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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成24行ケ10360審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
無効2012890087 | 審決 | 商標 |
無効2012890071 | 審決 | 商標 |
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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X43 審判 全部無効 商3条1項4号 ありふれた氏、名称 無効としない X43 審判 全部無効 外観類似 無効としない X43 審判 全部無効 称呼類似 無効としない X43 審判 全部無効 観念類似 無効としない X43 |
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管理番号 | 1282362 |
審判番号 | 無効2008-890111 |
総通号数 | 169 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2014-01-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-11-10 |
確定日 | 2013-12-10 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5146634号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人らの負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5146634号商標(以下「本件商標」という。)は、「いなば和幸」の文字を横書きしてなり、平成19年9月19日に登録出願、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、同20年6月27日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人らが本件商標の登録無効の理由に引用した登録商標は、以下の(1)ないし(7)のとおりであり、7件の登録商標はいずれも「特例商標」及び「重複商標」として設定登録され、現に有効に存続しているものである(甲第4号証の1ないし7)。 (1)登録第3234249号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲1に示すとおり、「とんかつ和幸」の文字を毛筆風の書体で横書きしてなり、平成4年9月14日に登録出願され、第42類「とんかつ料理の提供」を指定役務として、同8年12月25日に設定登録されたものである。 (2)登録第3237537号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2に示すとおりの構成よりなり、平成4年8月25日に登録出願され、第42類「とんかつ料理を主とする飲食物の提供」を指定役務として、同8年12月25日に設定登録されたものである。 (3)登録第3237538号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲3に示すとおりの構成よりなり、平成4年8月25日に登録出願され、第42類「とんかつ料理を主とする飲食物の提供」を指定役務として、同8年12月25日に設定登録されたものである。 (4)登録第3260752号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲4に示すとおり、「和甲」の文字を毛筆風の書体で縦書きしてなり、平成4年9月30日に登録出願され、第42類「日本料理を主とする飲食物の提供,茶・コーヒー・ココア・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」を指定役務として、同9年2月24日に設定登録されたものである。 (5)登録第3275877号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲5に示すとおり、「WAKO」の欧文字を横書きしてなり、平成4年9月30日に登録出願され、第42類「多目的ホールの提供,フランス料理の提供,茶・コーヒー・ココア・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」を指定役務として、同9年4月11日に設定登録されたものである。 (6)登録第3299054号商標(以下「引用商標6」という。)は、別掲6に示すとおり、「和光」の漢字を毛筆風の書体で横書きしてなり、平成4年9月30日に登録出願され、第42類「多目的ホールの提供,宝飾品のデザインの考案,フランス料理の提供,茶・コーヒー・ココア・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」を指定役務として、同9年5月2日に設定登録されたものである。 (7)登録第3299055号商標(以下「引用商標7」という。)は、別掲7に示すとおりの構成よりなり、平成4年9月30日登録出願、第42類「フランス料理の提供,茶・コーヒー・ココア・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」を指定役務として、同9年5月2日に設定登録されたものである。 (以下、一括していうときは「引用商標」という。) 第2 請求人の主張 請求人らは、本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁並びに上申、意見を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第56号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 請求の理由 本件商標は、商標法第3条第1項第4号、同法第4条第1項第11号及び同第15号に該当し、同法第46条第1項第1号によりその登録を無効にすべきものである。 (1)商標法第3条第1項第4号について 本件商標に係る商標「いなば和幸」は、前半の「いなば」がありふれた氏である「稲葉」に通じ、商標法第3条第1項第4号に該当する。 (2)商標法第4条第1項第11号について 本件商標は、前半の「いなば」はありふれた氏「稲葉」に通じるものであり、後半の「和幸」は識別性を有する部分で要部でるから「ワコウ」の称呼を生ずるものである。 したがって、本件商標は、「ワコウ」の称呼を生ずる引用商標と称呼において類似し、指定役務も抵触するものあるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第15号について 請求人らは、「とんかつ和幸」の名称で昭和33年10月以来50年の長きにわたり、全国各地において「とんかつ」の商売を行ってきており、「とんかつ和幸」の名称は、著名である。そして、登録第3237537号商標(「とん\かつ∞和幸」、引用商標2)は、平成8年に登録となり、13年間使用し続けた結果、著名商標となっている。 本件商標は、「和幸」を要部とするものであり、請求人らのものと消費者及び取引者間において誤認混同を生じており、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (4)結論 本件商標は、商標法第3条第1項第4号と同法第4条第1項第11号及び商標法第4条第1項第15号に該当することから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とすべきものである。 2 答弁に対する弁駁 (1)商標法第4条第1項第11号に該当しないとする答弁について ア 請求人らの所有する引用商標2からは、その要部の文字部分「和幸」から「ワコウ」及び全体から「トンカツワコウ」の称呼が生じる。 イ 本件商標は、「いなば和幸」と同書、同大、同間隔に一連に横書きしてなる文字商標であり、「いなば」の文字は、氏としての「稲葉」を平仮名で表記したものであるとの印象・連想を直接的に与えるから、これを平仮名で表示されているものと容易に受け取ることができる。また、本件商標中の「いなば」の文字部分が、被請求人の代表者の氏「稲葉」を平仮名で表記したものであることは明らかである。 ウ 「イナバ」と呼ばれる氏は、電話帳の記載に徴しても極めてありふれたものであること、及び審決例(昭和45年審判第10984号:「いなば印」の「いなば」は、ありふれた氏の「稲葉」に通ずる)からしても、識別力を有しないものとして取り扱うのが相当である。 エ さらに、取引の経験則上、一般の需要者は、たとえば飲食物を提供する食堂を選択する際、後部の「和幸」という新たな言葉ないし造語の部分に重きをおくことが多く、普通一般に、需要者は、新たな言葉ないし造語の部分である「和幸」の文字部分に注意が引かれるものと認められる。 したがって、商標の類否判断に当たっては、法的に識別力を有しないと擬制した第3条第1項第4号の趣旨を考慮しつつ、商標の「特徴部分」はどの部分であるかということを、商標法の目的に照らし、かつ、取引の実情を考慮して認定判断することが相当であり、最高裁の「一般に商標が類似するかどうかは、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認を生ずるおそれがあるか否かによって判断すべきものであり、その類否判断をするに当たっては、両商標の外観、称呼、観念を考察し、それらが取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察すべきである(役務商標も同様である)」との判例からみても、需要者の通常有する注意力を基準とした場合、本件商標は、ありふれた氏であると認められる「いなば」の文字を除いた「和幸」の文字部分に特徴部分があるというべきである。 オ 以上のように、両商標は、識別力の強い部分(主要部分)である「和幸」の文字部分に商標としての特徴があり、取引の実情を参酌すると、商標全体から受ける印象・連想がきわめて類似するもので、本件商標は、引用商標と互いに類似関係にあるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。 (2) 商標法第4条第1項第15号に該当しないとする答弁について ア 「混同を生ずるおそれがある商標」であるか否かの判断基準は、(イ)標章の周知度、(ロ)創造標章であるかどうか、(ハ)ハウスマークであるかどうか、(ニ)企業における多角経営の可能性、(ホ)商品間、役務間等の関連性、(ヘ)不正の目的の有無、を総合的に考慮するものである。 (イ)については、甲第29号証ないし甲第37号証によって立証される。 (ロ)について、「和幸」の名称は、請求人の創業者、日比生一虎がかつて執筆活動の際に用いていたペンネーム「日比生和夫」から「和」を、そして、数寄屋橋ショツピングセンター内の「ステーションパーラー」の共同経営者であった、協和株式会社(以下「協和」という。)の「名和幸夫氏」の「幸」をとり、名和氏の許諾を得て「和幸」と名づけものである。したがって、引用商標2の「和幸」の文字部分は、創造語に相当する。 (ハ)について、引用商標2の「和幸」の文字部分は、請求人のHP等から明らかなように、ハウスマークである。 (ニ)について、請求人らは、企業における多角経営もしている。 (ホ)について、請求人らは、「とんかつを主とする飲食物の提供」のみならず、「弁当」も販売していることから、商品と役務間の関連性が強い。 (へ)の不正の目的について付言すると、被請求人の代表者は、かつて、前記協和の役員を務めていたが、昭和51年に協和から独立して「和幸株式会社」を設立し、その際、請求人らの商号ないし営業及びその名声ないし信用を熟知しており、また、「和幸」の文字部分を使用することに関して、請求人に無断で「とんかつ和幸」を出店したために、請求人との間に裁判上の様々な紛争が生じており、現在も継続中である。 付言すると、裁判上の和解調書(平成4年(ワ)第21445号事件)において、被請求人は、「和幸」の文字部分を商標として勝手に使用してはならない作為義務を、請求人に対して負担しているのにもかかわらず、それを無視し、請求人に無断で、本件商標の商標登録出願を特許庁に申請したものである。 このような事実を考慮すると、被請求人には、一般世人をして、その営業(役務)を請求人らの営業(役務)と誤認混同せしめる目的のあったこと、換言すれば、請求人らの商標ないし営業が有する名声ないし信用等を自己の営業にただ乗りする意図(フリーライド)のあったことは明確である。 イ なお、被請求人は、営業の混同を避けるために、特に注意を払ったというような事情、請求人が和解により、いわゆる「のれん分け」があって「和幸」という文字を含む商標を使用することを認めたという事情、あるいは、「和幸」を含む商標で「とんかつを主とする飲食物の提供」をする店が、同じ地域に沢山あって、「和幸」という文字が、その営業を識別する力が減退化しているというような事情等の特別な事情は存在していない。 ウ しかして、他人の著名な商標と他の文字又は図形等を結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体的に表わされているもの、又は観念上の繋がりがあるもの等を含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認される(特許庁の商標審査基準、改訂第7版の第43頁)。また、知財高裁第3部の判決では、結合商標において、識別力の小さい部分と識別力の強い部分があることを認め、識別力の強い部分がある部分が商標の特徴部分であると認定判断をしている(平成18年(行ケ)10497号)。 さらに、裁判所に顕著な事項であるが、最高裁の判例においても、引用商標と同一の部分をそのままその構成の一部に含む結合商標であって、その外観、称呼及び観念上、この同一の部分がその余の部分から分離して認識され得るものであることに加えて、引用商標の周知著名性の程度が高く、しかも、本件商標の指定商品と引用商標の使用されている商品とが重複し、両者の取引者及び需要者も共通している場合において、これらの事晴を総合的に判断すれば、本願商標は、これに接した取引者及び需要者に対し、引用商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるものであり、その商標登録を認めた場合には、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)やその希釈化(ダイリューション)を招くという結果を生じかねないと考えられ、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」とされている(平成13年7月6日、最高裁第二小法廷/判決/平成12年(行ヒ)第172号)。 よって、本件商標は、上記判決等に照らして、いわゆる広義の混同(経済的、人的、契約的)が生じ、引用商標2の識別力が減退化する(競業関係において、顧客吸引力が弱まる:減退化理論)ことから、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。 3 平成22年10月14日付け意見書 本件無効審判に先行する異議2008-900380事件に関する知財高裁の判決(平成21年(行ケ)第10306号 平成22年3月10日判決。以下「本件判決」という。)に対して意見を述べる。 (1)本件判決が認定した本件商標、引用商標等に係る取引の実情及び請求人らの意見 ア 請求人ら、補助参加人、被請求人(以下まとめて「本件3社」という。)の事実認定と判断 (ア)本件審判の請求人である「和幸商事株式会社(以下「和幸商事」ともいう。また、「請求人」という場合が有る。)」、「株式会社東邦事業(以下「東邦事業」という。)」及び「和幸フーズ株式会社(以下「和幸フーズ」という。)」はグループ会社(以下「和幸グループ」という。)であり、和幸グループは、平成21年時点、「とんかつ和幸」の名称を使用して、全国に244店舗の「豚かつ料理店」を経営するに至っている。 (イ)補助参加人「協和」は、平成21年時点、同一名称(とんかつ和幸)を使用して、東京都内及び千葉県内に9店舗の「豚かつ料理店」を経営するに至っている。 (ウ)被請求人は、昭和51年、協和から独立する形で会社を設立登記し、平成21年時点、同名称等(「とんかつ和幸」、後に「いなばとんかつ和幸」)を使用して、全国に62店の豚かつ料理店を経営するに至っている。 なお、本件判決は、被請求人が協和から独立して会社を設立する際、「補助参加人(協和)は被請求人が『とんかつ和幸』の名称を使用することを承諾し」、その後、「(請求人らの一人)和幸商事の了解も得た」と事実認定している。 (エ)また、本件判決は、いわゆるサービスマーク登録制度がスタートしてから、請求人ら、協和及び被請求人は「とんかつ和幸」の役務商標を、それぞれ別個に特例商標登録出願をし、いずれも商標登録(重複登録)を受け、本件3社は、商標登録後も、「とんかつ和幸」の商標を「とんかつ料理を主とする飲食物の提供(本件役務)」に使用し続けてきた、と事実認定している。 (オ)また、本件判決は、平成19年度における本件役務の市場占有率をみると、本件3社の占める割合は、約48%に上っている、と事実認定している。 (カ)さらに、本件判決は、本件3社は、業界紙を初めとして、一般の新聞・スポーツ新聞や一般消費者向けの雑誌においても多数回にわたって紹介されるなどしてきた事実等に基づいて、「とんかつ和幸」が「豚かつ屋の和幸」として周知であることを認定している。 (キ)上記に対する請求人らの意見 上記(ア)及び(イ)の事実認定に関して、本件判決は、請求人らが「とんかつ和幸」の名称を使用していることを認定しているが、請求人らは、昭和33年の開業から平成21年時点に至るまで、同一の表示を使用し続けてきた訳ではなく、請求人らの開店当時の表示と協和の表示が称呼及び外観が全く同一のため、一般の需要者が混乱するおそれがあるのではないかと危惧し、昭和53年に、新店舗に引用商標2の使用を開始し、その後、既存の店舗についても、引用商標2を統一的に使用したことから、引用商標2の表示は、平成21年時点、全国において、244店舗に達している。 請求人らの表示は、協和の引用商標1の表示とは、その称呼は同一であるものの、外観上(視覚で)、判子印のとんかつ図形の構成部分をもって区別している。 また、引用商標2と同時に「直営店」の文字、「和幸グループ」の名称等の表示も使用し続けることによって、協和の「とんかつ和幸」の表示と区別するように努力をしている。 したがって、協和の引用商標1は、「とんかつ料理を主とする飲食物の提供」との関係では、協和の使用する「和幸」の文字部分が、何らかの業務に係る表示として識別力が無いとしても、請求人らは、各甲号証から明らかなとおり、識別力が希釈化されないよう努力し、及び膨大な資金を費やしているので、その企業努力には格段の差異があり、同様に論ずるべきではない。 次に、本件判決は、被請求人は、平成21年時点、全国において、同名称等(とんかつ和幸等)を使用して、62店の豚かつ料理店を経営するに至っていると認定しているが、被請求人は継続的に協和と同一の表示(とんかつ和幸)を使用し続けて平成21年に至っているのではなく、被請求人の「とんかつ和幸」商標の使用は和解以前の話であり、和解した後は、「いなばとんかつ和幸」の名称の使用をしており、協和の表示と同じではない。 イ 本件判決の、本件3社がそれぞれ別会社により経営されたものであるとの事実認定 (ア)請求人らの記事に関する証拠には、本件3社の沿革、現状等が記録されている。 (イ)請求人らは被請求人に対して、屋号の使用禁止を求める訴えを提起した。 (ウ)請求人らと被請求人の間で前記訴えについて和解が成立した。 (エ)その後、再度、請求人らは被請求人に対して、仮処分命令の申立てをした。 (オ)証拠の中のウィキペディアには、「豚かつ屋の和幸には請求人、協和、被請求人があり、それぞれ別会社である」事などが記載されている。 ウ 本件判決における「他人の特定性」についての認定判断 (ア)業界誌、新聞及び雑誌において、本件3社を区別し、又は明示することなく「とんかつ和幸」ないし「和幸」の紹介がされている点、特に本件判決の乙第30号証の「社名」欄においてさえ、1箇所(43位の欄)に単に「和幸」のみ記載されている点をかんがみると、「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の「豚かつ料理店」が、本件3社ないし複数の別会社により経営されるものであるとの事実が需要者に広く知られているとは、認めることができない(ここで、以下「他人の特定性」という。)。 (イ)上記に対する請求人らの意見 本件判決は、少なくとも本件3社の間に役務の出所の混同のおそれがある事実を認定しながらも、かかる事実を、商標法第4条第1項第11号の「他人の特定」を否定する方向に動く事情として捉え、結果として、被請求人の「いなば和幸」と協和の引用商標1である「とんかつ和幸」との商標の類似性を否定した。 本件判決の「他人の特定性」に関する判決要旨は、価値判断には触れず、業界誌を始めとし、一般の新聞・スポーツ新聞や一般消費者向けの雑誌等にそれぞれ掲載した者が、「協和及び被請求人が請求人らの系列であると錯誤(混同)」をしたのにもかかわらず、これらの証拠に基づいて、一般の需要者が、本件3社の各表示の区別性を認識していないことを理由にして、「とんかつ和幸」の他人の特定性(区別性)の要件を否定したものである。 しかしながら、本件判決は、「とんかつ料理の提供」に関する取引の事情を参酌したといえども、あくまで、協和の「とんかつ和幸」という引用商標1を前提とした認定判断の話であり、自ら努力している請求人らの引用商標2に対しても、「とんかつ和幸」の名称は、いわゆる周知性がない、と否定したものではない。 (2)請求人らによる事実認定の確認及び請求人らの意見 ア 昭和33年10月に、請求人らのうちの1人である和幸商事が神奈川県川崎市に設立し、本件役務に「とんかつ和幸」という表示を用いた。 イ 2年後の昭和35年に、請求人らの代表取締役日比生一虎氏(以下「日比生」という。)と友人関係にある名和幸夫氏(以下「名和」という。)が、喫茶店を豚カツ屋に変更した。 ウ その3年後の昭和38年に、名和の会社は協和に吸収され、協和には名和の義理の弟に当たる稲葉氏(以下「稲葉」という。)が勤務していた。 エ その13年後、昭和51年5月に、稲葉は協和から独立し、被請求人を設立すると共に、協和が開業準備をしていた小田急町田店を譲り受けた。その店舗の名称は、協和の役務商標の表示(とんかつ和幸)と同一であり、また、請求人らの役務商標の表示とも同一であった。この時点において、請求人らの店舗は、東京及び神奈川において合計8店舗であり、その時点までの総売上は、約36.8億円であった。 オ いわゆるサービスマーク登録制度がスタートした平成4年において、請求人らは全国的に77店舗、協和は東京・千葉・埼玉に11店舗、被請求人は関東、関西に21店舗を、それぞれ経営しており、請求人ら、協和、被請求人は、それぞれが「とんかつ和幸」の重複登録によって商標権を得た。 本来、サービスマーク制度は、著名商標が周知商標よりも優先登録され、また、周知商標は単なる使用商標よりも優先登録される等、優劣によって登録が認められているものである。したがって、取引の実情をかんがみると、登録査定時、店舗数、開業地域、一般消費者向けの自発的な宣伝広告、売上げ実績等を総合的に考慮すると、請求人らの表示の持つ顧客吸引力機能、出所識別機能及び品質保証機能が、協和及び被請求人の表示よりもはるかに高いものと認定判断することができるから、協和及び被請求人は、原則的には請求人らの承諾を受けなければ登録を受けることができないはずである。 カ そこで、同年、請求人らは、相変わらず承諾を得ないで「とんかつ和幸」を使用し続けると共に、サービスマーク制度を幸いとして、商標登録の申請まで手を伸ばしてきた被請求人に対して、屋号の使用禁止を求める訴えを提起した。 キ 平成7年以降、再度、請求人らは被請求人に対して、使用差止仮処分の訴え等を提起し、「とんかつ和幸」の使用の中止を求めた。請求人らと被請求人との間で、「被請求人は、暫定的に、請求人らの表示と被請求人の表示とを区別できる新表示を用いる旨」の和解が成立し、その際、請求人らは被請求人から、「いずれは『和幸』の文字を外すつもりである」との返答を得た。 ク 一方、協和も被請求人と同様に、請求人らの承諾を得ないでサービスマーク制度を幸いとして自己の使用する役務商標について商標登録の申請をしたので、請求人らは、協和に対して抗議等をし、「とんかつ和幸」の表示を使用しないように申し入れたが、商標法第50条及び第51条の規定等を理由に、この要求を拒絶した。 ケ 平成20年に、請求人らは被請求人に対して、本件商標「和幸食堂」の使用を禁止する使用差止仮処分の訴えを提起した。 コ 上記のアないしエに対する請求人らの意見 まず、イに関して、名和が、喫茶店を豚カツ屋に変更の際に、日比生は名和に対して「とんかつ和幸」の表示を用いることを口頭で承諾したが、その際、第三者に有償又は無償で使用できるサブライセンスの許諾の許可まで与えてはいない。 次に、被請求人が「とんかつ和幸」の表示の使用を開始した際の、「被請求人の善意」又は「被請求人の悪意」の基準は、昭和51年、被請求人が協和から独立する形で会社の設立登記をした時点において、請求人らの店舗が東京及び神奈川において相当数(合計8店舗)あった客観的事実を知っていたか否か、つまり、客観的基準に基づいて、被請求人の取った行為が公平な商慣習に合致するか否かに求めるべきである。 しかして、被請求人は、昭和51年当時、独立する前、協和から小田急町田店を「のれん分け」してもらうまで、また、独立して以降も平成9年2月までは、協和の常務取締役であったことから、請求人らの店舗が相当数有り、請求人らが現に使用している表示と同一の表示を小田急町田店以外の店舗にも使用すれば、請求人らの表示の顧客吸引力にただ乗りすることができると認識かつ容認したことは、客観的に見て明らかである。また、請求人らは被請求人に対して「とんかつ和幸」の名称使用に関して承諾していないことは、今までの経緯から明らかである。 (3)他人の特定性についての意見 本件判決は、業界誌を始めとして、一般の新聞・スポーツ新聞や一般消費者向けの雑誌等にそれぞれ掲載した者が、「協和、被請求人が請求人らの系列であると錯誤(混同)」をしたのにもかかわらず、該証拠に基づいて一般の需要者が請求人ら、協和、被請求人の各表示の区別性を認識していないことを理由にして、「とんかつ和幸」の他人の特定性(区別性)の要件を否定した。 しかしながら、請求人らの引用商標2の「他人の特定性」の要件については、必要ならば、例えば以下のような実情の1つ又は複数も考慮して判断すべきである。 ア 引用商標2の使用態様 例えば、1)引用商標2に関する役務の範囲、2)引用商標2の形状、色彩等、3)引用商標2と他人との区別性の努力、4)引用商標2の使用期間とその地域等の同一性に関する事項。 イ 宣伝広告 請求人らは業界のみならず、一般の消費者向けに全国的に宣伝広告をするように力を注いでいる。例えば、創業50周年感謝セール告知ウェブページ作成・記念ロゴ入り缶バッチ作成・記念サンドPRを雑誌に掲載し、スポーツニッポンが主催する「スポニチ特撰映画鑑賞会」の協賛、販売促進週間等における各種媒体における宣伝広告をし、新聞や雑誌に引用商標2を掲載し、テレビ放映をし、川崎フロンターレアップシャツスポンサーになって宣伝広告をしている(甲第38号証ないし甲第41号証等)。 ウ 混同のおそれがある他人の使用態様に対する抗議 (ア)フリーライドする悪意の使用者、特に被請求人に対する抗議をした。 (イ)信義則違反の協和に対する表示の区別性の要求ないし抗議をした。 (ウ)協和と被請求人以外に、混同のおそれのある表示を使用する者に対する抗議をした。 エ 区別化するための商標戦略 一般の消費者を保護するために、「和幸グループ」の表示の登録化をした。 オ 請求人らの店舗数と協和を含む他人との比較 本件判決では、「平成19年度における本件役務(豚カツ料理店)の市場占有率をみると、本件3社の占める割合は、約48%に上がっている」、そして「前記約48%の内、協和が9店舗、被請求人が62店舗であるのに対し、請求人らは244店舗である」点をそれぞれ認定判断している。 カ 以上のとおりであるから、請求人らの引用商標2は、商標法第4条第1項第11号の「他人の特定性」を満足しているもの、と言うべきであり、協和の引用商標1と同一レベルで「他人の特定性」を認定判断すべきでない。 そもそも、商標を使用する者の出所混同の防止と品質誤認の防止を図るという商標法第1条の目的規定の趣旨を考慮すると、本件判決は、一般需要者が、「請求人らの和幸」、「協和の和幸」、「被請求人の和幸」というように、役務を提供する営業主体までそれぞれ個別的・具体的に認識する必要があると判断している訳ではなく、サービスマークの重複登録制度を前提として「和幸」の表示が何人かの業務であるかが区別されていれば良い、と指摘したものと受け止めることができるから、請求人らが、(A)今まで品質に関して社会的な問題が起きないように厳しい表示ないし品質管理を行い、これらを通じて、(B)開業してから20年後の昭和53年度から、協和らの表示と区別するように図形を含む引用商標2の表示の同一性の維持に努め、(C)業界のみならず一般の消費者向けに全国的に宣伝広告をすることに力を注ぎながら、混同のおそれがある他人の使用態様に対する抗議をし、(D)請求人らの店舗数は他を圧するほど多いこと等、これら(A)ないし(D)の諸事情の1つ又は複数を考慮するならば、遅くとも本件商標の出願時、引用商標2は「他人の特定性」の要件を満足したものと、というべきである。 (5)ブランドを保護する精神 本事件の審決を出す場合、「ブランドを成文法で保護する法制度、商標を使用する者の信用と同時に消費者の利益も合わせて保護する商標法第1条、商標を使用する者の信用を保護する同法第4条第1項第15号の規定、不正競争防止法第2条第1項第1号、同第2号の規定、パリ条約の不正競争防止法に関する諸規定等の趣旨(精神)」を前提として、被請求人の今まで行ってきた行為が許されるか否かも考慮すべきと考える。公平な商慣習に合致しない行為、具体的には「請求人らの表示の顧客吸引力にただ乗りすることができると認識かつ認容した被請求人の使用開始行為」が許されるものか否かである。 しかして、上記ブランドを成文法で保護する法制度等の趣旨(精神)を前提とするならば、不正競争防止法第2条第1項第1号の規定では「周知性」を要件としているが、先使用権又は商標法第4条第1項第10号の場合と同じく、該周知性の状態が善意に招来されたことを要するというべきであるという立場(工業所有権法、新版増補:豊崎光衛氏、464頁の価値判断)から、商標法第4条第1項第10号の「他人」の中には、請求人らの引用商標2との関係では、フリーライドの被請求人を含めるべきではなく、正当、善良、公正な活動によって周知状態を形成した者(善意の競争者)に限られると解釈すべきである。 そうであるならば、請求人らの引用商標2の周知性を認定する際は、前記(3)カ(A)ないし(D)に記載のとおり、(A)厳しい表示ないし品質管理の実施、(B)自己の商標の区別のための努力、(C)多大な宣伝広告及び他人に対する混同防止請求、(D)店舗数、を総合的に勘案し判断すべきであると考える。 4 平成22年11月19日付け第2意見書 (1)類否判断について 結合商標の要部の抽出方法として、「消去法による要部の抽出」と、「要部の直接抽出」の2つがある。前者は、商標法第3条第1項各号の趣旨(独占適応性)に鑑みて、自他識別力が無いか、あるいは自他識別力が弱い文字などの標章を消去して要部を抽出する方法(例えば甲第44号証:「和幸食堂」事件の平成21年(行ケ)第10380号判決)であり、後者は、対比する両商標の取引の実情をそれぞれでき得る限り参酌して要部を抽出する方法である(例えば甲第5号証の2:審査基準33頁?34頁)。 前者は商標の識別機能を重視する類否判断であり、後者は商標の出所表示機能に関して当該商品や役務の取引の実情を加味した類否判断であり、両者はそれぞれ実務上確立した判断手法である。 ア 消去法による要部の抽出 本件商標のうち「いなば」というのは、役務の提供場所あるいは所在地を固有名詞(商標法第3条第1項第3号の地理的名称)又はありふれた氏(商標法第3条第1項第4号)のいずれかであって、一般に注意を惹くことが少なく、簡略化することが普通に行われる日常会話や商取引においては、この様な役務の提供場所(地名)やありふれた氏は省略して呼ばれることが多いことを考えると、本件商標の要部は「和幸」であると言うべきであり、使用により自他識別力が生ずる等の特段の理由がない限り、「いなば」の文字部分からは出所識別標識としての称呼及び観念は全く生じないと言うべきであり、そのように解釈をしなければ、産地、販売地等の地理的名称やありふれた氏を、他人の登録商標の要部や周知商標に結合した商標が、例外なくことごとく登録になってしまう事態に成りかねず、顧客吸引力を保護しようとする商標法第1条の目的を達成することができないことになる。具体的には、積年の企業努力、宣伝活動及び商標管理によって得られた請求人らの引用商標の要部にただ乗りするような、「みうら和幸」、「ながさき和幸」、「かなざわ和幸」等が全て登録になってしまうという事態が発生する。 本件商標が、仮に設立者の氏から選択されたものだとしても、所詮は商標法第3条第1項第4号でいうところの「氏」にすぎず、また、本件商標に関する事業を行っている事業主体は、設立者個人の「稲葉」ではなく、企業体(被請求人)であって、実際に出所の源となるものは、選択者の「氏」を有するものではない。 したがって、本件において、消去法による要部の抽出手法を採用する場合には、「被請求人を設立した『稲葉武』の氏である『稲葉』から取られたもの」との事情は併せ考慮すべきではなく、「いなば」という文字を含む本件商標を使用する者は、現実問題として、「稲葉武」という自然人ではなく、あくまでも、独立した別項の法人(企業体)である被請求人、被請求人から許諾を受けた者、被請求人から本件商標の商標権を譲り受けた者等の他の企業体が使用する可能性が十分にある以上、「稲葉武」の個人的事情を加味して本件商標の識別力を左右すべきではない。 一方、請求人らの引用商標2のうち「とんかつ」の部分は、指定商品の対象そのものを表す語から成るものであるから、本件商標「いなば」と同様に、「とんかつ」の部分からは、それ自体で独立した、出所識別標識として称呼及び観念は生じないものと言わなければならないから、要部は「和幸」であるから、両者は明らかに類似である。 イ 要部の直接抽出 最高裁の判例や審査基準に基づいて、当該役務の取引の実情を参酌すると、両者は、その表示の要部である「和幸」の部分を共通しており、「和幸」という語は、和幸グループの「とんかつ屋(豚カツ屋)」を連想させることにより、一般の需要者に強い印象を与えるものと考えられるので、両者は、混同のおそれがある類似する商標である。 (2)取引の実情の参酌 ア 本件商標「いなば和幸」 平成22年4月22日付けの意見書の5頁13行目以降で主張したように、被請求人は、「とんかつ和幸」の役務を継続的に使用し続けて、現在に至っている訳ではない。被請求人は、請求人と被請求人とが裁判上の和解をした日(甲第23号証:平成6年9月22日)以降は、「とんかつ和幸」の名称ではなく裁判上の和解に基づく、かつ、「和幸」の文字を含む商標を使用しているはずである(甲第24号証)。 したがって、被請求人は本件商標「いなば和幸」を使用していないことは明らかである。 それ故に、原則として、自他役務識別力を有していない部分を消去する消去法によるのではなく、取引の実情を参酌する類否判断による手法の場合であっても、例外的に「いなば和幸」の結合商標を一体的に把握して観察しなければならない特段の理由はないものというべきである。 イ 請求人らの引用商標 (ア)平成21年(行ケ)第10306号判決において以下のとおり認定判断されている。 A 和幸商事は、昭和33年に創業し、昭和39年及び昭和42年に、グループ会社として、東邦事業及び和幸フーズを設立し、平成21年現在、全国において、「とんかつ和幸」の名称を使用して196店の豚カツ料理店を経営するに至っている(甲第45号証17頁18行?18頁2行)。 B 和幸グループは、長きにわたって「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称で豚カツ料理店を経営し、我が国有数の豚カツ料理チェーン店として認識され、その結果、取引者及び需要者が「和幸」の文字部分から、「豚カツ料理店」を指すものと容易に理解するものと認められる。(甲第45号証20頁22行?21頁5行。)(審判注:判決は「和幸グループ」についてではなく「本件3社(和幸、協和、和幸グループ」について認定しているものである。) (イ)和幸グループの自他役務識別力について A 無効2008年-890105審決(商標:「和幸食堂」)において、「請求人の商標は、少なくとも関東地方における取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められるものであると優に推認できる。」と判断されている(無効審決:11頁27行?35行)。 B 請求人らは、自己の商標について、厳しい商標管理を行っている。 例えば、「和幸グループ・商標使用権に関する規約」を設け、他社に対し使用許諾する際の基準などを厳しく設けており(甲第46号証)、また、和幸グループの店舗は、「和幸グループ」「直営店」の表示を付し、自他役務の識別を強化し(甲第47号証)、さらに、請求人らは、「和幸グループ」及び「WAKO/GROUP」の商標権を有しており、他人はこの表示を無断で使用することはできない(甲第48号証)。 C 請求人らは、自己の商標について、自他役務の識別を強化するため、長きにわたる宣伝広告活動などの営業努力を常に行っており、多額の投資を行っている。 (A)創業50周年感謝セールに関する宣伝広告(甲第49号証) (B)スポーツニッポン紙における宣伝広告(甲第50号証) (C)新聞・ラジオ・電車広告等における宣伝広告(甲第51号証) (D)雑誌における宣伝広告(甲第52号証) (E)川崎フロンターレとのアップシャツスポンサー契約及び宣伝広告(甲第53号証) (3)他人の特定性 ア 請求人らは、平成22年10月14日付けの意見書の12頁ないし14頁で主張したように、商標法第4条第1項第11号の「他人の特定性」に関しては、請求人らの引用商標が慣用商標化ないし普通名称化しないように、永年、自ら管理主体として企業努力をし続けている。 イ 請求人は、被請求人が裁判上の和解に基づく信義則に違反して、「とんかつ料理を含む飲食物の提供」に「和幸食堂」の登録商標を使用した行為に対しても、その使用を排除するように努力し、その使用を事実上排除した(甲第54号証:平成20年(ヨ)第22080号、営業表示使用差止仮処分申立事件)。 ウ 請求人は、被請求人が裁判上の和解に基づく信義則に違反して出願した「和幸食堂」の登録商標に対して登録無効審判を請求し、最終的に「和幸食堂」の登録商標は、その無効が確定した(甲第55号証:平成22年(行ケ)第10038号審決取消請求上告受理申立事件は最高裁で不受理)。 エ 「とんかつ料理を含む飲食物の提供」について、他人の「和幸」を含む役務商標を使用する行為に対しては、特段の理由がない限り承諾をしていない(甲第56号証)。 以上のアないしエ等の単数又は複数の事情を考慮すると、請求人らの引用商標2は、商標法第4条第1項第11号の「他人の特定性」を満足しているものと言うべきであり、本件判決の(平成21年(行ケ)第10306号)の被告補助参加人である協和の引用商標1と同一レベルで「他人の特定性」を認定判断すべきでない。 (4)無効原因の追加理由 被請求人は、裁判上の和解をしたのにもかかわらず、信義則に違反して、本件商標などを申請してその登録を得たものである。 被請求人のかかる行為は、請求人らが長年努力して作り上げた信用をそのままただ乗り、ないし横取りして利益を上げようとするものであり、商標法第4条第1項第19号に該当するというべきである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を答弁書及び上申書において、要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第184号証を提出した。 1 答弁 請求人らは、本件商標は商標法第3条第1項第4号並びに同法第4条第1項第11号及び同法第4条第1項第15号に該当するものであるとして、その登録の無効を主張しているが、本件商標は、請求人ら指摘の前記商標法の条項に該当するものではない。 (1)商標法第3条第1項第4号について 商標法第3条第1項第4号は、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」についての規定であり、「いなば」ではない本件商標「いなば和幸」がこれに当たらないものであることは、詳述するまでもなく明らかなところであるから、本件商標が商標法第3条第1項第4号に該当するものであるとする請求人らの主張は理由がない。 (2)商標法第4条第1項第11号について ア 請求人らは、引用商標1ないし引用商標7を引用して、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するものであるとする。ここで、請求人らと関係のない第三者の商標の登録の事実を上げて本件商標の無効を主張されることは、請求の利益を欠くものである。この点を理由とする請求は、不適法なものとして却下されるべきである。 イ 本願商標は、前記引用商標と類似するものではない。 本件商標「いなば和幸」は、その構成から見て「イナバワコウ」と称呼され、その構成あるいは称呼が冗長なものではないので、分離観察されることはなく、一連のものとして称呼、観念されるのに対し、引用商標は、「ワコウ」と称呼されるものと見られるものである。 そこで、本件商標と引用商標とを比較すると、それぞれその構成から見て外観上見誤られるようなものでないことは、明らかであり、観念上の共通性もないから、本件商標は、引用商標と外観、称呼及び観念のいずれの点から見ても、非類似のものであり、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 ウ 商標法第4条第1項第15号について 請求人らが、商品「とんかつ」について著名な商標でもあって、出所の誤認混同を生じているとされる、商標「とん\かつ∞和幸(登録第3237537号)」は、第42類「とんかつ料理を主とする飲食物の提供」を指定役務とするものであるが、これが著名であるとされる証拠(甲第14号証)としてお持ち帰り弁当の広告を提出されている。お持ち帰り弁当と「飲食物の提供」が同一又は類似の関係にあるものとは思えない。 仮に、商標「とん\かつ∞和幸(登録第3237537号)」が「飲食物の提供」について周知であるとしても、外観も全く異なり、称呼及び観念上紛れることもない本件商標との関係において、商品の出所の混同が生じるおそれもないものであるか、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しないものである。 エ その他の事項 被請求人による本件商標の採択には、曲折はあったものの、当初から不正競争の意図を持っていたとか、著名商標へのただ乗りのような意思を有していたというような事情はない。この点に関する請求人らの主張は、根拠がない。 2 平成21年7月8日付け上申書 (1)商標法第3条第1項第4号に該当しない理由 本件商標は、単に「いなば」の文字を書してなる商標でないため、商標法第3条第1項第4号の「ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当しないことは明らかである。 (2)商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当しない理由 本件商標は、引用各商標とは外観、称呼、観念のいずれについても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、また、引用商標2とは混同のおそれのない商標であるから、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当しないことは明らかである。 商標法第4条第1項第11号に係る商標の類否は、平成19年(行ヒ)第223号に「商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである」と判示されており、本件商標は、上記判例に示す例外的な場合でないから、結合商標の構成要素の一部を抽出して、他の商標との類否を判断することは許されないものであり、以下のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 また、現実の商取引の実情について検討し、周知・著名性を獲得した本件商標が引用商標2と出所の混同を生じておらず、商標法第4条第1項第15号に該当しない理由も述べる。 ア 外観、称呼及び観念の検討 (ア)外観について 本件商標「いなば和幸」は、外観上まとまりよく一体的に構成されていることから、前半の「いなば」の文字部分を捨象し、後半の「和幸」の文字部分のみを殊更に抽出して観察する特別な理由は何ら見いだせない。 他方、引用商標1は、前半の「とんかつ」の平仮名部分が、後半の「和幸」の漢字部分に比しやや小さく書してなるものの、筆書き風にて、同一色にて特段の軽重の差はなく一連一体に連綴してなるものである。したがって、外観上まとまりよく一体的に構成されていることから、前半の「とんかつ」の文字部分を捨象し、後半の「和幸」の文字部分のみを殊更に抽出して観察する特別の理由は何ら見いだせない。 引用商標2は、上段に二段横書きの「とんかつ」の平仮名を正方形枠内に配し、下段に「和幸」の漢字を縦書きしてなるところ、上段の正方形枠の1辺の長さは下段の「和幸」の文字の横幅と同じくするものであるから、外観上まとまりよく一体的に構成されていることから、上段正方形枠内の「とんかつ」の文字部分を捨象し、下段の「和幸」の文字部分のみを殊更に抽出して観察する特別な理由は何ら見いだせない。 引用商標3は、正方形枠内に、上から「とんかつ」の平仮名、「惠亭」、「和幸」の漢字及び「KEITEI」の欧文字を配したものであり、引用商標4は、「和甲」の漢字を縦書きしてなるものであり、引用商標5は、「WAKO」の欧文字を横書きしてなるものであり、引用商標6は、「和光」の漢字を横書きしてなるものであり、また、引用商標7は、楕円枠内に上から建物図形、横書きの「WAKO」及び「GINZATOKYO」の欧文字を配したものである。 それ故、本件商標と引用商標1及び引用商標2とを全体的に考察すると、「いなば」と「とんかつ」の文字部分という外観上顕著な差異を有することから、両商標は外観上相紛れることはない。また、本件商標と引用商標3ないし引用商標7とは、「惠亭」の文字の有無や「和甲」「WAKO」「和光」の文字の相違等、外観上顕著な差異を有することから、両商標は外観上相紛れることはない。 (イ)称呼について 本件商標はその構成から「イナバワコウ」の自然的称呼を生ずるものであり、その構成音は僅か6音と短く、一気によどみなく発音し得るものであるから、前半の「いなば」の文字部分を捨象して単なる「ワコウ」の自然的称呼を生ずるとする特別な理由は何ら見いだせない。 他方、引用商標1及び引用商標2はその構成から、「トンカツワコウ」の自然的称呼を生ずるものであり、その称呼構成音は僅か7音と短く、一連一体によどみなく発音し得るものであるから、「トンカツワコウ」の一体不可分の自然的称呼のみを生ずるものであり、後半の「和幸」の文字部分のみから単なる「ワコウ」の自然的称呼を生ずるとする特別な理由は何ら見いだせない。 また、取引の実情に照らすと、「和幸」の2文字は、飲食店一般、あるいはとんかつ料理店において、自他役務の出所識別機能を発揮しないか、若しくはその機能が極めて弱いものであり、そのために、特にとんかつ料理店では「和幸」の2文字の店舗は見当たらず、「とんかつ和幸」、「いなば和幸」のように「和幸」の前に付加した平仮名と一連一体に称呼されるものである。 したがって、本件商標と引用商標1及び引用商標2とでは、それぞれ一連一体として称呼されることになり、称呼上最も重要な前半において、「イナバ」と「トンカツ」という顕著な差異を有し、また、その構成音数も異にすることから、両商標が称呼上相紛れることはない。 さらに、引用商標3はその構成から「トンカツケイテイワコウ」の自然称呼を生ずるものであり、引用商標4ないし引用商標7はその構成から単なる「ワコウ」の自然称呼を生ずるものであるから、本件商標と引用商標3とは、「イナバ」と「トンカツケイテイ」の差異を有し、本件商標と引用商標4ないし引用商標7とは、「イナバ」の有無という顕著な差異を有し、また、構成音数も異にすることから、両商標が称呼上相紛れることはない。 (ウ)観念について 本件商標の前半の「いなば」の文字部分は、平仮名で書されており、氏の「稲葉」、旧国名の「因幡」、岐阜県の地名の「稲羽」「稲葉」(乙第2号証及び乙第3号証)があり、それ自体からは氏や地理的名称の何れか判然としないものの、前半の「いなば」の文字部分そのもの自体は、弱いながらも十分に出所識別機能を発揮する文字部分である。 また、本件商標と引用商標1ないし引用商標3に共通する「和幸」の文字部分は、「和」と「幸」の2文字の結合であり、初等教育を受けた者であれば誰でも知っているありふれた漢文字の結合にすぎないものであるから、「和幸」の文字そのもの自体は、弱い出所識別機能しか発揮できない文字部分である。 ましてや、後記のとおり、「和幸」の文字若しくはその一部を屋号や店名とするとんかつ料理店や飲食店が極めて多く、取引者・需要者は、該文字からとんかつ料理店や飲食店のありふれた屋号や店名と認識することを考慮すると、「和幸」の文字は、自他役務の出所識別機能を発揮しないか、若しくはその機能が極めて弱い文字部分であることは明らかである。 それにもかかわらず、前半の「いなば」の文字部分が、直ちに氏や地理的名称を表示するものとして、全く出所識別機能を発揮しないとすれば、本件商標は全体としても出所識別機能を発揮しないとの帰結になり、本件商標が十分に出所識別機能を発揮し、取引者・需要者に広く認識されている実情にそぐわないことは明らかである。 現実の商取の実情では、前半と後半のそれぞれの文字部分がともに弱い出所識別機能しか発揮できない結合商標にあっては、結合商標の全体で出所識別機能を発揮し、商取引に資されているところである。 むしろ、「和幸」の文字若しくはその一部を屋号や店名とする多くの事業者から商標権者を出所識別するために、取引者・需要者は、前半の「いなば」の文字部分に着目するとみるのが商標の観察方法として自然であり、「いなば」の文字部分に着目しこれを付加結合した本件商標の全体で商標権者を出所識別するのである。 したがって、前半の「いなば」の文字部分は、出所の識別において、極めて重要な役割を有することから、これを全く捨象し後半の「和幸」の文字部分のみを抽出して観察する特別の理由は何ら存しないというべきである。 同様に、「とんかつ」の文字部分を有する引用商標1ないし引用商標3においても、該文字部分に着目しこれを付加結合した引用商標の全体で請求人らを出所識別するため、これを全く捨象し「和幸」の文字部分のみを抽出して観察する特別の理由は何ら存しないというべきである。 それ故、本件商標は、前半の「いなば」の文字が後半の「和幸」の文字に付加結合したことにより、その全体から「稲葉さんのところの和幸」や「因幡の地の和幸」の如き独自の観念を認識し理解するものであるから、同様に引用商標1ないし引用商標3から生ずる「とんかつ屋の和幸」の観念とは顕著な差異を有し、両商標は観念上紛れることはない。 さらに、引用商標4、引用商標5及び引用商標7は造語商標であって、何らの意味合いも生じないものであるから、本件商標とは観念上比較する術はない。また、引用商標6「和光」からは埼玉県南部の東京に隣接する市の名称との意味合いを生ずるものであるから(乙第3号証)、本件商標から生ずる上述の観念とは顕著な差異を有し、両商標が観念上相紛れることはない。 イ 判決例及び審決例の検討 「結合商標についても、特段の根拠がない限り構成部分の一部を抽出して類否を判断することは許されない」という前記主張が正しいことは、乙第4号証の1ないし9の判決例及び審決例から明らかである。 ウ 本件における取引の実情 本件においては、本件商標や引用商標1ないし引用商標3の指定役務である「飲食物の提供」「とんかつ料理の提供」や「とんかつ料理を主とする飲食物の提供」との関係で、以下のような特徴的な取引の実情があるので、両商標の類否を判断するに当たっては、この取引の実情を十分念頭におくことが不可欠である。 (ア)請求人、被請求人及び協和の関係等について 被請求人は、昭和51年9月に小田急百貨店町田店内に「とんかつ和幸」を出店し、「とんかつ和幸」の店名の使用を開始した(乙第6号証)。 一方、本件審判の請求人であり、引用商標2の商標権者である和幸商事は、昭和33年10月に川崎駅ビル内に「とんかつ和幸」川崎本店を出店し、「とんかつ和幸」の店名の使用を開始し、今日では、iタウンページ等の調査による限りでも、「とんかつ和幸」の店名を使用する店舗を、合計196店出店するに至っている(乙第6号証及び乙第7号証)。 さらに、引用商標1の商標権者である協和は、昭和35年に数寄屋橋ショツピングセンター内の飲食店で「とんかつ和幸」の店名の使用を開始し、今日では、「とんかつ和幸」の店名を使用した店舗を合計9店出店している。 なお、本件3社は、「和幸」の文字を一部に有する引用商標1ないし引用商標3及び被請求人に係る「とんかつ和幸」の文字からなる商標(乙第5号証、登録第3225630号商標。以下「参考商標1」という。別掲8)について、それぞれ商標法の一部を改正する法律(平成3年5月2日法律第65号)附則(以下「平成3年改正法附則」という。)第5条第2項に規定する使用に基づく特例の適用の主張を伴う商標登録出願(特例商標登録出願)として、重複登録されたものである。 本件3社は、もともと人的、経営的に緊密な関係があり、協調関係にあったところ、出店数が増えるにつれ、競争関係が顕在化するようになり、被請求人と和幸商事との間には、法的紛争(乙第12号証及び乙第14号証)も生じたことなどから、被請求人は、最終的に、本件商標「いなば和幸」及び「いなばとんかつ和幸」(乙第16号証)の店名に変更した。これを受けて、請求人は、仮処分の申立を取下げた。その間、被請求人は、とんかつを主体としながらも、独自のこだわりを持った専門店としての食材感、販売スタイル、店作りにおいて、他社との差別化を打ち出してきたところ、このことが広く支持を受け、「いなば和幸」の名の下、被請求人は、社会的評価(乙第171号証、乙第172号証、乙第174号証ないし乙第176号証)を受けるに至った。 現在、取引者及び需要者において、とんかつ料理店に3つの「和幸」(本件3社)が存在することはよく知られており、すなわち、請求人ら及び協和と区別された被請求人の存在は完全に定着しており、取引者からみれば、本件3社は明確に区別していることはもちろんであるし、加えて、直接店舗に出向いて役務の提供を受ける需要者においては、店の表示などから(甲第7号証、甲第15号証、乙第91号証ないし乙第151号証)、本件3社を取り違えるということは考えにくく、実際の取引において、「和幸」の2文字だけをもって本件3社のいずれかを指すということはあり得ず、「いなば和幸」、「とんかつ和幸」のように、「和幸」の前に本件3社のいずれであるかを特定するための文字を付加するなど、本件3社を区別して取引に用いているものである。 (イ)とんかつ料理店についての「和幸」の出所識別機能 仮にもし、とんかつ料理店について、「和幸」の2文字だけで取引を行ったとするならば、上述の3社のうちの特定の一事業者を連想して出所を識別する商標と認識し理解するのではなく、3社のうちのいずれかであると理解するか、とんかつ料理店の一般的な屋号や店名と理解するのが自然である。 このような「和幸」の文字に対する取引者・需要者の理解が正しいことは、例えば、インターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」にて「和幸」の文字(語)を検索すると、「和幸」の語は、「豚カツ屋の名称。」であると定義されていることからもうかがえ、また、インターネット上の個人のブログであるが、ミシュランの日本版の発表に関連して「この中でどうしても目を引くのは『和幸 日本料理であろう』であろう。普通に考えれば『和幸=とんかつ』だと思うけれど」とのコメントが記載されていることからもうかがえるところである(乙第20号証及び乙第21号証)。 エ 小括 取引の実情を踏まえると、商標の類否の判断に当たって、本件商標前半の「いなば」の文字部分を捨象することは許されず、また、後半の「和幸」の文字部分のみを抽出することも許されないのであり、本件商標は、一連一体の「いなば和幸」の全体をもって商標の類否を判断されなければならないことは明らかであり、同様に、引用商標1及び引用商標2もまた、一連一体の「とんかつ和幸」の全体をもって商標の類否を判断されなければならない。 その結果、本件商標と引用商標1及び引用商標2とは、外観上顕著な差異を有し、また、称呼では、称呼上最も重要な前半部において、「イナバ」と「トンカツ」という顕著な差異を有するばかりでなく、観念上も「稲葉さんのところの和幸」や「因幡の地の和幸」の如き独自の観念と、「とんかつ屋の和幸」の観念という顕著な差異を有することから、両商標は、外観、称呼及び観念のいずれについても相紛れるおそれは寸分も存しない非類似の商標である。 オ 本件商標の周知・著名性 (ア)被請求人は、前記ウに記載のとおり、昭和51年に小田急百貨店町田店内レストラン街に参考商標を表示した「とんかつ和幸」を出店した後、平成8年以降は、本件商標及び「いなばとんかつ和幸」商標(乙第16号証)等(以下、一括して「本件商標等」という。)に変更し、店舗入り口、店舗案内看板やフロア案内(乙第91号証ないし乙第151号証)、メニュー(乙第88号証)、会社案内(乙第89号証)、ホームページ(乙第90号証)などに、本件商標等を表示している。 その結果、被請求人は、今日までの33年間で、本件商標等を表示し、「いなば和幸」の店名を使用した「飲食物の提供」に係る店舗(61店)及び惣菜店を、合計76店舗も出店するに至っている(乙第91号証ないし乙第166号証)。 これら本件商標等の使用の結果、本件商標等は、十分に出所識別機能を発揮する商標であることは勿論のこと、今日では、取引者・需要者に広く認識し理解された莫大な業務上の信用が化体した商標となっており、この点においても、本件商標等が、協和の引用商標1や請求人らの引用商標2と混同されることは寸分も存しないところである。 (イ)「和幸」名を含む飲食店の都道府県ごとの分布について 被請求人の店舗は16都道府県の合計76店舗、協和の店舗は2都県の合計9店舗、請求人らの店舗(iタウンページの調査結果)は22都道府県の合計196店舗である。3社店舗がすべて存在するのは、東京都と千葉県であるが、いずれにおいても、都道府県単位の地理的分布状況から見た場合には、本件3社全部あるいはそのうちの2社の店舗相互間が複数混在することが多々あり、本件3社のうち1社の店舗のみが存在する県の大半には、本件3社以外の経営に係る「和幸」名の飲食店店舗が存在するという現状である。また、本件3社中で最大数の店舗を有する請求人らにしても、出店していない県が多数あるに加え、店舗数でいなば和幸に劣後する県もあるのであるから、店舗数のみを根拠として「和幸」のみで請求人らの役務の出所識別機能を発揮しうるということは考え難い。このことは、被請求人あるいは協和についても同様であって、本件3社間の店舗の競合あるいはとんかつ屋以外の他の「和幸」名の飲食店が多数存在することに加え、日常的な食事を提供する通常の飲食店の店舗は、当該店舗付近の相当に限定された地域を商圏とし、店名等を確認した上で入店した需要者に対して料理を提供するのが基本的な業態であり、「とんかつ店」も基本的にはこの範ちゅうに属するものであることも考慮すれば、「和幸」のみで自他の役務の出所識別機能を発揮しうるということはありえない。そうであるからこそ、被請求人においては、取引者・需要者に広く認識し理解された莫大な業務上の信用が化体された「いなば和幸」という本件商標を用いて自他の役務の出所識別機能を発揮してきたものである。 カ 総括 以上のように、一連一体に連綴してなる本件商標から、後半の「和幸」の文字部分を抽出することは許されず、また、現実の商取引の実情においても、取引者・需要者は「いなば和幸」の全体をもって出所識別機能を発揮する商標と認識し理解していることから、本件商標は一連一体の「いなば和幸」の全体をもって商標の類否を判断されなければならない。また、同様に、引用商標1及び引用商標2も一連一体の「とんかつ和幸」の全体をもって商標の類否を判断されなければならない。 そして、本件商標と引用商標1及び引用商標2とは、外観、称呼及び観念のいずれについても相紛れるおそれは寸分も存しない非類似の商標であって、また、請求人らが主張する事実も何ら存せず、本件商標と引用商標2とは、商取引の実情においても、両商標間に何らの出所の混同も生じていないことは、明白というべきである。 また、本件商標と引用商標3ないし引用商標7とは、外観、称呼及び観念のいずれについても顕著な差異を有することから、両商標について相紛れるおそれは寸分も存しない非類似の商標というべきであり、また、本件商標と引用商標2の間に出所の混同の生ずるおそれもないというべきである。それ故、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同法第15号に該当しない。 3 平成22年10月22日付け上申書 本件商標に対する異議2008-900380号事件は、平成21年8月17日付けで、本件商標の商標登録を取り消す旨の決定が下されたが、平成21年(行ケ)第10306号同22年3月29日判決により、該決定を取り消す旨の判決が下され(乙第181号証)、該判決を不服として提出された「上告状兼上告受理申立書」(乙第182号証)については、平成22年6月22日付けで上告を却下する旨の決定が下され(乙第183号証)、また、平成22年9月10日付けで上告審として受理しない旨の決定が下され(乙第184号証)、該判決は確定した。 該判決では、「本件商標が本件役務について使用された場合、取引者及び需要者は、本件商標の『和幸』の文字部分が『とんかつ和幸』の名称又は『和幸』の文字を含む名称の豚カツ料理店を指すと容易に理解するものと認められるが、他方で、」「『とんかつ和幸』の名称又は『和幸』の文字を含む名称の豚カツ料理店が本件3社ないし複数の別会社により経営されるものであるとの事実が本件役務に係る取引者及び需要者に広く知られているとまで認めることはできないのであるから、引用商標との関係でみると、本件商標の『和幸』の文字部分が、本件役務に係る取引者及び需要者に対し、引用商標の商標権者である補助参加人が当該役務の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず、その他、そのようにいうことができるに足りる証拠はない。」旨が判示されている(乙第181号証21頁)。 また、該判決では、「本件商標について、その構成中の『和幸』の文字部分だけを抽出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないから、本件商標と引用商標との類否を判断するに当たっては、本件商標の構成部分全体をみるべきであって、同商標の構成中の『和幸』の文字部分だけを引用商標と比較して類否判断を行うことは許されないというべきである。」旨が判示されている(乙第181号証21頁?22頁)。 このため、請求人らの主張は、いずれも本件商標の『和幸』の文字部分を要部とし、該文字部分をいたずらに抽出して観察するものであるから、その主張はいずれも失当といわざるを得ないばかりか、該判決の拘束力にしたがい(行政事件訴訟法第33条第1項)、本件商標をそのように観察することは許されないところである。 しかして、「イナバワコウ」の称呼及び「いなば(稲葉)に係る豚カツ料理店の名称としての和幸」の観念しか生まれない本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれについても、相紛れるおそれは寸分も存しない非類似の商標であって、両商標間に何らの出所の混同の生ずるおそれもない以上、本件商標は、商標法第4条1項11号及び同第15号に違反して登録された商標ではない。 なお、本件商標は、単に「いなば」の文字を書してなる商標ではなく、「ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当しない以上、本願商標が商標法第3条第1項第4号に違反して登録された商標ではないこともまた明白である。 4 平成23年3月25日付け上申書 請求人らは、弁駁書5頁ないし6頁にかけて、「請求人が和解により、いわゆる『のれん分け』があって『和幸』という文字を含む商標を使用することを認めたという事情、《省略》等の特別な事情は存在しない。」と主張しているが、かかる主張は、被請求人が従前から「とんかつ和幸」の表示を使用してきたことを前提として、「とんかつ和幸」に冠を付けるなどした表示の使用を認めた、請求人和幸商事と被請求人の間の平成6年9月20日付けの裁判上の和解(乙第12号証)とは、明らかに矛盾し、事実に反する。 また、請求人らは、平成22年11月19日付け「第2意見書」の第8頁において、「4.無効原因の追加理由」と題して「被請求人は、裁判所の和解をしたのにもかかわらず、信義則に違反して、本願商標などを申請してその登録を得たものである。被請求人のかかる行為は、請求人らが永年努力して作り上げた信用をそのままただ乗り、ないし横取りして利益を上げようとするものであり、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当するというべきである。」と主張しているが、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当する旨の主張は、「とんかつ和幸」に冠を付すなどした表示の使用を認めた平成6年9月20日付けの裁判上の和解(乙第12号証)と全く相容れないものであり、平成20年11月10日付け「審判請求書」の「6 請求の理由」において、請求人らが主張していなかった新たな主張である。 第4 当審の判断 1 本件商標、引用商標等に係る取引の実情等について 請求人ら及び被請求人の主張並びに提出した各証拠によれば、以下の事実が認められる。 (1)請求人らの一人である和幸商事は、昭和33年10月に「とんかつ和幸」1号店を川崎駅ビル内に出店し、その後、昭和39年及び昭和42年にグループ会社として、東邦事業および和幸フーズを設立し、創業以来50年にわたり、全国各地において「とんかつ和幸」の名称で、豚カツ料理店を営んできたこと、2007年時点の店舗数は、全国24の都道府県に272店舗を有し、その内、関東地方(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の1都6県には、207店舗を出店していること、また、グループ全体の売上高は、2005年が211億円、2006年が210億円、2007年が215億円に達するものであることが認められる(甲第7号証)。 請求人らの開店当時の表示は、協和(引用商標1)の表示と称呼及び外観が同一であったため、一般需要者の混乱を危惧し、昭和53年に引用商標2の使用を開始し、その後、既存の店舗についても当該商標を統一的に使用してきたこと。なお、引用商標2は、平成8(1996)年12月25日に、他の引用商標と重複登録として登録されている。 2008年6月時点において、152店舗のレストラン及び84店舗の売店において、引用商標2と同一又は横書きではあるが実質的に同一と認められる商標が、請求人らの役務又は店名を示すものとして各店舗で使用されていることが認められ、また、各店舗において使用されている、紙ナプキン、箸袋、レシート、メニューにも引用商標2と実質的に同一といえる商標が表示されている(甲第32号証ないし甲第36号証)。 また、請求人らは、2002年(平成14年)よりスポーツニッポン紙において映画試写会の協賛を行っており、毎月掲載される試写会の案内記事には、引用商標2と実質的に同一といえる商標が表示されており、該試写会は、スポーツニッポン新聞東京本社と交わした覚書によれば、少なくとも平成21年6月までの開催が確認できる(甲第38号証及び甲第50号証)。 (2)引用商標1の商標権者である協和は、昭和35年に数寄屋橋ショツピングセンター内の「キッチン喫茶和幸」を「とんかつ和幸」の店名に変更してその使用を開始し、平成21年現在、東京都及び千葉県内において、同名称を使用して9店の豚カツ料理店を経営している。 (3)被請求人は、引用商標1の商標権者である協和から独立する形で設立された会社であり、昭和51年9月に小田急百貨店町田店内に「とんかつ和幸」を出店し、「とんかつ和幸」の名称の使用を開始した。その後、請求人から「とんかつ和幸」の名称使用禁止等を求める訴訟が提起され、平成8年の和解(乙第12号証)以降は、「いなば和幸」及び「いなばとんかつ和幸」(「とんかつ」の部分は赤字で、下部の切れた赤色円内に縦書きされている。別掲9「参考商標2」参照)を使用している。2007年時点においては、61店舗のレストラン及び15店舗の惣菜店等において、店名として上記「いなばとんかつ和幸」が表示され、フロアガイドや店舗紹介等に「いなば和幸」の表示が使用されている(乙第6号証、乙第88号証、乙第91号証ないし乙第166号証)。 (4)請求人のホームページには、「とんかつ和幸の不思議」として、「とんかつ和幸」の表示を使用しているものとして請求人及び協和が、そして使用していたものとして被請求人が記載され、その成り立ちの背景、現状を紹介している(乙第6号証)。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によれば、「和幸」の項の1番目として、「豚カツ屋の名称。以下の3つがあり、別会社である。」と記載され、さらに、「とんかつ和幸」として請求人及び協和が、「とんかついなば和幸」として被請求人が記載されている(乙第20号証)。また、個人のブログではあるが、「・・・、ただこの中でどうしても目をひくのは『和幸 日本料理』であろう。普通に考えれば『和幸=とんかつ』だと思うけれど・・・」との記載がある(乙第21号証)。 (5)以上のとおり、請求人ら及び協和においては、昭和33年あるいは昭和35年より現在まで、被請求人においては、昭和51年より平成8年までの間は「とんかつ和幸」、平成8年よりは「和幸」の文字を含む名称で豚カツ料理店を経営しており、それぞれ、協和は引用商標1、請求人らは引用商標1と同一の商標及び引用商標2、被請求人は参考商標1及び2あるいは本件商標等を本件役務について使用してきたことが認められ、また、請求人ら及び被請求人については、共に全国的に店舗網を広げていることが認められる。そして、「ウィキペディア」や上記ブログの記載からしても、「和幸」の文字からは「とんかつ和幸」または「和幸」の文字を含む名称の「豚カツ料理店」を想起、認識させるものであるといえる。 しかしながら、「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店が本件3社ないし複数の別会社により経営されるものであるとの事実が、本件役務に係る取引者及び需要者に広く知られていると認めることはできず、さらに、本件役務に係る取引者及び需要者に対し、本件商標の「和幸」の文字部分が、引用商標2の商標権者である請求人らの役務の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず、その他、そのように認めるに足りる証拠の提出はない。 2 商標法第3条第1項第4号について 本件商標は、「いなば和幸」の文字よりなるところ、仮に「稲葉」がありふれた氏といえるものであるとしても、本件商標はそれ以外の文字を有するものであるから、商標法第3条第1項第4号にいう「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するということはできない。 したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第4号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第11号について 本件商標は、「いなば和幸」の文字を横書きしてなるところ、該文字は同書体、同大、等間隔で表されているものであるから、外観上一体のものとして看取されるばかりでなく、構成文字全体から生ずると認められる「イナバワコウ」の称呼も淀みなく一連に称呼し得るものである。 そして、例え、氏姓の1つとして「稲葉」「稲場」「因幡」があるとしても、氏以外に、地名として「稲場」「因幡」などがあることから、「いなば」の文字部分は、氏としての「稲葉」以外を想起し得るものであり、また、かかる構成においては、平仮名「いなば」が直ちに氏や地名を想起させるものというよりは、むしろ、その構成全体をもって一体不可分の造語と認識し把握されると見るのが自然であるから、本件商標は、その構成文字全体に対応した「イナバワコウ」の一連の称呼のみを生ずるものというべきである。 一方、引用商標1は、「とんかつ和幸」(「とんかつ」に比して「和幸」の文字をやや大きく表してなる。)の文字を筆書き風に横書きしてなるところ、構成中の「とんかつ」の文字部分は、当該商標の指定役務の対象そのものを表す語であるから、それ自体で独立した、出所識別標識としての称呼は生じないものであるから、その構成全体に対応した「トンカツワコウ」の称呼とは別に「和幸」の部分に対応した「ワコウ」の称呼をも生じる。 同じく引用商標2は、別掲2に示すとおり、太線で表された四角形内に「とん」と「かつ」の文字を二段に併記し、その下に太線ゴシック体で「和幸」の文字を横書きしてなるところ、四角形内と「とんかつ」の文字部分は、引用商標1と同様に、それ自体で独立した、出所識別標識としての称呼は生じないものであるから、その構成全体に対応した「トンカツワコウ」の称呼とは別に「和幸」の部分に対応した「ワコウ」の称呼をも生じる。 同じく、引用商標3は、別掲3に示すとおり、正方形の二重輪郭内に「とんかつ」、「恵亭」、「和幸」、「KEITEI」の各文字(それぞれ文字の大きさ、書体を異にする。)を四段に横書きしてなるものであるところ、大きく表された「恵亭」あるいは籠字で表された「和幸」の文字部分が、視覚上分離して看取されるところから、「恵亭」あるいは「和幸」の文字が独立して取引に資される場合があるものというべきであって、これよりは、単に「ケイテイ」あるいは「ワコウ」の称呼をも生ずる。 同じく、引用商標4は、「和甲」の文字を筆書き風に縦書きしてなり、また、引用商標5は、「WAKO」の欧文字を横書きしてなり、そして、引用商標6は、「和光」の漢字を筆書き風に横書きしてなるものであるから、それぞれの文字に対応した「ワコウ」の称呼が生ずる。 同じく、引用商標7は、別掲7に示すとおり、楕円輪郭線内に建物の図形と文字を配した構成からなるところ、その構成中顕著に表された横書きの「WAKO」の文字より、「ワコウ」の称呼を生じ、特に観念の生じない造語と認められる。 そこで、本件商標と引用商標を比較するに、外観においても十分に区別し得る差異を有し、また、観念においては、いずれも特定の観念を有しないものであるから、比較できない。 そして、本件商標から生ずる「イナバワコウ」と引用商標から生ずる「ワコウ」及び「トンカツワコウ」の称呼は、「ワコウ」の音部分を共通にするとしても、語頭において「イナバ」あるいは「トンカツ」の音の有無という音構成上の明らかな差異を有するものであるから、それぞれを一連に称呼するも、その音構成及び音数の差異により十分に区別し得るものである。 してみれば、本願商標と引用商標とは、外観、観念及び称呼のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第15号について (1)引用商標2及び「和幸」の周知性について 引用商標1との区別化を図るために、昭和53年に使用を開始したとする引用商標2は、請求人らが述べるとおり、その構成中の「とんかつ」の文字からなる判子様の四角図形部分に特徴を有しているところ、甲第32号証の21によれば、1993年(平成5年)5月18日には使用されていたことが認められ、現在まで少なくとも16年間以上、平成8年12月25日の登録以降からでも13年間以上にわたり使用されてきており、店舗数は2007年(平成19年)時点では、関東地方(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の207店舗を含め全国で272店舗を数え、これらの店舗で使用された結果、遅くとも本件商標の出願時(平成19年9月19日)には、請求人らの業務に係る役務「とんかつ料理を主とする飲食物の提供」を表示する商標又は店名として、少なくとも関東地方における取引者・需要者の間には広く認識されていたものと認められるものであって、その周知性は登録査定時においても継続していたものと推認できる。 しかしながら、引用商標2は、その構成態様全体として、取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認められるものであり、「和幸」の文字のみで、請求人に係る標章であることを認識されるに至っていたと認めることはできないことは、前記1のとおりである。 (2)本件商標と引用商標2とは、前記3のとおり、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても彼此紛れるおそれのない別異の商標であり、また、引用商標2は、特徴的な態様全体としての周知、著名性は認められるものの、「和幸」の文字のみでの周知、著名性は認められないことからすれば、被請求人が本件商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者・需要者をして、引用商標2を連想または想起させるものとは認められず、その役務が請求人ら又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのごとく、その役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるとはいえないものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 5 請求人の追加主張、商標法第4条第1項第19号について 請求人らは、本件商標について、商標法第3条第1項第4号、第4条第1項第11号及び同第15号に該当するとの無効理由があると主張して本件無効審判を請求したところ、平成22年11月19日付け第2意見書において、「被請求人は、信義則に違反して商標などを申請し、登録を得たことは、請求人らが永年努力して作り上げた信用を、ただ乗りないし横取りして利益を上げようとするものである。」として、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当する旨主張する。 しかし、上記主張は、無効審判の請求の理由において主張されていないものである。 そうすると、無効審判の請求後に新たな無効理由を追加主張することは、請求の理由の要旨を変更する補正にあたるというべきであるから、請求人らの上記無効理由の追加は、商標法第56条において準用する特許法第131条第2項の規定により認めることはできない。 6 結論 以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第4号及び同法第4条第1項第11号並びに同第15号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(引用商標1:登録第3234249号商標) 別掲2(引用商標2:登録第3237537号商標) 別掲3(引用商標3:登録第3237538号商標) 別掲4(引用商標4:登録第3260752号商標) 別掲5(引用商標5:登録第3275877号商標) 別掲6(引用商標6:登録第3299054号商標) 別掲7(引用商標7:登録第3299055号商標) 別掲8(参考商標1:登録第3225630号商標) 別掲9(参考商標2)(色彩については甲第24号証参照) |
審理終結日 | 2011-08-31 |
結審通知日 | 2011-09-05 |
審決日 | 2011-09-26 |
出願番号 | 商願2007-98786(T2007-98786) |
審決分類 |
T
1
11・
261-
Y
(X43)
T 1 11・ 271- Y (X43) T 1 11・ 14- Y (X43) T 1 11・ 262- Y (X43) T 1 11・ 263- Y (X43) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大井手 正雄 |
特許庁審判長 |
野口 美代子 |
特許庁審判官 |
内山 進 小川 きみえ |
登録日 | 2008-06-27 |
登録番号 | 商標登録第5146634号(T5146634) |
商標の称呼 | イナバワコー、イナバ、ワコー |
代理人 | 八木澤 史彦 |
代理人 | 小椋 崇吉 |
代理人 | 三浦 光康 |
代理人 | 三浦 光康 |
代理人 | 三浦 光康 |
代理人 | 正林 真之 |