把握できる証拠は提出されていない。
さらに,引用商標「サクラ」及び「SAKURA」の文字は,広く親しまれている語である「桜」を理解させるものであるから,引用商標は,申立人による創造標章ということもできない。
以上によれば,請求人が提出した証拠からは,引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,我が国の「文房具類」の需要者の間において,請求人の略称を表すものとして,広く認識されていたとは認めることができない。
(3)本件商標と引用商標の類似性の程度
ア 本件商標
本件商標は,前記1のとおり,「さくら学院」の文字を標準文字で表してなり,外観上まとまりよく一体的に表わされ,その構成全体から生ずる「サクラガクイン」の称呼も,無理なく一連に称呼できるものである。
そして,本件商標の構成中の「学院」の文字部分は,「学校の異称。ミッション‐スクールや各種学校でいう場合が多い。」(広辞苑第六版 株式会社岩波書店発行)の意味を有する語であり,また,前半の「さくら」の平仮名は,我が国において広く親しまれた「桜」を想起させるとみるのが自然であるから,本件商標は,その構成文字全体から「さくら(桜)の学校」程の意味合いを認識させるものであり,その構成全体をもって,一体不可分のものと認識,把握されるものというのが相当である。
そうとすれば,本件商標は,「サクラガクイン」の称呼のみを生じ,「さくら(桜)の学校」の観念を生じるものである。
イ 引用商標
引用商標は,「SAKURA」又は「サクラ」の文字からなるものであるところ,その構成文字に相応して「サクラ」の称呼を生じ,我が国において広く親しまれた「桜」を想起させるとみるのが自然であるから,「桜」の観念を生じるものである。
ウ 本件商標と引用商標との対比
本件商標と引用商標は,それぞれ上記のとおりの構成からなるものであるから,これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合においても,外観上,互いに紛れるおそれはない。
また,本件商標より生ずる「サクラガクイン」の称呼と引用商標から生ずる「サクラ」の称呼は,「サクラ」の音を同じくするものであるとしても,後半部において,「ガクイン」の音の有無の差異を有するものであるから,明らかに聴別できるものである。
さらに,本件商標は,「さくら(桜)の学校」の観念を生ずるものであり,他方,引用商標は,「桜」の観念を生ずるものであるから,観念において相紛れるおそれはない。
そうとすれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても十分に区別することができる非類似の商標であって,別異の商標というべきである。
(4)引用商標の独創性の程度について
引用商標は,「サクラ」又は「SAKURA」の文字からなるところ,これらの文字からは,我が国において広く知られ,広く親しまれている「桜」が想起されるものでもあるから,その独創性の程度は,極めて低いといわざるを得ないものである。
(5)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品との関連性について
本件審判の請求に係る指定商品は,「事務用又は家庭用ののり及び接着剤,紙製包装用容器,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,紙類,文房具類,印刷物,写真,写真立て」であり,他方,請求人が引用商標を使用する商品は,「文房具類」であるから,「文房具類」において,その生産者,販売者,用途及び需要者を共通にするものである。
(6)本件商標と引用商標の出所の混同
引用商標は,上記(2)のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,我が国の「文房具類」の一般の需要者の間において,請求人の略称を表すものとして,広く認識されていたとは認めることができないものであり,また,上記(4)のとおり,その独創性の程度は極めて低いといわざるを得ないものである。
そして,本件商標と引用商標とは,上記(3)のとおり,別異のものであるから,請求指定商品と引用商標に係る商品の関連性を考慮したとしても,本件商標権者が,本件商標を,請求指定商品に使用しても,これに接する取引者,需要者が,請求人の引用商標を連想又は想起することはないというべきであり,その商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものと判断するのが相当である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。 2 商標法第4条第1項第8号該当性について
(1)商標法第4条第1項第8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標はその他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護すること,すなわち,人(法人等の団体を含む)は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護することにあるところ(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号595頁),問題となる商標に他人の略称等が存在すると客観的に把握できず,当該他人を想起,連想できないのであれば,他人の人格的利益が毀損されるおそれはないと考えられる。そうすると,他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては,単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく,その部分が他人の略称等として客観的に把握され,当該他人を想起・連想させるものであることを要すると解すべきである。(知財高裁平成21年(行ケ)第10074号 同21年10月20日判決参照)
(2)本件商標は,「さくら学院」の文字を標準文字で表してなり,該文字は,外観上まとまりよく一体的に表わされ,その構成全体から生ずる「サクラガクイン」の称呼も,無理なく一連に称呼できるものである。
そして,本件商標の構成中の「学院」の文字部分は,「学校の異称。ミッション‐スクールや各種学校でいう場合が多い。」(広辞苑第六版 株式会社岩波書店発行)の意味を有する語であり,また,前半の「さくら」の平仮名は,我が国において広く親しまれた「桜」を想起させるとみるのが自然であるから,本件商標は,その構成文字全体から「さくら(桜)の学校」程の意味合いを認識させるものであり,その構成全体をもって,一体不可分のものと認識,把握されるものというべきであって,殊更,その構成中の「さくら」の文字のみが独立して認識されるとは考え難く,請求人の略称としての「サクラ」の文字を含むものとして把握され,当該請求人を想起・連想させるとはいい難いものである。
また,前記1に記載のとおり,請求人の提出に係る証拠によっては,「SAKURA」又は「サクラ」の文字は,請求人を指し示すものとして一般に受け入れられている「著名な略称」ということはできないものであり,かつ,本件商標は,その構成中に「さくら」の文字を有するとしても,該文字は,上記のとおり,我が国において広く親しまれた「桜」を容易に認識するものであるから,本件商標の構成中の「さくら」の文字部分は,これに接する者に,請求人を想起・連想させるものということができない。
してみれば,本件商標は,たとえ,その構成中に「さくら」の文字を有するものであっても,当該文字は請求人の略称として著名であるとはいうことができないものである。
したがって,本件商標は,他人の著名な略称を含む商標とはいえず,商標法第4条第1項第8号に該当しない。
(3)請求人は,「著名な略称『サクラ』は片仮名であり,平仮名/片仮名程度の違いは社会通念上同一である。」及び「『SAKURA』も請求人を指す略称として認識されているので,称呼が同じである『さくら』は,『サクラ』,『SAKURA』と同一である。」旨主張する。
しかしながら,前記1(2)のとおり,「サクラ」は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の著名な略称と認めることができないものである。
そして,「さくら」が「サクラ」,「SAKURA」と社会通念上同一であるとしても,「サクラ」が請求人の著名な略称とは認められない以上,「さくら」の平仮名が請求人の著名な略称であるということはできない。
そうすると,請求人の略称を「SAKURA」又は「サクラ」の文字とし,本件商標が当該文字を含んでいることを前提とした請求人の主張を採用することはできない。
3 むすび
以上のとおり,本件商標は,本件審判の請求に係る指定商品について,商標法第4条第1項第8号及び同項第15号に違反して登録されたものとはいえないから,同法第46条第1項により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-07-27 
結審通知日 2016-07-29 
審決日 2016-09-08 
出願番号 商願2010-66190(T2010-66190) 
審決分類 T 1 12・ 271- Y (X16)
T 1 12・ 23- Y (X16)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬戸 俊晶 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 平澤 芳行
中束 としえ
登録日 2011-03-11 
登録番号 商標登録第5397763号(T5397763) 
商標の称呼 サクラガクイン、サクラ 
代理人 新井 悟 
代理人 特許業務法人RIN IP Partners 
代理人 中川 拓 
代理人 和田 阿佐子 
代理人 宮城 和浩 

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