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審決分類 審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X45
管理番号 1277824 
審判番号 無効2012-890006 
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-01-27 
確定日 2013-07-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第5339140号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5339140号の指定役務中、第45類「個室において異性の客に接触する役務の提供,異性の客に接触する役務を提供する者の派遣,派遣による人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務の提供」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5339140号商標(以下「本件商標」という。)は、「奥様特急」の文字と、その下方に該文字の約4分の1の大きさで表してなる「0930-109」の数字を配してなり、平成22年4月6日に登録出願、第35類「フランチャイズシステムに基づく出張風俗サービス事業の設立に関する指導及び助言,フランチャイズシステムに基づく出張風俗サービスの事業に関する指導及び助言,フランチャイズシステムに基づく出張風俗サービス事業の管理,フランチャイズシステムに基づく出張風俗サービス事業の経営の診断及び指導,フランチャイズシステムに基づく出張風俗サービス事業に関する情報の提供」及び第45類「個室において異性の客に接触する役務の提供,異性の客に接触する役務を提供する者の派遣,派遣による人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務の提供」を指定役務として、同年6月23日に登録査定され、同年7月16日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第96号証を提出している。
1 利害関係について
請求人である有限会社まつしまは、甲第2号証及び甲第3号証の各証明書に示されるように、平成23年6月24日付けで、前営業主体であるスーパーアミューズカンパニー有限会社(以下「S社」という。)から標章「奥様特急」及び「0930(奥様)特急」などを付して主としてホームページにより営業してきた無店舗型性風俗特殊営業の営業全般(知的財産権を含む。)を譲り受け、承継した者であり、現在も標章「奥様特急」及び「0930(奥様)特急」などを用いて本件審判の請求に係る役務と同一又は類似の役務に関する営業を行っているものである。
また、甲第4号証に示されるように、平成24年1月27日付け提出の出願人名義変更届により、商願2010-086389号(不服2011-25497号)「奥様特急」について、S社から請求人にその名義を変更しているものである。
したがって、請求人は、本件審判の請求に関して利害関係がある。
2 本件商標の指定役務の業界での実情について
(1)本件商標の指定役務中の「個室において異性の客に接触する役務の提供,異性の客に接触する役務を提供する者の派遣,派遣による人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務の提供」(以下「本件役務」という。)は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(通称:風営法。以下「風営法」という。)第2条第7項で定める「無店舗型性風俗特殊営業」に該当する営業に係る役務(甲第5号証)であって、一般に「デリバリーヘルス」(略して、「デリヘル」ともいわれる。)といわれる、18歳以上の男性をその需要者とする風俗営業に係る役務である。
(2)本件役務の提供に係る宣伝広告活動については、ほかの一般的な役務よりも非常に厳しく制限されている。
具体的には、例えば、沖縄県では、「沖縄県風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」(甲第6号証)によって、「無店舗型性風俗特殊営業」を行うに当たっては、その広告又は宣伝できる地域が著しく制限されている。
また、その他の各都道府県においても、例えば、新潟県の「新潟県迷惑行為等防止条例」(甲第7号証)、東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(甲第9号証)、大阪府の「大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(甲第10号証)などのいわゆる迷惑防止条例により、不当な客引き行為並びにビラ及びパンフレッ卜の配布などの宣伝広告活動が著しく制限されている。
したがって、本件役務について効果的に宣伝広告活動をするとすれば、インターネットにおける本件役務を提供する者のホームページでの宣伝広告活動が最も有効な宣伝広告媒体といえ、また、本件役務を提供する者を紹介することを業とする紹介サイトによる宣伝広告活動も大変有効な手段となるものである。
(3)本件役務の提供を受けようとする者は、上記のように、18歳以上の男性であって、本件役務のような風俗営業に興味・関心を強くもつ者であることから、本件役務は、その提供を受ける潜在的な実数あるいは母体数が極めて少ないとの特殊性を有する役務である。
また、本件役務の提供を受けようとする者は、一般的には、本件役務の提供を好んで受けていることをできる限り隠そうとする心理が働くものであることから、本件役務は、人から人へ伝播しにくい性質のある役務である。
さらに、本件役務は、本件役務を実際に提供する女性を顧客の求めに応じて、自宅又は宿泊施設などに派遣する必要があり、あらかじめ各都道府県に届け出て確認を受けた待機場所から本件役務を実際に提供する場所に女性を派遣する必要があることから、一般的には狭い地域ごとでその営業がなされている場合が多いものであり、全国的にその営業を展開している者は少ない役務であるという特徴がある。
ちなみに、請求人でさえ、後述のように(甲第15号証ないし甲第52号証)、現時点でも、ある程度の地域での営業をしているが、全国的には営業展開ができていない状況である。
3 商標法第4条第1項10号について
(1)請求人及びS社が、平成20年12月22日以降継続して、「奥様特急」の文字からなる標章(以下「引用商標1」という。)、「0930(奥様)特急」の文字からなる標章(以下「引用商標2」という。)及び「0930特急」の文字からなる標章(以下「引用商標3」という。)を本件役務と同一又は類似の役務に使用してきた主体であることは、甲第11号証ないし甲第13号証に示される各無店舗型性風俗特殊営業届出確認書(それぞれ新潟、沖縄、新潟に係るもの)及び甲第15号証の「ご利用案内」から明らかである。
なお、上記無店舗型性風俗特殊営業届出確認書のうち、沖縄に係るもの(甲第12号証)では、その申請者がXとなっているが、甲第2号証のS社による証明書及び甲第14号証のS社の会社登記簿謄本に示されるように、この者(X)は、S社の当時の代表取締役であり、実質上、S社が営業していたものである。これを、今回甲第2号証及び甲第3号証に示されるように、請求人がその営業全般を譲り受けて承継したものである。
(2)引用商標1ないし3の採用経緯について
引用商標1ないし3は、S社が、本件役務と同一又は類似の役務を提供するに当たり、創作した造語的な言葉である。
すなわち、S社は、本件役務の提供に当たり、本件役務の提供を受ける者に大変人気のある人妻とのプレイを容易にイメージしやすくかつ覚えやすいネーミングとして、引用商標1の「奥様特急」を考え出したものである。
また、引用商標2の「0930(奥様)特急」及び引用商標3の「0930特急」は、引用商標1の「奥様特急」における「奥様」部分を「0930」として「オクサマ」と読ませることによって、本件役務の提供を受けようとする者に印象付けるべく、S社が独自に考え出して採用したものである。
(3)引用商標1ないし3が需要者の間に広く認識されている事実について
引用商標1ないし3が、本件役務に関し、本件商標の登録出願日である平成22年4月6日及びその登録査定日である同年6月23日において、需要者の間に広く認識されている商標となっていることについて、以下に詳述する。
ア 請求人及びS社は、「奥様特急」(http://0930exp.com/)、「沖縄奥様特急」(http://okinawa0930exp.com/)、「上越奥様特急」(http://www.joetsu.0930exp.com/)及び「長岡奥様特急」(http://www.nagaoka.0930exp.com/)の各ウェブサイト(甲第15号証ないし甲第18号証)に関して、各々ホームページを通じて宣伝広告活動をしており、少なくとも、「奥様特急」は平成19年12月から、「沖縄奥様特急」は平成21年5月から、「上越奥様特急」は平成21年12月から、「長岡奥様特急」は平成21年3月から、それぞれサイトを開設し、その営業を開始して現在まで継続している。
さらに、上記各ウェブサイトでは、「0930特急」という標章も多数使用されていることに加え、後述するように、「0930(奥様)特急」も「オクサマトッキュウ」と読ませるように「奥様特急」と併記して、又は単独でも多数使用されている。
イ 上記各ウェブサイトに係るアクセス数は、以下のとおりである。
(ア)「奥様特急」のウェブサイトについては、2009年5月から12月までの約8月間に460,501件のアクセス数、同じく、2010年(1月から12月)に、1,112,446件のアクセス数がある(甲第19号証及び甲第20号証)。
(イ)「沖縄奥様特急」のウェブサイトについては、2009年(1月から12月)に、220,553件のアクセス数、同じく、2010年(1月から12月)に、265,221件のアクセス数がある(甲第22号証及び甲第23号証)。
(ウ)「上越奥様特急」のウェブサイトについては、2009年(11月から12月)に、40,129件のアクセス数、同じく、2010年(1月から12月)に、502,970件のアクセス数がある(甲第25号証及び甲第26号証)。
(エ)「長岡奥様特急」のウェブサイトについては、2010年(2月から11月の途中)に、439,575件のアクセス数がある(甲第28号証)。
ウ 上記したもののほか、請求人は、以下のウェブサイトなども順次開設している(甲第30号証ないし甲第39号証)。
(ア)「3条奥様特急」(http://sanjo.0930exp.com/)
(イ)「仙台奥様特急」(http:/sendai.0930exp.com/)
(ウ)「郡山奥様特急」(http://koriyama.0930exp.com/)
(エ)「長野奥様特急」(http://nagano.0930exp.com/)
(オ)「松山奥様特急」(http://matsuyama.0930exp.com/)
(カ)「福岡奥様特急」(http://fukuoka.0930exp.com/)
(キ)「品川・五反田奥様特急」(http://shinagawa.0930exp.com/)
(ク)「上野・鶯谷奥様特急」(http://www.ueno.0930exp.com/)
(ケ)「池袋・大塚奥様特急」(http://ikebukura.0930exp.com/)
(コ)「熊谷奥様特急」(http://kumagaya.0930exp.com/)
エ 上述のような膨大なアクセス数を有するがゆえに、特に「奥様特急」のウェブサイトについては、著名な検索エンジンである「YAHOO!」及び「Google」で「奥様特急」を検索したところ、最上位にランキングされており(甲第40号証及び甲第41号証)、このことからも、「奥様特急」といえば請求人が使用する引用商標1ないし3であると、本件役務の提供を受けようとする需要者に広く認識されているものであるといえる。
オ 風俗関係の紹介を全国的に行っている業界大手のサイト「FU-TOWN」(http://www.fuzoku-townpage.com/)において、以下のウェブサイトが掲載されている(甲第42号証ないし甲第46号証)。
(ア)「新潟の奥様特急の紹介サイト」では、平成19年12月10日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/9311/」として掲載されている。
(イ)「沖縄の奥様特急の紹介サイト」では、平成21年5月29日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/18607/」として掲載されている。
(ウ)「上越の奥様特急の紹介サイト」では、平成21年12月2日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/20729」として掲載されている。
(エ)「長岡の奥様特急の紹介サイト」では、平成21年3月5日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/21576/」として掲載されている。
これら「外部ページからのリンク」に示されるように、この業界大手のサイト「FU-TOWN」における掲載によって、膨大な数の本件役務の提供を受けようとする者が、上記イのサイトにアクセスしている事実がうかがい知れる。
また、上記「FU-TOWN」においては、以下のウェブサイト(甲第47号証ないし甲第52号証)も掲載されており、これらにも膨大なアクセスがなされている。
(オ)「3条の奥様特急の紹介サイト」では、平成23年1月27日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/24457/」として掲載されている。
(カ)「仙台の奥様特急の紹介サイト」では、平成23年2月14日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/24536/」として掲載されている。
(キ)「愛媛の奥様特急の紹介サイト」では、平成23年2月14日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/24557/」として掲載されている。
(ク)「福島の奥様特急の紹介サイト」では、平成23年2月24日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/24637/」として掲載されている。
(ケ)「長野の奥様特急の紹介サイト」では、平成23年3月16日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/24900/」として掲載されている。
(コ)「埼玉の奥様特急の紹介サイト」では、平成23年3月22日に、「http://www.fuzoku-townpage.com/d/24918/」として掲載されている。
カ S社が宣伝広告活動のために登録した風俗関係を紹介するサイトなどとして、例えば、「風俗動宝」、「日本デリヘル援護会」、「デリ天」、「風ナマTV新潟」、「新潟デリヘル情報」、「新潟デリヘル[携帯版]」、「新潟の風」、「シティヘブンネット新潟」、「フーゾク王」、「携帯FUTOWN」、「デリヘル情報」、「deri-Knight」、「Fu-KING九州版」、「デリヘルMAN-ZOKU」、「デリヘル通」、「ふうログ沖縄」、「フーゾクNavi」等の多数の風俗営業の紹介サイト(甲第53号証ないし甲第69号証)があり、これらの多数のサイトにおいて、引用商標1ないし3が掲載された上で盛んに宣伝広告されている。
キ 雑誌においても、「財界にいがた」の2009年2月号及び2008年3月号において、広告ではなく、風俗業界リポートの記事として、大きな「奥様特急」の見出しとともに、競業他社に比べてかなり安い料金設定となっていることが掲載されている(甲第70号証及び甲第71号証)。
また、沖縄の風俗専門誌である「おとなのTRENDY」の2009年8月号、同年12月号及び2010年の1月号ないし同年3月号において、「奥様特急」に関する広告が掲載されている(甲第72号証ないし甲第76号証)。
さらに、最近の雑誌として、「シェイク」(2011月10月号)、「シティヘブン新潟版」(2011年11月号)、「MAN-ZOKUニュース九州」(2011年12月23日号)、「メンズバリュー」(2011年12月号)、「デリヘルアソビーノ」(2011年12月号)、「ピーチパイ」(2011年12月号)、「シティヘブン四国版」(2012年1月号)、「シティヘブン北陸版」(2012年1月号)、「シティヘブン首都圏版」(2012年1月号)、「Ping」(2012年1月号)などにも広告が掲載されている(甲第77号証ないし甲第86号証)。
ク S社による本件役務と同一又は類似の役務の提供に関しては、上記雑誌「財界にいがた」でも取り上げられているように、競業他社に比べて料金が格安であり、ここに本件役務を受けようとする者から支持される理由があり、この点をもって本件役務を受けようとする者による絶大な支持を受けており、また、競業他社からも広く認識されている。
ケ 上記2において詳述したように、本件役務と同一又は類似の役務の提供に当たっての宣伝広告活動が厳しく制限されている中で、請求人及びS社が、本件役務では非常に効果的な宣伝広告手段であるインターネットの自己のホームページ及び風俗営業の紹介サイトにおいて、上述のように鋭意営業努力をした結果、引用商標1ないし3は、本件役務の提供を受けようとする需要者又は競業他社の間で広く認識されているものであるといえる。
(4)本件商標と引用商標1ないし3との類否について
ア 本件商標は、その構成中の「奥様特急」の漢字部分から「オクサマトッキュウ」との称呼が生じ、同じく、数字部分の「0930-109」は、該漢字部分の語呂合わせとなっているものであり、この部分からも「オクサマトッキュウ」との称呼が生じる。
また、本件商標の構成中の「奥様特急」の漢字部分は、造語的な言葉であるが、その構成全体として「人妻を素早く派遣するイメージ」を暗示させるものであり、「奥様特急」との外観を認識できる。
他方、引用商標1は、漢字4文字「奥様特急」を横書きした構成からなるところ、本件商標と同一の称呼を生じ、かつ、同一のイメージを暗示させるものであり、漢字4文字の「奥様特急」の外観を有している。
また、引用商標2は、数字4文字の「0930」、漢字2文字を丸括弧で囲んだ「(奥様)」及び漢字2文字「特急」を結合して横書きした構成からなり、引用商標3は、数字4文字の「0930」及び漢字2文字「特急」を結合して横書きした構成からなるところ、いずれも引用商標1とともに、又は単独で使用され、「奥様特急」の語呂合わせを含む表記として使用されているから、引用商標2及び3のいずれからも本件商標と同一の称呼を生じ、かつ、同一のイメージを暗示させるものである。
イ 引用商標1ないし3が使用されている役務は、甲第15号証の「ご利用案内」に示される内容からすれば、本件役務と同一又は類似の役務といえる。
ウ 以上に基づいて、本件商標と引用商標1ないし3とを対比すると、本件商標は、引用商標1とは、その称呼、観念及び外観を共通にすることから、明らかに類似する商標であるといえ、また、引用商標2及び3との関係でも、その称呼及び観念を共通にすることから、明らかに類似する商標であるといえる。
また、引用商標1ないし3が使用されている役務は、本件役務と同一又は類似のものといえる。
(5)小括
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
4 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号における「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、審査基準によれば、(a)商標の構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字、図形又は、該商標を指定商品あるいは指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、あるいは社会の一般道徳観念に反するような商標、(b)特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標、(c)特許法以外の法律によってその使用等が禁止されている商標、等が含まれる旨の記載があるが、必ずしもこの審査基準に記載された場合に限定されるべきではなく、例えば、社会の一般道徳観念に反するような場合には、ある商標をその指定役務について登録し、これを排他的に使用することが、該商標をなす用語等につき、商標登録出願人よりもより密接な関係を有する者等の利益を害し、剽窃的行為であると評価することのできる場合などのように、商標法第4条第1項第7号の趣旨に鑑みて商標登録を認めるべきでないものも広く含まれると考えるべきである。
例えば、東京高裁平成14年(行ケ)第94号判決でも、このような場合があることが認められている(甲第96号証)。
(2)我が国の商標法では、先願主義が採用されており、使用主義とは異なり、先に商標登録出願をした者に優先的に商標権を付与する制度とはなっている。
しかしながら、誰もが簡単に採用し得るような言葉であればともかく、造語又は造語的な言葉を採用して市場で商標として使用していた場合にも、その造語又は造語的な言葉の使用者が商標登録出願をしていないということだけで、他人がそのような造語又は造語的な言葉の使用を見て、同一又は類似の商品又は役務について、商標登録出願をし、商標登録された場合に、このような商標登録出願、商標登録を得た者を保護すべきであろうか。
造語又は造語的な言葉を採用する場合には、選択物である商標であるとしても、ある程度の創作がなされるものであり、その言葉自体に独自性を有するものである。このように、該言葉を他人が同時に思いつくことは極めて稀である造語又は造語的な言葉に関して、該言葉の使用者ではない他人が、少なくともその使用者と同一又は類似の商品又は役務に該言葉と同一又はほぼ同一なものを商標として商標登録出願する行為は、信義則上、妥当な行為とはいえないものと考えられる。
すなわち、従来であれば、そのような先行者の使用を見つけることが非常に困難であったともいえるが、現在では、インターネットの急激な発達により、インターネット上での検索が、各種検索エンジンを用いることにより簡単に行うことができ、独自性のある言葉であれば、検索をした場合にヒットする可能性が極めて高いものと考えられる。
したがって、このような状況に至っている現在では、他人が創作した造語又は造語的な言葉を検索し得る状況下で剽窃するような行為をした者に対しては、商標権の取得を認めるべきではなく、また、このような行為に関して、我が国の商標法で無効理由としては明示されていないことをもって、無効理由とはなり得ないと判断するのは妥当ではないから、このような場合には、無効理由としてのいわゆる一般条項である商標法第4条第1項第7号に該当するとすべきである。
(3)本件商標の構成中、漢字4文字の「奥様特急」は、S社が創作した造語的な言葉であり、平成19年12月に本件役務の提供を開始し、その後、上記3(3)で詳述したように、S社のホームページ及び風俗営業を紹介する業界大手のサイト「FU-TOWN」その他の風俗営業を紹介するサイトにおいて宣伝広告をされた結果、本件商標の登録査定日である平成22年6月23日までに、引用商標1ないし3は、本件役務の提供を受けようとする者又は競業他社の間でよく知られた商標となっている。
このような状況の下、本件商標の権利者は、S社が引用商標1ないし3について商標登録を受けていないことに乗じて、既に周知となっている引用商標1ないし3を剽窃して本件商標の登録出願をし、商標権を取得したものであるから、このような本件商標権者の行為は、悪意ある行為であるといえる。
(4)本件役務の場合には、その役務の提供を受けようとする者及びその役務を提供する者の両者が、絶えず性病の危険にさらされており、請求人及びS社のように、各都道府県の公安委員会から風俗営業の許可を受け、しかも、本件役務を提供する者の健康管理に万全を期している者が、本件役務の提供を受けようとする者によって、他社と誤認混同のおそれがあるような行為がなされることは、本件役務の提供を受けようとする者に対して健康被害を与えるおそれがあり、社会公共の利益に反する行為であるといえる。
(5)上記によれば、本件商標は、既に周知となっている引用商標1ないし3を剽窃して商標登録出願、商標権が取得されたものであり、その上、上記本件商標権者による行為は、本件役務の提供を受けようとする者の健康を害させるおそれがあることから、社会公共の利益を害するおそれのある行為であるといえる。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標は、その指定役務中、第45類「個室において異性の客に接触する役務の提供,異性の客に接触する役務を提供する者の派遣,派遣による人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務の提供」について、商標法第4条第1項第10号又は同項第7号のいずれかに該当するものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、何ら答弁していない。

第4 当審の判断
1 利害関係について
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いはなく、当審も請求人が本件審判の請求人適格を有するものと判断するので、以下、本案に入って審理する。
2 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)本件役務の業界における取引実情
請求人の提出に係る証拠及びその主張の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件役務(個室において異性の客に接触する役務の提供,異性の客に接触する役務を提供する者の派遣,派遣による人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務の提供)は、一般に「デリバリーヘルス」(「デリヘル」ともいわれる。)といわれる風俗営業に係る役務であり、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)第2条第7項に定める「無店舗型性風俗特殊営業」に該当するものである(甲第5号証)。
イ 本件役務の営業については、風営法に基づき、都道府県公安委員会の許可を受けなければならないほか、同法及び各都道府県の条例により、様々な制限が課されており、例えば、広告宣伝の地域的制限、ビラ・パンフレット等の配布行為の禁止等が定められている(甲第5号証ないし甲第10号証)。
また、本件役務は、電話連絡等により役務を提供する女性を待機場所から派遣する必要から、狭い地域ごとに営業されることが多く、営業許可に際しても、広告又は宣伝をする場合に使用する呼称、事務所の所在地、客の依頼を受けるための連絡先(電話番号、ホームページアドレス)、待機所の所在地等の届出が必要とされる(甲第3号証及び甲第11号証ないし甲第13号証)。
ウ 本件役務は、その需要者である役務の提供を受けようとする者が、18歳以上の風俗営業に強い興味・関心を抱く男性であって、その潜在的実数は把握し難く、また、需要者が役務の提供を受けることを隠そうとする心理が働くことから、人から人へと広く伝播し難いという特殊性を有するものといえる。
(2)引用商標1ないし3の周知性
請求人の提出に係る証拠及びその主張の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 請求人は、平成23年6月24日にS社から無店舗型性風俗特殊営業の営業全般(知的財産権を含む。)を譲り受け、同年7月22日に無店舗型性風俗特殊営業の届出をし、同年12月5日に新潟県公安委員会の確認を受けている(甲第3号証及び甲第13号証)。
S社は、平成20年12月22日頃から、本件役務と同一又は類似といえる役務について、「奥様特急」の文字からなる引用商標1、「0930(奥様)特急」の文字からなる引用商標2及び「0930特急」の文字からなる引用商標3を使用して無店舗型性風俗特殊営業を行っていた者であり、請求人も、上記営業を譲り受けた後は、引用商標1ないし3を使用して同様の営業を行っている(甲第3号証、甲第11号証及び甲第13号証)。また、S社の前代表者は、平成21年4月8日頃から、沖縄県において、無店舗型性風俗特殊営業を行っていた者である(甲第12号証及び甲第14号証)。
イ 「新潟 人妻デリヘル 0930特急」と題するウェブサイト(甲第15号証:http://0930exp.com/)には、その第1葉及び第2葉に、「駅待ち合わせ型人妻デリヘル/奥様特急Express」、「0930特急 東京エリア随時OPEN!!」、「上越/0930特急」、「長岡/0930特急」、「新潟/0930特急」、「沖縄/0930特急」等の文字が記載されており、第3葉以降には、モデルの写真等とともに、提供に係る役務の概要説明等が記載されている。また、「沖縄 人妻デリヘル 沖縄0930特急」(http://okinawa0930exp.com/)、「駅待ち合わせ型人妻デリヘル 上越0930特急」(http://www.joetsu.0930exp.com/)又は「長岡 人妻 デリヘル 長岡0930特急」(http://www.nagaoka.0930exp.com/)と題する各ウェブサイトにおいても、同様の記載がある(甲第16号証ないし甲第18号証)。
そして、上記各ウェブサイトの写しは、いずれもその右下隅に「2010/11/05」の記載があることに照らせば、2010年11月5日に紙出力されたものと認められるところ、その掲載内容並びに甲第2号証、甲第3号証及び甲第11号証ないし甲第13号証の無店舗型性風俗特殊営業届出確認書の記載内容を総合してみれば、上記各ウェブサイトのうち、「新潟 人妻デリヘル 0930特急」、「駅待ち合わせ型人妻デリヘル 上越0930特急」及び「長岡 人妻 デリヘル 長岡0930特急」と題するものについては、請求人へ無店舗型性風俗特殊営業の営業全般(知的財産権を含む。)を譲り渡したS社により、平成20年12月22日頃から開設されており、同じく、「沖縄 人妻デリヘル 沖縄0930特急」と題するものについては、該S社により、同21年4月8日頃から開設されており、いずれも上記各ウェブサイトと同様の内容が掲載されていたものと推認される。
また、請求人は、「駅待ち合わせ型人妻デリヘル」に係る「3条奥様特急」、「仙台奥様特急」、「郡山奥様特急」、「長野奥様特急」、「松山奥様特急」、「福岡奥様特急」及び「熊谷奥様特急」の各ウェブサイトを開設して営業を行っている(甲第3号証、甲第13号証、甲第30号証ないし甲第35号証及び甲第39号証)。
ウ S社が開設する上記各ウェブサイトのアクセス件数は、例えば、「新潟 人妻デリヘル 0930特急」については、2009年(5月から12月)が約46万件、2010年が約111万件であり、「沖縄 人妻デリヘル 沖縄0930特急」については、2009年が約22万件、2010年が約26万件であり、「駅待ち合わせ型人妻デリヘル 上越0930特急」については、2009年(11月から12月)が約4万件、2010年が約50万件であり、「長岡 人妻 デリヘル 長岡0930特急」については、2010年(2月から11月)が約44万件であるなど、本件商標の登録出願時には既に相当数に達している(甲第19号証、甲第20号証、甲第22号証、甲第23号証、甲第25号証、甲第26号証及び甲第28号証)。
エ 風俗営業関係の店舗情報等を紹介するウェブサイト「FU-TOWN」には、本件商標の登録出願前の2007年(平成19年)12月10日から2010年(平成22年)3月5日までの間に登録されたものとして、「0930(奥様)特急」、「沖縄0930(奥様)特急」、「0930(奥様)特急 上越店」及び「0930(奥様)特急 長岡店」があり、その後、2011年(平成23年)3月22日までの間に登録されたものとして、「激安!奥様特急 3条最安!」、「激安!奥様特急 仙台最安!」、「激安!奥様特急 松山最安!」、「激安!奥様特急 郡山最安!」、「激安!奥様特急 長野最安!」、「激安!奥様特急 熊谷最安!」が、いずれもモデルの写真等とともに紹介されている(甲第43号証ないし甲第52号証)。
オ その他、風俗営業関係の店舗情報等を紹介するウェブサイトである「風俗動宝」、「日本デリヘル援護会」、「デリ天」、「風ナマTV新潟」、「新潟デリヘル情報」、「新潟デリヘル[携帯版]」、「新潟の風」、「シティヘブンネット新潟」、「フーゾク王」、「携帯風俗FUTOWN」、「デリヘル情報」、「deri-Knight」、「Fu-KING九州版」、「デリヘルMAN-ZOKU」、「デリヘル通」、「ふうログ沖縄」、「フーゾクNavi!」にも、「0930(奥様)特急」、「奥様特急」、「沖縄0930(奥様)特急」等として紹介されている(甲第53号証ないし甲第69号証)。もっとも、これらのウェブサイトの写しは、いずれも2010年(平成22年)10月8日又は同年11月5日に紙出力されたものと認められ、直ちに本件商標の登録出願前の事情を示すものとはいい難いが、甲第55号証及び甲第62号証のように、その掲載内容に照らせば、本件商標の登録出願前の状態を示すことが明らかなものもある。
カ 一般月刊誌である「財界にいがた」の2008年3月号及び2009年2月号において、風俗業界の特集記事が掲載され、「奥様特急」について詳細に紹介されている(甲第70号証及び甲第71号証)。
また、風俗専門誌である「月刊おとなのトレンディー」の2009年の8月号及び12月号並びに2010年の1月号ないし3月号に「奥様特急」、「沖縄奥様特急」、「沖縄0930奥様特急」等の標章を使用した広告が掲載されている(甲第72号証ないし甲第76号証)。
その他、本件商標の登録出願後に発行された風俗専門誌ではあるが、「シェイク」(2011月10月号)、「シティヘブン新潟版」(2011年11月号)、「MAN-ZOKUニュース九州」(2011年12月23日号)、「メンズバリュー」(2011年12月号)、「デリヘルアソビーノ」(2011年12月号)、「ピーチパイ」(2011年12月号)、「シティヘブン四国版」(2012年1月号)、「シティヘブン北陸版」(2012年1月号)、「シティヘブン首都圏版」(2012年1月号)、「Ping」(2012年1月号)にも、「奥様特急」の標章を使用した広告が掲載されている(甲第77号証ないし甲第86号証)。
キ 以上に加え、上記(1)の本件役務の業界における取引実情をも併せ考慮すると、引用商標1ないし3は、ほかの一般的な役務に比較して、広告宣伝等の営業上の制約を大きく受け、需要者も限定される本件役務と同一又は類似の役務について、S社により盛大かつ広範に使用された結果、本件商標の登録出願時には既に、S社の業務に係る役務を表示するものとして、この種業界の取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は、本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
そして、S社の業務は、平成23年6月24日に請求人に引き継がれたところ、請求人は、自己の無店舗型性風俗特殊営業において、引用商標1ないし3を同様に使用しており、該業務の引継により、引用商標1ないし3についての上記取引者、需要者間における認識の程度が著しく低下したことなどを認めるに足る事実も見いだせない。
(3)本件商標と引用商標1ないし3との類似性
本件商標は、前記第1のとおり、「奥様特急」の文字と、その下方に該文字の約4分の1の大きさで表してなる「0930-109」の数字を配してなるところ、該数字は、その大きさや位置するところとあいまって、「奥様特急」の文字の語呂合せ的に付記したものとして看取、理解されることも少なくないとみるのが相当である。
そうとすると、本件商標は、その構成中の「奥様特急」の文字部分が、「0930-109」の数字部分に比して、看者の注意をより強く惹き、自他役務の識別標識として支配的な印象を与えるものといえるから、該「奥様特急」の文字に相応する「オクサマトッキュウ」の称呼を生ずるものといえる。
他方、引用商標1ないし3は、前記第2の3のとおり、それぞれ「奥様特急」の文字、「0930(奥様)特急」の文字、「0930特急」の文字からなるものであるところ、引用商標1及び2については、その構成文字に相応して、「オクサマトッキュウ」の称呼を生じるものといえる。
そこで、本件商標と引用商標1とを比較すると、両商標は、「奥様特急」の文字を共通にするものであるから、外観上、類似するものであり、かつ、「オクサマトッキュウ」の称呼を生じる点においても共通するものであるから、称呼上、類似するものである。
また、本件商標と引用商標2とを比較すると、両商標は、前者が、その構成中に「奥様特急」の文字を含んでなるのに対し、後者は、その構成中に「(奥様)特急」の文字を含んでなるものであるから、外観上、類似するものであり、かつ、「オクサマトッキュウ」の称呼を生じる点においても共通するものであるから、称呼上、類似するものである。
さらに、本件商標と引用商標3とを比較すると、両商標は、本件商標の構成中の「0930-109」の数字部分が、上述のとおり、「奥様特急」の文字部分の語呂合せ的なものとして看取、理解され得るものであることに鑑みれば、「0930」の数字及び「奥様」の文字を共通にする点において、外観上、類似するものである。
してみれば、本件商標と引用商標1及び2とは、外観及び称呼において、類似する商標であり、また、本件商標と引用商標3とは、外観において、類似する商標といわなければならない。
(4)本件役務と引用商標1ないし3の使用に係る役務の類似性
本件役務は、前記第2の2のとおり、一般に「デリバリーヘルス」(「デリヘル」ともいわれる。)といわれる風俗営業に係る役務であり、引用商標1ないし3が使用されている無店舗型性風俗特殊営業に係る役務とは、その内容が概ね同一といえるものである。
(5)小括
上記(1)ないし(4)を総合してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものといわざるを得ない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、その指定役務中、「結論掲記の役務」について、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2013-05-20 
結審通知日 2013-05-23 
審決日 2013-06-04 
出願番号 商願2010-27029(T2010-27029) 
審決分類 T 1 12・ 25- Z (X45)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平澤 芳行 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 田中 敬規
梶原 良子
登録日 2010-07-16 
登録番号 商標登録第5339140号(T5339140) 
商標の称呼 オクサマトッキューゼロキューサンゼロイチゼロキュー、オクサマトッキュー、ゼロキューサンゼロイチゼロキュー 
代理人 垣木 晴彦 

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