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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X03
管理番号 1280097 
審判番号 無効2012-890112 
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-26 
確定日 2013-09-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第5270083号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第5270083号商標(以下「本件商標」という。)は、「Pierarejeunne」の欧文字と「ピエラレジェンヌ」の片仮名を二段に横書きしてなり、平成21年2月6日に登録出願、第3類「化粧品」を指定商品として、同年8月21日に登録査定、同年10月2日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。
1 利害関係について
請求人は、「ピエラレジェンヌ」及び「Pierarejeunne」の名称を使用して事業を行っていたところ、平成24年8月29日、被請求人により、東京地方裁判所に本件商標に係る商標権に基づき損害賠償を求める訴え(東京地方裁判所平成24年(ワ)第24872号:以下「本件訴え」という。)を提起された(甲3)。
「ピエラレジェンヌ」及び「Pierarejeunne」は、請求人が自己の名称(商号の略称)、営業名、商品名又は商標として従前より使用していたもので、この使用に対して損害賠償を請求されることは、請求人事業の事業性を大きく左右し、事業の存続に対して甚大な影響を及ぼすものである。
しかも、本件商標は、後記2のとおり、その登録について明らかに無効理由を含んでいるものである。
したがって、請求人は、本件商標の登録の無効を求めることにつき、法律上の利害関係を有するものである。
2 無効理由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第10号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効にすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 請求人会社について
(ア)請求人は、「1.医薬品、医薬部外品、医療品、化粧品、健康用品、日用雑貨品及び食料品等の開発、製造、卸売、販売及び輸出入、2.コンサルティング業務、3.前各号に附帯する一切の業務」を目的として、平成19年8月8日に設立された会社である(甲4)。
(イ)請求人は、「ピエラレジェンヌ株式会社」の商号の下で、自己の商号の略称である「ピエラレジェンヌ」及びそのアルファベット表記である「Pierarejeunne」を商品名(商品シリーズ名)とした化粧品(以下「請求人商品」という。)を、設立当初より現在まで継続して販売している(甲5及び甲6)。
(ウ)なお、「ピエラレジェンヌ」及び「Pierarejeunne」は、イタリア語を語源とする「Piera」、英語を語源とする「re」及びフランス語を語源とする「jeunne」を組み合わせて、「愛によって生まれ変わる麗しき人」という意味を持たせた請求人による造語であり、請求人は、会社の商号として採用するとともに、請求人商品に商標として付してその使用を開始していたものである(甲7)。
イ 請求人と被請求人の関係について
(ア)請求人は、平成19年8月の会社設立前後より被請求人に対して請求人商品の製造を依頼し、被請求人は、請求人の依頼を受けて請求人商品の製造を行い、請求人に納入する立場にあった(甲3)。
(イ)つまり、請求人が、自らの商号の略称を付した請求人商品の販売事業を自ら企画するとともに自ら推進していた事業主体であり、請求人商品の製造委託元であったのに対し、被請求人は、請求人商品の製造委託先であったにすぎない。このことは、甲第3号証第2頁における「原告は、被告から注文を受けて、平成19年7月より、添付別紙1の商品名記載の化粧品の製作を依頼され、それらを開発し、同年10月8日、被告から添付別紙1の商品名・単価・数量・金額記載の化粧品を購入する旨の申込みを受けた(甲1)。」との記載、「原告は同年12月、被告に対し、請求人商品の納入を開始した。原告が被告に対し納品したものは添付別紙2のとおりである。」との記載から明らかなように、被請求人も自認している。
(ウ)また、本件訴えに係る訴状(甲3)に添付された証拠方法の一つである「ピエラレジェンヌ支払遅延に伴う打ち合わせ」と題する書面(甲8)の第2頁には、「当社も予定の入金がない上に、倉庫代も嵩んでおり、最悪、商品はラベルを貼り替えて転売が出来ないか検討を始めている。ついては契約を解除し、販売権を放棄してもらう必要がある。」との記載がある。当該書面は被請求人側で作成された書面であるところ、請求人商品は請求人の依頼により製造したものであり、請求人商品を第三者へと転売するにあたっては、請求人の許諾を得た上で、「ピエラレジェンヌ」及び「Pierarejeunne」なる商標とは異なる商標を付す必要があったことを、被請求人が本件商標に係る登録出願前に認識していたことが明らかである。
ウ 本件商標の登録出願について
(ア)本件商標は、請求人が商品「化粧品」に付して使用している、請求人の商号の略称である「ピエラレジェンヌ」及びそのアルファベット表記である「Pierarejeunne」を上下二段に横書きしてなるものであって、「化粧品」を指定商品としているものである。
(イ)被請求人は、本件商標が請求人の使用する商標であり、原始的に本件商標の登録出願をすることができる正当な立場が請求人にあったことを認識していたにもかかわらず、本件商標が登録されていないことをよいことに、平成21年2月6日に本件商標の登録出願をしたのである。このことは、上記イ(ウ)における甲第8号証の「当社も予定の入金がない上に、倉庫代も嵩んでおり、最悪、商品はラベルを貼り替えて転売が出来ないか検討を始めている。ついては契約を解除し、販売権を放棄してもらう必要がある。」との記載や、甲第3号証第3頁における「原告は、添付別紙4記載の本件商品を在庫として抱えることとなり、その在庫を処分(売却)して損失を回復することにした。しかし、万一、被告が本件商品(審決注:請求人商品)について商標権を取得してしまうと、原告としては、処分(売却)不可能になってしまう。そこで原告は、そのような事態発生を防ぐため、平成21年2月6日、『ピエラレジェンヌ』という商標を、化粧品につき商標出願し、同年10月2日、同商標が登録された。」との記載からわかるように、被請求人が自認している。
(ウ)被請求人は、請求人商品の製造委託先であったにもかかわらず、製造委託元である請求人の同意又は承諾も受けずに、また正当な理由もないのに、請求人が請求人商品に使用している本件商標について登録出願をし、本件登録を受けたものである。このように、製造委託先が、製造委託元の使用する商標について、製造委託元が商標登録していないことを奇貨として、請求人商品及びその他関連商品を指定商品として出願、登録をし、これを排他的に使用せんとすることは、製造委託元等の利益を害するものであるから、著しく社会的妥当性を欠くものである。
(エ)してみれば、被請求人による本件商標に係る登録出願行為、及び本件商標を使用する行為は、公正な商取引の秩序を混乱させ、公序良俗を害するおそれがあるのであって、公正な取引秩序の維持を目的とする商標法の趣旨からして、認められるべきものではない。
エ 小活
上記のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
(2)商標法第4条第1項第10号該当性について
ア 引用商標について
(ア)請求人は、平成19年8月に会社設立して以来現在に至るまで、「ピエラレジェンヌ」及び「Pierarejeunne」の文字からなる商標(以下「引用商標」という。)を使用し、化粧品の販売等を行っている(甲5及び甲6)。
(イ)そして、甲第9号証に示すように、被請求人が本件商標の登録出願を行った平成21年2月6日までに、のべ2,655件の顧客へ引用商標を付した化粧品を販売している。
(ウ)化粧品は、様々な需要者の嗜好や肌質、年齢、用途等にあわせて、多種多様な商品が販売されている。需要者は、それぞれ異なる好みを有しており、肌質や年齢も異なるため、複数の化粧品を比較検討しながら自分にあった化粧品を購入する。そのため、例えば、実際に一つの化粧品が販売された場合、その化粧品が販売されるまでにはかなり多くの需要者がその商品を手に取り、あるいはほかの商品との比較検討を行っているはずである。そうすると、1件の化粧品の販売実績は、その数十倍数百倍の需要者に当該化粧品が認識されていたことを示すものであるといえる。
(エ)したがって、引用商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されていたものであり、その状態は、本件商標の登録査定時においても継続していたものというべきである。
イ 本件商標について
(ア)本件商標は、前記第1のとおりの構成からなるところ、引用商標とは「ピエラレジェンヌ」及び「Pierarejeunne」の文字を同じくするものであり、社会通念上同一といえるものである。
(イ)また、本件商標の指定商品は、請求人が引用商標を使用して販売している「化粧品」と同一の商品である。
ウ 小活
上記のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第10号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効にすべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
1 答弁の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第10号に違反して登録された事実はない。
したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号により、その登録を無効とされるべきものではない。
2 本件商標の取得事情
(1) 被請求人が本件商標を取得した事情は、請求人が提示した甲第3号証(本件訴え)の「請求の原因」における「第1 原告と被告の関係(平成19年7月?同20年8月)」の項目と、「第2 原告による商標登録(平成21年10月2日)」の項目に詳細に記載されているとおりである。
なお、本件訴えにおいて、原告は被請求人であり、被告は請求人である。
(2) 請求人商品を製造したのは被請求人であるところ、請求人が約定代金を支払わないので、被請求人は、請求人に納品されていた請求人商品を回収し、その回収と未納入であった在庫品を合わせて、「ピエラレジェンヌ」名の商品として販売することにした。そして、被請求人は、自己の製造した請求人商品の販売権を守るために、本件商標を取得した。
以上が、被請求人が、自己の製造商品の正当な販売を第三者から守るために、本件商標を取得した事情である。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1) 請求人会社について
請求人は、甲第5号証及び甲第6号証を提示して、自己の商号の略称である「ピエラレジェンヌ」及びそのアルファベット表記である「Pierarejeunne」を商品名(商品シリーズ名)とした化粧品(請求人商品)を、設立当初より現在まで継続して販売している旨主張している。
しかし、甲第5号証及び甲第6号証に示されている商品は、請求人が被請求人の許可なく、訴外ドクターセラム株式会社に製造させた商品(乙1:以下「侵害商品」という。)であって、被請求人が製造した請求人商品ではなく、請求人が設立当初より販売している商品でもない。
また、甲第9号証の受注明細によれば、請求人が甲第5号証及び甲第6号証に示される商品を販売開始したのは、「2008/6/1(平成20年6月1日)」となっているが、これが請求人商品であることを示す証拠はどこにもない。当時、請求人に対する被請求人の請求書は、請求人に配達されたにもかかわらず、長期間受け取られなかったために被請求人に返還されており(乙2)、請求人が継続販売していた証拠はない。
しかも、請求人が商標登録出願をしたのは、平成22年2月19日であって(乙3)、請求人が販売を開始したと主張している日から既に1年8ヶ月以上も経過している。してみると、請求人が、販売開始時より商標を付した化粧品を継続販売する意志及び商標権の重要性を認識していたとは到底考えられない。
(2) 請求人と被請求人について
請求人は、請求人商品を第三者へと転売するにあたっては、請求人の許諾を得た上で、引用商標とは異なる商標を付す必要があったことを、被請求人が本件商標に係る登録出願前に認識していたことが明らかである、と主張している。
しかし、被請求人は、請求人が所在不明になった後、会社自体も商品販売の計画も消滅した可能性が高い、とは思ったものの、万一、第三者に商標権を取得されると、被請求人による転売も、請求人自体の使用も不可能になってしまうため、商標登録出願をし、本件商標を取得した次第である。そもそも、請求人は、商品代金未払いの状態で、所在不明だったのであるから、被請求人が第三者に対して転売するに際し、請求人の許諾を得ることは不可能であった。
(3) 本件商標の登録出願について
ア 被請求人は、自己に所有権が帰属した製造商品の販売を行うに際し、商標権の確保をすべく本件商標を取得したものである。このように、被請求人が本件商標権を取得しなければならない原因が請求人の不誠実な行為にあり、請求人が約定代金さえ支払っていれば、さらには、請求人が商品代金未払いの状態で所在不明となってさえいなければ、被請求人の自己防衛的な商標登録出願をする必要はなかったのである。
したがって、請求人の主張は、自らの不誠実な行為を棚上げした民法第1条第2項の信義誠実の原則に違反する主張といわねばならない。
さらに、請求人が自身の主張のとおり、平成20年6月1日から侵害商品の販売を開始し、相当数を販売したのであれば、平成21年2月6日に被請求人が本件商標を出願するまでの8ヶ月もの期間、出願もせずに放置していたのは極めて不自然である。その上、実際に請求人が別掲のとおりの商標を出願(乙4)したのは、それから更に1年を経過した平成22年2月19日のことであるから、請求人が、商標に関して格別な重要性を認識していたとは到底考えられない。
イ 被請求人による本件商標の出願登録行為は、請求人商品を守り安全に転売するための行為であり、自己の所有する商品を法的トラブルなく販売して、少しでも損失を回復することを目的として行ったものであり、公正な商取引の秩序を混乱させる意図も結果を生じることはなく、公序良俗を害するなど全くあり得ないことであり、商標法の趣旨に反しないことは明白である。
むしろ、商品代金を正当な理由もなく未払いのまま、新たに訴外ドクターセラム株式会社に侵害商品を製造させ、販売した請求人の行為こそ、民法の信義誠実の原則に違背し、商取引の秩序を混乱させ、公序良俗を害するものである。
ウ 以上のように、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当することはなく、無効理由も存在しないことは明らかである。
4 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1) 引用商標について
ア 請求人は、「平成19年8月に会社を設立して以来現在に至るまで、引用商標を使用し、化粧品の販売を行っている。」と主張している。
しかしながら、請求人が平成19年8月に会社を設立したことは認めるが、請求人は、平成20年4月16日以降、被請求人に対する商品代金未払いのまま、所在不明となっており、設立当初より引用商標を使用して、化粧品の販売を行っていた証拠はない。
イ 請求人は、「本件商標の登録出願日までに、少なくとも2,655件の顧客へ引用商標を付した化粧品の販売をした。」と主張している。
しかしながら、甲第5号証(審決注:甲第9号証と思われる。)の1頁1行目の受注番号11223の売上日が、2009/1/31となっているのに対し、検収月は、2008/1/31となっており、売上日より検収月が1年も前になっているなど、資料捏造の疑いがあり、全く信憑性はない。
ウ 請求人は、1件の化粧品の販売実績が、その数十倍数百倍の需要者に当該化粧品が認識されていたことを示す旨主張するが、そのような証拠はどこにもない。
請求人がいう2,655件の販売実績のうち、受注区分が新規の顧客は、わずか587件の22.1%にすぎず、残りの2,068件の受注は、リピートによる購入であり、需要者が多くの比較検討を行った結果、購入したものではないことは、請求人自ら提出した証拠が示唆している。
(2) 本件商標について
請求人は、本件商標は、片仮名とローマ字の二段書きからなる商標であるが、引用商標と社会通念上同一といえるものであり、本件商標の指定商品「化粧品」は、引用商標の使用に係る「化粧品」と同一の商品であると主張している。
しかしながら、請求人の主張は、あくまで引用商標の周知性が立証されていることが前提となるが、引用商標の周知性は立証されていない。
してみると、本件商標と社会通念上同一である引用商標を本件商標の指定商品「化粧品」と同一の商品に使用して販売している請求人の行為は、明らかに本件商標の商標権を侵害するものである。
(3) 以上のように、本件商標は、商標法第4条第1項10号にも該当しない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第10号に違反してされたものではないことから、同法第46条第1項第1号に該当せず、その登録を無効とされるべきものではない。

第4 当審の判断
請求人が、本件審判を請求する法律上の利益を有することについて、当事者間に争いがないので、本案に入って審理する。
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は、商標法第4条第1項第7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。
しかし、同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること、先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(東京高裁・平成14年(行ケ)第403号、平成14年(行ケ)第616号判決参照)。
(2)これを本件についてみると、提出された証拠及び当事者の主張によれば、下記の事実を認定することができる。
ア 請求人は、平成19年8月8日に設立され(甲4)、会社設立前後より被請求人に対して請求人商品の製造を依頼し、被請求人は、請求人の依頼を受けて請求人商品の製造を行い、請求人に納入する立場にあった(甲3及び甲8)。
イ 被請求人が納品した商品について、請求人からの代金未払いが生じたため、被請求人と請求人の間で、平成20年4月16日に、「ピエラレジェンヌ支払遅延に伴う打ち合わせ」がもたれ、支払いに関して善後策の協議が行われた。請求人の代表取締役(甲4)も、同「打ち合わせ」に出席した(甲8)。
ウ 被請求人は、平成20年5月及び同年6月に、製品代金の請求書を請求人あて郵送したが、いずれにおいても、受取人(請求人)が配達物を長期間受領しなかったとして、差出人(被請求人)に返送されている(乙2)。
エ 被請求人は、請求人からの代金支払いがないため、平成20年8月12日、請求人に納品していた製品を回収した(甲3の別紙1ないし5参照)。
オ 請求人と被請求人とが取引関係を有していた間、請求人が引用商標について、商標権取得に向けて何らかの方策を講じたことをうかがわせる事実はなく、商品代金未払いと請求人の所在不明状態となって以降、本件商標の出願・登録の取得時期までの間、請求人が引用商標の使用を継続していたことを示唆する明確な証左はない。
(3)上記(2)のような事情の下で、被請求人が本件商標を登録出願し、商標登録を取得したことは、本件商標が付され既に製品化した商品を保有し、その処理を行う上で、当該商標を安定して使用し得る地位を確保するための安全策という要素をもつものであって、被請求人自らが商標登録出願することが最善の選択であったかどうかはともかく、その商標登録出願から商標権取得に至る行為をあながち不当、不徳義と評価することはできない。また、上記の経緯からすれば、被請求人の本件商標に係る登録出願が、不正の目的でなされたと断定することもできない。
(4)請求人は、「被請求人が、本件商標が請求人の使用する商標であり、原始的に本件商標の登録出願をすることができる正当な立場が請求人にあったことを認識していたにもかかわらず、本件商標が登録されていないことをよいことに、登録出願をした。」旨主張している。
しかしながら、請求人が、引用商標について、設立当初から本件商標の出願時に至る間、商標権取得に向けて何らかの方策を講じた形跡は一切見当たらない上、被請求人からみれば、商品代金未払いと請求人の所在不明の時期にあって、商品(化粧品)について当該商標の使用の継続を請求人が断念したのではないかと思われるような情況下においては、被請求人が、請求人の化粧品に係る業務運営に支障が生ずることを予測した上で本件商標の出願・登録を行ったとも認め難く、製造委託元とその委託先であったという請求人と被請求人との関係を考慮してもなお、当該出願の経緯をもって、社会の一般的道徳観念に照らし、直ちに請求人に対する背信行為であったと評することはできないものである。
(5)以上によれば、被請求人が、本件商標を登録出願し、商標権を取得した行為が著しく社会的妥当性を欠き、その登録を容認することが商標法の目的に反するということはできず、本件全証拠によっても、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する商標であったと評価すべき事情を認めることはできない。
したがって、本件商標の出願がされた経緯を理由として、本件商標が商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるとはいえない。
2 商標法第4条第1項第10号について
(1)請求人は、「設立当初より『ピエラレジェンヌ』及び『Pierarejeunne』の文字からなる標章を使用して、化粧品の販売を行っていた。そして、少なくとも本件商標の登録出願時(平成21年2月6日)までに、延べ2,655件の顧客へ引用商標を付した化粧品を販売している。需要者はそれぞれ異なる好みを有しており、肌質や年齢も異なるため、複数の化粧品を比較検討しながら自分にあった化粧品を購入する。そのため、例えば、実際に一つの化粧品が販売された場合、その化粧品が販売されるまでにはかなり多くの需要者がその商品を手に取り、あるいはほかの商品との比較検討を行っているはずである。1件の化粧品の販売実績は、その数十倍数百倍の需要者に当該化粧品が認識されていたことを示すものであるといえる。したがって、引用商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されていた。」と主張している。
(2)そこで、請求人の主張及び提出された証拠(甲3及び甲8)を併せみると、請求人は、請求人商品の製造を、被請求人に委託していたことが認められ、被請求人は、請求人商品を請求人に納品したと推認される(甲3の別紙1及び2参照)。
また、「パンフレット」(甲5)には、標章「Pierarejeunne」が包装容器に表示された複数の化粧品の現物写真が掲載され、それら現物写真の側に「ピエラレジェンヌ」の文字が表記されているが、時期を示す表記等は見当たらない。そして、請求人に係る「ピエラクラブ入会のご案内」(甲6)には、その表紙に「Pierarejeunne」及び「ピエラレジェンヌ」の文字が表示され、時期を示したと解される「20080619」の記載が認められる。
さらに、請求人の平成21年2月6日以前の売上を示す統計表(甲9)によれば、2008年(平成20年)6月1日から2009年(同21年)2月6日までの間における会員番号を有する顧客が、延べ数で2,655件であったと認めることができる(なお、甲9の売上日及び検収月の日付け欄の当初に「年」の齟齬があるが、甲9を全体としてみれば、同期間内の顧客数を示したものとみることができる。)。
しかしながら、請求人に係る商品の取引がリピーターを含めた顧客の延べ数で2,655件であったとしても、甲第9号証によっては、引用商標を付した商品の売上げを示すものであるか,どの商品の売上げであるかについて何ら証明されていないばかりでなく、その取引地域がどの程度の広域に及んでいるのかなどを具体的にうかがい知ることができない。
また、上記パンフレット(甲5及び甲6)の頒布の数量や展示の具体的な状況を示す証左はないから、これらをもって、直ちに、引用商標が継続して使用されたことが明らかであるということはできない。
さらに、提出された全証拠に徴しても、請求人が商標を継続して使用したとする商品に関して、雑誌や新聞等を介した広告宣伝が行われた形跡は認められないこと、マスメディアとは別に、インターネット等を介しての口コミによる評判の程度等をうかがわせるような事情も何ら示されていない。
してみれば、請求人の主張にもかかわらず、全証拠を総合してみても、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人に係る化粧品を表示する商標として取引者・需要者の間で広く認識されるに至っていたと認めることはできないものである。
(3)したがって、本件商標は、他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識された商標と同一又は類似する商標に該当するものではないから、使用する商品及び指定商品との類否について論及するまでもなく、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものとはいえない、
3 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第10号に違反してされたものには該当しないから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(請求人出願商標(乙4))




審理終結日 2013-07-19 
結審通知日 2013-07-24 
審決日 2013-08-12 
出願番号 商願2009-8113(T2009-8113) 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (X03)
T 1 11・ 22- Y (X03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯田 亜紀 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 梶原 良子
田中 敬規
登録日 2009-10-02 
登録番号 商標登録第5270083号(T5270083) 
商標の称呼 ピエラレジェンヌ、ピエラレジュンヌ 
代理人 早川 裕司 
代理人 村雨 圭介 
代理人 市川 泰央 
代理人 松尾 憲一郎 
代理人 大窪 克之 

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