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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y09
管理番号 1301675 
審判番号 取消2013-300711 
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2013-08-26 
確定日 2015-02-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第1647406号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1647406号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1647406号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、昭和56年4月3日に登録出願、第11類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同59年1月26日に設定登録され、その後、平成6年7月28日、同15年9月16日及び同25年12月10日に商標権の更新登録がされ、さらに、同16年12月1日に指定商品を第9類「電子応用機械器具(「電子管・半導体素子・電子回路」を除く。)」とする指定商品の書換登録がされ、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の請求の登録日は、平成25年9月10日である。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁並びに口頭審理における陳述を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、・専用使用権者及び通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)「ICカード」に係る使用の事実について
ア 使用している文字が商標として使用されているものではないこと
被請求人が提出する「ICカード」については、その表面の右上に「社員」及び「グループ共通ICカード」の記載がある(乙4)ことから、キリングループの会社で共通に使用される社員証であると認められる。
したがって、その「ICカード」の表面の左上に大きく書かれた「KIRIN」(以下「使用商標1」という。)」の文字は、明らかにキリングループの名称を表示するために使用されているものである。つまり、その「KIRIN」の文字は、'キリングループの社員であることを表示するために付されたものであり、「ICカード」という商品を識別するための商標として付されたものではないものである。
イ 使用商標1が本件商標と社会通念上同一性がないこと
被請求人は、「麒麟」の図形及び「KIRIN」の欧文字からなる本件商標と「KIRIN」の欧文字からなる使用商標とは、少なくとも同一の「キリン」の称呼及び同一の「(中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物の)『麒麟』」の観念を生ずる商標であるから、「麒麟」の図形の有無を考慮したとしても、使用商標1は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である旨主張している。
しかし、使用商標1と本件商標とは、「麟麟」の図形の有無という顕著な相違があることから、全体として異なる別個のものと理解、認識されるものである。
また、「KIRIN」の欧文字は、実在の動物であるキリンの観念も生ずることから、「(中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物の)『麒麟』」の観念を生ずる本件商標とは、必ずしも同一の観念を生ずるものではない。
ウ 以上のことから、使用商標1は、商品を識別するための商標として使用されているものではなく、本件商標とは社会通念上同一と認められるものでもないことから、本件商標は、商標権者により「ICカード」に使用されているとは認められないものである。
(2)「CCD(固体撮像素子)カメラから送られてきた映像を処理する画像処理装置を利用したびん・缶等の自動検査機械器具」(以下「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」という。)に係る使用の事実について
ア 「KIRIN TECHNO-SYSTEM(Techno-System)」が一体の商標であること
被請求人は、キリンテクノシステム株式会社が「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」に、「KIRIN」と「TECHNO-SYSTEM(Techno-System)」の商標という、独立した2つの商標を同時に使用しているから、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用している旨主張している。
しかし、乙第24号証において示されている「KIRIN TECHNO-SYSTEM」の英文字(以下「使用商標2」という。)は、一連に書したものであることから、全体として一体のものと把握されるものであり、全体として当該商品を扱っているキリンテクノシステム株式会社の名称を表示したものと容易に理解、認識されるものである。
被請求人が主張するように、この英文字を「KIRIN」と「TECHNO-SYSTEM」にわざわざ分離して観察することには無理があるものである。
したがって、使用商標2は、全体として会社の名称を表示する一体の商標として使用されているものであり、本件商標とは異なるものである。
また、乙第17号証及び乙第25号証において示されている「KIRIN」と「Techno-System」の英文字(以下「使用商標3」という。)は、2段書きにしたものであるところ、乙第17号証は、キリンテクノシステム株式会社のホームページであり、それらの英文字の右に「キリンテクノシステム」と記載されていることから、また、乙第25号証においては、それらの英文字の下に「キリンテクノシステム株式会社」と併記されていることから、当該英文字は全体として、キリンテクノシステム株式会社の英語名称を表示しているものと容易に理解、認識されるものである。
したがって、この場合も使用商標3は、全体として会社の名称を表示する一体の商標として使用されているものであり、本件商標とは異なるものである。
イ 使用商標は本件商標と社会通念上同一性がないこと
使用商標2及び3は、「KIRIN TECHNO-SYSTEM」の英文字を一連に書したもの、又は「KIRIN」と「Techno-System」を2段書きにしたものであり、全体として「キリンテクノシステム」の称呼及び「キリンテクノシステム株式会社」の観念を生じるものである。
これに対して、本件商標は、「麒麟」の図形及び「KIRIN」の欧文字からなるものであり、「キリン」の称呼及び「(中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物の)『麒麟』」の観念を生ずるものであるから、使用商標2及び3と本件商標とは、外観、称呼、観念上、明らかに非類似であり、社会通念上同一のものとは認められないものである。
したがって、本件商標は、「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」に使用している事実は認められないものである。
ウ 以上のとおり、被請求人が提出した証拠によっては、本件商標に係る商標権者及び通常使用権者は、本件商標を日本国内において、本件審判の請求前3年以内にその請求に係る「電子応用機械器具(「電子管・半導体素子・電子回路」を除く。)」に属する「ICカード」及び「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」について使用しているとは認めることができないものである。
3 口頭審理陳述要領書
被請求人は、商標の一部のみが取り出され、称呼、観念され得ることもある旨を判断した最高裁判決の例を挙げた上で、使用商標中「KIRIN」は、KIRINブランドシンボル自体の使用であり、単に「キリン」と称呼、観念され得るから、「KIRIN」単独の使用と解するのが相当であること、また、複数の会社によりグループを形成して活動を行っている組織体において、グループ会社の商号の略称を表す一部を強調した態様で使用している例(乙36の1ないし8)を挙げた上で、本件においでも、使用商標中「KIRIN」の表示部分に着目して取引がされるような場合には、「KIRIN」単独の商標の使用と目されるから、本件商標と社会通念上同一の商標と目するのが相当である旨主張している。
しかしながら、上記の最高裁判決の判断及び被請求人の考え方は、商標の類否判断において、商標の一部が取り出されて観察されることにより、使用商標と本件商標が「類似」と判断されることがあり得るかということにとどまるものであり、社会通念上同一であるか否かが問題となっている本件とは、事案を異にするものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。との審決を求めると答弁し、その理由及び口頭審理における陳述を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第36号証(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
本件商標に係る商標権者及び通常使用権者は、本件審判の請求登録前3年以内に日本国内において、その請求に係る「電子応用機械器具(「電子管・半導体素子・電子回路」を除く。)」に属する「ICカード」及び「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしているものである。
(1)「ICカード」に係る使用の事実について
ア 「ICカード」は、「ICを組み入れたカード」であり、「電子応用機械器具及びその部品」に属する商品「集積回路」に類似する商品である(乙1、乙2)。
イ 被請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標1を「ICカード」に付し、キリングループ各社に販売している(乙4)。
該「ICカード」の管理・メンテナンス等の業務については、キリングループ各社の業務システムの企画・開発・運用・保守、キリングループ全体の情報インフラ環境の構築・維持・管理等を事業内容とする「キリンビジネスシステム株式会社」に委託している(乙4、乙5)。
該「ICカード」の製造及び発行業務については、「キリンビジネスシステム株式会社」と資本提携をしている「株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下単に「NTTデータ」という。)」に委託しており(乙5ないし乙7)、該「ICカード」の請求書の発行業務については、「キリンビジネスエキスパート株式会社」に委託している(乙8)。
ウ 平成25年3月に使用商標1が付された「ICカード」の製造、発送業務がNTTデータによってされており、NTTデータが被請求人に対し業務報告がされている(乙9ないし乙11)。
エ NTTデータよる業務報告を受け、平成25年4月1日に被請求人は、キリンビール株式会社北海道千歳工場に対して、使用商標1が付された「ICカード」を販売し、同年6月20日に、同年3月16日から同年6月15日までに販売した「ICカード」についての費用を請求している(乙12)。
このような取引は、他の工場やグループ会社にも同様にされている(乙13ないし乙15)。
オ 該「ICカード」は、被請求人によって、キリングループの各社に対して販売されているが、該取引は、法律上別個の法人間における商取引と認め得るものであって、事業の独立性を否定することはできないものである(乙16)。
カ 本件商標は、「麒麟」の図形及び「KIRIN」の欧文字からなるところ、本件商標中の「KIRIN」の欧文字は、使用商標1と外観上ほぼ共通し、同一の「キリン」の称呼及び同一の「(中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物の)『麒麟』」の観念を生ずる商標である。
また、本件商標中の「麒麟」の図形部分からも、「キリン」の称呼及び「(中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物の)『麒麟』」の観念を特定することができるものであるから、使用商標1と外観上異なるものであるとしても、両者は、称呼及び観念を共通にする商標である。
そうすると、「麒麟」の図形及び「KIRIN」の欧文字からなる本件商標とは、少なくとも同一の「キリン」の称呼及び同一の「(中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物の)『麒麟』」の観念を生ずる商標であるから、「麒麟」の図形の有無を考慮したとしても、使用商標1は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
キ したがって、本件商標に係る商標権者が、本件審判の請求登録前3年以内に日本国内において、その請求に係る「電子応用機械器具(「電子管・本導体素子・電子回路」を除く。)」に属する「ICカード」に本件商標を使用していることは明らかである。
(2)「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」に係る使用の事実
ア 「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」は、最新の画像処理技術により高度・高精度の検査の実現を目指して開発された高速空PET外観検査機である(乙17)。該商品は、「画像処理用コンピュータプログラム及びソフトウェア」(乙18)、「データ処理用ソフトウェア、データ処理用プログラム」(乙19)が組み込まれた「データ処理装置」(乙20)であり、「電子応用機械器具」に属する商品である。
イ キリンテクノシステム株式会社(以下「本件使用者」という。)は、総合検査機の製造及び販売等を事業内容とする会社であり、使用商標2及び3の下で「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」の製造、販売、広告宣伝活動をしている(乙17)。また、使用商標2は、該商品の一部に付され、取扱説明書にも付されている(乙24)。
そして、本件使用者は、平成25年4月8日に「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」の取引に関する請求書が発行され、該請求書の右上方に、使用商標3が付されている(乙25)。
ウ 本件使用者は、被請求人の子会社である「キリンビール株式会社」の子会社であるが(乙17、乙24)、被請求人と独立した事業を営む会社であることは明らかであり、本件商標の商標権者から使用について許諾がなされた上で、使用商標2及び3を使用しているという関係にあるから、商標法第50条に規定する「通常使用権者」である。
エ 本件使用者は、「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」の操作部及び取扱説明書に「KIRIN」の欧文字と「TECHNO-SYSTEM」の欧文字を使用し、該商品が紹介されるホームページ上では、「KIRIN」及び「Techno-System」の欧文字から商標を同時に使用している(乙24、乙17)。
しかし、「KIRIN」の文字と「TECHNO-SYSTEM」及び「Techno-System」の欧文字は、書体や大きさ、文字間の間隔も異なり外観上容易に分離して観察できる態様であり、また、使用商標2及び3にある「KIRIN」の文字がキリングループの各社が統一的に使用する代表的出所標識であるから、「KIRIN」の文字は、出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分である。
そうすると、本件使用者は、「KIRIN」の欧文字と「TECHNO-SYSTEM」及び「Techno-System」の欧文字部分からなる商標という、独立した2つの商標を同時に使用しているにすぎないものであるから、本件使用者は、使用商標2及び3、すなわち本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用している。
オ したがって、本件商標に係る通常使用権者が、本件審判の請求登録前3年以内に日本国内において、その請求に係る「電子応用機械器具(「電子管・半導体素子・電子回路」を除く。)」に属する「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」に本件商標を使用していることが明らかである。
2 口頭審理陳述要領書
(1)社会通念上同一の商標について
ア 本件商標は、「麒麟」の図形及び「KIRIN」の欧文字からなるところ、その構成中「KIRIN」の欧文字は、現に使用されている「KIRIN」の表示と外観上ほぼ共通にし、同一の「キリン」の称呼及び同一の「麒麟」の観念を生ずる商標であるから、欧文字部分を捉えると、観念においても相互に同一といえることは明らかである。
イ また、想像上の動物である麒麟の図形自体が慣れ親しまれ、しかもその図形が特定の企業を表すものとして宣伝広告等で露出度も極めて高いため、一般世人に広く浸透しているものである。しかも、キリングループにより、「麒麟」の図形商標、「KIRIN」、「キリン」及び「麒麟」の文字商標は、永年の間使用されてきたことにより、これら各文字や図形は、我が国において周知・著名な商標として確立されていることは顕著な事実であることを勘案すると(乙27ないし乙32)、本件商標中の「麒麟」の図形からは、「麒麟」の観念を生じ、「キリン」の称呼を生ずるものとして、広く知られるに至っている商標であるから、「KIRIN」の表示と外観上異なるものであるとしても、観念においても相互に同一というのが相当である。
ウ そうすると、「麒麟」の図形及び「KIRIN」の欧文字からなる本件商標と「KIRIN」の表示は、少なくとも、同一の「キリン」の称呼及び同一の「麒麟」の観念を生ずる商標であるから、「麒麟」の図形の有無を考慮したとしても、「KIRIN」の表示は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
エ また、「図形の有無という相違点」についても、キリングループにより、「麒麟」の図形商標、「KIRIN」、「キリン」及び「麒麟」の文字商標は、永年の間使用されてきた実情を勘案すると、両商標の称呼及び観念の同一性を否定する要素とならない程度のものであるから、「図形の有無という相違点」を前提に両者の社会通念上の同一性を否定する見解は、当を失するものである。
(2)商品「ICカード」に係る使用について
ア 暫定的見解における「商標権者の社員証」、「同社北海道千歳工場の社員証」との認定は誤りであり、乙第4号証の社員証は、いずれも被請求人とは別法人のキリンビール株式会社の社員証である。
イ 暫定的見解における「自社工場宛ての請求書」との認定も誤りであり、別法人であるキリンビール株式会社宛ての請求書である。
ウ キリンビール株式会社以外に「KIRIN」の表示がされた「ICカード」を購入した会社の社員が所有する「ICカード」を示す画像を提出する(乙34)。
(3)「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」に係る使用について
ア 簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、各構成文字がそれぞれ分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常にその構成文字全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあることは顕著な事実である。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標について、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、その構成部分の一部を抽出することも許されるものとする判決がある。
イ 乙第17号証、乙第24号証及び乙第25号証の使用商標2及び3をみると「KIRIN」の部分と「TECHNO-SYSTEM」あるいは「Techno-System」の部分とは、大きさ、書体、間隔において明らかに相違し、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない態様である。
そうすると、「KIRIN Techno-System」又は「KIRIN TECHNO-SYSTEM」に接する取引者、需要者は、「KIRIN」の文字自体が慣れ親しまれ、しかも「KIRIN」が企業名としても広く浸透していることも相俟って、「KIRIN」の英文字部分に着目して、称呼、観念して取引に当たる場合も決して少なくないといえる。
ウ 乙第35号証の「キリングループV1マニュアル」は、キリングループ内におけるKIRINブランドシンボルについての使用の管理や運用方針等を定めたものであるところ、該4頁には、キリングループのブランドの体系と該マニュアルの適法範囲は国内キリングループ会社を対象とすることが記載され、キリンテクノシステム株式会社がKIRINブランドシンボルと事業会社名を併記して使用するグループとして整理されている。
エ そして、「KIRIN」の表示部分は、KIRINブランド事業においてKIRINブランドシンボルを使用するグループ会社の代表的出所標識であり(乙5、乙8、乙26)、また、本件審判の請求に係る指定商品について防護標章登録がなされているほど著名性を有するものであるから、「KIRIN」の部分は、出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分といえる。
オ たとえ、「KIRIN」と「Techno-System」又は「KIRIN」と「TECHNO-SYSTEM」の各表示が企業名を表示しているとしても、「KIRIN」の表示部分は、KIRINブランドシンボル自体の使用にほかならず、単に「キリン」と称呼、及び観念され得るものであり、「KIRIN」単独の商標の使用と目するのは何ら不自然ではなく、また、そのように解するのが相当である。
カ 商号の略称を表す商標の一部に、グループ全体の代表的出所標識を強調した態様で使用することは、キリングループのみならず、複数の会社によりグループを形成して活動を行っている組織体によって広く採用されているものでり、そのような使用態様の商標に接する一般世人においても、グループ全体の代表的出所表示の部分に化体された業務上の信用に着目して、取引にあたることは極めて自然なことといえる。
キ したがって、使用商標2及び3について構成全体を一体不可分とするものであることを前提に、本件商標とは社会通念上同一の商標と認めることはできないとした審判合議体の暫定的な見解は、当を失するものである。

第4 当審の判断
1 事実認定
被請求人は、商標権者及び通常使用権者が本件審判の請求登録前3年以内に日本国内において、その請求に係る商品中の「ICカード」及び「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」について使用していると主張しているところ、被請求人が提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)「ICカード」に係る使用について
乙第4号証は、撮影時期を「平成25年12月12日」、撮影者を「■■■■」、撮影場所を「北海道千歳市上長都949-1キリンビール株式会社北海道千歳工場」とするICカードの「写真報告書(3)」である。その3葉目はICカードの写真であって、左肩に「KIRIN」、右肩に「社員(グループ共通ICカード)」、中央に「■■■■」、その右側に顔写真が表示され、下段には小さく「キリンビール株式会社」と「発行日2013/4/1」と記載されている。4葉目は、ICカードの裏面の写真であって、「カード発行者:キリンビジネスシステム株式会社」と記載されている。また、キリンビジネスシステム株式会社は、商標権者の子会社である(乙6)。
なお、乙第34号証においても、キリングループ各社の社員証とみられるICカードの写真が提出されており、該ICカードは、社員氏名、顔写真及び会社名以外の部分においては、乙第4号証と同一とみることができるものである。
(2)「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」に係る使用について
ア 乙第17号証は、キリンテクソシステム株式会社のホームページの写しとみられるところ、紙出力日の記載がなく、掲載時期については不明である。その1葉目は「会社概要」であり、左肩には「KIRIN」と「Techno-System」の欧文字を上下2段に赤書きし、その右側に「キリンテクノシステム」の記載がある。2葉目は左肩には「KIRIN」、「Techno-System」、「キリンテクノシステム」の記載がある。同社の事業内容として、「PET検査機」、「缶検査機」及び「びん検査機」などの説明がある。6葉目はカタログ様の資料に同社が使用する「高速空PET外観検査機」が紹介され、上部の赤い帯には「Kirin Techno-SystemCompany,Limited」、下部の赤い帯には「キリンテクノシステム株式会社」の各文字がそれぞれ白抜きで記載されている。しかし、使用日に関する記載はない。
イ 乙第24号証は、撮影時期を「平成25年12月19日」、撮影者「小林 琢」、撮影場所を「神奈川県川崎市川崎区大川町10番10号」、商標の使用者「キリンテクノシステム株式会社」とする画像処理装置を利用した自動検査機械器具の写真報告書(4)である。その3葉目の写真は2葉目の写真にあるマウスパットを拡大した写真であり、その下部に「KIRIN TECHNO-SYSTEM」、また、4及び5葉目の低速空PETボトル外観検査機取扱説明書の表紙にはその最下段に「株式会社キリンテクノシステム」の文字と右端の縦のオレンジ色帯に「KIRIN TECHNO-SYSTEM」の欧文字が白抜きで記載されている。
ウ 乙第25号証は、キリンテクノシステム株式会社により取引された商品「充填機合体型高速空PET外観検査装置」の請求書(控)であり、右肩に「KIRIN」「Techno-System」「キリンテクノシステム株式会社」の記載、日付として「2013/4/08」の記載、品名・品目・型式として「充填機合体型高速空PET外観検査装置『総額40,635,000円(税込)の内、納入時の前渡金として」の記載があるが、請求先はマスキングされているため不明である。
2 判断
(1)「ICカード」に係る本件商標の使用
商標権者の子会社であって通常使用権者と認めるキリンビジネスシステム株式会社が発行する「ICカード」は、キリンビール株式会社に勤務する者の社員証であって、左肩に「KIRIN」の表示があるとしても、該表記は、キリングループ若しくはキリンビール株式会社の社員であることを表示しているにすぎないため、取消に係る商品の出所標識を表す商標として機能していないものである。
したがって、通常使用権者と認められるキリンビジネスシステム株式会社による「ICカード」に係る上記使用は、本件商標の使用とは認められないものである。
(2)「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」に係る本件商標の使用について
通常使用権者とみても差しつかえないキリンテクノシステム株式会社のホームページの左肩には、「KIRIN」と「Techno-System」の欧文字を上下2段に赤書きし、該「Techno-System」の欧文字の右横に「キリンテクノシステム」の片仮名を配した構成からなるところ、該「KIRIN」と「Techno-System」の欧文字とは、これらがたとえ2段に表され、文字態様を異にするとしても、ともに欧文字で赤書きされていることから一体感があり、さらに、これに隣接して併記された「キリンテクノシステム」の片仮名とを併せみれば、該片仮名を表音とする欧文字を表示したものと容易に認識し、全体として、キリンテクノシステム株式会社の略称を表したものとみるのが自然である。
そうとすると、キリンテクノシステム株式会社のホームページに表示された「KIRIN」「Techno-System」の使用は、「KIRIN Techno-System」の欧文字部分の使用と「キリンテクノシステム」の片仮名部分の使用がそれぞれ認められるとしても、「KIRIN」又は「キリン」のみが使用されているとみることができないものであるから、上記表記は、本件商標の使用と認められない。
イ キリンテクノシステム株式会社が本件商標を使用したと主張するマウスパットと低速空PETボトル外観検査機取扱説明書(乙24)には、「KIRIN TECHNO-SYSTEM」、「株式会社キリンテクノシステム」の表記が見受けられるが、上記アと同様、「KIRIN」又は「キリン」のみが使用されているものとはいえない。
また、マウスパット及び取扱説明書に係る使用は、自己における使用を説明したものであって、業として他人への使用とは認められないものであり、外観検査機取扱説明書の表紙最下段に表記された「株式会社キリンテクノシステム」は、通常使用権者の商号とは異なるものである。
したがって、上記使用は、本件商標の使用とは認められない。
ウ 「請求書(控え)」(乙25)の右肩には、使用商標3(別掲4)が表示されているが、これからも「KIRIN Techno-System」の欧文字部分の使用と「キリンテクノシステム株式会社」の文字部分の使用がそれぞれ認められるとしても、「KIRIN」の欧文字部分若しくは「キリン」の片仮名部分のみが使用されているとみることができないから、上記表記は、本件商標の使用と認められない。
したがって、通常使用権者と認めるキリンテクノシステム株式会社による「画像処理装置を利用した自動検査機械器具」に係る上記使用は、本件商標の使用とは認められないものである。

3 被請求人の主張
被請求人は、判決例を挙げ、「KIRIN」の文字部分と「Techno-System」の文字部分は、大きさ、書体、間隔において明らかに相違し、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない態様であり、しかも「KIRIN」が企業名として広く浸透していることも相俟って、「KIRIN」の文字部分に着目して、称呼、観念し取引に当たる場合も決して少なくないといえること及び「KIRIN」の表示は、KIRINブランド事業において、KIRINブランドシンボルを使用するグループ会社の代表的出所標識であり、強く支配的な印象を与える旨主張する。
しかしながら、上記判決例は、商標の類否判断において、商標の態様、識別性等により、商標の一部が取り出されて観察されることにより類似と判断されることがあり得るかどうか判断したものであって、本件商標と使用商標が社会通念上同一であるか否かの判断と商標の類否判断とは事案を異にするものであり、かつ、「KIRIN」が企業名として広く知られ、「KIRIN」の表示が、「KIRINブランドシンボル」を使用する代表的出所表示であるとしても、使用商標2及び3は、キリンテクノシステム株式会社の名称の略称を一体的に表示する商標として使用しているものと認められるから、上記判断を覆すものではない。
したがって、被請求人の主張はいずれも採用できない。

4 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品のいずれかについて、本件商標の使用をしていることを証明したものと認めることはできない。また、被請求人は、本件商標の使用していないことについて正当な理由があることを明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)



別掲2(使用商標1)


(色彩は原本参照)

別掲3(使用商標2)


(色彩は原本参照)

別掲4(使用商標3)



審理終結日 2014-11-27 
結審通知日 2014-12-01 
審決日 2014-12-26 
出願番号 商願昭56-26011 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (Y09)
最終処分 成立  
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 寺光 幸子
手塚 義明
登録日 1984-01-26 
登録番号 商標登録第1647406号(T1647406) 
商標の称呼 キリン 
代理人 飯島 紳行 
代理人 吉田 親司 
代理人 幡 茂良 
代理人 小出 俊實 
代理人 蔵田 昌俊 
代理人 橋本 良樹 
代理人 藤森 裕司 
代理人 石川 義雄 
代理人 潮崎 宗 

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