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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない X0329
管理番号 1284283 
審判番号 取消2012-300976 
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2012-12-18 
確定日 2014-01-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第5117714号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5117714号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成19年9月7日に登録出願、第1類「化学品」、第3類「化粧品」及び第29類「酵素を配合した錠剤状・カプセル状・顆粒状・粉末状の加工食品」を指定商品として、同20年3月7日に設定登録された。その後、本件商標の権利者は、平成25年4月8日の登録名義人の表示の変更により、「株式会社カルゥ」から、「株式会社KBC」に変更されたものである。
そして、本件審判の請求の登録(予告登録)は、平成25年1月23日にされているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の指定商品中、第3類及び第29類の『全指定商品』についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁並びに口頭審理における陳述において要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第10号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、第3類及び第29類の商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。

2 答弁に対する弁駁及び口頭審理における陳述(口頭審理陳述要領書)
(1)乙第10号証について
ア 乙第10号証は、「業として」の使用を立証するものではない。
(ア)乙第10号証は、納品書にて大阪市西区に住所を有する企業又は団体へ、ダナテンテンEGファクターセラムトリートメントを1個(乙1?乙3)、ダナテンテンマイルドセラムジェルを1個(乙4?乙6)、ダナテンテンOIIキャリアマスクを2個(乙7、乙8)、それぞれ納品し、受領書にて同市同区に住所を有する会社からダナテンテンマイルドセラムパウダーを12個受領したことを示す。
(イ)「業として」とは、「一定の目的の下に継続・反復して行う行為として」(網野誠著「商標[第5版]」)の意味である。しかるに、乙第10号証は、使用に係る商品の取引が3年の間に僅か1回、しかも数個程度の極めて少数の商品数を同一の取引者との間で行ったことを示すだけであるので、本件商標をその指定商品について使用したとはいえない。
そして、上記主張と同旨と思われる指定商品についての商標の使用が否定されている審決例がある(甲1、甲2)。
イ 乙第10号証は、証拠の信憑性に疑義がある。
「受領書」は商品の販売を証明するものではない。被請求人は通常使用権者である日本インセクトバイオテック株式会社(以下「日本IBT」という。)によって製造された製品を販売しているとのことであるが、この受領書は、商標権者が当該製品を受領したことを示すだけであり、「・・・株式会社」は、日本IBT(通常使用権者)ではないので、商標権者又は通常使用権者が当該製品を譲渡等(商標法第2条第3項第2号)したことを証明するものではないことは明らかである。
さらに、乙第10号証の証憑は、いずれも被請求人により発行されたものであり、しかも、いずれにも単価及び金額の記載がないことなどから、証拠の信用性に疑義がある。
(2)蜘蛛酵素「アラザイム」について
ア 韓国生命工学研究室(コレア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー)は、韓国産女郎蜘蛛の腸からタンパク質分解能力のあるアラニコラ プロテオリチクスの菌株を単離及び同定し、タンパク質分解効能が著しく増加する精製工程を開発した(甲3)。この酵素は蜘蛛酵素「アライザム」と呼ばれ、米国化粧品工業協会(PCPC、旧「CTFA」)にも公式登録されている(甲4)。甲第3号証に示す特許の発明者によって設立されたインセクト バイオテック カンパニー リミティッド(以下「IBT」という。)は、「アラザイム」の商品開発を進め関連特許を取得するとともに(甲5)、韓国生命工学研究室から「アラザイム」の販売委託を受け、日本への供給を検討した。
イ 被請求人は、「アラザイム」に興味を持ち、「アラザイム」化粧品商品を販売するために、2005年5月23日、IBTとの間で技術援助及び開発と「アラザイム」の購入に関して覚書を結んだ(甲6)。被請求人が、本件商標を登録出願したのは、その後、平成19(2007)年9月7日である。
被請求人は、「アラザイム」の供給韓国会社の社名の略称である「インセクト バイオテック」に「日本」を付した日本IBTを設立し、IBTから購入した「アラザイム」を原料とする製品(乙1?乙8。以下「アラザイム製品」という。)を製造し、販売していた。
しかしながら、被請求人とIBTとの関係は悪化し、2010年1月以降のアラザイム製品の販売許可はIBTから出ておらず、日本への「アラザイム」の最終出荷は2007年6月である(甲7)。「アラザイム」の消費期限は2年であるため、2009年6月以降のアラザイム製品は品質保証規格外である。
ウ 規格外製品の販売
上記のように、被請求人は、本件商標の指定商品についての使用を証明していないが、仮に本件商標を付した商品を販売したとしても、平成22(2010)年2月以降のアラザイム製品は、品質保証期間を過ぎた「アラザイム」を含むものであって、IBTとの契約に反する行為であり、公正な商取引に反する行為である。
エ 特許侵害のおそれがある製品の製造販売
被請求人の製造販売するアラザイム製品は、「アラザイム」プロテアーゼに関する物質特許第4425515号(甲3)を侵害するおそれが高いものである。例えば、製品説明には、「世界が認める『特許出願酵素アラザイム』」とあり、「・・・国際特許申請済みで、韓国国際新技術認定を最初に受けました(認定番号:KT1216号)。・・・」と記載し、開発者として、当該特許の発明者の名前を記載している(甲8)。
オ 上記のように、被請求人が使用証拠として提出する製品は、「アラザイム」の品質保証期間が切れた規格外品であって、しかも特許侵害のおそれの高いものである。また、譲渡を証明するために提出した書面(乙10)は、前記製品が「業として」の譲渡されたことを証明するものではない。
(3)口頭審理における陳述(口頭審理陳述要領書)についての反論
ア 薬事法との関係
薬事法における化粧品の表示については、薬事法第61条第5号によれば「(1)酵素を含有する化粧品」及び「(2)(1)のほか、製造又は輸人後適切な保存条件のもとで3年以内に性状及び品質が変化するおそれのある化粧品」については、使用の期限を記載しなければならず(甲9)、酵素を含有するダナテンテンマイルドセラムパウダー[パウダー洗顔料](以下「本件商品」という。)の消費期限は製造後2年であり(甲7、甲10)、3年を超えて性状及び品質が安定な化粧品であるとはいえないので使用の期限を記載しなければならないのである。そうであるのに使用の期限が記載されていない本件商品は薬事法違反のおそれが高いものである。
イ 乙第12号証ないし乙第21号証について
乙第12号証では、受領書の宛先は東信科学株式会社(以下「東信科学」という。)であり、受領印欄にAの署名がある。乙第13号証によると、2011年2月28日にこの商品について東京三菱UFJ銀行の口座に入金があったことが記載されているが、商標権者の預金通帳(乙14)からは、その振込者は、東信科学ではなく、Bである。このように受領者と振込者が相違する乙第12号証ないし乙第15号証に基づいて本件商品を東信科学に販売したことが確認できるという被請求人の主張は失当である。
また、乙第13号証には、2011年10月14日付けで12本の本件商標が販売されているので、継続的に販売されていた事実が確認できるとの主張であるが、この取引の受領書及び入金の事実を示す書面が提示されていないのでこの取引があったのか否かは不明である。乙第13号証によると、みずほ銀行の口座に入金があったことが記載されているが、このことを示す書面が提示されていない。さらに、この取引では振込手数料は購入者負担という一般的な商取引とは異なる条件であることから、乙第13号証の書類だけから2011年10月14日付けの取引があったことは確認できない。したがって、乙第12号証ないし乙第15号証に基づいて、継続的な販売の事実が確認できたとはいえないことは明らかである。
(4)被請求人の反論について
被請求人は、請求人の提出に係る弁駁書について、本件取消審判とは無関係かつ無意味なものと陳述するが、以下のとおり妥当でない。
本件商品は特許権侵害のおそれがあるのみならず、品質保証期限を過ぎたものである。韓国のIBTの輸出リストによると、IBTから日本IBTへの「ダナテンテンマイルド」バルクパウダーの輸出は、平成18(2006)年2月17日が最後であり、その日以降は本件商品の原料となる当該バルクパウダーは輸出されていない。したがって、遅くとも乙第10号証に記載された本件商品の売上日(2010年12月17日)には韓国での当該バルクパウダー製造後2年を超えているので、品質保証期限が過ぎているものである(甲10)。
このように本件商品は、(a)特許権侵害のおそれがある、(b)品質保証期限を過ぎたものである、さらに(c)原産国表示が適切でない(化粧品の表示に関する公正競争規約第4条(8))などを有する。このような本件商品は、決して需要者や取引者に業として譲渡するに足るものではなく、単にサンプルとして1回あるいは数回限られた者に譲渡し得るにすぎないものである。

3 まとめ
以上のとおり、被請求人(商標権者)が本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)に日本国内において、取消請求に係る指定商品中「化粧品、せっけん類」について、商標権者及び通常使用権者(日本IBT)により、本件商標を使用していることを立証するために提出した証拠は、本件商標が、要証期間内に商標権者又は通常使用権者により、商品「洗顔料、美容液、パック用化粧料」について使用されたことを証明するものではない。
よって、本件商標は、要証期間内に日本国内において、その指定商品について使用されていないので、請求の趣旨のとおりの審決を求める。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁書及び口頭審理における陳述において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第21号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
本件商標の商標権者は、その商号を「株式会社カルゥ」から「株式会社KBC」へと変更し、その居所を大阪府大阪市西区北堀江1丁目1番23号から香川県小豆郡土庄町3607へと移転している。
本件商標は、通常使用権者である日本IBTによって、(1)ダナテンテンEGファクターセラムトリートメント[美容液](乙1?乙3)、(2)ダナテンテンマイルドセラムジェル[洗い流す美容液](乙4?乙6)、(3)ダナテンテンOIIキャリアマスク[パック](乙7、乙8)の製品の包装箱や包装容器(包装パック)に使用されている。
具体的には以下のとおりである。
(1)ダナテンテンEGファクターセラムトリートメント[美容液]は、化粧品の一種である美容液であり、その包装箱の背面側(乙1、乙3)、包装容器の背面側(乙2)に本件商標が使用されている。
(2)ダナテンテンマイルドセラムジェル[洗い流す美容液]は、化粧品の一種である美容液であり、その包装箱の背面側(乙5、乙7)、包装容器の背面側(乙6)に本件商標が使用されている。
(3)ダナテンテンOIIキャリアマスク[パック]は、化粧品の一種であるパック用化粧料であり、その包装パックの裏面側(乙7、乙8)に本件商標が使用されている。
また、日本IBTが本件商標の通常使用権者であることは、使用契約書(乙9)から明らかである。さらに、これらの(1)?(3)の化粧品は、通常使用権者である日本IBTによって製造されたものが、商標権者である「株式会社カルゥ」(現社名:株式会社KBC)によって販売されている。
例えば、乙第10号証に示すように、(1)ダナテンテンEGファクターセラムトリートメント、(2)ダナテンテンマイルドセラムジェル、(3)ダナテンテンOIIキャリアマスクは、2010年(平成22年)7月27日に株式会社カルゥ(現社名:株式会社KBC)によって販売されていることが明らかである。

2 口頭審理における陳述(平成25年9月20日付け口頭審理陳述要領書及び同年10月17日差出しの口頭審理陳述要領書(その2))
(1)審理事項通知書における乙各号証に関する暫定的な見解に対する反論
商品「美容液、パック用化粧料」の包装箱や包装容器(乙1?乙8)には、製造年月日、消費期間等の記載がないとのことであるが、薬事法第61条柱書において「化粧品は、その直接の容器又は直接の被包に、次に掲げる事項が記載されていなければならない。ただし、厚生労働省令で別段の定めをしたときは、この限りでない。」と規定され、同条第5号において「五 厚生労働大臣の指定する化粧品にあつては、その使用の期限」とされているが、この「厚生労働大臣が指定する化粧品とは『製造又は輸人後適切な保存条件のもとで3年以内に性状及び品質が変化するおそれのある化粧品』」とされている(乙11に示す「薬事法第50条第12号等の規定に基づき使用の期限を記載しなければならない医薬品(昭和55年9月26日)(厚生省告示第166号)」参照)。
すなわち、化粧品は、製造等後3年を過ぎても使用できるものであれば、製造年月日や消費期限を記載する必要がないので、記載していないにすぎない。
(2)追加の証拠(乙11?乙21)について
ア パウダー洗顔料である「ダナテンテンマイルドセラムパウダー」の包装箱の正面側及び背面側の写真(写し)、包装容器の正面側及び背面側の写真(写し)及び包装箱の背面側のコピー(乙16?乙18)からは、「ダナテンテンマイルドセラムパウダー」に本件商標が使用されていることが明確に判明する。
イ 乙第10号証に示す2010(平成22)年12月17日付けの受領書(伝票番号00002198)で1箱12本の「ダナテンテンマイルドセラムパウダー」(乙16?乙18)が受領されていることが示されている。この受領書には手書きのAのサインがある。なお、乙第10号証では、購入者である「大阪府大阪市西区江戸堀・・・ 東信科学株式会社」がマスキングされているが、このマスキングを外したものを乙第12号証として提出する。
ウ 乙第13号証は、株式会社カルゥの東信科学に対する販売台帳であり、東信科学に対して2010年12月17日に12本の「ダナテンテンマイルドセラムパウダー」を19,200円にて販売した事実が示されている。この売り上げの伝票番号は「00002198」であり、乙第12号証に示す受領書と同一の伝票番号である。
すなわち、乙第12号証及び乙第13号証からは、2010年12月17日付けで東信科学に対して、「ダナテンテンマイルドセラムパウダー」を販売した事実が確認できる。
エ 乙第14号証は、株式会社カルゥの預金通帳であり、平成23年2月28日付けでBから25,200円の振込があったことが示されている。このBは、東信科学の代表者であるAの妻である。
オ 乙第15号証は、東信科学のウェブサイト内の会社案内のコピーであり、これからは東信科学の所在地が大阪市西区江戸堀であり、代表者がAであることが確認できる。
カ 乙第13号証には、乙第12号証で示された2010年12月17日付けの19,200円(消費税960円別)の掛売上に対応する2011年2月28日付けの25,200円の入金があった旨が示されている。この2011年2月28日付けの25,200円の入金は、株式会社カルゥの預金通帳である乙第14号証でも確認できる。
なお、消費税込みで20,160円の請求に対し、誤って5,040円過大な25,200円の入金があったので、2011年3月3日付けで差額の5,040円を現金にて返金している旨も乙第13号証から判明する。
これらのことから、2010年12月には化粧品であるパウダー洗顔料「ダナテンテンマイルドセラムパウダー」が商標権者である株式会社カルゥによって実際に販売されていた事実を確認することができる。
キ 乙第13号証には、2011年10日14日付けで12本の「ダナテンテンマイルドセラムパウダー」を19,200円(消費税960円別)で販売し、2012年2月9日付けでその代金19,845円(振込手数料315円別)の入金があったことが示されている。
このように、パウダー洗顔料である「ダナテンテンマイルドセラムパウダー」は、継続的に商標権者である株式会社カルゥによって販売されていた事実が確認できる。
ク 乙第19号証は、株式会社KBC(旧株式会社カルゥ)の平成23年2月?3月の入金を示す三菱東京UFJ銀行の通帳のコピーであって、乙第14号証に示す第7頁と裏表紙とがわかるようにコピーしたものである。
この乙第19号証によると、Bから平成23(2011)年2月28日に株式会社カルゥ宛に25,200円の入金があったことが明確に判明する。
ケ 乙第20号証(枝番号を含む。)は、株式会社KBC(旧株式会社カルゥ)の履歴事項全部証明書のコピーである。
この乙第20号証-1からは、株式会社カルゥが平成24年11月27日に社名を株式会社KBCに変更し、その旨が同年12月4日に登記されたことが判明する。また、株式会社カルゥが同21年12月1日に大阪市西区北堀江一丁目1番23号から大阪市西区北堀江一丁目2番19号へと移転し、その旨が同22年1月29日に登記されたことが判明する。
乙第12号証では、平成22(2010)年12月7日付けの株式会社カルゥの所在地が大阪市西区北堀江一丁目2番19号となっており、本件商標の登録名義人の登録原簿上の当時の所在地である大阪市西区北堀江一丁目1番23号と相違するが、これは本件商標の登録名義人の住所変更手続を行っていなかったことに起因するものであり、株式会社KBCが旧株式会社カルゥからの一体性をもっていることが立証される。
コ 乙第21号証は、東信科学の代表取締役であるAの陳述書である。
この乙第21号証によると、Aの妻であるBが、平成22(2010)年12月17日にパウダー洗顔料である「ダナテンテンマイルドセラムパウダー」を購入し、その代金を同23(2011)年2月28日付けで株式会社カルゥの口座に振り込むことによって支払ったことが確認できる。
なお、東信科学と株式会社KBC(旧株式会社カルゥ)とは取引関係があると同時に代表者同士が友人関係にあったため、東信科学の代表取締役の妻が個人的に使用する化粧品の購入を夫であるAを通じて行うことは特におかしなことではない。
また、その化粧品は個人的に使用するものであるから、東信科学が支払うべきものではなく、個人としてのBが支払うべきものであり、商品の受領者とその代金を支払う者とが異なっていることはなんら不思議なことではない。
したがって、この乙第21号証は、本件商標が使用された商品が実際に販売されていた事実が明確に立証されている。
(3)弁駁書に対する反論
請求人は、本件商標を請求に係る指定商品に使用していない旨を述べているが、上述したように、本件商標が請求に係る指定商品の一種である「パウダー洗顔料」に使用されていることは一目瞭然である。
また、請求人は、弁駁書において「蜘蛛酵素アラザイム」は、韓国生命工学研究室の開発品であり、IBTが関連特許を取得し、同社が韓国生命工学研究室から販売委託を受けた日本への供給を行っている旨、IBTと被請求人との関係が悪化した後、蜘蛛酵素アラザイムの供給を受けていない旨、その他、薬事法違反のおそれがある、特許権侵害のおそれがある、品質保証期限を過ぎたものである等を縷々述べている。
しかしながら、本件取消審判が本件商標の指定商品のうち審判請求に係る指定商品についての使用、不使用を争うものであるである以上、請求人の述べることは本件取消審判にはまったく無関係かつ無意味なものであるが、以下簡単に反論する。
請求人が提出した甲第10号証及びその翻訳文では「スキンケア化粧品製品の保証期限は製造後2年です。」とあるが、これは製造者(IBT)が自主的に定めた保証期限が2年であり、それ以降は製造者は責任を持たないということを予防的な意味で述べているに過ぎず、薬事法の観点から製造後2年を経過した化粧品は流通させてはならないことを意味しているものではないことは明白である。
したがって、製造後2年を経過したものであっても、販売者である株式会社KBC(旧株式会社カルゥ)は、製造販売元との協議の上、販売を継続したものであるから、「極めて少数の商品数について、限られた者への譲渡であり、反復継続性に欠ける。あるいは、単にサンプルとして譲渡したことを示すに過ぎないものである。」という請求人の主張は失当である。

3 まとめ
上述したように、本件商標は、指定商品である化粧品に本件審判の請求の登録の日から過去3年以内に使用されていることは明白である。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)乙第16号証ないし乙第18号証は、商品「パウダー洗顔料」(以下「使用商品」という。)の包装箱及び包装容器の写真(写し)並びにコピーであるところ、乙第18号証の包装箱(背面側)には、「ダナ テンテン/マイルドセラムパウダー/[パウダー洗顔料]」及び「『アラザイム』(たんぱく質分解酵素)の働きで、お肌の負担になる古い角質(老化角質)や汚れ・余分な皮脂だけを選別して、やさしく洗い流す洗顔パウダーです。」の各記載があり、その下部に別掲のとおりの構成よりなる蜘蛛の巣を図案化したと思しき図形とややデザイン化された「Arazyme」の文字が一部重なるように表された商標(以下「使用商標」という。)が表示され、最下部に「製造・販売元/日本インセクトバイオテック株式会社」の記載がある。また、乙第16号証及び乙第17号証の包装箱及び包装容器の背面側にも使用商標と色彩を異にする同一の構成からなる商標が表示されている。
(2)乙第9号証は、平成20年7月1日付けの株式会社カルゥ(商標権者の旧名称)と日本IBTとの間で取り交わされた「商標使用権許諾契約書」と認められるところ、その第1条(商標使用権の許諾)に、「甲(株式会社カルゥ)は、下記3件の登録商標の通常使用権を下記の通り乙(日本IBT)に許諾する。乙は、本件商標を付した本件製品を製造し、第三者に販売することができる。」旨の記載及び許諾された登録商標の1件として「商標登録第5117714号(本件商標)/商品の区分:第1類、第3類、第29類/指定商品:化学品、化粧品、酵素を配合した錠剤状・カプセル状・顆粒状・粉末状の加工食品/使用許諾される地域:日本国内/使用期間:本契約締結日から本件商標の商標権存続期間終了時迄」の記載がある。また、第3条(商標の使用方法)に「本件商標を付した本件製品の製造・販売にあたって、乙は、甲が適宜与える指示に従わなければならない。」及び第5条(使用状況の報告義務)に「乙は、毎歴月1日までに、前歴月の本件商品の生産数量、販売数量、純販売価額等、本件商標の実施状況を明記した報告書を甲に提出するものとする。」との記載がある。
(3)乙第12号証は、株式会社カルゥ作成の東信科学の「受領書」であるところ、売上日の欄に「2010年12月17日」、「伝票No.00002198」、「本社 大阪市西区北堀江1-2-19」の記載、上部左側に「550-0002/大阪府大阪市西区江戸堀・・・/東信科学株式会社 様」の記載 、中央部分枠内の商品名の欄に「PIB001/ダナテンテン マイルドセラムパウダー」及び同数量の欄に「入数 1/12本」の記載がされ、同受領印の欄にAの手書きのサインが、最下部に「受注No.00008372」の各記載がある。
(4)乙第13号証は、株式会社カルゥにおける東信科学の「得意先元帳(写し)」であるところ、伝票日付と伝票番号の欄の一段目に「2010/12/17」、「00002198」、その右横の取引区分と伝票状態の欄に「掛売上/請求済」、商品コードの欄に「PIB001/ダナテンテン マイルドセラムパウダー」、「本社出し」、「受注No.00008372」の記載、数量及び売上額として「12」、「19,200」及び「残高/備考」の欄に「特別価格」、「20,160」の記載がある。また、二段目の伝票日付と伝票番号の欄に「2011/2/28」、「00000715」、同取引区分と伝票状態の欄に「請求済」、商品コードの欄に「振込 三菱東京UFJ」、入金額の欄に「25,200」の記載がある。さらに、三段目の伝票日付と伝票番号の欄に「2011/3/3」、「00000006」、同取引区分と伝票状態の欄に「請求済」、商品コードの欄に「現金」、入金額及び備考の欄に「-5,040」及び「返金」の記載がある。
(5)乙第15号証は、東信科学のウェブサイトにおける「会社案内」であるところ、代表取締役としてAが紹介されている。
(6)乙第19号証は、株式会社カルゥの「株式会社三菱東京UFJ銀行」の「普通預金通帳(コピー)」であるところ、「23.2.28」にBから「25,200」が振り込まれた旨が表示されている。
(7)乙第20号証(1?4)は、株式会社KBC(大阪市西区北堀江1-2-19)の「履歴事項全部証明書」であるところ、平成24年11月27日に商号が「株式会社カルゥ」から「株式会社KBC」変更され、同年12月4日にその登記がされている。また、乙第20号証(5、6)は、株式会社KBC(香川県小豆郡土庄町3607)の「履歴事項全部証明書」であるところ、平成25年3月3日に「大阪市西区北堀江1-2-19」から本店が移転し、同月7日にその登記がされている。
(8)乙第21号証は、平成25年10月15日付けの東信科学の代表取締役Aの「陳述書」であるところ、「Aは、2010年12月17日付け受領書(伝票No.00002198)の受領印欄にサインをした者であり、妻Bの依頼により2010年12月17日に12本の『ダナテンテンマイルドセラムパウダー』なるパウダー洗顔料を購入し、Bが平成23(2011)年2月28日付けで25,200円を株式会社カルゥの口座に振り込んだ。」旨及び「振込金額を誤り、差額の5,040円は現金で2011年3月3日付けで返金された。」旨の陳述がされている。

2 以上の事実を総合すれば、以下のとおり判断することができる。
(1)商標の使用者、使用商品、使用商標及び使用時期について
乙第9号証の本件商標を付した製品の製造・販売に関する商標使用権許諾契約書及び乙第16号証ないし乙第18号証の包装容器(箱)に表示された「製造・販売元」の記載からすれば、本件商標についての通常使用権者と認められる日本IBTは、取消請求に係る指定商品「化粧品」の範疇に属する使用商品(パウダー洗顔料)を製造・販売していたと推認され、当該使用商品に表示されている使用商標は本件商標と同一の商標と認められるものである。
そして、乙第12号証及び乙第13号証によれば、商標権者(株式会社カルゥ)は、要証期間内である2010(平成22)年12月17日に、東信科学に対して、使用商品12本を販売したことが認められ、また、その代金が平成23(2011)年2月28日に東信科学の代表者の妻であるBにより振り込まれたことが乙第19号証により確認できる。
なお、乙第12号証の受領書に記載された株式会社カルゥ(商標権者)の住所は、商標登録原簿上の商標権者の住所と相違するものであるが、乙第20号証によれば、商標権者の旧住所であることが確認できる。
また、東信科学に販売した商品の代金が、その代表者の妻であるBにより振り込まれたこと及び売上額と入金額(振込金)が相違することについては、乙第21号証の東信科学の代表取締役Aの陳述書において、「妻Bの依頼により使用商品を購入し、実際の購入者である妻Bが代金の振込をした。その際に、金額を誤って振り込んだが、差額は現金で返金された。」旨の陳述がされているところ、その具体的内容の当否については乙第13号証の得意先元帳(写し)及び乙第19号証の普通預金通帳(写し)の記載内容と一致し、また、購入に係る商品「洗顔パウダー」が一般的に女性が使用する商品であることからしても、上記陳述書は十分に是認し得るものである。
(2)小括
以上のとおり、商標権者は、要証期間内である、2010(平成22)年12月17日に、本件商標と同一と認められる商標が付された商品「パウダー洗顔料」を、東信科学に譲渡したと認められるものであり、商標権者による上記使用は、商標法第2条第3項第2号の「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡する行為」に該当するものである。

3 請求人の主張について
請求人は、「本件商品は、薬事法違反のおそれが高い、特許権侵害のおそれがある、品質保証期限を過ぎたものである、原産国表示が適切でない(化粧品の表示に関する公正競争規約第4条(8))、需要者や取引者に業として譲渡するに足るものではなく、単にサンプルとして1回あるいは数回限られた者に譲渡し得るにすぎない。」旨、主張している。
しかしながら、本件審判は、商標法第50条による登録商標の取消しを求める審判であるところ、要証期間内に、商標権者等により本件商標が使用されたか否かの判断は、薬事法違反のおそれ、特許権侵害のおそれあるいは品質保証期限の経過等とは直接的には関係のないものであり、かつ、上記のとおり商標権者は使用商品を譲渡したと認められるものであるから、請求人の主張はいずれも採用の限りでない。

4 むすび
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、取消請求に係る指定商品「化粧品」の範ちゅうに属する「パウダー洗顔料」について、本件商標と同一と認められる商標を、商標権者が使用していたことを証明したものといわざるを得ない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その登録を取り消すべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲



審決日 2013-12-03 
出願番号 商願2007-95760(T2007-95760) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (X0329)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 村上 照美
特許庁審判官 大森 健司
野口 美代子
登録日 2008-03-07 
登録番号 商標登録第5117714号(T5117714) 
商標の称呼 アラザイム、アラ、エイアアルエイ、アラチーム 
代理人 大西 正夫 
代理人 新池 義明 

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