ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部取消 商53条の2正当な権利者以外の代理人又は代表者による登録の取消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X29 |
---|---|
管理番号 | 1291631 |
審判番号 | 取消2013-300236 |
総通号数 | 178 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2014-10-31 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2013-03-25 |
確定日 | 2014-08-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5512099号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5512099号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 登録第5512099号商標(以下「本件商標」という。)は,「von Muhlenen」の文字を書してなり,平成23年12月13日に登録出願,第29類「食肉,家禽肉及び食用鳥獣肉,肉エキス,食用ゼリー,肉ゼリー,ジャム,コンポート,卵,牛乳,乳製品,食用油脂」を指定商品として,平成24年8月3日に設定登録されたものである。 (審決注:本件商標中の「Muhlenen」及び以後審決書に表示する「Muhlenen(MuHLENEN)」の綴り文字の「u」には,いずれも「ウムラウト」が付されている。) 第2 請求人の主張 請求人は,結論掲記の審決を求め,審判請求書,弁駁書,口頭審理及び上申書において,その理由(要旨)を,次のように述べ,証拠方法として甲1ないし56を提出した。 本件商標は,請求人であるホンミューレネン アーゲー(von Muhlenen AG)(以下「請求人」という。)が,工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約(以下「パリ条約」という。)の加盟国において正当に商標権を所有する商標であるにもかかわらず,かつて請求人のCEOとしての資格を有していたヴァロ フォン ミューレネン(Walo von Muhlenen)(以下「被請求人」という。)によって,請求人の承諾を得ることなく商標登録出願され登録されたものである。 よって,本件商標は,パリ条約第6条の7及びこれを受けて制定された商標法第53条の2に該当するものであるから,取消されるべきものである。 1 請求人について 請求人は,1891年に,アンドレアス ホン ミューレネン(Andreas von Muhlenen)によって,スイス国のエンメ谷に創業された古い歴史を有するチーズ製造業者であり,名称変更,合併等を経て,現在の名称に変更されているものである。 請求人は,約140年遡る従来の熟成方法を使用して,伝統と高い技術を有する専門家によって,純粋な未殺菌牛乳で生産されるチーズを,商標「von Muhlenen」を付して日本国を含む多くの国々に輸出し提供するに至っている。例えば,請求人がスイスのエンメ谷でわずかな量だけ生産する伝統的なエメンタールチーズは,非常に厳しい品質管理の下で生産され,高い品質を誇るものとして世界的に広く知られているばかりか,商標「von Muhlenen」が付された請求人のチーズは,数多くの国際的なチーズのコンテストで受賞をしている(甲5ないし10)。 (審決注:前記のとおり,請求人及び被請求人等の名称中の「von」の片仮名表記について「ホン」と「フォン」が混在するが,これらを片仮名表記する場合には,当事者の主張のとおり表記する。) 2 請求人の所有する商標権等 (1)請求人は,「von Muhlenen」の文字からなる商標,若しくは当該文字を含んでなる商標について,スイス国,欧州共同体商標意匠庁,米国,カナダ国において商標登録を有しているか又は商標出願をしており,マドリッド協定議定書に基づく国際登録も獲得をしている(甲11ないし16)。 ア スイス国商標登録 P-485485号(甲11) 商 標 別掲1に表示するとおりの構成 国際分類 第29類 寄 託 日 2001年 5月17日 登 録 日 2001年 6月 7日 満 了 日 2021年 5月17日 イ スイス国商標登録第549279号(甲12) 商 標 別掲2に表示するとおりの構成 国際分類 第29類 寄 託 日 2006年 4月11日 登 録 日 2006年 8月16日 満 了 日 2016年 4月11日 ウ マドリッド協定議定書に基づく国際登録第904786号(甲13) 商 標 別掲2に表示するとおりの構成 国際分類 第29類 国際登録日2006年10月 2日 満 了 日 2016年10月 2日 エ スイス国商標登録第635364号(甲14) 商 標 VON MuHLENEN 国際分類 第29類 寄 託 日 2012年 7月12日 登 録 日 2012年10月18日 満 了 日 2022年 7月12日 オ 欧州共同体商標登録第11151008号(甲15) 商 標 VON MuHLENEN 国際分類 第29類 出 願 日 2012年 8月30日 登 録 日 2013年 1月10日 満 了 日 2022年 8月30日 カ カナダ国出願番号第1604197号(甲16) 商 標 VON MuHLENEN 出 願 日 2012年11月28日(優先日スイス国同年7月12日) 商 品 チーズ,乳製品 キ 米国出願番号第85787832号(甲17) 商 標 VON MuHLENEN 出 願 日 2012年11月27日(優先日同年7月12日) 商 品 第29類 チーズ,乳製品 また,請求人は,前記のほか,アメリカ合衆国において発生している商標に関する権利(甲27)及びドイツにおいて権利を有している(甲31ないし47) 。 (2)請求人は,円形の大きなチーズに貼り付けるラベルシール(以下「ラベルシール」という。)を商標として使用している。これは,直径70cm以上のチーズに貼り付けるものであり,チーズのどこを切っても「von MuHLENEN」の文字が記載されるように連続模様として構成されており,商標出願の方式の制約上縮小したものを商標登録している(甲12,13及び27)。 また,請求人は,小分けのパッケージに記載する商標として,スイス国商標登録(甲11)を有する。その商標は,構成中の「SWITZERLAND」が国名であるから,識別力が認められる部分は「VON MuHLENEN」というべきであり,文字が二段に併記されていても無理なく「フォンミューレネン」の一連の称呼が生じるものである。 3 被請求人について 被請求人は,創業者アンドレアス ホン ミューレネンの子孫であって,その事業を継承するとともに,1988年11月4日から請求人の取締役会のメンバーであり,1996年1月1日から2011年5月31日まではCEOであった。そして,その後,被請求人は,従業員として2012年3月31日まで勤務した(甲18)。 したがって,2011年12月13日に出願された本件商標は,被請求人がCEOとしての職を去った後1年以内に商標登録出願されたものであることは明らかである。 請求人は,スイス国における商業登記簿の抄本の写しとその日本語訳及びスイス商業官報の写しとその日本語訳を提出する(甲53及び54)。 これにより,被請求人が,2011年10月4日まで請求人の代表者であり,同日に代表者を退任したことが明確である。 また,被請求人自身のホームページにおいては,被請求人が2012年まで請求人の会社においてCEOであったと自認している(甲55)。 4 正当理由について 本条項でいう正当理由とは,例えば,「パリ条約講和第13版(後藤晴男著)」には,「その商標の所有者がある同盟国についてはその権利を放棄しますよというような態度をとったりあるいはその同盟国については商標権を取る関心がないのだということを代理人あるいは代表者に信じさせるというような事情があったことをいう」とされている(甲49)。 また,「商標第4版(網野誠)」には,「商標に関する権利を有する者が,その代理店等に対しその国においてその商標を放棄したこと,またはその商標の権利を取得する関心がないことを信じさせた場合等が挙げられる(ボーデンハウゼン121頁)。」とされている(甲50)。 そして,本件商標が被請求人の名字であっても,53条の2にいう正当理由(権利放棄,商標権を取得する関心がないと信じさせるような事情等)にはあたらない。 5 承諾について (1)請求人は,商標「von Muhlenen」を,被請求人が自己の名義で申請することを,請求人は承諾していないことを証明する宣誓書(及びその抄訳)を提出する(甲19)。 (2)前記4のとおり,正当理由には,いわゆる黙示の承諾は入らない。積極的に被請求人を信じさせたような事情は一切ない。 それどころか,請求人と被請求人の間には,以下のように信頼関係が全く破壊された状況が存在している。 請求人は,被請求人が2012年夏デュッセルドルフにおけるINTER MOPRO見本市に参加しようとしていることに気づいた。当該見本市は規模が大きく,被請求人の参加は請求人のビジネスに大きな悪影響を与えるものであると判断したため,請求人はデュッセルドルフ地方裁判所に対し仮差止めを求め,その一部が認容された(甲48)。 被請求人は,認容された仮差止めの存在にもかかわらず見本市に出展したため,現在もデュッセルドルフの裁判所における本裁判にて係争中である。 ところで,請求人が2012年8月19日に当該仮差止についての準備を進めていたところ,請求人は,欧州共同体商標第10042497号(以下,この項では「欧州共同体商標」という。)が,被請求人によって出願され,登録となっていたことを発見したが,その時点では異議申立期間を経過していたため異議申立を行うことが出来なかった。 その後,すぐに,請求人は,被請求人の有する欧州共同体商標に対して権利行使することにしたが,その動きを察知した被請求人は,当該商標を2012年10月31日に自ら放棄した(甲51)。 その理由は明確なものである。上述の一部認容された仮差止決定において,被請求人は,欧州共同体商標をデュッセルドルフにおけるINTER MOPRO見本市において使用することを禁止されており,仮差止決定に無視してあえて使用した場合,被請求人に重大且つ深刻な制裁が加えられることになっていたからである。 (3)請求人は,被請求人と請求人等との雇用契約等に関する合意書及びその訳文(甲18)並びに当該合意書の9項についての訳文を提出する(甲52)。 当該合意書の9項において,被請求人は2012年6月30日まで商標の使用についても制限が課せられていたのにもかかわらず,本件商標は,我が国での使用を目的として商標登録出願されたものである。9項は,法的義務の認識にかかわらず使用を禁じられていることを意味しているものであり,被請求人の主張する翻訳である「法律による義務でなく任意で,使用してはならない義務を負う。」とする部分は論理的にも意味をなしておらず失当である。 したがって,被請求人は,請求人に何の通知もせず,日本において本件商標について出願を行っていたものであり,請求人による被請求人に対する黙示の承諾の事実は存在しない。 6 商標法第53条の2の審判における取消対象 商標法第53条の2の審判については,同法第46条の第1項後段における「・・・指定商品又は指定役務ごとに請求できる。」や第50条第1項の「・・・その指定商品(各指定商品)又は指定役務(各指定役務)に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」のような特段の規定を設けず,同法第51条第1項及び第53条第1項と同様に,単に「・・・当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定するにとどまっているから,本件審判の請求も一個であると解すべきである。 そして,ここでいう「当該商標登録」は,商標法第53条の2第1項の冒頭の「登録商標」を指称している。1)本条は,パリ条約第6条の7を我が国について実施するための規定であるところ,同規定には,「類似する商品」に限定する旨の規定はない。2)知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(以下「TRIPS協定」という。)第2条1において加盟国に遵守を要求しているパリ条約第6条の7にもそのように限定する語句はない。3)パリ条約の規定は最低限の保護を意図したものであって,締約国等は,義務的ではないが,その規定に反しないことを条件として,より広範な保護を国内法令で実施できることは当然のことである(パリ条約19条,TRIPS協定1条1)。4)商標法第53条の2第1項は「当該権利に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするものであり」を登録取消の要件と規定しているところ,指定商品・指定役務の全部が当該権利に係る商品若しくは役務と同一又は類似するものに限るとの限定文言もない。指定商品又は指定役務中に当該権利に係る商品又は役務が含まれているものも含まれているのである。また,5)指定商品又は指定役務が2以上の商標権についての特則である商標法第69条第1項には,同法53条の2の規定の適用について「指定商品又は指定役務ごとに商標登録がされ,又は商標権があるものとみなす」と規定していないのは,全体を一個の商標登録として適用することを前提としているものと解するのが自然である。 第3 被請求人の主張 被請求人は,本件審判請求は成り立たない審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し,答弁書,口頭審理及び上申書において,その理由(要旨)を次のように述べ,証拠方法として乙1ないし10を提出した。 1 本件商標と引用商標 請求人は,本件商標が商標法第53条の2に該当するとして,甲11ないし17,27及び30ないし47に表示する商標(以下,この項ではこれらを総称する場合「引用商標」という。)を提出しているが,これら引用商標は,本件商標とその構成態様が明らかに異なるものであり,類似するものではない。 そして,甲14ないし17は,本件商標の出願日以降に出願されたものであり,また,甲27は,2013年9月10日のものであるから,本件商標の取消の根拠となり得ない。 本件商標と引用商標を比較すると,甲11の商標は,黒色の横長矩形に白抜き文字で「SWITZERLAND」の文字を大きく表し,その左に「VON」の文字を含む図形と,「MuHLENEN」の文字を上下二段に表してなるものであって,「VON」と「MuHLENEN」の文字は,「SWITZERLAND」の文字に比べて小さく,しかも「VON」は図形の内部にあって図形の一部と看取されるうえ,「MuHLENEN」の文字と離れた構成であるため,「VON」と「MuHLENEN」は,その関連性が希薄であり一体性のないものである。よって,甲11の商標は,本件商標と別異の商標と看取されるものであって,需要者・取引者が誤認混同することのないものである。 また,本件商標と甲12及び13の商標は,その構成態様から明らかなように,その外観が著しく相違しており,甲12及び13の商標が一種の地模様であって,特定の観念及び称呼が生じないものであることからすれば,両商標は,その観念及び称呼においても相違するというべきものである。 さらに,甲30ないし47の商標は,甲12及び13又はこれらと類似のもの,あるいはその一部が商品に使用されているものであるから,いずれも本件商標とその構成態様が明らかに相違しており,類似の商標と認めることができないものである。 また,請求人は,本件商標は引用商標と称呼が同一であるから,両者は類似の商標であると主張しているが,商標の称呼が同一であっても類似の商標と言えないことは,過去の判決例(乙4ないし7)及び審決例からも明らかである。 2 指定商品 本件商標の指定商品は,引用商標中の甲11及び13の指定商品を含むものである。 本件商標は,引用商標と同一又はこれと類似する商標ではないが,仮に,引用商標と類似する商標とされた場合でも,これにより取り消し得る指定商品は引用商標の指定商品又はこれに類似する商品に限られる。 3 正当理由 本件商標は,被請求人の名字であるから,仮に,請求人の引用商標と類似する商標であったとしても,その商標登録出願に当たり請求人の承諾を得なければならない理由はなく,何らの制約を受けるものではない。 加えて,被請求人は,本件商標登録出願について暗黙の承諾を得ている。 請求人は,「商標の使用についても制限が課せられていたのにもかかわらず,本件商標は,我が国での使用を目的として,2011年12月13日に商標登録出願されたものである。」旨を述べているが,使用について制限を課せられていたものは本件商標とは別の商標であり,それも2012年6月30日までの使用を制限したに過ぎない(甲18及び乙1)。また,この使用期間の制限は,法的義務ではなく任意によるものである。原語のうち「ohne Anerkennung einer Rechtspflicht」はラテン語の「ex gratia」に相当し,「法律による義務ではなく任意で」の意である(乙2及び3)。 被請求人は,将来的な使用の意思をもって2011年12月13日に優先権主張を伴って本件商標を我が国に出願したが,当該商標を,我が国を含む外国において出願することを制限あるいは禁ずる文言は,合意書(甲18)の何れにもないばかりでなく,甲1及び2からも明らかなように,被請求人は,2011年6月14日に本件商標の基礎出願を欧州共同体商標意匠庁に行っているのであるから,請求人は,被請求人が他の国においても出願するであろうことは十分予想できたはずである。それにもかかわらず,商標「von Muhlenen」については,合意書で何ら言及されず,そもそも合意書の作成に当たって議論されることもなかった。 また,請求人は,使用期間の制限を設けた2つの商標,すなわち「Selection Walo von Muhlenen」及び「Walo von Muhlenen」についてすら,我が国を含む外国における出願を禁止していないことは,甲18の合意書が示すとおりである。 したがって,請求人は,商標「von Muhlenen」の商標登録出願について,被請求人に対し,黙示的に承諾を与えているのである。 4 商標法第53条の2における代表者 請求人提出の書証からは,被請求人が,本件商標登録出願の日前1年以内に請求人の代表者であったことを確認できない。 5 第53条の2における取消の対象について 請求人は,第53条の2における請求は一体のものであり,被請求人の商標に係る指定商品は,全て取消の対象となる旨主張するが,「商標(第6版)」(網野誠著)第927頁及び「注解商標法(下巻)」(小野昌延著)第1182頁によると,取消の対象は,請求人の商標が使用されている商品に限られるとある(乙9及び10)。 6 まとめ 本件商標は,請求人が商標権を所有しているとする商標又はこれと類似するものでない。加えて,被請求人の本件商標登録出願には正当な理由があり,請求人の承諾を要しないものである。 したがって,本件商標は,商標法第53条の2の規定に該当するものでないので,その登録は取り消されるべきでない。 また,仮に本件商標が商標法第53条の2の規定に該当する場合,取り消し得る指定商品は引用商標の使用に係る商品に限られる。 第4 当審の判断 商標法第53条の2の規定に基づき,商標登録の取消を請求することができるためには,第1に,当該商標登録に係る出願が「登録商標がパリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国若しくは商標条約の締約国(以下「パリ条約の同盟国等」という。)において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするもの」であること,第2に「その商標登録出願が正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたもの」との要件を充たすことが必要であると解される。 1 そこで,まず,本件商標がパリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって,当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするものであるか否かについて検討する。 (1)パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有するか否か 請求人は,本件商標が商標法第53条の2に該当するとして甲11ないし17,27及び30ないし47に表示する商標を提示しているところ,甲11によれば,請求人は,別掲1に示すとおりの構成からなる商標(以下「請求人商標」という。)について,パリ条約の同盟国の一であるスイスにおいて,本件商標の出願前に,商標登録(スイス国商標登録P-485485号)を得,商標権を有していることが認められる。 してみれば,請求人は,パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者であり,請求人商標は,当該権利に係る商標ということができる。 (2)本件商標と請求人商標の類否について ア 本件商標 本件商標は,前記第1のとおり,「von Muhlenen」の文字からなるものであるところ,その構成中の「u」の文字に「ウムラウト」が付されていることから,その構成文字全体から,ドイツ語読み風の「フォンミューレネン」の称呼を生ずるとみるのが自然であり,また,これからは特定の観念は生じないものである。 イ 請求人商標 請求人商標は,別掲1に示すとおり,左側の端部分に,黒い幾何図形と「VON」「MuHLENEN」の文字を組み合わせた標章(以下「幾何図形部分」という。)を配し,その右側に,「SWITZERLAND」の白抜き文字を内部に有する黒い矩形を配した標章(以下「矩形部分」という。)からなるものであるところ,幾何図形部分と矩形部分とは,視覚上分離して看取されるものである。 また,矩形部分は,ありふれた輪郭図形内に商品の産地・販売地を認識させる国名「SWITZERLAND」を配してなるものであるから,当該部分が独立して自他商品の識別機能を果たし得るものということはできない。 そこで,幾何図形部分についてみると,その構成中の「VON」及び「MuHLENEN」の各部分は,分離して配置されてはいるものの,「VON」及び「MuHLENEN」の欧文字綴りとして明確に把握され,かつ,同じ書体で纏まりよく構成されていることから,該文字部分が一体のものとして把握され,自他商品の識別上で看者に強く印象され記憶されて取引に資される場合が決して少なくないとみるのが自然である。 してみれば,請求人商標は,独立して看者に強く印象を与える「VON」「MuHLENEN」の文字部分に相応して,本件商標と同様に,ドイツ語読み風の「フォンミューレネン」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものとみるのが相当である。 ウ 商標の類否 本件商標と請求人商標とを比較すると,両商標は,全体の外観構成において相違するものであるが,本件商標の構成文字「von Muhlenen」と,請求人商標にあって要部たり得る構成文字「VON」「MuHLENEN」はその文字綴りを同じにするものであり,これらから生じる「フォンミューレネン」の称呼を共通にするものである。 そして,両商標は,なんら観念を生じさせないから,観念の相違をもって区別することはできないものである。 そうすると,本件商標と請求人商標は,それぞれの外観,称呼及び観念によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想を総合してみれば,これらを同一又は類似の商品に使用した場合,同一の事業者に係る商品であるかのごとく誤認混同を生ずるおそれがある類似の商標とみるのが相当である。 (3)本件商標の指定商品について 請求人商標は,「Kase,alle vorgenannten Waren schweizerischer Herkunft」(スイス製のチーズ)を指定商品として登録されたものであるところ(甲11),本件商標の指定商品には,「乳製品」が包含されており,これと請求人商標の指定商品である「チーズ」とは同一又は類似する商品と認められる。 (4)小括 以上によれば,請求人は,本件商標の出願以前に,パリ条約の同盟国において請求人商標を所有しており,また,本件商標と当該請求人商標とは類似する商標であって,本件商標は,請求人商標の指定商品と同一又は類似する商品を指定商品とするものである。 2 つぎに,出願が正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで,当該商標登録出願の日前1年以内にその代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるか否かについて検討する。 (1)当事者の主張及び証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア 被請求人は,「Walo von Muhlenen(ヴァロ フォン ミューレネン)」との氏名を有する者である。 イ 被請求人は,請求人の創業者アンドレアス ホン ミューレネンの子孫で,その事業を継承するとともに,1988年11月4日から請求人の取締役会のメンバーであり,1996年1月1日から2011年5月31日まで請求人のCEOであった(甲53及び54)。 被請求人は,同人に係るホームページ上において,同人が2012年まで請求人会社においてCEOであった旨を記載している(甲55)。 ウ 被請求人は,2011年5月31日付にてCEOの職を去った。その後,被請求人は,従業員として勤務したが,被請求人と請求人との間で,雇用関係終了に伴い合意書が交わされ,雇用の終了は2012年3月31日とした。その合意書には,被請求人に付随するブランド「Selection von Muhlenen」は,2012年6月30日まで商標の使用について制限が課せられるとの「9項」がある(甲18)。 エ 被請求人は,2011年6月14日に本件商標の基礎出願を欧州共同体商標意匠庁に行い商標登録を得た(甲1及び2)。これに対する異議申立はなかったが,その後,請求人は,被請求人のドイツでの見本市への出展の動きに際し,当該商標の差止め仮処分請求をデュッセルドルフ地裁に提起し,その一部が認容される決定を得た(甲48)。そして,被請求人は,2012年10月31日にその商標を放棄した(甲51)。 (2)代理人又は代表者であったか否か 前記(1)イのとおり,被請求人は,平成8年(1996年)1月1日に請求人のCEOに就任し,平成23年(2011年)5月31日付でCEOを退任した。そして,本件商標は,第1に記載のとおり,平成23年12月13日に出願されたものであるから,被請求人は,本件商標の出願の日前1年以内に,請求人の代表者に該当する者であったということができる。 (3)「正当な理由」について 本条項の「正当な理由」とは,商標に関する権利を有する者が,その代理店等に対しその国において商標を放棄したこと,またはその商標の権利を取得する関心がないことを信じさせた場合等が挙げられるものと解されるところ(甲50),被請求人は,これらの事情に相当する具体的な事実を明らかにしていない。 したがって,本件の商標登録出願に正当な理由があったということはできない。 (4)承諾の有無 請求人は,本件商標の出願について黙示を含めて被請求人に承諾を与えた事実はない旨主張し,被請求人は,本件商標は被請求人の名字であるからその商標登録出願に当たり請求人の承諾を得なければならない理由はない。加えて,甲18の合意書には本件商標の出願を制限あるいは禁ずる文言はないし,請求人は,本件商標の基礎出願(甲1及び2)により本件商標の出願を予測できたはずなのに当該基礎出願に対して異議の申立もしていないなどとして,商標登録出願に黙示の承諾があった旨主張する。 そこで検討すると,本件商標が被請求人の名字に当たる「Muhlenen」を含むものであるとしても,そのことをもって,本件の商標登録出願に当たり請求人の承諾を要しないということはできないし,また,前記(3)の正当な理由があるということもできない。 また,甲18の合意書に本件商標の出願について制限あるいは禁ずる文言がなく,被請求人が本件商標の基礎出願に異議申立てを行わなかったとしても,そのことをもって,黙示の承諾があったということはできないし,その後の経緯(差し止め請求訴訟を提起した請求人の対応など)に照らせば,請求人が被請求人の本件商標の出願に関して許容をしたとまで推認することはできないというべきである。 加えて,請求人は,本件商標を被請求人の名義で出願することを承諾していないことを宣誓している(甲19)。 してみると,本件商標に係る出願は,請求人の承諾のない出願であると認定するほかない。 (5)小括 以上によれば,本件商標の登録出願は,正当な理由がないのに請求人の承諾を得ないで,本件商標の登録出願の日前1年以内に代表者の地位にあった被請求人によってなされたものといわざるを得ない。 3 むすび 以上の1及び2を総合すれば,本件商標は,商標法第53条の2に規定する要件を充足しているものといわざるをえず,その登録を取り消されるべきものある。 なお,被請求人は,仮に本件商標が商標法第53条の2の規定に該当する場合,取消し得る指定商品は請求人の商標が使用されている商品に限られる旨主張している。 しかしながら,本件審判の請求について,商標登録の指定商品毎に取消の請求をなし得ると解すべき特段の規定はない(商標法第69条参照)上,「その商標登録出願が,・・・者によってなされたものであるときは,・・・者は,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる」とする商標法第53条の2の規定振りからみれば,審判請求を受けて,当該出願に係る商標登録を取り消すものと解すべきであり,他に,取消される指定商品が請求人の商標が使用されている商品に限られると解すべき合理的理由はみいだせないから,被請求人の主張を採用することはできない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1 スイス国商標登録P-485485号(請求人商標:甲11) 別掲2 スイス国商標登録第549279号(甲12) マドリッド協定議定書に基づく国際登録第904786号(甲13) (色彩は原本参照のこと) |
審理終結日 | 2014-03-14 |
結審通知日 | 2014-03-19 |
審決日 | 2014-04-10 |
出願番号 | 商願2011-89516(T2011-89516) |
審決分類 |
T
1
31・
6-
Z
(X29)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 豊田 緋呂子 |
特許庁審判長 |
小林 由美子 |
特許庁審判官 |
渡邉 健司 前山 るり子 |
登録日 | 2012-08-03 |
登録番号 | 商標登録第5512099号(T5512099) |
商標の称呼 | フォンミューレネン、ボンミューレネン、フォン、ボン、ブイオオエヌ、ミューレネン |
代理人 | 田崎 恵美子 |
代理人 | 佐久間 洋子 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |
代理人 | 江崎 光史 |