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審決分類 審判 一部無効 商8条先願 無効としない W25
審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W25
管理番号 1314510 
審判番号 無効2015-890070 
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-25 
確定日 2016-05-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第5749073号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5749073号商標(以下「本件商標」という。)は,「魔法のストッキング」の文字を標準文字で表してなり,平成26年11月26日登録出願,第25類「ストッキング,タイツストッキング,パンティーストッキング,ボディストッキング,運動用ストッキング」を指定商品として,同27年2月27日登録査定,同年3月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する商願2013-47066号商標(以下「引用出願商標」という。)は,「魔法のストッキング」の文字を標準文字で表してなり,第25類「ストッキング」を指定商品として,平成25年6月19日登録出願されたものである。そして,引用商標出願は,平成25年12月26日付けで拒絶査定されたものであり,この査定は,その査定の謄本の送達があった日から3月以内にその査定に対する不服の審判の請求がなされなかったことにより確定している。

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は,本件商標の指定商品中,第25類「ストッキング,タイツストッキング,パンティーストッキング」の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由及び弁駁において要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第8号証を提出した(合議体注:請求人は,審判事件弁駁書において甲第1号証を提出しているが,審判請求書において提出された甲第1号証と区別するため,これを甲第8号証とする。)。
2 請求の理由
本件商標の指定商品中,「ストッキング,タイツストッキング,パンティーストッキング」は,商標法第8条第1項及び商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。
(1)商標法第8条第1項について
本件商標と引用出願商標とは,外観,称呼,観念が全て共通する同一の商標であり,その指定商品も同一又は類似の関係にある。また,本件商標に係る出願は引用出願商標の後願である。
よって,本件商標は,商標法第8条第1項の趣旨「同一又は類似の商品又は役務について使用する同一又は類似の商標について異なった日に二以上の商標登録出願があったときは,最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。」に反してされたものであるから,無効とされるべきものである。
なお、商標法第8条第3項では,先願が拒絶されると先願権が残らない旨が定められているが,本件商標は,明らかな審査の過誤により登録されてしまった事例であるから,最先の出願人のみが商標登録を受けることができるという商標法の原則に照らし,同法第8条第1項に反するものとして扱うべきである。
(2)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は,審査官の過誤により登録されたものであり,短期間に,まったく同一の商標に対して,判断が異なる査定を出すことを認めるのでは,審査の公平性を大きく欠くことになる。
本件商標の登録は,審査の一貫性・客観性・公平性に反するものであり,引用出願商標の出願人が受ける不利益を鑑みれば社会正義に反するものであることは明らかである。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから,無効とされるべきものである。
3 答弁に対する弁駁
(1)商標法第8条第1項についての答弁の理由に対する反論
被請求人は,「審査の過誤により登録されてしまったのであれば,その過誤に起因する他の無効理由を有するのであり,商標法第8条第1項に違反するとして無効とする必要性がない。」と述べている。
しかしながら,商標法第8条第1項は,誤って後願が登録された場合にその後願に係る登録を無効とするために,無効理由となっているものであり,引用出願商標が審査の過誤なく登録されていれば,後願である本件商標は引用出願商標の存在を理由として同法第4条第1項第11号で拒絶され,登録されることはなかったのである。
よって,本件商標は,商標法第8条第1項に反して登録されたものであるから,無効とされるべきものである。
(2)商標法第4条第1項第7号についての答弁の理由に対する反論
被請求人は,商標法第4条第1項第7号は公益を守るための規定であるため,一私人である請求人の不利益は同号に違反する理由とならない旨を述べている。
しかしながら,本件商標は,後願であるにも関わらず,誤って登録されたものであり,その経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがある。
そして,本件商標の登録を認めることは,時間的に先後して商標登録出願があった場合には最先の出願人のみが商標登録を受けることができるという秩序(先願主義)に反するものであり,到底許されるべきものではない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に反して登録されたものであるから,無効とされるべきものである。

第4 被請求人の主張
被請求人は,結論と同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べた。
1 商標法第8条第1項について
本件商標が引用出願商標と同一の商標であり,同一及び類似の指定商品を含むことについては,認める。しかし,引用出願商標は,本件商標に係る登録査定の時点において,拒絶査定が確定していた。
してみれば,商標法第8条第3項に基づき,引用出願商標は先願の地位を喪失しているから,本件商標は,同条第1項に違反して無効とされるものではない。
請求人は,本件商標が「明らかな審査の過誤により登録されてしまった事例である」とし,商標法の原則に照らして第8条第3項の規定を適用すべきでない旨を主張するが,拒絶理由ではない同条第1項が無効理由とされるのは,後の出願の査定時において先の出願が登録されていないために後の出願が同法第4条第1項第11号に該当しない場合の処理のためである。「審査の過誤により登録されてしまった」のであれば,その過誤に起因する他の無効理由を有するのであり,商標法第8条第1項に違反するとして無効とする必要性がない。
してみれば,本件商標が商標法第8条第1項に違反して無効とされるものではないことは明らかである。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)請求人は,「引用出願商標の出願人が受ける不利益を鑑みれば社会正義に反するものであることは明らかである」として,本件商標が商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであると主張する。
しかしながら,商標法第4条第1項第7号は公益を守るための規定であり,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と規定されており,私益を害することについては一切含まれていないから,一私人である請求人の不利益は,同法第4条第1項第7号に違反する理由とならない。
そもそも私益は,商標法第4条第1項第10号,第11号,第15号及び第19号等において保護されており,これら各号に該当することなく登録された本件商標が私益を根拠に無効とされることは,私益の保護範囲を不明確なものとし,法的安定性を損なうことから,同法第4条第1項第7号を濫用することになり,認められるべきでない。
(2)請求人は,請求人が受ける不利益に鑑みて商標法第4条第1項第7号に違反するとの主張をするが,具体的にいかなる「不利益」を受けるかを説明していない。本件商標の登録査定時において,引用出願商標は,引用登録商標について同法4条第1項第11号に該当することを理由とする拒絶査定が,請求人が不服を申し立てることなく確定していた。
してみれば,請求人は,引用出願商標を使用することが引用登録商標について商標法第37条第1号に該当すること,すなわち引用出願商標の使用をすることができないことを認めていたものである。
そこに本件商標が登録されたとしても,請求人が引用出願商標の使用をすることができないと認めた範囲に係る商標権が発生するものであり,引用出願商標の使用をすることができた状態が使用をすることができない状態に変化するものではなく,請求人が受ける不利益はないか,又はあったとしても極めて小さいものである。
してみれば,審査及び審判に係る記録に基づいてなされた本件商標の登録査定は,たとえ私益を考慮するとしても,商標法第4条第1項第7号に違反するものではない。

第5 当審の判断
1 商標法第8条第1項について
本件の審理を進めるにあたり,引用出願商標に係る商標登録出願について職権より調査したところ,当該出願については,平成25年12月26日に拒絶査定がされ、同26年1月9日付けで発送されていることが認められた。
そして,拒絶をすべき旨の査定を受けた者は,その査定に不服があるときは,その査定の謄本の送達があった日から3月以内に審判を請求することができるところ(商標法第44条第1項),この期間内に審判の請求がなされなかったので,当該拒絶査定は,本件商標の登録出願時(平成26年11月26日)には,既に確定していたものである。
ところで,商標法は,「商標登録出願について査定若しくは審決が確定したときは,その商標登録出願は,商標法第8条第1項及び同第2項の規定の適用については,初めからなかったものとみなす。」旨規定(同法第8条第3項)している。
これを本件についてみると,本件商標の出願時には,引用出願商標に係る商標登録出願については,前記のとおり,その出願に係る拒絶査定が確定していたものであるから,商標法第8条第1項の規定の適用については,初めからなかったものとみなされるものである。
してみれば,他の要件の該当性について詳細に検討・判断をするまでもなく,引用出願商標をもって本件商標が同法第8条第1項に違反して登録されたものであるとする請求人の主張は,その前提となる先願の存在を欠いたものといわざるを得ず,本件商標について,その登録時において同条項に該当したとすることはできない。
2 商標法第4条第1項第7号について
商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」については商標登録を受けることができないと規定する。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(ア)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(ウ)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知的財産高等裁判所,平成17年(行ケ)第10349号,平成18年9月20日判決参照)。
上記のことを踏まえて,以下検討する。
本件商標は,前記第1のとおりの構成からなるものであるから,その構成態様からみて,上記したような商標に当たらないことは明らかである。また,本件商標の登録出願時には,引用出願商標に係る登録出願については,上記1のとおり,その出願に係る拒絶査定が確定していたものであるから,本件商標の出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認めることができないような場合にも該当しないというべきである。
なお,請求人は,本件商標は,審査官の過誤により登録されたものであり,短期間に,まったく同一の商標に対して,判断が異なる査定を出すことを認めるのでは,審査の公平性を大きく欠くことになる旨主張している。
しかしながら,引用出願商標に係る商標登録出願と本件商標に係る商標登録出願は,別々の独立した事件であって,前者における判断が後者の判断を拘束すると解すべき根拠はなく,仮に,過去にされた審査判断に矛盾や誤りがあるとしても,具体的事案の判断においては,過去の審査例等の判断に拘束されることなく検討されるべきものである。
また,引用出願商標の登録出願に係る拒絶査定においては,「この“ご注意”は,全ての拒絶査定書に自動的に記載しているものです。1.この査定に不服がある場合について この査定に不服があるときは,この査定の謄本の送達があった日から3月以内に,特許庁長官に対して,審判を請求することができます(商標法第44条第1項)。なお,この査定に不服があっても,上記審判を経ることなく,取消訴訟を提起することはできません。仮に,上記審判の審決にも不服となれば,その審決に対してのみ取消訴訟を提起することができることになっています(商標法第63条第2項で準用する特許法第178条第6項)。」と明示されており,請求人には,他の全ての拒絶査定と同様に,その趣旨を検討し,不服があれば審判を請求するに十分な機会が与えられていたものであるが,当該拒絶査定に対して,請求人は,審判を請求することはなく,拒絶査定が確定したものである。
以上のとおりであるから,請求人の主張は採用することができない。
3 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第8条第1項及び同法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではないから,その指定商品中の第25類「ストッキング,タイツストッキング,パンティーストッキング」についての登録は,同法第46条第1項の規定により,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-03-08 
結審通知日 2016-03-10 
審決日 2016-03-24 
出願番号 商願2014-99617(T2014-99617) 
審決分類 T 1 12・ 4- Y (W25)
T 1 12・ 22- Y (W25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 里美 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 前山 るり子
中束 としえ
登録日 2015-03-13 
登録番号 商標登録第5749073号(T5749073) 
商標の称呼 マホーノストッキング、マホーノ、マホー 
代理人 金子 宏 
代理人 特許業務法人JAZY国際特許事務所 

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