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審決分類 |
審判 全部取消 商53条使用権者の不正使用による取消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 025 |
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管理番号 | 1321309 |
審判番号 | 取消2013-300429 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2013-05-27 |
確定日 | 2016-10-11 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4048658号の1の1商標の商標登録取消審判事件についてされた平成26年6月11日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成26年(行ケ)第10171号,平成27年5月13日判決言渡)があったので,さらに審理の上,次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第4048658号の1の1商標の商標登録は取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第4048658号の1の1商標(以下「本件商標」という。)は,別掲(A)のとおりの構成からなり,平成5年10月14日に登録出願,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として同9年8月29日に設定登録され,その後,同19年9月11日に商標権の存続期間の更新登録がされ,さらに,指定商品中の「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」については,同20年10月29日に商標登録第4048658号の2へ分割移転の登録がされ,同じく第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」については,同日に商標登録第4048658号の1の2へ分割移転の登録がされたものである。 第2の1 関連商標(被請求人商標) 1 登録第1995432号の1の1(以下「被請求人商標1」という。) 商標の構成:別掲(B)のとおり 登録出願日:昭和56年4月22日 設定登録日:昭和62年10月27日 指定商品 :第6類,第14類,第21類,第22類び第26類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第25類「履物但し、履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)を除く」 2 登録第4125472号の1の1(以下「被請求人商標2」という。) 商標の構成:別掲(C)のとおり 登録出願日:平成8年10月14日 設定登録日:平成10年3月20日 指定商品 :第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボン吊り,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボン吊り,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)を除く」 3 登録第4836907号の1の1の1(以下「被請求人商標3」という。) 商標の構成:別掲(D)のとおり 登録出願日:平成11年7月14日(1999年(平成11年)2月17日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権主張) 設定登録日:平成17年2月4日 指定商品 :第9類,第14類及び第28類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)を除く」 4 登録第4837860号の1の1の1(以下「被請求人商標4」という。) 商標の構成:ADMIRAL (標準文字) 登録出願日:平成11年7月14日(1999年(平成11年)2月17日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権主張) 設定登録日:平成17年2月10日 指定商品 :第9類,第14類及び第28類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)を除く」 なお,以下,本件商標及び被請求人商標1ないし4を一括して「被請求人商標」ということがある。 第2の2 引用商標 1 登録第4048658号の1の2(以下「引用商標1」という。) 商標の構成:別掲(A)のとおり 登録出願日:平成5年10月14日 設定登録日:平成9年8月29日 指定商品 :第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」 2 登録第1995432号の1の2(以下「引用商標2」という。) 商標の構成:別掲(B)のとおり 登録出願日:昭和56年4月22日 設定登録日:昭和62年10月27日 指定商品 :第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」 3 登録第4125472号の1の2(以下「引用商標3」という。) 商標の構成:別掲(C)のとおり 登録出願日:平成8年10月14日 設定登録日:平成10年3月20日 指定商品 :第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」 4 登録第4836907号の1の2(以下「引用商標4」という。) 商標の構成:別掲(D)のとおり 登録出願日:平成11年7月14日(1999年(平成11年)2月17日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権主張) 設定登録日:平成17年2月4日 指定商品 :第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」 を除く)」 5 登録第4837860号の1の2(以下「引用商標5」という。) 商標の構成:ADMIRAL (標準文字) 登録出願日:平成11年7月14日(1999年(平成11年)2月17日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権主張) 設定登録日:平成17年2月10日 指定商品 :第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」 なお,以下,引用商標1ないし5を一括して「引用商標」ということがある。 第3 請求人の主張 請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を概要以下のように述べ,証拠方法として甲第1ないし第210号証(枝番を含む。以下,括弧内は「甲1」ないし「甲210」のように略す。)を提出している。 1 当事者について (1)請求人 請求人は,双日株式会社の100%子会社であり,靴,バッグ,アパレル,旅行用鞄,寝具,家具等のさまざまな消費財商品の企画・開発販売を行っている総合商社である。後述する「Admiral」(アドミラル)を含め,世界の優良ブランドを発掘しているが,単なる輸入にとどまらず,日本の消費者ニーズにマッチした商品を自社で独自に企画・開発・委託生産を行っており,請求人の展開するブランドとして多くの消費者の支持を得ている(甲2)。 (2)被請求人 被請求人は,海外のファッションブランドの輸入販売・小売りオペレーション並びにブランドのライセンス等を行っている商社である(甲3)。 (3)株式会社チヨダ(使用権者) 株式会社チヨダ(以下「使用権者」又は「チヨダ」という。)は,「東京靴流通センター(TSOC)」,「シュー・プラザ」,「靴のチヨダ」等の名称で,靴と靴用品の量販店を北海道から沖縄まで全国で約1100店舗を展開している小売業者である(甲4)。 2 被請求人商標及び引用商標について (1)被請求人商標に係るブランドについて 被請求人商標は,いずれも「Admiral(アドミラル)」というブランド(以下「本件ブランド」という。)に係る商標であるが,本件ブランドは,1914年にイギリス海軍の制服のブランドとして発足したものである。その後,1970年代,1980年代にはサッカーを中心に,さまざまなスポーツの一流クラブチームにおいてユニフォームやフットウェアなどに採用されるなど,トータルスポーツブランドとしてヨーロッパを中心に発展してきた。その後は,例えば,1995年にサッカーJリーグのアビスパ福岡に提供されていたユニフォームに用いられるなど,日本においても広く普及しており(その後は,特に請求人の使用により有名ブランドとなっている。),近年は,インターナショナルブランドとして全世界で認知されるまでに発展している(甲5ないし7)。 (2)被請求人商標及び引用商標が現在の登録名義に至った経緯 被請求人商標及び引用商標は,同一の商標について指定商品を異にして被請求人,請求人にそれぞれ権利が帰属しているが,これらの商標権が分割を経て被請求人及び請求人が登録名義人となるに至った経緯は以下のとおりである。 被請求人商標及び引用商標に係る登録商標は,分割前はスイス国大手ブランド管理会社である「インターナショナル ブランド ライセンシング アーゲー」(以下「IBL」という。)が登録名義人であったが,株式会社アイ・ピー・ジー・アイ(以下「IPGI社」という。)がライセンシーとしての地位を有していたため,請求人は2005年8月にIPGI社からサブライセンスを受け,2006年9月頃より「Admiral(アドミラル)」シューズの製造・販売を開始した。その後,2008年9月に被請求人商標の指定商品中,第25類「履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く。)」(以下「請求人商品」という。)についての権利を分割移転することに合意し,一度IBLからIPGI社に名義を移転した後,請求人商品に係る権利を分割移転する形で請求人が譲り受けることとなった(2008年10月29日に請求人の名義となっている(甲8の1ないし5)。)。その後,分割された後の登録商標に係る指定商品に係る権利は,IPGI社から被請求人に名義が移転され(2012年4月20日に被請求人の名義となっている(甲1の1ないし5)。),現在に至っている。 3 請求人による「本件ブランド(引用商標)」の使用 (1)請求人商品の販売状況について 請求人は,前述のとおり,2008年10月29日に請求人商標の名義を移転して商標権者となっているが,本件ブランドに関しては,請求人が2005年8月にシューズ分野における国内独占製造販売権を取得し,自社で商品の企画,デザイン,生産,販売までを一括して行っている。そして,2006年9月中旬頃より本件ブランド(引用商標)を用いた秋冬モデルのシューズ8モデルの販売を開始している。ここに掲載された「Colonel(コロネル)」,「Cardiff(カーディフ)」,「Inomer(イノマー)」の3タイプのほか,「Watford(ワトフォード)」(甲9の1)もこの8タイプに含まれている(甲5)。 その後も,請求人がメーカーとして企画・生産・販売するブランドシューズとして日本国内において独占的に販売し,本件ブランドを積極的に宣伝広告するなどして営業努力を重ねていった結果(甲9の1ないし11),請求人商品は販売を順調に伸ばし,販売開始から2013年5月途中までに累積販売数が140万足に迫るヒット商品となっている(このうち,上記「Watford(ワトフォード)」についても2013年5月途中までに34万足程度の売上を記録しており,請求人商品の中でも売れ筋のモデルである。)(甲10)。 さらに,請求人の製造・販売に係る請求人商品は,2009年から2013年の初期にかけて100回以上にもわたって多くのファッション雑誌に取り上げられており,本件ブランドのみならず請求人商品の形状についても多くの需要者の目に留められることとなっている(甲11ないし甲194)。これらの雑誌のうち,例えば,「smart」,「Samurai ELO」,「FINE BOYS」,「Street Jack」,「Men’s Joker」,「MEN’S NON-NO」,「Mono Max」,「Begin」,「Lightning」は,甲第195号証の記載からも明らかなように,男性ファッション誌サイトの人気ランキングにおいてトップテンに入る極めて人気の高いメンズファッション雑誌である。そして,甲第196号証からも明らかなとおり,これらの雑誌の中には「MEN’S NON-NO」,「Men’s Joker」,「FINE BOYS」,「POPEYE」,「Street Jack」,「CHOkiCHOki」など発行部数が10万部を超えるファッション雑誌も数多く含まれている。 これらの事情に鑑みれば,本件ブランド及び請求人商品はこれらの雑誌媒体のみでも何百万人もの需要者の目に留められることとなっていると考えられ,このことによっても本件ブランド及び請求人商品の全国的な知名度が非常に高くなっていることはいうまでもない。 以上の諸事情に鑑みれば,本件ブランドは,日本国内において有名ブランドとしての地位を確立したといえる。 なお,請求人商品については,必ずタグを付して請求人がメーカーであることを表示して販売しており,例えば,大手のインターネット販売サイトにおいても,請求人が請求人商品のメーカーであることが明示されて販売されている(甲197)。そのため,例えば,ウィキペディアにおいても「アドミラルフットウェアとは,日本の双日ジーエムシー株式会社がブランドとして展開しているスポーツ用品メーカー。」として紹介されているように(甲6),日本国内において本件ブランドに係る商標は,(少なくとも履物の分野において)請求人が出所であることを示すものとして周知の商標となっていたといえる。 (2)請求人商品における商標の使用態様 請求人商品における引用商標の使用態様には特徴があり,ほとんどのタイプの商品において,以下の3つの規則に沿った形で商標が付されている(上記「Watford(ワトフォード)」についてもこのルールに従っている。)。 ア 別掲(E)のとおり,シュータン(靴べロ)の表面においてイギリス国旗が描かれ,その中心に「ENGLAND」の文字が記載されており,その上には「Admiral○」(○の表示は,○の中にRの記載があるものを示す。以下,同じ。)の文字が付されている。(以下「請求人使用商標A」という。) イ 別掲(F)のとおり,アッパーサイド(靴の側面)の比較的ヒールに近い位置に引用商標2及び4と同一といえる商標を付している。(以下「請求人使用商標B」という。) ウ 別掲(G)のとおり,インソール(中敷)にも「Admiral○」の文字が付されている。(以下「請求人使用商標C」という。) このように,請求人商品において,比較的目立つ位置に特徴的な規則に従って商標が付されているのであるから,本件ブランド(引用商標)のみならず,このような商標の使用態様についても需要者の間で請求人を示すものとして周知になっていたといえる。 4 使用権者による商標(本件ブランド)の使用について (1)被請求人からの使用権設定契約 被請求人は,遅くとも平成24年7月3日において,使用権者との間で本件ブランドに関するライセンス契約を締結している(甲198)。 なお,被請求人商標は,いずれも本件ブランドに係る商標であり,被請求人商標の指定商品は,履物のカテゴリーに属するものを含んでおり,使用権者の商品は,通常のスニーカーと比較してヒールの部分がえぐれているもの(以下「使用権者商品」という。)の,履物の一種であることは明らかであるから,無断でこれらに本件ブランドを使用すれば引用商標に係る商標権の侵害を構成することになる。 したがって,上記ライセンス契約が(本件商標を含めた)被請求人商標に基づく専用使用権又は通常使用権の使用許諾も内容としていることは明らかである。 (2)使用権者による本件ブランドに係る商品(使用権者商品)の販売状況 使用権者は,上記(1)のライセンス契約に基づき,平成25年3月頃より使用権者の店舗において使用権者商品を販売している(甲199)。 さらに,使用権者のホームページにおいても本件ブランドの由来について解説するとともに,各バリエーションに係る使用権者商品の画像を掲載して宣伝広告を行っている(甲7)。 (3)使用権者による商標の使用態様 使用権者商品における商標の使用態様においても特徴があり,そのほとんどの商品において,概ね以下の4つの規則に従って商標が付されている。 ア 別掲(H)のとおり,シュータン(靴べロ)の表面においてイギリス国旗が描かれ,その中心に「ENGLAND」の文字が記載されており,その上には「Admiral○」の文字が付されている(以下「使用権者商標A」という。)。 イ 別掲(I)のとおり,アッパーサイド(靴の側面)の中央付近に引用商標2及び4と同一であるか酷似した商標を付している(以下「使用権者商標B」という。)。 ウ 別掲(J)のとおり,インソール(中敷)にも「Admiral○」の文字が付されている(以下「使用権者商標C」という。)。 エ 別掲(K)のとおり,使用権者商品のヒール(踵部)の下部においても「Admiral○」の文字が付されている(以下「使用権者商標D」という。)。 このように,使用権者商品においても特徴的な規則に従って商標が付されているのであるが,このうち使用権者商標AないしCは比較的目に付く部分に目立つ態様で付されているが,使用権者商標Dについては比較的目立たないところに付されている。 (4)小括 以上のとおり,使用権者は,本件商標を含めた被請求人商標に基づく専用使用権又は通常使用権の使用許諾を含んだ本件ブランドのライセンス契約に基づき,遅くとも平成25年3月20日頃より,使用権者の販売店舗において本件ブランドを付した使用権者商品の販売を行っていたことが分かる。 5 使用権者の使用する商標と被請求人商標との関係について (1)被請求人商標と同一又は類似の商標の使用であること ア 使用権者商品において用いられている商標は,使用権者商標AないしDの4つである(以下「使用権者商標AないしDをまとめて「使用権者商標」という場合がある。)が,以下に示すとおり,これらはいずれも被請求人商標(引用商標)と同一であるか又は類似の商標である。 イ 使用権者商標Aについて 使用権者商標Aは,上記4(3)において述べたとおり,中心に「ENGLAND」の文字が記載されたイギリス国旗の上には「Admiral○」の文字が付された結合商標であり,上記2(1)で述べたとおり,日本国内においても「Admiral」の文字において,高い出所識別機能を有していることは明らかといえる。 同様の理由により,本件商標及び被請求人商標1ないし3(引用商標1ないし4)においても,「Admiral」及び「ADMIRAL」の文字部分が各商標の要部に該当することは明らかであり,使用権者商標Aと対比したとき,その要部である「Admiral(ADMIRAL)」の外観(ここでの大文字か小文字かの違いは類否判断を左右するものではない。)及び「アドミラル」という称呼において共通している。また,被請求人商標4は,「ADMIRAL」の標準文字であるので使用権者商標Aの「Admiral」と外観・称呼が共通することは明らかである。 以上より,使用権者商標Aと被請求人商標(引用商標)とは類似の商標であるといえる。 ウ 使用権者商標Bについて 使用権者商標Bは,上記4(3)において述べたとおり,図形の中に「Admiral」の文字が付された結合商標である。使用権者商標Bと被請求人商標1及び3(引用商標2及び4)とを対比すると,それぞれに含まれている「Admiral」の文字において共通しているのみならず,図形を含めた外観においても酷似しているのであるから,使用権者商標Bと被請求人商標1及び3(引用商標2及び4)とが同一又は類似の商標であることは極めて明白である。 本件商標並びに被請求人商標2及び4(引用商標1,3及び5)についていえば,上記イにおいて述べたとおり,「Admiral」及び「ADMIRAL」の文字部分が各商標の要部(引用商標5では商標そのもの)に該当することは明らかである。そして,使用権者商標Bと対比したとき要部である「Admiral」においてそれぞれ共通するので,使用権者商標Bと本件商標並びに被請求人商標2及び4(引用商標1,3及び5)は類似の商標であるといえる。 以上のとおり,使用権者商標Bは,被請求人商標(引用商標)と同一又は類似の商標であるといえる。 エ 使用権者商標C及びDについて 使用権者商標C及びDは,いずれも「Admiral」の文字からなる商標である。上記イにおいて述べたとおり,本件商標及び被請求人商標1ないし3(引用商標1ないし4)においても,「Admiral」及び「ADMIRAL」の文字部分が各商標の要部に該当することは明らかであり,使用権者商標C及びDと対比したとき,その要部である「Admiral(ADMIRAL)」において共通する。また,被請求人商標4は,「ADMIRAL」の標準文字で表された商標であるので,使用権者商標C及びDと同一又は類似の商標といえることは明らかである。 以上より,使用権者商標C及びDは,被請求人商標(引用商標)と同一又は類似の商標であるといえる。 オ 小括 以上のとおり,使用権者は,使用権者商品について被請求人商標及び引用商標と同一又は類似の商標を使用しているものと認められる。 (2)使用権者商品が被請求人商標の指定商品と同一又は類似の商品であること 使用権者商品は,ヒール(躍部)が通常の靴よりもえぐれた形状の履物である。そして,被請求人商標の指定商品中,第25類「履物但し,履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)を除く」となっており,「除く」の二重否定により,履物の一種である「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」が指定商品に含まれることを読み取ることができる。よって,使用権者商品への使用権者商標の使用は,被請求人商標の指定商品と同一又は類似の商品について使用しているものといえる。 なお,引用商標の指定商品は,いずれも第25類「履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)」であり,使用権者商品と同一又は類似の商品が指定商品とされている。 (3)小括 以上のとおり,使用権者による使用権者商標の使用は,被請求人商標と同一又は類似の商標を被請求人商標の指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであると認められる。 6 使用権者商標の使用によって,請求人商品との出所混同が生じることについて 使用権者は,請求人商品の売れ行きが好調であることに乗じて,請求人商品と出所混同させることを企図して被請求人商標(引用商標)と同一又は類似の商標を請求人商品と同様の使用態様で使用権者商品に使用したことは明白といえる。そして,使用権者商標のこのような使用態様により,請求人商品との間で出所の混同が生じていることについては,以下の事情からも明らかである。 (1)引用商標が請求人商品であることを示すものとして既に周知であったこと 上記3のとおり,日本国内において,本件ブランドに係る引用商標及び請求人使用商標AないしCは,請求人が出所であることを示すものとして周知の商標となっていたといえる。 そうとすれば,使用権者商品と請求人商品を扱っている店舗が同一か否かにかかわらず,販売店ないしインターネットで本件ブランドが付された使用権者商品に接した需要者は,使用権者商品を請求人商品のシリーズ商品などの請求人が出所である商品と誤認するのは当然であるといえる。 (2)使用権者商品及び請求人商品における商標の使用態様が酷似していること 上記3(2)において述べたとおり,請求人商品においては,シュータンの表面においてイギリス国旗が描かれ,その中心に「ENGLAND」の文字が記載されており,その上には「Admiral○」の文字が付され(請求人使用商標A),アッパーサイドの比較的ヒールに近い位置に引用商標2及び4と同一であるか酷似した商標を付し(請求人使用商標B),インソールにも「Admiral○」の文字が付されている(請求人使用商標C)。そして,請求人商品に係る多くのシリーズ商品において,このような特徴的な規則に従って商標が付されているのであるから,このようなルールに則った商標の使用態様についても需要者の間で請求人を示すものとして周知になっていたといえる。 これに対し,上記4(3)において述べたとおり,使用権者商品においても,シュータンの表面においてイギリス国旗が描かれ,その中心に「ENGLAND」の文字が記載されており,その上には「Admiral○」の文字が付されており(使用権者商標A),アッパーサイドの中央付近に被請求人商標1及び3(引用商標2及び4)と同一又は酷似の商標を付しており(使用権者商標B),インソールにも「Admiral○」の文字が付され(使用権者商標C),別掲(K)のとおり,使用権者商品のヒールの下部においても「Admiral○」の文字が付されている(使用権者商標D)。 これらを対比すると,商標が付されている位置に関し,請求人使用商標Bと使用権者商標Bについて,アッパーサイドのヒールに近い位置か中央付近かの違いはあるものの,使用権者商品に係るサンダル靴においてはアッパーサイドのヒール付近がえぐれていて,物理的に商標を付すことができないことを考えると,その位置が中央付近によるのは当然であるので,この点は大きな相違ではなく,請求人使用商標A及び使用権者商標A,並びに請求人使用商標C及び使用権者商標Cについては,付けられている位置が同一である。 そして,請求人使用商標A及び使用権者商標A,請求人使用商標Bと使用権者商標B,並びに請求人使用商標C及び使用権者商標Cについてそれぞれ対比すると,各商標の構成態様や要部について検討するまでもなく実質的に同一の商標が付されていると評価できる。 以上のとおり,使用権者商品の使用権者商標AないしCは,請求人商品の請求人使用商標AないしCと比較して,商標が付されている位置が共通しているのみならず各商標自体の外観においても実質的に同一である。前述のとおり,請求人使用商標AないしCはいずれも比較的目立つ位置に特徴的な規則に従って付されており,このようなルールに則った商標の使用態様についても需要者の間で請求人を示すものとして周知になっていたことも考慮すれば,請求人使用商標AないしCのような使用態様は,需要者において使用権者商品が請求人の出所に係るシリーズ商品であると誤認させるのに十分すぎるほどに共通している。 してみれば,使用権者商品に接した需要者は,請求人の出所に係る商品と誤認混同するのは当然であるといえる。 (3)使用権者商品が請求人商品の形状と近似していること 商標の使用態様において,使用権者商品は,請求人商品と酷似しており,それだけでも使用権者商品に接した需要者は,請求人が出所のシリーズ商品と誤認するには十分であるが,商品の形態自体においても両者は極めてよく似ている。 以下,上記3(1)において述べた請求人商品のシリーズ商品の一つである「Watford(ワトフォード)」と使用権者商品とを対比した写真を別掲(L)に示す。 すなわち,両商品はカラーリングにおいて共通していることは勿論のこと,アッパー(甲の部分)に付された斜めのラインやシューレースホール(靴ひもを通す穴の部分)に沿ったラインの形状等を含め商品形態においても近似しており,全体的にヨーロッパ風の履物のような印象を与える外観を呈している。 一般的にいっても,同一の出所に係るシリーズ商品であれば形態において若干の違い(ヒールの部分がえぐれているか否か)があっても,各部の形状や全体的な印象が類似してくるのが通常であることから,上記のように商標のみならず商品形態においても近似していることは,需要者において使用権者商品が請求人の出所に係るシリーズ商品であると誤認させる事実であるといえる。 実際,ファッション雑誌「MonoMax」の2013年6月号において使用権者商品が紹介されているが,そこでは「名作ワトフォード譲りのヨーロピアンな顔立ち」,「顔立ちはそのままワトフォード!」,「正面から見れば名作ワトフォードと見間違うこと請け合い」と記載されており,第三者である雑誌社においても使用権者商品と請求人商品との間で出所の誤認混同を生じていることを示している(甲200)。 以上のとおり,使用権者商品に接した需要者において,請求人の出所に係る商品と誤認混同するのは当然であるといえる。 (4)使用権者商品が使用権者の店舗において請求人商品と程近い場所で販売されていること 引用商標は,請求人が出所であることを示す商標として既に周知であり,かつ,請求人商品と使用権者商品において商標の使用態様や商品自体の形態において酷似していることなどに鑑みれば,使用権者商品と請求人商品を扱っている店舗が同一か否かにかかわらず,使用権者商標が,実際の商品の販売態様からしても誤認混同を生じさせることは明らかといえる。 甲第199号証に示すように,シュー・プラザ新宿東口駅前店においては使用権者商品と共に「Watford(ワトフォード)」をはじめ請求人商品も多く扱われているが,同一の棚で使用権者商品の段が請求人商品の段に挟まれる形で陳列して販売されており,同一のメーカーに係るシリーズ商品であるという雰囲気を強く醸し出していることから,これらの展示態様は両者の出所混同を惹起させるものである。。 さらに,同号証の図5に示された右側の黒い什器は,請求人が請求人商品の広告宣伝のために支給した什器であり,これが使用権者商品の広告のためにも機能していることはその位置関係から明らかであるから,使用権者の店舗において使用権者商品に接した需要者が,当該商品を請求人の出所に係る商品と誤認混同することは当然であるといえる。 7 被請求人の答弁に対する弁駁 (1)被請求人が使用権者の本件商標の使用について,相当の注意をし,かつ,不正使用の事実を知らなかったとの抗弁について 商標法第53条第1項ただし書の抗弁は,「当該商標権者がその事実を知らなかった場合において,相当の注意をしていた」場合に認められるものであるから,商標権者である被請求人が不正使用との事実を知っていたのであれば,この抗弁は成立しない。乙第19号証の24頁によれば,被請求人は,使用権者商品を販売すること(不正使用行為)について使用権者から事前に知らされた上で,遅くとも平成24年12月5日の時点で承認したことが示されている。 したがって,「当該商標権者がその事実を知らなかった場合において」という要件を充足しないことはすでに明白であり,相当の注意を果たしていたか否かを検討する以前の問題として上記抗弁は成立しないことは明らかである。 なお,「相当な注意」についても検討するに,そもそも本件商標のように分割譲渡が複数回にわたってなされている場合には,特に出所混同のおそれが大きくなるのであるから,商標権者が第三者に当該商標の使用を許諾する場合には,出所の混同が発生しないようにしなければならない(高度の注意義務が課されている)ことはいうまでもない。 しかしながら,乙第18号証の契約書を参酌しても,請求人ら他の商標権者との商品の間で混同を防止することを定めたような規定は一切存在せず,その他被請求人の提出するどの証拠を参酌してもそのような事実を裏付けるようなものは存在しない。また,乙第19号証によれば,被請求人は,請求人商品と混同することが明らかな使用権者商品の製造,販売について,積極的に承認を与えており,誤認混同を生じさせる行為に加担して利益を得ていたと評価でき,この意味においても,被請求人が「相当の注意」を果たしていたとは認められない。 (2)本件審判の請求は信義則に反し又は権利の濫用にあたるとの抗弁について 被請求人が引用する最高裁昭和61年4月22日第三小法廷判決(判タ617号79頁)は,商標権者である被上告人が上告人との間で和解が成立し,上告人の販売行為を許していたという事案であり,そのような事情の存在しない本件において上記判例の趣旨が当てはまらないことは極めて明白である。そもそも,請求人は,IPGI社との間で使用権者商品が販売されることについて承認ないしは取り交わしをした事実は一切存在しないが,請求人とIPGI社との合意が第三者であるはずの被請求人に対して当然に及ぶかの如く主張する根拠も全く不明である。 なお,被請求人は,本件審判の請求前に,請求人が使用権者に対して警告を行わなかったことについて述べているが,仮に請求人が使用権者に対して警告して誤認混同行為を止めさせることができたとしても,そのことにより取消事由が解消するものではないのであるから,被請求人の主張に理由がないことは明らかである。また,使用権者に対する不正競争防止法違反等の権利行使とは全く別の権利として商標法第53条第1項による審判請求が認められているのであるから,審判請求に先立って使用権者に対して何らかの権利行使を行わなければならない理由は存在しない。 (3)商標の使用に関して 被請求人は,使用権者商標Aのイギリス国旗に「ENGLAND」を記載するデザインは,本件ブランドの伝統的デザインであって,請求人が独自に創作したデザインではない旨,さらには,元々は同一の商標であり,約100年にもわたって確立されてきたイングランド発祥のスポーツウェアブランドのイメージに沿って請求人も使用権者もそれぞれが製品を製造販売するのであるから,使用権者商標が,引用商標と同一のもの又は類似するものであることは,当然のことである旨主張する。 しかしながら,使用権者商標Aのイギリス国旗に「ENGLAND」を記載するデザインの創作主体に関していえば,そもそも商標法は,識別法であり特許法や意匠法のような創作を保護する法律ではないのであるから,だれがこのデザインを考えたかは商標法第53条第1項の該当性に関して全く無関係である。 また,請求人が問題としているのは,商標が付されている位置及びそれぞれの位置に付された三つの各商標の外観が実質的に同一であり,かつ商品形態(デザイン)において酷似していることであって,使用権者商標Aを用いていることを問題としているのではない。本件のように商品のデザインからそれに付す商標の種類・位置までこれほどまでに酷似していることは,「イングランド発祥のスポーツウェアブランドのイメージに沿った商標の使用」などという概念を遙かに超越した露骨な模倣という他ないものであり,第三者から「名作ワトフォード」と称されるほどに人気を博した請求人商品の顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する極めて悪質な行為といわざるを得ない。 (4)誤認混同に関して ア 本件ブランドに係る各商標は「英国発祥のブランドの商品」であると正しく認識されるにすぎないとの主張について 被請求人は「本件ブランドは,その価値に着目した日本国内の数社が,分割譲渡を受け又はライセンスを受けて使用し『1914年に英国で発祥したブランド』として発展させたため,本件ブランドは,我が国のブランドであるとか,特定の日本の会社の製品であると認識されるものではなく,需要者に対しあくまでも英国発祥のブランドと認識されるものである」及び「本件ブランドにかかる各商標を『履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)』に使用しても,『サンダル』に使用しても,需要者は,本件ブランドにかかる各商標が付された製品について『1914年に英国で発祥したブランド』として正しく認識するにすぎず,使用権者が本件ブランドにかかる各商標をサンダルに付したからといって,需要者に,請求人の業務にかかる商品と混同を生じさせることにはならない」と主張をしている。 しかしながら,知財高裁平成22年4月27日判決(平成21年(ネ)10058号・平成21年(ネ)10072号)最高裁HPにおいて「原告商標によって保護されるべき出所は,新米国コンバース社から原告商標権の譲渡を受けた,我が国の登録商標権者である原告伊藤忠というべきであるところ」と判示されていることからも明らかなように,商標法によって保護される「出所」は,あくまでも当該商標が付された商品(又は役務)自体の出所であって,当該ブランドの出所ではない。すなわち,引用商標(被請求人商標)が英国発祥のブランドに由来することはあくまでブランドイメージの話であり,商標においてそのようなブランドイメージを示す機能とは別に当該商標が付された商品についての出所表示機能を併せ持つことは何ら珍しいことではなく,英国発祥のブランドに係る商標と認識されたとしても依然として出所混同の問題が生じ得ることはいうまでもない。 イ 請求人商品に付された下げ札について 被請求人は,請求人の製造販売する履物の中には,下げ札に「双日ジーエムシー株式会社」の記載があるものも存在するが,販売足数も不明であり,下げ札により周知性を獲得したとはいえない。また,請求人は,あたかも自分ひとりが下げ札に自己の名称を記載しているかのように述べるが,使用権者は「販売先(株)チヨダ」の下げ札を付して使用権者の製造販売にかかる製品を販売している。下げ札により周知性を獲得でき出所が特定されるのであれば,使用権者もその商品であるサンダルに「販売元(株)チヨダ」の下げ札を使用しているのであるから,サンダルについては,使用権者がその商品の出所として周知性を備えていることとなり,需要者が混同を生ずることはない旨主張している。 しかしながら,請求人は,請求人商品の販売数量や広告状況から本件ブランド及び請求人商品の全国的な知名度が非常に高くなったことを前提に,ブランドや商品のみならず,その出所が請求人であることも周知となっている事情の一つとして,下げ札に請求人が出所であることが示されていることを述べているにすぎず,「下げ札により周知性を獲得した」などと主張しているのではない。さらに,「請求人はあたかも自分ひとりが下げ札に自己の名称を記載している」及び「下げ札により周知性を獲得できる」などと主張しているかの如き被請求人の主張についても,請求人の主張を歪解したものに他ならず,被請求人の反論に理由がないことは明白である。 ウ ウィキペディアの記載について 被請求人は,2007年8月11日時点のウィキペディアやアマゾンのホームページの記載を根拠に甲第6号証の記載が誤りであるかのような主張をするが,被請求人が引用する各証拠の記載は,アドミラルのブランド(本件ブランド)について説明するものであるのに対し,請求人の引用する甲第6号証の記載は,アドミラルフットウェア(請求人商品)の出所等についての説明するものである。 このように,これらの証拠においてブランドそのものについて説明したものか,それともそのブランドを付した特定の商品についての説明かで異なっているのであるから,これらの記載の相違は何ら矛盾はなく,どちらも間違っていない。 (5)小括 以上述べたとおり,引用商標及び請求人使用商標AないしCは,請求人が出所であることを示す商標として既に周知であり,かつ,請求人商品と使用権者商品において商標の使用態様や商品自体の形状において酷似していることなどに鑑みれば,使用権者商品と請求人商品を扱っている店舗が,同一か否かに拘わらず,請求人が出所であると誤認混同するのは当然であり,これらの商品が使用権者の店舗において意図的に誤認混同するように渾然一体として販売されているのであるから,需要者において誤認混同をするのは明白であるといえるものであり,また,第三者である雑誌社においてもそのような見解を示している。 したがって,使用権者の行為は,商標法第53条第1項に規定する「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」に該当することは明らかである。 8 まとめ 以上のとおり,誤認混同の要件に関する被請求人の主張にはいずれも理由がなく,本件においても誤認混同の要件を充足していることは極めて明白であるから,本件商標は,商標法第53条第1項の規定に基づき,その登録を取り消すべきものである。 第4 被請求人の主張 被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を概要以下のように述べ,証拠方法として乙第1ないし第30号証(枝番を含む。)を提出している。 1 被請求人の答弁の要旨 商標法第53条第1項に基づき登録商標が取り消されるための要件は,(ア)専用使用権者又は通常使用権者が,(イ)指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又は類似商標の使用をし,(ウ)商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずる行為を行ったことである。ただし,(エ)商標権者が誤認混同行為につき相当の注意をし,かつ,不正使用の事実を知らなかったとの抗弁事由が認められる場合は取り消されない。 本件では,上記要件のうち(ウ)の要件について,他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれ,すなわち,出所の混同を生じるおそれはない。また,仮に出所の混同を生じるおそれがあると評価し得る場合であっても,(エ)の抗弁事由,すなわち,被請求人は,使用権者による被請求人商標及びその類似商標の使用につき相当の注意を払って監督しており,抗弁事由が認められる。 よって,本件商標の登録は取り消されない。 さらに,本件審判の請求は,信義則に反し又は権利の濫用にあたるものであり許されない。 2 商標法第53条第1項本文の要件の充足について (1)使用権者であることについて(要件(ア)について) 使用権者は,被請求人から被請求人商標に関して,指定商品であるサンダルについて使用許諾を受けているものである。 (2)指定商品についての登録商標を使用していることについて(要件(イ)について) 使用権者は,被請求人からの使用許諾に基づいて,指定商品であるサンダルについて,被請求人商標を使用している。 なお,引用商標と被請求人商標は,同一の商標であり,その同一の商標について,請求人と被請求人がIPGI社から指定商品を別にして商標権を分割して譲渡されたものであるから,使用権者が使用している商標が,引用商標と同一のもの又は類似するものであることは,当然のことである。 この点,請求人は,使用権者が製造販売するサンダルに付した使用権者商標AないしDが,引用商標と類似しており,出所の混同を生じているとして,商標法第53条第1項に基づき本件商標の登録の取消しを請求する。 しかしながら,そもそも引用商標及び被請求人商標は,いずれもスイス法人であるIBLが保有していたものである。 そして,本件ブランドは,1914年に英国にて発祥した老舗のスポーツウェアブランドであって,英国のサッカー代表チームや,英国の有名サッカークラブであるマンチェスターユナイテッドのスポンサーになるなどして,全世界的に有名となったインターナショナルブランドであり,我が国においても,英国のサッカー代表チームの活躍などにより,1980年代には,英国発祥のインターナショナルブランド(特に,英国のサッカーブランド)として,著名なブランドとして周知され,そのブランドとしての地位は確固たるものとなっていたものである(乙1及び乙2)。 かかる本件ブランドの確固たる地位に着目した請求人及び被請求人は,本件ブランドに係る各商標をIPGI社が取得した後,「履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)」と「サンダル靴・サンダルげた・スリッパ」の指定商品に分割して請求人と被請求人がそれぞれの指定商品に係るデザインとともに承継したものである(甲1の1ないし5及び甲8の1ないし5)。 したがって,請求人商品も使用権者商品も,元々同一のブランドイメージ(イングランド発祥のスポーツウェアブランドのイメージ)に基づいてそれぞれ製品の製造・販売がなされている(乙3)。 例えば,使用権者商標Aのイギリス国旗に「ENGLAND」の文字を記載するデザインは,本件ブランドの伝統的なデザインであって(乙4),請求人が独自に創作したデザインではない。 なお,「IBLから提供されたブランドイメージの資料集」(乙3)は,2005年4月14日付けIPGI社とIBLとのライセンス契約に基づきIPGI社が商標権のライセンスを受けた際にIBLから受領したものである。 以上のような経緯があるので,商標の同一性にとどまらず,請求人と使用権者の製品との間で,「Admiral」の文字及びこれと「ENGLAND」と記載されたイギリス国旗を共に使用するという使用態様等が類似するのは当然である。 請求人は,商標の類似性や使用態様等につきいろいろ論じているが,元々は同一の商標であり,かつ,約100年にもわたって確立されてきたイングランド発祥のスポーツウェアブランドのイメージに沿って,請求人も使用権者もそれぞれが製品を製造販売するものであるから,使用権者商標が,引用商標と同一又は類似のものであることは,当然のことであり,さらに,イギリス国旗を使用するという使用態様等が類似することも当然である。 (3)使用権者が商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずる行為を行ったことについて(要件(ウ)について) 商標法第53条第1項本文の要件として問題となるのは,使用権者が請求人の商品と混同を生ずる行為を行ったといえるか否か(使用権者の販売する商品が,請求人の商品であると,需要者がその出所を混同するか否か)という点に集約される。 この点,本件においては,そもそも出所の混同のおそれは存在しない。 上述のように,本件ブランドに係る各商標は,1914年にはイングランドで創出され,我が国においても,1980年代に既に著名かつ周知性のあるブランドとなっていたものである。 そのようなブランドの価値に着目した日本国内の数社が,本件ブランドに係る各商標について分割譲渡を受け又はライセンスを受けて使用し「1914年に英国で発祥したブランド」として発展させたため,本件ブランドは,我が国のブランドであるとか,特定の日本の会社の製品であると認識されるものではなく,需要者に対し英国発祥のブランドと認識されるものである。 ア 出所の混同の判断基準(判例) 商標法第53条第1項の出所の混同のおそれにつき,裁判例においては,他人の業務に係る商品と混同を生じる具体的なおそれを必要としている(東京高裁昭和52年(行ケ)第158号,昭和54年10月16日判決)。 イ 本件ブランドに係る各商標の使用からは,具体的な他人の業務に係る商品との混同は生じない。 (ア)本件ブランドに係る各商標は「英国発祥のブランドの商品」であると正しく認識されるにすぎない。 商標法第53条の立法趣旨は,「この規定がなくても,商標権者は使用許諾にあたって自己の信用保全のため通常の場合十分な注意をするだろうけれども,もしそうでない場合には本条一項による取消しをもって,そのような無責任な商標権者及び専用使用権者又は通常使用権者に対する制裁を課することとして,使用許諾制度の濫用による一般需要者への弊害防止の手段としているのである。」というものである(乙5)。すなわち,一般需要者の弊害防止という公益目的で商標権者への制裁を定めるものである。 そうすると,一般需要者がいかなる製品かについて正しく理解する場合には,一般需要者を害することはないのであるから,商標権者へ制裁を課す根拠もないことになる。 請求人も被請求人も,それぞれIBLが保有していた1914年に英国で発祥した世界的に著名な本件ブランドの各商標権を,IPGI社を通じて譲り受けたものである。すなわち,本件ブランドは,1914年にイギリス海軍(Royal Naval)の制服のブランドとしてスタートし(甲7),1970年代,1980年代にはサッカーイングランド代表やマンチェスターユナイテッドのユニフォームを手掛けており(乙2及び乙4),この点は,請求人も自らのウェブサイトで認めるところである(甲5)。 一般需要者は,本件ブランドに係る各商標を履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)に使用しても,サンダルに使用しても,本件ブランドに係る各商標が付された製品について「1914年に英国で発祥したブランド」として正しく認識するにすぎず,使用権者が本件ブランドに係る各商標をサンダルに付したからといって,消費者に,請求人の業務に係る商品と混同を生じさせることにはならない。 (イ)本件ブランドに係る各商標の日本での利用状況 日本における本件ブランドに係る各商標権の使用権は,「1914年に英国で発祥したブランド」として,商品に応じて,以下の者に分属している。 以下,被請求人ないしIPGI社からライセンスを受けた者である。 ・チヨダ:サンダル靴(甲7) ・ウエニ貿易:腕時計(乙6) ・CA4LA:眼鏡(乙6) ・豊田通商株式会社(以下「豊田通商」という。):被服(乙2) ・豊田通商からライセンスを受けた者(乙7の1のライセンシー一覧参照) ・有限会社モリワキ:バッグ(乙7の2) ・株式会社ウィックス:靴下・下着(乙7の3) 以上のように,日本における本件ブランドに係る各商標権は,「1914年に英国で発祥したブランド」として,商品に応じて,多数の者に使用権が分属し,請求人の他にも数多くの者により使用されている。 被請求人のウェブサイトでは,被請求人の名称を大きく表示した上で,BrandIndexに「1914年に英国で誕生した歴史あるスポーツブランド。・・・トータルスポーツブランドとして約40か国で展開されている」と表示している(乙8)。 また,豊田通商のウェブサイトでも,当該ウェブサイトが,本件ブランドの公式なウェブサイトであると表示し,さらには,「Admiralは,1914年イギリス海軍(Royal Naval)の制服のブランドとしてスタート」し,「日本を含む全世界40カ国で展開する,インターナショナルブランド」と表示している(乙2)。 使用権者のウェブサイト(甲7)及び請求人のウェブサイト(乙9)でも,本件ブランドは,1914年に英国で発祥したものであることを強調している。 また,請求人は,本件ブランドの製品の紹介として,「1914年にイギリスで創業」(甲19),「第一次世界大戦時に英国海軍の軍服を製造。ブランドロゴは海軍提督の腕章をモチーフとする」(甲25)などと記載し,「1914年にイギリスで発祥したブランド」,すなわち,「英国の老舗ブランド」であることを強調して宣伝している(甲18,甲19,甲21,甲23,甲25,甲26,甲28,甲29,甲34,甲35,甲38,甲39,甲42,甲43,甲45,甲46,甲48,甲50ないし甲52,甲66,甲90,甲93,甲106,甲109,甲111,甲117,甲121,甲122,甲134,甲138,甲144,甲146,甲148,甲151,甲154,甲160,甲167,甲168,甲170,甲178,甲180,甲189及び甲192:以上全て雑誌広告)。 なお,甲第200号証の雑誌でも,記事には,請求人の名称は表れておらず,単に本件ブランドが1914年発祥の英国の老舗ブランドであることが読み取れるのみである(なお,紹介される製品の問い合わせ先は「チヨダインフォ・・・」となっている。)。 以上からすれば,本件ブランドが,請求人のブランドとして著名なものであったり,周知性を有するものであったりするものではなく,英国発祥の老舗ブランドとして著名なもの(周知性を有するもの)であることは明らかである。 また,本件ブランドに係る各商標の使用や広告宣伝では,イギリス国旗に「ENGLAND」の文字を記載するデザインとともに商標を使用するものがほとんどであるから,「1914年に英国で発祥したアドミラルブランド」の製品であること以上の特定の出所を示す機能はない。 したがって,使用権者による本件ブランドに係る各商標やイギリス国旗のデザインとの組み合わせの使用により,使用権者商品と,請求人商品との間で,出所の混同を生ずることはない。 (ウ)本件ブランドに係る引用商標が,周知・著名であるとの主張について 請求人は,引用商標が周知・著名であり,請求人の業務に係る商品と混同を生じると主張するが,そもそも,かかる事実は存在しない。 a 請求人が引用商標を取得した経緯及びその使用状況 本件ブランドに係る各商標権のうち,履物を指定商品とする商標権は,IBLからIPGI社へと譲渡され,請求人はIPGI社から「履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)」について2008年9月8日付けで分割譲渡を受けた(移転登録日:2008年10月29日)。 請求人は,これに先立つ2005年8月にIPGI社より本件ブランドに係る各商標のサブライセンスを受け,2006年9月以降に本件ブランドに係る各商標を使用し,請求人商品を製造販売したと主張するが,プレスリリースでの発表(甲5)を除き,2006年9月当時から請求人の名称を付して製造販売していたとの事実を示唆するものはない。請求人が提出する雑誌広告(甲11ないし甲194)はいずれも2009年以降のものである。 請求人は,2008年に「履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)」を指定商品とする本件ブランドに係る各商標権の分割譲渡を受けた後,自ら製造販売する商品を示す商標として,本件ブランドに係る各商標を使用することで,請求人商品であることを示す商標として周知性を取得したとも主張する。 しかしながら,請求人から証拠として提出された雑誌広告(甲11ないし甲194)の記載は,不鮮明であって全ての解読はできないものの,その多くの記事において製造者を請求人とする記載ではなく,さらには,本件ブランドが,日本の会社である請求人のブランドであるとの表示もない。 これらの雑誌広告では,「1914年にイギリスで創業」,「第一次世界大戦時に英国海軍の軍服を製造。ブランドロゴは海軍提督の腕章をモチーフとする」との記載のみで請求人の名称すら示されていないものが多く,例外的に,請求人の名称がある記事においてすら「1914年にイギリスで発祥したブランド」,すなわち,英国の老舗ブランドであることを強調して宣伝している(甲18,甲21,甲38等)。 かかる事実からすれば,請求人が,2008年に本件ブランドに係る各商標権の分割譲渡を受けた後についても,請求人商品に付された引用商標が,請求人の製造販売する商品であることを示す商標として周知・著名となったという事実は存在しない。 むしろ,請求人は,多くの場合,自らの名称を付さずに本件ブランドに係る各商標を付した製品を雑誌で宣伝することにより,IBLから本件ブランドに係る商標権を譲り受けた豊田通商及びIPGI社並びにそれらのものから使用許諾を受けたライセンシーが発展させた「1914年に英国で発祥したブランド」というブランドイメージを,同様に利用して製品を製造販売している。 b その他引用商標の周知性の根拠として請求人が引用する事情はいずれも根拠を欠くこと 請求人は,請求人商品の販売開始から2013年5月までの販売量が140万足であると主張するが,かかる販売量を裏付ける客観的証拠はない。 次に,請求人の製造販売する履物の中には,下げ札に「双日ジーエムシー株式会社」の記載があるものも存在するが,販売足数も不明であり,下げ札により周知性を獲得したとはいえない。 なお,請求人は,あたかも自分ひとりが下げ札に自己の名称を記載しているかのように述べるが,使用権者は「販売元(株)チヨダ」の下げ札を付して使用権者商品を販売している。下げ札により周知性を獲得でき,出所が特定されるのであれば,使用権者もその商品であるサンダルに下げ札を使用しているのであるから,サンダルについては,使用権者がその商品の出所として周知性を備えていることとなり,需要者が混同を生ずることもない。 さらに,請求人は,ウィキペディアの記載(甲6)を引用し,「アドミラル」が請求人を示すものとして周知であると主張する。 しかしながら,ウィキペディアは,何人にも容易に編集・加筆可能なものであり,これをもって周知であるなどとはいえない。そもそも,周知性を示す証拠として,誰もが容易に編集・加筆可能なウィキペディアの記載を引用しなければならないことだけをとっても,請求人の主張に根拠のないこと,すなわち,本件ブランドが,請求人のブランドとして周知性のないことの根拠となる。 なお,2007年8月11日時点のウィキペディアでは「アドミラル(Admiral)はイギリスのスポーツ用品メーカー。ヨーロッパを中心に展開している」との記載であった。すなわち,2007年時点では,本件ブランドの説明として,正しい説明がウィキペディアに記載されていた。ところが,2013年4月10日時点のウィキペディアでは「アドミラルフットウェアとは,日本の双日ジーエムシー株式会社がブランドとして展開しているスポーツ用品メーカー」へと請求人に都合のよい記載へと記載内容が編集・変更されている(乙10)。 以上のような,誰もが容易に編集・加筆可能なウィキペディアの記載とは異なり,請求人や被請求人を含めた第三者が編集・加筆することが不可能な大手通販サイトである「アマゾン」のウェブサイトのADMIRAL(アドミラル)ブランドストーリーでは,本件ブランドの説明として,「1914年に英国にて発祥の老舗スポーツウェアブランド」との説明がなされ,請求人の名称は全く表れていない(乙1)。 さらに,アマゾンのウェブサイトで「アドミラル」を検索すると,乙第1号証のようにポロシャツ,水着,靴下,靴などが一緒に表示されるので,ポロシャツ,水着,靴下,靴の全ての商品について,需要者は,「1914年に英国にて発祥の老舗スポーツウェアブランド」と正しく認識するのであり,何らの出所の混同も生じてはいない。 なお,請求人は甲第197号証により楽天市場で販売されている本件ブランドの靴の販売に際し請求人の名称が表示されていると主張するが,楽天市場で「アドミラル」を検索した場合,靴のほかバッグ,ゴルフバッグなども表示され,請求人の名称は表示されない(乙11)。 (エ)請求人は,使用権者が本件商標又はその類似商標を付してサンダルを製造販売することにつき,その使用態様・形態,販売状況等のために出所の混同があると主張するため,以下,反論する。 a 引用が恣意的である点について 請求人は,別掲(L)の使用権者商品(右側)に示すサンダルを引用して,使用権者の被請求人商標の使用態様・形態,販売状況等のために出所の混同があると主張する。 しかしながら,使用権者商品ヘの商標の使用形態は,請求人が引用するごくわずかの商品を除けば,請求人商品の商標の使用形態と類似しているといえるようなものではなく,被請求人商標の取消しが認められるような使用態様・形態,販売状況等は存在しない。 使用権者は,別掲(L)に示す使用権者商品(右側)のほかにも多くの種類のサンダルを製造販売しており,これらは請求人商品への商標の使用形態と全く異なる(乙12及び乙13)。 また,請求人は,別掲(L)に示す請求人商品(左側)と使用権者商品(右側)の各1足のみを抽出して,殊更に類似性を強調するが,商標権の取消しを請求するための「出所の混同を生じる」という主張を基礎づける引用として不十分なものであり,その引用は恣意的であり不適切である。 使用態様・形態のために出所の混同が生じるとするのであれば,多数の請求人商品と使用権者商品を比較した上で,混同の可能性を論じるべきであり,わずか1足の靴とサンダルで論じるべきではない。 b 使用権者商品について 請求人は,使用権者商品に,イギリス国旗の中心に「ENGLAND」の文字を記載するデザインと「Admiral」の文字からなる商標(使用権者商標A)をサンダルの甲の部分へ付したことや,サンダル各部への使用権者の商標の使用は,請求人の靴であるいわゆる「ワトフォード」モデルの靴と使用形態が類似すると主張する。 上述のとおり,イギリス国旗の中心に「ENGLAND」の文字を記載するマークは,アドミラルブランドの伝統的なデザインとして,1980年代より使用されているものである(乙4)。 使用権者は,乙第4号証に基づきIPGI社が展開した本件ブランドに係る資料集(乙6)を参照の上,サンダルのデザインを行っている。被請求人は,ブランドイメージに外れないかを「IBLから提供されたブランドイメージの資料集」(乙3),「The Admiral Book of Football 1980」(乙4)などで判断するのであるから,このブランドイメージから生じるデザインは類似することになる。 上述のように,請求人と被請求人は,同じ起源を有する商標を履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)とサンダルとをそれぞれ指定商品として分割し,請求人と被請求人がそれぞれその指定商品に係るデザインとともに承継したものであるから,いずれもが伝統的なデザインを使用することは当然である。 さらに,使用権者商標のサンダルヘの使用は,ブランドマークを商品自体に付する場合の履物及びサンダル靴の商標の使用方法として一般的なものである。 すなわち,靴やサンダルには,その構造及びデザイン上商標を付す一般的な部分は限られている。IPGI社がIBLから提供されたブランドイメージの資料集(乙3)の15頁及び17頁にも,本件ブランドに係る商標が同様の箇所に付されているものがある。さらに,本件ブランドとして現在海外で販売されているものでも,同様の部分に商標を付しており,本件ブランドの履物としてもかかる部位に商標を付すことは一般的なものといえる(乙14の1及び2)。 また,請求人は,請求人の「ワトフォード」モデルの靴とサンダルの形態が類似するため出所の混同を生じると主張する。形態が類似することが商標法第53条第1項の類似商標の使用による出所の混同を生じさせるか否かの判断に影響するか疑問があるが,念のため反論する。 まず,各商品に付された斜めのラインについては,その配色(赤・青と白地の組み合わせ)は,アドミラルブランドの伝統的な配色であり,同様のラインが1980年代に既に使用されている(乙4)。 IPGI社がIBLから提供されたブランドイメージの資料集(乙3)の23頁にも,同様のラインの付されたTシャツのデザインがある。かかるラインは,現在,本件ブランドのTシャツのデザインとして使用されている(乙15)。 さらに,英国をイメージした靴のデザインとしては,アディダスやその他のブランドの靴でも,赤・青・白のラインを付す例はありふれたものである(乙16)。 以上から,各商品に付されたラインや,その配色は,請求人独自のものではないことがわかる。よって,かかる形状から出所の混同を生じさせるものではない。 c 販売態様について 請求人は,使用権者商品と請求人商品とが上下の棚にそれぞれ陳列されていることをもって出所の混同を生じると主張する。 しかしながら,履物の販売の際に,同一のブランドについてどのように商品を販売するかは,店舗毎に異なるし,使用権者の店舗においても,本件ブランドのサンダルをサンダルコーナーで販売している店舗もある(乙13)。 一つの店舗での例を挙げて混同を生じると主張するのは不適切である。なお,什器の使用方法等の販売方法については,商品の販売業者(請求人)と小売店(チヨダ)との間で取り決めるべき事項であって,出所の混同を生じるとの根拠たりえない。 また,後述のとおり,使用権者は,被請求人の監督の下,請求人の商品である「靴」と誤認を生じないように,被請求人商標を付したサンダルを販売する際の下げ札には「販売元(株)チヨダ」の記載を付すようにするとともに,必ず下げ札,取扱い説明書,サンダルの箱には「Admiral SANDALS」の記載を付していた。 さらに,使用権者は,自己のウェブサイト上でも,「アドミラルサンダル(Admiral SANDALS)チヨダ限定コレクション」をヘッダー部分に記載し,サンダルは,使用権者が製造販売していることを明らかにしている(甲7)。 ところで,使用権者は,昭和11年に「チヨダ靴店」の名称で営業を開始し,昭和23年に法人化し(株式会社チヨダ靴),以後靴の製造販売業者として77年の歴史を持つ老舗企業である。使用権者の現在の資本金は,68億9300万円であり,靴事業として全国で1,143店舗(平成25年2月末時点)を運営し,直近の連結会計年度における靴事業の販売実績は,売上高1116億6400万円である。使用権者は,「靴量販店首位級」,靴の「量販店首位」などと評されている(乙17の1ないし3)。 かかる使用権者の歴史,事業規模及び使用権者自身の商号の知名度・周知性からすると,「チヨダ」の名称はそれだけで十分な識別力を有し,本件ブランドのサンダルの下げ札に「販売元(株)チヨダ」と記載され,又は,本件ブランドのサンダルを販売するウェブサイト上でも,「アドミラルサンダル(Admiral SANDALS)チヨダ限定コレクション」と記載していれば,請求人を含めた他のものとの出所の混同を生じることはない。 なお,請求人は,請求人商品の販売足数が2006年度から2013年度の累計で約140万足であると主張する。これに対し,使用権者が製造販売する使用権者商品の販売足数は,2012年10月から2013年6月の9か月間で24万6893足に上る。 上述のように,使用権者は,被請求人商標を付したサンダルを販売する際には,下げ札に「販売元(株)チヨダ」の記載を付すようにしており,需要者は,当該下げ札が付されたサンダルを目にしている。上述の使用権者の名称の著名度からすれば,使用権者が本件ブランドに係るサンダルを製造販売していることは,容易に認識できる。 以上の事実からすれば,使用権者の販売形態のために出所の混同を生じることはない。 3 被請求人の相当の注意による免責(商標法第53条第1項ただし書) 上記2のとおり,本件審判の請求は商標法第53条第1項本文の要件を満たさないが,仮に同項本文の要件を満たすとしても,被請求人は,本件商標の使用許諾に関連して相当の注意を払っているので,本件商標の取消しを免れる。 (1)使用権者の選定について 使用権者は,靴の製造販売業者として国内最大手であり,不正使用の前歴有りとの風評はない。また,使用権者は,東証一部上場企業,かつ,大会社であり,厳しい法令順守義務を負っている(会社法第362条第5項,同条第4項第6号等)。かかる事実からすれば,被請求人は,使用権者の選定には,相当の注意を払っているといえる。 (2)使用権者の監督・注意について 被請求人は,本件ブランドに係る各商標権が,「履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)」については請求人に分割譲渡されたことから被請求人は,両者の間で問題が生じないように,特に注意を払っていた。 例えば,使用権者の使用状況に関しては,新製品のデザインにつき全て事前承認を必要としていた。具体的には,使用権者とのライセンス契約第2条1項において,試作品を作成・提供させることとし,同条2項において,商標を付する商品として妥当と判断したときは使用権者の販売を了承するものとしている(乙18)。 実際にも,被請求人は,「アプルーバル回答書」と題する書面により,サンダルのデザインと使用商標に関して使用権者の提案する製品の承認(アプルーバル)を与えることとし,ミスを防ぐため被請求人の担当者二名が承認の判断を行うこととしていた(乙19)。 承認の基準は,他人の商標権の侵害とならないか,アドミラルブランドのイメージに合うかの二点であり,前者については,了承するか否かの判断が困難な事案について弁理士に相談し,弁理士のアドバイスのもと使用権者への被請求人商標の使用を許可していた(乙20及び乙21)。後者については,IBLからIPGI社へ提供され,被請求人が承継したブランドイメージの資料集(乙3)に沿うよう,ブランドイメージとしてこれまでIPGI社が展開した本件ブランドのイメージに関する資料(乙6)を使用権者へ提供した上で,ブランドイメージから外れていないかを審査していた。 被請求人は,使用権者に対し「サンダル全般」について被請求人商標の使用を許諾し(乙18),「請求人の商品である靴との違いを明瞭にしておくように」との弁理士のアドバイスに基づき,箱や下げ札には被請求人商標4の下部に「SANDALS」の文字を記載させていた(乙19及び乙21)。また,使用権者商品であることが明らかとなるよう,取扱説明書には「www.chiyodagrp.co.jp」と記載させるなどしている(乙19の最終頁)。 (3)小括 以上の事実からすれば,被請求人は相当高度な注意を払い,使用権者が出所の誤認が生ずるような商標の使用をしないよう監督していたものといえる。 よって,被請求人は,少なくとも相当の注意を払って使用権者の行為を監督していたといえ,免責されるべきである。 4 本件審判の請求は信義則に反すること(又は権利の濫用)について 不正使用に基づく登録商標取消審決の取消請求に係る最高裁判例最高裁昭和61年4月22日第三小法廷判決(判タ617号79頁)によれば,公益的性格を有する商標の不正使用取消請求についても,当事者間の和解(すなわち合意)に基づいて一方当事者が商標を使用する場合に,他方当事者が登録商標につき不正使用を理由として取り消すことについて審判請求することが,信義則に反して許されない場合があることを明らかにしていることから,請求人による本件審判の請求は,信義則違反(又は権利の濫用)として許されないものである。 5 請求人提出の口頭審理陳述書に対する被請求人の意見 (1)審理事項通知書に対し,請求人は,商標法第53条の第1項の取消審判の制度趣旨及び商標法第53条第1項の「混同」の意義及び判断手法を述べ,さらには,すでに提出した証拠を引用した上で請求人の主張には根拠があると主張するが,具体的な証拠を提出せずに,抽象的な同じ主張を繰り返すことで,請求人は,結局は,請求人の主張が客観的な証拠に基づかない主張であることを,かえって明らかにしている。 (2)請求人の引用する判例について 請求人が引用する判例(乙23の1及び2)は,正しく引用されておらず,請求人の請求を裏付けるものではない。 請求人は,「新・商標法概説」(第2版)(青林書院2013年)(甲203)を提出し,同書籍532頁の「しかし,具体的判断を要するといっても,現実の混同の発生ではなく,客観的に混同の危険が存在すれば足りるとされる。条文の文言も『混同を生じさせたもの』となっていない。『混同を生ずるものをしたとき』というには,現実に品質・質の誤認や商品・役務の出所の混同が発生したときという意味ではない」との記載を引用した上で,上記の高等裁判例及び最高裁判例を引用する。 被請求人も,現実に誤認・混同が起きたことの立証は不要であり,誤認・混同のおそれがあればよい,との一般論を否定するものではない。 しかしながら,本件で問題となるのは,かかる「おそれ」の存在が客観的に証拠により示されているか,という点である。請求人の引用した上記高裁判例は,「商標法が需要者の利益の保護をもその目的としていること(商標法第1条参照)を考えれば,同条同項の右規定(商標法第53条第1項)は,客観的に誤認・混同を生じさせるとみられる場合,換言すれば誤認・混同のおそれがある場合をもその対象としていると解するのが相当である」と判示している(乙23の1)。そして,本件では,請求人は,かかる「おそれ」を証拠により客観的に示せていないし,追加の証拠を提出できていない。 したがって,請求人の引用した上記高裁判例及び最高裁判例は,何ら,請求人の請求を裏付けるものではない。 (3)弁駁書に対する被請求人の意見 請求人が引用する平成21年(ネ)10058号判決及び平成21年(ネ)10072号判決(乙24)は,不適切であり,該判決の事例は,商標権者(原告)が侵害品を輸入販売する被告を訴えた事例において,被告が「登録商標が示す出所は,我が国における登録商標権者ではなく,むしろ外国拡布者であると解すべき」と反論したものの裁判所がこれを排斥したにすぎないものであるから,引用する判例としては,はなはだ不適切なものである。請求人は,被請求人の主張を誤解(又は曲解)して,全く関連性のない判決を引用して議論を錯綜させているにすぎない。 (4)需要者の認識について 本件ブランドは,上記2で述べたとおり,1980年代には,我が国において英国発祥のインターナショナルなスポーツブランドとしての確固たる地位を確立していたことから,請求人商品を購入する消費者は,これを英国ブランド商品であると認識して購入するものである。一方,チヨダが製造・販売する商品についても,わざわざ下げ札を確認して購入する消費者は別として,多くの消費者はチヨダの商品を,英国ブランド商品であると認識して購入するものである。そうすると,消費者(需要者)が,チヨダの業務(商品)と他人(請求人)の業務(商品)を誤認・混同することはあり得ないし,そのおそれが生じることもあり得ない。 6 平成28年6月24日付け上申書 (1)被請求人が使用権者に対して提起した訴訟において,使用権者が,「使用権者のサンダル販売について請求人から何らクレームを受けていない」などと主張していること ア 本件に係る平成26年6月11日付け審決(以下「本件審決」という。)を取り消す旨の判決が出された後,被請求人は,使用権者であるチヨダに対して,本件審決及び審決取消判決の審判及び訴訟に要した弁護士費用の賠償を求める訴訟(以下「本件別訴」という。乙28)を提起し,被請求人は,チヨダに対して,審決取消判決にて認定された同社による被請求人登録商標の不正使用行為を主張したが,これに対して,チヨダは,以下のような反論を行った(乙29)。 (ア)チヨダは現在まで継続的に請求人の商品を取り扱っており,請求人から,過去から現在に至るまで,商品の販売方法についてはもちろんそれ以外に何らの苦情も受けたことはない(乙29,5頁参照)。 (イ)平成24年9月頃にチヨダが請求人を訪問して本件ブランドのサンダルを販売することについて説明し,請求人はチヨダ商品と請求人商品が同じ棚に並ぶことも当然想定していたと思われるが,この点について特に別の棚に置いて欲しいなどといった要請はなかった(乙29,6頁参照)。 (ウ)チヨダは,請求人・被請求人間の紛争の前後はもちろん,現在においても請求人と良好な関係にあり,苦情を訴えられたことはない。請求人は,本件別訴に関し,チヨダに対して最大限の協力をしたいと話した(乙29,7頁参照)。 イ このように,請求人が,本件取消審判の理由となったチヨダの行為に関して,チヨダに対し何らのクレームもしてこなかったばかりか,むしろ不正使用行為をしたとされていたチヨダに協力したいとの発言をしていることが,本件別訴にて初めて判明した。 このことから,請求人は,チヨダが請求人商品と類似したデザインの商品を販売すること,及び,当該販売を誤認混同を招くような態様で行うことを黙示的に認めてきたのであって,チヨダの行為を黙認しながら,被請求人登録商標の取消しを求めることは不当である。 請求人は,被請求人登録商標の取消審判を申し立てながら,その一方で,取消しの根拠となる行為を行っていた使用権者であるチヨダに対しては友好的な関係を維持する姿勢を貫くことは,請求人と不正使用行為をしたと主張されている使用権者とのなれ合いによって容易に使用権者の不正使用行為が認定されるようにし,被請求人による防御を妨げ,被請求人の商標を取り消すという目的を請求人と使用権者との協同によって達成しようとするものであって,到底許されるものではない。 (2)商標法53条1項ただし書の使用権者に対する相当の注意として,知財高裁による審決取消判決の後速やかに被請求人が使用権者とのライセンス契約を終了させたこと 商標法53条1項ただし書は,商標権者による使用権者に対する相当の注意について規定するが,使用権者に対する監督として商標権者が取り得る最も有効な手段は,ライセンス契約を終了させることである。 本件において,被請求人が使用権者であるチヨダに対して,使用権者の商品デザイン等について問い合せたところ,使用権者からは,不正使用行為は一切なく,商品のデザインも使用権者であるチヨダの従業員が行ったとの説明がなされた。被請求人はチヨダによる当該説明が虚偽であるとの根拠を示すことは不可能であり,当該説明を信じて,使用権者による不正使用行為はなかったと理解せざるを得なかったため,被請求人は,不正使用行為を理由に使用権者であるチヨダとのライセンス契約を終了させることはできなかった。 知財高裁の審決取消判決により,チヨダの被請求人登録商標の不正使用行為が認定されたため(乙27,34頁?35頁参照),当該認定を根拠として,商標権者として,使用権者とのライセンス契約を終了させることとした。 このように,被請求人がより早い段階でライセンス契約を終了させることができなかったのは,請求人がチヨダに一切クレームをせず,チヨダによる販売を黙認してきたからである。 この請求人による本件審判手続における主張と,手続外での使用権者であるチヨダヘの矛盾した態度の違いによって,使用権者であるチヨダが被請求人に対して不正使用行為はないと説明することを許してきたものである。すなわち,本件では,被請求人としては,使用権者の不正使用行為を止めさせるために,商標権者として取り得た唯一の行為(ライセンス契約の終了)を実行しており,かかる行為が商標権者として取り得た唯一の行為となったのは,請求人の上記の行為・態度を原因とするものであった。このように,請求人の行為・態度により被請求人が取り得る措置が制限されている中で,被請求人はできる限りの是正を試みたのであるから,商標法53条1項ただし書の適用は認められるべきである。 (3)被請求人登録商標が取り消された場合に,被請求人のみが多大な損害を被ること 仮に被請求人登録商標が取り消された場合,靴について本件ブランドの商標権を持つ請求人は,被請求人の商標の対象であったサンダルも製造販売することができることになる。したがって,請求人は,本件ブランドの商標を,サンダルについても独占的に使用することが可能となる。その上,請求人とチヨダは,前述のとおり,未だに良好な関係であるということなので,チヨダは,本件ブランドの商標が付されたサンダルを請求人から仕入れて販売することも可能である。 すなわち,被請求人登録商標が取り消されると,本来,商標の不正使用行為をして最も責められるべきチヨダが利益を上げることができる一方で,被請求人は貴重な財産である被請求人登録商標を失うこととなるのである。 上述のように馴れ合いとも呼べる請求人とチヨダとの関係により,本件ブランドのサンダルに関する権利は,被請求人から奪われ,請求人がその権利を得て,請求人及びチヨダがその恩恵にあずかる立場になる。かかる結論が極めて理不尽であることは明らかである。 (4)小括 以上のとおり,知財高裁による取消前の審決が出された後に生じた事実及び判明した事実によれば,商標権者である被請求人は,チヨダとのライセンス契約を終了させたことで「相当の注意をしていた」と言え,商標法53条1項ただし書の適用により,本件審判請求は成り立たないと判断されるべきである。 7 まとめ 以上のとおり,本件は商標法第53条第1項に定める商標登録取消の要件を充たさない。仮にこの点が認められないとしても,被請求人は使用権者の本件商標の使用を相当の注意をもって監督しており,同条第1項ただし書による免責が認められる。 第5 当審の判断 1 認定事実 当事者の提出した証拠及び主張の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)商標権の分割の経緯 引用商標1ないし5が本件商標及び被請求人商標1ないし4から分割される前の各商標権は,その最初の商標権者であるスイス連邦の法人「アドミラル スポーツウエア ライセンス アーゲー」から,本件ブランドのライセンス会社であったスイス連邦の法人「インターナショナル ブランド ライセンシング アーゲー」(IBL)へと移転され,次いで,平成20年10月29日付けで,IBLから日本国の株式会社アイ・ピー・ジー・アイ(IPGI社)に移転登録された(甲1の1ないし5)。 請求人は,平成20年10月29日付けで,上記各商標権のうち指定商品を「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」とする引用商標1ないし5の商標権の移転登録を受けた(甲8の1ないし5)。 被請求人は,平成23年11月11日に設立された。被請求人は,平成24年4月20日付けで,IPGI社から,引用商標1ないし5を分割した後の本件商標及び被請求人商標1ないし4の商標権の移転登録を受けた(甲1の1ないし5)。 上記分割移転により,同一商標に係る商標権の指定商品中,第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」については請求人が,第25類「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」については被請求人が,商標権者となることとなった。 (2)被請求人商標の使用権者 ライセンス契約書(乙18)によれば,2012年5月21日付けで,被請求人が日本において所有する「Admiral」商標のチヨダに対する独占的通常使用許諾について,「サンダル全般」を許諾商品として締結されており,更新をしない旨の通知がない限り1年毎に更新されるものとされている。 そうすると,被請求人は,本件商標を含む被請求人商標について,チヨダに対し通常使用権を許諾したものと認められるものであり,チヨダは,使用権者としての立場にあるものといえる。なお,チヨダが本件商標に係る使用権者であることについては,当事者間に争いはない。 (3)「Admiral(アドミラル)」ブランドについて 「Admiral(アドミラル)」は,英語で「海軍将官,提督」等を意味する語で,1914年,英国で発祥したブランドであり,第1次世界大戦時に英国海軍の軍服を製造していたメーカーが,戦後スポーツウェアメーカーとなって発展させてきたブランド(本件ブランド)である。本件ブランドは,1970年代から1980年代にかけて,サッカーのイングランド代表や,人気クラブであるマンチェスター・ユナイテッドを含むメジャープロサッカークラブの公式ユニフォームに用いられたことにより,欧州を中心として,主としてサッカーのアパレルメーカーとして世界各地で認知度が高まった。現在は,英国クリケット代表チームのスポンサーとなるなど,サッカーのみならず,トータルスポーツブランドとして約40か国で展開されている。そして,日本においても,1970年代から1980年代に全盛期を迎え,現在は,サッカーファンにとって非常に懐かしいレトロなイメージのあるブランドとして位置付けられている。(甲5,201,乙8)。 (4)請求人による引用商標の使用について ア 請求人は,「Admiral(アドミラル)」ブランドに関し,平成17年8月にシューズ分野における国内独占製造販売権を取得し,平成18年9月頃から,請求人商品を含む「Admiral」の商標を付したカジュアルシューズを継続的に製造・販売するようになった(甲5,202)。 イ 本件ブランドは,前記(3)のとおり,スポーツウエアやスポーツ用品のメーカーとしての認知度は高かったが,請求人は,スポーツシューズとしてではなく,日本人に合った,ファッションに特化したタウンユースとしての靴を新たに開発,販売をすることとし,細身で,底が薄く,スタイリッシュなデザインのスニーカーを独自にデザインし,その3箇所に請求人使用商標を付した「ワトフォード」モデルなど,引用商標を使用した多数のスニーカー等のモデルを製造,販売した(甲9の1ないし11,甲201)。 請求人の販売する靴のモデルは多数あるが,平成18年9月頃の販売開始時から,使用権者商品の販売開始時である平成25年3月頃までの約6.5年の間の請求人の靴の累積販売総数は約140万足であり,そのうち「ワトフォード」モデルの累積販売数は約34万足である。なお,「ワトフォード」モデル以外に,請求人が「ワトフォード」と同時期から販売している「イノマー」,「イノマーハイ」と称するモデルのスニーカーにおいても,請求人使用商標AないしCと同じ商標が,スニーカーの同じ位置に付されている(甲5,9の1ないし11,甲10) ウ 請求人の販売するスニーカーは,「Admiral(アドミラル)」のブランド名で,平成21年から平成25年初めにかけて,ファッション雑誌に100回以上取り上げられ,そのうち「smart」,「Samurai ELO」,「FINE BOYS」,「Street Jack」,「Men’s Joker」,「MEN’S NON-NO」,「Mono Max」,「Begin」,「Lightning」という人気ランキングのトップテンに入るような人気の高い若者向け男性ファッション雑誌に頻繁に取り上げられた(甲11ないし195)。また,上記掲載された雑誌のうち,「MEN’S NON-NO」,「Men’s Joker」,「FINE BOYS」,「POPEYE」,「Street Jack」,「CHOkiCHOki」は発行部数が10万部を超える若者向け男性ファッション雑誌である(甲196)。 また,平成25年7月12日付け日経流通新聞の記事では,「アドミラル(双日GMC)」との表題の下,「英国発祥の靴ブランド「アドミラル」が男女を問わず,20歳前後の若者の支持を集めている。英国ロンドンの街角を想起させる都会的なデザインが特徴・・・日本の消費者の嗜好に合わせながら,英国らしさにこだわったデザインや素材選びで競合ブランドとの差異化につなげている。」と紹介された(甲201)。 (5)請求人商品と使用権者商品の外観について ア 請求人商品(別掲(L)の写真左側)は,全体として平べったく,細身の形状の白地のスニーカーである。請求人商品のアッパー(甲の部分)の中央には銀色のシューレースホールが2列に並び,白い靴紐が通されており,シューレースホールに沿って設けられた縫い目部分から靴底にかけて,紺と赤の斜めの細い2本線が靴の外側に1組だけ付されており,また,アッパーとソール(靴底部分)との境目部分に,紺色の線が靴の周りを一周する態様で,ソールの厚みの半分くらいの高さ部分に,赤い線が靴の周り後方を約半周する態様で,それぞれ付されている。靴の踵の履き口部分には,踵の立ち上がりの約半分くらいの高さの逆三角形の紺色の布が縫い付けられている。 そして,別掲(E)のとおり,シュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に黒字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段に青と赤のイギリス国旗の中央に白字で「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる請求人使用商標Aが付されている。靴の中敷部分(別掲(G))は白地で,その踵に近い部分の上に赤字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる請求人使用商標Cが付されており,外側側面後方(別掲(F))の踵に近い部分に,請求人使用商標Bの図形標章が,それぞれ表示されている。請求人商品の踵には,商標は付されていない。 イ 使用権者商品(別掲(L)の写真右側)は,「クロッグサンダル」というタイプの白地のサンダルであり,前面から見たときの外観は,請求人商品の外観とほぼ同じ形状及びデザインである。すなわち,使用権者商品のつま先側はスニーカーのように覆われ,シュータン(靴ベロ)があり,アッパー(甲)の中央部分には,銀色のシューレースホールが2列に並び,白い靴紐が通されており,シューレースホールに沿って設けられた縫い目部分から靴底にかけて,青と赤の斜めの細い2本線が靴の外側に1組だけ付されており,また,アッパーとソール(靴底部分)との境目部分に,黒い線が靴の周りを一周する態様で,ソールの厚みの半分くらいの高さ部分に,赤い線が靴の周り後方を約半周する態様で,それぞれ付されている。一方,使用権者商品は,請求人商品と異なり,靴の側面は,シュータンの位置付近から踵にかけて徐々に立ち上がりの高さが低くなるようにえぐれており,踵部分の立ち上がりは約2センチ程度の低さとなっている。靴の踵の履き口部分には,立ち上がりと同じ高さの台形の青いビニール様の素材が縫い付けられている。 そして,別掲(H)のとおり,シューレースホールの上方中央に位置するシュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に黒字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段に青と赤のイギリス国旗の中央に白字で「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる使用権者商標Aが付されている。靴の中敷部分(別掲(J))は青のチェック模様地で,その踵に近い部分の上に,白抜きで「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる使用権者商標Cが付され,外側側面(別掲(I))のえぐれていない部分のうち踵に近い後方部分に使用権者商標Bの図形標章が,踵のソール部分(靴底)(別掲(K))に青地で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる使用権者商標Dが,それぞれ表示されている。 ウ 使用権者商品については,雑誌「MonoMax」平成25年6月号において,「名作ワトフォード譲りのヨーロピアンな顔立ちは上品」,「顔立ちはそのままワトフォード! スニーカーに採用されるネームタグがベロに鎮座。正面から見れば,名作ワトフォードと見間違うこと請け合い」と紹介された(甲200)。 (6)使用権者商品の販売の実情について 平成25年3月ないし5月当時,チヨダの大型販売店舗においては,請求人の「ワトフォード」モデルの商品と使用権者商品とは,同じ棚で,請求人の商品が上下の段に,使用権者商品がその中段に陳列されるなどの態様で,販売されており,同棚に,請求人商品と使用権者商品が出所の区別ができるような表示はされていなかった(甲199)。 2 使用権者商標の使用は,商標法第53条第1項本文の「他人の業務に係る商品・・・と混同を生ずるものをしたとき」に当たるかについて 前記1の認定事実を前提として,使用権者商標の使用が,同法第53条第1項本文の「他人の業務に係る商品・・・と混同を生ずるものをしたとき」に当たるかを検討する。 (1)商標法第53条第1項は,商標権者から専用使用権又は通常使用権の設定を受けた者が,登録商標又はこれに類似する商標を,指定商品・役務又は類似商品・役務について使用した場合であって,その使用が,「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」であるときには,当該商標権者が,その事実を知らず,かつ,相当な注意をしていたときを除いて,当該商標登録を取り消すことができると規定している。同規定の趣旨は,専用使用権者又は通常使用権者といえども,登録商標の正当使用義務に違反して登録商標を使用した結果,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,そのような行為は,当該他人の権利を侵害し,一般公衆の利益を害するばかりでなく,商標権者の監督義務に違反するものであるから,何人もその商標登録を審判により取り消し得ることとしたものである。 ところで,現行の商標法は,指定商品又は指定役務ごとに商標権の分割及び移転を認めており(同法第24条第1項,同法第24条の2第1項),分割に係る商標権の指定商品又は指定役務が,当該指定商品又は指定役務以外の他の指定商品又は指定役務と類似している場合であっても,商標権の分割・移転を制限していない(平成8年法律第68号による改正前の商標法第24条第1項ただし書は,同一商標について,類似関係にある商品・役務に係る商標権の分割移転を禁止していた。)。したがって,同一の商標について,類似する商品・役務を指定商品・役務とする商標権に分割され,それぞれが異なる商標権者に帰属することもあり得る。商標法第52条の2は,このような商標権の分割・移転の場合において,商標権者について,「不正競争の目的で」他の商標権者,使用権者等の商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,何人もこのような商標登録の取消しの審判を請求することができる旨を定めたものである。そして,このような商標権の分割・移転の場合における使用権者による使用については,従来から存在している同法第53条第1項の規定の適用に委ねられている。したがって,同法第53条第1項は,このような商標権の分割・移転に係る商標の使用についても適用され得るが,このような場合には,各商標がもともと同一であるため,商標の同一性又は類似性及び商品・役務の類似性のみに起因して,一方の登録商標の使用によって,他方の商標権者と業務上の混同が生じる場合も予想される。 しかし,商標法がこのような同一商標の類似商品・役務間での商標権の分割及び別々の商標権者への移転を許容するものである以上,使用された商標と他人の商標の同一性又は類似性及び商標に係る商品・役務の類似性のみをもって,同法第53条第1項の「混同を生ずるものをした」に該当すると解することは相当ではない。また,このように解すると,類似関係にある商品・役務について分割された商標権の譲渡を別々に受け,それぞれの登録商標又はその類似商標を別々の使用権者に使用させた各商標権者は,同法第53条第1項に基づき当然に相互に相手方の有する商標登録の取消しを請求することができることとなり,不当である(立法としては,上記のような商標権の分割・移転に関する同法第52条の2を同法第53条の特則としても位置づけ,商標権者だけでなく,使用権者にも,「不正競争の目的」を要求した方がより明確であったと解されるが,現行法の解釈としても,できる限り,これと同様の結果となるように解釈すべきである。)。 以上によれば,分割された同一の商標に係る二以上の商標権が別々の商標権者に帰属する場合に,一方の専用使用権者又は通常使用権者が,同法第53条第1項における,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというためには,同法第52条の2の規定の趣旨を類推し,使用商標と他人の商標の同一性又は類似性及び使用商品・役務と他人の業務に係る商品・役務の類似性をいうだけでは足りず,専用使用権者又は通常使用権者が,登録商標又はその類似商標の具体的な使用態様において,他人の商標との商標自体の同一性又は類似性及び指定商品・役務自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて,社会通念上,登録商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,他人の業務に係る商品・役務と具体的な混同のおそれを生じさせるものをしたことを要するというべきである。 (2)そこで,チヨダによる使用権者商標の具体的な使用態様が,引用商標と本件商標自体の同一性や,「サンダル等を除く履物」(具体的には,スニーカー)と,「サンダル」という請求人商品と使用権者商品の種類自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて,社会通念上,本件商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,請求人の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせるものといえるかどうかについて,検討する。 ア 上記1(4)イ及びウで認定した請求人の商品の販売状況及び雑誌等への掲載状況によれば,「Admiral」の商標は,使用権者商品の販売が開始された平成25年3月の時点で,日本国内のカジュアル・シューズの分野では,請求人の販売する商品であるタウン・シューズ(スニーカー)の商標として,20歳前後の若年層からなる需要者及び取引者の間において,相当程度認識されていたものと認めることができる。また,請求人の販売する商品の中でも,請求人商品を含むスニーカー「ワトフォード」モデルは,販売数が多く,人気の高い商品であり,シュータン,外側の側面後方及び中敷の踵に近い部分の3箇所に付されている請求人使用商標AないしCも,請求人の販売するスニーカーの商標として,上記需要者及び取引者の間において,同月時点で,相当程度認識されていたものと認められる。 イ 一方,平成25年3月頃から販売された使用権者商品は,サンダルではあるが,その全体的な外観は,側面の後方及び踵部分の立ち上がりがスニーカーと比べてえぐれて低くなっている以外には,スニーカーの外観とほぼ同じ形状である。また,そのデザインも,請求人の「ワトフォード」モデルのスニーカーと同様に,甲の中央部分に銀色のシューレースホールが2列に並び,白い靴紐が通され,シューレースホールに沿って設けられた縫い目部分から靴底にかけて,青系の線と赤線とを組み合わせた斜めの細い2本線が靴の外側に1組だけ付されており,また,アッパーとソールとの境目部分に,黒い線が靴の周りを一周する態様で,ソールの厚みの半分くらいの高さ部分に,赤い線が靴の周り後方を約半周する態様で,それぞれ付されている。 そして,本件商標と類似する使用権者商標は,このような請求人商品に酷似する形状・デザインの使用権者商品において,シュータン,外側側面のえぐれていない部分のうち踵に近い後方部分及び中敷の踵に近い部分という請求人商品とほぼ同一の場所に付されていたものであり,個々の商標の構成をみても,使用権者商標A及びCは,それぞれ請求人使用商標A及びCと同一の構成からなり,使用権者商標B(被請求人商標3と同じ。)は,請求人使用商標B(引用商標2と同じ)と類似する構成からなっている。 ウ 上記イのとおり,使用権者商品は,請求人商品と,商品の3箇所に商標を付しているという点で共通するのみならず,複数存在する本件ブランドに係る商標のうち,各箇所に使用された商標の種類も,商標を付す位置もほぼ同一の商標を,請求人商品と酷似する形状・デザインの類似の種類の商品に付しているものである。このような使用権者商標の具体的な使用態様に加えて,使用権者商品(サンダル)の性質や使用権者商品が紹介されていた雑誌が請求人の商品が紹介されていた雑誌と共通すること(前記1(4)ウ及び(5)ウ)からすれば,使用権者商品の需要者も請求人商品と同じ20歳前後の若年層を含むと認められ,両商品は需要者及び取引者を共通にしていること,両商品は,大手靴量販店であるチヨダの店舗で同じ棚に並べられて販売されていたという取引の実情をも考慮すれば,チヨダによる使用権者商標の使用態様は,単に請求人使用商標と同一又は類似する,及び「履物(サンダル等を除く。)」と「サンダル等」という商品の種類が類似すること自体により通常混同が生じうるという範囲を超えて,当時,需要者及び取引者の間において請求人の販売する商品の表示として認識されていた請求人使用商標の具体的な使用態様と酷似していたものというべきであり,そのような使用権者商標の使用により,取引者及び需要者に,使用権者商品も,「Admiral」商標に係るスニーカーを販売する者(請求人)と同一の出所に係るものであるとの認識を生じさせる具体的な混同のおそれを生じさせたものといえる。 以上によれば,チヨダによる使用権者商標の使用は,社会通念上,本件商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,請求人の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせたものということができ,商標法第53条第1項本文の「他人の業務に係る商品・・と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというべきである。 3 被請求人は,商標法第53条第1項ただし書の「当該商標権者がその事実を知らなかった場合において,相当な注意をしていた」といえるかについて (1)証拠(乙18,19)及び主張の全趣旨によれば,被請求人は,チヨダが本件商標を付して販売する商品については,販売前にチヨダから写真とともに報告を受け,これを被請求人が確認した上で,販売を承諾することとしており,使用権者商品についても,事前に報告を受け,その全体の形状,デザイン,商標を付す位置や構成も知っていたことが認められる。 もっとも,被請求人は,当時,請求人商品が販売されていたこと自体をそもそも認識していなかったから,不正使用の事実を知らなかった場合に当たると主張する。しかし,仮に同主張を前提としても,被請求人は,本件商標権から引用商標権が分割され,「履物(サンダル等を除く)」と,「サンダル等」という類似する指定商品について同一の商標に係る商標権が異なる権利者に移転され,サンダル等以外の履物についての商標権者である請求人が,引用商標と同一又は類似する商標を付したタウン・シューズを当時既に販売していたことは認識していたのであり,そうである以上,被請求人は,使用権者に新たに本件商標を使用させるに当たっては,請求人の商品の周知の程度や請求人の商品における引用商標の具体的な使用態様を確認し,使用権者商標の具体的な使用態様が,請求人の業務に係る商品との具体的な混同を生ずるおそれがないかどうかについて注意をする義務を負っていたというべきである。 そうすると,仮に被請求人が当時,具体的に請求人商品自体を認識していなかったため,使用権者商標の具体的な使用態様が,請求人の業務に係る商品における請求人使用商標の使用態様と酷似し,同商品との混同を生ずるおそれがあることを知らなかったとしても,被請求人は,そのような混同が生じるおそれがあることを知るための相当の注意を欠いていたというべきである。 また,被請求人は,審決取消しの判決後に,チヨダとのライセンス契約を終了させたことで「相当の注意をしていた」といえ,商標法第53条第1項ただし書の適用により,本件審判請求は成り立たないと判断されるべきであると主張する。 しかし,判決により判断された後にライセンス契約を終了させたとしても,チヨダが使用権者であった当時において,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,請求人の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせたものということができるものであったこと,それについて,被請求人は,混同が生じるおそれがあることを知るための相当の注意を欠いていたという認定に変わりはない。 (2)したがって,被請求人について,商標法第53条第1項ただし書の抗弁が成立するものとは認められない。 (3)なお,被請求人は,請求人が,分割譲渡に同意しておきながら,請求人が登録商標について不正使用を理由として本件商標の登録の取消しを求める行為は,信義則違反又は権利濫用と評価されるべきであると主張する。 しかし,請求人使用商標は,使用権者商品の販売開始時点において,カジュアル・シューズの分野では,請求人の販売する商品を表す商標として需要者及び取引者に相当程度認識されていたものであり,そのような取引の実情の下,チヨダが請求人の商品と具体的な混同を生ずるおそれがある態様で使用権者商標の使用を開始したにもかかわらず,本件商標の登録の取消請求をすることが信義則違反又は権利濫用に当たると解すべきような事情があるとは,本件全証拠によっても認められないから,被請求人の主張は採用できない。 4 結論 以上によれば,本件商標の通常使用権者が,本件商標の指定商品についての本件商標に類似する商標の使用であって,請求人の業務に係る商品と混同を生じさせるおそれがあるものをしたから,当該商標の使用をもって,商標法第53条第1項に規定する「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというべきであり,同項ただし書の抗弁が成立するものとも認められない。 したがって,本件商標は,商標法第53条第1項の規定により,その登録の取消しを免れないものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 (A)本件商標又は引用商標1 (B)被請求人商標1又は引用商標2 (C)被請求人商標2又は引用商標3 (D)被請求人商標3又は引用商標4 (E)請求人使用商標A (F)請求人使用商標B (G)請求人使用商標C (H)使用権者商標A (I)使用権者商標B (J)使用権者商標C (K)使用権者商標D (L)請求人商品(左側)及び使用権者商品(右側) |
審理終結日 | 2016-08-01 |
結審通知日 | 2016-08-03 |
審決日 | 2016-08-30 |
出願番号 | 商願平5-104379 |
審決分類 |
T
1
31・
5-
Z
(025)
|
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
酒井 福造 |
特許庁審判官 |
青木 博文 今田 三男 |
登録日 | 1997-08-29 |
登録番号 | 商標登録第4048658号の1の1(T4048658-1-1) |
商標の称呼 | アドミラル |
代理人 | 高田 泰彦 |
代理人 | 豊島 真 |
代理人 | 宇梶 暁貴 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 宮嶋 学 |
代理人 | 塩谷 信 |
代理人 | 谷口 登 |
代理人 | 柏 延之 |
代理人 | 石田 治 |