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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 041
管理番号 1306513 
審判番号 取消2014-300674 
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-09-03 
確定日 2015-09-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第3231564号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第3231564号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3231564号商標(以下「本件商標」という。)は,「松濤館流」の文字を書してなり,平成4年11月24日に登録出願,第41類「空手の教授及びその他の技芸・スポーツ又は知識の教授」を指定役務として,同8年12月25日に設定登録され,同18年11月28日に商標権の存続期間の更新登録がなされ,現に有効に存続しているものである。
なお,本件審判の請求の登録は,平成26年9月24日である。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,審判請求書,審判事件弁駁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定役務について,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間」という場合がある。)に,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実が存しないから,商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
被請求人の答弁によっては,少なくとも,商標登録の取消しを免れるための法律要件(商標法50条2項)中の「使用」要件を具備することが立証されない。
なぜなら,被請求人の答弁中,「使用」要件を充足する具体的事実の存在に関する主張が一切なく,当該事実の存在を立証する証拠も一切提出されていない。
この具体的事実の存在を主張・立証することなしに,「使用」要件を具備するとの判断(法的評価)を下すことは違法である。
なお,「使用」要件の具備という法的評価が下されるためには「使用」要件の具備という法的効果を主張する陳述や証言があれば足り,「使用」要件を充足する具体的事実の存在を主張・立証する必要はないという見解は,特許庁審判便覧(35-00 4.(2))がいうところの「『立証しようとする事実』と『法的効果の主張』が混乱されて立証事実・証拠が示されている場合」に他ならない。
3 口頭審理陳述要領書(平成27年4月28日付け)
(1)乙第27号証の「JKFan」(2013年5月号)中に「松濤館流」の文字が見られるが,該語を使用しているのは雑誌の発行者((株)チャンプ)であって,被請求人又はその使用権者ではない。
また,該語は,空手の教授(第41類)という商標法上の役務について使用されていない。
(2)乙第28号証のDVD(2013年仏国製)及び乙第29号証のDVD納品書(2014年)には,本件商標と社会通念上同一の商標が使用されていない。
そもそも,乙第28号証及び乙第29号証の説明によれば,これらのDVDは,(株)チャンプが三田空手会に卸売りし,三田空手会が会員に小売した商品であり,被請求人又はその使用権者により空手の教授という役務が提供されていたことも立証されていない。
(3)使用事実が存在しなかったことを伺わせる間接証拠
被請求人は,答弁において,信濃町道場で本件商標が使用された旨を主張している。これに関し,請求人は,商標法第50条第2項に規定される使用の事実が存在しなかったことを伺わせる間接証拠として,甲第1号証ないし甲第4号証を提出するとともに,被請求人が提出した乙第5号証(奈藏宣久氏の陳述書及びEメール)を援用する。
ア 甲第1号証の1
(ア)内容:「一般社団法人三田空手会」(以下「三田空手会」という。)のオフィシャルウェブサイトのトップページ(2015年4月24日時点)であり,「三田空手会は2014年9月2日付で『一般社団法人三田空手会』に改組いたしました。」,「練習会 木曜会 毎週木曜 信濃町道場 中級?」の記載がある。
(イ)立証趣旨:三田空手会が2014年に一般社団法人化した事実。被請求人が本件商標の使用場所として主張する木曜会(信濃町道場)が,三田空手会の内部組織としての練習会である事実。
イ 甲第1号証の2
(ア)内容:上記サイトの「会長挨拶」のページであり,奈藏宣久氏(以下「奈藏氏」という。)が会長として,「三田空手会会長の奈藏宣久[昭和40年卒]でございます。三田空手会は慶応義塾体育会空手部のOB,OG団体でして,1932年創設,本年82年目を迎えます。・・・」のように挨拶している。
(イ)立証趣旨:三田空手会が,慶応義塾体育会空手部のOB,OG団体である事実。奈藏氏が三田空手会の代表者である事実。
ウ 甲第2号証
(ア)内容:甲第1号証のウェブサイトの2014年12月4日時点のトップページであり,1頁目はリニューアル中として何も記載されていないが,2頁目には稽古会の日程等に関して,「木曜会 毎週木曜/信濃町道場」,「木曜会幹事 眞下欽一(S30卒)」の記載がある。
(イ)立証趣旨:木曜会(信濃町道場)における被請求人(眞下氏)の役職が幹事である事実。
エ 甲第3号証
(ア)内容:「一般社団法人三田空手会」の法人登記情報。
(イ)立証趣旨:三田空手会が法人化された当初から現在に至るまで,奈藏氏が代表理事である事実。
オ 甲第4号証
(ア)内容:三田空手会の上部組織である「慶應義塾體育會空手部」の旧ウェブサイト(http://www.keiokarate.net/)(2010年11月5日)における「三田空手会会長挨拶」のページである。平成20年,奈藏氏は三田空手会の代表者(当時は会長)に就任し,「平成20年6月に開催されました三田空手会総会におきまして,北郷義時前会長の後を受けまして会長に就任いたしました奈蔵宣久(昭和40年卒)でございます。三田空手会は本年創立84年を迎える慶應義塾体育会空手部のOB,OG団体でして,・・・。」のように挨拶している。(なお,上記ウェブサイトのURLは,現在はhttp://www.keiokarate.com/に変更されている。)
(イ)立証趣旨:奈藏氏が,三田空手会が法人化する前の平成20年(2008)から同会の代表者(当時は会長)であった事実。
カ 被請求人が提出した乙第5号証の1(奈藏氏の陳述書)
(ア)「私,奈藏宣久は2002年8月より,今日に至るまで真下欽一氏に松涛館空手の指導を受けております。道場は,慶応義塾大学医学部内,慶応義塾体育会医学部空手道場(信濃町)。船越義珍氏の流れを継ぐ松涛館空手を週一回稽古しております。」の記載がある。
(イ)立証趣旨:奈藏氏が,2002年8月から現在に至るまで,信濃町道場において請求人から空手の指導を毎週受けている事実。
キ 同乙第5号証の3(奈藏氏が被請求人の代理人に宛てたEメール)
(ア)「どうも,“真下さん-松涛館流”という明確な記述が見つかりませんので下記補足いたします。・・・。慶応はまさしく船越先生の直弟子でして,その意味で松涛館の保守本流ですが,先生が流派を名乗っておられなかったこともあり,自分から“慶応は松涛館だ”と対外的に名乗ることはして参りませんでした。ただ木曜会を通じ・・・。」の記載がある。
(イ)立証趣旨:奈藏氏が,被請求人との関係で「松涛館流」という記述が使用された事実を発見できない事実。三田空手会が,対外的に「松涛館」を名乗ってこなかった事実。奈藏氏が参加している信濃町道場の稽古会が「木曜会」である事実。
ク 以上の証拠が示すように,三田空手会は,慶應大学空手部のOB・OG団体である。
被請求人は,慶応大学空手部のOBであり(被請求人の陳述書(乙1)),三田空手会の一員である。
木曜会(信濃町道場)は,三田空手会の内部組織であり,三田空手会の管理のもとで,三田空手会の会員どうしが行なう稽古会である。被請求人は,三田空手会の一会員として木曜会の幹事を務め,同会において他会員に空手を指導してきた。
奈藏氏は,2002年から現在に至るまで,木曜会(信濃町道場)において,被請求人から空手の指導を受けている(乙5の1)。また,奈藏氏は,平成20年6月から現在に至る間は,三田空手会の最高責任者である会長(法人化前)及び代表理事(法人化後)として,木曜会を運営する三田空手会の活動を知悉し,監督してきた。その奈藏氏が,乙5の3において,「”真下さん-松涛館流”という明確な記述が見つかりません」と述べ,三田空手会が「松涛館だと対外的に名乗ることはして参りませんでした」と自認している以上,木曜会(信濃町道場)において本件商標の使用(商標法50条2項)が行われたとは考えられない。
(3)商標法上の役務に該当しない
前記甲第1号証ないし甲第4号証が示すように,被請求人が本件商標の使用場所と主張する木曜会(信濃町道場)は,三田空手会の内部組織であり,三田空手会の管理のもとで,三田空手会の会員どうしが行なう稽古会である。木曜会における被請求人の役職は幹事であることから,被請求人が三田空手会の一会員として他の会員に空手を指導していることが分かる。ここで行われる空手の指導は,独立して商取引の目的たり得ず,商標法上の役務には該当しない。
4 上申書(平成27年6月9日付け)
(1)乙第28号証のDVDは,商品であり,被請求人は,DVDが,商標法第2条第3項第3号又は第8号の使用事実の存在を立証する証拠であると主張するが,客観的な根拠を欠く独自説にすぎない。
そもそも,被請求人の代理人は,口頭審理において,DVDが,三田空手会により,その会員に対し,有償で販売されたと主張し,審判長が審尋したところ,それが事実に相違ない旨を被請求人の代理人が自認し,出廷していた請求人自身による異論もなかった。また,被請求人の上申書2頁9行目における「・・・DVDを販売することは,・・・」という主張も上記の事実を裏付けている。
したがって,乙第28号証のDVDは,商標法上の商品として販売されたのであり,その販売が商標法第2条第3項第3号の使用に該当する余地はない。また,商標法上の商品として販売される当該DVD又はその包装(パッケージ)は,商標法上の広告,価格表又は取引書類にも該当し得ないから,当該DVDの販売が商標法第2条第3項第8号の使用に該当する余地もない。
(2)乙第28号証に表示された標章「Shotokan」
乙第28号証のDVDの包装(パッケージ)に表示されている標章「Shotokan」は,本件商標と社会通念上同一の商標ではない。
(3)DVDの譲渡・譲受の当事者は被請求人ではない
乙第28号証のDVDは,(株)チャンプから三田空手会に卸売りされ,三田空手会からその会員に小売されたものである。これら一連の行為に,被請求人による商標法上の標章の使用行為が介在する余地はない。
(4)被請求人の上申書に対する弁駁
ア 被請求人の上申書「5.(2)」(2頁中ほど)について,「真拳会」なる団体に配布されたと思しき乙第31号証は,それが真正に成立したと仮定しても,要証期間から3?6年以前である平成17年?20年の間に配布されているため,要証期間の本件商標の使用事実を立証し得ない。
なお,乙第31号証の立証趣旨は,被請求人が上申書で主張するように,「被請求人が要証期間前から現在に至るまで継続して空手を教授していること」である。その事実の存在については,請求人も認めるところである。
イ 被請求人の上申書「5.(3)」(2頁末)によれば,木曜会の会員は,同会への参加1回あたり1千円を支払い,その金銭は被請求人への対価には充てられず,三田空手会の大橋洋二及び明治薬科大学OBの境野孝の両名の管理のもとで,木曜会の運営費等に充てられている。
この事実は,木曜会における被請求人による空手の教授が,商標法上の役務に該当しないことを推認させる。すなわち,もしも,被請求人が木曜会の経営者として,商標法上の役務として空手の教授を行っているなら,木曜会は経済的・組織的に三田空手会から独立しているはずであり,三田空手会の大橋氏などが木曜会の金銭を管理することはない。
甲第1号証の1及び甲第2号証が示すように,三田空手会のホームページには「木曜会」だけでなく,「土曜倶楽部」,「ゆうゆう班」,「木曜会 日曜ゼミ」等の複数の稽古会が紹介されている。
これらの稽古会は,三田空手会が運営・管理している同会内部の稽古会であって,三田空手会から経済的・組織的に独立して商標法上の役務として空手の教授を行なっているわけではない。当該ホームページにおいて上記の稽古会の一つとして紹介されている「木曜会」も同様である。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,答弁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第31号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標権者は,その指定役務に該当する「空手の教授」に本件商標を使用して,要証期間に日本国内において実施している。この事実の存在は,乙第1号証ないし乙第11号証を総合して検討すれば明白である。
すなわち,これらの各号証は私人の証明書ではあるが,仮に,事実上,本件商標をその指定役務について要証期間に使用されていないとすれば,これらの事実の存在を証明することは不可能というべきであり,特に,本件商標権者の陳述書によってもその使用の事実は明らかである。
(2)本件商標は,慶応義塾大学の空手師範であった故冨名腰義珍師範が開祖であるが,被請求人は彼の直弟子であることから,上記師範の松濤館流を引き継ぎ,本件商標権を取得した次第であり,その後,要証期間はもちろん,それよりはるか以前から今日に至るまで,継続して本件商標権を用いて被請求人の直弟子達に空手指導を行っている。
乙各号証は,全て事実に基づいて事実関係を説明しているのであり,かつ,これらの事実の経験を有しない者は,場所及び年月を特定して証明することは全く不可能というべきであるから,例え,私人による証明書であるとしても,これらを総合すれば,前述の事実を確認することは極めて容易であると断ぜざるを得ない。
(3)乙第12号証ないし乙第26号証は,本件の答弁書提出後に被請求人の代理人事務所宛に送達されてきたものであるが,これらは何れも被請求人の直弟子等が本件商標の松濤館流を被請求人から教授されてきた事実を各人が夫々経験した事実に基づいて証明したものである。
(4)乙第27号証は,毎月1回1日に発行される空手の月刊誌「JKFan」であり,同号証の1の表紙,同号証の2の裏表紙,同号証の3の背表紙によって,月刊誌「JKFan」が毎月1日に発行される事実,及び2013年5月1日に発行された空手誌であることが確認できる。
乙第27号証の4は,前記「JKFan」の記事であるが,同号証の4により,故船越義珍翁(同号証の7に示す「松濤館流」空手の開祖)に師事した3氏,すなわち,岩本義明氏,鈴木博雄氏及び被請求人が紹介されている。
また,同号証の5には,前記岩本氏が紹介され,同号証の6には,岩本氏,鈴木氏及び被請求人の3名が写真入りで紹介されている。さらに,同号証の8には,鈴木氏や被請求人が故船越義珍翁の遺した空手を引き継いでいる事実が紹介されている。
これらの事実を総合すると,故船越義珍翁が「松濤館流」空手の開祖であり,そして,被請求人等が故船越義珍翁の承継者である事実が確認できる。
そこで,被請求人は,「松濤館流」が商標登録されていないことに気付き,「松濤館流」の関係者が不利な扱いを受けては困ると思い,その商標登録を得て今日に至っているのである。
また,乙第28号証は「松濤館流」空手の形が収録されたDVD及びその収容箱である。該DVDは,「松濤館流」空手を日本国内において学んだ一人のフランス人がフランス国に帰国して同号証の2に示す如く2013年に製作したものである。
このDVDの収容箱の表面(同号証の1)に被請求人自身の空手の形が描写されている。そして,該DVDには,Shotokan,すなわち「松濤館流」の形の実演が収録されている。
もちろん,該DVDは,日本国の「松濤館流」に係る空手の形を収録したものであるから,該DVDは,前述の2013年以来,日本国においても乙第29号証に示す如く,東京都杉並区高円寺南4丁目19番3号の株式会社チャンプにより,法人三田空手会に400個販売され,そして三田空手会はその全量を三田空手会の会員に販売した。もちろん,この事実は,乙第29号証に示す如く,要証期間に販売されている。
(5)被請求人は,乙第24号証に加えて,再度乙第30号証を提出する。
同号証は,被請求人が要証期間はもちろん,それよりはるか以前より現在に至るまで,学校法人慶応義塾及び明治薬科大学の学生並びに同大学のOBに松濤館流として空手を教授している事実を,学校法人慶応義塾商学部の教授であって,該慶応義塾体育会空手部の部長を務めている榊原研互氏によって証明されたものであり,信憑性は極めて高い。
2 口頭審理陳述要領書(平成27年4月14日付け)
本件商標は,要証期間に日本国内において,被請求人によって使用された事実を陳述する。
上記の事実は,乙第1号証ないし乙第29号証によって立証され,乙第27号証ないし乙第29号証についての説明は,前記1(4)を援用する。
3 上申書(平成27年5月26日付け)
(1)本件商標の使用について
被請求人は,乙第28号証のDVDにおいて,松濤館流の空手の型を実演している。すなわち,被請求人は,当該DVDを視聴する生徒に対して,当該DVDを介して松濤館流空手を教授していることに他ならない。
したがって,被請求人は,空手の教授に当たり,役務の提供を受ける生徒の利用に供するDVDに本件商標と社会通念上同一の商標「Shotokan」を付すことにより,本件商標を使用している(商標法第2条第3項第3号)。
また,被請求人は,乙第28号証に示すように,「Shotokan」の文字を付したDVDを販売することは,役務に関する広告を展示または頒布するものである。
したがって,被請求人は,空手の教授に関する広告としてのDVDに本件商標と社会通念上同一の商標「Shotokan」を付すことにより,本件商標を使用している(商標法第2条第3項第8号)。
(2)被請求人が頒布した冊子について
乙第31号証の1ないし9は,被請求人が,空手を教授する際に,生徒に手渡した冊子であり,被請求人自身が松濤館流空手の心構え等をまとめたものである。
同号証では,筆者である被請求人の氏名と共に「松濤館流」の文言が記載されている。同号証は,平成17年4月1日,同年5月1日,同年6月1日,同年7月1日,同年8月1日,同年10月1日,同年11月1日,同年12月1日,同20年3月20日にそれぞれ頒布されたものである。これは,被請求人が要証期間前から現在に至るまで継続して空手を教授していることを示すものである。
(3)被請求人が提供する役務の対価について
被請求人は,木曜会にて生徒に空手を教授しており,生徒は木曜会に1回当たり金千円を支払っている。この金銭は,三田空手会の大橋洋二氏及び明治薬科大学OBの境野孝氏によって管理されており,木曜会の運営費等に充てられている。被請求人は,木曜会から役務提供の対価は得ていないものの,対価の有無は本件商標の使用の有無に影響しないものである。

第4 当審の判断
1 不使用取消審判について
商標法第50条第1項の規定に基づく商標登録の取消しの審判が請求された場合には,同条第2項において,その審判の請求の登録前3年以内(本件の場合は,平成23年9月24日から平成26年9月23日)に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り,使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにした場合を除いて,商標権者は,その指定役務に係る商標登録の取消を免れないとされている。
2 被請求人の主張及び提出した証拠について
(1)乙第1号証は,被請求人名による平成26年11月17日付けの「陳述書」であり,これには,被請求人の経歴,本件商標の出願の経緯及び本件商標を昭和31年10月から使用していること等が陳述されている。
(2)乙第2号証ないし乙第26号証は,被請求人から空手の指導を受けている者から,被請求人代理人事務所宛に送達された証明書と認められ,封書の表には,被請求人代理人事務所の住所,宛先名が記載され,封書の裏には,それぞれの差出人の住所,氏名が記載されている。
そして,これらの書面の内容は,概ね「被請求人から空手の指導を受けていること」,「慶応義塾体育会空手部のOBの稽古団体である木曜会を通じて松濤館流空手を習っていること」,「場所は,慶応義塾大学病院内医学部空手部信濃町道場であること」及び証明日,住所,氏名が記載され,押印されている。
また,乙第5号証の3は,三田空手会会長 奈藏宣久氏から林国際特許事務所に送信された2014年11月7日付けの電子メール(写し)であり,その内容によれば,もともと船越義珍氏は御自分で“松涛館流”とは名乗っていなかったこと,船越先生の直弟子である慶応も“慶応は松涛館だ”と対外的に名乗ることはしてこなかった,木曜会を通じて松涛館空手を30年以上継続してきており,木曜会の代表者たる真下氏こそ,松涛館空手の中心人物であること等が記載されている。
(3)乙第27号証は,空手の雑誌「JKFan」(株式会社チャンプ発行,2013年5月号)と認められ,松濤館流空手の歴史及び被請求人を含む3人の門弟について掲載されている。
(4)乙第28号証は,「KARATE/Shotokan」(「E」の文字部分にはアクサンテギュが付されている。以下「E」と記載する。)との表題の,松濤館流空手の形を収録したとするDVD(「vol.1」2013年制作)である。
(5)乙第29号証は,株式会社チャンプから三田空手会宛てに,「Karate Shotokan Vol.1・2・3・4 DVDパッケージ」が400個(単価600円)を納品されたとする2014年1月23日付けの納品書である。
(6)乙第30号証は,被請求人から,本件商標につき「上掲の商標は,平成26年9月24日前3年以内は勿論,それより遙か依然より現在に至るまで貴大学及び明治薬科大学の学生並びに同大学のOBに松濤館流として空手を教授している事実を御証明下さい。」との旨の「証明願」に対し,学校法人慶應義塾商学部教授・慶應義塾体育会空手部部長の「榊原研互」が,平成27年4月27日付けで,記名,捺印し,証明した書面である。
(7)乙第31号証の1ないし9は,「松涛館流 真拳会 真下欽一」名による「空手武術 情報」との表題の,平成17年4月1日,同年5月1日,同年6月1日,同年7月1日,同年8月1日,同年10月1日,同年11月1日,同年12月1日及び同20年3月20日付けの書面であり,その内容は,松涛館空手の心構え等である。
3 本件商標の使用について,上記2によれば,以下のとおりである。
(1)本件商標権者は,少なくとも昭和38年以降,要証期間を含む平成27年4月27日に至るまで(乙2ないし乙26の陳述書が作成された平成26年11月13日及び乙30の証明願),慶応義塾大学病院内信濃町道場で「松濤館流」と称する空手の指導を行っていることが窺われる。
しかしながら,「松濤館流」の文字が,本件商標と社会通念上同一であるとしても,これらの書面からは,該「松濤館流」の文字が「空手の教授」の役務に,どのように使用されたものであるかについて,確認することができない。
(2)雑誌「JK Fan」(乙27)によれば,「松濤館流空手」は,船越義珍を流祖とすること,本件商標権者を含む3人がその門下生であることが確認できるにすぎないものである。
(3)「KARATE」及び「Shotokan」と表示された「vol.1」のDVD(乙28)については,Vol.1ないし4のDVDパッケージが,要証期間である2014年(平成26年)1月23日に,株式会社チャンプから三田空手会に400個が納品された(乙29)としても,商品であるDVDが,平成26年1月23日以降,販売されたことが推認できるにすぎず,該DVDが,取消請求に係る役務について,どのように使用されたものであるかは確認することができない。
(4)本件商標は,「松濤館流」の文字からなるのに対し,乙第28号証のDVDに表示された文字は,「Shotokan」の欧文字からなるものであるから,本件商標の書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字を相互に変更するものということができない。
そして,本件商標からは,「ショウトウカンリュウ」の称呼が生ずるのに対し,「Shotokan」の欧文字からは,「ショートーカン」の称呼が生じるものであるから,同一の称呼を生ずるものとはいえない。
また,本件商標及び「Shotokan」の欧文字からは,特定の観念を生じないものであるから,同一の観念を生ずるものとはいえない。
したがって,「Shotokan」の欧文字は,本件商標と社会通念上同一のものということができない。
(5)「空手武術 情報」と題する「松涛館流 真拳会 真下欽一」名の書面(乙31)が,空手を教授する際に,本件商標権者から生徒に配布されたとしても,これらの文書は,いずれも要証期間より前の日付けであり,要証期間に配布されたことを確認することもできない。
(6)その他,本件商標が本件取消請求に係る指定役務について使用されていることを示す証拠はない。
4 被請求人の主張について
被請求人は,「空手の教授に当たり,役務の提供を受ける生徒の利用に供するDVDに本件商標と社会通念上同一の商標「Shotokan」を付すことにより,本件商標を使用している(商標法第2条第3項第3号)。」旨,及び,「空手の教授に関する広告としてのDVDに・・・本件商標を使用している(商標法第2条第3項第8号)。」旨主張している。
しかしながら,該DVDは,納品されたパッケージの数量から,400枚製作されたこと及び販売されたであろうことが推認できるとしても,商品として販売されたことを示すにすぎず,該DVDが,空手の教授に当たり,役務の提供を受ける生徒の利用に供するものとして,又は,空手の教授に関する広告として,具体的にどのように使用されたものであるかは確認することができない。
5 まとめ
上記3のとおり,被請求人の提出に係る証拠からは,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,その指定役務のいずれかについて,本件商標を使用していることを証明したものということができない。
また,被請求人は,本件指定役務について,本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,商標法第50条の規定により,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-07-21 
結審通知日 2015-07-23 
審決日 2015-08-05 
出願番号 商願平4-316554 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (041)
最終処分 成立  
特許庁審判長 今田 三男
特許庁審判官 井出 英一郎
田中 亨子
登録日 1996-12-25 
登録番号 商標登録第3231564号(T3231564) 
商標の称呼 ショートーカンリュウ、ショートーカン 
代理人 林 孝吉 
代理人 清水 貴光 

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