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審決分類 |
審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X05091016172021222425 |
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管理番号 | 1315764 |
審判番号 | 取消2013-300941 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2013-11-06 |
確定日 | 2016-05-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第869495号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第869495号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第869495号商標(以下「本件商標」という。)は、「VANMATE」の欧文字をゴシック体により横書きしてなり、昭和43年1月16日に登録出願、第17類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同45年4月10日に登録査定、同年8月19日に設定登録され、その後、4回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成22年9月22日に指定商品を第5類「失禁用おしめ」、第9類「事故防護用手袋,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服」、第10類「医療用手袋」、第16類「紙製幼児用おしめ」、第17類「絶縁手袋」、第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」、第21類「家事用手袋」、第22類「衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿」、第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,防暑用ヘルメット,帽子」とする指定商品の書換登録がされているものである。 そして、本件審判の請求の登録は、平成25年11月21日にされているものである。 第2 本件使用商標 請求人が被請求人により使用されていたとする使用商標は、以下の1ないし4に記載した態様のものである。 1 「VAN MATE」の文字からなるもの(「VAN」と「MATE」との間は、やや間隔が空いており、さらに、「V」の文字部分は、ほかの文字より大きく表示され、これに続く「A」の文字部分は、赤色で表されている。)。 2 「Van mate」の文字からなるもの(「Van」と「mate」との間は、やや間隔が空いている。)。 3 「バン メイト」の文字からなるもの(「バン」と「メイト」との間は、1文字分程度の間隔が空いている。)。 4 「VAN MATE/ヴァン メイト」の文字からなるもの(「VAN」と「MATE」との間は、やや間隔が空いており、「ヴァン」と「メイト」との間は、1文字分程度の間隔が空いている。)。 なお、上記各使用商標は、請求人が提出した甲第2号証の2及び甲第2号証の3に示されたものであり、前者がAmazon.co.jpのウェブサイトを、後者が被請求人のウェブサイトを、それぞれ紙出力した書面であるところ、これらに掲載されているスクールワイシャツの織ネームに表示されている「VAN MATE」の文字が表示された写真部分は、これを転写しても不鮮明であり、判然としないと思われ、また、その他の使用商標は活字で表示されているので、上記1ないし4のとおりに示すものとした。 他方、被請求人が商品「小学生、中学生又は高校生向けの男性用スクールシャツ」に使用していたと主張する商標は、乙第2号証に示されたものであり、別掲1に示す構成態様のものである。 以下、上記1ないし4の使用商標及び別掲1に示す構成態様の商標をまとめて「本件使用商標」という場合がある。 第3 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第81号証(枝番号を含む。)を提出した。 また、請求人は、請求人の商標の管理会社であるケントジャパン株式会社と被請求人との間でなされた不正競争防止法による損害賠償請求訴訟(平成26年(ワ)第20608号)について、平成27年7月28日に成立した和解調書(写し)を参考資料として提出した。 1 引用商標 請求人が自己の取扱いに係る商品、紳士用の衣服等に使用して著名となっていると主張する商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2に示すとおり、「VAN」の欧文字の下方に、該欧文字に比して極めて小さく表された「・JAC・」の欧文字を配してなるものであって、その構成中の「VAN」の欧文字部分については、「A」の欧文字部分が赤色で表される一方、「V」及び「N」の欧文字部分は黒色で表されており、また、「・JAC・」の欧文字部分については、赤色で表されているものである。 2 取消事由 (1)被請求人は、2007年から少なくとも2013年6月まで、関東地方、静岡県、愛知県及び岐阜県にある総合スーパー並びにウェブサイト上で、「VAN MATE」ブランドのスクールシャツを年間3,000ないし4,000枚販売していた。詳しくは、下記のとおりである(甲第2号証の1及び甲第2号証の2)。 ア 総合スーパー (ア)東急ストア 店舗数:9店舗 総在庫数:450枚 (イ)相鉄ローゼン 店舗数:6店舗 総在庫数:90枚 (ウ)京成ストア 店舗数:1店舗 総在庫数:20枚 (エ)清水屋 店舗数:6店舗 総在庫数:300枚 (オ)Olympic 店舗数:1店舗 総在庫数:24枚 イ ウェブサイト (ア)Yahoo! JAPAN (イ)楽天 (ウ)Amazon (エ)bidders また、インターネット上の被請求人のウェブサイトにおいては、現在も、被請求人が展開しているスクールシャツのブランドとして、「VAN MATE」ブランドが表示され、当該ウェブサイト上で販売が継続されている(甲第2号証の3)。 (2)被請求人が使用している「VAN MATE」の商標は、本件商標の構成とは異なっている。具体的には、本件商標はアルファベットで一連に黒一色で表示された構成であるのに対し、被請求人は、「VAN」と「MATE」との間に間隔を空けるとともに、当該「VAN」の「A」の文字を赤字に変更して使用している。すなわち、被請求人は、本件商標に類似する商標を本件商標の指定商品中の第25類「ワイシャツ類」に使用している。 3 取消原因 本件商標は、以下に述べるように、商標法第51条第1項に規定する取消理由を有するものであり、その登録が取り消されるべき登録商標である。すなわち、被請求人が本件商標に類似する商標を本件商標の指定商品に使用していることによって、請求人の引用商標を付した商品及び役務と混同が生じている。また、被請求人は、上記の使用によって引用商標を付した商品及び役務と混同が生じることを知りながら、故意に上記の使用を継続している。 (1)引用商標について 引用商標は、別掲2のとおりの構成からなるところ、その構成中の「VAN」の部分は、被請求人が提出した乙第5号証にあるように、それのみの構成をもって自他商品の識別機能があるとして、登録されているもの(登録第4145251号商標)である。 また、引用商標は、その構成中、「VAN」の部分が「・JAC・」の部分と比べるとかなり大きく、「・JAC・」の部分は逆に小さいため、付記部分ととらえられ、昭和29年頃の使用開始時期から現在まで、一般需要者及び取引業者においては、「バン」ないし「ヴァン」と称呼、認識されている。 なお、甲第7号証及び甲第79号証として提出する「商標審決公報」においても、請求人が使用している商標「VAN/・JAC・」(引用商標に同じ)は「バン」ないし「ヴァン」の称呼が生ずるものである、と認定されている。 (2)引用商標の周知・著名性について ア 引用商標は、1954年から旧株式会社ヴァンヂャケット(1984年2月解散。以下「旧ヴァンヂャケット社」という。)が使用し、その後、請求人である現株式会社ヴァンヂャケット(以下「現ヴァンヂャケット社」という。)が、現在まで継続して使用している。 したがって、引用商標は、紳士用の衣服及び服飾洋品雑貨を表示する商標として、極めて著名である。 イ 引用商標は、織ネーム等のバックが白地のときは、「黒・赤・黒」のカラーリングで使用されるものである一方、そのバックが黒地のときは、「白・赤・白」のカラーリングで使用されるものである(甲第4号証の80頁並びに甲第5号証の48頁及び52頁)。「黒・赤・黒」のカラーリングの引用商標だけでなく、「白・赤・白」のカラーリングの商標についても、紳士用の衣服及び服飾洋品雑貨を表示する商標として、極めて著名である。この2つのカラーリング以外にも、「青・赤・青」のカラーリングや「緑・赤・緑」のカラーリングといった、ほかのカラーリングが使用される場合もある(甲第5号証の43頁、86頁及び89頁)。いずれにしても、旧ヴァンヂャケット社及び現ヴァンヂャケット社を通じて、「VAN」の語の「V」や「N」の文字部分の色と異なるように「A」の文字部分の色が赤色にカラーリングされた商標が、膨大な数の紳士用の衣服及び服飾洋品雑貨に使用されている。 ところで、甲第2号証の2及び甲第2号証の3に示す本件使用商標のように、「VAN」と「MATE」との間に間隔を空けて使用した場合、当該商標を見た者から「VAN」と観念され、「バン」ないしは「ヴァン」と称呼される。 また、「VAN」の語に「MATE」の語が付加されて使用されていても、引用商標が周知・著名商標であること、また、「MATE」の語が「仲間、相棒、友」といった観念を有していることから、当該商標を見た者・聞いた者は、「VANの仲間・相棒・友」と観念する。 したがって、本件使用商標を見た者・聞いた者は、引用商標に係る請求人と何らかの関係があると誤認する。すなわち、本件使用商標がタグや織ネームに表示されているスクールシャツを見たり、スクールシャツについて聞いた者は、請求人の業務に係る商品であると誤認し、あるいは、請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認する。 ウ 旧ヴァンヂャケット社は、1950年代後半から1970年代後半にかけて、我が国における紳士用ファッションの分野をリードした企業であり、引用商標が旧ヴァンヂャケット社及び現ヴァンヂャケット社の商標として全国的に極めて著名であることは、衣服及び服飾洋品雑貨の業界のみならず、一般消費者の間でも顕著な事実である。 以下、引用商標の周知・著名性を具体的に説明する。 (ア)「ヴァンヂャケット」(メインブランド名:VAN)の創始者・石津謙介は、「私は流行を作らない。風俗を作る」といったことがある。まさに、VANと石津は、団塊の世代の若者たちに「アイビーファッション」を提案し、アメリカン感覚の新しいライフスタイルを作り上げた。1951年、大阪府の現在アメリカ村と呼ばれている場所に、アメリカン・カジュアルを中心としたメンズ・アパレル「ヴァンヂャケット」を創設。最初、VANは、コットンのワークシャツやジーンズ等のアメリカン感覚の商品を販売し、人気を博していたが、1959年、細身のシルエットのアイビー・モデル・スーツを発表、都会の若者たちの注目を集めることとなる。1964年、二十代前半の男性を対象とした週刊誌「平凡パンチ」が創刊され、表紙を飾るイラストレーター大橋歩の描くアイビー・ルックが紹介されると、アイビーファッションは、全国的にブームを引き起こす。銀座のテイジンメンズショップでVANの洋服を買ってVANの袋を持ってみゆき通りをぶらつく“アイビー小僧”が、それこそ山のようにいた。VANが提案した三つボタンのスリムなスーツ、ボタンダウン・シャツ、アイビー・セーター、アイビー・タイ、スリムなコットンスラックス等は、若者たちの「風俗」そのものとなる。石津は、「アイビーの教祖」として、アメリカのプレッピー・スタイルの新しいライフスタイルを提案し、熱狂的な支持を集めた。まさに、VANの作り出したアイビー・ルックは、若者たちの青春のシンボルになって、日本の津々浦々まで広がり、60年代の若者の文化になった。その後も、石津は、「ホンコンシャツ」等の機能的なシャツ、「T.P.O」、「オンフライデー」等のメンズ・ファッションの新しい着装の方法を提案し、VANブランドを不朽のものとし、その後のメンズ・ファッションに大きな影響を与えた(甲第6号証)。 そして、旧ヴァンヂャケット社は、1974年ないし1976年頃には300億円以上の売上げがあり、ジャケット、トレーナー、シャツ等の膨大な数の商品に引用商標が付されていた(甲第7号証ないし甲第11号証)。その結果、少なくとも1976年頃には、引用商標は、旧ヴァンヂャケット社の商標として、ファッション関係の取引者、需要者の間で著名性を獲得したといえる。 (イ)その後、旧ヴァンヂャケット社は、1978年10月12日に東京地方裁判所の破産宣告を受け、1984年2月10日に破産が終結して、同法人としては、現在、既に解散している(甲第12号証)。 しかし、破産宣告を受けた後でも法人が正式に解散するまでは、たとえその所有する財産の管理が破産管財人の管理下にあるとはいえ、破産管財人の許可を受ければ当該財産に依拠する活動は可能であり、現に1979年から旧ヴァンヂャケット社の元社員で構成されたPX組合によって、元の直営店や自己資金で開設した小売店で残っていた在庫品の販売が継続されていた(甲第11号証の66頁)。 (ウ)旧ヴァンヂャケット社の清算終了前の1980年12月3日に現ヴァンヂャケット社(請求人)が設立され(甲第13号証)、旧ヴァンヂャケット社の保有していた知的財産権のすべてを譲り受けた(甲第14号証)。当時の設立者には、もちろん、旧ヴァンヂャケット社の役員も名を連ねていた。 現ヴァンヂャケット社設立後は、引用商標が使用される請求人の商品を専門的に販売するショップが、1981年6月当時、既に雑誌において紹介され(甲第15号証)、また、請求人も積極的に宣伝していた(甲第16号証及び甲第17号証)。しかも、引用商標が使用された請求人の業務に係る商品が、旧ヴァンヂャケット社から引き続いて販売されていることも雑誌に紹介されていた(甲第11号証及び甲第18号証)。 (エ)その後、少なくとも2000年頃までは、請求人の業務に係る引用商標の付された商品を販売する店舗は、日本全国に多数存在し(甲第19号証ないし甲第21号証)、請求人も、カタログや雑誌を用いて積極的に宣伝していた(甲第23号証ないし甲第44号証)。その結果、請求人の売上高は、多額に達していた(甲第21号証及び甲第22号証)。 そして、2000年以後、現在まで絶えることなく継続的に、請求人を通じて引用商標の付された商品が販売されている(甲第45号証ないし甲第70号証)。2013年現在では、請求人のホームページ上や、全国約40の店舗で引用商標の付された商品が販売されている(甲第71号証及び甲第72号証)。 (オ)引用商標を付した商品の直近2年の売上げは、以下のとおりである。 a 請求人は、現在、約35店舗(甲第75号証)において、引用商標を付した被服類を販売しており、その地域は全国的である。これらのうち、14店舗は卸売ベースで取引しており、残りの21店舗とは小売ベースで取引している。 b 「34期月度店舗別予実管理」(甲第76号証の1及び甲第76号証の2)によれば、2013年8月から2014年4月までの売上実績は「873,205千円」であるが、この中には卸売ベースでの売上実績が入っている。「34期月度卸先別予実管理」(甲第77号証)によれば、卸売実績は「207,975千円」である。 したがって、上記「873,205千円」から「207,975千円」を引いた「665,230千円」が小売ベースでの売上金額となる。 また、上記卸売実績合計「207,975千円」を小売ベースに換算すると「346,625千円」となるから、34期の売上実績は、小売価格で「665,230千円」に「346,625千円」を加えた約10.1億円(甲第78号証)である。 さらに、上記「34期月度店舗別予実管理」及び「34期月度卸先別予実管理」には、前年実績(2012年8月から2013年7月まで)として、それぞれ33期のものが記載されているところ、33期の売上実績は「1,011,824千円」(卸売ベースでの売上実績込み)、同じく、卸売実績合計は「144,367千円」であるから、前者から後者を引いた「867,457千円」が小売ベースでの売上金額となり、また、該卸売実績合計「144,367千円」を小売ベースに換算すると「240,612千円」となるから、33期の売上実績は、小売価格で「867,457千円」に「240,612千円」を加えた約11億円(甲第78号証)である。 そうすると、33期に約11億円、34期に約10億円の売上実績があることから、現在も活発に引用商標を使用していることが分かる。 (カ)上記のような引用商標の継続的な使用に鑑みれば、旧ヴァンヂャケット社の倒産から約50年が経っているものの、引用商標の「VAN」ブランドは現在も周知性のあるブランドであり、このように50年以上も前から営々と被服について使用している引用商標は、商標法の立法趣旨からも保護すべき商標であることは明らかである。 エ 引用商標の周知・著名性は、請求人に係る審判例(平成3年審判第17222号)においても、「使用商標(引用商標を含む)は、昭和51年頃には、旧社(=旧ヴァンヂャケット社)の商標として、ファッション関係の取引者、需要者の間で非常に著名なものであったことが認められる。そして、(中略)旧社の使用商標(中略)は、請求人に譲り渡されたことが認められる。(中略)旧社破産後も、『VAN/・JAC・』商標(引用商標を含む)は、なお旧社の商標として著名であり、これを付した商品は強い顧客吸引力を有しており、請求人がこれを前記譲渡契約によって譲り受けて使用したことによって、一般の取引者、需要者は、請求人を旧社を承継する会社と認識し、請求人の製造する『VAN/・JAC・』商標を付した商品について、最も買いたいブランドと考える需要者が多数現れ、また、『VAN/・JAC・』商標を付した商品の顧客吸引力に期待して特約小売店舗となる業者が数十業者にのぼるなどの状況であったことが認められる。してみると、『VAN/・JAC・』商標は、本件商標の出願時(=1984年3月5日)には、請求人の商標として著名であったものと認められる。」旨認定されている(甲第7号証)。 オ 引用商標が周知・著名である点は、上記審決書(甲第7号証)に記載のとおりであり、1960年頃から旧ヴァンヂャケット社が倒産するまで、その当時10代から40代の人は、「バン」又は「ヴァン」と聞けば、若者の間で一世を風靡したブランドであることは、十分記憶にあると思われる。請求人が提出した多数の甲号証の雑誌等において、「VAN」ブランドが取り上げられていることは、「VAN」ブランドが、当時、爆発的な売上げで人気があったことを裏付けるものである。そして、このようにいったん人々の脳裏に焼き付けられたブランドは、人々の記憶にずっと残っており、忘れることはなく、しかも、引用商標を付した被服類は、上記倒産後も絶えることなく、現在まで引き続き製造、販売されている。 また、甲第79号証の「商標審決公報」における審決書では、「4.出所の混同について」の欄で、「前述の3.『VAN』商標に関する職権証拠調べ等によれば、株式会社ヴァンヂャケットは、旧社の破産後の昭和55年の設立、以後、本願の出願時(平成3年7月4日)はもとより、現在[平成17年(2005年)3月16日]においても、「VAN」、「VAN・/JAC・」(引用商標)等の商標を「スーツ、ジャケット、トレーナー」等に使用し、取引者、需要者間に広く認識されているものと認めることができる、と認定し、さらに、本願商標の指定商品「はき物、かさ、つえ、これらの附属品」は、いずれも身体に身につけるかあるいは持ち歩く商品であり、他方、引用商標の使用商品は、「スーツ、ジャケット」等の被服であるから、両者はともにファッションに密接に関係する商品というべきである、とし、以上を総合勘案すれば、引用商標は、本願商標の出願前から株式会社ヴァンヂャケットが被服等に使用して著名な商標であり、これと酷似する本願商標を引用商標の使用商品と密接な関係にある本願の指定商品について使用するときは、株式会社ヴァンヂャケットの業務に係る商品であるか、あるいは同社と経済的に何らかの関係のある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について誤認を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない、と認定している。 このように、上記審決では、出願商標の指定商品と引用商標の使用商品とが非類似の商品であっても、商品の出所混同を生じるおそれがあると判断している。 したがって、引用商標は、現在も著名ないし周知性がある。 カ 甲第81号証の平成24年12月1日付け朝日新聞に掲載された「思い出のファッションブランド」のタイトルの記事(朝日新聞デジタルのウェブサイトで実施した、編集部で選んだ約90のファッションブランドの中から「思い入れの深いもの」を選んでもらったアンケート結果)によれば、「VAN」は、第2位にランクされている。 このように、引用商標の「VAN」ブランドは、平成24年(2012年)末時点でも、周知・著名であるといえるところ、被請求人は、この頃から本件商標の変形使用を行っていることから、当該変形使用は、引用商標の出所と混同を生じさせるおそれが十分にあったものと思われる。 (3)被請求人の故意について ア 本件商標は、上記したとおり、アルファベットで一連に黒一色で「VANMATE」と表示したものである(甲第1号証の2)ところ、被請求人は、意図的に「VAN」と「MATE」との間に間隔を空けるとともに、当該「VAN」の「A」の文字部分を赤字に変更して使用している(甲第2号証の2及び甲第2号証の3)。その理由は、甲第2号証の2及び甲第2号証の3はいずれも、ウェブサイトの表示画面を紙出力したものであるが、これら書面には、「Van」と「mate」との間に明らかな間隔を空けた「Van mate」の語が表示されているほか、片仮名でも「バン メイト」あるいは「ヴァン メイト」と表示されていること、偶然に、「VAN」と「MATE」との間に間隔を空け、なおかつ、当該「VAN」の「A」の文字部分を赤字に変更して使用することなどあり得ず、請求人の引用商標により一層似せるために赤字に変更したことが明らかであるからである。 イ 被請求人の山喜株式会社は、そのホームページによれば、1948年6月11日設立とあるが、実際には、現会長が大阪市天王寺区船橋でシャツの製造、販売を1946年に開始して以来、今日までシャツを中心に製造、販売している会社であり、引用商標の「VAN」ブランドが1960年代に一世を風靡したことは十分に認識しているものと思われる。 また、被請求人は、そのホームページ上で、取扱商品の主要ブランドとして「MEN’S CLUB」ブランドの商品を販売している(甲第73号証)ところ、「MEN’S CLUB」は、婦人画報社から1955年に『婦人画報増刊 男の服飾』として創刊され、1963年に『メンズクラブ』と改称された雑誌の名称であり、創刊当時から「アイビー」ファッションについて大きく取り上げ、一貫してトラディッショナルなスタイルを掲載し続けているもの(甲第74号証)であって、長年にわたり、請求人の引用商標を付した商品を多数掲載しているものであることから、上記雑誌と同名ブランドの商品を販売している被請求人が、周知・著名な引用商標の存在について知らないはずがなく、当然知っている。 さらに、被請求人が請求人の商標等の管理会社であるケントジャパン株式会社と商標「MEN’S CLUB」や「Mr.VAN」の使用許諾契約を最近まで結んでいたことに加え、当該「Mr.VAN」がファッションがアイビーからコンチネンタルへ移行し始めたことに対応して請求人が1966年に立ち上げた引用商標の姉妹ブランドである(甲第4号証の81頁)ことからすれば、被請求人は、アイビーファッションについて造詣が深く、登録商標「MEN’S CLUB」及び登録商標「Mr.VAN」の価値を当然知りながら使用許諾を受けていたのであって、ケントジャパン株式会社が請求人の商標権等の管理会社であることを知っており、どのようなブランドを管理しているかを十分認識して取引していたものと思われ、請求人のメインブランドであり、周知・著名な引用商標の存在も当然知っている。 ウ 甲第2号証の1は、本件商標の変更使用を見つけた請求人が、被請求人に警告した応答として、被請求人から送付された書面である。この書面では、主として本件商標の変更使用に対する謝罪、各販売先の在庫数及びウェブサイトから該当データを消去した旨が示されている。本件商標の変更使用が、請求人の引用商標に似せようと被請求人が故意に行ったものでなければ、謝罪するはずがなく、各販売先の在庫数を通知したり、ウェブサイトから該当データを消去することはない。また、請求人の引用商標に似せようとして本件商標の変更使用を故意に行ったのでなければ、通常、何らかの反論をしてくるものと思われる。 したがって、被請求人は、請求人の引用商標に似せようという明確な意思を持って本件商標の変更使用を行ったことを自ら認めている。 エ 被請求人が本件商標の変形使用をした商品はスクールシャツであるところ、スクールシャツの購買層は、中学生又は高校生の親であれば40代、50代の者が多く、引用商標の「VAN」ブランドを知っている世代であるから、上記のように変形した本件商標を見たときは、引用商標と経済的又は組織的に何らかの関係がある者が製造、販売しているものであると認識し、出所の混同を生じるおそれがある。 オ 請求人の商標の管理会社であるケントジャパン株式会社は、平成26年8月8日付けで、被請求人に対し、不正競争防止法第2条第1項第1号による損害賠償請求訴訟(平成26年(ワ)第20608号)を提起していたところ、今般、裁判上の和解が成立した。 上記訴訟は、請求人の商標の管理会社であるケントジャパン株式会社を原告、被請求人を被告とするものであって、引用商標と同一の商標に係る請求人所有の商標登録第1979446号の専用使用権者である同社が、黒色の「VAN」(「A」の文字部分は赤字)と黒色の「MATE」とを相互にやや間隔を空けた態様での被請求人によるワイシャツについての使用により引用商標と出所の混同を生じさせた、との損害賠償請求をしたものであるところ、上記和解の条項1では、「被告は、原告に対し、原告が専用使用権を有する別紙商標目録記載の登録商標と類似した別紙被告標章目録記載の標章(以下「本件標章」という。)を、被告が製造、販売するワイシャツに使用したことを認める。」と、同条項2では、「被告は、本件標章を付したいかなる商品も製造し、販売しない。」と、同条項3では、「被告は、原告に対し、本件和解金を支払う義務があることを認める。」とされている。 そして、上記「原告が専用使用権を有する別紙商標目録記載の登録商標」は、登録第1979446号を指し、その商標「VAN/・JAC・」の態様は、本件の引用商標と全く同じものであるが、ワイシャツは指定商品に含まれていないことから、ケントジャパン株式会社は、不正競争防止法第2条第1項第1号で損害賠償請求をしたものである。 また、上記「別紙被告標章目録記載の標章(以下「本件標章」という。)」は、本件不正使用による取消審判における変形使用そのものであり、上記和解条項に添付の「被告標章目録2」は、本件審判の取消対象である商標「VANMATE」(登録第5667913号商標)である。 さらに、和解金は、損害賠償に相当するものと思われる。 上記した状況を鑑みると、被請求人は、引用商標の周知性を認めたものであり、また、上記和解条項の1の行為は、故意に登録第5667913号商標の態様を変形して引用商標に類似させたものであるといえる。 (4)被請求人は、請求人提出の甲第76号証ないし甲第78号証について、「審判請求書」の要旨変更に当たり、認められるべきではない旨主張するが、これらの証拠の提出は、商標法第51条第1項の取消理由の補充であるから、要旨変更に当たるものではない。 (5)まとめ 被請求人は、東急ストア、相鉄ローゼン等のスーパーの店舗やAmazon等のウェブサイトを通じて、「VAN MATE」ブランドのスクールシャツを販売している。そして、被請求人が使用している「VAN MATE」の語は、本件商標の構成とは異なり、「VAN」と「MATE」との間に間隔を空けるとともに、当該「VAN」の「A」の文字部分を赤字に変更して使用している。この使用は、本件商標のいわゆる類似範囲の使用に該当する。 他方、引用商標は、旧・現ヴァンヂャケット社(請求人)を通じて、長年継続的に使用されている。そして、少なくとも2000年頃までは、請求人の業務に係る引用商標の付された商品を販売する店舗は、日本全国に多数存在し、請求人の売上高は、多額に達していた。また、引用商標の付された商品は、請求人を通じて、2000年以後、現在までも絶えることなく継続的に販売されている。 そのため、上記構成態様からなる本件使用商標が付された商品は、引用商標が付された商品及び役務と出所の混同を生じている。すなわち、被請求人が販売している「VAN MATE」ブランドのスクールシャツの購入者は、被請求人のスクールシャツに付された「VAN MATE」の商標(当該「VAN」の「A」の文字部分が赤字になっている。)を見た場合、引用商標に係る請求人と何らかの関係がある商品であると誤認する。 したがって、被請求人による上記行為は商標法第51条第1項に規定する商標登録の取消し審判の請求に係る要件を満たしているから、本件商標の登録は、取り消されるべきものである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第21号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 商標法第51条第1項に規定する要件について 請求人は、被請求人が自ら所有する本件商標と類似する商標を本件商標の指定商品に使用していることによって、引用商標を付した商品及び役務と混同が生じており、また、被請求人が、上記の使用によって引用商標を付した商品及び役務と混同が生じることを知りながら、故意に上記の使用を継続しているから、商標法第51条第1項に規定する商標登録の取消し審判の請求に係る要件を満たす旨主張している。 しかしながら、商標法第51条第1項に規定する要件を満たすためには、商標権者(被請求人)の故意の証明のほかに、使用に係る商標が他人の商標と類似するというだけは足りず、その具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との混同を生じさせるおそれを有するものであることが必要と解される(知的財産高等裁判所 平成20(行ケ)第10347号 平成21年2月24日判決)ことから、(a)本件商標の具体的表示態様が引用商標と類似すること及び、(b)本件商標の具体的表示態様が請求人の業務に係る商品等と混同を生じさせるおそれを有するものであることの2点を証明することが必要であるところ、請求人は、この2点について、詳細な検討を行っておらず、上記2点を証明するには不十分である。 したがって、本件商標は、商標法第51条第1項に規定する取消理由を有しないものであり、その登録は取り消されるべきものではない。 2 取消事由について (1)本件商標が、平成2年6月11日に株式会社山喜本社から被請求人が譲り受けたものであること並びに本件商標の構成態様及びその指定商品が前記第1に記載のとおりであることについては、これを認める。 (2)請求人による「2 取消事由」の(1)について、そのうちの、被請求人が現在においても甲第2号証の3に示す表示態様で「VANMATE」をウェブサイト上で販売している旨の主張は、事実に反する(乙第1号証、乙第3号証の1及び乙第3号証の2)ので、これを否認するが、その他の総合スーパーやウェブサイト上において販売していた旨の主張は認める。 (3)請求人による「2 取消事由」の(2)における主張は、正確ではないので、これを否認する。 すなわち、正確には、乙第2号証に示すように、本件商標「VANMATE」を、「VAN」と「MATE」との間に、各文字の間隔に比して極めてわずかな広がりを有し、「VANMATE」の前半の「A」の文字を赤字に着色し、「VANMATE」の「V」の文字をほかの文字よりも大きく表示し、各文字が全体的に丸みを帯びた書体であり、各文字の線に太い部分と細い部分があるものに変形して使用している(以下、これを総称して「具体的表示態様」という。)。換言すると、元来、各欧文字の間には、ある程度の間隔が設けられているところ、本件商標の具体的表示態様は、上記間隔よりも極めてわずかな広がりが存在しているにすぎず、これによって商標の一体性を損なうものではない。 また、被請求人は、上記具体的表示態様を、本件商標の指定商品中の第25類「ワイシャツ類」のうち、小学生、中学生又は高校生向けの男性用スクールシャツにのみ使用している(乙第3号証の1及び乙第3号証の2)。 (4)請求人による「3 取消原因」については、これを否認する。 3 本件商標の具体的表示態様が引用商標と類似するか否かについて (1)本件商標の具体的表示態様 本件商標は、上述のとおり、アルファベットで一連に黒一色で「VANMATE」と表示したものである(甲第1号証の2)のに対し、被請求人が使用する本件商標の具体的表示態様は、「VAN」と「MATE」との間にわずかな間隔を開け、「VAN」の「A」の文字部分を赤字に着色し、「VAN」の「V」の文字がほかの文字よりも大きく表示され、各文字が全体的に丸みを帯びた書体で、各文字の線に、太い部分と細い部分があるものである(乙第2号証)。なお、被請求人は、現在、店舗販売されていた上記具体的表示態様の商標を付した商品を回収し、また、(甲第2号証の3のように、ウェブサイト上の表示を一部削除できていない箇所もあったが)ウェブ販売における本件商標の具体的表示態様を現在の表示態様(「VAN」と「MATE」の間隔を開けず、黒一色に表示し、「V」の文字の大きさをほかの文字に比べて大きく表示したもの。)に変更し、使用している(乙第1号証、乙第3号証の1及び乙第3号証の2)。 (2)引用商標 引用商標は、以下に述べるとおり、「・JAC・」を必須の要部とするものであるから、これを略称して「VAN/・JAC・」と表示することはあり得ても、「・JAC・」を捨象して、「VAN」とのみ略称するのは、商標の対比に際して誤った印象を与えるおそれがあり、妥当ではない。 ア 引用商標は、「VAN」と「・JAC・」とを単に2段に併記したというものではなく、その特徴が需要者にとって容易に酌み取れる構成からなるものである。 すなわち、引用商標は、乙第4号証に示すように、上段の「VAN」の中央の「A」の文字は、上部を水平に切断した二等辺三角形であり、その下の「・JAC・」は、その左右の「・」が上の「A」の二等辺三角形の左右の各辺を下へ延長した線上に接して配置されている。また、「・JAC・」の中央の「A」は、上の「A」の4分の1の縮尺で、同じ書体で、その「A」の中央真下に配置され、上の「A」と下の「A」とが大小からなる一対のものとして配置されている。このように、引用商標は、その中央に位置する「A」と「・JAC・」とが二等辺三角形を構成し、かつ、上段に黒で表された「V」及び「N」と区別できるように赤色で着色されている。 そうすると、引用商標は、「VAN」と「・JAC・」とを単に2段に併記したというものではなく、赤色で中央に二等辺三角形を構成する「A」と「・JAC・」を中心として、その上部の左右に欧文字「V」と「N」とを配置したものと認識されるものである。 イ 欧文字3文字を併記して商標とすることは、何らの創作力を要するものではなく、このような商標の自他商品識別力は、極めて弱いものである。引用商標の構成中、「VAN」の文字部分は、まさに、欧文字3文字で表記され、その文字を角ゴシック体によるステンシル書体で表示するというありふれた表示にすぎないから、自他商品識別力は弱いものである。引用商標は、当該「VAN」の欧文字に「・JAC・」を併記することにより、自他商品識別力が強化されているものである。 このことは、請求人が角ゴシック体によるステンシル書体で表示された登録第4145251号商標「VAN」(乙第5号証)を保有しているにもかかわらず、「・JAC・」を併記して引用商標として使用しているところにも表れている。 したがって、引用商標は、自他商品識別機能上、「・JAC・」を要部とするものである。 ウ 「・JAC・」が引用商標の重要な構成要素であることは、請求人の意図からも容易に首肯できるところである。 すなわち、請求人の商号は「株式会社ヴァンヂャケット」であるが、「ヴァンヂャケット」と略称しており、これは、欧文字で「VAN JACKET」と表示される。引用商標は、この商号の欧文字9文字中、頭部から6文字を占める「VAN JAC」を商標として2段に表示したものであり、商標を使用する者(請求人)の名称を需要者に認識せしめようとするものにほかならない。請求人の登録商標(乙第5号証)が太いゴシック体の「VAN」であるにもかかわらず、使用に際しては、登録商標の表示態様で使用せず、あえて「VAN」の下に「・JAC・」を表示しているのは、当該商標権者(請求人)の上記の意図に基づくものにほかならない。 さらに、引用商標は、「ヴァンジャック」ないし「バンジャック」と一気一連に称呼されるものである。 エ 請求人は、引用商標の構成中の「・JAC・」部分が小さいことをもって、付記部分ととらえられる旨主張しているが、引用商標と同一の商標について、第35類に属する「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等を指定役務とする商標登録出願(商願2014-66373)は、他人が所有する登録商標「JACK」に類似する旨の認定がされたものの、請求人が意見書の提出や不服審判の提起をしなかったことにより、当該出願についての拒絶査定が確定している。 上記事実は、引用商標の構成中の「・JAC・」部分から、取引上、称呼が生じるものであること、すなわち、当該部分が付記部分でないことを請求人自身が認容したことにほかならない。 オ 上記アないしエのとおり、引用商標は、「・JAC・」を必須の要部とするものであることが明らかである。 よって、引用商標は、中央に二等辺三角形の赤色で位置する「A」と「・JAC・」を中心として、その上部の左右に欧文字「V」と「N」とを配置したものと認識されるものであり、「・JAC・」を捨象して「VAN」と表示することは妥当ではない。 なお、請求人は、引用商標を「引用商標『VAN』」と表記しているが、引用商標「VAN/・JAC・」と表記すべきであり、また、引用商標「VAN/・JAC・」の周知・著名性について、実際に商品に表示されている商標は「VAN/・JAC・」であるので、雑誌の記事等において、便宜上、単に「VAN」と略称されているものを考慮すべきではない。 (3)本件商標の具体的表示態様と引用商標との対比 ア 本件商標の具体的表示態様が「VAN」と「MATE」との間にわずかな間隔を有するものであるとしても、該文字は、全体として同じ書体で軽重の差もなく、まとまりよく表示されているから、取引者・需要者は、本件商標の具体的表示態様を「VAN」と「MATE」とに分断して認識するのではなく、全体として一体のものとして認識する。このことは、乙第11号証(異議2013-900067に係る異議の決定)に徴しても首肯されるところである。本件商標の具体的表示態様における「VAN」と「MATE」との間にある間隔は、半文字にも満たないものであるから、全体として一体のものと認識される。 また、本件商標の具体的表示態様は、「V」の文字がほかの文字と比べて若干大きく表示されており、かつ、各文字の角が丸みを帯びており、各文字の線に太い部分と細い部分があり、線の太さが不均一となっているものであるのに対し、引用商標は、欧文字を2段に書してなるところ、上段の「VAN」は太いゴシック体によるステンシル書体となっており、各文字は同じ大きさで、かつ、各文字の線の太さは均一となっているものであって、その下段の「・JAC・」は、上段の「VAN」と比べ小さく表されているが、「VAN」の「A」の文字部分と同じ赤色で着色されており、かつ、「VAN」の「A」の文字部分と「・JAC・」の「A」の文字部分とは二等辺三角形を形成するように構成されているため(乙第4号証)、「VAN」と「・JAC・」とが一体のものとして認識されるものである。 このように、本件商標の具体的表示態様と引用商標とは、それぞれ上記のとおりの構成からなるので、外観上、明らかに区別し得るものである。 イ 本件商標の具体的表示態様は、その構成に照らし、「ヴァンメイト」ないし「バンメイト」の称呼のみを生じ、請求人が主張するように「ヴァン」ないし「バン」と称呼されるものではない。 他方、引用商標から生ずる称呼は、「ヴァンジャック」ないし「バンジャック」であるから、これと本件商標の具体的表示態様から生ずる称呼とを対比すると、両者は、音の構成及び構成音数が異なり、それぞれを一気一連に称呼する際には、全体の音感、語調が明らかに異なり、容易に区別できる。 ウ 本件商標の具体的表示態様は、その構成に照らし、請求人が主張するような「VANの仲間・相棒・友」といった特定の観念を生じさせるものではなく、造語であるから、何らの観念も生じない。 したがって、本件商標の具体的表示態様からは特定の観念が生じないことから、本件商標の具体的表示態様と引用商標とは、観念上、類似するとはいえない。 エ 上記アないしウのとおりであるから、本件商標の具体的表示態様と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても類似しない非類似の商標といえる。 オ 本件商標の具体的表示態様と引用商標とが非類似であること及び引用商標が「VAN/・JAC・」と認識されることは、上述のとおりであるが、仮に、請求人が主張するように、引用商標が「・JAC・」を省いた「VAN」とのみ認識される場合の両商標の類否について、以下述べる。 本件商標の具体的表示態様は、「VAN」と「MATE」との間にわずかに間隔を設け、「VAN」の「A」の文字を赤色に着色し、「VAN」の「V」の文字がほかの文字よりも大きく表示され、各文字が全体的に丸みを帯びた書体で、各文字の線に太い部分と細い部分があるものを使用していた(乙第2号証参照)。 また、本件商標の具体的表示態様は、「VAN」と「MATE」との間隔がわずかであること等の理由から、「VAN」と「MATE」とを分断して認識するのではなく、全体として一体のものとして認識する一方、引用商標の「VAN」は、太いゴシック体でステンシル書体となっており、各文字は、同じ大きさで、かつ、各文字の線の太さは均一となっている。このような構成からなる商標は、外観が明らかに異なり、また、称呼も「バンメイト」と「バン」とであって、音の構成及び構成音数が異なり、容易に区別できる。 さらに、引用商標の「VAN」は、「前衛、先頭、指導者」や「バン(貨物運搬車)」等の観念が生じ得るとしても、本件商標からは、「VAN」と「MATE」とを一体不可分のものとしてなる造語として、何らの観念を生じない。 したがって、引用商標が「VAN」とのみ認識される場合であっても、本件商標の具体的表示態様と引用商標とは、外観、称呼及び観念において相紛れるおそれはない。 4 本件商標の具体的表示態様が請求人の業務に係る商品等と混同を生じさせるおそれを有するものであるかについて (1)引用商標の周知・著名性 ア 請求人は、旧ヴァンヂャケット社が使用し、権利を引き継いだ現ヴァンヂャケット社(請求人)が現在まで継続して使用している引用商標は、現在においても紳士用の衣服及び服飾洋品雑貨を表示する商標として極めて著名であると主張している。 しかしながら、引用商標に関する証拠のほとんどが、50年から30年程前の資料であり、これらをもって引用商標の現在における周知・著名性を到底証明できるものではなく、よって、これを否認する。 イ 請求人は、甲第4号証(1993年発行)及び甲第5号証(1999年発行)によって、引用商標は、「黒・赤・黒」の配色だけでなく、「白・赤・白」、「青・赤・青」、「緑・赤・緑」等の配色のものも使用されており、それらのカラーリングについても、紳士用の衣服及び服飾洋品雑貨を表示する商標として極めて著名である旨述べている。 しかしながら、甲第4号証及び甲第5号証に掲載されている「白・赤・白」、「青・赤・青」及び「緑・赤・緑」といった配色の商標を付した商品は数点しかなく、これをもって、上記の様々な配色の引用商標が極めて著名であるとは認められない。 また、請求人は、「VAN」の語の「A」の文字部分が赤色に着色された商標が、膨大な数の紳士用の衣服及び服飾洋品雑貨に使用されている旨述べているが、請求人は、引用商標を付した商品の販売量及び売上高に関する証拠を提出していないので、このような請求人の主張は認められない。 さらに、甲第4号証及び甲第5号証は、その発行部数が明らかではなく、また、発行時期も、甲第4号証が1993年、甲第5号証が1999年と古いため、これらの証拠は、上記の様々な着色を含む引用商標が現在において周知・著名であることを証明するものではない。 ウ 甲第6号証は、2001年に発行されたものであるが、その大部分は石津謙介という人物の紹介であり、その影響についても、1960年代の若者に対する記述しかみられない。それどころか、最後の文章には、「1978年、アイビー衰退とともに、残念ながらVANの灯は一時消える・・・。」と書かれている。このことからみても、甲第6号証は、その発行がされた2001年当時又は現在においても、引用商標の周知・著名性を証明するものではない。 エ 甲第7号証の審決において、旧ヴァンヂャケット社は、1974年ないし1976年頃には300億円以上の売上げがあり、その結果、引用商標は、ファッション関係の取引者、需要者の間で著名性を獲得し、1984年3月5日時点においても、請求人の商標として著名であった旨認定されているが、この認定は、甚だ疑問である。 すなわち、1980年発行の甲第8号証の4頁において、「VANの製品を一度も着たことがないとすればそれは相当珍しい。そして又、今だに着ている人がいるとすればそれもかなり珍しい。」、「VANは、アイビーははしかのようなものであった。男の子だけがかかる一種の通過儀礼で、それを越えて洋服に全く関心がなくなるか、・・・。」と書かれている。このように、「アイビーが青春だった」と称する甲第8号証の筆者ですら、1980年の時点において、引用商標のブームが過ぎ去っていることを認めている。 また、甲第8号証の104頁から続く旧ヴァンヂャケット社の年表(「VAN YEARS 1951-1975」)をみても、1974年に年商300億円、1975年に年商452億円に達しているが、1976年には年商330億円にまで減少し、その2年後の1978年に倒産している。このように、最盛期にあった企業(旧ヴァンヂャケット社)がわずかの期間のうちに倒産にまで至っていることからみても、1976年頃にアイビーないし引用商標のブームが去り、引用商標の顧客吸引力が喪失していることを示している。 さらに、仮に、旧ヴァンヂャケット社の時代において、引用商標が周知・著名であったとしても、旧ヴァンヂャケット社の倒産により、引用商標におけるグッドウィルについての顧客吸引力は喪失し、周知・著名ではなくなったと考えるのが通常である。 オ 甲第9号証は、1965年に発行されたものであるが、たとえ、1965年時点で引用商標を付した商品が雑誌で広告され、全国のデパート等の多くの店舗で販売されていたとしても、現在から約50年も前の記事をもって、引用商標が現在において周知・著名であることを裏付けることはできない。 また、甲第10号証は、1990年に発行されたものであって、証拠として古く、また、この前半部分(33頁、53頁、89頁)は、旧ヴァンヂャケット社時代の思い出を語るものであり、後半部分の写真も、引用商標を確認できる写真はほとんどない。すなわち、甲第10号証も、現在はおろか、1990年当時の引用商標の周知・著名性を裏付けるものではない。 さらに、甲第11号証は、1981年に発行されており、現在から30年以上も前の雑誌をもって、引用商標が現在においても周知・著名であることの証明にはならない。そして、その内容のほとんどが、各商品に「1970年のスタジャン」、「12年前頃の製品」等の説明がついており、1981年当時に販売されていた商品を紹介するものではないから、これは、あくまでも旧ヴァンヂャケット社時代の引用商標を付した商品の紹介であり、現ヴァンヂャケット社(請求人)の引用商標が周知・著名であることの証明にはならない。 カ 請求人は、甲第15号証ないし甲第17号証をもって、「VAN」ブランドを宣伝し、また、請求人の商品を専門的に販売するショップが雑誌によって紹介されていたと主張している。 しかしながら、これらの雑誌は、現在から30年以上も前の雑誌の宣伝又は紹介であり、現在の引用商標の周知・著名性を証明するものではない。また、これらの雑誌が、当時、どの程度の発行部数があったのかが一切明らかにされていない。 したがって、上記各雑誌の普及度が不明であることからも、これらの雑誌は、その発行当時の引用商標の周知・著名性を証明するものではない。 キ 請求人は、甲第19号証ないし甲第21号証をもって、少なくとも2000年頃までは、請求人の業務に係る引用商標の付された商品を販売する店舗は日本全国に多数存在し、周知・著名であったと主張している。 しかしながら、甲第21号証の13(第15期 「預り保証金の内訳書」 1995年)において、約1億7,000万に達していた預り保証金が、甲第21号証の18(第20期 「預り保証金の内訳書」 2000年)には約9,300万にまで減少しており、また、甲第21号証の16(「第18期 決算報告書」 平成10年7月31日)において、約34億円に達していた売上高が、甲第21号証の18(「第20期 決算報告書」 平成12年7月31日)では、約14億円にまで減少している。このように、預り保証金及び売上高が数年のうちに著しく減少している。このことは、請求人及び引用商標の顧客吸引力が急激に減少傾向にあることを示しているといえる。 そして、2000年当時の預り保証金及び売上高も、アパレル業界全体の市場規模を鑑みれば、僅少である上、甲第21号証の18(「第20期 決算報告書」)によれば、平成12年7月31日時点で、請求人は、当期利益が「-53,615,767」という赤字になっていることから、2000年(平成12年)当時の引用商標が周知・著名性を有していたとは到底納得できるものではない。 さらに、請求人が提出した証拠には、2000年以後、現在までの預り保証金及び決算報告書の資料がなく、現在から10年以上も前の資料をもって、引用商標の現在の周知・著名性を証明できるものではない。 加えて、第1期(1980年)から第20期(2000年)までの決算報告書及び預り保証金の内訳書は、現ヴァンヂャケット社(請求人)全体の売上げ又は現ヴァンヂャケット社が取引するすべての商品を保証するための預り保証金の内訳書であって、引用商標を付した商品の売上げを示すものではない。本件において問題となっているのは引用商標の周知・著名性であるから、それを証明するためには、現ヴァンヂャケット社が販売する「KENT」等のその他の様々なブランド(乙第6号証)の売上げを除く、引用商標を付した商品の売上げや、引用商標を付した商品の顧客吸引力に期待して特約小売店舗となった業者の数(引用商標に関する使用許諾契約を結んだ業者の数)を証明すべきである。 ク 請求人は、甲第23号証ないし甲第44号証をもって、引用商標を付した商品について、請求人が積極的にカタログや雑誌を用いて宣伝していたことを主張している。 しかしながら、請求人が提出した証拠によると、甲第24号証のカタログが発行された1984年から甲第25号証のカタログが発行された1994年までの10年間、請求人は、引用商標について、自社のカタログを発行しておらず、雑誌の掲載もほとんどない。 すなわち、1984年から1994年の間に雑誌に掲載されたものとしては、甲第4号証、甲第10号証、甲第18号証があるが、甲第4号証は、その発行当時(1993年)の引用商標を付した商品を紹介するものではなく、過去の引用商標を付した商品の紹介や、請求人の有するほかのブランドを紹介する内容となっており、甲第10号証も過去(旧ヴァンヂャケット社時代)を懐かしむインタビューや、主に1980年代の街を歩く人々の写真を掲載するものであり、引用商標を付した商品を身につけている写真はほとんどない。また、当該各雑誌は、その発行部数が明らかになっていないことから、その普及度は不明であり、これらの証拠をもって、引用商標が、1984年から1994年の間、周知・著名であったことを証明できるものではない。 そうすると、仮に、1984年当時(甲第7号証の審決認定当時)に引用商標が周知・著名であったとしても、上述の10年間もの長期間、カタログを発行しておらず、雑誌の掲載もほとんどない(10年間で3件のみ)引用商標が、1994年当時又は現在において、周知・著名であるとは到底考えられない。 また、請求人の提出した証拠によると、1994年以後も、自社カタログを除いて、雑誌等の宣伝広告をほとんど行っていないと推認される。そして、おおむね年2回発行している自社のカタログについても、配布を行った店舗、配布方法、配布部数等が一切明らかにされておらず、その普及度は不明である。 さらに、唯一、引用商標について若干の宣伝の様子が見られる1999年についても、甲第40号証及び甲第42号証については、「VANと昭和の50年史」とあり、旧ヴァンヂャケット社時代の商品を紹介するにとどまっている。 したがって、請求人は、引用商標を付した商品について、積極的にカタログや雑誌等を用いて宣伝していたとはいえないから、引用商標が当時より周知・著名であったとは認められない。 ケ 請求人は、甲第45号証ないし甲第72号証をもって、引用商標の付された商品が、請求人を通じて、2000年以後、現在まで絶えることなく継続的に販売されていると主張している。 しかしながら、商標の周知・著名性を有していることを証明するためには、ただ単に継続して使用していることのみを証明するだけでは不十分である。 すなわち、商標が周知・著名性を有しているか否かは、継続的に使用していることに加え、雑誌の宣伝広告の回数や、引用商標を付した商品の販売量及び売上高等により証明されるべきであるところ、2000年以後、現在に至るまで、普及度の不明な自社のカタログ(又はポストカード)のみによる既存顧客への告知しかしておらず、唯一、2004年に引用商標を付した商品が掲載されているが(甲第50号証)、2000年から現在までの13年間の間に雑誌に掲載された回数は1回と極めて僅少であり、かつ、甲第50号証「街ぐらし」なる雑誌の発行部数も明らかにしていない。 したがって、引用商標が、2000年から現在まで周知・著名性を有しているとは到底認められない。 コ 請求人は、「請求人は現在約35店舗(甲第75号証)に引用商標の被服類を販売しており、その地域は全国的である。」と述べている。 しかしながら、甲第75号証の印刷日は2014年6月12日となっているところ、本件商標の取消しの対象とされている商標の使用は、本件「審判請求書」の日付である平成25年(2013年)11月6日には本件商標を多少変形した使用は既に終了していることから、その日付より後に作成された甲第75号証は、その内容からみて、本件商標を変形使用していた時期における請求人の店舗数をさかのぼって推定できるものではない。 また、請求人は、約35店舗で引用商標の被服を販売している旨主張しているが、甲第75号証では、20店舗のみの写真が掲載されているにすぎず、また、この20店舗中、「KENT SHOP青山」は、写真から引用商標を販売している様子は確認できないため、その名称のとおり、「KENT」ブランドを販売する店舗であると考えられる。 したがって、実際に引用商標の被服を販売している店舗は、19店舗にすぎず、その販売地は、横浜市、京都市、神戸市といった5大都市に含まれる3都市は含まれていないことから、この3都市では販売されていないことが分かる。そして、該19店舗は、47の都道府県中、わずか12の都道府県に存在しているにすぎないから、販売地域が全国的ということはできない。 さらに、大阪市の店舗は、甲第75号証中の第2ページの上段左端に掲載されていることから、その店舗を確認したところ、大阪市の中心地から外れた場所に位置する百貨店の6階の目立たない片隅に存在するにすぎないものであったことから、その他の店舗も、大阪市の店舗と同程度又はそれ以下のものが多く含まれているものと推測される。すなわち、甲第75号証は、店舗が12都道府県に散在していることを示すことにはなり得ても、販売地域が全国的ということはできない。 サ 請求人は、引用商標が周知・著名性を有することについて、新たに甲第76号証ないし甲第78号証を提出し、引用商標を付した商品の売上実績を主張している(2013年8月から2014年4月まで(34期)の売上実績約10.1億円、2012年8月から2013年7月まで(33期)の売上実績約11億円)。 しかし、上記主張及び証拠は、商標法第56条が準用する特許法第131条の2第1項により、「審判請求書」の要旨変更に当たり、認められるべきではない。 すなわち、商標法第51条に規定する出所の混同を生じさせる商標の周知・著名性を立証するにあたって、引用商標を付した商品の売上実績は、重要な判断要素になることから、該売上実績は、直接証拠の追加による商標を取り消す根拠となる事実を新たに主張することになるからである。 仮に、上記主張及び立証が要旨変更に当たらないとしても、甲第76号証ないし甲第78号証をもって、引用商標が周知性のある商標であることの根拠とすることはできない。 すなわち、甲第76号証ないし甲第78号証は、店舗別の売上実績を集計したものであるが、これらの証拠は請求人自らが作成していることから、信憑性が薄く、引用商標を付した被服の売上実績又は周知・著名性を客観的に示す証拠とはいえない。商標を付した商品の売上げを証明する場合、少なくとも、商標を付した各商品を特定できる製造番号等を明記した上で、各商品の値段及び販売数量から売上実績を導くことが必要である。甲第76号証ないし甲第78号証は、上記商品の製造番号、値段及び販売数量等の記載に欠けていることから、引用商標を付した被服の売上実績を示したものではなく、かばん、小物類等の被服以外の商品や引用商標以外のブランドの売上げを含めた店舗全体の売上実績であるととらえることもでき、極めて不明確である。 また、甲第76号証ないし甲第78号証は、税理士や公認会計士等の第三者が検証を行った形跡もないただのデータ上の数字であって、自由に改ざんが可能であるから、引用商標を付した被服の売上実績を示す証拠として採用することはできない。 さらに、甲第76号証ないし甲第78号証における34期(2013年8月ないし2014年4月)の売上実績は、被請求人が本件商標を多少変更して使用していた時期、あるいは、本件審判の請求がなされた日(平成25年11月6日)よりも後の売上実績を示すものであるため、その内容からみて、引用商標の周知・著名性をさかのぼって推定できるものではない。 加えて、引用商標を付した被服の売上実績が被服全体に占めるシェアを示すなどの客観的な証拠がないことから、引用商標が周知・著名であると認めることはできない。 そして、一般に、ファッションに関する商品は、服飾雑貨、履物等を含めて多岐にわたるものであって、これを衣料品に限定してみても、紳士服、婦人服、子供服等、需要者を異にする類型があり、それぞれの類型の中でも、フォーマル、カジュアル、注文生産品、既製品、低価格品、高価格品、低年齢向け、高年齢向け等、様々な商品が存在しており、そこで使用される商標も異なっているのが常態であるから、このような取り扱う商品の内容について示すことなく、「VAN」ブランドに周知性があるとする根拠にはなり得ない。 シ 請求人は、引用商標は旧ヴァンヂャケット社の倒産から現在まで約50年が経っている旨主張する。 しかしながら、正確には、旧ヴァンヂャケット社の倒産(1978年)から請求人が本件審判を請求するまで(2013年)の期間は約35年である。仮に、旧ヴァンヂャケット社の倒産時から約50年経っている場合、請求人が主張する「当時10代から40代の人」は現在60歳代から90歳代の人となるが、請求人は「スクールシャツの購買層は、中学生又は高校生の親であれば40歳代、50歳代の人が多く、ちょうど引用商標の『VAN』ブランド知っている世代である。」とも主張しており、両主張は矛盾する。このような矛盾を含む、あるいは、正確でない請求人の主張は、説得力ある主張とはいえない。 ス 請求人は、「1960年頃から旧ヴァンヂャケット社が倒産するまで、その当時10代から40代の人は、『バン』又は『ヴァン』と聞けば、若者の間で一世を風靡したブランドであることは、十分記憶にあると思われる。」と述べている。 しかしながら、上記主張は、請求人が提出した甲第8号証「VANグラフィティ」の写しの第5枚目に「アイビーが青春だった」のタイトルの元で書かれた文章と矛盾するものであり、これを否認する。 すなわち、甲第8号証においては、「昭和53年4月6日、VANヂャケットは五百億円の負債を抱えて倒産した。VAN倒産、のニュースを聞いて三十歳以上四十五歳以下の男性は全てある種の感慨を持ったに違いない。」(同文章第1行目から第3行目まで)と記載されているから、上記「10代から」の記載は、「30歳以上」とすべきところを殊更に年齢を引き下げたものといわざるを得ない。 また、請求人は、「・・・いったん人々の脳裏に焼き付けられたブランドは、人々の記憶にずっと残っており、忘れることはない」旨述べている。 しかしながら、流行の移り変わりが目まぐるしく変わるファッション業界において、旧ヴァンヂャケット社は、いったん倒産している。この事実は、その時点で当該ブランドに係る商品が陳腐化した結果であり、この倒産から約35年経った現在において、引き続き人々の記憶にずっと残っているとは考えられない。 セ 被請求人において、雑誌「MEN’S CLUB」の過去約2年間分を調べたところ、引用商標が掲載された記事は見当たらず(乙第14号証の1ないし乙第14号証の18)、また、人気ブランドを紹介する記事等においても、引用商標に関する記事は見当たらない。 そうすると、請求人は、自ら「創刊当時から『アイビー』ファッションについて大きく取り上げ、一貫しトラディッショナルなスタイルを掲載し続けている」と主張する雑誌「MEN’S CLUB」に、少なくとも過去約2年間、引用商標を付した商品の宣伝広告等を行っていないのであり、引用商標が周知・著名である旨の請求人の主張には疑問が生じる。 また、乙第15号証の1及び乙第15号証の2に示すように、請求人の引用商標は、日本の有名な商標を集めた「FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN」に掲載されていない。このことから、請求人は、引用商標を積極的に宣伝広告する意図を有していないといえる。 さらに、乙第16号証の1ないし乙第16号証の11に示すように、「ファッションブランドガイド」には、引用商標は掲載されておらず、また、請求人の社名である「株式会社ヴァンヂャケット」ないし「VAN JACKET INC.」も掲載されていない。 加えて、乙第17号証の1ないし乙第17号証の7に示すように、「ファッションブランド年鑑」には、引用商標は掲載されておらず、また、請求人の社名である「株式会社ヴァンヂャケット」ないし「VAN JACKET INC.」も掲載されていない。 したがって、上記したところによっても、請求人の引用商標が周知・著名な商標ではないことが分かる。 ソ 甲第79号証の審決は、平成17年2月23日に審理終結されたものであって、今から10年3月以上前のものである。現ヴァンジャケット社が販売する主要な商品であるジャケット、ブルゾン等のカジュアル被服は、リゾートウェアであって、需要者の嗜好の変化に大きく影響を受ける商品であるから、10年3月以上前の周知・著名性の認定結果は、現状における周知・著名性を認定するに何らの証拠価値を有するものではない。 また、「繊研新聞社の第31回全国メンズアパレルメーカーの業績調査」(乙第20号証)には、「13年度メンズアパレル売上高ランキング」の表示の下に119社が掲載されているが、この中に、請求人は掲載されていない。 タ 以上によれば、引用商標は、周知・著名性を有していないか、あるいは、仮に周知・著名であったとしても、現在までに喪失している。 (2)混同を生じさせるおそれの有無 ア 被請求人は、本件商標の具体的表示態様を小学生、中学生又は高校生用のスクールシャツに付して販売している(乙第3号証の1及び乙第3号証の2)。 他方、請求人は、引用商標を被服に付して販売しているが、その主な需要者層は、旧ヴァンヂャケット社が最盛期であった1960年代に20歳代ないし30歳代であって、現在70歳代後半から80歳代の男性であると推認される(甲第6号証の46頁及び甲第11号証の66頁)。また、請求人自身も「まさにVANと石津は、団塊の世代の若者たちに、『アイビーファッション』を提案し、・・・。」、「まさにVANの作り出したアイビー・ルックは、・・・60年代の若者の文化になった」旨述べていることからも、引用商標を付した商品の需要者層は、1960年代に20歳代ないし30歳代であって、現在70歳代後半から80歳代の男性であると推認される。さらに、請求人は、現在、一般的な若者向け男性ファッション雑誌への宣伝を行っていない(乙第12号証の1ないし乙第12号証の15)ことからも、主な需要者層が現在70歳代後半から80歳代の男性であることが推認される。 このように、本件商標の具体的表示態様を付した商品の需要者層と引用商標を付した商品の需要者層とを対比すると、一方が小学生、中学生又は高校生を対象としているのに対し、他方は主に現在70歳代後半から80歳代の男性を対象としていることから、両者は、需要者層が大きく異なる。 イ 本件商標の具体的表示態様を付した商品(小学生、中学生又は高校生向けの男性用スクールシャツ)と引用商標を付した商品とは、販売ルートが異なる。甲第71号証によると、引用商標を付した商品が販売されている店舗は36存在するが、その多くはブランドを取り扱うファッション専門店で販売されており、また、百貨店における紳士服フロアにおいて販売されており、高価なものばかりである。 しかしながら、本件商標の具体的表示態様を付した商品は、引用商標を付した商品と異なり、1着約1,900円(乙第3号証の1及び乙第3号証の2)と比較的安価であることから、総合スーパー等において販売されている。 このように、本件商標の具体的表示態様を付した商品は安価であるのに対し、引用商標を付した商品は請求人の専門ショップ及び百貨店の紳士服フロア等で販売されていることから高級ファッションに属し、実際に値段も高く設定されているため(乙第13号証)、本件商標の具体的表示態様を付した商品の需要者層(小学生、中学生又は高校生の男性)が気軽に買えるような商品ではない。 したがって、両者は、販売ルートも異なるといえる。 ウ 上記のとおり、本件商標の具体的表示態様は、請求人の業務に係る商品等と混同を生じさせるおそれはない。 5 被請求人の故意について (1)請求人は、甲第2号証の2及び甲第2号証の3をもって、明らかな間隔を空けた欧文字で「VANMATE」の語が表示されていると主張しているが、その間隔は、上述したようにわずかな間隔である。 すなわち、元来、各欧文字間には間隔が存在するところ、「VAN」と「MATE」との間には、上記間隔よりもわずかな広がりを有しているにすぎず、これをもって、商標の一体性が損なわれるものではない。その上、丸みを帯びた同一書体で、かつ、「V」以下の文字を同じ大きさで書してなるから、一体的に認識される。 また、請求人は、片仮名でも「バン メイト」あるいは「ヴァン メイト」と表示されていると主張しているが、これは、片仮名が全角であるためにその間隔が大きく表示されているだけであり、実際の商品に付されている表示は「VANMATE」と欧文字で表示され、全体として一体的に認識されるものである(乙第2号証)。 さらに、請求人は、本件商標の具体的表示態様において、「VANMATE」の「A」を赤く表示したことについても意図的に行っていると主張しているが、これも被請求人が意図的に行ったものではない。 すなわち、商標を表示するに際して、商標登録した書体と使用態様が異なることはごく一般的であり、また、構成文字の中の1文字をほかの文字と異なる色に着色して表示することは広く一般的に行われている(乙第7号証の1ないし乙第7号証の9)。また、構成文字中、欧文字の第2文字をほかの文字と異なる赤色等で着色することも広く一般的に行われている(乙第8号証の1ないし乙第8号証の5)。このように、本件商標の具体的表示態様において、「VANMATE」の「A」を赤く表示したことは、上記のように広く一般的に行われている手法に沿ったものであり、故意に引用商標に似せたものではない。 仮に、引用商標に似せる意図があったとするならば、本件商標の具体的表示態様の書体も、引用商標と同様に太いゴシック書体で切れ字のあるステンシル書体にし、各文字の大きさも同一にするはずであるが、本件商標の具体的表示態様は、上記のとおり、引用商標と大きく異なっていることから、本件商標の具体的表示態様を引用商標に似せるという故意を有しないことは明らかである。 (2)被請求人は、ケントジャパン株式会社から登録商標「MEN’S CLUB」及び登録商標「Mr.VAN」の使用許諾を長年にわたり受けていた(乙第9号証の1ないし乙第9号証の3)。なお、ケントジャパン株式会社は、請求人が所有する登録商標について、その使用許諾契約の締結等の委託を受けている、いわゆる管理会社である(乙第10号証)。 しかしながら、被請求人は、ケントジャパン株式会社から登録商標「MEN’S CLUB」及び登録商標「Mr.VAN」について使用許諾を受けていたが、そのことがなぜ引用商標の価値及び周知・著名性を理解していたことにつながるのか、論理が飛躍しており、理解できない。 また、請求人は、被請求人の故意に関し、「請求人の引用商標を付した商品を長年にわたり、多数掲載している。」と述べている。 しかしながら、請求人の提出した証拠によると、引用商標を付した商品の雑誌「MEN’S CLUB」への掲載は、1982年でいったん途切れ、その後、1998年まで掲載されたという証拠がなく(甲第16号証及び甲第39号証)、現在から10年以上も前の1999年に掲載されたものが最後である(甲第44号証)。 すなわち、引用商標を付した商品の雑誌「MEN’S CLUB」への掲載は、散発的であり、しかも、その掲載時期に大きな開き(1982年から1998年までで約15年、また、1999年から現在までで10年以上の開き)がある。このように、請求人の提出した証拠に鑑みると、雑誌「MEN’S CLUB」において引用商標を付した商品が掲載されたのは、ごくわずかな期間であって、かつ、その期間には開きがあり、さらに、ごくわずかな数しか掲載していない。 したがって、被請求人がケントジャパン株式会社と商標「MEN’S CLUB」に関する使用許諾契約を結んだ時期(2004年当時)に、雑誌「MEN’S CLUB」において、引用商標が周知・著名であったとはいえない。また、このような請求人の提出した証拠から判断して、被請求人が、ケントジャパン株式会社との間で雑誌「MEN’S CLUB」と同名ブランドの登録商標「MEN’S CLUB」の使用許諾契約を結んでいたとして、引用商標の存在及びその周知・著名性を当然知っていたと断言することはできない。 なお、請求人は、被請求人が本件商標を変形使用していた時期に引用商標の存在を知っていた旨主張するが、これについて、被請求人は、不知であり、また、請求人は、「ケントジャパン株式会社が請求人の商標権等の管理会社であることを被請求人は知っており、どのようなブランドを管理しているかを十分認識して取引していたものと思われ、請求人のメインブランドであり、周知・著名な引用商標の存在も当然知っている。」旨主張しているが、被請求人が認識していたのは、商標「MEN’S CLUB」及び「Mr.VAN」を請求人に代わり、株式会社ケントジャパンが管理しているという事実のみであり、それ以外の請求人のブランドや商標については認識していない。 (3)請求人は、甲第2号証の1は、「本件商標の変更使用を見つけた請求人が、被請求人に警告した応答として、被請求人から請求人に送付された書面」であると述べているが、甲第2号証の1の書面は、ケントジャパン株式会社からの口頭による申入れに応答して、被請求人からケントジャパン株式会社に送付した書面であり(甲第2号証の1)、請求人に送付したものではない。 また、請求人は、甲第2号証の1をもって、被請求人が請求人(正確にはケントジャパン株式会社)に対し、本件商標の具体的表示態様を意図的に引用商標に似せたことを認め、謝罪した旨を主張している。 しかしながら、この主張は、被請求人が送付した手紙(甲第2号証)の意図を誤って認識したものである。すなわち、乙第9号証の3に示すように、被請求人は、請求人の商標を管理するケントジャパン株式会社が保有する登録商標「Mr.VAN」の商標について、数年以上にわたって多額の使用料で使用許諾契約を締結してきたところ、2013年5月31日をもって、当該契約を更新しないこととした。この決定は、商標使用許諾契約による収益を見込んでいたケントジャパン株式会社の担当者の思惑から外れることとなった。このような状況下において、被請求人が、登録商標「VANMATE」を変形して使用していることについて、ケントジャパン株式会社が是正を要求してきたという状況といえる。そこで、被請求人の担当者は、商標使用許諾契約の解消で思惑が外れたケントジャパン株式会社の担当者の立場を考慮して、円滑に商標使用許諾契約の解消を推進するために、甲第2号証の1の手紙を出したものである。 上記のような状況から明らかなように、被請求人には、違法な行為はなく、当該手紙において、変更使用に対して謝罪をしたものではない。まして、請求人が主張するように、「引用商標に似せようとして本件商標の変更使用を故意に行った」ということはない。 (4)請求人は、旧ヴァンヂャケット社の倒産時(1978年当時)に10歳代から40歳代であった人は、現在、40歳、50歳代の人が多く、この世代は、ちょうど本件商標を付した商品であるスクールシャツが必要となる中学生、高校生の親世代に当たるため、本件商標と引用商標との間に経済的又は組織的に何らかの関係がある者が製造、販売しているものであると認識し、出所の混同を生じるおそれがある旨主張する。 しかしながら、上述したとおり、請求人の提出した甲第8号証によれば、旧ヴァンヂャケット社の倒産時(1978年当時)に引用商標の存在を知っていたのは、30歳以上45歳以下の男性であって、当時から約35年経過した現在においては65歳以上80歳以下の男性である。1960年代に一時期流行したにすぎない引用商標を流行から約50年経過した現在においてまで記憶しているとは思えないが、仮に記憶していたとしても、現在65歳から80歳という年齢は、請求人のいう「中学生、高校生の親」の年齢としては高すぎ、むしろ、65歳から80歳という年齢は、「中学生、高校生の祖父母」の年齢に当たると考えられる。請求人も「これら中学生又は高校生自らスクールシャツを購買することは少なく、通常はこれらの親が購入するものである。」旨述べているとおり、祖父母が孫にスクールシャツを購買することは、通常、考えられない。まして、引用商標を付した被服の需要者は、上述のとおり、女性ではなく男性であって、子供のスクールシャツ等の制服は、女性である母親が購買するのが一般的であるから、65歳から80歳までの男性と中学生、高校生の母親とでは、需要者層が明確に異なる。 したがって、本件商標の具体的表示態様を付したスクールシャツと引用商標を付した被服は、その購買層が明らかに異なり、かつ、販売ルートも異なることから、出所混同を生じることはない。 6 権利の濫用について 引用商標は、黒色のみの「VAN」の文字からなる登録第4145251号商標(乙第21号証)の「A」の文字部分を赤く着色したにすぎないものであるところ、登録第4145251号商標は、本件商標の前半部分と同一の構成からなり、本件商標の登録(昭和45年(1970年)8月19日)より25年11月後(平成8年(1996年)7月15日)に出願され、27年9月後(平成10年(1998年)5月15日)に登録されたものである。 すなわち、引用商標は、本件商標の後の日の出願・登録に係る商標(登録第4145251号商標)を変更して使用しているものといえ、かつ、上記3(2)エのとおり、他人の登録商標と類似するものとして拒絶査定されていることからすれば、請求人が「被服」について引用商標を使用することは、商標法第37条第1号に該当するといえるから、請求人は、現在、故意に他人の商標権の侵害を継続していることになる。 上記のように、他人の商標権を故意に侵害している商標の使用に基づいて、先願・先登録に係る被請求人の商標登録を取り消し、請求人が使用する商標の権益を確保しようとすることは、商標の取引秩序を混乱に陥れるものであり、商標法第51条の目的、ひいては同法の立法目的に反するところであるから、権利の濫用として、本件審判の請求は、却下されてしかるべきである。 7 請求人の主張に係る損害賠償請求訴訟(平成26年(ワ)第20608号)について (1)請求人は、平成27年8月6日付け上申書(以下「上申書」)において、損害賠償請求訴訟(平成26年(ワ)第20608号)において和解が成立した旨述べている。 当該和解は、企業としての経済的観点から係争を早期に収束させるためのものであって、一般公衆の利益を害するような登録商標の使用をした場合に制裁を課す趣旨で規定された商標法第51条とは関係がない。 本件審判において、商標法第51条を適用するに当たっては、上記和解の文言にとらわれることなく、本条で規定されている要件が充足されているか否かについて厳格に判断されなければならない。なかんずく、商標法第51条における「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというためには、使用商標と他人の商標の同一性又は類似性及び使用商品・役務の類似性をいうだけでは足りず、登録商標又はその類似商標の具体的な使用態様において、他人の商標との商標自体の同一性又は類似性及び指定商品・役務自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて、社会通念上、登録商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様、すなわち、不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により、客観的に、他人の業務に係る商品・業務と具体的な混同のおそれを生じさせるものをしたことを要するものであり、被請求人の行為がこれに該当しないことは明らかである。 (2)請求人は、上申書において、「原告が専用使用権を有する別紙商標目録記載の登録商標は登録第1979446号を指し、その商標の態様は、本件の引用商標と全く同じものであるが、ワイシャツは指定商品に含まれていないことから、原告は、不正競争防止法第2条第1項第1号で損害賠償請求をしたものである。」旨述べている。 しかし、上記の記述は、請求人が引用商標と全く同じ商標「VAN/・JAC・」を登録出願したにもかかわらず、他人の登録商標と類似し、商標登録できない立場にあるという事実を殊更に伏せたものである。すなわち、本件の引用商標と全く同じ態様の商標「VAN/・JAC・」についての出願は、請求人が上記損害賠償の「訴状」の提出(平成26年8月8日提出)に先立って、平成26年7月24日に、第35類「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等を指定役務として商標登録出願し、他人の先願・先登録に係る登録第4270612号商標及び同第5138984号商標に類似するものと認定され、商標法第4条第1項第11号に該当することを理由として拒絶されている(乙第19号証参照)。 したがって、上記の記述に係る実情は、他人の登録商標と類似するため登録できないというものである。 なお、請求人による引用商標の使用が他人の商標権の侵害状態にあり、この状況を知悉した上で行った本件審判請求が権利の濫用に該当することは、既に述べたとおりである。 (3)請求人は、「和解金は、損害賠償に相当するものと思われる。」旨述べている。 しかし、上記のとおり、和解は、企業としての経済的観点から係争を早期に収束させるためのものであって、和解金は、損害賠償に相当するものではない。 当該損害賠償請求事件においては、原告は、被告に対して、1,800万円の支払いを請求したが、320万円で和解に至った。このように金額が大きく減少した事実は、請求人の上記主張とは逆に、損害賠償請求事件における原告が、損害賠償請求は成立しないことを認識したことを推測させるものといえる。 (4)請求人は、上申書において、「上記した状況を鑑みると、被請求人が、引用商標の周知性を認めたものであり、上記和解条項の1の行為は、故意に登録第5667913号商標の態様を変形して引用商標に類似させたものであるといえる。」旨述べている。 しかし、損害賠償請求事件における和解は、引用商標の周知性を認めたものではないことはもちろん、上記請求人の主張に結びつくものは全くない。 8 まとめ 以上のとおり、引用商標は、現在において周知・著名であるとはいえず、また、本件商標の具体的表示態様と引用商標とは,その外観、称呼及び観念のいずれの点においても異なる非類似の商標であり、さらに、本件商標の具体的表示態様を付した商品と引用商標を付した商品とは、需要者層及び販売ルートを異にするものであるから、スクールシャツに付された本件商標の具体的表示態様を見た場合、引用商標に係る請求人と何らかの関係がある商品であると誤認するおそれはない。 加えて、請求人の主張するように、被請求人において、本件商標の具体的表示態様を意図的に引用商標に似せたという事実はなく、故意はない。 したがって、本件審判の請求は、商標法第51条第1項に規定する要件を満たしていない。 第5 当審の判断 1 商標法第51条第1項は、「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定する。 そこで、請求人が指摘する被請求人による本件使用商標の使用行為が上記規定に該当するものであるか否かについて、以下検討する。 2 本件商標と本件使用商標との類似性について 本件商標は、前記第1のとおり、「VANMATE」の欧文字をゴシック体により横書きしてなるものであるところ、該欧文字は、「バンメイト」の称呼を生じるものであって、特定の観念を生じることのない造語からなるものと判断される。 他方、本件使用商標は、前記第2に記載した態様からなるものである(甲第2号証の2及び甲第2号証の3並びに乙第2号証)ところ、本件使用商標のうち、前記第2の1及び別掲1に示した各使用商標(以下、「当審の判断」において、「被請求人使用商標」という。)は、「VAN」の欧文字(「V」の欧文字部分は、他の欧文字に比して、やや大きく表されている。以下同じ。)と「MATE」の欧文字との間に間隔があることが確認できるものであり、かつ、該「VAN」の欧文字を構成する「A」の欧文字部分を赤色で表してなるものであって、本件商標と同様に、「バンメイト」の称呼を生じ、特定の観念を生じることのない造語からなるものと判断される。 そうすると、本件商標と被請求人使用商標とは、同一のものとはいえず、商標法第51条の趣旨に鑑みれば、両者を実質的に同一とみることもできない。 そして、本件商標と被請求人使用商標とは、観念上の類似性は認められないとしても、その称呼を同一にし、かつ、外観においても類似するものといえるから、これらを総合勘案すれば、両者は、類似するものとみるのが相当である。 してみれば、被請求人使用商標は、本件商標に類似する商標といえる。 3 請求人の業務に係る商品との混同について 請求人及び被請求人の主張並びに両当事者の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。 (1)被請求人使用商標の使用 被請求人使用商標は、少なくとも2007年(平成19年)から2013年(平成25年)までの間、被請求人の製造、販売に係る「スクールシャツ」について、その襟元の織ネーム上に表されていた(甲第2号証の2及び3)。 (2)引用商標の使用及び周知著名性について ア 旧ヴァンヂャケット社は、1951年(昭和26年)に大阪で創立された。その後、同社は、1950年代半ばに、東京へ進出するとともに、客層のターゲットを若者へシフトし、1950年代末頃から「アイビー」ファッションを展開し始め、1970年代中頃までの間、様々な販促キャンペーンを実施した(甲第4号証、甲第8号証)。 旧ヴァンヂャケット社の年商は、1972年(昭和47年)に126億円であったものが、最盛期の1975年(昭和50年)に452億円となり、その前後の年にも300億円以上となっていた(甲第8号証)。 イ 旧ヴァンヂャケット社は、1978年(昭和53年)に倒産した(甲第6号証、甲第8号証、甲第11号証、甲第12号証、甲第23号証、甲第50号証)が、1980年(昭和55年)に現ヴァンヂャケット社(請求人)が設立され(甲第13号証)、旧ヴァンヂャケット社が保有していた知的財産権のすべてを譲り受けた(甲第14号証の1ないし3)。 ウ 旧ヴァンヂャケット社及び現ヴァンヂャケット社(請求人)は、いずれも自己の商品(例えば、「シャツ」、「トレーナー」、「Tシャツ」、「ジャケット」、「セーター」、「コート」等)及びその広告において、少なくとも2013年(平成25年)10月までの間(ただし、旧ヴァンヂャケット社の倒産から現ヴァンヂャケット社(請求人)の設立までの間を除く。)、専ら引用商標ないしそれに類する標章(「VAN」の欧文字について、「A」の欧文字部分を赤色で表す一方、「V」と「N」の欧文字部分を赤色以外の同色で表してなるもの。)を継続的に使用していたと推認される(甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証ないし甲第11号証、甲第18号証、甲第23号証ないし甲第25号証、甲第27号証ないし甲第72号証、甲第75号証)。 エ 旧ヴァンヂャケット社及び現ヴァンヂャケット社(請求人)は、以下のとおり、その歴史や商品を含め、度々、ファッションに関する雑誌等に採り上げられた。 (ア)「VANグラフィティ アイビーが青春だった」(1980年(昭和55年)11月10日発行)。 「昭和53年4月6日、VANヂャケットは五百億の負債を抱えて倒産した。VAN倒産、のニュースをきいて三十歳以上四十五歳以下の男性は全て或る種の感慨を持ったに違いない。・・・アメリカ風のバタ臭いキャンパスファッションをVANが持ち込んだのは昭和30年代後半である。以来二十年、VANの名前は学生の集まる場所に必ず現れることになる。」の記載がある(甲第8号証)。 (イ)「別冊MEN’S CLUB アイビー PART-1 ブランド・カタログ」(1981年(昭和56年)6月25日発行)。 「VAN & Kent」の見出しの下、「アイビーが日本に上陸して以来、日本のアイビーを育て続けてきたヴァン、そして、日本のトラッドの先駆ともいえるケント。この2つの偉大なブランドは、アイビーを語る時は、絶対に欠かすことができない。すくなくとも60年代にはアイビー=ヴァンという時代があったのだから。あのセンセーショナルな倒産劇は、多くのアイビー派に一大ショックを与えたが、やはりヴァン・スピリットは不滅。昨年のケントに続いて今シーズンはヴァンも復活を遂げた。」の記載がある。 また、仙台の「ヴァンショップ」(’79年12月オープン)、東京の「ヴァンショップ」(’81年3月オープン、商品は全てVAN)、名古屋の「ヴァンショップ」(商品はVANとKENTがほぼ半分)の記載がある(甲第15号証)。 (ウ)「Hot・Dog PRESS ホットドッグ・プレス 1981.8.10号」(1981年(昭和56年)8月10日発行)。 表紙に、「ぼくたちのアイビーの原点 いまこそVAN精神を学びたい!」の記載があるほか、「78年4月6日。VANがなんと500億円の負債を抱えて倒産した日である。『そうか、もう、あの見慣れた“VAN”の三つ文字を見ることもなくなってしまうのか』-。当時、昭和20?30年生まれの男たちは程度の違いこそあれ、こんなある種の感慨をもってVANの倒産劇を眺めていたはずだ。・・・79年1月には・・・PXが開店し、在庫処分というスタイルでVANの商品を売り始めたのだ。・・・ご存じのとおり、遂にヴァン・ヂャケットも再建された(登記上は80年12月3日)。」の記載がある。 また、引用商標ないしそれに類する標章(「VAN」の欧文字について、「A」の欧文字部分を赤色で表す一方、「V」と「N」の欧文字部分を赤色以外の同色で表してなるもの。)が表示された様々な商品(ノベルティ・グッズを含む。)の写真等が掲載されている(甲第11号証)。 (エ)「別冊 Hot・Dog PRESS FASHION SPECIAL 石津謙介のNEW IVY BOOK」(1983年(昭和58年)10月10日発行)。 「SHIRTS CATALOG まずボタン・ダウンがレッスン1。」の見出しの下、引用商標に類する標章(「VAN」の欧文字について、「A」の欧文字部分を赤色で表す一方、「V」と「N」の欧文字部分を白色で表してなるもの。)が表示された織ネームが付された「ボタン・ダウン・シャツ」の写真が掲載されているほか、「アイビー進化論」と題する記事中に、「1959年(昭和34年)、VANヂャケットから待ちに待ったアイビー・シャツが石津謙介社長のデザインで発表された。これが4?5年後には、“みゆき族”の制服になって大流行する・・・」、「VANヂャケットの昭和40年(1965年)『TAKE IVY』のキャンペーンは、その規模といい、その内容といい、日本のアイビー史上、エポック・メイキングな出来事ではなかったろうか。」、「1978年(昭和53年)4月6日、VANヂャケットは、負債総額500億円をかかえて倒産した。・・・これはまったくショックだったが、皮肉なことに、この頃から1980年にかけて、また50年代後半から60年代前半にかけてのようなアイビー・ブームが起こったのである。」の記載がある(甲第23号証)。 (オ)「MEN’S CLUB BOOKS SUPER EDITION シティボーイ・グラフィティ」(1990年(平成2年)4月5日発行)。 「プレッピーの登場 アメリカ東部の学生のバンカラを都会的にソフィスティケートしたプレッピーもやはりアイビーの精神だった」の見出しの下、街頭で撮影した若者の写真が掲載されており、そのうちの「’82年5月号(名古屋)」には、「VANのスタジャン」を着た若者、「’86年10月号(長野)」には、「VANのトート・バッグ」を持った若者、「’87年10月号(大阪)」には、「VANの袋」を持った若者が、それぞれ写っている。 また、「プレッピー」の説明文において、「キャンバス製トート・バッグがプレッピー風。それもVANのロゴ入りが、なぜか受けていた。」の記載とともに、「VANのトート・バッグ」を持った若者のイラストが掲載されている(甲第10号証)。 (カ)「MEN’S CLUB BOOKS SUPER EDITION 男の定番事典 STANDARD NUMBER 服飾品」(1990年(平成2年)6月1日 第2版発行)。 「1950年代末期に、アイビーという言葉を日本にもたらし、当時アメリカで大流行のアイビールックを具体的に商品として紹介してくれたのがVANである。それは単にアイビーの先駆者としてだけでなく、現在のDCへと続く日本のメンズ・ファッションの土台そのものを築き上げたブランドの登場だった。・・・VAN=アイビーという図式は、数々のベストセラー・アイテムによって確立された。中でもボタンダウン・シャツと、尾錠つきのコットン・パンツは、日本のファッション史に永遠に残るハイパー・アイテムだろう。」の記載、「1958年、マクレガー社のドリズラー・モデルのジャンパーを手本にしてつくられたのがこのスイング・トップ。『スイングしやすい上着(トップ)』が命名の由来で、これはVANがつくった和製英語だ。」の記載、「トレーナーとは、VANヂャケットお得意の“こじつけ英語”である。・・・スエット・シャツが正しい呼び名」の記載、「プルオーバー・シャツを日本に紹介し、定着させたのは、VANヂャケットの功績。」の記載がある(甲第18号証)。 (キ)「VANヂャケット博物館」(1993年(平成5年)7月30日発行)。 「VAN/・JAC・」がヴァンヂャケットのメインブランドであること、1950年代後半から爆発的なムーブメントを巻き起こしたことのほか、「VAN」について、バックが白のときは黒・赤・黒、逆に黒地のときは白・赤・白のカラーリングとなること、「Mr.Van」がVANヂャケットのヨーロッパ・ファッション開発ブランドであること、などの記載がある(甲第4号証)。 (ク)「戦後のライフスタイル革命史-永遠のIVY展」(日本経済新聞社主催、アメリカ大使館・(社)日本メンズファッション協会及びテレビ東京後援。東京・松屋銀座(4月26日?5月8日)、横浜・そごう(9月12日?9月24日)で開催。)のパンフレット(1995年(平成7年))。 「VAN、Kentの新しい波 現代に息づくアイビー精神」と題する記事が掲載されている(甲第26号証)。 (ケ)「Goods Press(グッズプレス)」(1999年(平成11年)5月10日発行)。 集中新連載の「若者文化をリードし、時代を駆け抜けるカリスマ・ブランドの物語 VANと昭和の50年史」の「第1回 VANとボタンダウンとアメリカ発見-1964-」の記事中に、「3つボタンスーツ、ボタンダウンシャツ、レジメンタル・タイ、ブレザー、ダッフルコートと時代を象徴する製品を創出したヴァンヂャケットは、日本のアイビー全盛期をリードした。その活動は単に若者のドレスコードとなっただけでなく、音楽、スポーツ遊びと文化全般への影響力をも与えた。日本の近代史上、この希有の存在を以降7回にわたりフィクションとノン・フィクションの2部構成で連載、VANと昭和の時代を検証する。」の記載がある(甲第40号証)。 (コ)「オールドボーイスペシャル 永遠のVAN エイムック138」(1999年(平成11年)5月20日発行)。 表紙に、「1960年代から70年代にかけて、若い男たちのハートを掴み、単にファッションにとどまらず、カルチャーにまでなってしまったVAN。そのアイテムは今尚新鮮で、永遠の輝きを放っている。」の記載があるほか、織ネーム等に引用商標ないしそれに類する標章(「VAN」の欧文字について、「A」の欧文字部分を赤色で表す一方、「V」と「N」の欧文字部分を赤色以外の同色で表してなるもの。)が表示されたタンクトップ、ラガーシャツ、ジャケット、セーター、ティーシャツ等の写真が掲載されている(甲第5号証)。 (サ)「Goods Press(グッズプレス)」(1999年(平成11年)7月10日発行)。 集中新連載の「若者文化をリードし、時代を駆け抜けるカリスマ・ブランドの物語 VANと昭和の50年史」の「第3回 VANとトレーナーとやつらのスポーツ-1967-」の記事中に、「1960年代後半のキャンペーン時代には、Tシャツやトレーナーなど時代の象徴ともいえる商品を創出し、日本の若者のファッションシーンに多大な影響を及ぼした。」の記載がある(甲第42号証)。 (シ)「ファッション・ブランド・ベスト101」(2001年(平成13年)11月25日発行)。 「VAN ヴァン・ヂャケット:1951-78,1981-(JAPAN)」の見出しの下、「団塊の世代の若者たちに『アイビー・ファッション』を提案し、アメリカン感覚の新しいライフスタイルを作り上げた。六〇年代を若者として生きた男性にとって、VANは懐かしい青春の思い出である。・・・一九六四年、・・・アイビー・ファッションは全国的にブームを引き起こす。VANが提案した三つボタンのスリムなスーツ、ボタンダウン・シャツ、アイビー・セーター、アイビー・タイ、スリムなコットン・スラックスなどは、若者たちの『風俗』そのものとなる。・・・VANの作り出したアイビー・ルックは、若者たちのシンボルになって、日本の津々浦々まで広がり、六〇年代の若者の文化になった。・・・一九七八年、アイビー衰退とともに、残念ながらVANの灯は一時消えるが、一九八一年アメリカン・トラッドのアパレルとして、再び復活した。」の記載がある(甲第6号証)。 (ス)「季刊紙 街ぐらし vol.16 冬号」(2004年(平成16年)1月1日発行)。 「VAN TIMES VANという名の時代 SINCE 1951 → 2003」と題する記事中に、「VANがアイビーをテーマにはじめての全国キャンペーンを打ちだしたのが、1965年の『TAKE IVY』。・・・VANはこのキャンペーンにより、アイビーを柱に日本にファッションを植えつけた先駆者となり、その肩書きは今もって語りつがれている。」、「VANが日本に定着させたスタイル」として、「トラッド」、「オーセンチック」、「カジュアル」及び「フライデーカジュアル」の記載があり、また、「石津謙介が生んだことば」として、「T.P.O.」、「Tシャツ」、「スイングトップ」、「トレーナー」、「ホンコンシャツ」及び「スケボー」の記載がある(甲第50号証)。 (セ)「朝日新聞」(2012年(平成24年)12月1日発行)。 「思い出のファッションブランド」と題する記事であって、「朝日新聞デジタル」のウェブサイトで2014年(平成26年)11月に実施したアンケート(編集部で選んだ約90のファッションブランドの中から、『思い入れの深いもの』を複数回答可として選出。回答者1,466人)の結果として、「VAN」が2位(328票)となった旨の記載がある。また、「2位は日本男児をファッションに目覚めさせたと言われる『VAN』。60年代から70年代にかけて青春を送った世代に、特別な思いが残されていた。『ロゴの入った紙袋を手に歩くだけで幸福感に満たされた』(神奈川、60歳男性)、『着られなくなったヘリンボーンのスーツを今でも大切にしている。妻には処分を再三迫られているが!』(兵庫、65歳男性)」といった記載がある(甲第81号証)。 オ 現ヴァンヂャケット社(請求人)の売上高は、第1期(昭和55年12月3日?同56年11月30日)が約2億6,900万円、第4期(昭和58年8月1日?同59年7月31日)が約11億6,300万円、第6期(昭和60年8月1日?同61年7月31日)が約20億9,500万円、第10期(平成元年8月1日?同2年7月31日)が約30億1,000万円、第12期(平成3年8月1日?同4年7月31日)が約35億6,7000万円と増加し、その後、第13期から第19期まで(平成4年8月1日?平成11年7月31日)の間は、約25億円ないし約34億円で推移し、第20期(平成11年8月1日?同12年7月31日)が約14億1,000万円となった(甲第21号証の1ないし18、甲第22号証)。 また、近時の第33期(平成24年8月?平成25年7月)の売上高(小売ベース)は、約11億1,000万円、第34期(平成25年8月?平成26年7月)は、約10億1,000万円である(甲第76号証の1ないし甲第78号証)。 カ 現ヴァンヂャケット社(請求人)は、ファッションに関する雑誌に広告を掲載した(甲第17号証、甲第32号証、甲第39号証、甲第41号証、甲第44号証)ほか、1994年(平成6年)から2013年(平成25年)までの間、おおむね年2回(春夏及び秋冬)、カタログや広告用ポストカードを作成した(甲第25号証、甲第27号証ないし甲第31号証、甲第33号証ないし甲第38号証、甲第43号証、甲第45号証ないし甲第49号証、甲第51号証ないし甲第70号証)。 キ 現ヴァンヂャケット社(請求人)は、自己の業務に係る商品の紹介、販売等のために、ウェブサイトを開設している(甲第71号証、甲第75号証)。 また、上記ウェブサイト中にある「SHOP LIST」には、2013年(平成25年)10月31日時点で、37店(東京本社のほか、北海道(4店)、東北(2店)、関東(8店)、甲信越(5店)、北陸・東海(7店)、近畿・中国(4店)、四国・九州(6店))、2014年(平成26年)6月12日時点で、30店(北海道(3店)、東北(1店)、関東(7店)、甲信越(2店)、北陸・東海(8店)、近畿・中国(3店)、四国・九州(6店))が挙げられている。 ク 上記アないしキにおいて認定した事実によれば、旧ヴァンヂャケット社ないし同社の業務に係る商品及び引用商標に係るブランドは、「VAN」又は「ヴァン」などと称され、1960年代から1970年代にかけて、若者を中心として、全国的に絶大な支持を得ていたということができる。 また、旧ヴァンヂャケット社は、1978年(昭和53年)12月に倒産し、1980年(昭和55年)に現ヴァンヂャケット社(請求人)が設立されたところ、両社は、いずれも「シャツ」、「トレーナー」、「Tシャツ」、「ジャケット」、「セーター」、「コート」等の自己の商品及びその広告において、少なくとも2013年(平成25年)10月までの間(ただし、旧ヴァンヂャケット社の倒産から現ヴァンヂャケット社(請求人)の設立までの間を除く。)、専ら引用商標ないしそれに類する標章(「VAN」の欧文字について、「A」の欧文字部分を赤色で表す一方、「V」と「N」の欧文字部分を赤色以外の同色で表してなるもの。)を継続的に使用していたといえる。 そして、現ヴァンヂャケット社(請求人)の業務に係る商品及び引用商標に係るブランドは、旧ヴァンヂャケット社の時と同様、「VAN」又は「ヴァン」などと称され、旧ヴァンヂャケット社の時と比べれば、その販売規模や売上げ等は減少しているものの、ファッションに興味ある者を含め、一般の取引者、需要者の間において、一定程度の周知性を有するものと認識されており、そのような認識は、被請求人使用商標が使用されていた時期(2007年(平成19年)から2013年(平成25年)6月まで)においても同様であったとみるのが相当である。 (3)被請求人使用商標と引用商標との対比 ア 被請求人使用商標は、前記第2の1及び別掲1に示したとおり、「VAN」の欧文字と「MATE」の欧文字とを視認し得る程度の間隙をもって組み合わせてなるものであり、該「VAN」の欧文字を構成する「A」の欧文字部分を赤色で表す一方、その他の「V」及び「N」並びに「MATE」の各欧文字は、黒色又は紺色で表してなるものである。 そして、被請求人使用商標は、被請求人の業務に係る商品「スクールシャツ」について、その襟元の織ネーム上に表されていたものである。 他方、引用商標は、別掲2に示したとおり、「VAN」の欧文字の下方に、該欧文字に比して極めて小さく表された「・JAC・」の欧文字を配してなるものであって、その構成中の「VAN」の欧文字部分については、「A」の欧文字部分が赤色で表される一方、「V」及び「N」の欧文字部分は黒色で表されており、また、「・JAC・」の欧文字部分については、赤色で表されているものであるところ、その構成態様に照らせば、視覚上、顕著に表された「VAN」の欧文字部分が強く支配的な印象を与えるものといえる。 そして、引用商標は、旧ヴァンヂャケット社の時はもとより、現ヴァンヂャケット社(請求人)の時においても、その業務に係る様々な商品について使用されているところ、例えば、「シャツ」については、その襟元の織ネーム上に引用商標が表されており、織ネームの地色が白色であるときは、「VAN」の欧文字の「A」の欧文字部分が赤色、「V」及び「N」の欧文字部分が黒色で表されている(なお、織ネームの地色が白色以外であるときは、「VAN」の欧文字の「A」の欧文字部分を赤色で表す一方、「V」と「N」の欧文字部分を赤色以外の同色で表している。)(甲第4号証、甲第24号証、甲第25号証、甲第34号証ないし甲第38号証、甲第40号証、甲第43号証、甲第49号証ないし甲第51号証、甲第53号証、甲第55号証ないし甲第70号証)。 そうすると、「スクールシャツ」に使用された被請求人使用商標と「シャツ」に使用された引用商標とは、いずれも襟元の織ネームという小さな箇所に表示されたものであって、「VAN」の欧文字について共通するものであり、かつ、該「VAN」の欧文字を構成する「A」の欧文字部分を赤色で表す一方、「V」と「N」の各欧文字を黒色その他赤色以外の同色で表すといった特徴をも共通するものである上、引用商標が、上記(2)のとおり、被請求人使用商標が使用されていた時期に、取引者、需要者間において一定程度の周知性を有していたことをも併せ考慮すると、両商標の類似性は、その具体的使用態様において、互いに紛れるおそれがあるほどに高いというべきである。 イ 被請求人使用商標の使用に係る商品は「スクールシャツ」である一方、引用商標の使用に係る商品は「シャツ」であるところ、前者は、主に中学生や高校生向けの商品であるものの、その購入者は、通常、中学生や高校生の親が多いと考えられることから、後者の購入者と共通するといえるし、また、旧ヴァンヂャケット社ないし現ヴァンヂャケット社の業務に係る様々な商品について引用商標が使用されていることをよく知る者と重なる場合も少なからずあるといえる。そして、「スクールシャツ」と「シャツ」とは、その生産及び販売部門が一致し得るものである。 (4)小括 上記(1)ないし(3)によれば、被請求人使用商標に接する取引者、需要者は、引用商標又は現ヴァンヂャケット社(請求人)を連想、想起し、その使用に係る商品が現ヴァンヂャケット社(請求人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとみるのが相当である。 してみれば、被請求人が、2007年(平成19年)から2013年(平成25年)6月までの間、被請求人使用商標を商品「スクールシャツ」について使用した行為は、他人(請求人)の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたことに該当する。 4 故意について 被請求人は、1948年(昭和23年)6月11日に設立とされているものの、実際には、1946年(昭和21年)以来、シャツを中心に製造、販売している会社である(当事者間に争いがない)。 また、被請求人は、自己のホームページ上に、取扱商品の主要ブランド(例えば、「LANVIN COLLECTION」、「REGAL」、「renoma paris」等)を掲載している(甲第73号証)ところ、請求人の商標等の管理会社とされる「ケントジャパン株式会社」から「MEN’S CLUB」及び「Mr.Van」の各登録商標の使用許諾を受けていた(乙第9号証の1ないし3)。 そうすると、被請求人は、請求人と同業者であり、旧ヴァンヂャケット社及び現ヴァンヂャケット社(請求人)の業務に係る商品ないし引用商標に係るブランドの周知性についても、当初から少なくとも被請求人使用商標を商品「スクールシャツ」について使用した時期に至るまでの間、十分に知っていたというべきであるし、また、他人の商標の使用許諾の必要性等を認識していることに鑑みれば、商標制度についても精通しているとみるのが相当である。 してみれば、被請求人は、被請求人使用商標を商品「スクールシャツ」について使用する行為が、指定商品についての本件商標に類似する商標の使用であって、他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをすることに該当し得ることを容易に予想できたというべきである。 したがって、被請求人が被請求人使用商標を商品「スクールシャツ」について使用した行為は、被請求人の故意によりなされたものである。 5 被請求人の主張について (1)被請求人は、被請求人使用商標と引用商標とを対比した場合、両商標は、いずれも一体のものとして認識されるものであるから、非類似の商標であるし、仮に、引用商標の構成中の「VAN」の文字部分を抽出してみたとしても、被請求人使用商標が一体のものとして認識される以上、両商標は非類似の商標である旨主張する。 しかしながら、被請求人使用商標と引用商標とは、上記3(3)において述べたとおり、それぞれの商標の構成及び使用の態様並びに引用商標の周知性を総合勘案すると、互いに紛れるおそれがあるほどに類似性が高いというべきものであるから、この点についての上記主張は、採用することができない。 (2)被請求人は、引用商標について、周知・著名性を有していないか又は、仮に、周知・著名であったとしても、現在までに喪失している旨主張する。 しかしながら、請求人の主張及びその提出に係る甲各号証を総合勘案すると、引用商標は、上記3(2)において述べたとおり、被請求人使用商標が使用されていた時期(2007年(平成19年)から2013年(平成25年)6月まで)においてもなお、ファッションに興味ある者を含め、一般の取引者、需要者の間において、一定程度の周知性を有するものと認識されていたといえるから、この点についての上記主張は、採用することができない。 (3)被請求人は、被請求人使用商標を商品「スクールシャツ」について使用したことにつき、故意はなかった旨主張する。 しかしながら、上記4において述べたとおり、被請求人の業種や取扱商品の実情並びに他人の商標の使用許諾に係る状況に総合勘案すれば、被請求人による被請求人使用商標の使用については故意があったといえるから、この点についての上記主張は、採用することができない。 (4)被請求人は、請求人による甲第76号証ないし甲第78号証に係る主張及び立証は商標法第56条第1項において準用する特許法第131条の2第1項により「審判請求書」の要旨変更に当たる旨主張する。 しかしながら、上記主張に係る条項によれば、要するに商標法第46条第1項の審判(商標登録の無効審判)以外の審判についての請求の理由は、その要旨を変更するものであっても、補正が制限されないとのことであり、同法第51条第1項による本件審判の請求に係る請求の理由については、同条項による補正の制限を受けないことが明らかであるから、この点についての上記主張は、失当である。 6 まとめ 以上のとおり、被請求人は、故意に、本件商標の指定商品中の「スクールシャツ」について、本件商標と類似する被請求人使用商標を使用し、他人(請求人)の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたといえるから、本件商標の登録は、商標法第51条第1項の規定により、取り消すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 1 被請求人の主張に係る使用商標 ![]() 2 引用商標 ![]() (上記1及び2の各商標の色彩については、原本参照のこと。) |
審理終結日 | 2016-03-07 |
結審通知日 | 2016-03-09 |
審決日 | 2016-03-31 |
出願番号 | 商願昭43-2143 |
審決分類 |
T
1
31・
3-
Z
(X05091016172021222425)
|
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
林 栄二 |
特許庁審判官 |
田中 敬規 田中 亨子 |
登録日 | 1970-08-19 |
登録番号 | 商標登録第869495号(T869495) |
商標の称呼 | バンメイト |
代理人 | 藤田 隆 |
代理人 | 藤沢 昭太郎 |
代理人 | 藤沢 則昭 |