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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2012900279 審決 商標
異議2013900021 審決 商標

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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 X33
審判 全部申立て  登録を維持 X33
管理番号 1275368 
異議申立番号 異議2012-900328 
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2013-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2012-11-05 
確定日 2013-06-20 
異議申立件数
事件の表示 登録第5511553号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5511553号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第5511553号商標(以下「本件商標」という。)は、「舞姫」の文字と「MAIHIME」の文字とを上下二段に書してなり、平成22年4月16日に登録出願、第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として、同24年6月12日に商標登録をすべき旨の審決がされ、同年8月3日に設定登録されたものである。

2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、その申立ての理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第19号証を提出した。
(1)商標法第4条第1項第10号について
ア 申立人は、大正9年2月9日、登録商標第112227号(指定商品は「清酒」)の登録を受け、その後、度重なる更新手続を経て、長年にわたって商標登録を維持していた(甲第2号証及び甲第3号証)。
また、申立人は、明治27年の創業以来、商品「日本酒」を販売し続けており、大正元年から商標「舞姫」(以下「申立人商標」という。)を商品「清酒」について使用し続けてきたものであり、現在まで、一度たりとも申立人商標の使用が中断されたことはない(甲第4号証及び甲第5号証)。
なお、申立人は、経営状態が思わしくなく、平成21年に民事再生法の適用となるなどの苦難を受け、商標権の存続期間の更新登録の申請を失念したため、上記商標登録は、平成22年2月9日に消滅するに至ったが、申立人商標は、依然として継続的に使用され続けている。
イ 申立人商標は、古くから長野県の主要銘柄として知られており(甲第5号証)、また、独立行政法人酒類総合研究所が行っている全国新酒鑑評会において、平成15年、同17年、同19年及び同20年に入賞(平成19年は金賞受賞)する(甲第7号証)など、近年においても、優秀な清酒を醸造する蔵元を表示する地酒ブランドとしても知られている。特に、申立人は、日本酒造組合中央会などの全国組織に所属し(甲第8号証及び甲第9号証)、地酒ブランドの中では、全国で上位200件以内、長野県内のブランドでも上位10位以内に入っており(甲第10号証)、全国の酒造組合、酒類販売者等の取引者間では、申立人の名称及び申立人商標は広く知られている。
なお、申立人に係る情報及び商品は、申立人のホームページのほか、上記した独立行政法人酒類総合研究所や日本酒造組合中央会のホームページ、長野県酒造組合や長野県酒類販売株式会社のホームページ、「楽天市場」、「日本酒物語」、「日本酒の会」、「日本酒こんしぇるじゅ」、「由紀の酒」などの種々のウェブページにおいて、広く紹介されている。
ウ 近年、日本酒は、消費量が落ち込み続けているため、日本全国の蔵元の数も減少し続けており、その数は、実質的に千数百件程度になっている(甲第11号証)。
他方、日本酒については、従来の大量消費時代と異なり、消費者のブランド志向が強くなり、たとえ醸造量が少なくとも、品質の高いものが注目されるようになってきており、また、消費者は、自らの好みによってブランドを選択するようになってきており、単に有名だからとか、単に消費量が多いからとの理由で日本酒が選ばれることは極めて少ない。
現実に、一部の蔵元が極めて安価な日本酒(一升瓶換算で数百円ないし千円程度)を大量に製造、販売している一方、多数の小規模の蔵元から出荷されるいわゆる地酒は、高額商品を除いても、比較的高額(一升瓶換算で千数百円ないし二千円程度)で取引されていることからすれば、前者と後者の市場は、完全に分離していると考えるべきである。
以上のような状況に鑑みると、現在では、商品「日本酒」については、大幅に減少しつつある数少ない蔵元を代表する地酒ブランドが着目される傾向にあり、しかも、日本酒を愛飲する人々の間では、地方の地酒が珍重され、デパートやスーパーマーケットはもちろんのこと、一般の酒店においても各地の各種の地酒が置かれるなど、地方の地酒の銘柄が全国に広く流通しており、また、地酒については、インターネットを介した広告宣伝や通信販売などの全国的な取引の割合が高いため、ブランド名は、全国の取引者や日本酒愛好者に広く知られている。
エ 申立人の取引量は、近年においては低下傾向にあるものの、年間ほぼ150ないし200kL程度であって、一升瓶に換算して7万ないし10万本程度であるところ、蔵元の半数以上が年間100kL以下の規模であることを考慮すると、地酒ブランドとしては、大きな取引量である。そして、千数百件に及ぶ蔵元のうち、申立人の取引量を上回るのは、上位250の業者にすぎず、その業者の多くは、地酒ブランドというよりは大量生産の商品を主体にする者が多いものと考えられる(甲第12号証及び甲第13号証)。
また、申立人商標は、上述のとおり、全国ブランド中の162位、長野県ブランド中の7位に入っている(甲第10号証)。
したがって、日本酒の銘柄が全国で数千件程度(一説には5,000件前後といわれる。)あること(甲第18号証)を参酌すると、申立人の出荷量の多くを占める申立人商標に係る商品は、地酒ブランドとしての知名度においては上位5%に含まれ、地酒ブランドの取引量においても上位20%に含まれると考えられる。
オ 平成22年度の申立人の清酒の売上は、1億2千8百万円前後であって(甲第14号証)、近年の日本酒低迷の状況下においても、一定の取引量が確保されているところ、これは、申立人の商品が大量に製造される安価な日本酒ではないことを示している。
また、申立人の商品は、主として長野県内で消費されているとはいえ、首都圏においても少なからぬ量が消費されており(甲第15号証)、近年の地酒ブームを反映して、長野県及び首都圏において、一定の業務上の信用が築かれているといえる。
既述のとおり、日本酒の取引において、地方の地酒は、大量に製造される大手ブランドのものとは別異の市場を形成しているため、地酒ブランドは、旧来のような都道府県単位、一地方単位での周知性の認定にはなじまないものであり、しかも、全国的に注目度が高いがために、ブランド名がより重視され、商標本来の機能がより発揮される状況にあるため、取引量では評価できない商標的価値、すなわち、保護されるべき業務上の信用が、大量に製造される銘柄に比べて相対的に高いといえ、このことは、多くの日本酒愛好家が等しく感じるところである(甲第19号証)。
カ 以上のとおり、申立人商標は、取引の実情を勘案すると、特に取引者間で、商品「日本酒」において保護されるべき一定の業務上の信用を有し、近年注目される地酒ブランドとしては、本件商標の登録出願日前から取引者、需要者間に広く認識されていたと認められるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものであり、その登録は、取り消されるべきである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
申立人商標は、上述のとおり、一定の周知度を有するとともに、申立人は、長年にわたり、「舞姫酒造株式会社」の商号を使用し続けている。
したがって、本件商標が商品「日本酒」について使用された場合、単に申立人商標との間で混同を生ずるおそれがあるだけでなく、申立人により醸造された商品であるとの混同を生ずる蓋然性が極めて高い。特に、取引者の多くは、地酒ブランドとしての申立人商標及びその蔵元としての申立人の名称を知っていることから、流通過程において、混乱を招くことが予想される。商標法第4条第1項第15号の趣旨は、基本的には著名商標又は周知商標の保護にあるものの、商標法の目的に照らすと、具体的に出所の混同の蓋然性が高い場合を排除するものではないから、本件商標は、同号に該当し、その登録は、取り消されるべきである。
(3)むすび
近年の地酒ブランドに対する取引者や需要者の認識、取引の態様、市場の構成、商標的価値などの各種の取引の実情に照らすと、申立人商標は、取引者、需要者間で広く認識されていると認められるとともに、本件商標の使用により、具体的な混同を招く蓋然性が極めて高いから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当し、その登録は、取り消されるべきである。

3 当審の判断
(1)申立人商標の周知性について
ア 申立人は、申立人商標が、本件商標の登録出願日前から、申立人の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されている旨主張し、甲各号証を提出しているので、以下検討する。
(ア)甲第2号証及び甲第3号証は、登録商標第112227号の公報の写しと該登録商標に係る特許電子図書館の経過情報検索結果を紙出力(2012年(平成24年)11月30日)したものであるところ、該登録商標は、草書体で表された「舞姫」の文字を縦書きしてなり、第38類「清酒」を指定商品として、大正8年5月12日に出願、同9年2月9日に登録されたものであって、当時、「土橋四郎」を商標権者とするものであり、その後、数次にわたり、商標権の存続期間の更新登録がされ、かつ、商標権者が「舞姫酒造株式会社」に変更されるなどしたが、平成22年2月9日に存続期間が満了し、その商標権が消滅している。
なお、申立人の主張によれば、上記登録商標に係る商標権が消滅したのは、申立人自身が、経営状態が思わしくなくなったことにより、平成21年に民事再生法の適用(甲第6号証)となるなどの苦難を受け、商標権の存続期間の更新登録の申請を失念したためとしている。
(イ)甲第4号証は、「酒蔵で訪ねる信州」(2008年(平成20年)5月2日、信濃毎日新聞社発行)の写し(抜粋)であるところ、その目次によれば、「北信の酒蔵(長野・中野エリア)」(25か所)、「東信の酒蔵(佐久・上田エリア)」(21か所)、「中信の酒蔵(松本・木曽・北安曇エリア)」(23か所)及び「南信の酒蔵(諏訪・伊那・飯田エリア)」(18か所)のうち、「南信の酒蔵(諏訪・伊那・飯田エリア)」の一として、「舞姫 舞姫酒造●諏訪市」が掲載されており、その内容として、「舞姫酒造」の造り酒屋としての創業が明治27年であること、「舞姫」が「桜楓正宗」から名前を改めたのが大正元年であること、主要銘柄が「舞姫」及び「翠露」であって女性向きの後者が好評であること、酒蔵の隣に試飲ができる「酒の蔵まいひめ」と称するショップが存すること、「舞姫」純米吟醸のラベルの文字が同名の小説を書いた作家である川端康成の書であることなどの記載があるほか、店舗等の写真及び所在地を表した地図が掲載されている。
(ウ)甲第5号証は、「日本の伝統産業<物産編>」(昭和53年10月20日、通産企画調査会発行)の写し(抜粋)であるところ、その目次によれば、都道府県ごとに、「年中行事」、「農・水産物」、「工業・工芸品」、「特産・嗜好品」及び「民芸品・玩具」に分けて、多種多様な商品等が掲載されており、そのうちの「長野県」に係る「特産・嗜好品」に含まれる「清酒」の項目において、「代表的銘柄は『大信州』(上水内郡)、『八州鶴』(長野市)、『千曲錦』『初鶯』(佐久市)、『井筒長』(南佐久郡)、『ダイヤ菊』(茅野市)、『舞姫』(諏訪市)、『福無量』(上田市)、『仙醸』(上伊那郡)、『喜久水』(下伊那郡)、『七笑』『中乗さん』(木曽郡)、『岩波』(松本市)、『白馬錦』(大町市)、『雲山』『信濃の花』『志賀泉』(中野市)などがある。」との記載がある。
(エ)甲第7号証は、独立行政法人酒類総合研究所のウェブサイトにおけるトップページ及び同サイト上に存在する「平成15酒造年度」、「平成17酒造年度」、「平成19酒造年度」及び「平成20酒造年度」の「全国新酒鑑評会入賞酒一覧表」のうちの長野県に係るものを紙出力(2012年(平成24年)の11月30日及び12月1日)したものであるところ、これらの一覧表には、各年度において、30ないし40弱の入賞酒が、その商標及び製造場名等とともに掲載されており、そのうちの一として、商標「舞姫」及び製造場名「舞姫酒造株式会社」が掲載されている。
なお、「平成19酒造年度」に係る一覧表においては、特に優秀と認められたものであることを示す「金賞」を受賞(申立人の「舞姫」を含め12の商標に係るものが受賞)した旨の表示がある。
(オ)甲第8号証は、日本酒造組合中央会のウェブサイトにおける同会の概要説明及び同サイト上に存在する「組合員名簿(PR用)」(平成24年1月1日現在)のうちの「長野県酒造組合」に係る名簿を紙出力(2012年(平成24年)12月1日)したものであるところ、該名簿には、84の組合員の名称や住所等のほか、「銘柄」、「代表的な商品名」を記載した項目等が掲載されており、そのうちの申立人に関する欄には、「銘柄」の項目に「舞姫」及び「翠露」との記載、「受賞歴」の項目に「全国新酒鑑評会金賞(2009)」との記載、「代表的な商品名」の項目に「舞姫 純米吟醸」及び「翠露 純米吟醸 中汲み生酒『美山錦』」との記載がある。
(カ)甲第9号証は、独立行政法人酒類総合研究所のウェブサイト上に存在する「日本酒ラベルコレクション」(同研究所が、平成14年度に実施した「価格及び商品ラベルに関する研究」において、全国の蔵元から寄贈された日本酒ラベルに表示されている内容を調査・分析したもの)のうちの長野県に係るもの(54銘柄)の一覧表を紙出力(2012年(平成24年)12月1日)したものであるところ、該一覧表には、「主な銘柄」ごとに、その「製造者」の記載があるほか、「普通酒」、「本醸造酒」、「純米酒」及び「吟醸酒」に該当するラベルの画像が掲載されており、そのうちの申立人に関する欄には、「主な銘柄」の項目に「舞姫(まいひめ)」の記載があるとともに、該当するラベルの画像が掲載されている。
(キ)甲第10号証は、「全国日本酒の口コミ・評価サイト/日本酒物語」と称するウェブサイト上に存在する「日本酒ランキング」及び「長野の日本酒ランキング」(いずれも独自の計算式で算出されたとするものを一覧表形式にまとめたもの)を紙出力(2012年(平成24年)12月2日)したものであるところ、前者においては、200位までのうちの162位の欄に、銘柄名を「舞姫」、口コミ数を「2」、都道府県を「長野県」とする記載があり、また、後者においては、10位までのうちの7位の欄に、銘柄名を「舞姫」、良い評価を「670」、悪い評価を「251」、口コミ数を「2」とする記載がある。
(ク)甲第11号証及び甲第12号証は、それぞれ国税庁のウェブサイト上に存在する資料のうちの「酒類等製造免許場数の推移」及び「製成数量規模別の企業数の推移」とされるものであるところ、前者においては、昭和45年度、同50年度、同55年度及び同60年度並びに平成元年度ないし同22年度の各年度についての品目(清酒、ビール、ウイスキー等)ごとの製造免許場数が一覧表形式に記載されており、また、後者においては、平成の16ないし20の各事業年度についての「100kL以下」、「100?200kL」、「200?300kL」、「300?500kL」、「500?1,000kL」、「1,000?2,000kL」、「2,000?5,000kL」及び「5,000kL超」という製成数量規模企業タイプ(専業割合50%以上)ごとの企業数等が一覧表形式に記載されている。
(ケ)甲第13号証は、申立人の「酒類の製成及び移出の数量等申告書」(平成16年度ないし平成21年度)の写しとされるもの(全7葉)であるところ、該申告書には、申立人が、酒税法第47条第2項の規定に基づき、諏訪税務署長にあてて、「受入数量等(製成数量等、移入数量)」及び「移出数量」等を申告した旨の記載がある。
(コ)甲第14号証は、申立人の「商品順位表」の写しとされるもの(全3葉)であって、該順位表の右上隅には「平成23年01月17日」の記載、同じく、「期間」の欄には、「平成22年01月01日?平成22年12月31」の記載があるところ、該順位表は、「今年」(平成22年)における累計売上金額の多い商品から順に1ないし120の順位が付されている。そして、上位31位までの商品が100万円を超える売上金額となっているところ、該商品の中には、商品名を「舞姫 1800ml」(1位)や「舞姫 辛口 静 1800ml」(2位)とするもののほか、例えば、商品名を「翠露雄町純米吟醸生酒1800ml」(4位)、「翠露雄町純米吟醸生酒720ml」(5位)、「翠露美山錦純米吟醸生酒1800ml」(7位)、「翠露純米酒山田錦1800ml」(8位)、「純米吟醸生酒 300ml」(13位)、「限定純米吟醸酒カートン入72」(19位)、「吟醸 亀仙 720ml」(30位)等とするものも少なからず含まれている。
(サ)甲第15号証は、申立人の「得意先順位表」の写しとされるもの(全8葉)であって、該順位表の右上隅には「平成23年01月17日」の記載、同じく、「期間」の欄には、「平成22年01月01日?平成22年12月31」の記載があるところ、該順位表は、「今年」(平成22年)における累計売上金額の多い得意先から順に1ないし310の順位が付されている。そして、該順位表に記載された得意先の住所によれば、「長野県」所在のものが172と半数以上を占めるほか、「東京都」所在のものが53、「神奈川県」所在のものが11であって、その他の「北海道」、「宮城」、「群馬」、「栃木」、「茨城」、「千葉」、「埼玉」、「山梨」、「静岡」、「愛知」、「滋賀」、「京都」、「大阪」、「兵庫」、「広島」、「山口」、「香川」、「福岡」、「熊本」及び「沖縄」所在のものはすべて10未満にとどまるものである。また、該順位表には、例えば、「舞姫 SHOP」(3位)、「小売り 諸口」(5位)、「小売業諸口」(22位)、「広告 宣伝費」(46位)のように、住所の記載のないものや、申立人の住所と同一の住所であって、「会長 土橋朝子」(182位)、「中村杜氏」(184位)、「社長 土橋潤二」(207位)のように、個人名が記載されているものも含まれている。
(シ)甲第18号証は、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」に係る「日本酒の銘柄一覧」を紙出力(2012年(平成24年)12月2日)したものであるところ、該一覧には、1,500を超える日本酒の銘柄が、都道府県ごとに記載されており、そのうちの「長野県」(88銘柄)の一銘柄として、「舞姫(まいひめ)-舞姫酒造(諏訪市)」との記載がある。
(ス)甲第19号証は、2005年(平成17年)3月28日付け「毎日新聞」(11版、13面)中のコラム記事の写しとされるものであるところ、該記事には、「味覚人飛行物体 美味巡礼の旅/第122回 長野県諏訪市-諏訪に美味あり、美酒もあり」の見出しの下、「ところで、この上諏訪は、全国に名をはせる日本酒の名醸地でもある。『真澄』の銘柄をもつ創業300年の蔵元『宮坂醸造』の酒は、信州を代表する銘酒で、全国新酒鑑評会では常に金賞を受賞するほどの酒質である。町には幾つかの銘酒蔵元があり、『真澄』と並び人気急上昇の酒に舞姫酒造の『舞姫』がある。」との記載がある。
イ 上記(ア)ないし(ス)によれば、申立人商標の周知性については、以下のように認められる。
(ア)申立人である「舞姫酒造株式会社」は、長野県諏訪市の酒造会社であって、明治27年創業、大正元年から申立人商標「舞姫」に係る商品「日本酒」を製造しており、近年における主要銘柄は、「舞姫」及び「翠露」である。
そして、申立人の製造に係る日本酒は、主として長野県において販売されているほか、東京都等においても販売されており、また、独立行政法人酒類総合研究所が主催する「全国新酒鑑評会」において「金賞」を受賞(平成19酒造年度)しており、さらに、新聞や書籍、ウェブサイトに取り上げられたこともある。
(イ)しかしながら、申立人の製造に係る商品の売上については、銘柄を「舞姫」とするものが最多であるとしても、銘柄を「翠露」とするものも相当な金額に及ぶものといえる。
また、申立人の示す平成22年の得意先(310)については、それぞれの売上金額は分かるものの、いかなる銘柄の商品が販売されたかは不明であるばかりでなく、得意先の半数以上(172)が長野県に所在し、東京都に所在するものが53、神奈川県に所在するものが11であるほかは、すべて10未満にとどまるところ、例えば、これらを国税庁関東信越局管内(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、新潟県及び長野県)に所在するものとしてみた場合には184となるが、これを職権調査によるほぼ同時期の同管内における酒類小売事業者(一般酒販店、スーパーマーケット及び百貨店等)の数「15,702」(http://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/shiori-gaikyo/kori/2010/pdf2/01/1-1.pdf)と比較すると、僅少なものといわざるを得ない。
同様に、職権調査による独立行政法人酒類総合研究所のウェブサイトにおける情報(http://www.nrib.go.jp/kan/h20by/h20bymoku_top.htm)によれば、該研究所が主催する「全国新酒鑑評会」は、明治44年の第1回開催以来、平成20酒造年度までに通算97回開催されており、また、申立人が金賞を受賞した同19酒造年度における出品点数は「957点」であるところ、そのうちの入賞酒は「487点」(長野県に係るものは「31点」)、金賞酒は「255点」(長野県に係るものは「12点」)であること(http://www.nrib.go.jp/kan/h19by/h19bymoku_top.htm)に照らせば、申立人の受賞回数は極めて少なく、かつ、金賞の受賞も多数に及ぶ受賞者のうちの一にすぎないものといわざるを得ない。
加えて、申立人の製造に係る日本酒が取り上げられたのは、新聞が1回、書籍が2回にとどまるものであって、その内容も、申立人の商品のみが、ほかの同種商品に比して、顕著となるようなものではなく、また、ウェブサイトにおいて複数回取り上げられた事実はあるものの、それらは、単に申立人が「舞姫」の銘柄の日本酒を製造している事実を示すにとどまるものや、独自の計算式で算出された結果に基づく順位を示すにとどまるものである。
その他、申立人の提出に係る甲各号証を総合してみても、申立人商標が、本件商標の登録出願日(平成22年4月16日)前に、申立人の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして、需要者の間に広く認識されるに至っていたと認めるに足る事実は見いだせない。
(ウ)以上を踏まえれば、申立人商標「舞姫」は、本件商標の登録出願日(平成22年4月16日)前に、申立人の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして、長野県において、需要者の間である程度知られていたとはいい得るものの、同県を含む隣接県ないしは全国において、需要者の間に広く認識されていたということはできない。
(2)商標法第4条第1項第10号及び同項第15号該当性について
本件商標は、前記1のとおり、「舞姫」の文字と「MAIHIME」の文字とを上下二段に書してなるものであるのに対し、申立人商標は、「舞姫」の文字を書してなるものであるから、両商標は、互いに紛れるおそれのある類似の商標といえる。
しかしながら、申立人商標は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願日前において、申立人の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたとはいえないものである。
してみれば、本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する需要者が申立人商標を連想又は想起するとは認められず、その商品が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品について出所の混同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当するものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、日本酒の取引において、地方の地酒は、大量に製造される大手ブランドのものとは別異の市場を形成しており、全国的に注目度が高いがために、ブランド名がより重視され、商標本来の機能がより発揮されることから、保護されるべき業務上の信用が、大量に製造される銘柄に比べて相対的に高い旨主張する。
しかしながら、申立人も述べるとおり、地方の地酒は、現在、デパートやスーパーマーケットのみならず、一般の酒店も含め、全国において広く流通しており、そのような販売場所では、大量に製造される大手ブランドの商品をも取り扱っているというのが実情であるから、地方の地酒と大量製造される日本酒とが別異の市場を形成しているとまではいい難く、また、地方の地酒に対する注目度が高いとしても、そのことをもって直ちに、地方の地酒について使用される商標と大量製造される日本酒について使用される商標との間に、商標法において保護すべき業務上の信用に格差が生じるとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2013-06-11 
出願番号 商願2010-30732(T2010-30732) 
審決分類 T 1 651・ 271- Y (X33)
T 1 651・ 25- Y (X33)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 はるみ 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 田中 敬規
梶原 良子
登録日 2012-08-03 
登録番号 商標登録第5511553号(T5511553) 
権利者 無法松酒造有限会社
商標の称呼 マイヒメ 
代理人 中前 富士男 
代理人 清井 洋平 
代理人 三枝 弘明 

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