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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 030
管理番号 1268436 
審判番号 取消2011-300586 
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2011-06-27 
確定日 2013-01-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4091664号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4091664号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4091664号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成7年12月8日に登録出願、第30類「小麦・大麦・オート麦・スピルリナ・クロレラ・花粉・緑茶・海草・種子類・ほうれん草・朝鮮人参・アルファルファ等を主成分とした粉末状の加工食料品」を指定商品として、平成9年12月12日に設定登録され、その後、同19年8月28日に商標権存続期間の更新登録がされ、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第28号証(枝番を含む。なお、甲号証において、枝番を有するもので、枝番のすべてを引用する場合は、以下、枝番の記載を省略する。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標の商標権者(以下「商標権者」という。)が遅くとも平成19年から平成22年ころまで使用していた別掲(2)のとおりの構成よりなる商標(以下「使用商標」という。)は、本件商標に類似する商標であって、故意に、本件商標に係る指定商品(以下「本件指定商品」という。)について使用していたものであり(以下「本件使用行為」という場合もある。)、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものであったから、商標法第51条第1項の規定により、本件商標の登録は取り消されるべきである。
(1)引用商標の著名性について
ア 請求人による引用商標の使用について
請求人は、業として健康食品(健康補助食品)の製造・販売を行っている。特に、大麦若葉の持つ豊富な栄養素に着目し、この若葉を搾汁し独自の製法に基づき乾燥・粉末化した青汁の製造・販売に注力しているところ、請求人は、1991年(平成3年)より、請求人独自の青汁製品の中でも特に上級品として位置づけている製品について、別掲(3)のとおり、「PROGREEN」の文字よりなる商標(登録第4925352号商標、以下「引用商標1」という。)及び別掲(4)のとおり、「プログリーン」の文字よりなる商標(登録第4925351号商標、以下「引用商標2」という。また、引用商標1と引用商標2を合わせていうときは、以下、単に「引用商標」という。)を付して販売を開始した(甲3)。その後、全国に約500店舗の薬局・薬店を会員とする「All japan green association」(以下「AGA会」という。甲4)を販売窓口とし、引用商標を付した製品(以下「請求人製品」という。)を現在に至るまで、約20年間継続して販売している(甲5)。
請求人製品のパッケージには、表面の一方に引用商標1を付し、他方に引用商標2が大きく表示してされており(甲6)、当該パッケージデザインは販売開始当時から現在に至るまで変更されていない。
イ 請求人製品の宣伝広告について
請求人は、自社発行誌や各種雑誌に、請求人製品の宣伝記事を掲載している(甲7の1ないし甲9の2)。また、AGA会の季刊誌「AGA通信」にも、請求人製品に関する記事が毎回掲載されている(甲10)。そして、AGA会の会員である個々の薬局・薬店も地元紙に請求人製品に関する広告を掲載し、折込チラシを配布している(甲11)。
さらに、請求人製品は、その品質の高さから、有名芸能人が愛用する、健康・美容に効果の高いサプリメントとして数多くの女性誌に取り上げられ(甲12)、職業柄、健康に人一倍注意を払う力士にも愛飲されている(甲13)。
このような宣伝広告活動の結果、請求人製品は、請求人の商品として日本において広く知られるに至っている。このことは、「PROGREEN」の語をインターネットで検索すると、最初に請求人製品に関するAGA会のウェブサイトが検出されることからも明らかである(甲14)。
ウ 請求人製品の売上個数について
請求人製品は、1991年(平成3年)の発売以降、現在に至るまで、その売上個数は順調に伸びており、平成19年の時点での売上個数は約7万4千個であった(甲3)。
エ 小括
このように、引用商標は、請求人製品を表示するものとして、本件使用行為が行われていた平成19年の時点では既に日本国内における当該商品の取引者の間で周知となっていたことが明らかである。
また、本件指定商品の取引者と請求人製品の取引者とが重複する以上、本件指定商品の取引者の間においても、引用商標が請求人製品を表示するものとして、平成22年の時点では日本において既に周知となっていたと考えるのが相当である。
(2)本件商標と使用商標の類似性
本件商標は、別掲(1)のとおり、「MultiProGreens」の文字と「マルチプログリーン」の文字を二段に横書きしてなるのに対し、使用商標は、別掲(2)のとおり、「multi/ProGreens」の文字よりなるものである。
本件商標と使用商標を比較すると、本件商標からは、下段に配置された片仮名「マルチプログリーン」から「マルチプログリーン」の称呼が生じるほか、上段の欧文字「MultiProGreens」から「マルチプログリーンズ」の称呼が生じる。
一方、使用商標からは、その構成文字より「マルチ」、「プログリーンズ」の称呼が生じるほか、「マルチプログリーンズ」の称呼も生じる。このように、両商標は、「マルチプログリーンズ」の称呼が生じるから、称呼において類似する。また、観念は同一である。
そして、本件商標中の「MultiProGreens」と使用商標とは、その構成文字が同一であるから、両商標は外観上も類似する商標といえる。
よって、本件商標と使用商標とは全体として類似する商標である。
そして、商標権者は、使用商標を本件指定商品である「小麦・大麦・オート麦・スピルリナ・クロレラ・花粉・緑茶・海草・種子類・ほうれん草・朝鮮人参・アルファルファ等を主成分とした粉末状の加工食料品」に使用していた(甲15、甲16)。
以上より、商標権者は、本件指定商品について本件商標と類似する商標を使用していたことが明らかである。
(3)商品の出所の混同
ア 具体的混同のおそれが存在していたこと
商標法第51条第1項にいう「混同」とは、具体的混同のおそれさえあればよいと解される(甲17)。これは、具体的混同のおそれがあるにもかかわらず現実の混同が生じていないことを理由に登録を取り消しえないとすれば、需要者保護を目的とする商標法の趣旨に反するものと解されるからである。
以下、引用商標と使用商標との類似性について説明する。
(ア)使用商標の要部について
使用商標は、「multi」の書体と「ProGreens」の書体とが著しく異なっており、さらに、「multi」の文字は、「ProGreens」の文字に比して非常に小さく書されている。また、その構成より、視覚上、上段の「multi」の文字と下段の「ProGreens」の文字とが分断して把握されることは明らかである。
「multi」の語が「多数の」という意味を有する英単語として日本人に広く馴染まれているところ、「multi」の語は、健康食品の分野において、いわゆる「マルチビタミン(各種ビタミンを配合したサプリメント)」や、複数の栄養素を材料とするサプリメントであることを表示する語として広く知られている(甲18ないし甲20)。使用商標がいわゆる健康食品(サプリメント)に使用されるものであることを考慮すれば、使用商標中の「multi」の文字部分は、自他商品識別力の極めて弱い部分であるといえる。
このように、「multi」の文字部分が自他商品識別力の極めて弱い部分であること、及び、視覚上「multi」と「ProGreens」とが分離把握されることから、使用商標において出所標識としての機能を果たす部分は、下段に配置された「ProGreens」の文字部分であるといえる。したがって、引用商標との類否判断においては、使用商標の「ProGreens」の文字部分と引用商標とを比較し、判断すべきである。
(イ)引用商標1と使用商標の類否について
引用商標1と使用商標中「ProGreens」の文字部分とを比較すると、前者からは「プログリーン」の称呼が、後者からは「プログリーンズ」の称呼が生じる。両称呼の相違点は、語尾の「ズ」音の有無であるが、当該語尾音は消え入るように発音されるため、当該語尾音の有無は微差にすぎず、称呼の類否判断に影響を及ぼすものではない。よって、両商標は称呼において相紛らわしく類似する。
また、両商標の外観上の相違点は語尾の「s」のみであるところ、引用商標1が全て欧文字で記載されていること、及び、平易な英単語「PRO」と「GREEN」とを結合してなるものであることから、多数の日本人は引用商標1を英単語又は英単語に擬した造語であると容易に理解できる。そして、英単語の単数形の語尾に「s」を付することにより複数形にすることができることは、周知の事実といえるから、使用商標中「ProGreens」の文字部分は、英単語又は英単語に擬した造語である「ProGreen」に複数形の「s」を付したものと容易に理解される。よって、両商標は外観において類似するといえる。
そして、上記のとおり、使用商標中「ProGreens」の文字部分は、引用商標1の複数形であると理解されるから、両商標は観念において類似する。
以上より、引用商標1と使用商標中「ProGreens」の文字部分とは、称呼・外観・観念の全てにおいて類似する。
(ウ)引用商標2と使用商標の類否について
引用商標2と使用商標中「ProGreens」の文字部分とを比較すると、前者からは「プログリーン」の称呼が、後者からは「プログリーンズ」の称呼が生じるから、上記(イ)と同様、両商標は称呼において相紛らわしく類似する。
また、使用商標中「ProGreens」の文字部分は、上記のとおり、引用商標1の複数形であると理解される。そして、「プログリーン」は、「ProGreen」の文字の音訳にすぎないから、「ProGreens」は、「プログリーン」の複数形にすぎないと理解される。よって、引用商標2と使用商標中「ProGreens」の文字部分とは、観念において類似する。
両商標は、外観において欧文字と片仮名という差異を有するが、簡易迅速を旨とする商取引の実際にあっては、口頭又は電話による商取引が普通一般に行われていることを勘案すれば、ある商標と他の商標が称呼において類似することによる出所混同の可能性は、外観類似の場合に比べて高いといえる。また、本件指定商品の属するいわゆる健康食品の分野においては、昨今の健康食品ブームにより、その評判が口コミで需要者の間に広まる傾向が強いという実情があり、この点からも、称呼及び観念における類否が商標全体の類否判断に及ぼす影響は大きいといえる。
よって、このような取引実情に鑑みれば、引用商標2と使用商標中「ProGreens」の文字部分とは類似すると判断されてしかるべきである。
(エ)小括
前記のとおり、引用商標は、商標権者による本件使用行為が行われ始めた平成19年の時点では、日本において既に周知となっていた。また、引用商標と使用商標とは、商標類似の関係にある。これらの事情を考慮すれば、本件使用行為により請求人の業務に係る商品と具体的な出所の混同を生じるおそれがあったといえる。
イ 具体的な「混同」の事実
前記(1)で述べたとおり、請求人は、請求人製品について、AGA会に属する薬局・薬店等を通じて一般消費者に販売しており、それ以外のルートや海外での販売は行っていない。それにもかかわらず、約11年前から、請求人は、商標「ProGreens」を付した健康商品をインターネット等で見たAGA会に属する薬局・薬店から「請求人製品を海外で販売しているのか」との問合せを多数受けていた(甲21)。請求人は、その都度、商標「ProGreens」を付した商品と請求人製品とが別製品である旨説明しなければならなかった。上記事実は、商標「ProGreens」を付した商品と請求人製品との間で、現実に出所の混同が生じていたことを示している。そして、この「商標『ProGreens』を付した商品」とは、米国NutriCology社製の健康食品「ProGreens」であり、商標権者は当該健康食品を米国より輸入し、現在も日本国内で販売している。後述のとおり、商標権者は、少なくとも2006年(平成18年)6月12日までは商標「ProGreens」を、その後は使用商標を使用しているが、「ProGreens」の文字部分が使用商標の要部であること、及び、上記混同の事実を考慮すれば、本件使用行為により、商標権者の商品と請求人製品との間で現実に出所の混同が生じていたといえる。
ウ 小括
以上より、商標権者の本件使用行為により、請求人の業務に係る商品と混同が生じていた、又は、混同を生じるおそれがあったと判断されるべきである。
(4)故意について
ア 請求人と商標権者との交渉
(ア)商標権者への第1回通知書及び商標権者の第1回回答書について
請求人は、平成18年2月3日に引用商標が登録されたことを機に、引用商標を無断で使用する複数の第三者に対し、当該使用を中止するよう申入れた。
一方、商標権者は、「ProGreens」なる商標が付された健康食品を米国から輸入し、エム・エヌ・ジャパン社の商品販売用ウェブサイトで当該製品を掲載するとともに、当該製品を「プログリーン」と称して日本国内において販売していた(甲22)。
そこで、請求人は、平成18年2月21日付け配達証明郵便で、商標権者による商標権者製品の宣伝広告及び輸入行為が引用商標に係る商標権を侵害する旨警告し、当該行為の中止を求める通知書を商標権者宛に送付した(甲23)。
上記第1回通知書に対し、商標権者は、平成18年3月20日付け配達証明郵便で、回答書を送付し(甲24)、当該回答書で、「ProGreens」商標が付された健康食品の宣伝広告及び輸入行為を中止するとともに、当該商品の取扱いを止めるか、又は、本件商標(回答書には本件商標が「MultiProGreens/マルチプログリーンズ」と記載されているが、誤記と思われる。)を使用すると述べた。
(イ)商標権者への第2回通知書及び商標権者の第2回回答書について
商標権者は、第1回回答書送付後、少なくとも2006年(平成18年)6月12日の時点では、自社ウェブサイトで、「ProGreens」商標が付された健康食品を「プログリーン」と称し、宣伝広告、輸入及び日本国内における販売行為を継続して行っていた(甲25)。その後、2007年(平成19年)4月12日の時点で、請求人は、商標権者が「ProGreens」の文字の上段に「multi」の文字を付した健康食品を販売していることを確認した(甲26)。
このように、商標権者は、本件商標を使用せずに、本件商標を引用商標と同一の態様に敢えて近づけるように変更を加えた使用商標の使用を開始したのであり、それまでの商標権者との交渉の経緯及び引用商標の周知性に鑑みれば、本件使用行為により、請求人製品と出所の混同を生ずるおそれがあることについて故意であったことは明白であった。
そこで、請求人は、商標権者に対し、平成19年4月13日付け配達証明郵便で、2回目の警告を行い、使用商標の使用が請求人保有の商標権を侵害する行為であるから、当該使用を中止するよう求めた(甲27)。
上記第2回通知書に対し、商標権者は、平成19年5月8日付け配達証明郵便で、使用商標の使用は引用商標に係る商標権を侵害するものではないとの見解を示すとともに、妥当な対応策がないか検討するとの回答書を請求人に送付した(甲28)。当該回答後も、商標権者による使用商標の使用は継続された(甲15)。
(ウ)商標「multi/ProGreens」の登録出願
商標権者は、上記第2回通知書受領後の平成19年5月1日に、別掲(5)のとおりの構成よりなる商標の登録出願を行い、商標登録を受けた(登録第5158470号。なお、当該商標登録は、引用商標に基づく不正使用取消審決の確定により平成22年4月7日付けで登録抹消)。
登録第5158470号商標は、上段の「multi」の文字及び下段の「ProGreens」の文字が同書同大に書されているのに対し、使用商標は、「multi」の文字を殊更に小さく表示しており、登録第5158470号商標よりも引用商標と出所の混同を生じる態様であった。それにもかかわらず、商標権者は本件使用行為を継続した。
イ 小括
上述のとおり、商標権者は、本件商標の上段の「MultiProGreens」の文字を敢えて「multi」と「ProGreens」とに分断して二段書きの態様とし、「multi」の文字を殊更に小さく、一見して把握しにくい大きさにした結果、周知の請求人商標と出所の混同を生じるような商標態様となる使用商標を使用したのであり、それまでの商標権者と請求人との交渉及び別掲(5)の商標「multi/ProGreens」の出願の経緯を考慮すると、商標権者が、引用商標と混同を生じる使用商標を故意に使用していたことは明らかである。
(5)むすび
したがって、本件商標の登録は、商標法第51条の規定により、取り消されるべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。
1 答弁の理由
請求人は、商標権者が、故意に本件商標に類似する商標を本件指定商品について使用し、請求人の業務に係る商品と混同を生ぜしめているから、本件商標は、商標法第51条第1項の規定に該当する旨主張する。
しかしながら、被請求人は、請求人の主張に承服できないので、以下にその理由を詳述する。
(1)本件商標
商標権者は、1995年(平成7年)10月に、米国のUnion Nature Company(仲介者)を通じて、Allergy Research Group/NutriCology社から「ProGreens」なる健康補助食品をサンプルで輸入し、販売を開始した。
しかし、当該商品は、間もなく日本において食品として認可されない物質が含まれていたことが判明し、NutriCology社にその物質を除いて製造するよう要請した。商標権者は、同一名で輸入することができず、1996年(平成8年)1月に、「Multi」の文字を付加することで輸入・販売を再開することができた。それ以来、現在に至るまで該商品に本件商標を付して販売を継続している(乙1ないし乙10)。
本件商標は、1995年(平成7年)12月8日に出願し、1997年(平成9年)12月12日に設定登録された(乙11)。このように、本件商標は、引用商標の出願より約10年も前に出願し登録された商標であり、2007年(平成19年)8月28日には更新の設定登録がされている。
(2)本件商標と引用商標の類似性
引用商標は、いずれも本件商標の出願・登録後の平成17年に出願され、平成18年に設定登録された商標であるため、本件商標と引用商標とは、特許庁において互いに非類似と判断され登録になったものであるから、本件商標と引用商標は非類似の商標であることは明らかである。つまり、本件商標と引用商標とが仮に類似するとするならば、後願の引用商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして商標登録を拒絶されるべきものである。このような引用商標は、商標法第46条第1項第1号によりその登録を無効とされるべきものであり、商標法第47条第1項の規定による除斥期間を経過したとしても無効理由が存在することが明らかである引用商標に基づく本件審判の請求は、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である(東京地裁・平成12年(ワ)第15732号、乙12)。
請求人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について誤認混同を生ずるおそれがないからこそ、互いに非類似の商標と判断され登録されている以上、本件商標を使用した商品に接する取引者又は需要者は、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれはない。
また、請求人が「使用商標」とする商標については、商標権者の有していた登録第5158470号商標の使用の一態様であって、本件商標とは全く非類似であることは、本件商標と引用商標とが互いに非類似であるとして併存登録された特許庁における審査結果においても明らかである。
よって、本件商標と引用商標とは互いに非類似の商標であり、その出所について誤認混同を生じさせるおそれのないものである。
(3)引用商標の周知性との関係
引用商標の周知性については、甲第2号証の審決29頁「4 請求人使用に係る『引用商標』について」に、平成19年5月1日当時の引用商標の周知性について記載されているが、仮に引用商標が周知性を有していたとしても、そもそも本件商標と引用商標とは特許庁において互いに非類似と判断された商標であるから、引用商標の周知性の有無が本件商標に関する判断に影響するはずもなく、引用商標の周知性は本件においては全く関係ない。
(4)商標権者の故意の有無
本件商標は、前記1記載のとおり、引用商標の出願前に既に出願し設定登録されており更新もしている商標である。引用商標は、その10年ほど経った後、出願され設定登録されている。したがって、双方は互いに非類似と判断されたからこそ登録されたものである。
そして、商標権者は、引用商標の出願前、請求人が「プログリーン」なる商標を付した商品を販売していたことなど知るはずがない。
また、商標権者は、本件商標の上段の欧文字「MultiProGreens」又は下段の片仮名「マルチプログリーン」を使用し、現在に至るまで継続して使用しているが、このような本件商標の使用は、取消2008-301355の審決においても明らかなように、当該指定商品について本件商標と社会通念上同一の商標を使用していると認められている(乙13)。
したがって、商標権者は、一貫して自らの登録商標及び社会通念上それと同一の商標を使用しているにすぎず、故意に請求人の商品と混同を生ずるものをしていない。
(5)むすび
請求人が「使用商標」とする商標については、商標権者の有していた登録第5158470号商標の使用の一態様であって、本件商標とは全く非類似であることは、本件商標と引用商標とが互いに非類似であるとして併存登録された特許庁における審査結果においても明らかである。
にもかかわらず、そのような本件商標についてまで、無理やりに類似する商標であるとこじ付け(本件商標と引用商標とが併存登録されていた事実はもちろん請求人も知悉しているわけであるから、自ずと引用商標と本件商標とが非類似であることは請求人も十分自覚しているはずである。でなければ、引用商標は、その出願時に本件商標に類似するとして登録を拒絶されていたはずである。)、その登録までを取り消そうとする本件審判の請求は不当であるとしか言いようがない。
このように、本件商標は、引用商標とは全く非類似であるから、本件商標又はそれと社会通念上同一の商標の使用について、請求人の業務に係る商品と混同を生じさせるおそれはなく、よって、そこに商標権者の故意が存するはずもない。
以上のように、商標権者は、単に自己の登録商標と社会通念上同一の商標を使用しているにすぎず、故意に他人の商品と混同を生ずるものをしていないから、商標法第51条第1項の規定には該当せず、本件商標の登録は、同条の規定により取り消されるべきものではない。

第4 当審の判断
1 商標法第51条第1項は、「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定している。
すなわち、商標法51条の立法趣旨は、商標権者は、指定商品等について登録商標を使用する専用権を有するが、その専用権の範囲を超えて、当該商標権者が、登録商標と類似の商標を使用し、これにより故意に商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるおそれがあるものをするのは、商標権者としての商標の正当使用義務に違反するばかりでなく、他人の権利利益を侵害し、一般公衆の利益を害するものであるから、何人も審判によりその登録商標の取消しを求めることができるものとし、商標権の行使を逸脱した商標の不正使用をする者に対して制裁を加えるとともに、第三者の権利利益及び一般公衆の利益を保護しようとするものと解される(東京高等裁判所平成15年(行ケ)第76号、平成15年8月27日判決言渡)。
そこで、商標権者による使用商標の使用が上記規定に該当するかについて、以下検討する。
2 本件商標と使用商標の類否等
(1)使用商標及びその使用に係る商品
ア 使用商標
甲第15号証(2008年(平成20年)11月1日に印刷された商標権者の取扱いに係る商品に関するインターネット記事)及び甲第26号証(2007年(平成19年)4月12日に印刷された商標権者の会社概要及びその取扱いに係る商品に関するインターネット記事)並びに審判請求書(5頁)によれば、商標権者の使用に係る使用商標の構成態様は、以下のとおりである。
商品の包装容器に貼付されたラベルの中央に、別掲(2)のとおり、大きく横書きにした「ProGreens」の文字を表し、その左上に、籠字風にして小さく表した「multi」の文字を配してなるものである。
そして、被請求人は、使用商標について、登録第5158470号商標の使用の一態様であって、本件商標とは非類似の商標である旨主張するものの、その構成そのものについては、争っておらず、また、使用商標の使用者が商標権者であることも争っていない。
ところで、使用商標は、その構成中、「multi」の文字部分と「ProGreens」の文字部分とは、文字の書体及び大きさにおいて著しく異なる上に、二段に分けているものであるから、使用商標に接する需要者は、特に顕著に表された「ProGreens」の文字部分に強く印象付けられ、該文字部分に着目して、これより生ずる称呼のみをもって、商品の取引に当たる場合がむしろ多いというべきである。
そうすると、使用商標は、構成文字全体から生ずる「マルチプログリーンズ」の称呼のほか、「ProGreens」の文字部分より「プログリーンズ」の称呼をも生ずるものであって、構成全体として、特定の観念を有しない造語よりなるものと認めることができる。
イ 使用に係る商品
甲第15号証及び甲第16号証(2008年(平成20年)11月1日に印刷された商標権者の取扱いに係る商品に関するインターネット記事)によれば、使用商標が使用される商品は、「大豆レシチン、スピルリナ、リンゴペクチンと繊維、亜麻仁粉、オリゴ糖、大麦ジュース粉末、オート麦ジュース粉末、小麦ジュース粉末、小麦の芽の粉末、アルファルファジュース粉末、クロレラ」等、約30種類の成分を原材料とする粉末状の加工食品、いわゆる「健康食品」と呼ばれている商品であり、本件指定商品である「小麦・大麦・オート麦・スピルリナ・クロレラ・花粉・緑茶・海草・種子類・ほうれん草・朝鮮人参・アルファルファ等を主成分とした粉末状の加工食料品」と実質的に同一の商品と認めることができる(当事者間に争いのない事実)。
(2)本件商標
本件商標は、別掲(1)のとおり、「MultiProGreens」の文字と「マルチプログリーン」の文字を二段に横書きしてなるものであるところ、これらの文字は、いずれも同一の書体をもって、外観上まとまりよく一体的に表されているものであるから、構成全体もって、一体不可分の商標を表したと認識されるとみるのが相当である。
してみると、本件商標は、その構成文字に相応して、「マルチプログリーンズ」又は「マルチプログリーン」の称呼を生ずるものであって、構成全体として、特定の観念を有しない造語よりなるものと認めることができる。
(3)本件商標と使用商標との対比
本件商標と使用商標は、外観において異なり、同一の商標ということはできないものであり、いずれも特定の観念を有しない造語よりなり、観念上比較することができないものであって、また、使用商標からは、顕著に書された「ProGreens」の文字部分より「プログリーンズ」の称呼を生ずる場合が多いといえるものの、いずれも「マルチプログリーンズ」の称呼を生ずることは明らかである。
そうすると、本件商標と使用商標は、「マルチプログリーンズ」の称呼を同じくする場合がある称呼上類似する商標というべきである。
したがって、使用商標は、本件商標に類似する商標というべきであるから、本件商標の専有権の範囲を超えた、いわゆる禁止権の範囲に属する商標といわざるを得ない。
(4)小活
以上によれば、商標権者は、平成19年4月ないし平成20年11月の時点において、本件指定商品について登録商標に類似する使用商標の使用をしていたものと認めることができる。なお、商標権者が使用商標を使用していた時期について、請求人は、「商標権者は、平成19年から平成22年ころまで、使用商標を本件指定商品について使用していた」旨主張するが、商標権者が「平成22年ころまで」使用商標を使用していたと認めるに足りる証拠の提出はなく、上記認定のとおり、商標権者による使用商標の使用があった時期は、「平成19年4月ないし平成20年11月」とするのが相当である。
3 使用商標の使用による商品の出所の混同
(1)引用商標の周知性
ア 甲第3号証ないし甲第13号証によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)請求人製品は、大麦若葉を主成分とする粉末状の加工食品、いわゆる「健康食品」と呼ばれている商品であり、1991年(平成3年)に発売が開始された(甲3、甲5ないし甲11等)。
(イ)請求人製品の包装箱には、別掲(3)のとおりの構成よりなる引用商標1及び別掲(4)のとおりの構成よりなる引用商標2が表示されている(甲5、甲6等)。
(ウ)請求人は、全国に約410店舗あるAGA会会員(平成20年5月ないし9月現在:甲4)である薬局等を介して、請求人製品を一般の消費者に販売しているところ、AGA会のウェブサイト(2008年(平成20年)10月3日に印刷されたもの:甲5)や、平成10年6月ころから平成20年6月ころにかけて発行された季刊誌「AGA通信」(甲10)において、請求人製品の広告をした。また、自社発行の季刊誌「マグマニュース」(1994年から1996年にかけて発行されたもの:甲7)、年に3回発行される「兵庫県薬種商会報」(平成19年6月25日、同年10月18日、平成20年1月1日、同年6月25日に発行されたもの:甲8)、月刊「NHK/きょうの健康」(2001年(平成13年)4月1日、同年6月1日に発行されたもの:甲9)において、請求人製品の広告をした。その他、「岡山・倉敷22万1697世帯に無料配布」される「こんにちは新聞」(2004年(平成16年)8月27日、2007年(平成19年)11月17日に発行されたもの:甲11)等において、AGA会会員である当該地域の薬局が請求人製品の広告をした。また、請求人製品は、女優などが愛飲する健康食品として、女性誌(平成18年10月17日発行「女性自身」、2007年(平成19年)1月23日発行「spring」、2007年(平成19年)3月1日発行「bea’sUP」)等で紹介された(甲12)。
(エ)請求人製品は、発売後、約2年でおよそ6万個に売上を伸ばし、その後、販売数量にやや変動があったものの、2007年(平成19年)5月から2008年(平成20年)4月にかけて約7万4千個が販売された(甲3)。
イ 前記アで認定した事実を総合すると、商標権者による使用商標の使用があった平成19年4月ないし平成20年11月の時点において、引用商標は、請求人製品を表示するものとして、健康食品関連分野の需要者の間においては、広く認識されていたものと認めることができる。
(2)使用商標と引用商標の類否
ア 使用商標
前記2(1)ア認定のとおり、使用商標は、これを構成する「multi」の文字部分と「ProGreens」の文字部分とは、文字の書体及び大きさにおいて著しく異なる上に、色彩の有無の差異をも有するものであるから、構成文字全体を読んだ場合の「マルチプログリーンズ」の称呼のほか、顕著に表された「ProGreens」の文字部分より「プログリーンズ」の称呼をも生ずるものであって、構成全体として、特定の観念を有しない造語よりなるものと認めることができる。
イ 引用商標
引用商標1は、別掲(3)のとおり、「PROGREEN」の文字を横書きしてなるものであるから、その構成文字に相応して、「プログリーン」の称呼を生ずるものであって、特定の観念を有しない造語よりなるものと認めることができる。
また、引用商標2は、別掲(4)のとおり、「プログリーン」の文字を横書きしてなるものであるから、その構成文字に相応して、「プログリーン」の称呼を生ずるものであって、特定の観念を有しない造語よりなるものと認めることができる。
ウ 使用商標と引用商標との対比
(ア)称呼
まず、使用商標より生ずる「マルチプログリーンズ」の称呼と引用商標より生ずる「プログリーン」の称呼についてみるに、両称呼は、前半部及び末尾において「マルチ」及び「ズ」の音の有無の差異を有するものであるから、これらの音の差異が両称呼全体に及ぼす影響は大きく、それぞれの称呼を全体として称呼した場合においても、互いに紛れるおそれはない。
次に、使用商標より生ずる「プログリーンズ」の称呼と引用商標より生ずる「プログリーン」の称呼についてみるに、両称呼は、末尾において「ズ」の音の有無の差異を有するものであるところ、該差異音は、歯茎に舌先をつけて上下の歯の間から発する破擦音であり、それ自体明瞭には響かない音である上に、比較的聴取されがたい末尾に位置することから、該差異音が両称呼全体に及ぼす影響は大きいものとはいえず、それぞれの称呼を全体として称呼するときは、全体の語調、語感が近似したものとなり、互いに聞き誤られるおそれがあるというのが相当である。したがって、使用商標は、引用商標と称呼上類似する商標ということができる。
(イ)外観
使用商標は、その構成中の「ProGreens」の文字部分が目立つように強調されているものである。そして、該「ProGreens」の文字部分と引用商標1とは、「P」と「G」の文字以外が大文字であるか小文字であるかの差異及び末尾における「s」の文字の有無の差異を有するにすぎないものであって、「ProGreen」、「PROGREEN」の綴りを同じくするものである。したがって、使用商標は、引用商標1と外観上類似する商標ということができる。しかし、使用商標と引用商標2は、その構成態様よりみて、外観上類似しないものである。
(ウ)観念
使用商標と引用商標とは、いずれも造語よりなるものであるから、観念上比較することができない。
(エ)以上のとおり、使用商標は、引用商標と称呼において類似する商標であって、かつ、引用商標1とは、外観上も類似する商標といわなければならない。
(3)使用商標が使用される商品と請求人製品との対比
使用商標が使用される商品は、前記2(1)イ認定のとおり、「大豆レシチン、スピルリナ、リンゴペクチンと繊維、亜麻仁粉、オリゴ糖、大麦ジュース粉末、オート麦ジュース粉末、小麦ジュース粉末、小麦の芽の粉末、アルファルファジュース粉末、クロレラ」等、約30種類の成分を原材料とする粉末状の加工食品、いわゆる「健康食品」と呼ばれている商品である。
一方、引用商標が使用される請求人製品は、前記3(1)認定のとおり、大麦若葉を主成分とする粉末状の加工食品、いわゆる「健康食品」と呼ばれている商品である。
そうすると、使用商標が使用される商品と請求人製品は、いずれも「健康食品」と呼ばれている商品という点で共通する。
(4)小活
以上(1)ないし(3)の事実を併せ考慮すると、使用商標を付した健康食品は、「ProGreens」の文字が強調されていることにより、その需要者をして、周知な引用商標を付した請求人製品を想起させ、該商品が請求人の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について誤認、混同を生じさせるおそれがあったというべきである。
4 故意について
(1)甲第23号証ないし甲第28号証によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 商標権者は、請求人より、「商標権者が、インターネットを通じて、日本における消費者に対し商品『PROGREENS』の宣伝広告・輸入代行を行うことは、引用商標の商標権を侵害する行為であるから、当該行為の停止を求める」旨の内容を記載した平成18年2月21日付け通知書を同年同月22日に受理したこと(甲23)。
上記通知書に対し、商標権者は、請求人に対し、「商標権者は、もともと『MultiProGreens/マルチプログリーンズ』という商標を使用していたが、途中から、『ProGreens』なる名称で販売するようになったため、これが請求人の商標を侵害することに思い至らなかった。今後、当該商標の使用を中止する」旨の内容を記載した平成18年3月20日付け回答書を送付したこと(甲24)。
イ 2006年(平成18年)6月12日に印刷された商標権者の取扱いに係る商品に関するインターネット記事には、包装容器に貼付されたラベルに、「ProGreens」の文字が大きく表示された健康食品の写真が掲載されていること(甲25)。
また、2007年(平成19年)4月12日に印刷された商標権者の取扱いに係る商品に関するインターネット記事には、包装容器に貼付されたラベルに、使用商標が大きく表示された健康食品の写真が掲載されていること(甲26)。
ウ 商標権者は、請求人より、「商標権者が使用する使用商標は、登録商標の使用ではなく、登録商標中の『ProGreens』を抜き出し、かつ、大きく記載したものであり、引用商標の商標権を侵害する行為であるから、使用の中止を求める」旨の内容を記載した平成19年4月13日付け通知書を同年同月17日に受理したこと(甲27)。
上記通知書に対し、商標権者は、請求人に対し、「対応策を検討する」旨の内容を記載した平成19年5月8日付け回答書を送付したこと(甲28)。
(2)前記(1)で認定した事実によれば、商標権者は、使用商標を使用した平成19年4月ないし平成20年11月の時点において、引用商標の存在を十分に知っていたことは明らかな事実である。のみならず、請求人より平成18年2月21日付け及び平成19年4月13日付けの通知書を受領した後において、商標権者は、自己の業務である健康食品の輸入、販売を展開するに際し、請求人製品及びこれに使用される引用商標についての情報を得ていたことに疑いの余地はなく、その結果、引用商標が周知であることも知り得る立場にあったというべきである。
そうすると、商標権者は、使用商標をその取扱いに係る健康食品に使用すれば、引用商標を付した請求人製品との間に、出所の混同を生ずるおそれがあることを認識して、その使用を行っていたものと推認せざるを得ない。
加えて、商標権者は、請求人より、平成19年4月13日付けの通知書を受領した後も、その取扱いに係る健康食品について使用商標の使用をし、インターネットを介して販売を行っていたことが認められるのであるから、上記商標権者の行為には、故意があったというべきである。
5 被請求人の主張について
(1)被請求人は、商標権者が輸入・販売した健康食品について、「ProGreens」の商標を使用していたが、該商品に日本で許可されていない物質が含まれていたため、その後の輸入に際しては、同一名ですることができず、1996年(平成8年)1月に、「ProGreens」の文字に「Multi」の文字を付加することで輸入・販売を再開することができ、それ以来、現在に至るまで該商品に本件商標を付して販売を継続している旨主張し、乙第1号証ないし乙第10号証を提出する。
しかし、以下の点で、乙第1号証ないし乙第10号証によっては、商標権者が平成19年4月ないし平成20年11月の時点において、使用商標をその輸入・販売に係る健康食品に使用していなかったと認めることはできない。
ア 乙第1号証ないし乙第5号証は、1996年(平成8年)1月(乙1ないし乙3)、平成14年から平成19年(乙4)、2006年(平成18年)から2008年(平成20年)(乙5)の取引書類であるところ、これらに記載された「Multi ProGreens」、「MULTI PROGREENS」、「マルチプログリーン」、「multi ProGreens(マルチプログリーン)」は、いずれもタイプ又はワープロで記載されたものであり、実際に使用されている商標の態様は明らかではないというべきである。したがって、乙第1号証ないし乙第5号証からは、本件商標を使用していたと認めることはできないばかりか、使用商標を使用していなかったとも認めることはできない。
イ 乙第6号証は、商標権者の取扱いに係る健康食品のパンフレットと認められるところ、その左上段には、籠字風に表した「MultiProGreens」の文字を大きく横書きし、その下に、「マルチプログリーン」の文字を小さく横書きした商標が表示され、その右側及び下方には、籠字風に表した「MultiProGreens」の文字を包装容器のラベルに表示した健康食品の写真等が掲載されているが、該パンフレットには、作成日の記載がない。仮に、乙第7号証(ラベル等を製造した際の印刷業者の作成に係る2010年(平成22年)5月31日付け請求書)及び乙第8号証(商品の包装容器等を製造した際の製造業者の作成に係る2010年(平成22年)5月31日付け請求書)から、当該パンフレットが平成22年5月ころに作成されたものであろうと推測した場合(パンフレットに掲載された商品の包装容器やラベルの製造がされた時期とパンフレットが作成された時期が同じころと判断した場合)においても、その時期は、商標権者が使用商標を使用した平成19年4月ないし平成20年11月以降であり、したがって、乙第6号証ないし乙第8号証は、平成19年4月ないし平成20年11月の時点において使用商標を使用していなかったとの証拠とはなり得ない。
ウ 乙第7号証及び乙第8号証は、乙第1号証ないし乙第5号証と同様、取引書類上に、タイプ又はワープロで「マルチプログリーン」と記載されたものであり、実際に使用されている商標の態様は明らかではないというべきである。
エ 乙第9号証は、2010年(平成22年)6月15日掲載の、また、乙第10号証は、2011年(平成23年)8月19日掲載の、いずれもインターネットによる通信販売と認められるところ、これらに掲載された商標権者の取扱いに係る健康食品は、乙第6号証(パンフレット)に掲載された商品と同一のものと認められ、したがって、乙第9号証及び乙第10号証に掲載の商品は、商標権者が使用商標を使用した平成19年4月ないし平成20年11月以降のものであるから、乙第9号証及び乙第10号証は、乙第6号証と同様に、平成19年4月ないし平成20年11月の時点において使用商標を使用していなかったとの証拠とはなり得ない。
(2)被請求人は、引用商標は、本件商標の出願より後に出願されたものであり、引用商標が登録されたという事実は、引用商標が本件商標とは非類似であるからにほかならず、本件商標を付した商品と請求人製品との間に出所の混同を生ずるおそれはない旨主張する。
しかしながら、前記1のとおり、商標法51条による審判は、商標権者が故意に指定商品等についての登録商標を使用する専用権の範囲を超えて、登録商標の態様を変更し類似する商標の使用をして、他人の権利利益を侵害し、一般公衆の利益を害したような場合についての制裁規定である。してみると、設定の登録により商標権が発生するとの登録主義を採用している我が国の商標法のもとにおいて、本件商標と引用商標とが、いずれも登録要件を具備し、かつ、商標法第4条第1項第11号を含む不登録事由に該当しない商標として、同一又は類似の指定商品について登録された事実が存在するとしても、その事実と、本件商標の商標権の設定登録後において、商標権者が本件商標の専用権の範囲を超えて、本件商標の態様を変更して本件商標と類似する商標(かつ、周知な引用商標と類似する商標)をその指定商品について使用して、他人の業務に係る商品と混同を生ずるものとさせた事実とは、次元の異なる問題といわざるを得ない。したがって、上記に関する被請求人の主張は失当である。
また、被請求人は、使用商標は商標権者の有していた別掲(5)のとおりの構成より登録第5158470号商標の使用の一態様であり、また、使用商標と本件商標とは全く非類似であることは、本件商標と引用商標とが互いに非類似であるとして併存登録された特許庁における審査結果においても明らかであるとも主張するが、使用商標が、登録第5158470号商標の使用の一態様であるとしても、本件商標と類似する商標であることは、前記2認定のとおりである。
(3)被請求人は、商標権者は、本件商標の上段の「MultiProGreens」又は下段の「マルチプログリーン」を現在に至るまで継続して使用しているが、このような本件商標の使用は、取消2008-301355の審決(乙13)において、本件商標と社会通念上同一の商標と認められており、したがって、商標権者は、一貫して自らの登録商標及び社会通念上それと同一の商標を使用しているにすぎず、故意に請求人の商品と混同を生ずるものをしていない旨主張する。
しかし、商標権者は、故意に、本件指定商品について、本件商標に類似する使用商標の使用を行い、その結果、請求人の業務に係る商品と混同を生じさせるものとしたことは、前記認定のとおりである。
したがって、上記商標法第50条に基づく審判(取消2008-301355)における使用に係る商標が、本件商標と社会通念上同一と認められる商標であったとしても、これをもって、本件審判における使用商標についても、本件商標と社会通念上同一と認められる商標であるとすることはできないから、上記被請求人の主張は理由がない。
6 むすび
以上のとおり、商標権者が故意にした、本件指定商品について、本件商標に類似する使用商標について使用は、請求人の業務に係る商品と混同を生じさせるものであるから、本件商標の登録は、商標法第51条第1項の規定により、取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標



(2)使用商標



(3)引用商標1



(4)引用商標2



(5)商標権者の商標



審理終結日 2012-04-03 
結審通知日 2012-04-05 
審決日 2012-04-17 
出願番号 商願平7-127888 
審決分類 T 1 31・ 3- Z (030)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長澤 祥子 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 井出 英一郎
渡邉 健司
登録日 1997-12-12 
登録番号 商標登録第4091664号(T4091664) 
商標の称呼 マルチプログリーン、マルチプログリーンズ、マルチプロ 
代理人 森田 俊雄 
代理人 竹内 耕三 
代理人 深見 久郎 
代理人 向口 浩二 
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所 

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