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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 105091016172021222425
管理番号 1266040 
審判番号 無効2011-890052 
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-24 
確定日 2012-09-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第2634277号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2634277号商標(以下「本件商標」という。)は、「インディアンモーターサイクル」の片仮名を横書きしてなり、平成3年11月5日に登録出願、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成6年3月31日に設定登録され、その後、同16年2月10日に商標権の存続期間の更新登録がされ、また、同17年7月13日に第5類、第9類、第10類、第16類、第17類、第20類ないし第22類、第24類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品とする書換登録がされているものである。
なお、本審決においては、別掲(1)に示す「請求人商標目録」記載のものを、それぞれ請求人商標a?cといい、別掲(2)に示す「被請求人商標目録」記載のものを、それぞれ被請求人商標A?Jというほか、別掲(3)に示す「略語」に記載のものを、それぞれ「Indianロゴ」「ヘッドドレスロゴ」「MOTOCYCLEロゴ」「Indian/Motocycle商標」という場合がある。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第486号証(枝番を含む。但し、枝番の全てを引用する場合は、その枝番の記載を省略する。)を提出した。
1 請求の理由
(1)無効事由
本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するから、本件商標の登録は同法第46条第1項第1号により無効とすべきものである。
(2)無効理由
本件商標は、被請求人において、その指定商品に使用せず、我が国において「Indian」商標を用いたブランドビジネスが展開されたときに、そのブランドビジネスを展開するものの企業努力の成果を収奪し、そのブランドビジネスを妨害し、不当な利益を得る意図で、出願し登録を得たものであり、公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反する商標である。
ア 商標法第4条第1項第7号の趣旨について
公序良俗に反するおそれのある場合とは、健全な商標秩序を害するおそれのある場合、社会的妥当性を欠く場合、及び国際商道徳に反し、国際信義を害する場合であり、多岐にわたるのである。もとより、公序良俗に反するおそれのある場合が、商標の構成自体に問題がある場合や構成自体に特に問題がなくても使用する商品との関係で社会の一般的道徳観念に反するような場合に限られるものではない。
また、商標法第4条第1項第7号の「公序良俗を害するおそれ」を制限的に解することは、健全な商標秩序を害するおそれのある商標、社会的妥当性を欠く商標の登録を認めることにつながり、商標法が樹立、維持、発展せんとする健全な商標秩序の阻害をもたらすことにつながる。
イ 商標法第4条第1項第7号該当性について
以下に述べるとおり、本件商標が公序良俗に反するおそれのある商標であることは明白である。
(ア)被請求人は米国において「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスが立ち上げられたことを知り、将来日本に「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスが導入展開されることを予測したことは、以下の事実から明らかである。
a 米国で「Indian」ブランドがマーチャンダイジングのブランドとして「Indian Motocycle Co.,Inc.(インディアン・モトサイクル・カンパニー・インク)」(以下「新インディアン社」という。)により復活されたのは平成2年6月ころであった(甲80、28頁参照)。そして、この「Indian」ブランドの復活は米国で大々的に報じられた。「USA Today」紙やデイリーニューズ紙のような一般紙にも平成3年7月1日に報じられた程であり、米国で立ち上げられた「Indian」ブランドビジネスがTシャツ、革ジャン、皮パンツなども対象にしていることや日本市場もターゲットにしていることも、広く報じられていたことである(甲6、7)。
また、新インディアン社は、ウォールストリートジャーナルに求人広告をし(甲477)、「Indian」ブランドのアパレル、アクセサリーの広告を積極的に行った(甲478?482)。
b 被請求人は、添付1の記載の如く、外国のブランド情報をあさっており、また、被請求人は、米国のトリニティープロダクツ社が新インディアン社のライセンシー(甲483)であることを知って、同社の「Indian」商標を使用した商品を輸入し、テスト販売した(甲464、465)。
c 念のため付言するに、そもそも、「『Indian』ブランドのマーチャンダイジングビジネスが日本で将来展開されるであろうことを予測した」か否かを認定する上で大事な事実は、「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスが米国で起ち上がったことを知ったか否かである。
なお、被請求人の、甲第255号証の9頁(2)における、「米国にヴィンテージバイクの愛好家団体より……我が国で商標登録出願したのである。」、「カタカナ表記にしたのは、……取り敢えず音表記で出願した」、「原告にあっても、ロゴ書体が決まったものについてはその都度出願してきた」との主張が虚偽であること明白であって、米国の愛好家のバイクジャケットを作るために日本で商標登録する必要は全くない。
(イ)本件商標は、被請求人において、これを商品に一切使用する意思なしに、将来日本に「Indian」ブランドビジネスが導入展開されたときに、他人の業務を妨害する目的で、出願し登録したものであることは、以下のことから明らかである。
a 被請求人が本件商標の指定商品であるシャツ、帽子、ジャケット等に使用したのは、「Indianロゴ」(例えば、甲35 2枚目)、「Indianロゴ/Motocycle」(甲37 2枚目)、「ヘッドドレスロゴ」(右向きのインディアンの酋長の図形中に「Indianロゴ」を配した商標)に類似した商標(甲35 2枚目)等であり、「Indianロゴ/Motorcycle」(上下2段)、「Indianロゴ/Sportswear」(上下2段)等であった(甲34?44、65?79)。
以下に述べるとおり、被請求人が使用したこれらの商標は、本件商標と同一性の範囲外にある。すなわち、被請求人は本件商標を指定商品に使用しなかったのである。
b 被請求人が使用した上記商標が本件商標と同一性の範囲外にある商標であることは、第一に、片仮名表記の商標とそれと同音の欧文字表記の商標であって同一の称呼及び観念を生ずるものとを同一性の範囲内にあるとする取扱いが始まったのは、平成9年4月1日からであり、これは平成8年12月16日の仮処分決定(甲59)の後であって、かつ、本件商標の出願・登録の後である。また、第二に、第25類(旧第17類)においては、「INDIAN」及び「インディアン図形」と「(文字)+INDIAN又はインディアン」及び「INDIAN又はインディアン+(文字)」の商標が同時に登録されており、本件商標は、「インディアンモーターサイクル」の一連一体の称呼のみ、及びこれに対する観念のみが生ずるものとして登録になったことから明らかである。
c 被請求人が使用した上記商標等は、いずれも「Indianロゴ」を要部とするものであり、請求人が日本市場に導入し、浸透させた「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「Indianロゴ/Motocycle」等の商標と同一又は類似する商標であって、かつ、本件商標と同一性の範囲外にある商標である。加えて、「Indian Motocycle」は請求人の略称である。
そして、請求人は、請求人の企業努力により、「Indian」ブランドが日本市場に浸透するや否や上記商標等の使用を開始し、継続したものである。
(a)請求人は、平成5年6月30日に設立されたが(甲19)、請求人が「Indian」ブランドビジネスを日本において展開することは、平成5年7月24日付け繊研新聞、日経流通新聞で報じられた(甲24、25)。
請求人は、別掲(4)に示すとおり、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「Indianロゴ+MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ+MOTOCYCLE」等(以下併せて「請求人各表示」ということがある。)を使用した「Indian」ブランドの商品(ジャケット、シャツ、帽子、バック等)の輸入販売を行う(甲12?18、26、27、32)かたわら、月刊誌「DICTIONARY」に平成6年1月から平成7年2月にかけて、定期的に広告をし(甲28)、「Indian」ブランドの宣伝に努めた。
(b)請求人のかかる企業努力のかいあって、「Indian」ブランドは、平成5年11月の時点で「ブームとなるのが時間の問題であり」(甲26)、平成6年前半には市場に浸透し、バックについてマルヨシにライセンスをする迄になり(甲29?33)、平成6年後半には一層市場に浸透した。すると、すかさず、被請求人は、請求人各表示と類似した商標等の使用をシャツ、ジャケット、帽子等について開始し(甲34?46)、請求人の警告(甲47)を無視してこれを継続した。
(c)請求人は、平成7年、西澤社に対し、「Indianロゴ」等の商標を革製ジャケット等に使用するライセンスを許諾した。西澤社は、平成7年から平成8年にかけて巨額の資金を投入して広告と宣伝を行った(甲48?57)。この結果、「Indian」ブランドはレザージャケット等のブランドとしても市場に浸透した。すると、被請求人は平成8年の秋冬シーズンの始めから「Indianロゴ」、「Indianロゴ/Motocycle」等を使用した革製ジャケット等の販売を開始し、その使用を継続した(甲76?79)。
これらの結果、市場に混乱を示し、請求人(及びそのライセンシー)は業務を妨害され、多大な損害を蒙った。
(d)請求人は、被請求人に対し平成8年5月、東京地裁に訴を提起し(平成8年(ワ)第9391号)、訴提起後も被請求人が使用を継続したため上記仮処分命令申立を提起したが、被請求人はこれに対抗して本件商標に基づき請求人、西澤社らに対し訴を提起し(平成8年(ワ)第14026号事件)(甲80、263?265)、仮処分命令の申立をした(平成8年(ヨ)第22136号事件)(甲224、225)。
上記仮処分命令申立は、その決定が平成8年12月に出された(甲59)。同仮処分手続を担当した裁判官は、和解案を提示したが、被請求人はこれを拒絶し、仮処分決定を受けた後も、「Indianロゴ」と同一又は酷似した書体の「Indian」、「Indian/Motorcycle」、「Indian Motorcycle」等を使用して、革製ジャケットやTシャツ等の輸入、販売、広告を継続した(甲60?63、65?75)。
(e)被請求人は、「Indianロゴ」を含みこれに類似する商標や「ヘッドドレスロゴ」に酷似した「ヘッドドレスロゴ」等の商標を、第25類等に平成6年以降次々と出願している(甲257?262)。
また、平成16年に至って「Indian」からなる商標を第25類に出願した(甲386、441)。
しかも、平成6年に出願した2つの商標は、請求人の略称である「Indianロゴ/MOTOCYCLE」を、及び平成7年に出願した商標は、「INDIAN MOTOCYCLE」を含むものである(甲257?262)。
(ウ)小括
要するに、被請求人が行ったことは、「Indian」ブランドビジネスの米国での立ち上げ市場への浸透を知り、「Indian」ブランドを用いたビジネスが日本で導入展開されることが予測できるときに、まず本件商標を出願し登録を得ておくことにより、「Indian」ブランドが後に第三者(本件では請求人)により日本市場に導入され、第三者(本件では請求人)が企業努力を傾注して同ブランドを日本市場に浸透させるや、それに便乗して、本件商標と同一性の範囲内にない、かつ、第三者(本件では請求人)の使用にかかる「Indianロゴ」と同一の態様の、「Indianロゴ」やこれを含む商標等の「Indian」ブランドを使用して、第三者(本件では請求人)やそのライセンシーの業務を妨害することであった。
かかる行為は、他人の企業努力の成果に便乗して自己の商品を売り利益を得、同時に他人の業務を妨害することであり、他人の犠牲のもとに自分のみうまい汁を吸わんとするものであって、公正な競業秩序を害するものであることは明白である。
したがって、本件商標が公序良俗に反し、商標法第4条第1項第7号に該当するものであることは上述したところで明らかである。
ウ 以下、念のため、幾つかの点について明らかにする。
(ア)新インディアン社は、既に消滅していた1901年設立の旧インディアン社がオートバイに使用していた「Indian」商標にマーチャンダイジングのブランドとしての価値を新たに付与した。そして、このことは新聞等で報じられた。したがって、新インディアン社はかかるマーチャンダイジングブランドとしての「Indian」商標の出所として認識されたからこそ、スコット・カジヤを始め多くの者が同社に投資したのである。
ところで、新インディアン社は1901年設立の旧インディアン社と無関係である。これは、新インディアン社の設立の当初から明らかにされていたところである。
また、新インディアン社の創立者であるフィリップ・ザンギと新インディアン社とは別のものである。会社を発起し設立した者と会社とが別のものであることは自明である。
(イ)スコット・カジヤは、自らブランドビジネスを行うものであり、デザイナーでもあって、「Indian」の復活の報に接して、日本において「Indian」のマーチャンダイジングビジネスが適正に展開されれば成功すると予測し、新インディアン社に約1億円の投資をして、日本における「Indian」商標を用いてマーチャンダイジングビジネスを展開する権利を取得したものである(甲10)。
(ウ)請求人は、スコット・カジヤとサンライズ社とが合弁で設立した会社であって、請求人は然るべき対価を支払ってスコット・カジヤから日本における「Indian」商標を用いてマーチャンダイジングビジネスを展開する権利の譲渡を受けた承継者であり、「Indian」商標を日本において使用する正当な権利利益を有するものである(甲20、11)。
したがって、日本の市場は、請求人を日本における「Indian」ブランドの唯一の正当な出所として認識して尊重しているのである。
(エ)被請求人は、多くの海外ブランド(「TACHINNI」、「O’NEILL」等)を商標登録し、また、マーチャンダイジングビジネスの核となりうるような固有名詞や人名や地名や名称等(「ベアーサーフボード」、米国陸軍航空隊のマーク等)を多く商標登録している(添付1)。被請求人によるかかる冒認出願は、先ず片仮名で日本に商標登録し、後に同欧文字の商標を使用したビジネスが日本で展開されるや、当該片仮名の商標に基づいて欧文字の商標を用いたビジネスを妨害し、訴を提起するのは、添付1記載の「ベアーサーフボード」の事例と同じ手口であって、かかる登録は先願主義を悪用するものである。
そして、本件商標「インディアンモーターサイクル」の登録も「ベアーサーフボード」と全く同一の手口である。
(3)過去の審判決例について
本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するという判断をしなかった従前の判例、審決例は、被請求人の「ザンギの詐欺」の主張に惑わされ請求人に対して偏見を持つに至った結果なされたものであり、誤りである。
要するに、甲第486号証の判決は、「新インディアン社=ザンギの詐欺の手段として設立した実体の無い会社、すなわち、ザンギ=新インディアン社」、「ザンギ=詐欺師」、「カジヤ=詐欺師ザンギの一味」、「請求人=詐欺師ザンギの一味」という偏見に基づき請求人の企業努力とその成果は保護に値しない、何人も請求人の正当な企業努力の成果を収奪して良い、という判断をしたのである。
フィリップ・ザンギは、新インディアン社の創業者の一人であるが、新インディアン社とは全く別である。このことは、新インディアン社が、トリニティープロダクツ社とライセンス契約をする程にまで「Indian」ブランドを米国市場に浸透させたのであり、また、第12類「Indianロゴ」の商標登録、第25類の「Indianロゴ」の出願を「IMCOA Licensing America,Inc.」に譲渡した程であったことから明らかである。
いわんや、フィリップ・ザンギは、請求人と全く無関係である。同判決において、同裁判所が「インディアンモーターサイクル」が商標法第4条第1項第7号公序良俗に反する商標か否かを判断するに際し認定する必要があったのは、請求人が「Indian」ブランドを「ハーレーより一ランク上のヴィンテージハイカー系のアメリカンカジュアル」のブランドとして設定し、日本に導入し、企業努力を傾注して日本市場に浸透し周知ならしめたこと、かかる請求人の企業努力とその成果は正当なものであり、正当に保護すべきものであること、被請求人が「Indian」ブランドの日本上陸のあるべきことを予測し、将来日本市場に導入されたときに導入者の企業努力の成果を収奪することを企図し、かかる請求人(=日本市場への導入者)の企業努力の成果に便乗収奪し、請求人の業務を妨害するため「インディアンモーターサイクル」を出願し登録を得たこと、であり、「ザンギの詐欺」など全く関係無く、言及する必要など全く無い。
(4)結論
本件商標は公序良俗に反するおそれのあるものであるから、その登録を無効とすべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁の理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第195号証(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由(1)
本件商標に対しては、本件審判での無効理由と同様、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することを理由として、既に3度の無効審判が請求され、いずれの審判でも請求不成立の審決が確定している。本件審判の請求は、これら前審判と同一事実及び同一証拠に基づいてなされており、本件審判の請求が準用する特許法第167条の規定に違反するものであることは明らかである。よって、本件審判の請求は不適法な審判の請求として直ちに却下されるべきである。
(1)同一の理由及び事実
本件審判において、請求人が主張するところの無効理由は、「本件商標は、被請求人において、その指定商品に使用せず、我国において『インディアン』商標を用いたブランドビジネスが展開されたときに、そのブランドビジネスを展開するものの企業努力の成果を収奪し、そのブランドビジネスを妨害し、不当な利益を得る意図で、出願し登録を得たものであり、公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反する商標である。」というものである。
かかる本件審判における請求人主張の無効理由は、以下の如く、前審判事件である平成6年審判第13787号(以下「前審判(A)」という。)、無効2003-35031号(以下「前審判(B)」という。)及び無効2005-89065号(以下「前審判(C)」という。)での請求人主張と全く同一である。
ア 前審判(A)における無効理由
前審判(A)で請求人が主張していた無効事由は、商標法第4条第1項第7号を含み、その要旨は、「本件商標は、1901年に設立され、1953年に消滅した米国バイクメーカー『インディアン社』の商標、又は、1990年にフィリップ・ザンギが設立した同名の米国法人『新インディアン社』や請求人の商標が有する顧客吸引力に只乗りし、請求人らが行っているブランドビジネスを妨害するものであるから公序良俗に反する。」というものであった。
イ 前審判(B)における無効理由
前審判(B)で請求人が主張していた無効事由の要旨は、「本件商標は、被請求人においてその指定商品に使用せず、我国において『インディアン』商標を用いたブランドビジネスが展開されたときに、そのブランドビジネスを妨害する目的で出願し登録を得たものであって公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反する商標である。」というものであった。
ウ 前審判(C)における無効理由
前審判(C)で請求人が主張していた無効事由の要旨は、「本件商標は、被請求人が、請求人による『Indian』ブランドを用いたマーチャンダイジングビジネスが米国において起ち上げられたことを知り、いずれ日本でもかかるブランドビジネスが導入され展開されることがあるべきことを予測し、将来何人かにより日本において『Indian』ブランドビジネスが展開されたときに、同ブランドビジネスを展開する者の業務を妨害する目的で出願し登録を得たものであるから公序良俗に反する。」というものであった。
(2)前審判(C)と本件審判の事実及び証拠の同一
本件審判の請求理由(及びそれを構成する事実)及び証拠が、前審判(A)ないし(C)のいずれとも同一であることは明らかで、本件審判と前審判(C)との同一性についてはより明白である。
本件審判と前審判(C)の請求理由及びそれを構成する事実が同一であることは、前審判(C)で請求人が提出した審判請求書、弁駁書、審決取消訴訟での準備書面の記載から明白である。
証拠についても、本件審判で請求人が提出した証拠中、甲第1号証ないし甲第476号証は、前審判(C)事件で請求人が提出した証拠と全く同一であり(乙194、195)、追加された証拠(甲477?486)は、いずれも実質的に新たな証拠とはなり得ない。
すなわち、甲第477号証ないし甲第482号証は、1990年又は1992年に米国で発行された雑誌に掲載された仔細な広告である。そもそも、これらの広告は、甲第477号証(求人広告)を除き、本件商標の出願日(1991年11月5日)後の事実であって、本件商標の登録適格についての判断材料とはなり得ない。
また、甲第483号証は、「如何なる商品にも全世界で使用する権利を付与する。」などと、このような原権もなく新インディアン社が米国で勝手に締結した私的契約でしかない。
さらに、甲第484号証の1ないし3は、前審判(C)において被請求人が提出した米国登録商標に関する証拠(乙71)と実質同一である。関連する甲第485の1ないし3の米国登録商標を含めたこれらの米国登録商標は、旧インディアン社とは全く無関係に出願登録されたものであり、これらの米国商標登録データの証拠は、単に米国での商標登録の事実を示したにすぎないものであって、本件商標の登録適格とは何ら関係しない。
(3)結語
上記のとおり、本件審判の請求は、前審判(C)と同一事実及び同一証拠に基づくものであり、準用する特許法第167条の規定に違反するものである。
2 答弁の理由(2)
請求人は、「本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するから、その登録は法第46条第1項第1号により無効とすべきものである。」と主張する。しかしながら、かかる請求人の主張は前審判(A)ないし(C)の審判決でことごとく否定され、本件商標の有効性は既に認められているところである。仮に、答弁の理由(1)が認められないとしても、請求人主張の上記無効理由が何ら根拠のないものであることは既に決着済みであって、本件審判の請求は直ちに棄却されるべきである。
(1)事件の背景及び前提となる事実関係
ア 当事者及び関係者
(ア)被請求人について
被請求人は、昭和40年に設立された会社であるが、前身となる「テーラー東洋」及び「港商社」の時代から数えると、60年以上の歴史を持つ老舗アパレルメーカーで、アメリカンカジュアル衣料の専門業者である(乙25、26、60、62)。
(イ)請求人について
請求人は、平成5年6月3日に設立された日本法人で、定款の記載からすると、装身具から酒類及びオートバイに至るまで多種多様な商品の販売や出版、広告代理、映像の企画・制作及び著作権の取得・譲渡・貸与等を目的としている。そして、他者に商標等の使用を許諾することによって利益を得るライセンスビジネスを主業務としている。
(ウ)旧インディアン社について
旧インディアン社は、明治34年(1901年)に創業された米国のオートバイメーカー「INDIAN MOTO(R)CYCLE CO.,INC.」で、凡そ60年前の昭和28年(1953年)に操業を停止し、その後解散し、以来、現在に至るまで関係者を含め如何なる事業活動も行っていない。
請求人は、商標出願及び関連する事件において、旧インディアン社の過去の実績や商標使用の事実を示す資料を、請求人らと何らかの関係を有する者による実績や事実であるかのように証拠として提出し、同社との関係性を臭わすような主張を繰り返しているが、同社と請求人らとの間には、法的には勿論のこと経済的にも社会的にも一切関係がない。
(エ)新インディアン社及びフィリップ・ザンギについて
請求人らが実際に関係したのは、旧インディアン社やその関係者などではなく、米国人フィリップ・ザンギが、1990年に設立した同名の米国法人(新インディアン社)である。この新インディアン社は、社名・住所・社章など、いずれも消滅した旧インディアン社と同一のものを採用しているが、両社の間には如何なる関係も関連もない。
そして、新インディアン社を設立したフィリップ・ザンギという人物は、旧インディアン社及び同社商標に関連して国内外200人にも及ぶ人々から金員等を詐取したとして逮捕され、「投獄90ヶ月、百万ドルを超える詐取金の返還支払を命ずる」との判決を受けた人物である(乙15、16、18、20、21)。
(オ)スコット・カジヤについて
米国人スコット・カジヤは、新インディアン社からの使用許諾(乙22)を根拠にインディアン関連商標の日本におけるライセンスビジネスを目論み、請求人の親会社であったサンライズ社と共に請求人を設立して自らが代表者に就任した。その後、フィリップ・ザンギ名義で出願した別掲(1)の請求人商標a等を請求人に譲渡し、請求人による日本におけるライセンスビジネスが開始されたのである。
この使用許諾(乙22)は、旧インディアン社とは全く無関係なフィリップ・ザンギや新インディアン社が、旧インディアン社の略称や同社商標、更にはこれらを原型起源とする商標について、全世界的に他者による採択や使用を制限することができるような独占的権原を有さないことは論ずるまでもなく、まして、我が国における商標登録の適否を左右する要因とは到底なり得ない。
新インディアン社とスコット・カジヤとの間の契約が有効かどうか、また、スコット・カジヤがフィリップ・ザンギに、サンライズ社や請求人がスコット・カジヤに相当の対価を支払ったかどうかなどということは関係した当事者間だけの問題で、被請求人ら第三者とは一切関係しない。
イ その他
(ア)米国登録商標について
フィリップ・ザンギが米国で譲り受けたとする商標は、旧インディアン社が消滅して18年経った1971年に、メリルクライマーという個人が、旧インディアン社とは全く無関係に出願し登録を受けた商標である(乙71)。フィリップ・ザンギは、その一部を1990年5月に当時共有者の一人であったカーメン・デリオネから、持分の2分の1(全体の4分の1)を譲り受けたにすぎない。
(イ)商標態様につて
請求人らが採択した商標が、単に、旧インディアン社が存続時に使用していた商標をそのまま自らの商標として採択したにすぎないのであり、標章の態様が同一であるからといって、全く無関係な旧インディアン社の過去の実績や名声を根拠に、請求人らに限って何か特別な権利や地位を有するということにはならない。
被請求人にあっても立場は全く同じであり、被請求人が衣料品等の商標としてインディアン商標を採択する行為は正当な行為で、何ら非難される行為ではない。ブランドビジネスの商標として採択するのは良くて自社商品の商標として採択するのは良くないということにはならないのである。
(ウ)被請求人による「インディアン関連商標」採択の経緯について
平成2年の終わりころ、被請求人の評判を知った数百人からなる米国ヴィンテージバイクの愛好家団体より、彼らのバイクジャケットを作るよう依頼されたのがそもそもの始まりで(乙24、33、72?74)、彼らの提案によりこのバイクジャケットの商標を「インディアンモーターサイクル」とすることとして、平成3年11月5日に出願し、平成6年3月31日に、本件商標として登録を受けたのが「インディアン関連商標」採択の始まりである。そして、被請求人代表(小林)が、1990年に米国ヴィンテージバイクの愛好家団体のメンバーである「ジェリー・チン」氏と出会ったことは事実であり、彼の為に、彼の名前「JERRY」「CHINN」、彼のラッキーナンバー「13」及び「Indianロゴ」を入れたレース用のジャケットを作り提供したのが最初である(乙72、73)。
被請求人は、平成6年に本件商標が登録されたことを踏まえ、商品化の具体的な作業に着手し、平成7年にカナダインディアン社と提携して同社商品を輸入することから商品展開をスタートさせ、そしてようやく平成8年の秋冬物の商品として、自社製のライダージャケットを完成できたのである。
(エ)被請求人の登録商標について
本件商標について請求人は、本件商標が片仮名表記となっていることを「不自然である」と指摘し、「被請求人は本件商標を使用していないと」主張するが、最初に出願した本件商標が片仮名表記となっているのは、当初ロゴデザインが決まっていなかったことから、取り敢えず音表示で出願したことによるもので、このような出願手法は、先願主義を基調とする我が国の法制下にあっては普通に採られている手法であって特に不自然なことではない。その後、ロゴデザインが決まったものについてはその都度出願してきたが、これら商標の登録が出願から7年ないし10年の長期を要したこと(乙10)も当事者間の問題をより複雑にした要因といえる。
(オ)被請求人によるインディアン商標の使用について
被請求人は、本件商標が平成6年3月に登録されたことを踏まえ、商品化の具体的な検討に入るとともに、輸出入業務に関係して米国やカナダでの権利関係を調査したところ、米国ではインディアン商標について権利を主張する者が数多くいて権利関係が複雑で特定できない等の事情から、商標「INDIAN MOTORCYCLE」について、カナダで正当な商標権者として認められていた「INDIAN MANUFACTURING LTD.(カナダインディアン社)」と業務提携し(乙19、23、186)、平成7年初期に、蝶理、フジエンタープライズを介して、同社商品を輸入することからインディアン商標を付した商品の日本での販売を本格的に開始したのである(乙34、35、75?116)。これら商品についての最初の雑誌広告は、平成7年6月25日発行の雑誌「ポパイ」による(乙36)。
したがって、被請求人が当初使用していた「インディアン商標」の全ては、カナダインディアン社から輸入した商品に元々付されていたもので、このことは、同社の商品カタログ(乙37)や同社商品の展示写真(乙75の1)、さらには、仲介商社から送られてきた同社の商品見本の写真(乙98)と照合すれば容易に判明するところであって、請求人らのブランドビジネスや、その商標とは一切関係しない。
そして、前記のとおり、被請求人が本格的に商品販売を開始したのは、平成7年の中頃であったが、商社(蝶理、フジエンタープライズ)からカナダインディアン社を紹介されたのは、平成6年であり(乙77)、また、それ以前にあっても、被請求人が実際に「Indianロゴ」入り商品の販売を日本で最初に手掛けたのは、インポート商品ではあったが平成3年秋口のことであり、輸入行為そのものが商標使用と認められるとすると、被請求人によるインディアン関連商標の最初の使用は、上記被請求人展示会開催の数ヶ月前からということができる(乙119)。
(カ)本件商標の採択出願と請求人らによるビジネス
上記した時系列的事実から明らかなのは、被請求人によるインディアン関連商標の日本での使用及び本件商標の出願は、新インディアン社によるスコット・カジヤに対する商標使用許諾(1992年2月12日)、スコット・カジヤによる日本での商標出願(1992年2月6日)、フィリップ・ザンギやスコット・カジヤらによる業界紙(甲13)での請求人会社の設立とブランドビジネス立ち上げの告知(1993年1月29日)、請求人会社の設立(1993年6月3日)、請求人による業界紙(甲24、25)でのライセンス事業開始の告知(1993年1月29日)、スコット・カジヤから請求人への商標譲渡(1996年5月27日)の何れにも先行していたということであり、被請求人によるインディアン商標の採択が冒認行為であるとの請求人主張の誤りは明らかである。
(キ)米紙報道について
本件商標の出願前の事実があるとすれば、1991年7月1日付け「The Daily News」(甲6)と、1991年7月5日付け「USA TODAY」(甲7)の記事であるが、その内容はフィリップ・ザンギが金員を詐取する為にした一方的な発表にすぎず、商標使用の実際や事業の存在を何ら証明するものでない。このことは、その後のフィリップ・ザンギの犯罪行為や発表内容の一切が実行されていない事実に照らせば明らかである。
そもそも、日本の一衣料品会社である被請求人が外国で発行されたこのような英字新聞を日々購読していたと考えること自体が極めて不自然であり、仮に、被請求人の誰かがこの記事を読み、これをヒントに本件商標を出願をしたとしても、当該米紙報道はフィリップ・ザンギの一方的な発表を記事にしたものであり、外国での出来事が、我が国での商標登録の適否や使用の正当不当を左右する要因となり得ないことはいうまでもない。
(2)関連事件での判断
請求人と被請求人間においては、権利の有効性や使用の正当性等について争った多くの関連事件がある。そして、何れの事件においても、本審判事件での請求人の主張と同趣旨の主張は、ことごとく否定され採用されていない。
以下に挙げた事件は、本事件とは別件ではあるが、何れも本件商標の登録について被請求人に不正な意図(公序良俗違反)があったか否か、請求人商標が周知又は著名であったか否かが争点とされたもので、本事件とは当事者及びその争点を共通にし、請求人主張の論拠及び判断の基礎となった証拠も実質的に同一というべき事件である。
そうとすると、その判決が同一の原因事実についてした認定判断は、尊守されなければならず、仮に、既判力の効力がこれらの認定判断に及ばないとしても、「審決取消訴訟の確定により決着の付いたはずの事項を再び蒸し返して争おうとすることは、確定した裁判によって解決しようとした事柄を未解決の状態に置こうとするものであるから、法的安定性を著しく害することは明らかであり、別件訴訟につき再審事由に該当するほどの事由があるなどの特段の事情がないかぎり、確定判決の理由中の判断を尊重するのが相当であって、再度蒸し返して争うことは信義則に反し許されない。」(東京高裁:平成11年(ネ)第3800号)
ア 本件商標に対する事件
(ア)平成6年審判第13787号「前審判(A)」(乙1)
(イ)平成10年審判第30518号(平成11年(行ケ)第443号、乙2)
(ウ)取消2000-31423号(平成15年(行ケ)第181号、乙3)
(エ)無効2003-35031号「前審判(B)」(平成16年(行ケ)第108号、乙4)
(オ)無効2005-89065号「前審判(C)」(平成19年(行ケ)第10388号、乙192、甲486)
イ 被請求人商標B?Jに対する事件(別掲(2))
(ア)異議2004-90314号外8件(乙5)。
(イ)無効2006-89078号(平成19年(行ケ)第10342号)
(ウ)無効2006-89080号(平成19年(行ケ)第10343号)
(エ)無効2006-89129号(平成20年(行ケ)第10109号)
(オ)無効2006-89130号(平成20年(行ケ)第10029号)
(カ)無効2006-89131号(平成20年(行ケ)第10030号)
(キ)無効2006-89133号(平成20年(行ケ)第10230号)
(ク)無効2006-89134号(平成20年(行ケ)第10231号)
(ケ)無効2006-89095号(平成20年(行ケ)第10005号)
(コ)無効2006-89096号(平成20年(行ケ)第10006号)
ウ 請求人商標a?cに対する事件(別掲(1))
(ア)平成7年審判第28124号「閉鎖登録第2710099号商標:請求人商標a」(平成14年(行ケ)第140号、乙6)
(イ)無効2002-35289号「閉鎖登録第4022987号商標:請求人商標b」(平成15年(行ケ)第422号、乙7)(平成17年(行ケ)第10241号、乙187)
(ウ)無効2003-35064号「登録第4116047号商標:請求人商標c」(乙12)
(3)結論
以上のとおり、本件審判の請求は、一事不再理の規定(商標法第56条1項で準用する特許法第167条)に違反した違法なものであるから、不適法な請求として直ちに却下されるべきである。
万が一、上記主張が認められないとしても、請求人主張の無効理由(商標法第4条第1項第7号違反)は何ら根拠のないものであるから、本件審判の請求は棄却されるべきである。

第4 当審の判断
1 「同一の事実及び同一の証拠に基づく審判請求」との主張について
被請求人は、本件商標については、本件審判での無効理由と同様に商標法第4条第1項第7号に該当することを理由として、既に3度の無効審判が請求され、いずれの審判でも請求不成立の審決が確定しており、本件審判の請求は、商標法第56条において準用する特許法第167条に規定に違反するものであるから、不適法な審判の請求として直ちに却下されるべきである旨主張する。
(1)確かに、本件商標について、乙第1号証、乙第4号証、及びその商標登録原簿などを職権により徴すれば、平成6年審判第13787号事件として、商標法第4条第1項第7号、同第8号及び同第15号に該当し、その登録は無効とされるべきであるとの審判請求がされ、同事件は、請求は成り立たないとの審決がされて、平成10年4月15日に確定の登録がされている。また、無効2003-35031号事件として、同法第4条第1項第7号に該当し、その登録は無効とされるべきであるとの審判請求がされ、同事件は、請求は成り立たないとの審決がなされて、平成17年4月15日に確定の登録がされている。
さらに、乙第192号証(甲486)及びその商標登録原簿などを職権により徴すれば、無効2005-89065号事件(以下単に「前審判事件」ということがある。)として、商標法第4条第1項第7号に該当し、その登録は無効とされるべきであるとの審判請求がされ、前審判事件は、請求は成り立たないとの審決がされて、出訴した審決取消請求事件では請求棄却の判決がされ、その上告の申立ても不受理とされて、平成21年10月21日に確定の登録がされていることがそれぞれ認められる。
(2)被請求人は、本件審判の請求理由及び証拠が、上記審判請求のいずれとも同一であることは明らかで、前審判事件との同一性については、その請求理由及びそれを構成する事実が同一であることは、前審判事件で請求人が提出した審判請求書、弁駁書、審決取消訴訟での準備書面の記載から明白であり、また、証拠についても、本件審判で請求人が提出した証拠中、甲第1号証ないし甲第476号証は、前審判事件で請求人が提出した証拠と全く同一であり(乙194、乙195)、追加された証拠(甲477?486)は、いずれも実質的に新たな証拠とはなり得ない旨述べている。
(3)しかし、商標法第56条1項において準用する特許法第167条は、何人も、商標登録無効等の審判の確定審決の登録があったときは、「同一の事実及び同一の証拠」に基づいて、新たな審判請求をすることができないことを規定するところ、請求人が主張する無効理由は、上記の審判請求事件での請求人主張と実質上同一であったとしても、本件審判の請求において提出された証拠は、前審判事件で提出された証拠に追加されたもの(甲477?486)がある点において、「同一の証拠」による請求とは言い難い。
したがって、本件審判の請求は、商標法第56条1項において準用する特許法第167条に規定する、いわゆる「一事不再理」の原則に反するとまではいえないから、請求人のこの点にかかる主張は採用することができない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)本件の事実関係
当事者の証拠(甲2、5?7、10、11、13?21、24?32、48?58、201、226?246、249、250、254、380、461、462、464?466、468、470、472?476、乙15?18、20、21、27、71?74、119、190)及び主張の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
ア 旧インディアン社
1901年(明治34年)、米国マサチューセッツ州スプリングフィールドにおいて、オートバイのメーカーが設立され、その商号として、1923年に「インディアン・モトサイクル・カンパニー」(旧インディアン社)を名乗った。
旧インディアン社のオートバイは、パワーと頑丈さに優れているとされ、数々の歴史的伝統のあるレースで優勝し、州警察や軍のオートバイとして活躍するなどしてその名を知られるようになった。旧インディアン社は、「INDIAN MOTOCYCLE」(インディアン・モトサイクル)と略称され、1950年代以前、ハーレー・ダヴィッドソンと並ぶ米国を代表するオートバイメーカーとして知られ、同社の使用する「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等は、旧インディアン社の製造販売するオートバイに付された商標として、米国、欧州、日本において周知であった。しかし、旧インディアン社は、ハーレー・ダヴィッドソンのオートバイとの競争に敗れるなど、種々の要因から売上げが落ち、1953年に操業を停止し、その後、イギリス人のオーナーが工場を別の町に移して製造を再開したが、結局、1959年に会社が解散されるに至り、その後、同社が再開されることはなかった。
そして、新インディアン社の使用した商標、請求人各表示、請求人商標a?c、被請求人商標A?Jは、いずれも、旧インディアン社の使用していた商標に基づいたものであり、旧インディアン社の商標と同一ないしは類似するものである。
イ 新インディアン社
(ア)米国人フィリップ・ザンギは、1971年(昭和46年)に、メリル・クライマーという人物が旧インディアン社と無関係に登録していた「Indian Motorcycle」という商標の一部を、1990年(平成2年)5月、カーメン・デリオネから譲り受け、1990年(平成2年)ころ、フィリップ・ザンギが中心となって、米国マサチューセッツ州スプリングフィールドにおいて「Indian Motocycle Co.,Inc.(インディアン・モトサイクル・カンパニー・インク)」という社名の会社を起こした(新インディアン社)。新インディアン社は、1992年(平成4年)1月、フィリップ・ザンギらから上記商標を譲り受けた。新インディアン社は、旧インディアン社とは「Indian Motocycle(インディアン・モトサイクル)」社という社名を共通にするが、これは、旧インディアン社と共通の商号が採択されたものにすぎず、旧インディアン社ないしその承継人との関係はなく、また、旧インディアン社ないしその承継人から、その商標権の譲渡や使用許諾を受けたものでもなく、さらに、旧インディアン社が有していた技術を当時の従業員等を介するなどして具体的に引き継いだものでもなかった。
(イ)新インディアン社について、次の内容の記事が掲載された。
a 1991年(平成3年)7月1日付け「The Daily News」に、「夢追うバタビア人 見捨てられたバイク会社を復活に導く実業家」との見出しの下、「フィリップ・S・ザンギは今まさに、アメリカ史に残る伝説であるインディアン・モトサイクルを甦らせるという夢を実現させようとしている。40年の沈黙を破り、マサチューセッツ州スプリングフィールドにあるインディアン・モトサイクル・カンパニー…がかつての有名なバイクを製造するための場所としてコネチカット州のウィンザー・ロックスにある93エーカーの敷地を確保する為の最終的な交渉が現在進められている。」との内容を含む記事が掲載された。
b 1991年(平成3年)7月5日付け「USA TODAY」に、「40年近くの間、製造を中止されていたインディアン・バイクが再び息を吹き返した。コネチカットの投資家フィリップ・ザンギの計画が順調に行けば、このクラッシックの大型バイクは1993年には路上へと帰って来る。」、「彼は去年そのインディアンの商標権を買い取り、アクセサリー会社と共にテスト・マーケットをすることにした。バイヤーたちはその会社のトレードマークであるインディアン・ヘッドを附したTシャツや革ジャンに飛びついたのだった。」との内容を含む記事が掲載された。
c そして、我が国でも、平成5年1月29日付け「二輪車新聞」に、ヘッドドレスロゴの図形中に「Indianロゴ」を配した商標を冠したオートバイの写真や、同図形の下にMOTOCYCLEを配した商標が付されたウェアの写真とともに、「よみがえるアメリカン インディアン復活 7月4日 米国で1号車を発表」との見出しの下、「1920年代から40年代にかけて全盛を誇ったアメリカンモーターサイクル『インディアン』の製造元インディアン・モトサイクル社の40年ぶりの復活が決定、1月22日(金)、同社オーナーのフィリップ・ザンギ氏の来日に合わせ、同社の日本代表スコット・カジヤ氏の同席のもと記者会見が行われた。当日は、新生インディアンモーターサイクルの概要および今年7月4日アメリカ独立記念日に発表される第1号モデルの内容などが明らかにされた。」との内容を含む記事が掲載された。
(ウ)新インディアン社は、上記のように、1991年(平成3年)の新聞記事で紹介され、1993年(平成5年)1月に、そのオーナーとされるフィリップ・ザンギの来日記者会見が行われ、1993年(平成5年)の春までに、工場建設用の敷地を取得し、オートバイのプロトタイプを2台製造したものの、結局、1993年(平成5年)7月4日の第1号モデルの発表もなされることはなく、本格的なオートバイの開発製造等を何ら行うことがないまま、やがて倒産するに至った。そして、フィリップ・ザンギも、新インディアン社の多数の投資家から金員等を詐取したとの証券詐欺等の容疑で、1996年(平成8年)6月5日ころ逮捕、拘禁され、1997年(平成9年)12月19日、米国マサチューセッツ地区連邦地方裁判所により有罪を宣告され、投獄90か月(7年6月)に処せられるとともに、百万ドルを超える弁償金等の支払を命ずる旨の判決を受けた。
なお、新インディアン社による旧インディアン社の商標と同一ないしは類似の商標を付した衣料等の生産についても、そのアイテム数は必ずしも多くなかった上、ライセンス先のトリニティープロダクツ社による衣料、アクセサリーの販売等を含め、雑誌「POPEYE」平成5年11月10日号の「米国では既にブームとなっている模様」等の記事はあるものの、その具体的な販売規模は不明であり、少なくとも大規模であったと認める証拠はない。
ウ 請求人の設立
(ア)米国人スコット・カジヤは、日本に居住してファッション・コンサルタントなどの仕事をしていた折、前記イ(イ)bの「USA TODAY」紙の記事を読み、ブランドとしての「Indian」に興味を持って、1991年(平成3年)12月、新インディアン社のフィリップ・ザンギを訪問して面談した。その結果、新インディアン社のフィリップ・ザンギとスコット・カジヤは、スコット・カジヤが新インディアン社から、日本をテリトリーとして「Indian」商標を使用してライセンス及びマーチャンダイジングビジネスを展開する独占的権利を、約70万ドルの対価を払って買い受けることに合意した。これに基づき、フィリップ・ザンギは、新インディアン社の「Chairman of the Board」(取締役会長)として、1992年(平成4年)2月12日付けで、「関係者各位」宛、「Indian Motocycle商標の所有者として旧インディアン社はスコット・カジヤに対して日本における営業目的のために当社のロゴ及び商標を使用する権利を付与する。」との文書に署名した。
(イ)スコット・カジヤは、新インディアン社からの協力を得ることなく独自で日本において「Indian」商標を使用したビジネスを展開するため、請求人の現代表者が取締役本部長を務めていたサンライズ社と共に、平成5年6月3日、皮革製品、衣料品の輸出入及び販売等を目的として請求人を設立し、その代表取締役に就任した。そして、スコット・カジヤは、請求人設立と同時に、請求人に対し、Indian/Motocycle商標や「Indianロゴ」からなる商標等の「Indian」商標の使用を許諾し、その後、平成7年10月16日付けで請求人商標aを請求人に譲渡するなど、平成7年から平成8年にかけて、「Indian」商標に関する権利をすべて請求人に譲渡した。なお、請求人においては、平成7年9月、現代表者が代表取締役に就任し、現在に至っている。
(ウ)平成5年7月24日付けの「繊研新聞」紙には、「米アンティークバイク『インディアン』ウエア発売」という見出しの下、「アンティークバイクとして有名なアメリカの『インディアン』をイメージキャラクターにした商品が今秋から日本で発売される。同ブランドの世界戦略の一環で、すでに一部商品はアメリカで販売されているが、このほどインディアン・モトサイクル・ジャパン(本社東京、スコット・カジヤ社長)が設立され、今秋から輸入販売をはじめる。ライセンス事業も行い、日本では5年後、20億-30億円を目標としている。」との内容を含む記事が掲載された。また、同日付けの「日経流通新聞」にも、同様の内容の記事が掲載された。
エ 請求人による請求人各表示の使用
(ア)平成5年1月から11月にかけて、雑誌「BRUTUS」に、21回にわたり、新インディアン社の創業や、請求人の設立等について、請求人の設立当初の取締役であった松木が執筆した記事が掲載された。このうち、雑誌「BRUTUS」平成5年10月15日号には、「インディアン社、アパレル事業驀進。オーナーのスコット・カジヤ氏語る。」との見出しの下に、「ついに、インディアン社のアパレル事業がこの秋冬にかけて本格的に動き出した。」、「インディアン・モトサイクル・ジャパンの代表でもあり、アパレルでもアジア地区の総代理人であるスコット・カジヤ氏は、次のように語る。『アメリカ本社のオーナー、フィリップ・ザンギ氏と私のアパレルにおける契約は、日本…を含んだアジア地区におけるものです。インディアン・モトサイクル・ジャパンは、日本におけるマスターライセンシーであるサンライズ社との共同出資で設立しました。日本市場でのブランド管理、ライセンスビジネス事業、輸入業務などを行います』」との内容を含む記事が掲載されている。
(イ)請求人は、平成5年秋から、請求人各表示を付したジャケット等の輸入販売を開始したところ、輸入販売に係る商品は、「アーバンメディスン」や「ビームス」などの店舗でも販売された。そして、雑誌「POPEYE」平成5年11月10日号には、「米国では既にブームとなっている模様。日本でも、ブーム着火は時間の問題だといえる。」との内容を含む記事が掲載され、雑誌「CLiQUE」平成6年1月5・20日合併号、雑誌「DICTIONARY」平成6年1月号においても、関連記事等が掲載された。
(ウ)請求人のマスターライセンシーであるサンライズ社は、平成6年始めころ、マルヨシに対し、バッグ、袋物類等について「Indian」商標のサブライセンスを許諾した。これに基づき、マルヨシは、請求人のサブライセンシーとして、平成6年5月、取引業者等を呼んで展示会を開催した。これに関して、平成6年6月25日付け「旬刊ファンシー」に、「◇マルヨシ◇『インディアン』が復活 40年ぶりにバッグなど商品化」という見出しの下、「マルヨシは5月16?18日、本社2階展示室で’94秋?’95春の展示会を行った。…今回、新ブランドとして『インディアン』を商品化。…『インディアン』は3つのシリーズから構成されている。トートなどのタウンバッグ系5アイテム…リュックなどのアウトドア系6アイテム…秋冬用のタウンバッグ系5アイテム…」との内容を含む記事が掲載された。また、雑誌「グッズプレス」平成6年11月号に、マルヨシが販売する「Indian」商標が付されたバッグ類が掲載された。
(エ)請求人のマスターライセンシーであるサンライズ社は、平成7年5月ころ、西澤社に対し、レザージャケットなどについて「Indian」商標のサブライセンスを許諾した。これに基づき、西澤社は、請求人のサブライセンシーとして、また、平成10年1月?12月は請求人の直接のライセンシーとして、「Indian」商標が付されたレザージャケットの製造販売を行った。これに関して、各種雑誌類(「GET ON!」1995年別冊5号〔平成7年12月〕、「マッシモ」平成7年11月号、「Hot・Dog PRESS」平成7年10月10日号、「Out Rider」平成7年11月号、「エム・エー・ワン」平成7年12月号、「FINE BOYS」平成7年12月号、同別冊12月号、「ブーン」平成8年1月号)に、西澤社が販売する「Indian」商標が付されたレザージャケットが掲載された。
(オ)請求人は、平成8年7月22日付け「繊研新聞」において、その広告を掲載した。これは、Indian/Motocycle商標を中央に大きく配し、「LEGEND RETURNS 伝説のブランド、復活。」との見出しの下、「現在のライセンシング状況 <マスターライセンシー>株式会社サンライズ社…<サブライセンシーおよび正規ディストリビューター>西澤株式会社…、株式会社三竹産業…、株式会社元林、兼松日産農林株式会社…、新規ライセンシー募集」等と記載されたものであった。
オ 被請求人による被請求人商標A?Jの使用と商品の製造販売
被請求人代表者は、1990年(平成2年)、米国ヴィンテージバイクの愛好家団体のメンバーであるジェリー・チンと出会い、その名前「JERRY」「CHINN」、ラッキーナンバー「13」及び「Indianロゴ」を入れたレース用のジャケットを作ったことがあったが、被請求人は、このことをきっかけとして、「Indian」商標を使用することを考え始めるようになった。そして、被請求人は、平成7年6月ころから、被請求人商標A?Jのいずれかを付した被服等の販売を開始したほか、別掲(2)に示す被請求人商標目録記載のとおり、平成6年9月、平成9年1月、平成9年3月に、順次、被請求人商標B?Jの商標登録出願を行った。
(2)以上の認定した事実を前提に、以下、本件商標「インディアンモーターサイクル」の商標法第4条第1項第7号該当性について検討する。
ア 請求人各表示ないし「Indian Motocycle Japan」、「インディアンモトサイクルジャパン」、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」(この4つを併せたものも、以下単に「Indian Motocycle」という。)が、その被服等の商品の出所が請求人であることを示すもの、ないしは請求人の略称として、需要者、取引者の間に知られるようになっていたということができるかについて検討する。
(ア)請求人の商号は、「インディアン モトサイクル(Indian Motocycle)」の部分が旧インディアン社と共通であり、請求人各表示は、旧インディアン社がその製造・販売していたオートバイに使用していた商標がその元となっており、しかも同商標と同一ないし類似のものである。しかるに、同商標は、1940年代において、米国、欧州、我が国においてオートバイに使用される商標として周知であったが、旧インディアン社が1953年にオートバイの製造を停止し、1959年に最終的に解散されるに至ってから、その後、同社が再開されることなく30年の月日が経過したことにより、1990年代後半において、オートバイの愛好家の間において根強い人気が続いていたことはともかく、被服・衣服の一般消費者間においてはその周知性を失っていたものである。
(イ)請求人とそのライセンシーらは、旧インディアン社の正当な承継人である新インディアン社からライセンスを受けて、米国インディアンブランドである請求人各表示を使用した事業を開始した、という宣伝広告を一貫して行い、これに基づく製造販売を行っている。これは、請求人各表示が、旧インディアン社の商標と同一ないし類似することと相まって、旧インディアン社の復活を標榜することにより、オートバイ愛好家の間に存在する旧インディアン社のオートバイへの根強い人気や、過去に周知著名であったブランドが今回請求人により復活されることの、アメリカンカジュアル衣料の一般消費者である若者に対するアピール効果を用いて、被服類のブランドとしての「Indian」商標の商品のブームを起こそうとしたものと考えられる。そうすると、請求人は、旧インディアン社の用いた商標と同一又は類似のものを用いて旧インディアン社の有する潜在的な周知性に訴えてその営業上の信用を利用しようとしたものであり、あくまで、請求人が旧インディアン社の正当な承継人であることを宣伝広告し請求人各表示を付した商品を製造販売等していたものであるから、旧インディアン社と離れて、請求人独自の「Indian」商標のビジネスを展開したものと解することはできない。そうすると、このような場合は、請求人が旧インディアン社の承継人と認められるのであればともかく、何ら旧インディアン社と関係がない第三者である場合には、請求人が「Indian Motocycle」を含む商号を採択し、また、請求人各表示を使用しても、旧インディアン社と離れて、これらの商号及び表示が、請求人の略称ないし請求人が出所であることを示すものとして需要者、取引者の間に知られるようになっていたということはできないと解するのが相当である。
(ウ)スコット・カジヤが許諾を受けた先である新インディアン社は、旧インディアン社とは「Indian Motocycle(インディアン モトサイクル)」社という社名を共通にするが、これは、旧インディアン社と共通の商号を意図的に採択したものにすぎないというべきであり、本件において、旧インディアン社と新インディアン社との間に法的に意味のある連続性を認めるに足りる証拠はない。そして、新インディアン社は、経済的に見ても、その従業員、営業組織、オートバイ製造の技術等が旧インディアン社から引き継がれていると認めるに足りる証拠はなく、実際にその本来の事業であるオートバイの本格的な製造販売を行うことなくやがて倒産したものであって、アパレルのライセンス事業も大規模のものと認めるに足りる証拠もない。さらに、新インディアン社をその中心となって創業したフィリップ・ザンギは、「Indian」商標に関連する証券詐欺等の罪により有罪の宣告を受けて投獄されているものである。
これらに照らせば、新インディアン社について、「Indian」商標を付したオートバイを製造販売していた旧インディアン社を復活させたものと評価することはできないというほかない。また、スコット・カジヤないし請求人が、旧インディアン社ないしその承継人から、請求人各表示ないし「Indian Motocycle」について、商標権等の譲渡や使用許諾を受けたものと認めるに足りる証拠もない。
(エ)以上によれば、請求人は、何ら旧インディアン社と関係がない第三者であるとの評価を免れないというべきであるから、このような請求人が、旧インディアン社と共通の「Indian Motocycle(インディアン モトサイクル)」との部分を含む商号を採択し、旧インディアン社の商標と同一又は類似のものである請求人各表示を使用しても、旧インディアン社と離れて、請求人の略称ないしは請求人を出所とするものとして需要者、取引者の間に知られるようになるということはできない。
イ 上記アの説示によれば、新インディアン社は、法的には旧インディアン社との連続性は何らない会社である上、その従業員、営業組織、オートバイ製造の技術等、その他その具体的活動状況等に照らしても、「Indian」商標を付したオートバイを製造販売していた旧インディアン社を復活させたものと評価することはできないのであり、請求人は、何ら旧インディアン社と関係がない第三者であるとの評価を免れず、このような請求人が旧インディアン社と共通の「Indian Motocycle(インディアン モトサイクル)」との部分を含む商号を採択し、旧インディアン社の商標と同一又は類似のものである請求人各表示を使用しても、旧インディアン社と離れて、「Indian Motocycle」ないし請求人各表示が、請求人の略称として、ないしはその被服等の商品の出所が請求人であることを示すものとして、需要者、取引者の間に知られるようになっていたということはできない。
そうであれば、同様の第三者である被請求人が、同様に旧インディアン社の商標と類似のものである本件商標を出願しても、旧インディアン社との関係ではともかく、請求人各表示により展開されている請求人の「Indian」商標のビジネスを妨害するものとはいえないことも明らかである。すなわち、被請求人商標A?Jの登録出願、登録により、競合する被服等の分野において同一又は類似する被請求人商標A?Jが登録出願を経て登録され、存在することによって、請求人が請求人各表示を使用した「Indian」商標のビジネスに事実上の影響を被っているとしても、それは、請求人があえて旧インディアン社に依拠したビジネス展開を行ったことが招いた当然の結果であるといわざるを得ず、被請求人の行為は自由競争の範囲内のものと評価され、請求人のビジネス展開を被請求人が妨害したものということはできない。
したがって、本件商標を含む被請求人商標A?Jの登録出願が、請求人による請求人各表示を付した「Indian」商標のビジネスを阻害し妨害する行為であるということはできず、そうである以上、本件商標の出願をもって、請求人の業務の遂行を阻害し業務を妨害する意図でなされたものということもできない。
以上によれば、本件商標が、商標法第4条第1項第7号に該当するということはできない。
(3)本件審判の請求において、新たに追加された証拠について
本件審判の請求においては、前審判事件及びその審決取消訴訟に提出された証拠に加えて、甲第477号証ないし甲第486号証の証拠が、新たに追加されているので、これら証拠について検討する。
ア 甲第477号証は、1990年(平成2年)11月7日付け「THE WALL STREET JOURNAL」であり、これには、Indian/Motocycle商標の下、新インディアン社(CEO.Philip.S.Zanghi)に係る求人広告が掲載されたことが認められる。
しかし、この求人広告がされた事実のみをもっては、新インディアン社の具体的な活動状況などは不明である。
イ 甲第478号証ないし甲第482号証は、米国各種雑誌類(「CYCLE WORLD」1992年(平成4年)1月号及び4月号、「INTERVIEW」1992年4月号及び6月号、「GQ」1992年4月号であり、これに新インディアン社による「THE LEGEND RETURNS」の文字や「Indianロゴ」商標及び「Indianロゴ+MOTOCYCLE」商標が付されたレザージャケットの広告が掲載されたことは認められる。
しかし、これら米国における雑誌での広告は、1992年(平成4年)1月号ないし同年6月号の期間内に5回掲載されたにすぎず、これをもって、レザージャケットについて「Indianロゴ」商標及び「Indianロゴ+MOTOCYCLE」商標が、新インディアン社に係る商標として米国内においての周知性を獲得していたとするのは困難である。
ウ 請求人は、従来の裁判例、審決例は被請求人の「ザンギの詐欺」に惑わされて偏見を抱いて誤った判断したとして甲第486号証(無効2005-89065号事件に係る審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10388号)の正本写し)を提出すると共に、「インディアン・モトサイクル・カンパニーがオートバイに使用した『Indian』商標を、オートバイ及びアパレルアクセサリーのマーチャンダイジングブランドの核(イメージキャラクター)となる商標として採択し、第12類の『Indianロゴ』商標の登録を取得し、第25類の『Indianロゴ』商標の出願を取得し、企業努力を傾注して告知広告をし、オートバイのプロトタイプの生産に入り、工場用地も取得し、アパレルアクセサリーの生産販売をし、米国のトリニティープロダクツ社にアパレルアクセサリーのライセンスをするまでに『Indian』ブランドを新インディアン社のマーチャンダイジングブランドとして周知ならしめたのが新インディアン社である。」旨主張し、甲第483号証ないし甲第485号証を提出している。
確かに、新インディアン社は、「Indianロゴ」を商標とし、指定商品を第12類「自動車」とする米国商標登録第921459号の商標及び「Indianロゴ」を商標とし、指定商品を第25類「被服など」とする米国商標登録第2643077号の商標を、何度も譲渡が繰り返されている経緯の中で、一時期、フィリップ・ザンギ(あるいは同人外1名)から譲渡を受けた事実は認められる。
また、1990年11月20日付けでライセンサー新インディアン社とトリニティープロダクツ社との商標「INDIAN」を衣類又はアパレルに関し、非独占的ライセンスを許諾するとの契約があったことは認められる。
しかしながら、これら上記の事実をもって、直ちに、「Indian」商標を新インディアン社のマーチャンダイジングのブランドとして周知ならしめたのが新インディアン社であるとは言えない。
エ 以上の新たに追加され証拠(甲477?486)からは、請求人のビジネス展開を被請求人が妨害することを証明し得るものということはできないから、これをもって、本件商標が、商標法第4条第1項第7号に該当するということはできないとの、前記(2)の判断を左右するものではない。
3 結論
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1) 請求人商標a?c


別掲(2) 被請求人商標A?J


別掲(3) 略語
(Indianロゴ)




(ヘッドドレスロゴ)




(MOTOCYCLEロゴ)




(Indian/Motocycle商標)




別掲(4) 請求人各表示

(Indianロゴ)




(ヘッドドレスロゴ)




(Indianロゴ+MOTOCYCLE)






(ヘッドドレスロゴ+MOTOCYCLE)



審理終結日 2012-03-09 
結審通知日 2012-03-14 
審決日 2012-04-03 
出願番号 商願平3-114779 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (105091016172021222425)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 正雄 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 小川 きみえ
鈴木 修
登録日 1994-03-31 
登録番号 商標登録第2634277号(T2634277) 
商標の称呼 インディアンモーターサイクル、インディアン、モーターサイクル 
代理人 野原 利雄 
代理人 佐藤 雅巳 
代理人 古木 睦美 

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