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審決分類 |
審判 全部無効 称呼類似 無効としない Y30 |
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管理番号 | 1261562 |
審判番号 | 無効2011-890105 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-11-29 |
確定日 | 2012-07-30 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4972764号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第4972764号商標(以下「本件商標」という。)は、「ローヤルゼリーキング」の文字を標準文字で表してなり、平成17年11月1日に登録出願、第30類「ローヤルゼリーを主原料とする粉末状・顆粒状・粒状・錠剤状・液状・ゲル状・板状又はカプセル入りの加工食品,食用のローヤルゼリー(医療用のものを除く。)」を指定商品として、平成18年6月1日に登録査定、同年7月28日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証(枝番を含む。)を提出している。 1 本件商標の登録を無効とすべき理由 (1)引用商標 引用する商標は、請求人が製造販売する、ローヤルゼリーを主原料とするカプセル入り加工食品(調製ローヤルゼリー)を表す表示である。請求人の商号「森川ローヤルゼリー」と商品名「キング」の語句(以下、別掲1及び別掲2に表示する「森川/ローヤルゼリー/キング」の商標を「引用商標」という。)からなり、小売店の店頭やウェブサイトでは「森川ローヤルゼリーキング」と表記されることもある。 (2)引用商標の使用実績及び引用商標の需要者の間における認識について ア 請求人は、昭和33年より、カプセル入りローヤルゼリー加工食品の製造販売を開始し、当初は、「ローヤルゼリー」として販売していたが、昭和48年に包装形態を変更した時に、「キング」の名称を付け、化粧箱表面には、「森川/ローヤルゼリー/キング」(別掲1)との文字を印刷している(甲2の2)。 甲第2号証の3に示した写真は、現在販売している引用商標を使用するカプセル入りローヤルゼリー加工食品(以下「請求人商品」という。)で、金地に赤い箔押しで「森川/ローヤルゼリー/キング」(別掲2)と表示している。この包装は昭和50年代後半から使用し始めており、若干の変更があるが現在もこのデザインで商品を販売している。 イ 請求人商品の販売について 請求人の事業所は熊本県にあるが、昭和30年代後半より製造した商品を全国各地の展示会や百貨店で販売員による宣伝販売していた。また、広告や口コミ等で商品を知った一般消費者からの電話や郵便での注文に応え、通信販売も行っていた。 昭和46年に東京、昭和54年には大阪にそれぞれ営業所を設け、業界主要卸業者をはじめ全国主要百貨店・健康食品専門店・薬局等小売店等への営業活動を続け、引用商標使用商品の販路を拡大していた。 また、請求人は、業界内でも「ローヤルゼリーの老舗」の評価を受けており、業界団体が発行した記念誌にも、請求人商品が「ローヤルゼリー製品の草分け」として紹介されている(甲2の4)。 ウ 本件商標登録出願時点における請求人商品の販売状況について カプセルなど原材料の変更などは行ったものの、請求人商品の製造販売は途切れることなく行われている。事業の再編などにより取引先には多少の変化はあったが、現在も全国の主要百貨店・専門店・薬局等店頭での販売が引き続き行われ、また、請求人は平成8年ごろより、インターネットを活用した商取引を始め、請求人商品の販売を今日まで引き続き行い、さらに、インターネットを利用した商取引が盛んになるにつれ、請求人商品を仕人れた多くの小売業者が各自インターネット通販に乗り出し、小売業者が運営するサイトの他、「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」などのネットショッピングモールで販売する例が多数みられるようになった(甲2の5、甲2の6)。 被請求人は、その平成23年9月9日差出文書(甲3の1)において商標権侵害の例として、Amazon社ウェブサイト内の請求人商品の販売ページを例示しているが、Amazon社もそういった小売業者の一例である。例示されたページの続きに「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2006(平成18)/5/24」との表記があるように、本件商標の出願から登録のころには、いくつもの事業者がインターネットでの販売を始めていたことが明らかである。 取引者だけでなく、請求人商品を永年にわたり継続して購入している消費者も全国に多数おり、30年以上の愛用歴を持つ消費者もいる。 このように、本件商標が出願された平成17年11月1日の時点で、引用商標及びそれを使用する請求人商品は、全国各地の取引者ならびに最終消費者といった需要者に広く認識されていたといえる。 (3)本件商標と引用商標との類否及び商品の類否 ア 商標の類似性 引用商標を「森川ローヤルゼリーキング」と続けて表記した場合、本件商標は引用商標の一部と同様の文字となり、類似性がみられる。 イ 商品の類似性 本件商標の指定商品及び請求人商品は、いずれもローヤルゼリーを主原料とする加工食品であり、類似の商品である。 ウ 結論 本件商標と引用商標は類似性があり、かつ同一種類の商品に使用されている。商標の類似性及び商品の類似性は、平成23年9月5日付文書(甲3の1)にて示されるように、被請求人も主張している。 (4)むすび 上記に示したように、本件商標は、出願時において請求人が製造販売する商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標と類似するものである。したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものであるから、無効である。 2 本審判請求における商標法第47条第1項の扱いについて 本件商標の登録から今日までの被請求人の一連の行為は不正競争の目的で行われたものであることは、以下述べるとおり(「意見書その1『本審判請求における商標法第47条第1項の取り扱いについて』」(甲4))であり、本件商標は、商標法第47条第1項の例外規定に該当し、本件商標の登録日から5年が経過した後も、同法第46条第1項に規定されている商標登録を無効にすることについての審判を請求することは妨げられない。 (1)本件審判請求までの経緯 本件商標について請求人が知ったのは、被請求人会社総務室長差出しの平成23年9月9日付け文書(甲3の1)が届いた同月15日のことである。 請求人は、その翌日に被請求人事業所に電話したが、その際、応対した被請求人会社の社員は、請求人商品が古くから販売していたことを認めたので、文書の撤回を求めた。なお、当該社員は「上司に相談します。」と回答した。 同月20日に、上記総務室長より請求人に電話があり、「似たような名前の商品なので、混同防止の改善策を取っていただきたい。」旨の発言があったので、請求人は、文書で具体例を示すように求め、その後、総務室長差出しの同年10月3日付け文書(甲3の2)が請求人に送られてきた。 請求人は、その文書を踏まえ、被請求人のウェブサイトを見たところ、該当ウェブサイト自体に「ローヤルゼリーキング」という本件商標がいかされていないというウェブサイト作成上の技術的な問題があることがわかったので、請求人から技術的な問題点を知らせる文書を同月12日に郵送し、総務部長差出しの同月26日付け文書(甲3の3)が届いた。 被請求人会社総務部長差出しの一連の文書で、被請求人は、請求人に対し、混同防止策を採ることを求めている。これは、商標法第36条等を念頭にしていると思われる。 しかし、請求人が引用商標を用いた、請求人商品を製造販売し始めたのは、被請求人が「ローヤルゼリー加工食品」の販売を始めるより20年以上も以前のことであり、しかも全国の百貨店、健康食品専門店・薬局などでの販売実績もある。 仮に被請求人の要求に応じて商品表記を変更した場合、店頭での値札の変更やウェブサイトでの表記変更など多くの取引先企業に手間をかけるだけでなく混乱を招くことになり、請求人が永年培ってきた信用を損なうことになりかねない。また、被請求人の要求を受け入れることは、被請求人の主張する本件商標登録による商標権を認めることになる。一旦被請求人の商標権を認めれば、引用商標の使用の差止や損害賠償などを求めてくる可能性も否定できない。 法的にも、商標法第4条第1項第10号に違反して行われた本件商標の登録は無効となるべきものであるから、請求人はこれらの要求を拒否している。 そして今回の無効審判の請求を行うに至った。 (2)被請求人の行為が不正競争行為であると思われる理由 本件商標の登録等、一連の被請求人の行為は、以下の理由で悪質な不正競争行為であると思われる。 ア 被請求人は、本件商標の登録出願以前に請求人の事業及び引用商標を知っていた可能性が高いこと 被請求人は、平成23年9月9日付け文書に「先日、貴社が『森川ローヤルゼリーキング』という、弊社商品と類似する名称の商品を販売されているとの連絡が入ったため」と記載しており、外部からの連絡で最近引用商標を知ったとしているが、以下の理由でこの記載は信用できない。 (ア)請求人及び被請求人は、業界団体である社団法人全国ローヤルゼリー公正取引協議会(以下「協議会」という。)に所属し、その会員名簿に両者とも記載されているほか、平成9年頃の会合の場で、被請求人代表者から請求人がローヤルゼリーの老舗であることは知っていた、旨の発言があった。 (イ)請求人は、平成13年秋より、平成17年初まで被請求人が販売する商品の充填加工する「孫請け」をした。被請求人の使用者が請求人の事業所を訪問し、工場及び設備を見学した。 (ウ)協議会は、規約に適合した品質と表示であることを示す証紙の貼付を承認する業務を行っており、請求人商品も新規の審査及び1年ごとの更新の検査を受けているが、被請求人代表者は、協議会の役員に就任しており、役員の一員として承認を行う立場にあり、請求人商品を知り得る立場にあった。 (エ)以上のほか、被請求人が引用商標について早い段階で知り得た可能性を示す具体的資料があるので必要があれば、提出する。 イ 商標法第47条第1項の悪用 被請求人が主張する「混同のおそれ」がある状態は永年に渡って続いていたが、請求人商品を知ったのは最近のことのように主張している(甲3)が、既に述べたように、被請求人は、請求人の事業内容や商品をかなり以前から知っていたと考える方が自然である。 被請求人差出しの文書を発送したのは、平成23年9月だが、平成18年7月28日に本件商標が登録されてから5年を経過して間もない時期である。商標登録から5年経過した後に、文書を発し商標権侵害を主張し始めたのは、請求人が対抗策として無効審判請求を行うことを警戒するためと疑われても仕方がない。 (3)被請求人は、その差出し文書(甲3の1)において、本件商標と引用商標の混同事例として、Amazon社の販売ページを例示している。その上部には、請求人が製造販売する商品以外にも「ローヤルゼリーキング」と類似する商標の商品が掲載されているが、これらを製造販売している事業者に問い合わせたところ、被請求人から該当商品の商標に対する要求は受けていないということであった。消費者の混同を防止するという目的であれば、これらの事業者にも請求人あての文書と同様のものが送付されて当然であるが、請求人のみを対象として文書が差し出されており、不自然さを感じる。 3 結び これまで述べたように、請求人が製造し日本国内各地で広く販売している商品に昭和48年から使用している引用商標と類似する商標を、被請求人は自らの商品の商標として使用するだけでなく、平成17年11月1日に商標登録出願した。そして、商標登録を得てその商標権を根拠に、請求人に対し法的措置などを示唆する文書を送付するなどの行為を行った。 これらの行為は、「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」という不正競争に該当し、本件商標の登録は、その目的のために行われたものである。更に、商標法第47条に規定された除斥期間の悪用も疑われる。 したがって、本件審判請求は、商標法第47条第1項の例外規定に該当するものであり、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。 第3 被請求人の主張 被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第4号証を提出している。 <答弁の理由> 本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して商標登録がなされたものではなく、よって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定によりその登録が無効にされるべきものではない。 加えて、そもそも、本件商標は、商標権の設定登録の日から5年以上経過しており、また、被請求人は、不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたわけではないから、商標法第47条第1項により、請求人は、本件審判を請求することができないものである。 1 商標法第47条第1項について (1)5年以上の経過について 本件商標について、商標権の設定登録がなされた日は、平成18(2006)年7月28日であり、請求人が本件審判を請求した日は、平成23年(2011)年11月29日であるから、本件審判は、本件商標に係る商標権の設定の登録の日から5年を経過した後に請求されていることは明らかである。 (2)不正競争の目的について 被請求人は、本件商標に係る「ローヤルゼリーキング」の錠剤状の健康食品(サプリメント)を平成2(1990)年より販売しているところ(乙1)、「ローヤルゼリーキング」の商品名は、被請求人が独自に採択をしたものであって、請求人に係る引用商標を意識した等の事実は全く存在しない。 そもそも、被請求人が、本件商標「ローヤルゼリーキング」の商標を採択した由来は、被請求人の商品としては、それまでにも、女王蜂をイメージした「ローヤルゼリークイーン」なる商品が存在していたが、その「クイーン」よりもローヤルゼリーの含有量が多い商品を製造・販売することとなり、「クイーン」以上の位置付けの商品という意味合いを込めて「キング」と命名がされたものである。「クイーン」や「キング」は、蜜蜂に由来する原材料を有する健康食品やサプリメントとの関係においては、容易に着想できる言葉であり、請求人を含めた何れかの者の商標を意識せずとも、ごく自然に商品名として採択できるものである。 そして、被請求人において、商品販売時期より本件商標の商標登録出願を行うまで15年が経過したのは、本件商標に限らず、被請求人はもともと平成12(2000)年頃まで積極的に商標登録出願を行ってこなかった、という被請求人の姿勢を理由とするものであり、また、「ローヤルゼリーキング」が一般的な言葉で、商標権の取得が困難であると認識していたためにすぎない。 このように、被請求人は、自らの着想で「ローヤルゼリーキング」の商標を採択し、商品の製造・販売を継続していくにあたって、自らの商標の法的な保護を図るべく商標登録を受けたものであり、請求人との関係において、何らの不正競争の目的は存在しない。 請求人は、甲第4号証において、「4.被請求人が不正競争行為であると思われる理由」として、幾つかの事実を述べているが、被請求人の引用商標に対する不正競争目的とは何ら関係のない事実ばかりである。 請求人が記述する、平成9(1997)年の協議会の会合の場で、審判請求人・被請求人双方の代表者が同席する機会があり云々の記述については、業界団体である協議会の会員数は数百単位であり、例えば、平成16(2004)年をみても、正会員が341名存在する(乙2)。これだけのいわば同業者のいる団体の会合において、出席者同士で名刺交換や世間話を交わすことはごく普通のことであり、そのことから直ちに被請求人が不正競争目的で商標登録を受けたと考えることは、まったく合理性がない。 平成13(2001)年の被請求人の使用人が請求人の事業所を訪問し、工場及び施設の見学をしたというのも、被請求人の関連会社の一従業員においてそのような事実があったというにすぎず、本件商標及び引用商標とは何の関連性もない。しかも、請求人は、被請求人と請求人が取引関係にあったような記述をしているが、請求人と取引関係にあったのは、OEM業者であり、被請求人(関連会社)は当該OEM業者に製造を発注したにすぎない。 また、被請求人の代表者が協議会の会合の役員に就任しており、商品の承認をおこなう立場にあり、引用商標に係る商品を知り得る立場であったという点についても、協議会が承認をおこなう商品は非常に数多くあり、必ずしも被請求人代表者の目に触れるとは限らない。被請求人代表者が協議会の理事に就任したのは平成10(1998)年3月であるが、被請求人は、上述のとおり平成2(1990)年より本件商標の使用を開始しているから、仮に請求人の引用商標に係る商品を目にしたとしても、引用商標に対する不正競争目的とは何らの関連もない事実である。 加えて、被請求人が請求人に差し出した文書についても、被請求人は、請求人に係る引用商標の全面的な使用中止を求めた訳ではなく、インターネット検索において、被請求人の商品のページが複数検索されたことから、消費者の混同を避けるため、インターネットにおける本件商標と同じ構成の「ローヤルゼリーキング」を避けて、「ローヤルゼリー/キング」のような表示に改めてほしい旨申し出たにすぎない。また、被請求人は、自らが不適切と判断した業者に対しては、商標権に基づく申し出を行っており、実際にも請求人のみを対象としている訳ではない。 以上のように、被請求人は、本件商標「ローヤルゼリーキング」を自らの着想で採択し、商標登録を受けたにすぎず、また、自らの商標を適切に保護すべく、請求人に対して正当な商標権に基づく申し出を行ったにすぎない。 また、請求人が掲げる事実は、被請求人が、引用商標に対して不正競争の目的で商標登録を受けたことの何らの根拠とはならない。 したがって、被請求人に不正競争の目的が認められないことは、明らかである。 ちなみに、請求人は、自身が先行使用者であることを主張しているので、この点についても申し述べると、商標制度は、商標登録により商標権は発生する登録主義を採用して、また、その登録は、最先に出願をした者に対して与えられる先願主義を原則としている。先行使用者の利益は、その商標が周知性を有することによって、他人の登録を排除し、また、その使用について先使用権を認めることで調整されているのである。しかしながら、下記に述べるように、引用商標に周知性を認めることができないことは明らかである。 また、剽窃的な登録については、公序良俗に反する場合もあり得るが、上述のように、被請求人の本件商標は、引用商標と何ら関連のないものである。 したがって、単に先行使用者がいたという事実のみをもって、不正競争の目的が認められるはずもない。 (3)まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標権の設定登録を受けた日から既に5年を経過しており、また、被請求人が不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けた事実を認めることもできないことから、商標法第47条第1項により、請求人は、本件審判を請求することができないものである。 2 商標法第4条第1項第10号について 本件商標について、登録査定があったのは、平成18(2006)年6月1日であり(乙3)、また、本件商標の商標登録出願日は、平成17(2005)年11月1日である。これらを基準として、引用商標が請求人の商品を表示するもとして需要者の間に広く認識されていたと考えることはできないから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して商標登録がなされたものではない。 (1)引用商標の周知性について 引用商標は、「森川ローヤルゼリー」と「キング」の文字からなる商標及び「森川ローヤルゼリー」と一体的に表示された商標であるところ、請求人は、当該引用商標を昭和48年より継続して使用して、現在でも主要百貨店・専門店・薬局等の店頭での販売を行っており、平成8年頃からは、インターネットにおける販売も行っていることから、このような使用により、本件商標の出願日である平成17年11月1日の時点において、引用商標が、請求人の製造・販売する商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている旨主張し、その証拠として、甲第2号証の1ないし甲第2号証の6を提示している。 この点、請求人が提示する各証拠において、請求人が引用商標を昭和48年頃より継続して使用していることは分かる。しかしながら、その証拠における販売規模等からみて、本件商標の出願時及び査定時において、引用商標が需要者の間に広く認識されていたと到底認めることはできない。 甲第2号証の5における「請求人商品主要扱い店」のリストは、現在における引用商標に係る商品の販売店舗、インターネットにおける販売サイトのリストと思われるが、販売店舗の数は、全国において37店舗であり、決して多いといえる数ではない。その地域についても、17都道府県に跨っているものの、一番多いところは東京都の8店舗にすぎず、他は2、3ないし1店舗である。 また、インターネットにおける販売サイト数は、41サイトであるが、現在のように、インターネットを通じた商品販売が通常の手段となっており、販売サイト数が夥しく存在する状況においては、決して多い数とはいえない。しかも、これらの販売サイトにおいては、非常に数多くの種類の商品が販売されているのが通常であり、そのなかで、引用商標に係る商品がどの程度販売されているかは明らかでない。 被請求人が把握しているところによると、株式会社矢野経済研究所発行の「2008年版健康食品の市場実態と展望」において、2006年度のローヤルゼリーの市場規模は、257億円にのぼるとされる(乙4)。このような市場規模において、特定の商品名が需要者において周知性を獲得するには、相当な売上規模を必要とするものと考えられる。しかしながら、同「有力企業健食売上ランキング」のページにおいて掲載されている第74位までの企業のなかに、請求人の名称はない(乙4)。 このように、会社全体の売上からみても、請求人の規模は大きいものとはいえず、その取扱商品の一つである請求人商品についても、その規模は決して大きいものではない。 以上は、本件商標の出願時及び査定時においても同様と考えられることから、これらを基準として、引用商標が需要者において広く認識されていたと到底認めることはできない。 (2)まとめ 以上より、本件商標の出願時及び査定時において、引用商標が請求人の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して商標登録がなされたものではない。 3 むすび 以上により、本件商標「ローヤルゼリーキング」は、商標法第46条第1項の規定によりその登録が無効にされるべきものではない。 また、被請求人は、不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたものではなく、本件商標は、商標権の設定登録の日から5年を経過していることから、商標法第47条第1項により、請求人は、本件審判の請求ができないものである。 第4 当審の判断 1 商標法第4条第1項第10号の該当性について (1)引用商標の周知性について 請求人の主張及び提出した証拠から以下の事実が認められる。 ア 請求人「森川ローヤルゼリー株式会社」は、昭和37年に設立された「ローヤルゼリー、花粉蜂蜜の生産加工及び販売」を目的とする会社であり(甲2の1)、その前身である「森川養蜂場」時代の昭和33年にカプセル入りローヤルゼリーを商品化し、当初の商品には、大きな「ローヤルゼリー」の文字及びやや小さな「森川ローヤルゼリー」の文字が記載されていた(甲2の2)。 イ 請求人は、「カプセル入りローヤルゼリー」(請求人商品)の包装を変更すると共に「森川」「ローヤルゼリー」「キング」(なお、当該商品には60球入りと180球入りの商品があり「60」の部分は数量表示であるから省き引用商標とする。)を3段に横書きした商標(別掲1 引用商標)を表示した(甲2の2)。 ウ 昭和50年代後半頃、請求人商品の包装が変更され、包装箱には、「森川」「ローヤルゼリー」「キング」を三段に横書きした商標(別掲2 引用商標)と「Morikawa」「Royal」「jelly」「KING(左右両端に丸みのある略四角形輪郭内に書してなる。)」を4段に横書きした商標(別掲3)が表示されている(甲2の3)。また、包装瓶には、「Morikawa」「Royal Jelly」「KING(左右両端に丸みのある略四角形輪郭内に書してなる。)」を3段に横書きした商標(別掲4)が表示されている(甲2の3、甲2の6)。 エ 昭和48年8月15日発行の熊本市内配布の情報紙「ホームニュース」には、「ローヤルゼリーのパイオニア 森川ローヤルゼリー」「クウィーン(90粒)3,000円」「キング(60球)3,500円」などと記載して請求人の広告がされた(甲2の2)。 平成16年発行の「健康産業名鑑」には、「ローヤルゼリーのパイオニア 森川ローヤルゼリー」の見出しなどと共に、9種類の商品(包装瓶及び包装箱)の写真が並べられている広告が掲載された(甲2の3)。 平成4年発行の「健康自然食品史」には、「ローヤルゼリーのパイオニア」の見出しのもとに「森川ローヤルゼリーでは・・・」などの説明文と共に、9種類の商品(包装瓶及び包装箱)の写真が並べられている広告が掲載された(甲2の4) オ 請求人の業務に係る商品は、三越、伊勢丹、高島屋等の百貨店を含む、各地の薬局等において販売されているほか、Amazon、ケンコーコム、楽天市場等への出店店舗等のウェブサイトで販売されている(甲2の5 なお、甲第2号証の5の「引用商標使用商品販売状況」がいつの時点によるものであるか等は不明である。)。 以上によれば、請求人は、昭和48年ころから、請求人の製造・販売する「森川ローヤルゼリー」に「キング」の表示を加えた引用商標を付した請求人商品の販売を開始したことは認められるものの、提出された広告は、昭和48年の1種類、平成4年の1種類及び平成16年の1種類のみであり、しかも当該広告には、引用商標は記載されておらず、平成4年及び平成16年の広告には、商品の写真が掲載されているが、多数の商品写真を並べているものであり、そのラベル等の部分が注意を引くというような掲載方法ではない。そして、甲2号証の6の店舗やウェブサイトでの請求人商品の販売開始時期等は不明であるものの、仮に本件商標の商標登録出願前に販売されているとしても、その販売は38の店舗及びインターネットを利用した41のウェブサイトにすぎないものであり、ウェブサイトはアクセスして初めて接することができるものであるから、この程度の販売店舗数(インターネットによる販売店舗も含む。)は多いものとはいえないし、そのほか、広告等の事実や売上高等に関する証拠も提出されていない。 そうすると、提出された証拠によっては、引用商標が本件商標の出願前に需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。なお、請求人は甲第2号証の2において、「『キング』という引用商標を使用している」と述べているが、請求人の使用する「キング」の商標についても同様に需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。 (2)類否について 引用商標に係る請求人商品は、「カプセル入りのローヤルゼリー」であり、本件指定商品は、「ローヤルゼリーを主原料とする粉末状・顆粒状・粒状・錠剤状・液状・ゲル状・板状又はカプセル入りの加工食品,食用のローヤルゼリー(医療用のものを除く。)」であるから、両者は同一又は類似する商品と認められる。 次に本件商標と引用商標の類否について検討するに、本件商標は、「ローヤルゼリーキング」の文字よりなるものである。そして、その構成中の「ローヤルゼリー」の文字は、商品名(原材料名)であり、同じく「キング」の文字は「王。国王。王様。転じて、最上のもの。」(広辞苑第6版)を意味する語であり、広く使用されているものであるから、それほど強い識別力を有するとはいえないばかりでなく、「ローヤルゼリーキング」の構成文字全体として「ローヤルゼリーの王(最上のもの)」のごとき一体的な意味合いを想起させる場合も少なくないといえるものである。 そうとすると、本件商標は、「ローヤルゼリーキング」の称呼及び「ローヤルゼリーの王(最上のもの)」の観念を生ずるというのが相当であり、かつ、「キング」のみに着目し、それから生ずる称呼及び観念をもって取引に資するとは認められない。 引用商標は、「森川」及び「ローヤルゼリー」の文字を2段にやや大きく同じ書体、同じ大きさで表し、その下部に「キング」の文字よりなるものであるが、「キング」はやや小さな文字で表わされてなるものであるから、視覚上、「森川ローヤルキング」の文字部分が一体的に看取されるものであり、さらに、請求人会社が「森川ローヤルゼリー」と略称されていることも相まって、その構成中の「森川/ローヤルゼリー」の部分は一体として認識されるというべきであるから、引用商標は、構成全体から「モリカワローヤルゼリー」「モリカワローヤルゼリーキング」の称呼及び「森川ローヤルゼリー」「森川ローヤルゼリーの王(最上のもの)の観念を生ずるというべきであり、また、「キング」の文字は、上記のとおり強い識別力を有しないものであるから、引用商標の構成にあっては、該文字部分が、自他商品の識別のために強く認識されるものとはいえない。 なお、請求人商品の包装箱に使用する欧文字の商標(別掲3)及び包装瓶の商標(別掲4)を踏まえて検討しても、引用商標については上記のとおり認定するのが相当である。 そこで、本件商標と引用商標の類否について比較するに、本件商標と引用商標の外観は前記のとおりであるから、外観上区別し得るものである。 次に称呼についてみるに、本件商標は「ローヤルゼリーキング」の称呼を生ずるのに対し、引用商標からは、「モリカワローヤルゼリー」及び「モリカワローヤルゼリーキング」の称呼が生じ、両者は、構成音数、音構成が相違し、相紛れるおそれはないものである。 さらに、本件商標及び引用商標は、それぞれ前記のとおりの観念を生ずるが、両者は、観念上も相紛れるおそれはないものである。 してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点よりみても相紛れるおそれのない非類似の商標というのが相当である。 以上のとおり、引用商標は、需要者の間に広く認識されている商標とは認められないし、また、本願商標と引用商標とは類似する商標とは認められないから、本件商標は第4条第1項第10号に該当しない。 2 以上のとおりであるが、請求人は、本件商標は「不正競争の目的で商標登録を受けた」と主張しているので、この点について判断する。 前記1(1)で認定した事実によれば、請求人は、「森川ローヤルゼリー」として販売してきたものであり、それに「キング」の商標を付加して使用してきた事実は認められるものの、単に「ローヤルゼリーキング」として使用してきた事実は認められず、加えて、前記1のとおり、引用商標が需要者の間に広く認識されている商標とは認められない。また、本件商標と引用商標とは類似する商標とは認められないことからすると、本件商標の商標登録出願について、商標権者が不正競争の目的があったとする事情はうかがえないし、請求人の述べる「被請求人が不正競争であると思われる理由」についてみても商標権者が本件商標を採択・使用する行為に不正競争の目的があったものと推認し得るような事情も見出せない。 3 まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものとは認められない。 したがって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 1 引用商標(昭和48年に使用を開始した商標) 2 引用商標(昭和50年後半から使用を開始した商標) 3 昭和50年後半から使用する包装箱に記載の欧文字の商標 4 包装瓶に使用する商標 |
審理終結日 | 2012-05-30 |
結審通知日 | 2012-06-04 |
審決日 | 2012-06-20 |
出願番号 | 商願2005-102479(T2005-102479) |
審決分類 |
T
1
11・
252-
Y
(Y30)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井出 英一郎 |
特許庁審判長 |
内山 進 |
特許庁審判官 |
豊瀬 京太郎 堀内 仁子 |
登録日 | 2006-07-28 |
登録番号 | 商標登録第4972764号(T4972764) |
商標の称呼 | ローヤルゼリーキング、キング |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |