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審決分類 審判 全部無効 商3条1項2号 慣用されているもの 無効としない X30
審判 全部無効 商3条1項1号 普通名称 無効としない X30
審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効としない X30
管理番号 1307481 
審判番号 無効2014-890039 
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-05-23 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第5259020号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5259020号商標(以下「本件商標」という。)は,「KINTARO」の欧文字を標準文字で表してなり,平成20年5月22日に登録出願,第30類「菓子及びパン,和菓子,甘栗,甘納豆,あめ,あられ,あんころ,いり栗,いり豆,おこし,かりんとう,ぎゅうひ,氷砂糖,砂糖漬け,汁粉,汁粉のもと,ぜんざい,ぜんざいのもと,せんべい,だんご,練り切り,水あめ,みつまめ,蒸し菓子,もち菓子,もなか,もなかの皮,ゆで小豆,ようかん,らくがん,洋菓子,アイスキャンデー,アイスクリーム,ウエハース,カステラ,乾パン,キャラメル,キャンデー,クッキー,クラッカー,コーンカップ,シャーベット,シュークリーム,スポンジケーキ,タフィー,チューインガム,チョコレート,ドーナツ,ドロップ,ヌガー,パイ,ビスケット,フルーツゼリー,フローズンヨーグルト,ボーロ,ホットケーキ,ポップコーン,マシュマロ,焼きりんご,ラスク,ワッフル,あんぱん,クリームパン,ジャムパン,食パン,バンズ」を指定商品として,同21年7月7日に登録査定,同年8月21日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第40号証を提出した。
1 請求の理由の要点
本件商標の登録時において,飴を筆頭に「金太郎」の標章が付された菓子類が多数存在している事実(下記2(1)及び(2)),「金太郎」の名称を用いた菓子店が複数存在している事実(下記2(3)),「金太郎」という標章を菓子に付したとしてもそもそも特定の事業者が製造販売した商品であるとは認識されにくい特徴を有している事実(下記2(4))が認められる。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第1号,同項第2号及び同項第6号に該当し無効である。
2 商標法第3条第1項第1号,同項第2号及び同項第6号の該当性
(1)飴について「金太郎」の標章が使用されている状況
ア 金太郎飴の歴史
「金太郎」の標章が付される飴としては,金太郎飴が有名である。同飴は,江戸時代中期には売られており,その後,市の日や縁日,祭礼でも販売されるようになっていた(甲2)。また,昭和期には,東京都内で金太郎飴が屋台でも売られるなど(甲3),子供が食べる菓子の一つとして一般市民の間に広く認知されており,金太郎飴という名称で飴を販売する飴専門店も全国的に多数存在していた(甲4?7)。
近年では,ネットショップにおいても「金太郎飴」を販売し,あるいは,どこを切っても同じ図柄が出てくる棒状の飴を切ったものについて,「金太郎飴」として紹介している(甲8?甲13)。
イ 国語辞典上の記載
各種辞書・辞典において,「金太郎飴」は,「株式会社金太郎飴本店」その他特定の製菓業者が製造販売している飴としてではなく,概ねその形状に注目して,どこを切っても金太郎の顔が出てくる棒状の飴として説明されている(甲14?24)。
他方,金太郎飴のように「どこを切っても同じ絵柄が出てくる棒状の飴」の正式名称は「切り飴」あるいは「組み飴」であるが,広辞苑及び大辞林では,かかる語句をそもそも掲載していない(甲14?22)。
そして,以上のような国語辞典上の記載状況は,本件商標の登録日である平成21年8月21日頃まで変化していない。
ウ 「金太郎飴」の語句の転用事例
遅くとも平成元年頃から金太郎飴の語句が,「変わりばえのしないこと」という意味に転用されて使用されるようになり(甲25?27),平成18年には大辞林第3版では上記転用例が説明されるに至っている(甲22)。
また,金太郎飴は,「どこで切っても同じ金太郎の顔が出てくるように作った棒状の飴」だけではなく,「金太郎の顔」以外の図柄であっても棒状の飴(あるいはこれを切ったもの)一般を意味するものとして,「組み飴」や「切り飴」に代わり使用されている(甲10?13,28?31)。
このように,金太郎飴は,その存在が一般市民の間に広く認知されていることを背景にして,日常会話の中に溶け込んでいる。そして,一般市民が日常会話で「金太郎飴」との言葉を使用する場合,特定の製菓業者が製造販売している飴を指しているなどとは認識していない。
(2)その他の菓子について「金太郎」の標章が使用されている状況
ア 例えば,以下の商標で和菓子が販売されている(甲32?34)。
「金太郎煎餅」「金太郎伝説まんじゅう」「金太郎もなか」「金太郎のご褒美」「金太郎の里」「金太郎だんご」
イ また,例えば以下の商標で洋菓子が販売されている(甲35,36)。
「金太郎クッキー」「セイヒョー金太郎あずき入り」(アイスキャンデー・アイスクリーム(請求人が平成17年5月10日から製造販売し,平成21年8月頃には,新潟県内だけでも月間売上額が約1000万円を超えるまでになっている商品である(甲40)。)
(3)菓子店の商号として「金太郎」の標章が使用されている状況
例えば以下のとおり,菓子店の商号としても複数使用されている(甲32,37,38)。
「金太郎米菓有限会社」「金太郎和菓子店」「浅草金太郎 両国店」
(4)「金太郎」という標章の特徴
このように「金太郎」は,これを題名とする童話がほとんどの日本人に認知されている語句であり,「金太郎」という標章が菓子の名称や菓子店の商号として複数使用されていることから,これを菓子に付したとしても,そもそも特定の事業者が製造販売した商品であるとは認識されにくい。
「金太郎飴」のように,金太郎の顔が現れる菓子に「金太郎」の商標を付した場合には,以上の点がさらに当てはまる。
(5)結論
以上のように,本件商標は,その登録時において,飴を筆頭に「金太郎」の標章が付された菓子類が多数存在している事実(上記(1)及び(2)),「金太郎」の名称を用いた菓子店が複数存在している事実(上記(3)),「金太郎」という標章を菓子に付したとしてもそもそも特定の事業者が製造販売した商品であるとは認識されにくい特徴を有している事実(上記(4))が認められる。
これらの事実を踏まえれば,菓子類を使用商品として,「きんたろう」の呼称をローマ字表記したにすぎない本件商標は,商標法第3条第1項第1号,同項第2号及び同項第6号に該当し無効である。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由及び平成26年9月3日付け上申書の内容を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第61号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 被請求人商標「金太郎」の著名性について
(1)被請求人の商品「飴」に係る商標「金太郎」の歴史及びその著名性
最初に被請求人が強調したいのは,どこを切っても同じ絵柄が出てくるように細工した切り飴「組み飴」に,「金太郎」の商標及び図柄を最初に採択したのが,他ならぬ被請求人だということ(より正確には,被請求人の現代表者の四代前の先祖,渡邊謙一郎(以下「謙一郎」という。)だということ)である。
被請求人は,明治初期に創業された100年以上の歴史を誇る老舗である。創業者が,現在も被請求人の所在する東京根岸にさらし飴を売る店を構え,その後二代目の謙一郎の時に大阪で流行していたおたふく(おかめ)顔の飴「おたやん飴」をヒントに,どこを切っても金太郎の顔が現れる「組み飴」を自分で工夫を凝らして作り,その商標として「金太郎」を採択した。大正から昭和にかけ,「飴の中から金太さんが飛び出たよ」という謳い文句で売り出して大ヒットし(乙1の1及び2),全国的に著名になったものである。
請求人が提出した甲第2号証の記事では,この謳い文句があたかも一般的に使用されていたかのようにも読める記載となっているが,この記事自体も,被請求人を取材して作成されたものであり,同号証の4枚の写真は,全て被請求人の仕事風景及び商品を撮影したものである(上から2番目の写真の法被に「金太郎飴本店」の文字が記載されていることから明らかである)。
そもそも組み飴の製作は,長年の修行・鍛錬が必要な「職人」の仕事であり,その技術は容易に習得できるものではない(乙2)。現代ほどに機械化が進んでいない時代であればなおさらである。甲第3号証では,昭和初期における神田界隈での「金太郎」飴の販売風景が紹介されているが,この時代において金太郎をモチーフとした「組み飴」を制作できる技術を持っている者は非常に限られていたのが実情である。
加えて,既に昭和初期には,被請求人とその元で長年修業をし「のれん分け」を許された者から構成される「金太郎飴組合」が組織されていた。乙第3号証は,昭和33年10月発行の「金太郎飴組合」の名簿の写しであるが,遅くとも昭和9年には同組合が組織されていたことが写真付きで紹介されている。被請求人は昭和7年に指定商品「飴」等について他者から「金太郎」商標権の分割譲渡を受けており(登録第193896号の2),これを元に「金太郎飴組合」の組合員のみが「金太郎」商標を使用できる体制が,昭和初期には既に出来上がっていた状況といえる。このような状況からすれば,甲第3号証で紹介されている「金太郎あめ」も,被請求人の関係者によるものと考えるのが自然である。
そして被請求人は,かかる組み飴作りの技術・伝統を現在にまで受け継いでおり,「全国菓子大博覧会」においては,平成10年と同25年に名誉総裁賞(乙4の1及び2)を受賞しているほか,同16年には「台東区指定文化財」にも指定されている(乙5)。
また,取引先には,全国の有名百貨店,伝統芸能と結びつきの深い歌舞伎座・国技館,有名美術館,国立大学,有名寺院などがあり(乙6の1?16),組み飴「金太郎」はもちろん,被請求人自体が日本を代表する老舗の菓子店として著名となっている状況である。
メディアにも,ラジオ・新聞・テレビ・雑誌など媒体を問わず多数出演依頼があり(乙7),タモリ,加山雄三といった有名タレントの図柄からなる組み飴を作成するなどして,日本全国で大々的に紹介されてきている。
(2)被請求人所有の「金太郎」に関する登録商標
上述した昭和初期の登録を筆頭に,「金太郎」の文字商標,金太郎の図形商標など7件の商標権を保有している(乙8?14)。
(3)被請求人による第三者への警告・通知等
被請求人の組み飴「金太郎」が有名になるにつれ,その著名性にあやかって無断で使用する者も現れたが,そのような者に対して被請求人は長年にわたり断固とした態度で臨んで来ている。
乙第15号証ないし乙第28号証は,昭和63年以降,現在までに被請求人が商標権侵害者等に送付した通知書(警告書)とそれに対する回答書の写しである(一部,回答のみ。これ以前にも警告等はその都度行っていた)。いずれも,被請求人の要求に応じ,商標の使用中止・商標の付した商品等の廃棄といった措置を講じていることが理解できよう。
このような商標管理の下,当然ではあるが裁判所において,被請求人の商標権が有効であることを前提とした和解・調停がなされてきている(乙29,30)。
また,飴としての「金太郎」の著名性ゆえに,第三者より「金太郎」の文字や飴の図柄を「飴その他の菓子類」以外に使用することの許諾を求められることもある(乙31?33)。
このような使用許諾契約は,被請求人商標が「組み飴」の範囲を超えて著名であるとの認識が他の事業者になければ,成立し得ないものである。特に乙第33号証の契約は,昨年平成25年にライセンシーのたっての希望で締結されたものである。被請求人の「金太郎」商標が,現在でも依然として強い識別標識機能を有することを如実に表した例といえる。
(4)特許庁においても本件商標「金太郎」が著名商標と判断された事例
特許庁においても本件商標の著名性が実際に認められた例がある。
乙第34号証は,平成10年に被請求人が第三者による商標出願「あめきん太」に対して登録異議申立を行った際の異議決定謄本の写しである。この時点では既に広辞苑等の辞書類に「金太郎飴」といった記載がありながら(甲14?24),被請求人商標の著名性が認められていることになる。
そもそも「普通名称」か否かは,特許庁編「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」(第19版)の商標法第3条第1項第1号(普通名称)の解説にもあるように「特定の業界内の意識の問題」なのであり,辞書の編さん者・執筆者を含む一般消費者等が誤った認識をしていたとしても,それだけでは普通名称となるわけではない(乙35)。
本件商標は特許庁でも既に認定のとおり,強い識別性を有する著名商標というべきものといえる。(なお,この異議申立ての際,被請求人が本答弁書に添付の乙第1号証の1及び2に加え,甲第2号証も著名性立証のため提出し,それが認められたという経緯がある。甲第2号証は,むしろ被請求人商標の「著名性」を裏付けるものといえる。)
2 請求人提出の証拠について
請求人提出の証拠も,被請求人自身又は被請求人と何らかの関係がある者により使用されているなどの事情があり,「組み飴」を始めとする本件指定商品の業界において「金太郎」が普通に使用されていることを示すものでは決してない。
以下,説明する。
(1)甲第4号証,甲第5号証及び甲第37号証について
これらは,いずれも被請求人から「のれん分け」された店舗であり,被請求人の許諾を得て使用しているものである(乙36?38)。
したがって,これらは,請求人主張のような「金太郎」が飴について普通に使用されていることの証拠にはならないものである。
(2)甲第10号証,甲第28号証ないし甲第30号証について
これらの商品は,全て被請求人が製造したものであり(乙39?41),「金太郎」が普通に使用されている例には該当しない。
したがって,これらの証拠も本件商標が一般に普通に使用されていることを示す例ではない。
(3)甲第9号証,甲第11号証ないし甲第13号証について
これら無断使用者に対しては,平成26年7月14日付で被請求人より通知書を発送し,その使用の中止を求めた(乙42)。
その結果,いずれのホームページも既に「金太郎飴」の文字を削除しその使用を中止し(乙43の2?4),さらに,これらの使用者等から今後一切「金太郎(飴)」の文字を一切使用しない旨の通知書が届いているものもある(乙43の5及び6)。
(4)甲第8号証について
被請求人が確認したところ,既に「金太郎飴」なる記載は削除されたことが確認できている(乙44)。
(5)甲第6号証について
甲第6号証に掲載の「玉力製菓」に対しては,本件審判請求前の平成26年5月2日付で使用の中止等を求める通知書を送付しており(乙45),今後は使用しない旨の連絡を得ており,その旨の「念書」を受領する予定となっている。受領した場合には,その写しを上申書により提出する。
なお,同号証において「金太郎飴」と記載しているのは,「玉力製菓」ではなく記事の執筆者だが,執筆者は「競業者」ではないため,後述のとおりかかる記載をもって普通名称と考えるのは誤りである。
(6)甲第35号証について
同号証で使用されているのは,商品「クッキー」についてであり,組み飴「金太郎」の識別性の議論とは直接は関係ないが,被請求人商標権の権利範囲内での使用であることから,平成26年7月24日付で,ホームページ開設者に対しその使用中止を求め,通知書を送付した(乙46)。使用中止の確認ができ次第,その旨の上申書を提出する。
(7)甲第32号証及び甲第38号証について
これらは,いずれも「店名」「屋号」として「金太郎」を含む商標を使用しているにすぎないと思われる。すなわち,甲第32号証は「せんべいの小売」,甲第38号証は「たい焼き及び大判焼きの小売」という「役務商標」として「金太郎」を含む商標を使用しているだけであり,商品たる「菓子」(ましてその一部であるところの「組み飴」)についての識別性とは直接は無関係である。
(8)甲第7号証及び競業者間の意識について
請求人は,甲第7号証を「金太郎飴」という名称で販売される飴が全国的に多数存在していたことの証拠として提出しているが,同号証で紹介されている「(株)歌舞伎飴本舗」自体は,その製造する飴を「金太郎飴」などとは称していない。乙第47号証は,歌舞伎飴本舗社のホームページであるが,同社は自らが製造する飴を「組み飴」「オリジナル手作り飴」「細工飴」などと称している。「組み飴」作りの競業者であることから,「金太郎」又は「金太郎飴」が,被請求人の商標であることを当然に了知しているものといえる。
なお,愛知県には歌舞伎飴本舗をはじめ,複数の「組み飴」作り業者が存在しているが,これらの業者は被請求人が確認した限り,自社の製品を「金太郎飴」とは称していない(乙48?50)。
なお,被請求人とその「のれん分け先」を除けば,愛知のように複数の「組み飴」製造業者が集まっている地域を被請求人は知らない。上述ように「組み飴」作りには長年の修行が必要であり,誰でも作成できるものではないことから,製造地域も限定されているものと思われる。
このように,競業者間にあっては,「どこを切っても同じ絵柄が出てくるように細工した切り飴」の普通名称は,「組み飴」であると理解されているのであって,「金太郎」なる表記は,なされていないのである。
(9)辞書,新聞・雑誌・書籍記事,個人のブログにおける記載について
請求人は,辞書・辞典類(甲2,14?24),新聞・雑誌・書籍類(甲3,6,7,25?27,31),個人のブログ(甲34)における記載を元に,本件商標の識別性を論じているようである。
しかしながら,上述したとおり,「普通名称」か否かは「特定の業界内の意識の問題」あり(乙35),辞書・書籍の執筆者,新聞・雑誌記者を含む一般消費者等が誤った認識をしていたとしても,それだけで普通名称となるものではない。そして,特定業界内にあっては,「どこを切っても同じ絵柄が出てくるように細工した切り飴」の普通名称として使用されているのは,「組み飴」であること,上述のとおりである(乙47?50)。
そもそも,日本法においては,辞書,新聞・書籍,個人のブログ等において登録商標が用いられた場合であっても,欧州の国々の商標法で認められている,辞書等の出版社に対する「商標表示請求権」も設けられていない(乙51)。
したがって,その著名性ゆえに辞書等に掲載された場合であっても,商標権者は手立てがないという,極めて不合理な状況なのである。かかる商標権者のコントロールが及ばない辞書の記載,並びに新聞・雑誌・個人ブログといった一般消費者による記載を元に普通名称化を論じるのは,多大な業務上の信用が化体した著名商標の所有者に余りにも酷であり,「商標を使用する者の業務上の信用の維持」を図ることで,産業の発達を寄与することを一義的な目的とした,商標法制定の趣旨(商標法第1条)に反するとすらいえる。普通名称か否かは,特許庁の見解どおり「特定の業界内の意識の問題」(乙35)と考えるべきある。
そして,被請求人が長年に渡り,その著名性にあやかろうとする第三者の「金太郎」商標を無断使用に対し,警告・権利行使を積極的に行い(乙15?28,42,45),その結果,競業者間で本件商標が被請求人の固有の商標と理解されていること,上述のとおりである。まれに,上記辞書等の記載を元に誤解した新規事業者等がいても,警告を行えば,乙第43号証で示したように,その使用を中止するのが通常である。
被請求人の業界においては,本件商標は著名商標と認識され,現在でも商標の機能を十分に発揮しているといえる。
本件商標の査定時においても事情は全く変わらない。本件商標は指定商品との関係で,普通名称には該当せず(どこを切っても同じ絵柄が出てくるように細工した切り飴の普通名称は「組み飴」である),また,慣用商標,その他自他商品の識別標識の機能を有しない商標のいずれにも該当しないものである。まして,本件商標はアルファベットからなる「KINTARO」なのであるから,漢字表記の場合よりもユニークな態様といえる。
3 結語
以上,本件商標は,その査定時において,本件指定商品の普通名称ではなく(商標法第3条第1項第1号),慣用商標(同項第2号),その他自他商品の識別標識としての機能を発揮しない商標(同項第6号)には該当しない,むしろ「著名商標」として識別性の高い商標であって,何らの無効理由は存在しないものである。
4 平成26年9月3日付け上申書の内容
本件審判を契機に,被請求人から使用中止を求める通知書を受領した者は,全て「金太郎(飴)」の使用を中止している状況である(乙59?61)。本件商標が現在において被請求人の商標と認識されているからこそ,かかる対応がなされているのであって,本件商標出願時においても,本件商標が商標的機能を発揮していたことは疑いのないものといえる。

第4 当審の判断
1 認定事実
証拠及び当事者の主張並びに職権調査によれば,以下の事実が認められる。
(1)被請求人は,東京都台東区根岸において飴を製造販売する,明治初期に創業された100年以上の歴史を有する老舗である。江戸時代の元禄飴に端を発し,大阪のおかめ,福助の絵柄であった飴にヒントを得て,2代目謙一郎が足柄山の金太郎をモチーフに,子どもの顔の飴を「金太郎飴」と名付けたのが始まりとされ,大正時代から昭和の初めにかけて,「飴のなかから金太さんが飛び出たよ」とのうたい文句で,金太郎飴を全国的に売り出した(乙1の1及び2)。
なお,「日本大百科全書7」(甲2)には,「金太郎飴」の項に,「切り飴の一種。丸い棒状の飴で,どこを切っても断面に金太郎の顔が現れるように細工したもの。江戸時代中期から売られていた。・・・東京・台東区根岸に,老舗の金太郎飴本店がある。」との記載とともに,被請求人の社名(金太郎飴本店)が入った着物(法被)を身につけた職人が飴作りをしている写真が掲載されているが,被請求人の主張によれば,その記載内容は,被請求人を取材(掲載写真から首肯できる。)して記載されたものであるとのことであるから,上記認定の事実(乙1の1及び2)も踏まえると,江戸時代中期から売られていた飴は,「切り飴」(組み飴,元禄飴)のことである可能性が高く,「金太郎飴」であるとは認め難い。また,「なつかしや神田 江戸っ子着物絵師の昭和」と題する書籍(甲3)にも,「江戸時代になると,飴職人が細工をした引き飴,流し飴,吹き飴など細工の技術と種類が増えた。」との記載とともに,金太郎飴売りのイラストが掲載されているが,そのイラストは,神田で生まれ育った著者自らが,実際に見た昭和の神田界隈の光景を描いたものであるから,やはり,江戸時代に「金太郎飴」が存在していたものとは認め難い。
(2)辞書類によれば,「金太郎(きんたろう)」について,概して「怪童伝説の主人公。それをかたどった人形,腹掛をかけ,まさかりを担いでいる。」旨の記載がある(甲2,14?24)。
(3)被請求人は,商標の構成中に「金太郎」の文字又は怪童伝説の主人公である金太郎の図形を有し,指定商品中に「飴」を含む登録商標を複数件(本件商標を含む)有している(以下,これらを「金太郎商標」という。)。なお,これら金太郎商標について職権により商標登録原簿を確認したところ,全て現に有効に存続しており,最も古い商標権は,昭和7年10月4日に分割移転の登録を受けた,「金太郎」の文字を縦書きにしてなり,第43類「飴、飴菓子、有平糖及之等ニ類似スル商品一切」(当該指定商品は,平成20年5月28日,指定商品の書換登録により第30類「飴,飴菓子,有平糖」となった。)を指定商品とする,登録第193896号の2商標(出願日:昭和2年4月2日,登録日:同年10月15日)である(乙8?15)。
(4)被請求人と同人から「のれん分け」を許された者とから構成される「金太郎飴組合」の昭和33年10月会員名簿には,組合規約として,第1条には「本組合員ハ金太郎飴ノ登録商標ヲ確保シ品質ノ向上ヲ図リ組合員相互ノ親睦並ニ緊密ナル連絡ヲ保チ以テ斯業ノ発展ヲ期スルヲ以テ目的トス」,第6条には「組合員ハ金太郎飴本店ヨリ商標権使用ノ許諾ヲ受ケタル者ヲ以テ組織ス」及び第13条には「・・・但シ組合長は金太郎飴本店主を推戴ス」との記載があるほか,昭和9年10月に日本で初めて飴祭大売出しを行った旨の記載及びその時の業者記念写真が掲載されている(乙3)。
(5)被請求人は,少なくとも昭和63年以降現在に至るまで,普通名称化防止の観点から,請求人を含む,金太郎商標の無断使用者に対して,通知書(警告書)等を送付し,和解するなど,普通名称化防止の努力を継続して行っている(乙15?30,42,43の5及び6,45,46,52?55)。
(6)第三者が金太郎商標を使用する際には,被請求人と許諾契約書を取り交わしていることが確認できる(乙31?33,36?38)。
(7)書籍及びプリントアウトされたウェブサイトのページには,「金太郎飴(きんたろうあめ)」の説明,「金太郎飴」の文字(語)を含む店名,「金太郎飴」の取扱店,「金太郎飴」の意味の転用例など,いずれも「金太郎飴」に関することが記載され,「金太郎飴」の説明には「切り飴の一種。丸い棒状の飴で,どこを切っても断面に金太郎の顔が現れるように細工したもの。」,「どこで切っても同じ金太郎の顔が出てくる棒状の飴」,「どこで切っても,切り口に金太郎の顔が現れるように作られた棒状の飴」及び「切り飴の一つ。丸い棒状の飴のどこを切っても,断面に金太郎の顔があらわれるようにつくられたもの」などの記載がある(甲2?31)。
(8)甲第32号証ないし甲第38号証は,本件商標の登録査定日後である,2014年(平成26年)4月19日又は同月21日にプリントアウトされたウェブページであり,甲第39号証は,2005年(平成17年)4月23日付けの新聞記事であるが,これらには「金太郎」の文字が商品や店名(の一部)に用いられている商品や店名が掲載されている。しかしながら,それらのうち,本件商標の登録査定日前のものと確認できるものは,甲第34号証(2007年(平成19年)4月30日付けブログ)の「金太郎だんご」(だんご)と甲第39号証の「金太郎」(氷菓)のみであり,甲第39号証の新聞記事には,「セイヒョー(新潟市)は,2003年に製造販売したあずき味の氷菓『金太郎』をリニューアルし,・・・五月十日から発売する。」との記載がある。なお,甲第36号証の「金太郎」(かき氷バー)は,甲第39号証と同一人(請求人)の商品と認められる。
2 「金太郎」及び「金太郎飴」について
上記1認定の事実によれば,以下のとおり認めることができる。
(1)「金太郎(きんたろう)」とは,「怪童伝説の主人公。腹掛をかけ,まさかりを担いでいる人形」を意味するものと認められるものであって,「金太郎飴」とは,別異のものである(上記1(2)及び(7))。
なお,「金太郎」の文字は,「どこを切っても同じ金太郎の顔が出てくる・・・」などのように「金太郎飴」の文字の説明文において用いられているが,「金太郎」の文字のみをもって,これが飴を含む本件商標の指定商品中,いずれの商品との関係においても普通名称又は慣用商標として使用されている事実は確認できない。
(2)「金太郎飴」は,江戸時代の元禄飴に端を発し,大阪のおかめ,福助の絵柄であった飴にヒントを得て,被請求人の2代目謙一郎が足柄山の金太郎をモチーフに,子どもの顔の絵柄からなる飴を作成し,その名を付けたのが始まりとされ,大正時代から昭和の初めにかけて,「飴のなかから金太さんが飛び出たよ」とのうたい文句で,金太郎飴は全国的に売り出された(上記1(1))。
(3)請求人は,遅くとも,本件商標の登録査定日前である平成17年5月10日から,いわゆる「かき氷バー」(氷菓)に「金太郎」の文字を使用していた(上記1(8))。
また,本件商標の登録査定日前である2007年(平成19年)4月30日には,「金太郎だんご」と称する商品「だんご」が販売されていたことが推認できる(上記1(8))。
なお,これらの使用時には,「金太郎」の文字を縦書きにしてなり,これらの使用商品(氷菓,だんご)と類似する第43類「飴、飴菓子、有平糖及之等ニ類似スル商品一切」(当該指定商品は,平成20年5月28日,指定商品の書換登録により第30類「飴,飴菓子,有平糖」となった。)を指定商品とする,被請求人の件外登録第193896号の2商標(出願日:昭和2年4月2日,登録日:同年10月15日)が存在していた(上記1(3))。
3 商標法第3条第1項第1号及び同項第2号の該当性について
請求人は,本件商標は,その登録時において,飴を筆頭に「金太郎」の標章が付された菓子類が多数存在しているとして,商標法第3条第1項第1号及び同項第2号に該当する旨主張している。
しかしながら,本件商標は,上記第1のとおり,「KINTARO」の欧文字からなるものであり,これより「金太郎(きんたろう)」を想起させるとしても,「金太郎(きんたろう)」は,上記2(1)のとおり,「怪童伝説の主人公。腹掛をかけ,まさかりを担いでいる人形」を意味することから,これに接する取引者・需要者をして,そのような「金太郎」(怪童伝説の主人公。腹掛をかけ,まさかりを担いでいる人形)を認識するものと判断するのが相当である。
なお,請求人提出の証拠は,商品「飴」について「金太郎飴」の文字が商標法第3条第1項第1号(普通名称)又は同項第2号(慣用商標)に該当するか否かについての証左になり得るとしても(この点については後記4で検討する。),上記2(1)のとおり,「金太郎飴」とは別異の「KINTARO」の文字についての同号該当性の証左としては不十分であって,当該証拠によっては本件商標がその指定商品中のいずれかの商品の普通名称又は慣用商標であると認めることは到底できない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第1号及び同項第2号のいずれにも該当しない。よって,請求人の上記主張は,採用できない。
4 商標法第3条第1項第6号の該当性について
(1)「金太郎飴」について
商標法上の普通名称とは,「取引界においてその名称がその商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているもの」(乙35)と解すべきであるから,「金太郎飴」が飴の一種を指す普通名称であるというためには,取引界においてその商品の一般的な名称と認められていることが必要であり,また,その該当性判断にあっては,辞書,事典その他の刊行物で一般的な名称であるかのように使用されているだけでは足りず,商品自体の名称として普及して使用された事実が認められることが必要である。
これを本件についてみると,被請求人は,昭和7年10月4日には,指定商品「飴」等について「金太郎」の文字からなる商標権を有しており,遅くとも昭和9年には,被請求人と同人から「のれん分け」を許された者とから構成される「金太郎飴組合」が組織され,同組合において金太郎商標を使用するとともに,少なくとも昭和63年以降現在に至るまで,普通名称化防止の観点から,請求人を含む,金太郎商標の無断使用者に対して,通知書(警告書)等を送付し,和解するなど,普通名称化防止の努力を継続して行っていることが認められる(上記1(4)及び(5))。
あわせて,第三者が金太郎商標を使用する際には,被請求人と許諾契約書を取り交わしていることも認められる(上記1(6))。
そうだとすれば,本件商標の登録査定時において,たとえ「金太郎飴」が辞書等に記載されていたとしても,「金太郎飴」は,商品「飴」の取引界において,いまだ特定の飴を指称する一般的な名称であると認めることはできないから,普通名称化していたとはいえないものである。
また,本件商標の登録査定時において,商品「飴」について,商標中に「○○金太郎飴」や「金太郎飴○○」などのようにして「金太郎飴」との表示が用いられていたと認めるに足りる証拠はないから,同業者間において普通に使用されるに至った結果,自己の商品と他人の商品とを識別することができなくなった慣用商標であったともいえないものである。
したがって,「金太郎飴」との表示は,商品「飴」についての普通名称又は慣用商標であるとは認めることができない。
(2)同業他社による「金太郎(きんたろう)」の使用について
請求人提出の証拠によれば,本件商標の登録査定日前に「金太郎」の文字を商品「菓子」に使用していたと認め得るのは,「金太郎だんご」(だんご)と「金太郎」(氷菓)のみであるから,これらをもって,「金太郎」ないし「きんたろう」の文字を本件商標の指定商品に使用している事業者が多数存在するとはいえず,ましてや,本件商標は「KINTARO」の欧文字からなるものであるから,本件商標が,特定人による独占使用を認めるのを公益上適当としないものであると認めることも,一般的に使用される標章であって自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないものであると認めることも,いずれも到底困難であるといわざるを得ない。
本件商標は,その指定商品について自他商品の識別標識としての機能を十分に果たすものと判断するのが相当である。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第6号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項第1号,同項第2号及び同項第6号のいずれにも違反して登録されたものとはいえないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきでない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-09-02 
結審通知日 2015-09-04 
審決日 2015-09-15 
出願番号 商願2008-39149(T2008-39149) 
審決分類 T 1 11・ 11- Y (X30)
T 1 11・ 12- Y (X30)
T 1 11・ 16- Y (X30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 隆仁小田 明早川 真規子 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 田村 正明
田中 幸一
登録日 2009-08-21 
登録番号 商標登録第5259020号(T5259020) 
商標の称呼 キンタロー 
代理人 宮崎 治子 
代理人 一色国際特許業務法人 
代理人 野付 さくら 
代理人 島垣 哲平 
代理人 宮崎 章 

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