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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない Y25
管理番号 1272608 
審判番号 取消2011-300162 
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2011-02-14 
確定日 2013-04-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第4660048号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4660048号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成14年3月8日に登録出願され、第25類「米国製のスウェットパンツ,米国製のベスト,米国製のティーシャツ,米国製のスウェットシャツ,米国製のその他の被服,米国製のガーター,米国製の靴下止め,米国製のズボンつり,米国製のバンド,米国製のベルト,米国製の履物,米国製の仮装用衣服,米国製の運動用特殊衣服,米国製の運動用特殊靴」を指定商品として、同15年4月4日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、商標法第51条第1項の規定により、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第52号証(枝番を含む。)を提出している。
なお、請求人は、本請求を主意的請求とし、「取消2011-300044」を予備的請求とする両請求の選択的併合を希望する、と述べているが、既に該取消審判は、併合をせずに審決がなされている。
また、本件の証拠方法及び主張に関して、上記取消審判と同じくするものは、その証拠及び主張が援用及び併用されている。
1 請求の理由
(1)取消事由
本件商標は、商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきものである。
(2)取消原因
ア 商標法51条第1項による取消審判請求の概要
同条項は、本件請求に則してより具体的に特定すると、下記となる。
[要件1] 商標権者の使用であること
[要件2] 故意の使用であること
[要件3] 指定商品についての使用であること
[要件4] 本件商標に類似する商標の使用であること
[要件5] 商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる使用であること
[要件6] 他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずる使用であること
イ [要件1]商標権者の使用であること
(ア)被請求人の本件商品の販売背景
商標登録データが示すとおり、被請求人は、米国に在住し、本件商標を日本国において登録・所有している。また、同時に、本件においては、被請求人は問題商標「Goodwear(R)」((R)は、実際には記号で、○の中にRが表示されている。以下同じ。)を付した商品の生産者でもある。
被請求人は、米国において2001年5月22日に「Goodwear」なる商標を登録しているが、その前後を問わず、日本向けを除いた同商品の米国での販売実績は皆無に等しく、同ブランドは米国において全く無名である。同社の同ブランドの売上は、全量日本向けの輸出であると断言しても過言ではない伏態である。
したがって、被請求人の意図に反して、米国で流通する同ブランド品が日本へ輸出されたというような販売形態ではなく、日本での購入者(輸入者)が、直接、もしくは、日本向け代行輸出を業とする米国のシッパーを通して、被請求人とのやり取りの中から、被請求人自らが生産し、本件商品を日本へ拡販をしている。
(イ)日本での購入者(輸入者)は不特定多数であること
被請求人は、同ブランドの日本での販売代理店を一社もしくは少数社に限定することなく、不特定多数に販売する形態をとっている。したがって、日本における同商標に係る商標法違反行為および他人の商標権を侵害する行為が、被請求人によって主導・誘導されている場合は、侵害者と看倣される第1輸入者およびその顧客を取り締まる方式では対処が後手後手に回る故、被請求人に直接的に日本法が下せる処罰を持ってまず対処することが効果的である。
そして、本件は、まさにそのケースにあたると考える。
本件において、問題商標を付した商品の第1輸入者として特定できた10社に請求人が送付した「通知書」(甲15の1ないし10)に対するリアクションとして、被請求人の代理人弁護士より複数の第1輸入社に対して送付された「お知らせ」(甲16)が、本件の本質的構造を浮き彫りにしている。
(ウ)商標法改正も、「侵害とみなす行為」の広域認定を支持していること
平成18年法律第55号抄(商標法の改正)により、商標法第2条第2項2号に規定する「標章の使用」の定義に、従来の「輸入」のみから、「輸出」を加えた。同改正は、「日本在住の侵害者が外国の不特定多数に侵害品を販売する行為を、輸出国の水際で防ぐことが、輸入国の水際で不特定多数の輸入者を発見し商品を差止めるより効率的である」という考え方に基づく。
同様の理論を、商標法第51条1項で、侵害を主導する海外在住の日本商標権者兼生産者に適用した場合、同商標権者は日本国内において直接的な商標の使用行為をしていないが、海外において自ら侵害品・違法品を、情を知って、自らが登録商標を有する日本国に輸出する行為が明らかな場合には、輸出国水際で未然に防止する日本商標法上の措置までは取れないとしても、商標法第51条1項の制定趣旨より、同商標権者より同行為の法的根拠として主張されかねない登録商標を取り消す処分は、妥当であると考える。
本件の場合は、後述するとおり、被請求人は、情を知って、商標法第74条の虚偽表示と商標法第37条の侵害と看做される行為の2つをしているから、上記対処が適切であると考える。
(エ)被請求人は、外国在住の日本商標権者としての地位を奇貨として権利濫用をしていること
少なくとも、被請求人が送達した「お知らせ」(甲16)に述べられている様に、被請求人が完全無欠とは考え難い。そうであれば、遅きに失しているとはいえ、商標権者として、または、商品のサプライヤーとして、責任を持って、善後策(例えば、「ネット等の宣伝物等で、『GOODWEAR』、『GOOD WEAR』・『Good Wear』等の表記がなされているものは、即座に『Goodwear』に表記し直すように」・「『登録第4660048号商標』を印刷した下札を商品本体に付帯するように」・「襟ネームを『登録第4660048号商標』につけ直す様に」等)の指示をするのがせめてもの商標権者としての義務であると考える。ところが、「Goodwear」と「Good Wear」は類似しないとの決着がついたなどと誤情報を与え、自らの管理義務の怠慢を棚に上げ、ゆくゆくそのような混同表記を自らの広告宣伝においてなした輸入者およびその顧客に全責任を負わせようとしている。
被請求人が、請求人主張の商標法第74条の虚偽表示と商標法第37条の侵害と看做される行為の全てを被請求人自身の手によって為し、自ら生産し、自ら商標権を有する日本国に輸出するという当該事件の核心的な部分を全て自らの手で為しているにも拘らず、海外で巧みに操っていたという理由だけで、日本の商標法がそれに対して直接的に処罰を与えることが出来ないとしたら、こんな不条理なことはないと考える。
(オ)まとめ
少なくとも、商標法第51条第1項の使用主体の解釈においては、同項が日本国民の私的権利および一般公衆の利益を害した商標権者に対する制裁規定であることに鑑み、刑法第2条を準用し、使用主体の国籍や不法行為原因生成地を問わずに、行為成就地が日本であることを認識していた場合には、同項の使用主体としての地位を認定すべきである。しかも、同項の制裁内容は、日本国が日本の商標法の規定に従い付与した権利の資格剥奪程度のものであるのだから、日本国の産業の健全な発達には不可欠な解釈であると考える。
したがって、本件に関しては、商標権者であり生産者である被請求人が「日本での販売を十分承知していたこと」は明らかであるのだから、使用主体は、商標権者である被請求人であると認定されるべきである。
例えば、輸入者(被許諾者)と輸出者(商標権者)の間で契約が正当に締結されたとしても、実際の輸入品が不法品であった場合、商標法第53条1項により制裁を施した場合、輸入者に非がないにも係わらず、同2項の制裁を受けることとなる。輸出者が第三者である場合は、結果行為の不法性処罰責任の第一対象を輸入者とすることは致し方ないとして、本件の様に商標権者が生産者・輸出者である場合は、商標権者の主犯行為に先立って専用使用権者・通常使用権者が制裁を受ける謂れはないと考える。商標法第53条1項による判断と商標法第51条1項による判断が同一の結果を生じるとしても、商標権者とその専用使用権者・通常使用権者との間の問題は取消審決以降に事実上発生するのであるから、両者の責任の所在をはっきりする形での問題解決が不可欠であると考える。
ウ [要件2]故意の使用であること
(ア)商標法第51条1項における「故意」の要件
「商標・意匠・不正競争判例百選」(別冊ジュリスト NO.188 2007/11)93頁より、下記を引用しておく。
同条項の「故意」の内容については、a 出所の混同を生じるであろう商標の存在を知っていることで足りるとする考え方が通説ともいわれるが(網野誠「商標〔第6版〕」、小野昌延「商標法概説〔第2版〕」)、これ以外にも、b 登録商標に類似する商標の使用によって品質の誤認又は出所の混同を生じるものと認識することで足りるとする考え方、または、c それらを超えて他人の登録商標又は周知商標に近似させたいとの意図が必要とする考え方などがありうる。
この点、最高裁は、中央急救心事件において、「商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用し又は指定商品に類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標を使用するにあたり、右使用の結果商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り、所論のように必ずしも他人の登録商標又は周知商標に近似させたいとの意図をもってこれを使用していたことまでを必要としない」(最判昭和56・2・24判時996号8頁)と判示し、上記bの考え方を取ることを明らかにしている。
(イ)[要件5]に関する故意性
a 虚偽表示の故意性
日本において非登録商標である「Goodwear」に「(R)」を付する商標法第74条違反の虚偽表示行為は、下記事実から判断して、被請求者の過失によるものではなく明確な故意によるものと断言できる。
(a)被請求人の同ブランドは日本での販売以外は皆無である故、米国販売用の襟ネームが誤って日本輸出用に取付けられることもない。また、米国市場で同ブランド商品が流通している事実もない故、米国用商品が二次流通により日本へ流入することもない。
(b)請求人が調査する限り、少なくともここ3?4年の間に日本で販売された同ブランド商品に関しては、通常被服類で商標が付される襟ネームに、被請求人所有の本件商標を一度も使用せず、商標表示として「Goodwear(R)」のみを使用している。請求人が確認できた襟ネームは、別掲2の5種類のみである。
したがって、「Goodwear(R)」の表示が過失によってなされたとの言い訳は通用しない。
(c)日本での「GoodwearUSA」の商標登録申請(商願平11-58779)の拒絶査定理由より明らかな様に、「Goodwear」の商標登録取得は不可能であることを、その理由まで含めて被請求人は熟知していた。
(d)「(R)」の由来が米国連邦商標法(Lanham Act)29条(15USC1111)であることより、米国で業を為し米国での商標登録経験も有する被請求人は、「(R)」が「登録商標」を意味することを熟知していた。その証拠として、請求人が米国においての商標登録を機に、別掲3の様に、ネーム上の表示を「TM」から「(R)」へ変更している。
b 虚偽表示の動機
後述の[要件5]でも説明するが、本件において「(R)」の虚偽表記をする動機は、下記の2点しか考えられない。
[動機1]通常登録不可の商標法第3条1項該当商標に対する虚偽表示であるが故に、同条2項の登録要件である「使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できる」との著名性のお墨付きを獲得しているとの誤解を需要者に生じさせ、その背景にある「商品・サービスの良さ」・「歴史のあるブランド」等のイメージを抱かせる効果を得る為。
[動機2]競合近接商標である引用商標に比して、商標がシンプルかつ商標登録を得ていることより、「伝統・元祖・老舗等」を連想させ、競合近接商標に対して業務上の優位性を獲得する為。
c 虚偽表示の動機の根本的理由
つまるところ、[動機1]は、当該商品自体の絶対評価において「商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる使用」であり、[動機2]は、競合近接商標である引用商標との比較において相対的に「商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる使用」である。
d まとめ
被請求人の使用商標「Goodwear(R)」に含まれる虚偽表記には、被請求人の強い故意性が存在し、そのことから同行為に至る強い動機が裏付けられ、その動機として考えられる全てにおいて、「商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる使用」の根本的理由が確認されるのであるから、[要件5]に関する故意性は、「a」かつ「b」、若しくは、「a」かつ「b」かつ「c」によって、証明されたこととなる。請求人の考えでは、「c」に対する認識は必ずしも故意性の要件ではないと考える。
(ウ)[要件6]に関する故意性
「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずる使用であること」を認識していたことを、下記の2段階において証明する。
a 出所の混同を生じるであろう近接商標の存在を知っていること
下記の2つの事実により、被請求人が「Goodwear(R)」の商標が使用された場合、出所の混同を生じるであろう近接商標の存在を知っていることは、火を見るより明らかである。
(a)本件商標の登録に対する平成15年7月10日付けの請求人よる異議申立(異議2003-90384)の理由の一つとして、同人既登録商標との類似・混同を理由として、提出されていること。
(b)被請求人が、本件商標の登録申請に先立ち申請し、拒絶査定を受けた「GoodwearUSA」に関する「拒絶理由通知書」の拒絶理由として、本件請求人サクラインターナショナル(株)の既登録商標と「同一又は類似であって、その商標に係る指定商品(指定役務)と同一又は類似の商品(役務)についての使用するもの」との理由にて、商標法第4条第1項第11号に該当する旨、通知されていること。
b 本件商標と近接商標の使用対象・需要層等が同一であること
本件商標と近接商標の使用対象商品は、主にTシャツ等を中心とした被服類であり、正確には、近接商標の使用対象商品の部分集合として、本件商標の使用対象商品が存在するという関係である。また、商品テイストも、いわゆるアメリカンカジュアルと同一である。販売地域も日本全国に渡り、販売店舗も重なるものも存在し、更には、需要者層も、男女・年代不問と同一であり、バッティングする。これらのことは、被請求人も十分認識していた。
以上、a及びbより、必然の結果として、被請求人が、「GoodWear(R)」の使用により、「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずること」を認識していたことが証明された。
したがって、[要件6]に関する故意性は証明されたこととなる。
エ [要件3]指定商品についての使用であること
本件商標の使用上問題ありとみなされる商品で請求人が例示するものはすべて、「米国製のティーシャツ」であるので、本件商標の指定商品である。
オ [要件4]本件商標に類似する商標の使用であること
(ア)使用商標について
大協産業のホームページの取扱いブランドの説明(甲1、甲2)には、ブランド紹介ロゴとして別掲4のとおりの構成からなる商標(以下「使用商標1」という。)及びブランド表記・呼称として「GOOD WEAR/グッドウェア」(以下「使用商標2」という。)が使用されている。
また、実際に請求人が、大協産業の直接経営するインターネットショップ「CURRENT PRICE」から2011(平成23)年1月14日に購入した(甲6)ティーシャツ(検甲1)には、当該商品の商標等表示部分の写真(甲5)のとおりの襟ネーム(別掲6、以下「襟ネーム1」という。)があり、同じく同年1月13日に購入した(甲8)ティーシャツ(検甲2)には、当該商品の商標等表示部分の写真(甲7)のとおりの襟ネーム(別掲7、以下「襟ネーム2」という。)があり、その各襟ネーム中に別掲5に示す「Goodwear」の商標(なお、襟ネーム1及び2に表されている「Goodwear」の文字は地色が相違するため、輪郭部分の色彩が異なるものの、実質的に同一といえるものであるから、以下まとめて「使用商標3」という。)が表示されている。
(イ)使用商標と本件商標の類否について
使用商標1は、主たる文字部分が、本件商標の該当部分と全く同一であり、本件商標の「米国国旗を想起させる円形図形部分」を「USA」の文字列に置き換えたものであるので、使用商標1の使用は、本件商標に類似する商標であるということができる。
また、使用商標1の右上には、不鮮明であるものの「(R)」が付記されている。商標権者は米国において「Goodwear」の商標を登録しているが、「GoodwearUSA」の商標は有していない。この点からも、本件商標の通常使用権者である大協産業も本件商標の類似商標として使用商標1を使用したものと推測するのが妥当である。
その他の商標の使用に関しては、関連するブランド説明、表示図柄等を総合的に判断するならば、社会通念上、「類似する商標の使用による混同惹起行為」と判断することが妥当である。
カ [要件5]商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる使用であること
(ア)「Goodwear(R)」は、商標法第74条違反の虚偽表示であること
広告宣伝・商品説明等を総合的に勘案して、「Goodwear(R)」を本件商標の類似使用と判断されるが、単独に商品自体を判断した場合は、「Goodwear(R)」の「(R)」の表示は、明らかに商標法第74条違反の「権利表示・登録表示についての虚偽表示」行為に相当する。
(イ)「Goodwear(R)」の虚偽表示は、不競法第2条1項13号の不正競争行為に該当すること
商標権は、特許権等の創造権と異なり標章権であるので、登録により自他識別力以外の何ら創造的価値を具備しないというのが原則であり、他社同一商標もしくは類似商標を使用しない限り、「(R)」を勝手に付加する虚偽表示行為により、即不正競争行為を生起しないというのが原則である。しかし、他社同一商標もしくは類似商標を使用しない場合でも、通常では登録不可の商標法第3条1項該当商標に対する虚偽表示は、「長年の使用による著名性の獲得」という同条2項の登録要件をクリアーしたということを意味し、登録時点で既に一定の知的財産価値を具備していることを商標法が裏付けているとの効果が発生する故、不正競争を惹起する。それは、「長年の使用による著名性の獲得」というグッドウィル既得の原因として、その商品の品質が販売価格に比してリーゾナブル以上であること、その商品提供の際の役務の内容が優れていること、そして、それらが長年の使用により証明されていること等を想起させるという不正競争である。また、一般名称であるが故に、その虚偽表示の登録商標の背景に、伝統・元祖・老舗等をも連想させる故、類似もしくは競合登録商標が存在する場合には、それらに対する優位性を発揮する。
したがって、通常登録許諾許可の対象から排除されるべき標章に対して、「長年の使用による著名性の獲得」等の審査を経ずして、不当に「(R)にR」等を付すなどの商標法第74条違反の虚偽表示行為がなされた場合は、不競法第2条1項13号の不正競争行為にあたり、商品の内容・役務の質に誤認を生じさせる。
本件商標所有者が本件商標の登録申請に先立ち申請し拒絶査定を受けた「GoodwearUSA」の平成14年3月28日付「拒絶理由通知」(甲11)の拒絶理由からも明らかな様に、「Goodwear」は「商標法第3条第1項3号」に該当する商標である。したがって、同商標に対し不当に「(R)」等を付す商標法第74条の虚偽表示行為は、不競法第2条1項13号の不正競争行為に相当する。
(ウ)不競法第2条1項13号の不正競争行為の2つの側面
不競法第2条1項13号の不正競争行為である「商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる」状態とは、一つには絶対的優位性を誤認させる場合であり、もう一つは近接する類似商標との関係において相対的優位性を誤認させる場合である。
本件においては、「Goodwear」に近接する商標として、引用商標が存在する故、前者の需要者の利益を不当に害する面と、後者の私的権利に対して優位性を不当に発揮する面の両面において、考慮されるべきである。
(エ)まとめ
「Goodwear(R)」の虚偽表記は、不競法第2条1項13号の不正競争行為を構成し、虚偽表記商品単体において「商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる」使用であり、第三者の権利である近接する引用商標に対して、「商品の品質若しくは役務の質の面において、不当に優位性を生じる」使用である。
キ [要件6]他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずる使用であること
(ア)「他人の業務係る登録商標・使用商標」の存在
a 引用登録商標及び引用使用商標について
(a)本件商標と同一区分にある商品区分第25類には、サクラグループ有限会社(以下「サクラグループ」という。)が所有する別掲8のとおりの構成よりなる登録第3259517号(以下「引用登録商標1」という。)が存在する。
(b)本件商標と同一区分にある商品区分第25類には、サクラグループが所有する別掲9のとおりの構成よりなる登録第4604878号(以下「引用登録商標2」という。)が存在する。
(c)本件商標と同一区分にある商品区分第25類には、サクラインターナショナル株式会社(以下「サクラインターナショナル」という。)が所有していた別掲10のとおりの構成よりなる登録第4105562号(平成20年10月8日に登録抹消。以下「引用登録商標3」という。)の禁止権の範囲内の使用として、平成10年秋より継続的に使用され、市場でも認知されている別掲11のとおりの構成よりなる商標(以下「引用使用商標」という。)が存在する。
b 上記(a)ないし(c)の認知度
上記の引用登録商標1及び2並びに引用使用商標(以下、順に別掲8、9及び11であり、まとめていうときは「引用商標群」という。)は、サクラインターナショナル及びその元ライセンシー(複数社)並びにサクラグループ及びその現ライセンシー(1社)により、同一出所の同一ブランド群として使用されており、販売先・価格帯等のブランド・ポートフォリオ上の理由及び商品のデザイン上の制約等により、適宜使い分けされている。
年間売上は、小売ベースで2億ないし10億円程度で推移しており、決して売上高が多いとはいえないが、販売先が、「ビームス」等のファッション業界に大きな影響力を持つ全国の有名セレクトショップ及びカジュアルチェーンの「ライトオン」(2010年11月末時点の店舗数は492店舗)並びに「マックハウス」(2010年12月末時点での店舗数は526店舗)等でもあったことから、市場での認知及び商品の品質に関して、相当高いレベルでの評価を既得している。
また、引用登録商標2(別掲9)の王冠マークのデザインは、MOMAで展覧会を開催される等注目のアーティスト「バリー・マギー」氏によりデザインされたことより、雑誌等でも注目を浴び、また、ファッションブランド「TAKEOKIKUCHI」とのコラボレーション、スケートボード界の第一人者である「MARKGONZALES」のブランドのボディーとしての使用、フランスの有名セレクトショップ「colette」での販売等、話題に事欠かない。
(イ)混同を生ずることについて
a 呼称が同じであること
通常使用権者が使用する使用商標1ないし3(別掲4及び5)及び他人の業務に係る引用商標群(別掲8、9及び11)の呼称は「グッドウェア」である。
使用商標1(別掲4)に関する拒絶理由通知(甲11)によれば、商標登録上の原則として、商品区分第25類における称呼「グッドウェア」は、単に商品の品質を表示するものとして、登録商標の対象から除外されるばかりでなく、全ての人・ブランドが「グッドウェア」を商品品質の一部として使用すると考えていると推測する。
しかし、現実には、アパレル業界及び需要者間で使用される同義の類似語・呼称として、「グッドファッション(good fashion)」、「グッドクゥオリティ(good quality)」等は、ブランド説明・ブランドのサブタイトル・品質説明等で頻繁に使用されるものの、ブランドネーム以外で「グッドウェア」の使用例を見たことがない。
また、アパレル業界及び需要者間では、「グッドウェア」なる呼称を聞いたとき連想するものは、「引用商標群」、「本件商標」、「不知」の3つの可能性が高く、アパレル業界及び特定の需要者間では、「グッドウェア」なる呼称は、商標の自他商品識別機能を全く発揮しない一般語ということではなく、「引用商標群」と「本件商標」との商標の自他商品識別機能を発揮しないというのが現実であると考える。つまり、アパレル業界及び特定需要者間の認識においてであるが、「グッドウェア」なる呼称のみでは、当該両商標の混同を惹起するということである。
b 本件商標の通常使用権者が使用するブランドの英文表記が、引用商標群(別掲8、9及び11)と同一又は類似であること
本件商標の主たるアルファベット部分を英文表記するなら、「Goodwear」となるべきであり、かたや、引用商標群の主たるアルファベット部分を英文表記するなら、「Good Wear」となるべきである。
実際の通常使用権者に係るブランドの英文表記(使用商標2)は「GOOD WEAR」であり、この使用は、品質等を表示する使用ではなく、ブランド名としての使用であることは明らかであり、この使用が引用商標群との混同を惹起するというよりは、引用商標群を想起させるという表現の方が正確であるといえる程、本来表記されるべき「Goodwear」から、引用商標群により近づく方法で修正使用されていることは明らかである。
c 「Goodwear」(使用商標3)が、引用商標群(別掲8、9及び11)と類似すること
請求人が実購入した本件商標に係る商品(検甲1及び検甲2)によれば、ブランド表記は襟ネーム中の「Goodwear」のみであり、商標権者が日本国において取得した本件商標は、「下札」、「洗濯ネーム」、「商品包装」等に一切使用されていない。
また、商品自体も特に変わった特徴はなく、同等の商品は、市場に沢山あるし、引用商標群に係る商品としても同様のものが販売されている。
したがって、通常使用権者が販売した商品上の商標判断基準は、「Goodwear」の表記のみである。
つまり、「Goodwear」のみの商標としての使用は、本件商標のみならず、引用商標群をも想起させるから、本件商標の図形部分を排除した「Goodwear」のみの商標の使用は、引用商標群と混同惹起のおそれが非常に高い。
d 以上のとおり、上記使用は「他人の業務に係る商品と混同を生ずる使用であること」にあたることは明白である。
(3)まとめ
以上のとおり、[要件1]ないし[要件6]の全てが証明されたのであるから、商標法51条第1項の本件登録商標に関する取消要件が充足された。したがって、本件商標は、商標法第51条第1項(審決注:「第53条」の記載は、誤記と認められる。)の規定により取り消されるべきものである。

2 答弁に対する弁駁
(1)商標の構成においても実際の使用においても、本件使用商標「Goodwear」は、他人の業務に係る商品と混同を生じる。
(2)本件使用商標「Goodwear」はいずれの時点においても周知・著名性を獲得していないこと、また、仮に周知・著名性を獲得しているとしても無効である。
(3)「(R)」付加使用行為(虚偽表示)に関して
ア 商標法第74条単体適用の問題点
本条の単体適用に関しては、下記の様な問題点を含んでいる。
(ア)本条の「これ(商標登録表示)と紛らわしい表示」の定義が商標法上も不明確であり、また、商標法施行規則でも何ら定められていないことより、罪刑法定主義の観点から、刑事訴追を困難にしている。
(イ)本条は、商標登録制度の維持を第一義とする公序維持の趣旨である。
一般論でいうなら、商標権は、特許権等の創造権と異なり標章権であるので、登録により自他識別力以外の何ら創造的価値を具備しないというのが原則であるから、「(R)」を勝手に付加する虚偽表示行為により、即被害者が発生するとは限らない故、法論上「被害者なき犯罪」には刑事罰を科すべきでないという謙抑性の観点からも、刑事訴追が積極的になされていない。
以上より、本条制定以来、商標法第74条の罰則規定である同法第80条82条の適用例は存在しないのが現状である。
イ 「質の誤認惹起」の立証要件としての「登録に関する誤認惹起表示」(もしくは、「虚偽表示」)
本件においても、請求人は本審判請求で商標法第74条の適用を目的としているのではなく、登録商標以外の商標「Goodwear」に被請求人が「(R)」を付す行為は、その取引者・需要者の全部もしくは一部をして商標「Goodwear」があたかも登録商標であるかのように錯誤させ、同時に「『Goodwear』が商標法第3条第1項3号に該当する商標である事実」および「『Goodwear』は第三者の引用登録・使用商標の類似にあたる事実」と相俟って、それらの結果・効果は、不競法第2条1項13号の「不正競争行為」・不当景品類及び不当表示防止法第4条1項1号の「優良誤認表示」・不当景品類及び不当表示防止法第4条1項2号の「有利誤認表示」に該当する。
したがって、商標法第51条第1項の「商品の品質若しくは役務の質の誤認を生ずるものをしたとき」との適用条件を充足していると主張しているのである。故に、本請求では、「Goodwear(R)」が商標法第74条に規定の「虚偽表示」に該当するか否かは本請求の必須証明要件ではなく、同「(R)」使用行為が「登録誤認惹起表示」にあたるか否かを問題にしているのである。
端的に表現すると、「Goodwear(R)」が商標法第74条に規定の「虚偽表示」に該当する場合は当然として、該当しない場合においても、取引者および需要者の一部が、ある程度の蓋然性を持って「(R)」の付された「Goodwear」を日本商標法における登録商標であると看做す(単に「誤認惹起表示」である)」のであれば、請求人の当該主張は成り立つ。
ウ 「虚偽表示」と「商品の品質若しくは役務の質の誤認」の関係
被請求人は、「虚偽表示」と「商品の品質若しくは役務の質の誤認」とは全く別概念であると指摘するが、間違いである。それらは「(被請求人の)行為」と「(取引者・需要者に惹起された)間接効果、もしくは、(被請求人の)最終目的」の関係であり、全く無関係ということではない。
また、登録商標に「(R)」を付する場合の効果・目的と、未登録商標に「(R)」を付する場合の効果・目的とは、必ずしも一致しないし、「(R)」が付帯された商標自体の特殊性(周辺事情も含む)によってもその効果・影響は様々である。
本件使用商標「Goodwear」自体の特殊性とは、下記の3点である。
[特殊性1]「商標法第3条第1項3号該当商標であること(かつ、同条第2項に該当しないこと)」
[特殊性2]「第三者の引用登録・使用商標に類似すること(商標法第4条第1項11号該当商標であることを含む)」
[特殊性3]「拒絶査定確定商標であること」
本件の場合は、下記の順序で、その虚偽表示(もしくは、虚偽表示まがい行為)の効果が惹起されている。
(ア)被請求人が「Goodwear」(拒絶査定確定商標)に「(R)」を付す。
<虚偽表示(もしくは、登録誤認惹起表示)行為>
〔直接効果〕
(イ)取引者・需要者の一部が「Goodwear」を日本登録商標と誤解する。
〔間接効果1〕
(ウ)[特殊性1]:「Goodwear」は商標法第3条第1項3号該当商標である。
本件取消審判請求書で説明のとおり、本件使用商標が[特殊性1]を有するが故に、不競法第2条1項13号の「不正競争行為」・不当景品類及び不当表示防止法第4条1項1号の『優良誤認表示』を生起する。
<絶対的な質の誤認惹起>
〔間接効果2〕
(エ)[特殊性2]:「Goodwear」は第三者の登録商標の類似にあたる。
本件取消審判請求書で説明のとおり、本件使用商標が[特殊性2]を有するが故に、不競法第2条1項13号の「不正競争行為」・不当景品類及び不当表示防止法第4条1項2号の「有利誤認表示」を生起する。
<相対的な質の誤認惹起>
(オ)上記(ウ)、(エ)は、商標法第51条第1項にいう「商品の品質若しくは役務の質の誤認」を惹起する行為にあたる。
本件に関して言えば、被請求人が「GoodwearUSA」の拒絶査定理由として[特殊性1]と[特殊性2]を「(R)」使用前に熟知していた事実より、上記(ウ)、(エ)は偶発的効果というよりは、被請求人の最終目的であったと理解する方が自然である。すなわち、被請求人は、「Goodwear」の拒絶査定が確定した([特殊性3])にも拘らず、当該拒絶査定確定商標に「(R)」を付すことにより、「同商標が日本の登録商標である」と取引者・需要者をして錯誤せしめ、更には、「同商標は品質・サービスが優れた老舗ブランドである」と見せかけ、「他者類似商標に対して優位性を確保する」ことを当初からの目的としていたとしか理解しようがない。その様な目的が無いのであれば、登録済の本件商標(商標登録第4660048号)を使用すれば、何の問題も無ったことである。
また、被請求人は、請求人からの誤認混同による取引者・需要者および両当事者の不利益を避ける為の二者間紳士協定締結の打診にも応じようとせず、請求人の2010年12月18日メールにて警告の取消審判請求を念頭においてか、その直後の2010年12月22日に、本件商標と全く同一商標を「商願2010-99687」にて出願している。これ又、商標法第25条で保障する排他的独占権に基づく一商標一権利の原則を犯す、商標法制定の趣旨に反する(商標法第4条第1項7号)二重登録行為である。

3 上申書による主張について
平成23年11月13日付け、同年12月5日付け、同年12月8日付け及び同24年3月21日付けの上申書は、「Good Wear/Goodwearの識別性」及び「混同の証拠」等について、請求書及び答弁書の主張を補充するものである。

第3 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人(商標権者)は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第11号証を提出している。
2 答弁の理由
商標法51条の審判請求が成立するためには、本件使用商標の使用により、他人の業務に係る商品と混同を生ずるか、または、商品の品質の誤認が生じることが必要である。しかしながら、本件使用商標の使用は、このような要件を満たさないものである。
(1)本件使用商標は、請求人の登録・使用する商標とその構成が異なっている。
本件使用商標(乙2)は、「Good」と「wear」を結合してなるもので、本件商標の要部を形成するものである。
(2)本件商標(乙1)及び本件使用商標は、商品「ティーシャツ」について、長年に亙る販売により、日本で周知、著名となっているものである(乙4ないし乙11)。
本件使用商標は、米国登録第2,452,350号米国商標登録原簿にあるように、遅くとも1983年6月14日より請求人により米国で使用が開始され(乙3)、日本では、遅くとも1990年より販売が開始されている。
1993年3月17日付発行の雑誌「POPEYE」に株式会社ソーズカンパニーが本件商標及び本件使用商標に係るティーシャツを取り扱っていることが紹介されている(乙4)。「ファッションブランド年鑑2002年」には、本件使用商標に係るティーシャツの販売店として株式会社百又が紹介され、本件商標に関して年商5億円と記載されている(乙5)。本件商標等の使用に係るティーシャツは、株式会社百又のみでなく、海外の高級品を集めて販売する所謂セレクトショップの代表格である株式会社ビームス等多数の小売店を通じて販売されてきた。株式会社ソニークラブ(2007年より株式会社ライトアップショッピングクラブ)の発行する通信販売カタログ「HD ザ・ヘビーデューティ・カタログ」でも、遅くとも2004年から現在まで紹介されている(乙6ないし乙11)。
(3) 本件使用標章が虚偽表示にあたらないのみならず、そもそも、商品の品質の誤認と虚偽表示は、全く別概念である。
(4) まとめ
以上のとおり、本件審判請求は、商標法51条の要件を満たさないものである。

第4 当審の判断
1 本件審判について
本件審判は、商標法第51条第1項の規定に基づく商標登録の取消しを求める審判であるところ、同項は「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定されている。
そこで、請求人の主張する使用商標の使用行為が上記規定に該当するものであるか否かについて、以下検討する。

2 「使用商標」及び「使用商品」について
(1)請求人は、商標権者の通常使用権者である大協産業が「ティーシャツ」(以下「使用商品」という。)について使用している使用商標1ないし3を、本件商標の使用商標であるとしている(なお、襟ネーム1及び2についても併せて検討する。)。
(2)使用商標1及び2(別掲4)について
使用商標1は、「GoodwearUSA」の文字よりなり、また使用商標2は「GOOD WEAR」及び「グッドウェア」の文字よりなるところ、請求人が使用商標1及び2が使用されているとする甲第1号証は、大協産業のホームページ上の「取扱いブランド一覧」のページであり、「アメリカブランド」、「ヨーロッパブランド」等として各種のブランドが多数表示され、大協産業が日本総代理店である旨の記載がされている。
(3)使用商標3(襟ネーム1及び2:別掲5)について
使用商標3が表示された襟ネーム1及び2は、検甲第1号証及び検甲第2号証として提出されたティーシャツに付されているものである(甲5、甲7)。
襟ネーム1の1枚目表面には、「100% COTTON」、「XS」、「Goodwear(R)」、「Exclusively for monogram Corp.」及び「MADE IN U.S.A.」の文字が、また、2枚目裏面には、「コットン 100%」、「TAIKYO SANGYO(株)」及び「MADE IN U.S.A.」の文字が表示されており(甲5)、また、襟ネーム2の1枚目表面には、「100% COTTON」、「Goodwear(R)」、「MADE IN U.S.A. for T’S CUSTOM MADE」の文字が、また、2枚目裏面には、「COTTON 100%」、「大協産業(株)」、「東京都渋谷区神宮前・・・」及び「MADE IN U.S.A.」の文字が表示されている(甲7)。
以上によれば、使用商標1及び2(別掲4)は、大協産業によって、同社のホームページにおいて使用されているものである。
そして、使用商品に付された襟ネーム1及び2には、使用商標3(別掲5)と大協産業の名称等が表示されているものであって、当該使用は、米国における製造者又は販売者、及び日本における取扱者(出所)を表示したものといえるものであるから、使用商標3は、製造者又は販売者である商標権者、及び取扱者である大協産業が、それぞれ自己の商標として、商品「ティーシャツ」について使用していたものと認めることができる。

3 商標権者の使用について
(1)商標権者と大協産業との関係
上記2によれば、使用商品に縫い付けられた襟ネームの1枚目表面に表示された「Goodwear(R)」中の「(R)」は、一般的に「商標登録表示」とされるものであることから、当該部分は商標を表示したものと認識されるとみるのが相当であり、また、2枚目裏側に「TAIKYO SANGYO(株)」(襟ネーム1)あるいは「大協産業(株)」及び住所(襟ネーム2)の表示がされていることからみれば、商標権者は、使用商品の製造の段階において、大協産業が日本における取扱者(出所)であることを十分に意識していたと認められるものである。
また、当該ティーシャツが表示されたホームページ上の「こちらの商品は、弊社が日本人向けに別注したスリムフィットタイプで、・・・日本国内で後染め加工を施した限定アイテムになります。」(甲3)、「今回、カレントプライスではメーカーへ形の依頼をし、日本人の体型に合わせたTシャツを作りました。また、日本国内の優れた工場で後染め加工を施し、各種プリントも揃え完全限定リミテッドなTシャツを作りました。」(甲4)の商品詳細の記載からすれば、大協産業は、商標権者に対し製品の規格等について個別の注文を行い、そして、アメリカで製造された使用商品について、日本においてさらに後染め加工を行った上で販売していると認められるものであることからすれば、商標権者と大協産業は製造の段階から非常に緊密な関係にあると認められ、さらに、大協産業のホームページ上に「日本総代理店」と表示されている。
そうとすれば、商標権者は大協産業が使用商標1ないし3(別掲4及び5)を使用するにあたり、何らかの許諾を与えたであろうことは十分に推認できるものであり、また、本件商標と使用商標3(別掲5)は後記4のとおり類似の商標と認められるものであることからして、大協産業は、本件商標に係る通常使用権者であると推認することができる。
(2)商標権者の使用
ところで、商標法第2条第3項が同法上の標章の「使用」の定義を規定した趣旨は、商品に標章が表示される場合において、それが何人の使用と認められるものであるかについては社会通念に委ねるとともに、同法の目的との関係を考慮し、特に商品の識別標識として機能すると認められる事実についてのみ、これを「使用」であると定義することにより、同法上の「使用」としての法的効果を認めるべき行為の範囲を限定したものであると解される。そして、商標権者等が商品に付した商標は、その商品が転々流通した後においても、当該商標に手が加えられない限り、社会通念上は、当初、商品に商標を付した者による商標の使用であると解されるから、その商品が実際に何人によって所有、占有されているとを問わず、同法第2条第3項に該当する行為が行われる限り、その行為は、当初、商品に商標を付した者による商標の「使用」行為であるというべきである。これを本件のような我が国で商標登録を有する外国法人との関係についてみれば、商標権は、国ごとに出願及び登録を経て権利として認められるものであり、属地主義の原則に支配され、その効力は当該国の領域内においてのみ認められるところから、当該外国法人が商標を付した商品が我が国外において流通している限りは、我が国の商標法の効力は及ばない結果、我が国の商標法上の「使用」として認めることはできないものの、その商品がいったん日本に輸入された場合には、当該輸入行為をとらえ、当該外国法人による同法第2条第3項第2号にいう「商品に標章を付したものを輸入する行為」に当たる「使用」行為として、同法上の「使用」としての法的効果を認めるのが相当である。(東京高裁 平成15年6月2日判決言渡 平成14年(行ケ)第346号)
そうとすれば、本件においては、上記(1)のとおり、本件商標の商標権者が製造又は販売する本件商品について、米国における製造者又は販売者として、使用商標3を表示した襟ネームを付した使用商品(ティーシャツ)を、少なくとも「日本総代理店」としての取引先である大協産業を通じて、これを販売していた事実、及び販売を推認できるから、その販売行為をもって、商標法第50条に規定する商標権者による本件商標の「使用」があったものと認めることができるというべきである。

4 本件商標と使用商標の類否及び本件商標の指定商品と使用商標に係る商品の類似について
(1)本件商標と使用商標の類否について
本件商標は、別掲1に示すとおり、「AMERICAN BRAND」及び「Established 1983」の文字を上下に有する円形の内側に、アメリカの国旗をイメージさせる円形図形を配し、さらに、上記二重の円形の中央を横切るように、文字全体に金色の輪郭線を有する、赤色でやや大きめに表された「Goodwear」の文字を配してなるものである。そして、当該「AMERICAN BRAND」及び「Established 1983」の文字は、それぞれ「アメリカのブランド」、「1983年設立」であること意味するもので、自他商品の識別標識としての機能を有しないものであり、また、「Goodwear」の文字部分は、「good」及び「wear」がそれぞれ「良い」、「衣服、着用」等の意味を有する親しまれた英語であって、全体として「良い被服(着るもの)」程の意味合いを容易に認識させるものであるから、当該文字自体は、その指定商品との関係においては、自他商品の識別標識としての機能は弱いものであるが、上記のとおり、金色の輪郭線を伴うやや特徴的な書体をもって赤色で、中央部分に大きく顕著に表してなるものであることから、自他商品の識別力はないとはいえないものである。
他方、上記2及び3によれば、使用商標1及び2(別掲4)は、大協産業のホームページでの使用によるものであるから、商標権者の使用と認められるものは、襟ネーム1及び2に使用されている使用商標3(別掲5)である。
そこで、使用商標3と本件商標及びその指定商品との類否について検討する。
大協産業が販売する使用商品に付している襟ネーム(検甲1及び甲5、検甲2及び甲7)に使用された使用商標3「Goodwear」は、本件商標と同様に「良い被服(着るもの)」程の意味合いを容易に認識させるものであって、その使用商品との関係においては、自他商品の識別標識としての機能は弱いものの、当該襟ネームにおいて、輪郭線を伴い(襟ネーム1については、画像が不鮮明でであるが、白色の輪郭部分を有している。)、やや特徴的な書体をもって赤色で大きく表し、「(R)」を付加して表されていることから、自他商品の識別力がないとはいえないものである。
また、本件商標中の輪郭線を伴い赤色で比較的大きく顕著に表された「Goodwear」の文字は、文字自体としては、自他商品の識別標識としての機能は弱いものではあるが、当該文字部分のみからなる使用商標3(別掲5)と、その特徴的な文字の形、輪郭部分及び色彩を同一にするものであるから、両者は、類似の商標ということができる。
したがって、使用商標3は、本件商標と同一の商標ということはできず、本件商標に類似する商標というべきであるから、本件商標の専有権の範囲を超えた、いわゆる禁止権の範囲に属する商標の使用といわざるを得ない。
(2)本件商標の指定商品と使用商標に係る商品の同一(類似)性について
前記2(3)のとおり、使用商標3が使用されている「ティーシャツ」の襟ネーム中の「MADE IN U.S.A.」の文字の表示から、商標権者は、使用商標3を「米国」製の「ティーシャツ」に使用しているものと認められるものであり、本件商標の指定商品である「米国製のティーシャツ」の範ちゅうに含まれるものであるから、本件商標の指定商品と同一の商品に使用するものである。

5 商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる使用について
請求人は、「単独に商品自体を判断した場合は、『Goodwear(R)』の『(R)』の表示は、明らかに商標法第74条違反の『権利表示・登録表示についての虚偽表示』行為に相当する。」及び「不当に『(R)』等を付すなどの商標法第74条違反の虚偽表示行為がなされた場合は、不競法第2条1項13号の不正競争行為にあたり、商品の内容・役務の質に誤認を生じさせる使用であり、第三者の権利である近接する引用商標に対して、『商品の品質若しくは役務の質の面において、不当に優位性を生じる』使用である。」旨を縷々主張する。
しかしながら、本条項は、「指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって」、「商品の品質若しくは役務の質の誤認・・・を生ずるものをしたときは」とされており、登録商標若しくはこれに類似する商標の使用との関係において、その商品の品質若しくは役務の質の誤認を生ずるものをしたときに、この規定が該当するのであって、あくまでもその該当する範囲は、登録商標若しくはこれに類似する商標と商品の品質及び役務の質であって、「(R)」のような記号表示の使用に関するものではない。
そうとすれば、請求人の主張する内容は、適切でなく、妥当なものとはいえない。

6 他人の業務に係る商品との混同について
(1)請求人の使用に係る「引用商標」について
請求人の提出に係る証拠によれば、請求人は、図形及び「good wear」、「Good Wear」の文字を含む又は文字からなる引用登録商標1及び2(別掲8及び9)を所有し、当該引用登録商標2(別掲9)及び引用登録商標3(別掲10)中の図及び「Good Wear」の文字を含む引用使用商標(別掲11)を、商品「ティーシャツ」他について使用していることが認められる。
(2)周知、著名性について
請求人は、「引用商標群(別掲8、9及び11)に示すが付された製品の年間売上げは小売ベースで2億ないし10億円であり、『ビームス』等の有名セレクトショップや『ライトオン』や『マックハウス』等の店舗数の多いカジュアルチェーンにおいて販売されていることから、市場での認知は相当高いレベルでの評価を既得している」旨主張し、また、広告宣伝あるいは商品の販売の証拠として、ライトオンの2011年春用のカタログ(甲第28号証)及びシャツ(甲第29号証)並びにティーシャツ1および2(甲第30号証及び甲第31号証)の写真を提出している。
しかしながら、売上げの事実を示す証拠等は何ら示されておらず、また、仮に請求人が主張するとおりの売上げがあったとしても、平成22年3月時において4兆円を超えるアパレル業界(業界動向サーチ:http://gyokai-search.com/3-apparel.htm)の規模からすれば、当該売上高は多いものはいえず、さらに有名セレクトショップやカジュアルチェーン等において取り扱う商品数は決して少ないとはいえないことからすれば、単に当該ショップで販売されている事実をもって市場での認知度が高いということはできないものである。
したがって、請求人に係る主張や提出に係る証拠をもってしては、引用商標群が需要者に広く認識されているものと認めることはできない。
(3)使用商標1ないし3(別掲4及び5)と引用商標群(別掲8、9及び11)との関係
使用商標1及び2は、別掲4に示すとおり、前者は「GoodwearUSA」、後者は「GOOD WEAR」及び「グッドウェア」の文字よりなり、そして、使用商標3は、別掲5に示すとおり、「Goodwear」の文字よりなるものである。
一方、引用商標群は、別掲8、9及び11に示すとおり、図形及び「good wear」あるいは「Good Wear」の文字とを結合してなるものである。なお、引用登録商標2(別掲9)以外の商標には「DAILY CLOTHING」等のそれ以外の文字も含まれている。
そこで、使用商標1及び3(別掲4及び5)と引用商標群とを比較するに、両者は「Goodwear」の文字を共通にするものではあるが、当該文字は、その文字自体の意味からすれば「良い被服(着るもの)」程度を表すものであって、自他商品の識別標識としての機能は弱いものである。そして、使用商標1及び3と引用商標群の当該文字部分は、輪郭線(輪郭部)の有無、書体及び色彩が著しく相違するものであり、さらに、図形の有無という明らかな差異を有するものであることからすれば、両商標の類似性は弱いといえるものである。
次に、使用商標2(別掲4)と引用商標群とを比較するに、両者は構成中の「Goodwear」の文字を共通にするものではあるが、当該文字は、その文字自体の意味からすれば「良い被服(着るもの)」程度を表すものであって、自他商品の識別標識としての機能は弱いものである。そして、使用商標2と引用商標群の当該文字とは書体を異にするものであり、また、図形の有無という明らかな差異を有するものであることからすれば、両商標の類似性は弱いといえるものである。
(4)小括
前記(2)のとおり、引用商標群は需要者に広く認識されているものとはいえず、かつ、使用商標1ないし3(別掲4及び5)と引用商標群(別掲8、9及び11)は、前記(3)のとおり共通する「Goodwear」の文字部分の意味合い、あるいは輪郭線(輪郭部)の有無、書体及び色彩の違いあるいは図形の有無という明らかな差異を有することからして、両者の類似性は弱いといえるものであるから、使用商標1ないし3をその使用商品へ使用したとしても、これに接する取引者、需要者が、引用商標群ないしは引用商標権者を連想、想起することはないものというべきであって、使用商品についての使用商標1ないし3の使用は「他人の業務に係る商品であるかのごとく、商品の混同を生ずるものをしたとき」には当たらないものといわなければならない。
なお、請求人は、甲第49号証ないし甲第52号証のインターネット情報をもって商品の混同を生じている証拠としているが、その内容を見ても、例えば、「当店取扱品は米国工場生産の『GoodWear』です。」、「でも、『GLMARKET』さんが扱っているのは、米国生産品の本場商品です!」など、米国製であることを内容としたものであって、請求人の商品が取り上げられているものでもなく、実際に商品の混同が生じているものということができない。

7 故意について
商標法第51条第1項の規定による取消審判は、ただ単に、類似した商標を有する者との関係を調整する規定ではなく、一般公衆の利益を害するような登録商標の使用をした場合についての制裁規定と解される。そうとすれば、商標登録の適否について審理する無効審判等とは異なり、一般公衆の利益を害するような登録商標の使用の事実の存否が前提となり、これが認定されない限り、仮に請求人の所有又は使用する商標と本件商標とが類似するものであるとしても、それ自体をもって、商標登録を取り消す理由とはなし得ないものである。
そして、被請求人の使用商標が付された商品については、請求人の主張及びその提出された証拠(乙4ないし乙11)によれば、少なくとも、1993年から現在に至るまで継続して販売されているものと推認される。
加えて、被請求人の使用商標3(別掲5)は、請求人の使用商標群(別掲8、9及び11)に近づけるような態様に変更したものでもなく、その使用商標は、いずれも本件商標の該当する文字部分が社会通念上同一視し得るものであり、登録商標の使用にあたって通常変更される態様にとどまるというべきものである。
また、引用商標群は、別掲8、9及び11に示すとおり、図形及び「good wear」あるいは「Good Wear」の文字とを結合してなるものであるところ、これらの文字は、その文字自体の意味からすれば「良い被服(着るもの)」程度を表すものであって、自他商品の識別標識としての機能は弱いものであるから、図形部分に独創性を有しているとしても、その文字部分の独創性は低いものというべきである。
そうすると、本件において、混同を惹起する商標の使用の事実があったと認められないこと上記6のとおりであり、さらに、引用商標群の著名性は認められず、該文字部分の独創性にしても決して高いといえるものではなく、引用商標群の文字部分の字体とは明らかに相違し、印象の異なる使用商標3は、本件商標の該当する文字部分をほとんど変更していない。
してみれば、たとえ、称呼を同じくする商標であるとしても、請求人の使用商標群に近づけるような態様に変更したものでもなく、また、請求人の商標の使用実績、その著名性を勘案すると、被請求人が請求人の使用商標群を認識したうえで使用商標3を採択、使用したということはできない。
さらに、使用商標3の使用が請求人の業務に係る役務と混同を生じさせることを、被請求人が認識していたと認めるに足りる的確な理由及び証左はみいだせない。
したがって、被請求人による使用商標3の使用について、その指定商品に使用するにあたって、商標法第51条第1項所定の「故意」を認めることはできないというべきである。

8 まとめ
以上のとおり、使用商標1及び2(別掲4)は商標権者の使用とは認められず、また、使用商標3(別掲5)の使用が商標権者の使用と認められるものであって、本件商標と使用商標3の商標が類似し、その指定商品と同一の商品に使用していることが認められるとしても、使用商標3の使用については、故意が認められず、かつ、商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務にかかる商品であるかのごとく、その商品の出所について混同を生ずるものをしたときには該当しない。
したがって、商標権者による使用商標1ないし3の使用に関しては、商標法第51条第1項の要件を欠くものであり、本件商標の登録は、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)(色彩は原本参照)



別掲2(襟ネーム5種類)(色彩は原本参照)



別掲3(「TM」から「(R)」への変更)(色彩は原本参照)



別掲4(大協産業ブランド紹介ロゴ)
使用商標1(色彩は原本参照)


使用商標2
「 GOOD WEAR 」の欧文字
「 グッドウェア 」の片仮名


別掲5(使用商標3)(色彩は原本参照)
(襟ネーム1)


(襟ネーム2)



別掲6(襟ネーム1) (色彩は原本参照)



別掲7(襟ネーム2)(色彩は原本参照)



別掲8(引用登録商標1)



別掲9(引用登録商標2)



別掲10(引用登録商標3)



別掲11(引用使用商標)(色彩は原本参照)





審理終結日 2012-04-05 
結審通知日 2012-04-10 
審決日 2012-04-23 
出願番号 商願2002-18274(T2002-18274) 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (Y25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 保坂 金彦 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 井出 英一郎
渡邉 健司
登録日 2003-04-04 
登録番号 商標登録第4660048号(T4660048) 
商標の称呼 アメリカンブランドグッドウエア、グッドウエア 
代理人 中田 和博 
代理人 柳生 征男 
代理人 青木 博通 

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