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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2015890035 審決 商標
無効2014890024 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X32
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X32
管理番号 1301733 
審判番号 無効2013-890029 
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-04-05 
確定日 2015-06-23 
事件の表示 上記当事者間の登録第5519499号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5519499号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5519499号商標(以下「本件商標」という。)は,「軽井沢浅間高原ビール」の文字を標準文字により表してなり,平成23年5月30日に登録出願,第32類「エールビール,ラガービール,黒ビール,スタウトビール,ドラフトビール,その他のビール」を指定商品として平成24年9月7日に設定登録され,現に有効に存続するものである。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲1ないし15(枝番を含む。)を提出している。
1 請求の理由
本件商標は,商標法4条1項11号又は同項15号に該当するものであるから,同法46条1項1号により,その登録を無効にすべきものである。
(1)請求人適格について
請求人である株式会社ヤッホーブルーイングは,同じく請求人である株式会社星野リゾートの100%出資の子会社であって,引用商標を付したビールの製造・販売をしている(以下,両者を併せて「請求人」という。)。本件商標は,以下に述べるとおり,引用商標と類似し又は出所の混同のおそれがある商標であるから,本件商標の登録を無効にすることについて請求人は法律上の利益を有するものである。よって,請求人は本件審判の請求人適格を有している。
(2)請求人が引用する商標は,甲2及び3に示す請求人の使用する標章及び登録第3212962号商標(別掲3)であり,引用商標1ないし3とするものである(以下,これらを併せていうときは「引用商標」という。)
そして,引用商標1及び引用商標2の態様を,それぞれ「別掲1」及び「別掲2」として特定する。
(3)商標法4条1項15号該当性について
商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無の判断は,判例の示すとおりである(最判平成平成12年7月11日民集54巻6号1848頁)。
請求人は,1996年にビール製造免許を取得し,引用商標を付した商品を1997年からビールの一種類であるいわゆる「地ビール」として販売している(甲4)。そして,発売から約16年の長きにわたり引用商標を継続使用してきた結果,引用商標には請求人の業務上の信用が蓄積し,周知・著名性を獲得しているところである。
このような状況において,引用商標と酷似する「軽井沢浅間高原ビール」の文字を書してなる本件商標がビール,特に地ビールについて使用された場合,需要者は,「軽井沢高原ビール」の商標で販売されている請求人の商品と混同し,商品の出所について混同を来すこと必至である。
したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当する。
ア 本件商標と引用商標との類似性の程度について
(ア)外観上の対比
本件商標は「軽井沢浅間高原ビール」の10文字から構成されているのに対し,引用商標は「軽井沢高原ビール」の8文字構成からなるものである。
両商標は,中間の「浅間」の2文字の有無において相違するが,該文字は,構成文字全体が同書同体の10文字と比較的冗長な本件商標を構成する文字列にあって,中間に位置しているところから,商標全体の中で特段に目立つものではない。そして,引用商標と前半の「軽井沢」及び後半の「高原ビール」を全く同じくすることから,時と所を異にして両商標を見た場合,この「浅間」部分が同一の8文字を凌(しの)いで識別標識として需要者に把握されることはないというべきである。
よって,本件商標と引用商標とは外観において紛らわしいものである。
(イ)観念上の対比
「軽井沢」は,万人が認める日本有数の避暑地であり,また,近年は通年を通して観光客が訪れる一大観光地となっている地域である。そして,軽井沢一帯は地勢的に浅間山山麓の高台に位置し,中心である軽井沢町も浅間山南東斜面に立地する高原の町であることから(甲5),「軽井沢高原」なる語句は浅間山山麓に位置する軽井沢一帯を想起・認識させるものである。このような地勢的特徴及びイメージを有する「軽井沢」の文字,そして「軽井沢高原」の語句の中に軽井沢の地勢的説明を認識させる「浅間」の文字を有する「軽井沢浅間高原」は,「軽井沢高原」と同一の観念を想起・連想させる語句である。したがって,それらに同じ商品名である「ビール」の文字を加えた「軽井沢浅間高原ビール」と「軽井沢高原ビール」とは需要者をしてほとんど同一の観念を認識するというのが相当である。
(ウ)称呼上の対比
本件商標は「カルイザワアサマコウゲンビール」,引用商標は「カルイザワコウゲンビール」の各称呼を生ずるところ,前者は15音,後者は12音とともに冗長であり,中間の「アサマ」の3音を異にするにすぎないから両称呼は互いに相紛らわしいほど近似しているというべきである。
(エ)全体としての対比
上記(ア)ないし(ウ)を総合してみると,本件商標と引用商標とは,外観・称呼上,共通・類似する点が少なくなく,更に「浅間」部分が「軽井沢」の土地を形成する地勢上の大本であるところから観念上も強い類似性を持つといい得るものである。
イ 引用商標の周知・著名性の程度について
(ア)販売地域を限定した販売方法による商品名の浸透
請求人は,1997年,厳選した麦芽とホップそして浅間山系の水という素材だけを原料とした品質のビールを開発・製造し,「軽井沢を愛する気持ちから生まれた,軽井沢を愛する人のビール」というコンセプト(甲6)のもと,商品名を「軽井沢高原ビール」と命名し,「地ビール」として販売を開始した(甲4)。そして,地域特産品の意味合いの強い「地ビール」としてのブランドを確立するため,商品の販売地域を長野県北佐久郡軽井沢町,群馬県吾妻郡長野原町北軽井沢,群馬県吾妻郡嬬恋村等,軽井沢町とこれに隣接する浅間山麓一帯の地域(以下「軽井沢エリア」という。)に原則限定して販売を行った(甲6,7及び11の5)。
軽井沢エリア内に限定した販売網の構築,別荘客や軽井沢町内の13箇所のホテル向けに「樽ビール」の配送サービスなど軽井沢エリアという一地域のマーケットでのみ購入できるという販売戦略などが功を奏して,甲7に示すとおり,地ビールの中ではトップクラスの販売量を記録している。この事実は,商標「軽井沢高原ビール」が軽井沢エリアにおいて需要者に十分浸透しており,著名性をも獲得していると推認されてしかるべきものである。
(イ)広告・宣伝活動とその成果について
請求人は,「軽井沢高原ビール」を1997年から販売開始し,当該商標に観光地として著名な「軽井沢」の「地ビール」を識別する地域ブランドとしての機能を発揮させることを意図して長年にわたりその確立に努めてきた。すなわち,観光客が集まる地域への看板(甲8),軽井沢観光及び地域密着型の刊行物への広告(甲9の1ないし8),「軽井沢高原ビール」ブランドのホームページの開設(甲6),軽井沢フードテラス(軽井沢プリンスショッピングプラザ内)への出店(甲6及び8),信州クラフトビアフェスティバルヘの出展(甲10)など様々な宣伝営業活動をしている。
そして,新聞等が「軽井沢高原ビール」の記事を度々載せており,1998年「第四回インターナショナル・ビール・サミット」及び2001年「ジャパンカップ2001」というビール品評会で「軽井沢高原ビール」が金賞を受賞した事実も掲載され,世人にも知られるところとなっている(甲11の1ないし6)。
また,軽井沢町において2006年5月に実施された軽井沢新聞社による観光客を対象としたアンケート調査結果では,観光客の80パーセント強が商品「軽井沢高原ビール」を知っていると回答している。この数字は,引用商標が軽井沢エリアにおいて購入できる地ビールとしての周知性が十分に浸透していたことを物語る事実である(甲7及び12)。
(ウ)「軽井沢高原ビール」の販売量について
国税庁の資料によると,平成22年度全国の地ビール醸造所の約83%が,醸造量100kl未満である。すなわち,地域特産品の意味合いが強く,また,一定地域での商品販売が一般的な地ビールは,需要者に受け入れられている商品であるか否かはこの醸造量(販売量)100klが一つのメルクマールになると考えられる(甲13の1及び2)。これを「軽井沢高原ビール」についてみると,2007年の時点において年間100klを大きく超えており,更に毎年その販売量は増え続け2012年には180klという数字を記録している(甲7)。この180klという数字は,日本の地ビールを醸造する146者中,83%(121者)が100kl以下(平成22年度)の業界にあって特筆すべき値である。
(エ)小括
上述のように,「軽井沢高原ビール」は,販売地域を限定した販売方法,そしてそれに特化した宣伝・広告をした結果,特筆する高販売量,軽井沢に居住していない観光客の80%強の認知度などを考慮すれば,引用商標は周知・著名性を獲得していると認めてしかるべき商標である。
ウ 取引の実情について
(ア)使用商品が同一であること
本件商標と引用商標の指定商品は「ビール」で同一である。
さらに,「地ビール」は,観光地名,製造・販売地名を一部に含んだ商品名で販売されることが多いところから,「軽井沢」そして地勢的に同一視できる「軽井沢/高原ビール」の文字を有する本件商標を付した商品も軽井沢地域で販売される地ビールに使用される蓋然性が高い。
(イ)販売地域と販売場所が同一であること
地名を冠した商品名はその地ならではの特性・特産及び販売地をイメージさせるものであるから「軽井沢/高原ビール」の地名を含む本件商標も,軽井沢地域で販売される商品(地ビール)と考えられ,また,酒販売店,スーパーなどのビールコーナーで販売されるものと考えられるから,引用商標を付した商品と販売地域及び販売場所が同一である。
(ウ)商品の取引者と需要者について
ビール(地ビール)は,し好による差異はあるが自身の飲用又は贈答用に供する商品であって購買目的は同じであるから需要者を同じくし,また,酒販業者も免許取得者に限られているから取引業者も同一である。したがって,本件商標及び引用商標の付される商品は,需要者・取引者を同じくするものである。
エ むすび
請求人が「軽井沢高原ビール」の地域ブランドを高めるために行った宣伝広告活動や販売網の構築,そして商品品質の維持向上に努めた結果として,「軽井沢高原ビール」は軽井沢エリアの人気商品となった。大手ビール会社の商品に比べ多少割高な価格にも関わらず販売量が毎年伸びているのは,請求人が製造するビールの(大手ビールの商品にはない)独自の味が観光客や地元需要者等に受け入れられ,彼らが購買リピーターとなりその味のよさを彼ら自身が保証してきた証しである。
すなわち,「軽井沢高原ビール」が独自の品質を有し,商標のもつ品質保証機能をいかんなく発揮して軽井沢という風光明媚な高原の避暑地・観光地にあって,観光客が通常の生活で味わうことのできない,味が確かな地ビールとして名産品・土産物として受け入れられ続けた結果である。
さらに,軽井沢エリアの取引事情として,「軽井沢高原ビール」が発売された16年前から現在に至るまで,当該ビール以外に「軽井沢」の文字を冠した地ビールが継続販売された事実がないから,軽井沢において「軽井沢高原ビール」が獲得している著名性は,「軽井沢エリアの地ビールといえば,唯一『軽井沢高原ビール』である」といったような特別な顕著性を需要者が意識しているほどのものであるというべきである。
このような現在の軽井沢エリアの取引状況において,上記アないしウで述べてきたことを踏まえると,「軽井沢浅間高原ビール」を書してなり,視覚上・聴覚上,また,観念的な連想性の上で引用商標と強い類似性を持つ本件商標が,引用商標と同じ商品に付され,同じ販売地域・場所で販売された場合,「軽井沢高原ビール」を唯一の地ビールとして購入してきた当該地のリピーターたる需要者は,本件商標が付されたビールを,請求人又は請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し商品の出所について混同するおそれが十分にある。
したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当する。
(3)商標法4条1項11号該当性について
本件商標は,「軽井沢浅間高原ビール」の文字を標準文字で表してなるものであるから,先願先登録である引用商標(甲3)と商標において類似する。また,両者の指定商品が同一又は類似であること明らかである。
よって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当する。
2 弁駁
(1)商標法4条1項15号に該当について
審判請求書で挙げた最高裁の判示を解釈すると,具体的混同の要件として「類似性の程度」とは,同11号のような「類似」は求められず,引用商標との関係は「想起」「連想」「近似」で足り,商品や販売場所の同一であること,あるいは個別具体的な取引の実情を考慮しつつ,その上で最終的な「混同」が判断される。
「軽井沢」という日本有数の高級別荘地・リゾート地としての観光地名を冠し,気候・風土が爽やかな土地で醸造されたビールであることを想起させる「高原ビール」の文字からなる引用商標は,地域に密着した商標イメージを想起させると共に長年使用した結果周知著名性を有している商標である。
請求人は,引用商標と本件商標とは,使用商品が同一(「地ビール」)であって,販売地域や需要者が同一であり,「軽井沢」及び「高原ビール」の文字を同一にすることから中間において「浅間」の文字を有していても具体的混同の蓋然性が高いと主張し,その中で両商標の外観・観念・称呼という一般的類似観察手法にのっとり類似性を説明したが,被請求人は,使用商品,販売地域や需要者が同一であることは容認する一方,専ら一般的類似観察手法や想定設問を設定し類似性を否定しているのみで想定される販売場所の現実や購買者の特殊性など取引の実際,また,引用商標の著名性による混同の可能性に注目することなく商品の出所混同の蓋然性を否定している。
したがって,被請求人の主張は認めることはできない。
ア 外観対比について
引用商標1及び2はいずれも,商標全体で引用商標3の文字が書き表されていると認識できるものであり,被請求人も「軽井沢高原ビール」の文字を認識できると表明しているのであるから,需要者が明確に区別し得る差異とはいえない。また,本件商標の10文字中,引用商標と同一の8文字,実に80%を共通にすることから,最高裁が判示する「類似性の程度」が外観面から否定されるものでもない。
イ 観念対比について
(ア)被請求人は,「軽井沢」の文字は浅間山の山麓に位置する高原の町であって,著名な観光地である軽井沢一帯を表していることを否定していない。つまりは,軽井沢一帯の高原が浅間山の山麓そのもので成り立つ地勢であることを認めているも同然であるにも関わらず,「浅間」の文字が「『軽井沢』の地勢的説明を認識させるものではない」との主張は矛盾する。
(イ)請求人は,「軽井沢浅間」あるいは「浅間軽井沢」という一つづりの語句がどのように使われているのかを調べるためにインターネットで当該語句を検索したところ,「軽井沢浅間プリンスホテル」,「軽井沢浅間ゴルフ」,「アンシェントホテル浅間 軽井沢」などのホームページがヒットした。これらの使用態様をみると,「軽井沢」と「浅間」を連綴した語句は,「軽井沢」や「浅間」と同一地域や地勢を表すと観念され,需要者に対しても地域誤認等,不測の不利益を与えることがないことから,近年,軽井沢一帯で事業者を営む者が好んで使用しているものと考えるところ,乙4の被請求人ホームページの写しでは商品の宣伝文句として「軽井沢浅間山の清らかな冷涼名水で仕込みました」と書き表されているように,被請求人自らも「軽井沢」と「浅間(山)」を連綴させた語句を使用している。需要者に地域誤認を生じさせるような宣伝文句をしないだろうから,被請求人は「軽井沢」と「浅間」とは同一の地域あるいは地勢であることを,この乙4で自白しているようなものである。
ウ 称呼対比について
被請求人は,同号における称呼の判断において,商標法4条1項11号の判断基準をあてはめている。これは,本号における法律判断をしておらず,請求人の主張について一方的に論点をずらして説明したものである。
エ 「軽井沢高原ビール」の認知度調査について
(ア)被請求人は,認知度調査において,アンケートで得られた数字の高さを認めつつも「基となる『626人』をもとにパーセントの数字をはじき出すと前者が約570人,後者が480人となる。…この数値(人数)は周知・著名性を客観的に認める上で高い数値とはいえないものである」として引用商標にかかる著名性を否定する。
このような被請求人の主張を認めることができない。例えば,「テレビ番組の視聴率調査」等ランダムなサンプリング調査によって母集団の傾向を統計的に分析する方法は,いわゆる市場調査の手段として一般的に行われているところであり,請求人が主張した数字もこのような統計的手法から得られた相対的な数字であって,軽井沢へ訪れる毎年750万人強という膨大な母集団の傾向をつかむものである。
そして,当該アンケートは,軽井沢への訪問者に対する全数調査ではないことが明らかであるにも関わらず,被請求人は絶対値である「約570人,約480人・・」をもって「高い数値とはいえないものである」としているのであるから,統計学的手法を無視したそのような主張から,引用商標の著名性を否定する手立てが被請求人にないことは明らかであり,引用商標に否定しきれない著名性があることを自白しているも同然である。
また,被請求人が根拠としたように絶対数を計算するのであれば,毎年の訪問者数の80%,約600万もの人が商品「軽井沢高原ビール」を知っているということになる。そして,実際の販売量の絶対数として,本件商標の登録査定時である2012年においては引用商標にかかるビールは軽井沢エリアだけで350ml缶を50万本超販売している(甲7)。
この数字をもってしても,被請求人の「周知・著名性を客観的に認める上で高い数値とはいえないものである」との主張は当を得ていない。
(イ)甲12で提出したアンケートは,客観性を担保するために第三者である軽井沢新聞社が行った。軽井沢の観光客の傾向を正しくつかむために,飲酒することが禁止されている10代も含めた幅広い年齢層をランダムにサンプリング,かつ,年齢層,職業などのサンプル特性も集計しているから,当該アンケートが年間訪問者750万人強という膨大な数の母集団の傾向を統計学的に把握できることに妥当性があると言える。
オ その他被請求人の主張する引用商標の著名性の否定について
請求人は「軽井沢高原ビール」の1銘柄だけで,本件商標の出願時の2011年の1年間に約160klを醸造,350ml缶にして約45万本を,本件商標の査定時の2012年の1年間に約180klを醸造,350ml缶にして約50万本を売り上げた(甲7)。この事実をもって引用商標の軽井沢における著名性はゆるぎないものになったと考えるのが自然である。
カ その他の取引実情について
(ア)被請求人は,「商品の同一性」「販売地又は販売場所の同一性」「取引者又は需要者の同一性」について認めている。
(イ)引用商標にかかる「軽井沢高原ビール」が販売された16年前から現在にいたるまで当該ビール以外に「軽井沢」の文字を冠した地ビールが継続的に販売された事実はないことに関して,被請求人は否認をしていない。
また,軽井沢エリアにおいて「軽井沢高原ビール」が獲得している著名性は,「軽井沢エリアの地ビールといえば唯一『軽井沢高原ビール』であるといったような特別な顕著性を需要者が意識しているほどのものである」とする主張についても被請求人は否認していない。
(ウ)被請求人の本号に対する法律判断は,商標法4条1項11号と同じ判断基準をもって本件商標と引用商標とは別異の商標であるとし,又,引用商標には周知・著名性に関する証拠がないとした2要件をもって否定的見解を結論づけるものであるが,判例で判示された「総合的な判断」がたった2つの要件だけで判断できるものではないことは明らかである。
キ 現実におきている出所混同について
本件商標が「地ビール」に使用され,軽井沢エリアで当該ビールが販売された場合に商品同士の出所混同がおきることは本件商標の出願時及び査定時において当然に予見できていたものであった。そして,被請求人のビールが販売され始めた2013年6月過ぎから,甲15に示すような商品の出所混同が現実に生じている。
(2)商標法4条1項11号について
乙4の資料(1)ないし(10)は,本件商標の登録査定後に作成された資料であり,査定時における取引実情を示しているものではないから,登録査定に何ら影響を与えるものではない。資料(11)は,査定前の資料ではあるが,公共団体が事実の報道を伝えるにすぎないし,需要者としての記事ではないから,商品の誤認混同を引き起こさないとする証拠にはならない。
また,佐久市や関係団体等,公共機関が行政の一環として行う伝達事項としての記載は,需要者における注意力が含まれないものだから,これらを採用して主張すること自体容認できない。
したがって,いずれの資料も,商品の出所混同を生ずるおそれがないとの証拠にはならない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,「本件の審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,乙1ないし4を提出している。
1 商標法4条1項11号該当性について
(1)外観について
ア 請求人の主張とそれに対する認否
請求人の主張を整理すると以下のとおりである。
a)本件商標と引用商標3は中間の「浅間」2文字の有無において相違する。
b)本件商標は構成文字全体が同書同大の10文字からなる。
c)本件商標は構成文字全体が10文字と比較的冗長な商標を構成する文字列である。
d)相違する「浅間」2文字は中間に位置しているところから,商標全体の中で特段に目立つものではない。
e)本件商標と引用商標3は「軽井沢」と「高原ビール」が全く同じ。
f)時と所を異にして本件商標と引用商標3を見た場合「浅間」の文字が同一の8文字をしのいで識別標識として需要者に把握されることはない。
イ 上記請求人の各主張について以下に認否する。
(ア)上記a)及びb)については認める。
(イ)上記c)については,認めることができない。
本件商標は,構成各文字が同一の書体・大きさ・間隔をもって外観上バランスよく一体的に表され,その全体より生ずる「カルイザワアサマコーゲンビール」の称呼もよどみなく一連に称呼し得るものであるから,本件商標は,いずれの文字部分をもってしても分離することのできない一体不可分の構成からなると認められるものであり,その外観上の一体性は極めて強いものであることからすると,全体が10文字構成であるとしても,比較的冗長な商標を構成する文字列であるということにはならない。
(ウ)上記d)については,認めることができない。
本件商標と引用商標3との外観上の比較において,相違する「浅間」の漢字2文字は,これが中間に位置しているいかんにかかわらず,取引者・需要者をして通常払われる注意力をもってすれば,外観上十分識別し得る差異を有するものであって,特段に目立つものではないとはいえない。むしろ,両商標全体の中で「浅間」の文字の有無は,顕著に目立つものである。
(エ)上記e)については認める。
(オ)上記f)については,認めることができない。
本件商標と引用商標3の外観は,構成文字数を明らかに異にするばかりでなく,「浅間」の漢字2文字の有無という顕著な差異を有するものである。
以上のとおり,本件商標と引用商標3とは,たとえ,8文字を共通にするとしても,上記差異等により,両商標の全体の外観から受ける視覚的印象を明らかに異にするものであるから,取引者及び需要者をして通常払われる注意力をもってすれば,対比観察はもとより時と所を異にして離隔観察した場合でも,両商標の外観を見誤るおそれはない。
(2)観念について
ア 請求人の主張とそれに対する認否
請求人の主張を整理すると以下のとおりである。
a)軽井沢は,万人が認める日本有数の避暑地である。
b)軽井沢は,通年を通じて観光客が訪れる一大観光地となっている地域である。
c)軽井沢一帯は,地勢的に浅間山山麓の高台に位置する。
d)軽井沢町も浅間山南東斜面に位置する高原の町である。
e)「軽井沢高原」なる語句は,浅間山山麓に位置する軽井沢一帯を想起・認識させる。
f)「軽井沢」の文字及び「軽井沢高原」の語句は,地勢的特徴及びイメージを有する。
g)「浅間」の文字は,軽井沢の地勢的説明を認識させる。
h)「軽井沢浅間高原」は,「軽井沢高原」と同一の観念を想起・連想させる。
i)商品名「ビール」を加えた「軽井沢浅間高原ビール」と「軽井沢高原ビール」とは需要者をしてほとんど同一の観念を認識させる。
イ 上記請求人の各主張について以下に認否する。
(ア)上記a)については,「軽井沢」の文字を,例えば,「辞書・地名辞典」,国土交通省「標準地・基準地検索システム」等により検索すると,「新潟県長岡市軽井沢」,「千葉県鎌ヶ谷市軽井沢」,「福島県河沼郡柳津町軽井沢」等の多種地域名をみることができる。
しかし,一般に「軽井沢」といった場合,「軽井沢とは,長野県東部,北佐久郡にある避暑地。」(「広辞苑」)との記載の他,フリー百科事典「ウィキペディア」,小学館「国語辞典」,三省堂「大辞林」等の記載に示される意味・地名を示すものとして広く知られているものであることからすると,「『軽井沢』の文字は,万人が認める日本有数の避暑地である。」ことについては,あえて否定するものでない。
(イ)上記b)ないしd)については,あえて否定するものでない。
(ウ)上記e)については,「軽井沢高原」の文字をインターネット等により,その意味及び使用例をみると,1)「浅間山の南東麓,北佐久郡軽井沢町にある高原・・・」,2)「浅間山や白根連峰の雄大な景観が広がる軽井沢高原・・・」の外3から17に示す記述を見いだすことができる。
「軽井沢高原」文字が多岐にわたり使用されているとしても,その文字の持つ意味及び意味合いは,必ずしも特定の地域又は地名を具体的に示すものとして認識されるものでないことからすると,「軽井沢高原」なる語句は,請求人主張のごとく浅間山山麓に位置する軽井沢一帯を想起・認識させるとみるより,「軽井沢」及び「高原」の文字を特に軽重の差なくバランスよく一体的に結合した構成からなり,特定の地域又は地名を具体的に認識することのできない一種の造語的なものとして理解・認識されるものである。
(エ)上記f)については,「軽井沢」の文字より上記(ア)で述べた意味・地名を認識するものであることを,あえて否定するものでないが,「軽井沢高原」は,上記(ウ)のとおり,特定の地域又は地名を具体的に認識することのできない一種の造語的なものとして理解・認識されるものである。
そうすると,仮に「軽井沢」の文字が上記のとおりの地勢的特徴及びイメージを有するとしても,「軽井沢高原」がある特定の地勢的特徴及びイメージを有するものとして断定することはできない。
(オ)上記g)については,認めることができない。
1)「浅間」の文字について
「浅間」の文字について辞書等をみると,1)「浅間山の略」(「広辞苑」),2)「旧日本海軍に所属した装甲巡洋艦の名称」(フリー百科事典「ウィキペディア」)の外3から10に示すような記述を見いだすことができ,「浅間」の文字は,各種の意味合いに通ずるものであって,請求人主張のごとく,軽井沢の地勢的説明を認識させることに特定されるものではない。
2)「軽井沢」の文字について
「軽井沢」の文字については,一般に「軽井沢」といった場合,これが前記の意味・地名を示すものとして広く知られているものであることについては,あえて否定するものでない。
3)「地勢」の文字について
「地勢」の文字の意味について,辞書等をみると,1)「高低や山・川の配置など,その土地全体のありさま。」(「大辞泉」goo辞書),2)「土地のありさま。山・川・平野・海など地理的事象の配置のありさま。地形と同じ。特に,それを大観する場合に用いることが多い。」(三省堂「大辞林」)の外,3から6に示すような記述を見いだすことができる。
4)以上を考慮の上で,「浅間」及び「軽井沢」の文字と「地勢的説明」との関係について考察するに,「軽井沢」の文字が上記のとおり親しまれた地名・町名を表すものとして認識されることについては,あえて否定するものでないが,その範囲・概念は必ずしも具体的に特定されるものでない。そして,「浅間」の文字のもつ意味合いは,上記のとおり,「浅間山の略」,「苗字」,「地名」など種々の意味を有し,これを「地名」に限定したとしても種々の地名(地区名)に通ずるものである。
そうすると,上記「浅間」の文字は,これをいかに地勢的観点(地勢的説明等)から考察及び解釈したとしても「軽井沢」に通ずるところはない。
してみれば,「浅間」の文字は,これより「軽井沢」の地勢的説明を認識させるものでないこと明らかである。
(カ)上記h)については,認めることができない。
2つの商標を観念類似とするためには,それら商標から共に特定の意味合いが生じ,かつ,これらが「同一」の観念であるため取引の場において混同を生ずるおそれがあるものでなくてはならない。
その上で「軽井沢浅間高原」の文字をみるに,「軽井沢浅間高原」の文字は,本件商標の査定不服審判の審決(乙3)に示すとおり,特定の地域等を示すものとしてあるいは産地又は販売地等を示すものとして認識されるものではなく,むしろ,その構成が不可分一体と捉えられる一種の造語的なものとして理解・認識されるものである。一方,「軽井沢高原」の文字は,上記のとおり,特定の地域又は地名を具体的に認識することのできない一種の造語的なものとして理解・認識されるものである。
そうすると,「軽井沢浅間高原」は,「軽井沢高原」と同一の観念を想起・連想させるものでない。
(キ)上記i)については,認めることができない。
この点について,請求人は,「『軽井沢浅間高原ビール』と『軽井沢高原ビール』とはほとんど同一の観念を認識させる」と主張,すなわち,「ほとんど同一」の文言をもって主張しており,両商標の観念上の同一性について躊躇していることもうかがい得るところである。
ウ 観念について
(ア)本件商標の構成中の「軽井沢浅間高原」の文字部分は,一体不可分の構成からなる一種の造語的なものとして理解・認識されるものであり,「軽井沢浅間高原」なる地名も存在しないことは,上記のとおりである。
(イ)「軽井沢」の文字が広く知られた語であることから,あえて「軽井沢浅間高原」の文字を「軽井沢」と「浅間高原」とに分離し,それら両文字の意味合いについて考察してみることとする。
1)「軽井沢」の文字の意味については,上記のとおりである。
2)「浅間高原」の文字については,前掲審決において,「浅間山の山麓にまたがる高原」とする地域名と判断されているものであるが,更にインターネット等をみると,「浅間高原とは,浅間山の南麓・北麓にまたがる高原。」の他の記述をみいだすことができる。
そうすると,「浅間高原」の地域(範囲)は,必ずしも前掲審決認定のごとく「浅間山の山麓にまたがる高原」に特定されるものでない。
(ウ)そこで,以上をもとに本件商標より,あえていかなる意味合いが導き出されるかについてみると,「軽井沢浅間高原のビール」,「軽井沢の浅間高原のビール」のごとき意味合いが理解されるものであるが,当該意味合いは地名として具体的に特定されない「軽井沢浅間高原」及び「浅間高原」の文字が含まれており,これらは漠然としたものとして理解されるものであることからすると,本件商標は,各構成文字をバランスよく一体的に結合したー種の造語的商標として理解・認識されるものである。
他方,引用商標3より,あえて,いかなる意味合いが導き出されるかについてみると,「浅間山山麓に位置する軽井沢一帯のビール」,「浅間山の南東麓,北佐久郡軽井沢町にある高原のビール」及び「軽井沢の高原のビール」のごとき意味合いが理解されるものであるが,該意味合いは漠然としており,引用商標3は,構成各文字をバランス良く一体的に結合した一種の造語的商標として理解・認識されるものである。
(エ)上述のとおり,「軽井沢浅間高原ビール」と「軽井沢高原ビール」のの意味合い(観念)が紛らわしいものでないことをより明確にするために,あえて本件商標より「軽井沢浅間高原のビール」及び「軽井沢の浅間高原のビール」のごとき意味合いを,引用商標3より「軽井沢高原のビール」及び「軽井沢の高原のビール」のごとき意味合いを導き出してこれらの意味合いについて比較をしてみることとする。
1)「軽井沢浅間高原のビール」と「軽井沢高原のビール」について
「軽井沢浅間高原」と「軽井沢高原」は,一種の造語的なものとして理解・認識されるものであるから,両者よりあえて観念的なものを導き出したとしても,その漠然とした地名的意味合いを明らかに異にする。
2)「軽井沢浅間高原のビール」と「軽井沢の高原のビール」について
「軽井沢浅間高原」の文字は,一種の造語として認識されるのに対し,「軽井沢の高原」の文字は,「浅間山山麓に位置する軽井沢一帯の高原」又は「浅間山の南東麓,北佐久郡軽井沢町にある高原」として認識され得ることもあえて否定することはできないが,構成各文字をバランスよく一体的に結合した一種の造語として認識されるから,両者よりあえて観念的なものを導き出したとしても,その漠然とした地名的意味合いを明らかに異にする。
3)「軽井沢の浅間高原のビール」と「軽井沢高原のビール」について
「浅間高原」の文字は,一種の造語として認識されるから,「軽井沢の浅間高原」の文字は「軽井沢」の文字が地名・町名を理解認識するとしても各文字をバランス良く一体的に結合した一種の造語として認識される。
これに対し,「軽井沢高原」の文字は,一種の造語的なものとして理解・認識されるものであるから,両者よりあえて観念的なものを導き出したとしても,その漠然とした地名的意味合いを明らかに異にする。
4)「軽井沢の浅間高原のビール」と「軽井沢の高原のビール」について
「浅間高原」の文字は,一種の造語として認識されるから,「軽井沢の浅間高原」の文字は,その前半部の「軽井沢」が地名・町名を理解認識するとしても,構成各文字をバランスよく一体的に結合した一種の造語として認識される。これに対し,「軽井沢の高原」の文字は,一種の造語として認識されるものであるから,両者よりあえて観念的なものを導き出したとしても,その漠然とした地名的意味合いを明らかに異にする。
5)してみれば,商品名「ビール」を付加した「軽井沢浅間高原のビール」及び「軽井沢の浅間高原のビール」と「軽井沢高原のビール」及び「軽井沢の高原のビール」とは,観念について相紛れるおそれはない。
したがって,本件商標と引用商標3とは,たとえ両商標それぞれより上記のごとき意味合いが導き出されるとしても,それらの意味合い(観念)は別異のものであって,それぞれの意味合い(観念)は漠然としたものであり,いずれも造語的意味合いとして理解・認識されるとみるのが自然であるから,観念について相紛れるおそれはなく,十分に区別し得るものである。
(3)称呼について
本件商標は,「カルイザワアサマコーゲンビール」及び「カルイザワアサマコーゲン」の称呼も生ずるものであり,引用商標3は,「カルイザワコーゲンビール」及び「カルイザワコーゲン」の称呼も生ずるものである。
そこで,両称呼を比較すると,両者は,「カルイザワ」の音を共通にするものであるが,「アサマ」の音の有無に差異を有するものであり,その構成音数,音構成,音質及び音感等が明らかに相違するものであるから,両称呼をそれぞれ一連に称呼しても,互いに相紛れるおそれはない。
(4)以上のとおり,本件商標と引用商標3とは,その外観,称呼及び観念のいずれの点からみても,何ら相紛れるところのない非類似の商標であること明らかである。
(5)その他
ア 判決例
商標法4条1項11号に係る商標の類否判断について,最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日,最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日の判決に基づき,本件商標と引用商標3を比較すると,本件商標と引用商標3とは,「軽井沢」,「高原」及び「ビール」の構成部分を抽出し,この部分をもって両商標を比較して商標そのものの類否を判断することはできない。
したがって,本件商標と引用商標3とは,その外観,称呼及び観念のいずれの点からみても,何ら相紛れるところのない非類似の商標であり,かつ,その外観,称呼,観念等によって取引者及び需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して考察しても明確に区別できる別異の商標である。
イ 審査の経緯
本件商標の審査段階における「拒絶理由」をみると,商標法3条1項3号及び同法4条1項16号該当のみであり,同法4条1項11号の拒絶理由は通知されていないし,登録異議の申立てもされていないことからも,本件商標は商標法4条1項11号に該当するものでないこと明らかである。
ウ 取引の実情
本件商標が商標法4条1項11号に該当しないことは,乙4に示す新聞掲載記事・インターネット・関係団体企業等における「軽井沢浅間高原ビール」に関する取引の実情からも認められるところである。
乙4に示す実情のもと,出願人は,本件商標を商品「地ビール」に付す商標として使用すべく商標登録出願をしたところ,本件商標は登録された。
そこで,出願人は,本件商標は商標登録要件欠如及び商標登録を受けることができない商標に該当しないことの確証により,本件商標を商品「地ビール」に付し,平成25年6月10日に発売開始したのである。
そして,本件商標が付された商品「地ビール」と他のビール又は地ビール,例えば,「軽井沢高原ビール」なる文字が付されたビール又は地ビールとで商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがないことは,乙4に示すとおり,佐久市を始め関係団体企業等において本件商標が「軽井沢浅間高原ビール」たる商標として捉えられていることにほかならない。
してみると,本件商標と引用商標3とは商品の出所について誤認混同を生ずるおそれのない明らかに非類似の商標である。
2 甲1ないし13(枝番を含む。)について
(1)甲1ないし3について
甲1及び3については認める。
しかし,甲2に関し,引用商標1は,普通の文字書体で表された「軽井沢高原ビール」を示すものであるのか又はロゴ化されている「軽井沢高原ビール」を示すものであるのかが不明である。かつ,引用商標2は,普通の文字書体で表された「軽井沢高原」及び「ビール」の文字を二段に横書きしたものを示すものであるのか又はロゴ化されている「軽井沢高原」及び「ビール」の文字を二段に横書きしたものを示すものであるのかが不明である。
(2)甲4ないし13(枝番を含む。)について
甲4は,単なる商品の販売計画を内容とする新聞記事にすぎないものであって,引用商標3が地ビールに使用されている数量,宣伝広告及びその新聞記事が掲載されている「信濃毎日新聞朝刊」の発行部数等が明らかでない。
甲5からは,引用商標1ないし3がビールに使用されている事実をみることができない。
甲6によれば,引用商標1ないし3がビールに使用されていることは認められるが,その使用の具体的数量等が明らかでないし,その使用が本件商標の登録出願前であることも確認することができない。
甲7は,1頁に「社外秘」との記載・表示があることからすれば,需要者,取引先等への頒布を目的として作成された書類でないこと明らかであり,甲7は,請求人の会社外の一般市場において現実に展示又は頒布されたものとはいえず,その記載内容をもって引用商標1ないし3がビールについて使用されていたものとする資料としては認め難い。しかも,甲7は,「改訂:2013年版」であって,本件商標の登録出願後のものである。
甲8より引用商標2がビールに使用されている宣伝・広告たる看板の設置場所がわかるとしても,その設置期間等が明らかでなく,また,本件商標の登録出願前を示すものであることを確認することもできない。
甲9の1ないし8は,引用商標2及び3がビールに使用されている広告が掲載された刊行物であることは認められるが,これらの刊行物の発行部数等はいずれも明らかでない。
甲10によれば,いかなる商標がいかなる商品に使用されているものかを具体的に確認することができない。仮に,甲10が,引用商標2又は3がビールに使用されている資料であるとしても,その資料中には「2012年09月28日・イベント,中軽井沢・千ヶ滝」なる記載があり,これは本件商標の登録出願後のものであるし,引用商標2又は3がビールに使用されているとする具体的数量等も明らかでない。
甲11の1ないし6が,いずれも「軽井沢高原ビール」なる文字が使用されたビールに関する新聞記事であることは認められるが,これらからは,引用商標3が商品「ビール」に使用されている実際の数量が明らかでなく,宣伝広告及び記事が掲載されている各新聞の発行部数等も明らかでない。
甲12のアンケートの回答者数(複数回答を除く全体集計)の項をみると,「職業は?」が626件,「どちらからいらっしゃいましたか?」が621件である。そして,請求人は,「アンケート調査結果では,観光客の80パーセント強が商品『軽井沢高原ビール』を知っていると回答している」と述べるものである。確かに「80パーセント強」という数字を示されると,一般的には高いと受け止められるものであるが,基となる数字(観光客の数)は,「職業は?」が306件,「どちらからいらっしゃいしたか?」が304件である。この数を基にパーセントの数値をはじき出すと,200人強となる。この200人強とする数値(人数)は周知・著名性を客観的に認める上で高い数値とはいえないものであるから,このアンケート調査結果をもって,「軽井沢高原ビール」が商品「ビール」に使用され,これが請求人の取扱いに係る商品を表示するものとして周知・著名であるとする資料としては認めることができない。しかも,アンケート回答者数については,その全体集計とする回答者数が相違する(「626」と「621」)ものであり,このような数値の少ない集計において集計ミスのある報告書は,それ自体の信ぴょう性に疑義を持たざるを得ないところでもある。
甲13の1及び2には,引用商標1ないし3が商品「ビール」に使用されている事実をみることができないし,「180kl」という数字は2012年のものであって,これは本件商標の登録出願後のものである。また,この「180kl」なる数値をもって,「軽井沢高原ビール」なる商標が商品「ビール」に使用されて周知・著名であることにつながるものでもない。
以上,甲4ないし13(枝番を含む。)は,引用商標1,2又は3が商品「ビール」又は「地ビール」に使用されていることを示す資料(一部,証拠として認められない資料を有する。)であることは認められるが,引用商標1,2又は3が商品「ビール」又は「地ビール」に使用され,請求人の取扱いに係る商品を表示するものとして取引者・需要者間に広く認識されているとする資料としては認めることができない。
3 商標法4条1項15号該当性について
(1)本件商標と引用商標1との対比
ア 引用商標1は,語頭部の「軽」の漢字を認識させるもの(図形)がそれ自体単独ではいずれの文字につながるものであるかを特定できないほど極めて図案化されており,「原」の漢字及び「ル」の片仮名文字を認識させる文字にあっても極めて図案化されているものであり,しかも,本件商標と引用商標1とは,「浅間」の文字の有無という差異を有するものである。
そうすると,本件商標と引用商標1は,構成・態様の相違及び「浅間」の文字の有無等により外観上明確に区別し得る差異を有するものである。
イ 本件商標から生ずる「カルイザワアサマコーゲンビール」及び「カルイザワアサマコーゲン」の称呼と引用商標1から生ずる「カルイザワコーゲンビール」及び「カルイザワコーゲン」の称呼は,既述のとおり,それぞれ一連に称呼しても,互いに相紛れるおそれはない。
ウ 本件商標と引用商標1は,共に一種の造語的商標として理解認識されるものであるから,観念上の類否の対象とすることのできない商標である。
そして,本件商標より「軽井沢浅間高原のビール」又は「軽井沢の浅間高原のビール」の意味合いが,引用商標1より「軽井沢高原のビール」の意味合いが導き出されるとしても,それらの観念は別異のものであり,その意味合いは漠然とし,共に造語的意味合いとして理解・認識されるものであるから,観念について相紛れるおそれはなく,十分に区別し得るものである。
エ 以上のとおり,本件商標と引用商標1は,仮に,上記のごとき称呼及び意味合いが導き出されたとしても,その外観,称呼及び観念のいずれの点からみても,何ら相紛れることのない非類似のものであり,かつ,その外観,称呼,観念等によって取引者及び需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して考察しても明確に区別できる別異の商標である。
(2)本件商標と引用商標2,3との対比
引用商標2は引用商標1と同様に,また,引用商標3は既述のとおり,その外観,称呼及び観念のいずれの点からみても,本件商標と何ら相紛れることのない非類似のものであり,かつ,その外観,称呼,観念等によって取引者及び需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して考察しても明確に区別できる別異の商標である。
(3)その他請求人の主張について
本件商標の指定商品中の「ビール」又は「地ビール」と,引用商標1又は2を付したとされる商品「ビール」又は「地ビール」及び引用商標3の指定商品中の「ビール」又は「地ビール」とが,それぞれの販売地域(販売地),販売場所,取引者又は需要者を同一にするものであることについては,あえて否定するものでない。
しかし,たとえ,請求人が主張する「商品の同一性」,「販売地又は販売場所の同一性」,「取引者又は需要者の同一性」等が認められるとしても,本件商標と引用商標とは,別異の商標であるばかりでなく,引用商標は,これらが商品「ビール」又は「地ビール」に使用され,これらが請求人の取扱いに係る商品を表示するものとして取引者・需要者間に広く知られたものであるとは認められないものであることからすると,請求人の上記主張をもって,本件商標の商標法4条1項15号該当性を論ずることはできない。
したがって,本件商標は商標法4条1項15号に該当するものではない。

第4 当審の判断
商標法4条1項15号は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標は商標登録を受けることができない旨規定しているところ,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最判平成12年7月11日民集54巻6号1848頁)。
かかる観点から,本件商標が商標法4条1項15号に該当するものであるか否かについて検討する。
1 本件商標と引用商標の類似性の程度
(1)本件商標
本件商標は,前記第1のとおり,「軽井沢浅間高原ビール」の文字を標準文字により表してなるものであるところ,その構成中の「ビール」が商品名を表すものであるから,「軽井沢浅間高原」の部分も独立して自他商品の識別機能を発揮し得るものである。
そして,「軽井沢浅間高原」の文字は,一般的な辞書や地名辞典等に記載はなく,これが特定の地域,地名等を示す証拠はない。
そこで,「軽井沢浅間高原」の各構成文字についてみると,「軽井沢」の文字は長野県東部,北佐久郡にある避暑地を指称する語であり(広辞苑第6版),また,軽井沢一帯は地勢的に浅間山山麓の高台に位置し,その中心である軽井沢町も浅間山南東斜面に立地する高原の町である(甲5)。この点については当事者間に争いがない。
また,「浅間」の文字は「浅間山の略」(広辞苑第6版)として知られている語である(答弁書20頁)。
ところで,「浅間高原」の文字は本件商標に係る査定不服審判の審決(乙3)において「浅間山の山麓にまたがる高原」の地域名であるとして「コンサイス日本地名辞典第5版」を挙げているが,同辞典には「浅間高原」自体の項はなく,「浅間山」の項に「群馬県吾妻郡嬬恋村と長野県北佐久郡軽井沢町の境。・・・東側に浅間牧場があり,この一帯が浅間高原。」との記述が見られるものであり,これが広く知られた地名であるとまではいえない。
一方,「軽井沢」と「浅間」を連結した「軽井沢浅間」「浅間軽井沢」の文字が,例えば,「軽井沢浅間プリンスホテル」「軽井沢浅間ゴルフ」「アンシェントホテル浅間軽井沢」のように,軽井沢と浅間があたかも同一の地域を表すかのごとく,軽井沢町在のホテルやゴルフコースにより,その名称の一部として使用されている事実がある(弁駁書7頁)。
そうすると,「軽井沢浅間高原」の文字からは,一義的に特定の観念を生ずるものということはできないが,「軽井沢周辺の浅間山麓に位置する高原地域」ほどの意味合いを認識させるものということができる。
したがって,本件商標は,「軽井沢浅間高原」の部分から「軽井沢周辺の浅間山麓に位置する高原地域」ほどの意味合いを認識させるものであり,「カルイザワアサマコウゲン」の称呼を生ずるものといえる。
また,本件商標からは,その構成全体から「軽井沢周辺の浅間山麓に位置する高原地域のビール」ほどの意味合いを認識させるものであり,「カルイザワアサマコウゲンビール」の称呼を生ずるものである。
(2)引用商標
引用商標,別掲1ないし3に示すとおり,いずれも「軽井沢高原ビール」の文字からなるものであるところ,その構成中の「ビール」が商品名を表すものであるから,「軽井沢高原」の文字部分も独立して自他商品の識別機能を発揮し得るものである。
そして,「軽井沢高原」の文字は,一般的な辞書や地名辞典等に記載はなく,これが特定の地域,地名等を示すものとはいえないが,「軽井沢」の文字は,前記(1)のとおりの意味を有する語である。
そうすると,「軽井沢高原」の文字から,一義的に特定の観念を生ずるものということはできないが,「軽井沢一帯の高原地域」ほどの意味合いを認識させるものということができる。
したがって,引用商標は,「軽井沢高原」の部分から「軽井沢一帯の高原地域」ほどの意味合いを認識させるものであり,「カルイザワコウゲン」の称呼を生ずるものといえる。
また,引用商標からは,その構成全体から「軽井沢一帯の高原地域のビール」ほどの意味合いを認識させるものであり,「カルイザワコウゲンビール」の称呼を生ずるものである。
(3)本件商標と引用商標との対比
本件商標と引用商標の外観を対比すると,別掲1,2のとおり,引用商標1,2は,それぞれ図案化された書体により表されてなるものであるから,標準文字により表された本件商標とは,外観上明らかに区別し得るものである。
しかし,本件商標と引用商標3を対比すると,両商標は,それぞれ特徴のない書体で横一連に表されてなり,構成中の「軽井沢」「高原ビール」の文字を共通にし,中間に位置する「浅間」の文字の有無のみに差異を有するものであるところ,10文字という比較的冗長な本件商標の文字列にあって,中間に位置する「浅間」の文字は,商標全体の中で特段に目立つものとはいえず,需要者が時と所を異にして両商標を看(み)た場合には,看者に全体の外観において近似した印象を与えるものといえる。
次に,本件商標から生ずる「カルイザワアサマコウゲンビール」及び「カルイザワアサマコウゲン」の称呼と引用商標から生ずる「カルイザワコウゲンビール」及び「カルイザワコウゲン」の称呼とを対比すると,両者は,「アサマ」の音の有無及び構成音数の相違から,それぞれを一連に称呼しても相紛れるものとはいえない。
さらに,観念についてみると,前記のとおり,本件商標と引用商標は,それぞれ,一義的には特定の観念を生じないものであるから,観念上同一のものということはできない。
しかし,本件商標から認識される「軽井沢周辺の浅間山麓に位置する高原地域」の意味合いと,引用商標から認識される「軽井沢一帯の高原地域」の意味合いとの対比においては,軽井沢が浅間山山麓の高地に位置する観光地として広く知られていること,軽井沢浅間が,軽井沢在のホテル名やゴルフコースについて,あたかも同一の地域を表すかのごとく用いられている実情があることなどからすれば,いずれも軽井沢一帯の高原地域ほどの地域的,地勢的特徴を想起,連想させるものといえ,その点において,両者は需要者に極めて近似した印象を与えるものといえ,観念において近似したものというべきものである。
したがって,本件商標と引用商標は,観念において近似したものというのが相当である。
以上のとおり,本件商標と引用商標は,これらを同一又は類似するものということはできないとしても,外観,観念において近似したものといえ,その類似性は相当程度高いものといえる。
2 他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
(1)証拠及び請求の理由によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 請求人は,1997年に,麦芽とホップと浅間山系の水を原材料としたビール(以下これを「請求人商品」ということがある。)を開発し,これを「軽井沢高原ビール」と命名し販売を開始した(甲4)。同ビールの缶には,2002年,2003年に引用商標1の態様の文字が,2004年以降は引用商標2の態様の文字が表示されている(甲2)。
また,旅行情報誌「るるぶ軽井沢2008,同2009」及び「軽井沢ヴィネット2003年秋冬号ほか」(甲9の1ないし8)には,引用商標2を表示した請求人商品の写真とともに,引用商標1がその商品の宣伝広告に使用されている。
さらに,前記の旅行情報誌や請求人の「軽井沢高原ビール」ブランドのホームページには,引用商標3と酷似した書体の「軽井沢高原ビール」の文字が,請求人商品の説明や宣伝広告に使用されている。
イ 請求人商品は,いわゆる「地ビール」として,その販売地域を長野県北佐久郡軽井沢町を始め,群馬県吾妻郡長野原町北軽井沢,群馬県吾妻郡嬬恋村等,軽井沢町及びこれに隣接する地域に原則限定して販売されているものであり(甲6,7及び11の5),当該商品は,前記地域のほか,ナチュラルローソン(首都圏)や,楽天,Amazon,Yahoo!の通販サイトでの購入も可能である(甲7,11の3)。
ウ 請求人は,軽井沢町の観光客が集まる土産物屋,酒店,軽井沢フードテラスなどへの看板の設置(甲8),旅行情報誌(甲9の1ないし8)への広告の掲載,「軽井沢高原ビール」ブランドのホームページの開設(甲6),前記軽井沢フードテラスへの出店(甲6及び8),信州クラフトビアフェスティバルヘの出展(甲10)などにより,請求人商品の宣伝広告を行っている。
また,前記の旅行情報誌及び朝日新聞,日刊工業新聞等の記事において,請求人商品が,「軽井沢高原ビール」として,紹介されている。
エ 2006年5月3日から5日に実施された軽井沢新聞社による軽井沢に訪れる観光客を対象としたアンケート調査によれば,軽井沢の別荘所有者の91%,観光客の77%が,請求人商品を飲んだことがある,買ったことがある,名前は知っているなどとして,請求人商品を認知していると回答している(甲7及び12)。
オ 請求人の主張によれば,2007年から2012年までの請求人商品の軽井沢町での販売数量は,2007年に350ml缶の本数で40万本を,販売量で140klを越え,その後年々増加し,2012年には350ml缶の本数で50万本を,販売量で160klを越えている(甲7)。
これに対し,国税庁の平成23年10月1日現在におけるビール又は発泡酒の製造免許を有する酒類製造業者(アサヒビール株式会社,麒麟麦酒株式会社等の大手を除く),すなわち,いわゆる地ビールの酒類製造業者を対象とした調査によれば,平成22年度において,その約83%(調査対象178者の内,回答者146者)が醸造量100kl未満の者である(甲13の1及び2)。このことからすれば,地ビールとしての請求人商品の売上げは相当程度高いものということができる。
また,2012年4月のツルヤ軽井沢店のビール販売数量ランキングによれば,請求人商品が7位にランキングされている。
カ 請求人商品は,1998年の「第四回インターナショナル・ビール・サミット」及び2001年の「ジャパンカップ2001」というビール品評会で金賞を受賞した(甲11の1ないし6)。
(2)前記(1)で認定した事実によれば,請求人は,請求人商品を1997年に発売を開始して以来,その商品を軽井沢町及びその周辺地域において継続して販売及び広告宣伝していること,そして,その商品は,地域が限定されてはいるものの,地ビールとして相当量の販売実績があること,各種雑誌,新聞等に取り上げられていることなどにより,請求人商品に表示された引用商標1,2及び「軽井沢高原ビール」の文字からなる引用商標3は,請求人の業務に係る商品「ビール」を表示するものとして,遅くとも本件商標の登録出願日前には軽井沢町及びその周辺地域の需要者の間に広く認識されていたものといえ,その著名性は本件商標の登録査定時においても継続していたものといえる。
(3)引用商標1ないし3を構成する「軽井沢高原ビール」の文字自体は,親しまれた語句である「軽井沢」,「高原」及び「ビール」の組み合わせであって,それ程独創性の高いものとはいえない。
3 取引の実情
(1)商品の関連性
本件商標の指定商品は「エールビール,ラガービール,黒ビール,スタウトビール,ドラフトビール,その他のビール」であり,引用商標が使用されている商品(請求人商品)も「ビール」であるから,「ビール」という範ちゅうにおいて,両者は同一のものといえる。
そして,請求人商品は,地ビールとして軽井沢町及びその周辺地域において販売されているところ,商標権者の取扱いに係る「軽井沢浅間高原ビール」の文字を表示したビールも,地ビールとして長野県内を中心に販売されるものである(被請求人の主張及び乙4)。
そうすると,請求人商品と商標権者の取扱いに係る「軽井沢浅間高原ビール」の文字を表示したビールは,共に長野県内で販売されるものであって,その販売地域が同一又は近接しているものである。
ところで,「地ビール」は,「(地酒にならった語)地元で醸造した,その地特有のビール(広辞苑第6版)」をいい,例えば,「地ビール大好き日本全国の地ビール」と題するウェブサイトにおいて,長野の地ビールとして,「志賀高原ビール」「木曽路ビール」「南信州ビール」などが紹介されているように(http://beer.daisuki8.com/30.html),地ビールは,観光地名,製造・販売地名を一部に含んだ商品名で販売されるものが多く見受けられることから,本件商標を付した商品は,その商標の表示との関係からも,請求人商品と同一の販売地域で販売される蓋然性が高いものといえる。
したがって,使用商標と本件商標は,その使用地域を共通にする場合が多いもの,すなわち,使用地域の共通性が高いものといえる。
(2)商品の取引者及び需要者の共通性
前記(1)のとおり,本件商標の指定商品と請求人商品は,共に「ビール」であるから,取引者,需要者を同一とするものであり,また,その需要者者は,商品や商標について専門的知識を有するとはいえない一般成人であり,商品の選択,購入等の際に格別の注意を払うものとはいえない。
(3)その他の取引の実情
被請求人の「軽井沢浅間高原ビール」の文字を表示したビールの発売開始後,その商品と請求人商品との間で商品の出所混同が現実に生じていることがうかがわれる(甲15)
4 混同のおそれについて
以上1ないし3において認定したとおり,本件商標と引用商標は,外観,観念において近似し,その類似性は相当程度高いものであること,引用商標が請求人の業務に係る商品「ビール」を表示するものとして,本件商標の登録出願日及び査定時において,その販売地域である軽井沢町及びその周辺地域の需要者の間に広く認識されていたこと,本件商標の指定商品と引用商標が使用される商品とは同一又は類似の商品であり,その需要者も同一であること,これらの商品の需要者は,商品を選択するに当たり,必ずしも当該商品に付された標章を注意深く観察する者ばかりでないこと,本件商標と引用商標が同一の地域で使用される蓋然性が高く,また,実際に使用(販売)されていることなどを総合して判断すれば,本件商標をその指定商品について使用した場合は,その需要者をして,引用商標ないしこれを使用した商品「ビール」を連想させ,該商品が請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について誤認,混同を生じさせるおそれがあるというべきである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」であるといわなければならない。
5 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項15号に違反して登録されたものであるから,同法46条1項の規定に基づき,その登録を無効にされるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1
引用商標1



別掲2
引用商標2



別掲3
引用商標3


審理終結日 2014-02-25 
結審通知日 2014-02-27 
審決日 2014-03-28 
出願番号 商願2011-36595(T2011-36595) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X32)
T 1 11・ 26- Z (X32)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安達 輝幸深田 彩紀子 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 前山 るり子
渡邉 健司
登録日 2012-09-07 
登録番号 商標登録第5519499号(T5519499) 
商標の称呼 カルイザワアサマコーゲンビール、アサマコーゲンビール、カルイザワビール 
代理人 岡田 稔 
代理人 曾我 道治 
代理人 濱田 百合子 
代理人 鈴木 昇 
代理人 岡田 稔 
代理人 小栗 昌平 
代理人 坂上 正明 
代理人 坂上 正明 
代理人 鈴木 昇 
代理人 曾我 道治 
代理人 山下 彰子 

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