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審決分類 |
審判 全部取消 商53条の2正当な権利者以外の代理人又は代表者による登録の取消し 無効としない W12 |
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管理番号 | 1306535 |
審判番号 | 取消2013-300571 |
総通号数 | 191 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2015-11-27 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2013-07-05 |
確定日 | 2015-09-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5560122号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5560122号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成24年8月3日に登録出願され、第12類「自動車並びにその部品及び附属品,自動車の座席カバー,二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品,軸,軸受,軸継ぎ手,ベアリング,動力伝導装置,緩衝器,ばね,制動装置,乗物用盗難警報器」を指定商品として、同25年2月1日に登録査定、同年2月22日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 1 請求の趣旨 請求人は、商標法第53条の2の規定により、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1ないし第14号証(枝番を含む。)を提出している。 2 請求の理由(要旨) (1)請求人は、世界貿易機関の加盟国である台湾における登録第1481849号商標(以下、「引用商標」という。)(商標の構成 別掲2のとおり、出願日2011年3月16日、設定登録日同年11月1日、指定商品「鋼圏,輪圏」(ホイール(リム)))の商標権者である(甲2)。 (2)本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品に含まれるから、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品と認められ、本件商標と引用商標は、本件商標を付した商品と引用商標を付した商品との間で、商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあり、両商標は類似する商標である。 (3)被請求人が、本件商標の登録出願の日前1年以内に、請求人が代表者を務めるALLIANCE ALLOY WHEELS(以下「アライアンス社」という。)から、日本における独占販売権を文書によって付与されていたものではないが、被請求人と請求人は、継続的な取引に入る状態であり、これは慣行上の信頼関係が形成されていたとみるべきであって、被請求人は、日本国内における請求人の商品の販売体系に組み込まれるような立場にあった者とみることができる。よって被請求人は商標法53条の2の規定の「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するものである。 (4)このように本件商標の登録出願は、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ないで本件商標の登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者と同等の地位にあった者によってされたものであり、被請求人は、請求人が他の日本の競業他社との取り引きを阻止して、引用商標に類似する商標を付した自己の商品で日本市場での独占的展開をするために、本件商標の登録出願をし、優位な立場を確保しようとした意図が明らかである。 (5)さらに、請求人が被請求人に対し、日本において引用商標の権利を取得することを放棄した、あるいは取得する関心がないことを意思表示したことは一切ない。 (6)以上のとおり、本件商標の登録は、商標法53条の2の規定により、取り消されるべきである。 3 平成25年12月20日付け弁駁書における主張 (1)弁駁の理由 ア 請求人の氏名の不一致 答弁書では、請求人の氏名が「黄泰鈞」であり、甲第2号証の2の「中国の名前」の欄が「黄泰淳」であって不一致である、と主張している(答弁書2葉)。 この甲第2号証の2は、そのタイトルが台湾の「経済部知的財産局の商標情報検索サービス」とあるように、あくまでサービスであって、その最下行に「あくまで参考用です」と記載してあるとおり、原本ではない。 甲第2号証の1(登記簿原本)に記載された「黄泰鈞」が、台湾における商標「STANCE」の商標権者であり、これは請求人の氏名と一致している。 イ 国際取引の信頼関係に違背する行為である 審判請求書で強調したように、多くの交渉過程から判断して、被請求人は、請求人とまったく見ず知らずの他人ではない。 請求人と被請求人との間には、相互に尊重すべき国際取引上での信頼関係が存在したことは明らかである。 被請求人はその論点を否定する根拠として「被請求人が請求人とだけ敢えて積極的に代理店契約を結ぼうとすることは特にメリットがないばかりか、上述したように代理店契約を行わない方が安価に購入できる場合があり得るといった実情を考慮すると…」と主張している(答弁書5葉8行)。 この主張から明らかなように、被請求人は請求人と代理店契約を結ぶ可能性があったことを認めており、しかし結局締結しなかった。 そこまでは被請求人のビジネスの判断であって、もちろん被請求人の自由である。 しかしだからといって、日本での代理店契約を結ばない行為と、それならば相互に尊重すべき信頼関係にあった請求人の商標と同一、類似する商標を「日本で登録してしまえ!」という行為とは、まったく逆の行為であって、これは国際信義上決して認められるものではない。 ウ 属地主義に反するか 被請求人は、請求人の主張を「請求人のように日本以外の他の国の1ヶ国において商標権を取得してしまえば、その他の国でも商標法による保護を受けることになり、属地主義に反する結果となる。」と反論している(答弁書14葉下から11行)。 確かに一般論としては指摘のとおりであるが、本件の場合には、一般論とは異なる。 本件では被請求人も認めているとおり、(答弁書5葉8行)代理店契約を締結するか否かの直前まで信頼関係が成立していたのである。 そのような関係にあって、代理店契約を結ばない方がメリットがある(そこまでは自由である)と考え、だから同一、類似の商標を日本で登録してしまえ、という行為、それが国際的信義に反しないのかという点を指摘しているのである。 なにも1ケ国での登録が世界登録につながる、などと主張しているのではない。 エ 選択の幅は無限にあったのに 被請求人は本件商標について「本件商標は請求人のみが考えつくような言葉ではない」と答弁している(答弁書13葉最下行)。 しかし請求人は、数えきれない全日本語、全英語の中からたまたま「STANCE」を選択して台湾で登録をした。 ところが、被請求人もたまたま、そのような無限の単語の中から、まったく同一の「STANCE」を、まったく偶然に選択した、というのだろうか。 被請求人は反論の根拠として乙17号証を挙げ、自動車雑誌に「スタンス」の記載があるからそこから選択したというが、自動車雑誌に掲載された記事においても無限の単語が使われているのだから、その中から偶然選択した単語が、たまたま取引関係があった請求人の商標と同一だった、という反論はあまりにも無理があろう。 オ 横取りか 被請求人は、請求人の本件審判の主張について、「被請求人が多くの手間と費用を投じて構築した本件商標の顧客吸引力に着目し、請求人自身の商品販売向上を目的として、被請求人からブランドを横取りしようと考え」(答弁書第14葉6行)、あるいは「まっとうなやり方で権利を取得した被請求人に対する言いがかりであり、法秩序を守り、日々自己の商標の信用の蓄積に努力する商標権者を愚弄するものである。」(答弁書第14葉下から13行)とのことである。 この文章は上記の請求人の弁駁のとおり、そのまま被請求人にお返しできるものである。 カ パリ条約から 本件取消審判の根拠条文は、パリ条約6条の7に基づくものである。 この6条の7は、商標権者を国際的に保護し国際的営業上の信用を維持せんとする条約の目的の表れの規定である。 したがって、少なくとも信頼関係にある者の商標を横取りする行使は、国際的に取引を安全に保つという立場からきわめて不当なことであり、これを制限することが、国際的に需要者の利益を保護するためにも必要、不可欠なことである、ということができる。 その点はこの6条の7の「ただし書き」からも明らかである。 同条のただし書きでは「代理人がその行為について、それが正当であることを明らかにしたときはこの限りではない。」と例外を示している。 この例外とは、例えば一刻も早く出願しなければ関係のない他人に権利を取られる恐れがあるという場合など、きわめて限定した状況だけをあえて限定している。 ということは、そのような例外を除いては原則のとおり、国際的な信頼関係を裏切った者の登録については、原商標権者と需要者の双方の立場から、横取りした者の登録を取り消すことが条約の趣旨に合致していることを明確に示しているといえる。 このように被請求人の登録行為は、パリ条約の規定の趣旨に反していることが明らかである。 キ 結論 以上弁駁したように、本件商標の登録出願は、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ないで本件商標の登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者と同等の地位にあった被請求人によってされたものであり、本件商標の登録は、商標法第53条の2に規定する要件のすべてを満たしているものであり、パリ条約の規定の趣旨にも反する行為であるから、同規定により取り消されるべきものである。 4 平成26年10月28日付け上申書における上申の内容(要旨) 請求人は、「新たな主張及び証拠の提出はしない。書面審理にして欲しい。」旨述べた。 第3 被請求人の主張 1 本案前の主張 請求人は、請求書「2.請求人」の欄に「氏名(名称)黄泰鈞」と記載しているところ、経済部知的財産局の商標情報検索サービス(甲2の2)の「申請/商標/マーク所有者」の「中国の名前」の欄には「黄泰淳」と記載されている。したがって、本件審判請求は、「その商標に関する権利を有する者」ではない者によるものであり、不適法な審判の請求であって、その補正をすることができないものである。 よって、本件審判請求は、審決をもって却下されるべきである。 2 本案の主張 (1)答弁の趣旨 被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由要旨を次のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第20号証(枝番を含む。)を提出している。 (2)答弁の理由(要旨) 商標法第53条の2の該当性について ア 代理人又は代表者について (ア)本条の要件を満たすというためには、本件商標の登録出願がなされた平成24年8月3日の1年前である平成23年8月3日から平成24年8月2日までの間に被請求人が請求人の「代理人」であったことが必要となるところ、この期間内に被請求人と請求人の間で独占的販売契約など、何らかの代理関係に基づく契約は締結されていない。 (イ)被請求人が業務実績に応じて請求人から手数料を受領するなどの決め事などが一切存在せず、被請求人は自らの責任において商品を販売しており、被請求人が請求人の代理店ではないことは明らかである。また、請求人と被請求人の間の取引は本件商標出願後の平成24年8月30日(注文時)の1回限り(乙3)であり、これを継続的な取引ということは到底できない。 (ウ)当時、請求人は、被請求人の注文内容に誠実に答えようとしないことが複数回あり、代理関係のような高度の信頼関係を築くことはできない状態であった。 (エ)被請求人は、請求人からサンプルをとりよせたことがあるが、サンプルを請求するという行為は、その後に代理関係に発展するような正式な取引ではなく、また、重要な取引でもなく、被請求人と請求人との間には、継続的な取引に入る状態あったとはいえない。なお、「サンプルを要求しただけでは、代理人とはならない」という点については、平成21年(行ケ)第10138号事件判決参照。 (オ)被請求人は、海外との取引先が42件(乙13の1)、国内での取引先が144件(乙13の2)あり、合計で180件以上のホイールメーカーと取引があり、180件以上のホイールメーカーの「ホイール」の販売及び商品を取り扱っているが、こうした行為は、被請求人の顧客の注文に応じて各ホイールメーカーからダイレクトにホイールを取り寄せる輸入業者であって、請求人との関係では一輸入業者(販売店)として輸入し、販売しているものである。 (カ)以上のとおり、請求人と被請求人の間には、継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成されているとはいえず、また、たった一回の取引のみで、被請求人が請求人の販売体系に組み込まれることはありえない。 イ 正当な理由について 被請求人が本件商標を使用し、また、出願するに際し、請求人は被請求人からの問い合わせや許諾はー切なかった旨主張するが、被請求人は事前に請求人に確認を取っている。 被請求人は請求人に対して、事前に商品名として本件商標を使用して良いか否か、また、本件商標について商標出願を行って良いか否かについて、アライアンス社の従業員に確認を行った。そうしたところ、「構わない」という旨の返事をもらったために、商品名として本件商標を使用することを決定し、また、商標登録出願に至ったのである。 被請求人は、商品名として本件商標を使用することを決定した後、現在に至るまで、本件商標を付した商品の売り上げ向上を図るべく、また、本件商標の周知化を実現すべく、本件商標を雑誌やパンフレット、チラシなどに継続的に使用して広告宣伝活動を行っている(乙14)。被請求人は、本件商標の周知化のため、広告宣伝活動に努める必要があり、そのためには多額の宣伝広告費が必要となることから、そうした宣伝広告費を無駄にしないためにも本件商標を出願したものであって、出願したことには正当な理由がある。 ウ まとめ 以上のとおり、被請求人は請求人の代理人若しくは代表者には該当せず、また、出願についての正当な理由も有しているため、本件審判請求は、商標法第53条の2の要件を満たさない。 よって、本件商標の登録は、商標法53条の2の規定により、取り消されるべきでない。 3 平成26年11月5日付け上申書における上申の内容(要旨) 被請求人は、「書面審理を希望する。」旨述べた。 第3 当審の判断 1 商標に相当する権利の有無及びその権利者について 請求人は、氏名が「黄泰鈞」、その住所が「台湾桃園県桃園市中正路1325号3楼」であるところ、2011年11月1日付け台湾経済部知恵(的)財産局局長発行の中華民国商標登録証(甲2の1)によれば、別掲2のとおりの構成からなる商標(ただし、「『WHEELS』不在専用之列」の記載あり)について、指定商品「鋼圏,輪圏(ホイール(リム))」、権利期間2011年11月1日ないし2021年10月31日とする商標登録第1481849号の商標権者として記載されていることが認められる。 そして、台湾は、世界貿易機関の加盟国である。 そうすると、請求人は、世界貿易機関の加盟国において上記商標権を有する者と認められる。 被請求人は、台湾における商標登録第1481849号に係る商標権者は、経済部知的財産局の商標情報検索サービス(甲2の2)の「申請/商標/マーク所有者」の「中国の名前」の欄には「黄泰淳」と記載されているから、本件審判請求は、「その商標に関する権利を有する者」ではない者による請求である旨主張する。 確かに被請求人の主張するとおり、「経済部知的財産局の商標情報検索サービス」と題する書面(甲2の2)の「申請/商標/マーク所有者」「中国の名前」の欄には「黄泰淳」と記載されていることが認められる。しかしながら、同書面は「経済部知的財産局」そのものが作成した書面と認められるものではなく、また、商標登録第1481849号に係る「商標情報検索サービス」として作成されたものであって、しかも日本語に翻訳された書面と解されるものであるから、上記商標権者の氏名を誤記したことも考えられるのに対し、上述した台湾経済部知恵財産局局長発行の中華民国商標登録証(甲2の1)には、公印が押印され、商標登録第1481849号の商標権者は請求人と同じ「黄泰鈞」と明示されていることが認められるから、同商標権の商標権者は請求人というのが相当であり、本件審判請求が「その商標に関する権利を有する者」ではない者による請求である旨の被請求人の主張は採用することができない。 2 本件商標と引用商標の類否について ア 本件商標 本件商標は、別掲1のとおりの構成からなるところ、ややデザイン化されているが「STANCE」の欧文字を認識させるものであり、該文字は「姿勢、構え」などの意味を有する英語として知られている語であるから、その構成文字に相応して「スタンス」の称呼、「姿勢、構え」ほどの観念を生じるものである。 イ 引用商標 引用商標は、別掲2のとおりの構成からなるところ、ややデザイン化されているが「STANCE」の欧文字を認識させる文字を大きく表し、その右下にややデザイン化された「WHEELS」の欧文字を認識させる文字を小さく表してなるが、その構成中の「WHEELS」の文字部分は、指定商品である「ホイール」を表すものであるから、自他商品の識別力を有しないものであり、自他商品の識別力を有する部分は、「姿勢、構え」などの意味を有する「STANCE」の文字部分であり、その構成文字に相応して、「スタンス」の称呼、「姿勢、構え」ほどの観念を生じるものである。 ウ 本件商標と引用商標の対比 本件商標の外観と引用商標の外観とを比較すると、両者は、自他商品の識別力を有しない「WHEELS」の文字の有無及び色彩の有無において異なるが、ややデザイン化された「STANCE」の欧文字部分は、外観において相紛らわしい類似の商標である。 本件商標から生じる称呼及び観念と引用商標から生じる称呼及び観念とを比較すると、両者は、いずれも「スタンス」の称呼、「姿勢、構え」ほどの観念を生じるものであるから、称呼及び観念において相紛らわしい類似の商標である。 そうすると、本件商標は、引用商標の構成中の「STANCE」の文字部分とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛らわしいものであるから、本件商標と引用商標は、類似の商標というべきものである。 3 本件商標を登録出願することについての「正当理由の有無」及び「承諾の有無」について 被請求人は、「本件商標を使用し、登録出願するに際しては、請求人に対して、事前に商品名として本件商標を使用して良いか否か、また、本件商標について商標出願を行って良いか否かについて、アライアンス社の従業員に確認を行ない、『構わない』という旨の返事をもらったので、本件商標の使用及び登録出願を行ったものである」旨主張する。 しかしながら、被請求人は、同人が請求人に対して、いつ、どのような方法で、本件商標の使用許諾及び登録出願の許諾について、使用商品又は指定商品、使用期間、使用地域、対価、専用使用の許諾か又は単なる使用許諾かなどの諸条件を含めて問い合わせをしたのか、これに対して請求人からどのような許諾内容の回答を得たのかなどについての立証を全くしていないから、「構わない」という旨の返事をもらったとの主張のみによっては、本件商標の登録出願をすることについて、請求人の「承諾」があり、「正当理由」があったと認めることができず、この点に関する被請求人の主張は採用することができない。 4 被請求人が請求人の代理人又は代表者であったか否かについて (1)商標法第53条の2は、「…その商標登録出願が、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前一年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるとき…」と規定している。この規定は、商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者がその権利者との間に存する信頼関係に違背して正当な理由がないのに同一又は類似の商標登録をした場合にその取消についての審判を請求できる旨の規定であり、ここにいう「代理人若しくは代表者」には特約店、輸入総代理店のような契約がある場合のほか、格別の信頼関係が形成されていたような場合も含まれると解されるが、「単なる輸入販売業者」は含まれないと解される(昭和55年(行ケ)第60号参照)。 (2)請求人は、「被請求人が、本件商標の登録出願の日前一年以内に、請求人が代表者を務めるアライアンス社から、日本における独占販売権を文書によって付与されていたものではないが、被請求人と請求人とは、継続的な取引に入る状態であり、これは慣行上の信頼関係が形成されていたとみるべきであって、被請求人は、日本国内における請求人の商品の販売体系に組み込まれるような立場にあった者とみることができる」旨主張する。そして、請求人が、「継続的な取引に入る状態であった」としている請求人と被請求人の本件商標の登録出願の日前1年以内のやりとりは、請求人の主張によれば、概略次のとおりである。 ア 平成24年4月に被請求人の営業担当がアライアンス社を訪問した。アライアンス社は、被請求人にホイールを注文する前に手付金として8,427米ドル(審決注:8,472米ドルの誤りと認められる。)を支払うよう要求し、平成24年5月8日に被請求人は、アライアンス社に対し手付金の支払いをした(甲5)。 イ 平成24年6月28日にアライアンス社の社員A(以下「請求人社員A」という。)から被請求人の社員B(以下「被請求人社員B」という。)に「STANCE」商品の取引の勧誘メール(甲6)、平成24年7月11日には代理店への勧誘のメールを送信した(甲7)。 ウ 同日に被請求人社員Bから請求人社員Aに「(自動車にホイールを取り付けた状態の)写真が欲しい。日本車のホンダのFFの写真を希望する。」という問い合わせがあった(甲8)。 エ さらに、同日に被請求人社員Bから請求人社員Aに、「ホイールの価格と数量を教えてください。サンプルも必要です。」という要望があった(甲8)。 (3)上記(2)について、被請求人の主張によれば、次のとおりである。 ア 被請求人は、アライアンス社からの支払い要求に対して支払いをしているのは事実である。しかし、この金額は、「STANCE」ブランドのホイールを注文する手付金としてではなく、「STANCE」ブランドとは全く異なるブランドである「XXR」の「527ホイール400PCS」の注文時に支払った前払い金の一部である(乙1)。 イ 請求人社員Aから被請求人社員B宛てに、「STANCE」ブランドのホイールの購入についての勧誘メール及びアライアンス社代理店への勧誘メールがあったのは事実である。 ウ 請求人に対し、被請求人が代理店契約を希望しているとの意思表示や、そのように誤解を与えるような意思表示を行ったこともない。 エ 一般的に、サンプルは商品を購入するかどうかを判断する際の材料となるものであり、通常の商取引において、まずはサンプルを請求し、そのサンプルを実際に手に取り、その品質や性能をじっくり吟味した上で購入するかどうかを判断することはごく当然に行われている。このような商取引のごく一般的な常識に基づき、被請求人は、請求人から一旦サンプル品を取り寄せて検討し吟味した後、実際に購入するかどうか判断するつもりであった(乙2)。 (4)上記(2)、(3)及び提出された全証拠によれば、本件商標の登録出願の日前1年以内において、(a)被請求人は請求人から「STANCE」ブランドと異なるブランドのホイールを購入したこと、(b)請求人は被請求人に商品取引又は代理店への勧誘をしたこと、(c)被請求人は請求人に対して価格及び数量の問い合わせをし、商品写真及びサンプル要求などをしていたことが認められる。 そうすると、被請求人は、請求人が代表者を務めるアライアンス社の取り扱う商品「ホイール」についての「顧客」にすぎないものであるから、請求人が主張する「被請求人と継続的な取引に入る状態であり、慣行上の信頼関係が形成されていたとみるべき」とはいえず、被請求人は「日本国内における請求人の商品の販売体系に組み込まれるような立場にあった者」ともいえない。 したがって、被請求人は、本件商標の登録出願の日前1年以内に請求人の代理人であった者とはいえない。 5 結論 以上のとおり、本件商標の登録は、その商標登録出願が商標法第第53条の2所定の者によってされたものではないから、同条の規定により取り消すべき限りでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1 本件商標(登録第5560122号商標) 別掲2 引用商標(色彩については原本参照) |
審理終結日 | 2015-03-26 |
結審通知日 | 2015-03-30 |
審決日 | 2015-05-18 |
出願番号 | 商願2012-63242(T2012-63242) |
審決分類 |
T
1
31・
6-
Y
(W12)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山田 正樹 |
特許庁審判長 |
土井 敬子 |
特許庁審判官 |
原田 信彦 大森 健司 |
登録日 | 2013-02-22 |
登録番号 | 商標登録第5560122号(T5560122) |
商標の称呼 | スタンス |
代理人 | 大島 信之 |
代理人 | 遠藤 聡子 |
代理人 | 山口 朔生 |
代理人 | 森田 靖之 |
代理人 | 有吉 修一朗 |