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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X01
審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X01
管理番号 1295051 
審判番号 無効2013-890026 
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-29 
確定日 2014-12-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第5437049号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5437049号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5437049号商標(以下「本件商標」という。)は、「シェルコンキオリン」の片仮名を標準文字で表してなり、平成23年4月12日に登録出願、第1類「化学品」を指定商品として、同年8月22日に登録査定、同年9月9日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録商標は、登録第2375293号商標(以下「引用商標1」という。)、登録第2375294号商標(以下「引用商標2」という。)、国際登録第977610号(以下「引用商標3」という。)及び登録第468792号商標(以下「引用商標4」という。)であり(これらを一括して「引用商標」という場合がある。)、その概要は、別掲(A)ないし(D)のとおりである。なお、引用商標の権利者は、全て本件請求人である。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第531号証(枝番を含む。)を提出している。
1 「Shell(シェル)」商標の著名性
(1)シェル・グループについて
「Shell」及び「シェル」は、「ロイヤル・ダッチ・シェル社(Royal Dutch Shell plc)」及び同社を中核とする石油エネルギー・化学関連企業グループ「ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ」(以下「シェル・グループ」という。)の略称並びに同グループの石油・化学製品の代表的出所標識(いわゆるハウスマーク)として、本件商標の出願日前から現在にかけて、日本国内はもとより世界中で広く知られている商標である。
シェル・グループは、100を超える国々において活動する多数の企業で構成されており(甲5)、請求人は、同グループの一員として「Shell(シェル)」商標を管理する役割を担っている。
シェル・グループは、主として石油・ガスの探鉱から精製までを手がけるエネルギー事業活動を世界各国で行い、また石油・ガスを利用した世界屈指の規模での化学事業活動を行っている。シェル・グループ全体の事業規模は世界最大級であり、「Shell(シェル)」商標は、エネルギー事業について100年以上、化学事業についても80年以上使用され続けてきたものであるから、両分野において世界で最も著名な商標の一つと評されるものである。
(2)「Shell(シェル)」の歴史
ア 世界における「Shell(シェル)」
「Shell(シェル)」商標の起源は、1833年に、マーカス・サミュエルが、ロンドンで古美術品や東洋産の貝殻を扱う商店を開業した時に遡り、この商店が人気を得て、サミュエルはサミュエル商会を設立し、1897年にシェル・トランスポート&トレーディング社を設立した(甲2,甲136,甲515,甲516ほか)。
1907年、シェル・トランスポート&トレーディング社は、オランダのロイヤル・ダッチ・ペトロリアム社(1890年設立)と、原油生産から石油製品販売までの一貫操業に関する協約を結び、シェル・グループが誕生した(甲5,甲516ほか)。
20世紀に入り、シェル・グループは、エネルギー事業で実績を上げ、エクソン社、モービル社、BP社などとともに、世界の主要石油会社7社の一角となり(甲517)、その後は、石油の探鉱・開発・輸送・精製・販売のすべてを世界的規模で一貫操業する超大手の石油会社、いわゆるスーパーメジャーの一つとして(甲523)、エネルギー事業において世界的に揺るぎない地位と名声を獲得するに至っている。
現在、石油の小売では、「Shell(シェル)」のガソリン・スタンドが世界に44,000か所もあり、一日1,000万人が利用しているといわれ(甲3)、「Shell(シェル)」は、世界中の人々にとって最も身近で有名な商標の一つとなっている。
アメリカ有力経済誌「Fortune」の統計によれば、シェル・グループは、1987年に世界全企業の中で総合2位の業績(売上高783億ドル)を上げ(甲516)、それ以降も常に上位、2007年に3位(売上高3188億ドル:甲511)、2010・2011年に2位(売上高2851億ドル及び3781億ドル:甲512,甲513)、そして2012年にはついに世界1位(売上高4844億ドル/約38兆円)の座を獲得した(甲514)。つまり、シェル・グループは、現在、世界全ての業種・分野の中で最大の売上業績を誇る、世界で最も有名な企業の一つであって、そのハウスマーク「Shell(シェル)」が業種・分野を超え、世界で最も著名な商標の一つであることは疑いない。
イ 日本国内における「Shell(シェル)」
日本において、サミュエル商会は、1876年(明治33年)にはすでに横浜で貿易業を開始しており(甲2)、1900年には石油部門を独立させ、ライジングサン石油株式会社を設立している。シェル・グループは、この頃からすでに日本国内で、石油缶や自動車用ガソリンのラベルに「SHELL」、「SHELL MINERAL TURPENTINE」、「SHELL POWER OIL」、「SHELL MOTOR SPIRIT」などの商標を使用しており、大正期には早くも「SHELL」商標の下で、ガソリン・スタンドを展開している(甲2)。このように、シェル・グループの日本における事業は、明治・大正期という極めて早い時期から始まっていた。
1948年、ライジングサン石油株式会社は、その商号をシェル石油株式会社に変更し、1980年代、シェル石油は国内石油業で売上高6位にまで成長した(甲36ほか)。1985年、シェル石油は、シェル・グループと資本関係を有していた昭和石油株式会社と合併し、昭和シェル石油株式会社として現在に至っている。昭和シェル石油は、シェル・グループの一員として、現在3800か所のガソリン・スタンドを通じ、日本全国の消費者にガソリン・灯油等の販売を行っている(甲157)。
昭和シェル石油は、2011年時点で国内石油業4位の売上げを誇り(甲35,甲517,甲518)、日本国内の昭和シェル・グループの連結売上高だけでも、2007年は3兆800億円、2008年は3兆2728億円、2009年は2兆225億円、2010年は2兆3460億円と、2?3兆円という甚大な数字である(甲26,甲35)。
日本全国のガソリン・スタンドはもとより、昭和シェル石油の会社案内・サービスパンフレットその他様々な媒体に、「Shell(シェル)」商標が使用されており(甲2,甲25,甲26,甲30,甲31ほか)、同商標が日本において長年需要者に親しまれてきたものであることは多言を要しない。
昭和シェル石油が、日本国内におけるシェル・グループのエネルギー事業につき主導的役割を果たす一方で、同グループのもう一つの柱である化学事業については、シェルケミカルズジャパン株式会社が、天然ガス事業についてはシェルジャパン株式会社が、それぞれ担っている(甲6)。
(3)シェル・グループの化学事業
ア 世界屈指の化学企業「Shell Chemicals(シェルケミカルズ)」について
シェル・グループは、石油製品の製造・販売のみならず、世界屈指の規模で化学事業活動を行っている。シェル・グループの化学事業は、今から80年以上前の1929年に米国でシェル・ケミカル社が設立された時に始まり(甲236,甲515ほか)、その歴史は日本のどの化学品メーカーよりも長い。
プラスチック基礎原料などに代表されるように、現代における石油由来の化学品の取引量は極めて多く、石油産業と化学品産業とは切っても切り離せないほど密接な関係にある(甲517,甲519)。そして、シェル・グループ、エクソンモービル、シェブロン及びBP社のいわゆるスーパーメジャーといわれる石油会社は、その石油資源及び石油事業で培われた技術力をして、いずれも巨大な石油化学部門を持っていることで知られている(甲519)。
シェル・グループが提供している化学品は、主に、溶剤、芳香族、プロピレン、洗剤原料(洗剤製造用化学品)、高級オレフィン、プロパンジオール、エチレンオキサイド、エチレングリコール、誘導体、スチレンモノマー、プロピレンオキサイド、触媒、アセトン、フェノール類、アルコール、ファインケミカルなどであり(甲4,甲5,甲8,甲167,甲176,甲228,甲408?甲507ほか)、シェル・グループの化学事業は、現在、グループ全体の売上高の10%程度を占めており、長きにわたって石油・ガスと並ぶグループの3本柱の一つに位置付けられている(甲516)。しかして、シェル・グループの化学事業部門の業績は、常に、世界屈指の規模であり、1984年には、化学部門の売上高だけで日本円換算1兆8000億円に達し、当時我が国最大の化学工業メーカーであった三菱化成の二倍以上の実績を上げている(甲516)。また、2000年の世界化学企業ランキングでは、150億ドルの売上高で世界8位に(甲519)、2005年には349億ドルの売上高で3位(甲522)、2007年も459億ドルの売上高で世界3位(甲519,甲520)、2012年は352億ドルの売上高で世界5位となる(甲521)など、シェル・グループの化学事業部門いわゆるシェルケミカルズ(Shell Chemicals)は、毎年のように世界化学企業トップ10に名を連ねている。
上記のことは、例えば、シェル・グループの化学事業部門が、日本国内の主要化学専門紙の中で、評されている文章(甲171,甲176,甲229,甲236,甲259,甲263,甲294,甲340,甲385,甲530)からも、シェル・グループが化学産業にとって欠かせぬ存在であることをうかがい知ることができる。
イ 日本国内における化学事業について
シェル・グループの日本国内における化学事業についてみても、その歴史は長く、シェル・グループの化学事業部門シェルケミカルズは、日本の石油化学産業の成長に大きく貢献してきた。シェルケミカルズは、第二次世界大戦後いち早く、炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン(ケトン類)など、現代の工業・産業に欠かすことのできない多数の化学品を日本の市場に紹介し、1949年には業務用洗剤「ティーポール」、エポキシ樹脂「エピコート」を導入し、また、現在の国内トップ化学メーカーである三菱化学に対して戦後から石油化学の技術供与や化学品の供給を行い、その発展を支えるなどして、日本の戦後の化学産業の興隆に多大な貢献をしてきた(甲5,甲236,甲529)。
また、シェル・グループは、1963年に化学事業を主体とする日本法人としてシェル化学製品販売株式会社を、1967年にはシェル化学株式会社を、それぞれ設立した(甲5,甲236ほか)。その後、両社は合併し、シェル興産株式会社(1968年)、シェルジャパン株式会社(1991年)への商号変更を経て、2001年に昭石化成株式会社(昭和シェル・グループの化学事業をおこなっていた企業)を統合し、シェルケミカルズジャパン株式会社となって現在に至っている(甲6、甲236ほか)。現在、シェルケミカルズジャパンは、主として、シェル・グループが製造する化学品すなわち溶剤、芳香族、プロピレン、洗剤原料(洗剤製造用化学品)、高級オレフィン、エチレンオキサイド、エチレングリコール、誘導体、スチレンモノマー、プロピレンオキサイド、触媒、アセトン、フェノール類、アルコール、ファインケミカルなどを日本国内において販売しており(甲180,甲408?甲507ほか)、これら化学品の供給先は、化学・繊維・電機・自動車・建設・医薬・塗料・洗剤・情報機器など広範囲の産業分野に及んでいる(甲5,甲8ほか)。最近10年間のシェルケミカルズジャパンの成長は目覚しく、例えば主要化学専門紙の中でも「シェルケミカルズジャパンは、日本におけるシェルグループの中で化学品事業を展開する唯一の企業である。売り上げは二千億円に近づきつつあり、市場におけるポジションは強固だ」(甲291)、「シェルケミカルズジャパンの業績は着実に成長し、07年は化学事業が6年連続で増収益を達成する見通しだ。芳香族、溶剤、フェノールなどが好業績を支え、売上高は2000億円を突破する」(甲314)などと評され、2007年度の売上高は4781億円、2008年度は9811億円、2009年度は4484億円、2010度は5354億円と、一般化学製品販売・卸業(染料・顔料卸売業及び火薬類卸売業を除く)において業界1位の売上高を誇っており(甲34)、シェルケミカルズジャパン単独の売上高だけで日本国内の主要化学品メーカーと肩を並べるほどである。
上記のほかにも、シェル・グループは、1979年に三菱油化株式会社(後の三菱化学株式会社)との合弁で油化シェルエポキシ株式会社を、1987年には日本合成ゴム株式会社との合弁でジェイエスアールシェルエラストマー株式会社を設立するなどして(甲5)、化学品の取扱範囲を広げ、また、茨城県鹿島臨海工業地帯に工場用地を取得し、1994年に発泡ポリスチレン(EPS)工場を完成させ、1995年から商業生産を開始するなど、日本国内における化学品製造にも力を入れている(甲5)。以上の事実に照らせば、日本国内の化学産業において、シェル・グループが極めて主要かつ重要な地位にあることは明らかである。
ウ 化学品についての「Shell(シェル)」商標の使用実績・状況
シェルケミカルズジャパンは、各種化学品の包装のラベルに「Shell Chemicals」のロゴマークや「シェルケミカルジャパン株式会社」の表示を使用し(甲408?甲473)、化学品の説明書・取扱書等のヘッダー部分にも必ず「Shell Chemicals」のロゴマークを使用している(甲474?甲508)。また、会社案内・カタログ等(甲4,甲5ほか)はもちろんのこと、レターヘッド・封筒・請求書(甲11?甲24)などの取引書類等にも常に「Shell Chemicals」のロゴマークを使用し続けてきた。
また、シェル・グループが過去、現在にわたって販売してきた化学品や石油製品の商品名には「シェルゾール」、「シェルブライトソル」、「シェルフレックス」、「SHELLVIS」、「SHELLSWIM」、「シェルバボナ」など、「シェル」の語を冠しているものが少なくなく(甲8,甲27の2,甲408,甲461ほか)、個別の商品名についても「Shell(シェル)」商標を使用している。
さらに、シェル・グループの事業活動については、全国紙、化学専門紙の中で日常的に記事にされており、当該記事等への露出を通じても「Shell(シェル)」商標は、石油製品及び化学製品の著名ブランドとして、広く日本国民に認知されている(甲36?甲407)。なお、これらには「化学工業日報」の記事(甲159?甲407)が多く含まれているところ、創刊70年以上の同紙は、現在13万人の読者を有する化学工業に関する業界唯一の日刊専門誌であり、化学分野のリーディングペーパーといわれ、多くの企業ないし化学品専門取引者・需要者が日々購読しているものである(甲524)。同紙では、シェル・グループの化学関連の動向が、相当高い頻度で記事にされており、時にはシェル・グループの概要や歴史が紙面を大きく割いて紹介されたり(甲236ほか)、シェルケミカルズジャパンの人事異動だけでも記事にされたりするほどである(甲164,甲177,甲209ほか)。これら記事は、シェルケミカルズ・シェルケミカルズジャパンが化学産業においてどれ程主要な存在であるのかを端的に示す証拠といえる。
以上に照らせば、本件商標の出願日前から現在にかけて「Shell(シェル)」商標が、シェル・グループの製造・販売に係る化学品の出所を示すハウスマークとして、日本国内の化学品関連の専門取引者及び需要者に対し極めて高い著名性を有していることは明らかである。
(4)シェル・グループによる広告・社会貢献活動
ア シェル・グループが、その企業活動ないしスポンサー活動として力を入れているものの一つに、「F1(Formula One)」(Formula One Licensing BVの商標)がある(甲32)。F1は、オリンピック、FIFAワールドカップと共に「世界三大スポーツイベント」の一つと称されるほど、世界的に人気の高いモータースポーツである。
F1グランプリにおける常勝チームといえば「フェラーリ(Ferrari)」が有名であるが、シェル・グループは、フェラーリ・チームの一員として、燃料とオイルの面からチームをサポートしている。シェル・グループでは、40人ものプロフェッショナル達が、フェラーリのために日々燃料とオイルの研究開発をし、チームの勝利に貢献している。毎年鈴鹿で行われているF1日本グランプリをはじめ、年間二十回近く開催されるF1グランプリの度に「Shell(シェル)」商標は大々的に会場に掲示されており(甲32)、F1グランプリでの広告活動を通じても全世界・日本遍く認知されている。
イ シェル・グループは、時代を担う若手作家を発掘することを目的として、1956年?1981年まで「シェル美術賞」の名称で、1996年?2001年まで「昭和シェル現代美術賞」の名称で、コンテストを開催しており、これらは「画壇の登竜門」として評価され、芸術界に大きな影響を与えてきた。2003年からは、再び「シェル美術賞」の名称で、毎年コンテストを開催している(甲33)。
また、昭和シェル石油は、社会貢献活動の一つとして、環境フォト・コンテストを毎年開催しており、昨年のコンテストで7回目を数えている(甲29)。
「Shell(シェル)」商標は、こうした社会貢献活動を通じても広く認知されている。
(5)小括
以上のとおり、シェル・グループが長年にわたり使用してきた「Shell」商標及び「シェル」商標が、本件商標の出願日前から現在にかけて、エネルギー事業及び化学事業の両業界の専門取引者及び需要者に熟知されており、また、一般の消費者においてもガソリン・スタンドや広告・社会貢献活動などを通じ、全国的に広く認識されるに至っていることは明白である。
2 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、以下のとおり、引用商標と類似するものであって、それら商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(1)商標の類似性
本件商標は、前記第1のとおり、「シェルコンキオリン」の片仮名を標準文字で表した構成からなる。一方、請求人は、本件商標に先行する別掲(A)ないし(D)に示した引用商標を保有している。
本件商標の構成中「シェル」の文字は、化学品の分野においてシェル・グループの略称ないしハウスマークとして著名な「Shell」商標及び「シェル」商標と、称呼・観念及び外観いずれについても同一又は類似であり、とりわけシェル・グループが長年にわたり日本国内及び世界中で販売している「芳香族,エチレンその他の脂肪族,アルコール類,フェノール類,エーテル類,アセトンその他のアルデヒド類及びケトン類,石油由来の触媒剤,石油由来の溶剤,その他の石油由来の化学品」(以下「長期使用商品である石油由来の化学品』」ということもある。)との関係では、即座にシェル・グループを想起させることが明らかである。
他方、同構成中「コンキオリン」は、アミノ酸から構成されるタンパク質の一種の一般名称であり、化学品の分野においてはせいぜい化学品の成分名その他の品質等表示として認識されるか、あるいは、タンパク質「コンキオリン」が一般に広く知られた成分とは決していえないと考えると、単なる意味不明の造語として認識される程度のものである。
よって、本件商標は、化学品(そのうち、とりわけ「長期使用商品である石油由来の化学品」)について使用される場合には、著名商標「シェル」と成分名「コンキオリン」の結合商標であると容易かつ直ちに把握されるか、あるいは、「コンキオリン」を熟知しない者に対しては商標の識別上最も重要な語頭の「シェル」が支配的な印象を与え、著名ハウスマーク「シェル」と個別商品商標(ペットネーム)「コンキオリン」というような関係で把握されるものといえる。
さらに、「コンキオリン」の語が化学品について単なる品質等表示として、あるいは、意味のよく分からない単なる造語としてしか捉えられないことを所与とすれば、本件商標の構成中、著名商標「Shell(シェル)」と同一・類似である「シェル」の部分が、専門取引者及び需要者の注意を特に強く惹くことは明らかである。
よって、化学品の専門取引者及び需要者が、本件商標の付された商品を、シェル・グループの出所に係るものであると誤信してしまう可能性は極めて高いといわざるを得ない。
要するに、本件商標は、化学品について使用されたときには、その構成中「シェル」の部分が独立して出所識別機能を果たす場合があり、「Shell」又は「シェル」の文字からなる引用商標と、称呼・観念及び外観において明らかに類似するものであって、専門取引者・需要者が、それら商品をシェル・グループの提供に係るものと誤認してしまう混同のおそれは十分にあるものといえる。
(2)商品の類似性
本件商標は、前記のとおり、「化学品」を指定して登録されている。類似商品・役務審査基準を参照しても明らかなとおり、当該「化学品」の中には「芳香族、エチレンその他の脂肪族、アルコール類、フェノール類、エーテル類、アセトンその他のアルデヒド類及びケトン類、触媒剤、溶剤」など、シェル・グループが長年にわたり日本国内及び全世界で販売しているものが含まれている。
一方、引用商標1ないし3は、第1類「化学品」及び審査基準上これに類似する複数の商品を指定して、また、引用商標4は、第2類「媒染剤」を指定して、それぞれ登録されているものである。
したがって、本件商標の指定商品と、引用商標の指定商品は同一又は類似であることが明らかである。
(3)取引の実情
氷山事件最高裁判決の中で挙げられる「取引の実情」には、引用商標(先行商標)の周知著名性も含まれるとされ、過去多くの判決でもそのように解されている。その一例としての最近の判決は、平成24年(行ケ)第10143号(甲531)である。
本件についてみると、前記のとおり、「Shell(シェル)」が貝を意味し、貝殻にコンキオリンが含まれていることが一般に知られているとしても、「Shell(シェル)」商標は、化学品について80年以上(日本国内でも半世紀以上)使用されてきたものであり、また、シェル・グループが本件商標の登録査定時には世界化学企業ランキングでトップ10以内に位置づけられていたことなどの事情を踏まえれば、「Shell(シェル)」商標は貝という一般的意味を凌駕するに十分なほど、シェル・グループを表示する商標として極めて著名となっているとみるのが相当であり、当該取引の実情に照らせば、本件商標は、その構成中「シェル」が支配的な印象を与える部分として捉えられ、引用商標と称呼・観念及び外観上類似することが明らかというべきである。
(4)小括
以上より、本件商標は、引用商標と同一又は類似であって、それら商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから、その指定商品中「長期使用商品である石油由来の化学品」はもとより、その他すべての化学品についても、商標法第4条第1項第11号に該当するものといわなければならない。
3 商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、前記のとおり、「化学品」の関連需要者の間で広く知られている著名商標「Shell(シェル)」と類似するものであって、「長期使用商品である石油由来の化学品」を含む「化学品」について使用されるものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当することが明らかである。
4 商標法第4条第1項第15号について
(1)当該商標と他人の表示との類似性
本件商標「シェルコンキオリン」と請求人が引用する商標「Shell」及び「シェル」との類似性については、商標法第4条第1項第11号の主張の中ですでに考察したとおり、「Shell(シェル)」商標の著名性に照らせば、両商標は出所混同のおそれが認められ、外観、称呼及び観念において類似するものである。
(2)他人の表示の周知著名性
「Shell」及び「シェル」は、上述のとおり、「化学品」とりわけシェル・グループが製造・販売する「長期使用商品である石油由来の化学品」又はシェル・グループの営業を示すものとして、日本国内及び全世界において著名である。
(3)他人の表示の独創性
「Shell(シェル)」商標は、「貝」を意味する言葉であるが、もともとはマーカス・サミュエル氏がロンドンにおいて東洋の貝殻を扱う商店を開業したことに由来するものであって、石油製品や化学品とりわけシェル・グループが取り扱う「長期使用商品である石油由来の化学品」と「貝」とはもともと全く関係がなく、何ら商品の品質等を表すものでもない。したがって、「Shell(シェル)」商標の独自性・独創性は高いというべきである。
また、「Shell(シェル)」商標は、特定の商品のみに使用されているペットネームではなく、営業主自体を表示するいわゆるハウスマークとして100年以上使用され続けてきたものであり、その混同を生じる範囲は一般的に広いものと解されるべきである。
(4)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
シェル・グループが、エネルギー事業のみならず、それと双璧をなす事業として化学事業を手がけており、その化学事業の規模が常に世界化学企業トップ10にあることはすでに前述したとおりである。そして、本件商標の指定商品に含まれる「長期使用商品である石油由来の化学品」はシェル・グループが長年にわたり世界中で扱っている商品そのものである。また、それ以外の化学品に関しても、シェル・グループの提供に係る化学品が化学、繊維・電機・自動車・建設・医薬・塗料・洗剤・情報機器など広範囲の産業分野に用いられていることを所与とすれば、シェル・グループの業務と取引者及び需要者層・流通経路等について高い共通性を有していることは明らかである。
(5)その他取引の実情
上記(3)ウのとおり、シェル・グループは、「シェルゾール」、「シェルブライトソル」、「シェルフレックス」、「SHELLVIS」、「SHELLSWIM」「シェルバボナ」など、「シェル」の語を冠する商品名の製品を過去、現在にわたって販売してきたという実情が存在している(甲8,甲27の2ほか)。
(6)フリーライド及びダイリューション
商標法第4条第1項第15号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の稀釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものである。
しかして、上記のとおり、現在世界1位の業績を誇るシェル・グループのハウスマーク「Shell(シェル)」は世界中で長年著名なものであり、とりわけシェル・グループが世界屈指のメーカーとして位置する化学品の分野においては、「貝」という意味合いを優に凌駕し、シェル・グループの出所識別標識として直ちに認識されるものである。
万が一、本件商標が登録を維持され、請求人の業務そのものである化学品について使用される事態が生じれば、著名商標「Shell(シェル)」の有する自他識別機能は稀釈化(ダイリューション)の危機にさらされることとなる。一度稀釈化された信用や識別力を回復することは極めて困難であり、その結果、請求人を含むシェル・グループの営業・広告努力の成果、つまり、著名商標「Shell(シェル)」が獲得した顧客吸引力は著しく弱められてしまうことは火を見るより明らかである。
(7)小括
以上のとおり、本件商標は、著名商標「Shell(シェル)」との関係において、商標法第4条第1項第15号に該当することが明らかである。
5 商標法第4条第1項第8号について
本件商標は、他人すなわち請求人の著名な略称を含む商標であるから、商標法第4条第1項第8号に該当するものである。
前述してきたとおり、本件商標の構成中「シェル」の文字は、石油・化学両事業を手がけてきたシェル・グループ又はその多数の子会社の略称として100年以上使用され、一般に受け入れられているものであって、本件商標の出願日前から現在にかけて、わが国において著名であったことは上記のとおりである。そして、本件商標は、「シェル」と「コンキオリン」の結合から成るものであることが明らかであるところ、他人すなわち請求人又はそのグループの名称の著名な略称を含む商標であり、請求人が本件商標権者に対して「シェル」を含む本件商標の登録ないし使用について承諾したという事実はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。
6 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第10号、同第15号及び同第8号に違反して登録されたものであり、その登録は、同法第46条第1項の規定により無効とされるべきである。

第4 被請求人の主張
審判長は、請求書の副本を被請求人に送達し、相当の期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人は答弁書を提出していない。

第5 当審の判断
1 「Shell」又は「シェル」の文字からなる標章の周知性について
請求人の提出に係る甲各号証によれば、請求人は、メジャー(国際石油資本)の一つとして世界的に著名なシェル・グループの中核企業であり、我が国においては、「昭和シェル石油株式会社」等、多数の関連会社を有し、石油・石油製品の製造等を長年にわたり行ってきたものであり、また、請求人及びシェル・グループに属する各企業は、「shell」及び「シェル」の文字よりなる商標を石油関連商品、ガソリン・スタンド等の役務に長年使用してきた結果、「Shell」及び「シェル」の文字は、遅くとも本件商標の登録査定時までには、商品「化学品」に関し、シェル・グループの製造、販売に係る商品を示すものとして、取引者、需要者の間で広く認識されるに至っていたと認めることができる。
2 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、前記第1のとおり、「シェルコンキオリン」の片仮名を標準文字で表してなるところ、その構成各文字は、同じ書体及び同じ大きさをもって等間隔に表されてなるものの、その構成中の「シェル」の文字が「貝殻」を意味する外来語として我が国において広く知られ、同じく「コンキオリン」の文字が「アコヤ貝に含まれる硬タンパク質」の名称を意味するものとして使用されていることに照らせば、本件商標は、「シェル」と「コンキオリン」の2語を結合してなるものと理解、認識されるとみるのが相当である。
そして、本件商標の指定商品である商品「化学品」を取り扱う業界においては、上記1のとおり、「シェル」の文字は、遅くとも本件商標の登録査定時までには、該商品に関し、シェル・グループの製造、販売に係る商品を示すものとして、取引者、需要者の間で広く認識されていたことが認められる。
そうすると、本件商標の構成のうち、「シェル」の文字部分は、取引者、需要者に対し、シェル・グループに関係するものという強い印象を与えるものというべきである。
一方、本件商標の構成中、「コンキオリン」の文字は、例えば「日本化粧品成分表示名称第3版」(株式会社薬事日報社)において「本品は、アコヤガイ・・・の真珠層に含まれる硬たん白である。」、同じく「改訂・完全版 化粧品成分用語事典2012」(中央書院)において、「コンキオリンパウダー(表示名:コンキオリン)」の見出し語の下、「コンキオリンは貝類に特有な硬たんぱく質で、貝殻中に約3%含まれている。また、真珠中にも同様なたんぱく質が含まれており、貝殻や真珠の防御のほか、その成長やつやにも関与していると考えられている。貝殻中に薄い膜を何層か形成して存在する構造たんぱく質の一種である。グリシン、アラニンなどが多く、コラーゲンやシルクに類似している。皮膚や毛髪への親和性にすぐれ、皮膚にやさしくさっぱりとした感触を与える。」と載録されており、該語を商品としてみた場合、化粧品の原材料として、本件商標の指定商品である「化学品」の範ちゅうに属する商品とみることもできるものであること、また、化粧品の高品質への要請からその原材料への関心が寄せられる状況にあることがうかがえることに鑑みると、本件商標の構成のうち、「コンキオリン」の文字部分は、化学品の普通名称又は品質等を示す表示として、本件商標の指定商品である「化学品」の取引者及び需要者に認識されるものということができる。
してみると、本件商標の構成のうち、「コンキオリン」の文字部分は、他の部分から独立して商品の出所識別機能を果たすものではなく、「シェル」の文字部分が強く支配的な印象を与えるもので、本件商標の要部をなすものというべきである。
したがって、本件商標は、その構成文字全体に相応する「シェルコンキオリン」の称呼を生ずるほか、その構成中の「シェル」の文字部分に相応する「シェル」の称呼を生じ、かつ、「貝殻」及び「『Shell』商標」の観念をも生ずるものである。
(2)引用商標
引用商標は、別掲(A)ないし(D)の商標の構成欄に示すとおり、それぞれ「Shell」若しくは「シェル」の文字又は貝殻の図形と「SHELL」の文字との結合からなるものであるから、いずれも、その構成全体に相応して、「シェル」の称呼及び「貝殻」の観念を生ずるものである。
また、上記1において認定した範囲のシェル・グループの使用商品について、引用商標から「『Shell』商標」の観念が生ずる。
(3)本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標とは、その構成全体の外観において相違するものの、「シェル」の称呼並びに「貝殻」及び「『Shell』商標」の観念を同じくするものであるから、これらを総合勘案すれば、互いに紛れるおそれのある類似の商標とみるのが相当である。
(4)本件商標に係る指定商品と引用商標に係る指定商品との類否
本件商標に係る指定商品は、第1類「化学品」であり、引用商標に係る指定商品には「化学品」又はそれと類似する商品を含んでいることが認められる。
(5)小括
上記(1)ないし(4)によれば、本件商標は、引用商標と類似する商標であって、かつ、その指定商品も同一又は類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
3 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、その余の無効理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(A)引用商標1(商標登録第2375293号:甲525の1・2)
・商標の構成:

・登録出願日:平成元年4月7日
・設定登録日:平成4年1月31日
・更新登録 :2回(平成14年1月15日,同23年11月8日)
・指定商品(書換登録後):第1類「化学品,のり及び接着剤(事務用又は家庭用のものを除く。)」並びに第2類ないし第5類、第16類及び第19類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品

(B)引用商標2(商標登録第2375294号:甲526の1・2)
・商標の構成:

・登録出願日:平成元年4月7日
・設定登録日:平成4年1月31日
・更新登録 :2回(平成14年1月15日,同23年11月8日)
・指定商品(書換登録後):第1類「化学品,のり及び接着剤(事務用又は家庭用のものを除く。)」並びに第2類ないし第5類、第16類及び第19類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品

(C)引用商標3(国際登録第977610号:甲527の1・2)
・商標の構成:

・国際登録日:2008年5月14日
【優先権主張】国名:Switzerland ,出願日:2008年3月11日
・設定登録日:平成22年3月19日
・指定商品・指定役務:第1類「Chemicals used in industry, chemicals used in agriculture, horticulture and forestry, except fungicides, weedkillers, herbicides, insecticides and parasiticides; chemical preparations for scientific purposes (other than for medical or veterinary use); chemical preparations for use in photography; raw artificial resins, unprocessed plastics; soil fertilizers; fire extinguishing compositions; tempering and soldering preparations; chemical substances for preserving foodstuffs; tanning substances; adhesives for industrial use.」及び第4類「Industrial oils and greases; lubricants; dust absorbing, wetting and binding agents; fuels (including motor spirit) and illuminants; candles and wicks for lighting.」並びに第6類、第8類、第9類、第11類、第14類、第16類、第18類、第19類、第21類、第24類ないし第28類及び第37類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品又は役務

(D)引用商標4(商標登録第468792号:甲528の1・2)
・商標の構成:

・登録出願日:昭和25年11月25日
・設定登録日:昭和30年8月6日
・更新登録 :4回(昭和51年1月13日,同61年1月20日,平成7年12月25日,同17年7月5日)
・指定商品(書換登録後):第2類「染料,油絵の具,水彩絵の具,日本絵の具,朱,丹,緑青,群青,洋じょう,鉛白,胡粉,藤黄,媒染剤,塗料(色はく・切り粉・地の粉・砥の粉を除く。)」

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審理終結日 2014-08-19 
結審通知日 2014-08-22 
審決日 2014-10-23 
出願番号 商願2011-25559(T2011-25559) 
審決分類 T 1 11・ 262- Z (X01)
T 1 11・ 263- Z (X01)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡辺 航平中束 としえ 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 酒井 福造
手塚 義明
登録日 2011-09-09 
登録番号 商標登録第5437049号(T5437049) 
商標の称呼 シェルコンキオリン 
代理人 中村 稔 
代理人 松尾 和子 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 熊倉 禎男 

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