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審決分類 |
審判 全部取消 商53条使用権者の不正使用による取消し 無効としない W37 |
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管理番号 | 1319277 |
審判番号 | 取消2015-300823 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2015-11-17 |
確定日 | 2016-08-22 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5752831号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5752831号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成26年7月30日登録出願、第37類「建設工事,建築工事に関する助言,建築設備の運転・点検・整備」を指定役務として、同27年3月27日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 第2 請求人の主張 請求人は、商標法第53条第1項の規定により、本件商標の登録を取消す、審判費用は、被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証(枝番を含む。)を提出した。 1 取消原因 (1)通常使用権者による本件商標の使用実態 ア 本件商標は、図形部分と「靭性モルタルライニング工法」との文字部分を一連表記して構成されているところ(甲1)、被請求人の関連会社「田中シビルテック株式会社」(以下「田中シビルテック」という。)は、そのウェブサイト内の事業内容を示すページ(甲2)にて、「靭性モルタルライニング工法」(以下「使用商標」という。)の文字部分のみを水路の表面被覆工事に関する商標として使用している。 イ 使用商標は、本件商標の文字部分そのものであり、本件商標と類似する商標である。この点は、本件商標に係る登録出願に対する拒絶理由通知書(甲3)において、本件商標と登録第5555058号商標「靭性モルタルライニング工法」(以下「別件登録商標」という。)とが類似すると特許庁が判断していることからも明らかである。 ウ さらに、田中シビルテックは、被請求人の100%出資子会社であり(甲5)、本件商標に関する通常使用権者であることは明白である。 エ 上記のとおり、通常使用権者が本件商標に類似する商標を本件商標の指定役務中の「建設工事」について使用している。 (2)通常使用権者による使用が不正使用であること ア 甲第2号証に示すように、通常使用権者は、本件商標に類似する使用商標に「○の中に『R』の文字(以下「○R」という。)」(登録商標マーク)を付して、殊更に「靭性モルタルライニング工法」という文字構成が登録商標であるかのように強調して使用しており、需要者に役務の質の誤認を生じさせているものである。 イ すなわち、既述のとおり本件商標の構成は、図形部分と「靭性モルタルライニング工法」の文字部分を一連表記する構成であり、「靭性モルタルライニング工法」の文字構成のみで商標登録されたものではないことは明白であるのに、この文字構成のみを通常使用権者は登録商標であると強調して使用し、需要者に役務の質の誤認を生じさせている。 ウ 加えて、「靭性モルタルライニング工法」の文字構成のみの商標登録に関しては、別件登録商標に対する異議の決定(甲6)において、第37類「建設工事,建築工事に関する助言」について商標法第3条第1項第3号に該当し、識別力のない商標と判断され、これらの役務に関する登録が取り消されている。 この別件登録商標の上記異議の決定当時の権利者は、本件商標の通常使用権者「田中シビルテック」(旧商号:株式会社デーロス)であると共に、現権利者は、被請求人であり(甲4の1)、当該通常使用権者及び被請求人は上記異議の決定、つまり「靭性モルタルライニング工法」の文字構成が役務「建設工事」について商標登録に値しないことを十分に理解している筈であるにもかかわらず、通常使用権者は、上記ア、イで説明したように、本件商標の文字部分「靭性モルタルライニング工法」のみを殊更に登録商標と強調して使用しているのであり、この不正使用行為を被請求人は黙認しているのである。 エ なお、通常使用権者は、ウェブサイト内の事業内容を示すページ(甲2)の最下段に「靭性モルタルライニング工法は、田中シビルテック株式会社(旧社名株式会社デーロス)の登録商標です。商標登録第5555058号」のように表示し、更なる誤認を需要者に生じさせている。 すなわち、本件商標に類似する使用商標は、既に建設工事において登録が取り消されたにもかかわらず、また通常使用権者「田中シビルテック」が所有していないにもかかわらず、あたかも通常使用権者の有効な登録商標であるかの如く使用しており、需要者に更なる誤認を生じさせている。 2 以上のとおり、通常使用権者「田中シビルテック」が本件商標に類似する使用商標を登録商標として使用する行為は、需要者に役務の質の誤認を生じさせるものであり、明らかに不正使用行為である。 したがって、本件商標は、商標法第53条第1項の規定により、取り消されるべきである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べた。 1 取消事由が存在しない理由 (1)通常使用権者による本件商標の使用実態について 請求人は、田中シビルテックが本件商標について通常使用権者である旨を主張している。 しかしながら、本件商標について被請求人は田中シビルテックに対して通常使用権(商標法第31条)を許諾した事実はなく、通常使用権者とする事実は存在しない。 なお、本件商標について被請求人は、田中シビルテックに対して専用使用権を設定した事実もない。 本件審判請求の根拠となるべき使用権者について、請求人は、単に、田中シビルテックが被請求人の子会社であることを摘示するのみであり、それ以外には何ら証拠を提示していない。 上記のとおり、使用権の許諾の事実がないことから、証拠に基づく主張でないことは明らかである。 したがって、本件商標について商標法第53条第1項の規定の要件、具体的には「専用使用権者又は通常使用権者が・・・使用」を満たしていない。 また、田中シビルテックが被請求人の子会社であることによって、被請求人が田中シビルテックに対して何らかの権利を黙示的に許諾していることが推認されることがあるとしても、それは、通常使用権というものに限定されるものではなく、権利を行使しないことを黙示的に了解している程度にすぎない場合もあり得る。したがって、直接的な証拠でなく、企業の親子関係という状況のみにより、被請求人が田中シビルテックに対して、積極的に使用権を許諾したものと認めるべき道理はない。 以上より、請求人が主張する田中シビルテックが本件商標の通常使用権者である旨の主張は、単なる想像の域を脱するものではなく、明らかに失当である。 (2)田中シビルテックの表示の根拠について 請求人は、田中シビルテックが開設するウェブサイトにおける別件登録商標の表示が本件商標に係る権利に基づく使用である旨主張する。 しかしながら、請求人の主張にもあるように、当該ウェブサイトには、別件登録商標に関する記述がなされているが、本件商標に係る記述はない(甲2)。 これは、田中シビルテックの前記表示が本件商標に係る使用権に基づくものでないことの証左である。 また、前記ウェブサイト中に不適切な表現がなされている部分があるとしても、これをもって請求人が主張するような本件商標との関連性を示すものではない。すなわち、田中シビルテックが商号を変更する以前において取得した商標権(別件登録商標)は、異議の決定によって取り消された役務を除き、現在も存続している権利であり、その使用は是認されるものであるから、当該商標権に基づく使用であることを表記することには合理性がある。 (3)通常使用権者による使用が不正使用であることについて 前述のとおり、田中シビルテックは被請求人の通常使用権者ではないが、仮に、田中シビルテックが被請求人の子会社であることをもって、被請求人が田中シビルテックに対し通常使用権を許諾したと認定されることがあるとしても、次のとおり、商標法第53条第1項の要件を満たしていない。 請求人は、通常使用権者であると主張する田中シビルテックが本件商標のうち図形部分を除いた文字部分である「靭性モルタルライニング工法」のみを○R(登録商標マーク)を付して使用して需要者に役務の質の誤認を生じさせていると主張する。 しかしながら、田中シビルテックが使用する「靭性モルタルライニング工法」は、甲第2号証にも示されるように、「靭性モルタルを使用した無機系表面被覆工法」を説明するウェブサイトで使用されているものであり、「高靭性繊維補強セメント複合材」などの靭性を有するモルタルを使用した水路の表面被覆工事の施工方法を表すものであるから、該異議の決定において判断されているとおり、役務の質、提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものである(甲6)。 なお、この使用は、具体的には、本件商標に対して上記図形部分を除くとともに○R(登録商標マーク)を付した態様での使用によって役務の質、すなわち、役務について特性の誤認や優劣の誤認のいずれをも生じさせているものではない。 2 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第53条第1項の規定の要件に該当しない。 第4 当審の判断 本件審判は、商標法第53条第1項の規定に基づく商標登録の取消しを求めるものであるところ、該規定は、「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」とされている。 そして、請求人が主張する本件商標と類似する商標の使用行為は、2015年4月22日付けで紙出力した田中シビルテックのウェブサイト内の事業内容を示すページ(甲2)において、最下段に「靭性モルタルライニング工法は、田中シビルテック株式会社(旧社名 株式会社デーロス)の登録商標です。商標登録第5555058号」の表示中、及び、水路事業の説明中に、「靭性モルタルライニング工法」の文字を使用しているとするものである。 そこで、上記商標の使用行為が本条項の規定に該当するものであるか否かについて、以下検討する。 1 使用権者について 甲第5号証の「田中ホールディングス株式会社」のウェブページによれば、「田中シビルテック」は、総合建設業、コンクリート補修事業等を事業内容とする被請求人の100%出資子会社であることが認められるものである。そうすれば、両会社は、親子会社の関係であることからすれば、子会社である「田中シビルテック」が親会社の商標権者によって、本件商標の使用について、黙示の許諾があったといっても不自然ではなく、本件商標の商標権に係る通常使用権者と認めても差し支えないものである。 また、別件登録商標の権利者は、設定登録時には「株式会社デーロス」であり、その後、登録名義人の表示を「田中シビルテック株式会社」に変更し、平成26年12月10日付けで被請求人へ移転されたものであるから、本件商標と同様に、別件登録商標についても、「田中シビルテック」を、その商標権に係る通常使用権者と認めて差し支えないものといえる。 2 使用商標について (1)本件商標と使用商標の類否について 本件商標は、前記第1のとおり、青色と緑色の円弧状の図形を組み合わせた図形の右側に「靭性モルタルライニング工法」の文字を書した構成からなり、該図形部分と文字部分とは、これを常に一体のものとしてみなければならない格別の事情があるものとはいえないことから、それぞれが独立して自他役務の識別標識としての機能を果たすものといえる。 そうすると、本件商標は、その文字部分に相応して、「ジンセイモルタルライニングコウホウ」の称呼及び「靭性モルタルを使用したライニング工法」の観念が生じるものである。 一方、使用商標は、「靭性モルタルライニング工法」の文字からなるものであるから、該文字に相応して、「ジンセイモルタルライニングコウホウ」の称呼及び「靭性モルタルを使用したライニング工法」の観念が生じるものである。 そして、本件商標と使用商標との類否についてみれば、両者は、文字部分において、同一の構成文字からなるから、外観において類似し、「ジンセイモルタルライニングコウホウ」の称呼、及び「靭性モルタルを使用したライニング工法」の観念を共通にするものである。 してみれば、両者は、外観において類似し、称呼及び観念を同一とするものであることから、類似する商標である。 (2)使用商標の使用について 甲第2号証の田中シビルテックのウェブサイト内の事業内容を示すページには、「水路事業」の見出しのもと、「靭性モルタルライニング工法の概要/靭性モルタルによる農業用水路補修工法」及び「靭性モルタルライニング工法の特長」が記載され、この事業内容が、本件商標の指定役務中「建設工事」に含まれる役務であることが認められる。 そして、「靭性モルタルライニング工法」の文字からなる使用商標には、登録商標であることを表す際に慣用的に使用されている「○R」記号が付され、該ページの末尾には別件登録商標の登録番号が明記されている。 ところで、被請求人は、別件登録商標を保有しているところ、使用商標と別件登録商標は、同一の文字構成からなることからすれば、別件登録商標の通常使用権者でもある「田中シビルテック」が使用している「靭性モルタルライニング工法」の文字、すなわち、使用商標は、別件登録商標の使用とみることが、至極自然であるということができるものである。 3 役務の質の誤認について 田中シビルテックのウェブサイト内の事業内容を示すページには、「水路事業」の見出しの下、「靭性モルタルライニング工法○Rの概要」として、「靭性モルタルライニング工法は、高靱性繊維補強セメント複合材である『靭性モルタル』を使用した、無機系表面被覆工法です。(中略)『靭性モルタル』を使用し、吹付け施工で劣化したコンクリート表面の凹凸部へ確実に充填被覆を行います。」と記載されていることから、水路事業に関する靭性モルタルライニング工法の説明に使用商標を使用しているものであって、これは、靭性を有するモルタルを使用した水路のライニング工法であるといい得るから、使用商標は、該工事の施工方法を表示するものである。 そうすると、「靭性モルタルライニング工法」の文字からなる使用商標の使用は、建設工事における工法を説明するものとして、その内容を表示するものであるから、このような商標の使用が役務の質の誤認を生ずるものとはいえない。 4 小括 以上のとおり、田中シビルテックが使用する使用商標は、別件登録商標と認められるものであって、本件商標と類似する商標の使用といえないばかりか、その使用によって、役務の質の誤認を生ずるとはいえず、かつ、田中シビルテックは、別件登録商標に係る通常使用権者であるとみて差し支えないものであり、他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたということもできない。 その他、本件商標又はこれに類似する商標の使用が、商標法第53条第1項の規定に該当するとすべき証拠の提出はない。 したがって、本件商標は、商標法第53条第1項の規定に該当しない。 5 まとめ 以上によれば、本件商標は、商標法第53条第1項の規定により、その登録を取り消すべきものではない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 本件商標(色彩については、原本を参照。) |
審理終結日 | 2016-06-28 |
結審通知日 | 2016-07-01 |
審決日 | 2016-07-14 |
出願番号 | 商願2014-63897(T2014-63897) |
審決分類 |
T
1
31・
5-
Y
(W37)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安達 輝幸、旦 克昌 |
特許庁審判長 |
井出 英一郎 |
特許庁審判官 |
山田 正樹 榎本 政実 |
登録日 | 2015-03-27 |
登録番号 | 商標登録第5752831号(T5752831) |
商標の称呼 | ジンセーモルタルライニング、ジンセーモルタルライニング、ジンセー、モルタルライニング |
代理人 | 居藤 洋之 |
代理人 | 三田 大智 |