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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 041
管理番号 1307451 
審判番号 取消2013-300405 
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2013-05-20 
確定日 2015-04-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第3017041号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3017041号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第3017041号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成4年9月22日に登録出願、第41類「国家資格取得講座における教授,就職試験対策講座における教授,企業研修講座における教授」を指定役務として、同6年12月22日に特例商標として設定登録され、その後、同17年3月22日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。

2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第第1号証ないし甲第3号証を提出した。
(1)取消事由
本件商標は、その指定役務のいずれについても、継続して3年以上日本国内において、本件商標権者又は使用権者によって使用されている事実を確認することができなかったから、本件審判の請求前3年以上にわたり継続して使用されていないものと推測される。
したがって、本件商標は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
(2)商標権者の事業
本件商標権者又はその関連会社は、「Wセミナー」の名称を使用して司法試験などの資格取得支援事業を行っていた者であるが、その事業は、大日本印刷株式会社の子会社である株式会社早稲田経営出版を経て、2009年9月1日に本件審判の請求人であるTAC株式会社に譲渡された(甲第1号証)。
その後、「Wセミナー」の名称を使用した資格取得支援事業は、請求人の事業として行われている(甲第2号証)。すなわち、商標権者又はその関連会社は、「Wセミナー」の名称を使用した資格取得支援事業を遅くとも2009年9月1日以降は行っていない。
そして、本件商標は、上記「Wセミナー」事業において使用される商標であり、「Wセミナー」事業と切り離しての使用は考えられない。
したがって、商標権者が本件商標を2009年9月1日以降に使用した可能性はないと考えられる。
(3)答弁に対する弁駁
ア 請求人による本件商標の使用について
被請求人は、請求人による本件商標の使用行為が商標権侵害にあたると主張する。
被請求人の「商標権侵害」という主張を首肯するものではないが、「商標権侵害行為」であるという主張と被請求人による商標の使用・不使用という事実とは無関係の事柄である。商標法第50条が規定する要件は、「商標権者による不使用の事実」であって、請求人には何ら要件が課されていない。むしろ、「何人も」請求できると規定されている。
よって、請求人による本件商標の使用の法的評価が本件審判事件の結論に影響するものではない。
イ 請求人適格について
(ア)被請求人は、商標法第50条に「何人も」と規定されているとしても、商標権侵害をしている者には請求人適格がないと主張するが、この主張は失当である。
例えば、他人の登録商標の存在を知らずに商標を使用しているところ、商標権者から使用の差し止めを請求された場合、不使用取消審判を請求して自己の使用し得る地位を確立することは普通に行われているところである。また、このような立場にある者は、「何人も」という要件が規定に追加される前、利害関係人のみが請求し得ると解されていた時代においても、利害関係人の代表例とされていたところである。このような者による請求が認められなければ、不使用取消審判の存在価値は半減する。
被請求人も、不使用取消審判の趣旨を「権利者以外の商標使用希望者にとって、商標選択の余地を狭めてしまうことになる。このような商標使用希望者の正当な利益を保護することを主眼に、商標法第50条第1項不使用取消審判制度は認められた。」と正しく理解しているところ、「侵害者に請求人適格はない。」とする主張は矛盾も甚だしい。
(イ)被請求人は、クリーンハンドの原則であるとか、法を無視する姿勢が著しいとか、商標法第50条の趣旨と離れたところで独白の理論を展開し、権利の濫用であると主張するが、この主張は失当である。
不使用取消審判は、使用されていない登録商標の存在が商標選択の幅を狭め、被請求人の言い方に倣えば「公正な自由競争市場の実現」を阻むことともなるので、そのような事態を回避すべく登録を取り消そうというものである。この点は被請求人も理解しているとおりである。
請求人は、まさに被請求人が登録名義人となったままである本件商標の存在によって、その事業活動の制約を受けているのである。「商標使用希望者の正当な利益」のために請求しているのである。被請求人の不使用取消審判の理解に基づくならば、請求人の行為が権利の濫用になるはずがない。
ウ 被請求人(商標権者)について
上記(2)のとおり、被請求人の「Wセミナー」事業は、大日本印刷の子会社(甲第3号証における「DNP新会社」)を経て本件請求人に譲渡されている。本件商標は、「Wセミナー」事業において使用するものであり、被請求人は事業譲渡の一環として本件商標も譲渡すべきものであつた(甲第3号証、第4条参照)。「DNP新会社」は、被請求人に対して再三にわたり譲渡を求めたが被請求人がこれに応じることはなかった。
被請求人の不誠実な対応が本件審判の請求の要因である。
エ むすび
以上のとおり、被請求人の答弁には理由がない。

3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。
(1)請求人の主張に対して
被請求人には、本件商標を使用する予定があった。
仮に、不使用の事実が認められるとしても、下記(2)で述べるとおり、請求人は商標権侵害を行った者であるから、本件請求は却下又は棄却されるべきである。
(2)請求人の商標権侵害の事実について
ア 主張の趣旨
本件審判の請求人は、2009年9月1日に「Wセミナー」の名称を使用する資格取得支援事業を譲り受け(甲第1号証)、その後、当該事業は、請求人の事業として行われている(甲第2号証)。
しかし、商標権は、設定の登録により発生する(商標法第18条第1項)ところ、2009年9月1日から、現在でもなお、請求人は商標権者ではないにもかかわらず、本件商標を使用している(乙第1号証ないし乙第6号証)。
そして、乙第1号証ないし乙第6号証により証明される、請求人による本件商標の使用は、商標権侵害を定める商標法第37条第1号等に明らかに違反する。
イ 乙第1号証ないし乙第5号証から認められる商標権侵害の事実
(ア)乙第1号証及び乙第2号証について
請求人が有するWセミナーホームページのソースを示す(乙第1号証)。
プログラム上部の〈meta name=“description”content=“ページの説明”〉において、本件商標「早稲田セミナー」が、無断で意図的に記述されている。〈meta name=“description”content=“ページの説明”〉において記述される用語は、大手検索サイトYahoo!JapanやGoogleのサーチエンジンの検索結果(検索順位)に影響を与える重要な用語となる。
また、実際にも、このプログラムを記述していることが大きく影響をして、Yahoo!JapanやGoogleのサーチエンジンにおいて、「早稲田セミナー」で検索をかけると、検索結果の1ページ目にWセミナーのホームページが表示される(乙第2号証)。
この結果、「早稲田セミナー」で検索をかけた不特定多数の方々を、Wセミナーのホームページに呼び込んでいることになる。そうすると、請求人の使用は、商標法第2条第3項第8号の「使用」の概念に該当し、需要者にその商品又は役務の提供の出所について混同を生じさせるものであるといえる。
よって、本件商標について、請求人による指定商品又は指定役務に類似する商品又は役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用(商標法第37条第1号)が認められる。
(イ)乙第3号証ないし乙第5号証について
2012年10月22日14時10分時点のTAC出版のWEBページで、本件商標の使用が認められる(商標法第37条第1号;乙第3号証)。
また、2012年9月11日時点における、請求人の完全子会社である株式会社早稲田経営出版のWEBトップページで、本件商標の使用が認められる(商標法第37条第1号;乙第4号証)。
そして、2010年3月から2011年4月に請求人が使用した、マスコミ講座のカタログ(P23)に、本件商標の使用が認められる(商標法第37条第1号、同第3号、同第5号;乙第5号証)。
さらに、請求人のトップページのキーワード検索において、本件商標である「早稲田セミナー」を入力すると、合格体験記内に本件商標が使用されている(商標法第37条第1号;乙第6号証)。
なお、これらにおける請求人の使用も、商標法第2条第3項第3号、同第5号等の「使用」の概念に該当し、需要者にその商品又は役務の提供の出所について混同を生じさせるものであるといえる。
ウ 結論
以上のとおり、乙第1号証ないし乙第6号証により証明される、請求人の行為は、商標権侵害を定める商標法37条第1号に明らかに違反する。
(3)不使用取消審判請求の請求適格と権利濫用について
不使用取消審判の請求適格について
不使用登録商標に排他的独占的な権利を与えておくことは、権利者以外の商標使用希望者にとって、商標選択の余地を狭めてしまうことになる。このような商標使用希望者の正当な利益を保護することを主眼に、商標法第50条第1項不使用取消審判制度は認められた。
この制度趣旨からすれば、不使用取消審判の請求適格が、形式的には「何人」(商標法第50条第1項)にも認められるとしても、実質的にみて、商標権を侵害した者まで「何人」に含むと考えることはできない。これを容認すれば、商標法が、商標権侵害者を助力することになるからである。
したがって、他の正当な商標使用希望者が、不使用取消審判を請求した場合には、本件商標が消滅したとしてもやむを得ないといえる。しかし、商標権侵害をしていた者である請求人が、将来の商標利用を目的として、本件商標に関し不使用取消請求をすることは、到底認められない。請求人は「何人」(商標法第50条第1項)にあたらない。
なお、請求人が、本件商標を現在も意図的に使用していることからすれば、不使用取消審判後の将来、請求人が本件商標を利用することは容易に推認できる。
権利濫用について
そもそも、商標制度の本質は、商標による公正な自由競争市場の実現にある。このため、商標使用希望者が、将来の商標使用を目的として、不使用取消審判等により他者の商標を消滅させるためには、まず商標使用希望者自らがクリーンハンドでなければならない。
よって、商標権侵害していた商標使用希望者が、後の商標使用を目的として、他人の正当な商標権を消滅させることは到底許されない。
また、本件請求人による本件審判請求を認容することは、商標法の目的(同法第1条)及び濫用的な商標登録を排除し、登録商標制度の健全な運営を確保しようとする商標法の考え方に、真っ向から反するものである(同法第3条第4条参照)。
さらに、請求人は、法律資格(弁理士試験、司法試験等)の取得を援助する事業を営み、株式会社東京証券取引所市場第1部(以下「東証1部」という。)に上場する企業でもある。
このように、法律を尊び、東証1部に上場し公共の信用を得ている企業が、自らの利益だけのために、無断で商標をあえて使用し収益を上げていることは、法を無視する姿勢が著しいといえ、社会通念上、到底許されることではない。
したがって、請求人の被請求人に対する本件審判の請求は、権利の濫用(民法第1条第3項)に当たるものとして許されない。
ウ 結論
以上のとおり、本件審判の請求は全く成り立たないから、本件請求は、速やかに却下又は棄却されるべきである。

4 当審の判断
商標法第50条による商標登録の取消審判の請求があったときは、同条第2項の規定により、被請求人において、その請求に係る指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明し、又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしない限り、その登録の取消しを免れない。
ところが、本件審判の請求に対し、被請求人は、前記3のとおり、請求人の行為(乙第1号証ないし乙第6号証)が商標権侵害を定める商標法第37条第1号に明らかに違反する旨の主張を行い、商標法第50条第2項に規定する本件商標を使用していることについての実質的な主張、立証を行っていない。
また、被請求人は、請求人が本件商標について商標権侵害をしており、請求人には本件審判の請求をする適格がないと主張する。
しかしながら、商標法第50条第1項は、「・・・何人も、・・・商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定され、該審判は「利害関係人」に限らず請求することができるものであり、もっとも、請求人適格を「何人」としても、その請求が権利乱用として認められない可能性があると解釈されるところ、請求人が被請求人のいうように本件商標を使用して商標権侵害をしているか否かはさておき、請求人が本件審判の請求を行った行為について、同法第50条の規定の趣旨からすれば、その請求が権利乱用であると認めることはできないものであるから、被請求人の上記主張は採用できない。
なお、審判長は、平成26年3月20日付け審尋書をもって、「被請求人は、本件商標の商標登録の取消しを免れるための証明をしておらず、また、本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしていないといわざるを得ない。」旨の本件審判に関する当審の暫定的見解を示すとともに、「(1)「当審の暫定的見解」に対して意見があれば、その根拠となる証拠を添付して、述べられたい。(2)本件審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしているのであれば、証拠を添付して、立証をされたい。(3)本件商標の指定役務について、登録商標の使用をしていない正当な理由があれば、証拠を添付して、主張をされたい。」旨相当な期間を指定して審尋を行ったが、被請求人からのそれに対する実質的な回答はなかった。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標



審理終結日 2014-06-23 
結審通知日 2014-06-25 
審決日 2014-09-29 
出願番号 商願平4-206162 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (041)
最終処分 成立  
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 酒井 福造
寺光 幸子
登録日 1994-12-22 
登録番号 商標登録第3017041号(T3017041) 
商標の称呼 ワセダセミナー、ワセダ 
代理人 特許業務法人レガート知財事務所 

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