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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Z0916
管理番号 1315767 
審判番号 取消2014-300151 
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-02-27 
確定日 2016-05-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第4277077号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第4277077号商標(以下「本件商標」という。)は,「エスプレイド」の片仮名を書してなり,平成10年3月5日に登録出願,同11年3月24日に登録査定,第9類「測定機械器具,電気磁気測定器,写真機械器具,電気通信機械器具,レコード,電子応用機械器具及びその部品,遊園地用機械器具,映写フィルム,スライドフィルム,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,自動販売機,写真複写機,電気計算機,浮き袋,水泳用浮き板,家庭用テレビゲームおもちゃ」及び第16類「紙類,紙製包装用容器,紙製タオル,紙製ハンカチ,紙製のぼり,紙製旗,荷札,印刷物,書画,写真,写真立て,遊戯用カード,文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,タイプライター,観賞魚用水槽及びその付属品」を指定商品として,同11年5月28日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。
なお,本件審判の請求の登録日は,平成26年3月14日である。

第2 請求人の主張
請求人は,商標法第50条第1項の規定により,本件商標の指定商品中,第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,遊園地用機械器具,家庭用テレビゲームおもちゃ」及び第16類「遊戯用カード」について登録を取り消す,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書,審判事件弁駁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第9号証を提出している。
1 請求の理由
本件商標は,本件審判請求前3年以内に,継続して日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが,その指定商品中,第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,遊園地用機械器具,家庭用テレビゲームおもちゃ」及び第16類「遊戯用カード」について,本件商標を使用していない。
2 審判事件弁駁書,口頭審理陳述要領書及び上申書における理由の要旨
(1)本件商標と標章「エスプレイドDX」との社会通念上の同一性について
ア 「DX」の文字について
被請求人にあっては,「DX」の文字はゲームプログラム等の商品名においても「-DX」などとしてよく使用されており,その際には通常版に対する豪華版あるいは上位版の意味に使用されている旨主張するとともに,その具体例として乙第18号証の1ないし同第19号証の2を提出している。
しかしながら,同書証からは,乙第18号証の2及び同第19号証の2に係る商品が,乙第18号証の1及び同第19号証の1に係る商品の豪華版あるいは上位版であるといった事実は全く確認できないことに加え,乙第18号証の2及び同第19号証の2に係る商品の発売日は,いずれも10年以上前のものと見受けられ,ゆえに標章「エスプレイドDX」の使用がなされているとする時点における「DX」の文字の有する意味合い等について何ら立証がなされていないことは明らかである。
さらには,乙第18号証の1ないし同第19号証の2に係る商品は,いずれも「家庭用テレビゲームおもちや用のプログラムを記憶させた記録媒体」(類似群24A01)に属するものであって,被請求人が本件商標の使用を主張する「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」とは類似群も異なる商品であることをも考慮すると,これらの書証をもって,標章「エスプレイドDX」は,被請求人が当該標章を使用していると主張する商品との関係で,「DX」の文字が商品の品質・効能等を高級・豪華にしたことを表示するにすぎず,標章「エスプレイドDX」の構成中の「DX」の文字が,それ自体は自他商品の識別力を有する部分ではないとする,被請求人の主張は失当と言わざるを得ないものである。
イ 「エスプレイド」と「DX」の関係について
上述の諸点より,被請求人が本件商標の使用を主張する商品との関係で「DX」の文字が自他商品の識別力を有する部分ではないとする根拠はないことは明らかであるが,商標の構成についても触れると,被請求人にあっては,標章「エスプレイドDX」につき,「エスプレイド」と「DX」は一体不可分のものではないと主張するとともに,需要者である一般ユーザーにおいては,本件商標に係るゲームが「エスプレイド」として呼ばれている旨も述べ,その根拠として,乙第7号証の1,同第7号証の2及び同第8号証の2を挙げている。
これらの書証にて「エスプレイド」の表示がなされていることは審判請求人も認めるところであるが,当該「エスプレイド」と表示されているゲームが標章「エスプレイドDX」を指すものであるのかは不明であり,故に同書証における「エスプレイド」の表示を指摘し,需要者によって本件商標に係るゲームが「エスプレイド」と呼ばれ,標章「エスプレイドDX」が,「エスプレイド」と「DX」は一体不可分のものではないとする被請求人の主張は明らかにその根拠を欠くものである。
ウ 小括
以上をまとめると,標章「エスプレイドDX」にあっては,その構成が一体的に表されていることから,これより「エスプレイド」の文字が独立して看取されるとは到底考え難く,その構成全体をもってのみ認識されるとするのが極めて妥当であり,したがって,標章「エスプレイドDX」と本件商標とが社会通念上同一であるとする被請求人の主張は,その根拠を欠くばかりか,失当と言えるものである。
(2)使用商品について
ア 商品「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が著作物使用許諾基本契約書(乙3)に含まれるか否かについて
商品「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」について,株式会社ケイブ(以下「ケイブ社」という。)が本件商標を使用することを独占的に許諾されているかを検討する。
まず,著作物使用許諾基本契約書(乙3)の第3条(利用の許諾)の第2項では,新宿区に所在したアトラス株式会社(以下「旧アトラス社」という。)(甲)が,ケイブ社(乙)に対し,『第1項の許諾の範囲において,乙が本件商標を使用することを独占的に許諾する。』旨が規定されている。そして,同項にいう「第1項の許諾の範囲」についてみると,該契約書の第3条第1項にて『・・・本契約の有効期間中,日本国内で,乙が本件データ配信サービス上において本著作物を利用する独占的権利を許諾する。』とされており,許諾の対象物は「本著作物」であることが容易に理解できる。
さらに,「本著作物」については,該契約書の第1条3(最後の「3」は丸数字で表されている。以下,同条における説明では同じ。)で,『本件ソフト及び本件ソフトのタイトル,本件ソフトの実行により得られるシナリオ・・・』とされているのに加え,第1条1において「本件ソフト」について,『乙が開発し,甲が著作権を有する業務用ゲームソフトウェア・・・』と規定されている。
すなわち,該契約書においては,乙(ケイブ社)が本件商標を使用することの許諾を受けている対象物は,「業務用ゲームソフトウェア」となることは明らかであるが,「業務用ゲームソフトウェア」は,被請求人の主張する「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」とは異なる商品であって,特許庁の商品分類に係る類似群コードも09G53とされている。
したがって,被請求人に係る「本件商標の使用に係る商品は『ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム』であり,これが本審判の請求に係る商品「電子応用機械器具」に属する」との主張が事実とするのであれば,該契約書によって規定されていない商品との関係で,ケイブ社が本件商標を使用していたと捉えるのが当然である。
イ 商品「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が本件審判の請求に係る指定商品に含まれるか否かについて
本件商標は,平成10年3月5日に出願がなされ,その後,審査を経て,平成11年5月28日に登録がなされたものである。
そして,登録商標等の範囲については,登録がなされた時点にて確定するのが当然と言えるところ,本件商標の使用がなされていると被請求人が主張する「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が属する電子計算機用プログラムは,平成11年5月28日には商標法上の「商品」には含まれていなかったことから,商標法よる保護の対象とは認められておらず,平成14年1月1日に法上の「商品」として初めて認められことは周知の事実と言い得るものである(甲5)。
すなわち,平成14年1月1日に「電子計算機用プログラム」が法上の「商品」として認められるに至った際に,それ以前に登録がなされた商標権の効力を拡大させる等の特別な法的手当は何らなされていない以上,本件商標に係る商標権が発生した時点(平成11年5月28日)において,被請求人が使用を主張する「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が,本件商標に係る商標権の範囲内に含まれていないとするのが極めて妥当な判断であり,この点に鑑みると,被請求人又はその通常使用権者と述べられている者が使用を主張する商品は,本件商標の商標権には含まれておらず,故に当該商標権に基づいた通常使用権は,当然に許諾できない範囲の商品であることは明らかである。
(3)まとめ
以上より,本件審判の請求に係る指定商品について本件商標又はこれと社会通念上同一の商標が使用されていたという事実は立証されておらず,被請求人は,本件商標を本件審判の請求の登録前3年以内に,その主張に係る本件指定商品について,通常使用権者によって使用していたことを証明したものということはできない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,審判事件答弁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,本件商標は乙第1号証ないし乙第20号証に示すとおり,被請求人の通常使用権者であるケイブ社によって,本審判請求の登録前3年以内に日本国内で取消請求に係る指定商品について継続して使用されているとして,その理由を要旨以下のように述べた。
1 本件商標(社会通念上同一の商標を含む)の使用者について
(1)乙第1号証
乙第1号証は,本件商標の最新の登録原簿であり,本件商標権が平成23年10月1日付け合併により,旧アトラス社から世田谷区に所在した株式会社インデックス(以下「旧インデックス社」という。)に移転した事実,及び,同25年11月1日付け譲渡により,旧インデックス社から被請求人である品川区所在の株式会社インデックス(以下「新インデックス社」という。)に移転した事実がそれぞれ記されているから,被請求人は,本件商標の正当なる権利者である。
(2)乙第2号証
乙第2号証は,新インデックス社のホームページ中「会社概要/沿革」ページの写しであり,2013年(平成25年)9月に株式会社セガの100%出資により株式会社セガドリームとして品川に設立され,旧インデックス社と事業譲渡契約を締結した事実,及び,2013年(平成25年)11月に旧インデックス社の全事業を譲受け,新インデックス社に社名変更した事実が記されている。このことから明らかなように,被請求人は,本件商標の商標権のみならず,旧インデックスの全事業を譲り受けている。
(3)乙第3号証
乙第3号証は,平成14年9月15日付けで旧アトラス社とケイブ社との間で締結された著作物使用許諾基本契約書の写しであり,その第1条1には当該契約でいう「本件ソフト」はケイブ社が開発し,旧アトラス社が著作権を有する業務用ゲームソフトウェア「エスプレイド」であること,同条2には当該契約でいう「本件商標」が本件商標であること,同条4には当該契約でいう「本件ゲームソフト」が前記業務用ゲームソフトウェアの全部または一部を利用・改変してケイブ社が製作する携帯電話用ゲームソフトウェアであること,同条5には当該契約でいう「本件データ配信サービス」が株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモが運営するiモード情報サービスであること,同条6には当該契約でいう「本件サイト」はケイブ社が提供・管理する「ゲーセン横町」であること,同条8には当該契約でいう「本件サービス」が本件ゲームソフトを本件サイトを介してダウンロードさせることでユーザーに使用させること等が規定されている。また,当該契約の第3条1項には旧アトラス社がケイブ社に対し,当該契約の有効期間中,日本国内でケイブ社が本件データ配信サービスにおいて本著作物を利用する独占的権利を許諾したこと,同2項には前項の許諾範囲でケイブ社が本件商標を使用することを独占的に許諾したことが記されており,さらに,当該契約の第22条1項には当該契約の有効期間が契約締結日から2年間であること,同2項には契約期間満了の3か月前までに,当事者のいずれか一方が相手方に対して書面により当該契約終了の意思表示をしない場合は,契約の有効期間は1年間延長されたものとみなされ,その後についても同様とすること等が規定されている。かかるところ,乙第1号証及び乙第2号証に記されるとおり,当該契約の当事者である旧アトラス社の全事業は合併により旧インデックス社に承継され,さらに,その全事業は譲渡により被請求人である新インデックス社に承継されたのであるから,被請求人が当該契約に係る株式会社アトラスの地位を承継していることは明白である。そうして,当事者間でこれまで当該契約終了の意思表示がされた事実はないことから,前記契約の第22条2項に規定により,当該契約は現在も有効に存続している。
(4)乙第10号証及び乙第11号証
旧インデックス社から新インデックス社(被請求人の現商号は「株式会社アトラス」である。以下「新アトラス社」という。乙10)への事業譲渡に際しては,通常使用権者であるケイブ社は契約上の地位の承継につき承諾をしているので(乙11),乙第3号証に基づく旧アトラス社とケイブ社による契約関係が被請求人に引き継がれている。このため,本件商標の通常使用権は,依然として被請求人とケイブ社との間で継続している。
2 本件商標の使用及び使用時期について
(1)本件商標の使用の事実について
ア 乙第9号証
乙第9号証の1は,被請求人が平成26年4月16日付けで撮影した写真であり,アプリをダウンロードしてプレーを行うまでの画面の遷移を示したものである。このように,「エスプレイド」系ゲームアプリは,最も古い「エスプレイド覚醒編」から最も新しい「エスプレイドDX」まで,全て「グーゼン横丁」を通じて配信されてきたのであり,「エスプレイドDX」ゲームアプリについては,シューティングゲームの名作アプリとして,2005年10月12日の配信以降,現在もiモードのシューティングゲームサイト「ゲーセン横町」を通じて配信されている。
イ 乙第12号証及び乙第13号証
被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内(平成23年3月14日ないし平成26年3月13日)の間,本件商標を通常使用権に基づき使用したケイブ社から四半期毎に報告を受けて,その使用料を受領している(乙12及び乙13)。
そもそも,需要者たる各携帯電話の利用者は,各キャリアが提供する携帯電話用サイトにおいて,本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標が使用されていなければ,ケイブ社が提供する「エスプレイド」を識別して,乙第12号証及び乙第13号証に報告されているように会員認証してダウンロードをすることができない。
このため,本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標が使用されていたことは,乙第12号証及び乙第13号証から明らかである。
(2)本件商標と本件使用商標の同一性について
乙各号証に記載されている標章「エスプレイドDX」(以下「本件使用商標」という。)は,「エスプレイド」(本件商標)と「DX」とが結合した語から成るものである。
ア 「エスプレイド」部分の自他商品識別力について
本件使用商標の構成中の「エスプレイド」の部分は,新たな造語であり,既存の外観,称呼,観念を伴わない。このため,「エスプレイド」の部分は,取引者・需要者においても,既存の明確な観念を伴わない新たな造語であると認識される。
したがって,本件使用商標の構成中,「エスプレイド」の部分は,強い自他商品の識別力を有する。
イ 「DX」部分の自他商品識別力について
これに対して,本件使用商標の構成中の「DX」部分は,「deluxe」(デラックス)の略語であるところ(乙14),「デラックス(deluxe)」は,「豪華なさま。高級でぜいたくさま。」(乙15)や,「高級なさま。豪華で,ぜいたくなさま。」(乙16)を意味し,通常のものに比べて高級・豪華であることを想起,連想させる一般的な記載に他ならない。
現に,本件商標の指定商品である電子応用機械器具の分野に属するゲームプログラム等の商品名においても「-DX」などとしてよく使われており(乙17),その際には通常版に対する豪華版あるいは上位版の意味に使われている。例えば,ゲーム「スーパー桃太郎電鉄」(乙18の1)には豪華版の「スーパー桃太郎電鉄DX」が存在し(乙18の2),ゲーム「大乱闘スマッシュブラザーズ」(乙19の1)には豪華版の「大乱闘スマッシュブラザーズDX」(乙19の2)が存在するように,「DX」は,既存のゲームプログラムを改良して豪華なものにしたものという,商品の品質・効能等を高級・豪華にしたことを表示するにすぎない。
したがって,当該商標の構成中の「DX」部分は,商品の品質・効能等を表示するにすぎず,それ自体は自他商品の識別力を有する部分ではない。
ウ 「エスプレイド」と「DX」の関係
造語であり特定の観念を有しない「エスプレイド」と高級・豪華等の品質・効能等を表する一般的な記載である「DX」とは,一体不可分の密接な関係にあるわけではない。また,「エスプレイドDX」の称呼「エスプレイドディーエックス」は,冗長であり,一連一体の称呼によることが取引実情に即したものとは言い難く,むしろ取引の実際においては,「エスプレイド」との称呼を生ずることが通常である。
したがって,「エスプレイド」と「DX」は,一体不可分のものではない。
エ 小括
以上からすると,標章「エスプレイドDX」の語は,「エスプレイド」の部分において,取引者・需要者の注意を引くものであり,この部分が自他識別力を有する。そして,「エスプレイド」は,本件商標と同一なので,標章「エスプレイドDX」と本件商標が社会通念上同一であることは明らかである。
(3)商品「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が著作物使用許諾基本契約書(乙3)に含まれるか否かについて
著作物使用許諾基本契約書(乙3)の第3条第2項には,「甲は,前項の許諾の範囲において,乙が本件商標を使用することを独占的に許諾する。」と規定されており,当該契約書における「本件商標」とは,第1条2において定義されているとおり,本件商標のことである。
また,当該契約書における「前項の許諾の範囲」とは,「本著作物に関する商品・サービス等に使用する商品化に基づき」「本件データ配信サービス上において本件著作物を利用」する範囲であり(第3条第1項),本件著作物とは,「エスプレイド」等の「甲が著作権を有する業務用ゲームソフトウェア」である(第1条1)。
この点,請求人は,「業務用ゲームソフトウェア」について類似群コードを挙げて論証を行うが,そもそも契約を締結する当事者は,特許庁が定める類似群コードを基に合意を行うわけではないので,請求人は,契約書の解釈方法を誤解しているといわざるを得ない。
当該契約書は,契約当事者の合理的意思に基づき契約書全体から客観的に解釈されるべきところ,「業務用ゲームソフトウェア」には「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が含まれている(予定されている)ことは,「本件データ配信サービス」(第3条第1項)等のダウンロード形式の規定があることからも明らかである。
なお,請求人が挙げる類似群コードは,「業務用テレビゲーム用プログラム」(9類)であり,この点からも配信を予定する乙第3号証の解釈としては的外れであるといわざるを得ない。
(4)商品「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が本件請求の指定商品に含まれるか否かについて
商標法は,現在においても,商品も役務も定義をしていないことは周知の事実である。そして,当然のことながら,請求人が主張するような,平成14年1月1日から施行された改正商標法においても,電子計算機用プログラムが「法上の『商品』として初めて認められた」事実もなく,これは「周知の事実」でもない。
請求人は,自ら引用した甲第5号証の冒頭部分のみを見て,商標法が改正されたと誤解したようであるが,電子計算機用プログラムに関して改正が行われたのは,平成14年1月1日から施行された省令である。
しかも,この省令の改正は,当時,既に行われていた電子計算機用プログラムを「商品」として扱う学説・判例の解釈に従って,「無体物であっても商取引の対象になる場合は商品と扱うことを明確化した」ものにすぎず,創設的に電子計算機用プログラムを商標法上の「商品」として認めたものではない(甲5)。
このように請求人の主張は,自らの誤解に誤解を重ねて主張されたものであり,その主張には合理的根拠はないものといわざるを得ない。
3 結論
以上のとおりであるから,本件商標は,被請求人の通常使用権者であるケイブ社によって,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内で取消請求に係る指定商品について継続して使用されている。

第4 当審の判断
1 使用の事実について
証拠及び被請求人の主張によれば,以下の事実が認められる。
(1)乙第3号証は,旧アトラス社とケイブ社の「平成14年(2002年)9月15日」付けの「著作権使用許諾基本契約書」であって,以下の記載がある。
ア 「第1条(定義)」の「1 『本件ソフト』」(数字の「1」は丸付き数字である。以下,当該契約書の「第1条」の説明においては同じ。)の項に,「乙(審決注:ケイブ社)が開発し,甲(審決注:旧アトラス社)が著作権を有する業務用ゲームソフトウェアで,その名称を『エスプレイド』及び『怒首領蜂』という。」との記載がある。
イ 「第1条(定義)」の「2 『本件商標』」の項に,「甲が権利を有する商標:『エスプレイド』登録番号:第4277077号」との記載がある。
ウ 「第1条(定義)」の「本著作物」の項には「本件ソフト及び本件ソフトのタイトル・・・をいう。」との記載がある。
エ 「第1条(定義)」の「4 『本件ゲームソフト』」の項に,「本著作物の全部又は一部を利用,改変して乙が製作する携帯電話用ゲームソフトをいう。」との記載がある。
オ 「第1条(定義)」の「8 『本件サービス』」の項に,「本件ゲームソフトを本件サイトを介してダウンロードさせることにより,ユーザーに使用させることをいう。」との記載がある。
カ 「第3条(利用の許諾)」の項に,「1 甲は乙に対し,本件著作物に関する商品・サービス等に使用する商品化に基づき,本契約の有効期間中,日本国内で,乙が本件データ配信サービス上において本著作物を利用する独占的権利を許諾する。」及び「2 甲は,前項の許諾の範囲において,乙が本件商標を使用することを独占的に許諾する。」との記載がある。
(2)乙第6号証(枝番を含む。)は,株式会社Impress Watchが運営する「ケータイ/Watch」のウェブサイトである。そして,乙第6号証の3の3頁及び4頁には,「?504i用iアプリシューティングヒストリー?」の見出しの下,「発売日」,「タイトル」及び「メーカー」等を列見出しとした表が掲載され,「発売日」が「2002/12/27」の行には「タイトル」の列に「エスプレイド覚醒編」及び「メーカー」の列に「ケイブ」の記載,並びに,「発売日」が「2003/2/10」の行には「タイトル」の列に「エスプレイド夜叉編」及び「メーカー」の列に「ケイブ」の記載がある。さらに,乙第6号証の3の6頁には,「?900i用iアプリシューティングヒストリー?」の見出しの下,「発売日」,「タイトル」及び「メーカー」等を列見出しとした表が掲載され,「発売日」が「2005/10/12」の行には「タイトル」の列に「エスプレイドDX」及び「メーカー」の列に「ケイブ」の記載がある。
(3)乙第10号証は,商標権者である新アトラス社の「履歴事項全部証明書」であって,以下の記載がある。
ア 「商号」の欄に,商号を「株式会社セガドリーム」から「平成25年11月1日」に「株式会社インデックス」(新インデックス社)へと,その後「平成26年4月1日」に「株式会社アトラス」(新アトラス社)へと変更及び登記した旨の記載がある。
イ 「商号譲渡人の債務に関する免責」の欄に,「当会社は,平成25年11月1日に事業譲渡を受けたが,譲渡会社である株式会社インデックス(審決注:旧インデックス社)の債務について(以下略)」及び「平成25年11月1日登記」の記載がある。
ウ 「本店」の欄に,「東京都品川区東品川」の商標権者の住所の記載がある。
(4)乙第11号証は,旧インデックス社からケイブ社に宛てた「平成25年10月25日」付けの「契約上の地位承継等についてのご依頼」との表題の文書であり,本文中に「当社は,・・・株式会社セガドリーム(以下「セガドリーム」といいます。セガドリームの商号は今後『株式会社インデックス(審決注:新インデックス社)』(本店所在地:東京都品川区東品川・・・に変更される予定です。)との間で当社の事業を譲渡する旨の事業譲渡契約を締結しました。・・・今後は,翌11月1日を実行日として,当社はセガドリームに対して事業譲渡を実行する予定ですが,それに伴い,貴社との取引関係をセガドリームに円滑に承継するため,下記の各事項についてご同意いただきたくお願いいたします。」及び「記 1.貴社と当社との間で契約した別紙記載の契約に係る契約上の地位及びこれに基づく当社の権利義務を,セガドリームに継承すること」との記載があり,その下に,「平成25年10月31日」付けで「株式会社インデックス(審決注:旧インデックス社) 御中」,「上記の各事項について,いずれも同意します。」及び「株式会社ケイブ 代表取締役」とともに氏名の記載及び押印がある。さらに,当該文書の添付書類である「別紙 契約書」には,「32 著作物使用許諾契約書 2002年9月15日」の記載がある。
(5)職権による調査によれば,本件商標の商標登録原簿には,商標権者は,旧アトラス社から,平成23年5月9日付けで「一般承継による本権の移転」により旧インデックス社に,同26年2月12日付けで「特定承継による本権の移転」により新インデックス社に,及び同27年7月31日付けで「登録名義人の表示の変更」により新アトラス社となったことが登録されている。
(6)乙第9号証(枝番を含む。)は,被請求人が撮影した写真であって,「エスプレイド」のアプリケーション(ゲームソフト)を携帯電話にダウンロードするまでの画面遷移である。被請求人は,当該写真の2から5の画面(数字は丸付き数字である。以下同じ。)までのメニューを選択し,ケイブ社の提供する6の画面「極上シューティングゲーセン横町」の画面において「全アプリ一覧」を選択すると,7の画面においてゲーム名称の一覧が表示され,当該一覧の「エスプレイドDX」を選択し,8の画面においてダウンロードを選択するとゲームが開始される旨,説明している。
(7)乙第12号証は,ケイブ社から商標権者に対する四半期毎の利用報告であり,以下の記載がある。
ア 乙第12号証の1頁には,左上に「11-10-28;20:02」,「株式会社インデックス 御中」の文字と,右下に「株式会社ケイブ」の文字と,携帯電話の名称とともに,お支払金額の項は「H23.4」,「H23.5」及び「H23.6」に分けられ,携帯電話会社の名称とともに,4桁以内の数字が記載されている。そして,当該,4桁の以内の数字は,乙第12号証の続葉頁のお支払い合計金額(3,5,7,8,9,13,17及び21頁)と一致している。
イ 乙第12号証の13頁には,左上に「(株)アトラス 御中」,「平成23年4月売上分」「平成23年6月着金」の記載,上段の表の中央部「平成23年4月 ダウンロード状況」中の「対象アプリ名称」の下から2段目には,「エスプレイドDX(+3GC)」の文字及びその下段に「4」の記載,その左側の「配分金額」の欄には,「-7」の記載がある。そして,下段の表の左上には,「平成23年4月売上分」,「平成23年7月着金」の記載,「対象アプリ名称」は,上段の表と同様の記載であるが,「配分金額」の欄には,「107」の記載がある。
ウ 乙第12号証の17頁には,左上に「(株)アトラス 御中」,「平成23年5月売上分」「平成23年7月着金」の記載,上段の表の中央部「平成23年5月 ダウンロード状況」中の「対象アプリ名称」の下から2段目には,「エスプレイドDX(+3GC)」の文字及びその下段に「4」の記載,その左側の「配分金額」の欄には,「-13」の記載がある。そして,下段の表の左上には,「平成23年5月売上分」,「平成23年8月着金」の記載,「対象アプリ名称」は,上段の表と同様の記載であるが,「配分金額」の欄には,「113」の記載がある。
エ 乙第12号証の21頁には左上に,「(株)アトラス 御中」,「平成23年6月売上分」「平成23年8月着金」の記載,上段の表の中央部「平成23年6月 ダウンロード状況」中の「対象アプリ名称」の下から2段目には,「エスプレイドDX(+3GC)」の文字及びその下段に「2」の記載,その左側の「配分金額」の欄には,「-8」の記載がある。そして,下段の表の左上には,「平成23年6月売上分」,「平成23年9月着金」の記載,「対象アプリ名称」は,上段の表と同様の記載であるが,「配分金額」の欄には,「58」の記載がある。
(8)乙第14号証は,「goo辞書」のウェブサイトであって,「『DX』で始まる言葉」の見出しの下,「ディー・エックス【DX】 《delux》デラックス。」の記載がある。
(9)乙第17号証は,「フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』」のウェブサイトであって,「DX」の見出し下,「■デラックス(deluxe)-商品名や番組名によく使われる」,「■ダウンタウンDX ■スーパー桃太郎電鉄DX 大乱闘スマッシュブラザーDX」の記載がある。
(10)乙第18号証の1及び2は,「Amazon.co.jp」のウェブサイトであって,乙第18号証の1には,「スーパー桃太郎電鉄」の見出しの下,「プラットフォーム:GEME BOY」の記載,及び乙第18号証の2には,スーパー桃太郎電鉄DX」の見出しの下,「プラットフォーム:SUPER FAMICOM」の記載がある。
(11)乙第19号証の1及び2は,「Amazon.co.jp」のウェブサイトであって,乙第19号証の1には,「大乱闘スマッシュブラザーズ」の見出しの下,「ゲーム・ミュージック(アーティスト),スマブラバンド(アーティスト) 型式:CD」の記載,及び乙第19号証の2には,「大乱闘スマッシュブラザーズDX」の見出しの下,「プラットフォーム:NINTENDO GAMECUBE」の記載がある。
(12)以上の事実によれば,以下を認めることができる。
ア 上記1(1)ないし(5)によれば,ケイブ社が商標権者(新アトラス社)の通常使用権者であることについて
旧アトラス社は,平成14年9月15日,「著作権使用許諾契約書」により,ケイブ社が本件商標「エスプレイド」を商品「携帯電話用ゲームソフトウェア」について使用することを許諾した(乙3)。ケイブ社は,新インデックス社(社名変更前の株式会社セガドリーム)が旧インデックス社(旧アトラス社)の事業の譲渡を受けるに当たり,旧インデックス社の契約上の地位及びこれに基づく旧インデックス社の権利義務の承継を認めているから(乙11),ケイブ社は,商標権者(現在の新アトラス社であり,社名変更前の新インデックス社)の通常使用権者ということができる。なお,このことについては,両当事者間に争いはない。
イ 著作物使用許諾基本契約書(乙3)に含まれる商品について
旧アトラス社とケイブ社による著作物使用許諾基本契約書(乙3)によれば,旧アトラス社は,旧アトラス社が有する著作権を使用して,ケイブ社が本件商標である「エスプレイド」の名称の携帯電話用ゲームソフトウェアを製作し(乙3 第1条1及び4),当該ソフトウェアをダウンロードすることにより,日本国内でユーザーに使用させることについて,独占的な権利を許諾したことが認められる(乙3 第3条)。
したがって,旧アトラス社がケイブ社に当該著作物使用許諾基本契約書により使用許諾をした商品とは「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」といえる。
ウ 使用の事実について
上記1(6)ないし(7)によれば,平成23年(2011年)4月には(乙12),ケイブ社が提供する「エスプレイドDX」の名称を付したダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラムを,ケイブ社が管理するダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム配信用の「極上シューティング ゲーセン横町」の画面において,ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラムの需要者である一般消費者が,携帯電話を操作することによってダウンロードが可能としており(乙9),平成23年4月から同年6月の期間中に,総計10件の同ゲーム用プログラムが実際にユーザーによりダウンロードされたことが認められる(乙12)。そして,ケイブ社が提供する上記配信用の操作画面は,全て日本語で構成されていることから,国内の携帯電話用ゲームの需要者向けに提供されているものということができる。
エ ゲームプログラムにおける「DX」の文字について
「DX」の語は,商品や番組の内容が豪華版である場合に,商品名や番組名に付してその商品や番組が「delux デラックス」版であることを示すための略語として使用される場合があり,特にゲームプログラムにおいては,「DX」の文字が当該プログラムのデラックス版として使用されている(乙14,乙17ないし乙19(枝番号を含む。))。
2 判断
(1)本件商標と本件使用商標の同一性について
本件商標と本件使用商標が社会通念上同一の商標に当たるかについて,当事者間に争いがあるので判断する。
ア 本件使用商標は,片仮名と欧文字から構成されていることから,「エスプレイド」の片仮名部分と「DX」の欧文字部分に視覚的に容易に分離可能である。
イ 「エスプイド」の語は,辞書等に掲載の見受けられない造語と認識されるものである。
ウ ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラムである「エスプレイド」には,対応する移動体電話の機種及び時期により「エスプレイド覚醒編」,「エスプイド夜叉編」及び「エスプレイドDX」のヴァージョン(版)が存在する(乙6の3)。
エ 「DX」の文字は,一般的に英文字2字が,商品の規格,型式又は品番等を表示するための記号・符号として普通に採択,使用される一類型であることのみならず,上記1(12)エのとおり,商品名や番組名として「delux デラックス」を意味する略語と認識される場合があり,ゲームプログラムにおいては使用した場合は,当該プログラムのデラックス版として使用されている取引の実情がある。
なお,請求人は,乙第18号証及び乙第19号証(枝番を含む。)に記載の商品は,いずれも「家庭用テレビゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた記録媒体」に属するものであって,被請求人が主張する「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」とは類似群も異なる商品であるから,これらの証拠をもって,本件使用商標の構成中の「DX」の文字が自他商品の識別力を有する部分ではないということはできない旨主張する。
しかしながら,ハードウェアが家庭用テレビゲームおもちゃか,移動体電話機かの違いはあるものの,どちらも一般需要者を対象としたゲームソフトウェアであって,「家庭用テレビゲームおもちゃ用のプログラム」と「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」とで,同様のタイトル名のゲームが提供されていることは当庁において顕著な事実である。さらに,「エスプイド」の語が造語であること,「エスプイド」の文字を冠したいくつかのゲームソフトウェアの版が存在すること及び「エスプレイド」の片仮名部分と「DX」の欧文字部分に視覚的に容易に分離可能であることからすれば,「DX」の部分は,複数ある「エスプレイド」のシリーズのなかの一つの版(デラックス版)を示す記号と認識される場合も少なくないというのが相当である。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。
オ 小括
本件使用商標は,その構成中の「エスプイド」の文字部分が造語であること,「エスプイド」の文字を冠したいくつかのゲームプログラムの版が存在すること等からすると,本件使用商標は,看者をして,「エスプレイド」と「DX」の各文字をそれぞれ常に一体のものとしてのみ認識されるということはできず,「エスプレイド」の文字部分も独立して看取,把握されるものであって,自他商品識別標識としての機能を有しているものということができる。
そうすると,本件使用商標は,その要部である「エスプレイド」が本件商標とつづりを同一にするものであるから,本件商標とは社会通念上同一の商標と認め得るものである。
(2)商品「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が著作物使用許諾基本契約書(乙3)に含まれるか否かについて
請求人は,著作物使用許諾基本契約書(乙3)においては,ケイブ社が本件商標を使用することの許諾を受けている対象物は,「業務用ゲームソフトウェア」であり,「業務用ゲームソフトウェア」は,被請求人の主張する「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」とは特許庁の類似商品役務審査基準上では異なる商品であって,「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が本件審判の請求に係る商品「電子応用機械器具」に属するとすれば,当該契約書によって規定されていない商品との関係でケイブ社が本件商標を使用していたと捉えられる旨主張する。
しかしながら,著作物使用許諾基本契約書(乙3)は,契約当事者の意思に基づくものであって,上記1(12)イのとおり,当該契約には,ケイブ社がダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラムを製作し,当該プログラムをダウンロードすることにより,日本国内でユーザーに使用させることについて,独占的な権利を許諾したと認められるから,当該契約には,「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が含まれるというべきである。
(3)商品「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が本件審判の請求に係る指定商品に含まれるか否かについて
ア 請求人は,本件商標の登録出願時(平成10年3月5日)及び設定登録時(同11年5月28日)に,「電子計算機用プログラム」は商標法上の商品に含まれておらず,同14年1月1日に同法上の「商品」として初めて認められたものであるから,商品「ダウンロード可能な移動体電話機用プログラム」は,本件商標に係る商標権の範囲内に含まれておらず,ゆえに,本件商標権に基づいた通常使用権は許諾できない旨主張している。
イ(ア)しかしながら,商標法上「商品」の定義はなく,慣例として「電子計算機プログラム」は,従前はCD-R等の記録媒体に記録された状態を有体物と捉えて商品と解釈し流通されてきたものであるが,甲第5号証(産業財産権法(工業所有権法)の解説 平成14年法改正)の45頁には,「我が国商標法の対応」の見出しの下に,「電子情報財については,インターネット等の発達によりそれ自体が独立して商取引の対象となり得るようになったことを重視して商標法上の商品として扱うこととした。このような解釈に基づき,商標法上の商品サービスを例示する商標法施行規則別表に,商品分類第9類として『電子計算機用プログラム』及び『電子出版物』を追加する省令改正を行うことにより,無体物であっても商取引の対象となる場合は,商品と扱うことを明確化した。」との記載もあるとおり,インターネット等の発達により「電子計算機プログラム」自体が既に独立して商取引の対象となっている実情から,このような商取引の実情と,上記慣例による「商品」の取り扱いの差異により,商標法上の「商品」の取り扱いについて混乱が生じないよう,平成14年法改正により,「電子計算機用プログラム」及び「電子出版物」は,記録媒体に記録された状態でないもの,いわゆる無体物であっても商標法上の「商品」であることを省令改正で明確にしたにすぎないのである。
そして,「移動体電話機用プログラム」や「移動体電話機用ゲームプログラム」のような「電子計算機用プログラム」は,本件商標の登録出願時の類似商品・役務審査基準(改訂第8版)の第9類「電子応用機械器具及びその部品」には含まれる商品として例示されていた「電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路,磁気ディスク,磁気テープその周辺機器を含む。)」のように,記憶媒体に記録された商品として例示されていたものであって,さらに下記(イ)及び(ウ)のとおり本件商標の出願時及び査定時の平成10年頃には既に,インターネットを介したダウンロードの手法によって取引されていた商品が存在していた。そうすると,本件商標の出願時及び査定時には,すでに「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が商品として取引されている実情を考慮すれば,記録媒体に記録された「移動体電話機用ゲームプログラム」が「電子応用機械器具及びその部品」に含まれることと同様に,本件審判の請求に係る指定商品中の「電子応用機械器具及びその部品」の範囲内には,「ダウンロード可能な移動体電話機用ゲームプログラム」が含まれると判断して差し支えない。
(イ)本件商標の出願時及び登録査定時には,以下の実情が認められる。
a 「現代用語の基礎知識 1998」(自由国民社)の「情報社会 用語の解説」の章の「ネットワーク社会に突入する日本」の見出しの下(349頁),「●インターネットは,新聞でその文字を見ない日がないくらい生活にとけ込んできた。・・・日本の場合,人口100万人当たりの普及率は世界第17位と立ち遅れているが,それでもインターネットの利用者は推定500万人に増えた。」との記載がある。
b 「1998年(平成10年)1月17日付 毎日新聞 大阪夕刊 5頁」には,「[デジタリアン]「ケイバブック」システム開発部部長の山田直樹さん(47)」の見出しの下,「パソコンソフトのジャンルの中で,ゲームに次いで多いと思われる競馬予想支援ソフト。・・・現在,週に約1万人がデータをダウンロードしている。」との記載がある。
c 「1997年(平成9年)11月12日付 東京読売新聞 朝刊 7頁」には,「パソコンとゲームボーイ,赤外線通信でデータ交換 ハドソンがモバイル機能開発」の見出しの下,「インターネット上にあるハドソンのホームページから最新ゲームデータをダウンロード。あとは,赤外線モデムとゲームボーイを“接近”させ,パソコン側にあるデータをゲームボーイに装着した専用カセットに転送すれば,プレー可能だ。」との記載がある。
d 「1997年(平成9年)6月7日付 毎日新聞 大阪夕刊 10頁」には,「[ゲーム探検隊]GALAXUS Hydra1.1 凝った音楽,臨場感満喫」の見出しの下,「ゲームファンの皆さん,お待たせ。この新コラムはデジタルゲームなら何でもOK。64,プレステ,サターンといったテレビゲームはもちろん,WIN,Macといったパソコンゲームまで幅広くカバーします。・・・インターネットを通じてソフトが簡単に手に入るのですね。・・・URLを打てば,約20分でダウンロード完了,あなたのパソコンはアーケードマシンに早変わり。」との記載がある。
e 「1997年(平成9年)2月22日付 毎日新聞 朝刊 10頁」には,「年内にパソコン向けデータ放送--日本デジタル放送」の見出しの下,「パソコン向けデータ放送「パーフェクPC!」を年内に開始することを明らかにした。ゲームソフトや,インターネットのホームページ高速配信のほか,動画情報つきの電子新聞や通販用カタログなど,衛星からの配信サービスを行う。」との記載がある。
(ウ)上記よりすれば,本件商標の登録出願時(平成10年3月5日)及び登録査定時(平成11年3月24日)には,既に,我が国においてインターネットは一定程度普及しており,ゲームプログラムを含む電子計算機プログラムや電子新聞等の電子情報財自体を,インターネットを介したダウンロードの手法によって,商業的に需要者に提供している事実が存在していたというのが相当である。
(4)小活
以上によれば,本件商標の通常使用権者であるケイブ社は,本件審判の請求の登録前3年以内である平成26年(2014年)4月から同年6月に,日本国内において,本件請求に係る指定商品中「電子応用機械器具及びその部品」に含まれる商品「ダウンロード可能な移動体電話機用プログラム」について,本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標を付して電気通信回線を通じて提供したものと認めるのが相当である。
そして,商標権者の上記使用行為は,商標法第2条第3項第2号に該当するものと認められる。
3 まとめ
以上のとおり,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,通常使用権者が本件請求に係る指定商品中「電子応用機械器具及びその部品」に含まれる商品「ダウンロード可能な移動体電話機用プログラム」について,本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたことを証明したと認め得る。
したがって,本件商標の登録は,商標法第50条により,取り消すことはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-12-09 
結審通知日 2015-12-11 
審決日 2016-01-05 
出願番号 商願平10-17510 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (Z0916)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田中 幸一
特許庁審判官 田村 正明
早川 文宏
登録日 1999-05-28 
登録番号 商標登録第4277077号(T4277077) 
商標の称呼 エスプレイド 
代理人 岡部 讓 
代理人 田中 尚文 
代理人 村下 憲司 
代理人 福田 純一 

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