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審決分類 審判 査定不服 商4条1項7号 公序、良俗 登録しない X29
管理番号 1307488 
審判番号 不服2013-12514 
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-01 
確定日 2015-11-26 
事件の表示 商願2010-25524拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1 本願商標
本願商標は、「激馬かなぎ」の文字を標準文字で表してなり、第29類「馬肉,ハンバーグ,かす漬け肉,乾燥肉,コロッケ,ソーセージ,肉の缶詰,肉のつくだに,肉のそぼろ,肉の瓶詰,ハム,ベーコン,カレー・シチュー又はスープのもと」を指定商品として、平成22年3月16日に出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、『激馬かなぎ』の文字を標準文字で表してなるところ、該文字は、国が推し進めている『地方の元気再生事業』の平成21年度の枠に選定された、青森県五所川原市金木町所在の特定非営利法人『かなぎ元気倶楽部』が開発した商品『馬肉を使用したカレー』に使用する名称『激馬かなぎカレー』と同一又は類似のものと認められる。そうすると、本願商標の登録出願前より、地方の元気再生事業の一環として、『かなぎ元気倶楽部』が開発した商品である『馬肉を使用したカレー』に使用される名称である『激馬かなぎカレー』と、同一又は類似のものと認められる本願商標を、自己の商標として採択・使用することは、地方の活性化を図るという地方公共団体としての政策目的に基づく公益的な施策を阻害し、社会公共の秩序を損ねるおそれがあり穏当ではないというのが相当である。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審においてした審尋
当審において、請求人に対し、平成26年2月20日付けで通知した審尋の内容は、要旨次のとおりである。
(1)本願商標の出願に至る経緯等について
ア 原審における平成22年8月27日付け及び同23年5月30日付け刊行物等提出書によれば、「激馬かなぎカレー」について、(ア)ないし(エ)のとおりの事実が認められ、また、上記刊行物の提出者である「特定非営利活動法人かなぎ元気倶楽部」(以下「かなぎ元気倶楽部」という。)の主張は、(オ)のとおりである。
(ア)かなぎ元気倶楽部は、内閣府による平成21年度「地方の元気再生事業」の選定を受け、「文化伝承・体験学習施設『かなぎ元気村?かだるべぇ?』創立事業」に関する委託調査として、平成21年7月16日から同22年3月19日までを履行期間とする委託契約を、支出負担行為担当官東北地方整備局長と締結した。該契約に基づき、かなぎ元気倶楽部は、青森県五所川原市金木町の地域の特産品を活用した新商品の開発や観光ルートの開発等を検討した。平成22年2月17日には、第6回新商品・新観光ルート合同委員会が開催され、その中で、金木町の特産である馬肉を使用したカレーについて、「激馬かなぎカレー」との名称を公表し、同18日に東奥日報や陸奥日報等の新聞で報じられた。
(イ)かなぎ元気倶楽部は、金木町の観光案内を内容としたパンフレットを作成し、同パンフレットには、新商品の一つとして、「激馬かなぎカレー」が掲載された。かなぎ元気倶楽部は、「激馬かなぎカレー」を町の名物に育てようと町内の飲食店に参加を呼び掛け、平成23年3月25日には、つがる西北五活性化協議会(事務局 西北地区県民局)において、「ふくべ」、「駅舎」、「車門」(請求人の経営する店)、「はな」の4店による「激馬かなぎカレー」の試食会を開催し、同27日に東奥日報や陸奥日報等の新聞で報じられた。
(ウ)かなぎ元気倶楽部は、平成22年8月24日に、青森県知事から「激馬かなぎカレー」を料理名とする「あおもり食のエリア登録証書」を付与された。これに基づいて、「激馬かなぎカレー」は、「あおもり食のエリア ガイドブック」や「グルメガイド 食彩青森」のパンフレットにおいて、「奥津軽エリア」の項に紹介され、請求人の経営する「車門」を含む金木町内の5つの飲食店の情報が掲載された。
(エ)かなぎ元気倶楽部は、五所川原簡易裁判所に対して、登録商標第5346443号に係る登録商標利用権放棄請求調停事件として民事調停を申し立て、平成23年1月19日に調停が行われた。
(オ)登録商標利用権放棄請求調停事件についての調停は4度にわたり、かなぎ元気倶楽部は、登録商標利用権放棄もしくは公益的立場にある第三者譲渡について提案したが、請求人は、金銭による通常使用権を主張し、調停は不調となった。
イ 原審における平成23年3月7日付け意見書によれば、本願商標の出願に至る経緯についての請求人の主張は、以下のとおりである。
請求人は、金木町において飲食店「車門」を経営する者であり、かなぎ元気倶楽部が開発した新商品の事業参加者として、平成22年2月25日に太宰ミュージアムに参加の申込みをした。その後、同月27日に、かなぎ元気倶楽部のマネージャーに、商標登録出願について尋ねた後、特許庁のホームページにおける出願情報を確認したところ、「激馬カレー」の文字からなる商標は見つからなかった。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性について
本願商標は、前記1のとおり、「激馬かなぎ」の文字を標準文字で表してなるところ、該文字は、かなぎ元気倶楽部が開発した新商品である馬肉を使用したカレーについて使用される名称の「激馬かなぎカレー」の文字と同一又は類似のものである。
一方、請求人は、金木町における飲食店の経営者であり、かなぎ元気倶楽部が開発した新商品に係る事業参加者であるから、該新商品の名称に「激馬かなぎ」の文字が使用されることを熟知していたといえる。
そして、本願商標は、かなぎ元気倶楽部が「激馬かなぎカレー」の名称を公表した後、請求人が、上記の事業参加者として参加の申込みをした日以降である平成22年3月16日に、登録出願されたものである。
そうすると、請求人は、本願商標の登録出願前より、かなぎ元気倶楽部が開発した新商品である馬肉を使用したカレーについて使用される名称に「激馬かなぎ」の文字が使用されることを十分に知っていながら、「激馬かなぎ」の文字について商標登録がなされていないことを奇貨として、該商品を始めとする第29類の願書に記載された商品を指定商品として、かなぎ元気倶楽部の承諾を得ずに先取り的に商標登録出願したものとみるのが相当である。
してみれば、本願商標の登録出願の経緯には、社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることは、公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗に反するものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。

4 審尋に対する請求人の回答の要点
請求人は、前記3の審尋に対して、平成26年4月8日受付の回答書において、要旨以下のように述べている。
(1)審尋(1)ア(ア)ないし(エ)についての記載内容は、事実として認める。
(2)審尋(1)ア(オ)について
審尋は、登録5346443号商標に係る登録商標利用権放棄請求調停事件の調停4回の内容を検討しないまま、かなぎ元気倶楽部側に偏向した解釈をしているが、請求人は、正当な範囲で金銭提示をしていたものである。
請求人は、かなぎ元気倶楽部マネージャーが回答した出願済みとの事実が確認できなかったため、第三者に妨害される前に、関係者の一人として出願手続をした。請求人はかなぎ元気倶楽部から感謝をされてしかるべきところ、かなぎ元気倶楽部は、国土交通省東北地方整備局の指示があって出願を差し控えていたと責任を転嫁し、該登録商標は新商品の名称を発案したかなぎ元気倶楽部に所有権があり、実費の特許印紙代しか支払えないとの主張を繰り返した。そこで請求人は、通常使用権でしか応じないと態度を一変して調停は不成立となった。審尋は、この経過を精査すべきものであるにもかかわらず、それが実施された形跡はなく、公平性を欠いた判断を行っている。
(3)審尋(1)イについて
平成22年2月27日にかなぎ元気倶楽部マネージャーに商標登録出願をしたかどうかを尋ねたのは事実であるが、審尋は、以下の点について言及していない。
ア かなぎ元気倶楽部マネージャーの商標出願に関する回答が虚偽であったことが明らかになったのは、請求人に登録査定(登録5346443号)が下りた時点であるにもかかわらず、審尋は、その実態を入れず、請求人が、かなぎ元気倶楽部による商標出願がされていないことを知っていたと同定して論理展開をしている。
イ 請求人は、甲第33号証ないし甲第35号証により、かなぎ元気倶楽部に対する国の担当官の指示は無いことを立証する新証拠を提出しているところ、これに対する検証及び判断、並びにかなぎ元気倶楽部が出願を放置した理由についての検証及び言及がされていない。
ウ 請求人の行為が無ければ、本願商標は、出願せず放置されていた可能性が極めて高く、その結果、全くの第三者の手に権利が落ちることとなれば、「身内だから知っていて奇価を得るために」との論理展開は通用しない。公の秩序を乱すという理由だけでその第三者の行為を無効にし、先願主義を曲げる解釈を確定させ得るものなのか。また、国家機関など公的機関で策定する様々な名称は、予め商標出願しておかなくとも、後で出願し、公の秩序を乱すという理由で、権利化が可能になるという解釈で良いのかについて言及がない。
エ 審尋の(1)ア(ア)ないし(ウ)については、発足当時の事情として認めるものの、その2年後、すなわち平成24年以降、現在に至る間の状況では、審尋(1)ア(イ)に記載された参画者からかなぎ元気倶楽部を除いた全ての者が「激馬かなぎカレー」のメニューを撤去しており、発案したかなぎ元気倶楽部だけが使用している。しかも、発足当時のような公的なイベントや宣伝活動などは、かなぎ元気倶楽部だけによるものであり、地域を挙げてのような企画や行事は一切無く、ネット上の記載も発足当時のまま、細々と販売しているというのが実態であるにもかかわらず、その事実を不問としている。

5 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第7号該当性について
本願商標は、前記1のとおり、「激馬かなぎ」の文字を標準文字で表してなるところ、該文字は、国が推進する平成21年度「地方の元気再生事業」に係る委託契約に基づき、青森県五所川原市金木町所在のかなぎ元気倶楽部が開発した新商品の一つであって、金木町の特産である馬肉を使用したカレーについて使用する名称「激馬かなぎカレー」と類似するものである。
かなぎ元気倶楽部は、上記事業の委託契約を国土交通省東北地方整備局長と平成21年7月に締結した後、同年10月から金木地区内外のメンバーで組織された委員会にて検討を行い、同22年2月17日に、金木商工会において新商品及び新観光ルートの概要を発表した。その中で、新商品の一つである馬肉カレーの名称は「激馬かなぎカレー」であると公表され、その内容が、同月18日、東奥日報に「『激馬カレー』うまいよ」等の見出しの下、該カレーの写真とともに掲載された。
一方、出願人(請求人)は、金木町において飲食店を経営する者であって、平成22年2月25日に該新商品に係る事業参加者(提供店舗)として参加の申込みをした者であり、該新商品に使用される名称が「激馬かなぎカレー」であることを十分に知っていたといえる。
そして、出願人は、上記参加申込みの後、かなぎ元気倶楽部に対して新商品の名称に関する商標登録出願について尋ね、出願済みとの回答を得たものの、特許庁のホームページにおいては出願情報が見つからなかったことから、新商品の名称と同一又は類似である本願商標を、該新商品を開発したかなぎ元気倶楽部の承諾を得ることなく、平成22年3月16日に商標登録出願したものである。
これに関して請求人は、本願商標の出願は、第三者による登録を避けるために出願したものであり、本願商標についてかなぎ元気倶楽部が実際には出願をしていなかったことは、同時期に行った「激馬かなぎカレー」(指定役務 第43類「食材に馬肉を用いたカレー料理を主とする飲食物の提供」)の登録査定時まで明らかとなっていなかった旨主張するが、該「激馬かなぎカレー」の登録商標を巡る登録異議の申立て及び該決定の取消請求事件並びに登録商標利用権放棄請求調停事件に係る経緯及び結果を併せ、本願商標の出願の経緯を客観的にみれば、本願商標は、出願人が、かなぎ元気倶楽部による商標登録出願がされていないことに乗じて、地域活性化に係る事業の利益独占を図る意図をもって出願した、剽窃的なものであるといわざるを得ない。
してみれば、本願商標の登録出願の経緯には、社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることは、地方活性化に係る事業の遂行を阻害し、公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反するものである。
したがって、本願商標は、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(2)請求人の主張について
ア 請求人は、かなぎ元気倶楽部が本願商標の登録出願をしていなかったのは怠慢によるものであり、かなぎ元気倶楽部が主張する国の担当官が「本件事業が完了する前に出願をすることは差し控えられたい」と発言した事実は認められないとして甲第33号証ないし甲第35号証を提出する。また、「激馬かなぎカレー」の文字からなる登録5346443号商標に係る登録商標利用権放棄請求調停事件において、請求人が通常使用権の設定を主張したのは、かなぎ元気倶楽部が該登録の所有権を当然に主張し、請求人への支払いは実費にとどまるとの考え方に端を発するものであり、出願人とかなぎ元気倶楽部との間の本願商標の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、本願商標が公序良俗に違反するものとして登録を認めないと判断するのは妥当ではない旨主張する。
しかしながら、馬肉カレーについて使用される「激馬かなぎカレー」の名称は、上記(1)のとおり、地域活性化に係る事業の一環としての施策により採択されたものであり、これを開発したかなぎ元気倶楽部が商標登録出願を遅らせた明確な理由が確認できないとしても、これと類似する本願商標の登録を認めることは、公益的な性格を有する該事業の遂行を阻害し、公正な競業秩序を害するものであるというべきである上、出願人の出願経緯には社会的妥当性を欠くものであるといえるから、本願商標に係る争いを当事者同士の私的な問題にとどまるものとみるのは適当でない。
イ 請求人は、国や公共機関で策定する様々な名称を第三者が出願した場合、公の秩序を乱すという理由をもって先願主義を曲げてその行為を無効にするのか、国や公的機関で策定する様々な名称はあらかじめ商標出願をしておかなくとも、後から出願し権利化することが可能であるのか、そうならば国の機関による登録商標手続は、一切無用に帰する旨主張する。
しかしながら、登録出願された商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものであるか否かの判断は、各商標につき個別具体的に判断すべきものであるところ、本願商標については、上記(1)のとおり、公益的な性格を有する事業に係る名称と類似するものであることに加え、その出願経緯を併せみて同号に該当するものと判断したものであるから、国や公共機関で策定する名称と同一又は類似の商標について同様に判断することを前提とした上記主張は失当である。
ウ 請求人は、本願出願から2年程を経て、上記事業の参画者は、かなぎ元気倶楽部そのものが管理、運営する2者のみであり、細々と販売されているのが実態であるから、社会公共の秩序を損ねるとの結論を出すのは説得力を欠く旨主張する。
しかしながら、本願商標は、金木町の地域活性化のための公益的な施策に係る事業の一環として、かなぎ元気倶楽部が開発した商品の名称と類似するものであることは明らかであり、かつ、出願人の本願商標に係る行為が客観的にみて剽窃的であるといわざるを得ないこと上記(1)のとおりであるから、該名称の商品の販売量が、事業開始当時に比較して減少傾向にあるとしても、これをもって、本願商標が社会公共の秩序を損ねるものであるとした判断が覆るものではない。
エ 請求人は、上記アないしウの主張のほか、上記異議申立ての異議決定(商標登録取消決定)に引用された判例は不適切である旨、また、該異議決定取消決定取消請求事件の判決において示された当該登録商標の通常使用権に係る金額の対価の評価は不適切である旨主張するが、これらの主張は、登録商標の取消が確定した上記異議決定に係るものであり、本願商標についてした上記(1)の判断を左右するものではない。
オ したがって、請求人のアないしエの主張は、いずれも採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、登録することができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2014-08-28 
結審通知日 2014-09-05 
審決日 2014-09-24 
出願番号 商願2010-25524(T2010-25524) 
審決分類 T 1 8・ 22- Z (X29)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 真規子安達 輝幸石井 亮齋藤 貴博 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 手塚 義明
浦辺 淑絵
商標の称呼 ゲキウマカナギ、ゲキバカナギ、ゲキウマ、ゲキバ 
代理人 佐々木 實 

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