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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない X354244
管理番号 1291601 
審判番号 取消2013-300952 
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2013-11-07 
確定日 2014-08-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第5266941号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5266941号商標(以下「本件商標」という。)は、「ラース」の片仮名と「RaaS」の欧文字とを上下二段に書してなり、平成21年2月3日に登録出願、第35類「コンピュータネットワークを介して行う医療上の事務処理の代行,コンピュータネットワークを介して行う医療に関するコンピュータ・データベースの情報構築及び情報編集,医療事務処理の代行,経営の診断又は経営に関する助言,電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作」、第42類「コンピュータネットワークを介して行う電子計算機を用いた医療に関する情報処理,コンピュータによる情報処理,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,電子計算機用プログラムの提供」及び第44類「医業,医療情報の提供,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導,動物の飼育,介護,医療用機械器具の貸与」を指定役務として、同年9月18日に設定登録されたものである。
なお、本件審判の請求の登録は、平成25年11月26日にされている。

第2 請求人の主張
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標の指定役務中、第35類「コンピュータネットワークを介して行う医療上の事務処理の代行,コンピュータネットワークを介して行う医療に関するコンピュータ・データベースの情報構築及び情報編集,医療事務処理の代行」、第42類「コンピュータネットワークを介して行う電子計算機を用いた医療に関する情報処理,コンピュータによる情報処理,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究」及び第44類「医業,医療情報の提供,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導,動物の飼育,介護,医療用機械器具の貸与」についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁(平成26年5月7日付け口頭審理陳述要領書を含む。)を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務中の上記した請求に係る指定役務について、審判請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、RaaSの画面ショットを提出し(乙1)、本件商標が「第35類 コンピュータネットワークを介して行う医療上の事務処理の代行,コンピュータネットワークを介して行う医療に関するコンピュータ・データベースの情報構築及び情報編集,医療事務処理の代行」及び「第42類 コンピュータネットワークを介して行う電子計算機を用いた医療に関する情報処理,コンピュータによる情報処理,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」に使用されている旨主張している。
しかしながら、乙第1号証は、コンピュータを立ち上げたときに現れる画面であり、同画面に表示されるRaaSの文字は、商品(コンピュータソフトウェア)についての使用である。
そして、本件商標が第35類の役務について使用されているといえるには、被請求人が「医療上の事務処理の代行」、「医療に関するコンピュータ・データベースの情報構築及び情報編集」又は「医療事務処理の代行」を行う必要があるところ、被請求人は、RaaS(入院診療報酬請求を行うシステム)のライセンス等を行っているだけであり、被請求人が、他人のために上記第35類の役務を提供していない。
また、第42類の役務についても、「RaaS」の名前でこれら役務を提供していない。「RaaS」はコンピュータソフトウェアの名称である。
以上により、乙第1号証は、本件商標が第35類及び第42類の役務について使用されたことの証拠とならない。
さらに、乙第1号証には著作権表示として「2009-2013」が掲載されているが、これだけでは本件商標の使用時期(審判請求の登録前の使用であるか)は特定できない。この点からも、乙第1号証は、取り消しを免れる本件商標の使用を証明する証拠とはならない。
(2)乙第2号証の発行日は、平成22年3月31日で、本件商標の使用を証明する期間外に発行されたものである。
したがって、乙第2号証は、そもそも本件商標の使用を証明する証拠とはならない。
また、乙第2号証(ア)の「商品番号・商品名」欄には、「RaaS」「ソフト」と記載されている。同事実は、「RaaS」は「ソフト」(ソフトウェア)の名称であることを被請求人自らが認めていることを意味する。
乙第2号証(イ)には、「RaaS」の文字は記載されていないので、本件商標の使用を証明する証拠とはならない。
(3)まとめ
以上のとおり、乙第1号証及び乙第2号証によっては、本件商標が、要証期間内に、日本国内において、商標権者、専用使用権者または通常使用権者によって、本件審判の請求に係る指定役務について使用されていることは証明されない。
3 口頭審理(平成26年5月7日付け口頭審理陳述要領書)における陳述(なお、請求人及び被請求人の提出する口頭審理陳述要領書は、以下「陳述要領書」という場合がある。)
(1)本件商標が役務の提供主体を表示しないことについて
被請求人は、被請求人と医療法人八女発心会(以下「八女発心会」という。)との間のメンテナンス契約書を提出している(乙3)。
しかしながら、乙第3号証によっては、コンピュータプログラムのメンテナンンスにあたり、役務の提供主体を表示するために本件商標「ラース/RaaS」が使用されていることは証明されない。
乙第3号証中には、「ラース/RaaS」の記載は全くない。このため、被請求人がいかなる商標を使用してコンピュータプログラムのメンテナンンスを行っているのか皆目分からない。
被請求人は、その陳述要領書において、「『RaaS』は被請求人が提供したソフトウェアである」と述べている。これは、本件商標は商品についての名称であり、役務の提供主体を表示していない旨を自認したに他ならない。
(2)被請求人は、その陳述要領書において、「提供を受ける者の利用に供する物(ソフトウェア)に『RaaS』の標章を付したもの」なので、このような態様は商標法第2条第3項第3号の「使用」にあたる旨述べている。
また、被請求人は、「『RaaS』の標章が付されたソフトウェアを用いて役務を提供しているのであるから、被請求人の行為は、商標法第2条第3項第4号」の「使用」にあたる旨述べている。
さらに、被請求人は、「『RaaS』の標章が付されたソフトウェアを用いて役務を提供する行為を継続しているのであるから、商標法第2条第3項第6号」の「使用」をしている旨述べている。
しかしながら、そもそも商標は、「自己の商品・役務と他の商品・役務とを識別する標識であり、商品や役務の出所を示す標章である」(「注解商標法【新版】上巻」株式会社青林書院)。上記機能を発揮する行為類型が商標における「使用」である(「巨峰事件」福岡地裁飯塚支部 昭和46年9月17日判決)。
してみれば、ソフトウェア「RaaS」を対象としてメンテナンスを行っていることを主張するだけでは、本件商標の「使用」(役務の提供者・出所を示す)の証明にはならない。
したがって、被請求人の行為が商標法第2条第3項第3号、同4号及び同6号。に該当するという被請求人の主張は失当である。
(3)被請求人は、同人の顧客である八女発心会作成に係る上申書を提出している(乙4)。
しかしながら、乙第4号証は、被請求人の顧客という、同人と密接な関係を有するものが作成したものであるので、内容の中立性に疑義を感じざるを得ない。
したがって、乙第4号証は、証拠としての信用性は低いものである。
また、その内容を信用したとしても、上記上申書は、「ソフトウェアの設定・保守のサービスの提供を受けている事実」、「ソフトウェア『RaaS』の保守サービスを継続的に受けている」ことに相違ないと述べており、第35類「コンピュータネットワークを介して行う医療上の事務処理の代行,コンピュータネットワークを介して行う医療に関するコンピュータ・データベースの情報構築及び情報編集,医療事務処理の代行」、第42類「コンピュータネットワークを介して行う電子計算機を用いた医療に関する情報処理,コンピュータによる情報処理」について、本件商標の使用を証明する趣旨の書面ではない。
また、上記上申書に記載されている内容は、「メンテナンス契約書」(乙3)の内容にも整合する。すなわち、乙第3号証は、八女発心会が「保有するハードウェア,ソフトウェア,ネットワークの設備のメンテナンス」に係るものであり、医療上の事務処理の代行、コンピュータによる情報処理等を内容としていない。
また、被請求人は、その陳述要領書において、「被請求人はコンピュータプログラムの開発、設定、保守等、コンピュータに関連するサービスを提供する法人である。」と述べており、少なくとも第35類「医療事務処理の代行」は行っていない旨を自認している。
(4)被請求人提出の全証拠を見ても、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」以外に本件商標が使用されたことを窺わせるものはない(なお、このことは、被請求人が本件商標を「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」に使用することを認めるものではない。)。
なお、上記上申書において「入院経過や保険区分が複雑な患者においては、例外処理をふくむ計算ロジックは極めて複雑であり、その都度、医療情報技研の担当社員である赤松氏に補正処理をお願いしている」とか、「DPCデータ」の送付を「医療情報技研の高口氏にお願いしている」とか述べている。
しかしながら、上記被請求人社員の行為は、「メンテナンス契約」に含まれないものであり、メンテナンスに付随する便宜としてなされているものにすぎず、独立の取引対象としての役務とは認められない。
また、被請求人の社員の係る付随行為が行われた時期は特定されていないので、いつ(要証期間内)行われたことの証明もされていない。
そもそも、被請求人は、役務の提供主体を表示するために本件商標を使用していないのであるから、上記上申書を以て被請求人の主張する役務に本件商標が使用されていることは証明されない。
(5)まとめ
以上のとおり、被請求人が使用を主張する第35類「コンピュータネットワークを介して行う医療上の事務処理の代行,コンピュータネットワークを介して行う医療に関するコンピュータ・データベースの情報構築及び情報編集,医療事務処理の代行」、第42類「コンピュータネットワークを介して行う電子計算機・を用いた医療に関する情報処理,コンピュータによる情報処理,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」について,本件商標が使用されていることは証明されていない。
4 平成26年6月11日付け上申書
(1)被請求人は、商標「ラース/RaaS」について商標法第2条第3項第3号等の「使用」をしている旨述べている。
被請求人は、「ラース/RaaS」に対してメンテナンスサービスを行っていることと、「ラース/RaaS」を「使用」していること、とを混同している。
「ラース/RaaS」というソフトウェア又はレセプト作成システムが存在することは窺えるが、「ラース/RaaS」を「使用」して役務を提供していることは証明されていない。
被請求人は、本件における「ラース/RaaS」の使用は、商標法第2条第3項第3号、第4号及び第6号の「使用」と主張しているが、いずれにも該当しない。
請求人は、商標の「使用」とは役務の提供者を表示する行為を類型化したものと考えている。この理解は、商標の使用行為の成立時期についての記載であるが「サービスマークの場合は、役務の提供を表彰する行為、すなわちホテルの食器類とかレンタルサービスの自動車、教育サービスの場合に受講者に交付するテキスト、クリーニング後のワイシャツのビニール袋に商標を付した場合等に、その時点で使用が成立する。」との記述と合致する(「注解商標法【新版】上巻」株式会社青林書院)。
上記使用類型は、いずれも誰が役務を提供しているかを示す行為類型である。しかるに、被請求人は「ラース/RaaS」をメンテナンスしているにすぎず、「ラース/RaaS」は役務の提供者を表示していない。
被請求人は、「ラース/RaaS」に対するメンテナンスを行っているので、「ラース/RaaS」を使用している旨述べているが、かかる主張は上記注解書の記述に反するものである。
(2)被請求人は、新たな証拠乙第5号証を提出して、商標「RaaS」について第35類「医療事務処理の代行」を行っていることは明らかである旨述べている。
まず、同号証中には、役務の提供時期を特定できる記載はない。つまり、いつ、「医療事務処理の代行」が行われたのかを特定できない。
したがって、同号証によっては、要証期間内の本件商標の「使用」は証明されない。
次に、同号証において「医療事務処理の代行」に関係しそうな部分は「レセプトチェックソフトにてチェックし、レセプトチェックソフトのチェック結果と医療課職員からの添削依頼を元に、UKEファイルを手修正します。」以降の部分であるが、このような補助的行為(大方の処理は病院職員が行う)が「代行」といえるのか疑義がある。仮に、被請求人の補助的行為が「医療事務処理の代行」に該当するとしても、被請求人が本件商標を「使用」して同役務を提供しているとは認められない。
つまり、商標は役務の提供者を表示するものであり、「RaaS」が「医療事務処理の代行」に「使用」されているというのであれば、「RaaS」が同役務の提供主体と認識される必要がある。
しかしながら、同号証から認識される事実は、被請求人が、「RaaS」で出力されたUKEファイルのチェック、手修正することである。
したがって、同号証によっては、第35類について「RaaS」が「使用」されていることは証明されない。さらに、同号証は、被請求人の従業員が作成した書類なので、その信用性に疑問を抱かざるを得ない。
以上より、同号証によっては、要証期間内に本件商標が「医療事務処理の代行」に「使用」されたことは証明されない。
(3)被請求人は、八女発心会とのメール(乙6)を提出して、入院レセプト作成システム「RaaS」のメンテナンスが行われたことの証明を試みている。
しかしながら、乙第6号証によっては、本件商標が入院レセプト作成システム「RaaS」のメンテナンスに「使用」されたことは証明されない。
乙第6号証の1には、「3月1日に変更します。」と記載されているのだけであり、実際に変更されたかは不明である。
乙第6号証の2は、登録依頼のメールであり、実際登録が行われたかは不明である。
なお、メールの宛名は「医療情報疲術研究所」(以下「医療情報技研」という。)赤松氏であり、ここに対して八女発心会は依頼をしている。これは、八女発心会は、役務の提供者は「医療情報技研」であるとの認識のもと、役務の提供を依頼したことは明らかである。つまり、商標として「使用」されたのは「医療情報技研」であり、「RaaS」でない。
乙第6号証の3及び7は、メールの宛名が「医療情報技研」であり、ここに対して医療法人八女発心会は依頼をしている。
役務の提供者として認識されているのは「医療情報技研」であり、「RaaS」ではない。
乙第6号証の4、5及び6は、「i-mit」赤松氏からのメールである。これらメールは、「医療情報技研」からその依頼人(八女発心会)へのものであり、役務の提供者は、「医療情報技研」であることを示している。
以上より、上記メールから、八女発心会は、「RaaS」ではなく、医療情報技研が役務提供者であると認識して、役務の提供を依頼していることは明らかである。「RaaS」は役務の提供者を表示するのではなく、メンテナンスの対象を示すにすぎない。
したがって、乙第6号証によっては、本件商標が入院レセプト作成システム「RaaS」のメンテナンスに「使用」されたことは証明されない。
(4)まとめ
被請求人の上申書によっても、本件商標が第35類「医療事務処理の代行」、第42類「コンピュータネットワークを介して行う電子計算機を用いた医療に関する情報処理,コンピュータによる情報処理,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」に「使用」されたことは立証されていない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由(平成26年4月17日付け口頭審理陳述要領書及び平同年5月29日付け上申書を含む。)を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)RaaSは、DPCと呼ばれる急性期病院の入院費用包括制度において、患者別の入院診療報酬請求を行うシステムである。商標権者である医療情報技研は、前記システムのライセンス供与のみならず、制度変更に伴うソフトウェアの開発や保守、前記システムがインストールされたサーバーの運用管理を受託し、病院内ネットワークを通じて、DPCによる診療報酬請求事務のサポート、代行サービスを病院に対して提供している。
(2)乙第1号証は、RaaSの画面ショットを示す。同号証(ア)はログイン画面である。2009年から2013年まで継続してサービスを継続している。同号証(イ)は、ある患者の平成25年11月におけるリハビリ日計表の画面であり、一日ごとのリハビリの実施状況を示している。
このように、RaaSは、指定役務の第35類にある「コンピュータネットワークを介して行う医療上の事務代行,コンピュータネットワークを介して行う医療に関するデータベースの情報構築および情報編集,医療事務の代行」に該当する。
また、第42類「コンピュータネットワークを介して行う電子計算機を用いた医療に関する情報処理,コンピュータによる情報処理,電子計算機によるプログラム設計・作成又は保守」に該当することは明らかである。
同号証(ウ)は、平成25年12月11日現在のDPC包括点数日時推移表で、各患者が入院を継続した場合に、今後の一日当たり包括点数がどのように推移するかを示している。この情報提供により、どの患者を別の算定病棟に移動させれば収益が最大になるかなど、病院でのベッド移動に有益な情報を提供している。この例により、第44類「医業,医療情報の提供」に該当することも明白である。
(3)乙第2号証において、RaaS及び電子カルテシステムの平成22年3月末日締めの納品伝票、前記納品伝票に対する同年5月25日の病院振込み記録を示す。
このように、RaaSは、商標として用いられ、対価の支払いを受けている。なお、納品伝票、支払いは、平成25年12月現在も継続している。
(4)以上のように、RaaSは、実体を有するネットワークサービスに対して付与された商標であり、指定役務である第35類、第42類、第44類のいずれにも該当している。取引実績も2009年から現在まで継続している。したがって、本件審判請求の取消し理由にある、「継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者または通常使用権者のいずれも使用した事実が存在しない」との主張は理由が無い。
2 口頭審理(平成26年4月17日付け口頭審理陳述要領書)における陳述
(1)被請求人はコンピュータプログラムの開発、設定、保守等、コンピュータに関連するサービスを提供する法人である。
乙第3号証(ア)は、平成25年7月25日付けの八女発心会と医療情報技研との間で交わしたメンテナンス契約書である。
この契約書の「1.期間」の項目では、平成25年8月1日よりとされ、要証期間内であることが示され、契約書上部で、甲(八女発心会)が保有するハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク設備のメンテナンスを乙(医療情報技研)が行う旨規定している。
乙第3号証(エ)は、平成20年4月1日付けの八女発心会と医療情報技研との間で交わしたメンテナンス契約書である。乙第3号証(ア)?(工)は、平成20年4月1日からメンテナンス契約が順次更新され継続されてきたことを示している。
(2)乙第4号証は、八女発心会の野上秀樹氏より提出を受けた証明書である。この証明書によれば、入院レセプト作成システム「RaaS」は、平成21年当時に医療情報技研よりインストールの設定サービスを受け、それ以降現在にかけて医療情報技研より「RaaS」の保守サービスを受けていることが明らかである。
これら乙第3号証及び乙第4号証によれば、被請求人は、八女発心会に対して、要証期間内に「第35類 コンピュータネットワークを介して行う医療上の事務処理の代行,コンピュータネットワークを介して行う医療に関するコンピュータ・データベースの情報構築及び情報収集,医療事務処理の代行」、「第42類 コンピュータネットワークを介して行う電子計算機を用いた医療に関する情報処理,コンピュータによる情報処理,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」のサービス提供をしていることが明らかである。
(3)乙第1号証?乙第4号証を総合すると、入院レセプト作成システム「RaaS」は、被請求人が提供したソフトウェアであり、被請求人は、八女発心会に対して前述した第35類及び第42類のサービスを提供している。
そうすると、被請求人の行為は、提供を受ける者の利用に供する物(ソフトウェア)に「RaaS」の標章を付したものであり、標章の「使用」を規定する、商標法第2条第3項第3号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」に該当する。
また、被請求人は、「RaaS」の標章が付されたソフトウェアを用いて役務を提供しているのであるから、被請求人の行為は、商標法第2条第3項第4号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」にも該当するものである。
さらに、被請求人は、八女発心会に対して「RaaS」の標章が付されたソフトウェアを用いて役務を提供する行為を継続しているのであるから、商標法第2条第3項第6号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係るものに標章を付する行為」にも該当するものである。
3 平成26年5月29日付け上申書
(1)請求人は、その陳述要領書において、「しかしながら、乙3によっては、コンピュータプログラムのメンテナンスにあたり、役務の提供主体を表示するために本件商標『ラース/RaaS』が使用されていることは証明されない。乙3中には『ラース/RaaS』の記載は全くない。このため、被請求人がいかなる商標を使用してコンピュータプログラムのメンテナンスを行っているのか皆目分からない。」と主張している。
請求人は、乙第3号証に「ラース/RaaS」の記載がなされていない旨主張するが、乙第1号証、乙第2号証、乙第4号証によって「ラース/RaaS」に対してメンテナンスサービスを行っていることは、十分に証明されている。
乙第3号証は、「ラース/RaaS」を使用していることを補足する証拠であり、同号証に「ラース/RaaS」が記載されていないとしても、これをもって「被請求人がいかなる商標を使用してコンピュータプログラムのメンテナンスを行っているのか皆目分からない。」と主張するのは失当である。
(2)請求人は、その陳述要領書において、「『RaaS』は被請求人が提供したソフトウェアであると述べている。これは、本件商標は商品についての名称であり、役務の提供主体を表示していない旨を自認したに他ならない。」と主張している。
被請求人は、商標「RaaS」について商標法第2条第3項第3号等の「使用」をしており、「役務の提供主体を表示していない旨を自認した」のではない。
(3)請求人は、その陳述要領書において、「そもそも商標は、自己の商品・役務と他の商品・役務とを識別する標識であり、商品や役務の出所を示す標識である。」、「上記機能を発揮する行為類型が商標における『使用』である。」及び「ソフトウェア『RaaS』を対象としてメンテナンスを行っていることを主張するだけでは、本件商標の『使用』(役務の提供者・出所を示す)の証明にはならない。したがって、被請求人の行為が商標法第2条第3項第3号、同4号及び同6号に該当するという被請求人の主張は失当である。」と主張している。
乙第5号証は、請求人(医療情報技研)の職員:赤松忠亮主任の提出に係る証明書である。これには、ファイルチェック等の業務を行っていることが示されており、商標「RaaS」について、第35類「医療事務処理の代行」の役務を提供していることが明らかである。
また、陳述要領書でも述べたとおり、被請求人は、商標「RaaS」について商標法第2条第3項第3号、同4号及び同6号に規定する「使用」をしている。
(4)請求人は、その陳述要領書において、「被請求人は、同人の顧客である医療法人 八女発心会作成に係る上申書を提出している(乙4)。しかしながら、乙第4号証は、被請求人の顧客という、同人と密接な関係を有するものが作成したものであるので、内容の中立性に疑義を感じざるを得ない。したがって、乙第4号証は、証拠としての信用性は低いものである。」と主張している。
医療法人八女発心会は、被請求人とは別法人であり、この別法人である第三者の証言に勝る証拠はない。
(5)商標「RaaS」を要証期間内に使用している件について述べる。
乙第6号証は、DPC対応入院レセプト作成システム「RaaS」の保守・設定に際して医療情報技研と八女発心会との間で取り交わされたメールの出力資料である。
(6)以上のとおり、DPC対応入院レセプト作成システムについて、本件商標の「RaaS/ラース」を、要証期間内に、商標権者が第42類「コンピュータネットワークを介して行う電子計算機を用いた医療に関する情報処理,コンピュータによる情報処理,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」について使用していることが明らかである。

第4 当審の判断
1 被請求人提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)乙第1号証(ア)は、コンピュータの画面を印刷したものである。そして、これは、「姫野病院 DPC対応入院レセプト作成システム」のログイン画面であって、そこには、「RaaS」(「S」の右上に、○の中に「R」を有する記号がある。以下同じ。)と「ラース」の文字が二段に表示されている。
また、著作権表示として、「2009-2013 株式会社医療情報技術研究所」の表示がある。
(2)乙第2号証(ア)は、発行日を平成22年3月31日とする「医療情報技研」から「八女発心会姫野病院」あての「請求書」である。
これには、「件名」として、「RaaSシステム」、「合計金額」として「¥1,100,221」の記載がある。また、「商品番号・商品名」の欄には、「RaaSシステム(DPCレセプト請求システム)」の記載がある。
(3)乙第3号証(ア)は、平成25年7月25日付けの八女発心会(甲)と医療情報技研(乙)との間の「メンテナンス契約書」である。
これには、「両者は、甲が保有するハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク設備のメンテナンス契約を以下のとおり締結する。」と記載され、「1.期間」の項には、「平成25年8月1日より1年間とする。このメンテナンス契約の有効期間は1年間とし。期間満了の3ヶ月前までに甲または乙のいずれからも文書による契約更新拒絶の通知がなされない場合は、更に1年間同1条件で更新されるものとし、以後同様とする。」の記載、「2.内容」の項には、「(1)対象施設は、法人本部、姫野病院、介護老人保健施設舞風台、グループホーム舞風台、専門学校久留米リハビリテーション学院、姫野病院居宅介護支援センターとする。(2)乙が定める、通常営業日のSE常駐によるサポートを行う(1名、10時から17時、姫野病院敷地内とする)。」の記載がある。
その他、乙第3号証(イ)ないし(エ)も、それぞれ、平成24年7月20日、平成23年3月24日、平成20年4月1日付けの八女発心会(甲)と医療情報技研(乙)との間の「メンテナンス契約書」であり、「1.期間」及び「2.内容」の項には、ほぼ同様の内容が記載されている。
(4)乙第4号証は、平成26年4月7日付けの姫野病院事務部長(野上秀樹氏)による「上申書」である。
これには、「3.上申の趣旨」として、「医療法人八女発心会が現在使用している入院レセプト作成システム『RaaS』は、株式会社医療情報技術研究所よりソフトウェアの設定・保守のサービスの提供を受けている事実に相違ないことを示します。」の記載、「4.上申の内容」として、「2年おきに診療報酬制度は改訂されますが、本システムの改訂対応作業は、株式会社医療情報技術研究所のスタッフに依頼しております。このように、本システムは、医療法人八女発心会が株式会社医療情報技術研究所に対価を支払って導入したものであり、2009年の導入時に株式会社医療情報技術研究所よりインストール等の設定サービスを受け、導入時から2014年現在にかけて株式会社医療情報技術研究所よりソフトウェア『RaaS』の保守サービスを継統的に受けていることに相違ありません。」の記載がある。
(5)乙第6号証の1?7は、「RaaSのメンテナンスに際して取り交わされたメールの出力資料」とされるものである。
これらは、2011年2月23日から2012年9月19日の間に、八女発心会の三島寛之氏又は丸林由美氏と医療情報技研の佐藤職員又は赤松職員との間で取り交わされたメールである。
そして、乙第6号証の3のメールは、2011年11月21日に医療情報技研の赤松氏が姫野病院の三島寛之氏に宛てた件名を「Re:症状詳記の件」とするものであり、「今現在は、バグを修正し、なおかつ機能の見直しを行いました。見直したポイントは、RaaS画面や一括作成画面でレセプトファイルを作るタイミングで最新のコメントを自動的に取ってくる様に変更致しました。コメントは今までと同じく月末の最終日に入れて頂いたコメント類を使用しています。ですので、今後は弊社への症状詳記の入力完了のご連絡は不要となります。」の記載がある。
2 上記1によれば、以下のとおり判断できる。
(1)ログイン画面に表示される使用商標について
乙第1号証(ア)の「ログイン画面」及び乙第2号証の「請求書」等からすると、平成22年3月31日頃に、「商品番号・商品名」を「RaaSシステム(DPCレセプト請求システム)」とするソフトウェアが医療情報技研から「八女発心会姫野病院」に提供され、姫野病院では、当該ソフトウェアによるシステム(以下「RaaSシステム」という。)が利用されている。
そして、その「RaaSシステム」のログイン画面には、「RaaS」と「ラース」の文字を二段に表示した使用商標(以下「RaaS商標」という。)及び著作権表示並びに「株式会社医療情報技術研究所」の文字が表示されている。
このように、コンピュータで特定のシステムを起動させる際に、画面上に表示される商標は、当該システムのソフトウェアに付与された商標ということができるものであって、また、姫野病院に提供されたソフトウェアは、当該病院独自のものとして作成されたソフトウェアであるから、汎用性のある商品というよりは、「電子計算機プログラムの設計・作成」において提供されたソフトウェアということができる。
そうすると、医療情報技研は、「電子計算機プログラムの設計・作成」の役務において、電子計算機プログラム(ソフトウェア)に「RaaS商標」を表示させることによって、商標の使用をしたものということができるから、これは、役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為と認められるものである。
(2)本件商標と使用商標について
本件商標は、「ラース」の片仮名と「RaaS」の欧文字とを上下二段に書してなるところ、乙第1号証(ア)に表示された「RaaS商標」は、「RaaS」と「ラース」の文字を二段に表示したものであって、両者は、片仮名と欧文字を共通にし、その上下が入れ替わったにすぎないものであるから、外観における構成が相違しても、称呼及び観念において同一というべきものであり、社会通念上同一の商標と認められるものである。
(3)「RaaSシステム」の保守と指定役務について
乙第3号証(ア)?(エ)の「メンテナンス契約書」によれば、平成20年4月1日から現在まで、医療情報技研(乙)は、八女発心会(甲)の保有するハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク設備について、メンテナンス業務を行っていることを認めることができる。
そして、そのメンテナンス業務の中には、姫野病院に提供された「RaaSシステム」の保守が含まれているものであって、これについては、姫野病院野上秀樹氏の「2年おきに診療報酬制度は改訂されますが、本システムの改訂対応作業は、株式会社医療情報技術研究所のスタッフに依頼しております。」等の上申(乙4)の内容からも首肯できるものである。
また、乙第6号証の3のメールによれば、2011年11月21日頃に医療情報技研の赤松氏によって、バグの修正及び機能の見直しを行うなどの「RaaSシステム」の保守が行われていることが認められるものである。
そして、乙第1号証のログイン画面の著作権表示は、「2009-2013 株式会社医療情報技術研究所」であり、2009年から2013年までの電子計算機プログラム(ソフトウェア)についての保守がなされてきたことが推認されるものである。
そうとすれば、平成22年3月31日頃に、「RaaSシステム(DPCレセプト請求システム)」として、「八女発心会姫野病院」に提供された「RaaSシステム」に係るソフトウェアは、医療情報技研により設計・作成されたものであり、その後の同ソフトウェアに関する保守も同社によって、その提供から現在に至るまで、継続して行われていたことが十分に推認できるものであるから、「ログイン画面」における「RaaS商標」は、「電子計算機プログラムの設計・作成」の役務に継続する「電子計算機プログラムの保守」においても、役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為と認められるものであって、電子計算機プログラムの設計、作成及び保守という一連の役務の出所識別標識としての機能を有しているものとみて差し支えないものというのが相当である。
(4)小活
そうとすれば、医療情報技研は、「電子計算機プログラムの設計・作成」に継続する「電子計算機プログラムの保守」の役務において、電子計算機プログラム(ソフトウェア)システムを起動し、そのログイン画面に「RaaS商標」を表示させることによって、商標の使用をしているものということができるから、これは、商標法第2条第3項第3号の「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」と認められるものである。
してみれば、商標権者である医療情報技研は、要証期間内において本件商標を「電子計算機プログラムの保守」の役務について、使用していたものというべきである。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標権者によって、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、その請求に係る指定役務中「電子計算機プログラムの設計・作成及び保守」に含まれる「電子計算機プログラムの保守」について、使用されていたものというべきであるから、商標法第50条第1項の規定に基づき、その登録を取り消すべき限りではない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2014-06-17 
結審通知日 2014-06-19 
審決日 2014-07-01 
出願番号 商願2009-6841(T2009-6841) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (X354244)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 幸一 
特許庁審判長 今田 三男
特許庁審判官 田中 亨子
井出 英一郎
登録日 2009-09-18 
登録番号 商標登録第5266941号(T5266941) 
商標の称呼 ラース 
代理人 砂金 伸一 

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