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審決分類 |
審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X3543 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X3543 審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X3543 |
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管理番号 | 1314438 |
審判番号 | 無効2014-890008 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2014-02-12 |
確定日 | 2016-03-11 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5203783号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5203783号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5203783号商標(以下「本件商標」という。)は、「宇都宮餃子館」の文字を標準文字で表してなり、第35類「餃子を主とする加工食料品等の小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び第43類「餃子を主とする飲食物の提供」を指定役務として、平成19年6月21日に登録出願、同20年12月19日に登録査定、同21年2月13日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を審判請求書及び審判事件弁駁書において次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第26号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 請求人が引用する商標 請求人が引用する登録第4546706号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲のとおり「宇都宮餃子」の文字を縦書きしてなり、平成12年5月17日に登録出願された商願2000-53565に係る商標法第11条第2項の規定による団体商標の商標登録出願(商願2001-70284)に変更され、第30類「ぎょうざ」及び第42類「ぎょうざの提供」を指定商品及び指定役務として、同14年1月24日に登録査定、同年2月22日に設定登録されたものであり、その商標権は現に有効に存続しているものである。 2 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)指定役務の類否 本件商標の第35類の指定役務「餃子を主とする加工食料品等の小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、いわゆる小売等役務に当たるが、小売等役務は商品の販売に際して提供される当該商品の品揃え等のサービスを商標法上の役務として保護するものであるから、ある商品とその商品の小売等役務は、商品の販売と役務の提供が同一事業者により同一場所で行われるため、需要者の範囲は一致する。 また、本件商標の第35類の指定役務において「餃子」は、その役務に係る主体的な商品であることは明らかであり、引用商標の第30類の指定商品「ぎょうざ」と同一の商品である。 したがって、本件商標の第35類の指定役務「餃子を主とする加工食料品等の小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、引用商標の第30類の指定商品「ぎょうざ」に類似する。 一方、本件商標の第43類の指定役務「餃子を主とする飲食物の提供」は、引用商標の第42類の指定役務の「ぎょうざの提供」と実質的に同一のものである。 よって、本件商標の指定役務は、引用商標の指定商品又は指定役務と類似する。 (2)引用商標の周知著名性 以下のア及びイから明らかなように、引用商標は、遅くとも請求人の前身である宇都宮餃子会が発足した平成5年7月頃から、請求人及びその組合員の業務に係る「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」に係る標章として使用された結果、本件商標の出願日である平成19年6月21日には、全国的な周知著名性を獲得していたものである。 ア 「宇都宮餃子」の商標法第3条第2項に基づく商標登録 引用商標は、団体商標として商標登録出願され、第30類「ぎょうざ」及び第42類「ぎょうざの提供」について使用するものとして取引者及び需要者の間に広く認識されているとの特許庁の判断のもと、商標法第3条第2項の適用を受けて、商標登録を受けるに至ったものである(甲2)。 イ 「宇都宮餃子」に関する新聞雑誌掲載記事等 引用商標が登録された後においても、「宇都宮餃子」が各種の新聞雑誌等で多数紹介されている(甲4?甲12)。 (3)本件商標と引用商標の類否 本件商標は、「宇都宮餃子館」の漢字を標準文字で書したもの(甲1の1)であるのに対し、引用商標は、「宇都宮餃子」の漢字を書してなるものであるから、本件商標は、引用商標とは、構成6文字中、先頭から5文字の「宇都宮餃子」が共通する。 また、両商標に共通する「宇都宮餃子」からは、「ウツノミヤギョウザ」の称呼とともに、全国的な周知著名性を獲得した請求人及びその組合員の業務に係る「宇都宮餃子」の観念が生じる。 さらに、本件商標の末尾の「館」は、レストランや学校、道場など、役務の提供に係る建物の名称などの名に添える語であり、役務の提供場所を表す場合に一般に用いられる形容詞的文字といえるから、本件商標の指定役務との関係では、識別力が高い部分とはいえない。 引用商標は、全国的な周知著名性が認められ、商標法第3条第2項の適用を受けて登録された著名商標であるから、本件商標は、特許庁の商標審査基準が定める「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標(請求人注:『宇都宮餃子』)と他の文字又は図形等(請求人注:『館』)と結合した商標」に該当することは明らかである。 このため、本件商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものか否かにかかわらず、全国的に周知著名性を獲得した引用商標に類似するものといわなければならない。 したがって、本件商標は、引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれの要素についても互いに類似するものであるから、商標全体として類似するものであることは明らかである。 (4)審決及び過去の裁判例 甲第14号証の1ないし7の審決は、いずれも、一方の商標が商標法第3条第2項の規定に基づいて登録された著名商標である場合、当該著名商標の部分が自他商品識別力を発揮する要部となり、当該文字部分を含む他の商標は著名商標に類似する旨、判断している。 また、商標権に基づく差止等請求事件であるが、「柿茶」又は「KAKI-CHA」の文字及び柿の葉の図形との結合商標である原告登録商標について、その周知著名性に鑑み、当該文字部分にも自他商品識別力があるとして、被告標章「京の柿茶」は原告登録商標に類似すると判断している(甲14の8)。 上記の審決及び判決は、商品の原材料、普通名称やローマ字の2字等からなる商標であっても、それが周知著名性を獲得しているものである場合には、かかる文字部分にも自他商品の識別機能があり、当該文字部分と同一又は類似する商標は互いに類似すると判断している。 引用商標は、商標法第3条第2項の適用を受けたものであるから、その前提として同法第3条第1項第3号に該当するとの判断が審査段階でなされたものと推察されるが、そうであれば、上記の審決及び判決で示された判断は、本件商標と引用商標の類否にもそのまま妥当する。 以上より、本件商標は、請求人及びその構成員に係る全国的に周知著名な「宇都宮餃子」を構成中に含むものであるから、引用商標に類似するものである。 (5)小括 以上のとおり、本件商標は、引用商標に類似する商標であり、また、その指定役務は引用商標の指定商品及び指定役務に類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。 3 商標法第4条第1項第15号該当性について (1)出所混同のおそれ 商標法第4条第1項第15号は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリュージョン)を防止し、商標の自他商品識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものである。 同号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品等に使用したときに、当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして、この場合、同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知・著名性及び独創性の程度、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情に照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものであるとされている(最高裁平成10年(行ヒ)第85号、甲3)。 かかる基準に照らして考察すると、本件商標に接した取引者・需要者は、本件商標を使用した商品が、あたかも請求人又は請求人の構成員(組合員)の業務にかかる商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかである。以下、詳述する。 (2)引用商標の周知著名性 上記2(2)で述べたとおり、引用商標は、遅くとも請求人の前身である宇都宮餃子会が発足した平成5年7月頃から、請求人及びその組合員の業務に係る「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」に係る標章として使用された結果、本件商標の出願日である平成19年6月21日には、全国的な周知著名性を獲得していたものである。 すなわち、「宇都宮餃子」は、平成5年7月頃から、地域おこしの一環として、請求人及びその組合員の業務に係る「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」に係る標章として使用されてきた結果、宇都宮市を代表する飲食物として全国的に広く知られるところとなり、特許庁においても、取引者及び需要者の間に広く認識されているとの判断のもと、商標法第3条第2項の適用を受けて、引用商標の商標登録を受けるに至ったものである(甲2)。 また、「宇都宮餃子」は、引用商標の登録後においても、請求人の積極的な宣伝・広告活動等や、請求人の組合員による不断の努力により、現在に至るも、宇都宮市を代表する飲食物として全国的な知名度を維持している。そして、これを常に牽引してきたのは請求人であり、請求人は、全国に数あるB級グルメにあって、「あれだけ専門店が集積して味も一定水準を維持しているのがすごい。」(甲4の9)と評価されるほど、「宇都宮餃子」の品質管理には細心の注意を払っている。 このように、引用商標は、本件商標の出願時において、請求人及びその構成員の業務に係る「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」を示すものとして、全国の取引者及び需要者の間で高度な周知著名性を獲得していたものであり、その周知著名性は、現在でも継続している。 (3)本件商標と引用商標の類似性の程度 ア 本件商標は、「宇都宮餃子館」の漢字を標準文字で書したもの(甲1の1)であるのに対し、引用商標は、「宇都宮餃子」の漢字を縦書きしてなるものであるから、本件商標は、引用商標とは、構成6文字中、先頭から5文字の「宇都宮餃子」が共通する。 また、両商標に共通する「宇都宮餃子」からは、全国的な周知著名性を獲得した請求人及びその組合員の業務に係る「宇都宮餃子」との観念が生じる。 イ 特許庁の商標審査基準によれば、商標法第4条第1項第15号該当性の判断において、原則として、「他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して、取り扱うものとする」とされている。本件商標は、「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」について周知・著名な引用商標と同一の漢字である「宇都宮餃子」の文字を含んでおり、また、「館」は、上記2(3)のとおり、本件商標の指定役務との関係において識別力が高い部分とはいえないことからすれば、本件商標において、まず取引者・需要者の注意を引くのは、「宇都宮餃子」の漢字である。 このように、取引者・需要者の注意を引く部分として「宇都宮餃子」の漢字が共通する以上、本件商標構成中の「宇都宮餃子」の部分が、取引者及び需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に予想できるところである。 ウ 以上より、本件商標は、請求人及びその構成員に係る周知著名な「宇都宮餃子」との関連性を容易に想起させるものといえるから、引用商標との類似性は極めて高いものである。 (4)本件商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性の程度、取引者・需要者の共通性 請求人が著名性を獲得した「餃子」は、本件商標の第35類の指定役務「餃子を主とする加工食料品等の小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」にかかる主体的な商品である。本件商標の第35類の指定役務はいわゆる小売等役務に当たるが、小売等役務は商品の販売に際して提供される当該商品の品揃え等のサービスを商標法上の役務として保護するものであるから、ある商品とその商品の小売等役務は、商品の販売と役務の提供が同一事業者により同一場所で行われるため、需要者の範囲は当然に一致する。 また、本件商標の第43類の指定役務「餃子を主とする飲食物の提供」は、請求人が著名性を獲得した「ぎょうざの提供」と実質的に同一の指定役務である。 一方、本件商標の指定役務は、必ずしも商標について詳細な知識を持たない一般消費者を主たる需要者とするものである。こうした一般消費者は、商品の購入や役務の提供を受けるに際して、メーカー名などについて常に注意深く確認するとは限らず、小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないことからすれば、商品購入時に払う注意力は高いものではなく(平成17年(行ケ)第10230号、甲15)、商標構成中の覚えやすく親しみやすい印象及び過去に購買した際の記憶に基づいてその商品又は役務を選択ないし購買すると考えられる。 さらに、「宇都宮餃子」が請求人及びその構成員の業務に係る周知著名な商標であることからすれば、需要者において普通に払われる注意力としては、本件商標に接した需要者は、「宇都宮餃子」の漢字に着目し、著名な「宇都宮餃子」を想起連想して、当該役務が請求人及びその組合員の業務に係るものと認識するであろうことは容易に想像されるところである。 以上より、本件商標に係る指定役務は、引用商標に係る指定商品及び指定役務と、一般的に同一又は類似する関係にあるのみならず、具体的な取引の実情に照らしても関連性が強いものであるから、本件商標と引用商標の取引者・需要者の共通性が極めて高いものである。 (5)その他取引の実情 ア 引用商標は、団体商標であって、請求人は、その加入基準や商標使用基準等(甲16、甲17)定め、組合へ加入できる者を、原則として宇都宮で餃子を製造・販売する者に限定し(甲16)、また、引用商標の識別力が稀釈化されることを防ぐために、組合員に対し、宇都宮餃子を代表するかのような表現「宇都宮餃子○○(○○は店名)」や、元祖・本家・本舗などの表示を禁止している(甲17)。さらに、「餃子」についての引用商標の使用許諾の基本条件においても、「宇都宮地区内で製造された餃子」を対象とすることとし、かかる使用許諾の対象商品について、請求人は厳格な品質管理を徹底している。 引用商標は、こうした請求人の活動や品質管理等が団体商標の登録要件として審査において考慮された結果、登録が認められたものである。 団体商標の保護については、わが国においては、「団体の構成員は、相互の協力により当該団体商標の信用力を高め、特産品作り等の団体の目的達成にも資すること」が、その目的の一つとされている。 「特産品作り等」をはじめとする地域経済の活性化を支援する制度としては、平成17年改正商標法は、「地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り、地域ブランドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化を目的」とする「地域団体商標制度」を設け、地域の名称と商品(役務)の名称等からなる文字商標について、商標法第3条第2項において求められる登録要件を緩和し、商標登録を受けられるようにしている。 地域団体商標として登録された商標と同一又は類似の文字部分を含む後願の他人の商標については、特許庁の商標審査基準において、地域団体商標が使用をされた結果、商標全体の構成が不可分一体のものとして需要者の間に広く認識されている事情を考慮し、原則として、地域団体商標として登録された商標と類似するものとするとされており、また、特許庁の商標審査便覧においても、「登録された地域団体商標より後に出願された商標で、その地域団体商標と同一又は類似の文字を含む商標については、地域団体商標が需要者の間で周知となっているとして登録された商標であることから、需要者は、後願の商標の文字部分に着目して記憶し取引に当たることが少なくないものと考えられるため、原則として、後願の商標は地域団体商標と同一又は類似の商標として取り扱うものとする。」とされている。 イ 引用商標は、地域団体商標制度が導入される前に出願し登録された団体商標に係る商標権であるが、商標法第3条第2項という、地域団体商標におけるよりも厳しい要件を満たしていると認められたものであるから、地域団体商標制度の目的や、地域団体商標として登録された商標と同一又は類似の文字部分を含む後願の他人の商標との類否判断手法は、引用商標にも当然に妥当する。 また、本件商標の権利者が宇都宮市に所在する企業であり、本件商標の指定役務が「餃子を主とする加工食料品等の小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び「餃子を主とする飲食物の提供」であることを考え併せると、本件商標を使用した役務の提供に接した取引者及び需要者が、その役務が、あたかも請求人又はその組合員の業務にかかる商品、又は請求人から使用許諾を受けた者による役務の提供であるかのように考えたとしても、何ら不思議なところはない。 そうとすれば、本件商標の登録を認め、その指定商品についての自由な使用を認めることは、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれが高いといわざるを得ず、また、団体の構成員の相互の協力により当該団体商標の信用力を高め、特産品作り等の団体の目的達成にも資するという団体商標制度の目的を没却させるものというべきである。 (6)判決及び審決並びに「宇都宮餃子」の周知著名性を認めた過去の出願(甲21) ア 最判平成12年(行ヒ)第172号(著名商標「POLO」) イ 知財高判平成23年(行ケ)第10404号(著名商標「3M」) ウ 不服2007-25509(著名商標「比内地鶏」) エ 不服2009-1196(著名商標「金沢箔」) オ 無効2003-35077(著名商標「柿茶」) なお、「宇都宮餃子街道」に係る審査例(甲13)では、引用商標が請求人の「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」について使用し、周知著名な標章であるから、商標「宇都宮餃子街道」は、引用商標と出所の混同のおそれがあるとの認定がされている。 同商標出願の指定商品である「菓子及びパン」は、一般には「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」に類似しないものであるが、かかる商品(役務)の間でさえも、「宇都宮餃子」の文字を含む商標が、引用商標と出所混同を生じるおそれがあると判断されていることからすれば、引用商標は、その指定商品及び指定役務に類似しない商品及び役務に対してさえも、出所の混同を生じさせる程、全国的に高い周知著名性を獲得しているものと、特許庁の登録実務において認められていることが明らかである。 (7)まとめ 以上のとおり、全国的に周知著名な引用商標の「宇都宮餃子」の漢字を構成中に含む本件商標を、その指定商品について使用した場合には、これに接する需要者・取引者は、その商品が請求人又はその組合員の業務にかかる商品や、請求人の許諾を受けて製造販売されている商品であるかのごとく、その商品の出所について誤認・混同するおそれが極めて高いといわざるを得ない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 4 平成26年12月19日付けの審判事件弁駁書における主張 なお、以下、特に明示しない限り、括弧書きで示す頁数及び行数は答弁書における頁数及び行数を示す。 (1)「第1 はじめに」に対する弁駁 ア 「1 被請求人の事業等」に対する弁駁 被請求人は、平成7年頃から「宇都宮餃子館」の名称のもとで餃子の提供及び餃子の製造・販売等の事業を行っていた株式会社エスト(以下「エスト」という。)から上記事業を承継し、以来、今日まで一貫して「宇都宮餃子館」の名称を使用して営業を行っており、被請求人が営む宇都宮餃子館とその餃子が宇都宮を代表する餃子専門店等として、全国的な知名度を有しているなどと主張し(12頁8行ないし同10行)、請求人の前身である宇都宮餃子会が独自のPR活動を行う力がなかった中で、「宇都宮餃子館は、いち早く、駅前に数店舗を展開し、各地のイベントに出店し、さらに、上り・下りの新幹線からよく見える駅近くの場所に『ようこそ餃子の街へ 餃子日本一の宇都宮市 宇都宮餃子館』と大書した看板を設置するなどして、『餃子の街』宇都宮のPRに努めてきた。」(12頁22行ないし同25行)などと述べ、「長期にわたって継続使用され、全国的な知名度を有するに至った本件商標『宇都宮餃子館』を、その登録から5年を経過する直前に請求された無効審判において、登録時の判断を敢えて覆し、法的安定性を害してまで、無効とすべき理由は全く存在しない。」(16頁16行ないし同19行)などと主張する。 また、被請求人は、エストが営業主体であった時代から今日に至るまで継続して宇都宮餃子会の会員であると述べ(12頁10行ないし同11行)、「少なくとも、他人に使用させることを目的として登録された団体商標を理由として、当該団体商標の出願より前から、その団体の構成員の営業に使用されてきた商標の商標登録を無効とするのは、商標法や団体商標制度の趣旨に完全に反するものである。」(16頁19行ないし同22行)などとも主張する。 これらの主張に関し、請求人としては、エストが平成7年頃から「宇都宮餃子館」の名称のもとで餃子の提供及び餃子の製造・販売等の事業を行っていた点、及び、被請求人がエストから上記事業を承継し、今日でも「宇都宮餃子館」の名称を使用している点(3頁3行ないし同11行)に異論はない。 エストないし被請求人が、現在、請求人である「協同組合 宇都宮餃子会」の会員(組合員)である点についても同様である。(ただし、エストが組合員となったのは、宇都宮餃子会が協同組合となった平成13年のことであり、協同組合化する前の任意団体の宇都宮餃子会(平成5年設立)には加盟していない。) しかしながら、本件無効審判において、商標の類否判断にあたって考慮されるべき取引の実情とは、その指定商品等全般についての一般的、恒常的なそれを指す(最高裁第一小法廷判決(昭和47年(行ツ)第33号))のであって、本件商標が使用されている商品・役務についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではないから、エストないし被請求人が如何に「宇都宮餃子館」の名称のもとで餃子の提供及び餃子の製造・販売等による実績を重ねたとしても、それは取引の実際における一部の局面にすぎず、このような局面的、限定的な事実を、指定商品(役務)全般についての一般的、恒常的な取引の実情として考慮に入れることは許されない。例えば、引用商標のように、使用による識別力(商標法第3条第2項)の有無の判断においてすら、あくまでも当該商標が使用によって識別力を取得したか否かが問題になるにすぎないのであるから、まして通常の商標出願である本件商標に対して、エストないし被請求人が宇都宮餃子の普及に尽力したなどといった個別具体的な事情を考慮すべき余地はない。 したがって、本件商標と引用商標の類否については、端的に両商標の対比において判断すべきであり、そうした判断による限り、審判請求書において詳述したとおり、また、後述するとおり、本件商標と引用商標は、「宇都宮餃子」を要部とする類似商標といわなければならない。 また、エストないし被請求人が請求人の組合員であるとの主張についても、本件商標の登録査定時(平成20年12月19日)において、本件商標が引用商標からみて「他人」の商標出願であったことは明らかであるから、請求人の組合員である事実が本件商標は引用商標に類否するとの判断の妨げとなるものではない。 商標権は、登録商標を指定商品(役務)について独占排他的に使用することができる専用権(商標法第25条)のみならず、その類似範囲における他人の使用を排除できる禁止権(商標法第37条第1号)をも包含する強力な権利であるが、商標権者が第三者に対して使用許諾可能な権利(商標法第30条、同31条)を有することはもちろん、さらには事業の移転とは無関係に第三者に対し商標権を譲渡することも自由であることも考慮すると、団体商標に類似する組合員名義の類似商標が、第三者に譲渡されたり使用許諾されたりする事態は当然にあり得るのであり、そうした事態のもとでは、当該団体がどのような規約やルールを作っても、単なる内規にすぎないとして蔑にされ、団体商標の所有者に求められる、需要者に誠実であるために必要なブランド管理を行うための法的根拠を失うこととなる。 このため、本件商標が譲渡されたり、組合員以外の第三者に使用許諾されたりする可能性を考え併せると、そのような事態は、団体構成員に商標の使用をさせ、「相互の協力により当該団体商標の信用力を高め、特産品作り等の団体の目的達成にも資すること」という団体商標制度目的ないし商標法の趣旨(商標法第1条)に反することとなるから、組合員であるという被請求人の現在の偶々の属性は考慮すべきでない。 一方、被請求人は、「被請求人の営む宇都宮餃子館とその餃子は、『ギョーザの街』として知られるようになった宇都宮を代表する餃子専門店・餃子の一つとして、全国的な知名度を有しているのである。」(12頁8行ないし同10行)と主張し、エストないし被請求人の事業等について報じた新聞記事などを提出している(乙6の14等)。 また、被請求人は、「請求人の活動によって『宇都宮餃子』が全国的に周知となり、請求人(及びその構成員)の業務を指すものとして知られているという請求人の主張は、誇張であって事実を正確に述べたものではない。」(14頁5行ないし同7行)などと述べ、あたかも餃子による町おこしを牽引してきたのはエストないし被請求人であるといわんがごとき主張をしている。 しかしながら、「宇都宮餃子館」に全国的な周知著名性など到底認められるものでなく、また、餃子による町おこしを牽引してきたのはエストないし被請求人であるかのごとき主張も、全く事実と異なり、極めて誇大な独自の主張である。 まず、被請求人が主張する「宇都宮餃子館」の全国的な周知著名性について、被請求人が提出した新聞記事は、香港で開催された「とちぎ物産フェア」(乙6の14、乙6の15)や、エストが中国で事業を開始したこと(乙7、乙8)など、同じ内容が別々の新聞社から報じられた同一の記事であったり、あるいは、「餃子」をお歳暮などの贈答品にするという、ヤマト運輸に代表される運送業者による個人宅への冷蔵・冷凍配送が可能になったため、当時多くの事業者が一斉に取り組みを始めたビジネスを報じた記事(乙15、乙16)などである。 提出された証拠を見る限り、エストが餃子事業を開始してから本件商標の出願時までの約10余年の間に、実質的にエストないし被請求人に焦点を当てた記事は、わずか数回程度しか報じられていないが、このような「単発」記事が過去に数回程度報じられただけで、それ以外に記事として取り上げられた様子がないことからすれば、被請求人に記事として取り上げられる情報価値や継続性はなく、その注目度は極めて低いと考えられる。 「宇都宮餃子館」の店舗が掲載されているという証拠も、「宇都宮餃子会」の店舗として掲載されている「宇都宮餃子マップ」(乙45の1等)等が多数含まれており、これらは当然ながら、請求人の一会員として掲載されているものであるから、「宇都宮餃子館」の周知著名性とは何ら関係がなく、むしろ請求人の「宇都宮餃子」の周知著名性を根拠付けるものといえる。 また、その他の証拠は、エストないし被請求人が作成した会社案内、通販・宣伝用のチラシ、新聞広告など、主観的な証拠が大半であって、その作成配布部数、配布方法、配布場所、配布時期等は不明であるから、証拠としての証明力はほとんど認められない。 被請求人の餃子が掲載されているという他社の通販カタログ等(乙27等)も、取引先であれば業務において通常掲載するであろう程度のありふれたものであって、その作成配布部数等も不明であるうえ、こうした通販カタログ掲載には出店(出稿)者が広告宣伝費や協賛金といった名目で通販事業者等に対してカタログ掲載費を支払うケースが一般的であるから、こうした通販カタログ等に「宇都宮餃子館」が掲載されたとしても、その周知著名性を証することにはならない。 後述するとおり、被請求人は、請求人が引用商標の審査段階で提出した証拠の一部(証明願)を、「利害関係のある当事者の主観的認識ないし願望の表明にすぎない」(20頁5行ないし同6行)として論難するが、被請求人が提出した証拠の大半こそ、自己又は利害関係がある取引先が作成した主観的な証拠といわざるを得ない。 さらに、被請求人は、「宇都宮餃子館」の店舗として、「駅西店」以下14店舗を挙げている(5頁4行ないし同24行)が、被請求人のウェブサイト(甲24の1)には、「団体様受付駅前広場店」、「JR宇都宮駅パセオ店」、「駅前中央店」、「西口1号店」、「西口2号店」、「餃子村本店」、「東武駅前店」、「団体様受付インター店」、「西那須野店」の9店舗しか掲載されていない。 上記9店舗は、JR西那須駅近辺(栃木県那須塩原市)に所在するという「西那須野店」を除き、すべて宇都宮市内に所在しており、この程度の店舗数と出店場所の展開によって、全国的な広がりがあるなど到底いえるものではない。 このような甚だ不十分な証拠とほぼ宇都宮市に限定された事業展開に基づいて、「被請求人の営む宇都宮餃子館とその餃子は、『ギョーザの街』として知られるようになった宇都宮を代表する餃子専門店・餃子の一つとして、全国的な知名度を有しているのである。」(12頁8行ないし同10行)などとは到底いえず、「宇都宮餃子館」に全国的な周知著名性など到底認められるものではない。 続いて、餃子による町おこしを牽引してきたのはエストないし被請求人であるといわんとする被請求人の主張が全く事実と異なる点については、以下のとおりである。 すなわち、宇都宮市が餃子による町おこしの取り組みを開始したのは平成2年頃であり(甲22の1)、平成5年7月に請求人の前身の「宇都宮餃子会」が設立されると、この時点で、餃子による町おこしの推進役が行政から事業団体へ委譲された。 もともと、餃子は、宇都宮と地域的に根付いていた食材であり、また、宇都宮餃子会の設立当初、加盟店は38店舗と決して小規模なものではなかった(甲22の1)が、餃子のまちとしての宇都宮の知名度は必ずしも大きなものではなかった。 こうした状況にあって、餃子による町おこしが大きく前進することになったのは、平成5年10月に、テレビ東京が制作、系列局による全国ネットで放送した「おまかせ!山田商会」(甲23)の番組中で、「宇都宮餃子大作戦」と題する企画が7回シリーズで取り上げられ、放送されたことによる(平成5年10月ないし平成6年2月放送)(甲22の1)。 同番組は、テレビ東京からの働きかけに応えて、宇都宮餃子会と宇都宮観光協会の協力により実現できたものであり、同シリーズ放送終了後の平成6年10月24日には、同番組の番組収録を兼ねた大規模なイベントが宇都宮市内の公園で開催された。 同イベントでは、「餃子像」(JR宇都宮駅前に設置)の除幕、餃子弁当やPRソングの発表などが行われ、約7,000人が参加した当時としても大規模なものであったが、現在ほどインターネットが普及していなかった時代において、テレビ番組とのタイアップは、「宇都宮餃子」の知名度を大きく前進させる上において、極めて大きな成果をもたらすものであった。 かくして、関東圏を中心に、「餃子のまち」としての宇都宮の知名度が向上してくると、宇都宮餃子会は、直営店の「来らっせ」の運営、「宇都宮餃子祭り」等のイベント運営、宇都宮観光コンベンション協会及び宇都宮商工会議所との協同による「宇都宮餃子マップ」発行等の広報活動、組合員の研修及び福利厚生事業等に注力し、餃子による町おこしをさらに推進したのであるが(甲22の1)、「宇都宮餃子」の知名度の向上に伴い、町おこしが開始される前から事業をしていた餃子専門店等以外にも、餃子の製造販売等を行う会社や業者が多数出現するようになった。 エストもそうした会社のひとつであり、もとは宇都宮市を中心にホテルの運営事業や不動産業等を営んでいた会社であったが、エストは、「宇都宮餃子」の知名度が大きく前進した後、被請求人自身が述べているように(3頁3行ないし同8行)、平成7年頃から餃子の提供・製造等の事業を開始した、いわば、異業種からの後発参入会社である。 なお、被請求人は、協同組合となった平成13年以降は、行政から餃子による町おこしの推進役を任された者として、同業者間で適正な競争が行われるように、宇都宮餃子を代表するかのような表現「宇都宮餃子○○(○○は店名)」や、元祖・本家・本舗などの表示がされていないか等、会員に課している義務(甲17)と同様に、抜け駆け的な商標や店舗名が使用されていないかを常に監視し、そうした不適切な使用を発見した場合には、これを適宜指導して改めさせている。 ところが、エストは、餃子の提供・製造等の事業を開始した当初、宇都宮餃子会に加盟していなかった段階で、「宇都宮餃子館」の看板を掲げた餃子専門店を出店し、全く独自に業務を開始したのである(4頁3行ないし同6行)。 エストからは、餃子事業の開始前、及び開始後も、餃子事業を開始するとの宇都宮餃子会への連絡は一切なかった。 「宇都宮餃子館」は、そこが宇都宮餃子を中心的に販売している場所(建物)であるかのごとく、宇都宮餃子を代表するかのような錯覚を起こさせる商標であり、会員であっても会則で使用が禁止されているもの(甲17)であるため、エストによる「宇都宮餃子館」の使用は、当時の宇都宮餃子会でも問題となったが、こうした懸念をよそに、エストは、被請求人が滔々と説明しているように、「宇都宮餃子館」の商標を使用して業務を次々と拡大していき、エストが宇都宮餃子会に加盟し、被請求人がエストから事業を承継した後も、会則に反する「宇都宮餃子館」の使用を改めることなく、さらに事業を拡大していったのである。 請求人は、本無効審判請求前後において、会則に反した状態となっている「宇都宮餃子館」の屋号の取扱いについて、被請求人の求めに応じて協議を行ったが、両者の間に合意点が見いだせないまま、今日に至っている。 このように、エストないし被請求人は、全く独自に「宇都宮餃子館」の使用を開始し、事業を拡大させて既成事実を作出し、宇都宮餃子会ないし請求人に籍をおく身となった後も、会則を無視して「宇都宮餃子館」を使用してきたのであるが、そうした状況を憂いながらも、餃子による町おこしを牽引してきたのは、あくまでも請求人である。 すなわち、エストないし被請求人がいかに業務を拡大しようとも、請求人の会員という立場で餃子事業を展開する限り、その行動は請求人に属する一会員としてのものでしかありえない。 被請求人は、発足当初の宇都宮餃子会について、「小規模な飲食店の集まりであったことに変わりはなく、財政的にも組織的にも、会として独自のPR活動を行うなどの力はなかった」(12頁16行ないし同18行)と述べるが、財政力・組織力に制約があった発足当初において、店主らの熱意と努力により、発足からわずか1ヵ月後には、「ギョー!Theフェスティバル」というイベント開催を実現しており、これらの活動が発端となって、平成5年10月に上記テレビ番組「おまかせ!山田商会」(甲23)の「宇都宮餃子大作戦」の実現に繋がったのである。 これは、宇都宮餃子会が財政的にも組織的にも決して十分ではなかったなかで、卓越した行動力を備えていたことの証左である。みずほ総合研究所も、「宇都宮餃子」が地域ブランドとして成功した要因として、「第一に、餃子でまちおこしというアイディアを餃子店に持ち込んだ市の職員と、それに応えた餃子会の中心人物というキーパーソンの存在である。第二に、ライバルでもある餃子店同士が、キーパーソンを中心として結束したことである。」(甲22の2)と記述し、宇都宮餃子会が餃子による町おこしの中心的役割を果たしたと分析している。 また、被請求人は、「自前の餃子工場を有し大量の餃子を持ち込む能力のあった宇都宮餃子館が実質上ほとんど担ってきたというのが実情であり、宇都宮餃子館では採算のあわない地方のイベントでも、宇都宮の餃子のPRのために参加したものが数多くある。」(13頁1行ないし同4行)などとも述べるが、会員として「宇都宮の餃子のPRのために参加」というのであれば、それはすなわち、宇都宮餃子会ないし請求人として行動したものにほかならない。 エストないし被請求人がイベント等において、他の会員や同業者よりも多くの食材や費用を投下したとしても、それが請求人の会員という立場で餃子による町おこしの一環として参加したものであれば、請求人から離れた独白の業績と評価されないことは自明である。 少なくとも、エストないし被請求人が、請求人の会員となった後に、請求人を代表する会社として餃子事業を行うことを認めた事実はない。請求人が招へいを受けた催事やイベントについては開催時期や内容によっては会員に協力(出店)を依頼することがあるが、そうした機会においてエストないし被請求人にも他の会員と同様に協力を依頼したことがある程度である。 さらに、被請求人は、「宇都宮市では、平成7年頃から『ぎょうざマップ』が作成されるようになったが、これを推進し財政的に支えたのは市の観光協会と商工会議所であった」(13頁8行ないし同9行)などと述べるが、「宇都宮餃子マップ」は、宇都宮市から餃子による町おこしの推進役を委譲された請求人が、観光協会(宇都宮観光コンベンション協会)と商工会議所(宇都宮商工会議所)と「協同」して発行したものであり、現に、提出した「宇都宮餃子マップ」(甲6の1ないし甲6の3)には、「発行/協同組合 宇都宮餃子会・宇都宮観光コンベンション協会・宇都宮商工会議所」と明記されているから、請求人が発行者であることは明らかである。実験店舗となった「おいしい餃子とふるさと情報館 来らっせ」に関しても、「請求人は、協同組合化した後の平成13年に、商工会議所から『来らっせ』の飲食部門の運営を移管されたが、請求人が運営主体となって平成14年に開設した池袋のナンジャタウン『来らっせ』は、請求人の指導・管理能力の不足から、営業不振となって閉店し、そのスペースを宇都宮餃子館が引き継いで『宇都宮餃子館』をオープンしている」などと述べ、あたかも請求人の主導による餃子による町おこしが失敗し、その後は被請求人が中心となって事業を承継したかのように主張しているが、開業以来の通算損益は黒字であった。 池袋「ナムコ・ナンジャタウン」の撤退は、宇都宮餃子の知名度向上という当初の役割を終えたと判断したために決定した「発展的撤退」であり、その証左として、請求人は、平成14年7月に、池袋「ナムコ・ナンジャタウン」の「池袋餃子スタジアム」内に出店し、平成15年11月に、上記「来らっせ」を「ラパーク長崎屋」の地階へ移転し、平成17年8月に、JR宇都宮駅ビル・パセオ内に「宇都宮ぎょうざ小町」が開設されるのに伴い、冷凍餃子販売のみの物販店「来らっせ」を出店し、さらに、平成19年4月には、「ラパーク長崎屋」内の「来らっせ」を拡大して、従来の27店が日替わりで提供する集合的店舗に加えて、独立した5店による常設型の店舗や「餃子作り体験コーナー」などを開設している(甲22の1)。また、平成25年4月には、宇都宮市内の百貨店である「東武百貨店宇都宮店」にも「来らっせ」を出店した。 したがって、被請求人の上記主張は、事実に反する誹謗中傷にすぎないというべきである。 以上述べてきたことから明らかなとおり、「宇都宮餃子館」に全国的な周知著名性などなく、また、餃子による町おこしを牽引してきたのは請求人であって、エストないし被請求人が牽引してきたかのごとき主張は事実と反する極めて誇大な独自の主張であるから、被請求人の主張は全く根拠がないものであって誤りである。 なお、エストないし被請求人が請求人の会員である点に関し、会員となる以前から「宇都宮餃子館」の商標を使用していたエストないし被請求人が請求人の会員となることができた理由について付言すると、既述のとおり、テレビ番組の放映をきっかけに「宇都宮餃子」の知名度が向上し、餃子の製造販売等を行う会社や業者が多数出現するようになると、そうした会社の中には、宇都宮餃子会に加盟せずに「宇都宮」と「餃子」を含む別の商標を利用する者や悪徳業者による便乗商法が目につくようになり、宇都宮餃子会や観光コンベンション協会に苦情を訴える事例が出始めた。 そのような行為を制限するためには、「宇都宮餃子」を宇都宮の餃子店の共有財産として確立するべく、商標登録に向けた模索が始まり、これには団体商標として商標登録を受けるのが有効との結論となった。 宇都宮餃子会の協同組合化もそのための一環であった(甲22の1)が、団体としての統一性に欠けると、主体的要件(商標法第7条第1項)を満たさないとして商標登録を受けられない可能性も懸念された。 宇都宮餃子がブームとなる前から餃子店を営んできた会員にとって、「宇都宮の餃子」や「宇都宮餃子」を店名そのものとして使う行為はルール以前にモラルの問題であり、言わずもがなの不文律であったため、あたかも自らが宇都宮の餃子を代表するような印象を与える「宇都宮餃子館」を屋号として使用するエストの加盟には反対する意見が大勢だったが、組合設立の目的でもあった「宇都宮餃子」の商標登録を実現するためにはやむを得ないとの判断に至り、設立組合員として宇都宮餃子館の加盟を承認した次第である。 組合設立にあたってその設立メンバーであったエストは、組合の定款や商標使用基準の審議や決定にも関与していた。すなわち、規約やルールをよく知る立場にあったとにもかかわらず、自らの営業形態を改めることもなく餃子事業を継続し、これを承継した被請求人も同様に営業を継続拡大して今日に至っている。 イ 「2 本件商標について」に対する弁駁 被請求人は、本件商標が商標登録に至るまでの出願の経緯を説明した上で(14頁行ないし15頁15行)、本件商標の登録を認めた貴庁の判断は正しいと述べる(15頁16行ないし16頁26行)。 しかしながら、ここでの被請求人の主張は、本件商標の出願経過から一応は導かれる一つの分析結果を述べたにすぎないものである。そもそも、特許庁の審査段階において審査官の判断に過誤がありうることは、商標登録に対する登録異議の申立て(商標法第43条の2)や登録無効審判制度(商標法第46条)を設けた法が予定しているところである。 請求人としては、本件商標に対して下された特許庁の登録処分が誤りであると考えたからこそ、本件無効審判を請求したのである。本件商標の登録を認めた審査官の判断が正しいものであることを前提に反論を試みる被請求人の主張は、いわば、問いに対して問いで答える詭弁であるから、請求人としては、これに対する弁駁の必要を認めない。 (2)「第2 無効理由1(商標法第4条第1項第11号該当性)について」に対する弁駁 ア 「(1)結合商標の類否判断(特に要部について)」に対する弁駁 被請求人は、「宇都宮餃子館」の漢字を書した本件商標は、「ウツノミヤギョーザカン」の一連の称呼を生じさせるもの、または「宇都宮」の部分が単なる地名であるから「餃子館」を要部とするものであって、引用商標の「宇都宮餃子」とは互いに類似しない旨主張する(17頁1行ないし18頁10行)。 しかしながら、「宇都宮」の文字が地名であり、「餃子」の文字が食品の一般名称であるとしても、請求人は、両者があわせて用いられることで、本件商標の「宇都宮餃子」の部分は、単なる「栃木県宇都宮産の餃子」という一般的な意味合いを超えた、全国的に広く知られた「宇都宮餃子」という一体的な別の観念をもって受け取られると主張しているのである。 また、被請求人も本件商標から生じる観念について、「『宇都宮(地名)を本拠地とする餃子の提供施設』」(17頁6行ないし同7行)や、「宇都宮の地の『餃子館』(餃子を提供する施設)」(17頁8行ないし9行)と述べているように、「館」の部分は、(商品の)販売施設といった程度の意味合いを生じる部分であると述べている。 この点については、被請求人自身が、自己のウェブサイトにおいて、「餃子消費量日本一 宇都宮! 美味しい宇都宮餃子のお店」(甲24の1)と表示していたり、インターネットショッピングサイトの「楽天市場」の「健太餃子館」と題する自己のショップで、「本場 宇都宮餃子を全国の皆様にお届け!」や「ギフトに、美味しい宇都宮餃子を送ってみませんか。お歳暮、承ります。」(甲24の2)などと表示していることから、被請求人は「宇都宮餃子館」を「宇都宮餃子の販売施設」の意味合いで使用していることは明らかであり、それを企図して本件商標を採択したことがうかがえる。 したがって、本件商標の要部は「宇都宮餃子」の部分であって、「『館』を除いた『宇都宮餃子』が要部となるなどということはない。」(17頁14行)との被請求人の主張は明らかに誤りである。 被請求人は、簡易迅速を尊ぶ取引においては、本件商標が「餃子館」と略して用いられる可能性が高いと述べ、被請求人のホームページのURL表示や、「宇都宮餃子館」が取引先等において「ギョーザカンさん」と呼ばれていること、一部の新聞記事で「餃子館」の表記がされていることなどを挙げている(17頁14行ないし同26行)。 しかしながら、URLは出所識別標識として使用される商標とは無関係であるし、上記URLも被請求人(あるいはエスト)自身が任意に選択したものである上、被請求人が提出した新聞記事なども、標題や文中の冒頭などに「宇都宮餃子館」が明記ないし記載されており、これを本文中で頻繁に使用するのはくどいことから、便宜上、「宇都宮」を省略して使用されているにすぎないものである(乙7、乙8)。 「宇都宮餃子館」が「ギョーザカンさん」と呼ばれていることについては、請求人としては預かり知るところでないが、少なくともこれを示す証拠は一切提出されておらず、仮にそのように呼ばれることがあるとしても、上記新聞記事と同様に、会話中における便宜上の称呼であろうことは容易に想像できるところである。 さらに、被請求人は、本件商標の審査段階において、審査官が被請求人の意見書による主張を受け入れ、「宇都宮餃子館」の自他商品識別力を認めたことを挙げている(18頁11行ないし同17行)。 しかしながら、ここでの意見書による被請求人の主張及びこれに対する審査官の判断は、「宇都宮餃子館」が自他商品識別力を有するものであるか否かについてであり、引用商標との類否について直接的に判断されたものではない。 全国的な周知著名性を獲得した「宇都宮餃子」の文字を含む本件商標が自他商品識別力を有する点について請求人に異論がないことはいうまでもないが、そうではなく、既述のとおり、引用商標を本件商標に対する他人の類似商標とせずに登録処分を下した特許庁の判断を正すことが、本件無効審判を請求した請求人の趣旨である。 一方、被請求人は、引用商標が獲得した周知著名性に関し、請求人が提出した証拠について「『宇都宮餃子』という名称が、単に『宇都宮の地で提供される餃子』という程度の意味合いで一般的に使われていることを示すにすぎず、本件商標の出願日(あるいは登録査定日)において、引用商標が請求人又はその構成員の業務に係る『ぎょうざ』及び『ぎょうざの提供』を表す商標として周知となったことを示すものとは認め難い」(19頁6行ないし同10行)などと述べ、引用商標の出願段階で提出された証拠資料(証明願)は「利害関係のある当事者の主観的認識ないし願望の表明にすぎない」(20頁5行ないし同6行)や、本件審判請求書に添付した証拠は、引用商標の出願の頃の状況を示すものは、一部であり、「『宇都宮市』が『ギョーザのまち』として知られるようになったこと、『宇都宮餃子』が宇都宮のギョーザを表す一般名称として受け取られていたことをうかがわせるのみであって、『団体(協同組合宇都宮餃子会)又はその組合員の業務に係る役務を表示する標章』として知られたことを示すものではない」(20頁13行ないし同18行)などと述べ、これを論難する。 しかしながら、引用商標の商標出願において提出された証拠資料は、上記証明願だけではないし、既述のとおり、宇都宮市から餃子による町おこしの推進役を委譲された宇都宮餃子会ないし請求人は、テレビ放送をきっかけに餃子による町おこしが大きく前進した平成6年頃から、宇都宮観光コンベンション協会及び宇都宮商工会議所との協同による「宇都宮餃子マップ」の発行といった広報活動等などを行い、他の証拠資料とあわせて総合的に判断された結果、引用商標の登録査定時(平成14年1月24日)において、全国的に広く知られた周知著名性が認定されたのである。 また、被請求人は、「当時の宇都宮市や商工会議所が地域振興の一環として、『餃子の街宇都宮』の知名度を高めることに躍起となっていた」(20頁3行ないし同4行)などと述べるが、上記証明願の記名押印時点では、宇都宮餃子会が餃子による町おこしの推進役を担うようになってから10年近くが経過しており、餃子による町おこしもすっかり軌道に乗って、餃子のまちとしての全国的な知名度も相当程度定着していた(そうでなければ商標法第3条第2項の適用は受けられないはずである。)のであるから、宇都宮市長や宇都宮商工会議所会頭らが「『餃子の街宇都宮』の知名度を高めることに躍起となっていた」ことなど、到底考えられるものではない。 また、本件審判請求書に添付した証拠に関する、引用商標の出願の頃の状況を示すものは一部であるとの主張についても、請求人が上記証拠を提出した趣旨は、特許庁に認定された全国的な周知著名性は、引用商標の登録後、現在でも継続しており、本件商標の出願時(平成19年6月21日)ないし登録査定時(平成20年12月19日)の前後を通じて、何ら変わるところがない、あるいはそれ以上となっていることを示す点にある。 そのため、わざわざ「引用商標が登録された後に掲載された、『宇都宮餃子』に関する新聞雑誌等記事のほんの一例を示す。」(審判請求書7頁16行ないし同17行)と前置きした次第である。 さらに、被請求人は、請求人が提出した証拠を逐一取り上げて、「『宇都宮餃子』が宇都宮という地域の『ギョーザ』を指す名称という程度の意味合いで、新聞雑誌等で使用され、そのようなものとして、需要者に受け取られていたことがうかがわれるにすぎない(ましてや、『宇都宮餃子』が『ブランド名』として知られ、しかも、それが特定の団体ないしその構成員の業務に係る役務を表示する標章であると観念されていたことまで示しているものではない。)。」(21頁1行ないし同6行)などと論難する。 しかしながら、餃子による町おこしが新聞や雑誌で取り上げられることは、すなわち、宇都宮餃子が巷間注目度の高い情報源であることの証左である。 特に、単に宇都宮で餃子による町おこしが行われているという内容でなく、「餃子会は宇都宮以外で『宇都宮餃子』が出回る事態に対し昨年、独自ロゴ付きで同名称を商標登録。」(甲4の2)や、「『食』の地域ブランドの実力度 その他の加工食品」の第2位に「宇都宮餃子」がランクされている(甲4の6)などの記事は、「宇都宮餃子」が有名ブランドのひとつとして理解し把握されている証拠以外の何物でもない。(この点、請求人が提出した多数の新聞記事は、被請求人が提出した「単発」ものの新聞記事(乙6の14、乙7等)と比較すると、宇都宮の餃子による町おこしという一つの題材を追跡している継続性においても、記事として取り上げられる情報価値としても、雲泥の差があるものと思料する。) こうした新聞記事や雑誌記事が長年にわたって何度も継続して報じられる事実に照らせば、「宇都宮餃子」の全国的な周知著名性は疑う余地がなく、これに対する被請求人の主張は、単なる言いがかりにすぎないというべきである。 その他、被請求人は、「引用商標について『使用による識別力』をいうのであれば、平成7年以降今日まで継続して被請求人の餃子の提供及び小売りの業務について使用されている『宇都宮餃子館』についても、同様に使用による識別力を考慮すべきである。」(18頁20行ないし同22行)とか、「宇都宮餃子」の周知著名性に関し請求人が提出した証拠について、「『宇都宮餃子』という名称が、単に『宇都宮の地で提供される餃子』という程度の意味合いで一般的に使われていることを示すにすぎず、本件商標の出願日(あるいは登録査定日)において、引用商標が請求人又はその構成員の業務に係る『ぎょうざ』及び『ぎょうざの提供』を表す商標として周知となったことを示すものとは認め難い」(19頁5行ないし同10行)などと主張するが、被請求人の「宇都宮餃子館」に全国的な周知著名性など到底認められないことは既述のとおりであり、「宇都宮餃子」が本件商標の出願時及び登録査定時において全国的な周知著名性を獲得していた事実も既述のとおりである。 なによりも、被請求人自身が「被請求人は本審判において引用商標の登録要件欠如まで主張するつもりはない」(19頁10行ないし同11行)と述べているのであるから、この点に関し、請求人としては、これ以上の弁駁の必要はないものと思料する。 よって、「(1)結合商標の類否判断(特に要部について)」における被請求人の主張に理由はなく、誤りである。 イ 「(2)取引の実情に照らして誤認混同のおそれがないこと」に対する弁駁 被請求人は、「商標の類否ないし誤認混同のおそれの有無は、諸種の要素を考慮してなされる総合的判断である」(28頁16行ないし同17行)として請求人の主張を認めつつ、「総合的に判断するとき、本件商標と引用商標の類似性は否定される。」(28頁18行ないし同19行)と主張する。そして、引用商標が団体商標として登録を認められたことについて、「団体商標についていわれる『類似』あるいは『誤認混同の可能性』とは、構成員に係る業務と構成員でない者に係る業務とを識別できるかという観点でみた誤認混同の可能性(類似)ということにすぎない。」(29頁7行ないし同10行)、「需要者の目から見て、『宇都宮餃子館』と請求人の業務に関連した『宇都宮餃子』とが別のものであることは明らかなのであり、両者の間に誤認が生ずる可能性がないこともまた自明といってよい。」(29頁23行ないし同26行)などと述べ、「『宇都宮餃子館』の商標に接した需要者は、宇都宮で提供されるギョーザという意味合いにおける『宇都宮餃子』を提供する者の中で、特定の営業主体(『宇都宮餃子館』の看板を掲げる施設で餃子を提供する営業主体又はその業務に係る餃子)を識別するのであるから、『宇都宮餃子館』と単なる『宇都宮餃子』との間で出所混同が生ずるおそれはない。」(29頁30行ないし30頁2行)と主張する。 しかしながら、請求人がここで問題としているのは、本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性であり、本件商標が引用商標との関係において、一般的出所混同の可能性としてそのおそれはないと判断した特許庁の登録処分が誤りではなかったのかという点である。 団体商標(商標法第7条)は、平成8年の商標法改正において、団体商標を通常の商標と区別して登録している諸外国との国際的調和の必要性と、通常の商標とは異なる特質を有するものであること等に鑑みて明文化された制度であるが、団体商標として商標登録された商標であっても、その権利の内容や範囲は通常の商標権と基本的には異なることがないことから、主体的要件を除くその他の条件については、通常の商標に関する規定が全て適用されることとなるものとされている。 然るに、本件商標と引用商標が互いに類似するものであり、本件商標の指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務も互いに類似するものである点は、審判請求書及び本書において詳述したところであり、本件商標が引用商標の後願にかかるものであり、本件商標の登録査定時(平成20年12月19日)において、本件商標が引用商標とは出願人名義が異なる「他人」の商標出願であったことも明らかであるから、本件商標が商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであることは疑いようがない。 被請求人は、自己が請求人の会員(団体構成員)であって、引用商標「宇都宮餃子」の使用権原を有することを根拠に、現実の取引場裏において出所混同の混同を生じさせるおそれはなく、本件商標は商標法第4条第1項第11号の規定に違反しないと述べているようであり、また、「ウ 本件商標が長期間使用されてきた事情が考慮されるべきであること」(30頁12行ないし同21行)、「エ『宇都宮餃子館』は全国的に周知であること」(30頁32行ないし31頁5行)などと主張しているが、冒頭で述べたとおり、本件商標が別の第三者に使用許諾されたり、さらに別の第三者に譲渡されたりする可能性を考えると、組合員であるという被請求人の現在の偶々の属性や、宇都宮餃子が全国的に周知になるためにどのような活動をしてきたかなど、取引の実際における一部にすぎない局面的、一時的な事実は考慮すべきでない。 本件商標と引用商標の類否については、端的に両商標の対比において判断すべきであり、引用商標からみて後願にかかる「他人」の商標出願であった本件商標は、同号に該当するものとして拒絶されるべきであった。 ウ 裁判例 知的財産高等裁判所の判決(平成25年(行ケ)第10045号、甲25)は、「カガミクリスタル」の片仮名文字と「江戸切子」の漢字文字とが縦書き二段に配列されてなる商標について、その理由の中で、江戸切子が周知性を獲得する過程において自己の貢献が大きく、引用商標の登録要件欠如までの主張ではないが、かかる点は本願商標と引用商標との類否判断における総合判断要素として考慮すべきと述べているものと理解される出願人(原告)の主張に対し、原告が創業以来80年近くの伝統を有するクリスタル製品メーカーとして全国的に知られる会社であり、「カガミクリスタル」のブランドで商品展開していることは証拠上明らかであると認定しながら、現に「江戸切子」が地域団体商標として登録され、本件組合の商標として江戸切子が一定程度の周知性を保っていることも否定することができない以上,原告の本願商標が、要部と認めざるを得ない「江戸切子」部分において引用商標の自他識別機能を凌駕していると認めることはできないといわなければならないと説示し、上記原告の主張を退ける判断をしている。 同判決における上記説示は、全国的に知られる会社の商標出願であっても、同一又は類似する他人の先行商標が存在しており、その自他識別機能を凌駕していると認めることはできないものについては、商標法第4条第1項第11号に該当する旨を明確にしている。 被請求人の「宇都宮餃子館」に周知著名性など化体していない点はすでに述べたとおりであるが、請求人は、同判決に照らすことで、本件商標が引用商標に類似するものであり、商標法第4条第1項第11号に該当することがより明白になるものと考えることから、これを提出する(甲25)。 (3)「第3 無効理由2(商標法第4条第1項第15号該当性)について」に対する弁駁 本項において、被請求人は、「本件商標と引用商標は非類似であり、かつ、11号における非類似の事情以上に、本件商標が引用商標との混同を生じさせる特別な事情は存在しないから、15号該当の主張が成り立つ余地がないことは明らかである。」(32頁11行ないし同14行)と主張するが、既述のとおり、本件商標と引用商標は要部が同一である類似商標であり、一般的に出所混同を生じさせるおそれが高いものである。 また、被請求人は、「むしろ、本件では、『宇都宮餃子館』という標章自体が、被請求人(及びその前身であるエスト)による継続使用を通じて、全国的規模での識別力を獲得しているのであり、その点からみても、15号にいう『混同を生ずるおそれ』は存在しない。」(32頁14行ないし同17行)とも述べるが、被請求人の「宇都宮餃子館」に全国規模での識別力など化体しておらず、もし仮に何等かの識別力が認められるとしても、それは「宇都宮餃子会」の一会員として活動したことによるものであろうし、請求人の規則を無視し、いわば請求人ないし他の構成員を蔑にして獲得されたものであろうから、その識別力は請求人に帰属するものであり、この点においても被請求人の主張は誤りである。 さらに、被請求人は、「宇都宮餃子会は、餃子の提供などの業務を営む業者の団体(集まり)であるところ、本件商標『宇都宮餃子館』がそのような『団体』の業務を表していると需要者、取引者において誤認混同するおそれは全くない。」(33頁3頁ないし同6行)とか、「『宇都宮餃子館』を営む被請求人は宇都宮餃子会の正規のメンバーであるから、構成員でない者が構成員と誤認されるなどという『問題』は、そもそも存在し得ない。」(33頁9行ないし同11行)などと述べる。 しかしながら、商標法第4条第1項第15号は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリュージョン)を防止し、商標の自他商品識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものとされているところ、これまで説明してきたとおり、本件商標は、宇都宮餃子会に加入しない段階でエストが独自に使用を開始し、その業務を承継した被請求人が会則を無視して使用してきたものであるから、本件商標の出願及び登録には、正当権利者である請求人の意思は全く反映されていない。 このため、商標法第4条第1項第15号に照らせば、本件商標には、もともと周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)の意思が含まれているものであるといえる。 また、本件商標の登録継続を認めることは、「宇都宮餃子」に他の文字や語が結合すれば、簡単に非類似の商標と評価され、別人に帰属する「宇都宮餃子」の文字を含む多数の商標の登録を認める事態を招来しかねないのであるから、本件商標の希釈化(いわゆるダイリュージョン)を招くことにもなる。 被請求人は、「『宇都宮餃子』の名で一般に呼ばれる餃子は、元々、決まった製法や特徴があるわけではなく、むしろ、個々の店舗がそれぞれバラエティに富んだ餃子を提供していることが特色である」(33頁17行ないし同19行)と述べており、その説示自体に異論はないが、そうであるとしても、「産地のブランドや品質を守るために「宇都宮餃子」の名称使用を宇都宮餃子会がコントロールしなければならないという必要性は、はじめから存在しないか、存在したとしても極めて希薄」(33頁20行ないし同23行)などということは断じてない。 請求人としては、「宇都宮餃子」に決まった製法が無いからこそ、自らが宇都宮餃子の代表であると誤認される屋号の使用を禁じているのあり、組合員に使用を認めている「宇都宮餃子」も、あくまでも主として使用するのは個店のブランド(屋号)であり、「宇都宮餃子」は屋号を修飾する、いわば一定の基準を満たした店舗にのみ認められる加盟店であるという安心感を需要者に与える補完的な役割を担うものと位置付けている(甲26。同号証は、平成26年5月24日に開催された請求人の第14回通常総会における配布資料の一部である。同号証は、屋号や「宇都宮餃子」の表記に関して、請求人が会則で認めている具体例と認めていない具体例を説明している。)。 いわば、「宇都宮餃子」は、定められた一定のルールのもとで、各店舗が切磋琢磨して独自の特徴をうたった餃子を提供し、結果として、宇都宮という町全体の活性化とイメージアップを図ろうとするものであり、協同組合化する以前からの請求人による長年に亘る適正なコントロールが奏功したからこそ、「宇都宮餃子」は地域おこし活動ないしいわゆる「B級グルメ」の代表格となり得たのである(甲22)。 「宇都宮餃子会がコントロールしなければならないという必要性は、はじめから存在しない」などと述べる被請求人の主張は、「異端者」の論理にほかならず、被請求人が、このような論理に基づいて本件商標を出願し、「宇都宮餃子館」による業務を拡大してきたのだとすれば、それはまさしく「周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)」招来させる以外の何者でもない。 被請求人は、「『宇都宮餃子館』を営む被請求人は宇都宮餃子会の正規のメンバーであるから、構成員でない者が構成員と誤認されるなどという『問題』は、そもそも存在し得ない。」(33頁9頁ないし同11行)と述べるが、既述のとおり、商標権者が第三者に対して使用許諾可能な権利(商標法第30条、同31条)を有し、組合員以外の第三者への使用許諾や、事業の移転とは無関係に第三者に対して商標権が譲渡される可能性を考慮すると、団体構成員による出願であるといった属人的・一時的な事情は考慮すべきでない。 (4)まとめ 以上のとおり、本件商標は、「宇都宮餃子」を要部とするものとして、請求人の引用商標に類似するものであり、その指定役務も、引用商標の指定商品及び指定役務と同一又は類似するものであって、引用商標の後願にかかる他人の商標であるため、商標法第4条第1項第11号に該当する。 また、本件商標は、団体として従うべき会則に従わない被請求人によって出願されたものであり、実質的に「周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)」を招来させるものであるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。 答弁書における被請求人の主張は、とどのつまりは、一旦は特許庁が登録を認めた本件商標に対する過去の登録実務のみを実質的な拠りどころとした主張を述べているにすぎない。 被請求人は、「宇都宮地域の飲食店で提供される餃子が『宇都宮餃子』の名で知られるようになったことについては、被請求人の『宇都宮餃子館』も多大な貢献をしている。」(34頁5行ないし同6行)とか、「団体構成員を守るべき立場にある請求人が、長年にわたる使用により営業上の信用と地位を築いてきた被請求人の登録商標『宇都宮餃子館』について無効審判を請求するというのは、まったくもって不当というほかない。」(34頁13行ないし同15行)などと述べるが、いかに業務を拡大して実績を築いたとしても、本件商標が別の第三者に使用許諾されたり、被請求人の事業とは別に第三者に譲渡されたりする可能性を考えると、組合員であるという被請求人の現在の偶々の属性や、宇都宮餃子館が全国的に周知になるためにどのような活動をしてきたかなど、取引の実際における一部にすぎない局面的、一時的な事実は考慮すべきでない。 なお、請求人としては、被請求人が、団体構成員の一員として餃子事業に従事し、結果的に、餃子による町おこしの一端を担ってきた事実を否定するつもりはないが、商標権者である団体自身が使用せず、構成員にのみ使用させることを目的とする商標の使用について独占排他的効力を有する商標権を認めるのは、団体商標制度の制度趣旨、ないし競業秩序法たる商標法の制度趣旨に照らせば、その団体商標が当該団体の定める規則に従って構成員各員により適正に使用されることを当然の前提にしているものと解される。 そうした適正な使用を阻害するおそれがあり、現実に請求人の規則に反する使用がされている「宇都宮餃子館」のような商標は、もはや団体及びその構成員の総意に基づくものとは到底いえない。 請求人が設定登録から5年間を経過する直前に本件審判を請求したのも、審判請求期限(除斥期間の満了)直前まで何とか解決する手段はないかと苦慮模索していたからであり、そうした請求人の意向に反し、本件商標の使用した餃子事業を拡大し続ける被請求人の前にあっては、もはや、公の場で解決を図る以外にほかに策はないと考えた末の苦渋の決断であったが、それをさておくとしても、特許庁が商標登録を認める以上、どのような商標でも出願してよいとか、商標登録を受けたからにはそれをどのように使用しても問題ないなどと考えるべきでないことはいうまでもない。 少なくとも特定の団体に所属し、その定められた規則に従って、他の構成員とともに餃子による町おこしを盛り上げようとするのであれば、まずは構成員としての自らの立場を考え、そのような商標を出願してよいものか否か、商標登録を受けることができるとしてもそれを使用してよいものか否か等を常に考え、所属団体の規則に従って行動するべきことは企業体として当然である。 「宇都宮餃子会の正会員である被請求人が知る限り、本件審判請求について、宇都宮餃子会内で正式の審議や議決がなされた事実は存在しない。」(35頁7行ないし同9行)との説示についても、個々の組合員に関する案件については、その名誉と組合内の秩序維持のために非公開としているにすぎず、ブランド・商標管理の適正化へ向けた具体的方法等については組合三役に一任されているとの理解のもと、その適正化を進めることは、最高意思決定機関である通常総会において複数回にわたって決議されている。 被請求人が述べるところの、「団体商標制度は、その構成員が自らの商標を使用することによって、固有のブランドを確立することを禁止していない」(31頁31行ないし同33行)とか、「むしろ、個別の商標に基づいて固有の信用を形成できるよう保障することは、商標法本来の目的ですらある。」(31頁33行ないし同34行)などの主張は、団体商標制度ないし商標法制度の趣旨を無視した独自の見解というよりほかはない。 5 結び 以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきである。 第3 被請求人の主張 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を審判事件答弁書において次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第49号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 被請求人の事業等 (1)被請求人について 被請求人は、エストが平成7年以来「宇都宮餃子館」の名称を使用して営んできた餃子の提供及び餃子の製造・販売等の事業を、平成17年に、以下の商標権(乙2、乙3)とともに承継し、以来、今日まで一貫して「宇都宮餃子館」の名称を使用して営業を行っている。(乙1の1、乙1の2、乙5 なお、本答弁書では「宇都宮餃子館」の語を、同名称を使用して提供される役務の提供主体又はその施設を指して用いることがある。)。 宇都宮餃子館は、エストが経営主体であった時代から今日に至るまで継続して宇都宮餃子会の会員である。 商標登録第4252306号 第30類「ぎょうざ」 「図柄+宇都宮餃子館」(乙2) 平成 9年7月 2日出願 平成11年3月19日登録 商標登録第4459428号 第42類「飲食物の提供」 「図柄+宇都宮餃子館」(乙3) 平成11年12月30日出願 平成13年 3月16日登録 被請求人の宇都宮餃子館は、平成26年現在、宇都宮市内の店舗と東北自動車道宇都宮インターチェンジのインター店及び西那須野店を合わせて9店となっている。 宇都宮餃子館は、宇都宮地域の餃子店の中でも群を抜いた店舗数を有しているが、その多くはJR宇都宮駅の近く、あるいは、東北自動車道宇都宮インターチェンジのサービスエリアなどの観光客にとって目立つ場所にある。 後に説明するように、宇都宮餃子館では、その営業開始当初から、自らの業務に係る店舗及び餃子を紹介するために、多数の宣伝ちらし、パンフレット、新聞折り込みちらしを配布し、独自に作成した宇都宮の餃子の「食べ歩きマップ」を裏面に印刷したパンフレットを観光客用に配布するなど、活発な宣伝・営業活動を行ってきた。 また、宇都宮餃子館は、全国各地の百貨店等のイベントに参加し、「宇都宮餃子館」の名称を使用してその店舗で餃子を提供し、餃子の宣伝販売を行うとともに、平成10年には、インターネットのホームページhttp://www.estcom.com/gyozakanを開設し(経営主体が被請求人に移ってからはhttp://www.gyozakan.jpとなっている。)、その頃から、全国のデパート、大手の通販会社、コンビニエンスストアと提携して、FAX、電話、インターネットを通じた冷凍餃子の通信販売を開始している(乙15、乙16など)。 このような宣伝・営業活動を通じて、餃子を提供する店舗及び餃子(冷凍品)の提供主体としての「宇都宮餃子館」の名は全国に知られるところとなっている。 (2)「宇都宮餃子館」について 宇都宮餃子館は、餃子の激戦区とされる宇都宮地域において、「ぎょうざの街 宇都宮」を代表する有名店の一つであり、地元では「餃子館さん」の愛称で親しまれている。 以下では、いま少し詳しく、「宇都宮餃子館」の沿革とその事業の実情について述べる。 ア 店舗展開、名称とロゴなど 「宇都宮餃子館」の名称は、エストが、平成7年に宇都宮市内のエストピアビル内に餃子専門店を出店した際に、その屋号として使用を開始したものである(乙9のちらし表側右下写真がエストピア店〔駅西店〕である。看板に「宇都宮餃子館」と大書されている。)。 また、「宇都宮餃子館」のロゴは、エストピア店を開店した頃に、旗やクール宅急便の申込書を準備する中で種々検討した結果、採用されたものであり、丸みを帯びた肉太の独自の書体(「宇」の文字の下端が「ハネ」ではなく、左方斜めに流れる形状となっているなど。)で構成されている(乙4)。 この名称とロゴは、宇都宮餃子館の店舗看板、ちらし、冷凍餃子のパッケージなどに一貫して使用されている(乙5、乙6の5?13、乙9?乙13、乙20?乙25、乙27?乙43、乙45の1)。 宇都宮餃子館の店舗は、平成7年7月オープンの駅西店(宇都宮市〔エストピアビル内〕)以降店舗展開した。 宇都宮餃子館は、平成9年(1997年)に中国四川省成都にも店舗を開店し、そのことは宇都宮の餃子が本場中国に進出した「快挙」として、毎日新聞の地方版や下野新聞の記事にもなった(乙7、乙8 なお、これらの記事では「宇都宮餃子館」が「餃子館」と略して表記されていることに注目願いたい。)。 平成17年9月、エストの餃子部門の営業主体が被請求人に移ったが、その後も、宇都宮餃子館は店舗展開を続け、平成26年現在の店舗数は9店となっている(新規開店と閉店があったので店舗数に増減がある。)。 それらの店舗の多くは、JR宇都宮駅近くの好立地にあり、駅を出れば直ちに「宇都宮餃子館」の東口の駅前ひろば店、改札を出てすぐのパセオ店、西口の中央店、1号店、2号店、餃子村本店などの看板が目に入る。 宇都宮餃子館では、これらの店舗の宣伝広告のために、多数のちらし、パンフレットを配布し、新聞広告を掲載してきた(乙9?乙13、乙20、乙23?乙25、乙37?乙43)。 例えば、「食べ歩きマップ」を印刷したパンフレット(乙10、乙23?乙25、乙37?乙39)は、宇都宮市を訪れる観光客向けに、被請求人の店舗とともに宇都宮近郊の餃子の店を紹介する内容である。 このほか、宇都宮餃子館が設置した広告塔「ようこそ餃子の街へ宇都宮餃子館」は、上り・下りの新幹線から一望することができ、「餃子日本一の宇都宮市」のPRに一役買っている(乙6の8の右上写真が広告塔「ようこそ餃子の街へ宇都宮餃子館」である。広告塔のより鮮明な画像は乙1の1で確認できる。)。 イ イベント等への出店、有名デパートでの販売 「宇都宮餃子館」は、営業開始当初から、全国各地のデパートの催し物や餃子に関わるイベントに積極的に参加し、「宇都宮餃子館」の知名度を高めてきた。その様子は、当時の新聞記事等からうかがい知ることができる(乙15、乙16)。 細かい記録は残っていないが、例えば、平成15年(2003)のダイレクトメール(乙35)や平成18年(2006)の宣伝ちらし(乙40、乙41)には、全国の有名デパート等のイベントに出店したことが記載され、また、「宇都宮餃子館」の餃子の取扱店として、福田屋百貨店、阪急百貨店梅田本店、日本橋三越本店、プランタン銀座、東急百貨店札幌店、東急百貨店吉祥寺店、東武百貨店船橋店、伊勢甚日立店、福屋広島駅前店、丸井今井札幌本店、八木橋百貨店などが記載されている。 宇都宮餃子館がイベント等への出店に精力を注いでいたことは、例えば、ロサンゼルスで開催された餃子祭り(乙36)や香港で開催された「とちぎ物産フェア」(乙6の14)に出店したこと、平成17年に名古屋で開催された「愛・地球博」に栃木県代表で出店したこと(乙44)にも示されている。 ウ カタログ通販、宅配、インターネット通販等 宇都宮餃子館は、平成11年頃から、店舗営業だけでなく、餃子の全国販売にも注力した(乙15、乙16)。古い記録のほとんどは散逸したが、例えば、平成11年、12年当時のものでは、ANA美味倶楽部、高島屋、イトーヨーカ堂、セブン-イレブンなどと取引を開始したことを示す記録が残っている(乙17?乙19)。平成12年には、大手カタログ通販会社の千趣会と取引を開始し(乙26)、平成14年(2002)、15年(2003)の千趣会の通販カタログ「ベルメソン」には、「全国の有名餃子」の特集に「宇都宮餃子館」の餃子が掲載されている(乙27?乙30)。 また、「宇都宮餃子館」では、平成10年末頃にはウェブページを開設し、インターネットを通じた通販を開始した(乙11、乙15)。 なお、エストの時代から今日に至るまで、URLにおける被請求人の表示に一貫して「gyozakan」(ギョーザカン)が使われていることに注目されたい。乙20、乙43)。乙31?乙36、乙43は、ダイレクトメール(裏面が発注用紙になっている。)ないし通販用ちらし、店舗設置の販促用ちらしの例である。 エ 直営工場 宇都宮餃子館で提供される餃子、店頭、通販等で販売される餃子は、当初はエストピア内の加工所(平成8年9月餃子成形機を導入)で生産され、平成9年からは宇都宮近郊の氏家町(現さくら市)に建設した工場で生産されるようになった。同工場は月産約100万個(生産能力は月産300万個)あり、宇都宮工業団地に近々建設される新工場では更なる増産が予定されている。 オ ウェブサイト 宇都宮餃子館は、平成10年頃からインターネットのホームページ(現在はhttp://www.gyozakan.jp/)(乙43)を設け、店舗及び商品の紹介、団体客の受付け、餃子のインターネット通販等を行っている。このホームページには、店舗の紹介及び商品の紹介とともに、通販の広告が掲載され、また、団体客の入れる店舗として「宇都宮インター店」、「駅前イベントひろば店」が掲載されている。 カ その他 「宇都宮餃子館」は観光バス等の団体ツアー客も受け入れている。平成12年4月のインター店オープン後ただちに団体ツアー受入を開始し、平成13年(2001年)頃以降、JTB、日本旅行、読売旅行、はとバスなどの大手旅行代理店のツアー団体も受け入れてきた(乙1の3)。 キ 「宇都宮餃子館」の名称の知名度 宇都宮餃子館は、平成7年に第1号店として駅西店(のちにエストピア店)を開設して以来、相次いで餃子店を展開し、その数は、引用商標の出願・登録当時で10店舗(平成13年に閉店した横浜八景島店を含めれば11店舗)、本件商標の登録査定がされた頃には13店舗となっていた。それらの「宇都宮餃子館」の店舗の多くは、JR宇都宮駅前に立地している(特に中央店、1号店などは駅前に大きな看板が見える。)。 また、東北自動車道宇都宮インターチェンジのインター店は、客席数290席、大型バス10台、一般車50台の駐車場を備えた大型店であり、駅前イベントひろば店も大型バス10台、一般車180台の駐車場を備え、客席数350席の大規模な施設であって、団体客、自家用車の客を含めて多くの観光客が訪れるところとなっている。 このような店舗展開に加えて、カタログ通販、有名デパートとの取引、インターネット通販、ウェブサイト(http://www.gyozakan.jp)の広告等を通じて、「宇都宮餃子館」の名前と「宇都宮餃子館」の名で販売される餃子は、全国に広く知られている。 以上のとおり、被請求人の営む宇都宮餃子館とその餃子は、「ギョーザの街」として知られるようになった宇都宮を代表する餃子専門店・餃子の一つとして、全国的な知名度を有しているのである。 (3)宇都宮餃子会との関係など 本件の請求人である宇都宮餃子会は、「餃子の消費量が日本一」の宇都宮市を「餃子の街」として振興することと等を目的として、平成5年7月に設立された。 宇都宮餃子会の構成員は、今でこそ80店と増えているが、平成5年7月の発足時は5店(5店主)であり、その後会員が増えても、比較的大手の「みんみん」、「正嗣」(まさし)などを除けばいずれも小規模な飲食店の集まりであったことに変わりはなく、財政的にも組織的にも、会として独自のPR活動を行うなどの力はなかった(この頃の宇都宮餃子会は、未だ協同組合ではなく、餃子を提供する飲食店が集まった任意団体であった。宇都宮餃子会が1口1万円、160ロの出資を得て、加盟店35店の協同組合として成立したのは、発足から8年を経過した平成13年1月のことである。乙48)。 そのような中で、宇都宮餃子館は、いち早く、駅前に数店舗を展開し、各地のイベントに出店し、さらに、上り・下りの新幹線からよく見える駅近くの場所に「ようこそ餃子の街へ餃子日本一の宇都宮市宇都宮餃子館」と大書した看板を設置するなどして、「餃子の街」宇都宮のPRに努めてきた。 これらの看板の映像は、テレビ等で餃子の街として宇都宮が紹介されるときには、必ずといってよいほど使用される、いわば街の顔となっている(他方、請求人やその前身の宇都宮餃子会がこのような看板を設置したことはない。)。 実際、各地の餃子イベントやデパートのうまいもの展等への出店は、発足当時の宇都宮餃子会が自前で参加するだけの力を有していなかったため(何よりも「餃子」を各地のイベントに持ち込んで提供するのが困難であった。)、自前の餃子工場を有し大量の餃子を持ち込む能力のあった宇都宮餃子館が実質上ほとんどを担ってきたというのが実情であり、宇都宮餃子館では採算の合わない地方のイベントでも、宇都宮の餃子のPRのために参加したものが数多くある。 なお、請求人は、宇都宮を「餃子の街」として有名にし「宇都宮餃子」の名を広く知らしめたのは請求人であり、「宇都宮餃子」は請求人とその構成員の業務を指す標章として知られているかのようにいうが、これは事実と異なる。 例えば、宇都宮市では、平成7年頃から「ぎょうざマップ」が作成されるようになったが、これを推進し財政的に支えたのは市の観光協会と商工会議所であった(宇都宮餃子会はこれに協力し、そのことを平成13年に開設した会のホームページにおいて「観光協会・宇都宮餃子会・商工会議所で共同作成」と表現している。実際、甲6の1、乙45の1等に示されるように、マップは宇都宮観光コンベンション協会と宇都宮商工会議所との共同名義となっている。)。 また、平成11年(1999年)に、各地の餃子を集める餃子の祭典として宇都宮市で開催された第1回目の餃子祭りは、乙第14号証の写真に示されるように、「うつのみや餃子まつり」と表示され、宇都宮地域から参加した各店舗は「宇都宮の餃子」として自店の餃子を提供しており、「宇都宮餃子」なる標章は使用されていない。 これとは別に、宇都宮市商工会議所は、平成10年に、国の補助を受けて、「おいしい餃子とふるさと情報館:来らっせ」と称する実験店舗(アンテナショップ:種々の餃子店の餃子を1ヵ所で味わえる施設)を開設した。これは、商店街の空き店舗活用と観光PRを兼ねた試みであり、当時の新聞(乙45の2)には、「ギョーザの街宇都宮」は全国に定着したが、実際にはギョーザの店(餃子専門店だけで約25店あったとされる。)はバラバラに点在し、観光客はどこで、どのようにして食べていいのか分からない状況で、せっかくのビジネスチャンスを逃しているので、商工会議所が国の補助を受けて、市内の空き店舗を賃借してギョーザ専門店を出店させることを計画したことが記載されている。 この記事からは、少なくとも平成10年当時、「宇都宮餃子」の名は、「餃子の街宇都宮」の餃子を指すという程度の意味合いでしか知られておらず、宇都宮餃子会のシンボルというにはほど遠いものであったことが分かる(この時点でも「来らっせ」に「宇都宮餃子」の標章は使用されていない。)。 なお、請求人は、協同組合化した後の平成13年に、商工会議所から「来らっせ」の飲食部門の運営を移管されたが、請求人が運営主体となって平成14年に開設した池袋のナンジャタウン「来らっせ」は、請求人の指導・管理能力の不足から、営業不振となって閉店し、そのスペースを宇都宮餃子館が引き継いで「宇都宮餃子館」をオープンしている(平成23年開設の「宇都宮餃子館池袋ナンジャタウン店)。 以上のように、請求人の活動によって「宇都宮餃子」が全国的に周知となり、請求人(及びその構成員)の業務を指すものとして知られているという請求人の主張は、誇張であって事実を正確に述べたものではない。 2 本件商標について (1)登録に至る経緯(乙6) ア 出願 本件商標は、平成19年6月21日、以下を指定商品・役務として出願された(商願2007-075485)。 第35類 餃子を主とする加工食料品等の小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 第43類 餃子を主とする飲食物の提供 イ 拒絶理由通知 これに対して、平成20年5月21日付けで拒絶理由が通知された。 その拒絶理由1は、商標法3条1項3号該当であり、「この商標登録出願に係る商標は、「栃木県の宇都宮地域(宇都宮市)」を認識、理解させる「宇都宮」の文字と「餃子を取り扱う館(提供場所)」を指称する「餃子館」の文字とを結合した「宇都宮餃子館」の文字を書してなるものですから、全体の文字よりは「栃木県宇都宮市で餃子を提供する館(提供場所)」を認識させるに止まり、これを本願指定役務に使用するとしても、単に餃子の提供場所を表示するにすぎないものと認められます。」というものであった。 拒絶理由2は、商標法第4条第1項第11号であり、引用された商標は、上記1(1)に記載した被請求人自身の商標(引用商標1:登録第4252306号、引用商標2:登録第4459428号)であった。なお、本件商標に4条1項11号該当の拒絶理由が通知されたのは、引用商標1及び2について被請求人への商標権移転登録が未了であったためであるが、平成20年7月4日付で登録名義人を被請求人(有限会社さくら食品)とする登録名義人の表示変更登録申請をしたことにより、拒絶理由2は解消している。 ウ 拒絶理由通知に対する意見書 拒絶理由1に対しては、被請求人は、平成20年7月4日付けで意見書を提出し、「有限会社さくら食品では、約13年「宇都宮餃子館」の看板を表示している。また、パンフレット等にも宇都宮餃子館のロゴを付しているため全国的にも知られるようになった。」との意見を述べるとともに、これを裏付ける資料(資料1:社歴、資料2:パンフレット等、資料3:写真、資料4:新聞)を提出した。 特許庁は、この意見を容れて、平成20年12月19日、本件商標の登録査定をしたものである。 (2)本件商標の登録を認めた特許庁の判断は正しいこと ところで、平成20年5月21付けで通知された4条1項11号該当の拒絶理由において、本件における請求人の引用商標(登録第4546706号、「宇都宮餃子」)は、引用されていない。このことは、本件商標の登録要件を審査した特許庁においても、本件商標「宇都宮餃子館」は引用商標「宇都宮餃子」との類似性が問題となるような商標ではなく、混同のおそれなどまったく問題にならないと判断していたことを示すものである。 この特許庁の判断は、いうまでもなく正しいものである(両商標が非類似であることについては、別途、後記3で詳述する。)。 すなわち、本件商標は、拒絶理由通知にあるように「宇都宮」の文字と「餃子館」とに分離して認識されるか、又は「宇都宮餃子館」として一体に認識されるかのいずれかであって、いずれにしても、「宇都宮餃子」と「館」のように不自然に分離して認識されるものではないから、「宇都宮餃子館」の文字中の「宇都宮餃子」の5文字を要部とするものではなく、引用商標とは称呼及び観念において非類似である。 とりわけ、本件商標の審査当時、宇都宮は餃子の町として雑誌等で取り上げられるようになり、請求人の主張によれば、「宇都宮餃子」の名称は請求人(ないしその構成員)の業務を表す表示として周知となっていたとされる。この請求人の主張を前提とすれば、本件商標の登録要件を審査した特許庁においても、当然、「宇都宮餃子」の登録商標の存在を認識しており、出願に係る「宇都宮餃子館」の文字の中から「宇都宮餃子」の部分を取り出して分離観察して類否判断の対象とすることは容易であったはずであるが、それにもかかわらず、請求人の「宇都宮餃子」が引用商標とされることはなく、本件商標は自他識別力を認められて、登録査定された。このことは、特許庁において、「宇都宮餃子館」がその構成自体からして「宇都宮餃子」から十分に識別される商標であると判断されたからであると考えるほかない。 さらにいえば、「宇都宮餃子館」は、前述したとおり、引用商標の出願・登録より前から一貫して被請求人の餃子に係る営業を示す標章として使用され、その餃子提供に係る業務及び取扱商品を表すものとして需要者に広く知られるところとなっていた。このように長期にわたって継続使用され、全国的な知名度を有するに至った本件商標「宇都宮餃子館」を、その登録から5年を経過する直前に請求された無効審判において、登録時の判断を敢えて覆し、法的安定性を害してまで、無効とすべき理由は全く存在しない。少なくとも、他人に使用させることを目的として登録された団体商標を理由として、当該団体商標の出願より前から、その団体の構成員の営業に使用されてきた商標の商標登録を無効とするのは、商標法や団体商標制度の趣旨に完全に反するものである。 3 無効理由1(商標法第4条第1項第11号該当性)について (1)商標の非類似 ア 結合商標の類否判断(特に要部について) (ア)本件商標の構成(要部)について 本件商標は、「宇都宮」の地名と「餃子館」の語を一連に結合して表し、漢字6文字の「宇都宮餃子館」とした商標であり、「ウツノミヤギョーザカン」という一連の称呼か、又は、「ウツノミヤ」及び「ギョーザカン」の称呼を生じさせる。 そして、「宇都宮餃子館」(ウツノミヤギョーザカン)からは、「宇都宮(地名)を本拠地とする餃子の提供施設という一体の観念が生じ、「宇都宮」(ウツノミヤ)と「餃子館」(ギョーザカン)からは、宇都宮の地の「餃子館」(餃子を提供する施設)という観念を生じる。 もっとも、宇都宮は単なる地名であるから、そのどちらと解しても、識別力を発揮するのは、本件商標の構成中の「餃子館」(ギョーザカン)の部分であることが明らかである。 いずれにしても、本件商標が「宇都宮餃子」(5文字)と「館」(1文字)という、外観上も称呼上もバランスの悪い組み合わせに分離して認識されるというのは取引上不自然であるから、「館」を除いた「宇都宮餃子」が要部となるなどということはない。 なお、簡易迅速を尊ぶ取引では、地名(宇都宮)などを省略した短い称呼が用いられることが多いから、現実の取引では、本件商標についても「ギョーザカン」という、略した称呼が用いられる可能性が高い。ちなみに、被請求人のホームページのURL表示は「www.gyozakan.jp/」であるし、実際にも、地元の宇都宮市において、被請求人の宇都宮餃子館は、「ギョーザカン」さんと呼ばれて親しまれている。 取引先やイベント関係者も被請求人を「ギョーザカン」さんと呼ぶ例が多い。ちなみに、乙7、乙8の新聞記事においても、「宇都宮餃子館」は地名を省略した「餃子館」と表記されている。 以上、いずれの点からしても、本件商標から「宇都宮餃子」だけを分離した「ウツノミヤギョウザ」の称呼・観念が生ずることはないのであって、本件商標において識別力を発揮する部分(要部)は、「宇都宮餃子」ではなく、一まとまりの「宇都宮餃子館」か、「宇都宮餃子館」の中の「餃子館」である。 (イ)「宇都宮餃子」が要部であるとする請求人の主張に対して 請求人は、本件商標の要部は「宇都宮餃子館」なる文字中の「宇都宮餃子」の部分であると主張する。しかしながら、「宇都宮」は単なる地名を表し、「餃子」は食物の「ギョーザ」の一般名称であるから、これらを結合してなる「宇都宮餃子」もそれ自体として識別力を有するものではない(地名と役務の提供の用に供する物の一般名称を単に結合しただけの商標は、識別力を欠く商標の典型である。)。したがって、本件商標中の「宇都宮餃子」の文字は、それだけでは本来、自他識別力を有し得ない部分であり、商標の要部とはなり得ないというべきである。むしろ、本件商標の自然な称呼である「ウツノミヤギョーザカン」又は「ウツノミヤ」「ギョーザカン」からすれば、本件商標の要部は、ひとまとまりの「宇都宮餃子館」又は地名の「宇都宮」を省略した「餃子館」の部分にあるというべきあって、「宇都宮餃子」と「館」に分離することは取引上不自然である。 この点、特許庁は、一旦は平成20年5月21日付け拒絶理由通知において本件商標が「宇都宮」と「餃子館」に分離して観察され得ることを前提とする判断を示したうえで、本件商標が継続使用されている事実を資料によって示した出願人(被請求人)の意見を容れて、「宇都宮餃子館」そのものに自他識別力を認めて、本件商標の登録を認めている。特許庁の判断では、少なくとも、本件商標を「宇都宮餃子」と「館」に分離して観察することは、取引上不自然であるとの立場がとられたのである。 なお、請求人は引用商標「宇都宮餃子」が使用により識別力を獲得したとの前提に立って、本件商標の要部は「宇都宮餃子」の部分に存すると主張しているが、引用商標について「使用による識別力」をいうのであれば、平成7年以降今日まで継続して被請求人の餃子の提供及び小売りの業務について使用されている「宇都宮餃子館」についても、同様に使用による識別力を考慮すべきである。 そして、餃子の提供及び小売りに係る業務に使用されてきた商標という点でみれば、本件商標も、引用商標の登録前から継続して使用され全国的に知られていたのであるから、引用商標「宇都宮餃子」とは異なるものとして独自の識別力を有することが明らかである。特許庁の判断も、本件商標に対して請求人の引用商標「宇都宮餃子」を先願に係る他人の商標として引用することなく、本件商標の登録を認めているから、本件商標に独自の識別力があることを前提としたものと解される。 (ウ)「宇都宮餃子」の周知性をいう主張について 請求人は、平成5年7月に宇都宮餃子会が発足し、引用商標がそのころから請求人及びその構成員の業務にかかる「餃子」及び「餃子提供」を表す標章として使用された結果、平成19年(本件商標の出願日)には、全国的な周知著名性を獲得していた旨主張し、引用商標の「周知性」をもって本件商標の要部が「宇都宮餃子」にあるとの主張の根拠としている。 しかしながら、請求人が引用商標の周知性を示すものとして挙げる事実は、以下に詳述するとおり、いずれも、「宇都宮餃子」という名称が、単に「宇都宮の地で提供される餃子」という程度の意味合いで一般的に使われていることを示すにすぎず、本件商標の出願日(あるいは登録査定日)において、引用商標が請求人又はその構成員の業務に係る「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」を表す商標として周知となったことを示すものとは認め難い(なお、被請求人は本審判において引用商標の登録要件欠如まで主張するつもりはないが、以下に述べる事情は、本件商標と引用商標の類否判断における総合判断要素として考慮されるべきことを主張するものである。)。 a 引用商標が登録されたことが周知性の証左であるとの主張について まず、請求人は、引用商標が、地域団体商標ではなく、平成17年法改正前の団体商標として商標法3条2項の適用を受けて登録されたことを強調し、そのことをもって、引用商標が出願・登録当時から周知であったことの証左である旨主張する。 引用商標の審査過程において、周知性を証明する資料としていかなる資料が提出されたかは包袋記録からは不明であるが、引用商標の包袋には、請求人が事前に用意した同一の定形文言の「証明願」と題する書面に、当時の宇都宮市長、宇都宮市商工会議所会頭、宇都宮観光コンベンション協会会長等が記名押印した証明書が入っており、それらが登録査定に何らかの影響を与えたと推測される。しかしながら、その内容は、宇都宮餃子会の来歴とその活動内容を簡単に述べた後、「宇都宮餃子」の名は、「『協同組合宇都宮餃子会』が商品『ぎょうざ』及び役務『ぎょうざの提供』に使用しているものであると、需要者及び取引者の間に広く認識されるに至ったものである」という結論ないし評価のみを記載したものにすぎない。当時の宇都宮市や商工会議所が地域振興の一環として、「餃子の街 宇都宮」の知名度を高めることに躍起となっていたことからすれば、このような「証明書」は、いわば利害関係のある当事者の主観的認識ないし願望の表明にすぎないとみるのが適切であり、客観的な事実の問題として、需要者・取引者にとって「宇都宮餃子」が宇都宮餃子会又はその構成員の業務に係るものとして広く知られていたことを示すとはいえない。 b 請求人が引用商標の周知性を示すとして提出した証拠について 請求人は引用商標の周知性を示すものとして、多数の新聞記事等(甲4の1?20、甲5の1?6)及び甲第6号証以下の証拠を引用している。 それらのうち、引用商標の出願(平成13年8月2日)又は登録査定(平成14年1月24日)の頃の状況を示すものは、甲第4号証の1及び2のみである。 これらは、「宇都宮市」が「ギョーザのまち」として知られるようになったこと、「宇都宮餃子」が宇都宮のギョーザを表す一般名称として受け取られていたことをうかがわせるのみであって、「団体(協同組合宇都宮餃子会)又はその組合員の業務に係る役務を表示する標章」として知られたことを示すものではない。 そして、このこととの関係では、団体商標よりも周知性の要件が緩いとされる地域団体商標(平成17年改正法7条の2)においてすら、周知といえるためには、「当該商標が特定の組合又はその構成員の業務に係る商品・役務を表示するものとして、隣接県に及ぶ程度の需要者(及び取引者)に広く認識されていること」が必要であり、その地域ブランド名自体はよく知られているものであるとしても特定の組合又はその構成員の業務に係る商品・役務との認識が希薄である場合には、周知性の要件を充たさないと解されていることが留意されるべきである(例えば、平成22年11月15日「喜多方ラーメン」事件知財高裁判決〔指定役務:福島県におけるラーメンの提供〕中の説示)。 また、平成14年以降の新聞雑誌記事等も、本件商標の出願・登録査定時に引用商標「宇都宮餃子」が特定の団体(宇都宮餃子会)又はその構成員の業務に係る役務等を表す標章として広く知られていたことを示すものではない。 むしろ、これらの資料からは、「宇都宮餃子」が宇都宮という地域の「ギョーザ」を指す名称という程度の意味合いで、新聞雑誌等で使用され、そのようなものとして、需要者に受け取られていたことがうかがわれるにすぎない(ましてや、「宇都宮餃子」が「ブランド名」として知られ、しかも、それが特定の団体ないしその構成員の業務に係る役務を表示する標章であると観念されていたことまで示しているものではない。)。 イ 取引の実情に照らして誤認混同の可能性が存在しないこと (ア)類否判断の基準 一般論として、(a)商標の類否は、両商標の外観・称呼・観念に基づき、商品(役務)の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであること、(b)誤認混同のおそれを判断するにあたっては、取引の実情を考慮する必要があることは、請求人の主張するとおりである。 しかし、商標の類否ないし誤認混同のおそれの有無は、諸種の要素を考慮してなされる総合的判断であるところ、上記(a)(b)の基準を本件に適用して総合的に判断するとき、本件商標と引用商標の類似性は否定される。 (イ)団体商標の識別力と誤認混同の可能性 本件商標は、商標法(平成8年法)7条の規定する団体商標、すなわち、社団法人若しくは事業協同組合その他の特別の法津により設立された組合等が「その構成員に使用させる商標」として審査され、登録された。 団体商標とは、同業者又は密接な関係を有する営業者からなる社団法人その他の団体で、その団体員の営業上の協同の利益を増進する目的を有する者が、団体員の営業にかかる商品に標章を専有せしめるために登録を受ける標章(注解商標法、新版515頁以下)であり、「団体商標は、事業者を構成員に有する団体がその構成員に使用させる商標であり、商品又は役務の出所が当該団体の構成員であることを明らかにするものである。」(同書517頁)とされている。 このように、団体商標は、団体の構成員に使用させるものであるから、これを使用する事業者が複数存在することが当然の前提とされており、団体の構成員という以上に、個々の構成員を商品・役務の主体として識別させる要素は含まれていない。これを別の角度からいえば、団体商標の上記のような性質上、団体商標についていわれる「類似」あるいは「誤認混同の可能性」とは、構成員に係る業務と構成員でない者に係る業務とを識別できるかという観点でみた誤認混同の可能性(類似)ということにすぎない。 上記の点は、団体商標として登録された「宇都宮餃子」標章にも当てはまるものであって、「宇都宮餃子」の標章は、仮にこれを請求人の業務に係る役務を表す標章としてみたとしても、同標章を適法に使用できる者が団体(宇都宮餃子会)の構成員であることを表すにとどまり、それ以上に個別の商品・役務の主体を識別させるものではない。現に、「宇都宮餃子」なる標章は、多数の異なる営業主体が提供する餃子に関する役務又は商品について使用され、例えば、餃子会が提供する公式ガイド(マップ)(甲6の1等)にも、多数の異なる看板(屋号)の店舗が「宇都宮餃子」なる餃子の提供主体として名を連ねている。 そして、上記のようなマップに、宇都宮餃子会に属する他の店舗と並んで「宇都宮餃子館」の複数店舗が掲載されていることからすれば、需要者にとって、「宇都宮餃子館」と「宇都宮餃子」が異なるものを指し示している(仮に「宇都宮餃子」が宇都宮餃子会の業務に係る役務を表しているとすれば、「宇都宮餃子館」はこれと異なる業務主体を指し示している)ことは明らかである。すなわち、需要者の目から見て、「宇都宮餃子館」と請求人の業務に関連した「宇都宮餃子」とが別のものであることは明らかなのであり、両者の間に誤認が生ずる可能性がないこともまた自明といってよい。 また、そもそも、引用商標「宇都宮餃子」が団体商標であって複数の構成員による使用を予定しているということは、その商標の下では個別の営業主体を識別できないことを意味しているところ、本件商標「宇都宮餃子館」は、特定の営業主体を識別させる商標である。そして、「宇都宮餃子館」の商標に接した需要者は、宇都宮で提供されるギョーザという意味合いにおける「宇都宮餃子」を提供する者の中で、特定の営業主体(「宇都宮餃子館」の看板を掲げる施設で餃子を提供する営業主体又はその業務に係る餃子)を識別するのであるから、「宇都宮餃子館」と単なる「宇都宮餃子」との間で出所混同が生ずるおそれはない。 なお、念のために付け加えるなら、被請求人は餃子会の正会員であるから、本件商標「宇都宮餃子会」の中に「宇都宮餃子」の文字が含まれるからといって、団体構成員とそうでない者を識別させることによって団体の業務に係る信用を維持するという、団体商標の趣旨・目的を損ねることもない。 以上のような事情は、団体商標として登録された引用商標について、恒常的な取引の実情をなすものである。そして、このような取引の実情を考慮するとき、引用商標と本件商標との間に、誤認混同のおそれが存在しないことは明らかであるから、両者は非類似である。 (ウ)本件商標が長期間使用されてきた事情が考慮されるべきであること 引用商標「宇都宮餃子」が特定主体の業務に係る役務を表すものとして周知であるとは考えられないことは既に述べたとおりであるが、その点を一応措くとしても、使用による自他識別力の存在を前提に引用商標(団体商標)と本件商標の類否(混同の可能性)を問題にするのであれば、本件商標についても同様に、その使用に関わる事情、すなわち、「宇都宮餃子館」が長年にわたって使用され、需要者の間で広く知られる状態となっていたことを考慮すべきである。 エ 「宇都宮餃子館」は全国的に周知であること 上記第1の1で述べたことから既に明らかなとおり、本件商標「宇都宮餃子館」は、本件の指定役務に係る被請求人の業務を表すものとして、全国に広く知られている。 すなわち、被請求人は、宇都宮地域において最も多い店舗数を有する餃子店であり、宇都宮の玄関口であるJR宇都宮駅前及び東北自動車道宇都宮インターチェンジ付近に大規模店を有し、また、遅くとも平成10年頃から、カタログ通販、インターネット通販、有名デパートや大手コンビニとの提携を通じて、「宇都宮餃子館」の餃子を全国に販売している。例えば、カタログ通販の千趣会のカタログでは、全国の有名餃子の一つとして「宇都宮餃子館」の餃子が掲載されている。「宇都宮餃子館」の餃子は、月産100万個に達し、店舗で提供される数及び通販で販売されるものを合わせて、いわゆる「宇都宮餃子」の中でも有数の販売量を誇っている。 (オ)「宇都宮餃子館」の商標登録を無効とすることは、団体商標本来の目的に反すること。 さらにいえば、団体商標である引用商標をもって「宇都宮餃子館」の商標登録を無効とすることは、団体商標制度の本来的目的に反して、団体商標に行き過ぎた保護を与え、個々の営業主体の利益を損なう結果を招来するものである。 すなわち、「宇都宮餃子館」の商標は、被請求人にとって、その餃子に係る業務についての営業上の信用を形成・維持するための不可欠の基盤であり、被請求人は、長年にわたり本件商標「宇都宮餃子館」をその業務について使用することにより、その営業の地盤を築いてきた。 本件商標登録が無効とされることによって商標権が失われれば、被請求人は、本件商標「宇都宮餃子館」と類似の商標を使用する者に対して、排他権を行使することができなくなる。 これは、被請求人が「宇都宮餃子館」ブランドの確立のために行ってきた投資、営業努力、そしてこれによって形成されてきた信用を大きく損なうことになる。 構成員に使わせることを目的とする団体商標を引例として、本件商標のような長年使用されてきた商標の登録を無効にすることは、個々の企業が営々と築き上げてきた営業努力の成果を否定することに等しい。 団体商標制度は、その構成員が自らの商標を使用することによって、固有のブランドを確立することを禁止していないし、むしろ、個別の商標に基づいて固有の信用を形成できるよう保障することは、商標法本来の目的ですらある。 本件審判において、引用商標をもって本件商標が無効にされるようなことがあれば、商標法の目的からしても本末転倒であるといわざるを得ない。ましてや、本件無効審判が、本件商標登録の直後に請求されたのではなく、登録後5年の期間を経過する直前に請求されたものであってみれば尚更である。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件商標に商標法第4条第1項第11号該当の無効理由は存在しない。 4 無効理由2(商標法第4条第1項第15号該当性)について (1)混同のおそれの不存在 本件商標は、引用商標との間で、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」のある商標ではない。 すなわち、15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は、10号ないし14号に掲げるものを除くとされていることからも明らかなように、「非類似」であってもなお「混同」を生ずるおそれのある商標を意味している(その典型は、指定商品・役務が非類似である場合である。)。 しかしながら、本件では、上記「第2 1」で述べたとおり、本件商標と引用商標は非類似であり、かつ、11号における非類似の事情以上に、本件商標が引用商標との混同を生じさせる特別な事情は存在しないから、15号該当の主張が成り立つ余地がないことは明らかである。 むしろ、本件では、「宇都宮餃子館」という標章自体が、被請求人(及びその前身であるエスト)による継続使用を通じて、全国的規模での識別力を獲得しているのであり、その点からみても、15号にいう「混同を生ずるおそれ」は存在しない。 念のため述べておけば、被請求人が「宇都宮餃子館」の商標を使用することによって「請求人の業務に係る宇都宮餃子」との間で混同が生じたことは一度もない。 両者が完全に識別されるものであることは、例えば、請求人が証拠として提出している「宇都宮餃子」のガイドマップ(甲6の1など)において、「宇都宮餃子」を提供する宇都宮餃子会の加盟店40数店舗の中に、被請求人の「宇都宮餃子館」の8店舗が掲載されていることからも明らかである。 このようなマップに接しただけで、需要者・取引者は、「宇都宮餃子館」の餃子ないしその提供主体と、「請求人の業務に係る宇都宮餃子」ないしその業務の主体とは別のものであることを直ちに理解し、両者を明らかに区別して認識するのである。 (2)商標が団体商標である場合の「混同のおそれ」について さらに、本件において、商標法第4条第1項第15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」における「他人の業務」とは、「宇都宮餃子会(又はその構成メンバー)の業務」ということになる。宇都宮餃子会は、餃子の提供などの業務を営む業者の団体(集まり)であるところ、本件商標「宇都宮餃子館」がそのような「団体」の業務を表していると需要者、取引者において誤認混同するおそれは全くない。 また、15号の適用に関して、「宇都宮餃子館」との商標を使用することによって団体(宇都宮餃子会)の「構成員」であるとの誤認が生ずることを問題とするのであれば、「宇都宮餃子館」を営む被請求人は宇都宮餃子会の正規のメンバーであるから、構成員でない者が構成員と誤認されるなどという「問題」は、そもそも存在し得ない。 なお、被請求人は、宇都宮市に本拠を有する会社であって、栃木県さくら市に月産100万個の生産実績(生産能力は月産300万個)を有する餃子専用の加工工場を保有しており、近々、宇都宮工業団地にも工場を新設して、さらに生産能力を増やすことを計画中である。 したがって、宇都宮の地に無関係の者が「宇都宮の餃子」を名乗るという産地誤装の問題が生ずる余地もない。 「宇都宮餃子」の名で一般に呼ばれる餃子は、元々、決まった製法や特徴があるわけではなく、むしろ、個々の店舗がそれぞれバラエティに富んだ餃子を提供していることが特色である(この点、地域の伝統的工芸品やその地域に特有の製法等に根ざした本来の「地域ブランド」とは全く事情が異なる。)。したがって、産地のブランドや品質を守るために「宇都宮餃子」の名称使用を宇都宮餃子会がコントロールしなければならないという必要性は、はじめから存在しないか、存在したとしても極めて希薄なのである。 いずれにしても、「宇都宮餃子館」について、15号該当性を問題にしなければならないような「混同のおそれ」は存在しない。 5 結び 「宇都宮餃子」なる商標が団体商標として登録されたことによって、請求人は、「宇都宮餃子」なる商標について排他権を専有することとなった。 しかし、「宇都宮餃子」は、元来、宇都宮地域で生産、消費される餃子を表す一般名称であったのであり、そのことは現在でも基本的に変わっていない。「宇都宮餃子」の語は、宇都宮市の商工会議所等が「餃子による町おこし」を支援することで宇都宮のイメージアップを図った結果、宇都宮の地の餃子を指し示すものとして、一般に受け取られるようになったものなのである。 宇都宮地域の飲食店で提供される餃子が「宇都宮餃子」の名で知られるようになったことについては、被請求人の「宇都宮餃子館」も多大な貢献をしている。宇都宮餃子館は、まだ、宇都宮餃子会の会員の中でも統一的なPRに消極的な声が多かった時期に、率先してイベント等に出店し、多数の店舗を展開し、駅前に看板を立て、団体客の集客に努めるなどして、自らの「宇都宮餃子館」の名を知らしめるとともに「宇都宮餃子」の名を普及させ、地域振興に多大な貢献をしてきた。 宇都宮は「ギョーザ激戦区」と評されるとおり、宇都宮餃子を提供する各店舗の間では、今も激しい競争が続いている。 このような中にあって、団体構成員を守るべき立場にある請求人が、長年にわたる使用により営業上の信用と地位を築いてきた被請求人の登録商標「宇都宮餃子館」について無効審判を請求するというのは、まったくもって不当というはかない。 本件商標の登録が無効とされれば、被請求人は「宇都宮餃子館」に類似する商標を使用しようとする者(それが餃子会の構成員であると否とを問わず)に対して、「宇都宮餃子館」標章の使用を排除する権利を失うことになる。 団体商標制度は、その構成員が自らの商標を使用することによって、固有のブランドを確立することを禁止していないし、むしろ、個別の商標に基づいて固有の信用を形成できるよう保障することは、商標法本来の目的ですらある。 本件審判において、引用商標をもって本件商標が無効にされるようなことがあれば、商標法の目的からしても本末転倒であるといわざるを得ない。 引用商標は、「宇都宮」という地域名を「餃子」の語に冠しただけの、通常であれば、自他識別力のない商標であるが、それが団体商標とした出願された(当初は通常の商標として出願されたものが、拒絶理由を受けて団体商標に出願変更された)ことにより、いわば、地域団体商標制度を先取りする形で、登録に至ったものである。産地等と役務に係る一般名称を結合しただけの標章について周知性要件と主体要件を備えることを条件に商標登録を認めて独占権を与えることについては、種々の弊害が生じうることが問題点として指摘されており(乙49)、運用を一歩誤れば、団体商標権を有する団体が一部の者にとっての利権の巣となりかねない危険性すら存在する。 とりわけ本件の引用商標は、商標法7条1項の適用を受ける団体商標であって、同法32条の2の緩和された先使用権は適用されないと解されるから、弊害の危険性は地域団体商標の場合よりも遥かに大きいのである。 被請求人としては、請求人が、なぜ、今に至って5年前に適法に登録された本件商標の無効審判を請求したのかの事情は知る由もないが(少なくとも、宇都宮餃子会の正会員である被請求人が知る限り、本件審判請求について、宇都宮餃子会内で正式の審議や議決がなされた事実は存在しない。)、特許庁においては団体商標が孕むこのような問題についても十分に留意したうえで、バランスのとれた権利関係の調整という観点に立って、本件を審理するよう強く望むものである。 第4 当審の判断 1 本件商標の指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務の類否について 本件商標の指定商品及び指定役務は、上記第1のとおりであり、引用商標の指定商品及び指定役務は上記第2、1のとおりであるところ、本件商標の指定役務中、第35類「餃子を主とする加工食料品等の小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下「餃子を主とする加工食料品等の小売等役務」という。)と、引用商標の指定商品である第30類「ぎょうざ」についてみると、役務の提供者、提供場所と商品の販売者、販売場所が共通する場合があり、それらの役務と商品の需要者も共通にする場合がある。 そうすると、「餃子を主とする加工食料品等の小売等役務」と「ぎょうざ」とは、両者に同一又は類似する商標が使用された場合、その出所について混同を生じるおそれのある、互いに類似するものというべきである。 また、本件商標の指定役務中、第43類「餃子を主とする飲食物の提供」は、引用商標の指定役務である第42類「ぎょうざの提供」を含むものである。 以上のとおり、本件商標の指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務は類似するものである。 2 引用商標について (1)引用商標の周知、著名性について 請求人提出の証拠、同人の主張及び職権調査によれば、次の事実を認めることができる。 ア 引用商標「宇都宮餃子」は、「ぎょうざ」及び「ぎょうざの提供」について使用された結果、請求人及びその構成員(以下「請求人等」という。)の業務に係る商品(ぎょうざ)及び役務(ぎょうざの提供)であることを認識することができるものと認定され、商標法第3条第2項の適用を受けて、平成14年1月24日に登録査定された。なお、引用商標の設定登録日は、平成14年2月22日である。 イ 請求人等の業務に係る商品及び役務ついて引用商標を使用した商品及び役務は、引用商標の登録査定後、平成26年11月までの間、全国紙をはじめとする各種新聞、雑誌等で多数紹介されている(甲4、他)。 ウ 上記ア及びイからすれば、引用商標は、本件商標の登録出願日(平成19年6月21日)前から、登録査定日(平成20年12月19日)はもとより現在まで継続して、請求人等の業務に係る商品及び役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものといえる。 (2)引用商標から生じる称呼及び観念について 上記(1)のとおり、引用商標は、請求人等の業務に係る商品及び役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものであるから、「ウツノミヤギョウザ」の称呼を生じ、「(ブランドとしての)宇都宮餃子」の観念を生じるものである。 3 本件商標について 本件商標は、「宇都宮餃子館」の文字を横書きしてなるものである。 そして、上記1のとおり、本件商標の指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務は類似し、さらに、上記2のとおり、引用商標「宇都宮餃子」は、請求人等の業務に係る商品及び役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものであるから、引用商標と同一の文字構成である「宇都宮餃子」の文字をその構成頭部に含む本件商標は、これに接する需要者に対し、構成頭部の「宇都宮餃子」の文字部分が役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものというべきである。 そうすると、本件商標は、「ウツノミヤギョウザ」の称呼を生じ、「(ブランドとしての)宇都宮餃子」の観念を生じるものである。 4 本件商標と引用商標の類否について 本件商標と引用商標を比較すると、外観においては、本件商標が標準文字で表したものであるのに対し、引用商標はややデザイン化した文字を縦書きしてなるところ、文字構成において、「宇都宮餃子」の文字を同じくし、異なるところは構成末尾の「館」の文字の有無にとどまるから、両者は外観において近似した印象を与えるものといえ、相紛れるおそれがあるものである。 つぎに、称呼においては、両者は「ウツノミヤギョウザ」の称呼を共通にするから、称呼において相紛れるおそれがあるものである。 そして、観念においては、両者は「(ブランドとしての)宇都宮餃子」を共通にするから、観念において相紛れるおそれがあるものである。 そうすると、本件商標と引用商標は、その外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれがある類似の商標である。 5 商標法第4条第1項第11号該当性について 上記1ないし4のとおり、本件商標は、引用商標に類似する商標であり、かつ、引用商標の指定商品及び指定役務と類似する役務について使用をするものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。 6 被請求人の主張について 被請求人の主張は、それを要約すれば、本件商標「宇都宮餃子館」は、被請求人の業務に係る役務を表示するものとして全国的に周知であるから、本件商標も使用による識別力を考慮すべきであり、本件商標において識別力を発揮する部分(要部)は、「宇都宮餃子」ではなく、ひとまとまりの「宇都宮餃子館」か、「宇都宮餃子館」の中の「餃子館」であるというものである。 しかしながら、被請求人の店舗数は、9店舗(乙1の1)ないし11店舗(甲6の2)あることから、被請求人の業務に係る「宇都宮餃子館」は、宇都宮地域においてある程度知られていると認められるものの、被請求人の提出した乙各号証によっては全国的に周知とまでは認めることはできないし、被請求人がいう「餃子館」が本件商標において識別力を発揮する部分(要部)であるという証拠も見いだせない。 そして、本件商標は、引用商標と類似する商標であることは、上記1ないし5のとおりである。 したがって、被請求人の主張は採用することができない。 7 むすび 以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 引用商標 |
審理終結日 | 2015-08-19 |
結審通知日 | 2015-08-24 |
審決日 | 2015-09-04 |
出願番号 | 商願2007-75485(T2007-75485) |
審決分類 |
T
1
11・
262-
Z
(X3543)
T 1 11・ 263- Z (X3543) T 1 11・ 261- Z (X3543) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 田中 幸一 |
特許庁審判長 |
土井 敬子 |
特許庁審判官 |
原田 信彦 大森 健司 |
登録日 | 2009-02-13 |
登録番号 | 商標登録第5203783号(T5203783) |
商標の称呼 | ウツノミヤギョーザカン、ギョーザカン、ウツノミヤギョーザ |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 福田 信雄 |
代理人 | 佐藤 俊司 |
代理人 | 阪田 至彦 |
代理人 | 中村 勝彦 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 古城 春実 |